甲状腺腫瘍 〜診療ガイドライン

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目次:

4. 放射線治療

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CQ 40
アブレーションの適応およびアブレーションの役割は?
推奨グレード
B Ⅰ-131 を用いた放射性ヨード内用療法による甲状腺全摘術(準全摘)後の残存甲状腺組織(remnant・レムナント)の除去をアブレーションと呼ぶ。特にハイリスクと評価され,甲状腺全摘術となった症例に対してはアブレーションを行うことにより,局所制御率や無病生存率を向上させると報告されている。ただし,アブレーションが生命予後の向上に貢献するかという点においては依然として議論の残るところである。
【背 景・目 的】

甲状腺全摘術を施行した場合であっても,わずかに甲状腺組織が残存することが知られている。残存甲状腺組織の存在は,血清サイログロブリン値を用いた術後経過観察を困難にし得る。また,ハイリスクと評価され,甲状腺全摘となった症例においては,微小な腫瘍組織の残存による局所再発の危険性も否定できない。このような観点から経過観察や局所制御の妨げとなり得る残存甲状腺組織を完全に取り除くことが望ましい。

 

【解 説】

甲状腺全摘術後に残存甲状腺組織が存在する率はおおよそ90%といわれているが,超音波検査や頸部CT などの形態画像診断によって残存甲状腺組織を同定できない場合も多い。残存甲状腺組織が高率に存在することを考慮すると,ハイリスクと判断される症例においては下記の理由でⅠ-131 を用いた残存甲状腺組織の破壊(レムナント・アブレーション)を行うことが望ましい。

第一に,術後経過観察の観点からである。抗サイログロブリン抗体が存在しない場合,分化型甲状腺癌の経過観察には,血清サイログロブリン値が術後再発や遠隔転移に対する良い指標であるとされている。しかし,残存甲状腺組織が存在する状態では血清サイログロブリン値が正常域を示すこともあり,術後再発や遠隔転移の出現に際し,血清サイログロブリン値が鋭敏な指標となるうえで妨げとなり得る。したがって,術後再発や転移の可能性が高いハイリスクの場合には,アブレーションを行う意義がある。

第二に,ハイリスクの場合においては,残存甲状腺組織は,その組織内に微小な腫瘍組織を有している可能性があり,局所再発の要因となる可能性も否定できない。この点においてもアブレーションは有用であると考えられている。また,ハイリスクの場合には形態画像診断で描出しづらい小さな転移病変の存在も考えられる。このような病変を早期発見・早期治療に導く意味においてもアブレーションの意義がある 1)〜5)

アブレーションが生命予後の向上に貢献するかという点については議論の残るところであるが,特にハイリスクの場合は貢献するという報告も一部にみられている 1)4)

どのような因子をアブレーション対象リスクと考えるかに関して明確な定義はないものの,1. 5 cm を超えるもの,45 歳以上,多発性病巣,腺外浸潤,脈管侵襲,リンパ節転移,全摘後のサイログロブリン高値などがある場合には,アブレーション適応であると考えるのが欧米では一般的である 6)(わが国ではcapacity の問題もあり,こういった症例すべてにアブレーションを行うことは事実上不可能ではあるが,それでも明らかな被膜外浸潤,脈管侵襲,リンパ節転移が累々とみられる症例,全摘後サイログロブリン高値の症例には積極的にアブレーションを考慮したいところである)。また,高細胞型乳頭癌,びまん性硬化型乳頭癌,円柱細胞癌などの臨床的にaggressive と考えられる組織型,広汎浸潤型濾胞癌,索状・充実状・島状・硬性浸潤などの所見のある低分化癌などは積極的に考慮するのが望ましい(また,男性の予後が悪いことが示されているため,男性では積極的に行うのが望ましい。18 歳以下においても内用療法による局所再発率低下を示す報告がある 7))。原発腫瘍がT2 でリンパ節転移がない状況でも諸外国では積極的にアブレーションが行われているが,2006 年に実施したアンケート調査によれば,国内では手術後の内用療法を考慮されるのは46%である 8)。ただし,この数字には可能であれば行いたいとする希望的選択が18%含まれている。

なお,以上の報告はいずれも後ろ向き研究であり,この分野でのランダム化比較試験は今のところ行われていない。

上にも述べた通り,残念ながらわが国における内用療法をめぐる環境は,報酬の面においても,施設数の面においても大変厳しいものがあり,遠隔転移に対する治療も思うに任せない状況であるものの,医学的観点から推奨グレードB とする。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed で“thyroid cancer”,“thyroid carcinoma”,“thyroid neoplasms”,“remnant ablation”,“iodine radioisotopes”,“radioiodine”,“Ⅰ-131”,“131Ⅰ” をキーワードとして論文を検索した。

また,“American Thyroid Association(ATA)thyroid nodules management guideline 2009” およびBritish Thyroid Association(BTA)の“Guidelines for Thyroid Cancer Management 2nd edition” を参照した。

【参考文献】

1) Mazzaferri EL, Jhiang SM. Long-term impact of initial surgical and medical therapy on papillary and follicular thyroid cancer. Am J Med 1994 97:418-428.(RS)

2) Sawka AM, Thephamongkhol K, Brouwers M, et al. Clinical review 170:A Systematic review and metaanalysis of the effectiveness of radioactive iodine remnant ablation for well-differentiated thyroid cancer. J Clin Endocrinol Metab 2004;89:3668-3676.(SR〈RS〉)

3) Sawka AM, Brierley JD, Tsang RW, et al. An updated systematic review and commentary examining the effectiveness of radioactive iodine remnant ablation in well-differentiated thyroid cancer. Endocrinol Metab Clin North Am 2008;37:457-480.(SR〈RS〉)

4) Mazzaferri EL. An overview of the management of papillary and follicular thyoid carcinoma. Thyroid 1999;9:421-427.(NR)

5) Mazzaferri EL, Kloos RT. Clinical review 128:Current approaches to primary therapy for papillary and follicular thyroid cancer. J clin Endocrinol Metab 2001;86:1447-1463.(NR)

6) Robbins RJ, Schlumberger MJ. The evolving role of 131Ⅰ for the treatment of differentiated thyroid carcinoma. J Nucl Med 2005;46 Suppl 1:28 S-37 S.(NR)

7) Handkiewicz-Junak D, Wloch J, Roskosz J, et al. Total thyroidectomy and adjuvant radioiodine treatment independently decrease locoregional recurrence risk in childhood and adolescent differentiated thyroid cancer. J Nucl Med 2007;48:879-888.(RS)

8) 茂松直之,高見 博,久保敦司.日本および外国での高分化型甲状腺癌に対する治療方針の相違—日本甲状腺外科学会と国際内分泌外科学会会員に対するアンケート結果.日医師会誌 2006;135:1333-1340.(NR)


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CQ 41
アブレーション施行前にヨード制限は必要か?
推奨グレード
A アブレーションを行うに際しては,一般的なⅠ-131 を用いた放射性ヨード内用療法と同様のヨード制限が必要である。
【背 景・目 的】

残存甲状腺組織(remnant)へのアブレーションの効率は,残存甲状腺組織への放射線照射量によって決まる。このため残存甲状腺組織への放射性ヨードⅠ-131 の集積率を上げる必要がある。

【解 説】

甲状腺組織への放射性ヨードⅠ-131 の集積率を向上させるためにはヨード制限が必要である。これは,後ろ向き研究ではあるが,ヨード制限を行った際に有意差を持ってアブレーション達成率に改善が得られるとの報告によるところである 1)〜3)

ヨード制限とは,ヨード含有率の高い食品の摂取を控え,ヨード含有率の高い薬品の投与を行わないことである。ヨード含有率の高い食品の摂取を控えて,できるだけヨード含有率の低い食品を摂取する食事を「ヨード制限食」あるいは「低ヨード食」と呼ぶ(以下ヨード制限食)。「ヨード制限食」の基準は,1 日のヨード摂取量が50μg/day 以下である。アブレーションの少なくとも2 週前よりヨード制限食を開始すべきである。ヨード含有率の高い薬品としては甲状腺ホルモン剤(リオチロニンナトリウム;T3 剤,レボチロキシンナトリウム;T4 剤など),総合感冒剤(ダンリッチなど),抗不整脈剤(アミオダロンなど),胃炎・消化性潰瘍剤(マリジンM,ガストロフィリンなど),肝不全治療薬(アミノレバンなど)が挙げられる。大量のヨードが含有されるものとして,ルゴール液,ヨード含有うがい液,ヨード造影剤などがある。

アブレーションに際して行うヨード制限は,組織ヨード摂取率の高い甲状腺機能亢進症に際して行う放射性ヨード内用療法とは意味合いが異なり,組織ヨード摂取率が低い甲状腺分化癌の遠隔転移に際して行う放射性ヨード内用療法に類するため,ヨード制限も同様に厳格に考えるべきである。これは治療対象が残存甲状腺組織だけでなく,微小な腫瘍組織も含んでいる可能性を考えてのことである。

なお,わが国においてはヨード制限食の基準をクリアするのは大変に難しく,患者への指導を徹底することが重要である。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed で“Low iodine diet”,“thyroid remnants ablation” をキーワードとして論文を検索した。

また,“American Thyroid Association(ATA)thyroid nodules management guideline 2009” およびBritish Thyroid Association(BTA)の“Guidelines for Thyroid Cancer Management 2nd edition” を参照した。

【参考文献】

1) Maxon HR, Thomas SR, Boehringer A, et al. Low iodine diet in Ⅰ-131 ablation of thyroid remnants. Clin Nucl Med 1983;8:123-126.(RS)

2) Pluijmen MJ, Eustatia-Rutten C, Goslings BM, et al. Effects of low-iodine diet on postsurgical radio iodine ablation therapy in patients with differentiated thyroid carcinoma. Clin Endocrinol (Oxf). 2003;58:428-435.(RS)

3) Grigsby PW, Siegel BA, Bekker S, et al. Preparation of patients with thyroid cancer for 131Ⅰ scintigraphy or therapy by 1-3 weeks of thyroxine discontinuation. J Nucl Med 2004;45:567-570.(RS)


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CQ 42
アブレーションを行ううえで適切なⅠ-131 の投与量は?
推奨グレード
C1 アブレーションには少なくとも30 mCi 以上100 mCi 以下の放射性ヨードⅠ-131の投与が必要であるが,適切な量にはさまざまな意見がある。
【背 景・目 的】

残存甲状腺組織(remnant)のアブレーションの成否は,残存甲状腺組織への放射線照射量とともに,残存甲状腺組織の重量によるところが大きい。

【解 説】

残存甲状腺組織のアブレーションの成否そのものを,どのように評価するかという点についてはさまざまな指標がある。また,甲状腺全摘術(準全摘)と称しても残存甲状腺組織の残存量もその時々でさまざまである。これらの不確定要因のため,アブレーションに必要な放射性ヨードⅠ-131 の投与量についてはさまざまな報告がなされている。その多くは30 mCi 投与と100 mCi 投与の比較である 1)〜7)

従来は,100 mCi 投与が30 mCi 投与に比して良い結果を得るとした報告が多くみられたものの 2)〜4),近年では30 mCi 投与と100 mCi 投与の間に差はないとの報告が多くみられるようになった 5)〜7)。しかし,これらの報告は後ろ向き研究であり,残存甲状腺組織量は評価項目にはなく,アブレーションの成否の評価法にもばらつきがみられている。これらの報告のメタアナリシスにおいても30 mCi 投与と100 mCi 投与の間の優劣を明言しているものはない 1)

残存甲状腺組織への集積率が同じ場合,当然ながら放射性ヨードⅠ-131 の投与量が多ければ放射線照射量は多く,残存甲状腺組織が破壊される可能性が高いという考え方が一般的であろう。アブレーションを行ううえでの適切な放射性ヨードⅠ-131 の投与量は,予想される残存甲状腺組織の量によって,その都度選択されるべきであるが,強いていえば30 〜100 mCi であると考えたい。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed で”thyroid cancer”,“thyroid carcinoma”,”thyroid neoplasms”,“neoplasm metastasis”,“remnant ablation”,”metastases”,“dose”,“radioiodine”,“Ⅰ-131”,“131Ⅰ”をキーワードとして論文を検索した。

また,“American Thyroid Association(ATA)thyroid nodules management guideline 2009” およびBritish Thyroid Association(BTA)の“Guidelines for Thyroid Cancer Management 2nd edition” を参照した。

【参考文献】

1) Hackshaw A, Harmer C, Mallick U, et al. 131Ⅰ activity for remnant ablation in patients with differentiated thyroid cancer:A systematic review. J Clin Endocrinol Metab 2007;92:28-38.(SR)(Retrospective study)

2) Doi SA, Woodhouse NJ. Ablation of the thyroid remnant and 131Ⅰ dose in differential thyroid cancer. Clin Endocrinol(Oxf)2000;52:765-773.(RS)

3) Maenpaa HO, Heikkonen J, Vaalavirta L. Low vs. high radioiodine activity to ablate the thyroid after thyroidectomy for cancer:a randomized study. PLoS One 2008;3:e1885.(SR〈RCT〉)

4) Rosario PW, Reis JS, Barroso AL, et al. Efficacy of low and high 131Ⅰ doses for thyroid remnant ablation in patients with differentiated thyroid carcinoma based on post-operative cervical uptake. Nucl Med Commun 2004;25:1077-1081.(PS)

5) Bal C, Padhy AK, Jana S, et al. Prospective randomized clinical trial to evaluate the optimal dose of 131Ⅰ for remnant ablation in patients with differentiated thyroid carcinoma. Cancer 1996;77:2574-2580.(PS)

6) Creutzig H. High or low dose radioiodine ablation of thyroid remnants? Eur J Nucl Med 1987;12:500-502.(PS)

7) Johansen K, Woodhouse NJ, Odugbesan O. Comparison of 1073 MBq and 3700 MBq iodine-131 in postoperative ablation of residual thyroid tissue in patients with differentiated thyroid cancer. J Nucl Med 1991;32:252-254.(PS)


