本ガイドラインについて

1.本ガイドラインの目的

膵癌〔『膵癌取扱い規約』(第6 版)の浸潤性膵管癌を対象〕は21 世紀に残された消化器癌といわれ,近年増加傾向にあって,その診断法や治療成績の改善が急務とされている。従来,膵癌に対しても種々の診断・治療法が開発されてきたが,その客観的な評価は十分にはなされておらず,診療における標準化はなされていないのが現状である。そこで,日本膵臓学会によりガイドラインが作成されることとなった。

目的

本ガイドラインの目的は,膵癌の診療にあたる臨床医に実際的な診療指針を提供するために,膵癌に関してevidence based medicine(EBM)の手法に基づいて効果的,効率的な診断・治療法を体系化し,効果的保険医療を確立し,ひいては豊かな活力ある長寿社会を創造するための一翼を担うことである。本ガイドラインではEBM の手法により,膵癌に対して多方向から,各関係学会や各領域の第一人者によって文献を十分に検討し,体系化されたガイドラインを作成することに努めた。ただし,膵癌治療の現状は非常に厳しく,エビデンスレベルの高い論文は少ないため,エビデンスは現在ないが将来につながりそうな試みなどを,委員会の判断で加えた。

対象

本ガイドラインの対象は,膵癌診療にあたる臨床医である。一般臨床医が膵癌に効率的かつ適切に対処することの一助となり得るよう配慮した。さらに患者,家族をはじめとした一般市民にも膵癌の理解を深めていただき,医療従事者と医療を受ける立場の方々の相互の納得のもとに,より好ましい医療が選択され実行されることをも意図した。ガイドライン改訂にあたっては,日本各地より,内科,放射線科,外科の専門家より成る改訂委員会が設置された。改訂委員名簿は巻頭に掲載した。膵癌のStage 分類は欧米とわが国で異なる。本ガイドラインでは日本膵臓学会が2009 年7 月に発表した『膵癌取扱い規約』(第6 版)に準じた。

2.本ガイドラインを使用する場合の注意事項

本ガイドラインはエビデンスに基づき記載しており,それに基づいて推奨度を決定した。膵癌は乳癌,大腸癌,胃癌などのように診断や治療に対するrandomized clinical trial(RCT)などの情報が少なく,今後の課題が多く残された消化器癌であるという特殊性のため,RCT はないが今後につながりそうな試みや作成員の個人的意見などを「明日への提言」として挿入した。また,記載内容が多岐にわたるので読者が利用しやすいように巻末に索引を設けた。

ガイドラインはあくまでも作成時点での最も標準的な指針であり,実際の診療行為を強制するものではなく,最終的には施設の状況(人員,経験,機器等)や個々の患者の個別性を加味して対処法を患者,家族と治療にあたる医師との話し合いで決定すべきである。また,ガイドラインの記述の内容に関しては日本膵臓学会が責任を負うものとするが,治療結果についての責任は直接の治療担当者に帰属すべきもので,日本膵臓学会および膵癌診療ガイドライン改訂委員会は責任を負わない。なお,本文中の薬剤使用量などは成人を対象としたものである。また,保険未収載のものについては*を付した。

3.ガイドライン作成法

ガイドラインの改訂にあたっては,下記のスケジュールで行った。

膵癌診療ガイドライン改訂委員会

[第1回]2010 年7 月9 日(第41 回日本膵臓学会大会,福岡,福岡国際会議場)

新たな膵癌診療ガイドライン改訂委員会を立ち上げた。大幅なメンバーの入れ替えが行われた。

[第2回]2010 年10 月15 日(第18 回日本消化器病関連学会週間,横浜,横浜桜木町ワシントンホテル)

アルゴリズム,分野,クリニカル・クエスチョン(clinical question;CQ),論文検索,構造化抄録,推奨,推奨度などについて話し合った。その後,メールによる会議を行い,CQ と委員の分担を決定した。次に,東邦大学医学メディアセンターの山口直比古氏を中心に医学中央雑誌Web とPubMed の論文検索をしていただき,担当分野の各委員へ配布した。構造化抄録を作成する論文について,1CQ あたり20〜30 を目処に選出していただいた。選出後,論文コピーを担当委員へ送付し,構造化抄録の作成を開始した。

