疼痛管理 〜治療ガイドライン

ガイドライン文中の文献番号から,該当する参考文献一覧を参照することができます

目次:


推奨の概要〜OVERVIEW〜

※図中の→参照をクリックすると解説へ移動します。

痛みの包括的評価(→参照) 特定の病態による痛み(→参照) 神経障害性疼痛(→参照) 上腹部の痛み(→参照) 悪性腸腰筋症候群による痛み(→参照) 胸部の痛み(→参照) 骨転移による痛み(→参照) 会陰部の痛み 消化管閉塞による痛み(→参照) 共通する疼痛治療(→参照) 鎮痛薬が投与されていない軽度の痛み(→参照) 非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない、または、中等度以上の痛み(→参照) 患者教育(→参照) 持続痛が緩和されていない場合(→参照) 突出痛が緩和されていない場合(→参照) オピオイドによる副作用(→参照) 悪心・嘔吐(→参照) 便秘(→参照) 眠気(→参照) せん妄(→参照)

1.痛みの評価と原因に応じた対応

痛みの包括的評価を行う。包括的評価には,痛みの原因の評価と痛みの評価が含まれる。

1 )痛みの原因の評価

痛みの原因の評価では,がんによる痛み,がん治療による痛み,がん・がん治療と直接関連のない痛み,オンコロジーエマージェンシー,特定の病態による痛みを評価する。

がんによる痛みでは鎮痛薬の投与などの痛みに対する治療とともに,外科治療,化学療法,放射線治療などの腫瘍そのものに対する治療を検討する。

がん治療による痛み(術後痛症候群,化学療法後神経障害性疼痛など)やがん・がん治療と直接関連のない痛み(脊柱管狭窄症,帯状疱疹など)では原因に応じた治療を行う。

痛みがオンコロジーエマージェンシー(脊髄圧迫症候群,骨折・切迫骨折,感染症,消化管の閉塞・穿孔・出血など)の症状であることがあるので,痛みへの対応のみでなく,痛みを生じている病態の把握と原因への対応を行う。

特定の病態による痛みとしては,神経障害性疼痛1,骨転移による痛み,上腹部の痛み,胸部の痛み,会陰部の痛み,悪性腸腰筋症候群2 による痛み,消化管閉塞による痛みがある。それぞれ,鎮痛補助薬3,神経ブロックなど異なる鎮痛手段があるので共通する疼痛治療を行うとともに検討する。

2 )痛みの評価

痛みの評価では,痛みの日常生活への影響,痛みのパターン(持続痛か突出痛4 か),痛みの強さ,痛みの部位,痛みの経過,痛みの性状,痛みの増悪因子と軽快因子,現在行っている治療の反応,および,レスキュー薬の効果と副作用について評価する。


1:神経障害性疼痛

痛覚を伝える神経の直接的な損傷やこれらの神経の疾患に起因する痛み。灼熱痛,電撃痛,痛覚過敏,感覚過敏,アロディニアなどを伴うことがある。難治性で鎮痛補助薬の併用を必要とすることが多い。参照

2:悪性腸腰筋症候群

腸腰筋内の悪性疾患の存在により起こる鼠径部・大腿・膝の痛み。身体所見として,患側の第1〜4 腰椎神経領域の神経障害,腸腰筋の攣縮を示唆する股関節屈曲固定がみられる。参照

3:鎮痛補助薬

主たる薬理作用には鎮痛作用を有しないが,鎮痛薬と併用することにより鎮痛効果を高め,特定の状況下で鎮痛効果を示す薬物(抗うつ薬,抗けいれん薬,NMDA 受容体拮抗薬など)。非オピオイド鎮痛薬やオピオイドだけでは痛みを軽減できない場合に選択される。参照

4:突出痛(breakthrough pain)

持続痛の有無や程度,鎮痛薬治療の有無にかかわらず発生する一過性の痛みの増強。参照

2.非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療(「共通する疼痛治療」)

1 )鎮痛薬が投与されていない軽度の痛み

鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みの患者に対しては,非オピオイド鎮痛薬(NSAIDs またはアセトアミノフェン)を開始する。腎機能障害・消化性潰瘍・出血傾向がある患者には,アセトアミノフェンを使用する。NSAIDs を投与する場合には,消化性潰瘍の予防を検討する。鎮痛効果が不十分な場合には,オピオイドを開始することを原則とする。

2 )非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または中等度以上の痛み

非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または,中等度以上の痛みの患者に対してはオピオイドを開始する。オピオイドは,可能な投与経路,合併症,併存症状,痛みの強さなど患者の状態に応じて,コデイン,トラマドール,モルヒネ,オキシコドン,フェンタニルのいずれかを使用する。オピオイドの開始に伴って生じる可能性のある悪心・嘔吐および便秘の対策を検討する。

3 )オピオイドが投与されても十分な鎮痛効果が得られない痛み

オピオイドが投与されている患者に痛みがある時には,まず持続痛か突出痛かを区別する。

(1)持続痛が緩和されていない場合

持続的な痛みが緩和されていない場合は,オピオイドによる副作用(悪心・嘔吐,眠気など)がなければ,オピオイドの定期投与量の増量を行う。オピオイドによる副作用がある場合は,副作用対策を行いながらオピオイドの定期投与量を増量するか,または,オピオイドスイッチングを検討する。

鎮痛効果が不十分な場合は,非オピオイド鎮痛薬をオピオイドと併用,オピオイドスイッチング,他のオピオイドを追加,投与経路の変更,鎮痛補助薬をオピオイドと併用,または神経ブロックなどを検討する。

(2)突出痛が緩和されていない場合

突出痛が緩和されていない場合は,予測できる突出痛,予測できない突出痛,および定時鎮痛薬の切れ目の痛み(end-of-dose failure)に分類する。予測できる突出痛では,誘発する刺激を避け,痛みを誘発する刺激の前にレスキュー薬の投与を行う。定時鎮痛薬の切れ目の痛みに対しては,定期投与量の増量・投与間隔の短縮を行う。いずれも,突出痛に対しては,オピオイドのレスキュー薬を投与する。

鎮痛効果が不十分な場合は,非オピオイド鎮痛薬をオピオイドと併用,レスキュー薬の増量,定期投与量の増量,神経ブロックなどを検討する。

3.オピオイドによる副作用

オピオイドが投与された患者において発現しうる主な副作用は,悪心・嘔吐,便秘,眠気,せん妄である。

オピオイドが投与をされている患者に悪心・嘔吐,便秘,眠気,せん妄が生じた時は,症状の原因を評価し,治療を検討する。オピオイド以外にこれらの症状を生じる合併症を見落とさないことが重要である。オピオイドによる症状の場合は,投与量が患者に適切であるかをまず検討し,減量を検討する。

1 )悪心・嘔吐

オピオイドによる悪心・嘔吐には,想定される悪心・嘔吐の機序に合わせて制吐薬(ドパミン受容体拮抗薬,消化管蠕動亢進薬,または抗ヒスタミン薬)を投与する。効果不十分な場合は,制吐薬を併用,制吐薬を変更,オピオイドスイッチング,投与経路の変更,神経ブロックなどによるオピオイドの減量・中止などを検討する。

2 )便 秘

オピオイドによる便秘には,下剤(浸透圧性下剤,または大腸刺激性下剤)を投与する。効果不十分な場合は,下剤の併用,オピオイドスイッチング,神経ブロックなどによるオピオイドの減量・中止を検討する。

3 )眠 気

オピオイドによる眠気には,眠気の強度と苦痛の程度を評価する。精神刺激薬,オピオイドスイッチング,投与経路の変更,神経ブロックなどによるオピオイドの減量・中止を検討する。

4 )せん妄

オピオイドによるせん妄に対しては,抗精神病薬の投与,オピオイドスイッチング,オピオイドの投与経路の変更のいずれかを行う。効果不十分な場合は,神経ブロックなどによるオピオイドの減量・中止を検討する。

4.がん疼痛マネジメントにおける患者教育

疼痛治療を受ける患者に対しては,患者教育を行う。患者教育は,患者個別に応じて,継続して行うことが重要である。教育内容としては,痛みとオピオイドに関する正しい知識,痛みの治療計画と鎮痛薬の具体的な使用方法,医療従事者への痛みの伝え方,非薬物療法と生活の工夫,セルフコントロールを含める。

5.特定の病態による痛み

特定の病態による痛みに対しては,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療(「共通する疼痛治療」)に加えて,それぞれの病態にそった治療を検討する。

がんによる神経障害性疼痛には,鎮痛補助薬(抗けいれん薬,抗うつ薬,NMDA 受容体拮抗薬,抗不整脈薬,コルチコステロイド)の投与を行う。鎮痛補助薬は,薬剤に生じやすい副作用と痛みを生じている病態から選択する。効果不十分な場合には,鎮痛補助薬の併用・変更,神経ブロックを検討する。骨転移による痛みには,予測される生命予後を検討したうえでビスホスホネート,デノスマブなどのbonemodifying agents(BMA)の投与の検討や,神経ブロックの適応を専門家に相談する。上腹部の痛みには,腹腔神経叢ブロックなどの神経ブロックの適応についてなるべく早い時期に専門家に相談する。胸部の痛みには,硬膜外ブロック,肋間神経ブロック,神経根ブロック,クモ膜下フェノールブロックなどの神経ブロックの適応を専門家に相談する。会陰部の痛みには,サドルブロックなど神経ブロックの適応を専門家に相談する。悪性腸腰筋症候群で腸腰筋の攣縮がみられる場合には筋弛緩薬の投与を検討し,また神経ブロックの適応について専門家に相談する。消化管閉塞による痛みには,消化管分泌抑制薬(オクトレオチド酢酸塩,ブチルスコポラミン臭化物)とコルチコステロイドの投与を検討する。

(余宮きのみ)


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  共通する疼痛治療

鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者

 鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して,有効な治療は何か?

関連する臨床疑問
  1. ►1鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して,行うべき評価は何か?
  2. ►2鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して,アセトアミノフェンは,プラセボに比較して痛みを緩和するか?
  3. ►3鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して,NSAIDsは,プラセボに比較して痛みを緩和するか?
  4. ►4鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して,ある非オピオイド鎮痛薬(NSAIDs・アセトアミノフェン)は,他の非オピオイド鎮痛薬に比較して痛みを緩和するか?
  5. ►5痛みでNSAIDs が投与されているがん患者において,プロスタグランジン製剤,プロトンポンプ阻害薬,H2受容体拮抗薬は,プラセボに比較して胃潰瘍の発生を予防するか?

推奨


  1. ►1痛みの原因の評価と痛みの評価を行う。
  2. ►2 鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して,アセトアミノフェンを使用する。
    1A
    (強い推奨,高いエビデンスレベル)
  3. ►3鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して,NSAIDs を使用する。
    1B
    (強い推奨,低いエビデンスレベル)
  4. ►4鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して,個々の患者において有効かつ認容性のある非オピオイド鎮痛薬を使用する。
    1B
    (強い推奨,低いエビデンスレベル)
  5. ►5痛みでNSAIDs が投与されているがん患者において,プロスタグランジン製剤,プロトンポンプ阻害薬,高用量のH2受容体拮抗薬のいずれかを使用する。
    1A
    (強い推奨,高いエビデンスレベル)

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►臨床疑問1

鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して,行うべき評価は何か?

推奨


痛みの原因の評価と痛みの評価を行うⅡ-2 痛みの包括的評価の項参照)

解説
1 )痛みの原因を身体所見や画像検査から評価する

がんによる痛みでは鎮痛薬の投与などの痛みに対する治療とともに,外科治療,化学療法,放射線治療などの腫瘍そのものに対する治療を検討する。がん治療による痛み(術後痛症候群,化学療法後神経障害性疼痛など)やがん・がん治療と直接関連のない痛み(脊柱管狭窄症,帯状疱疹など)では原因に応じた治療を行う。痛みがオンコロジーエマージェンシー(脊髄圧迫症候群,骨折・切迫骨折,感染症,消化管の閉塞・穿孔・出血など)の症状であることがあるので,痛みの対応のみでなく,痛みを生じている病態の把握と原因への対応を行う。特殊な疼痛症候群(神経障害性疼痛,骨転移痛,上腹部の内臓痛,胸部痛,会陰部の痛み,消化管閉塞など)の場合にはそれぞれの対応を検討するⅢ-4 各項を参照)

2 )痛みの評価を行う

痛みの日常生活への影響,痛みのパターン(持続痛か突出痛か),痛みの強さ,痛みの部位,痛みの経過,痛みの性状,痛みの増悪因子と軽快因子について評価する。


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►臨床疑問2

鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して,アセトアミノフェンは,プラセボに比較して痛みを緩和するか?

推奨


鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して,アセトアミノフェンは,痛みを緩和する。


鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して,アセトアミノフェンを使用する。

1A
(強い推奨,高いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する臨床研究としては,系統的レビュー1 件がある。

McNicol ら1)による系統的レビューでは,アセトアミノフェンはがん患者の痛みに対してプラセボに比較し鎮痛効果が得られると結論づけられている。

Stambaugh ら2)による,転移性腫瘍による痛み(0〜4 のVRS で約2.4)のあるがん患者29 例を対象に,経口アセトアミノフェン650 mg/回とプラセボを比較した無作為化比較試験では,治療6 時間後の治療前との痛みの差は,プラセボ群が2.0 であったが,アセトアミノフェン群では2.3 と,より鎮痛効果がみられた。29 例中,副作用(鎮静,悪心,発疹,めまい)がみられたのは,プラセボ群が17%,アセトアミノフェン群が14%であり,群間差は認められなかった。

**

以上より,鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して,アセトアミノフェンは,プラセボに比較して痛みを緩和すると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して,アセトアミノフェンを使用することを推奨する(用量についてはⅡ-4-2-2 アセトアミノフェンの項参照)

既存のガイドラインとの整合性

NCCN のガイドライン(2012)では,オピオイドが投与されていない軽度の痛みのある患者に対しては,アセトアミノフェン(650 mg を4 時間毎,または1,000 mg を6 時間毎)の投与を検討することが推奨されている。

ESMO のガイドライン(2012)では,オピオイドが投与されていない軽度の痛みのある患者に対しては,アセトアミノフェンの投与を検討することが推奨されている。


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►臨床疑問3

鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して,NSAIDs は,プラセボに比較して痛みを緩和するか?

推奨


鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して,NSAIDs は,痛みを緩和する。


鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して,NSAIDs を使用する。

1B
(強い推奨,低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する臨床研究としては,系統的レビュー1 件がある。McNicol ら3)の系統的レビューでは,単回投与試験の無作為化比較試験7 件が含まれており,NSAIDs はプラセボに比べて有効であると結論づけられている。

例えば,Moertel ら(1971)4)による無作為化比較試験では,膵臓がんおよび大腸がん患者34 例を対象に,アスピリン650 mg/回,コデイン60 mg/回,プラセボを比較したところ,治療前の疼痛強度が6 時間後に50%以上低下した患者の割合は,プラセボ群21%に対し,アスピリン群では59%であった。

Moertel ら(1974)5)による無作為化比較試験では,痛みのあるがん患者100 例を対象に,アスピリン650 mg/回とプラセボを比較し,6 時間以内に疼痛強度が最小になった時の減少率は,プラセボ群が33%に対して,アスピリン群では51%であり,有意な鎮痛効果がみられた。

Stambaugh ら6)による無作為化比較試験では,がん疼痛のある患者160 例を対象に,ケトプロフェン100 mg/回,ケトプロフェン300 mg/回,アスピリン+コデイン,プラセボを比較したところ,投与前の疼痛強度に対する投与前後の疼痛強度の差の割合〔(投与前の疼痛強度-投与後疼痛強度)÷投与前の疼痛強度〕は,プラセボ群が36%に対して,ケトプロフェン100 mg 群が62%,ケトプロフェン300 mg 群が54%,アスピリン+コデイン群が53%であり,有意な鎮痛効果がみられた。

**

以上より,鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して,NSAIDs は痛みを緩和すると考えられる。本邦において使用可能なNSAIDs についての研究は限られているが,本邦で一般に使用されているNSAIDs についても同様に有効であると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,専門家の合意により,鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して,NSAIDs を使用することを推奨する。

ただし,上記のいずれの研究も単回投与の研究であることから,長期投与に関する有効性と副作用については十分明らかになっていないため,副作用には注意する。

既存のガイドラインとの整合性

NCCN のガイドライン(2012)およびESMO のガイドライン(2012)では,軽度のがん疼痛の第一段階としてNSAIDs の投与を検討するとされている。


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►臨床疑問4

鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して,ある非オピオイド鎮痛薬(NSAIDs・アセトアミノフェン)は,他の非オピオイド鎮痛薬に比較して痛みを緩和するか?

推奨


鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して,ある非オピオイド鎮痛薬が他の非オピオイド鎮痛薬に比較して,より痛みを緩和するとの根拠はない。


鎮痛薬が投与されていない軽度の痛みのあるがん患者に対して,個々の患者において有効かつ認容性のある非オピオイド鎮痛薬を使用する。

1B
(強い推奨,低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する臨床研究としては,無作為化比較試験11 件を含む系統的レビュー1 件があり,あるNSAIDs が他のNSAIDs に比較して優れていることを示唆する根拠はないと結論づけている(McNicol ら7))。

例えば,Saxena ら8)による無作為化比較試験では,痛みのある頭頸部がん患者50 例を対象に,経口ピロキシカム(20 mg を12 時間毎)と経口アスピリン(500 mg を6 時間毎)を比較したところ,4 日後の痛みのNRS1に両者の差はなかった(7.1→5.2 vs 5.8→3.3,p>0.05)。副作用として,アスピリン群では31%に軽度の上部消化管障害がみられたのに対しピロキシカム群では認められなかった(p<0.05)が,この他の副作用に差はなかった。

Turnbull ら9)による無作為化比較試験では,進行がん患者28 例を対象に,経口ナプロキセン(500 mg を12 時間毎)と経口アスピリン(600 mg を4 時間毎)を比較したところ,治療前後のVAS2の比(治療後7 日目のVAS÷治療前のVAS)に有意差は認められなかった(14% vs 14%,p>0.05)。副作用はなかった。

Ventafridda ら(1990a)10)による無作為化比較試験では,進行がん患者100 例を対象に,経口ナプロキセン(550 mg を12 時間毎)と経口ジクロフェナク(100 mg を12 時間毎)を比較したところ,14 日後のintegrated score(0〜240,疼痛強度(5 段階;0,2.5,5,7.5,10)と痛みの持続時間(0〜24)を掛け合わせた値)の平均値において,両群間に差はなかった(44→16 vs 41→17,p 値記載なし)。副作用は全体で胃痛40%,口渇31%,ジスペプシア(dyspepsia)26%,悪心20%であり,両者で有意な差はなかった。

Ventafridda ら(1990b)11)による無作為化比較試験では,がん患者65 例を対象に,ナプロキセン250 mg/回(1 日3 回),ジクロフェナク100 mg/回(1 日2 回),インドメタシン50 mg/回(1 日3 回),イブプロフェン600 mg/回(1 日3 回),アスピリン600 mg/回(1 日3 回),スリンダク300 mg/回(1 日2 回),アセトアミノフェン500 mg/回(1 日3 回)を比較したところ,1 週間の痛みのVAS の減少率は,ナプロキセン群71%,ジクロフェナク群67%,インドメタシン群63%,イブプロフェン群59%,アスピリン群40%,スリンダク群38%,アセトアミノフェン群27%であった。副作用は,口渇39%,胸焼け15%,悪心10%で,治療中止は37%であった。ナプロキセン,ジクロフェナク,インドメタシンは比較的有効性が高いように思われたが,いずれかのNSAIDs が他のものに比較して優れていることを結論できなかった。

**

以上より,国内で使用可能なNSAIDs を含む質の高い比較研究はほとんどないため結論を得ることはできないものの,ある非オピオイド鎮痛薬が他の非オピオイド鎮痛薬に比較して,鎮痛効果と副作用について,優れていることを示す根拠はない。

したがって,本ガイドラインでは,専門家の合意により,個々の患者において,有効かつ認容性のある非オピオイド鎮痛薬を使用することを推奨する。

あるNSAIDs で鎮痛効果が得られない場合には,オピオイドの開始を検討することを原則とするが,痛みが軽度である場合には,他のNSAIDs への変更(NSAIDs の変更は2 種類までにとどめる),あるいは,NSAIDs とアセトアミノフェンとの併用を検討してもよい。


1:NRS(numerical rating scale)

痛みを0 から10 の11 段階に分け,痛みが全くないのを0,考えられるなかで最悪の痛みを10 として,痛みの点数を問うもの。参照

2:VAS(visual analogue scale)

100 mm の線の左端を「痛みなし」,右端を「最悪の痛み」とした場合,患者の痛みの程度を表すところに印を付けてもらうもの。参照

[選択的COX-2 阻害薬]

選択的COX-2阻害薬については,非がん患者において従来のNSAIDs に比較して鎮痛効果は同等であることが示唆されているが,がん患者を対象として鎮痛効果を検討した無作為化比較試験がない。したがって,本ガイドラインでは,選択的COX-2 阻害薬の鎮痛効果については検討の対象としなかった。


:COX-2

プロスタグランジン合成に関わる酵素。1 型と2 型がありCOX-2 は炎症などの刺激で発現する。選択的COX-2 阻害薬は,抗炎症・鎮痛作用を発揮する。

既存のガイドラインとの整合性

NCCN のガイドライン(2012)では,個々の患者において過去に有効かつ十分認容できることがわかっているNSAIDs であれば,どのNSAIDs を使用してもよいと推奨されている。さらに,2 種類のNSAIDs が無効な場合は,NSAIDs 以外の鎮痛法をとることが推奨されている。また,NSAIDs が有効ではあるが,重度ではない副作用がある場合には,他のNSAIDs への変更を検討することが推奨されている。


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►臨床疑問5

痛みでNSAIDs が投与されているがん患者において,プロスタグランジン製剤,プロトンポンプ阻害薬,H2受容体拮抗薬は,プラセボに比較して胃潰瘍の発生を予防するか?

推奨


痛みでNSAIDs が投与されているがん患者において,プロスタグランジン製剤,プロトンポンプ阻害薬,および,高用量のH2受容体拮抗薬は,プラセボに比較して胃潰瘍の発生を予防する。


痛みでNSAIDs が投与されているがん患者において,プロスタグランジン製剤,プロトンポンプ阻害薬,高用量のH2受容体拮抗薬のいずれかを使用する。

1A
(強い推奨,高いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に対しては,消化性潰瘍診療ガイドライン(2009)12)を用いて検討した。

プロスタグランジン製剤については無作為化試験12 件および系統的レビュー13)から,プロトンポンプ阻害薬については無作為化試験3 件と系統的レビューから,プラセボに比較しNSAIDs 潰瘍を予防すると結論づけられている。またH2受容体拮抗薬については,常用量で有効であるという根拠はないことが6 件の無作為化試験,系統的レビューから支持されており,高用量のH2受容体拮抗薬は胃潰瘍の予防に有効であることが,1 件の無作為化試験と1 件の系統的レビューから支持されている。高用量のH2受容体拮抗薬とは,消化性潰瘍の用量の2 倍量を指す。

**

以上より,プロスタグランジン製剤,プロトンポンプ阻害薬,高用量のH2受容体拮抗薬は,NSAIDs による消化性潰瘍を予防すると考えられる。これらの根拠となった臨床研究の対象は変形性関節症や関節リウマチであり,がん患者に適応できるとは限らないが,がん疼痛でNSAIDs を投与する場合においても適用しうると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,専門家の合意により,がん疼痛でNSAIDs を投与する場合においては,プロスタグランジン製剤,プロトンポンプ阻害薬,および,高用量のH2受容体拮抗薬のいずれかを使用することを推奨する。

また,薬物療法のみならず,NSAIDs に起因する消化性潰瘍を早期に発見するために,上腹部痛の身体所見,ヘモグロビン値などを定期的にチェックし,鎮痛効果が安定していれば,NSAIDs の継続投与が必要かを定期的に検討することが望ましい。具体的には,鎮痛効果が得られている場合にはNSAIDs をいったん減量し,鎮痛効果が変わらず得られていれば減量・中止を検討する。痛みが悪化する場合には継続投与する。

[選択的COX-2 阻害薬]

選択的COX-2 阻害薬については,非がん患者において,従来のNSAIDs に比較して,胃十二指腸潰瘍の発現率が少ないことが示唆されているが,がん患者に関する臨床試験はない。したがって,本ガイドラインでは,選択的COX-2 阻害薬の胃潰瘍予防については検討の対象としなかった。現在のところ,患者のリスク(胃潰瘍の既往,コルチコステロイドの併用,高齢者など)を個別に評価し,リスクがある場合には他のNSAIDs と同じように胃潰瘍の予防策をとることが妥当であると考えられる。

既存のガイドラインとの整合性

ESMO のガイドライン(2012)では,NSAIDs は,消化性潰瘍などの重篤な副作用を起こしうるので,定期的な副作用などのチェックと長期投与を控えることが必要だとしている。

NCCN のガイドライン(2012)では,NSAIDs 投与中は常に消化性潰瘍について観察し,症状が出現するようならNSAIDs を継続すべきかどうかを検討し,可能なら中止することが推奨されている。

(神谷浩平,余宮きのみ)

【文 献】

臨床疑問2

1) McNicol E, Strassels SA, Goudas L, et al. NSAIDS or paracetamol, alone or combined with opioids, for cancer pain. Cochrane Database Syst Rev 2005(1):CD005180

2) Stambaugh JE Jr. Additive analgesia of oral butorphanol/acetaminophen in patients with pain due to metastatic carcinoma. Curr Ther Res 1982;31:386-92

臨床疑問3

3) McNicol E, Strassels SA, Goudas L, et al. NSAIDS or paracetamol, alone or combined with opioids, for cancer pain. Cochrane Database Syst Rev 2005(1):CD005180

4) Moertel CG, Ahmann DL, Taylor WF, Schwartau N. Aspirin and pancreatic cancer pain. Gastroenterology 1971;60:552-3

5) Moertel CG, Ahmann DL, Taylor WF, Schwartau N. Relief of pain by oral medications. A controlled evaluation of analgesic combinations. JAMA 1974;229:55-9

6) Stambaugh JE Jr, Drew J. A double-blind pararell evaluation of the efficacy and safety of a single dose of ketoprofen in cancer pain. J Clin Pharmacol 1988;28(12 Suppl):S34-9

臨床疑問4

7) McNicol E, Strassels SA, Goudas L, et al. NSAIDS or paracetamol, alone or combined with opioids, for cancer pain. Cochrane Database Syst Rev 2005(1):CD005180

8) Saxena A, Andley M, Gnanasekaran N. Comparison of piroxicam and acetylsalicylic acid for pain in head and neck cancers:a double-blind study. Palliat Med 1994;8:223-9

9) Turnbull R, Hills LJ. Naproxen versus aspirin as analgesics in advanced malignant disease. J Palliat Care 1986;1(2):25-8

10) Ventafridda V, Toscani F, Tamburini M, et al. Sodium naproxen versus sodium diclofenac in cancer pain control. Arzneimittelforschung 1990a;40:1132-4

11) Ventafridda V, de Conno F, Panerai AE, et al. Non-steroidal antiinflammatory drugs as the first step in cancer pain therapy:double-blind, within-patient study comparing nine drugs. J Int Med Res 1990b;18:21-9

臨床疑問5

12) NSAIDs 潰瘍.日本消化器病学会編.消化性潰瘍診療ガイドライン,東京,南江堂,2009

※本臨床疑問は,消化性潰瘍診療ガイドライン(2009)から検討したため,消化性潰瘍診療ガイドラインが更新された場合は更新されたガイドラインを参照されたい.

【参考文献】

臨床疑問5

13) Rostom A, Dube C, Wells G, et al. Prevention of NSAID-induced gastroduodenal ulcers. Cochrane Database Syst Rev 2002(4):CD002296


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非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または,中等度以上の痛みのあるがん患者

 非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または,中等度以上の痛みのあるがん患者に対して,有効な治療は何か?

関連する臨床疑問
  1. ►6非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または,中等度以上の痛みのあるがん患者に対して,行うべき評価は何か?
  2. ►7非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または,中等度以上の痛みのあるがん患者に対して,オピオイドは,プラセボに比較して痛みを緩和するか?
  3. ►8非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または,中等度以上の痛みのあるがん患者に対して,あるオピオイドは,他のオピオイドに比較して痛みを緩和するか,副作用が少ないか?
  4. ►9オピオイドの製剤や投与方法により,鎮痛効果や副作用に差があるか?
  5. ►9-1モルヒネの速放性製剤は,徐放性製剤に比較して,痛みを緩和するか,副作用が少ないか?
  6. ►9-2モルヒネのある徐放性製剤は,他の徐放性製剤に比較して,痛みを緩和するか,副作用が少ないか?
  7. ►9-3モルヒネの24 時間徐放性製剤の朝1 回投与は,夜1 回投与に比較して,痛みを緩和するか,副作用が少ないか?
  8. ►10オピオイドを開始する時に,制吐薬を予防投与することは,投与しないことに比較して悪心・嘔吐を減少させるか?
  9. ►11オピオイドを開始する時に,下剤を投与することは,投与しないことに比較して便秘を減少させるか?
  10. ►12非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られないがん患者に対して,非オピオイド鎮痛薬を中止せずにオピオイドを開始することは,非オピオイド鎮痛薬を中止してオピオイドを開始することに比較して痛みを緩和するか?

推奨


  1. ►6痛みの原因の評価と痛みの評価を行う。
  2. ►7 非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または,中等度以上の痛みのあるがん患者に対して,オピオイドを使用する。
    1B
    (強い推奨,低いエビデンスレベル)
  3. ►8患者の状態(可能な投与経路,合併症,併存症状,痛みの強さなど)から,個々の患者にあわせたオピオイドを選択する。
    1B
    (強い推奨,低いエビデンスレベル)
  4. ►9-1中等度以下かつ安定している痛みでは,モルヒネの徐放性製剤と速放性製剤のいずれを使用してもよい。ただし,痛みが高度または不安定な場合には速放性製剤や持続注射を用いる。
    2B
    (弱い推奨,低いエビデンスレベル)
  5. ►9-2モルヒネ徐放性製剤はいずれのものを使用してもよい。
    1A
    (強い推奨,高いエビデンスレベル)
  6. ►9-3モルヒネの24 時間徐放性製剤は朝,夜のいずれに投与してもよい。
    1B
    (強い推奨,低いエビデンスレベル)
  7. ►10オピオイドを開始する時は,悪心・嘔吐について十分な観察を行い,悪心時として制吐薬をいつでも使用できる状況にしておき,悪心・嘔吐が継続する場合は数日間定期的に投与する。患者の状態によっては,オピオイドの開始と同時に制吐薬を定期的に投与してもよい。
    1C
    (強い推奨,とても低いエビデンスレベル)
  8. ►11オピオイドを開始する時は,患者の排便状態について十分な観察を行い,水分摂取・食事指導や下剤の投与など便秘を生じないような対応を行う。
    1C
    (強い推奨,とても低いエビデンスレベル)
  9. ►12非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない患者の痛みに対してオピオイドを開始する時には,非オピオイド鎮痛薬と併用する。
    2B
    (弱い推奨,低いエビデンスレベル)

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►臨床疑問6

非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または,中等度以上の痛みのあるがん患者に対して,行うべき評価は何か?

推奨


痛みの原因の評価と痛みの評価を行うⅡ-2 痛みの包括的評価の項参照)

解説
1 )痛みの原因を身体所見や画像検査から評価する

がんによる痛みでは鎮痛薬の投与などの痛みに対する治療とともに,外科治療,化学療法,放射線治療などの腫瘍そのものに対する治療を検討する。がん治療による痛み(術後痛症候群,化学療法後神経障害性疼痛など)やがん・がん治療と直接関連のない痛み(脊柱管狭窄症,帯状疱疹など)では原因に応じた治療を行う。痛みがオンコロジーエマージェンシー(脊髄圧迫症候群,骨折・切迫骨折,感染症,消化管の閉塞・穿孔・出血など)の症状であることがあるので,痛みの対応のみでなく,痛みを生じている病態の把握と原因への対応を行う。特殊な疼痛症候群(神経障害性疼痛,骨転移痛,上腹部の内臓痛,胸部痛,会陰部の痛み,消化管閉塞など)の場合にはそれぞれの対応を検討するⅢ-4 各項を参照)

2 )痛みの評価を行う

痛みの日常生活への影響,痛みのパターン(持続痛か突出痛か),痛みの強さ,痛みの部位,痛みの経過,痛みの性状,痛みの増悪因子と軽快因子,現在行っている治療の反応,および,レスキュー薬の鎮痛効果と副作用について評価する。

この他に,特に,オピオイドの選択のために,鎮痛薬の投与が可能な経路,合併症(特に腎機能障害),併存症状(特に便秘,呼吸困難)などについて評価する。


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►臨床疑問7

非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または,中等度以上の痛みのあるがん患者に対して,オピオイドは,プラセボに比較して痛みを緩和するか?

推奨


非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または,中等度以上の痛みのあるがん患者に対して,オピオイドは,痛みを緩和する。


非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または,中等度以上の痛みのあるがん患者に対して,オピオイドを使用する。

1B
(強い推奨,低いエビデンスレベル)

解説
1 )弱オピオイドを使用し効果が不十分であれば強オピオイドへ変更する方法

非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または,中等度以上のがん疼痛をもった患者に対して,WHO 方式がん疼痛治療法では,弱オピオイドを使用し,効果が不十分であれば強オピオイドへ変更する方法を推奨しており,複数の観察研究で有効性が示唆されているⅡ-3 WHO 方式がん疼痛治療法の項参照)

したがって,非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または,中等度以上のがん疼痛のある患者に対して,弱オピオイドを使用し鎮痛効果が不十分であれば強オピオイドへ変更する方法は,安全で有効であると考えられる。

2 )強オピオイドを最初から投与する方法

一方,がん疼痛の患者に対して強オピオイドを最初から投与する方法の有効性を検討した臨床研究として,2 つの無作為化比較試験がある。

Marinangeli ら1)による無作為化比較試験では,VAS(0〜10)で6 までのがん疼痛のある患者100 例を対象に,非オピオイド鎮痛薬と弱オピオイドを最初に投与し効果が不十分であれば強オピオイドを投与する治療と,強オピオイドを最初から投与する治療とを比較したところ,強オピオイドを最初から使用した群で1 週間後の痛みのVAS はより改善した(治療後変化値:-2.6 vs -1.9,p=0.041)。悪心は強オピオイドを最初から使用した群で多かったが(437 回 vs 315 回,p=0.0001),嘔吐,便秘,せん妄について有意差はなかった。いずれの群でも重篤な副作用は生じなかった。

Maltoni ら2)による無作為化比較試験では,非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない中等度の痛みのあるがん患者54 例を対象に,弱オピオイドを最初に投与し効果が不十分であれば強オピオイドを投与する治療と,強オピオイドを最初から投与する治療を比較したところ,強オピオイドを最初から使用した群で,観察した42 日間で痛みのNRS の最大が5 点以上になる日の割合は有意に少なく(29% vs 23%,p<0.001),7 点以上になる割合も有意に少なかった(11% vs 8.6%,p=0.023)。しかし,重度の食欲不振,便秘の頻度はいずれも強オピオイドを最初から投与した群に多かった(7.0% vs 13%,5.9% vs 18%)。

以上より,非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られないがん疼痛のある患者に対して強オピオイドを最初から投与する方法は,弱オピオイドを使用し鎮痛効果が不十分であれば強オピオイドへ変更する方法と同様に安全で有効であることが示唆される。

**

以上より,非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または,中等度以上のがん疼痛のある患者に対して,弱オピオイドを最初に投与し鎮痛効果が不十分であれば強オピオイドを投与する方法と,強オピオイドを最初から投与する方法とは,いずれも,安全で有効であると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または,中等度以上のがん疼痛のある患者に対して,オピオイドを使用することを推奨する。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2012)では,非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または軽度〜中等度の痛みがある場合にコデイン,トラマドール,低用量モルヒネ(30 mg/日以下),低用量オキシコドン(20 mg/日以下)を開始することを弱い推奨としている。

NCCN のガイドライン(2012)では,痛みが中等度の場合は強オピオイドを最初に投与することを推奨している。

ESMO のガイドライン(2012)では,中等度の痛みに対して,コデイン,トラマドールなどの弱オピオイドと非オピオイド鎮痛薬を併用することを推奨している。また,弱オピオイドの代わりに少量の強オピオイドと非オピオイド鎮痛薬を併用することも選択できるとしている。


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►臨床疑問8

非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または,中等度以上の痛みのあるがん患者に対して,あるオピオイドは,他のオピオイドに比較して痛みを緩和するか,副作用が少ないか?

