ガイドライン総説

ガイドライン総説

Ⅰ 作成の目的

本ガイドラインでは,本邦で行われる子宮頸癌の治療において,より良い方法を選択するための一つの基準を示し,現在までに集積しているそれらの根拠を記している。ただし,本書に記載されていない治療法が行われることを制限するものではない。

主な目的は以下に述べる通りである。

  1. 現時点での適正と考えられる子宮頸癌の治療法を示す。
  2. これらの治療レベルの施設間差を少なくする。
  3. これらの治療の安全性の向上と予後の改善を図る。
  4. 適正な治療を行うことによって,患者の心身の負担,そして経済的負担を軽減する。
  5. 患者と医療従事者の相互理解に役立てる。

Ⅱ 利用の対象者

本ガイドラインは,子宮頸癌の診療に携わる医療従事者を対象とする。

Ⅲ 取り扱う疾患

取り扱う疾患は,子宮頸部前癌病変であるCIN 3,上皮内腺癌,さらに,子宮頸部原発の癌腫とその再発である。

Ⅳ 本ガイドラインを使用する場合の注意事項

  1. 1)各項目は,CQ(clinical question:臨床的疑問)推奨目的,そして解説から構成されており,ガイドラインに示された内容の根拠となった参考文献は各CQ の最後に,文献収集のための検索式は巻末に収録している。また,推奨に至るまでにさらなる詳細な解説が必要と判断された場合には,付記とし説明を加えている。
  2. 2)子宮頸癌は,治療に対するランダム化比較試験が少なく,エビデンスレベルだけでは治療指針を示せない事項も存在する。今後解決しなければならない課題,検証中の試験的治療などを委員会内で検討し,推奨のあとに「明日への提言」として提示した。
  3. 3)欧米と本邦との様々な背景の違いから,欧米におけるエビデンスの中には本邦で受け入れ難いものもある。逆に,本邦で一般に行われている治療内容が欧米のものとは異なることもある。このような事例では,国内における現時点でのコンセンサスを優先させている内容もある。
  4. 4)世界的に評価・推奨された抗がん剤の中には,本邦の医療保険制度の下では適用上問題が生じるものがある。この点に関して,本ガイドラインでは,「抗がん剤適正使用のガイドライン」1, 2)の中に付記として示されている以下の内容に原則的に従っている。
  1. 本ガイドラインを利用する医師は「保険医」であるとの自覚に基づき,実地医療での抗がん剤使用は承認条件にある適応疾患を尊重する。
  2. ガイドラインと抗がん剤の承認条件にある適応疾患との相違は,実地医療においては当該患者の状況に応じて医師の裁量で対応する。
  3. 抗がん剤の単剤使用の場合は,本邦の薬事法による承認条件を満足する投与量や投与方法で施行する。
  4. 抗がん剤の併用療法の場合は,個々の抗がん剤の投与量や投与方法について本邦の薬事法による承認条件の範囲内で施行する。

Ⅴ 文献検索

これまではCQ を担当する作成委員が独自の検索方法で参考文献を収集していたが,今回の改訂では日本医学図書館協会に文献検索式の作成を依頼し,用いるデータベースも統一した。文献検索の具体的な手順を以下に記す。

  1. 1)作成委員がCQ に関連するキーワードと主たる論文を選定し,日本医学図書館協会の担当者がそれをもとに検索式を作成し,網羅的な文献検索を行った。抽出された論文が非常に多い場合は,作成委員と図書館協会員で検討しキーワードの変更や追加を適時行った。作成委員は抽出された論文を吟味し,重要な論文を最終的に30 編程度に絞り込んだ。
  2. 2)検索は,PubMed,医中誌,Cochrane library に2010 年1 月から2015 年12 月までに報告された文献を対象とした。2010 年以前に発表された論文であっても,『子宮頸癌治療ガイドライン2011 年版』に引用されており推奨決定に必要なものは参考文献として採用した。2016 年1 月以降に発表された論文に関しては,ガイドライン委員会で個別に協議し参考文献として用いるかを決定した。
  3. 3)参考文献にはそれぞれにエビデンスレベルを示すとともに,検索式で抽出されたものには【検】,2010 年以前に発表されたため検索式では抽出されなかったが,2011 年版で参考文献として収載されており今回の改訂でも必要と判断されたものには【旧】,ガイドライン委員会で参考文献として引用すべきと判断されたものには【委】を記した。ただし,総説で用いた参考文献には前述の表記は行っていない。

