第3版の序

2006 年3 月に初版の『膵癌診療ガイドライン』が出版され,2009 年9 月に第2 版が出版された。その後,4 年後の2013 年春を目処に改訂を目指していた。しかし,JASPAC-01(切除膵癌に対する術後補助療法におけるS-1 とゲムシタビン塩酸塩の前向き臨床試験)の結果が2013 年1 月のASCO GI で発表されることがわかり,しかも,重要な結果であることが予想された。日本よりの前向き臨床試験であるJASPAC-01 の結果まで改訂に含むこととし,約半年刊行を遅らせることとなった。第3 版は第2 版と同様,『Mindsガイドライン作成の手引き2007』に従い,evidence based medicine(EBM)に基づくものとした。

今回の作成出版に際しては,以下の点が大きく変わった。

  1. 改訂委員会委員長が田中雅夫より山口幸二へ,副委員長は船越顕博より奥坂拓志に替わり,同時に改訂委員の約8 割が新人に入れ替わった。
  2. 診断のアルゴリズムはCT and/or MRI(MRCP)より「細胞診・組織診」に点線での流れが追加された。また,「可能な限り病理診断を行うことが望ましい」が追加された。
  3. 治療のアルゴリズムではcStage の後に「切除可能」,「局所進行切除不能」,「転移(・再発)切除不能」に分けられるようになった。Best supportive care(BSC)は,膵癌患者においては診断初期から疼痛・消化吸収障害・(膵性)糖尿病・不安などに対する支持療法が必要となるため,「診断確定」に*で付記し,膵癌患者のすべてに関わる問題として削除された。また,「ステント療法,バイパス療法,放射線療法」が追加された。
  4. 分野はステント療法が追加され,6 分野となった。また,分野の順番が①診断法,②外科的治療法,③補助療法,④放射線療法,⑤化学療法,⑥ステント療法となった。
  5. 引用論文は288 から443 論文,さらに629 論文へと増えた。
  6. CQ は22 から25,さらに35 に増え,推奨は31 から39,さらに57 に増えた。

推奨,明日への提言,構造化抄録のCD-ROM などは作成方法に大きな変更はなし。また,旧版同様,外部評価委員の各視点からの評価に加え,ガイドライン作成方法論の立場からの評価もいただいた。

今後も医学の進歩に加え,保険診療をはじめとした臨床の医療は変化し続ける。診療ガイドラインは,常に最新のエビデンスと実臨床を反映した推奨診療を提示し続ける必要があるため,改訂委員会はガイドライン改訂作業を断続する必要がある。

本ガイドラインが,臨床医に適切な情報を提供し,何より患者に対し最良の医療が行われることに役立てば幸いである。


第2 版(2009 年)刊行に際しての序


第2版の序

2006 年 3 月に第 1 版の『膵癌診療ガイドライン』が出版された。このガイドラインは日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン作成小委員会で,系統的エビデンス検索,明確な推奨文と推奨度,フローチャート,図表写真,索引,外部評価などを取り入れて作成され,高い評価を受けた。当初より,出版後 3 年をめどに改訂することが明記されていたので,最新の文献検索を加え,改訂を行った。

今回,改訂第 2 版を作成出版するにあたり,以下の点が大きく変わった。

  1. 第 1 版の作成担当母体が日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン作成小委員会であったが,今回は日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン改訂委員会となった。
  2. 最新のエビデンス追加は,第 1 版出版後の新しいエビデンスの系統的検索を行い,さらに現在の日本の実臨床を勘案して推奨文を作成した。クリニカルクエスチョン も変更や追加がなされた。

クリニカルクエスチョンの変更

1.診断法

CQ1-1,CQ1-2 に変更はないが,CQ1-3,CQ1-4 の診断法はファーストステップとセカンドステップを行うべき検査,次に行うべき検査に変えた。CQ1-5,CQ1-6 の TNM分類と細胞診,組織診は順番を入れ替えた。

2.化学療法

CQ2-4 が,二次化学療法は何か?から,二次化学療法は推奨されるか?になった。

3.放射線療法

CQ3-2,CQ3-3 が追加となった。

CQ3-2 局所進行切除不能膵癌に対し化学放射線療法の標準的な併用化学療法は何か?

