本ガイドラインの概要

前版までは食道癌治療全体を俯瞰する1 つの治療アルゴリズムが掲載されていましたが,本版(第4 版)からは臨床病期ごとにより細かい治療アルゴリズムを作成しました。
実臨床において,何を指標にどう判断するかを臨床病期ごとに明確化し,アルゴリズムの分岐点における判断材料に関連したClinical Question(CQ)を抽出しました。
日常臨床において直面するCQと実際的なアルゴリズムの掲載を本版の大きな特徴と致しました。

また,本版では診療ガイドライン検討委員とは独立したシステマティックレビュー(SR)チームを構成しました。SR チームはそれぞれのCQ に関するSR レポートを作成し,これを踏まえて診療ガイドライン検討委員がCQ に対する推奨文を作成しました。CQ に関連する相応しい研究がなされていない領域においては,ガイドライン検討委員会が中心となり全国アンケート調査を行って推奨文作成の参考とし,この作業が2 編の論文化に繋がりました。

ガイドライン作成に関する基本理念は,エビデンス至上主義からより実際の医療に役立つ判断を取り入れる方向に変化しております。第4 版ではエビデンスの確実性のみならずこれまで以上に益と害のバランスを重視し,患者側の希望や医療経済的観点を含めて検討しました。推奨文および推奨度に関して委員の無記名投票を行った上で同意率も掲載することとしました。
これによって本ガイドラインの利用者の皆様が,推奨の強さをより詳細に理解できるものと期待しています。
各推奨診療を支えるエビデンスはアウトカムごとのレベルを検討した上で,「総体としてのエビデンスの確実さ」を推察できる編集表記方針としました。


1.本ガイドラインの目的

本ガイドラインの主な目的は,一般臨床医が食道癌(上皮由来食道悪性腫瘍を対象とし,その他の非上皮性食道悪性腫瘍,転移性食道悪性腫瘍は含まない)診療を行う際に診療方針を決定する際の情報を提供することである。さらに食道癌診療に携わる医師以外の医療従事者,患者およびその家族にも食道癌診療の概要を理解するための一助とすることである。また,本ガイドラインに記載された情報を共有することにより,医療者と患者およびその家族が相互に理解した上で食道癌診療を行うために資するガイドラインとする。

2.対象とする利用者

本ガイドラインが対象とする主な利用者は,一般臨床医,食道癌診療を専門とする医師である。食道癌診療に携わる医師以外の医療従事者,患者およびその家族にも参考となる情報を提供する。

3.対象とする患者

本ガイドラインの対象となる主な患者は,わが国の成人の食道癌患者,バレット食道およびバレット食道癌患者である。人口の高齢化に伴い,食道癌患者も高齢化が進んでいる。本ガイドラインのエビデンスとなる多くの臨床試験が75 歳以下を対象としており,76 歳以上の高齢者に対して本ガイドラインを適応する場合は注意が必要である。

4.利用上の注意

本ガイドラインは日本における保険診療の範囲内で標準的な診療を行うためのガイドラインである。日本を含む東アジア諸国に多い食道扁平上皮癌を対象として得られたエビデンスをより重要視し,欧米における主に食道腺癌を対象として得られたエビデンスについては,その背景や治療適応に注意しながら検討した。

ガイドラインは,標準的治療を行うための指針であり,診療行為を制限するものではない。とくに治療に際して高度の侵襲を伴い,治療設備(内視鏡治療機器,外科手術機器,放射線治療設備,集中治療室など),人的資源(集学的治療チーム)を必要とする食道癌診療において,患者状態や施設の状況に応じて診療方針が決定されるべきである。したがって,治療結果に対する責任は,直接の治療担当者に帰属し,本ガイドライン策定に携わった学会および個人に帰属しない。

5.第4 版ガイドライン改訂出版委員会

第4 版ガイドライン改訂出版委員会はこちら→

6.診療ガイドライン作成方法
1) スコープ作成

今回ガイドライン改訂にあたっては,下記の項目を課題として取り上げた。

(1)作成基本方針

2012 年6 月,第1 回食道癌診療ガイドライン検討委員会において,第4 版策定に向けた基本方針を審議した。本版からは食道癌診療全体を俯瞰するアルゴリズムに加えて,臨床病期ごとにより細かい治療アルゴリズムを作成した。実地臨床において判断が求められるアルゴリズムの分岐点に関連したClinical Question(CQ)を抽出することとした。

(2)改訂に伴うガイドラインの大きな変更点

  • ステージごとのアルゴリズムを導入したこと
  • 表現方法を変更し,医療従事者のみならず患者側からも使い易いガイドラインを目標としたこと
  • 胸腔鏡下食道切除術が普及したこと

(3)ガイドライン作成方法論について

公益財団法人日本医療機能評価機構EBM 医療情報部(Minds)出版の『Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014』を参考にした。

2) CQ 作成と文献検索

第3 版で掲載された77 個のCQ を再検討し治療アウトカムに関連する重要な判断,診療アルゴリズムの分岐点における判断基準となる重要なCQ の絞り込みを行った。CQ からキーワードを抽出し,1995 年1 月~2016 年6 月までの文献を対象として,系統的文献検索は日本医学図書館協会に依頼した。英文論文はPubMed,Cochrane Library を,日本語論文は医中誌Webを用いた。