Ⅵ ガイドライン作成手順

  1. 1)2014 年に『子宮頸癌治療ガイドライン2017 年版』の作成にあたり,日本婦人科腫瘍学会(以下,本学会)内の委員会である「ガイドライン委員会」が設置する「子宮頸癌治療ガイドライン検討委員会」(以下,検討委員会)の中に「作成委員会」と「評価委員会」を独立して設けた。子宮頸癌治療ガイドライン検討委員会と作成委員会の委員長は,ガイドライン委員会委員長が兼任した。評価委員会は,医師以外に,看護師,薬剤師,患者会の代表者により構成された。
  2. 2)ガイドラインの改訂は,以下のスケジュールで行われた。
  3. 2015 年3 月6 日 第1 回子宮頸癌治療ガイドライン検討委員会:東京
    4 名の作成委員会小委員長を協議により決定し,文献検索は日本医学図書館協会に委嘱することを決定した。
  4. 2015 年5 月15 日 第2 回子宮頸癌治療ガイドライン検討委員会:東京
    日本医学図書館協会担当者を交え文献検索方法の確認を行うとともに,第1 回ガイドライン作成委員会までの間に作成委員の選出を行い,作成委員会においてCQ 案の作成を行うことを確認した。
    その後,メール会議にて作成委員の選出を行い,委嘱した。
  5. 2015 年10 月29 日 第1 回ガイドライン作成委員会:京都
    ガイドライン作成委員を決定し,CQ 案について協議を行った。
    その後,メール会議によりCQ 最終案を決定した。
  6. 2015 年12 月4 日 第2 回ガイドライン作成委員会:東京
    文献検索式の作成と参考文献抽出までの流れについての説明の後,章ごとにCQ 項目を検討し各CQ を担当する作成委員を決定した。作成委員は1〜2 つのCQ を担当した。以後,作成委員と日本図書館協会担当者のメールでの協議により前述した方法で文献検索を行い,それをもとに初稿を作成した。
  7. 2016 年7 月7 日 第3 回ガイドライン作成委員会:米子
    事前に送付された初稿をもとに,各小委員会で推奨,推奨グレードを協議した。さらに,各小委員会から抽出された問題点について全体で協議した。
  8. 2016 年7 月8 日 子宮頸癌治療ガイドラインコンセンサスミーティング(第58 回日本婦人科腫瘍学会学術講演会):米子
    ガイドラインの改訂概要を説明した後,各章の改訂箇所を中心に解説を行い改訂内容のコンセンサスを得るとともに会員の意見を聴取した。
    その後,第3 回ガイドライン作成委員会の意見やコンセンサスミーティングの質疑をもとに,作成委員が第2 稿と構造化抄録を作成した。
  9. 2016 年11 月 第2 稿を評価委員に送り,評価委員からの意見をいただいた。
  10. 2017 年1 月15 日 第4 回ガイドライン作成委員会:東京
    評価委員からの意見について協議を行い,各章から提出された検討事項について協議した。この会議での検討結果をもとに,小委員長と幹事が第2 稿の修正を行い,第3 稿を完成させた。
  11. 2017 年3 月 日本婦人科腫瘍学会ホームページに第3 稿を掲載し,パブリックコメントを募集した。同時に,日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会,日本産科婦人科内視鏡学会,婦人科悪性腫瘍研究機構(JGOG),日本病理学会,日本放射線腫瘍学会などの関係する諸学会や諸団体に送付し,意見を得た。関連団体やパブリックコメントの意見をメール会議で検討し第4 稿を作成した。
  12. 2017 年4 月28〜29 日 第5 回ガイドライン作成委員会:東京
    第4 稿の推奨内容および推奨グレードをパブリックコメントの意見を参考に審議し,決定した。さらに,解説文やフローチャートの修正も行い最終版を完成させた。

