第3 版 前理事長 序

日本食道学会は,その前身である日本食道疾患研究会(第1 回研究会,赤倉一郎,1965 年)は37 年間の歴史があり,これを引き継いで2003 年に発足しました。

食道癌治療ガイドラインは,2002 年12 月日本食道疾患研究会の磯野可一会長のもと,杉町圭蔵委員長以下安藤暢敏,井手博子,桑野博行,佐藤博信,鶴丸昌彦,西尾正道,吉田 操各委員の御努力により第1 版が作成されました。

食道癌の治療は日進月歩で,急速に変化するため5 年後の2007 年4 月に改訂第2 版が出版されました。当時の日本食道学会は未だ任意団体でしたが,2009 年に法人格を取得し,特定非営利活動法人日本食道学会となりました。第2 版では厚生労働省医療技術評価総合事業「がん診断・治療ガイドラインの適用と評価に関する研究」の指針と,さらに5 年間のエビデンスも加えて改訂されました。初版から10 年が経過し,今回さらに改訂が重ねられて第3 版が出版される運びとなりました。食道癌の疫学,切除標本の取扱い,クリニカルパス,サルベージ手術,バレット食道,重複癌などの新しい項目が追加されたこと,JCOG9907 の術前・術後化学療法に関するRandomized controlled trial(RCT)の結果が加えられたこと,新しいエビデンスが加えられ推奨グレードのminer change が行われたことなどが改訂の骨子であります。

さて,近年医学の領域でも各種のガイドラインが出版されています。多くの研究成果を集積して検討し,ある程度の方向性,指針を示し臨床の役に立てることが目的であります。本書も,あくまでも現時点で適切と思われる食道癌の診断・治療の大枠を示すもので,個々の症例の診断・治療の細部までを規定するものではないことは第1 版,第2 版の序でも書かれているとおりであります。Evidence based medicine(EBM)を旨としてガイドライン制定に努力致しておりますが,臨床医学の分野で信頼性の高いエビデンスを得ることは極めて難しいものがあります。

多数を対象とするRCT が最もエビデンスレベルが高いわけですが,同様のRCT でも結果が異なることがあるのは御存知のとおりです。臨床の場では,全く同じ病状であるものは1 例としてなく,1 例1 例異なるものです。食道癌の進行度,悪性度,病巣の占居部位,浸潤性発育か膨張性か,などと共に,担癌患者の全身状態に加えて年齢や生きようとする意欲なども考え合わさなければなりません。このように患者の治療方針を決定するには医療チームでの詳細な検討に加え,患者やご家族の意志を尊重する必要もあります。その治療方針決定のために本ガイドラインがお役に立てれば幸いと思います。しかし,ガイドラインが個々の患者の治療方針を縛るものではありません。もちろん医療訴訟の根拠となるものでもありません。あくまでもガイドラインはガイドラインであり,本ガイドラインを踏まえて複雑な患者個々の条件,状態を吟味し,最終的には主治医が判断するものであります。ガイドラインから少しはずれた治療を行うことがその患者のより良い時間を長くする場合もあるでしょう。通り一遍にガイドラインに従っていれば良いというものではないと思います。重ねて申し上げますが,医療は複雑であり危険を伴うものです。臨床医は熟慮に熟慮を重ね,自分の命を削っても患者の為に尽くすべきものと思っています。各位の更なる御努力,御検討を期待しています。

最後に本ガイドライン検討委員会の桑野博行委員長,評価委員会平井敏弘委員長,並びに両委員会委員各位,協力者各位に感謝申し上げます。

2012 年3 月

日本食道学会

前理事長 幕内博康