推奨


非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または,中等度以上の痛みのあるがん患者に対して,あるオピオイドが他のオピオイドに比較してより痛みを緩和する根拠はない。副作用に関しては,オキシコドンとモルヒネはほぼ同等であり,フェンタニルはモルヒネに比べて便秘が少ない。


患者の状態(可能な投与経路,合併症,併存症状,痛みの強さなど)から,個々の患者にあわせたオピオイドを選択する。

1B
(強い推奨,低いエビデンスレベル)

解説
1 )オピオイドの選択
(1)コデイン

コデインは,WHO 方式がん疼痛治療法で使用する弱オピオイドの代表的な薬物として挙げられている。Dhaliwal ら3)による無作為化クロスオーバー比較試験では,がん患者35 例を対象に,コデイン徐放性製剤200〜400 mg/日とプラセボとを比較したところ,痛みのVAS の平均値はコデイン群で有意に低かった(22 vs 36,p<0.0001)。副作用はコデイン投与群では便秘31%,悪心40%,眠気14%,嘔吐14%などを認めたが,副作用による治療中止はなかった。

以上より,コデインは,非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または,中等度以上のがん疼痛のある患者に対して,安全で有効であると考えられる。しかし,コデインは弱オピオイドであり,鎮痛効果をもたらす投与量に上限があるため,強度の痛みでは強オピオイドを使用することが望ましいと考えられる。

(2)トラマドール

トラマドールは,WHO 方式がん疼痛治療法で使用する弱オピオイドの代表的な薬物であるコデインの代替薬物として挙げられている。トラマドールのがん疼痛に対する鎮痛効果については,Tassinari ら4)が行った18 の前向き試験もしくは無作為化比較試験(患者3,262 例)を対象とした系統的レビューがある。そのなかから非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない軽度〜中等度のがん疼痛のある患者に対して,トラマドールとプラセボもしくは他のオピオイドの効果と副作用について6 件の前向き試験と8 件の無作為化比較試験(患者2,974 例)が検討され,トラマドールは中等度のがん疼痛に対して安全で有効であると考えられるが,他のオピオイドやコデイン/アセトアミノフェンより優れているということを示すデータはないと結論づけている。

以上より,トラマドールは,非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない軽度〜中等度のがん疼痛のある患者に対して,安全で有効であると考えられる。しかし,トラマドールは弱オピオイドであり,鎮痛効果をもたらす投与量に上限があるため,強度の痛みでは強オピオイドを使用することが望ましいと考えられる。

(3)モルヒネ

モルヒネのがん疼痛に対する鎮痛効果については,2 つの系統的レビューがある。Caraceni ら5)が行った18 の臨床試験(患者2,053 例)を対象として行った系統的レビューでは,すべての試験がモルヒネと他のオピオイドの効果についての検討であり,モルヒネをプラセボと比較した研究はなかった。この研究では,Wiffen ら6)が行った54 の無作為化比較試験(患者3,749 例)を対象として行った系統的レビューに追加する新しい知見はないとしており,非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または,モルヒネを使用しても中等度以上の痛みのあるがん患者に対して,経口モルヒネとオキシコドンは同等の効果と副作用があると結論づけている。

例えば,Wiffen ら6)が行った系統的レビューに含まれているMercadante ら7)による前向き研究では,非オピオイド鎮痛薬で鎮痛効果が不十分な中等度以上の痛みのある患者110 例を対象に,初回量としてモルヒネ速放性製剤を15 mg/日,レスキュー薬を1 日量の1/6 と設定したところ,モルヒネ投与量は1 週間で30(26〜52)mg/日,4 週間で45(22〜65)mg/日まで増量された。痛みの強さは,治療前NRS6.1,1 週間後3.2(p<0.01),4 週間後3.0(p<0.01)であった。

以上より,非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または,中等度以上のがん疼痛のある患者に対して,モルヒネは,安全で有効であると考えられる。

(4)オキシコドン

オキシコドンのがん疼痛に対する効果については,2 つの系統的レビューがある。King ら8)が行った29 のオキシコドンのがん疼痛に関する臨床研究を検討した系統的レビューでは,1 つの系統的レビュー,14 の無作為化比較試験を含んでいるが,Reid ら9)が行ったオキシコドンのがん疼痛に対する系統的レビューに追加する新しい知見はなかったと結論づけている。オキシコドンと他のオピオイドの効果を比較した4 つの無作為化比較試験の患者276 例を対象として検討したところ,オキシコドンは,鎮痛効果と副作用ともモルヒネと差がないと結論づけた。この他に,Lauretti ら10)による無作為化比較試験では,がん患者26 例を対象に,モルヒネ徐放性製剤とオキシコドン徐放性製剤を比較したところ,モルヒネとオキシコドンの鎮痛効果はほぼ同等であった。

これらは,オピオイドがすでに投与された患者を対象として含んでおり,必ずしもオピオイド初回投与の患者を比較した研究ではない。オキシコドン初回投与の患者を対象とした研究としては,Silvestri ら11)による前後比較研究がある。痛みのNRS が5 以上のがん疼痛のある390 例を対象に,オキシコドン徐放性製剤を平均23mg/日より開始し,良好な鎮痛効果(直前NRS の30%以上の低下,または7 日前の平均NRS より3 点以上低下と定義)が得られるまで24 時間毎に25〜50%増量を行ったところ,痛みのNRS は,投与前7.2 から,1 日目4.5,7 日目2.8,21 日目2.1に改善した。7 日目の平均投与量は32 mg/日であった。オキシコドンによる有害事象は4%に認められ,悪心・嘔吐,便秘が多かった。重篤な副作用は認められなかった。

以上より,非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない,または,中等度以上のがん疼痛のある患者に対して,オキシコドンは,安全で有効であると考えられる。

(5)フェンタニル

フェンタニルの鎮痛効果に関する研究は,①速放性製剤で増量を行ったあとにフェンタニルとモルヒネの効果を比較したものなど,および,②フェンタニルの初回投与の鎮痛効果を評価したものがある。

① 速放性製剤で増量を行ったあとにフェンタニルとモルヒネの効果を比較したものなど

Wong ら12)による無作為化比較試験では,がん患者47 例を対象に,モルヒネ徐放性製剤とフェンタニル貼付剤の効果を比較したところ,5 段階の疼痛評価で鎮痛効果に両群に有意差はなく,いずれの群でも鎮痛効果を得ることができた(4.0→0.85 vs 3.9→0.9)。投与量は,モルヒネ群が156 mg/日から174 mg/日に,フェンタニル群が40μg/h から61μg/h に増加していた。同様に,Kress ら13)による無作為化比較試験でも,がん疼痛患者220 例を対象に,マトリックス型フェンタニル貼付剤と従来型フェンタニル貼付剤/経口モルヒネ製剤の効果を比較したところ,どの製剤を使用しても鎮痛効果と有害事象は,ともに有意差は認められなかった。

Ahmedzai ら14)による無作為化比較試験では,48 時間以上一定用量のモルヒネが投与されていた202 例を対象に,モルヒネ徐放性製剤とフェンタニル貼付剤との効果を比較したところ,鎮痛効果は同等で,便秘と眠気はフェンタニル群のほうが少なかった(便秘27% vs 45%,p<0.001,眠気34% vs 44%,p=0.015)。

また,フェンタニルの持続注射による鎮痛効果を評価した研究として,Hunt ら15)による無作為化比較試験がある。ホスピスに入院中の強オピオイドが投与されていた23 例を対象に,モルヒネ10 mg/日に対する等力価のフェンタニルを150μg/日と設定して3 日間はモルヒネ,次の3 日間はフェンタニル(もしくは反対)を持続皮下投与した。鎮痛効果,悪心,せん妄について有意差は認められなかったが,先にフェンタニルを投与され,次にモルヒネが投与された群では,有意にフェンタニル投与時に排便回数が多かった(3 日間の平均排便回数:フェンタニル3 回 vs モルヒネ0 回,p=0.015)。

以上より,速放性製剤で増量を行ったあとにフェンタニル貼付剤を使用する方法は,モルヒネと同等の鎮痛効果があり,便秘が少ない可能性があると考えられる。

②フェンタニルの初回投与の効果を評価したもの

van Seventer ら16)による無作為化比較試験では,中等度から強度の痛みのあるオピオイドの初回投与を受けるがん患者131 例を対象にフェンタニル貼付剤とモルヒネ徐放性製剤の初回投与の効果を比較したところ,鎮痛効果は同等で,有害事象による中止を含む試験の中止はモルヒネ群で有意に多かった(59% vs 27%,p<0.001)。また,モルヒネ群は治療開始後1 週間での便秘の割合が高かった(57% vs 27%,p=0.003)。

Mystakidou ら17)による観察研究では,がん患者589 例を対象に,オピオイドの初回投与としてフェンタニル貼布剤25μg/h を投与された患者268 例中評価可能であった153 例を対象に,患者が鎮痛効果を4 段階(悪い,普通,よい,とてもよい)で評価したところ,「よい」と「とてもよい」が89%であった。初回投与では32%に有害事象を認めたが,CTCAE による評価でGrade 3 以上の有害事象を認めなかった。

Vielvoye-Kerkmeer ら18)による前後比較研究では,オピオイドの初回投与を受ける患者14 例を対象に,フェンタニル貼付剤25μg/h を使用した。27 日後の投与量の中央値は50μg/h であり,鎮痛効果は,患者が4 段階で評価した結果,「よい」と「とてもよい」が71%であった。主な副作用は便秘,悪心,嘔吐,眠気であった。呼吸抑制など重篤な副作用はみられなかった。

以上より,確立した知見ではないが,フェンタニル貼付剤を初回投与として使用する方法は,安全であり鎮痛に有効な可能性があることが示唆される(TassinariD,200919))。しかし,本邦の保険適応は「他のオピオイド鎮痛剤が一定期間投与され,忍容性が確認された患者で,かつオピオイド鎮痛剤の継続的な投与を必要とする癌性疼痛の管理にのみ使用すること」となっており,加えて貼付剤は開始すると患者の状態にかかわらず経皮的な吸収が持続するため,フェンタニル貼付剤はオピオイドの初回投与としては用いない。経口投与困難で静脈内投与,皮下投与のいずれもできないなど,フェンタニル貼付剤をオピオイドの初回投与として用いざるを得ない場合には,十分な観察を行うなど慎重に対応する。

**

以上より,コデイン,モルヒネ,オキシコドン,フェンタニルのなかで,あるオピオイドが他のオピオイドに比較してより痛みを緩和する根拠はなく,いずれも鎮痛効果について同等であると考えられる。また,副作用に関しては,オキシコドンとモルヒネはほぼ同等であるが,フェンタニルはモルヒネに比べて便秘が少ない可能性がある(Tassinari D,200820))。

欧米では,モルヒネがオピオイドの第一選択薬として記載される場合が多いが,その主な理由は,鎮痛効果が優れているという根拠からではなく,安価である,使い慣れていることなどである。しかし,本邦において,モルヒネが「安価である」,多くの医師にとって「使い慣れている」とは必ずしもいえないため,本ガイドラインでは,専門家の合意により,モルヒネとそれ以外のオピオイドとの優劣は明確ではないと考えた。

したがって,本ガイドラインでは,患者の状態(可能な投与経路,合併症,併存症状,痛みの強さなど)から,個々の患者にあわせたオピオイドを選択することを推奨する。

2 )オピオイドの選択にあたって検討する事項

オピオイドの選択にあたっては,可能な投与経路,合併症,併存症状,痛みの強さなどを総合的に検討する。

(1)可能な投与経路

患者にオピオイドが投与できる投与経路のうち,最も簡便で患者が好む投与経路から投与できるオピオイドを選択する。一般的には,経口投与を優先する。経口投与ができない場合は,持続静注・持続皮下注,経皮投与,または,直腸内投与の可能な薬剤を選択する。

(2)合併症

腎機能障害のある患者では,モルヒネとコデインは避けることが望ましいⅡ-4-1-7-1 腎機能障害の項参照)

(3)併存する症状

強い便秘や腸蠕動を低下させることを避ける必要がある病態では,フェンタニルが望ましい。また,呼吸困難を緩和する効果があることが確認されているオピオイドは今のところモルヒネであるため(Ben-Aharon ら),呼吸困難がある場合にはモルヒネが望ましい。

(4)痛みの強さ

フェンタニル貼付剤の効果発現は貼付開始後12〜14時間後であり,投与量の迅速な変更が難しいため,痛みが不安定な場合には原則として使用しない。コデインは弱オピオイドであり有効限界があることから,高度の痛みでは強オピオイドを使用する。

既存のガイドラインとの整合性
オピオイドの選択

EAPC のガイドライン(2012)では,コデインもしくはトラマドール,さらに代替薬としてモルヒネ30 mg/日以下,もしくはオキシコドン20 mg/日以下を推奨している。なお,本ガイドラインでは投与量によるオピオイドの分類を行っていない。

NCCN のガイドライン(2012)では,中等度以上の痛みに対してモルヒネ速放性製剤を推奨し,モルヒネ以外に利用可能なオピオイドとしてコデイン,オキシコドン,フェンタニル貼付剤(痛みが安定している場合)などを挙げている。トラマドールは弱オピオイドとして使用できるが,最大量(400 mg/日)を使用してもモルヒネなどの強オピオイドと同等の効果は望めないとしている。

ESMO のガイドライン(2012)では,コデインやトラマドールのような弱オピオイドと非オピオイド鎮痛薬を併用,もしくはモルヒネなどの強オピオイドを低用量から使用することを推奨している。


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►臨床疑問9

オピオイドの製剤や投与方法により,鎮痛効果や副作用に差があるか?


►9-1

モルヒネの速放性製剤は,徐放性製剤に比較して,痛みを緩和するか,副作用が少ないか?

推奨


高用量のモルヒネの速放性製剤と徐放性製剤とでは,鎮痛効果と副作用に臨床的に意味のある差はない。低用量のモルヒネの速放性製剤と徐放性製剤とで,鎮痛効果と副作用に差があるかを判断できるだけの十分な根拠がない。


中等度以下かつ安定している痛みでは,モルヒネの徐放性製剤と速放性製剤のいずれを使用してもよい。ただし,痛みが高度または不安定な場合には速放性製剤や持続注射を用いる。

2B
(弱い推奨,低いエビデンスレベル)


►9-2

モルヒネのある徐放性製剤は,他の徐放性製剤に比較して,痛みを緩和するか,副作用が少ないか?

推奨


モルヒネ徐放性製剤では鎮痛効果と副作用に臨床的に意味のある差はない。


モルヒネ徐放性製剤はいずれのものを使用してもよい。

1A
(強い推奨,高いエビデンスレベル)


►9-3

モルヒネの24 時間徐放性製剤の朝1 回投与は,夜1 回投与に比較して,痛みを緩和するか,副作用が少ないか?

推奨


モルヒネの24 時間徐放性製剤の朝1 回投与と夜1 回投与とでは,鎮痛効果と副作用に臨床的に意味のある差はない。


モルヒネの24 時間徐放性製剤は朝,夜のいずれに投与してもよい。

1B
(強い推奨,低いエビデンスレベル)


本臨床疑問に関する臨床研究としてはモルヒネ以外を対象としたものはなかったためモルヒネについて検討した。

解説
9-1 モルヒネの速放性製剤と徐放性製剤との比較

本臨床疑問に関連した臨床試験としては,2 つの系統的レビューがある。Wiffen ら21)の系統的レビューでは,モルヒネの速放性製剤と徐放性製剤との効果を比較した15 の無作為化比較試験(患者460 例)を検討し,徐放性製剤を定期投与とした治療は,速放性製剤を定期投与とした治療と,鎮痛効果と副作用の点で同等であると結論づけた。

Klepstad ら(2011)22)の系統的レビューでは,中等度〜高度のがん疼痛のある患者に対して,強オピオイドの製剤および投与方法の効果を比較した15の無作為化比較試験(患者1,747 例)を検討し,そのなかでKlepstad ら(2003)による無作為化比較試験が,モルヒネの速放性製剤と徐放性製剤との効果を比較しているとしている。この無作為化比較試験では,弱オピオイドの投与を受けているがん患者40 例を対象として,モルヒネの速放性製剤と徐放性製剤の鎮痛効果を比較した。60 mg/日より開始し,痛みが完全に除去されるまで90,120,180,270,360 mg/日と増量する計画としたところ,痛みが除去されるまで要した時間と投与量は,速放性製剤(2.1 日,94 mg)と徐放性製剤(1.7 日,82 mg)で有意差がなかった。痛みのVAS はいずれの群でも低下した(62→26 vs 55→22,p 値記載なし)。悪心,便秘,睡眠についても有意差はなかった。

しかし,これらの研究で使用された徐放性製剤の開始量は60 mg/日以上のものが多く,低用量の徐放性製剤を使用した場合を判断できるだけの研究がない。

**

以上より,60 mg/日以上の場合,モルヒネの速放性製剤と徐放性製剤とでは,鎮痛効果と副作用に臨床的に明らかな差はないが,それ以下の場合では速放性製剤と徐放性製剤とで,鎮痛効果と副作用に差があるかを判断できるだけの十分な根拠がないと考えられる。

欧米では,オピオイドを開始する時は,モルヒネ速放性製剤を第一に検討するべきであるとするものが多いが,質の高いエビデンスに支持されたものではない。経口投与の回数が増えると患者のアドヒアランスが低下することが予測され,さらに本邦では,モルヒネ速放性製剤が他のオピオイドに比較して多くの医師にとって「最も使い慣れている」とは必ずしもいえない。また,中等度以下かつ安定している痛みの患者においては,定期投与薬として徐放性製剤を用いても,レスキュー薬として速放性製剤を用いることにより,十分な鎮痛効果が得られると考えられる。したがって,オピオイドの開始の場合にモルヒネ速放性製剤を使用することを原則とする利点は大きくないと考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,専門家の合意として,中等度以下かつ安定している痛みでは,徐放性製剤と速放性製剤のいずれを使用してもよいと考えた。ただし,徐放性製剤を用いる時には,レスキュー薬として速放性製剤を必ず使用する。一方,痛みが高度または不安定な場合には速やかに増量を行い,鎮痛効果に必要なオピオイド投与量を判断することのできる速放性製剤や持続注射を用いることを推奨する。


:アドヒアランス

患者が主体となって治療方針の決定に参加し,その決定に従って治療を受けること。従来使われてきたコンプライアンス(遵守)よりも医療の主体を患者側に置いた考え方。

9-2 モルヒネ徐放性製剤間の比較

一本臨床疑問に関連した臨床試験としては,1 つの系統的レビューがある。Wiffen ら21)の系統的レビューでは,複数のモルヒネ徐放性製剤の効果を比較した12 の無作為化比較試験(患者1,010 例)を検討した結果,徐放性製剤のいずれが他のものに優れているとの根拠はなく,いずれも同等であると結論づけた。例えば,Hagen らによる無作為化クロスオーバー比較試験では,痛みのあるがん患者29 例を対象に,モルヒネの24 時間徐放性製剤と12 時間徐放性製剤の効果を比較したところ,治療後の痛みのVAS は両群で差がなかった(最小:13±15 vs 9.6±8.8,p=0.15,最大:36±23 vs 30±17,p=0.14)。

**

以上より,国内で利用できるすべての徐放性製剤で十分な研究があるわけではないものの,異なるモルヒネ徐放性製剤で鎮痛効果と副作用に臨床的に意味のある差はないと考えられる。したがって,本ガイドラインでは,モルヒネ徐放性製剤はいずれのものを使用してもよいと推奨する。

9-3 モルヒネの24 時間徐放性製剤の朝1 回投与と夜1 回投与の比較

本臨床疑問に関連した臨床試験としては,1 つの無作為化比較試験がある。

Currow ら23)による無作為化比較試験では,がん疼痛ですでにオピオイドが導入されている患者42 例を対象に,モルヒネの24 時間徐放性製剤とプラセボを使用し,朝,夜経口投与での鎮痛効果の違いを比較したところ,1 週間後の痛みのVAS は朝経口投与群が16 mm,夜経口投与群が14 mm と有意差はなかった(p=0.34)。

**

以上より,限られた知見であるが,モルヒネの24 時間徐放性製剤の朝1 回投与と夜1 回投与とでは,鎮痛効果と副作用に差はないことが示唆される。本ガイドラインでは,専門家の合意により,モルヒネの24 時間徐放性製剤は朝,夜のいずれに投与してもよいと推奨する。しかし,個々の患者において,予測される血中濃度を参考にして,臨床症状を確かめながら投与時間を変更することを妨げるものではない。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2012)では,モルヒネやオキシコドンの速放性製剤と徐放性製剤は,定期投与を開始する場合の薬剤としていずれも推奨とされている。また,タイトレーションのために,必要に応じて各製剤の速放性製剤が使えるようにするべきであるとしている。

NCCN のガイドライン(2012)では,開始時には速放性製剤の使用を推奨している。

EAPC のガイドライン(2012)では,複数のモルヒネの徐放性製剤の比較について言及していない。

24 時間徐放性製剤の朝夜投与について言及しているガイドラインはない。


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►臨床疑問10

オピオイドを開始する時に,制吐薬を予防投与することは,投与しないことに比較して悪心・嘔吐を減少させるか?

推奨


オピオイドを開始する時に,制吐薬を予防投与することが,投与しないことに比較して悪心・嘔吐を減少させることを示す根拠はない。


オピオイドを開始する時は,悪心・嘔吐について十分な観察を行い,悪心時の頓用として制吐薬をいつでも使用できる状況にしておく。悪心・嘔吐が継続する場合は数日間定期的に投与する。患者の状態によっては,オピオイドの開始と同時に制吐薬を定期的に投与してもよい。

1C
(強い推奨,とても低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する臨床研究としては,無作為化比較試験,質の高い前後比較研 究のいずれもない。すなわち,オピオイドを開始する時に,制吐薬を予防投与する ことが,投与しないことに比較して悪心・嘔吐を減少させることが可能であるかは 不明である。

本ガイドラインでは,専門家の合意により,オピオイドを開始する時は,悪心・嘔吐について十分な観察を行い,悪心時の頓用として制吐薬をいつでも使用できる状況にしておき,悪心・嘔吐が継続する場合は数日間定期的に投与することを推奨する。

ただし,制吐薬により生じうる副作用(眠気,ふらつき,パーキンソン症候群,アカシジアなど)の可能性よりも,悪心・嘔吐を予防する利益が上回ると考えられる患者では,オピオイドの開始と同時に制吐薬の定期的な投与を検討してもよい。その理由は,①悪心・嘔吐はオピオイドのアドヒアランスを悪化させるので,積極的に予防するほうがよい,②制吐薬の短期間の投与により生じうる害より悪心・嘔吐を予防できる有益性が高い場合があると考えられるためである。このような場合として,消化器がんや化学療法を受けているなど,悪心・嘔吐を生じやすい患者が挙げられる。オピオイド開始時に制吐薬を定期的に使用した場合には,オピオイドの悪心・嘔吐に対しては耐性が生じるため,投与後1〜2 週間で減量・中止することを検討し,漫然と長期投与にならないようにする。

使用する制吐薬は,ドパミン受容体拮抗薬(ハロペリドール,プロクロルペラジン),消化管蠕動亢進薬(メトクロプラミド,ドンペリドン),または,抗ヒスタミン薬のいずれかを選択する。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2012)およびESMO のガイドライン(2012)では,オピオイド開始時の制吐薬の予防投与については記載されていないが,悪心が生じた場合には,ハロペリドールなどの抗ドパミン薬やメトクロプラミドなどの制吐薬で対応するとしている。

NCCN のガイドライン(2012)では,オピオイド開始時に制吐薬が利用できるようにしておくことを推奨している。すなわち,オピオイドの処方と同時に制吐薬を処方し,悪心時の頓用,または,悪心が継続する場合は数日間定期投与することを推奨している。

悪心・嘔吐に関する各ガイドラインの記載
ガイドライン オピオイド開始時の
制吐薬の予防
投与使用する制吐薬
EAPC のガイドライン 記載はない メトクロプラミド,ハロペリドールなど(いずれの制吐薬が最も有用かという根拠は示されていない)
ESMO のガイドライン 記載はない 特定の薬剤名の記載はない
NCCN のガイドライン オピオイド開始時に制吐薬が利用できるようにしておく プロクロルペラジン,ハロペリドール,メトクロプラミド(効果がない場合は,セロトニン拮抗薬)

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►臨床疑問11

オピオイドを開始する時に,下剤を投与することは,投与しないことに比較して便秘を減少させるか?

推奨


オピオイドを開始する時に,下剤を投与することは,投与しないことに比較して便秘を減少させる根拠はない。


オピオイドを開始する時は,患者の排便状態について十分な観察を行い,水分摂取・食事指導や下剤の投与など便秘を生じないような対応を行う。

1C
(強い推奨,とても低いエビデンスレベル)


:便秘の定義

便秘とは「腸管内容物の通過が遅延・停滞し,排便に困難を伴う状態」を指す。排便の習慣は個人差が大きいため,もともとの排便習慣と比較し,排便回数の低下,便の量の減少や硬さ,残便感,排便の困難感などから判断する。

解説

本臨床疑問に関する臨床研究としては,無作為化比較試験,質の高い前後比較研究のいずれもない。すなわち,オピオイドを開始する時に,下剤を投与することは,投与しないことに比較して便秘を減少させることが可能であるかは不明である。

本ガイドラインでは,専門家の合意により,オピオイドを開始する時には,患者の排便状態を観察し,便秘を生じないように水分摂取・食事指導や下剤の投与など対応を行うことを推奨する。すなわち,便が軟らかかったり下痢をしている患者では,オピオイド開始時に下剤の定期的な併用は必ずしも必要ないが,投与後便秘が生じる可能性を念頭に置き,患者の排便状態を観察する。もともと便秘傾向のある患者や,経口モルヒネまたは経口オキシコドンを投与する患者など便秘を生じる可能性が高いと考えられる場合には,オピオイドの開始時に下剤を定期的に投与し,患者の排便状態を観察して調節する。

推奨の理由は,①便秘は頻度の高い症状であり,オピオイドのアドヒアランスを悪化させるので,積極的に予防するほうがよい,②下剤の投与を含む便秘の予防により生じうる害より有益性が高い場合が多いと考えられるためである。

下剤として,便の硬さに応じて,便を軟らかくする浸透圧性下剤(酸化マグネシウム,ラクツロース)や,腸蠕動運動を促進させる大腸刺激性下剤の(ピコスルファートナトリウム,センノシド)を使用する。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2012)では,オピオイドによって生じた便秘の治療,またはオピオイドによって生じる便秘の予防として,下剤を処方しておくことを推奨している。

NCCN のガイドライン(2012)では,便秘を防ぐために,水分・食物繊維の摂取や下剤の投与を含む「予防的な対策」を推奨している。

ESMO のガイドライン(2012)では,便秘がよくある副作用であるという認識のもとに,適宜下剤を使用すると記載されている。

便秘に関する各ガイドラインの記載
ガイドライン オピオイドを開始時の
下剤の定期的な併用
使用する下剤
EAPC のガイドライン 便秘の予防策として下剤を処方しておくことを推奨 特定の薬剤名の記載はないが,1 種類の下剤を使用するよりも異なる種類の下剤を併用するほうがより効果がみられやすい
ESMO のガイドライン 明確な記載はない 特定の薬剤名の記載はない
NCCN のガイドライン 水分・食物繊維の摂取,下剤の投与を含めて予防的対策をとる 刺激性下剤と塩類下剤を使用する

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►臨床疑問12

非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られないがん患者に対して,非オピオイド鎮痛薬を中止せずにオピオイドを開始することは,非オピオイド鎮痛薬を中止してオピオイドを開始することに比較して痛みを緩和するか?

推奨


非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛が得られないがん患者に対して,非オピオイド鎮痛薬を中止せずにオピオイドを開始することは,鎮痛効果を中等度改善する。


非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない患者の痛みに対してオピオイドを開始する時には,非オピオイド鎮痛薬と併用する。

2B
(弱い推奨,低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する無作為化比較試験はない。関連する臨床研究としてNSAIDs の効果を比較した1 件の系統的レビューと,オピオイドを使用している患者に対して,非オピオイド鎮痛薬を上乗せして併用することによる鎮痛効果を比較した3 件の無作為化比較試験がある。

McNicol ら24)の系統的レビューでは,がん疼痛のある患者に対してNSAIDs の効果を比較した42 件(患者3,084 例)の研究を検討しており,このなかでオピオイドを使用している患者に対してNSAIDs を併用する場合と併用しない場合の効果を比較した6 件の研究が検討されている。例えば,Björkman ら25)による,モルヒネ持続投与が行われている16 例を対象に,ジクロフェナク坐剤50 mg/日とプラセボの併用を比較した無作為化比較試験では,2 日後の痛みのVAS の改善率はジクロフェナク群でより高く,モルヒネ使用量もより少なくなった(96 mg/日→83 mg/日 vs 96 mg/日→95 mg/日,p=0.01)。

また,系統的レビューに含まれていない3 件の無作為化比較試験として,Mercadante ら26)による無作為化比較試験では,がん患者156 例(解析対象は47 例)を対象に,オピオイド単剤とketorolac 60 mg/日とオピオイドとの併用とを比較したところ,3 週間後の痛みのNRS は両群で増加したが,ketorolac 併用群ではモルヒネの使用量がより少なかった。痛みに大きな差はなく,便秘は減ったが,胃部不快(gastric discomfort)の頻度が上昇した。

Stambaugh ら27)による無作為化比較試験では,オキシコドンとアセトアミノフェン投与中の骨転移痛を有するがん患者30 例を対象に,イブプロフェン600 mg の上乗せ効果を比較したところ,平均疼痛強度はイブプロフェン群で低く(数値の記載なし,p<0.05),オキシドコンの使用量も少なかった。

Stockler ら28)による無作為化比較試験では,強オピオイドを使用しているがん患者30 例を対象に,アセトアミノフェン5,000 mg/日とプラセボの併用を比較したところ,アセトアミノフェン群が痛みをより改善した〔投与開始2 日目と4 日目の痛みのNRS の平均差は0.4(95%信頼区間では0.1〜0.8),p=0.03〕。

**

以上より,非オピオイド鎮痛薬を投与されている患者にオピオイドを開始する場合に,非オピオイド鎮痛薬を中止した場合と中止せずに併用した場合のどちらが鎮痛効果がよいかは不明である。しかし,NSAIDs では消化管への有害作用の頻度が増加する可能性があるが,オピオイドによる疼痛治療が行われている患者に非オピオイド鎮痛薬を上乗せすることは,中等度の鎮痛効果があると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,上記の知見と専門家の合意により,非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない患者の痛みに対してオピオイドを開始する時には,非オピオイド鎮痛薬を中止せずに併用することを推奨する。ただし,鎮痛効果は中等度であり,NSAIDs では消化管への有害作用などの副作用の出現頻度が高くなる可能性があるため,長期投与は鎮痛効果と副作用を評価して判断する。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2012)では,痛みの改善または必要とするオピオイド量の減量のために,強オピオイドに非オピオイド鎮痛薬を併用することを弱い推奨としている。

ESMO のガイドライン(2012)では,弱オピオイドと非オピオイド鎮痛薬を併用することを強く推奨し,弱オピオイドの代わりに少量の強オピオイドと非オピオイド鎮痛薬を併用することも推奨している。

(浜野 淳,山本 亮)

【文 献】

臨床疑問7

1) Marinangeli F, Ciccozzi A, Leonardis M, et al. Use of strong opioids in advanced cancer pain:a randomized trial. J Pain Symptom Manage 2004;27:409-16

2) Maltoni M, Scarpi E, Modonesi C, et al. A validation study of the WHO analgesic ladder:a two-step vs three-step strategy. Support Care Cancer 2005;13:888-94

臨床疑問8

3) Dhaliwal HS, Sloan P, Arkinstall WW, et al. Randomized evaluation of controlled-release codeine and placebo in chronic cancer pain. J Pain Symptom Manage 1995;10:612-23

4) Tassinari D, Drudi F, Rosati M, et al. The second step of the analgesic ladder and oral tramadol in the treatment of mild to moderate cancer pain:a systematic review. Palliat Med 2011;25:410-23

5) Caraceni A, Pigni A, Brunelli C. Is oral morphine still the first choice opioid for moderate to severe cancer pain? A systematic review within the European Palliative Care Research Collaborative guidelines project. Palliat Med 2011;25:402-9

6) Wiffen PJ, McQuay HJ. Oral morphine for cancer pain. Cochrane Database Syst Rev 2007(4):CD003868

7) Mercadante S, Porzio G, Ferrera P, et al. Low morphine doses in opioid-naive cancer patients with pain. J Pain Symptom Manage 2006;31:242-7

8) King SJ, Reid C, Forbes K, Hanks G. A systematic review of oxycodone in the management of cancer pain. Palliat Med 2011;25:454-70

9) Reid CM, Martin RM, Sterne JA, et al. Oxycodone for cancer-related pain:meta-analysis of randomized controlled trials. Arch Intern Med 2006;166:837-43

10) Lauretti GR, Oliveira GM, Pereira NL. Comparison of sustained-release morphine with sustained-release oxycodone in advanced cancer patients. Br J Cancer 2003;89:2027-30

11) Silvestri B, Bandieri E, Del Prete S, et al. Oxycodone controlled-release as first-choice therapy for moderate-to-severe cancer pain in Italian patients:results of an open-label, multicentre, observational study. Clin Drug Investig 2008;28:399-407

12) Wong JO, Chiu GL, Tsao CJ, Chang CL. Comparison of oral controlled-release morphine with transdermal fentanyl in terminal cancer pain. Acrta Anaesthesiol Sin 1997;35:25-32($)

13) Kress HG, Von der Laage D, Hoerauf KH, et al. A randomized, open, parallel group, multicenter trial to investigate analgesic efficacy and safety of a new transdermal fentanyl patch compared to standard opioid treatment in cancer pain. J Pain Symptom Manage 2008;36:268-79

14) Ahmedzai S, Brooks D. Transdermal fentanyl versus sustained-release oral morphine in cancer pain:preference, efficacy, and quality of life. The TTS-Fentanyl Comparative Trial Group. J Pain Symptom Manage 1997;13:254-61($)

15) Hunt R, Fazekas B, Thorne D, Brooksbank M. A comparison of subcutaneous morphine and fentanyl in hospice cancer patients. J Pain Symptom Manage 1999;18:111-9($)

16) van Seventer R, Smit JM, Schipper RM, et al. Comparison of TTS-fentanyl with sustained-release oral morphine in the treatment of patients not using opioids for mild-to-moderate pain. Curr Med Res Opin 2003;19:457-69($)

17) Mystakidou K, Tsilika E, Parpa E, et al. Long-term cancer pain management in morphine pre-treated and opioid naive patients with transdermal fentanyl. Int J Cancer 2003;107:486-92

18) Vielvoye-Kerkmeer AP, Mattern C, Uitendaal MP. Transdermal fentanyl in opioid-naive cancer pain patients:an open trial using transdermal fentanyl for the treatment of chronic cancer pain in opioid-naive patients and a group using codeine. J Pain Symptom Manage. 2000; 19:185-92($)

19) Tassinari D, Sartori S, Tamburini E, et al. Transdermal fentanyl as a front-line approach to moderate-severe pain:a meta-analysis of randomized clinical trials. J Palliat Care. 2009; 25:172-80

20) Tassinari D, Sartori S, Tamburini E, et al. Adverse effects of transdermal opiates treating moderate-severe cancer pain in comparison to long-acting morphine:a meta-analysis and systematic review of the literature. J Palliat Med. 2008;11:492-501

注:以下の文献はReid CM の系統的レビューの対象となっているため個々に検討を行わなかった。

  • Heiskanen T, Kalso E. Controlled-release oxycodone and morphine in cancer related pain. Pain 1997; 73:37-45
  • Mucci-LoRusso P, Berman BS, Silberstein PT, et al. Controlled-release oxycodone compared with controlled-release morphine in the treatment of cancer pain:a randomized, double-blind, parallel-group study. Eur J Pain 1998;2:239-49
  • Bruera E, Belzile M, Pituskin E, et al. Randomized, double-blind, cross-over trial comparing safety and efficacy of oral controlled-release oxycodone with controlled-release morphine in patients with cancer pain. J Clin Oncol 1998;16:3222-9
  • Hagen NA, Babul N. Comparative clinical efficacy and safety of a novel controlled-release oxycodone formulation and controlled-release hydromorphone in the treatment of cancer pain. Cancer 1997;79:1428-37
  • Kalso E, Vainio A. Morphine and oxycodone hydrochloride in the management of cancer pain. Clin Pharmacol Ther 1990;47:639-46

臨床疑問9

21) Wiffen PJ, McQuay HJ. Oral morphine for cancer pain. Cochrane Database Syst Rev 2007(4):CD003868

22) Klepstad P, Kaasa S, Borchgrevink PC. Starting step Ⅲ opioids for moderate to severe pain in cancer patients:dose titration:a systematic review. Palliat Med 2011;25:424-30

23) Currow DC, Plummer JL, Cooney NJ, et al. A randomized, double-blind, multi-site, crossover, placebo-controlled equivalence study of morning versus evening once-daily sustained-release morphine sulfate in people with pain from advanced cancer. J Pain Symptom Manage 2007;34:17-23

注:以下の文献はWiffen PJ の系統的レビューに含まれている論文を例として示した。

  • Klepstad P, Kaasa S, Jystad A, et al. Immediate- or sustained-release morphine for dose finding during start of morphine to cancer patients:a randomized, double-blind trial. Pain 2003;101:193-8
  • Hagen NA, Thirlwell M, Eisenhoffer J, et al. Efficacy, safety, and steady-state pharmacokinetics of once-a-day controlled-release morphine(MS Contin XL)in cancer pain. J Pain Symptom Manegement 2005; 29:80-90($)

臨床疑問12

24) McNicol E, Strassels SA, Goudas L, et al. NSAIDS or paracetamol, alone or combined with opioids, for cancer pain. Cochrane Database Syst Rev 2005(1):CD005180

25) Björkman R, Ullman A, Hedner J. Morphine-sparing effect of diclofenac in cancer pain. Eur J Clin Pharmacol. 1993;44:1-5

26) Mercadante S, Fulfaro F, Casuccio A. A randomised controlled study on the use of anti-inflammatory drugs in patients with cancer pain on morphine therapy:effects on dose-escalation and a pharmacoeconomic analysis. Eur J Cancer 2002;38:1358-63

27) Stambaugh JE Jr, Drew J. The combination of ibuprofen and oxycodone/acetaminophen in the management of chronic cancer pain. Clin Pharmacol Ther 1988;44:665-9

28) Stockler M, Vardy J, Pillai A, Warr D. Acetaminophen(paracetamol)improves pain and well-being in people with advanced cancer already receiving a strong opioid regimen:a randomized, double-blind, placebo-controlled cross-over trial. J Clin Oncol 2004;22:3389-94

【参考文献】

臨床疑問8

29) Ben-Aharon I, Gafter-Gvili A, Paul M, et al. Interventions for alleviating cancer-related dyspnea:a systematic review. J Clin Oncol 2008;26:2396-404

$:製薬会社からの資金提供を受けて行われた研究を示す。


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オピオイドが投与されている患者

 オピオイドが投与されている患者で,持続痛が緩和されていない場合,有効な治療は何か?

関連する臨床疑問
  1. ►13持続痛のある患者において,行うべき評価は何か?
  2. ►14オピオイドで鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において,非オピオイド鎮痛薬をオピオイドと併用することは,併用しない場合に比較して痛みを緩和するか?
  3. ►15オピオイドの定期投与により鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において,定期投与量の増量は痛みを緩和するか?
  4. ►16あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において,他のオピオイドへの変更(オピオイドスイッチング)や,他のオピオイドの追加は痛みを緩和するか?
  5. ►16-1あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において,他のオピオイドに変更することは,痛みを緩和するか?
  6. ►16-2あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において,他のオピオイドを追加することは,痛みを緩和するか?
  7. ►17あるオピオイドの経口投与または貼付剤で適切な鎮痛効果が得られない患者において,オピオイドを持続静注・持続皮下注に変更することは,痛みを緩和するか?
  8. ►18オピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において,オピオイドとケタミンの併用は,オピオイド単独に比較して痛みを緩和するか?
  9. ►19オピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において,オピオイドとコルチコステロイドの併用は,オピオイド単独に比較して痛みを緩和するか?