[第3回]2011 年5 月15 日(第97 回日本消化器病学会総会,東京,京王プラザホテル)

2011 年5 月14 日の日本膵臓学会理事会での意見をもとに,再度,アルゴリズム,分野,CQ などを検討した。

[第4回]2011 年7 月29 日(第42 回日本膵臓学会大会,弘前,ホテルニューキャッスル)

膵癌診療ガイドライン改訂委員会-新旧改訂委員合同委員会を開催した。旧改訂委員より今回の改訂(案)のアルゴリズム,CQ の立て方,ガイドラインの評価などについて,意見をいただいた。

[第5回]2011 年10 月20 日(第19 回日本消化器病関連学会週間,福岡,福岡サンパレス)

膵癌診療ガイドライン改訂(案)の全CQ に対する推奨と推奨度を検討した。

[第6回]2012 年4 月19 日(第98 回日本消化器病学会総会,東京,京王プラザホテル)

[第7回]2012 年5 月30 日(第24 回肝胆膵外科学会学術集会,大阪,リーガロイヤルホテル)

第6,7 回改訂委員会にて,全文の検討を再度行った。続いて,チーフ会議を2012 年12月15日(ホテル日航福岡)にて行い,さらに詳細に全文検討を行った。

[第8回]2013 年3 月22 日(第99 回日本消化器病学会総会,鹿児島,城山観光ホテル)

第3 回公聴会直後に,同会場にて第8 回改訂委員会を行い,最終案を作成した。

公聴会

[第1回]2012年6月29日(第43回日本膵臓学会大会,山形,ホテルメトロポリタン山形)

[第2回]2012年10月26日(第50回日本癌治療学会学術集会,横浜,パシフィコ横浜)

第1,2 回公聴会をそれぞれ行った。この時点でJASPAC のデータが2013 年1 月のASCO GI で発表されるが,非常に重要な結果が発表されるとのことであったので,JASPAC-01のデータまで今改訂版に入れることを決定した。

[第3回]2013年3月22日(第99回日本消化器病学会総会,鹿児島,城山観光ホテル)

第3回公聴会を改訂拡大委員会として行った。

すべての委員会・公聴会後,さらに日本膵臓学会のホームページ<http://www.suizou.org/>に2013 年4 月9 日より5 月末まで最終案を公開し,意見をうかがい,最終的な修正を行った。

4.文献検索

ガイドライン改訂委員より示された6 カテゴリー,35 のCQ について文献検索を行った。検索は各カテゴリーごとに1 名の医学図書館員が担当し,第2版のための文献検索以降,すなわち2007 年5 月から2011 年1 月末までを検索対象期間とした。ただし,新規CQ やキーワードの追加などもあったため,検索年限が異なる場合があった。検索したデータベースは,医学中央雑誌Web とPubMed である。言語は英語および日本語に限定したほか,研究デザインを考慮した場合もある。巻末に検索したデータベース,検索期間(2007 年〜 2011 年),検索式,検索結果について報告する。

5.本ガイドラインの構成

6 つの分野に分け,それぞれ4〜9 のCQ を設定した。CQ ごとに文献の検索のデータベース,検索期間(2007 年〜 2011 年),検索式,検索結果を記載した。そして各CQ に従って,「推奨」「エビデンス」「明日への提言」「引用文献」を記載した。「推奨」においては勧告事項をその推奨度(グレード)とともに示した。また,「推奨」の科学的根拠を「エビデンス」として示した。膵癌は乳癌や胃癌などのように診断や治療に対するRCT などの情報が少なく,今後の課題が多く残された消化器癌であるという特殊性のため,RCT はないが今後につながりそうな試みや作成者の個人的意見などを「明日への提言」として挿入した。

