ガイドラインの使用上の注意

1.ガイドラインの使用上の注意

⑴ ガイドラインの対象とした診療行為

本ガイドラインでは,がん疼痛の治療法のうち,最も使用頻度が高いと考えられる薬物療法を中心に扱っている。がん患者の痛みは身体的苦痛としてのみではなく,精神的,社会的,スピリチュアルな苦痛,いわゆるトータルペインとしての理解が必要である。外科治療,放射線治療,化学療法,神経ブロック,マッサージなどの非薬物療法は本ガイドラインでは中心としては扱っていないが,これらの方法が重要でないという理由ではなく,今後,日本緩和医療学会以外の関連学会とも合同で検討する必要があるため,本ガイドラインでは詳細な検討を見合わせたためである。また,疼痛治療が十分に効果のない痛みに対して苦痛緩和のための鎮静を検討する場合には,「苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン2010 年版」(日本緩和医療学会)を参照されたい。

⑵ 対象患者

がん疼痛のあるすべてのがん患者を対象とする。

⑶ 効果の指標

本ガイドラインにおいては,痛みと生命の質(quality of life)を効果の指標とする。何が生命の質を決定するかは,患者・家族の価値観によって異なるため,画一的には決定できない。痛みの治療を行う場合でも,痛み以外の患者によって重要なこと(例えば,眠気が少ないこと,食欲があること,生活に不便でない疼痛治療であることなど)が満たされるような方法を考えることが重要である。

⑷ 使用者

対象患者を診療する医師,看護師,薬剤師などを含む医療チームを使用者とする。

⑸ 個別性の尊重

本ガイドラインは,ガイドラインに従った画一的なケアを勧めるものではない。ガイドラインは臨床的,科学的に満たすべき一般的な水準を示しているが,個々の患者への適用は,対象となる患者の個別性に十分配慮し,医療チームが責任をもって決定するべきものである。

⑹ 定期的な再検討の必要性

2017 年末までに内容の再検討をする(改訂責任者:日本緩和医療学会理事長)。

⑺ 責 任

本ガイドラインの内容については日本緩和医療学会が責任をもつが,個々の患者への適用に関しては患者を直接担当する医師が責任をもつ。

⑻ 利害関係

本ガイドラインの作成にかかる費用は日本緩和医療学会より拠出された。本ガイドライン作成のどの段階においても,ガイドラインで扱われている内容から利害関係を生じうる団体からの資金提供は受けていない。また,ガイドラインに参加した委員の状況を確認したところ,一部の委員について企業間との研究・講演活動などに通じた利益相反は存在していたが(Ⅳ-1-2-7 参照),本ガイドラインの推奨内容は,エビデンスに基づくものであり,特定の団体や製品・技術との利害関係により影響を受けたものではない。また,特定の委員の意向が反映しないよう,複数のステアリング委員による合意形成を経て完成された。

2.ガイドラインの構成とインストラクション

本ガイドラインの構成は以下のとおりである。

「Ⅰ章 はじめに」では,「ガイドライン作成の経緯と目的」でガイドラインを作成した目的を記載し,「ガイドラインの使用上の注意」でガイドラインの対象としている状況や使用上の注意を説明した。「推奨の強さとエビデンスレベル」では,本ガイドラインで使用されている推奨の強さとエビデンスレベルを決定する過程が記載されている。「用語の定義と概念」ではガイドラインで使用する用語の定義を明確にしている。

「Ⅱ章 背景知識」では,「がん疼痛の分類・機序・症候群」,「痛みの包括的評価」,「WHO 方式がん疼痛治療法」,「薬理学的知識」,「麻薬に関する法的・制度的知識」,「患者のオピオイドについての認識」,「がん疼痛マネジメントを改善するための組織的な取り組み」について,がん疼痛治療を行ううえでの基礎知識をまとめている。また,「薬物療法以外の痛み治療法」では,日本放射線腫瘍学会,日本ペインクリニック学会,日本インターベンショナルラジオロジー学会に依頼して,放射線治療,神経ブロック,経皮的椎体形成術(骨セメント)に関して知っておくべき基礎知識を紹介していただいた。

ガイドラインの主要部分は「Ⅲ章 推奨」であり,この部分で65 の臨床疑問について,臨床疑問,関連する定式化した臨床疑問,推奨,解説,既存のガイドラインとの整合性,文献を述べた。推奨では薬剤の投与量,投与方法については詳細を示さず,背景知識に記載することとした。また,構造化抄録はガイドラインに示さなかったが,推奨の「解説」において個々の論文の概要がわかるように記載した。

「Ⅲ章 推奨」は,「共通する疼痛治療」,「オピオイドによる副作用」,「がん疼痛マネジメントにおける患者教育」,および,「特定の病態による痛みに対する治療」に分かれている。「共通する疼痛治療」では,非オピオイド鎮痛薬(NSAIDs とアセトアミノフェン)・オピオイドによる疼痛治療に関する推奨をまとめており,これはどのような痛みの病態であっても共通して行うものであるため,「共通する疼痛治療」とした。「オピオイドによる副作用」では,悪心・嘔吐,便秘,眠気,せん妄といったオピオイドによって発現する副作用への対策に関する推奨をまとめた。「がん疼痛マネジメントにおける患者教育」では,オピオイドの説明や服薬指導などの患者教育に関する推奨をまとめた。「特定の病態による痛みに対する治療」では,非オピオイド鎮痛薬・オピオイド以外の鎮痛手段が必要となることが多い病態として,神経障害性疼痛,骨転移による痛みなど,性質や部位による痛みごとに特徴となる推奨をまとめた。

最後に,「Ⅳ章 資料」として,「作成過程」ではガイドラインを作成した経緯,各臨床疑問で使用した「文献の検索式」を掲載した。今回のガイドラインでは十分に検討できなかった課題を「今後の検討課題」としてまとめ,欧米で出版されているがん疼痛のガイドラインの主要部分を要約して「海外他機関による疼痛ガイドラインの抜粋」として示した。

3.日本緩和医療学会の他の教育プログラムとの関連

本ガイドラインでは,現在得られる知見をもとに専門家の合意を得るためのコンセンサス法を用いた。そのため,いくつかの点において,「医師に対する緩和ケアの基本教育プログラム」(PEACE;Palliative care Emphasis program on symptom management and Assessment for Continuous medical Education)において,本ガイドライン作成前に作成された教育資料と相違が認められる。それらの教育資料との整合性については,随時日本緩和医療学会ホームページで情報を提供する。

(余宮きのみ,森田達也)

<推奨の強さとエビデンスレベル>に続く