推奨


  1. ►13痛みの原因の評価と痛みの評価を行う。
  2. ►14 オピオイドで鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドを併用する。
    1A
    (強い推奨,高いエビデンスレベル)
  3. ►15オピオイドの定期投与により鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において,定期投与量を増量する。
    1B
    (強い推奨,低いエビデンスレベル)
    増量幅:
    前日のレスキュー薬の合計量を参考にしながら,定期投与量の30〜50%増量を原則とし,患者の状況に応じて増減する。
    増量間隔:
    速放性製剤,持続静注・持続皮下注では24 時間,徐放性製剤では48 時間,フェンタニル貼付剤では72 時間を原則とする。
    投与経路:
    定期投与と同じ経路を原則とする。痛みが強く迅速な鎮痛効果が必要な場合は,持続静注・持続皮下注または経口速放性製剤による疼痛治療を行う。
  4. ►16-1あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において,他のオピオイドに変更する。
    1B
    (強い推奨,低いエビデンスレベル)
  5. ►16-2あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において,専門家に相談したうえで,他のオピオイドを追加する。
    2C
    (弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)
  6. ►17あるオピオイドの経口投与または貼付剤で適切な鎮痛効果が得られない患者において,オピオイドを持続静注・持続皮下注に変更する。
    2C
    (弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)
  7. ►18オピオイドを増量しても適切な鎮痛効果が得られない場合,専門家に相談したうえで,オピオイドにケタミンを併用する。
    2B
    (弱い推奨,低いエビデンスレベル)
  8. ►19オピオイドが投与されていても鎮痛効果が得られない患者において,特定の病態においては,副作用に注意しながらコルチコステロイドを投与する。
    2C
    (弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)

:「適切な鎮痛効果が得られない」状態

オピオイドを十分に増量しても鎮痛効果が得られない,または痛みがあるにもかかわらず副作用のためにオピオイドを増量できないことと定義した。

:コルチコステロイドの効果が期待できる病態

脊髄圧迫症候群など神経への圧迫による痛み,炎症による痛み,頭蓋内圧亢進に伴う頭痛,臓器の被膜伸展痛,骨転移に伴う痛みなどを指す。

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►臨床疑問13

持続痛のある患者において,行うべき評価は何か?

推奨


痛みの原因の評価と痛みの評価を行うⅡ-2 痛みの包括的評価の項参照)

解説
1 )痛みの原因を身体所見や画像検査から評価する

がんによる痛みでは鎮痛薬の投与などの痛みに対する治療とともに,外科治療,化学療法,放射線治療などの腫瘍そのものに対する治療を検討する。がん治療による痛み(術後痛症候群,化学療法後神経障害性疼痛など)やがん・がん治療と直接関連のない痛み(脊柱管狭窄症,帯状疱疹など)では原因に応じた治療を行う。痛みがオンコロジーエマージェンシー(脊髄圧迫症候群,骨折・切迫骨折,感染症,消化管の閉塞・穿孔・出血など)の症状であることがあるので,痛みの対応のみでなく,痛みを生じている病態の把握と原因への対応を行う。特殊な疼痛症候群(神経障害性疼痛,骨転移痛,上腹部の内臓痛,胸部痛,会陰部の疼痛,消化管閉塞など)の場合にはそれぞれの対応を検討するⅢ-4 各項を参照)

2 )痛みの評価を行う

痛みの日常生活への影響,痛みのパターン(持続痛か突出痛か),痛みの強さ,痛みの部位,痛みの経過,痛みの性状,痛みの増悪因子と軽快因子,現在行っている治療の反応,および,レスキュー薬の効果と副作用について評価する。

特に痛みが持続的にあり,持続痛を伴わない突出痛ではないことを確認する。鎮痛薬が確実に使用されているか(定期的に経口投与しているか,貼付剤がはがれていないかなど)を確認する。また,レスキュー薬の効果を知ることにより,オピオイドに反応しにくい痛みなのか,オピオイドに反応する痛みであるが投与量が足りないのかを区別することができる。


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►臨床疑問14

オピオイドで鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において,非オピオイド鎮痛薬をオピオイドと併用することは,併用しない場合に比較して痛みを緩和するか?

推奨


オピオイドで鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドの併用は,痛みを中等度緩和する。


オピオイドで鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドを併用する。

1A
(強い推奨,高いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する臨床研究として,オピオイドを使用している患者に対して,非オピオイド鎮痛薬を上乗せして併用することにより鎮痛効果を比較した12 件の無作為化比較試験を含む1 件の系統的レビューがある臨床疑問12 参照)。Nabal ら1)の系統的レビューでは,オピオイドにNSAIDs を上乗せすることは中等度の鎮痛効果を期待できる。一方,アセトアミノフェンの上乗せに関しては根拠が不十分であるとしている。

**

以上より,オピオイドで鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドの併用は,中等度痛みを緩和すると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,上記の知見と専門家の合意により,オピオイドで鎮痛効果が得られない患者において,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドを併用することを推奨する。

ただし,鎮痛効果は中等度であり,NSAIDs では消化管への有害作用などの副作用の発現頻度が高くなる可能性があるため,長期投与は鎮痛効果と副作用を評価して判断する。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2012)では,NSAIDs とオピオイドの併用は痛みを改善もしくはオピオイド使用量を減少する可能性があり,弱い推奨としている。しかし,NSAIDs は重篤な副作用に注意が必要であるとしている。アセトアミノフェンに関しては,オピオイドとの併用効果が立証されていないが,副作用が少ないことからNSAIDs より望ましく,弱い推奨としている。

NCCN のガイドライン(2012)では,骨転移による痛みや炎症を伴う痛みにNSAIDs の併用を推奨しているが,腎障害や消化性潰瘍,心毒性といった副作用に注意する必要があるとしている。

ESMO のガイドライン(2012)では,禁忌がなく少なくとも短期間の使用であれば,アセトアミノフェンやNSAIDs は疼痛強度にかかわらず効果が期待できるとしている。


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►臨床疑問15

オピオイドの定期投与により鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において,定期投与量の増量は痛みを緩和するか?

推奨


オピオイドの定期投与により鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において,定期投与量の増量は痛みを緩和する。


オピオイドの定期投与により鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において,定期投与量を増量する。

1B
(強い推奨,低いエビデンスレベル)

増量幅:
前日のレスキュー薬の合計量を参考にしながら,定期投与量の30〜50%増量を原則とし,患者の状況に応じて増減する。
増量間隔:
速放性製剤,持続静注・持続皮下注では24 時間,徐放性製剤では48 時間,フェンタニル貼付剤では72 時間を原則とする。
投与経路:
定期投与と同じ経路を原則とする。痛みが強く迅速な鎮痛効果が必要な場合は,持続静注・持続皮下注または経口速放性製剤による疼痛治療を行う。
解説

本臨床疑問に関する臨床研究として,オピオイドの定期投与により鎮痛効果が十分に得られない持続痛のある患者において,オピオイドの異なる増量幅や増量間隔を比較した無作為化比較試験はない。しかし,WHO 方式がん疼痛治療法に基づくオピオイドの増量により,鎮痛効果が得られることが複数の観察研究で示されているⅡ-3 WHO 方式がん疼痛治療法の項参照)

**

以上より,オピオイドの定期投与により鎮痛効果が十分に得られない持続痛のある患者において,定期投与量の増量は,痛みを緩和すると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,オピオイドの定期投与により鎮痛効果が得られない持続痛のある患者において,定期投与量を増量することを推奨する。オピオイド定期投与量の増量を検討する場合としては,1 日4 回以上の経口レスキュー薬をほぼ等間隔で使用する時,定期的に投与している鎮痛薬の投与前になると必ず痛みが来る時などがある。

増量幅は,専門家の意見から,前日のレスキュー薬の合計量を参考にしながら,定期投与量の30〜50%増量を原則とし,患者の状況に応じて増減することを推奨する。増量間隔は,速放性製剤,持続静注・持続皮下注では24 時間,徐放性製剤では48 時間,フェンタニル貼付剤では72 時間を原則とすることを推奨する。投与経路は,定期投与と同じ経路を原則とする。痛みが強く迅速な鎮痛効果が必要な場合は,調節のしやすい持続静注・持続皮下注または経口速放性製剤を使用する。

既存のガイドラインとの整合性

NCCN のガイドライン(2012)では,NRS が4 以上の場合は,速やかに経口速放性製剤や持続注射で増量したうえで,直前24 時間に使用したオピオイドの総量(定期投与量とレスキュー薬の合計量)に基づいて増量を計算するとしている(詳細の方法はⅣ-4-1,図1 参照)

増ESMO のガイドライン(2012)では,高度の痛みで迅速な鎮痛効果が必要な時は持続静注・持続皮下注を推奨している。また,経口レスキュー薬を1 日4 回以上の使用でオピオイド徐放性製剤の定期投与量を増量するとしている。


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►臨床疑問16

あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において,他のオピオイドへの変更(オピオイドスイッチング)や,他のオピオイドの追加は痛みを緩和するか?


►16-1

あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において,他のオピオイドに変更することは,痛みを緩和するか?

推奨


あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において,他のオピオイドに変更することは,痛みを緩和する場合がある。


あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において,他のオピオイドに変更する。

1B
(強い推奨,低いエビデンスレベル)


►16-2

あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において,他のオピオイドを追加することは,痛みを緩和するか?

推奨


あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において,他のオピオイドを追加することは,痛みを緩和するかどうかについて,根拠は不十分である。


あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において,専門家に相談したうえで,他のオピオイドを追加する。

2C
(弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)

解説
16-1 オピオイドの変更(オピオイドスイッチング)

本臨床疑問に関する臨床研究としては,3 件の系統的レビュー〔Quigley2),Mercadante ら(2006)3),Dale ら4)〕と1 件の前後比較研究があり,無作為化比較試験など質の高いエビデンスではないが,オピオイドの変更は鎮痛効果の改善に有効な手段であると結論づけている。これらの研究の多くは,モルヒネからオキシコドン,フェンタニル,メサドンへの変更により鎮痛効果が得られている。

例えば,Narabayashi ら5)による前後比較研究では,副作用のためモルヒネを増量できず,中等度以上のがん疼痛のある患者25 例を対象として,経口オキシコドンに変更を行ったところ,変更後2.3 日で84%の患者において痛みが軽度以下となった。

Riley ら6)による前後比較研究では,モルヒネで鎮痛効果が得られないか,副作用がコントロールできない患者で,神経障害性疼痛が明らかな患者を除いた48例を対象として,モルヒネからオキシコドンに変更し,無効な場合はフェンタニルかメサドンに変更,さらに無効な場合はフェンタニルかメサドンのうち前回使用しなかったほうに変更を行ったところ,オキシコドンへの変更で79%の患者が,他のオピオイドへの変更3 回以内で87%の患者において鎮痛効果が得られた。

Ravera ら7)による前後比較研究では,5 日間以上オピオイド貼付剤で治療しても適切な鎮痛効果が得られないがん患者を含む41 例を対象として,オキシコドン徐放性製剤に変更を行ったところ,3 日後に痛みは39%減少し,21 日後には66%減少した。NRS が7 以上の患者では56%から2.6%に減少した。疼痛治療に効果を感じている患者の数は2.6%から92%(効果あり72%,非常に効果あり19%)に増加し,QOL も改善した。

**

以上より,あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において,他のオピオイドに変更することは,痛みを緩和する場合があること示す相応の根拠があると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない場合には,他のオピオイドに変更することを推奨するⅡ-4-1-4 オピオイドスイッチングの項参照)

16-2 オピオイドの追加

本臨床疑問に関する臨床研究としては,1 件の系統的レビューがある。Fallon ら8)の系統的レビューでは,他のオピオイドの追加について検討した1 件の無作為化比較試験と1 件の前後比較試験(患者36 例)を検討した結果,オピオイドの追加は弱い推奨のみと結論づけている。

Lauretti ら9)による無作為化比較試験では,がん患者22 例を対象にモルヒネ徐放性製剤のみとモルヒネ徐放性製剤とオキシコドン徐放性製剤の併用とを比較したところ,併用群ではレスキュー薬のモルヒネの使用回数が少なく,悪心・嘔吐も有意に少なかった(p<0.05)としている。

Mercadante ら(2004)10)による前後比較研究では,1 週間以内にオピオイドを100%増量してもNRS が4 以上の痛みのあるがん患者14 例を対象に,他のオピオイドを追加する研究を行った。5 例はフェンタニル貼付剤に20%の経口モルヒネを追加し,痛みのNRS は6.7 から2.7 に低下した。5 例は経口モルヒネにフェンタニル貼付剤を追加し,痛みのNRS は6.4 から3.3 に低下した。4 例は経口モルヒネに経口メサドンを追加し,痛みのNRS は6.2 から3.0 に低下した。副作用の増強はなかった。

**

以上より,根拠は不十分であるが,あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において,他のオピオイドを追加することは,痛みを緩和する可能性があると示唆される。

したがって,本ガイドラインでは専門家の合意として,あるオピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において,専門家に相談したうえで他のオピオイドを追加することを推奨する。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2012)では,オピオイドの変更について,モルヒネの副作用で十分な鎮痛効果が得られない場合は,オピオイドを変更することを推奨しており,40〜80%で改善がみられるとしている。

NCCN のガイドライン(2012)では,オピオイドの副作用や十分な鎮痛効果が得られない場合には,等価の別のオピオイドに変更することを推奨している。

ESMO のガイドライン(2012)では,他のオピオイドに変更することで副作用の軽減と良好な疼痛コントロールが得られる可能性があるとしている。

オピオイドの追加については,既存のガイドラインでオピオイドの併用についての記載はない。


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►臨床疑問17

あるオピオイドの経口投与または貼付剤で適切な鎮痛効果が得られない患者において,オピオイドを持続静注・持続皮下注に変更することは,痛みを緩和するか?

推奨


あるオピオイドの経口投与または貼付剤で適切な鎮痛効果が得られない患者において,オピオイドを持続静注・持続皮下注に変更することは,痛みを緩和する可能性がある。


あるオピオイドの経口投与または貼付剤で適切な鎮痛効果が得られない患者において,オピオイドを持続静注・持続皮下注に変更する。

2C
(弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する臨床研究としては,1 件の系統的レビューと1 件の前後比較研究がある。

Radbruch ら11)は系統的レビューのなかでEnting ら12)とKornick ら13)の前後比較研究を取り上げて,オピオイドを経口投与や貼付剤から持続静注・持続皮下注に変更することは痛みを改善するとしている。

Enting ら12)による前後比較研究では,オピオイドによる疼痛治療が不十分な100例の患者を対象とし,経口投与・経皮オピオイドを静脈内投与・皮下投与に変更した。主な変更方法は,経口モルヒネを静脈内投与・皮下投与に変更,フェンタニル貼付剤をフェンタニルかモルヒネの静脈内投与・皮下投与に変更であった。変更後,安静時痛NRS が6.3 から3.4 に,体動時痛NRS が8.4 から4.6 に低下した。悪心,便秘,眠気,混乱,幻覚などの副作用は変更前78%で認められ,変更後25%で消失したが12%で新たに生じた。重篤な副作用は生じなかった。

Kornick ら13)による前後比較研究では,フェンタニル貼付剤でNRS が8 以上の痛みのある患者9 例を対象として等鎮痛用量の持続静注に変更したところ,5 日以内に全例でNRS が4 以下になり,重篤な副作用は生じなかった。

Drexel ら14)による前後比較研究では,モルヒネ徐放性製剤や4 時間毎のモルヒネ単回皮下投与をされていても重度の眠気や悪心があったり鎮痛効果が得られない患者36 例を対象とし,モルヒネを持続皮下注に変更した。全例で痛みの改善とQOL の改善,モルヒネ投与量の減少が認められた。鎮痛効果は持続皮下注に変更後10 時間以内にもたらされ,NRS が5 以上の痛みのある患者はいなくなった。

**

以上より,十分な知見はないが,あるオピオイドの経口投与または貼付剤で適切な鎮痛効果が得られない患者において,オピオイドを持続静注・持続皮下注に変更することは,痛みを緩和する可能性があると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,あるオピオイドの経口投与または経皮投与で適切な鎮痛効果が得られない患者において,オピオイドを持続静注・持続皮下注に変更することを推奨する。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC ガイドライン(2012)では,オピオイドの経口や経皮投与で十分な鎮痛効果が得られない場合は,投与経路を持続静注・持続皮下注に変更することを推奨している。

NCCN ガイドライン(2012)では,モルヒネ速放性製剤の経口投与を1 時間おきに2〜3回繰り返しても痛みが緩和できない時は,痛みの評価を再度やり直すとともに,持続静注・持続皮下注に変更することを推奨している。

ESMO のガイドライン(2012)では,高度の痛みで迅速な鎮痛効果が必要な時は持続静注・持続皮下注を推奨している。


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►臨床疑問18

オピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において,オピオイドとケタミンの併用は,オピオイド単独に比較して痛みを緩和するか?

推奨


オピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において,オピオイドとケタミンの併用は,オピオイド単独に比較して痛みを緩和する可能性がある。


オピオイドを増量しても適切な鎮痛効果が得られない場合,専門家に相談したうえで,オピオイドにケタミンを併用する。

2B
(弱い推奨,低いエビデンスレベル)


(ケタミン・コルチコステロイド以外の鎮痛補助薬については,神経障害性疼痛参照)

解説

本臨床疑問に関する臨床研究としては,1 件の系統的レビューと1 件の二重盲検無作為化比較試験がある。

Bell ら15)による系統的レビューでは,大規模な質の高い無作為化比較試験はなく,根拠としては不十分であるが,ケタミンの有効性を示唆した4 つの無作為化比較試験と32 の記述的研究を抽出した。ケタミンの使用量は1 mg/kg/日〜600 mg/日であった。

例えば,Mercadante ら16)による無作為化比較試験では,モルヒネで緩和されない神経障害性疼痛のあるがん患者10例を対象としたところ,ケタミンは用量依存性に痛みを緩和した〔NRS 6.6→3.8(ケタミン0.25 mg/kg 投与群),5.9→1.8(ケタミン0.5 mg/kg 投与群),6.5→6.6(プラセボ群)〕。副作用として,幻覚が30〜40%,酩酊感が20%に認められた。また,ケタミン投与群ではプラセボ群より眠気が多く認められた〔1.7(ケタミン0.25 mg/kg 投与群)vs 1.9(ケタミン0.5 mg/kg 投与群)vs 0.3(プラセボ投与群),投与後30 分の0〜3 スケール〕。

Jackson ら17)による前後比較研究では,オピオイドで鎮痛効果が不十分ながん患者39 例を対象に,ケタミン100〜500 mg/日を3〜5 日間持続皮下注を行ったところ,体性痛17 例中15 例(88%),神経障害性疼痛23 例中14 例(61%)に有効であった。有効の定義は,NRS が50%以上低下し,さらに1 日のオピオイド使用量または疼痛時オピオイド使用回数が50%以上減少するか生活機能が明らかに改善する場合とした。副作用として,浮遊感15%,幻覚7.7%,眠気5.1%,めまい2.5%が認められた。

Kannan ら18)による前後比較研究では,アミトリプチリンやバルプロ酸ナトリウムとモルヒネを副作用の耐えられる最大投与量まで使用していてもNRS が6 以上の神経障害性疼痛のあるがん患者9 例を対象に,経口ケタミン(1 回0.5 mg/kg を3回/日)による鎮痛効果をみたところ,痛みのNRS は24 時間後には7.6 から3.6 に減少した(p=0.0092)。

Ogawa ら19)による前後比較研究では,モルヒネで鎮痛効果が得られないか,またはモルヒネの耐えがたい副作用のある終末期がん患者15例を対象に,ケタミン持続静注を行ったところ,投与後6 時間で1 例が幻覚を伴うせん妄で,もう1 例が全身衰弱でケタミン投与中止となったが,残りの13 例は3〜20 mg/h のケタミン投与で,痛みのVAS は5.9 から0.3 に低下した。

一方,Hardy ら20)による無作為化比較試験では,オピオイドや鎮痛補助薬を使用してもBrief Pain Inventory(BPI)1 平均スコアが3 以上の痛みがある患者187 例を対象とし,ケタミン(100→300→500 mg/日)またはプラセボ(生理食塩水)の持続皮下注を5 日間行ったところ,平均BPI で2 以上の低下を有効とした有効率に差はなく(ケタミン27% vs プラセボ31%),痛みの種類(侵害受容性vs 神経障害性)による有効率にも差はなかった。試験開始前より有害事象が悪化した症例は試験開始翌日で1.95 倍,全経過を通してケタミン群でプラセボ群より多かった(NNT2=25,NNH3=6)。

**

以上より,十分な知見ではないが,オピオイドで適切な鎮痛効果が得られない神経障害性疼痛やオピオイド耐性を生じた可能性がある患者において,オピオイドとケタミンの併用は,精神症状の発現の可能性が高いが,痛みを緩和する可能性があると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,オピオイドを増量しても鎮痛効果が得られず他の治療に反応しない場合は,専門家に相談したうえでオピオイドにケタミンを併用することを考慮する。


1:BPI(Brief Pain Inventory)

簡易痛み質問表とも呼ばれる患者の自記記載形式の調査表。痛みの強さ(現在,最悪の時,最も軽い時:NRS)と部位,投薬の鎮痛効果,痛みが日常生活に影響する程度(NRS,7 項目)から構成されている。

2:NNT(Number Needed to Treat)

1 例の効果を得るためにその治療を何人の患者に用いなければならないかを示す指標。

3:NNH(Number Needed to Harm)

何人の患者を治療すると1 例の有害症例が出現するかを示す指標。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2012)では,ケタミンについては系統的レビューを行わず,検討の対象としていない。

ESMO のガイドライン(2012)では,ケタミンの少量投与は難治性の痛みに対して十分ではないがある程度の根拠があるとしている。


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►臨床疑問19

オピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において,オピオイドとコルチコステロイドの併用は,オピオイド単独に比較して痛みを緩和するか?

推奨


オピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において,特定の病態4ではオピオイドとコルチコステロイドの併用は,オピオイド単独に比較して痛みを緩和する可能性がある。


オピオイドが投与されていても鎮痛効果が得られない患者において,特定の病態においては,副作用に注意しながらコルチコステロイドを投与する。

2C
(弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)


(ケタミン・コルチコステロイド以外の鎮痛補助薬については,神経障害性疼痛参照)

4:コルチコステロイドの効果が期待できる病態

脊髄圧迫症候群など神経への圧迫による痛み,炎症による痛み,頭蓋内圧亢進に伴う頭痛,臓器の被膜伸展痛,骨転移に伴う痛みなどを指す。

解説

本臨床疑問に関する臨床研究としては,2 件の無作為化比較試験(Bruera ら21),Mercadnte ら22))と複数の記述的研究(Hardy23),Watanabe ら24))がある。

Bruera ら21)による,弱オピオイド(propoxyfen とdipyrone の合剤)の経口投与を受けている終末期がん患者40 例を対象とした無作為化クロスオーバー比較試験では,メチルプレドニゾロン32 mg,5 日間の投与により,痛みのVAS が低下した(58→37 vs 58→50,p<0.01)。

Mercadante ら22)による,緩和ケア病棟に入院した中等度以上のがん疼痛のある患者76 例を対象とした無作為化比較試験では,オピオイド投与に加えてデキサメタゾン8 mg/日の投与は消化器症状(悪心・嘔吐,便秘)と全般的快適さ(sense of well-being)に短期的効果をもたらしたが,鎮痛効果はオピオイド単独と同等であり(NRS 7.1→1.9 vs 5.4→2.2,2 週間後),コルチコステロイドによる鎮痛効果を示せなかった。しかし本研究は,オピオイドで鎮痛効果が不十分な患者だけを対象としているわけではなく,1 カ月以内にコルチコステロイド投与を受けた患者と,痛み以外の症状に対してコルチコステロイドの適応がある患者は除外されているので,痛みに対するコルチコステロイドの適応と考えられる患者は除外されている可能性がある。

**

以上より,オピオイドで適切な鎮痛効果が得られない患者において,がん疼痛全体としては鎮痛効果を向上するという根拠は乏しいが,脊髄圧迫症候群など神経への圧迫による痛み,炎症による痛み,頭蓋内圧亢進に伴う頭痛,臓器の被膜伸展痛,骨転移に伴う痛みなどの病態においてはオピオイドとコルチコステロイドの併用は,オピオイド単独に比較して痛みを緩和する可能性があると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,専門家の合意により,長期使用に伴う副作用(高血糖,胃潰瘍,易感染性,口腔カンジダ症,満月様顔貌など)に注意しつつ,コルチコステロイドの適応と考えられる病態であれば,オピオイドとコルチコステロイドの併用を推奨する。併用の効果が認められれば効果の認められる最少量で併用し,効果がなければ漫然と使用せずに一定期間で減量・中止する。

既存のガイドラインとの整合性

NCCN のガイドライン(2012)では,神経圧迫,多発骨転移による痛み,炎症,消化管閉塞による痛みに対するコルチコステロイドの投与を推奨している。

ESMO のガイドライン(2012)では,神経圧迫による痛みの場合はコルチコステロイドの投与を推奨している。

(佐藤恭子,須賀昭彦,山本 亮)

【文 献】

臨床疑問16

1) Nabal M, Librada S, Redondo MJ, et al. The role of paracetamol and nonsteroidal anti-inflammatory drugs in addition to WHO step Ⅲ opioids in the control of pain in advanced cancer. A systematic review of the literature. Palliat Med 2012;26:305-12

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臨床疑問17

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臨床疑問18

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臨床疑問19

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【参考文献】

臨床疑問19

24) Watanabe S, Bruera E. Corticosteroids as a adjuvant analgesics. J Pain Symptom Manage 1994;9:442-5


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 オピオイドが投与されている患者で,突出痛が緩和されていない場合,有効な治療は何か?

関連する臨床疑問
  1. ►20突出痛のある患者において,行うべき評価は何か?
  2. ►21突出痛のある患者において,オピオイドのレスキュー薬は,プラセボに比較して痛みを緩和するか?
  3. ►22定時鎮痛薬の切れ目の痛み(end-of-dose failure)のある患者において,オピオイドの定期投与量の増量・投与間隔の短縮は,増量・投与間隔の短縮をしない場合に比較して,痛みを緩和するか?
  4. ►23レスキュー薬の投与で鎮痛効果が不十分な突出痛のある患者において,オピオイドの定期投与量の増量は,増量しない場合に比較して痛みを緩和するか?
  5. ►24突出痛のある患者において,オピオイドに非オピオイド鎮痛薬を併用することは,併用しない場合に比較して痛みを緩和するか?

推奨


  1. ►20痛みの原因の評価と痛みの評価を行う。
  2. ►21①突出痛のある患者において,オピオイドのレスキュー薬を投与する。
    1B
    (強い推奨,低いエビデンスレベル)
    投与量:
    経口投与では1 日投与量の10〜20%の速放性製剤を,持続静注・持続皮下注では1 時間量を急速投与する。
    投与間隔:
    経口投与の場合は1 時間毎,持続静注・持続皮下注の場合は15〜30 分毎とする。
    投与経路:
    定期投与と同じ経路を原則とする。発現から最大になるまでの時間の短い突出痛に対しては,持続静注・持続皮下注・口腔粘膜吸収剤を検討する。ただし,口腔粘膜吸収剤は持続痛がコントロールされている場合に限る。
    ②レスキュー薬の効果が不十分であった場合,眠気が許容できる範囲で,レスキュー薬の投与量を増量する。
    2C
    (弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)
  3. ►22定時鎮痛薬の切れ目の痛み(end-of-dose failure)のある患者において,オピオイドの定期投与量の増量,または,投与間隔の短縮を行う。
    1B
    (強い推奨,低いエビデンスレベル)
  4. ►23レスキュー薬の投与で鎮痛効果が不十分な突出痛のある患者において,専門家へ相談のうえ,眠気が許容できる範囲でオピオイドの定期投与量を増量する。
    2C
    (弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)
  5. ►24突出痛のある患者において,オピオイドに非オピオイド鎮痛薬を併用する。
    2C
    (弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)

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►臨床疑問20

突出痛のある患者において,行うべき評価は何か?

推奨


痛みの原因の評価と痛みの評価を行うⅡ-2 痛みの包括的評価の項参照)

解説
1 )痛みの原因を身体所見や画像検査から評価する

がんによる痛みでは鎮痛薬の投与などの疼痛治療とともに,外科治療,化学療法,放射線治療などの腫瘍そのものに対する治療を検討する。がん治療による痛み(術後痛症候群,化学療法後神経障害性疼痛など)やがん・がん治療と直接関連のない痛み(脊柱管狭窄症,帯状疱疹など)では原因に応じた治療を行う。痛みがオンコロジーエマージェンシー(脊髄圧迫症候群,骨折・切迫骨折,感染症,消化管の閉塞・穿孔・出血など)の症状であることがあるので,痛みへの対応のみでなく,痛みを生じている病態の把握と原因への対応を行う。特殊な疼痛症候群(神経障害性疼痛,骨転移痛,上腹部の内臓痛,胸部痛,会陰部の痛み,消化管閉塞など)の場合にはそれぞれの対応を検討するⅢ-4 各項を参照)

2 )痛みの評価を行う

痛みの日常生活への影響,痛みのパターン(持続痛か突出痛か),痛みの強さ,痛みの部位,痛みの経過,痛みの性状,痛みの増悪因子と軽快因子,現在行っている治療の反応,および,レスキュー薬の鎮痛効果と副作用について評価する。

突出痛が生じる経過を明らかにし,体動時痛など予測できる突出痛,予測できない突出痛,定時鎮痛薬の切れ目の痛み(end-of-dose failure)に分類する。さらに突出痛の発現から最大になるまでの時間と持続時間を評価することにより,レスキュー薬の投与経路などを決める参考にする。


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►臨床疑問21

突出痛のある患者において,オピオイドのレスキュー薬は,プラセボに比較して痛みを緩和するか?

推奨


突出痛のある患者において,オピオイドのレスキュー薬は痛みを緩和する。


①突出痛のある患者において,オピオイドのレスキュー薬を投与する。

1B
(強い推奨,低いエビデンスレベル)

投与量:
経口投与では1 日投与量の10〜20%の速放性製剤を,持続静注・持続皮下注では1 時間量を急速投与する。
投与間隔:
経口投与の場合は1 時間毎,持続静注・持続皮下注の場合は15〜30 分毎とする。
投与経路:
定期投与と同じ経路を原則とする。発現から最大になるまでの時間の短い突出痛に対しては,静脈内・皮下投与・口腔粘膜吸収剤を検討する。ただし,口腔粘膜吸収剤は持続痛がコントロールされている場合に限る。

②レスキュー薬の効果が不十分であった場合,眠気が許容できる範囲で,レスキュー薬の投与量を増量する。

2C
(弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)

解説
1 )レスキュー薬の鎮痛効果に関する臨床研究

本臨床疑問に関する臨床研究は,12 件の無作為化比較試験と1 件の比較試験を含む6 件の系統的レビュー,4 件の前後比較研究(1 件は無作為化比較試験)がある。

(1)経粘膜吸収型フェンタニル製剤に関する研究

フェンタニル粘膜吸収剤〔fentanyl buccal tablet(FBT),sublingual fentanyl(SLF),oral transmucosal fentanyl citrate(OTFC,本邦未発売),intranasal fentanyl spray(INFS,本邦未発売)またはfentanyl pectin nasal spray(FPNS,本邦未発売)〕に関する,12 件の無作為化比較試験と1 件の比較試験を含む6 件の系統的レビューがある1-19)。これらの系統的レビューでは,突出痛に対するフェンタニル粘膜吸収剤はプラセボに比較して有効であると結論している。また,レスキュー薬の投与量は定期投与量から一律に決めることはできず患者個々にあわせた投与量の調整が必要であるとしている。

既存の経口の速放性製剤とフェンタニル粘膜吸収剤の比較に関する3 件の無作為化比較試験がある。

Coluzzi ら10)による無作為化比較試験では,オピオイドの定期投与として経口モルヒネ換算で60〜1,000 mg/日が投与され,持続痛が中等度以下にコントロールされており,1〜4 回/日の突出痛を有するがん患者75 例を対象とし,モルヒネ速放性製剤とOTFC の効果を比較した。15 分後の痛みの強度が33%以上低下している場合を有効と定義し,モルヒネ速放性製剤とOTFC はそれぞれ32%と42%に有効であった(p<0.001)。投与量は漸増法により有効なレスキュー薬の投与量を決定したところ,定期投与量と有効なレスキュー薬の投与量に関連は認めなかった。副作用に関するデータは示されていない。

Davies ら11)による無作為化比較試験では,オピオイドの定期投与として経口モルヒネ換算で60 mg/日以上が投与され,1〜4 回/日の突出痛を有するがん患者84 例を対象とし,モルヒネ速放性製剤とFPNS の効果と認容性を比較した。10 分後の痛みの強度が2 ポイント以上減少している場合を有効と定義し,モルヒネ速放性製剤とFPNS はそれぞれ45%と52%に有効であった(p<0.05)。副作用に関するデータはFPNS 投与時の鼻腔に関する副作用のみが示されており,軽度の鼻閉が2.2%,軽度の鼻汁が4.5%に認められた。

(2)経口投与に関する研究

Coluzzi ら10)による,突出痛に対する無作為化比較試験の対照群では,突出痛に対して,レスキュー薬として平均31±14 mg のモルヒネ速放性製剤を投与し,15 分後に32%の例において痛みの強度が33%以上低下し,投与前と比較して投与60 分後の痛みのNRS は約3.5(図による表示のみで正確な数値の記載はなし)低下した。モルヒネ速放性製剤の投与量は漸増法により有効なレスキュー薬の投与量を決定し,定期投与量と有効なレスキュー薬の投与量に関連は認めなかった。副作用に関するデータは示されていない。

(3)静脈内投与に関する研究

Mercadante ら(2007)20)による無作為化比較試験では,突出痛のある患者25 例を対象に,経口モルヒネ換算1 日投与量の1/5 相当のモルヒネ静注(静注:経口=1:3 の換算比を使用,例えば,経口モルヒネ90 mg/日は,モルヒネ静注換算30 mg/日相当であり,その1/5 であるモルヒネ6 mg を静脈内投与)とOTFC の効果を比較したところ,モルヒネ静注群では投与前,15 分後,30 分後の平均の痛みのNRSは,それぞれ,6.9,3.3,1.7 であった。有効な疼痛緩和(NRS 33%以上の低下と定義)は15 分後で74%,30 分後で87%であった。副作用スケール2〜3 の副作用として,悪心3.7%,眠気19%,混乱5.6%が認められた。

Mercadante ら(2004)21)による前後比較研究では,突出痛のある患者48 例(突出痛171 例)を対象に,経口モルヒネ換算1 日投与量の1/5 相当のモルヒネ静注の突出痛に対する効果を検討したところ,95%の症例で有効な疼痛緩和(NRS 33%以上の低下と定義)が得られた。有効例における最大効果発現までの平均時間は17.7分であった。副作用スケール2〜3 の副作用は,悪心・嘔吐7.0%,眠気15%,混乱0.6%で認められた。

Mercadante ら(2008)22)による前後比較研究では,突出痛のある患者99 例(突出痛469 例)を対象に,経口モルヒネ換算1 日投与量の1/5 相当のモルヒネ静注の突出痛に対する効果を検討したところ,平均疼痛強度はNRS で投与前7.2 から15 分後2.7 へ低下し,全体の61%で有効な疼痛緩和(NRS 33%以上の低下と定義)が得られた。重大な副作用は認められなかった。

(4)皮下投与に関する研究

Enting ら23)による前後比較研究では,突出痛のある患者58 例を対象に,皮下計算量での総オピオイド1 日投与量の10〜15%相当のhydromorphone(43 例),モルヒネ(11 例),sufentanil(4 例)を自己注射し,副作用(具体的な記載なし)のない範囲で有効な投与量まで増量したところ,有効率は「よい」84%,「まあまあ」14%,「変わらない」2%であった。1 日投与量は経口モルヒネ換算280 mg/日,平均レスキュー薬投与量は皮下モルヒネ換算25 mg であった。効果発現までの時間は5〜10 分であった。副作用による中止は1 例であった。

**

以上より,突出痛に対してオピオイドのレスキュー薬投与は痛みを緩和すると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,突出痛に対して,オピオイドのレスキュー薬を投与することを推奨する。

2 )レスキュー薬の投与量,投与間隔,投与経路
(1)投与量

前述の臨床研究では,レスキュー薬として経口・静脈内・皮下投与のいずれにおいてもオピオイドの1 日投与量の10〜20%相当の量を投与しており,この投与量は安全かつ有効であることが示唆される。一方,持続静注・持続皮下注の場合,本邦では1 時間量(定期投与量の1/24)の急速投与がレスキュー薬として広く用いられており,経験的に安全で効果があると考えられている。

したがって,これらの知見と専門家の合意から,本ガイドラインでは,初回のレスキュー薬の投与量として経口投与では1 日投与量の10〜20%相当のオピオイド速放性製剤を,持続静注・持続皮下注では1 時間量を初回の投与量として投与することを推奨する。ただし,レスキュー薬の投与量は,鎮痛効果と副作用を評価し,患者の状態に応じて調節する。

また,フェンタニル速放性製剤は,定期投与量にかかわらず低用量から開始し,有効な用量まで増量する。

さらに,レスキュー薬は,体格が小さい,高齢である,全身状態が不良である場合には,より少量から開始することが望ましい。

(2)投与間隔

薬物の投与間隔に関しては,根拠となる臨床研究はない。

本ガイドラインでは,それぞれの最高血中濃度到達時間(Tmaxを勘案し,専門家の合意から,経口の場合は1 時間毎,経静脈投与・皮下投与の場合は15〜30 分毎とすることを推奨する。

レスキュー薬の追加がほぼ等間隔で必要な場合は,持続痛の緩和が不十分であると考えられるため,オピオイドの定期投与量の増量を検討するⅢ-1-3 オピオイドが投与されている患者の項参照)

(3)投与経路

投与経路は,定期投与されているオピオイドと同じ経路を使用することを原則とする。経口投与が最も簡便であるが,効果発現までに時間がかかるため,痛みが発現してから最大になるまでの時間の短い突出痛に対しては,効果発現までの時間が短い静脈内・皮下投与(患者自己調節鎮痛法:patient control analgesia;PCA)・口腔粘膜吸収剤を検討する。ただし,口腔粘膜吸収剤は持続痛がコントロールされている場合に限る。

直腸内投与に関しては,他の投与経路が困難な場合の投与経路の選択肢となりうる。レスキュー薬を直腸内投与する場合,投与量はオピオイド1 日投与量の10〜20%を1 回投与量とし,投与間隔はTmaxから2 時間を目安とする

**

以上より,確立した知見ではないが,レスキュー薬投与量の増量により突出痛に対する効果が改善する可能性がある。

したがって,本ガイドラインでは,これらの知見と専門家の合意より,レスキュー薬の鎮痛効果が不十分であった場合,眠気が許容できる範囲で,レスキュー薬の投与量を増量することを推奨する。ただし,レスキュー薬の増量方法は安全性と有効性が確認された標準化された方法がないので,患者の個々にあわせた評価と観察が必要である。すなわち,レスキュー薬の投与後,血中濃度が最高となる時間の鎮痛効果,眠気,呼吸数などを評価し,眠気,呼吸数の低下がみられずに痛みが緩和できない場合に,50%を目安として漸増し,鎮痛効果と副作用を継続的に評価する。


:Tmax(maximum drug concentration time)

最高血中濃度到達時間。薬物投与後,血中濃度が最大〔最高血中濃度(Cmax)〕に到達するまでの時間。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2012)では,フェンタニル粘膜吸収剤を中心に記載されている。突出痛に対して経口の速放性製剤,FBT,またはINFS を投与することを推奨している。FBT またはINFS は効果発現がより早く,持続時間が短いために経口の速放性製剤よりも適切な場合があるとしている。レスキュー薬の投与量は定期投与量から一律に決めることはできず,患者個々にあわせた投与量の調整を推奨している。

NCCN のガイドライン(2012)では,NRS が4 以上の突出痛に対して,1 日投与量の10〜20%のオピオイドを経口もしくは静脈内・皮下投与することを推奨している。経口投与では投与1 時間後に,静脈内投与では投与15 分後に,皮下投与では投与30 分後に再評価を行う。レスキュー薬の効果がない,もしくは痛みが悪化した場合はレスキュー薬の投与量を50〜100%増量してさらに追加投与を行う。突出痛の改善がNRS 4〜6 までにとどまれば同量を投与し,再評価を行う。同量の投与を2〜3 回繰り返し,NRS 4〜6 のままである場合は投与経路の変更を検討する。突出痛の改善がNRS 0〜3 に改善すれば,必要に応じて1 日に使用したレスキュー薬の投与量を定期投与に追加することを推奨している。

ESMO のガイドライン(2012)では,レスキュー薬は,1 日投与量の10〜15%のオピオイドを投与することを推奨している。1 日に4 回以上レスキュー薬を使用する場合は定期投与量を調整することを推奨している。


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►臨床疑問22

定時鎮痛薬の切れ目の痛み(end-of-dose failure)のある患者においてオピオイドの定期投与量の増量・投与間隔の短縮は,増量・投与間隔の短縮をしない場合に比較して,痛みを緩和するか?