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CQ 43
分化型甲状腺癌の局所再発・リンパ節転移・遠隔転移に対する放射性ヨード内用療法の治療効果はどのくらいか?
推奨グレード
残存腫瘍に対する放射性ヨード内用療法の効果・意義は,存在部位により大きく異なる。
C1 局所再発・リンパ節転移:Ⅰ-131集積を認めても十分な効果が出ないことが多い。
A 肺転移:Ⅰ-131 集積が認められる場合は寛解も期待できる。
B 骨転移:予後改善につながる可能性がある。
C3 脳転移:一般に効果は期待しがたい。
【背 景・目 的】

甲状腺分化癌の局所再発・遠隔転移に対する治療は,有効な化学療法が存在しないため,内用療法に依存することが多いと思われる。その有効性は転移部位により異なる。部位ごとに有効性を評価した。

【解 説】

形態画像で認められる大きさの局所再発・リンパ節転移は,放射性ヨード内用療法で制御は困難であり,最も望ましい対処は外科的切除であろう 1)2)。内用療法はその後の補助療法として用いるか,手術がなんらかの要因で適応とならない場合に試みる。頸部リンパ節転移だけでなく縦隔リンパ節転移も同様に対応するのが望ましい。内用療法のみで腫瘍縮小を得ることは多くないものの,著効例もときに経験される 3)。18 歳未満の患者で内用療法を受けた11 例中8 例でシンチグラフィ上病巣集積の消失が示されており,若年者では手術に先行して試みてもよいかもしれない 4)

肺転移は,微小肺結節でⅠ-131 集積が認められる場合は内用療法の効果が最も期待できる状況であり,積極的に加療するのが望ましい。形態診断で病巣認識できない状態でⅠ-131 集積を示す場合は特にそうである。文献により差はあるものの,治癒が30〜80%の確率で期待できる 5)6)。若年の肺転移に対する治療効果は一般に良好である 4)。逆に,40 歳を超える例や,粗大結節型転移ではその効果は低下する 6)。Ⅰ-131 集積がある場合は,総じて肺転移患者の生命予後改善に寄与し,集積があり治療後に病巣消失が得られた場合は15 年89%と著しく良好である 5)

骨転移は,単発であれば外科的対処が最善である 7)。残念ながら骨転移に対する治療反応性は良好とは言い難いものの,Ⅰ-131 集積があれば治療により予後改善につながり,総投与量が予後因子である可能性がある 7)。骨破壊により病的骨折リスクの高い状態や,神経症状を誘発している場合や懸念される場合では,内用療法に先立ち外照射でそれらの状況を回避することが重要であろう。

脳転移は,外科的対処,外照射など他の手段で対応すべきである。脳転移に対する内用療法のまとまった報告は乏しいが,Ⅰ-131 集積は不良である 8)。しかしながら,脳転移の多くの症例では肺転移・骨転移も合併しており,脳転移に対して他の治療手段で対応したうえで,残りの肺・骨転移に対する効果を期待し,放射性脳浮腫などに留意しながら慎重に内用療法を行うことは可能である。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed で”thyroid cancer”,“thyroid carcinoma”,”thyroid neoplasms”,“neoplasm metastasis”,“metastasis”,”metastases”,“iodine radioisotopes/therapeutic use”,“radioiodine”,“Ⅰ-131”,“131Ⅰ” をキーワードとして1989〜2009 年の論文を検索した。医中誌では,甲状腺腫瘍/TH,放射線療法/TH,リンパ性転移/TH,遠隔転移/AL,JMEDPlus では,甲状腺腫瘍,放射線療法,リンパ性転移,遠隔転移をキーワードとして1989〜2009 年の論文を検索した。

【参考文献】

1) Schlumberger MJ. Papillary and follicular thyroid carcinoma. N Engl J Med 1998;338:297-306. (NR)

2) 吉田 明.甲状腺癌の再発診療に関する再診のデータ.臨外 2002;57:48-54.(SR〈RS〉)

3) 渋谷 洋,杉野公則,長浜充二,他.甲状腺癌における131Ⅰ 内用療法の役割.臨放 2007;52:847-854.(RS)

4) Dottorini ME, Vignati A, Mazzucchelli L, et al. Differentiated thyroid carcinoma in children and adolescents:a 37-year experience in 85 patients. J Nucl Med 1997;38:669-675.(RS)

5) Schlumberger M, Challeton C, De Vathaire F, et al. Radioactive iodine treatment and external radiotherapy for lung and bone metastases from thyroid carcinoma. J Nucl Med 1996;37:598- 605.(RS)

6) Durante C, Haddy N, Baudin E, et al. Long-term outcome of 444 patients with distant metastases from papillary and follicular thyroid carcinoma:benefits and limits of radioiodine therapy. J Clin Endocrinol Metab 2006;91:2892-2899.(RS)

7) Bernier MO, Leenhardt L, Hoang C, et al. Survival and therapeutic modalities in patients with bone metastases of differentiated thyroid carcinomas. J Clin Endocrinol Metab 2001;86:1568-1573.(RS)

8) Misaki T, Iwata M, Kasagi K, et al. Brain metastasis from differentiated thyroid cancer in patients treated with radioiodine for bone and lung lesions. Ann Nucl Med 2000;14:111-114. (RS)


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CQ 44
遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモン製剤(recombinant human Thyroid Stimulating Hormone, rhTSH)の使用法・効果・安全性はどのようなものであるか?
推奨グレード
甲状腺分化癌の全摘または準全摘術後の患者で,残存甲状腺組織の有無の確認や再発あるいは転移巣の検索を行う際には,甲状腺ホルモンの投与を中止する従来法に代わって,遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモン製剤(rhTSH)が使用できる。従来法と同等の診断能を有するうえに,甲状腺機能低下に伴うQOL の低下がなく,被曝量の軽減もできることから,多くのメリットを有するものと考えられる。
A 全摘・準全摘後の再発診断
A 全摘・準全摘後の残存甲状腺床の確認
A 全摘・準全摘後のアブレーションの前処置(現時点では保険未収載であるが,有効性は十分に実証されており,A とした)
C1 転移巣・再発巣に対する放射性ヨード内用療法の前処置(現時点では有効性を実証した文献は十分でないため,C1 とした)
【背 景・目 的】

甲状腺分化癌の全摘または準全摘術後の患者で,残存甲状腺組織の有無の確認や再発あるいは転移巣の検索を行う際には,通常血清サイログロブリン(Tg)がマーカーとして用いられる。しかし,甲状腺摘出患者では甲状腺ホルモンの補充療法を行うため,内因性のTSH 分泌は多くの場合抑制されている。このため,残存甲状腺や転移巣からのTg 産生も抑えられており,平常時・TSH 抑制時の血清Tg 値だけでは再発の有無などの診断が難しいことがある 1)2)。したがって,なんらかの方法でTSH 刺激を行い,その影響下でⅠ-131 全身シンチグラフィあるいは血清Tg 試験を行う必要がある。

従来法すなわち甲状腺ホルモン投与中止法では,甲状腺ホルモンの投与を中止し,人為的に甲状腺機能低下症をつくることで,内因性TSH を上昇させ残存甲状腺組織(甲状腺床)や再発・転移巣へのヨード集積亢進とTg 分泌を促し,シンチグラフィやTg 試験の診断準備とする。しかし,この方法では数週間にわたって甲状腺機能低下に伴う諸症状(さむけ,体重の増加,便秘,動作緩慢,皮膚冷感,眼瞼浮腫,心臓・腎臓機能の低下,認知機能の低下など)が避けられないという欠点がある 3)〜9)

遺伝子組み換えヒト甲状腺刺激ホルモン製剤(recombinant human Thyroid Stimulating Hormone,略してrhTSH)は甲状腺癌診断補助のための筋注用製剤で,甲状腺ホルモンの投与を中止することなく,全身シンチグラフィと血清Tg 試験を行うことができるという利点がある。

【解 説】
(1) 使用法

rhTSH 使用による準備法では,甲状腺ホルモンは継続して投与可能なため,甲状腺機能低下症は発現しない。2 日間にわたって2 回の筋肉注射を行うことで,血清TSH 濃度は二相性に上昇し,シンチグラフィやTg 試験で望ましいとされる血清TSH 濃度を得ることができる。Ⅰ-131 投与はrhTSH の初回投与から48 時間,また,Tg 採血やシンチグラフィ撮影はそれぞれ初回投与から96 時間,96 時間以降と規定されている。

rhTSH は実際の臨床で全摘または準全摘後において,残存甲状腺のⅠ-131 による破壊(アブレーション)の適応を決める場合や局所再発,転移癌の検出,アブレーション後の経過観察を目的とする場合に用いられる。欧州はじめ諸外国では,甲状腺全摘後の患者においてrhTSH を用いた治療方針案に基づいた経過観察が広く行われており,明らかな転移のない症例ではrhTSH の使用が経過観察の基本となっている 10)

なお,rhTSH を用いた再発診断における診断法にはTg 試験と放射性ヨードシンチグラフィおよびその両者がある。シンチグラフィ単独での診断は従来のようなプラナー像による全身写真のみでの診断の場合感度は低いため,感度の高いTg 試験との併用を推奨する報告が主である 1)11)

(2) 効 果

rhTSH 法による利点としては,① QOL の低下がないこと 3)4),② 5 日間という短期間での診断が可能なこと,③甲状腺機能低下に伴う症状の誘発がないこと 5)〜9),④癌細胞の増殖促進への影響が最小限であること 12)13),⑤腎機能低下がないため被曝量が軽減すること 14)15),⑥従来法と同等の診断能であること 1)2)16),が挙げられる。rhTSH法による欠点としては,医療費負担がやや大きいことが挙げられる。ちなみに診断能は同等とされるが,従来法でのTSH 濃度の上昇に比し,rhTSH 法でのTSH 上昇はやや低めになる傾向がある 2)

(3) 安全性・適応など

わが国におけるrhTSH 製剤の適応は,分化型患者甲状腺癌で甲状腺全摘または準全摘術を施行された患者における,放射性ヨードシンチグラフィとTg 試験との併用,またはTg 試験単独による診断の補助とされている。なお,現在日本では,諸外国で承認されているアブレーション時の使用 4)15)17)や諸外国で臨床試験中の放射性ヨード内用療法での応用 18)は保険適応として認められていない。

絶対的適応は甲状腺ホルモンの休止でTSH の上昇が得られない下垂体機能障害の患者や心疾患,精神疾患などでホルモンの休止ができない患者である。相対的適応は甲状腺ホルモンの休止が望ましくない,または望まない患者である。一方,慎重投与は転移のある甲状腺癌患者,特に脳・脊髄転移,腫瘍による気道狭窄のある患者で腫瘍増大によるリスクに注意するべき患者,残存甲状腺組織が多い患者,心疾患の既往歴を有する患者,肝・腎機能低下のある患者,高齢者などである。しかし,これらの慎重投与条件は,従来法でも同様に注意すべき条件である。禁忌は,妊産婦・授乳婦・小児への投与で,これらは基本的に認められていない。副作用は頭痛,嘔気,嘔吐,全身倦怠感,めまいなどがあるが,その発現率は高いものではない。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed で “hypothyroidism” OR “thyroid carcinoma” OR “thyroid stimulating hormone” OR “recombinant human thyroid stimulating hormone” OR “rhTSH” をキーワードとして1989 〜2009 年の論文を検索した。

【参考文献】

1) Mazzaferri EL, Robbins RJ, Spencer CA, et al. A consensus report of the role of serum thyroglobulin as a monitoring method for low-risk patients with papillary thyroid carcinoma. J Clin Endocrinol Metab 2003;88:1433-1441.(SR〈RS〉)

2) Eustatia-Rutten CF, Smit JW, Romijn JA, et al. Diagnostic value of serum thyroglobulin measurements in the follow-up of differentiated thyroid carcinoma, a structured meta-analysis. Clin Endocrinol(Oxf)2004;61:61-74.(SR〈PS〉)

3) Taieb D, Sebag F, Cherenko M, et al. Quality of life changes and clinical outcomes in thyroid cancer patients undergoing radioiodine remnant ablation with recombinant human thyrotropin: a randomized controlled study. Clin Endocrinol(Oxf) 2009;71:115-123.(RCT)

4) Pacini F, Ladenson PW, Schlumberger M, et al. Radioiodine ablation of thyroid remnants after preparation with recombinant human thyrotropin in differentiated thyroid carcinoma: results of an international, randomized, controlled study. J Clin Endocrinol Metab 2006;91:926-932. (RCT)

5) Hoftijzer HC, Bax JJ, Heemstra KA, et al. Short-term overt hypothyroidism induces discrete diastolic dysfunction in patients treated for differentiated thyroid carcinoma. Eur J Clin Invest 2009;39:204-210.(PS)

6) Botella-Carretero JI, Galan JM, Caballero C, et al. Quality of life and psychometric functionality in patients with differentiated thyroid carcinoma. Endocr Relat Cancer 2003;10:601-610.(PS)

7) Botella-Carretero JI, Gomez-Bueno M, Barrios V, et al. Chronic thyrotropin-suppressive therapy with levothyroxine and short-term overt hypothyroidism after thyroxine withdrawal are associated with undesirable cardiovascular effects in patients with differentiated thyroid carcinoma. Endocr Relat Cancer 2004;11:345-356.(PS)

8) Karanikas G, Schutz M, Szabo M, et al. Isotopic renal function studies in severe hypothyroidism and after thyroid hormone replacement therapy. Am J Nephrol 2004;24:41-45.(PS)

9) Munte TF, Lill C, Otting G, et al. Cognitive changes in short-term hypothyroidism assessed with event-related brain potentials. Psychoneuroendocrinology 2004;29:1109-1118.(PS)

10) Pacini F, Schlumberger M, Dralle H, et al. European consensus for the management of patients with differentiated thyroid carcinoma of the follicular epithelium. Eur J Endocrinol 2006;154:787-803.(Others)

11) Pacini F, Molinaro E, Castagna MG, et al. Recombinant human thyrotropin-stimulated serum thyroglobulin combined with neck ultrasonography has the highest sensitivity in monitoring differentiated thyroid carcinoma. J Clin Endocrinol Metab 2003;88:3668-3673.(RS)