エビデンスレベルと推奨度(グレード)の決定法は以下に示した。

6.文献レベルの分類法と推奨度(グレード)分類

Minds より示された『Minds 診療ガイドライン作成の手引き 2007』(医学書院)をもとに行った。

エビデンスのレベルの分類

質の高いものから,

  1. システマティック・レビュー/RCT のメタアナリシス
  2. 1 つ以上のランダム化比較試験による
  3. 非ランダム化比較試験による
  4. Ⅳa分析疫学的研究(コホート研究)
  5. Ⅳb分析疫学的研究(症例対照研究,横断研究)
  6. 記述研究(症例報告やケース・シリーズ)
  7. 患者データに基づかない,専門委員会や専門家個人の意見

推奨度(グレード)の分類

勧告の強さの決め方:以下の要素を勘案して総合的に判断する。

  1. エビデンスのレベル
  2. エビデンスの数と結論のばらつき
    (同じ結論のエビデンスが多ければ多いほど,そして結論のばらつきが小さければ小さいほど勧告は強いものとなる。必要に応じてメタアナリシスを行う。)
  3. 臨床的有効性の大きさ
  4. 臨床上の適用性
  5. 害やコストに関するエビデンス

勧告の強さの分類:勧告の記述にはその強さを括弧内に明示する。

  1. A強い科学的根拠があり,行うよう強く勧められる
  2. B科学的根拠があり,行うよう勧められる
  3. C1科学的根拠はないが,行うよう勧められる
  4. C2科学的根拠がなく,行わないよう勧められる
  5. D無効性あるいは害を示す科学的根拠があり,行わないよう勧められる

7.改訂

今後も医学の進歩とともに膵癌に対する診療内容も変化し得るので,本ガイドラインも定期的な再検討を要すると考えられる。必要に応じて,公聴会を経た推奨・推奨度の変更や新たな情報を日本膵臓学会のホームページにNEW PROGRESS として提示していく予定である。また,3,4年を目処に改訂を目指す予定である。

8.資金

本ガイドライン作成に要した資金はすべて日本膵臓学会の負担と,一部平成24 年厚生労働科学研究費補助金がん臨床研究事業「がん登録からみたがん診療ガイドラインの普及効果に関する研究- 診療動向と治療成績の変化- 」(研究代表者:平田公一)より助成を受けた。

9.利益相反

膵癌診療ガイドライン改訂における利益相反の報告書によると,利益相反(日本癌治療学会「がん臨床研究の利益相反に関する指針」)に該当する事実は以下のごとくであった。

④企業や営利を目的とした企業や団体より会議の出席(発表)に対し,研究者を拘束した時間・労力に対して支払われた日当(講演料など)

古瀬 純司: バイエル薬品(2010,2011,2012 年)
中外製薬(2010,2011,2012 年)
エーザイ(2010,2011,2012 年)
日本イーライリリー(2010,2011,2012 年)
大鵬薬品工業(2010,2011,2012 年)
ファイザー(2010 年)
小野薬品工業(2012 年)
ゼリア新薬工業(2012 年)
ベーリンガーインゲルハイム(2012 年)
ノバルティス ファーマ(2012 年)
奥坂 拓志: 日本イーライリリー(2010,2011 年)
ノバルティス ファーマ(2010,2011,2012 年)
バイエル薬品(2011 年)
大鵬薬品工業(2011 年)
伊藤 鉄英: エーザイ(2010,2011 年)
ノバルティス ファーマ(2010,2011 年)
糸井 隆夫: オリンパスメディカルシステムズ(2010,2011,2012 年)
エーザイ(2011,2012 年)

(氏名・企業名は順不同)

⑥企業や営利を目的とした団体が提供する研究費及び寄付講座

山上 裕機: 中外製薬(2010,2011,2012 年)
オンコセラピー・サイエンス(2010,2011 年)
大鵬薬品工業(2010,2011,2012 年)
ヤクルト本社(2011,2012 年)
ジョンソン・エンド・ジョンソン(2011 年)
古瀬 純司: バイエル薬品(2010,2011,2012 年)
大鵬薬品工業(2011,2012 年)
ファイザー(2010 年)
小野薬品工業(2012 年)
ノバルティス ファーマ(2010 年)
武田バイオ開発センター(2011 年)
パクレセル・インターナショナル(2011,2012 年)
グラクソ・スミスクライン(2011 年)
静岡県産業振興財団(2011,2012 年)
奥坂 拓志: 大鵬薬品工業(2010,2011,2012 年)
ヤクルト本社(2011,2012 年)
中外製薬(2010,2011,2012 年)
ノバルティス ファーマ(2011 年)
静岡県産業振興財団(2011,2012 年)
武田バイオ開発センター(2011 年)
オンコセラピー・サイエンス(2011 年)
大塚製薬(2012 年)
伊佐山浩通: ボストン・サイエンティフィック ジャパン(2010 年)
ヤクルト本社(2011,2012 年)