推奨


定時鎮痛薬の切れ目の痛み(end-of-dose failure)のある患者において,オピオイドの定期投与量の増量,または,投与間隔の短縮は,痛みを緩和する。


定時鎮痛薬の切れ目の痛み(end-of-dose failure)のある患者においてオピオイドの定期投与量の増量,または,投与間隔の短縮を行う。

1B
(強い推奨,低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する無作為比較試験,前後比較研究はともにないが,がん疼痛に対しWHO 方式がん疼痛治療法の有用性を示した複数の観察研究があり,これらでは定期投与量の増量または投与間隔の短縮を行ったものが含まれているⅡ-3 WHO 方式がん疼痛治療法参照)

1 )速放性製剤

速放性製剤に関連した臨床研究として,2 件の無作為化比較試験がある。

Tod ら24)による無作為化比較試験では,モルヒネ速放性製剤を定期投与されているがん患者20 例を対象に,4 時間毎のモルヒネ投与と就寝前の倍量投与を比較した。夜間にレスキュー薬の使用が必要であった患者の割合,朝・夜間の痛みとも,就寝前に倍量投与した群に痛みが強く(それぞれ,20% vs 55%,p=0.016;0.8 vs 2.5,p<0.01;0.5 vs 2.3,p<0.01),夜間の突出痛の予防を目的とした場合には就寝前の倍量投与よりも投与間隔の短縮が有効であると結論した。

一方,Dale ら25)による無作為化比較試験では,がん疼痛に対してモルヒネ速放性製剤を定期投与されている患者19 例を対象に,十分なオピオイド定期投与量の増量を行ったあとに,4 時間毎のモルヒネ速放性製剤の投与と就寝前の倍量投与を比較した。両群において疼痛強度は同等(1.3 vs 0.8,p=0.058)であり,投与間隔の短縮と比較して就寝前の倍量投与の有効性を否定できないとしている。

**

以上より,速放性製剤を定期オピオイドとして使用する場合に定時鎮痛薬の切れ目の痛みを防ぐために,オピオイドの定期投与量を増量する方法と投与間隔を短くする方法のいずれが有効かは知見が一致しておらず結論できない。

したがって,本ガイドラインでは,専門家の合意として,速放性製剤を使用している場合,定時鎮痛薬の切れ目の痛みが発現する場合にはオピオイド徐放性製剤の導入を含む定期投与量の増量,または,投与間隔の短縮のいずれかを行い,鎮痛効果を評価することを推奨する。

2 )徐放性製剤

徐放性製剤に関連した臨床研究は,無作為化比較試験,前後比較研究ともにない。すなわち,徐放性製剤を定期オピオイドとして使用する場合に,定期投与量の増量または投与間隔の短縮が定時鎮痛薬の切れ目の痛みを緩和するかは明らかではない。

しかし,がん疼痛に対するWHO 方式がん疼痛治療法の有用性を示した複数の観察研究があり,これらには定期投与量の増量または投与間隔の短縮を行ったものが含まれていると考えられるⅡ-3 WHO 方式がん疼痛治療法の項参照)。また,徐放性製剤は作用時間が長いため投与量の増量により血中濃度の維持が可能となり,定時鎮痛薬の切れ目の痛みを防ぐ可能性があると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,専門家の合意として,定時鎮痛薬の切れ目の痛みに対して徐放性製剤によるオピオイド定期投与量の増量を推奨する。

オピオイドの定期投与量の増量によっても定時鎮痛薬の切れ目の痛みがなくならない,もしくは増量によって副作用が出現する場合は,24 時間徐放性製剤であれば12 時間毎に,12 時間徐放性製剤であれば8 時間毎に投与することを検討する。

**

以上より,定時鎮痛薬の切れ目の痛みに対して,オピオイドの定期投与量の増量,または,投与間隔の短縮は,いずれも,痛みを緩和する可能性があると考えられる。本ガイドラインでは,定時鎮痛薬の切れ目の痛みに対して,オピオイドの定期投与量の増量,または,投与間隔の短縮を行うことを推奨する。

既存のガイドラインとの整合性

 EAPC のガイドライン(2012)では,持続痛がコントロールされていないための痛みの増悪には,定期投与量を調整することを推奨している。

NCCN のガイドライン(2012)では,定期投与量を増量することを推奨している。


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►臨床疑問23

レスキュー薬の投与で鎮痛効果が不十分な突出痛のある患者において,オピオイドの定期投与量の増量は,増量しない場合に比較して痛みを緩和するか?

推奨


レスキュー薬の投与で鎮痛効果が不十分な突出痛のある患者において,オピオイドの定期投与量の増量は,痛みを緩和するという根拠は不十分である。


レスキュー薬の投与で鎮痛効果が不十分な突出痛のある患者において,専門家へ相談のうえ,眠気が許容できる範囲でオピオイドの定期投与量を増量する。

2C
(弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する臨床研究はない。関連した臨床研究として1 件の前後比較研究がある。

Mercadante ら26)による前後比較研究では,骨転移に関連した体動によって誘発される突出痛のある患者25 例を対象とし,モルヒネ持続静注による増量を行い,安静時痛が消失(NRS で4 以下と定義)した後,体動時痛がNRS で4 以下となるのを目標に定期の経口モルヒネを副作用が許容できる範囲で増量したところ,治療前の安静時痛・体動時痛の平均NRS はそれぞれ5.3,9.2 であったが,安静時痛が緩和された翌日には1.8,4.8 へ改善し,退院日にはそれぞれ2.0,4.6 であった。平均経口モルヒネ量は102 mg/日から125 mg/日に増量された。オピオイドの増量を妨げる副作用としては,悪心・嘔吐が12%,眠気が4%で認められた。

**

以上より,オピオイドの定期投与量の増量により骨転移による体動時痛の痛みが低下することが示唆されるが,この研究は「レスキュー薬の投与で鎮痛効果が不十分な突出痛」を対象としたものではなく,また,骨転移による体動時痛に関する研究であり,骨転移による体動時痛以外の突出痛でも同様に鎮痛効果が得られるかは不明である。また,入院による安静などオピオイド定期投与量の増量以外の介入による鎮痛効果が関与している可能性もある。

さらに,安静時の持続痛が緩和されている状況でのオピオイドの定期投与量の増量は過量投与の危険性があり,増量を行う場合に,どのくらいの増量を行えばよいかについて,判断材料となる根拠は存在しない。

すなわち,レスキュー薬の投与で鎮痛効果が不十分な突出痛に対して,オピオイドの定期投与量の増量が痛みを緩和する可能性はあるが根拠は不十分であると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,これらの知見と専門家の合意から,レスキュー薬の投与で鎮痛効果が不十分な突出痛に対して,専門家への相談のうえ,眠気などの副作用が出現しない範囲でオピオイドの定期投与量の増量を検討することを推奨する。増量幅は,安全性の点から20%を目安とした慎重な増量を行い,継続して十分な観察を行うことが望ましい。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2012),ESMO のガイドライン(2012)およびNCCN の ガイドライン(2012)において,突出痛に対してオピオイドの定期投与量の増量に 関して言及しているものはない。


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►臨床疑問24

突出痛のある患者において,オピオイドに非オピオイド鎮痛薬を併用するこ とは,併用しない場合に比較して痛みを緩和するか?

推奨


突出痛のある患者において,オピオイドに非オピオイド鎮痛薬を併用する ことは,痛みを緩和する可能性がある。


突出痛のある患者において,オピオイドに非オピオイド鎮痛薬を併用する。

2C
(弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する無作為化比較試験,前後比較研究はともにない。すなわち,突出痛に対してオピオイドに非オピオイド鎮痛薬を併用することが,オピオイド単独投与と比較して痛みを改善するかは明らかではない。

しかし関連した知見として,全般的な痛みに対して非オピオイド鎮痛薬・オピオイドの併用により,鎮痛効果が増強することが示されている臨床疑問12 参照)

したがって,本ガイドラインでは,非オピオイド鎮痛薬が投与されていない場合はオピオイドに非オピオイド鎮痛薬を併用することを推奨する。ただし,その鎮痛効果は中等度であり,特にNSAIDs を使用する場合は長期投与により副作用の発現頻度が高くなるため,鎮痛効果と副作用を評価し長期投与を行うか判断するのが望ましい。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2002)では,NSAIDs などの抗炎症薬は,骨転移による痛みや粘膜・皮膚病変に関連する突出痛に対して有効な可能性があるとしている。

EAPC のガイドライン(2012)では,突出痛に対してオピオイドと非オピオイド鎮痛薬の併用についての記載はない。

【文 献】

臨床疑問21

1) Farrar JT, Cleary J, Rauck R, et al. Oral transmucosal fentanyl citrate:randomized, double-blinded, placebo-controlled trial for treatment of breakthrough pain in cancer patients. J Natl Cancer Inst 1998;90:611-6

2) Portenoy RK, Taylor D, Messina J, et al. A randomized, placebo-controlled study of fentanyl buccal tablet for breakthrough pain in opioid-treated patients with cancer. Clin J Pain 2006;22:805-11

3) Portenoy RK, Messina J, Xie F, et al. Fentanyl buccal tablet(FBT)for relief of breakthrough pain in opioid-treated patients with chronic low back pain:a randomized, placebo-controlled study. Curr Med Res Opin 2007;23:223-33

4) Kress HG, Orońska A, Kaczmarek Z, et al. Efficacy and tolerability of intranasal fentanyl spray 50 to 200 microg for breakthrough pain in patients with cancer:a phase Ⅲ, multinational, randomized, double-blind, placebo-controlled, crossover trial with a 10-month, open-label extension treatment period. Clin Ther 2009;31:1177-91

5) Mercadante S, Radbruch L, Davies A, et al. A comparison of intranasal fentanyl spray with oral transmucosal fentanyl citrate for the treatment of breakthrough cancer pain:an open-label, randomised, crossover trial. Curr Med Res Opin 2009;25:2805-15

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7) Portenoy RK, Burton AW, Gabrail N, et al. A multicenter, placebo-controlled, double-blind, multiple-crossover study of Fentanyl Pectin Nasal Spray(FPNS)in the treatment of breakthrough cancer pain. Pain 2010;151:617-24

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9) Zeppetella G, Messina J, Xie F, et al. Consistent and clinically relevant effects with fentanyl buccal tablet in the treatment of patients receiving maintenance opioid therapy and experiencing cancer-related breakthrough pain. Pain Pract 2010;10:287-93

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16) Elsner F, Zeppetella G, Porta-Sales J, et al. Newer generation fentanyl transmucosal products for breakthrough pain in opioid-tolerant cancer patients. Clin Drug Investig 2011;31:605-18

17) Hansen MS, Mathiesen O, Trautner S, et al. Intranasal fentanyl in the treatment of acute pain-a systematic review. Acta Anaesthesiol Scand 2012;56:407-19

18) Dietrich E, Gums JG. Intranasal fentanyl spray:a novel dosage form for the treatment of breakthrough cancer pain. Ann Pharmacother 2012;46:1382-91

19) Smith H. A comprehensive review of rapid-onset opioids for breakthrough pain. CNS Drugs 2012;26:509-35

20) Mercadante S, Villari P, Ferrera, P et al. Transmucosal fentanyl vs intravenous morphine in doses proportional to basal opioid regimen for episodic-breakthrough pain. Br J Cancer 2007;96:1828-33

21) Mercadante S, Villari P, Ferrera P, et al. Safety and effectiveness of intravenous morphine for episodic(breakthrough)pain using a fixed ratio with the oral daily morphine dose. J Pain Symptom Manage 2004;27:352-9

22) Mercadante S, Intravaia G, Villari P, et al. Intravenous morphine for breakthrough(episodic-) pain in an acute palliative care unit:a confirmatory study. J Pain Symptom Manage 2008;35:307-13

23) Enting RH, Mucchiano C, Oldenmenger WH, et al. The“pain pen”for breakthrough cancer pain:a promising treatment. J Pain Symptom Manage 2005;29:213-7

臨床疑問22

24) Todd J, Rees E, Gwilliam B, et al. An assessment of the efficacy and tolerability of a“double dose”of normal-release morphine sulphate at bedtime. Palliat Med 2002;16:507-12

25) Dale O, Piribauer M, Kaasa S, et al. A double-blind, randomized, crossover comparison between single-dose and double-dose immediate-release oral morphine at bedtime in cancer patients. J Pain Symptom Manage 2009;37:68-76

臨床疑問23

26) Mercadante S, Villari P, Ferrera P, et al. Optimization of opioid therapy for preventing incident pain associated with bone metastases. J Pain Symptom manage 2004;28:505-10


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  オピオイドによる副作用

悪心・嘔吐

 オピオイドが投与された患者において,悪心・嘔吐が発現した時に有効な治療は何か?

関連する臨床疑問
  1. ►25オピオイドが投与され,悪心・嘔吐が発現した患者に対して,行うべき評価は何か?
  2. ►26オピオイドが投与され,悪心・嘔吐が発現した患者に対して,制吐薬は,プラセボに比較して悪心・嘔吐を改善するか?
  3. ►27オピオイドが投与され,悪心・嘔吐が発現した患者に対して,オピオイドの変更(オピオイドスイッチング)は,変更しないことに比較して悪心・嘔吐を改善するか?
  4. ►28オピオイドが投与され,悪心・嘔吐が発現した患者に対して,オピオイドの投与経路の変更は,変更しないことに比較して悪心・嘔吐を改善するか?

推奨


  1. ►25悪心・嘔吐を発現する他の要因を鑑別し,治療を検討する。
  2. ►26 オピオイドが投与され,悪心・嘔吐が発現した患者に対して,想定される機序から制吐薬を選択し,投与する。
    1C
    (強い推奨,とても低いエビデンスレベル)
  3. ►27オピオイドが投与され,悪心・嘔吐が発現した患者に対して,オピオイドを変更する。
    1B
    (強い推奨,低いエビデンスレベル)
  4. ►28オピオイドが投与され,悪心・嘔吐が発現した患者に対して,オピオイドの経口投与を持続静注・持続皮下注に変更する。
    2C
    (弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)

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►臨床疑問25

オピオイドが投与され,悪心・嘔吐が発現した患者に対して,行うべき評価は何か?

推奨


悪心・嘔吐を発現する他の要因を鑑別し,治療を検討する。

解説

がん患者の悪心・嘔吐の原因としてオピオイド以外に,薬物(ジギタリス,抗菌薬,鉄剤,抗がん剤など),消化器疾患(胃潰瘍,消化管閉塞,便秘など),電解質異常(高カルシウム血症,低ナトリウム血症など),感染症,高血糖,中枢神経系の病変(脳転移,がん性髄膜炎など),放射線治療などがある。これらの原因には治療可能なものもあるため,オピオイドによる悪心・嘔吐と判断する前に治療可能な原因を評価し,治療を検討する。

具体的には,投与薬物を確認し,悪心の発現や増悪との時間関係を検討する。また,腹部所見や神経所見など理学所見をとり,血液検査(補正カルシウム値1を含む),腹部単純X 線写真,頭部画像検査を検討することにより,主要な悪心・嘔吐の原因を鑑別することができる。

オピオイドが原因と考えられる場合は,初回投与や増量の直後では数日間で耐性ができることが多いため可能であれば経過をみる。鎮痛効果が十分であればオピオイドを徐々に減量し,鎮痛効果が不十分であれば非オピオイド鎮痛薬・神経ブロック2・放射線治療など他の鎮痛手段を加えてオピオイドを減量できるかを検討する。モルヒネが投与されている場合,腎機能障害が生じるとモルヒネの投与量は同一でもモルヒネの代謝産物が蓄積することにより悪心・嘔吐を発現することがある。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2012)では,痛みが緩和されている患者において,モルヒネによる副作用が問題となっている場合は,モルヒネ投与量を減量することで,これらの副作用を軽減できる可能性があるとしている。また,中枢神経系の病変,代謝性障害(高カルシウム血症など),敗血症,消化管閉塞,薬物(抗菌薬,NSAIDs,化学療法),放射線治療の可能性を評価し,代謝性疾患(高カルシウム血症など),脱水,敗血症は治療し,必要性がなく副作用を生じているかもしれない薬物は中止するべきとしている。

NCCN のガイドライン(2012)では,悪心がみられた場合,消化管蠕動の有無を確かめること,オピオイド以外の悪心の原因(便秘,中枢神経系の病変,化学療法,放射線治療,高カルシウム血症など)を除外することを推奨している。

ESMO のガイドライン(2012)では,神経ブロックや放射線治療,他の鎮痛薬を併用することでオピオイド投与量を減らし悪心を改善できることがあるとしている。


1:補正カルシウム値=カルシウム値+(4.0-アルブミン値)。がん患者ではアルブミンが低下していることが多いため注意する。

2:神経ブロック

局所麻酔薬や神経破壊薬,熱などにより神経の伝達機能を一時的・永久的に遮断することによって,または,オピオイドなど鎮痛薬の硬膜外腔・クモ膜下腔への投与によって鎮痛効果を得る手段。

(注釈)狭義の神経ブロックは一般的に前者をさし,後者とあわせたものを麻酔科的鎮痛(anesthesiological procedure)と呼ぶことがあるが,本ガイドラインでは,簡便に,両方をあわせて「神経ブロック」と呼ぶ。


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►臨床疑問26

オピオイドが投与され,悪心・嘔吐が発現した患者に対して,制吐薬は,プラセボに比較して悪心・嘔吐を改善するか?

推奨


オピオイドが投与され,悪心・嘔吐が発現した患者に対して,制吐薬は,悪心・嘔吐を改善する。


オピオイドが投与され,悪心・嘔吐が発現した患者に対して,想定される機序から制吐薬を選択し,投与する。

1C
(強い推奨,とても低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する臨床研究としては,4 件の系統的レビューがあるが(Glare ら1),Naeim ら2),McNicol ら3),Laugsand ら4)),質の高い臨床研究はほとんどない。

1 )想定される機序に応じた制吐薬の使用

想定される機序により制吐薬を使用することの有用性を検討した研究として,3 つの前後比較研究がある。Bentley ら5)は,緩和ケア病棟に入院している37 例のがん患者に対して,想定される病態に応じて制吐薬を投与したところ,悪心は82%,嘔吐は84%に臨床的な改善がみられた。Lichter ら(1993)6)は,87 例の終末期がん患者に対して,想定される病態に応じた悪心・嘔吐の治療を行ったところ,48 時間以内に93%の患者において悪心・嘔吐が臨床的に改善した。Stephenson ら7)は,緩和ケア病棟に入院している61 例のがん患者に対して病態に応じた悪心・嘔吐の治療を行った。原因は,消化管運動の低下(44%),オピオイドを含む薬物などによる化学受容体の刺激(33%)などであり,1 週間以内に悪心の56%,嘔吐の89%がコントロールされた。

2 )第一選択の制吐薬

オピオイドによる悪心・嘔吐に関する質の高い臨床研究はない。

(1)ドパミン受容体拮抗薬(ハロペリドール,プロクロルペラジンなど)

オピオイドによる悪心・嘔吐に限定した報告はない。ハロペリドールについては,オピオイドによる悪心には限定されていないが,Critchley ら8)による系統的レビューでは,消化管閉塞,モルヒネの硬膜外投与,原因がわからないがん患者の悪心・嘔吐に対して有効である可能性があると結論されている。

(2)消化管蠕動亢進薬(メトクロプラミド,ドンペリドン)

オピオイドによる悪心・嘔吐に限定した報告はない。Bruera ら9)による,持続的な悪心を訴える26 例のがん患者を対象とした無作為化比較試験では,プラセボに比較して徐放性メトクロプラミドが悪心VASを有意に低下させた(治療前後のVAS:17 vs 12,p=0.04)。

(3)抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン/ジプロフィリン,クロルフェニラミンマレイン酸塩,ヒドロキシジンなど)

オピオイドによる悪心・嘔吐に限定した報告はない。悪心を対象とした前後比較研究ではcyclizine やクロルフェニラミンマイレン酸塩が使用されている(Morita ら)。

3 )第二選択の制吐薬

第一選択の制吐薬が無効である場合に,制吐薬として使用されている薬剤は,非定型抗精神病薬(オランザピン,リスペリドン),フェノチアジン系抗精神病薬(クロルプロマジンなど),セロトニン拮抗薬などである。これらの薬剤に関する質の高い臨床研究はほとんどない。

Hardy ら10)による,オピオイド投与を受けている終末期がん患者で悪心・嘔吐を訴えている92 例を対象に,オンダンセトロン24 mg,メトクロプラミド30 mg,プラセボを用いた無作為化比較試験では,プラセボ群,オンダンセトロン群,メトクロプラミド群でそれぞれ33%,48%,52%で24 時間以内に嘔吐が完全に消失したが,群間差はなかった。

また,難治性悪心に対する少数例の記述的研究で,オランザピンやリスペリドンなどの非定型抗精神病薬の有用性が示唆されている。Passik ら11)はオピオイドを使用している15 例のがん患者を対象として,オランザピン2.5,5,10 mg をそれぞれ2 日間ずつ投与したところ,すべての用量において投与前と比較して悪心の改善を認めた。Okamoto らによる後向き研究では,オピオイドによる悪心・嘔吐を訴えるがん患者20 例に対してリスペリドン1 mg/日を使用し,50%で悪心,64%で嘔吐が消失した。Eisenchlas ら12)の前向き研究では,がん患者の難治性悪心70 例(オピオイドによる悪心2 例)に対してレボメプロマジン3〜25 mg/日(中央値6 mg)皮下投与し2 日後には悪心NRSの中央値が8 から1 に低下し,86%でNRS 6 以上の悪心の改善,92%で嘔吐が消失した。主な副作用としては,中央値2/10 の鎮静がみられた。

**

以上より,知見は十分ではないものの,がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,痛みを緩和すると考えられる。

したがって本ガイドラインでは,がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して,他の機序によるがん疼痛と同様に,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行うことを推奨する。以上より,オピオイドによる悪心・嘔吐に対して制吐薬の効果があることを示す質の高い知見はほとんどないが,臨床経験から,オピオイドの投与を受け悪心・嘔吐を生じた患者に対して制吐薬を投与することは,悪心・嘔吐を改善することに有用な可能性があると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,専門家の合意から,オピオイドの投与を受け悪心・嘔吐を生じた患者に対して,想定される主な機序から制吐薬を選択し投与することを推奨する。

制吐薬としては,使用経験が豊富なドパミン受容体拮抗薬,消化管蠕動亢進薬,または,抗ヒスタミン薬を第一選択とする。選択の目安として,持続的な悪心・嘔吐にはドパミン受容体拮抗薬,食後の悪心・嘔吐には消化管蠕動亢進薬,動作時の悪心・嘔吐には抗ヒスタミン薬を使用する。第一選択の制吐薬が無効であった場合には,第一選択の制吐薬を2 種類併用するか,または,第二選択の制吐薬として,非定型抗精神病薬,フェノチアジン系抗精神病薬,またはセロトニン拮抗薬のいずれかを使用する。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2012)では,オピオイドによる悪心を生じた患者に対して,ハロペリドールなどの抗ドパミン薬やメトクロプラミドなどの抗ドパミン作用と他の作用を示す薬剤を使用することを推奨している。

NCCN のガイドライン(2012)では,第一選択薬として,プロクロルペラジン10 mg の6 時間毎の投与,ハロペリドール0.5〜1 mg の6〜8 時間毎の投与,または,メトクロプラミド10〜20 mg の6〜8 時間毎の投与を推奨している。第二選択薬として,セロトニン拮抗薬を1 週間定時内服としその後頓用とすることを推奨している。


:VAS(visual analogue scale)

100 mm の線の左端を「痛みなし」,右端を「最悪の痛み」とした場合,患者の痛みの程度を表すところに印を付けてもらうもの。参照

:NRS(numerical rating scale)

痛みを0 から10 の11 段階に分け,痛みが全くないのを0,考えられるなかで最悪の痛みを10 として,痛みの点数を問うもの。参照


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►臨床疑問27

オピオイドが投与され,悪心・嘔吐が発現した患者に対して,オピオイドの変更(オピオイドスイッチング)は,変更しないことに比較して悪心・嘔吐を改善するか?

推奨


オピオイドが投与され,悪心・嘔吐が発現した患者に対して,オピオイドの変更(オピオイドスイッチング)は,悪心・嘔吐を改善する。


オピオイドが投与され,悪心・嘔吐が発現した患者に対して,オピオイドを変更する。

1B
(強い推奨,低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する臨床研究としては,系統的レビューが3 件ある。無作為化比較試験はなく,前後比較研究が3 件ある。

Laugsand ら4)による系統的レビューでは,オピオイドによる悪心・嘔吐のマネジメントについて,55 件の文献をレビューし,そのうち17 件がオピオイドの変更による悪心・嘔吐の変化に関する研究であったが,いずれも質の高い臨床研究ではなかった。そして,悪心のある患者においてモルヒネからオキシコドンなどの他のオピオイドに変更することについては,弱い推奨と結論づけている。

Quigey ら13)による系統的レビューでは,痛みのある患者に対するオピオイドの変更の有効性について52 件の文献をレビューし,オピオイドを変更することは疼痛緩和とオピオイドによる副作用を軽減するために有効な手段であると結論づけている。

Mercadante ら14)による系統的レビューでは,31 件の文献をレビューし,1 種類のオピオイドで疼痛緩和が不十分な患者に対してオピオイドの変更を行うことで50%以上の患者において臨床的な改善が認められ,オピオイドの変更は70〜80%の患者の疼痛緩和と副作用のバランスを改善するかもしれないと結論づけた。

Ashby ら15)による,オピオイドのため耐えられない副作用(悪心・嘔吐,眠気,せん妄)を生じているがん患者49 例を対象とし,オピオイドの変更を行った前後比較研究では,制吐薬も併用しながら悪心・嘔吐が軽減したか,あるいは,制吐薬を必要とせず悪心・嘔吐が消失したものが68%(19 例中13 例)であった。モルヒネからフェンタニルへ変更した場合は73%(11 例中8 例),オキシコドンからフェンタニルへ変更した場合は100%(2 例中2 例),モルヒネからオキシコドンへ変更した場合は60%(5 例中3 例)で悪心・嘔吐が臨床的に改善もしくは消失した。

Narabayashi ら16)による,経口モルヒネで疼痛緩和が不十分もしくは副作用により継続が困難な27 例のがん患者を対象とし,オキシコドンへの変更を行った前後比較試験では,悪心を認めた13 例,嘔吐を認めた5 例の全例で悪心・嘔吐が消失した(2.3→0.4,2.2→0.2,4 段階)。

**

以上より,いずれも質の高いエビデンスではないが,オピオイドが投与され悪心・嘔吐が発現した患者に対して,オピオイドの変更は,悪心・嘔吐を改善する可能性があると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,オピオイドが投与され悪心・嘔吐が発現した患者に対して,オピオイドを変更することを推奨する。オピオイドは,モルヒネからオキシコドンまたはフェンタニルに,あるいは,オキシコドンからフェンタニルに変更する。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2012)では,オピオイドの副作用が問題となる場合には,オピオイドを変更することを弱く推奨している。

NCCN のガイドライン(2012)およびESMO のガイドライン(2012)では,オピオイドの減量,制吐薬の併用などを行っても悪心が続く場合は,悪心の原因と程度を再評価し,オピオイドを変更することで鎮痛効果を維持しながら副作用を減らすことができる可能性があるとして推奨している。


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►臨床疑問28

オピオイドが投与され,悪心・嘔吐が発現した患者に対して,オピオイドの投与経路の変更は,変更しないことに比較して悪心・嘔吐を改善するか?

推奨


オピオイドが投与され,悪心・嘔吐が発現した患者に対して,オピオイドの投与経路の変更は,悪心・嘔吐を改善する可能性がある。


オピオイドが投与され,悪心・嘔吐が発現した患者に対して,オピオイドの経口投与を持続静注・持続皮下注に変更する。

2C
(弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する臨床研究としては,系統的レビューが1 件ある。無作為化比較試験はなく,前後比較研究が2 件ある。

Laugsand ら4)による系統的レビューでは,オピオイドによる悪心・嘔吐のマネジメントについて,55 件の文献をレビューし,そのうち6 件がオピオイドの投与経路の変更による悪心・嘔吐の変化に関する研究であったが,いずれも質の高い臨床研究ではなかった。そして,悪心・嘔吐に対してモルヒネの経口投与を皮下投与に変更することについては,弱い推奨と結論づけている。

Enting ら17)による前後比較研究では,オピオイドによる疼痛緩和が不十分な100例の患者を対象とし,オピオイドを静脈内投与・皮下投与に変更(主な変更は,経口モルヒネを静脈内投与・皮下投与,フェンタニル貼付剤をフェンタニルかモルヒネの静脈内投与・皮下投与)したところ,痛みの改善とあわせて,66%(23 例中20例)で悪心・嘔吐の臨床的な改善もしくは消失が認められた。新たに副作用が出現したのは12 例であったが,重篤な副作用は認めなかった。

**

以上より,限られた知見であるが,オピオイドが投与され悪心・嘔吐が発現した患者に対して,オピオイドの投与経路の変更は,悪心・嘔吐を改善する可能性があると考えられる。

本ガイドラインでは,専門家の合意から,オピオイドが投与され悪心・嘔吐が発現した患者に対して,経口投与を持続静注・持続皮下注に変更することを推奨する。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2001b)では,経口モルヒネから皮下投与に変更することで悪心・嘔吐が改善することがあるとしている。

ESMO のガイドライン(2012)では,投与経路の変更で同様の鎮痛効果を保ちながら悪心・嘔吐を改善できる可能性があるとしている。

(浜野 淳,風間郁子,新幡智子,志真泰夫,細矢美紀)

【文 献】

臨床疑問26

1) Glare P, Pereira G, Kristjanson LJ, et al. Systematic review of the efficacy of antiemetics in the treatment of nausea in patients with far-advanced cancer. Support Care Cancer 2004;12:432-40

2) Naeim A, Dy SM, Lorenz KA, et al. Evidence-based recommendations for cancer nausea and vomiting. J Clin Oncol 2008;26:3903-10

3) McNicol E, Horowicz-Mehler N, Fisk RA, et al. Management of opioid side effects in cancer-related and chronic noncancer pain:a systematic review. J Pain 2003;4:231-56

4) Laugsand EA, Kaasa S, Klepstad P. Management of opioid-induced nausea and vomiting in cancer patients:systematic review and evidence-based recommendations. Palliat Med 2011;25:442-53

5) Bentley A, Boyd K. Use of clinical pictures in the management of nausea and vomiting:a prospective audit. Palliat Med 2001;15:247-53

6) Lichter I. Results of antiemetic management in terminal illness. J Palliat Care 1993;9(2):19-21

7) Stephenson J, Davies A. An assessment of aetiology-based guidelines for the management of nausea and vomiting in patients with advanced cancer. Support Care Cancer 2006;14:348-53

8) Critchley P, Plach N, Grantham M, et al. Efficacy of haloperidol in the treatment of nausea and vomiting in the palliative patient:a systematic review. J Pain Symptom Manage 2001;22:631-4

9) Bruera E, Belzile M, Neumann C, et al. A double-blind, crossover study of controlled-release metoclopramide and placebo for the chronic nausea and dyspepsia of advanced cancer. J Pain Symptom Manage 2000;19:427-35

10) Hardy J, Daly S, McQuade B, et al. A double-blind, randomised, parallel group, multinational, multicentre study comparing a single dose of ondansetron 24 mg p. o. with placebo and metoclopramide 10 mg t. d. s. p. o. in the treatment of opioid-induced nausea and emesis in cancer patients Support Care Cancer 2002;10:231-6

11) Passik SD, Lundberg J, Kirsh KL, et al. A pilot exploration of the antiemetic activity of olanzapine for the relief of nausea in patients with advanced cancer and pain. J Pain Symptom Manage 2002;23:526-32

12) Eisenchlas JH, Garrigue N, Junin M, De Simone GG. Low-dose levomepromazine in refractory emesis in advanced cancer patients:an open-label study. Palliat Med 2005;19:71-5

臨床疑問27

13) Quigley C. Opioid switching to improve pain relief and drug tolerability. Cochrane Database Syst Rev 2004(3):CD004847

14) Mercadante S, Bruera E. Opioid switching:a systematic and critical review. Cancer Treat Rev 2006;32:304-15

15) Ashby MA, Martin P, Jackson KA. Opioid substitution to reduce adverse effects in cancer pain management. Med J Aust 1999;170:68-71

16) Narabayashi M, Saijo Y, Takenoshita S, et al. Opioid rotation from oral morphine to oral oxycodone in cancer patients with intolerable adverse effects:an open-label trial. Jpn J Clin Oncol 2008;38:296-304

臨床疑問28

17) Enting RH, Oldenmenger WH, van der Rijt CC, et al. A prospective study evaluating the response of patients with unrelieved cancer pain to parenteral opioids. Cancer 2002;94:3049-56

【参考文献】

臨床疑問26

18) Lichter I. Which antiemetic? J Palliat Care 1993;9:42-50

19) Morita T, Tei Y, Shishido H, Inoue S. Chlorpheniramine maleate as an alternative to antiemetic cyclizine. J Pain Symptom Manage 2004;27:388-90

20) Okamoto Y, Tsuneto S, Matsuda Y, et al. A retrospective chart review of the antiemetic effectiveness of risperidone in refractory opioid-induced nausea and vomiting in advanced cancer patients. J Pain Symptom Manage 2007;34:217-22

21) Khojainova N, Santiago-Palma J, Kornick C, et al. Olanzapine in the management of cancer pain. J Pain Symptom Manage 2002;23:346-50

22) Mystakidou K, Befon S, Liossi C, Vlachos L. Comparison of the efficacy and safety of tropisetron, metoclopramide, and chlorpromazine in the treatment of emesis associated with far advanced cancer. Cancer 1998;83:1214-23


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便 秘

 オピオイドが投与された患者において,便秘が発現した時に有効な治療は何か?

関連する臨床疑問
  1. ►29オピオイドが投与され,便秘が発現した患者に対して,行うべき評価は何か?
  2. ►30オピオイドが投与され,便秘が発現した患者に対して,下剤は,プラセボに比較して便秘を改善するか?
  3. ►31オピオイドが投与され,便秘が発現した患者に対して,オピオイドの変更(オピオイドスイッチング)は,変更しないことに比較して便秘を改善するか?

推奨


  1. ►29便秘を発現する他の要因を鑑別し,治療を検討する。
    また,排便の状況を聴取し,腹部を診察し,腸閉塞と宿便の有無について評価する。
  2. ►30オピオイドが投与され,便秘が発現した患者に対して,下剤を投与する。
    下剤は,便の性状にあわせて,主に便が硬い場合は浸透圧性下剤を,主に腸蠕動が低下している場合は大腸刺激性下剤を使用する。効果が不十分であれば両者を併用する。
    1B
    (強い推奨,低いエビデンスレベル)
  3. ►31オピオイドが投与され,便秘が発現した患者に対して,下剤の投与や経直腸的処置で便秘が改善しない場合は,オピオイドを(モルヒネやオキシコドンからフェンタニルへ)変更する。
    1B
    (強い推奨,低いエビデンスレベル)

便秘の定義

便秘とは「腸管内容物の通過が遅延・停滞し,排便に困難を伴う状態」を指す。排便の習慣は個人差が大きいため,もともとの排便習慣と比較し,排便回数の低下,便の量の減少や硬さ,残便感,排便の困難感などから判断する。

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►臨床疑問29

オピオイドが投与され,便秘が発現した患者に対して,行うべき評価は何か?

推奨


便秘を発現する他の要因を鑑別し,治療を検討する。また,排便の状況を聴取し,腹部を診察し,腸閉塞と宿便の有無について評価する。

解説

オピオイドが投与されている患者に便秘が発現した場合,まず排便状況や便秘の原因を評価する。

排便状況の評価として,最近と現在の便の回数,量,硬さ,排便時の不快感(排便困難感,痛み,残便感)を聴取する。特に,腸閉塞と宿便の有無を評価する。

腹部の診察では,腸蠕動,腸管内のガス貯留の有無,便塊の有無,圧痛を確認する。腸閉塞が疑われる場合は,腹部単純X 線撮影を行い,腸閉塞が診断されれば腸閉塞に対する治療と処置を行う。

宿便が存在する場合には,排便がみられていても宿便の周囲や下部腸管狭窄部を通って下痢便が出る「溢流性便秘」を呈することがある。宿便を見逃して悪化すると消化性潰瘍形成による出血や穿孔の原因となるので注意が必要である。宿便が疑われる場合(排便時の不快感がある,溢流性便秘を認める,下剤を投与しても3 日間以上排便を認めないなど)は,直腸診で直腸内の便貯留を確認し,宿便がみられる場合は経直腸的処置(坐剤投与,浣腸,摘便など)を行う。

便秘を悪化させる原因として,脱水,代謝異常(高カルシウム血症,糖尿病,低カリウム血症,尿毒症,甲状腺機能低下症など),薬物(抗コリン薬,利尿薬,抗けいれん薬,抗うつ薬,制酸薬,鉄剤,降圧薬,セロトニン拮抗薬など)の有無を確認する。可能であれば原因の治療として,脱水の補正,代謝異常の治療,便秘を悪化させる薬物の変更や中止を行う。十分な鎮痛効果が得られている場合,オピオイドの減量を検討する。

また,生活習慣について聴取し,水分の十分な摂取や食物繊維の多い食事摂取,軽い運動や散歩を促す。また,腹部のマッサージや保温を勧め,排便習慣が保たれるようにし,定期的に排便状況を評価する。

既存のガイドラインとの整合性

NCCN のガイドライン(2012)では,便秘を生じた場合,便秘を引き起こすオピオイド以外の原因を治療すること,オピオイドを減量するために非オピオイド鎮痛薬を使用することを推奨している。また,便秘が持続した場合に原因を再評価することと,宿便の確認を推奨している。便秘の予防として水分摂取の増量,食物繊維摂取,運動を推奨している。


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►臨床疑問30

オピオイドが投与され,便秘が発現した患者に対して,下剤は,プラセボに比較して便秘を改善するか?