12) Sorvillo F, Mazziotti G, Carbone A, et al. Recombinant human thyrotropin reduces serum vascular endothelial growth factor levels in patients monitored for thyroid carcinoma even in the absence of thyroid tissue. J Clin Endocrinol Metab 2003;88:4818-4822.(PS)

13) Tuttle RM, Fleisher M, Francis GL, et al. Serum vascular endothelial growth factor levels are elevated in metastatic differentiated thyroid cancer but not increased by short-term TSH stimulation. J Clin Endocrinol Metab 2002;87:1737-1742.(RS)

14) Sisson JC, Shulkin BL, Lawson S. Increasing efficacy and safety of treatments of patients with well-differentiated thyroid carcinoma by measuring body retentions of 131Ⅰ. J Nucl Med 2003;44:898-903.(RS)

15) Hanscheid H, Lassmann M, Luster M, et al. Iodine biokinetics and dosimetry in radioiodine therapy of thyroid cancer:procedures and results of a prospective international controlled study of ablation after rhTSH or hormone withdrawal. J Nucl Med 2006;47:648-654.(PS)

16) Haugen BR, Pacini F, Reiners C, et al. A comparison of recombinant human thyrotropin and thyroid hormone withdrawal for the detection of thyroid remnant or cancer. J Clin Endocrinol Metab 1999;84:3877-3885.(RCT)

17) Pilli T, Brianzoni E, Capoccetti F, et al. A comparison of 1850(50 mCi)and 3700 MBq(100 mCi) 131-iodine administered doses for recombinant thyrotropin-stimulated postoperative thyroid remnant ablation in differentiated thyroid cancer. J Clin Endocrinol Metab 2007;92:3542-3546.(RCT)

18) Tuttle RM, Brokhin M, Omry G, et al. Recombinant human TSH-assisted radioactive iodine remnant ablation achieves short-term clinical recurrence rates similar to those of traditional thyroid hormone withdrawal. J Nucl Med 2008;49:764-770.(RS)


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コラム13 放射性ヨード内用療法についての解説—日本の現状を含めて
要旨
わが国では,放射性ヨード内用療法実施数が年々増加しており,そのニーズが高まっていると考えられるにもかかわらず,稼働病床数が逆に減少しているのが現状である。それゆえ,全摘術後のアブレーションを積極的に施行できない状況にあることに加え,遠隔転移患者の治療までの待機時間が延長している。しかし,Ⅰ-131 30 mCi 外来投与によるアブレーションが実施可能となることにより,内用療法環境が改善することが期待される(30 mCi 外来投与実施には講習が義務付けられている。2010 年8 月現在,厚生労働省の許可待ちである)。
【背 景・目 的】

甲状腺分化癌に対する放射性ヨードⅠ-131 内用療法は,海外と国内で使用状況に隔たりがある。その適応,投与量などに関して依然として議論のあるところである。国内の実施施設の問題,今後の打開策などを提示する。

【解 説】

甲状腺分化癌全摘術後に明らかな肉眼的残存や転移が存在しないが,再発リスクが高いと考えられる症例に対する内用療法をアブレーションと呼称する。残存甲状腺組織(甲状腺床)と潜在的微小残存腫瘍を破壊することにより,再発予防が得られる 1)〜4)。また,正常甲状腺組織を除去することにより,腫瘍マーカーである血中サイログロブリン値の特異性とⅠ-131 スキャンによる病巣検出能が向上し,その後の経過観察が容易となる 1)〜4)。しかし,アブレーションにより局所再発率・遠隔再発・癌死率の低下が得られるといわれているものの,すべて後ろ向きなデータに基づくものであり,真のエビデンスは存在しない。また,報告によって一致した結果が示されていないのが現状である。国内データによる後ろ向きな解析では,術後に内用治療を受けた群で手術単独群より累積生存率が改善する傾向が示されている 5)6)

国内の内用療法実施数は1987 年481 件,1997 年1, 350 件,2007 年2, 373 件と増加の一途であるにもかかわらず,稼働ベッド数は2002〜2007 年にかけて188 床から158 床に減少傾向にある 7)。内用療法を必要とする甲状腺癌患者は年間6, 800 名と推定する資料もあり,必要数の約35%しか実行できていないこととなる。また,最近全国の治療施設を対象に行われた調査の結果,内用療法決定から実施までの待機時間は平均4. 4 カ月,最大18 カ月と非常に長くなっており,国内アイソトープ病床は飽和状態にあるといって過言ではない。

この状況を打開する方策として,公衆被曝の観点から30 mCi 投与による外来アブレーション治療の妥当性が日本核医学会により検証された。アブレーション達成に必要な投与量に関してはいまだ議論のあるところであり,30 mCi が100 mCi に匹敵する効果を有することは示されていない 8)。しかし,アブレーションの外来治療へのシフトにより,前述の待機時間の問題解決と,残存病巣・転移巣を有する患者への病床確保につながると期待される。30 mCi 外来投与の法的根拠に問題はなく,日本核医学会の予備検討で安全に行うことが可能であるとのデータが集積された。これを基に厚生労働省の了承を得て,30 mCi 外来投与アブレーション実施が可能な環境が整った。しかし,公衆被曝に対する十分な配慮なしにこの方法が広く応用されてしまえば,公衆被曝増大と,それによる社会不安惹起に繋がりかねない。そのため,厚生労働省の指導で,「Ⅰ-131(1, 110 MBq)による残存甲状腺破壊(アブレーション)の外来治療における適正使用に関する講習会」の受講が義務付けられることになった。受講なしに30 mCi 外来投与を行うことは厚生労働省の指導に反することとなるため,十分に配慮されたい。また,30 mCi投与はアブレーションにのみ用いられるもので,残存病巣・転移巣に対する治療には,従来通りの入院加療による100 mCi 以上の投与量を用いるのが妥当であることを銘記されたい。さらに,本取り決めには甲状腺機能亢進症に対する内用療法は含まれておらず,甲状腺機能亢進症では13. 5 mCi (500 MBq)を超える投与は従来通り入院加療とすることにも注意されたい。

注意:30 mCi 外来投与アブレーションに関しては,2010 年8 月現在,厚生労働省から正式の通知が出ていないが,最終段階にあるため見込みとして記載した。したがって,実施に際しては十分に情報を把握していただきたい。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed で”thyroid cancer”,“thyroid carcinoma”,”thyroid neoplasms/therapy”,“iodine radioisotopes/therapeutic use”,“radioiodine”,“Ⅰ-131”,“131Ⅰ” をキーワードとして1989〜2009 年の論文を検索した。医中誌では,甲状腺腫瘍/TH or 甲状腺腫瘍/AL,ヨウ素放射性同位体/TH or ヨウ素放射性同位体/AL,ヨウ素放射性同位体/TH or Ⅰ-131/AL,JMEDPlus では,甲状腺腫瘍,ヨウ素131 をキーワードとして1989〜2009 年の論文を検索した。

【参考文献】

1) Mazzaferri EL, Jhiang SM. Long-term impact of initial surgical and medical therapy on papillary and follicular thyroid cancer. Am J Med 1994;97:418-428.(RS)

2) Mazzaferri EL, Kloos RT. Clinical review 128:Current approaches to primary therapy for papillary and follicular thyroid cancer. J Clin Endocrinol Metab 2001;86:1447-1463.(NR)

3) Robbins RJ, Schlumberger MJ. The evolving role of 131Ⅰ for the treatment of differentiated thyroid carcinoma. J Nucl Med 2005;46(Suppl 1):28 S-37 S.(NR)

4) Sawka AM, Thephamongkhol K, Brouwers M, et al. Clinical review 170:A systematic review and metaanalysis of the effectiveness of radioactive iodine remnant ablation for well-differentiated thyroid cancer. J Clin Endocrinol Metab 2004;89:3668-3676.(SR〈RS〉)

5) 横山邦彦,絹谷清剛,道岸隆敏,他.甲状腺癌に対する放射性ヨード内用療法—治療効果のエビデンスと日本における問題点.外科 2006;68:773-776.(NR)

6) 渋谷 洋,杉野公則,長浜充二,他.甲状腺癌における131Ⅰ内用療法の役割.臨放 2007;52:847-854.(RS)

7) 日下部きよ子.甲状腺疾患 8)放射線ヨード療法.臨床に役立つ内分泌疾患診療マニュアル.ホル モンと臨 2006;54(春季増刊号):113-116.(NR)

8) Hackshaw A, Harmer C, Mallick U, et al. 131Ⅰ activity for remnant ablation in patients with differentiated thyroid cancer:A systematic review. J Clin Endocrinol Metab 2007;92:28-38. (SR〈RS〉)


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コラム14 甲状腺分化癌に対する放射線外照射の適応
要旨
甲状腺分化癌は放射線感受性が低いため,手術や放射性ヨード内用療法が中心的治療法である。基本的には放射線外照射は,手術や放射性ヨード内用療法の非適応例や,これらの治療後の追加治療として行われる。
【解 説】
(1) 原発甲状腺癌に対する適応

甲状腺分化癌は放射線感受性が高いとはいえず,根治的手術後の放射線外照射の適応は残念ながら少ない 1)2)。術後外照射の適応に関する前向き研究はいまだなされていない。しかしながら後ろ向き研究では,術後残存腫瘍があり追加手術不能な場合の再増殖の危険性は低減できるとの報告がある 3)4)。40 歳以上の局所進行乳頭癌でリンパ節転移がある症例で,放射性ヨード内用療法の後に追加外照射の意義があり,局所再発と領域・遠隔再発の有意な低減が報告された 5)。また顕微鏡的残存腫瘍に対して追加外照射を行うことによってcause-specific survival と局所非再発率の改善が報告された 3)。乳頭癌の術後顕微鏡的残存腫瘍例では,非再発率は外照射群で非照射群より良好と報告されている 6)。しかしながらこれらの報告は放射性ヨード内用療法の適応などが一定でない。一般には進行癌症例の術後残存病変において,外照射の有用性が報告されている 7)8)が,一方で有用性を否定する報告もある 9)10)

最近の放射線治療技術の進歩はめざましい進歩があり,三次元原体照射(3 DCRT)や強度変調放射線治療(IMRT)を用いると正常組織の照射線量が低減できるため,以前に問題となった放射線性脊髄障害 3)9)10)を避けることができ,腫瘍に対する照射線量を増大することが可能となった。いまだエビデンスはないが今後,放射線外照射の適応は拡大されると考えられる。しかしながら3 DCRT やIMRT などによる多方向からの照射を行うと理論的には,長期生存者に二次発癌の危険性を増大させる可能性がある。

<現段階での甲状腺分化癌に対する放射線外照射の適応>

手術時に明らかな甲状腺外への浸潤があり病理学的に腫瘍残存の可能性が高い症例や,顕著なリンパ節外進展を伴う症例で,追加手術や放射性ヨード内用療法が行えない場合。

手術不能症例で放射性ヨード内用療法が行えない,あるいは放射性ヨード内用療法後の追加治療。

(2) 転移甲状腺癌に対する適応(緩和医療)

再発をきたした終末期の症例で,有痛性骨転移,骨折,神経麻痺,出血,喘鳴,上大静脈閉鎖,嚥下困難などの症状,あるいは近い将来その発生が生じる危険性のある場合に適応を考慮する。ヨード集積のある場合は内用療法,単発性の骨転移は手術の適応も考慮されるのが望ましく,放射線科・整形外科あるいは緩和医療チームへのコンサルトが必要である。脳転移に対する放射性ヨード内用療法は脳浮腫発生の危険性もあり,手術を勧める報告もある 11)が,3 DCRT も今後重要な適応となると思われる。一般には3カ月以上の予後が期待できる全身状態の比較的良好な患者が適応となる。

<現段階での転移甲状腺癌に対する放射線外照射の適応>

再発をきたした終末期の症例で,放射性ヨード内用療法・手術の適応がなく,腫瘍による症状緩和が必要な症例。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed で“thyroid cancer”,“thyroid carcinoma”,“metastasis”,“metastases”,“radiotherapy”,“external beam” をキーワードとして1989〜2009 年の論文を検索した。

【参考文献】

1) Harmer CL, McCready VR. Thyroid cancer:differentiated carcinoma. Cancer Treat Rev 1996; 22:161-177.(NR)

2) Wilson PC, Millar BM, Brierley JD. The management of advanced thyroid cancer. Clin Oncol(R Coll Radiol)2004;16:561-568.(NR)

3) Tsang RW, Brierley JD, Simpson WJ, et al. The effects of surgery, radioiodine, and external radiation therapy on the clinical outcome of patients with differentiated thyroid carcinoma. Cancer 1998;82:375-388.(RS)

4) Meadows KM, Amdur RJ, Morris CG, et al. External beam radiotherapy for differentiated thyroid cancer. Am J Otolaryngol 2006;27:24-28.(SR)(RCT)

5) Farahashi J, Reiners C, Stuschke M, et al. Differentiated thyroid cancer. Impact of adjuvant external radiotherapy in patients with perithyroidal tumor infiltration(stage pT4). Cancer 1996;77:172-180.(SR〈PCT〉)

6) Simpson WJ, Panzarella T, Carruthers JS, et al. Papillary and follicular thyroid cancer:Impact of treatment in 1578 patients. Int J Radiat Oncol Biol Phys 1988;14:1063-1075.(RS)

7) Brierley J, Tsang R, Panzarella T, et al. Prognostic factors and the effect of treatment with radioactive iodine and external beam radiation on patients with differentiated thyroid cancer seen at a single institution over 40 years. Clin Endocrinol(Oxf)2005;63:418-427.(RS)

8) Tubiana M, Haddad E, Schlumberger M, et al. External radiotherapy in thyroid cancers. Cancer 1985;55(9 suppl):2062-2071.(RS)

9) Samaan NA, Schultz PN, Hickey RC, et al. The results of various modalities of treatment of well differentiated thyroid carcinomas:a retrospective review of 1599 patients. J Clin Endocrinol Metab 1992;75:714-720.(RS)

