診療ガイドライン

Ⅱ.総論

1 がん薬物療法に伴う好中球減少症

がん薬物療法,特に殺細胞性抗がん薬を用いる際には,好中球減少症や,それに伴うFN,感染症が高頻度で生じ,抗菌薬等による治療や入院が必要になることも多く,致命的な経過をたどることもある。患者のQOL を低下させるほか,予定していたがん薬物療法の休薬や減量が必要となり,治療効果が減弱する可能性もある。好中球減少症に伴う合併症のリスクは,好中球減少の程度が強く,期間が長いほど高くなることが知られている1)。また,米国でFN によって入院した4 万人以上のがん患者のうち9.5%が入院中に亡くなったこと,合併症を有する患者で死亡率が高くなることが報告されている2)

2 G‒CSF の益と害

G‒CSF は,骨髄中で好中球の増殖・分化を誘導するほか,血管内への放出を促進し,好中球の機能も亢進する。その結果,好中球減少が抑えられ,好中球減少期間も短くなり,FN の予防につながる。FN の発症を予防することで,FN の治療コスト削減や患者のQOL 向上がもたらされるほか,がん薬物療法の休薬や減量を避け,治療強度を維持することが期待できる。状況によっては,がん薬物療法の強度を高めることで,OS の延長につながる可能性もある。これらの「益」が期待される一方で,G‒CSF 投与による有害事象やコスト等の「害」もあるため,益と害のバランスを慎重に検討して適応を判断する必要がある。

3 G‒CSF の使い方

G‒CSF の使用法としては,がん薬物療法開始後,好中球数によらず,FN 発症を防ぐ目的で投与を開始する「一次予防投与」,がん薬物療法の前コース投与によりFN または高度な好中球減少をきたした場合に,次コース投与後にFN 発症を防ぐ目的で投与を開始する「二次予防投与」,FN または高度な好中球減少が確認された際の治療として投与する「治療投与」がある。がん薬物療法時のG‒CSF の有効性を示したRCT の多くは,一次予防投与を評価したものであり,G‒CSF の使用法として確立しているのは,一次予防投与である。本ガイドライン2013 年版でも,治療投与ではなく,予防投与を推奨していた3)

しかし,日本で承認されている多くのG‒CSF では,一部のがん種を除き,好中球数1,000/μL 未満で発熱あるいは好中球数500/μL 未満が観察された時点から投与することが,用法・用量で明記されており,実際の医療現場でもこの基準で「治療投与」が行われていることが多い。G‒CSF は,好中球数を減らさないように,あるいは,FN の発症を予防するために使用するものであって,好中球数が減ってから,あるいは,FN が発症してから使うというのは,本来の目的にかなった使用法ではなく,G‒CSF 適正使用のためには,添付文書の改訂が強く求められる。

なお,2014 年に承認されたペグフィルグラスチムは,効能・効果が「がん化学療法による発熱性好中球減少症の発症抑制」となっており,がん種によらず予防投与が認められた最初のG‒CSF となった。

表1 主なガイドラインにおける発熱性好中球減少症の定義

4 発熱性好中球減少症(FN)の定義

FN は,好中球減少と同時に発熱がみられる状態を指し,その多くは感染症による発熱と考えられている。FN は,発熱の程度と末梢血液中の好中球絶対数(absolute neutrophil count;ANC)の程度で定義される。表1 に示す通り,ガイドラインにより定義は異なっており4‒8),研究によっても定義は異なる。本ガイドラインでは,原則として,日本臨床腫瘍学会「発熱性好中球減少症(FN)診療ガイドライン」8)の定義にあわせ,「好中球数が500/μL 未満,あるいは1,000/μL 未満で48 時間以内に500/μL 未満に減少すると予測される状態で,腋窩温37.5℃以上(または口腔内温38℃以上)の発熱を生じた場合」とする。