推奨


オピオイドが投与され,便秘が発現した患者に対して,下剤は,便秘を改善する。


オピオイドが投与され,便秘が発現した患者に対して,下剤を投与する。

下剤は,便の性状にあわせて,主に便が硬い場合は浸透圧性下剤を,主に腸蠕動が低下している場合は大腸刺激性下剤を使用する。効果が不十分であれば両者を併用する。

1B
(強い推奨,低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関連した臨床研究としては,2 件の系統的レビューと包括的レビューに基づくガイドライン,および無作為化比較試験1 件,前後比較研究1 件がある。

Larkin ら1)によるレビューでは,緩和ケアを受けている患者における便秘に対して浸透圧性下剤のみでは不十分な可能性があり,浸透圧性下剤と大腸刺激性下剤を併用することを専門家の意見より推奨している。しかし,McNicol ら2)による系統的レビューでは,オピオイドの副作用対策として,推奨されている浸透圧性下剤と大腸刺激性下剤の併用は一般的にエビデンスが不十分であり経験に基づいていると結論づけている。さらに,Miles ら3)による系統的レビューでは,緩和ケアを受けている患者の便秘治療に対する下剤,またはある下剤の組み合わせによる治療が,他の治療より優れているかを示すエビデンスはないと結論している

Agra ら4)による無作為化比較試験では,米国の緩和ケア病棟に入院しオピオイドの投与を受けた終末期がん患者91 例を対象とし,センナとラクツロースとの効果を比較したところ,オピオイド開始と同時にセンナあるいはラクツロース投与を開始し,観察期間において72 時間以上排便を認めない回数(0.9 vs 0.9,p=0.85),排便のあった日数(0.9 vs 1.0,p=0.72)は両者で差異を認めなかった。副作用は,センナ投与の7.0%,ラクツロース投与の6.3%で下痢,嘔吐などを認めたがいずれも容易に改善した。効果と副作用とも同等のため,費用の点からセンナを利用することが望ましいと結論した。

また,Twycross ら5)による前後比較研究では,悪性腫瘍の患者で60 mg/日以上の硫酸モルヒネを投与されており,治療を要する便秘を生じた23 例を対象に,ピコスルファートナトリウムを患者の状態に応じて5,10,15 mg の1 日1 回投与で開始し,2.5〜5 mg/日で増減し上限を60 mg/日として投与量を調整したところ,75%で14 日間の観察期間中に普通便がみられた。浣腸,坐剤,摘便が必要でなく副作用を認めない満足のいく投与量の中央値は15 mg であった。投与後最初の排便までの平均は12 時間でその時点での投与量の中央値は15 mg であった。5%に下痢を認めた。

**

以上より,浸透圧性下剤であるラクツロース,大腸刺激性下剤であるセンナ,ピコスルファートナトリウムはいずれもオピオイドによる便秘に有効であると考えられる。これ以外の一般的な下剤として,浸透圧性下剤では,塩類下剤である酸化マグネシウム,水酸化マグネシウム,クエン酸マグネシウムがあり,大腸刺激性下剤では,センノシド,大黄末がある。いずれもエビデンスは限られているが,同等の効果が期待できると考えられるため,オピオイドが投与され便秘が発現した患者に対して,下剤の投与は,便秘を改善すると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,オピオイドが投与され便秘が発現した患者に対して,下剤を投与することを推奨する。下剤の選択について十分な根拠はないが,専門家の合意として,便が硬い場合は,まず便を軟らかくする作用をもつ浸透圧性下剤を使用し,一方,腸蠕動が低下している場合は,まず腸管運動を促進する作用をもつ大腸刺激性下剤を使用することを推奨する。いずれも十分な効果があるまで増量し,効果が不十分な場合は作用機序の異なる両者を併用する。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2012)では,オピオイドが原因の便秘に対してどの下剤がより優れているかを示す臨床研究はないとしたうえで,単独の下剤よりも,作用機序の異なる下剤と併用したほうが,難治性の便秘に対して有効性が示唆されるとしている。

NCCN のガイドライン(2012)では,浸透圧性下剤(docusate)と大腸刺激性下剤(センナ)を併用し,オピオイドを増量する時には下剤も増量し,便秘が持続した場合に他の下剤(マグネシウム製剤,ビサコジル,ラクツロース,ソルビトール,坐剤)やメトクロプラミドの追加投与を推奨している。


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►臨床疑問31

オピオイドが投与され,便秘が発現した患者に対して,オピオイドの変更(オピオイドスイッチング)は,変更しないことに比較して便秘を改善するか?

推奨


オピオイドが投与され,便秘が発現した患者に対して,オピオイドの変更は,便秘を改善する。


オピオイドが投与され,便秘が発現した患者に対して,下剤の投与や経直腸的処置で便秘が改善しない場合は,オピオイドを(モルヒネやオキシコドンからフェンタニルへ)変更する。

1B
(強い推奨,低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する臨床研究としては,無作為化比較試験はなく,オープン試験1 件を含むコクランデータベースと,前後比較研究1 件とオープン試験1 件を含む系統的レビューがある(Quigley6),Mercadante ら7))。

Donner ら8)による前後比較研究では,疼痛治療にオピオイドが必要ながん患者98 例を対象とし,モルヒネ徐放性製剤からフェンタニル貼付剤への変更を行ったところ,便秘の頻度が59%から35%へ減少し,下剤の使用頻度が62%から38%へ減少した。便秘以外の副作用は違いを認めなかった。3 例で悪寒,寒気,発汗,頭痛を伴うモルヒネの離脱症候を認めたが3 日以内に改善した。

Mystakidou ら9)による単一施設前向き観察研究では,痛みに対しオピオイド投与が必要ながん患者321 例を対象とし,経口モルヒネを開始しフェンタニル貼付剤に変更したところ,便秘の頻度が経口モルヒネ投与時は17%,フェンタニル貼付剤へ変更7 日後は8.1%であった。

Radbruch ら10)による前後比較研究では,痛みに対しモルヒネ徐放性製剤の投与を受けているがん患者46 例を対象とし,フェンタニル貼付剤への変更を行ったところ,便秘の頻度は有意差を認めなかった。しかし観察日ごとの下剤(ラクツロース,ピコスルファートナトリウム,ビサコジルなど)を使用している患者はモルヒネ投与中の78〜87%から,フェンタニルへ変更後は22〜48%へ低下した。フェンタニル変更後12 日,17 日では変更前に比べて有意差を認めた(p<0.001)。

**

以上より,モルヒネからフェンタニル貼付剤へ変更することは便秘の改善に有効であると考えられる。一方,オキシコドンからフェンタニル貼付剤への変更が便秘の改善に有効であることを示すエビデンスはない。しかし,オキシコドンはモルヒネと同程度の便秘を生じると考えられていることから,オキシコドンからフェンタニル貼付剤へ変更することが便秘の改善に有効であると考えられる。すなわち,オピオイドの投与を受け便秘を生じた患者に対して,オピオイドの変更は,便秘を改善すると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,オピオイドの投与を受け便秘を生じた患者に対して,下剤の投与や経直腸的処置で便秘が改善しない場合は,オピオイドを(モルヒネやオキシコドンからフェンタニルへ)変更することを推奨する。


:離脱症候/離脱症候群

臨床では薬物の突然の休薬による身体症状を離脱症候群(withdrawal syndrome)と表現することが一般的である。退薬症状,退薬徴候ともいわれるが,本ガイドラインにおいては,ガイドラインを使用する医療従事者の混乱を避けるため,本文を通して離脱症候/離脱症候群に統一して使用する。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2012)では,オピオイドの副作用が問題となる場合には,オピオイドを変更することを推奨している。

NCCN のガイドライン(2012)では,オピオイドの減量を検討し,便秘に対する治療を行っても改善しない場合,オピオイドの変更を考慮するとしている。

ESMO のガイドライン(2012)では,オピオイドの減量,下剤投与,オピオイドの変更が有用であるとしている。

(今井堅吾,池永昌之)

【文 献】

臨床疑問30

1) Larkin PJ, Sykes NP, Centeno C, et al. The management of constipation in palliative care:clinical practice recommendations. Palliat Med 2008;22:796-807

2) McNicol E, Horowicz-Mehler N, Fisk RA, et al. Management of opioid side effects in cancer- related and chronic noncancer pain:a systematic review. J Pain 2003;4:231-56

3) Miles CL, Fellowes D, Goodman ML, et al. Laxatives for the management of constipation in palliative care patients. Cochrane Database Syst Rev 2006(4):CD003448

4) Agra Y, Sacristàn A, Gonzàlez M, et al. Efficacy of senna versus lactulose in terminal cancer patients treated with opioids. J Pain Symptom Manage. 1998;15:1-7

5) Twycross RG, McNamara P, Schuijt C, et al. Sodium picosulfate in opioid-induced constipation: results of an open-label, prospective, dose-ranging study. Palliat Med 2006;20:419-23

臨床疑問31

6) Quigley C. Opioid switching to improve pain relief and drug tolerability. Cochrane Database Syst Rev 2004(3):CD004847

7) Mercadante S, Bruera E. Opioid switching:a systematic and critical review. Cancer Treat Rev 2006;32:304-15

8) Donner B, Zenz M, Tryba M, et al. Direct conversion from oral morphine to transdermal fentanyl: a multicenter study in patients with cancer pain. Pain 1996;64:527-34

9) Mystakidou K, Tsilika E, Parpa E et al. Long-term cancer pain management in morphine pre- treated and opioid naive patients with transdermal fentanyl. Int J Cancer 2003;107:486-92

10) Radbruch L, Sabatowski R, Loick G, et al. Constipation and the use of laxatives:a comparison between transdermal fentanyl and oral morphine. Palliat Med 2000;14:111-9


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3
眠 気

 オピオイドが投与された患者において,眠気が発現した時に有効な治療は何か?

関連する臨床疑問
  1. ►32オピオイドが投与され,眠気が発現した患者に対して,行うべき評価は何か?
  2. ►33オピオイドが投与され,眠気が発現した患者に対して,精神刺激薬,コリンエステラーゼ阻害薬,カフェインは,プラセボに比較して眠気を改善するか?
  3. ►34オピオイドが投与され,眠気が発現した患者に対して,オピオイドの変更(オピオイドスイッチング)は,変更しないことに比較して眠気を改善するか?
  4. ►35オピオイドが投与され,眠気が発現した患者に対して,オピオイドの投与経路の変更は,変更しないことに比較して眠気を改善するか?

推奨


  1. ►32眠気の強度と苦痛の程度を評価する。
    眠気を発現する他の要因を鑑別し,治療を検討する。
    オピオイドの投与量が多くないかを評価する。
  2. ►33オピオイドが投与され,眠気が発現した患者に対して,専門家に相談したうえで,精神刺激薬を追加する
    2C
    (弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)
  3. ►34オピオイドが投与され,眠気が発現した患者に対して,オピオイドを変更する。
    1B
    (強い推奨,低いエビデンスレベル)
  4. ►35オピオイドが投与され,眠気が発現した患者に対して,オピオイドの経口投与を持続静注・持続皮下注に変更する。
    2C
    (弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)

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►臨床疑問32

オピオイドが投与され,眠気が発現した患者に対して,行うべき評価は何か?

推奨


眠気の強度と苦痛の程度を評価する。
眠気を発現する他の要因を鑑別し,治療を検討する。
オピオイドの投与量が多くないかを評価する。

解説

オオピオイドが投与された患者に眠気が発現した場合には,眠気がオピオイドの過量投与の兆候の可能性があるので,投与量が適切であるかをまず確認する。

次に,眠気を生じる他の要因を鑑別し,治療を検討する。がん患者の眠気の原因としてオピオイド以外に,薬物(向精神薬,中枢作用のある制吐薬など),中枢神経系の病変,電解質異常(高カルシウム血症,低ナトリウム血症など),内分泌疾患,血糖値異常,腎機能障害,肝機能障害,高アンモニア血症,脱水,感染症,低酸素血症などがある。これらの原因には,治療可能なものもあるため,オピオイドによる眠気と判断する前に治療可能な原因を評価し,治療を検討する。例えば,薬物では,日中に投与されている眠気の原因となる薬物を中止・減量,または,夜間の投与とする。

具体的には,投与薬物を確認し,眠気の悪化との時間関係を確認する。また,神経学的所見など身体所見をとり,血液検査(補正カルシウム値を含む),頭部画像検査を検討することにより,主要な眠気の原因を鑑別することができる。そのうえで,眠気に対する受け取り方が患者によって異なるため,眠気が患者にとって苦痛となっていないかを患者自身に評価してもらい,眠気を治療対象とするかを判断する。

オピオイドが原因と考えられる場合は,初回投与や増量後では数日間で耐性ができることが多いため可能であれば経過を観察する。鎮痛効果が十分であればオピオイドの減量を検討する。鎮痛効果が不十分であれば,非オピオイド鎮痛薬・神経ブロック・放射線治療など他の鎮痛手段を加えてオピオイドを減量できるかを検討する。モルヒネが投与されている場合,腎機能障害が生じるとモルヒネの投与量は同一でもモルヒネの代謝産物が蓄積することにより眠気を発現することがある。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2012)では,オピオイドの投与量を減量することを推奨している。

NCCN のガイドライン(2012)では,オピオイド開始または増量後2〜3 日以上経過しても眠気が改善しない場合,オピオイド以外の原因を評価することを推奨している。また,より少ない投与量で疼痛緩和が維持できるならばオピオイド投与量を減量する,オピオイドの投与量を減らすために非オピオイド鎮痛薬などの投与を考慮する,最高血中濃度を減らす目的でオピオイドをより少量の投与量で頻回に投与することを推奨している。

ESMO のガイドライン(2012)では,オピオイドの減量を行うことで副作用が改善する可能性があり,オピオイドを減量するための手段として鎮痛補助薬の使用,神経ブロックや放射線治療などの方法を示している。


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►臨床疑問33

オピオイドが投与され,眠気が発現した患者に対して,精神刺激薬,コリンエステラーゼ阻害薬,カフェインは,プラセボに比較して眠気を改善するか?

推奨


オピオイドが投与され,眠気が発現した患者に対して,精神刺激薬は眠気を改善するが,コリンエステラーゼ阻害薬,カフェインについて眠気を改善する根拠はない。


オピオイドが投与され,眠気が発現した患者に対して,専門家に相談したうえで,精神刺激薬を追加する。

2C
(弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する臨床研究としては,系統的レビューが1 件,無作為化比較試験3 件,前後比較研究1 件がある。

1 )精神刺激薬

複数の無作為化比較試験と前後比較研究で,オピオイドによる眠気に対する精神刺激薬の効果が示されている。

McNicol ら1)の系統的レビューでは,オピオイドが投与され眠気が発現した患者に対して,精神刺激薬が有効であるとしている。

Wilwerding ら2)による無作為化クロスオーバー比較試験では,痛みに対してオピオイドを必要とするがん患者43 例(必ずしも眠気を苦痛としているわけではない)を対象とし,メチルフェニデート15 mg/日とプラセボの全般的な症状への効果を比較したところ,鎮痛効果などに差はみられなかったが,眠気を有意に改善した(絶対値の記載なし,p=0.01)。副作用として,メチルフェニデートに関連したものは認めなかった。

Bruera ら(1987)3)による無作為化クロスオーバー比較試験では,痛みに対してオピオイドを必要とするがん患者32 例を対象とし,メチルフェニデート15 mg/日とプラセボの鎮痛効果と眠気への効果を比較したところ,中等度の鎮痛効果とともに,眠気のVAS(0 が最悪,100 が最良)を有意に改善した(36→58 vs 36→45,p<0.01)。メチルフェニデートに関連した重度の副作用は認めなかった。

Bruera ら(1992a)4)による無作為化クロスオーバー比較試験では,痛みに対してオピオイドの持続皮下注を行っているがん患者20 例を対象とし,メチルフェニデート10 mg/日とプラセボの認知機能への効果を比較したところ,眠気のベースラインと比較した割合が有意に改善した(100→65 vs 100→92,p<0.001)。メチルフェニデートに関連した重度の副作用は認めなかった。

この他に,Bruera ら(1992b)5)による前後比較研究では,メチルフェニデートにより,オピオイドの投与を受けているがん患者の眠気が改善することが示唆されている。

2 )コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル)

オピオイドの眠気にドネペジルが中等度有効であったが,副作用が高頻度にみられたことが1 件の前後比較研究で示唆されている。

Bruera ら(2003)6)による前後比較研究では,痛みに対してオピオイドが使用され眠気を訴えているがん患者27 例を対象とし,ドネペジル5 mg/日を7 日間投与したところ,7 日後の眠気NRS が改善した(6.4→4.8,p=0.035)。副作用としては,20 例中悪心を6 例,嘔吐を5 例,下痢を5 例,筋けいれんを3 例,食欲不振を3 例,腹痛を1 例で認め,中止後に消失した。

3 )カフェイン

オピオイドの眠気に対するカフェインの効果については,1 件の無作為化比較試験がある。

Mercadante ら7)による無作為化クロスオーバー比較試験では,痛みに対して一定量のモルヒネを使用しているがん患者12 例を対象とし,モルヒネ投与後のカフェイン200 mg とプラセボの効果を比較したところ,眠気についてのNRS は有意な変化はみられなかった(28→28 vs 22→24,p 値の記載なし)。一方,認知機能検査に用いられるtapping speed test には有意な改善が認められた(120→129 vs 133→123,p=0.041)。カフェインによる副作用はみられなかった。

**

以上より,オピオイドが投与され,眠気が発現した患者に対して,精神刺激薬は,眠気を改善する相応の根拠があると考えられるが,コリンエステラーゼ阻害薬,カフェインについて眠気を改善するとする十分な根拠はない。

本邦では,精神刺激薬であるメチルフェニデートとモダフィニルはナルコレプシーと注意欠陥/多動性障害以外には使用が厳しく規制されている。同効薬としてペモリンがある。ペモリンは,中枢神経系のドパミン作動性ニューロンの神経終末でのドパミン取り込み阻害により効果を発現するため,オピオイドによる眠気を改善する可能性があるが,根拠となるエビデンスがほとんど存在していない(宮澤ら)。したがって,本ガイドラインでは,専門家に相談したうえで使用を検討することを推奨する。

一方,コリンエステラーゼ阻害薬やカフェインは,十分なエビデンスがないため,推奨しない。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2012)では,メチルフェニデートの使用を推奨している。

NCCN のガイドライン(2012)では,オピオイド開始または増量後2〜3 日以上経過しても眠気が改善しない場合,カフェイン,メチルフェニデート,モダフィニルなどを推奨している。

ESMO のガイドライン(2012)では,精神刺激薬の使用を推奨している。


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►臨床疑問34

オピオイドが投与され,眠気が発現した患者に対して,オピオイドの変更(オピオイドスイッチング)は,変更しないことに比較して眠気を改善するか?

推奨


オピオイドが投与され,眠気が発現した患者に対して,オピオイドの変更(オピオイドスイッチング)は,眠気を改善する。


オピオイドが投与され,眠気が発現した患者に対して,オピオイドを変更する。

1B
(強い推奨,低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する臨床研究としては,系統的レビューが2 件ある。無作為化比較試験はなく,前後比較研究が3 件ある。

Quigey ら8)による系統的レビューでは,痛みを訴える患者に対するオピオイドの変更の有効性について52 件の文献に関してレビューしている。前後比較研究14 件,後ろ向き研究15 件,症例報告23 件を検討した結果,1 つの報告を除き,オピオイドを変更することは疼痛緩和とオピオイドによる副作用を軽減するために有効な手段であると結論づけている。

また,Mercadante ら9)による系統的レビューでは,前後比較研究13 件,後ろ向き研究10 件などを含む31 件の文献を検討し,1 種類のオピオイドで疼痛緩和が不十分な患者に対してオピオイドの変更を行うことで50%以上の患者において臨床的な改善が認められると結論づけた。

例えばNarabayashi ら10)による前後比較研究では,鎮痛効果が不十分であったり耐えがたい副作用のために経口モルヒネの継続が困難ながん患者25 例を対象とし,経口オキシコドンへの変更を行ったところ,変更前に耐えがたい眠気を訴えていた7 例全例で耐えがたい眠気は消失した(0〜3 の4 段階の評価で,2.1→0.9,p=0.031)。

McNamara11)による前後比較研究では,痛みに対してモルヒネが投与されており,モルヒネによる眠気やせん妄などの精神症状のあるがん患者19 例を対象とし,モルヒネからフェンタニル貼付剤に変更を行ったところ,4 項目からなる眠気尺度(0〜12 点,9.4→7.3,p=0.0012),眠気によるわずらわしさのVAS(68→49,p=0.017)が改善した。観察期間中に,19 例中17 例の患者で36 件の有害事象がみられた。そのうち,治療に関連するものは,重篤なものとして呼吸抑制が1 件あり,その他,倦怠感,発汗,悪心,嘔吐,便秘,下痢,ミオクローヌス,モルヒネの離脱症候を12 件認めたが一過性であり回復した。

Ashby ら12)による前後比較研究では,オピオイドが原因と考えられる副作用のある患者49 例を対象とし,モルヒネからフェンタニルへ変更したところ,眠気を有する10 例中4 例で臨床的な改善がみられ,うち2 例で消失した。モルヒネからオキシコドンへの変更では,眠気のある2 例中2 例で臨床的な改善がみられた。副作用に関する記載は特になかった。

**

以上より,オピオイドが投与され眠気が発現した患者に対して,オピオイドの変更は,眠気を改善する相応の根拠があると考えられる。いずれも質の高いエビデンスではないが,モルヒネからオキシコドンまたはフェンタニルに,オキシコドンからフェンタニルに変更することで眠気の改善が認められると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,専門家の合意により,オピオイドによる眠気に対して,オピオイドの変更を推奨する。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2012)では,オピオイドの変更を推奨している。

NCCN のガイドライン(2012)では,オピオイド開始または増量後2〜3 日以上経過しても眠気が改善しない場合,他の対応に加えて,オピオイドの変更を検討することを推奨している。

ESMO のガイドライン(2012)では,オピオイドの変更を推奨している。


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►臨床疑問35

オピオイドが投与され,眠気が発現した患者に対して,オピオイドの投与経路の変更は,変更しないことに比較して眠気を改善するか?

推奨


オピオイドが投与され,眠気が発現した患者に対して,オピオイドの投与経路の変更は,眠気を改善する可能性がある。


オピオイドが投与され,眠気が発現した患者に対して,オピオイドの経口投与を持続静注・持続皮下注に変更する。

2C
(弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する臨床研究としては,無作為化比較試験はなく,前後比較研究が1 件ある。

Enting ら13)による前後比較研究では,オピオイドによる鎮痛効果が不十分な100 例の患者を対象とし,オピオイドを静脈内・皮下投与に変更(主な変更は,経口モルヒネを静脈内・皮下投与,フェンタニル貼付剤をフェンタニルかモルヒネの静脈内投与)したところ,鎮痛効果の改善とあわせて,眠気の改善または消失が60%(45 例中27 例)でみられたが,最終的に眠気は38 例でみられた。重篤な副作用はなかった。

**

以上より,質の高いエビデンスではないが,オピオイドが投与され眠気が発現した患者に対して,オピオイドの投与経路の変更は,眠気を改善する可能性があると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,専門家の合意により,オピオイドによる眠気に対してオピオイドの投与経路の変更を推奨する。すなわち,経口投与を持続静注・持続皮下注に変更する。

ただし,投与ラインにより,患者が生活するうえで不便となる可能性があり,患者とよく相談して投与経路の変更を行う必要がある。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2001b)では,最初の対応(他の原因の鑑別,オピオイドの減量)で緩和しない場合に,投与経路の変更(経口から皮下投与へ)を推奨している。

ESMO のガイドライン(2012)では,投与経路の変更を推奨している。

(松本禎久,小笠原利枝,川村三希子,木下寛也,細矢美紀)

【文 献】

臨床疑問33

1) McNicol E, Horowicz-Mehler N, Fisk RA, et al. Management of opioid side effects in cancer-related and chronic noncancer pain:a systematic review. J Pain 2003;4:231-56

2) Wilwerding MB, Loprinzi CL, Mailliard JA, et al. A randomized, crossover evaluation of methylphenidate in cancer patients receiving strong narcotics. Support Care Cancer 1995;3:135-8

3) Bruera E, Chadwick S, Brenneis C, et al. Methylphenidate associated with narcotics for the treatment of cancer pain. Cancer Treat Rep 1987;71:67-70

4) Bruera E, Miller MJ, Macmillan K, et al. Neuropsychological effects of methylphenidate in patients receiving a continuous infusion of narcotics for cancer pain. Pain 1992a;48:163-6

5) Bruera E, Fainsinger R, MacEachern T, et al. The use of methylphenidate in patients with incident cancer pain receiving regular opiates. A preliminary report. Pain 1992b;50:75-7

6) Bruera E, Strasser F, Shen L, et al. The effect of donepezil on sedation and other symptoms in patients receiving opioids for cancer pain:a pilot study. J Pain Symptom Manage 2003;26:1049-54

7) Mercadante S, Serretta R, Casuccio A. Effects of caffeine as an adjuvant to morphine in advanced cancer patients. A randomized, double-blind, placebo-controlled, crossover study. J Pain Symptom Manage 2001;21:369-72

臨床疑問34

8) Quigley C. Opioid switching to improve pain relief and drug tolerability. Cochrane Database Syst Rev 2004(3):CD004847

9) Mercadante S, Bruera E. Opioid switching:a systematic and critical review. Cancer Treat Rev 2006;32:304-15

10) Narabayashi M, Saijo Y, Takenoshita S, et al;Advisory Committee for Oxycodone Study. Opioid rotation from oral morphine to oral oxycodone in cancer patients with intolerable adverse effects:an open-label trial. Jpn J Clin Oncol 2008;38:296-304

11) McNamara P. Opioid switching from morphine to transdermal fentanyl for toxicity reduction in palliative care. Palliat Med 2002;16:425-34

12) Ashby MA, Martin P, Jackson KA. Opioid substitution to reduce adverse effects in cancer pain management. Med J Aust 1999;170:68-71

臨床疑問35

13) Enting RH, Oldenmenger WH, van der Rijt CC, et al. A prospective study evaluating the response of patients with unrelieved cancer pain to parenteral opioids. Cancer 2002;94:3049-56

【参考文献】

臨床疑問33

14) Homsi J, Walsh D, Nelson KA. Psychostimulants in supportive care. Support Care Cancer 2000;8:385-97

15) 宮澤真帆,郡由起子,赤穂理絵,他.オピオイド・鎮痛補助薬に起因する,がん患者の眠気に対するペモリンの有効性と安全性の検討.第14 回日本緩和医療学会総会,2009


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せん妄

 オピオイドが投与された患者において,せん妄が発現した時に有効な治療は何か?

関連する臨床疑問
  1. ►36オピオイドが投与され,せん妄が発現した患者に対して,行うべき評価は何か?
  2. ►37オピオイドが投与され,せん妄が発現した患者に対して,抗精神病薬は,プラセボに比較してせん妄を改善するか?
  3. ►38オピオイドが投与され,せん妄が発現した患者に対して,オピオイドの変更(オピオイドスイッチング)は,変更しないことに比較してせん妄を改善するか?
  4. ►39オピオイドが投与され,せん妄が発現した患者に対して,オピオイドの投与経路の変更は,変更しないことに比較してせん妄を改善するか?

推奨


  1. ►36せん妄を発現する他の要因を鑑別し,治療を検討する。
  2. ►37オピオイドが投与され,せん妄が発現した患者に対して,抗精神病薬を投与する。
    2B
    (弱い推奨,低いエビデンスレベル)
  3. ►38オピオイドが投与され,せん妄が発現した患者に対して,オピオイドを変更する。
    1B
    (強い推奨,低いエビデンスレベル)
  4. ►39オピオイドが投与され,せん妄が発現した患者に対して,オピオイドの経口投与を持続静注・持続皮下注に変更する。
    2C
    (弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)

せん妄

周囲を認識する意識の清明度が低下し,記憶力,見当識障害,言語能力の障害などの認知機能障害が起こる状態。通常,数時間から数日の短期間に発現し,日内変動が大きい。

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►臨床疑問36

オピオイドが投与され,せん妄が発現した患者に対して,行うべき評価は何か?

推奨


せん妄を発現する他の要因を鑑別し,治療を検討する。

解説

がん患者のせん妄の原因として,薬物(ベンゾジアゼピン系薬剤,コルチコステロイド,抗うつ薬など),中枢神経系の病変,電解質異常(高カルシウム血症,低ナトリウム血症など),高アンモニア血症,脱水,感染症,低酸素血症などがある。このうち,薬物,高カルシウム血症,脱水によるせん妄は可逆性が高いので,治療する価値が高い。ビタミンB 群欠乏,内分泌疾患は,がん患者における頻度は少ないと考えられるが,原因治療により改善する可能性がある。

具体的には,投与薬物を確認し,せん妄の発現や悪化との時間関係を確認する。また,神経学的所見など身体所見をとり,血液検査(補正カルシウム値を含む),頭部画像検査を検討することにより,主要なせん妄の原因を鑑別することができる。

オピオイドが原因と考えられる場合は,十分な鎮痛効果が得られていれば,鎮痛が得られる範囲でオピオイドの減量を検討する。鎮痛効果が不十分であれば非オピオイド鎮痛薬,神経ブロック,放射線治療など他の鎮痛手段を加えてオピオイドを減量できるかを検討する。モルヒネが投与されている場合,腎機能障害が生じるとモルヒネの投与量は同一でもモルヒネの代謝産物が蓄積することにより眠気を発現することがある。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2012)では,オピオイドの投与量を減量することを推奨している。

NCCN のガイドライン(2012)では,オピオイド以外の原因を鑑別すること,オピオイドの投与量を減らすために非オピオイド鎮痛薬を考慮することを推奨している。

ESMO のガイドライン(2012)では,オピオイドの減量を行うことで副作用が改善する可能性があり,オピオイドを減量するための手段として鎮痛補助薬の使用,神経ブロックや放射線治療などの方法を示している。


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►臨床疑問37

オピオイドが投与され,せん妄が発現した患者に対して,抗精神病薬は,プラセボに比較してせん妄を改善するか?

推奨


オピオイドが投与され,せん妄が発現した患者に対して,抗精神病薬は,せん妄を改善する。


オピオイドが投与され,せん妄が発現した患者に対して,抗精神病薬を投与する。

2B
(弱い推奨,低いエビデンスレベル)

解説

オピオイドによるせん妄に対する薬物療法に関しては,McNicol らによる系統的レビューが行われているが,無作為化比較試験はない1)。原因をオピオイドと限定しないせん妄については,抗精神病薬投与に関する系統的レビューが2 件,ベンゾジアゼピン系薬剤投与に関する系統的レビューが1 件ある。

1 )抗精神病薬
(1)定型抗精神病薬

定型抗精神病薬とは,ドパミンD2受容体に対して高い親和性をもつ拮抗薬であり,ハロペリドールやクロルプロマジンなどに代表される抗精神病薬のことを指す。

Breitbart ら2)による無作為化比較試験では,せん妄が出現したAIDS 患者30 例を対象とし,ハロペリドール2.8 mg とクロルプロマジン50 mg とロラゼパム3 mg の効果を比較したところ,せん妄の重症度の評価指標であるDelirium Rating Scaleが,ハロペリドール群,クロルプロマジン群では改善したが,ロラゼパム群では改善しなかった〔20→12(p<0.001) vs 21→12(p<0.001) vs 18→17(p<0.63)〕。ハロペリドール群とクロルプロマジン群においては副作用を認めなかったが,ロラゼパム群には過鎮静やせん妄が悪化するなどの有害事象がみられた。クロルプロマジン群では長期的には認知機能を悪化させた。

Candy ら3)による,終末期患者に生じたせん妄に対する系統的レビューでは,1 件の無作為化比較試験の結果から,せん妄の治療薬としてハロペリドールが最も適切であり,クロルプロマジンは軽度の認知機能障害が許容できるのであれば使用可能と結論した。

**

以上より,オピオイドによるせん妄に限定した知見ではないが,定型抗精神病薬はオピオイドによるせん妄を改善する可能性があると考えられる。


:Delirium Rating Scale

せん妄の診断を目的として開発された評価尺度。10 項目からなり,13 点以上(最大32 点)でせん妄と診断される。

(2)非定型抗精神病薬

非定型抗精神病薬とは,1980 年代後半より導入された新規抗精神病薬を指す。従来の抗精神病薬と比較して,ドパミンD2受容体以外の神経伝達物質受容体に対しても選択的に作用し,錐体外路症状を中心とした中枢神経に対する副作用が少ない。

Lonergan ら(2009a)4)による,非定型抗精神病薬のせん妄に対する効果と副作用をみた系統的レビューでは,無作為化比較試験3 件を検討し,3 mg/日以下のハロペリドールとリスペリドン,オランザピンは効果と副作用の点で同等であり,4.5 mg/日以上のハロペリドールはオランザピンと比較して,錐体外路症状が多いと結論した。例えば,ハロペリドール1.7 mg/日とリスペリドン1.0 mg/日とでは,せん妄の重症度の評価指標であるMemorial Delirium Assessment Scale(MDAS)の低下には顕著な差はなく(75% vs 42% good response,p=0.11),ハロペリドール7.1 mg/日とオランザピン4.5 mg/日とでは,Delirium Rating Scale の低下率はいずれも同等であり,プラセボと比較して有意に改善した(ハロペリドール70 vs オランザピン72% vs プラセボ30%,p<0.01)。

**

以上より,非定型抗精神病薬であるリスペリドンとオランザピンは,せん妄に対してハロペリドールと同等の効果があることが示唆される。また,クエチアピンやペロスピロンに関しては臨床研究がないが,薬理学的に他の非定型抗精神病薬と同種の薬剤として効果が期待できると考えられる。すなわち,オピオイドによるせん妄に限定した知見ではないが,非定型抗精神病薬はオピオイドによるせん妄を改善する可能性があると考えられる。


:MDAS

せん妄の重症度を測定するために開発された評価尺度。10 項目からなり,MDAS 日本語版では10 点以上(最大30 点)でせん妄と診断される。

2 )ベンゾジアゼピン系薬剤

Breitbart ら2)による無作為化比較試験では,せん妄が出現したAIDS 患者30 例を対象とし,ハロペリドール,クロルプロマジンと比較して,ロラゼパムの単独投与では,せん妄の症状が改善しなかった。Lonergan ら(2009b)5)によるせん妄に対するベンゾジアゼピン系薬剤の使用に関する系統的レビューでは,せん妄に対するベンゾジアゼピン系薬剤の単独投与の効果を示した臨床研究は,アルコール離脱性せん妄以外のせん妄にはないと結論している。したがって,ベンゾジアゼピン系薬剤は,単独投与でせん妄は改善せず,悪化させる可能性もある。

**

以上より,オピオイドが投与され,せん妄が発現した患者に対して,抗精神病薬は,せん妄を改善する可能性があると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,オピオイドが投与され,せん妄が発現した患者に対して,抗精神病薬の投与を推奨する。

投与薬物は,がん患者に対するエビデンスはないが,非がん患者に対するエビデンスから,定型抗精神病薬または非定型抗精神病薬を選択する。投与量に関しては,錐体外路症状や眠気など副作用を防ぐために,必要最少量にとどめる。抗精神病薬は少量から開始し,症状にあわせて増量する。投与時間については,眠気を来す作用もあることから,定期投与を行う場合には夕または就寝前の投与が望ましいが,症状にあわせて分割投与を検討する。1 種類の抗精神病薬によってもせん妄が改善しない場合には,専門家の合意から,他の抗精神病薬へ変更するか,または,焦燥感・不眠などの症状が緩和されない場合は抗精神病薬とベンゾジアゼピン系薬剤を併用する。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2001b)では,他の原因の鑑別,オピオイドの減量を検討したあとに,抗精神病薬(具体的にはハロペリドール,焦燥が著しい時にはベンゾジアゼピン系薬剤の併用)の使用を推奨している。

NCCN のガイドライン(2012)では,ハロペリドール,オランザピンまたはリスペリドンの投与を検討することを推奨している。

ESMO のガイドライン(2012)では,抗精神病薬の投与を推奨している。

日本総合病院精神医学会が作成した「せん妄の治療指針(2005 年)」では,薬物療法としてハロペリドールの使用が推奨されている。


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►臨床疑問38

オピオイドが投与され,せん妄が発現した患者に対して,オピオイドの変更(オピオイドスイッチング)は,変更しないことに比較してせん妄を改善するか?

推奨


オピオイドが投与され,せん妄が発現した患者に対して,オピオイドの変更(オピオイドスイッチング)は,せん妄を改善する。


オピオイドが投与され,せん妄が発現した患者に対して,オピオイドを変更する。

1B
(強い推奨,低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する臨床研究としては,系統的レビューが2 件ある。無作為化比較試験はなく,前後比較研究が5 件ある。

Quigey ら6)による系統的レビューでは,痛みを訴える患者に対するオピオイドの変更の有効性について,前後比較研究14 件,後ろ向き研究15 件,症例報告23 件を含む52 件の文献を検討した結果,1 つの報告を除き,オピオイドを変更することは疼痛緩和とオピオイドによる副作用を軽減するために有効な手段であると結論づけている。

また,Mercadante ら7)による系統的レビューでは,オピオイドの変更に関して,前後比較研究が13 件,後ろ向き研究10 件などを含む31 件の文献を検討し,1 種類のオピオイドで疼痛緩和が不十分な患者に対してオピオイドの変更を行うことで50%以上の患者において臨床的な改善が認められると結論づけた。

Morita ら8)による前後比較研究では,モルヒネによるせん妄と診断されたがん患者20 例を対象とし,モルヒネをフェンタニルに変更したところ,MDAS が10 点以上である患者は治療前85%であったが,治療3 日後に15%,治療7 日後に5%に減少した(p<0.001)。副作用は特にみられなかった。

Gagnon ら9)による前後比較研究では,オピオイドによる副作用のためにオピオイドの変更を行ったがん患者63 例を対象とし,せん妄のためにオキシコドン皮下投与に変更した38 例のうち,13 例(34%)でせん妄は臨床的に改善した。注射部位の局所反応以外の副作用は認めなかった。

Maddocks ら10)による前後比較研究では,モルヒネが原因と考えられるせん妄のある患者13 例を対象とし,オキシコドン皮下投与へ変更したところ,6 日後には13 例中9 例(69%)でせん妄が消失した。変更に伴う副作用はみられなかった。

Ashby ら11)による前後比較研究では,オピオイドが原因と考えられる副作用のある患者49 例を対象とし,モルヒネからフェンタニルへ変更したところ,せん妄は15 例中12 例で臨床的な改善がみられ,2 例は消失した。オキシコドンからフェンタニルへの変更では,せん妄は2 例中1 例で臨床的に改善した。モルヒネからオキシコドンへの変更では,4 例中3 例でせん妄が消失した。副作用に関する記載は特になかった。

他に,McNamara12)による前後比較研究では,痛みに対してモルヒネが投与されており,モルヒネによる眠気やせん妄などの精神症状のあるがん患者19例を対象とし,モルヒネからフェンタニル貼付剤に変更を行ったところ,認知機能検査における記憶の項目で改善が認められている。

**

以上より,オピオイドが投与され,せん妄が発現した患者に対して,オピオイドの変更は,せん妄を改善する相応の根拠があると考えられる。いずれも質の高いエビデンスではないが,モルヒネからオキシコドンまたはフェンタニルに,あるいは,オキシコドンからフェンタニルに変更することでせん妄の改善を認めている。

したがって,本ガイドラインでは,専門家の合意により,オピオイドによるせん妄に対してオピオイドの変更を推奨する。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2012)では,オピオイドの変更を推奨している。

NCCN のガイドライン(2012)では,オピオイドの変更を検討することを推奨し ている。

ESMO のガイドライン(2012)では,オピオイドの変更を推奨している。


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►臨床疑問39

オピオイドが投与され,せん妄が発現した患者に対して,オピオイドの投与経路の変更は,変更しないことに比較してせん妄を改善するか?

