リンパ浮腫 〜診療ガイドライン

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目次:


リンパ浮腫診療ガイドラインの外部評価

本ガイドライン作成過程の妥当性,および診療への適応の可能性に関して,外部評価を行った。

外部評価委員は,本ガイドライン作成後に組織され,ガイドライン作成に直接かかわっていない,リンパ浮腫を生じ得る疾患領域の専門医,看護師,理学療法士と,患者会の代表(非医療者)を含む計8 名によって構成された(表1)。

表1 リンパ浮腫診療ガイドライン評価委員会
名前(敬称略・順不同) 所属機関名 科・職名
光嶋  勲(医師) 東京大学医学部附属病院 形成外科・美容外科教授
田中 嘉雄(医師) 香川大学医学部 形成外科・美容外科教授
嘉村 敏治(医師) 久留米大学医学部 産婦人科学講座教授
岩瀬 拓士(医師) がん研究会有明病院 乳腺センター長 兼 乳腺外科部長
小松 浩子(看護師) 慶應義塾大学 看護医療学部教授
真田 弘美(看護師) 東京大学医学部 健康総合科学科教授
高倉 保幸(理学療法士) 埼玉医科大学 保健医療学部理学療法学科教授
内田 絵子 NPO 法人ブーゲンビリア 乳がん患者団体理事長(非医療者)

評価は,AGREE(Appraisal of Guidelines for Research) 1), Shaneyfelt 2), COGS(Conference on Guideline Standardization) 3)の3 種のツールを用いて行われ,それぞれの結果を集計,分析した。それぞれの調査票を示す(表2〜4)。

表2 AGREE の調査票
対象と目的
1 ガイドライン全体の目的が具体的に記載されている。 4 3 2 1
2 ガイドラインで取り扱う臨床上の問題が具体的に記載されている。 4 3 2 1
3 どのような患者を対象としたガイドラインであるかが具体的に記載されている。 4 3 2 1
利害関係者の参加
4 ガイドライン作成グループには,関係するすべての専門家グループの代表者が加わっている。 4 3 2 1
5 患者の価値観や好みが十分に考慮されている。 4 3 2 1
6 ガイドラインの利用者が明確に定義されている。 4 3 2 1
7 ガイドラインの想定する利用者で既に試行されたことがある。 4 3 2 1
作成の厳密さ
8 エビデンスを検索するために系統的な方法が用いられている。 4 3 2 1
9 エビデンスの選択基準が明確に記載されている。 4 3 2 1
10 推奨を決定する方法が明確に記載されている。 4 3 2 1
11 推奨の決定にあたって,健康上の利益,副作用,リスクが考慮されている。 4 3 2 1
12 推奨とそれを支持するエビデンスとの対応関係が明確である。 4 3 2 1
13 ガイドラインの公表に先立って,外部審査がなされている。 4 3 2 1
14 ガイドラインの改訂手続きが予定されている。 4 3 2 1
明確さと提示の方法
15 推奨が具体的であり,曖昧でない。 4 3 2 1
16 患者の状態に応じて,可能な他の選択肢が明確に示されている。 4 3 2 1
17 どれが重要な推奨か容易に見分けられる。 4 3 2 1
18 利用のためのツールが用意されている。 4 3 2 1
適用可能性
19 推奨の適用にあたって予想される制度・組織上の障碍が論じられている。 4 3 2 1
20 推奨の適用に伴う付加的な費用(資源)が考慮されている。 4 3 2 1
21 ガイドラインにモニタリング・監査のための主要な基準が示されている。 4 3 2 1
編集の独立性
22 ガイドラインは編集に関して資金源から独立している。 4 3 2 1
23 ガイドライン作成グループの利害の衝突が記載されている。 4 3 2 1
24 あなたはこれらのガイドラインを診療に用いることを推奨しますか? 4 3 2 1
表3 Shaneyfelt の調査票