5 アウトカムとしての発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

G‒CSF の有効性を評価する際のアウトカムとして,FN 発症率が用いられており,ASCO ガイドラインでは,「FN 発症率の減少自体が重要なアウトカムである」としている9)。FN 予防により,患者の負担が減り,QOL が向上することが期待されるが,FN の評価法や定義も定まっていない中で,これを真のエンドポイントとすることの妥当性については意見が分かれている。FN 発症率を重要なアウトカムと位置付けつつ,QOL やOS などのアウトカムもあわせて評価することが重要と考えられる。一口にFN といっても,致命的なFN から,あまり不利益をもたらさないFN まで幅があり,それを考慮した評価も必要と思われる。

6 発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)のカットオフ

G‒CSF の適正使用に関して,ASCO から最初のガイドラインが出されたのは1994 年であった10)。ASCO ガイドライン1994 年版では,FN 発症率が40%以上と予測されるようながん薬物療法を行う際に限ってG‒CSF の一次予防投与が推奨されていた。日本においては,2001 年に,日本癌治療学会から,本ガイドラインの前身が公表されたが,当時のASCO ガイドラインに基づく記載が中心となっており,無熱で好中球減少をきたしている場合のG‒CSF 投与は勧められないこと,高率にFN をきたすことが予測されるがん薬物療法に限ってG‒CSF 一次予防投与が推奨されることが記されていた11)。当時,一部のがん種(悪性リンパ腫,小細胞肺がん,胚細胞腫瘍等)を除いて,G‒CSF の予防投与は保険適用とはなっていなかったため,医療現場では,好中球数減少がみられた際に好中球数を上げるために投与する,あるいは,FN をきたした際に治療投与する,という使用法が一般的であった。そのような中で,G‒CSF の予防投与を中心とするガイドラインが作成されたのは先駆的であったが,このガイドラインが実地診療に与えた影響はあまり大きくはなかった。

その後,ASCO ガイドラインは,1996 年,1997 年,2000 年に改訂が行われたのち,2006 年の改訂で,FN 発症率の減少自体が重要なアウトカムと位置付けられると記載されるとともに,がん薬物療法において,患者,疾患,治療に関する因子に基づきFN 発症率が20%以上と推測される際にG‒CSF の一次予防投与が推奨されることが明記され9),2015 年版でも踏襲されている12)。2006 年に出され,2010 年に改訂されたEORTC のガイドラインでも,G‒CSF の一次予防投与を推奨する基準として「FN 発症率20%」が採用されている13,14)。また,NCCN のガイドラインでも,同様に,「FN 発症率20%」がカットオフとして採用され,2022 年版まで引き継がれている6)。EORTC とNCCN のガイドラインでは,FN 発症率が10~20%の場合には,患者ごとのリスク因子も考慮した上でG‒CSF の一次予防投与を検討するとしている。

このような世界の流れを受け,2011 年,日本癌治療学会G‒CSF 適正使用ガイドライン改訂ワーキンググループが設置され,本ガイドライン2001 年版を全面改訂する形で,本ガイドライン2013 年版が作成された3)。本ガイドライン2013 年版では,ASCO ガイドライン2006 年版,EORTC ガイドライン2010 年版,および,NCCN ガイドラインと足並みを揃えることに主眼が置かれ,「FN 発症率が20%以上のレジメンを使用するとき,FN を予防するために,G‒CSF の一次予防的投与が推奨される」「FN 発症率が10~20%のレジメンを使用するとき,FN 発症または重症化のリスクが高いと考えられる因子を持つ患者ではG‒CSF の一次予防的投与が考慮されるが,それ以外の患者ではG‒CSF の一次予防的投与は推奨されない」と記載された(2013 年版では,「予防投与」を「予防的投与」と記載していた)。医療現場で広く用いられてきた「治療投与」ではなく,G‒CSF の本来の使い方は予防投与であることを示す内容であった。

