本ガイドライン改訂のポイントとエビデンス

今回の改訂にあたって基本的な形式は「膀胱癌診療ガイドライン2015 年版」を踏襲したが,治療学(総論),全身化学療法,放射線療法の章を他の章と統廃合し,新たに経過観察と希少がん(総論のみ)の章を設けた。本ガイドラインは「日本泌尿器科学会が関与する診療ガイドラインに関する細則」に基づき,クリニカルクエスチョン(clinical question:CQ)の設定および論文評価は「Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014」に準拠した。CQ の設定はPICO 形式の評価シートを作成し,対象(P),介入(I),対照(C),アウトカム(O)を明確化した。論文評価は,今回はじめてGRADE システムを導入した。また日本医学図書館協会のご協力の下に2008 年以降2018 年までの論文を各CQ ごとに文献検索した上で抽出された論文を取捨選択した。その他担当委員が重要と判断した論文に関しては適宜ハンドサーチで追加し,その妥当性を委員会において討議して取り入れた。なお,本改訂版では引用文献ごとの従来のエビデンス評価を廃止し,GRADE システムに準じて吟味,選択した。各CQ で設定したアウトカム(O)は,論文群のエビデンスを総合的に評価(本来のエビデンスレベルに加え,バイアスリスクなどの8 つの項目で重みづけを行うことによりエビデンスレベルを調整)した。そして複数のアウトカムがある場合はアウトカム全体のエビデンスをまとめ,エビデンス総体としてそのCQ のエビデンスレベルとした。

本ガイドラインの推奨の強さ(グレード)(表1)とエビデンスの確実性(レベル)の評価(表2)の表現を下記に示す。なお表現に関しては,Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014,Minds 診療ガイドライン作成マニュアル2017,診療ガイドラインのためのGRADE システム第2 版に準拠し,作成委員全員のコンセンサスを得て,本ガイドラインでの表記を決定した。

表1 推奨の強さ
表1 推奨の強さ
 推奨度記号,表現の対応
推奨度記号,表現の対応
表2 エビデンスの確実性
表2 エビデンスの確実性
参考:エビデンスの確実性の参考とする研究デザイン

また文献検索が終了後にAmerican Joint Committee on Cancer(AJCC)Cancer Staging Manual 第8 版が発表され,従来Stage Ⅳに分類されていたカテゴリーの一部がStage Ⅲに分類されることになったが,混乱を避けるため本ガイドラインの病期分類は第7 版に従い,アルゴリズムの項で注釈を加えるにとどめた。

作成したCQ と総論は4 回の全体委員会と2 回の班長会議を通して討議され,CQ の回答や推奨度の決定は,作成委員全員の投票を行って最終決定した。

なお,前版までにCQ で取り上げられ,すでに一般診療で高いエビデンスにより実践されている,もしくは実践されることが強く推奨されるCQ を前版の推奨グレード表記に従って一覧表とし,掲載した(表34)。

表3 膀胱癌診療ガイドライン2015 年版からのCQ とクリニカルアンサー抜粋
表3 膀胱癌診療ガイドライン2015 年版からのCQ とクリニカルアンサー抜粋
表4 2015 年版におけるクリニカルアンサーの推奨グレード
表4 2015 年版におけるクリニカルアンサーの推奨グレード

利益相反

本ガイドラインは社会的貢献を目的として作成されたものであり,勧告内容は,純粋に科学的根拠に基づくものである。各委員個人と企業間との講演活動等を通じた潜在的利益相反は存在するものの,本ガイドライン作成に関係した委員すべての利益相反(COI)に関する自己申告書は日本泌尿器科学会利益相反委員会において慎重に審議され,重大な支障となる利益相反問題はないと判断された。また各委員のCOI は日本泌尿器科学会でマネージメントされ,Web 上で公開されている。特定の団体や製品・技術との利害関係による影響を可及的に排除するために会議での進行議決は副委員長が行い,CQ の内容により潜在的利益相反のある委員はそのCQ 決定の投票に参加しないなどの措置を講じた。

また作成に要した費用は日本泌尿器科学会のガイドライン委員会の予算より賄われた。