評価項目

Yes/No

ガイドラインの作成方法と様式について
1 ガイドラインの目的が明確に述べられている Y/N
2 ガイドラインの作成理由と基本原理,重要性が記載されている Y/N
3 ガイドライン作成委員とその専門分野が記載されている Y/N
4 対象となるテーマ(健康問題,医療技術など)が明確に定義されている Y/N
5 対象となる患者集団が特定されている Y/N
6 想定している読者,使用者が特定されている Y/N
7 診断や治療,予防に関する選択肢が利用可能で主要なものを網羅している Y/N
8 予期される健康上のアウトカムが記載されている Y/N
9 作成したガイドラインの外部評価の結果が記載されている Y/N
10 有効期限若しくは改訂の予定を記載している Y/N
エビデンスの検索・要約について
11 エビデンスの検索方法を明示している Y/N
12 どの時期(期間)のエビデンスを検索したのかを記載している Y/N
13 エビデンスを引用し,参考文献として列挙している Y/N
14 データを抽出した方法を示している Y/N
15 エビデンスのグレードのつけ方,分類方法を記載している Y/N
16 エビデンスや専門家の意見をフォーマルな方法で統合し,その方法を記載している Y/N
17 診療行為の利得と害を記載している Y/N
18 利得と害が定量的に記載されている Y/N
19 診療行為のコストへの影響が記載されている Y/N
20 コストが定量的に示されている Y/N
勧告の作成方法について
21 勧告を作成する際の価値判断が明示されている Y/N
22 患者の意向が考慮されている Y/N
23 勧告が具体的で,ガイドラインの目的に沿っている Y/N
24 勧告がエビデンスの質に応じてグレード付けされている Y/N
25 勧告が柔軟性のある内容となっている Y/N
表4 COGS の調査票

評価項目

Yes/No

1 概観資料 ガイドラインの公開の日付,状態(初公開,改訂,更新),印刷・電子媒体についての情報を含む構造化抄録の提示。 Y/N
2 焦点 ガイドラインを扱う主な疾患/病気,介入/サービス/技術についての記載。開発中に考慮したあらゆる代替となる予防的・診断的・治療的介入を示すこと。 Y/N
3 目標 そのトピックについてガイドラインを作成する理由を含む,ガイドラインの到達目標についての記載。 Y/N
4 ユーザー/環境 ガイドラインの対象とするユーザー(医療提供者の種類,患者など)とガイドラインが使用されることを企図している環境についての記載。 Y/N
5 標的とする集団 ガイドラインの勧告に的確な患者集団の記載と,除外基準の羅列。 Y/N
6 作成者 ガイドライン作成の責任を持つ組織,ガイドライン作成に関わる個人の名前/身分/潜在的な利益相反を明らかにすること。 Y/N
7 資金源/スポンサー 資金源/スポンサーを明らかにし,ガイドラインの作成および/もしくは報告におけるそれらの役割の記載,潜在的な利益相反についての開示。 Y/N
8 エビデンスの集積 検索の範囲とした期間,検索を行ったデータベース名,検索されたエビデンスを篩に掛けるのに用いた基準を含む,科学的文献を検索するために用いた方法についての記載。 Y/N
9 勧告のグレーディングの基準 勧告を支持するエビデンスの質を評価するのに用いられた基準と,勧告の強さを記載するのに用いられたシステムについての記載。勧告の強さは,勧告を遵守することの重要性と関連しており,エビデンスの質と予想される利益や害の大きさの両方に基づいている。 Y/N
10 エビデンスの合成の方法 勧告を作成するためにエビデンスがどのように用いられたのか(エビデンス・テーブル,メタ分析,判断分析など)についての記載。 Y/N
11 正式公開に先立ってのレビュー 公開に先立って,ガイドラインの作成者がどのようにそのガイドラインを検討し,テストしたのかについての記載。 Y/N
12 更新の予定 ガイドラインを扱う主な疾患/病気,介入/サービス/技術についての記載。開発中に考慮したあらゆる代替となる予防的・診断的・治療的介入を示すこと。更新する予定の有無についての言明。必要に応じて,現在のバージョンのガイドラインの有効期限の記載があること。 Y/N
13 明確化 馴染みのない言葉を明確にし,誤解を招く可能性のあるガイドラインの適用を修正するために決定的に重要なものを明らかにすること。 Y/N
14 勧告とその理由付け それが実施される特定の状況を示すこと,勧告とそれを支持するエビデンスとの関連性を示すことにより,各勧告の正当性を示すこと。項目9 で示した基準に従って,エビデンスの質と勧告の強さを示すこと。 Y/N
15 潜在的な利益と害 ガイドラインの勧告を実施することに伴って予測される利益と潜在的なリスクの記載。 Y/N
16 患者の選好 勧告が個人的な選択や価値の要素を実質的に含む場合は,患者の選好の役割についての記載。 Y/N
17 アルゴリズム (必要に応じ)ガイドラインに記載された診療上の段階・判断を図示すること。 Y/N
18 実施に当たっての考慮 勧告の適用に当たって予想される障害についての記載。実施を促すための,医療提供者もしくは患者向けのあらゆる補助的な文書について述べること。ガイドラインを実施する際のケアの変化を測定するための審査基準の提案。 Y/N
AGREE による評価