Ⅶ エビデンスレベルと推奨グレード

  1. 1)個々のエビデンスの質の評価は,日本癌治療学会が提示している「抗がん剤適正使用のガイドライン」1, 2)に基づくが,一部は本ガイドラインに則した内容に改変している(表3)。
  2. 2)ガイドラインで示す推奨の基準は,同じく「抗がん剤適正使用のガイドライン」1, 2)にある推奨の基準を基本とし,『Minds 診療ガイドライン作成の手引き2007』3)を参考にし,本ガイドラインに則した内容に一部を改変している(表4)。
  3. 3)推奨グレードの決定に際しては,『Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014』4)を参考に,参考文献のエビデンスレベルのみならず,効果および不利益を含めた臨床的因子を加味し,ガイドライン委員会の合意に基づき判断した。
  4. 4)小委員会内で推奨グレードの決定が難航した場合は,ガイドライン検討委員会と小委員長で合議し,最終的に投票にて推奨グレードを決定した。
表3 エビデンスの質評価基準(レベル)
表3 エビデンスの質評価基準(レベル)
表4 推奨の基準(グレード)
表4 推奨の基準(グレード)

Ⅷ 情報の公開

広く利用されるために,本ガイドラインの内容は小冊子として出版し,さらに本学会のホームページや日本癌治療学会,Minds のホームページにも公開する。

Ⅸ 治療に対する責任

記述のすべての内容に対する責任は本学会が負う。しかし,個々の治療において本ガイドラインにあるそれぞれの内容を用いる最終判断はその利用者が行うべきものである。すなわち,治療の結果に対する責任は直接の治療担当者に帰属すべきものと考えられる。

Ⅹ 改訂のステップ

  1. 医学の進歩と医療の変化に伴い,本ガイドラインの改訂作業を「子宮頸癌治療ガイドライン検討委員会」において継続して行う。
  2. 2017 年版である本ガイドラインの作成後に新たに報告されたエビデンスを収集・集積し,データベースとして保存する。
  3. 本ガイドラインの使用にあたり臨床上の不都合が生じた案件について,関連する情報を収集する。
  4. 新たなエビデンスや情報を基に改訂作業を作成委員会と評価委員会で行い,関連する学会や団体の意見を十分に取り入れ,本学会会員に広く公開し,意見を求める。
  5. 以上の過程を経て,「子宮頸癌治療ガイドライン検討委員会」は最終改訂案をまとめ,本学会の承認を経て改訂する。

Ⅺ 作成費用

本ガイドラインの作成費用は,公益社団法人 日本婦人科腫瘍学会の資金により賄われている。よってその作成費用はガイドラインの内容に一切の影響を及ぼしていない。

Ⅻ 利益相反

  1. 1)本学会利益相反委員会は,本ガイドラインの作成ならびに評価を担当した委員,およびそれに関連する者(配偶者,一親等内の親族,または収入・資産を共有する者)の利益相反の状況を「がん臨床研究の利益相反に関する指針 https://jsgo.or.jp/topics/index01.html(日本婦人科腫瘍学会作成)」に沿って確認した。その結果,9 名の作成委員で以下の利益相反が申告された。
    講演料および研究費
    あすか製薬株式会社(1 人),大塚製薬株式会社(1 人),株式会社ツムラ(1 人),ゼリア新薬工業株式会社(1 人),中外製薬株式会社(4 人),バイエル薬品株式会社(1 人),ファイザー株式会社(1 人),ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社(1 人)(五十音順)
  2. 2)本ガイドラインの推奨内容は,ガイドライン委員会の総意であり,特定の団体や製品・技術との利害関係により影響を受けたものではない。

【参考文献】

1)
有吉 寛.抗がん剤適正使用のガイドライン(案):厚生省(現厚生労働省)委託事業における「抗がん剤適正使用のガイドライン」(案)の開示に際して.癌と化学療法2002;29:969-77
2)
落合和徳,岡本愛光,勝俣範之.抗がん剤適正使用のガイドライン(案):婦人科癌.癌と化学療法2002;29:1047-54
3)
福井次矢,吉田雅博,山口直人 編.Minds 診療ガイドライン作成の手引き2007.医学書院, 東京,2007
4)
山口直人 監修.森實敏夫,小島原典子,吉田雅博,福井次矢 編.Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014.医学書院,東京,2014