10) Taylor T, Specker B, Robbins J, et al. Outcome after treatment of high risk papillary and non-Hürthle-cell follicular thyroid carcinoma. Ann Intern Med 1998;129:622-627.(RS)

11) Chiu AC, Delpassand ES, Sherman SI. Prognosis and treatment of brain metastases in thyroid carcinoma. J Clin Endoclinol Metab 1997;82:3637-3642.(RS)


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コラム15 放射性ヨード内用療法に際しては,事前にⅠ-131シンチグラフィを行うのが妥当か否か?その方法(投与量など)は?
要旨
放射性ヨード内用療法前に病巣集積確認のためにシンチグラフィを行うと,Ⅰ-131 集積組織のstunning により,治療効果に悪影響を与えてしまう懸念がある。stunning の存在には否定的な意見があるものの,その詳細が不明であることを考えると,事前シンチグラフィ実行を積極的に勧めることはできない。しかし,内用療法施行施設が限られている国内現状では,シンチグラフィによる内用療法適応決定の意義は否定できない。
【背 景・目 的】

甲状腺全摘術後の放射性ヨード内用療法前に診断量(トレーサ量)のⅠ-131 シンチグラフィで集積有無を確認することの意義は,stunning による悪影響と表裏をなすものであり,内用療法の効果に悪影響を与える可能性がある。

【解 説】

放射性ヨード内用療法前に,TSH 刺激下に診断量(トレーサ量)のⅠ-131 を用いてシンチグラフィを行うことがある。その意義は,①術後の肉眼的残存病巣のない状態においてアブレーション適応を決定する目的でⅠ-131 集積を確認すること,②切除不能な残存腫瘍が存在する場合に,内用療法の適応をⅠ-131 集積性で確認することにある。また,このシンチグラフィで予想外の転移巣や追加切除が必要なサイズの残存腫瘍が認識され,治療方針の変更につながることがある。

シンチグラフィでⅠ-131 集積が確認され内用療法適応と考えられた場合には,その後に治療量のⅠ-131 を投与する。このようなステップで治療を行うと,直前のシンチグラフィ診断のⅠ-131 集積が,濾胞細胞および分化癌細胞にダメージを与えてしまうため,治療時にⅠ-131 病巣集積が低下し,その結果治療効果が低減してしまう可能性があることが指摘されている 1)〜3)。これをstunning 現象という。一方で,診断量Ⅰ-131 投与は治療効果に悪影響を及ぼさない 4),あるいはstunning が生じたとしても治療効果に影響はないとする報告もある 5)。影響はないと推測される投与量についても,185 MBq(5 mCi)で影響なしとする報告から 4)5),111 MBq(3 mCi)でも影響ありとする報告 2)もあり定まった見解はない。37〜74 MBq(1〜2 mCi)であれば影響はなさそうな印象であるが 2)6),断言しきれない。

Ⅰ-123 であればstunning が生じず,病巣検出にも有効であると報告されているが 3)6),Ⅰ-123 シンチグラフィに必要な数mCi のⅠ-123 製剤供給が国内にはないことに加え,非常に高額になるため実質的に不可能である。

治療前診断量シンチグラフィのもう一つの問題点として,診断シンチグラフィの病巣検出能が治療時シンチグラフィに劣ることが挙げられる。治療時シンチグラムのほうが,病巣対バックグラウンド比が良好であるために生じる現象である。これはⅠ-131 7)でもⅠ-123 8)でも起こり得る。したがって,前述のstunning が問題とならないかもしれない少量のⅠ-131 によるシンチグラフィには,検出能に限界があることを銘記しておくことが肝要である。

stunning が生じた場合に病巣集積が回復するまでの期間に関する報告は多くないが,相当期間持続するようである 9)。投与量に関する報告との兼ね合いで考えると,111 MBq(3 mCi)を超えるⅠ-131 で検査を行った場合は,2 カ月以上は治療を待つのが妥当である 9)

以上のごとく,内用療法直前の診断シンチグラフィには複数のデメリットがあるため,積極的に勧めることはできない。しかし,内用療法可能施設が少なく,治療までの待機時間が長くなっている国内の現状を考えると,あらかじめシンチグラフィで治療適応を判断する意義を完全に否定することはできない。また,rhTSH 使用によりシンチグラフィのためにホルモン休薬が不要となった現在,rhTSH 投与下シンチグラフィで治療適応を確認した後に,2 カ月以上後にホルモン補充休止下に内用療法を行うという手順も考えられる。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed で”thyroid cancer”,“thyroid carcinoma”,”thyroid neoplasms/therapy”,“iodine radioisotopes/therapeutic use”,“radionuclide imaging”,“radioiodine”,“Ⅰ-131”,“131Ⅰ” をキーワードとして1989〜2009 年の論文を検索した。医中誌では,甲状腺腫瘍/TH or 甲状腺腫瘍/AL,ヨウ素放射性同位体/TH or Ⅰ-131/AL,シンチグラフィ/TH を,JMEDPlus では,甲状腺腫瘍,ヨウ素131 をキーワードとして1989〜2009 年の論文を検索した。

【参考文献】

1) Muratet JP, Giraud P, Daver A, et al. Predicting the efficacy of first iodine-131 treatment in differentiated thyroid carcinoma. J Nucl Med 1997;38:1362-1368.(RS)

2) Muratet JP, Daver A, Minier JF, et al. Influence of scanning doses of iodine-131 on subsequent first ablative treatment outcome in patients operated on for differentiated thyroid carcinoma. J Nucl Med 1998;39:1546-1550.(RS)

3) Lees W, Mansberg R, Roberts J, et al. The clinical effects of thyroid stunning after diagnostic whole-body scanning with 185 MBq 131Ⅰ. Eur J Nucl Med Mol Imaging 2002;29:1421-1427. (RS)

4) Cholewinski SP, Yoo KS, Klieger PS, et al. Absence of thyroid stunning after diagnostic whole- body scanning with 185 MBq 131Ⅰ. J Nucl Med 2000;41:1198-1202.(RS)

5) Dam HQ, Kim SM, Lin HC, et al. 131Ⅰ therapeutic efficacy is not influenced by stunning after diagnostic whole-body scanning. Radiology 2004;232:527-533.(RS)

6) Silberstein EB:Comparison of outcomes after 123Ⅰ versus 131Ⅰ preablation imaging before radioiodine ablation in differentiated thyroid carcinoma. J Nucl Med 2007;48:1043-1046.(PS)

7) Spies WG, Wojtowicz CH, Spies SM, et al. Value of post-therapy whole-body Ⅰ-131 imaging in the evaluation of patients with thyroid carcinoma having undergone high-dose Ⅰ-131 therpay. Clin Nucl Med 1989;14:793-800.(RS)

8) Donahue KP, Shah NP, Lee SL, et al. Initial staging of differentiated thyroid carcinoma:continued utility of posttherapy 131Ⅰ whole-body scintigraphy. Radiology 2008;246:887-894. (RS)

9) Hilditch TE, Dempsey MF, Bolster AA, et al. Self-stunning in thyroid ablation:evidence from comparative studies of diagnostic 131Ⅰ and 123Ⅰ. Eur J Nucl Med Mol Imaging 2002;29:783-788. (RS)


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コラム16 甲状腺髄様癌に対する放射線治療(外照射およびⅠ-131 MIBG 内用療法)の現状は?
要旨
髄様癌に対する放射線外照射に関するエビデンスは極めて乏しく,その意義は不確定である。ノルエピネフリン類似体のⅠ-131 MIBG による髄様癌に対する内用療法は,Ⅰ-131 MIBG を個人輸入することにより国内でも実行可能である。欧米で報告のあるソマトスタチン類似体Y-90-DOTATOC による内用療法や抗CEA 抗体による放射免疫療法は,現状では国内施行は実質上不可能である。
【背 景・目 的】

局所再発例・遠隔転移例の髄様癌に対する対処は,手術,外照射,ラジオ波,塞栓術などが行われている。その他の治療選択肢として,Ⅰ-131 MIBG による内用療法が国内でも限定的ではあるものの施行可能である。

【解 説】

甲状腺髄様癌に対する放射線外照射の治療効果の報告(エビデンス)は極めて少なく 1),諸外国ガイドラインでもAmerican Thyroid Association およびBritish Thyroid Association and Royal College of Physicians ではほとんど記載がない。The National Comprehensive Cancer Network では,“ 術後追加外照射の髄様癌に対する有用性の検討は行われていない。ある患者群(甲状腺外浸潤症例やリンパ節転移症例)で追加外照射による局所無病生存率のわずかな改善の報告もあるが,多くの施設では十分な経験はない。追加外照射はT4 の症例で腫瘍が1 cm 以上の場合に考慮し,頸部・鎖骨上・上縦隔リンパ節領域に40 Gy,腫瘍床に10 Gy の追加照射を考慮する。緩和療法における外照射の適応は分化癌と同様である。” とされている。

神経内分泌腫瘍に分類される甲状腺髄様癌は,MIBG 摂取能を有する特異な腫瘍である。Ⅰ-131 MIBG はノルエピネフリン類似体で,髄様癌細胞に能動的に摂取され,Ⅰ-131のβ線により殺細胞効果を発揮する。治療用Ⅰ-131 MIBG は国内未承認(診断用Ⅰ-131 MIBG は保険診療薬として承認済み)であるが,欧州諸国承認薬を患者の要望の元に輸入することにより,MIBG 代金のみ患者実費負担(2009 年10 月現在,標準投与量で約38万円)として,いわゆる混合診療が可能である 2)

髄様癌における治療効果を大きな症例数で示した報告はみられない。標準投与量である150〜200 mCi を半年ごとに繰り返すことにより,約60%で症状軽減効果が得られるものの,腫瘍縮小効果が得られることは少なく,約30〜40%である 3)〜6)。効果発現は投与量に依存的である可能性があるため 7),1 回投与量の増加,標準量の繰り返し投与が試みられる。骨髄毒性が主たる副作用であるが,標準投与量における毒性は軽微であり,輸血などの対応が必要になることは稀であるが,投与量を増加させた場合は骨髄抑制に対する配慮が必要である。

MIBG 以外では,ソマトスタチン類似体であるY-90-DOTATOC 8)9),抗CEA 抗体による放射免疫療法 10)11)の報告がある。放射免疫療法では生命予後改善が示されている。治療効果増強を狙って,化学療法との併用,幹細胞移植による骨髄サポート併用による投与量増加が試みられている。これらの治療は,現状では国内施行は困難である。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed で“thyroid neoplasms”,“carcinoma, medullary/radiotherapy” をキーワードとして1989〜2009 年の論文を検索した。医中誌では,甲状腺腫瘍/TH,髄様癌/TH,放射線療法/TH を,JMEDPlus では,甲状腺腫瘍,髄様癌,放射線療法をキーワードとして1989〜2009 年の論文を検索した。

【参考文献】

1) Schwartz DL, Rana V, Shaw S, et al. Postoperative radiotherapy for advanced medullary thyroid cancer--local disease control in the modern era. Head Neck 2008;30:883-888.(RS)

2) 中條政敬,吉永恵一郎,織内 昇,他.神経内分泌腫瘍に対する131Ⅰ-MIBG 内照射療法の適正使 用ガイドライン案.核医 2008;45:1-40(suppl).(Others)

3) Mukherjee JJ, Kaltsas GA, Islam N, et al. Treatment of metastatic carcinoid tumours, phaeochromocytoma, paraganglioma and medullary carcinoma of the thyroid with 131Ⅰ-meta- iodobenzylguanidine[131Ⅰ-mIBG]. Clin Endocrinol(Oxf)2001;55:47-60.(RS)

4) Shapiro B: Summary, conclusions, and future directions of[131Ⅰ]metaiodobenzylguanidine therapy in the treatment of neural crest tumors. J Nucl Biol Med 1991;35:357-363.(NR)

5) Troncone L, Rufini V. 131Ⅰ-MIBG therapy of neural crest tumours(review). Anticancer Res 1997;17:1823-1831.(NR)

6) 塚本江利子,吉永恵一郎,玉木長良.131Ⅰ-MIBG 治療の現状と課題.映像情報Med 2001;33:1076-1080.(CaseR)

7) Castellani MR, Chiti A, Seregni E, et al. Role of 131Ⅰ-metaiodobenzylguanidine(MIBG)in the treatment of neuroendocrine tumours. Experience of the National Cancer Institute of Milan. Q J Nucl Med 2000;44:77-87.(RS)

8) Iten F, Muller B, Schindler C, et al. Response to[90 Yttrium-DOTA]-TOC treatment is associated with long-term survival benefit in metastasized medullary thyroid cancer:a phase Ⅱ clinical trial. Clin Cancer Res 2007;13:6696-6702.(PS)

9) Bodei L, Handkiewicz-Junak D, Grana C, et al. Receptor radionuclide therapy with 90 Y-DOTATOC in patients with medullary thyroid carcinomas. Cancer Biother Radiopharm 2004; 19:65-71.(RS)

10) Chatal JF, Campion L, Kraeber-Bodere F, et al. Survival improvement in patients with medullary thyroid carcinoma who undergo pretargeted anti-carcinoembryonic-antigen radioimmunotherapy: a collaborative study with the French Endocrine Tumor Group. J Clin Oncol 2006;24:1705-1711.(RS)

11) Sharkey RM, Hajjar G, Yeldell D, et al. A phase I trial combining high-dose 90 Y-labeled humanized anti-CEA monoclonal antibody with doxorubicin and peripheral blood stem cell rescue in advanced medullary thyroid cancer. J Nucl Med 2005;46:620-633.(PS)


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コラム17 放射性ヨード内用療法における副作用およびその頻度はどのくらいか?
要旨
急性期副作用として,消化器症状,放射線性唾液腺炎が高頻度に発生するが,制吐薬,消炎剤などで比較的容易に対応可能である。病巣部位によっては,放射性浮腫による神経障害に注意すべきである。一時的な性腺機能・骨髄への影響が発生し得る。二次発癌は成人例では考慮しなくても差し支えないであろう。
【背 景・目 的】