AGREE は,6 領域(「対象と目的」,「利害関係者の参加」,「作成の厳格さ」,「明確さと提示の方法」,「適用可能性」,「編集の独立性」)に関する23 項目と,「ガイドラインに対する全体評価」を加えた24 項目で構成されている。ガイドラインに対する全体評価を4 択法(4:強く推奨する,3:推奨する,2:推奨しない,1:判断できない)で行い,残りの23 項目を(4:強く当てはまる,3:当てはまる,2:当てはまらない,1:まったく当てはまらない)として評価する。

その結果,領域ごとの平均点は,「対象と目的」3. 83 点,「利害関係者の参加」3. 52 点,「作成の厳格さ」3. 82 点,「明確さと提示の方法」3. 69 点,「適応可能性」3. 31 点,「編集の独立性」3. 67 点と,ほとんどすべてにおいて3 点以上の評価が得られた(表5)。

特に項目1:「ガイドライン全体の目的が具体的に記載されている」,項目3:「どのような患者を対象としたガイドラインであるかが具体的に記載されている」,項目13:「ガイドラインの公表に先立って,外部審査がなされている」,項目14:「ガイドラインの改訂手続きが予定されている」,項目22:「ガイドラインは編集に関して資金源から独立している」などの評価が高かった(図1)。一方,項目20:「推奨の適用に伴う付加的な費用(資源)が考慮されている」,項目5:「患者の価値観や好みが十分に考慮されている」などの評価は低かった(図2)。

表5 AGREE による評価の集計結果
評価
項目
4(強く当てはまる) 3(当てはまる) 2(当てはまらない) 1(全く当てはまらない) 総計 平均点
1 7 1 0 0 8 3. 92
2 5 3 0 0 8 3. 58
3 8 0 0 0 8 4. 00

項目1 〜3「対象と目的」

3. 83
4 6 1 1 0 8 3. 75
5 2 5 1 0 8 3. 17
6 5 3 0 0 8 3. 75
7 3 5 0 0 8 3. 42

項目4 〜7「利害関係者の参加」

3. 52
8 7 0 1 0 8 3. 83
9 7 0 1 0 8 3. 83
10 6 1 1 0 8 3. 75
11 5 2 1 0 8 3. 58
12 6 1 1 0 8 3. 75
13 8 0 0 0 8 4. 00
14 8 0 0 0 8 4. 00

項目8 〜14「作成の厳格さ」

3. 82
15 6 2 0 0 8 3. 83
16 6 2 0 0 8 3. 83
17 6 1 1 0 8 3. 75
18 3 5 0 0 8 3. 33

項目15 〜18「明確さと提示の方法」

3. 69
19 4 3 1 0 8 3. 33
20 0 6 1 0 7 2. 83
21 5 3 0 0 8 3. 75

項目19 〜21「適用可能性」

3. 31
22 8 0 0 0 8 4. 00
23 5 1 1 1 8 3. 33
  4(極めて有用) 3(有用である) 2(有用でない) 1(全く有用でない)    
24 6 2 0 0 8  

項目22 〜24「編集の独立性」

3. 67

図1 AGREE 評価基準で平均点の高い項目

図2 AGREE 評価基準で平均点の低い項目

全体の評価である項目24 については,「本ガイドラインを診療に用いることを推奨するか?」という質問に対して,70%が「極めて有用である」と回答し,残りの評価者も「有用である」と回答していた。

