食道癌治療ガイドライン 2002 年12 月版【第1 版】発刊に際して

はじめに

日本食道疾患研究会も昭和40 年発足以来,約40 年近い歳月を経ました。その間,医学・医療も急速の進歩を遂げ,特に食道癌治療においては,多くの先達の努力によりその進歩には見るべきものがあります。

手術成績向上の時代から遠隔成績向上の時代を迎え,拡大手術期に入り,さらに現在では患者QOL の向上の時代,縮小手術の時代を迎えております。そして,食道癌治療は,一部の特定施設によって行われるものではなく,一般病院でも治療できるようになってまいりました。また,これまで手術の補助療法と考えられていた放射線療法,免疫化学療法なども単独で,または,疾患の時期や種類によってはなくてはならない合併療法となっております。

食道癌治療は,消化器疾患の中でも高齢者が対象であり,また,病態が極めて複雑であるだけに治療法も多岐にわたり大変困難であります。

昨今,患者さんにとってどこでも,何時でも,最も適切な治療法が選択されるように疾患ごとにevidence―based medicine としての治療ガイドラインが作成されるようになってきました。

そこで,日本食道疾患研究会では,この時期において最も適切と思われる治療法をまとめ,食道癌治療に携わる先生方の治療上の参考に供するとともに,患者さんに適切な治療が行われることを願い,“食道癌治療ガイドライン”を作成するための委員会を設置しました。

ただ,本ガイドラインは,これまでの臨床的研究に基づいた多くの豊富な文献を解析して,現時点で適切と判断した標準的治療法を提示しているものであり,あくまでも参考とすべきものであります。このガイドラインが,個々の患者さんの病態に合った細部の治療まで規定するものではありません。

治療は,患者さん個人個人に合ったテーラメイド治療こそが重要であります。また,このガイドラインが,医学・医療の進歩を妨げるものになってはなりません。さらに,医学は日進月歩するものであり,本ガイドラインより,より良い治療法が次々に確立されてくるものと思われます。

その時は,日本食道学会の名のもとに,安全性と効果を確認し,躊躇することなく改訂に踏み切っていただきたいと思います。

最後に各委員の先生方の大変な御努力により,短期間に本ガイドラインが作成され,今日ここに日の目を見ることができたことは真に喜ばしく,先生方の御苦労に感謝申し上げます。それだけに本ガイドラインが,食道癌治療に携わる方々に有効に使用され,病める患者さんのために大いに役立つことを期待致します。

2002 年12 月

日本食道疾患研究会

会長 磯野可一

食道癌治療ガイドライン作成にあたり

診断技術の向上により,早期食道癌が発見される機会が多くなり,内視鏡的粘膜切除術の適応となるような症例が増加してきた。一方,外科治療における広範なリンパ節郭清や周術期管理の進歩は,食道癌全体の治療成績の向上をもたらしたが,最近では体腔鏡を用いた低侵襲手術など,患者のQOL 向上を目指した工夫もなされている。

放射線・化学療法は胃癌・大腸癌に比較して有効例が多く,積極的に施行している施設は多いが,まったく無効食道癌治療ガイドライン 2002 年12 月版【第1 版】発刊に際してx な例も決して少なくない。各進行度に応じた治療法が多様化し,治療の選択肢が増した反面,その治療は医師個人 の臨床経験,あるいは施設としての方針に委ねられているのが現状である。数多い治療法のなかで,各患者に対して最良の治療法を選択するためには,EBM(Evidence Based Medicine)を重視した治療指針を示すことが肝要である。

今回,食道癌の日常の診療に役立てることを目的に,多くの施設に共通して使用できる標準的な食道癌治療ガイドラインを作成した。本ガイドラインは,現時点で最も妥当と考えられる食道癌の標準的な治療法として推奨するものである。しかし,食道癌患者は一般的に高齢者が多く,心・肺・肝・腎などの他臓器の機能障害を有していたり,手術を拒否される場合もあり,患者本人の治療に対する取り組み方が異なる場合も多く,画一的な治療ガイドラインを作成することは困難である。したがって,個々の症例によってはこのガイドラインと異なる治療が必要な場合もあり,このガイドラインによって各症例毎の治療法を規制するものでは決してない。

2002 年12 月

食道癌の治療ガイドライン作成委員会

委員長 杉町圭蔵

食道癌の治療ガイドライン作成委員会
委員長 杉町 圭蔵 九州中央病院
委員 安藤 暢敏 東京歯科大学市川総合病院外科
井手 博子 東京女子医科大学消化器外科
桑野 博行 群馬大学第一外科
佐藤 博信 日本大学第三外科
鶴丸 昌彦 順天堂大学第一外科
西尾 正道 国立札幌病院・北海道地方がんセンター放射線科
吉田  操 都立墨東病院外科 (五十音順)