作成にあたって

「腎盂・尿管癌診療ガイドライン」の初版をここにお届けいたします。日本泌尿器科学会ではこれまでに泌尿器系腫瘍のガイドラインとして,腎癌,膀胱癌,前立腺癌,精巣腫瘍の診療ガイドラインを作成しております。2012 年に「膀胱癌診療ガイドライン」を改訂することが議論された折に,同じ尿路上皮腫瘍である腎盂・尿管癌を含めて尿路上皮癌診療ガイドラインとして編集することが検討されました。しかし,病理学的には共通していることが多いにしても,治療方針を立てる際の考え方は異なり,同じ冊子にまとめることは混乱を招くものと判断し,独立したガイドラインとして「腎盂・尿管癌診療ガイドライン」を作成することに決定いたしました。しかし,尿路上皮癌診療ガイドラインとして作成することを支持する意見として,「尿路上皮癌取扱い規約」は膀胱癌と腎盂・尿管癌の両者を含んで作成されていること,腎盂・尿管癌のガイドラインを独立させても,十分な数のクリニカルクエスチョンが作成できず,作成されたとしても回答の質を担保するエビデンスがないのでは,との意見がありました。一方,European Association of Urology(EAU)は2004 年にすでに腎盂・尿管癌ガイドラインを発刊し,現在までに二度の改訂を重ねております。エビデンスの乏しい腎盂・尿管癌に対して本委員会は実際の臨床で最も重要と考えるクリニカルクエスチョンを抽出し,可能な限りのエビデンスを集積して回答を作成いたしました。エビデンスが不十分であることを明記した上で,今後のエビデンスの構築のために役立つように記載するよう心がけ,さらに全員の合議のもと推奨グレードを決定する方針といたしました。

本ガイドラインは腎盂・尿管癌の診療に携わる医師を対象にしています。日常診療に必要と考えられるクリニカルクエスチョンを厳選し,疫学,診断,外科手術,全身化学療法・その他と大きく分類し,各々に総論を設けています。総論を設けた理由は,腎盂・尿管癌の全体像が把握できるようにし,通読しやすくするためです。日本図書館協会の協力のもとで文献を網羅的に抽出し,担当委員が適切なエビデンスを選定し,クリニカルクエスチョンの回答を作成いたしました。また「Minds 診療ガイドライン作成の手引き2007」に準拠し推奨グレードを作成しております。出来上がったすべてのクリニカルクエスチョンの回答について委員全員によるcritical reading を行い,合議を重ねて推奨グレードを決定いたしました。なおこの度,腎盂・尿管癌診療の一助として診断・治療のアルゴリズムも作成いたしました。

本ガイドラインに対して忌憚のないご意見を頂ければ幸いです。皆様の診療の一助となることを委員一同願っております。

平成26 年3 月

腎盂・尿管癌診療ガイドライン作成委員長
慶應義塾大学医学部泌尿器科
大家基嗣