ガイドラインの基本的事項

Ⅰ ガイドラインの目的と対象

本邦における小児がんの年間発症数は約2,500 人と成人がんに比較して非常に少なく,希少がんの代表として位置づけられており,多くの小児がんの治療は臨床研究に登録され,実施されている現状にある。しかし,希少性が故に前方視的ランダム化比較試験を行うことは難しく,新たなエビデンスの創出が難しい領域である。このため,臨床における診療ガイドラインの位置づけは成人がんと異なることが想定され,このような背景を十分に踏まえた上で標準治療に対する基本的な考え方を提示し,治療選択のための情報提供ツールとして改訂第3 版の作成にあたった。

(1)目的

本ガイドラインの目的は,造血器腫瘍を含む小児がんの診療に際し,治療方針の意思決定の参考となることを目的とし,情報,治療目標,責任を明確化することにより医療者と患者・患者家族の情報共有を高め,共有意思決定(“Shared decision making”)のための資料とすることである。したがって,本ガイドラインはルールブックではなく,ガイドラインに従って治療が行われなかったとしても誤りではなく,治療方針の益と害を考慮し,個々の患者に応じた決定が重要である。

(2)対象

本ガイドラインの対象は医療者だけではなく,患者・家族の資料としても期待しており,医療者と医療を受ける立場の方々の相互の納得の基に,個々の患者にとって最適な医療が実施されることを期待した。また,学生,研修医,生涯教育のツールとしても活用していただくことを期待しているが,教科書とは異なることを理解していただきたい。

Ⅱ ガイドライン作成の経緯

日本がん治療学会において2001 年から臓器別がん診療ガイドライン作成が推進され,各領域専門学会に協力が要請された。本ガイドラインは,2007 年に日本小児血液学会の事業として「小児白血病・リンパ腫の診療ガイドライン2007 年版(初版)」が発行され,2011 年には改訂第2 版が発行され,初版・第2 版とも日本小児血液学会(学会統合後は日本小児血液・がん学会)のホームページおよび日本癌治療学会のがん診療ガイドラインのホームページ上で公開された。第2 版からクリニカルクエスチョン(CQ)形式へと変更し,今回発行する改訂第3 版は前診療ガイドライン委員会(米田 光宏委員長)から計画され,2014 年より現在の診療ガイドライン委員会に引き継がれ,2014 年1 月より本格的な改訂作業を開始した。

第2 版のCQ 形式を踏襲し,診療ガイドライン委員による査読と委員による読み合わせ作業と評価を受け,日本小児血液・がん学会会員のパブリックコメントを受けた後,日本小児血液・がん学会理事会の承認を得て公開された。また,別冊の「小児がん診療ガイドライン」における骨軟部疾患に関しては日本整形外科学会理事長宛に診療ガイドライン作成に対する協力依頼を提出し,ご協力いただいた。

Ⅲ ガイドライン作成の基本的な考え方と作成方法

本ガイドラインは,厚生労働省委託事業:EBM 普及推進事業である日本医療機能評価機構(Minds)の指針に則り「Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014」を参照し,作成した。執筆に際しては,Minds 2014 ガイドライン作成のためのワークショップに参加後,各執筆担当者に作成方針を説明し,患者アウトカムに対する期待される効果(益)のみではなく,有害事象(害)のバランスを推奨作成に活かすことを重要視した。また,エビデンスレベルが高いにもかかわらず国内では未承認薬,適応外薬を含む治療法については,その旨を明記した。

執筆に際しては各疾患・領域毎に疾患責任者を任命し,疾患・領域におけるCQ に対する執筆担当者を指定し,疾患責任者が領域全体を統括し,委員長および副委員長で全体の調整を行った。疾患責任者は第2 版の責任者に継続していただき,前回執筆担当者を中心として,一部は新たな執筆担当者に参加していただいた。