Shaneyfelt 法による評価

Shaneyfelt 法によるガイドライン評価は25 項目から構成されており,各項目に関して,Yes/ No の二択で回答する。その結果,Yes と回答した割合が100%であった項目は,項目7:「診断や治療,予防に関する選択肢が利用可能で主要なものを網羅している」,項目13:「エビデンスを引用し,参考文献として列挙している」など12 項目であった(表6)。その一方で項目20:「コストが定量的に示されている」ではYes と回答した割合が50%であった。

表6 Shaneyfelt 法による評価の集計結果
評価
項目
Yes No 総計
1 8 0 8
2 8 0 8
3 8 0 8
4 7 0 8
5 7 1 8
6 8 1 8
7 8 0 8
8 7 0 8
9 8 0 7
10 8 0 8
11 8 0 8
12 8 0 8
13 8 0 8
14 8 0 8
15 8 0 8
16 7 1 8
17 7 1 8
18 5 3 8
19 6 2 8
20 4 4 8
21 7 1 8
22 7 1 8
23 7 1 8
24 7 1 8
25 7 1 8
総計 181 18 199
COGS による評価

COGS によるガイドライン評価は18 項目から構成されており,各項目に関して,Yes/No の二択で回答する。その結果,Yes と回答した割合が100%であった項目は,項目2:「焦点(ガイドラインを扱う主な疾患/病気,介入/サービス/技術についての記載。開発中に考慮したあらゆる代替となる予防的・診断的・治療的介入を示すこと)」,項目5:「標的とする集団(ガイドラインの勧告に的確な患者集団の記載と,除外基準の羅列)」など5 項目であった(表7)。その一方で,項目9:「勧告のグレーディングの基準(勧告を支持するエビデンスの質を評価するのに用いられた基準と,勧告の強さを記載するのに用いられたシステムについての記載。勧告の強さは,勧告を遵守することの重要性と関連しており,エビデンスの質と予想される利益や害の大きさの両方に基づいている)」,項目15:「潜在的な利益と害(ガイドラインの勧告を実施することに伴って予想される利益と潜在的なリスクの記載)」,項目16:「患者の選好(勧告が個人的な選択や価値の要素を実質的に含む場合は,患者の選好の役割についての記載)」のYes と回答した割合が75%であった。

表7 COGS による評価の集計結果
評価
項目
Yes No 総計
1 7 0 7
2 8 0 8
3 8 0 8
4 7 1 8
5 8 0 8
6 8 0 8
7 7 0 7
8 7 0 7
9 6 1 7
10 7 0 7
11 7 0 7
12 8 0 8
13 7 0 7
14 7 0 7
15 6 1 7
16 6 0 6
17 7 0 7
18 7 0 7
総計 128 3 131
考察

3 種類(AGREE, Shaneyfelt 法, COGS)のガイドライン評価の結果,「対象と目的」,「作成の厳格さ」について,高い評価であった一方,「推奨の適用に伴う付加的な費用(資源)が考慮されている」「患者の価値観や好みが十分に考慮されている」について,低い評価であった。また,本ガイドラインに対する外部評価者はまったく専門領域の異なる8 名で,委員間での十分な検討が困難であった点は今後の課題である。今後は,本ガイドラインを実際の臨床現場で用いる多くの医師,メディカルスタッフならびに患者からより客観的な評価を受け,意見を求め反映していくことが重要である。

3 種類のガイドライン評価ツールを組み合わせたことにより,多角的に本ガイドラインを評価し得た。AGREE による全体評価の平均点は3 点以上であり,全体評価についても有用である(8 名中6 名が「極めて有用」)と評価し,Shaneyfelt 法とCOGS についてもYes と回答した割合がNo に比し大幅に上回っていた。以上より,費用,患者の価値観や嗜好性については,さらなる配慮を要するものであるが,本ガイドラインの本質的な評価は総じて高い結果が得られた。

►文 献

1) Appraisal of Guidelines for Research and Evaluation(AGREE) Collaboration. http://www.agree.collaboration.org/

2) Shaneyfelt TM, Mayo-Smith MF, Rothwangl J. Are guidelines following guidelines? The methodological quality of clinical practice guidelines in the peer-reviewed medical literature. JAMA 1999; 281(20):1900-5.

3) Shiffman RN, Shekelle P, Overhage JM, et al. Standardized reporting of clinical practice guidelines:a proposal from the Conference on Guideline Standardization. Ann Intern Med 2003:139(6):493-8.