放射性ヨード内用療法は体に負担の少ない治療であり,治療に伴う副作用は軽微であるものの,種々の事柄が発生し得る。急性期副作用の対応と,晩期副作用の患者への提示は非常に重要である。

【解 説】

急性期副作用として,食欲不振,悪心・嘔吐などの消化器症状が60〜70%に発生する 1)。嘔吐まできたすのは稀で10%未満である。ホルモン休薬に伴う甲状腺機能低下症による便秘が生じやすい。制吐薬,緩下剤を積極的に使用すべきである。

放射性唾液腺炎は,軽微なものを含めると60〜70%とかなり高率に発生する 2)。レモンキャンディーなどで唾液分泌を促すことの是非については定まった見解はない。症状が強めの場合は消炎剤使用を適宜考慮されたい。治療回数が増えるに従い,導管狭窄によると考えられる食事時などの唾液腺腫脹が生じるようになり,徐々に唾液腺分泌低下に至ることは稀ではない。味覚障害は生じても確実に回復する。涙腺機能異常は,潜在的に高頻度で障害が発生していることを示唆する報告 3)があるものの,臨床的に問題となることは多くない。

残存甲状腺のある場合は放射線性甲状腺炎による前頸部痛・腫脹が20%に起こり得る 4)。形態学的に残存甲状腺がない状態でも,痛みを伴わない前頸部腫脹をときに経験することがある 1)。通常48 時間以内に生じる。非常に稀であるが,喘鳴を伴う症状につながることがある。

脳転移や椎体転移で頭蓋内や脊柱管内に腫瘍が入り込んでいる例では,放射線性浮腫あるいはTSH 刺激による腫瘍増大による神経症状惹起のリスクがある 5)

妊娠可能な女性では,一時的無月経が20〜30%で生じる 6)。早期の閉経につながる可能性が否定できない 7)。当然,妊娠中の内用療法は禁忌であるが,治療後の妊娠機会における不妊,胎児奇形のリスク増加にはつながらない 6)。治療後1 年以内の妊娠では流産の頻度が増加するとする報告があるものの 8),否定的な報告もある 6)。男性では,一時的な精子減少が発生するものの,数回の治療で不妊などにつながる性腺機能障害が発生することはなさそうである 9)

内用療法後,軽度の末梢血数低下が生じるが一過性である 1)。複数回施行時には,永続的な末梢血数低下発現は稀ではない。腎機能低下例では,クリアランス低下が骨髄線量増加につながるため注意すべきである。

びまん性肺転移に強集積する例では放射性肺臓炎・肺線維症のリスクが発生するが稀である 1)。しかし,急性呼吸不全による死亡例が報告されており注意を要する 10)。古典的には,投与48 時間後の肺集積が80 mCi を超えない投与量を設定すべきであるといわれている。

投与量に比例した二次発癌(固形癌,白血病)リスクの増加が示唆されている一方で 11),否定的な意見もある 12)。白血病発生リスクがあるとする報告でもその生涯リスクは低く,成人例では内用療法による利益がはるかに勝っていると考えられる。小児例に関しては,利益とリスクを考慮したうえで個々の症例ごとに判断する必要があるものと考えられる。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed で”thyroid neoplasms/radiotherapy”,“iodine radioisotopes/therapeutic use”,“iodine radioisotopes/adverse effects” をキーワードとして1989〜2009 年の論文を検索した。医中誌では,甲状腺腫瘍/TH,放射線療法/TH,放射性同位体/TH,毒性・副作用,有害作用を,JMEDPlus では,甲状腺腫瘍,ヨウ素131,副作用をキーワードとして1989〜2009 年の論文を検索した。

【参考文献】

1) Van Nostrand D, Neutze J, Atkins F. Side effects of “rational dose” iodine-131 therapy for metastatic well-differentiated thyroid carcinoma. J Nucl Med 1986;27:1519-1527.(RS)

2) Mandel SJ, Mandel L. Radioactive iodine and the salivary glands. Thyroid 2003;13:265-271. (NR)

3) Zettinig G, Hanselmayer G, Fueger BJ, et al. Long-term impairment of the lacrimal glands after radioiodine therapy:a cross-sectional study. Eur J Nucl Med Mol Imaging 2002;29:1428- 1432.(RS)

4) Cherk MH, Kalff V, Yap KS, et al. Incidence of radiation thyroiditis and thyroid remnant ablation success rates following 1110 MBq(30 mCi)and 3700 MBq(100 mCi)post-surgical 131Ⅰ ablation therapy for differentiated thyroid carcinoma. Clin Endocrinol(Oxf)2008;69:957-962.(RS)

5) Luster M, Lippi F, Jarzab B, et al. rhTSH-aided radioiodine ablation and treatment of differentiated thyroid carcinoma:a comprehensive review. Endocr Relat Cancer 2005;12:49- 64.(NR)

6) Garsi JP, Schlumberger M, Rubino C, et al. Therapeutic administration of 131Ⅰ for differentiated thyroid cancer:radiation dose to ovaries and outcome of pregnancies. J Nucl Med 2008;49:845-852.(RS)

7) Ceccarelli C, Bencivelli W, Morciano D, et al. 131Ⅰ therapy for differentiated thyroid cancer leads to an earlier onset of menopause:results of a retrospective study. J Clin Endocrinol Metab 2001;86:3512-3515.(RS)

8) Schlumberger M, De Vathaire F, Ceccarelli C, et al. Exposure to radioactive iodine-131 for scintigraphy or therapy does not preclude pregnancy in thyroid cancer patients. J Nucl Med 1996;37:606-612.(RS)

9) Wichers M, Benz E, Palmedo H, et al. Testicular function after radioiodine therapy for thyroid carcinoma. Eur J Nucl Med 2000;27:503-507.(RS)

10) Mathonne M, Clavel M, Labrousse F, et al. Unusual fatal effect of radioiodine(Ⅰ-131) therapy:a case report. World J Nucl Med 2009;8:187-191.(CaseR)

11) Rubino C, de Vathaire F, Dottorini ME, et al. Second primary malignancies in thyroid cancer patients. Br J Cancer 2003;89:1638-1644.(RS)

12) Bhattacharyya N, Chien W. Risk of second primary malignancy after radioactive iodine treatment for differentiated thyroid carcinoma. Ann Otol Rhinol Laryngol 2006;115:607-610. (RS)


5. 分化癌進行例の外科治療

甲状腺分化癌進行例の手術で,癌が気管や反回神経に浸潤している場合に,どのような対処が最善であるかを述べる。反回神経浸潤例における神経合併切除の是非や,気管浸潤例における気管合併切除の成績は,過去の報告でエビデンスは極めて少ない。

ここでは,過去の報告例の紹介と甲状腺腫瘍診療ガイドライン委員にアンケート調査を施行し,その結果をもとに推奨される治療を述べることとした。

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CQ 45
反回神経浸潤例における神経合併切除の適応は?
推奨グレード
B 反回神経に浸潤している分化癌の手術に際し,術前反回神経麻痺が存在する場合は甲状腺癌を完全に切除するため反回神経を合併切除し,可能な限り反回神経を修復することが推奨される。
C2 術前反回神経麻痺を認めない場合は,議論はあるが術後の声帯の動きを維持しQOL を低下させないため反回神経を温存することが多い。
【背 景・目 的】

分化癌の反回神経浸潤例は,しばしば対応に苦慮することがある。反回神経に対し合併切除するか否かの適応に関し概説する。しかしながら過去の報告例でエビデンスは極めて少なく,甲状腺腫瘍診療ガイドライン委員の意見を含め検討した。

【解 説】

分化癌の反回神経浸潤例は,反回神経単独に分化癌が浸潤している場合と反回神経周囲の気管や食道にも浸潤が認められる場合がある。反回神経だけでなく周囲組織にも浸潤が認められる進行例では,反回神経を温存することが難しく,合併切除して甲状腺癌の遺残をなくすことが多い。他方,反回神経単独に分化癌が浸潤している場合は,術前の反回神経麻痺の存在の有無によって反回神経に対する対処が変わってくる。

(1) 術前反回神経麻痺を認める場合

甲状腺癌を完全に切除するため反回神経を合併切除することが多い。また切断した反回神経は可能な限り修復することが推奨される。

(2) 術前反回神経麻痺がない場合

術前反回神経麻痺のない反回神経浸潤分化癌の対処は,意見の分かれるところである。Nishida ら 1)は術前反回神経麻痺のない分化癌の反回神経浸潤例50 例の治療成績を報告している。23 例に反回神経温存,27 例に反回神経合併切除を施行したが術後生存率に有意差はなかった。またFalk ら 2)は反回神経浸潤を認めた24 例の治療成績を報告している。術前反回神経麻痺のあった5 例を含み完全切除した17 例と神経を温存した7例のうち,死亡例は完全切除例2 例,非完全切除例1 例で生存率に有意差はなかった。また,術前反回神経麻痺のなかった反回神経浸潤例19 例で比較しても同様であった。他方,山田ら 3)は反回神経浸潤した甲状腺分化癌のうち,顕微鏡下で神経温存が可能であった群と温存不能群との比較で,局所再発が温存不能群に多かったと報告している。

甲状腺腫瘍診療ガイドライン委員のアンケート集計では,術前反回神経麻痺を認めない場合は,術後の声帯の動きを維持しQOL を低下させないためできるだけ腫瘍を切除し,癌が少し残存しても反回神経の温存に努めるべきであるとの意見が多かった。また過去の報告 4)5)でも微小な癌は残存するが可能な限り神経温存を試みることを勧めている。反回神経を温存すると癌が遺残するので,甲状腺全摘術後,症例によっては外照射やアブレーションを追加することが望ましい。ただし,追加治療が奏効したエビデンスはまだない。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed, 医中誌およびJMEDPlus により以下のキーワード“recurrent nerve invasion(反回神経浸潤)”,“thyroid cancer(甲状腺癌)” をキーワードとして1998〜2008 年の論文を検索し重要なものを選択した。

参考:アンケート集計結果
「反回神経麻痺のない反回神経浸潤甲状腺癌の治療方針」

1.癌が少し残存してもQOL を考慮し切除しない。 75. 0%
2.予後が変わらないかもしれないが,嗄声が出現しても切除再建する。 0%
3.切除しないと予後が悪くなると考え,切除再建する。 6. 2%
4.その他 18. 8%
【参考文献】

1) Nishida T, Nakao K, Hamaji M, et al. Preservation of recurrent laryngeal nerve invaded by differentiated thyroid cancer. Ann Surg 1997;226:85-91.(RS)

2) Falk SA, McCaffrey TV. Management of the recurrent laryngeal nerve in suspected and proven thyroid cancer. Otolaryngol Head Neck Surg 1995;113:42-48.(RS)

3) 山田弘之,石田良治,中村 哲,他.甲状腺分化癌における反回神経浸潤の予後と定義の見直し. 日気食会報,2006;57:40-44.(RS)

4) 山崎眞一,露口 勝.反回神経に浸潤した甲状腺乳頭癌の手術治療の検討.日臨外会誌 2002;63:1857-1861.(RS)

5) Morton RP, Ahmad Z. Thyroid cancer invasion of neck structures:epidemiology, evaluation, staging and management. Curr Opin Otolaryngol Head Neck Surg 2007;15:89-94.(Others)


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CQ 46
反回神経再建で音声機能は回復するか?
推奨グレード
B 反回神経を再建しても声帯の動きは改善しないが,声帯内筋の萎縮を防止し発生機能は改善するとされており,できる限り同時に反回神経を修復することが推奨される。
【背 景・目 的】

分化癌の反回神経浸潤例で反回神経を合併切除しなければならない場合がある。反回神経合併切除後の反回神経再建に関して,音声機能の回復から概説する。

【解 説】

甲状腺腫瘍手術時,反回神経に浸潤があり反回神経を合併切除しなければならない症例がある。反回神経を合併切除後,反回神経を再建しても声帯の動きは改善しないが,声帯内筋の萎縮を防止し発生機能は改善するとされている。このため甲状腺癌手術において反回神経を合併切除した場合,できる限り同時に再建手術をすることが推奨される。反回神経の再建方法にはいろいろな方法がある。宮内ら 1)は①反回神経端々吻合,②遊離神経移植,②頸神経ワナ-反回神経吻合 2),③迷走神経-反回神経吻合と報告している。手術の詳細は成書に譲るが,神経再建の評価は最長発声持続時間(MPT)で判断する。宮内ら 1)によると反回神経麻痺の患者のMPT は健常者よりも短いが,なんらかの方法で反回神経を再建した症例では,術後1 年のMPT が声帯麻痺患者より有意に長い。また再建術後のMPT は,術後ある期間を超えると急激に延長すると報告している。その期間は端々吻合で平均67 日,頸神経ワナ-反回神経吻合では平均89 日,遊離神経移植で平均147 日,迷走神経-反回神経吻合で約12 カ月であった。また,さらに症例を追加して反回神経再建の有効性を報告している 3)。Ezaki ら 4)は反回神経端々吻合患者と非再建患者群を比較し,山田ら 5)は再建群と甲状腺軟骨形成術T型施行例を比較しているが,発声時間は神経再建群が延長していると報告している。Yumoto ら 6)は,主に大耳介神経間置法を用いた神経再建群と非再建群,披裂軟骨内転術を施行した3 群間を比較検討し,反回神経同時再建で良好な発声機能が得られることを報告している。

いかにmicrosurgery 下に反回神経を縫合しても神経過誤再生現象(misdirected regeneration)は避けることができず,神経縫合に否定的な意見もある。しかし牛尾 7)は甲状腺癌手術において,神経吻合で神経過誤再生現象が起こっても,反回神経内の神経線維は声帯内転筋3 個と外転筋1 個で声帯内転の傾向が強く,中間位固定が少なくなり,健側声帯の代償が起こりやすくなり,嗄声が改善すると推測し神経再建を積極的に試みるべきであるとしている。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌におよびJMEDPlus より以下のキーワード“recurrrent layngeal nerve paralysis(反回神経麻痺)”,“nerve reconstruction(nerve anastomosis)(神経縫合)” をキーワードとして1998〜2008 年の論文を検索し重要なものを選択した。