推奨


オピオイドが投与され,せん妄が発現した患者に対して,オピオイドの投与経路の変更は,せん妄を改善する可能性がある。


オピオイドが投与され,せん妄が発現した患者に対して,オピオイドの経口投与を持続静注・持続皮下注に変更する。

2C
(弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する臨床研究としては,無作為化比較試験はなく,前後比較研究が1 件ある。

Enting ら13)による前後比較研究では,オピオイドによる疼痛緩和が不十分な100 例の患者を対象とし,オピオイドを持続静注・持続皮下注に変更したところ,鎮痛効果の改善とあわせて,混乱および幻覚の改善または消失がそれぞれ87%(15 例中13 例),70%(10 例中7 例)でみられた。

**

以上より,質の高いエビデンスではないが,オピオイドが投与され,せん妄が発現した患者に対して,オピオイドの投与経路の変更はせん妄を改善する可能性があると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,専門家の合意により,オピオイドによるせん妄に対してオピオイドの投与経路の変更を推奨する。

ただし,せん妄が発現している患者では,投与ルートによる拘束感などにより,せん妄症状が悪化する場合や,転倒やルート抜去などの危険性が増加する場合があるため,投与経路の変更の際には十分に注意する。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2001b)では,他の原因の鑑別,オピオイドの減量を検討したあとに,投与経路の変更を推奨している。

ESMO のガイドライン(2012)では,投与経路の変更を推奨している。

(松本禎久,小笠原利枝,川村三希子,木下寛也,細矢美紀)

【文 献】

臨床疑問37

1) McNicol E, Horowicz-Mehler N, Fisk RA, et al. Management of opioid side effects in cancer-related and chronic noncancer pain:A systematic review. J Pain 2003;4:231-56

2) Breitbart W, Marotta R, Platt MM, et al. A double-blind trial of haloperidol, chlorpromazine, and lorazepam in the treatment of delirium in hospitalized AIDS patients. Am J Psychiatry 1996;153:231-7

3) Candy B, Jackson KC, Jones L, et al. Drug therapy for delirium in terminally ill adult patients. Cochrane Database Syst Rev 2012:CD004770

4) Lonergan E, Britton AM, Luxenberg J, Wyller T. Antipsychotics for delirium. Cochrane Database Syst Rev 2009a:CD005594

5) Lonergan E, Luxenberg J, Areosa Sastre A, et al. Benzodiazepines for delirium. Cochrane Database Syst Rev 2009b:CD006379

臨床疑問38

6) Quigley C. Opioid switching to improve pain relief and drug tolerability. Cochrane Database Syst Rev 2004

7) Mercadante S, Bruera E. Opioid switching:a systematic and critical review. Cancer Treat Rev 2006;32:304-15

8) Morita T, Takigawa C, Onishi H, et al;Japan Pain, Rehabilitation, Palliative Medicine, and PsychoOncology(PRPP)Study Group. Opioid rotation from morphine to fentanyl in delirious cancer patients:an open-label trial. J Pain Symptom Manage 2005;30:96-103

9) Gagnon B, Bielech M, Watanabe S, et al. The use of intermittent subcutaneous injections of oxycodone for opioid rotation in patients with cancer pain. Support Care Cancer 1999;7:265-70

10) Maddocks I, Somogyi A, Abbott F, et al. Attenuation of morphine-induced delirium in palliative care by substitution with infusion of oxycodone. J Pain Symptom Manage 1996;12:182-9

11) Ashby MA, Martin P, Jackson KA. Opioid substitution to reduce adverse effects in cancer pain management. Med J Aust 1999;170:68-71

12) McNamara P. Opioid switching from morphine to transdermal fentanyl for toxicity reduction in palliative care. Palliat Med 2002;16:425-34

臨床疑問39

13) Enting RH, Oldenmenger WH, van der Rijt CC, et al. A prospective study evaluating the response of patients with unrelieved cancer pain to parenteral opioids. Cancer 2002;94:3049-56

【参考文献】

臨床疑問37

14) せん妄の治療指針,日本総合病院精神医学会 編,星和書店,2005


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  がん疼痛マネジメントにおける患者教育

 がん疼痛マネジメントを受けている患者に,疼痛マネジメントについて教育を行うことは有効か?

関連する臨床疑問
  1. ►40がん疼痛マネジメントについて患者に教育を行うことで,痛みは緩和するか?
  2. ►41がん疼痛マネジメントについての教育は,どのように行うべきか?

推奨


  1. ►40がん疼痛マネジメントについて患者に教育を行う。
    1A
    (強い推奨,高いエビデンスレベル)
  2. ►41-1がん疼痛マネジメントについての教育は,その患者が実際に心配していることを明らかにし,患者個別に応じた教育を行う。
  3. ►41-2がん疼痛マネジメントについての患者教育は,継続して行う。
  4. ►41-3がん疼痛マネジメントについての患者教育の内容には,痛みとオピオイドに関する正しい知識,痛みの治療計画と具体的な鎮痛薬の使用方法,医療従事者への痛みの伝え方,非薬物療法と生活の工夫,セルフコントロールなどを含める。
    1B
    (強い推奨,低いエビデンスレベル)

がん疼痛マネジメント

適切で効果的な疼痛緩和を行うために,患者の体験に焦点をあてた包括的評価,痛みの治療とケア(薬物療法,その他の治療,非薬物療法,ケア)および継続的な評価を含めた多職種で行う過程を指す。

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►臨床疑問40

がん疼痛マネジメントについて患者に教育を行うことで,痛みは緩和するか?

推奨


がん疼痛マネジメントについて患者に教育を行うことで,痛みは緩和する。


がん疼痛マネジメントについて患者に教育を行う。

1A
(強い推奨,高いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関連した臨床研究は,複数の系統的レビューと無作為化比較試験がある。Allard ら1) による系統的レビューでは,がん疼痛のある患者を対象として,患者個々に応じた教育とフォローアップを行う(オピオイドについての認識を把握し誤解を修正する,オピオイドの内服方法をコーチングするなど)ことにより,痛みやオピオイドについての正しい知識の習得のみならず,痛みの改善にも効果的であることが示唆されている。また,Goldberg ら2) による入院中のがん患者への患者教育についての系統的レビューでは,患者に対してカウンセリングなどを用いた教育的な介入は,痛みを改善し,痛みやオピオイドについての正しい知識を習得したと結論された。また,Devine ら3) の成人がん患者への心理教育的介入についての系統的レビューでは,リラクセーション,鎮痛薬使用についての患者教育,カウンセリングには,患者の痛みを緩和する効果があることが示されている。

がん患者を対象として,がん疼痛マネジメントについての患者教育が痛みに及ぼす効果を評価した無作為化比較試験は9 件ある(表1)。このすべてにおいて痛みの強さが軽減されており,教育プログラムとして,冊子やスライドを用いた説明やビデオ,録音テープ,痛み日記,継続したフォローアップなどさまざまな方法が組み合わせて実施されていた。

**

以上より,がん疼痛マネジメントについて患者に教育を行うことで,痛みは緩和すると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,がん疼痛マネジメントを受ける患者には,がん疼痛マネジメントについて教育を行うことを推奨する。

表1 がん患者を対象とした痛みが緩和された教育プログラム(1)

de Wit らのプログラム(1997)4)

対象 がん専門病院の患者313 例(オランダ)
方法 介入群では,①痛みやがん疼痛マネジメントに関する情報提供や教育,②痛み日記を用いた痛みの記録方法の説明,③痛みについて医療従事者とどのようにコミュニケーションをとるかなどに関する説明を行った。説明を録音したテープと,冊子を用いて,個々の患者のニーズにあわせたプログラムを入院中に行った。
介入群は,プログラムを受けた後,退院3 日目,7 日目に看護師が電話によるフォローアップを行った。退院後は介入群,対照群ともに訪問看護師が関わった群と関わらなかった群に振り分けられ,①訪問看護なしの対照群(103 例),②訪問看護なしの介入群(106 例),③訪問看護ありの対照群(51 例),④訪問看護ありの介入群(53 例)の4 群を比較した。データ収集は,ベースライン,退院2,4,8 週後に行った。
結果 退院後75%の患者が冊子を全部読み,62%がテープをすべて聴き,86%が痛み日記を記録していた。訪問看護なしの群での比較では,5 以上の痛みを訴える割合が低下した(2週間目:16% vs 29%,p<0.05;4 週目:15% vs 32%,p<0.01)。訪問看護ありの群での有意差はなかった。

Lai らのプログラム(2004)5)

対象 腫瘍病棟に入院している患者30 例(台湾)
方法 10〜15 分の教育セッションを5 日間,痛みについて訓練を受けた腫瘍看護師が16 ページの冊子を用いて行った。最後の2 日間では,患者の個別の疑問に応じて,これまで学習してきたことの振り返りや,今後に向けた話し合いを行った。
冊子の内容は,①痛みの日々の生活への影響,②痛みの緩和方法や処方薬剤,③オピオイドの誤解,④副作用への対処,⑤痛みが長引くことの弊害,⑥非薬物療法,⑦痛みの強さを観察することの重要性,⑧NRSを用いて医療従事者に痛みを伝える方法,⑨医療従事者に痛みを訴える権利,⑩患者自身が行うこと,⑪がんの痛みは緩和できることであった。
結果 介入前後の比較で,介入群では対照群と比べ平均的な痛みの強さが低下していた(5.0→2.8 vs 4.3→3.7,p<0.05)。また,オピオイドへの正確な知識が増え,「痛みはコントロールできる」という認識が増えていた。

Rimer らのプログラム(1987)6)

対象 外来通院中のがん患者230 例(米国)
方法 介入群の患者は,訓練を受けた腫瘍看護師とのセッションを受けた。セッションでは,①看護師が作成した重要事項記載カード(薬剤名と起こりうる副作用などが記載されている)と,②「No More Pain」の冊子(個別の鎮痛薬の服薬計画や説明が記載されている)をもとに15 分間のカウンセリングを行った。冊子には,その患者に使用される鎮痛薬の種類や方法が記載され,看護師はこの冊子を枠組みとしてカウンセリングを行った。
結果 介入群では対照群と比較して,介入後1 カ月後の痛みについて「痛みがない,あるいは,軽い痛み」と回答した患者が多かった(44% vs 24%,p=0.07)。また,介入群の患者は,対照群の患者と比して,正確なスケジュールで,正確な薬剤量を服薬する傾向にあった。介入群では医療用麻薬に対する心配をもっている患者の割合が減少した:精神依存(addiction)に関する心配(95% vs 82%,p=0.02),耐性に関する心配(95% vs 75%,p=0.0002)。

Miaskowski らのプログラム(PRO-SELF)(2004)7)

対象 骨転移のあるがん患者174 例(米国)
方法 トレーニングを受けた看護師が,第1 週に訪問し,①冊子を用いた鎮痛薬の誤解の相談,②ピルボックスを使用した経口剤の整理,③痛み日記を利用した疼痛評価の方法,④痛みが緩和しない時の医師とのコミュニケーション方法などについて,患者の個別性にあわせた面接を行った。その後,フォローアップとして,2,4,5 週目に電話で痛みの強さと鎮痛薬の使用方法を確認し,3,6 週目に患者の自宅を訪問した。
結果 介入群では対照群に比較して,6 週目までの痛みのNRS が有意に減少した(グラフで示されており数値の記載はない,p<0.0001)。また,介入群では,定期使用薬と頓用薬の合計使用量がより増加していた。

Oliver らのプログラム(2001)8)

対象 痛みのある外来通院中の患者64 例(米国)
方法 痛みに関する知識や自己管理,疼痛コントロールについて,個別教育とコーチングセッション(約20 分)を行った。
セッションには,①患者の痛みやオピオイドについての認識を確認,②誤解に対する教育,③WHO の疼痛コントロールガイドラインに関する説明,④治療目標を確認,⑤目標に到達するための方法を具体的にすることが含まれている。
結果 介入群では,対照群と比較して2 週間後の痛みの平均の強さが改善した(グラフで示されており数値の記載はない,p=0.014)。痛みによる障害,痛みの頻度,痛みの知識に関しては,群間差はみられなかった。

Syrjala らのプログラム(2008)9)

対象 がんに関連した痛みのある外来通院中のがん患者93 例(米国)
方法 介入群は,基本的な痛みの伝え方に関する15 分間のビデオを視聴し,個々の患者が疑問に思っていることに焦点をあて,ハンドブックをもとに看護師とともに約20 分間の振り返りを行った。
ハンドブックは4 つのセクションから構成され,①あなた(患者)が知りたいこと:痛みの緩和のバリアや利用可能な治療の選択肢,医師とのコミュニケーションの重要な要素について,②副作用:痛みの治療を妨げる可能性のある副作用とその対処方法について,③医師に伝えること:在宅での状態に焦点をあてた症状のチェックリスト1 枚,④治療:26 の一般的な薬剤や他の痛みの治療に関する取り外し可能なカードが含まれている。上記セッション72 時間後に看護師が電話によるフォローアップを10 分間行い,痛みとその他の症状の評価,およびハンドブックの使用の有無の確認を行い,患者の質問に応じた。介入の評価は開始時(基準値),1,3,6 カ月後に行った。
結果 介入群では,対照群と比較して,痛みの緩和のバリアが軽減し(介入群の平均値-対照群の平均値=-0.3,p<0.001),普段の痛みの平均値も軽減した(介入群の平均値-対照群の平均値=-0.8,p=0.03)。また,オピオイドの1 日の平均使用量も増加した(介入群の平均値-対照群の平均値=0.3,p<0.001)。

Thomas らのプログラム(2012)10)

対象 がんに関連した痛みがある外来通院中のがん患者318 例(米国)
方法 コーチングの群(105 例),標準的な教育を受ける群(103 例),通常ケアの群(109 例)の3 群に振り分け,標準的な教育の群は,がん疼痛マネジメントのビデオ(バリアを克服することに焦点をあてたもの)を視聴し,がん疼痛マネジメントに関する冊子を受け取った。コーチングの群は,標準的な教育に加えて,がん疼痛マネジメントにおけるバリアが減少するための,動機づけのインタビュー技法の訓練を受けた専門看護師より30 分間の電話のセッションを4 回受け(6 週間の間に約1 週おきに実施),がん疼痛マネジメントにおける態度のバリア,鎮痛薬の使用,非薬物療法,がん疼痛マネジメントに関するコミュニケーションについて検討した。また,標準的な教育の群と通常ケアの群は,リサーチアシスタントによる電話を4 回受けた(6 週間の間に約1 週おきに実施)。
結果 コーチングの群では,標準的な教育の群と通常ケアの群と比較して,6 週間後の痛みによる機能障害に関するスコアが軽減した(グラフで示されており数値の記載はない,p=0.03,0.02)。痛みの強度や痛みのスコアは,コーチングの群が最も改善したが,3 群において統計学的な有意差はみられなかった。また,がん疼痛マネジメントのバリアのスコアも群間差はみられなかった。

Yildrim らのプログラム(2009)11)

対象 痛みがある入院中のがん患者40 例(トルコ)
方法 介入群は,研究者が作成した冊子やスライドを用いて,痛みの定義や痛みの原因,痛みの薬物療法(鎮痛薬の名前,量,使用目的,使用方法),副作用(鎮静,便秘,耐性など),がん疼痛マネジメントに関する誤った信仰・誤解(依存,耐性など),非薬物療法(冷罨法,温罨法,リラクセーション,マッサージなど),痛みのアセスメント(NRS を使用)に関する患者教育プログラムを受け,医療者に冊子の内容について自由に質問した。1 回目のセッションは30〜40 分間で,患者の病室で行った。そして,3,7 日後に5〜15 分の同様のセッションが実施された。
結果 介入群では, 対照群と比較して, 介入2,4,8 週間後の現存する痛みのスコア(3.1→1.1→1.2→1.2,p<0.05)と最も弱い痛みのスコア(1.3→0.7→0.8→0.7,p<0.05)が軽減した。また,痛みの治療に対する満足度のスコアも同様に改善した(7.3→8.0→8.3→8.3,p<0.05)。また,介入後2 週間後のがん疼痛マネジメントのバリアのスコア(2.1→1.3,p<0.01)も低下した。

van der Peet らのプログラム(2009)12)

対象 痛みがある外来通院中のがん患者120 例(オランダ)
方法 介入群では,1,3,6 週目に看護師が患者の自宅を訪問した。1 回の訪問時間は,1〜1 時間半で,1 週目の訪問では,患者にあわせた教育をするために初期データを取り,痛みの冊子を渡し,がん疼痛マネジメントに関する質問を受け,可能であれば家族もいるところで教育した。そして,1 日2 回,NRS を使用して痛みの強度を痛み日記に記録する方法について説明し,痛みや他の症状が生じた際に医療従事者へ連絡するよう促した。1 回目の訪問後,看護師は主治医に報告書を提出し,必要があれば,すべてのケースに関してがんの痛みの治療の専門家に鎮痛薬についてコンサルテーションが受けられた。3,6 週目の訪問では,痛み日記を振り返り,痛みの強度を確認し,患者が十分理解していない冊子の内容について話し合ったり繰り返し情報を伝えたりした。
結果 介入群では,対照群と比較して,介入4 週間後で痛みが軽減し(4.7→3.8 vs 4.4→3.8,p=0.02),介入8 週間後は軽減しなかった。介入8 週間後では,介入群では,対照群と比較して,痛みの知識が向上した(53→63 vs 60→57,p<0.001)が,痛みの知識の向上と痛みの強度の軽減には関連がみられなかった。

NRS(numerical rating scale)

痛みを0 から10 の11 段階に分け,痛みが全くないのを0,考えられるなかで最悪の痛みを10 として,痛みの点数を問うもの。参照


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►臨床疑問41

がん疼痛マネジメントについての教育は,どのように行うべきか?

推奨


  1. ►41-1がん疼痛マネジメントについての教育は,その患者が実際に心配していることを明らかにし,患者個別に応じた教育を行う。
  2. ►41-2がん疼痛マネジメントについての患者教育は,継続して行う。
  3. ►41-3がん疼痛マネジメントについての患者教育の内容には,痛みとオピオイドに関する正しい知識,痛みの治療計画と具体的な鎮痛薬の使用方法,医療従事者への痛みの伝え方,非薬物療法と生活の工夫,セルフコントロールなどを含める。
    1B
    (強い推奨,低いエビデンスレベル)
解説

がん疼痛マネジメントについての患者教育をどのように行うべきかについての具体的な方法と方法を比較した質の高い臨床試験はない。

したがって,どの方法が他の方法と比較して効果があるかは明らかではない。

本ガイドラインでは,専門家の合意として,がん疼痛マネジメントの教育は実際には複数の方法が組み合わせて行われるため,表1 に挙げた無作為化比較試験で実施されていた介入プログラムに共通していた内容や方法を整理し,推奨する。

また,がん患者の家族は,患者のがん疼痛マネジメントへの不安をもっており(Ferrell ら),患者が痛みを経験していても,家族が鎮痛薬の服薬にためらいや不安をもち,患者に鎮痛薬を服用させたくないという考えをもつことがある(Lin)。したがって,がん疼痛マネジメントについての患者教育においては,可能な限り,家族も含め行うことが望ましい。

41-1 患者個別に応じた教育を行う

有効性が実証された教育プログラムでは,痛みに対する「全般的な情報」よりも「その患者が実際に心配していることを明らかにし対応すること」が要素として含められている(de Wit ら4),Lai ら5),Rimer ら6),Oliver ら8),Syrjala ら9),Thomas ら10),Yildrim ら11),van der Peet ら12))。

例えば,「一般的にオピオイドでは麻薬中毒にはならない」と指導するだけではなく,「どういう心配をしていますか」など,オピオイドを使用するうえで心配している内容やその理由を患者から具体的に聞いたうえで,その患者の有している誤解を解消する。そして患者がレスキュー薬の使用方法がわからないのであれば,その方法を一緒に確認するといったように,コーチングなどの技法も用い,冊子や要点を記載したカード,定期的な服用が確認できるピルボックスなどを活用しながら患者個別に応じた教育を行うことが重要である。

41-2 継続して教育を行う

有効性が実証された教育プログラムでは,1 回だけではなく,時間の経過に伴ってフォローアップを電話や訪問で行ったり,初回の説明内容の録音や視聴覚教材を使用したり,痛み日記を確認したりして繰り返し教育を行っている(de Wit ら4),Miaskowski ら7),Syrjala ら9),Thomas ら10),Yildrim ら11),van der Peet ら12))。つまり,患者の痛みや鎮痛薬についての理解は一度で得られるものでなく,また,レスキュー薬の使用などは痛みのタイミングにあわせ,継続した教育が必要であることが示唆される。

41-3  教育内容として,痛みとオピオイドに関する正しい知識,痛みの治療計画と具体的な鎮痛薬の使用方法,医療従事者への痛みの伝え方,非薬物療法と生活の工夫,セルフコントロールを含める

有効性が実証された教育プログラムに含まれていた教育内容を整理し表2 に示した(de Wit ら4),Lai ら5),Rimer ら6),Moiaaskowski ら7),Oliver ら8),Ward ら13),Clotfelter ら14),Yates ら15))。

(1)痛みとオピオイドに対する正しい知識

患者の痛みやオピオイドに関する認識を確認し,痛みを緩和することの意義や痛みを我慢することの悪影響を伝え,また,疼痛緩和の障害となっている誤解に関する正しい知識を説明する。特に,オピオイドについての誤った認識(「麻薬中毒になる」,「寿命が縮まる」,「徐々に鎮痛効果がなくなる」など)がしばしばみられることがあり,その認識に至った患者個々の背景などを十分に把握したうえで,がん疼痛やオピオイドについての情報を提供していく必要があるⅡ-6-2 オピオイドの誤解についての医学的真実の項参照)

(2)痛みの治療計画と具体的な鎮痛薬の使用方法

患者の痛みを緩和するための治療計画,すなわち患者の痛みの原因,疼痛治療の目標,痛みの治療計画,具体的な鎮痛薬の使用方法,特に,定期的な鎮痛薬の服用方法,レスキュー薬の使用方法,副作用の対策について説明する。

(3)医療従事者への痛みの伝え方

痛みを医療従事者に伝えることの意義を伝え,痛みの評価,痛み日記など,患者が痛みを医療従事者に伝える方法を習得することを勧める。がん疼痛マネジメントがうまくいかなかった時の連絡方法についてもここに含まれる。具体的な痛みの強さを伝える方法としては,NRS が一般的に推奨されるⅡ-2-2 痛みの評価の項参照)

(4)非薬物療法と生活の工夫

患者や家族が行っている有効な薬物以外の疼痛緩和方法を確認し,疼痛緩和につながる薬物療法以外の方法をみつけて行うように促す。例えば,「どのようにすれば痛みが和らぎますか,痛みが強くなりますか」などと評価し,生活のうえで痛みが悪化する要因や軽快する要因(温める,移動の仕方の工夫など)を観察し,生活に取り入れるように促す。

(5)セルフコントロール

がん疼痛マネジメントを行うために患者が自分で痛みを観察するように促す。例えば,痛み日記やフローシートを用い,患者自身がコントロールしている実感をもてるように,一緒に患者が遂行しやすい方法を選択する。

表2 がん疼痛マネジメントについての患者教育に含まれるべき教育内容
痛みとオピオイドに対する
正しい知識
以下の誤った認識がないかを確認する
  1. 精神依存になる
  2. 徐々に効果がなくなる
  3. 副作用が強い
  4. 痛みは病気の進行を示す
  5. 注射がこわい
  6. 痛みの治療をしても緩和することができない
  7. 痛みを訴えない患者は「良い患者」であり,良い患者でいたい
  8. 医療従事者は痛みの話をすることを好まない
痛みの治療計画と鎮痛薬
の具体的な使用方法
  1. 患者の痛みの原因
  2. 痛み治療の目標
  3. 痛みの治療計画(化学療法,薬物療法,神経ブロックなど)
  4. 鎮痛薬の具体的な使用方法
    • 定期的な鎮痛薬の服薬方法
    • レスキュー薬の使用
    • 副作用の出現と対策(悪心・嘔吐,便秘,眠気,精神症状)
医療従事者との痛みに関
するコミュニケーション
  1. 痛みを医療従事者に伝えることの意義
  2. 痛みを医療従事者に伝える方法(NRS,痛み日記など)
  3. がん疼痛マネジメントがうまくいかなかった時の連絡先
非薬物療法と生活の工夫
  1. 患者や家族が行っている薬物以外の有効な疼痛緩和方法の確認
  2. 疼痛緩和につながる薬物療法以外の方法をみつけて行うように促す(温める,移動の仕方の工夫など)
セルフコントロール
  1. 自分で痛みを観察し,コントロールするように促す

:神経ブロック

局所麻酔薬や神経破壊薬,熱などにより神経の伝達機能を一時的・永久的に遮断することによって,または,オピオイドなど鎮痛薬の硬膜外腔・クモ膜下腔への投与によって鎮痛効果を得る手段。(注釈)狭義の神経ブロックは一般的に前者をさし,後者とあわせたものを麻酔科的鎮痛(anesthesiological procedure)と呼ぶことがあるが,本ガイドラインでは,簡便に,両方をあわせて「神経ブロック」と呼ぶ。

既存のガイドラインとの整合性

NCCN のガイドライン(2012)では,がん疼痛マネジメントにおける患者教育について,痛みを緩和することの重要性,疼痛緩和に用いられる医療用麻薬では精神依存は問題にならないこと,患者と家族に痛みの程度や副作用,痛み以外の苦痛症状を緩和することで痛みのコントロールが促進されることの可能性,および,がん疼痛マネジメントに関する疑問について医療従事者に伝えることが重要であることを教育することが推奨されている。また,鎮痛薬の種類と使用方法,副作用対策,医療従事者に連絡すべき症状と連絡先の一覧を書面で情報提供すること,継続的にフォローアップすることが推奨されている。

(梅田 恵,細矢美紀,新幡智子,風間郁子,林ゑり子,廣岡佳代)

【文 献】

1) Allard P, Maunsell E, Labbé J, et al. Educational interventions to improve cancer pain control: a systematic review. J Palliat Med 2001;4:191-203

2) Goldberg GR, Morrison RS. Pain management in hospitalized cancer patients:a systematic review. J Clin Oncol 2007;25:1792-801

3) Devine EC. Meta-analysis of the effect of psychoeducational interventions on pain in adults with cancer. Oncol Nurs Forum 2003;30:75-89

4) de Wit R, van Dam F, Zandbelt L, et al. A pain education program for chronic cancer pain patients:follow-up results from a randomized controlled trial. Pain 1997;73:55-69

5) Lai YH, Guo SL, Keefe FJ, et al. Effects of brief pain education on hospitalized cancer patients with moderate to severe pain. Support Care Cancer 2004;12:645-52

6) Rimer B, Levy MH, Keintz MK, et al. Enhancing cancer pain control regimens through patient education. Patient Educ Couns 1987;10:267-77

7) Miaskowski C, Dodd M, West C, et al. Randomized clinical trial of the effectiveness of a self-care intervention to improve cancer pain management. J Clin Oncol 2004;22:1713-20

8) Oliver JW, Kravitz RL, Kaplan SH, et al. Individualized patient education and coaching to improve pain control among cancer outpatients. J Clin Oncol 2001;19:2206-12

9) Syrjala KL, Abrams JR, Polissar NL, et al. Patient training in cancer pain management using integrated print and video materials:a multisite randomized controlled trial. Pain 2008;135:175-86

10) Thomas ML, Elliott JE, Rao SM, et al. A randomized, clinical trial of education or motivational-interviewing-based coaching compared to usual care to improve cancer pain management. Oncol Nurs Forum 2012;39:39-49

11) Yildirim YK, Cicek F, Uyar M. Effects of pain education program on pain intensity, pain treatment satisfaction, and barriers in Turkish cancer patients. Pain Manag Nurs 2009;10:220-8

12) van der Peet EH, van den Beuken-van Everdingen MH, Patijn J, et al. Randomized clinical trial of an intensive nursing-based pain education program for cancer outpatients suffering from pain. Support Care Cancer 2009;17:1089-99

13) Ward S, Donovan HS, Owen B, et al. An individualized intervention to overcome patient-related barriers to pain management in women with gynecologic cancers. Res Nurs Health 2000;23:393-405

14) Clotfelter CE. The effect of an educational intervention on decreasing pain intensity in elderly people with cancer. Oncol Nurs Forum 1999;26:27-33

15) Yates P, Edwards H, Nash R, et al. A randomized controlled trial of a nurse-administered educational intervention for improving cancer pain management in ambulatory settings. Patient Educ Couns 2004;53:227-37

【参考文献】

16) Ferrell BR, Grant M, Chan J, et al. The impact of cancer pain education on family caregivers of elderly patients. Oncol Nurs Forum 1995;22:1211-8

17) Lin CC. Barriers to the analgesic management of cancer pain:a comparison of attitudes of Taiwanese patients and their family caregivers. Pain 2000;88:7-14


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  特定の病態による痛みに対する治療

神経障害性疼痛

 がんによる神経障害性疼痛に対する有効な治療は何か?

関連する臨床疑問
  1. ►42がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して,行うべき評価は何か?
  2. ►43がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,プラセボに比較して痛みを緩和するか?
  3. ►44がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して,抗けいれん薬,抗うつ薬,抗不整脈薬,NMDA 受容体拮抗薬,コルチコステロイドは,プラセボに比較して痛みを緩和するか?
  4. ►45がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して,ある鎮痛補助薬を増量しても効果がない場合,他の鎮痛補助薬への変更や併用は,行わないことに比較して痛みを緩和するか?

推奨


  1. ►42痛みの原因の評価と痛みの評価を行う。
  2. ►43がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行うⅢ-1 共通する疼痛治療の項参照)
    1B
    (強い推奨,低いエビデンスレベル)
  3. ►44がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して,抗けいれん薬,抗うつ薬,抗不整脈薬,NMDA 受容体拮抗薬,コルチコステロイドのうちいずれかを投与する。
    2B
    (弱い推奨,低いエビデンスレベル)
  4. ►45がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して,ある鎮痛補助薬を増量しても効果がない場合,専門家に相談したうえで,他の鎮痛補助薬への変更や併用を行う。
    2C
    (弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)

神経障害性疼痛

痛覚を伝える神経の直接的な損傷やこれらの神経の疾患に起因する痛み。灼熱痛,電撃痛,痛覚過敏,感覚過敏,アロディニアなどを伴うことがある。難治性で鎮痛補助薬の併用を必要とすることが多い。参照

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►臨床疑問42

がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して,行うべき評価は何か?

推奨


痛みの原因の評価と痛みの評価を行うⅡ-2 痛みの包括的評価の項参照)

解説
1 )痛みの原因を身体所見や画像検査から評価する

神経障害性疼痛は,中枢神経系・末梢神経系の障害によって引き起こされる。

原因は,①がんによる神経障害性疼痛,②がん治療による神経障害性疼痛,③がん・がん治療と直接関係のない神経障害性疼痛がある。これらは原因によって対処する方法が異なる。本ガイドラインの薬物療法では,「がんによる神経障害性疼痛」を扱う。

(1)がんによる神経障害性疼痛

脊髄圧迫症候群,腕神経叢浸潤症候群,腰仙部神経叢浸潤症候群,悪性腸腰筋症候群などが含まれるⅡ-1 がん疼痛の分類・機序・症候群の項参照)。薬物療法を行うとともに,外科治療,化学療法,放射線治療の適応について検討する。

痛みが脊髄圧迫症候群など神経麻痺の症候であるかを判断する。脊髄圧迫症候群による痛みの場合,下肢麻痺に進展した場合は患者のQOL が大きく損なわれるため,診断精度の高いMRI などを施行し,早急に放射線治療科・整形外科などの専門家に相談する。

(2)がんの治療による神経障害性疼痛

化学療法による神経障害性疼痛(ビンアルカロイド系薬剤,タキサン系薬剤で多くみられる),乳房切除後疼痛・開胸術後疼痛など外科治療による痛みなどがある。

(3)がん・がん治療と直接関連のない神経障害性疼痛

帯状疱疹後神経痛,糖尿病性神経障害,脊柱管狭窄症などが痛みの原因となっていないかを評価する

2 )痛みの評価を行う

痛みの日常生活への影響,痛みのパターン(持続痛か突出痛か),痛みの強さ,痛みの部位,痛みの経過,痛みの性状,痛みの増悪因子と軽快因子,現在行っている治療の反応,および,レスキュー薬の効果と副作用について評価する。


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►臨床疑問43

がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,プラセボに比較して痛みを緩和するか?

推奨


がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,痛みを緩和する。


がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行う。

1B
(強い推奨,低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する臨床研究として,がん患者を対象とした質の高い臨床研究はない。

オピオイドを中心としたWHO 方式がん疼痛治療法の神経障害性疼痛への鎮痛効果を評価した観察研究がある。例えば,Grond ら1)は,オピオイドを中心としたWHO 方式がん疼痛治療法に基づいた治療は,侵害受容性疼痛,混合性疼痛,神経障害性疼痛のいずれにおいても,同程度の鎮痛効果が得られたと報告した(入院時と3 日後の痛みのNRS(0〜10):侵害受容性疼痛6.6→2.6 vs 混合性疼痛6.5→3.0 vs 神経障害性疼痛7.0→2.8)。同様に,Mercadante ら(1999)2)は,在宅治療において,神経障害性疼痛を含む痛みの多くは,WHO 方式がん疼痛治療法で死亡前1 週間前まで緩和できたことを報告している。また,Caraceni ら3)によるガバペンチンの効果をみた無作為化比較試験では,オピオイドによる治療が対照群として用いられ,痛みの33%低下を有効とした有効率は,投与後10 日目に約60%であった。

Mercadante ら(2009)4)は,がんによる神経障害性疼痛を有する患者167 例の観察研究において,国際疼痛学会の神経障害性疼痛のグレード分類を用いて,がんによる神経障害性疼痛を確定的(definite,60 例),可能性が高い(probable,36 例),可能性が低い(unlikely,71 例)に分類し,オピオイドの鎮痛効果をタイトレーション前後で比較している。それによると,神経障害性疼痛の「可能性が低い」場合では,神経障害性疼痛が「確定的」である場合と比較して,オピオイドによる鎮痛効果が有意に高かったものの,神経障害性疼痛が「確定的」,「可能性が高い」,「可能性が低い」のいずれにおいても,オピオイドのタイトレーションにより有意な鎮痛効果が得られた〔NRS(0〜10);確定的:5.9±2.2→2.4±1.7,可能性が高い:4.9±2.2→2.3±1.6,可能性が低い:5.4±1.9→1.7±1.3〕。なお,神経障害性疼痛が「確定的」な場合には,オピオイド増加率が他と比べて高かった。以上より,神経障害痛が確定的な場合でも,オピオイドの積極的な増量と注意深い副作用の対応により臨床的に有効な鎮痛が得られるとしている。

非がん患者の神経障害性疼痛に関するオピオイドの鎮痛効果を評価したEisenberg5)の系統的レビューでは,オピオイドは中等度の鎮痛効果があることが確認されている。

**

以上より,知見は十分ではないものの,がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,痛みを緩和すると考えられる。

したがって本ガイドラインでは,がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して,他の機序によるがん疼痛と同様に,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行うことを推奨する。


:侵害受容性疼痛

体性痛と内臓痛に分類される。末梢神経終末の侵害受容器が,熱や機械的・化学的な刺激によって受けた侵害を電気信号に変換し,脳に伝えることで自覚する痛み。参照


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►臨床疑問44

がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して,抗けいれん薬1,抗うつ薬2,抗不整脈薬3,NMDA 受容体拮抗薬4,コルチコステロイド5は,プラセボに比較して痛みを緩和するか?