本ガイドライン2013 年版は,2015 年以降2018 年まで,年1 回の部分改訂を重ね,2018 年には本ガイドライン2013 年版Ver. 5 が公開された。もともと,5 年ごとに全面改訂が行われる予定となっていたこともあり,2018 年10 月に新しい「G‒CSF 適正使用ガイドライン改訂ワーキンググループ」が組織され,全面改訂の作業が始まった。新たなガイドラインは,「Minds 診療ガイドライン作成の手引き2014」「Minds 診療ガイドライン作成マニュアル2017」に準拠し,システマティックレビューに基づいて作成する方針となったが,最初に議論されたのは,FN 発症率に基づく推奨の是非であった。FN 発症率のカットオフを設定し,それ以上のリスクのあるがん薬物療法を行うときにG‒CSF 一次予防投与を推奨することができれば,その推奨は,わかりやすく,汎用性も高く,ガイドライン作成作業も容易となる。それが,この推奨が世界中の多くのガイドラインで受け入れられている理由なのだろうが,実のところ,FN 発症率のカットオフ20%というのは,明確な根拠に基づくものではなく,ガイドライン作成者のコンセンサスによって決められている数字にすぎない。同じ疾患の同じレジメンであっても,臨床試験ごとに「FN 発症率」にはばらつきがあり,明確に評価するのは困難だという問題点も指摘されている。たとえば,本ガイドライン2013 年版ver. 5 では,乳がんに対するTC 療法(ドセタキセル+シクロホスファミド)のFN 発症率として,68.8%と5%という全く異なる2 つの数値が併記されている。また,同じFN であっても,致命的なFN から,あまり問題にならないFN まで幅があり,それを一律に扱うことにも疑問が呈された。議論の結果,新しいガイドラインでは,「FN 発症率20%のカットオフ」を前提にしてガイドライン作成を行うのは適切ではないと判断され,G‒CSF一次予防投与の益と害を評価するために,がん種ごとにシステマティックレビューを行う方針となった。これは,ASCO,EORTC,NCCN のガイドラインとは一線を画すものであり,世界的にも前例のないチャレンジングな取り組みであったが,エビデンスに基づくガイドラインであるためには,避けて通ることのできない道であると判断した。

参考文献

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Ⅲ.一次予防投与

Q1(CQ)
乳がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

推奨の強さ1(強い)
エビデンスの強さA(強)
乳がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与を行うことを強く推奨する

合意率:90.9%(20/22 名)

解説

乳がんに対し,再発リスク低下やOS の延長を目的としたがん薬物療法を行う際,G‒CSF の一次予防投与は,FN 発症率を低下させることが示されており,強く推奨される。特に,TC 療法(ドセタキセル+シクロホスファミド),FEC100 療法,DTX100 療法の際に一次予防投与が強く勧められる。しかし,G‒CSF の一次予防投与によるOS の改善は明らかではなく,また骨痛の発症率が高まる傾向がある点に留意すべきである。

1 本CQ の背景

乳がんに対しては,術後再発リスクの低下やOS の延長を目的として,アントラサイクリン系抗がん薬やタキサン系抗がん薬など様々なレジメンが用いられる。G‒CSF の一次予防投与を行わなかったときに,FN が生じるリスクが比較的高いと考えられるレジメンとして,TC 療法,TAC 療法,FEC 療法などがあり,実地診療ではこれらのレジメンに対してG‒CSF の一次予防投与が行われることが多いと考えられる。

2 アウトカムの設定

本CQ では,がん薬物療法を受ける乳がん患者を対象に,G‒CSF を一次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目について評価した。特に,アウトカムとして,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「疼痛」を重要視した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 383 編,Cochrane 1 編,医中誌60 編が抽出され,計444 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された8 編を対象に定性的システマティックレビュー,うち5 編についてメタアナリシスを実施した。8 編のうち7 編は術前または術後薬物療法に関するものであり,1 編は転移再発乳がんを対象とした報告であった。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)全生存期間(OS)