CQ3-3 局所進行切除不能膵癌に対する外部放射線治療の臨床標的体積に予防的リンパ節領域を含めるべきか?

4.外科的治療法

CQ4-1〜CQ4 ─ 5 に変更はなかったが,CQ4 ─ 6 が追加となった。

CQ4-6 非切除バイパス,胆管ステント療法は意義があるか?

5.補助療法

変更なし。

エビデンスレベルの変更

エビデンスレベルは旧版の

Ⅰ システマティックレビュー/ メタアナリシス
Ⅱ 1 つ以上のランダム化比較試験による
Ⅲ 非ランダム化比較試験による
Ⅳ 分析疫学的研究(コホート研究や症例対照研究による)
Ⅴ 記述研究(症例報告やケースシリーズ)による
Ⅵ 患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見

より

Ⅰ システマティックレビュー/ RCT のメタアナリシス
Ⅱ 1 つ以上のランダム化比較試験による
Ⅲ 非ランダム化比較試験による
Ⅳa 分析疫学的研究(コホート研究)
Ⅳb 分析疫学的研究(症例対照研究,横断研究)
Ⅴ 記述研究(症例報告やケースシリーズ)
Ⅵ 患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見

に変更された。

推奨度の変更

旧版の

A 行うよう強く勧められる
B 行うよう勧められる
C 行うよう勧めるだけの根拠が明確でない
D 行わないよう勧められる

より

A 強い科学的根拠があり,行うよう強く勧められる
B 科学的根拠があり,行うよう勧められる
C1 科学的根拠はないが,行うよう勧められる
C2 科学的根拠がなく,行わないよう勧められる
D 無効性あるいは害を示す科学的根拠があり,行わないよう勧められる

に変更となった。

これらの変更は『Minds ガイドライン作成の手引き 2007』に従ったものである。

推奨,明日への提言,構造化抄録の CR─ ROM などは変更なし。また,旧版同様,外部評価委員の各視点からの評価に加え,ガイドライン作成方法論の立場からの評価もいただいた。

今後も医学の進歩に加え,保険診療をはじめとした臨床の医療は変化し続ける。診療ガイドラインは,常に最新のエビデンスと実臨床を反映した推奨診療を提示し続ける必要があるため,改訂委員会はガイドライン改訂作業を継続する必要がある。

本ガイドラインが,臨床医に適切な情報を提供し,何より患者に対し最良の医療が行われることに役立てば幸いである。


初版(2006 年)刊行に際しての序


初版の序

癌診療ガイドラインの作成は厚生労働省や国民からの強い要望があり,厚生労働省研究班や各学会で個々にガイドラインが作成される傾向が増加している。そのため一般臨床で癌治療に携わっている医師はいずれのガイドラインを参考にすべきか,判断に迷うことが今後ますます増加することが危惧される。こうした状況のなかで,各領域にわたる横断的学会の責務として,日本癌治療学会では,実地医療に役立つ情報提供のため,これまで作成された多数のガイドラインを再評価し,統一的なフォーマットのもとで公開することを目指して,「臨床腫瘍データベース」(癌診療ガイドラインと名称を変更)を作成することとなった。種々の臓器の癌についての診療ガイドライン作成が個々の学会に依頼された。膵癌に関しては,日本癌治療学会(北島政樹理事長,臨床腫瘍データベース委員会佐治重豊委員長)より日本膵臓学会(松野正紀理事長)に膵癌診療ガイドライン作成が依頼された。そこで日本膵臓学会内に膵癌診療ガイドライン作成小委員会(委員長 田中雅夫)が設けられ,膵癌診療ガイドラインを作成することとなった。