【参考文献】

1) Miyauchi A, Matsusaka K, Kihara M, et al. The role of ansa-to-recurrent-laryngeal nerve anastomosis in operations for thyroid cancer. Eur J Surg 1998;164:927-933.(RS)

2) Crumley RL. Update:ansa cervicalis to recurrent laryngeal nerve anastomosis for unilateral laryngeal paralysis. Larygoscope 1991;101:384-388.(RS)

3) Miyauchi A, Inoue H, Tomoda C, et al. Improvement in phonation after reconstruction of the recurrent laryngeal nerve in patients with thyroid cancer invading the nerve. Surgery 2009; 146:1056-1062.(RS)

4) Ezaki H, Ushio H, Harada Y, et al. Recurrent laryngeal nerve anastomosis following thyroid surgery. World J Surg 1982;6:342-346.(RS)

5) 山田弘之,宮村朋孝,福家智仁,他.甲状腺手術に必要な手技-反回神経即時再建-.頭頸部癌 2008;34:563-567.(RS)

6) Yumoto E, Sanuki T, Kumai Y. Immediate recurrent laryngeal nerve reconstruction and vocal outcome. Laryngoscope 2006;116:1657-1661.(RS)

7) 牛尾浩樹:反回神経麻痺の臨床的並びに実験的研究 第1編 臨床編(その1)甲状腺手術と反回神経 麻痺-特に神経縫合の意義について-.日外会誌 1981;82:22-33.(RS)


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CQ 47
気管浸潤例において気管環状切除は気管部分切除(楔型切除や窓状切除)に比べて生存率を高めるか?
推奨グレード
C2 気管に癌が浸潤している場合,気管環状切除とシェービングを含めた気管部分切除は,浸潤度合いにより外科医が判断するものであり,比較した報告はない。
【背 景・目 的】

甲状腺癌の気管浸潤例は,軽度浸潤の場合シェービングで切除し,外照射を追加する方法が報告されている。わが国の場合,ガイドライン委員にアンケート調査を行った結果(☞CQ48 参照),外照射を追加している施設は2/15(13. 3%)に過ぎない。中等度以上の浸潤に対しては,甲状腺全摘,気管合併切除,さらに放射性ヨード内用療法を追加する方法が推奨されるが,予後を比較した報告がないことと,わが国における放射性ヨード内用療法実施施設が少ない事情から,エビデンスとして提示できない。したがって,海外の過去の報告例の紹介と甲状腺腫瘍診療ガイドライン委員の意見を含め治療指針とした。

【解 説】

気管に癌が浸潤している場合,浸潤範囲と部位,深さが問題となる。シェービング切除の場合,断端に癌が遺残する可能性がある。浸潤範囲が広い場合や反回神経入口部や膜様部を含む浸潤の場合は楔型や窓状切除しても,縫合すると気管が変形,屈曲してしまうので,環状切除となる場合が多い。切除範囲が広く,縫合部位に長軸方向に緊張がかかる場合は,術後頸部を屈曲位に保つ必要がある。また,このような場合,反回神経を両側温存できる場合は少なく,1 本は温存できたとしても,手術操作や喉頭浮腫などにより,術後呼吸困難となる場合があり,術後緊急にあるいは術中予防的に気管切開などの処置が必要となる場合がある。

過去の報告例をみると,35 例の気管浸潤に対し,シェービング切除を行い,外照射を追加している。そのうち6 例に再発を認めた(17. 1%)が,再手術をして全例生存している。一方,気管合併切除した5 例のうち,5 年後に4 例は再発なく経過している。浸潤形式が粘膜面まで達している症例に気管合併切除されており,比較はできないが,どちらも成績はよい 1)

一方,文献2 では,1940 年からとかなり古い症例が含まれており,シェービング症例が多いが,切除症例34 例と不完全切除15 例も含まれている。当然不完全切除に終わった症例は浸潤範囲も広いので,予後が悪い。シェービング症例は浸潤の範囲も狭く,浅いので予後は良好である。同様の進行程度の症例で術式の優劣を比較するのは,臨床的には不可能である。

前述の報告例は,シェービングに外照射を追加しているが,シェービングのみの治療を報告しているものもある。文献3 では,1964 年からの症例の累積を報告しており,興味深い点は,気管合併切除症例の40%は以前にシェービング治療を受けていることである。再発が少ないとしている他の論文は外照射を追加しているためかと推察される。気管合併切除は再建できたものが69 例であり,残り13 例は永久気管瘻となっている。再手術も含め,すべてradical resection を行っているが,進行例が多く,10 年生存率も40%と低い。

以上まとめると,軽度浸潤例はシェービングのみでも治療が可能であるが,予後良好とする報告と外照射を追加しないと40%再発するという報告がある。ガイドライン委員のアンケート調査では,粘膜面まで達しない軽度・中等度浸潤においてシェービングのみで治療している施設が8/15(53. 3%)であり,初期治療として,過半数の施設がシェービングのみで外照射もしていないことが判明した。しかしながら文献3 の報告のとおり,手術のみで対処した進行例は10 年生存率40%であることも考慮すると,進行例および高リスク群では環状切除,部分切除いずれであっても根治手術を行ったうえで,放射性ヨード内用療法などの補助療法の追加が推奨される。さらに今後の報告を待ちたい。

【検索式・参考にした二次資料】

1998〜2008 年のPubMed,医中誌およびJMEDPlus でthyroid neoplasms(甲状腺癌), trachea(気管),surgery(気管環状切除)をキーワードとして検索した。

【参考文献】

1) MMcCarty TM, Kuhn JA, Williams WL Jr, et al. Surgical management of thyroid cancer invading the airway. Ann Surg Oncol 1997;4:403-408.(RS)

2) Czaja JM, McCaffrey TV. The surgical management of laryngotracheal invasion by well-differentiated papillary thyroid carcinoma. Arch Otolaryngol Head Neck Surg 1997;123:484- 490.(RS)

3) Gaissert HA, Honings J, Grillo HC, et al.:Segmental laryngotracheal and tracheal resection for invasive thyroid carcinoma. Ann Thorac Surg 2007;83:1952-1959.(RS)


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CQ 48
気管合併切除は非切除例に比べて生存率を高めるか?
推奨グレード
B 気管に癌が浸潤している場合の気管合併切除は,切除可能例を対象として,進行度,術者の経験や術後の QOL・予測される予後などを総合的に考慮し適応されるため,切除不能症例を多く含む非切除例より明らかに生存率が高い。
C1 切除可能症例に対し非切除とした場合の生存率を比較するデータは明らかでない。
【背 景・目 的】

気管合併切除の概要はCQ47 で述べたとおりであるが,分化癌の場合,取りきれれば予後はよいのは当然であるが,非切除例でもある程度の生存が期待できることが手術適応の判断を困難にしている。気管合併切除が合併症なく可能な場合は施行するのは当然推奨される。しかし,気管以外にも食道などの他臓器浸潤がある場合や切除そのものが広範囲で再建が困難であったり,縦隔内など位置的に切除が困難である場合においては,根治術を目指すか,姑息的な治療で現状のQOL 維持を図るかは意見の分かれるところである。甲状腺癌気管浸潤の頻度は稀であり,気管合併切除を数多く経験している施設も限られている。症例報告や数例報告を除き,5 年生存率,10 年生存率を報告したものを検索した結果が文献1〜7 である。これらの数少ない治療成績を報告し,ガイドライン委員の意見をもとに検討した。

【解 説】

文献1〜5 は同一施設の報告で対象症例も重複していることから,まとめて成績を紹介する。環状切除39 例の治療成績10 年生存率67. 7%,環状切除症例は24 例喉頭全摘8例の治療成績は5 年生存率53. 3%,非切除群10 例の5 年生存率は15%と低いが,低分化癌も含まれている。

文献6 はシェービング症例が多いが,切除症例34 例と不完全切除15 例も含まれている。当然不完全切除に終わった症例は浸潤範囲も広いので,予後が悪い。シェービング症例は浸潤の範囲も狭く,浅いので予後は良好である。同様の症例で比較するのは,臨床的には不可能である。

文献7 は単施設,ほぼ同一術者による研究で切除症例の10 年生存率は他の文献と比較して78. 1%は最もよい数字である。不完全切除症例は浸潤範囲も広いので,予後が悪く,10 年生存率24. 3%である。

以上をまとめると,気管合併切除の10 年生存率は67. 7〜78. 1%,喉頭全摘症例はそれよりも悪い。非切除症例は5 年生存率15%から10 年生存率24. 3%であるが,非切除症例は切除例よりも進行癌であるので比較は不可能である。したがって,エビデンスはないものの,これらの報告から気管合併切除が可能であった症例は予後がよいので,可能な限り,甲状腺全摘や放射性ヨード内用療法を行うことが推奨される。

ガイドライン委員の意見をまとめると,甲状腺分化癌の生物学的な悪性度の低いことから,気管浸潤症例に対しても,シェービングのみでも予後はあまり心配ないと考える。しかしながら,シェービングのみで切除できない場合,可能な限り根治術を目指すべきであるが,非切除症例の10 年生存率約20%を上回る効果とQOL の向上が見込まれる場合にのみ施行されるべきである。

ガイドライン委員のアンケート結果で,リスク分類を重要視,浸潤範囲により術式,外照射,放射性ヨード内用療法を考慮するという意見もあり,今後の報告を待ちたい。

【検索式・参考にした二次資料】

1998〜2008 年のPubMed,医中誌およびJMEDPlus でthyroid neoplasms(甲状腺癌),surgery(気管合併切除),survival rate(生存率)をキーワードとして検索した。

参考:アンケート集計結果
「粘膜まで達しない気管浸潤例に対する治療方針」

1.シェービングだけで外照射もしていない 53. 3%
2.シェービングと外照射をしている 13. 3%
3.粘膜面までしっかり切除している(楔型切除,環状切除) 6. 6%
4.甲状腺全摘+気管合併切除さらに放射性ヨード内用療法が望ましい 6. 6%
5.その他 20. 0%
【参考文献】

1) 中尾量保.進行甲状腺癌の取り扱い—局所浸潤例について.日気管食道会報 2001;52:133-136. (RS)

2) 中尾量保,藤田修弘,前田克昭,他.気道浸潤甲状腺癌の外科的治療.大阪警察病医誌 1989;13:25-30.(RS)

3) Nakao K, Kurozumi K, Nakahara M, et al. Resection and reconstruction of the airway in patients with advanced thyroid cancer. World J Surg 2004;28:1204-1206.(RS)

4) Nakao K, Kurozumi K, Fukushima S, et al. Merits and demerits of operative procedure to the trachea in patients with differentiated thyroid cancer. World J Surg 2001;25:723-727.(RS)

5) Nishida T, Nakao K, Hamaji M. Differentiated thyroid carcinoma with airway invasion:indication for tracheal resection based on the extent of cancer invasion. J Thorac Cardiovasc Surg 1997;114:84-92.(RS)

6) Czaja JM, McCaffrey TV. The surgical management of laryngotracheal invasion by well-differentiated papillary thyroid carcinoma. Arch Otolaryngol Head Neck Surg 1997;123:484- 490.(RS)

7) Ishihara T, Kobayashi K, Kikuchi K. Surgical treatment of advanced thyroid carcinoma invading the trachea. J Thorac Cardiovasc Surg 1991;102:717-720.(RS)


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コラム18 気管喉頭,食道,縦隔進展例に対する治療と管理方法
要旨
進行例で根治術を目指す場合,非切除症例の10 年生存率約20% 1)を上回る効果とQOL の向上が見込まれる場合にのみ施行されるべきである。気管喉頭,食道,縦隔進展例に対し,根治手術を施行した場合,多くは永久気管瘻となり,声を失い,入浴などに不便を伴いQOL の低下は明らかだからである。ガイドライン委員からは,リスク分類を重要視,浸潤範囲により術式,外照射,放射性ヨード内用療法を考慮するという意見もあり,今後の報告を待ちたい。
【解 説】

気管喉頭への浸潤に対しては,気管環状切除で再建できる場合はむしろ稀で,甲状軟骨に浸潤が及ぶ場合は喉頭全摘術ないしは喉頭部分切除となる場合が多い 2)。skin flapなどを用いて発声を可能にする術式 3)は,気道再建に卓越した頭頸部外科医に依頼したほうがよい。食道,縦隔進展例においても,気管浸潤を伴うことが多い。この場合,気道再建に難渋することがあり,永久気管瘻となる。さらに低い位置では胸骨上部を切除し,左鎖骨下動脈の尾側で気管瘻をつくるGrillo 手術 4)となる場合がある。

頸部食道の再建としては,浸潤範囲が広く粘膜面まで達している場合は,切除しても緊張や血流の問題で端々吻合は不可能なことが多く,遊離空腸再建が第一選択となる。ただし,食道浸潤は筋層までのことが多く,その場合筋層切除のみでよいが,切除部は術後食道憩室となることが多い。それでも嚥下困難などの臨床症状は通常出現しない。

【参考文献】

1) Ishihara T, Kobayashi K, Kikuchi K. Surgical treatment of advanced thyroid carcinoma invading the trachea. J Thorac Cardiovasc Surg 1991;102:717-720.(RS)

2) Nakao K, Kurozumi K, Fukushima S, et al. Merits and demerits of operative procedure to the trachea in patients with differentiated thyroid cancer. World J Surg 2001;25:723-727.(RS)

3) 小野 勇.甲状腺癌における周囲臓器合併切除,外科診療 1989;31:702-709.(Others)

4) Grillo HC. Terminal or mural tracheostomy in the anterior mediastinum. J Thorac Cardiovasc Surg 1966;51:422-427.(Others)