評価対象となった文献は3 編1‒3)で,浸潤性乳がん患者に対し一次予防投与としてG‒CSF を用いた場合のOS を評価しているRCT は1 編3)のみであった。炎症性乳がんに対する術前FEC 療法(フルオロウラシル750 mg/m2 Day 1~4 持続投与,エピルビシン35 mg/m2 Day 2~4,シクロホスファミド400 mg/m2 Day 2~4,3 週毎投与で4 サイクル)投与において,G‒CSF 併用群とG‒CSF 非併用群の3 年生存率がそれぞれ62%,67%と報告されているが,副次評価項目であり検定は行われていない3)。RCT 1 編のみの記載であったため,メタアナリシスを実施していない。抽出された文献において,ランダム化は管理されており,重大なバイアスは認めなかった。
エビデンスの強さC(弱)

(2)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

浸潤性乳がん患者で一次予防投与としてG‒CSF を用いた場合のFN 発症率を評価している文献はRCT 5 編1,4‒7)とコホート研究1 編8)が抽出された。そのうちFN 発症率の詳細が報告されていないRCT 1 編1)を除いた,RCT 4 編4‒7)とコホート研究1 編8)でメタアナリシスが実施された。メタアナリシスの結果,RD 0.22(95%CI:0.01‒0.43,p=0.04)と,有意に一次予防によるFN 発症率の低下を認めた。ランダム化は管理されており,重大なバイアスは認めなかったが,1 つのRCT でG‒CSF を用いずシプロフロキサシンの内服を行っていた。また,出版バイアスは認められなかった。
エビデンスの強さA(強)

FN 発症率のメタアナリシス結果

(3)感染による死亡率

浸潤性乳がん患者で一次予防投与としてG‒CSF を用いた場合の感染による死亡率は,RCT 2 編3,4)があり,いずれの試験でも死亡例が報告されていないため,評価不能であった。その他のRCT では死亡に関する記述は認めなかった。1 つのRCT でG‒CSF を用いない群でシプロフロキサシンの内服が行われている以外は,異質性は認めなかった。ランダム化は管理されており,重大なバイアスは認めなかった。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(4)生活の質(QOL)

QOL を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(5)疼痛

浸潤性乳がん患者で一次予防投与としてG‒CSF を用いた場合の疼痛についてRCT は4 編3,4,6,7)あり,重大な非直接性やバイアスは認めなかった。いずれの試験でも疼痛の発症率について,検定は行われていないが,G‒CSF 併用群で疼痛の頻度が高い傾向がみられた。術後TC 療法に対するG‒CSF の有効性を評価した第Ⅲ相RCT では,骨痛の発症率はG‒CSF 群と非G‒CSF 群でそれぞれ6.4%と2.3%と報告されている4)。また,術前FEC 療法を用いた試験においては,骨痛の発症率はG‒CSF 群と非G‒CSF 群でそれぞれ49%と8%と報告されている3)。これらの試験では重大な非直接性やバイアスは認められなかった。メタアナリシスは行われていない。
エビデンスの強さB(中)

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

本CQ では,G‒CSF の一次予防投与の有用性を評価するため,益のアウトカムとして「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」を重要視した。OS を評価しているRCT は1 編のみであり,また検定が行われていないことから,OS の改善は明らかではない。一方,FN 発症率については,RCT 5 編のメタアナリシスを行い,RD 0.22(95%CI:0.01‒0.43,p=0.04)と,有意に一次予防投与によるFN 発症率の低下が示された。これらの試験で重大なバイアスは認めていなかった。FN 発症率の低下自体が重要なアウトカムであると考えられるため,益を有すると判断した。よく管理された複数のRCT の結果に基づいていることから,エビデンスの強さは強いと判断した。レジメンに関しては,今回のシステマティックレビューではTC 療法,アントラサイクリン系抗がん薬を含むレジメン,FEC100 療法,DTX100 療法,EC(120/600)療法を用いたRCT が採用されていた。システマティックレビュー全体の結果と各RCT の結果から,TC 療法,FEC100 療法,DTX100 療法の際に一次予防投与の益があると考えられた。