(氏名・企業名は順不同)

10.参考文献

『Minds 診療ガイドライン作成の手引き2007』(医学書院)

11.協力者

膵癌診療ガイドライン改訂にあたっては,巻頭に挙げた委員のほかにも,下記の協力者の援助により改訂された。

CQ1-1

高山敬子,田原純子,久保木友子(東京女子医科大学消化器内科)

CQ1-3

祖父尼淳(東京医科大学消化器内科)

CQ1-4

永塩美邦(愛知県がんセンター中央病院消化器内科部)

CQ1-6

谷 眞至,川井 学,廣野誠子,岡田健一(和歌山県立医科大学外科学第2講座)

CQ1-7

飯星知博(JA広島厚生連尾道総合病院消化器内科)
山雄健太噤i近畿大学医学部消化器内科)
佐上晋太郎,佐々木民人,芹川正浩(広島大学大学院医歯薬保健学研究院応用生命科学部門消化器・代謝内科)

CQ2-3

佐藤典宏(産業医科大学医学部第1外科学)

CQ2-6

佐藤典宏(産業医科大学医学部第1外科学)

CQ2-7

松山隆生,谷口浩一,森隆太郎(横浜市立大学医学部消化器・腫瘍外科学)

CQ2-9

谷 眞至,川井 学,廣野誠子,岡田健一(和歌山県立医科大学外科学第2講座)

CQ3-1

高橋秀典,石川 治(大阪府立成人病センター外科)

CQ3-2

矢澤直樹,古川大輔(東海大学医学部消化器外科)

CQ3-3

下瀬川徹(東北大学大学院医学系研究科消化器病態学分野)

CQ4

中村 晶(京都大学医学部附属病院放射線治療科)
高橋昌太郎(山口大学大学院医学系研究科放射線治療学分野)

CQ5-1

田口雅史(産業医科大学医学部第3内科学)

CQ5-2

田口雅史(産業医科大学医学部第3内科学)

CQ5-3

池田公史(国立がん研究センター東病院肝胆膵内科)
森実千種,上野秀樹(国立がん研究センター中央病院肝胆膵内科)
小倉孝氏(国立がん研究センター中央病院肝胆膵内科,現医薬品医療機器総合機構新薬審査第五部)
松原淳一(国立がん研究センター中央病院肝胆膵内科,現スタンフォード大学医学部幹細胞学再生医学研究所)
藤井 努,鹿野敏雄,石川忠雄,井上総一郎,菅江 崇,竹田 伸(名古屋大学大学院医学系研究科病態外科学消化器外科学)
船越顕博(国際医療福祉大学福岡山王病院)
澄井俊彦(国立病院機構小倉医療センター消化器内科)
中村太一,藤森 尚,大野隆真,新名雄介,五十嵐久人,内田匡彦(九州大学大学院医学研究院病態制御内科学)

CQ5-4

春日章良,北村 浩,高須充子(杏林大学医学部内科学腫瘍内科)

CQ6

今岡 大(愛知県がんセンター中央病院消化器内科部)

CQ6-3

辻野 武,平野賢二,中井陽介,山川夏代,外川 修,木暮宏史,佐々木隆,川久保和道,宮林弘至,高原楠昊(東京大学医学部消化器内科)

CQ6-4

飯星知博(JA広島厚生連尾道総合病院消化器内科)
山雄健太噤i近畿大学医学部消化器内科)
佐上晋太郎,佐々木民人,芹川正浩(広島大学大学院医歯薬保健学研究院応用生命科学部門消化器・代謝内科)

(順不同)