6. 分化癌術後経過観察・切除不能例の治療

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CQ 49
甲状腺分化癌術後のTSH 抑制療法は非実施に比べて予後を向上させるか?
推奨グレード
B 癌の残存が疑われる高リスク患者では,TSH 抑制により予後が向上するので,特別な禁忌がなければ血清TSH は0. 1 mU/ l より低く維持すべきである。
C1 再発リスクが低い患者では,TSH 抑制の意義は明らかでなく,副作用の観点から血中TSH は正常下限に維持するのがよい。
【背 景・目 的】

甲状腺分化癌は,甲状腺刺激ホルモン(TSH)依存性腫瘍であると考えられる。TSH抑制療法は, 術後内分泌療法として甲状腺ホルモン剤を十分量投与しnegative feedback により,脳下垂体からの甲状腺刺激ホルモン分泌を抑制して分化癌の再発を予防しようとするものである。実際に予後を向上させるか検証した。

【解 説】

甲状腺分化癌の術後に甲状腺ホルモンを投与してTSH を抑制する治療を全例に行うかは異論もある 1)。欧米では分化癌に対し,甲状腺全摘術に放射性ヨードによるアブレーションを加えるのが標準であり,一生涯甲状腺ホルモンを投与する。一方,わが国では分化癌に葉切除などの縮小手術が行われることが多く,甲状腺機能が正常に保たれている症例では,甲状腺ホルモン投与が行われない場合も多い。

欧米における主に後ろ向き解析による10 の臨床試験のメタアナリシスによれば,TSH 抑制療法は分化癌の再発リスクを28%減少させた 2)。血中TSH の値については,0. 4 mU/l 以下と以上では2 群間に再発率,甲状腺癌死率に有意差がなかったのに対し,2 mU/l 以下と以上では,2 mU/l 以上の群で有意に再発も甲状腺癌死率も高いという報告がある 3)。癌の残存が疑われる患者では,血中TSH は測定感度(0. 1 mU/l) 以下となるように低く抑制することが推奨される。

しかながら,甲状腺ホルモンの長期投与による副作用として骨粗鬆症や不整脈すなわち心房細動や虚血性心疾患のリスク増加が報告されており,特に高齢者では慎重投与が望まれる。再発リスクが低い患者においては,甲状腺ホルモンの長期投与の必要性について意見が分かれる 4)5)。ATA のガイドラインでも低リスク患者では血中TSH は正常下限(0. 3-2 mU/l)に維持することが勧告されている 6)

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。また,二次資料としてAmerican Thyroid Association のガイドライン2006 年版を参考にした。

【参考文献】

1) 宮川めぐみ.TSH 抑制療法は有効か.日臨 2007;65:2073-2077.(NR)

2) McGriff NJ, Csako G, Gourgiotis L, et al. Effects of thyroid hormone suppression therapy on adverse clinical outcomes in thyroid cancer. Ann Med 2002;34:554-564.(SR〈RCT〉)

3) Hovens GC, Stokkel MP, Kievit J. Associations of serum thyrotropin concentrations with recurrence and death in differentiated thyroid cancer. J Clin Endocrinol metab 2007;92:2610- 2615.(RS)

4) Cooper DS, Bonny S, Ho M, et al. Thyrotropin suppression and disease progression patients with differentiated thyroid cancer:results from the national thyroid cancer treatment cooperative registry. Thyroid 1998;8:737-744.(PS)

5) Biondi B, Filwtti S, Schlumgerger M. Thyroid-hormone therapy and thyroid cancer:a reassessment. Nature Clinical Practice 2005;1:32-40.(NR)

6) Cooper DS, Doherty GM, Haugen BR, et al. Management guidelines for patients with thyroid nodules and differentiated thyroid cancer. Thyroid 2006;16:109-142.(Others)


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CQ 50
甲状腺癌術後経過観察に血中サイログロブリン測定は再発マーカーとして有用か?
推奨グレード
A 甲状腺全摘術を受けた患者で,抗サイログロブリン抗体を同時に測定して陰性である場合,血中サイログロブリン測定は再発マーカーとして有用である。
C2 葉切除などの縮小手術後症例では,再発マーカーとしての有用性は明らかでない。
【背 景・目 的】

サイログロブリンは,甲状腺ホルモン合成に不可欠な甲状腺濾胞内コロイドの主成分である。健常者の血中サイログロブリン値は30 ng/ml であるが,甲状腺を全摘出し甲状腺組織が体内に残存しなければ0 に近くなる。分化癌術後の血中サイログロブリン測定は再発マーカーとして有用か検証した。

【解 説】

生体内でサイログロブリンを産生するのは甲状腺のみであるので,甲状腺分化癌症例で甲状腺全摘後に血中サイログロブリンが上昇すれば再発を疑うことができる 1)。しかし,亜全摘以下の手術で甲状腺が残存している場合は,正常甲状腺由来のサイログロブリンが血中に存在するので再発マーカーとしての有用性は低い。また,サイログロブリン測定には免疫学的測定法を用いるため,抗サイログロブリン自己抗体を持っている主に慢性甲状腺炎を合併した患者では正確な測定ができない。したがって,甲状腺全摘術または甲状腺準摘術とラジオアイソトープによる残存甲状腺アブレーションを受けた患者で,抗サイログロブリン抗体を同時に測定して陰性である場合に限り,血中サイログロブリン測定は優れた再発マーカーである 2)〜4)

ATA のガイドラインでは,甲状腺全摘術または甲状腺準摘術とラジオアイソトープによる残存甲状腺アブレーションを受けた患者は,甲状腺ホルモン投与中の血清サイログロブリン値が1 ng/ml 未満の場合でも,リコンビナントTSH 投与か甲状腺ホルモン中止による内因性TSH 刺激によるサイログロブリン値測定を施行し,2 ng/ml より低ければ経過観察とし,それ以上であれば胸部CT 検査や頸部超音波検査が推奨される 5)。TSH 刺激下における血中サイログロブリン値のカットオフを10 ng/ml としたとき,再発の感度は100%,特異度93%との報告がある 6)

分化癌症例で甲状腺全摘を施行した患者では,4 〜6 カ月ごとの抗サイログロブリン抗体同時測定と血中サイログロブリン測定が術後経過観察として推奨される。

一方,葉切除などの縮小手術後症例では,残存甲状腺組織の影響により,血清サイログロブリン値と再発の関連性の評価は困難である。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。また二次資料としてAmerican Thyroid Association のガイドライン2006 年版を参考にした。

【参考文献】

1) 高見 博.臨床検査,診断に用いる腫瘍マーカー.癌と化療 2005;32:561-565.(NR)

2) Hamy A, Mirallie E, Bennouna J, et al. Thyroglobulin monitoring after treatment of well-differentiated thyroid cancer. Eur J Surg Oncol 2004;30:681-685.(RS)

3) Mazzaferri EL, Robbins RJ, Spencer CA, et al. A consensus report of the role of serum thyroglobulin as a monitoring method for low-risk patients with papillary thyroid carcinoma. J Clin Endocrinol Metab 2003;88:1433-1441.(SR〈RCT〉)

4) Spencer CA, Takeuchi M, Kazarosyan M, et al. Serum thyroglobulin autoantibodies: prevalence, influence on serum thyroglobulin measurement, and prognostic significance in patients with differentiated thyroid carcinoma. J Clin Endocrinol Metab 1998;83:1121-1127.(SR〈RCT〉)

5) Cooper DS, Doherty GM, Haugen BR, et al. Management guidelines for patients with thyroid nodules and differentiated thyroid cancer. Thyroid 2006;16:109-142.(Others)

6) Heemstra KA, Liu YY, Stokkel M, et al. Serum thyroglobulin concentrations predict disease-free remission and death in differentiated thyroid carcinoma. Clin Endocrinol 2007;66:58-64.(RS)


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CQ 51
髄様癌術後に血中カルシトニンおよびCEA 測定は再発マーカーとして有用か?
推奨グレード
A 甲状腺髄様癌術後の経過観察に血中カルシトニン測定はCEA測定とともに極めて優れた再発マーカーとして有用である。
【背 景・目 的】

甲状腺髄様癌は,甲状腺C 細胞由来の腫瘍であり,甲状腺C 細胞はカルシトニンを分泌する細胞で髄様癌細胞もカルシトニンを分泌するため,カルシトニンが再発マーカーとなるか,また,同様にCEA についても検証した。

【解 説】

カルシトニンとCEA は臨床的に極めて有用な甲状腺髄様癌の腫瘍マーカーである。術後の血中カルシトニン測定による経過観察の結果,カルシトニンdoubling times(DT)が6 カ月未満では5 年生存率25%,10 年生存率8%,DT が6 カ月〜2 年では5 年生存率92%,10 年生存率37%,DT が2 年以上では全例生存との報告がある 1)。また,術後の血中CEA 測定については,CEA level が30. 0 ng/ml 以上ではリンパ節転移が,100. 0 ng/ml 以上では遠隔転移が考えられる 2)

甲状腺髄様癌の術後検査として,6 カ月に1 度,血中カルシトニンおよびCEA を測定することは再発マーカーとして有用である。これらが上昇した場合,再発を疑って画像診断による検査を施行すべきである。

逆に画像検査等で術後の微小な遺残・再発が疑われる患者で血中カルシトニンの基礎値が正常域であった場合,カルシウムを分泌刺激剤として用いる負荷試験でカルシトニン値が上昇すれば髄様癌の再発と診断できる 3)4)

甲状腺髄様癌以外で血清カルシトニンが上昇する病態として,肺小細胞癌,さまざまな神経内分泌腫瘍,慢性腎不全,Zollinger’s syndrome,膵炎などがある 5)

なお,わが国と欧米ではカルシトニン測定のアッセイ法が異なるため基準値・正常値が異なる 6)

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。また,二次資料としてAmerican Thyroid Association のガイドライン2006 年版を参考にした。

【参考文献】

1) Barbet J, Campion L, Kraeber-Bodere F, et al. Prognostic impact of serum calcitonin and carcinoembyonic antigen doubling times in patients with medullary thyroid carcinoma. J Clin Endocrinol Metab 2005;90:6077-6084.(RS)

2) Machens A, Ukkat J, Hauptmann S, et al. Abnormal carcinoembryonic antigen levels and medullary thyroid cancer progression:a multivariate analysis. Arch Surg 2007;142:289-293. (RS)

3) de Groot JW, Kema IP, Breukelman H, et al. Biochemical markers in the follow-up of medullary thyroid cancer. Thyroid 2006;16:1163-1170.(PS)

4) Elisei R, Bottici V, Luchetti F, et al. Impact of routine measurement of serum calcitonin on the diagnosis and outcome of medullary thyroid cancer: experience in 10, 864 patients with nodular thyroid disorders. J Clin Endocrinol Metab 2004;89:163-168.(RS)

5) Elisei R. Routine serum calcitonin measurement in the evaluation of thyroid nodules. Best Pract Res Clin Endocrinol Metab 2008;22:941-951.(NR)

6) 高見 博.甲状腺癌,特集:コンセンサス腫瘍マーカー.コンセンサス癌治療 2007;6:120-122. (NR)


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CQ 52
術後カルシトニンが上昇した髄様癌症例で,再発部位を検出する有用な画像診断法は何か?
推奨グレード
B 頸部病変の検出には超音波検査や造影CT,肺/ 縦隔病変は造影CT,腹部(肝転移)には造影CT またはMRI,骨病変には骨シンチグラフィを行う。これらの画像診断法の感度は50〜80%である。
C1 FDG-PET/CT の有用性については評価が定まっていない。現時点では,ルーチン検査としてではなく,標準的画像診断法の補助として行うことが望ましい。
【背 景・目 的】

血清カルシトニン値は甲状腺髄様癌の優れた腫瘍マーカーであり,術後カルシトニンの上昇は再発が示唆される。このような場合の再発部位を検出する有用な画像診断法について検証した。

なお,欧米でのカルシトニン測定はimmunoradiometric assay(IRMA)やimmunoluminometric assay(ILMA)が中心であり,両者は良好な相関を示し,正常上限は10 pg/ml に設定されていることが多い。一方,わが国ではradioimmunoassay(RIA)が使用されており,上限値はおよそ100 pg/ml である。このため,日本と欧米のカルシトニンの数値を一概に比較できない。

【解 説】

血清カルシトニン値が150 pg/ml(IRMA 法)未満の上昇では,再発部位は頸部に限局した病変のことが多いため,超音波検査が推奨されている 1)。1 cm3 の髄様癌は血清カルシトニン1000 pg/ml(RIA法)に匹敵するといわれており,カルシトニン上昇が軽度の段階では,たとえ遠隔転移があっても微小病変であることから,画像診断による局在は困難である。

一方,カルシトニンが150 pg/ml (IRMA 法)以上の場合には,頸部や縦隔だけでなく,肺・肝・骨などの遠隔転移の可能性を考慮する必要がある 2)。頸部病変の検出は,超音波検査や造影CT により行われるが,感度は超音波検査のほうが優れると報告されている 3)。肺転移や縦隔リンパ節転移の検出は,造影CT により行われる。肝転移については,超音波検査や造影CT,造影MRI により検索されるが,感度はCT とMRI がやや優れる 3)。骨転移の検出には,骨シンチグラフィが施行され,転移が疑われる病変についてはMRI を行う 4)

近年,FDG-PET/CT と上記の標準的画像診断法を比較した報告がみられるが,評価はさまざまである。感度が低いとの報告 3)5)がある一方,超音波検査やCT,MRI で描出できなかった病変を検出可能であり 6)7),特に頸部および縦隔リンパ節転移の描出に優れる 8)との報告もある。現時点では,ルーチン検査としてではなく,標準的画像診断法の補助として行うことが望ましい 9)

その他の核医学検査として,131Ⅰ-metaiodobenzylguanidine(MIBG)8),わが国では未承認であるが,99 mTc(V)-dimercaptosuccinic acid(DMSA)9)10)11 In-octreotide 5)111 In-pentetreotide 7)9)などを標準的画像診断法と比較した報告がみられるが,いずれも感度が低く,施行する意義は少ない。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。また,Medullary Thyroid Cancer:Management Guidelines of the AmericanThyroid Association. 2009 1) を参考資料として使用した。