(2)害

浸潤性乳がん患者で一次予防投与としてG‒CSF を用いた場合の疼痛について評価している4 編のRCT では,G‒CSF 併用群で疼痛の頻度が高い傾向がみられたものの,検定は行われておらず,エビデンスの強さは限定的である。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,FN 発症率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

(5)まとめ

益としてはFN 発症率低下が,害としては疼痛の増加があり,それぞれエビデンスの強さはA(強),B(中)であった。FN 発症率の低下を重視し,益と害のバランスは益が害を上回ると判断した。全体としては複数のよくコントロールされたRCT があることから,総じてエビデンスの強さはA(強)と判断した。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は22 名(医師20 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。

システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「乳がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与を行うことを強く推奨する」が提示され,推奨決定の協議と投票の結果,22 名中20 名が原案に賛同し合意形成に至った。

7 今後の研究課題

浸潤性乳がん患者に対するG‒CSF の一次予防投与によるOS の改善は明らかではなく,また感染による死亡率や生活の質など重要なアウトカムに関する評価が十分行われておらず,今後の研究課題である。疼痛については,G‒CSF によって骨痛の発症率が高まる傾向が報告されているものの検定は行われておらず,その対処法も含めて,今後さらに検討を進めるべき課題であると考えられた。

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Q2(CQ)
進行非小細胞肺がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

推奨の強さ2(弱い) 
エビデンスの強さD(非常に弱い)
進行非小細胞肺がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与を行うことを弱く推奨する
該当するレジメンは,ドセタキセル+ラムシルマブ療法

合意率:90.9%(20/22 名)

解説

進行非小細胞肺がんに対するドセタキセル+ラムシルマブ療法において,G‒CSF の一次予防投与により,エビデンスは弱いが,FN 発症率の低下が認められた。OS の延長効果については明らかではないが,ドセタキセル+ラムシルマブ療法を行う際には,G‒CSF の一次予防投与を検討してもよい。その他のレジメンについてはG‒CSF の一次予防投与を推奨するエビデンスは乏しい。

1 本CQ の背景

非小細胞肺がんに対しては,プラチナ系抗がん薬やタキサン系抗がん薬などを中心に様々なレジメンが用いられる。G‒CSF の一次予防投与を行わなかったときに,FN が生じるリスクが比較的高いと考えられるレジメンとして,ドセタキセル+ラムシルマブ療法がある。「G‒CSF 適正使用ガイドライン2013 年版ver. 5」に記載されたレジメンの中ではドセタキセル+ラムシルマブ療法のFN 発症率が20%を超えており,実地診療では,ドセタキセル+ラムシルマブ療法使用時にG‒CSF の一次予防投与が行われることが多い。

2 アウトカムの設定

本CQ では,がん薬物療法を受ける進行非小細胞肺がん患者を対象に,G‒CSF を一次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 93 編,Cochrane 0 編,医中誌16 編が抽出され,計109 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された5 編を対象に定性的システマティックレビューを実施した。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)全生存期間(OS)

OS を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(2)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

症例対照研究が2 編あり1,2),Mouri らの検討では,FN 発症率はペグG‒CSF 投与群(0/29 例)と非投与群(2/4 例)1),Takase らの検討ではペグG‒CSF 投与群(0/10 例)と非投与群(4/10 例)であった2)。G‒CSF 投与群でFN 発症率が低かったが,どちらも少数例の報告であり,多変量解析は行われていなかった。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(3)感染による死亡率

感染による死亡率を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(4)生活の質(QOL)

QOL を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(5)疼痛

疼痛を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

検討できる論文数が少なかったが,ドセタキセル+ラムシルマブ療法についてはG‒CSF の一次予防投与によってFN 発症率の低下を認めた。その他のアウトカムについては評価できなかった。

