本ガイドラインについて(2019 年版)

1.目的

臨床診療ガイドラインの目的は,本邦における肺癌患者の予後の延長と生活の質の向上をめざして,肺癌の診断や治療に関する推奨を明らかにし,日々の診療に役立てることである。肺癌に関して効果的・効率的な診断・治療法を体系化し,効果的な保健医療を確立し,ひいては豊かで活力ある長寿社会を創造するための一翼を担うことをめざしている。

2.改訂について

本邦の肺癌診療ガイドラインは,2003 年に初版,2005 年に改訂第2版が発行された。2011 年以降は重要なエビデンスへの対応を迅速に行うため,毎年WEB 上で公開してきた。2014 年にはガイドラインの整備が一段落したため冊子が発刊され,2 年毎の冊子化を計画し,2016 年版を発刊した。2016 年版では初めて悪性胸膜中皮腫診療ガイドライン,胸腺腫瘍診療ガイドラインを加えた。免疫療法や分子標的治療分野の急速な進歩を反映すべく,2017 年にもⅣ期非小細胞肺癌の薬物療法の分冊を発刊した。2018 年には,全領域でGRADE システムを取り入れた。今回の2019 年WEB 版では,薬物療法・放射線療法に関する記述を改訂し,緩和に関するCQを新規に作成した。

3.本ガイドラインの適応が想定される対象者,および想定される利用対象者

本ガイドラインは,肺癌の疑われる患者,肺癌と診断された患者を対象集団として検討した。利用対象者は,肺癌診療に携わる医師をはじめ,薬剤師・看護師などのすべての医療者である。一般の方々にとっては専門的すぎる内容もみられるが,肺癌診療医とともに御覧になっていただきたい。また,患者向けガイドラインが発刊されたので,参考にしていただきたい。

4.使用上の注意

本ガイドラインは,あくまでも標準的治療を示した参考資料である。個々の患者の病態や医療施設の体制は異なるため,治療方針は個々の患者に応じて,医療者と患者の話し合いで決定されるものである。本ガイドラインは医療を強制したり医療者の裁量権を制限したりするものではない。

5.GRADE に基づく推奨度について

2018 年版の肺癌診療ガイドラインから,世界標準のガイドライン作成手法であるGRADE アプローチを全領域において取り入れており,2019 年版の改訂も同様である。
 従来どおりの樹形図に基づく標記は残しながら,記載については,各領域のクリニカルクエスチョン(CQ)毎にシステマティックレビュー(SR)を行い,これらに対する推奨度を策定している。

GRADE の表記は数字(1 か2)+英語(A からD)の組み合わせからなるが,最初に決定されるのは数字の末尾についている英語表記で,これはエビデンスの強さを示す。エビデンスの評価は従来の手法では各文献に対して行ってきたが,GRADE ではCQ に対するエビデンス総体に対して評価する(表1)。エビデンスの解釈にあたっては生物統計学者に批判的吟味を依頼し,近年様々に報告されているメタ解析の質の評価やサブセット解析の意義などについて検討を行っている。

表1 エビデンス総体のエビデンスの強さ
表1 エビデンス総体のエビデンスの強さ

次に前方の数字が決定されるが,これが推奨度を示す。GRADE アプローチの推奨度は,まったくの中立地点を起点として「行う・行わない」という2 つの方向性を「推奨する(=1)・提案する(=2)」という2つの強さで示す(図1)。従来の推奨度ではAを最高評価としB・C(1・2)・Dと連なる5段階評価であったが,①GRADE では1 と2 の2 段階になること,②数字と英語の関係性が独立していることに注意が必要である。つまり,推奨度が1 であれば1A でも1Bで も(エビデンスの強さに差はあれ)同じように「推奨される」のである。なお,そうは言っても「行う・行わない」の2 元論では表現しづらい命題もあり,これについては「行うよう勧めるだけの根拠が明確でない」としている。

図1 GRADE に基づいた推奨度
図1 GRADE に基づいた推奨度

推奨度の決定については,エビデンスの強さを基にしつつ,臨床的有用性の大きさ・その臨床適応性・有害事象なども踏まえて委員会で議論を尽くし,最終的に60%以上の賛同を得られた結果を記載している。また,医師のみならず,薬剤師,看護師,患者団体代表者を加えており,必要に応じて多職種による推奨度の評価を行った。

GRADE アプローチを採用した収穫として,従来の課題であった稀少な遺伝子変異/転座陽性例に対する分子標的治療薬の推奨度決定が挙げられる。一方で,エビデンスの質が低い場合に「臨床的有用性」だけが独り歩きする懸念もある。前述した多職種でのアプローチに加え,外科療法・放射線療法を含めた判定が必要な場合には外科療法小委員会・放射線治療及び集学的治療小委員会と合同で会議を行った。

6.資金源・利益相反(COI)について

ガイドライン作成のための費用はすべて日本肺癌学会が負担した。作成委員は会議参加のための交通費,宿泊費の支給は受けたが,文献入手に関わる費用,原稿作成,会議参加に対しての報酬は受け取らなかった。

また,すべての委員が,利益相反管理委員会においてガイドライン作成委員就任の適格性について審査を受け承認され,日本肺癌学会のCOI 規定に基づき申告を行った

7.一部の委員が助成を受けている企業名一覧(30 社)
アステラス製薬株式会社 アストラゼネカ株式会社
アッヴィ合同会社 イーピーエス株式会社
EPクルーズ株式会社 イグナイタ社
エイツーヘルスケア株式会社 エーザイ株式会社
MSD 株式会社 小野薬品工業株式会社
キッセイ薬品工業株式会社 杏林製薬株式会社
協和発酵キリン株式会社 グラクソ・スミスクライン株式会社
第一三共株式会社 大鵬薬品工業株式会社
武田薬品工業株式会社 中外製薬株式会社
日本イーライリリー株式会社 日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
ノバルティス・ファーマ株式会社 バイエル薬品株式会社
ファイザー株式会社 富士フイルム株式会社
ブリストル・マイヤーズスクイブ株式会社 有限会社メディカル・カウンシル
メディネット山梨有限会社 メルクバイオファーマ株式会社
ヤンセンファーマ株式会社 ライフテクノロジーズジャパン株式会社