(1)作成形式
  • はじめに:疾患トピックとして,疾患の臨床的特徴(病態生理,分類,歴史的事項など),疫学的特徴(罹患率,死亡率,生存率などの現状,経年的変化,地域特性など),診療の全体的流れについて記載した(疾患責任者担当)。
  • CQ 形式とした。
  • 背景:CQ に対する背景について簡素に記載した。
  • 推奨:推奨治療を記載した。他にも推奨がある場合は,推奨1,推奨2,・・・とした。
  • 解説:推奨に対する解説を記載した。推奨が複数ある場合は解説1,解説2,・・・とした。
  • 診療アルゴリズムを作成した。
(2)文献検索

各CQ におけるキーワードを基に一次資料の網羅的な文献検索を行うと同時に,ハンドサーチによる検索を行った。検索データベースはPubMed を基本とし,第2 版で引用された文献に,2014 年3 月末までの文献を採用し,構造化抄録は作成しなかった。また,一部にはエビデンスレベルの高い重要な学会抄録も対象とし,2014 年3 月を超えた期間の文献も採用した。二次資料として国内外の既存のガイドライン,教科書を参考にした。検索した文献からのエビデンス収集,評価に際しては,システマティッックレビューは行っておらず,委員会委員,疾患責任者および執筆担当者による個別の文献検索と協議により推奨を作成した。

(3)エビデンスの強さの決定と推奨の強さ

ガイドラインにおけるエビデンスの強さは,その治療効果などの推定値が推奨を指示する上でどの程度十分かを示すものである。今回用いる評価基準は,これまでの研究デザインに基づいたエビデンス評価ではなく,Minds 2014 の指針に基づき重大なアウトカム全般(生存,QOL など)に対する4 段階評価とした。つまり,ランダム化試験でもアウトカム全般に対する影響が小さければエビデンスレベルは低くなり,観察研究でもアウトカムに対する影響が大きいと判断されればエビデンスレベルは高くなる。

また,推奨の強さは重大なアウトカムに関するエビデンスの強さに加えて,益と害のバランスを考慮し,害以外の不利益についても総合的に判断し決定した。推奨の強さの提示は1:「強く推奨する」あるいは2:「弱く推奨する(提案する,考慮する)」のいずれかで提示するが,どうしても推奨の強さを決められないときは「なし」とし,明確な推奨ができない場合も想定した。

エビデンスレベル

Ⅳ ガイドラインの外部評価

現時点で本ガイドラインは外部評価を受けていないが,前版同様に日本癌治療学会がん診療ガイドライン評価委員会に評価を依頼する予定である。

Ⅴ ガイドラインの公開と改訂

本ガイドラインは出版後1 年以内をめどに日本小児血液・がん学会および日本癌治療学会のガイドラインホームページ上に公開予定とする。また,本ガイドラインの改訂は5 年を目安とし,改訂を行う予定である。しかし,大規模スタディの結果の公表,新しい治療法の制度的な認可など,推奨に大きな影響が出るイベントがあった場合は,その都度改訂を考慮する。

Ⅵ 資金と利益相反

本ガイドラインの作成のための資金は日本小児血液・がん学会の支援により得られた。また,本事業は日本癌治療学会がん診療ガイドライン作成事業の支援と作成費用の一部は厚生労働科学研究費補助金(がん対策推進総合研究事業)「がん診療ガイドライン普及促進とその効果に関する研究及び同ガイドライン事業の在り方に関する研究」(平田班)の支援を受けている。

利益相反については,平成25 年制定の日本小児血液・がん学会作成の小児血液・がん領域での医学研究の利益相反に関する指針および細則に従った。本ガイドラインの作成委員ならびに評価委員は,自己申告された調査票により本ガイドライン作成に関連して特定の企業・営利団体との関与はなく,作成委員は利益相反の状況を日本小児血液・がん学会に開示している。

診療ガイドライン委員会委員長 菊田 敦
同副委員長 米田光宏