具体的なキーワードと検索結果は,詳細版(日本食道学会ホームページ https://www.esophagus.jp/)に記載した。

さらに,系統的検索では収集しきれなかった論文についても,システマティックレビューチーム,作成委員の情報等をもとに適宜追加検索にて取り上げた。

(1)採用基準

成人の食道癌患者を対象とした論文で,原則としてランダム化比較試験や観察研究を採用した。ただし,設定アウトカムの内容によっては,症例集積研究も積極的に採用した。日本語と英語論文のみを採用した。専門家のレビューや他国のガイドライン等は,参考資料として内容を詳細に検討したが,エビデンスとしては用いなかった。

(2)除外基準

遺伝子研究や動物実験は除外した。

3) システマティックレビューの方法

各CQ について「益」と「害」のアウトカムを抽出し,重要度を提示した。検索された論文を対象に一次,二次スクリーニングを行い要約し,研究デザインの分類に加え論文としての偏りを判定した(表1)。「益」と「害」のアウトカムごとに個々の論文を総合して「エビデンス総体」として評価した(表23,A~D)。エビデンスの総体としての評価は,GRADE システムを参考に評価した(表2)。次に「アウトカムごとのエビデンス総体」を総括して,1 つのCQに対する総括としてのエビデンスの質を決定し,表記した(表3)。

表1 バイアスリスク評価項目 1)
表1:バイアスリスク評価項目
表2 アウトカムごと,研究デザインごとの蓄積された複数論文の総合評価 1)
表2:アウトカムごと,研究デザインごとの蓄積された複数論文の総合評価
表3 エビデンスの確実性 1)
表3:エビデンスの確実性
4) 推奨の強さの決定

システマティックレビューの結果をもとにガイドライン作成委員が,推奨文案を作成し,推奨の強さを決定するためのコンセンサス会議を開催した。エビデンスの確かさ,益と害,患者の希望,コスト評価に基づいて推奨の強さを検討した。コンセンサス形成方法は,modified Delphi 法,nominal group technique 法に準じて,アンサーパッドを用いた20 名の本ガイドライン検討委員会委員による無記名独立投票を行い70%以上の合意をもって決定した。1 回目の投票で70%以上の合意が得られない場合は,協議を行って2 回目の投票を行った。2 回目の投票でも合意が得られない場合は「推奨度を決定できない」と記載した。

推奨の強さの表記方法は,

  1. 行う,または,行わないことを「強く推奨する」
  2. 行う,または行わないことを「弱く推奨する」

の2 方向×2 段階の表示とした。

7.公聴会と外部評価

2016 年6 月に日本食道学会ホームページ上で,ガイドライン草案を公開し,臨床医およびその他の医療従事者,患者を含む一般からのパブリックコメントを求めた。2016 年7 月の第70 回日本食道学会で臨床医からのパブリックコメントを求めた。また協力団体に外部評価を依頼した。

パブリックコメントの内容および協力団体からの意見に関しては,本ガイドライン検討委員会で再度検討し,重要な項目については,再度システマティックレビューを行って適宜加筆修正することとした。

8.改訂について

本診療ガイドラインは,出版後も,本ガイドライン検討委員会を中心に,継続的に内容の検討や,広報,普及活用の活動を行う。おおよそ5 年後の改訂を予定している。また,臨床試験の結果の判明,保険適用の改訂など医療状況の変化に応じて適宜部分的改訂作業を行い,日本食道学会ホームページ上で公開する。

9.広報普及に関する活動(予定を含む)
1) ガイドライン作成方法に関する工夫

アルゴリズムフローチャートの記載を工夫し,コンセンサス会議における推奨の強さを決する投票結果の記載を行った。

2) 利用者の利便性向上

書籍として出版,インターネットでの無料公開(日本食道学会,Minds,日本癌治療学会など)市民講座での講演,学会研究会での広報などを行う。

10.利益相反(COI)と経済的独立性
1) 利益相反(COI)申告

本ガイドライン検討委員会およびガイドライン評価委員会の構成員は,日本食道学会の規定に従って利益相反の自己申告を行った。日本食道学会倫理委員会および理事会は自己申告された利益相反の状況を確認した。利益相反の状況については年度ごとに日本食道学会ホームページ上にアップロードする。

2) 利益相反(COI)申告に基づく推奨決定会議における制限

①本ガイドライン検討委員会構成員がガイドライン作成の根拠となる論文の著者である場合(学術的COI),②関連する薬剤や医療機器製造・販売に関与する企業または競合企業に関するCOI を有する場合(経済的COI)は,自己申告によりコンセンサス会議における投票に参加しないこととした。

3) 学会独自の学術的な偏りを防ぐ努力

複数の関連学術団体との協力体制を構築し,単独学術団体の学術的利益相反を避けることに努めた。

4) 経済的独立性

本ガイドライン作成,出版に関する費用は日本食道学会が支出し,企業からの資金提供は受けていない。

【参考文献】

1)
福井次矢,他 監,森實敏夫,他 編: Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014.医学書院,2014.