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軟部腫瘍の定義

軟部腫瘍は軟部組織から発生する腫瘍の総称である.全身のあらゆる部位に発生し,皮下・筋間などの線維性結合組織,腱や靱帯などの線維組織,脂肪組織,横紋筋組織,平滑筋組織,血管およびリンパ管組織,滑膜組織などの中胚葉由来の組織と,末梢神経組織などの外胚葉由来の組織が発生母地となる.また由来細胞の明らかでない腫瘍も少なくない.

このように軟部腫瘍は病理分類が多岐にわたる上に発生頻度が低いものも存在するため,比較的遭遇する頻度が高いもののうち,主として成人の運動器に発生したものを対象として本ガイドラインでは取り扱うこととした.

章とクリニカルクエスチョンの設定

策定委員会で改訂内容について検討を行い,「軟部腫瘍診断ガイドライン」では軟部腫瘍の診断に関する領域のみを扱っていた.しかし治療の領域についてのガイドラインが他領域の悪性腫瘍でも作成されており,軟部腫瘍についても同様に必要であるとの観点から,治療に関する内容を新たに追加し「軟部腫瘍診療ガイドライン」とすることとした.診断の領域についての章立て,クリニカルクエスチョンの項目についても「軟部腫瘍診断ガイドライン」を元に修正・追加を行った.最終的に表1 に示すように12 章とし,45 のクリニカルクエスチョンを設定した.

表1 軟部腫瘍診療ガイドラインの章分け
1 章 分 類 7 章 軟部肉腫の予後
2 章 疫 学 8 章 軟部肉腫の手術
3 章 臨床症状と検査所見 9 章 軟部肉腫の化学療法
4 章 画像診断 10 章 軟部肉腫の放射線治療
5 章 生検による診断 11 章 その他の治療
6 章 分子生物学的診断 12 章 軟部肉腫転移症例

文献検索および選択の方法

実際のガイドライン作成作業では,診断に関連する章は「軟部腫瘍診断ガイドライン」の文献検索を引用したうえで,更に2003 年以降,2009 年7 月までの文献について検索した.「軟部腫瘍診療ガイドライン」から追加をした治療に関する章は1993 年以降,2009 年7 月までの文献についてMEDLINE を表2 の検索式で検索した.Case series 以上の研究デザインで13,056 件論文が抽出された.文献リストの抄録から事務局で一次査読を行い,一例報告や本ガイドラインの項目に当てはまらない文献を削除し,二次査読を行うべき論文を決定した.二次査読は策定委員が担当する全国10 ブロックを決め,ブロックごとに4 〜 6 人の査読協力者を選出し,フルペーパーの査読と構造化抄録の作成を依頼した.論文1 編につき2 名で,構造化抄録の作成とどの章について書かれた論文かを判断した.

軟部腫瘍関連の論文について,病理診断が多岐にわたり,発生数が少ないことに加え,論文のエビデンスレベルについての記載がない論文が多数存在することから,上述の文献検索と選択方法では有用な文献が十分に検出できていないことが本文作成中に明らかになった.そのために検索結果以外に補足論文や教科書が必要な場合,その選択は各グループに一任した.その結果,本ガイドラインに構造化抄録として収載された文献は,英語文献219 件,日本語文献4 件である.そのほか,主に腫瘍や病期の分類の参考資料として,6 件の教科書を採用した.また,疫学の章では日本整形外科学会骨軟部腫瘍委員会で行っている全国骨・軟部腫瘍登録がわが国における骨軟部腫瘍の疫学を最も反映していると考え,引用文献として採用した.

表2 文献検索式
S1 S SOFT(1W)(PART+TISSUE)(2N)(TUMOR?+SARCOMA?+NEOPLASM?)
S2 S SOFT TISSUE NEOPLASMS!
S3 S NEOPLASMS, CONNECTIVE "AND" SOFT TISSUE!
S4 S S1:S3
S5 S S4 NOT (ANIMALS OR ANIMAL)/DE OR S4/HUMAN
S6 S S5/ENG

エビデンスレベルと推奨・根拠Grade の説明

選択された論文のエビデンスレベルは表3 の基準で判定することにした.各クリニカルクエスチョンに対する推奨・根拠がどの程度のエビデンスに基づいて,どの程度推奨されるものかを示す度合いとして日本整形外科学会ガイドライン委員会の推奨するものを利用し,表4 のように設定した.骨軟部腫瘍は発生頻度が少ないためエビデンスのレベルの高い論文が多くないこと,本ガイドラインの内容が論文により証明できるものばかりでなく,骨軟部腫瘍の診断・治療に必要な基本的な知識や概念についても掘り下げたものであることから,一部については質の高いエビデンスが十分にないものについても一般的に認められていることや理論的根拠に基づくものについては委員会の判断で推奨・根拠Grade を高く設定した.

表3 エビデンスレベル(EV level)
Level 内 容
システマティックレビューまたはメタアナリシス
1 つ以上のランダム化比較試験
非ランダム化比較試験
分析的疫学研究(コホート研究や症例対照研究による)
記述研究(症例報告,症例シリーズ)
患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見
表4 推奨・根拠Grade
Grade 内 容 内容補足
A 行うよう強く推奨する
強い根拠に基づいている
質の高いエビデンスが複数ある
B 行うよう推奨する
中等度の根拠に基づいている
質の高いエビデンスが1 つ,
または中程度の質のエビデンスが複数ある
C 行うことを考慮してもよい
弱い根拠に基づいている
中程度の質のエビデンスが少なくとも1つある
D 推奨しない
否定する根拠がある
肯定できる論文がないか,
否定できる中等度の質のエビデンスが少なくとも1つある
I 委員会の審査基準を満たすエビデンスがない,
あるいは複数のエビデンスがあるが結論が一様ではない

質の高いエビデンス(Level Ⅰ,Ⅱ)
中程度の質のエビデンス(Level Ⅲ,Ⅳ)

各章担当の委員がクリニカルクエスチョンの内容を記載するに当たり,必要な論文の評価を整理し,エビデンスレベルおよび推奨・根拠Grade を評価した.同一の論文であっても採用した章ごとにエビデンスレベルおよび推奨・根拠Grade が異なることがあることから各章ごとに評価し,一部重複して構造化抄録が作成された.教科書や全国骨・軟部腫瘍登録についてはエビデンスレベルを付与しなかった.最終的な推奨・根拠Grade は何度も推敲を繰り返し,委員会の総意で決定した.

本文の作成

軟部腫瘍の診断と治療に関して専門医以外にも必要な最低限の知識を概述することを第一の目的としたが,各クリニカルクエスチョンで必要であれば専門医にとって特に重要と思える知識についてもエビデンスという項目として記述した.

本文の内容は策定委員会で十分慎重に議論・検討を繰り返し,最終的な原案を作成した.委員会での検討に次いで,委員会以外の軟部腫瘍に造詣の深い整形外科医を含め全学会員に提示され,外部評価を受け改訂を行った.これらの過程を通して多くの提言や助言を容れた.また,標準的な軟部肉腫に対して,現時点で一般的と考えられる診断と治療の流れを,策定委員全員の了承のもとに,ガイドラインに基づき「軟部腫瘍診断アルゴリズム」(図1)「軟部肉腫治療アルゴリズム」(図2)として記載した.

この「軟部腫瘍診療ガイドライン」の作成は,日本整形外科学会軟部腫瘍診療ガイドライン委員会が中心となり,日本癌治療学会がん診療ガイドライン委員会の活動と連携して進められたものである.