2009 年度版 ガイドライン作成にあたって

Evidence-based medicine(EBM)の概念が医療の分野に導入され,エビデンスとインフォームド・コンセントに基づいた診療が行われるようになり,各領域や各疾患の診療ガイドラインの作成が行政(厚生労働省)や社会,国民から強く要望されるようになりました。がん医療の分野でも各臓器別のがんに対する体系化が進み,各領域の専門学会において標準的治療の取りまとめと治療ガイドラインの作成が進められています。欧米ではすでに,①臨床腫瘍医の育成と,②提供する医療の質の向上を目的として,EBM の手順に則った治療ガイドラインの作成がなされ,インターネット上に公開されています。

このような状況の中で日本癌治療学会では2001 年に,各種がん関連学会や研究会で提唱された標準診療や治療ガイドライン,およびその根拠となる臨床研究の論文や医薬品プロフィールを集積した医療情報を統合的にインターネット上に公開する事業「がん診療ガイドライン」を立ち上げました。口腔がんに関しては,日本癌治療学会がん診療ガイドライン委員会より日本口腔腫瘍学会(岡部貞夫前理事長)に「口腔がん診療ガイドライン」の作成が依頼され,2004 年に日本口腔腫瘍学会学術委員会口腔癌治療ガイドライン作成ワーキンググループを立ち上げ,作成作業を開始しました。

口腔癌はWHO およびUICC によって口腔癌の解剖学的部位が規定されている舌,口底,頬粘膜,上顎歯肉歯槽粘膜,下顎歯肉歯槽粘膜,硬口蓋の6 部位から発生する上皮性悪性腫瘍を総括したもので,それぞれに癌の病態や進展度,進展方向,治療方法,治療後の障害,治療成績などが異なるため,ガイドライン作成にあたって各部位の癌の治療ガイドラインを1 つずつ作成していくこととして,作業を開始しました。まず「下顎歯肉癌治療ガイドライン」の作成に着手し,2005 年3 月に「口腔癌治療ガイドライン─下顎歯肉癌(案)─」をワーキンググループ案として,日本口腔腫瘍学会誌に発表しました。さらに2005 年日本口腔外科学会において「口腔外科疾患診療のためのガイドライン策定委員会」が設置されたことに伴い,「口腔癌診療ガイドライン策定委員会」と共同で「下顎歯肉癌治療ガイドライン」を雛形として「舌癌治療ガイドライン」を作成しました。現在既に「口腔癌治療ガイドライン─下顎歯肉癌(案)─」(日本口腔腫瘍学会誌第17 巻1 号,2005 年),「口腔癌治療ガイドライン─舌癌(案)─」(日本口腔腫瘍学会誌第19 巻3 号,2007 年)が発表されていますが,これと共に口腔癌取り扱い指針ワーキンググループにより,「舌癌取扱い指針(案)」(日本口腔腫瘍学会誌第17 巻1 号,2005 年),「下顎歯肉癌取扱い指針(案)」(日本口腔腫瘍学会誌第19 巻2 号,2007 年)も発表されています。

「口腔癌診療ガイドライン」は,この2 つの治療ガイドラインおよび2 つの取り扱い指針をベースに,日本癌治療学会がん診療ガイドライン委員会の作成規定に則った「科学的根拠に基づく口腔癌診療ガイドライン」として日本口腔腫瘍学会と日本口腔外科学会が合同で作成しました。この「口腔癌診療ガイドライン」の基本構造は,臨床上の疑問(clinical question:CQ)を中心に,全体の診療および治療アルゴリズムと診療項目ごとのCQ を掲げ,その回答,解説,コメント,文献(エビデンス)の評価,推奨グレード,構造化抄録など,科学的根拠に基づいたガイドラインを目標に作成しました。しかしながら,口腔癌は日本における悪性腫瘍の約1% と発生頻度が低く,かつ解剖学的形態が異なる6 つの部位に分かれていることで,口腔癌のみのエビデンスを集積した文献が少なく,頭頸部癌に一括されたエビデンスを求めざるを得ないこと,また,エビデンスレベルの高い文献は海外のものが主体となることなどの問題がありました。これは本邦から発信された大規模なランダム化比較試験(randomized controlled trial:RCT)が少ないことに原因があります。また,外科治療の分野においてはRCT は困難なため,エビデンルレベルの高い文献が集まりにくい問題があります。その結果,日常の臨床の現場では多くの施設で標準的に行われている治療であってもそのエビデンスが求めにくいことや,臨床の現場での疑問点をCQ に掲げても,その答え(エビデンス)が全く得られないために,CQ を取り下げざるを得ないなどの問題点が生じています。

この点に留意して,本ガイドラインを今後の診療に利用していただき,各方面からの建設的なご批判,ご教示をいただければ幸いです。皆様からの種々のご意見を集積して,内容を再吟味し,今回作成上生じた問題点を解決しながら適時ガイドラインの改訂を行いたいと思っています。

2009 年1 月

日本口腔腫瘍学会 口腔癌治療ガイドライン作成ワーキンググループ
グループ長:大関  悟

日本口腔外科学会 口腔癌診療ガイドライン策定委員会
委 員 長:篠原 正徳