(2)害

論文数が少なく,害については十分に検討できなかった。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,FN 発症率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

(5)まとめ

進行非小細胞肺がんのがん薬物療法におけるG‒CSF の一次予防投与については,ドセタキセル+ラムシルマブ療法については,FN 発症率の低下が示されているが,その他のレジメンについては明らかなエビデンスは認められなかった。そのため,本CQ に対する推奨については,ドセタキセル+ラムシルマブ療法に限ったものとした。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は22 名(医師20 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。

システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「進行非小細胞肺がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与を行うことを弱く推奨する」が提示され,推奨決定の協議と投票の結果,22 名中20 名が原案に賛同し合意形成に至った。
該当するレジメンは,ドセタキセル+ラムシルマブ療法

7 今後の研究課題

非小細胞肺がんに対するG‒CSF の一次予防投与の有無でOS やFN 発症率を比較している論文は少なく,今後の研究が待たれる。

また,ドセタキセル+ラムシルマブ療法のFN 発症率については,海外と国内臨床試験の間で大きな解離が認められた。日本人の参加していない海外第Ⅲ相比較試験(REVEL 試験)3)では,ドセタキセル単剤群のFN 発症率が10%,ドセタキセル+ラムシルマブ療法群で16%であったが,国内第Ⅱ相比較試験(JVCG 試験)4)におけるFN 発症率はドセタキセル群で19.8%,ドセタキセル+ラムシルマブ療法群で34.2%であった。FN 発症率には人種差がある可能性が考えられるため,海外臨床試験の結果だけでなく,日本におけるFN 発症率の情報を集めて評価する必要がある。また,G‒CSF の一次予防投与が許容されている臨床試験もあり,その場合は一次予防投与がどのくらいで行われていたかの情報開示も必要であると考えられる。

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Takase M, Shibata K, Iwasa K, et al. Measures to Ensure Safety of Docetaxel plus Ramucirumab for Advanced Non‒Small‒Cell Lung Cancer as the Second‒ or Later‒Line. Gan To Kagaku Ryoho. 2019;46:1039‒42.
3)
Garon EB, Ciuleanu TE, Arrieta O, et al. Ramucirumab plus docetaxel versus placebo plus docetaxel for second‒line treatment of stage Ⅳ non‒small‒cell lung cancer after disease progression on platinum‒based therapy(REVEL):a multicentre, double‒blind, randomised phase 3 trial. Lancet. 2014;384:665‒73.
4)
Yoh K, Hosomi Y, Kasahara K, et al. A randomized, double‒blind, phase Ⅱ study of ramucirumab plus docetaxel vs placebo plus docetaxel in Japanese patients with stage Ⅳ non‒small cell lung cancer after disease progression on platinum‒based therapy. Lung Cancer. 2016;99:186‒93.

Q3(CQ)
進展型小細胞肺がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
進展型小細胞肺がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与を行わないことを弱く推奨する

合意率:95.5%(21/22 名)

解説

進展型小細胞肺がんのがん薬物療法におけるG‒CSF の一次予防投与については,OS,感染による死亡率,QOL,疼痛の改善に関する研究は認められず有用性については不明である。また,FN 発症率を減少させる傾向が認められたが,エビデンスとしては弱いことから,G‒CSF の一次予防投与を行わないことを弱く推奨する。現在使用されているがん薬物療法に関するエビデンスが乏しく,今後のエビデンスの集積が待たれるが,リスクの高いレジメンを用いる場合や高リスク症例においては,G‒CSF の一次予防投与を行うことも考慮する。

