刊行に寄せて

われわれ外科医はさまざまな癌に対して,原発巣と所属リンパ節にはびこる病巣のすべてを切除するために手術を行い,ときには放射線療法や化学療法も駆使して,なんとか目の前の癌から患者の命を守るために力を尽くすのである。かつて癌イコール死の病と考えられていた時代,このようなリンパ節郭清や術後照射によって二次的に生じる腕や脚のリンパ浮腫は,「命と引き換えにやむを得なかったもの」として,残念ながらその予防や治療が注視されることのないまま長い年月が経過してきた。その名残りのように,癌診療においては「何事も科学的根拠に基づいた診療」が当たり前になった21 世紀にあっても,後遺症であるリンパ浮腫だけがEvidence─based Medicine の潮流からやや隔絶された扱いであった感は否めない。

そんな中,2008 年にリンパ浮腫に対する予防指導や圧迫のための材料が保険診療の俎上にあがったことは,治療のためとはいえ「リンパ浮腫をつくってしまう」立場の者にとっては非常にありがたく,と同時に身の引き締まる思いがしたものである。上記診療報酬が申請された時を同じくして,「リンパ浮腫診療ガイドライン2008 年度版(初版)」のゲラが刷り上がり,採択の内示から発効に向けた官報作成の際には大いに活用されたと聞いており,まさにEBM によって勝ち取った保険収載であったことは周知のとおりである。こうして出版されたリンパ浮腫領域初の診療ガイドラインは,急きょリンパ浮腫診療を日常業務に組み込むことになり戸惑っていた医療者にとって文字通りの道しるべであった。本ガイドラインが改訂を経て,多職種にわたる学協会から推薦を得ているという事実が,その役割の重要性を物語っている。

このたびの改訂では,①総論のさらなる充実,②より現場に即したクリニカルクエスチョンの追加,③推奨グレードの明確化など,直接診療に携わる医療者が科学的根拠に基づいて迷わず適正な治療を選択できるようにという配慮が随所になされ,明らかにレベルアップしている。そこで日本癌治療学会では,「リンパ浮腫診療ガイドライン2014 年版」の完成を機に,編纂にあたった日本リンパ浮腫研究会をガイドライン委員会の参画組織として迎え,ガイドラインの評価や改訂に関する情報を共有するに至った。これによって,本ガイドラインがより多くの臨床医ならびにチーム医療の一翼を担うメディカルスタッフ必携の書となり,わが国のリンパ浮腫診療がますます活性化することを心から祈念するものである。

2013 年12 月

慶應義塾大学大学院医学研究科外科学教授
慶應義塾大学病院腫瘍センター長,副病院長
北川 雄光