推奨


がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して,抗けいれん薬,抗うつ薬,抗不整脈薬,NMDA 受容体拮抗薬,コルチコステロイドは,痛みを緩和する可能性がある。


がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して,抗けいれん薬,抗うつ薬,抗不整脈薬,NMDA 受容体拮抗薬,コルチコステロイドのうちいずれかを投与する。

2B
(弱い推奨,低いエビデンスレベル)


1:抗けいれん薬

けいれん(てんかん)発作に用いる薬剤で,鎮痛補助薬としても用いられる。神経の興奮や神経伝達物質を抑制する作用機序により鎮痛効果を発揮する。参照

2:抗うつ薬

主にうつ症状を緩和する薬剤で,鎮痛補助薬としても用いられる。中枢神経系のセロトニン,ノルアドレナリン再取り込みを阻害し,下行性抑制系を賦活することによって鎮痛効果を発揮する。参照

3:抗不整脈薬

不整脈の治療に使用する薬剤で,鎮痛補助薬としても用いられる。痛みによる神経の過敏反応を抑制し,また脊髄後角ニューロンの過剰な活動電位を抑制する。参照

4:NMDA 受容体拮抗薬

興奮性の神経伝達物質としても機能するグルタミン酸が,グルタミン酸受容体の一つであるNMDA(N-メチル-D-アスパラギン酸)受容体に結合するのを阻害して鎮痛作用などを発揮する薬剤。参照

5:コルチコステロイド

副腎皮質ステロイド。骨転移痛,腫瘍による神経圧迫,関節痛,頭蓋内圧亢進,管腔臓器の閉塞などによる痛みに使用される。痛みを感知する部位の浮腫の軽減,ステロイド反応性の腫瘍の縮小などが作用機序と考えられている。参照

解説

鎮痛補助薬としては,抗けいれん薬,抗うつ薬,抗不整脈薬,NMDA 受容体拮抗薬,およびコルチコステロイドなどがある。

本臨床疑問に関する臨床研究として,非がん疼痛については,比較的豊富な臨床研究により,期待される鎮痛効果と副作用の程度が明らかにされているⅡ-4-3 鎮痛補助薬の項参照)。一方,がんによる神経障害性疼痛についての知見は限られているが,抗けいれん薬,抗うつ薬,抗不整脈薬,NMDA 受容体拮抗薬,コルチコステロイドの一部について,無作為化比較試験を含む知見がある。

Bennett の系統的レビュー6)でも,抗うつ薬または抗けいれん薬をオピオイドに併用した場合に,副作用により有用性は限定されるが効果が期待されるとしている。

1 )抗けいれん薬
(1)プレガバリン

がんによる神経障害性疼痛への有効性に関しては,1 件の無作為化比較試験がある。Mishra ら7)は神経障害性疼痛のあるがん患者120 例を30 例ずつAT 群(アミトリプチリンを50 mg/日より開始し,1 週間おきに75 mg/日,100 mg/日と増量する群),GB 群(ガバペンチンを900 mg/日から開始し,1 週間おきに1,200 mg/日,1,800 mg/日と増量する群),PG 群(プレガバリンを150 mg/日より開始し,1 週間おきに300 mg/日,600 mg/日に増量する群),PL 群(プラセボを他の薬剤と同じカプセルに充填して3 週間内服させた群)の4 群に分け,痛みが強い時はレスキュー薬としてモルヒネ速放性製剤を投与した際の鎮痛効果,副作用,治療満足度を調査している。その結果,3 週間後のVAS はAT 群で7.77 から3.23 へ,GB 群で7.5 から3.07 へ,PG 群で7.77 から2.5 へ,PL 群で7.47 から3.4 に有意に低下し,またPG 群のVAS はGB 群のVAS より有意に低かった(p=0.042)。副作用もプレガバリン群で程度の軽い患者が多く,治療満足度の低い患者が少なかった,と報告している。

Moore ら8)の非がんでのレビューによると,プレガバリン600 mg/日のNNT*1は,帯状疱疹後神経痛で3.9,糖尿病性神経障害性疼痛で5.0,中枢痛で5.6 であり,眠気が15〜25%に,めまいが27〜46%に,治療の中止は18〜28%で観察されていた。


1:NNT(Number Needed to Treat)

1 例の効果を得るためにその治療を何人の患者に用いなければならないかを示す指標。

(2)ガバペンチン

非がん,がん患者の神経障害性疼痛に対して,Wiffen9)の系統的レビューでは,ガバペンチンには,めまい,眠気,頭痛,下痢,混乱,悪心の副作用があるが,中等度の鎮痛効果があることが確認されている。プラセボは19%,ガバペンチンは42%に有効であり,NNT は4.3 であった。治療中止はプラセボと有意差はなく(14% vs 10%),重度ではない副作用のNNH*2は3.7 である。

一方,がん患者の神経障害性疼痛への有効性に関しては,無作為化比較試験が2 件,前後比較研究が2 件ある。

Caraceni ら10)による無作為化比較試験では,オピオイド治療中で神経障害性疼痛のあるがん患者121 例を対象に,ガバペンチン600〜1,800 mg/日とオピオイドの併用治療と,オピオイド単独治療の効果を比較したところ,痛みのNRS は,ガバペンチン併用群でより低下した(7.0→4.6 vs 7.7→5.4,p=0.025)。痛みの33%低下を有効とした有効率は,投与後1〜5 日にガバペンチン群で高かったが(3 日目,57% vs 31%),10 日目には差はなくなった(62% vs 64%)。副作用として,眠気(23% vs 9.7%),立ちくらみ(8.8% vs 0%),悪心・嘔吐(6.3% vs 0%)が多かった。試験中止による症状はいずれも約7%に認められ,鎮静,呼吸抑制,血圧低下などであった。ガバペンチンは,オピオイド単独治療と比較してある期間に限って,がんによる神経障害性疼痛をより緩和した。

Keskinbora ら11)による無作為化比較試験では,オピオイド治療中のがんによる神経障害性疼痛のある患者75 例を対象に,ガバペンチン平均629 mg/日(4 日目)〜1,287 mg/日(13 日目)とオピオイドとの併用治療と,オピオイド単独治療の13 日間の鎮痛効果を比較したところ,治療4,13 日後にガバペンチン群により強い鎮痛効果が認められた(ベースラインと比較したNRS の変化:灼熱痛:-7.4 vs -5.8,p=0.018;電撃痛:-6.8 vs -4.7,p=0.009)。ガバペンチン併用での副作用は,眠気(13% vs 6.2%)が多かったが,悪心は少なく(3.2% vs 19%),めまい(13% vs 13%)は同等であった。呼吸抑制による試験中止はガバペンチン併用群で1 例認めた。

この他に,2 件の前後比較研究がある。Caraceni ら12)によるオピオイド治療中のがんによる神経障害性疼痛のある患者22 例を対象に,ガバペンチン1,004 mg(600〜1,800 mg)の併用を行ったところ,NRS が6.4 から3.2 に低下した報告や,Ross ら13)による,がんによる神経障害性疼痛に対して300〜1,800 mg のガバペンチンとオピオイド併用が45%に有効〔痛みの程度がBrief Pain Inventory(BPI)*3で33%以上低下〕であったという報告などがある。これらの論文を含むBennett6)の系統的レビューにおいて,ガバペンチンのオピオイドとの併用は,他の抗けいれん薬や抗うつ薬と比較してより有効であるとしている。

本邦においても,Takahashi ら14)による前向き観察研究がなされている。がんによる,またはがん治療による神経障害性疼痛があり,オピオイドによる鎮痛効果が十分でない患者に対して,400〜1,200 mg のガバペンチンを併用したところ,最悪,最小,平均のNRS はそれぞれ7.2±1.8→5.9±2.3(p=0.0003),3.6±2.3→3.0±1.4(p=0.0033),5.7±1.9→4.5±1.5 と有意に減少した。一方で,4 例がガバペンチンによると思われる副作用のため研究中止となっていた。

(3)プレガバリン,ガバペンチン以外の抗けいれん薬

プレガバリン,ガバペンチン以外の抗けいれん薬については,非がん患者での鎮痛効果は中等度であることが示されている。非がん患者の神経障害性疼痛を主としたFinnerup15)の系統的レビューでは,50%以上の痛みの改善を有効とし定義した場合のNNT は,カルバマゼピン2.0,フェニトイン2.1,バルプロ酸2.8 などであり,抗けいれん薬全体で4.2 であった。副作用による治療中止のNNH は11 であるⅡ-4-3 鎮痛補助薬の項参照)

一方,がん患者では質の高い臨床研究はほとんどなく,フェニトイン,バルプロ酸,クロナゼパムについて少数の研究があるにすぎない。

Yajnik ら16)の無作為化比較試験では,がん疼痛患者75 例を対象とし,ブプレノルフィン単独0.4 mg/日,フェニトイン単独200 mg/日,ブプレノルフィン0.2 mg/日とフェニトイン100 mg/日併用を比較したところ,50%以上の程度で痛みが改善した比率に差はなかった(84% vs 72% vs 88%)。フェニトイン単独群での副作用は頭痛とめまいがそれぞれ1 例に,併用群では副作用は観察されなかった。

Hardy ら17)による無作為化比較試験では,WHO 方式がん疼痛治療法でオピオイドを使用しても痛みの改善がみられない神経障害性疼痛患者25例を対象に,バルプロ酸400〜1,200 mg/日併用の効果をみたところ15 日後の有効率は,①BPI による痛みを4 段階に分け,「痛みなし」,「少し痛い(1〜4)」,「やや痛い(5〜7)」,「ひどく痛い(8〜10)」に分類し1 段階以上軽快したのは56%,②NRS で平均の痛みが絶対値1 以上低下したのは67%,③痛みの低下の程度を%で問い50%以上の低下がみられたのは28%だった。1 例が振戦のために中止,5 例が病状の悪化のために中止した。副作用は眠気(8 日目30%,15 日目47%)が最も多く,次いで,ふらつき(8 日目10%,15 日目41%),食欲不振(8 日目25%,15 日目25%)であった。

Hugel18)らによる前後比較研究では,オピオイドにより鎮痛効果が十分でない神経障害性疼痛のがん患者10 例を対象に,クロナゼパム0.5〜2 mg(5 日後平均1 mg)の併用投与の効果をみたところ,5 例から評価が得られ,4 段階痛みの評価方法(0〜3)で,治療前平均3 から治療後1 に低下した。3 例は痛みの悪化,2 例は眠気の悪化のために試験を中止した。

**

以上より,プレガバリンおよびガバペンチンは,がんによる神経障害性疼痛に対して,副作用に注意しながらオピオイドと併用して使用することにより中等度以上の痛みを緩和すると考えられる。ガバペンチン以外の抗けいれん薬は,がんによる神経障害性疼痛に対して,痛みを緩和する根拠は不十分であるが,非がん患者の神経障害性疼痛での知見と臨床経験から有効な可能性がある。


2:NNH(Number Needed to Harm)

何人の患者を治療すると1 例の有害症例が出現するかを示す指標。

3:BPI(Brief Pain Inventory)

簡易痛み質問表とも呼ばれる患者の自記記載形式の調査表。痛みの強さ(現在,最悪の時,最も軽い時:NRS)と部位,投薬の鎮痛効果,痛みが日常生活に影響する程度(NRS,7 項目)から構成されている。

2 )抗うつ薬
(1)三環系抗うつ薬

非がん患者の神経障害性疼痛の系統的レビューでは,アミトリプチリンなどの三環系抗うつ薬は,副作用として眠気,口渇,霧視,便秘,排尿障害が観察されるが,非がん患者の神経障害性疼痛に対して中等度の鎮痛効果があることが確認されている。Saarto ら19)のレビューでは,「中等度の鎮痛効果」を有効と定義した場合のNNTは3.6 であり,治療中止のNNH は28,重篤でない副作用のNNH は6 であったⅡ-4-3 鎮痛補助薬の項参照)

一方,がん患者の神経障害性疼痛の有効性に関する知見は限られており,これまでに無作為化比較試験が1 件あるのみである。

Mercadante ら20)による無作為化クロスオーバー比較試験では,比較的全身状態のよいがんによる神経障害性疼痛でモルヒネ投与中の患者16例を対象に,アミトリプチリン25 mg 3 日間に続き50 mg 4 日間とプラセボとを比較したところ,平均の痛みの強さ(NRS 5.5→4.7 vs 5.4,p 値記載なし)や,痛みの最小値,痛みの緩和は変わらなかった。NRS での痛みの最大値はアミトリプチリンのほうが低下した(8.4→7.0 vs 7.9,p=0.035)。しかし,副作用はアミトリプチリンのほうが多く,眠気(1→1.6 vs 0.8,p=0.036),混乱(0.06→0.6 vs 0.06,p=0.003),口渇(1.1→1.8 vs 1.3,p=0.034)が観察された。以上より,がん患者におけるアミトリプチリンの効果は少なく,慎重に投与するべきであると結論した。


:三環系抗うつ薬

従来から使われてきた抗うつ薬の一種。中枢神経系のセロトニン,ノルアドレナリン再取り込みを阻害し,下行性抑制系を賦活することによって鎮痛効果を発揮する(代表的な薬剤としてアミトリプチリンなど)。

(2)その他の抗うつ薬

三環系抗うつ薬以外の抗うつ薬として,選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor;SSRI),セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(serotonin noradrenalin reuptake inhibitor;SNRI)は,非がん患者の神経障害性疼痛ではある程度の鎮痛効果があることが確認されている。

非がん患者の神経障害性疼痛を主としたSaarto ら19)の系統的レビューでは,「中等度の鎮痛効果」を有効とし定義した場合のNNT は3.1 であり,治療中止のNNH は16,重篤でない副作用のNNH は9.6 であったⅡ-3-3 鎮痛補助薬の項参照)

Lunn ら21)の非がん患者に対するデュロキセチンの系統的レビューでは,デュロキセチン60 mg の投与で糖尿病性神経障害のNNT は6,線維筋痛症のNNT は8 で,副作用は用量依存性であったが重篤なものはなかった。

がんに関連した神経障害性疼痛として,デュロキセチンの化学療法による神経障害性疼痛に対する効果についての1 件の無作為化比較試験と2 件の観察研究がある。

Smith ら22)の無作為化クロスオーバー比較試験では,パクリタキセルや他のタキサン系薬剤またはオキサリプラチンによりCTCAE でGarade 1 以上かつ0〜10 の11 段階スケールで4 以上の末梢性神経障害性疼痛と診断された231 例を対象に,デュロキセチン30 mg を1 週間,続く4 週間は60 mg 投与と,プラセボの効果を比較したところ,Brief Pain Inventory(BPI)-Short term による痛みの平均値は,デュロキセチン投与群でより低下した(1.06 vs 0.34,p=0.003)

Yang ら23)は,大腸がんに対してオキサリプラチンを含む抗がん剤治療中の患者39 例において,CTCAE でGrade 1〜3 の神経障害と痛みを有する患者を対象にデュロキセチン30〜60 mg/日を12 週間投与した際の鎮痛効果〔VAS(0〜10 cm)で評価し,投与前に比較した場合の30%以上のVAS の改善を有効と判断〕,神経障害の程度(CTCAE ver3.0)を評価している。9 例(23%)は継続投与が困難(4 例がめまい,2 例が傾眠,不眠,1 例が排尿障害)であったが,12 週間継続投与が可能であった30 例のうち19 例(64%)で有意な痛みの改善がみられた。

観察研究の1 件は,オキサリプラチン投与に伴う末梢神経障害性疼痛に対する有効性の検討で,オピオイドとの併用ではなかった。

**

以上より,非がん患者およびがん患者の神経障害性疼痛での知見と臨床経験から,がんによる神経障害性疼痛を緩和する可能性があると考えられる。

3 )抗不整脈薬

リドカインなどの抗不整脈薬は,非がんの神経障害性疼痛では軽度の鎮痛効果があることが確認され,副作用として眠気,倦怠感,悪心,末梢のしびれ感,金属味がある。非がん患者の神経障害性疼痛を主としたChallapalli ら24)の系統的レビューでは,治療前後でのVAS*の減少の平均値が-11 mm であり,副作用のオッズ比は4.2(32% vs 12%;めまいがリドカインで30%,メキシレチン16%,悪心がメキシレチンで17%)であったⅡ-4-3 鎮痛補助薬の項参照)

一方,がんによる神経障害性疼痛への有効性に関する臨床試験としては,無作為化比較試験が3 件,前後比較研究が2 件ある。

Ellemann ら25)による無作為化比較試験では,10 例のがんによる神経障害疼痛のある患者を対象に,5 mg/kg のリドカインとプラセボを30 分間で投与することを1 週間継続した効果を比較したところ,有効率(痛みのVAS が15 mm 以上の減少と定義)は,リドカイン群で20%(2 例),プラセボで30%(3 例)であり,リドカインはプラセボより有効であるとはいえなかった。

Bruera ら26)による無作為化比較試験では,オピオイドによる鎮痛効果が不十分ながんによる神経障害性疼痛のある患者10 例を対象に,5 mg/kg のリドカインとプラセボの30 分単回投与を比較したところ,痛みのVAS は2 日後まで有意差はなかった。重篤な副作用も観察されなかった。

Sharma ら27)による無作為化比較試験では,オピオイドによる鎮痛効果が十分でないがん疼痛のある患者50 例(混合性疼痛52%,侵害受容性疼痛30%,神経障害性疼痛18%)を対象に,リドカイン4 mg/kg(2 mg/kg ボーラス後2 mg/kg を1 時間かけて投与)とプラセボを比較したところ,痛みのNRS はリドカイン投与後に有意に減少し(投与前8.5,8.7 から,それぞれ投与後6.3 vs 2.3,p<0.0001),50%以上痛みの改善の自覚がみられたのは,リドカイン群82%に対しプラセボ群16%であった(p=0.0001)。減少したNRS 値の半分が再び増加する時間はリドカイン群で9.3 日に対し,プラセボ群は3.8 日であった。リドカイン群の副作用として口周囲の感覚低下(14%),耳鳴り(8%)がプラセボ群より多く観察された。

この他に,フレカイニド100〜200 mg の効果をみたvon Gunten ら28)による前後比較研究では,NRS で最大の痛みの強さが3 点以上,あるいは50%以上の程度が減少することを有効と定義すると,30%の患者で有効であった。副作用は軽度の白血球減少症が観察された。

**

以上より,抗不整脈薬については,がんによる神経障害性疼痛に対して有効であるとするものと効果がないとするものとがあり,有効性は明らかではない。非がん患者の神経障害性疼痛での知見から,抗不整脈薬はがんによる神経障害性疼痛を緩和する可能性がある。


:VAS(visual analogue scale)

100 mm の線の左端を「痛みなし」,右端を「最悪の痛み」とした場合,患者の痛みの程度を表すところに印を付けてもらうもの。参照

4 )NMDA 受容体拮抗薬

NMDA 受容体拮抗薬には,ケタミン,アマンタジン,デキストロメトルファン,イフェンプロジルなどがある。このうち,ケタミンには,がんによる神経障害性疼痛について有効なある程度の根拠が示されていたが臨床疑問18 参照),否定的な無作為化比較試験も発表された。

Hardy ら29)は,ケタミンをコントロールされていないがん疼痛のある患者185 例にオピオイドや標準的補助療法と併用した場合の鎮痛効果をプラセボと比較した。結果として,臨床的に有意と考えられる鎮痛効果(平均的BPI が2 以上の低下でレスキュー薬の使用回数が4 回未満)を示したのはプラセボ群27%に対してケタミン群31%で差がなく(p=0.55)(平均のBPI はプラセボ群3.49,ケタミン群3.11,p=0.15),副作用の発生比率(プラセボ群に比較してケタミン群は1.95,p<0.001)と重症度が高く(オッズ比:1.09,p=0.039),NNT は25,NNH は6 であり,これは痛みを侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛に分類して検討を行っても同じであった。

**

以上よりNMDA 受容体拮抗薬は,専門家に相談し,患者に効果と副作用を十分に説明したうえで,使用を検討する。

5 )コルチコステロイド

コルチコステロイドが神経障害性疼痛について有効であることを示す質の高い臨床試験はない。脊髄圧迫症候群など,神経への圧迫や炎症による痛みの場合に有効であることが経験的に示唆されている臨床疑問19 参照)

**

以上より,がんによる神経障害性疼痛に対して,プレガバリンとガバペンチンはがん患者を対象とした臨床試験により中等度の鎮痛効果があることが示唆されている。ガバペンチン以外の抗けいれん薬,抗うつ薬,抗不整脈薬,ケタミン以外のNMDA 受容体拮抗薬,コルチコステロイドに関しては,十分な知見がないが,非がん患者での知見や臨床経験から,がんによる神経障害性疼痛を緩和する可能性があると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,専門家の合意により,がんによる神経障害性疼痛に対して,抗けいれん薬,抗うつ薬,抗不整脈薬,NMDA 受容体拮抗薬,コルチコステロイドのうちいずれかを使用することを推奨する。

どの薬物が他の薬物に比較して鎮痛効果が優れるという十分な根拠はないため,薬物の選択は,薬物の副作用,および,痛みを生じている病態から選択する。すなわち,副作用を含む薬物の効果が,患者にとって好ましいものを優先して選択する。例えば,不眠がある場合には鎮静作用のあるものを優先する,便秘がある場合には抗コリン作用の少ないものを優先するⅡ-4-3 鎮痛補助薬の項参照)

病態としては,コルチコステロイドは,脊髄圧迫症候群など神経への圧迫や炎症による痛みの場合に検討する臨床疑問19 参照)

いずれの薬物も少量で開始して,眠気などの副作用が出ない範囲で,3〜5 日毎に増量する。増量の条件として,①痛みがある程度緩和しており,増量により鎮痛効果が得られると考えられる,②許容できる範囲の副作用である,③使用量が一般的な用量の上限に達していないことを目安とする。


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►臨床疑問45

がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して,ある鎮痛補助薬を増量しても効果がない場合,他の鎮痛補助薬への変更や併用は,行わないことに比較して痛みを緩和するか?

推奨


骨がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して,ある鎮痛補助薬を増量しても効果がない場合,他の鎮痛補助薬への変更や併用が痛みを緩和するかについて十分な根拠がない。


がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して,ある鎮痛補助薬を増量しても効果がない場合,専門家に相談したうえで,他の鎮痛補助薬への変更や併用を行う。

2C
(弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)


鎮痛補助薬

主たる薬理作用には鎮痛作用を有しないが,鎮痛薬と併用することにより鎮痛効果を高め,特定の状況下で鎮痛効果を示す薬物(抗うつ薬,抗けいれん薬,NMDA 受容体拮抗薬など)。非オピオイド鎮痛薬やオピオイドだけでは痛みを軽減できない場合に選択される。参照

解説

本臨床疑問に関する臨床研究として,観察研究が2 件ある。

Matsuoka ら30)による前後比較研究では,国際疼痛学会の神経障害性疼痛診断基準に合致する痛みを有する15 例(男性9 例)のがん患者(大腸がん6 例,乳がん5 例,肺がん3 例,不明1 例)で,プレガバリンが無効または効果があるが副作用のために十分な増量が困難であった患者を対象に,デュロキセチン20〜40 mg/日を併用投与した際の鎮痛効果と副作用を評価した。その結果,7 例で臨床的に有用と考えられるNRS の33%以上の改善がみられた。また,4 例で有意な副作用の改善を認めた。

Arai ら31)によるパイロットスタディでは,オピオイドによる鎮痛効果が十分でないがんによる神経障害性疼痛のあるがん患者52 例を対象とし,ガバペンチン400mg/日とイミプラミン20 mg/日の併用は,ガバペンチン400 mg/日または800 mg/日およびイミプラミン20 mg/日の単独投与に比較してNRS が他の群より2 以上有意差をもって低下し,また副作用には差がなかった。

非がんも含めた神経障害性疼痛に対して作用機序の異なる2 種類以上の薬剤を併用することに関して,1 件の系統的レビューがある。Chaparro32)らの系統的レビューでは,2 つの薬剤の併用により痛みが軽減するが,どのような組み合わせが効果的で副作用の点で優れているかについてはさらなる検討が必要であるとしている。例えば,Gilron ら33)による無作為化比較試験では,非がんの神経障害性疼痛のある患者56 例を対象に,ノルトリプチリン単独,ガバペンチン単独,両薬剤の併用投与の効果を比較したところ,併用群で有意に鎮痛効果が得られた。また,いずれの群でも重篤な副作用はみられなかった。

**

以上より,がんによる神経障害性疼痛のある患者に対して,鎮痛補助薬を増量しても十分に効果がない場合に,専門家に相談したうえで作用機序の異なる他の鎮痛補助薬を併用することを推奨する。併用に際しては副作用に十分留意し,必要であれば先行する鎮痛補助薬の減量を行ったうえでの併用を考慮する。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2012)では,オピオイドに部分的にしか反応しない神経障害性疼痛に対してアミトリプチリンかガバペンチンを併用することを推奨している。ただし,オピオイドとこれらの鎮痛補助薬の併用はより強い中枢神経系の副作用を呈することがあるので,注意深いタイトレーションを鎮痛補助薬だけでなくオピオイドに対しても行うべきである,と記載している。

EAPC のガイドライン(2001a)では,脊髄圧迫症候群に対しては,コルチコステロイド,放射線治療,化学療法を検討することを推奨している。

NCCN のガイドライン(2012)では,抗うつ薬および/または抗けいれん薬を第一選択とし,副作用が許容でき効果が得られるまで,常用投与量の範囲内(三環系抗うつ薬50〜150 mg/日,デュロキセチン60〜120 mg/日,抗けいれん薬プレガバリンで300〜600 mg/日,ガバペンチン900〜3,600 mg/日)で増量することを推奨している。脊髄圧迫症候群が疑われる場合には,迅速に専門家へ紹介することと,コルチコステロイドを投与することを推奨している。

ESMO のガイドライン(2012)では,副作用に留意しつつオピオイドと低用量の抗うつ薬,または抗けいれん薬の併用を推奨している。神経への圧迫による痛みの場合はコルチコステロイドの使用を推奨している。

ACCP のガイドライン(2007)では,鎮痛補助薬(三環系抗うつ薬,抗けいれん薬)を使用し,無効な場合は専門家へ相談することを推奨している。新しく生じた腰背部痛に対しては,MRI で脊髄圧迫症候群の有無を精査し,放射線治療科,脊髄外科などの専門家へ迅速に相談することを推奨している。

日本ペインクリニック学会の非がん疾患による「神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン」(2011)においては,三環系抗うつ薬(特に第二級アミンTCA:ノルトリプチリン,あるいはアミトリプチリン,イミプラミン),ガバペンチンまたはプレガバリンといったCa2+チャネルα2δリガンドを使用することを推奨している。これらを単独もしくは併用しても十分な効果が得られない場合に第二選択薬であるSNRI(デュロキセチン),ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤,メキシレチン,および第三選択薬である麻薬性鎮痛薬を検討するか,痛み治療の専門家に紹介することを推奨している。

(瀧川千鶴子,冨安志郎,北條美能留)

【文 献】

臨床疑問43

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臨床疑問44

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臨床疑問45

30) Matsuoka H, Makimura C, Koyama A, et al. Pilot study of duloxetine for cancer patients with neuropathic pain non-responsive to pregabalin. Anticancer Res 2012;32:1805-9

31) Arai YC, Matsubara T, Shimo K, et al. Low-dose gabapentin as useful adjuvant to opioids for neuropathic cancer pain when combined with low-dose imipramine. J Anesth 2010;24:407-10

32) Chaparro LE, Wiffen PJ, Moore RA, et al. Combination pharmacotherapy for the treatment of neuropathic pain in adults. Cochrane Database Syst Rev 2012;7:CD008943

33) Gilron I, Bailey JM, Tu D, et al. Nortriptyline and gabapentin, alone and in combination for neuropathic pain:a double―blind, randomised controlled crossover trial. Lancet 2009;374(9697):1252―61


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骨転移による痛み

 骨転移による痛みに対する有効な治療は何か?

関連する臨床疑問
  1. ►46骨転移による痛みのあるがん患者に対して,行うべき評価は何か?
  2. ►47骨転移による痛みのあるがん患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,プラセボに比較して痛みを緩和するか?
  3. ►48骨転移による痛みのあるがん患者に対して,ビスホスホネート,デノスマブなどのbone-modifying agents(BMA)は,プラセボに比較して痛みを緩和するか?

推奨


  1. ►46痛みの原因の評価と痛みの評価を行う。
  2. ►47骨転移による痛みのあるがん患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行うⅢ-1 共通する疼痛治療の項参照)
    1B
    (強い推奨,低いエビデンスレベル)
  3. ►48骨転移による痛みのあるがん患者に対して,予測される生命予後を検討したうえで鎮痛効果を目的としてBMA を投与する。
    2B
    (弱い推奨,低いエビデンスレベル)

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►臨床疑問46

骨転移による痛みのあるがん患者に対して,行うべき評価は何か?

推奨


痛みの原因の評価と痛みの評価を行うⅡ-2 痛みの包括的評価の項参照)

解説
1 )痛みの原因を身体所見や画像検査から評価する

痛みの原因として,がんによる痛み以外の可能性も含めて評価する。骨転移であれば,病変の部位,進展範囲(周囲の神経,血管,筋肉との関係),単発性か多発性かなどの評価が必要である。画像検査は単純X 線写真が基本となるが,脊椎であればMRI,骨盤骨であればCT を追加することでより詳細な評価が期待できる。さらに,骨シンチグラフィを加えることにより正確な診断が可能となり,全身の多発転移の有無も確認できる。骨転移による骨折は患者の身体機能とQOL を著しく障害することになるため,骨折あるいは切迫骨折の有無を評価する。特に,荷重のかかる大腿骨,臼蓋,脛骨,椎体,上腕骨などへの転移の場合には,外科治療も検討する。骨転移を正確に評価することは,非薬物療法である放射線治療,放射性同位元素(Sr),経皮的椎体形成術,神経ブロック1などの適応を検討する際に必要であるⅡ-8 薬物療法以外の痛み治療法の項参照)

2 )痛みの評価を行う

痛みの日常生活への影響,痛みのパターン(持続痛か突出痛2か),痛みの強さ,痛みの部位,痛みの経過,痛みの性状(神経障害性疼痛の混在など),痛みの増悪因子と軽快因子,現在行っている治療の反応,および,レスキュー薬の効果と副作用について評価する。

特に痛みが持続痛なのか突出痛なのか評価し,神経障害性疼痛の要素があるかを評価する。さらに増悪因子・軽快因子を評価する。これにより生活の仕方,コルセットや杖などの補助具を使うなど,患者の苦痛を増悪させる要因を避け,軽快させる要因を生活に取り入れることができる。


1:神経ブロック

局所麻酔薬や神経破壊薬,熱などにより神経の伝達機能を一時的・永久的に遮断することによって,または,オピオイドなど鎮痛薬の硬膜外腔・クモ膜下腔への投与によって鎮痛効果を得る手段。
(注釈)狭義の神経ブロックは一般的に前者をさし,後者とあわせたものを麻酔科的鎮痛(anesthesiological procedure)と呼ぶことがあるが,本ガイドラインでは,簡便に,両方をあわせて「神経ブロック」と呼ぶ。

2:突出痛(breakthrough pain)

持続痛の有無や程度,鎮痛薬治療の有無にかかわらず発生する一過性の痛みの増強。参照


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►臨床疑問47

骨転移による痛みのあるがん患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,プラセボに比較して痛みを緩和するか?

推奨


骨転移による痛みのあるがん患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,プラセボに比較して痛みを緩和する。


骨転移による痛みのあるがん患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行う。

1B
(強い推奨,低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する無作為化比較試験,前後比較研究はともにないが,骨転移による痛みを含むがん疼痛に対するWHO 方式がん疼痛治療法の有用性を示した複数の観察研究があるⅡ-3 WHO 方式がん疼痛治療法の項参照)

**

以上より,骨転移による痛みに対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は有効であると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,骨転移による痛みに対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行うことを推奨する。


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►臨床疑問48

骨転移による痛みのあるがん患者に対して,ビスホスホネート,デノスマブなどのbone-modifying agents(BMA)はプラセボに比較して痛みを緩和するか?

推奨


骨転移による痛みのあるがん患者に対して,BMA は投与後4〜12 週では鎮痛効果がある。投与後4 週以内では鎮痛効果があるという根拠はない。


骨転移による痛みのあるがん患者に対して,予測される生命予後を検討したうえで鎮痛効果を目的としてBMA を投与する。

2B
(弱い推奨,低いエビデンスレベル)

解説
1 )ビスホスホネート

本臨床疑問に関するビスホスホネートについての臨床研究としては,無作為化比較試験30 件を含む系統的レビューがある(Petcu ら1))。

(1)投与後4〜12 週の効果

ビスホスホネート投与後4 週から12 週での有効率については8 件で検討されている。有効の定義は,それぞれの研究で,①6 点のスコア方式において,2 回以上連続して1 点以上減少あるいは1 回の測定で2 点以上減少,② 0〜5 段階のスコア方式において,2 回以上連続してスコアが20%以上減少,③無痛になった場合などと異なっている。これらを原著の定義のまま「有効」とした場合,4 週において有効であった患者数は,ビスホスホネート治療群214 例中40 例(18%),対照群194 例中18 例(9%)で,NNT 11(95%信頼区間:6〜36)であった。一方,12 週においては,ビスホスホネート治療群317 例中103 例(32%),対照群317 例中55 例(17%)で,NNT は7(95%信頼区間:5〜12)であった。副作用は,治療群の16%,対照群の15%に悪心・嘔吐を認めたが有意差はなかった。副作用による治療中止は,治療群の6%,対照群の0.6%に生じ,治療中止を要するような有害事象に関するNNH は16(95%信頼区間:12〜27)であった。

(2)投与後4 週以内の効果

投与後4 週以内の鎮痛効果に関する臨床研究としては,無作為化比較試験,前後比較研究はなく,パミドロン酸投与後6 日目に鎮痛効果を得たという症例報告がある程度である(Eugen ら)。

2 )デノスマブ

本臨床疑問に関するデノスマブについての臨床研究としては,プラセボを対照とした無作為化比較試験はないが,ビスホスホネートであるゾレドロン酸を対照とした3 件の無作為化比較試験を含む系統的レビューがある。

Peddi ら2)による系統的レビューでは,乳がんと前立腺がんおよびその他のがん種を対象とした3 件の無作為化比較試験結果について検討している(Stopeck ら3),Fizazi ら4),Henry ら5))。

3 件の臨床研究では,疼痛評価を0(支障なし)から10(最大の支障)段階で評価するBrief Pain Inventory(BPI)を用いて,4 段階以上の悪化を疼痛増悪,2 段階以上の減少を疼痛軽減と定義している。その結果,デノスマブを投与した患者での疼痛増悪までの期間(5.5〜9.7 カ月)は,ゾレドロン酸を投与した患者での疼痛増悪までの期間(4.7〜5.7 カ月)と比較して疼痛増悪までの期間を延長し,ハザード比は0.8(95%信頼区間:0.8〜0.9)であった。一方,疼痛軽減までの中央値については,両群間で有意差を認めなかった。

**

以上より,骨転移による痛みのあるがん患者において,ビスホスホネート,デノスマブなどのbone-modifying agents(BMA)は投与後4〜12 週では中等度の鎮痛効果があるが,投与後4 週以内に鎮痛効果があるという根拠はない。また,これらは現在痛みのある患者に対しての鎮痛効果の目的で用いられたものではない。

したがって,本ガイドラインでは,骨転移による痛みに対して,予測される生命予後を検討したうえで鎮痛を目的としてBMA を投与することを推奨する。すなわち,投与後4〜12 週の鎮痛効果を期待する場合には投与を行う。一方,投与後4 週以内の鎮痛効果に関するエビデンスは確立されていないため,「現在の痛み」を緩和するためにはBMA 以外の疼痛治療を十分に行うことが必要である。

既存のガイドラインとの整合性

NCCN のガイドライン(2012)では,NSAIDs は脊髄圧迫のない骨転移による痛みに対して推奨されており,BMA,コルチコステロイドは多発性骨転移による痛みに対して推奨されている。

ESMO のガイドライン(2012)では,ビスホスホネートは通常の鎮痛治療に代替するものではないが,骨転移による痛みに対して有効な根拠があるとしている。

(渡邊紘章,大坂 巌)

【文 献】

1) Wong R, Wiffen PJ. Bisphosphonates for the relief of pain secondary to bone metastases. Cochrane Database Syst Rev 2002(2):CD002068

2) Peddi P, Lopez-Olivo MA, Pratt GF, et al. Denosumab in patients with cancer and skeletal metastases:a systematic review and meta-analysis. Cancer Treat Rev 2013;39:97-104

3) Stopeck AT, Lipton A, Body JJ, et al. Denosumab compared with zoledronic acid for the treatment of bone metastases in patients with advanced breast cancer:a randomized, double-blind study. J Clin Oncol 2010;28(35):5132-9

4) Fizazi K, Carducci M, Smith M, et al. Denosumab versus zoledronic acid for treatment of bone metastases in men with castration-resistant prostate cancer:a randomised, double-blind study. Lancet 2011;377(9768):813-22

5) Henry DH, Costa L, Goldwasser F, et al. Randomized, double-blind study of denosumab versus zoledronic acid in the treatment of bone metastases in patients with advanced cancer(excluding breast and prostate cancer)or multiple myeloma. J Clin Oncol 2011;29:1125-32

【参考文献】

6) Petcu EB, Schug SA, Smith H. Clinical evaluation of onset of analgesia using intravenous pamidronate in metastatic bone pain. J Pain Symptom Manage 2002;24:281-4

7) Yuen KK, Shelley M, Sze WM, et al. Bisphosphonates for advanced prostate cancer. Cochrane Database Syst Rev 2006(4):CD006250

8) Wong MH, Stockler MR, Pavlakis N. Bisphosphonates and other bone agents for breast cancer. Cochrane Database Syst Rev 2012;CD003474

9) Mhaskar R, Redzepovic J, Wheatley K, et al. Bisphosphonates in multiple myeloma:a network meta-analysis. Cochrane Database Syst Rev 2012;CD003188


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膵臓がんなどによる上腹部の痛み

 膵臓がんなどによる上腹部の痛みに対する有効な治療は何か?

関連する臨床疑問
  1. ►49膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して,行うべき評価は何か?
  2. ►50膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,プラセボに比較して痛みを緩和するか?
  3. ►51膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して,神経ブロックは,薬物療法に比較して痛みを緩和するか?

推奨


  1. ►49痛みの原因の評価と痛みの評価を行う。
  2. ►50膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行うⅢ-1 共通する疼痛治療の項参照)
    1B
    (強い推奨,低いエビデンスレベル)
  3. ►51膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して,腹腔神経叢ブロックなどの神経ブロックを行う。
    2A
    (弱い推奨,高いエビデンスレベル)

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►臨床疑問49

膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して,行うべき評価は何か?

推奨


痛みの原因の評価と痛みの評価を行うⅡ-2 痛みの包括的評価の項参照)

解説
1 )痛みの原因を身体所見や画像検査から評価する

痛みの原因として,がんによる痛み以外の可能性も含めて評価する。身体所見,画像検査(単純X 線,CT,MRI など)から,原因となる病態の評価を行う。がん以外の原因として,胃十二指腸潰瘍,胆囊炎,膵炎などが考えられる場合には,原因の治療を検討する。がんによる痛みの場合,がんに対する治療(化学療法,放射線治療など)の適応を検討する。

腹腔神経叢ブロックの施行を検討する場合には,腹腔神経叢周囲の腫瘍浸潤の程度が問題となる。鎮痛効果を確実に得るためには,腹腔神経叢周囲に適度なスペースがある時期に神経ブロックを行うことが望ましいため,CT 検査などにより,後腹膜腔が腫瘍の腫大により充満されていないかを確認する。

2 )痛みの評価を行う

痛みの日常生活への影響,痛みのパターン(持続痛か突出痛か),痛みの強さ,痛みの部位,痛みの経過,痛みの性状,痛みの増悪因子と軽快因子,現在行っている治療の反応,および,レスキュー薬の効果と副作用について評価する。

さらに,鎮痛薬以外の鎮痛手段(神経ブロックなど)を患者が希望するかどうかを確認する。


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►臨床疑問50

膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,プラセボに比較して痛みを緩和するか?

推奨


膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,痛みを緩和する。


膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行う。

1B
(強い推奨,低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関連した臨床研究として,膵臓がんなどによる上腹部の痛みに限定して非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療の効果を評価した無作為化比較試験,前後比較研究はない。膵臓がんなどによる上腹部の痛みを含むがん疼痛に対して,WHO 方式がん疼痛治療法が有用であることが複数の観察研究で示唆されているⅡ-3 WHO 方式がん疼痛治療法の項参照)

**

以上より,膵臓がんなどによる上腹部の痛みのあるがん患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,痛みを緩和すると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,膵臓がんなどによる上腹部の痛みのあるがん患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行うことを推奨する。


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►臨床疑問51

膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して,神経ブロックは,薬物療法に比較して痛みを緩和するか?