1 本CQ の背景

進展型小細胞肺がんに対しては,プラチナ系抗がん薬やトポイソメラーゼ阻害薬などを中心に様々なレジメンが用いられる。G‒CSF の一次予防投与を行わなかったときに,FN が生じるリスクが比較的高いと考えられるレジメンとして,ノギテカン,シスプラチン+イリノテカン+エトポシド療法がある。「G‒CSF 適正使用ガイドライン2013 年版ver. 5」1)に記載されたレジメンの中では,シスプラチン+イリノテカン+エトポシド療法のFN 発症率が20%を超えており,実地診療では,G‒CSF の一次予防投与が考慮されるものと考えられる。その後,進展型小細胞肺がんに対して,新たにカルボプラチン+エトポシド+アテゾリズマブ療法またはプラチナ系抗がん薬+エトポシド+デュルバルマブ療法などの免疫チェックポイント阻害薬併用の有効性が示されたが,臨床試験では当該療法実施の際にG‒CSF 一次予防投与は推奨されていなかった2,3)。ASCO ガイドライン4),ESMO ガイドライン2016 年版5),NCCN ガイドライン6)において進展型小細胞肺がん患者に対するG‒CSF の一次予防投与についての特段の記載はなく,一般的な使用レジメンごとのFN 発症リスクに応じて一次予防投与について考慮すべきとされているのみである。

個々のレジメンにおいてG‒CSF の一次予防投与の有用性は明らかにされていないが,進展型小細胞肺がんにおいても免疫チェクポイント阻害薬併用が標準治療となるなど,新たな治療法が開発されており,G‒CSF 一次予防投与の有用性をエビデンスに基づいて検討することが求められる。

2 アウトカムの設定

本CQ では,がん薬物療法を受ける進展型小細胞肺がん患者を対象に,G‒CSF を一次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 59 編,Cochrane 1 編,医中誌20 編が抽出され,計80 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された6 編を対象に定性的システマティックレビュー,うち5 編についてメタアナリシスを実施した。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)全生存期間(OS)

OS を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(2)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

システマティックレビューを行った6 編7‒12)のうち1 編12)は症例対照研究であったが,発症率の記載はなく,エビデンスの強さはD(非常に弱い)とした。残る5 編はコホート研究であったが,そのうち3 編9‒11)は単群でのコホート試験であった。メタアナリシスの結果,FN 発症率は,対照群が9/50 例(18%),介入群が53/232 例(22.8%)で,OR 0.38(95%CI:0.03‒5.56,p=0.48)と有意差を認めなかった。文献数も少なく,エビデンスの強さはD(非常に弱い)とした。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(3)感染による死亡率

感染による死亡率を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(4)生活の質(QOL)

QOL を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(5)疼痛

疼痛を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

システマティックレビューの結果では,RCT はなく,コホート研究のメタアナリシスではFN 発症率に有意差を認めなかった。OS,感染による死亡率,QOL について評価された研究は抽出されなかったため,評価できなかった。

(2)害

疼痛については検討された研究は抽出されなかった。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,FN 発症率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は22 名(医師20 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「進展型小細胞肺がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与を行わないことを弱く推奨する」が提示され,推奨決定の協議と投票の結果,22 名中21 名が原案に賛同し合意形成に至った。当初の推奨草案は「一律には行わないことを弱く推奨する」としていたが,FN 発症率が高いレジメンについては解説文中で記載することとし,推奨自体は「行わないことを弱く推奨する」と変更することとなった。また,文献数が少なく信頼区間の幅も広いため,エビデンスの強さは当初の推奨草案の「C」から「D」に変更となった。

7 今後の研究課題

今回のシステマティックレビューではFN 発症率に関する検討しか行えておらず,G‒CSF の一次予防投与がOS や感染による死亡率,およびQOL に与える影響についての質の高い研究が今後行われることが望まれる。