【参考文献】

1) Kloos RT, Eng C, Evans DB, et al. Medullary thyroid cancer:management guidelines of the American Thyroid Association. Thyroid 2009;19:565-612.(Others)

2) Machens A, Schneyer U, Holzhausen HJ, et al. Prospects of remission in medullary thyroid carcinoma according to basal calcitonin level. J Clin Endocrinol Metab 2005;90:2029-2034. (RS)

3) Giraudet AL, Vanel D, Leboulleux S, et al. Imaging medullary thyroid carcinoma with persistent elevated calcitonin levels. J Clin Endocrinol Metab 2007;92:4185-4190.(PS)

4) Mirallie E, Vuillez JP, Bardet S, et al. High frequency of bone/bone marrow involvement in advanced medullary thyroid cancer. J Clin Endocrinol Metab 2005;90:779-788.(RS)

5) Gotthardt M, Battmann A, Hoffken H, et al. 18 F-FDG PET, somatostatin receptor scintigraphy, and CT in metastatic medullary thyroid carcinoma:a clinical study and an analysis of the literature. Nucl Med Commun 2004;25:439-443.(RS)

6) Iagaru A, Masamed R, Singer PA, et al. Detection of occult medullary thyroid cancer recurrence with 2-deoxy-2-[F-18]fluoro-D-glucose-PET and PET/CT. J Clin Endocrinol Commun 2007; 9;72-77.(RS)

7) Rubello D, Rampin L, Nanni C, et al. The role of 18 F-FDG PET/CT in detecting metastatic deposits of recurrent medullary thyroid carcinoma:a prospective study. Eur J Surg Oncol 2008;34:581-586.(PS)

8) Szakall S Jr, Esik O, Bajzik G, et al. 18 F-FDG PET detection of lymph node metastases in medullary thyroid carcinoma. J Nucl Med 2002;43:66-71.(PS)

9) Diehl M, Risse JH, Brandt-Mainz K, et al. Fluorine-18 fluorodeoxyglucose positron emission tomography in medullary thyroid cancer:results of a multicentre study. Eur J Nucl Med 2001;28:1671-1676.(RS)

10) Ugur O, Kostakoglu L, Guler N, et al. Comparison of 99 mTc(V)-DMSA, 201 Tl and 99 mTc-MIBI imaging in the follow-up of patients with medullary carcinoma of the thyroid. Eur J Nucl Med 1996;23:1367-1371.(RS)


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CQ 53
進行甲状腺癌に対する化学療法は有用か?
推奨グレード
C2 制御不能の甲状腺分化癌に対するドキソルビシンの奏効率は5 〜30%であるが,生存期間を延長するかは明らかでない。他の化学療法についての報告はほとんどない。
【背 景・目 的】

甲状腺分化癌の標準治療は外科手術であり,遠隔転移を有する患者には,術後に放射性ヨード内用療法が検討される。また,内用療法が奏効しない病変でも,進行は緩徐であることが多い。一方,制御困難な進行性病変を有する患者も少数ながら存在し,このような場合の化学療法の有用性について検証した。

【解 説】

甲状腺分化癌に対する化学療法の報告は少ないうえ,その大部分は後ろ向き研究である。また,術後補助化学療法の有用性についての報告はない。化学療法の対象は,手術や放射性ヨード内用療法で制御不能かつ進行性の病変を有する症例に限定されており,日本からの報告はないものの,欧米からはドキソルビシンに関する成績が報告されている。ドキソルビシンの奏効率は5 〜30%と差がみられるが 1)〜3),いずれも効果は一時的であり,明らかな生存期間の延長は示されていない。ドキソルビシン単剤とドキソルビシン+シスプラチン併用療法のランダム化比較試験では,奏効率に差がないものの,併用群にはCR がみられた。しかし,有害事象は有意に併用群に多く発生した 3)。また,ドキソルビシンにインターフェロンαを併用した後ろ向き研究では,ドキソルビシン単剤と比較して副作用が増加するだけで奏効率に差はなかった 4)。一方,ドキソルビシン以外の薬剤では,エトポシドの前向き研究が報告されているが,全例がPD となり研究は途中で中止されている 5)

以上より,分化癌に対する化学療法としてドキソルビシンの報告はみられるものの,奏効率は低く,生存期間の延長も示されていないため,有用性は乏しいと判断される。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。

【参考文献】

1) Matuszczyk A, Petersenn S, Bockisch A, et al. Chemotherapy with doxorubicin in progressive medullary and thyroid carcinoma of the follicular epithelium. Horm Metab Res 2008;40:210- 213.(RS)

2) Droz JP, Schlumberger M, Rougier P et al. Chemotherapy in metastatic nonanaplastic thyroid cancer:experience at the Institut Gustave-Roussy. Tumori 1990;76:480-483.(RS)

3) Shimaoka K, Schoenfeld DA, DeWys WD, et al. A randomized trial of doxorubicin versus doxorubicin plus cisplatin in patients with advanced thyroid carcinoma. Cancer 1985;56:2155-2160.(RCT)

4) Argiris A, Agarwala SS, Karamouzis MV, et al. A phase Ⅱ trial of doxorubicin and interferon alpha 2b in advanced, non-medullary thyroid cancer. Invest New Drugs 2008;26:183-188.(RS)

5) Leaf AN, Wolf BC, Kirkwood JM, et al. Phase Ⅱ study of etoposide(VP-16)in patients with thyroid cancer with no prior chemotherapy:an Eastern Cooperative Oncology Group Study (E1385). Med Oncol 2000;17:47-51.(PS)


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CQ 54
局所・リンパ節再発および骨転移に対するPEITは有効か?
推奨グレード
C1 局所・リンパ節再発および骨転移に対するPEIT は有効である可能性がある。
【背 景・目 的】

甲状腺分化癌の局所・リンパ節再発や骨転移に対する経皮的エタノール注入療法(percutanous ethanol injection therapy;PEIT)は以前より試みられている治療法である。本項ではその有用性について検証する。

【解 説】

甲状腺分化癌の局所・リンパ節再発に対するPEIT の報告は以前よりいくつかみられている。しかし,そのすべてはケースシリーズであり,ランダム化比較試験を含め統計処理がなされたような系統的な試験や報告は皆無である。そのため明らかなエビデンスレベルを伴って有効性を検証する手立てはない。

ただし,その症例の詳細をみると,どれもすでに手術・アイソトープ・放射線治療が施行されており,再度そのどれかを試みることが無意味であることが明白なものが大半を占めている。また,高齢・全身合併症などで全身状態不良であるケースも多く含まれている。その報告例の集積ではどれも縮小効果は高く,超音波誘導下に行い,反回神経等の障害に注意を払えば,痛みなどを除き致命的な有害事象はあまりなく,ほかに有効な手段がないか全身状態が不良な場合には有効な手段である可能性がある 1)〜4)

甲状腺分化癌骨転移に対するPEIT もほぼ同様の状況である。しかも,報告の多くは放射性ヨードとの併用であり,PEIT と放射性ヨードのランダム化比較試験のようなものは見受けられなかった。放射性ヨード併用を除いた,PEIT 単独治療または放射性ヨード抵抗性のものに対するPEIT 治療の報告は数少ないが,有効であるとの記載であった 5)6)

以上より甲状腺分化癌局所・リンパ節再発,骨転移に対してのPEIT は明らかに有効であるというエビデンスは存在しなかった。しかしほとんどの文献でかなりの効果の記載があり,放射性ヨード抵抗性のものや手術困難例,全身状態不良例には有効であるという結論であることより,合併症に注意を行えば選択に耐え得る治療方法となり得る。

【検索式・参考にした二次資料】

PubMed,医中誌およびJMEDPlus により別に示す検索式から得られた文献のうち重要なものを選択した。さらに選択された論文からのrelated articles のハンドサーチから重要な論文を追加した。また,二次資料としてAmerican Thyroid Association のガイドライン2006 年版を参考にした。

【参考文献】

1) Kim BM, Kim MJ, Kim EK, et al. Controlling recurrent papillary thyroid carcinoma in the neck by ultrasonography-guided percutaneous ethanol injection. Eur Radiol 2008; 18:835-842.(RS)

2) 横沢 保.甲状腺癌のPEIT(経皮的エタノール注入療法).ホルモンと臨 2000;48:335-338.(RS)

3) Lewis BD, Hay ID, Charboneau JW, et al. Percutaneous ethanol injection for treatment of cervical lymph node metastases in patients with papillary thyroid carcinoma. AJR Am J Roentgenol 2002; 178:699-704.(RS)

4) Lim CY, Yun JS, Nam KH, et al. Percutaneous ethanol injection therapy for locally recurrent papillary thyroid carcinoma. Thyroid 2007;17:347-350.(RS)

5) Nakada K, Kasai K, Watanabe Y, et al. Treatment of radioiodine-negative bone metastasis from papillary thyroid carcinoma with percutaneous ethanol injection therapy. Ann Nucl Med 1996; 10:441-444.(CaseR)

6) 中駄邦博.甲状腺分化癌骨転移に対するエタノール注入療法(PEIT).核医 1997;34:680.


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CQ 55
甲状腺癌治療として補完代替治療法は有効か?
推奨グレード
C3 甲状腺癌の進行抑制や延命効果のある補完代替治療法は存在せず行うべきでない。
【背 景・目 的】

癌患者における補完代替療法は海外でも,国内でも広く利用されている。海外での利用は標準的な癌治療に伴う有害事象や疼痛などの症状緩和や心理的不安の軽減などを目的にしているのに対し,わが国では癌に対する直接的に進行抑制や延命効果を期待して利用していることが多い。問題はその国内の利用者の大半が,十分な情報収集や専門医師への相談を行わず,広告媒体や周囲の人からの勧めをもとに利用している状況である。専門医はこのような状況を放置してはならず,補完代替治療法に関する科学的な知識を持つ必要がある。

【解 説】

補完代替療法は大まかに次の5 つに分類される。①代替医療システム(伝統医学系統,民族療法,東洋医学など),②エネルギー療法(気功,レイキなど),③肉体的療法(カイロプラクティック,マッサージ療法など),④精神・心体介入(精神療法,催眠,瞑想など),⑤薬物学・生物学に基づく療法(漢方,サメ軟骨,アガリクス,食事療法,免疫療法などの先端医療も含まれる)。

現在までに甲状腺癌の補完代替治療法に関して論文発表されたランダム化比較試験はなく,その他有用性を明らかにしたものもない。乳癌などでは,化学療法の吐き気を軽減するもの,痛みや不安を取り除くものでランダム化比較試験により容認されるものは存在するが,甲状腺癌に対するそれらのものも確認されない。

患者同士や家族からの情報でヨード摂取,特にヨード含有量が多い昆布の摂取が甲状腺癌の進行再発に影響を与えるといった話を耳にする。過去の論文で長期的なヨード摂取が甲状腺癌の発生率や組織型の頻度に影響しているといった報告はみられるが 1)2),甲状腺癌の進行抑制や延命効果に関するエビデンスを示したものは存在しないため患者への説明が必要となる。

【検索式・参考にした二次資料】

日本乳癌学会編:乳癌診療ガイドライン[1] 薬物療法2007 年版,金原出版,2007 を参考にした。

【参考文献】

1) Riccabona G, Ladurner D, Steiner E. Changes in thyroid surgery during iodine prophylaxis of endemic goiter. World J Surg 1983;7:195-200.

2) Williams ED, Doniach I, Bjarnason O, et al. Thyroid cancer in an iodine rich area:a histopathological study. Cancer 1977;39:215-222.


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コラム19 甲状腺分化癌の術後経過観察は何年行えばよいか?
要旨
甲状腺分化癌の術後経過観察は最低でも10 年,可能であれば20年以上できるだけ長期に行うことが望ましい。
【解 説】

甲状腺分化癌は非常に予後が良好で経過が長いのは周知の事実である。では,この甲状腺分化癌の術後経過観察を行うには果たして何年くらい行えばよいのだろうか。文献では欧米においてもわが国においても実に数十年の単位でのフォローアップを報告したものも見受けられる 1)〜3)。ところが,何年フォローすべきか,といったことに言及した論文はいまだ皆無である。代表的なガイドラインであるATA やETA にも明確な記載は存在しない。

しかし,日常診療において生命予後および再発予後において低リスク群で,しかも現在再発の兆候のない患者に対して通院をいつ打ち切るかは意外と難しい問題である。術後甲状腺機能低下に陥ったケースでは一生涯定期的に通院せざるを得ないため,必然的に恒久的な術後経過観察も行うことになる。では,術後甲状腺機能が正常で,TSH 抑制もする必要のないケースでは,何年くらいで終診にすればよいか。この答えを導き出す手立てはないと判断し,当ガイドライン作成委員会では委員にアンケートを依頼,その集計結果をもって,この疑問に対する答えの参考としていただくことにした。

アンケートの結果を大まかにまとめると,約半数は20 年以上できるだけ長期に,残りの半数は10 年位をめどに行うというようなものであった。

これより,「甲状腺分化癌の術後経過は最低でも10 年,可能であれば20 年以上できるだけ長期に行う」という答えとなるであろうか。

参考:アンケート集計結果
「甲状腺分化癌の術後観察は何年行えばよいか」(回答16 名)

1.5年未満 0%
2.6〜10 年 25%
3.11〜15 年 12. 5%
4.15〜20 年 18. 7%
5.20年以上 43. 8%
【検索式・参考にした二次資料】

米国甲状腺学会(ATA),欧州甲状腺学会(ETA) ガイドラインを参考にした。

【参考文献】

1) Mittendorf EA, Wang X, Perrier ND, et al. Followup of patients with papillary thyroid cancer:in search of the optimal algorithm. J Am Coll Surg 2007;205(2):239-247.

2) Fujimoto Y, Sugitani I. Postoperative prognosis of intrathyroidal papillary thyroid carcinoma:long-term(35-45 year)follow-up study. Endocr J 1998;45(4):475-484.

3) Noguchi S, Yamashita H, Murakami N, et al. Small carcinomas of the thyroid. A long-term follow-up of 867 patients. Arch Surg 1996;131(2):187-191.