推奨


膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して,腹腔神経叢ブロックなどの神経ブロックは,痛みを緩和する。


膵臓がんなどによる上腹部の痛みのある患者に対して,腹腔神経叢ブロックなどの神経ブロックを行う。

2A
(弱い推奨,高いエビデンスレベル)

解説

[腹腔神経叢ブロック]Ⅱ-8-2-2-①腹腔神経叢,内臓神経ブロックの項参照)

本臨床疑問に関する臨床研究としては,膵臓がんによる痛みに対して腹腔神経叢ブロックと薬物療法の鎮痛効果を比較した無作為化比較試験5 件を含む系統的レビュー2 件(Yan ら1),Arcidiacono ら2))と,系統的レビューの作成後に報告された無作為化比較試験2 件がある(Zhang ら3),Wyse ら4))。

Yan ら1)の系統的レビューでは,対象患者は302 例でブロック前の痛みのVAS は5.0 であった。腹腔神経叢ブロックを受けた患者群では,薬物療法を受けた患者群に比較して,痛みのVAS の差は,2 週間後で-0.3,4 週間後で-0.5,8 週間後で-0.6(各群の数値の記載なし)であった。オピオイドの使用量は治療前に30 mg であったが,薬物療法単独の場合と比較して,2 週目で-40 mg,4 週目で-54 mg,8 週目で-80 mg と,使用量が少なかった。便秘の発現率が低かったが(オッズ比:0.7),その他の副作用(低血圧,悪心・嘔吐,下痢,眠気)に有意差は認められず,生存率にも有意差は認められなかった。QOL に関しては,それぞれの研究で異なる評価方法を用いていたために,共通して評価できなかった。著者らは腹腔神経叢ブロックには中等度の鎮痛効果があると結論した。

また,Wyse ら4)は,手術不能の膵臓がんに対して,内視鏡下にエコーガイド腹腔神経叢ブロックを早期に行うことで,痛みの進行を抑えることができると報告している。

**

以上より,腹腔神経叢ブロックは,膵臓がんなどによる上腹部の痛みを中等度緩和するとともに,オピオイド使用量を低下させることにより便秘を軽減する可能性があると考えられる。この他に膵臓がんなどによる上腹部痛に対して有効と考えられる神経ブロックとして,硬膜外腔またはクモ膜下腔へのオピオイドや局所麻酔薬の持続投与がある。

したがって,本ガイドラインでは,膵臓がんなどによる上腹部の痛みに対して,腹腔神経叢ブロックなどの神経ブロックの適応についてなるべく早い時期に専門家に相談することを推奨する。

「なるべく早い時期に」とした理由は,以下のとおりである。①腹腔神経叢ブロックが有効に行われるためには,腹腔神経叢周囲にアルコールを注入するための適度なスペースがある時期に行うことが望ましい,②ブロック後に一過性に腸蠕動が亢進するため,蠕動痛が問題となる腸閉塞の症状が合併する前に施行することが望ましい,③膵臓がんの痛みの発現機序は,膵管や間質の内圧上昇,血管内圧の上昇と虚血,侵害受容器を刺激するさまざまな化学物質による末梢感覚神経の感作と考えられている。したがって,痛みを長期間体験することで,末梢,脊髄,中枢へと感作され,痛み閾値が低下する可能性が示唆されているため,早期に行うほうが鎮痛効果を期待できる,④腹水の著しい貯留や刺入部位に椎体転移があるとブロック処置を行うこと自体が困難になる。


:腹腔神経叢ブロック

神経ブロックの一つ。胃,小腸,肝臓,胆囊,胆道,すい臓,脾臓,腎臓などの上腹部内臓痛に適応。横隔膜脚を越えて腹腔神経叢まで針を進め局所麻酔薬や神経破壊薬を注入する。参照

既存のガイドラインとの整合性

NCCN によるガイドライン(2012)では,腹腔神経叢ブロックを推奨している。

(山口敬介,井関雅子)

【文 献】

1) Yan BM, Myers RP. Neurolytic celiac plexus block for pain control in unresectable pancreatic cancer. Am J Gastroenterol 2007;102:430-8

2) Arcidiacono PG, Calori G, Carrara S, et al. Celiac plexus block for pancreatic cancer pain in adults. Cochrane Database Syst Rev 2011(3):CD007519

3) Zhang CL, Zhang TJ, Guo YN, et al. Effect of neurolytic celiac plexus block guided by computerized tomography on pancreatic cancer pain. Dig Dis Sci 2008;53:856-60

4) Wyse JM, Carone M, Paquin SC, et al. Randomized, double-blind, controlled trial of early endoscopic ultrasound-guided celiac plexus neurolysis to prevent pain progression in patients with newly diagnosed, painful, inoperable pancreatic cancer. J Clin Oncol 2011;29:3541-6

注:以下の文献はYan らの系統的レビューの対象となっているため個々に検討を行わなかった.

  • Mercadante S. Celiac plexus block versus analgesics in pancreatic cancer pain. Pain 1993;52:187-92
  • Lillemoe KD, Cameron JL, Kaufman HS, et al. Chemical splanchnicectomy in patients with unresectable pancreatic cancer. A prospective randomized trial. Ann Surg 1993;217:447-55
  • Kawamata M, Ishitani K, Ishikawa K, et al. Comparison between celiac plexus block and morphine treatment on quality of life in patients with pancreatic cancer pain. Pain 1996;64:597-602
  • Polati E, Finco G, Gottin L, et al. Prospective randomized double-blind trial of neurolytic coeliac plexus block in patients with pancreatic cancer. Br J Surg 1998;85:199-201
  • Wong GY, Schroeder DR, Carns PE, et al. Effect of neurolytic celiac plexus block on pain relief, quality of life, and survival in patients with unresectable pancreatic cancer:a randomized controlled trial. JAMA 2004;291:1092-9

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胸部の痛み

 胸部の痛みに対する有効な治療は何か?

関連する臨床疑問
  1. ►52胸部の痛みのあるがん患者に対して,行うべき評価は何か?
  2. ►53胸部の痛みのあるがん患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,プラセボに比較して痛みを緩和するか?
  3. ►54胸部の痛みのあるがん患者に対して,神経ブロックは,薬物療法に比較して痛みを緩和するか?

推奨


  1. ►52痛みの原因の評価と痛みの評価を行う。
  2. ►53胸部の痛みのあるがん患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行うⅢ-1 共通する疼痛治療の項参照)
    1B
    (強い推奨,低いエビデンスレベル)
  3. ►54胸部の痛みのあるがん患者に対して,神経ブロックを行う。
    2C
    (弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)

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►臨床疑問52

胸部の痛みのあるがん患者に対して,行うべき評価は何か?

推奨


痛みの原因の評価と痛みの評価を行うⅡ-2 痛みの包括的評価の項参照)

解説
1 )痛みの原因を身体所見や画像検査から評価する

痛みの原因として,がんによる痛み以外の可能性も含めて検討する。身体所見,画像検査(単純X 線,CT,MRI,骨シンチグラフィ,超音波など)から,原因となる病態の評価を行う。特に脊髄圧迫症候群を来す病変があるかどうかに注意する。

2 )痛みの評価を行う

痛みの日常生活への影響,痛みのパターン(持続痛か突出痛か),痛みの強さ,痛みの部位,痛みの経過,痛みの性状,痛みの増悪因子と軽快因子,現在行っている治療の反応,および,レスキュー薬の効果と副作用について評価する。特に体性痛(骨転移,皮膚転移など)か,内臓痛(胸膜浸潤,胸水など)か神経性障害性疼痛かを評価する。

がん疼痛以外の原因(心疾患,肺塞栓,帯状疱疹,胸膜炎,気胸,胃十二指腸潰瘍など)が考えられる場合には原因の治療を検討する。


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►臨床疑問53

胸部の痛みのあるがん患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,プラセボに比較して痛みを緩和するか?

推奨


胸部の痛みのあるがん患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,プラセボに比較して痛みを緩和する。


胸部の痛みのあるがん患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行う。

1B
(強い推奨,低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する無作為化比較試験,前後比較研究はない。

胸部の痛みを含むがん疼痛に対するWHO 方式がん疼痛治療法の有用性を示した複数の観察研究があるⅡ-3 WHO 方式がん疼痛治療法の項参照)

**

以上より,胸部の痛みに対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,プラセボに比較して痛みを緩和すると考えられる。したがって,本ガイドラインでは,胸部の痛みに対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行うことを推奨する。


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►臨床疑問54

胸部の痛みのあるがん患者に対して,神経ブロックは,薬物療法に比較して痛みを緩和するか?

推奨


胸部の痛みのあるがん患者に対して,神経ブロックは,薬物療法に比較して痛みを緩和する場合がある。


胸部の痛みのあるがん患者に対して,神経ブロックを行う。

2C
(弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する無作為化比較試験,前後比較研究はない。本邦の7 つの緩和ケア病棟と5 つの緩和ケアチームを対象とした多施設研究では,紹介された3,553 例の患者のうち136 例(3.8%)が神経ブロックを受けており,痛み,performance status の改善がみられ,生命予後が28 日以上の患者で,より効果が認められた。そのうち12%が胸部の痛みに関するものであった(Tei ら)。

**

以上より,十分な知見はないが,胸部の痛みのあるがん患者に対して,神経ブロックは薬物療法に比較して痛みを緩和する場合があると考えられる。本ガイドラインでは,専門家の合意により,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療の効果が不十分な場合,痛みが胸部に限局している場合には,神経ブロックなどによる疼痛緩和が可能か専門家に相談することを推奨する。

推奨される神経ブロックには,硬膜外ブロック,肋間神経ブロック,神経根ブロック1,クモ膜下フェノールブロック2 があるが,どのブロックが適しているかは専門家に相談する。一般的には,肋間神経ブロック,高周波熱凝固は1 神経根毎に針の刺入が必要であるため限局された範囲の痛みに,クモ膜下フェノールブロックは,2-3 神経分節の痛みに用いられる。硬膜外ブロックは複数分節にまたがる痛みに用いられる。

これらの対応で鎮痛効果が不良の場合や,鎮痛効果は得られていても眠気などの許容できない副作用が生じている場合は,硬膜外・クモ膜下腔内への持続オピオイド投与,局所麻酔薬の併用を検討する。

いずれの手技においても,ブロック針の刺入部位に感染巣がある場合,出血傾向および凝固異常,ショック状態,患者の同意が得られない場合,全身状態が著しく悪化している場合は禁忌となる。したがって,神経ブロックの効果を十分に活かすためには,適切な施行時期に行うことが重要であり,胸部の限局した痛みを訴える患者は,早期に専門家に相談することが望ましい。


1:神経根ブロック

神経ブロックの一つ。神経根に局所麻酔薬やステロイドを注入し,その神経根が支配している領域の痛みを緩和する治療法。現在では高周波熱凝固装置を用いた熱凝固法が一般的。

2:クモ膜下フェノールブロック

神経ブロックの一つ。クモ膜下腔に神経破壊薬のフェノールを注入する治療法。肛門や会陰部の除痛に有効。通常の局所麻酔薬を使用する神経ブロックより効果の持続期間が長い。

既存のガイドラインとの整合性

NCCN のガイドライン(2012)では,胸壁に限局した痛みに対して硬膜外ブロックや肋間神経ブロックを,体幹に分布しているような痛みに対して硬膜外またはクモ膜下腔へのオピオイドの持続投与を推奨している。

(八戸すず,井関雅子)

【参考文献】

Tei Y, Morita T, Nakaho T, et al. Treatment efficacy of neural blockade in specialized palliative care services in Japan:a multicenter audit survey. J Pain Symptom Manage 2008;36:461-7


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直腸がんなどによる会陰部の痛み

 直腸がんなどによる会陰部の痛みに対する有効な治療は何か?

関連する臨床疑問
  1. ►55直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して,行うべき評価は何か?
  2. ►56直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,プラセボに比較して痛みを緩和するか?
  3. ►57直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して,神経ブロックは,薬物療法に比較して痛みを緩和するか?

推奨


  1. ►55痛みの原因の評価と痛みの評価を行う。
  2. ►56直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行うⅢ-1 共通する疼痛治療の項参照)
    1B
    (強い推奨,低いエビデンスレベル)
  3. ►57直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して,サドルブロック,上下腹神経叢ブロックなどの神経ブロックを行う。
    2C
    (弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)

:会陰部の痛み

骨盤内臓器の内臓知覚は,腹膜内臓器では交感神経線維に伴走して求心性に胸腰脊髄神経節に入る。腹膜外臓器では副交感神経線維に混じり,第2 から第4 仙骨神経の脊髄神経節に入る。会陰部の知覚は,陰部神経(S2-4)など体性神経の支配を受ける。

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►臨床疑問55

直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して,行うべき評価は何か?

推奨


痛みの原因の評価と痛みの評価を行うⅡ-2 痛みの包括的評価の項参照)

解説
1 )痛みの原因を身体所見や画像検査から評価する

痛みの原因として,がんによる痛み以外の可能性も含め評価する。局所の感染,出血,骨盤内の骨転移,腫瘍の局所再発の有無を検索する。原因に応じて,抗菌薬,放射線治療,化学療法などが疼痛緩和に有効なことがある。

神経ブロックを行う場合には,排尿・排便機能が維持されているかどうかによって選択する方法が異なるため,現在と将来予測される排尿・排便機能を把握しておくことが望ましい。

2 )痛みの評価を行う

痛みの日常生活への影響,痛みのパターン(持続痛か突出痛か),痛みの強さ,痛みの部位,痛みの経過,痛みの性状,痛みの増悪因子と軽快因子,現在行っている治療の反応,および,レスキュー薬の効果と副作用について評価する。また鎮痛薬以外の鎮痛手段(神経ブロックなど)を患者が希望するかどうかを確認する

さらに,増悪因子・軽快因子を評価する。坐位をとると増悪する場合は,環境調整で改善する場合がある。排便時に増悪する場合は,下剤による排便調整で改善する場合がある。直腸腫瘍に対するマイルズ術後の旧肛門部における灼熱痛(burning pain),アロディニアや異常感覚を伴うなど,体性痛,神経障害性疼痛の要素が大きいと判断される場合は,サドルブロックが有効な場合がある。入浴して温まると痛みが減弱するなど,交感神経の関与の要素が大きいと判断される場合は,上下腹神経叢ブロック,不対神経節ブロックのような交感神経ブロックの効果がある場合がある。


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►臨床疑問56

直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,プラセボに比較して痛みを緩和するか?

推奨


直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,痛みを緩和する。


直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行う。

1B
(強い推奨,低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関連した臨床研究として,直腸がんなどによる会陰部の痛みに限定して非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療の効果を比較した無作為化比較試験,前後比較研究はない。直腸がんなどによる会陰部の痛みを含むがん疼痛に対するWHO 方式がん疼痛治療法の有用性を示した複数の観察研究があるⅡ-3 WHO 方式がん疼痛治療法の項参照)

**

以上より,直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,痛みを緩和すると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行うことを推奨する。


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►臨床疑問57

直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して,神経ブロックは,薬物療法に比較して痛みを緩和するか?

推奨


直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して,サドルブロック,上下腹神経叢ブロックなどの神経ブロックは,痛みを緩和する。


直腸がんなどによる会陰部の痛みのある患者に対して,サドルブロック,上下腹神経叢ブロックなどの神経ブロックを行う。

2C
(弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)

解説
1 )サドルブロック

サドルブロックは,坐位にてクモ膜下腔に高比重のフェノールグリセリンを注入することで,第4,5 仙髄神経や尾骨神経を遮断し会陰部の鎮痛効果を得る神経ブロックである。合併症として,膀胱直腸障害が起こる可能性が高い。

本臨床疑問に関する臨床研究としては,無作為化比較試験や前後比較研究はないが,複数の症例報告や記述的研究がある(Slatkin ら,杉ら)。

**

以上より,質の高いエビデンスは存在しないが,臨床経験から,直腸がんなどによる会陰部の痛みに対して,サドルブロックは,膀胱直腸障害を生じうるが,痛みを緩和すると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,直腸がんなどによる会陰部の痛みに対して,尿路変更・人工肛門などすでに排尿・排便機能が廃絶している場合に,サドルブロックが有効な場合があるので専門家に相談することを推奨する。人工肛門があるが尿路変更がなされていない場合には,患者が尿路変更になること(導尿など)を了解すれば,選択できる場合がある。

2 )上下腹神経叢ブロック

上下腹神経叢ブロックは,骨盤内臓器の交感神経由来の痛みに対する疼痛治療法である。

本臨床疑問に関する臨床研究としては,無作為化比較試験はないが,前後比較研究が1 件ある。

Plancarte ら1)の前後比較研究では,VAS が7〜10 で,オピオイドで十分に鎮痛効果が得られないか,または許容できない眠気のためオピオイドを増量できない骨盤腫瘍の患者227 例のうち局所麻酔薬の試験的な投与で鎮痛効果が得られた159 例(79%)を対象に,上下腹神経叢ブロックを施行した。72%の患者で3 週間後のVAS が7 以上から4 以下へと低下した。オピオイド投与量は経口モルヒネ換算量で治療前56 mg/日,治療後32 mg/日と低下した。残りの患者ではVAS は4〜7 と中等度の低下にとどまったが,オピオイド投与量は治療後に65 mg/日から48 mg/日と低下した。眠気の強かった18 例の患者のうち16 例において,眠気の強さが0〜3 の評価で2(しばしば眠そうで容易に覚醒しない)から0〜1(清明〜時に眠そうだが容易に覚醒)へ改善した。排尿・排便困難などの副作用は出現しなかった。

これ以外にも,難治性の会陰部の痛みに対して,前述したサドルブロックとともに上下腹神経叢ブロックは選択肢の一つになりうるとする記述的研究がある(Vissers ら)。

**

以上より,質の高いエビデンスは存在しないが,直腸がんなどによる会陰部の痛みに対して,上下腹神経叢ブロックは,痛みを緩和する可能性があると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,直腸がんなどによる会陰部の痛みに対して,上下腹神経叢ブロックが有効な場合があるので専門家に相談することを推奨する。

この他の神経ブロックとして,上下腹神経叢ブロックと同じ交感神経ブロックである肛門部からの交感神経由来の痛みに対する,不対神経節ブロックがある。Agarwal-Kozlowski らによる系統的レビューによると,前立腺がん8 例,直腸大腸がん7 例を含む43 例の患者に施行された診断的ブロック48 例を含む76 例のCT ガイド下の不対神経節ブロックによって,合併症なく有意なNRS の低下と入院期間の短縮,4 カ月後の改善効果があった。

さらに,硬膜外腔またはクモ膜下腔へのオピオイドや局所麻酔薬の持続投与が選択肢になる場合がある。患者にどのブロックが適しているのかは専門家に相談することが望ましい。


:上下腹神経叢ブロック

神経ブロックの一つ。骨盤内臓器由来の痛みに対する治療法。クモ膜下フェノールブロックに比べて,会陰部知覚脱出や排泄障害などが少ない。参照

既存のガイドラインとの整合性

NCCN のガイドライン(2012)では,局在性の直腸肛門痛の場合は,神経破壊薬によるサドルブロック,上下腹神経叢ブロック,オピオイドの硬膜外またはクモ膜下投与などが推奨されている。

(奥津輝男,井関雅子)

【文 献】

1) Plancarte R, de Leon-Casasola OA, El-Helaly M, et al. Neurolytic superior hypogastric plexus block for chronic pelvic pain associated with cancer. Reg Anesth 1997;22:562-8

【参考文献】

2) Slatkin NE, Rhiner M. Phenol saddle blocks for intractable pain at end of life:report of four cases and literature review. Am J Hosp Palliat Care 2003;20:62-6

3) 杉 崇史,柳本富士雄,森山萬秀,他.サドルフェノールブロックにより大量のオピオイド減量に成功した2 症例(日本ペインクリニック学会第35 回関西地方会抄録:一般演題Ⅲ).日本ペインクリニック学会誌2005;12:429

4) Vissers KC, Besse K, Wagemans M, et al. 23. Pain in patients with cancer. Pain Pract 2011; 11:453-75

5) Agarwal-Kozlowski K, Lorke DE, Habermann CR, et al. CT-guided blocks and neuroablation of the ganglion impar(Walther)in perineal pain:anatomy, technique, safety, and efficacy. Clin J Pain 2009;25:570-6


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悪性腸腰筋症候群による痛み
(腸腰筋へのがんの浸潤・転移に伴って起こる鼠径部・大腿・膝の痛み)

 悪性腸腰筋症候群による痛みに対する有効な治療は何か?

関連する臨床疑問
  1. ►58悪性腸腰筋症候群による痛みのあるがん患者に対して,行うべき評価は何か?
  2. ►59悪性腸腰筋症候群による痛みのあるがん患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,プラセボに比較して痛みを緩和するか?
  3. ►60悪性腸腰筋症候群による痛みのあるがん患者に対して,筋弛緩薬は,プラセボに比較して痛みを緩和するか?
  4. ►61悪性腸腰筋症候群による痛みのあるがん患者に対して,神経ブロックは,薬物療法に比較して痛みを緩和するか?

推奨


  1. ►58痛みの原因の評価と痛みの評価を行う。
  2. ►59悪性腸腰筋症候群による痛みのある患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行うⅢ-1 共通する疼痛治療の項参照)
    1B
    (強い推奨,低いエビデンスレベル)
  3. ►60悪性腸腰筋症候群による痛みのある患者に対して,筋弛緩薬を投与する。
    2C
    (弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)
  4. ►61悪性腸腰筋症候群による痛みのある患者に対して,神経ブロックを行う。
    2C
    (弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)

:悪性腸腰筋症候群

腸腰筋内の悪性疾患の存在により起こる鼠径部・大腿・膝の痛み。身体所見として,患側の第1〜4 腰椎神経領域の神経障害,腸腰筋の攣縮を示唆する股関節屈曲固定がみられる。参照

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►臨床疑問58

悪性腸腰筋症候群による痛みのあるがん患者に対して,行うべき評価は何か?

推奨


痛みの原因の評価と痛みの評価を行うⅡ-2 痛みの包括的評価の項参照)

解説
1 )痛みの原因を身体所見や画像検査から評価する

痛みの原因として,がんによる痛み以外の可能性も含めて評価する。悪性腸腰筋症候群による痛みであれば,身体所見として,患側の第1〜4 腰椎神経領域の神経障害,腸腰筋の攣縮を示唆する股関節屈曲固定がみられることが多い。画像検査では,患側腸腰筋内の悪性腫瘍の存在がみられる。必要に応じて,外科治療,化学療法,放射線治療の適応について検討する。

腸腰筋症候群を示すがん以外の原因として腸腰筋膿瘍などを除外する。

2 )痛みの評価を行う

痛みの日常生活への影響,痛みのパターン(持続痛か突出痛か),痛みの強さ,痛みの部位,痛みの経過,痛みの性状,痛みの増悪因子と軽快因子,現在行っている治療の反応,および,レスキュー薬の効果と副作用について評価する。

特に痛みが持続痛なのか突出痛なのか評価し,神経障害性疼痛の要素があるのかを評価する。さらに増悪因子・軽快因子を評価する。悪性腸腰筋症候群では,股関節を伸展すると痛みが増強し,屈曲すると痛みが軽快することが多いため,痛みの増強する姿勢を避けるようにするⅡ-1-1-3 神経障害性疼痛の項参照)


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►臨床疑問59

悪性腸腰筋症候群による痛みのあるがん患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,プラセボに比較して痛みを緩和するか?

推奨


悪性腸腰筋症候群による痛みのあるがん患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,痛みを緩和する。


悪性腸腰筋症候群による痛みのあるがん患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行う。

1B
(強い推奨,低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する臨床研究としては,無作為化比較試験や前後比較研究はなく,少数の後ろ向き研究や症例報告しかない。

Agar ら,Stevens らによる症例報告およびレビューでは,WHO 方式がん疼痛治療法に基づいた非オピオイド鎮痛薬・オピオイドの投与に加えて,抗けいれん薬(ガバペンチン,バルプロ酸ナトリウム,カルバマゼピン),三環系抗うつ薬(アミトリプチリン),デキサメタゾンの投与が有効であった症例が報告されている。

一方,がん疼痛に対するWHO 方式がん疼痛治療法の有用性を示した複数の観察研究があるⅡ-3 WHO 方式がん疼痛治療法の項参照)

**

以上より,悪性腸腰筋症候群による痛みに対する知見は限られているが,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,悪性腸腰筋症候群による痛みを緩和すると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,専門家の合意により,悪性腸腰筋症候群による痛みに対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行うことを推奨する。


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►臨床疑問60

悪性腸腰筋症候群による痛みのあるがん患者に対して,筋弛緩薬は,プラセボに比較して痛みを緩和するか?

推奨


悪性腸腰筋症候群による痛みのあるがん患者に対して,筋弛緩薬は,痛みを緩和する可能性がある。


悪性腸腰筋症候群による痛みのあるがん患者に対して,筋弛緩薬を投与する。

2C
(弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する臨床研究としては,無作為化比較試験や前後比較研究はなく,少数の後ろ向き研究や症例報告しかない。

Agar ら,Stevens らによる症例報告およびレビューでは,腸腰筋の攣縮に伴う股関節の有痛性屈曲固定(股関節を屈曲位にしている,伸展位にすると痛みを訴える)に対してジアゼパム,バクロフェンの投与が有効であった症例が報告されている。

この他に,骨格筋の攣縮に対する治療薬として,チザニジン,ダントロレンナトリウムが記載されている。

**

以上より,十分な知見ではないが,悪性腸腰筋症候群による痛みのある患者に対して,筋弛緩薬は,痛みを緩和する可能性があると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,専門家の合意により,悪性腸腰筋症候群による痛みのある患者に対して,特に腸腰筋の攣縮に伴う股関節の有痛性屈曲固定が認められた場合に筋弛緩薬を投与することを推奨する。

筋弛緩薬として,最も一般的に使用されるものはジアゼパムである。ジアゼパムの効果が不十分な場合は,専門家に相談のうえ,バクロフェン,チザニジン,またはダントロレンナトリウムを検討する。


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►臨床疑問61

悪性腸腰筋症候群による痛みのある患者に対して,神経ブロックは,薬物療法に比較して痛みを緩和するか?

推奨


悪性腸腰筋症候群による痛みのある患者に対して,神経ブロックは,薬物療法に比較して痛みを緩和する可能性がある。


悪性腸腰筋症候群による痛みのある患者に対して,神経ブロックを行う。

2C
(弱い推奨,とても低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関する臨床研究としては,無作為化比較試験や前後比較試験はなく,少数の後ろ向き研究や症例報告しかない。

Agar ら,Stevens らによる症例報告およびレビューでは,持続硬膜外ブロック,腰神経叢ブロック(腸腰筋鞘内への局所麻酔薬・神経破壊薬注入)が有効であった症例が報告されている。しかし,薬物療法との比較は行われていない。

**

以上より,確実な知見ではないが,悪性腸腰筋症候群による痛みのある患者に対して,神経ブロックは,痛みを緩和する可能性があると考える。

したがって,本ガイドラインでは,専門家の合意として,悪性腸腰筋症候群による痛みのある患者に対して,神経ブロックによる疼痛治療が可能か,専門家に相談することを推奨する。神経ブロックとしては,硬膜外鎮痛法,クモ膜下鎮痛法,腰神経叢ブロック,神経根ブロックがある。

既存のガイドラインとの整合性

既存のガイドラインでは,悪性腸腰筋症候群による痛みに対する記述はみられない。

(松田陽一,池永昌之)

【参考文献】

1) Agar M, Broadbent A, Chye R. The management of malignant psoas syndrome:case reports and literature review. J Pain Symptom Manage 2004;28:282-93

2) Ampil FL, Lall C, Datta R. Palliative management of metastatic tumors involving the psoas muscle:case reports and review of the literature. Am J Clin Oncol 2001;24:313-4

3) Stevens MJ, Atkinson C, Broadbent AM. The malignant psoas syndrome revisited:case report, mechanisms, and current therapeutic options. J Palliat Med 2010;13:211-6


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消化管閉塞による痛み

 消化管閉塞による痛みに対する有効な治療は何か?

関連する臨床疑問
  1. ►62消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して,行うべき評価は何か?
  2. ►63消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,プラセボに比較して痛みを緩和するか?
  3. ►64消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して,消化管分泌抑制薬(オクトレオチド酢酸塩,ブチルスコポラミン臭化物)は,プラセボに比較して痛みを緩和するか?
  4. ►65消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して,コルチコステロイドは,プラセボに比較して痛みを緩和するか?

推奨


  1. ►62痛みの原因の評価と痛みの評価を行う。
  2. ►63消化管閉塞による痛みのある患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行うⅢ-1 共通する疼痛治療の項参照)
    1B
    (強い推奨,低いエビデンスレベル)
  3. ►64消化管閉塞による痛みのある患者に対して,オクトレオチド酢酸塩またはブチルスコポラミン臭化物のいずれかを使用する。
    2B
    (弱い推奨,低いエビデンスレベル)
  4. ►65消化管閉塞による痛みのある患者に対して,コルチコステロイドを使用する。
    2B
    (弱い推奨,低いエビデンスレベル)

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►臨床疑問62

消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して,行うべき評価は何か?

推奨


痛みの原因の評価と痛みの評価を行うⅡ-2 痛みの包括的評価の項参照)

解説
1 )痛みの原因を身体所見や画像検査から評価する

痛みの原因として,がんによる痛み以外の可能性も含めて評価する。病歴・身体所見・腹部単純X 線・腹部超音波検査などから,消化管閉塞の外科治療適応について検討する。便秘,腹水,腸管の拡張など,痛みに関連する治療可能な他の要因があるかについて評価を行い,それぞれ,排便コントロール,腹水のコントロール,腸管の減圧などを検討する。

2 )痛みの評価を行う

痛みの日常生活への影響,痛みのパターン(持続痛か突出痛か),痛みの強さ,痛みの部位,痛みの経過,痛みの性状,痛みの増悪因子と軽快因子,現在行っている治療の反応,および,レスキュー薬の効果と副作用について評価する。特に,持続痛か突出痛か(消化管の蠕動による突出痛があるか),増悪因子・軽快因子(食事や排便が影響しているか),行っている治療の効果や副作用について評価する。


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►臨床疑問63

消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,プラセボに比較して痛みを緩和するか?

推奨


消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる鎮痛治療は痛みを緩和する。


消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行う。

1B
(強い推奨,低いエビデンスレベル)

解説

消化管閉塞による痛みに限定した臨床研究は限られている。しかし,消化管閉塞による痛みを含むがん疼痛に対するWHO 方式がん疼痛治療法が有用性を示した複数の観察研究があるⅡ-3 WHO 方式がん疼痛治療法の項参照)

**

以上より,消化管閉塞による痛みのある患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療は,痛みを緩和すると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,消化管閉塞による痛みのある患者に対して,非オピオイド鎮痛薬・オピオイドによる疼痛治療を行うことを推奨する。


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►臨床疑問64

消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して,消化管分泌抑制薬(オクトレオチド酢酸塩,ブチルスコポラミン臭化物)は,プラセボに比較して痛みを緩和するか?

推奨


消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して,消化管分泌抑制薬(オクトレオチド酢酸塩,ブチルスコポラミン臭化物)は,痛みを緩和する可能性がある。


消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して,オクトレオチド酢酸塩またはブチルスコポラミン臭化物のいずれかを使用する。

2B
(弱い推奨,低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関連する臨床研究としては無作為化比較試験が3 件ある。いずれの研究もオクトレオチド酢酸塩とブチルスコポラミン臭化物の効果を比較したものであり,オピオイドの単独治療と,消化管分泌抑制薬とオピオイドとの併用治療の効果を比較したものではない。

Mystakidou ら1)による,外科治療不能のがんによる消化管閉塞のある患者68 例を対象に,痛みを含む腹部症状に対するブチルスコポラミン臭化物60〜80 mg/日とオクトレオチド酢酸塩0.6〜0.8 mg/日の効果を比較した無作為化比較試験では,いずれも痛みのVAS(0〜10)が3 日後に改善し,両群に有意差はなかった(5.4→1.3 vs 5.1→1.1,p>0.05)。両群ともオピオイドやクロルプロマジンなどが併用されていた。重篤な副作用はなかった。

Ripamonti ら2)による,外科治療不能の胃管が挿入されたがんによる消化管閉塞のある患者17 例を対象に,持続痛・蠕動痛を含む腹部症状に対するブチルスコポラミン臭化物60 mg/日とオクトレオチド酢酸塩0.3 mg/日の効果を比較した無作為化比較試験では,いずれも痛みのVRS(4 段階)が3 日後に改善し(持続痛:1.4→0.4 vs 1.4→0.3,p>0.05;蠕動痛:0.9→0.1 vs 0.7→0.1,p>0.05),両群に有意差はなかった。副作用について記載がない。

Mercadante ら3)による,外科治療不能のがんによる消化管閉塞患者18 例を対象に,持続痛・蠕動痛を含む腹部症状に対するブチルスコポラミン臭化物60 mg/日とオクトレオチド酢酸塩0.3 mg/日の効果を比較した無作為化比較試験では,いずれも,痛みのVRS 値(4 段階)が2 日後により改善傾向であり(持続痛:1.8→1.2 vs 0.6→0.3;蠕動痛:0.4→0.2 vs 0.4→0.1,p>0.05),両群に有意差はなかった。患者死亡およびデータ欠損による脱落症例が17%あった。副作用については記載がない。

**

以上より,痛みを評価項目としたプラセボとの比較による無作為化比較試験がないため十分な根拠ではないものの,消化管閉塞による痛みのある患者に対して,消化管分泌抑制薬(オクトレオチド酢酸塩,ブチルスコポラミン臭化物)は,痛みを緩和する可能性があると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,専門家の合意により,鎮痛効果が期待され,重篤な副作用が少ないという理由で,消化管閉塞の痛みに対して,オクトレオチド酢酸塩またはブチルスコポラミン臭化物のいずれかを使用することを推奨する。

特に,蠕動痛に対しては,抗コリン作用の強いブチルスコポラミン臭化物の使用を検討する。


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►臨床疑問65

消化管閉塞による痛みのあるがん患者に対して,コルチコステロイドは,プラセボに比較して痛みを緩和するか?

推奨


消化管閉塞による痛みのある患者に対して,コルチコステロイドは,痛みを緩和する可能性がある。


消化管閉塞による痛みのある患者に対して,コルチコステロイドを使用する。

2B
(弱い推奨,低いエビデンスレベル)

解説

本臨床疑問に関連する臨床研究として,1 件の系統的レビューがある。

Feuer ら4)の系統的レビューでは,がんによる消化管閉塞のある患者を対象に,コルチコステロイドとプラセボの効果を比較した2 件の無作為化比較試験を検討した。対象患者は97 例であり,消化管閉塞の再開通(嘔吐や蠕動痛などの症状の消失,軽食の摂取が可能,排ガスあるいは蠕動の存在と定義)のNNT は6 であり,コルチコステロイドは消化管閉塞の症状緩和に有用な可能性が示唆されると結論している。これらの研究は直接,腹痛に対する効果を評価したものではないものの,再開通の結果として腹痛の改善が得られる可能性がある。

Hardy ら5)による,がんによる消化管閉塞患者39 例を対象に,デキサメタゾン16 mg/日とプラセボの効果を比較した無作為化比較試験では,デキサメタゾン群で消化管閉塞の再開通が多く認められる傾向であった(62% vs 57%)。副作用は1 例が胃腸障害で試験中止,数例で肛門周囲の不快感が生じたが,重篤な副作用はなかった。

Laval ら6)による,がんによる消化管閉塞患者58 例を対象に,メチルプレドニゾロン40 mg/日 静脈内投与(または240 mg 経口投与)とプラセボの効果を比較した無作為化比較試験では,メチルプレドニゾロン群で消化管閉塞の再開通が多く認められた(59% vs 33%,p=0.080)。副作用はなかった。

**

以上より,消化管閉塞による痛みのある患者に対して,コルチコステロイドは,痛みを緩和する可能性があると考えられる。

したがって,本ガイドラインでは,上記の知見と専門家の合意により,消化管閉塞による痛みのある患者に対して,コルチコステロイドを投与することを推奨する。

既存のガイドラインとの整合性

EAPC のガイドライン(2012)では,消化管閉塞の痛みに関する記載はない。

EAPC の消化管閉塞についてのガイドライン(2001)では,悪性腫瘍による消化管閉塞に伴う持続痛および蠕動痛は,WHO 方式がん疼痛治療法に従ったオピオイド投与,消化管分泌抑制薬を投与し,オピオイド投与により残存する蠕動痛に対してはブチルスコポラミン臭化物などの抗コリン作用薬を推奨している。コルチコステロイドの有用性については,まだ結論が出ておらず,痛みに限定する記載ではないが,制吐効果および腫瘍や神経周囲の浮腫を改善することで症状緩和に有用な可能性があるとしている。

NCCN のガイドライン(2012)では,消化管閉塞の原因を評価し,緩和手術,放射線治療,化学療法の可能性を考慮する。症状緩和としては消化管の安静,経鼻胃管や胃瘻によるドレナージ,ステロイド かつ/または オクトレオチド酢酸塩が推奨されている。

(久永貴之,志真泰夫)

【文 献】

臨床疑問64

1) Mystakidou K, Tsilika E, Kalaidopoulou O, et al. Comparison of octreotide administration vs conservative treatment in the management of inoperable bowel obstruction in patients with far advanced cancer:a randomized, double-blind, controlled clinical trial. Anticancer Res 2002;22(2B):1187-92

2) Ripamonti C, Mercadante S, Groff L, et al. Role of octreotide, scopolamine butylbromide, and hydration in symptom control of patients with inoperable bowel obstruction and nasogastric tubes:a prospective randomized trial. J Pain Symptom Manage 2000;19:23-34

3) Mercadante S, Ripamonti C, Casuccio A, et al. Comparison of octreotide and hyoscine butylbromide in controlling gastrointestinal symptoms due to malignant inoperable bowel obstruction. Support Care Cancer 2000;8:188-91

臨床疑問65

4) Feuer DJ, Broadley KE. Corticosteroids for the resolution of malignant bowel obstruction in advanced gynaecological and gastrointestinal cancer. Cochrane Database Syst Rev 2000(2):CD001219

5) Hardy J, Ling J, Mansi J, Isaacs R, et al. Pitfalls in placebo-controlled trials in palliative care:dexamethasone for the palliation of malignant bowel obstruction. Palliat Med 1998;12:437-42

6) Laval G, Girardier J, Lassaunière JM, et al. The use of steroids in the management of inoperable intestinal obstruction in terminal cancer patients:do they remove the obstruction? Pal-liat Med 2000;14:3-10

【参考文献】

臨床疑問65

7) Ripamonti C, Twycross R, Baines M, et al;Working Group of the EAPC. Clinical-practice recommendations for the management of bowel obstruction in patiens with end stage cancer. Support Care Cancer 2001;9:223-33


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