参考文献

1)
日本癌治療学会編.G‒CSF 適正使用ガイドライン2013 年版ver. 5. http://www.jsco-cpg.jp/item/30/index.html
2)
Horn L, Mansfield AS, Szczęsna A, et al. First‒Line Atezolizumab plus Chemotherapy in Extensive‒Stage Small‒Cell Lung Cancer. N Engl J Med. 2018;379:2220‒9.
3)
Paz‒Ares L, Dvorkin M, Chen Y, et al. Durvalumab plus platinum‒etoposide versus platinum‒etoposide in first‒line treatment of extensive‒stage small‒cell lung cancer(CASPIAN):a randomised, controlled, open‒label, phase 3 trial. Lancet. 2019;394:1929‒39.
4)
Smith TJ, Bohlke K, Lyman GH, et al. American Society of Clinical Oncology. Recommendations for the Use of WBC Growth Factors:American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline Update. J Clin Oncol. 2015;33:3199‒212.
5)
Klastersky J, de Naurois J, Rolston K, et al. Management of febrile neutropaenia:ESMO Clinical Practice Guidelines. Ann Oncol. 2016;27(suppl 5):v111‒8.
6)
NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Hematopoietic Growth Factors Version 1. 2022.
7)
山口哲生,栗田雄三,斉藤龍生,他.小細胞肺癌療法後における好中球減少に対するrecombinant human G‒CSF の臨床検討.Biotherapy. 1994;8:1423‒9.
8)
Schiller JH, Kim K, Hutson P, et al. Phase Ⅱ study of topotecan in patients with extensive‒stage small‒cell carcinoma of the lung:an Eastern Cooperative Oncology Group Trial. J Clin Oncol. 1996;14:2345‒52.
9)
Goto K, Sekine I, Nishiwaki Y, et al. Multi‒institutional phase Ⅱ trial of irinotecan, cisplatin, and etoposide for sensitive relapsed small‒cell lung cancer. Br J Cancer. 2004;91:659‒65.
10)
Hata A, Katakami N, Fujita S, et al. Amrubicin at a lower‒dose with routine prophylactic use of granulocyte‒colony stimulating factor for relapsed small‒cell lung cancer. Lung Cancer. 2011;72:224‒8.
11)
Goto K, Ohe Y, Shibata T, et al. Combined chemotherapy with cisplatin, etoposide, and irinotecan versus topotecan alone as second‒line treatment for patients with sensitive relapsed small‒cell lung cancer(JCOG0605):a multicentre, open‒label, randomised phase 3 trial. Lancet Oncol. 2016;17:1147‒57.
12)
Negoro Y, Yano R, Yoshimura M, et al. Influence of UGT1A1 polymorphism on etoposide plus platinum‒induced neutropenia in Japanese patients with small‒cell lung cancer. Int J Clin Oncol. 2019;24:256‒61.

Q4(FQ)
食道がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

食道がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与の有用性は明らかではない

合意率:95.8%(23/24 名)

1 本FQ の背景

食道がんには,フッ化ピリミジン系抗がん薬やプラチナ系抗がん薬,免疫チェックポイント阻害薬,タキサン系抗がん薬が用いられる。本ガイドライン2013 年版ver. 5 では食道がんのレジメンでFN 発症率が20%を超えるものは,ドセタキセルのみであった。ドセタキセル単剤についての2 編の報告において,FN 発症率は32%1)と18%2)であった。他のレジメンのFN 発症率は低く,実地診療でG‒CSF の一次予防投与はほとんど行われていない。海外の主要なガイドラインにおいても,食道がんのがん薬物療法におけるG‒CSF の一次予防投与に関する記載はない。

2 解説

食道がんに対するG‒CSF の一次予防投与の有用性について,システマティックレビューを行って評価した。文献検索時は,ペムブロリズマブ+シスプラチン+5‒FU 療法が承認される前であった。本Question は当初CQ として,がん薬物療法を受ける食道がん患者を対象に,G‒CSF を一次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目をアウトカムとして設定し,システマティックレビューでの評価を試みた。文献検索の結果,PubMed 11 編,Cochrane 0 編,医中誌11 編が抽出され,計22 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て,症例対照研究5 編3‒7)が抽出された。しかし,全文献がDCF 療法に関する内容であり,文献検索時の標準治療であるCF 療法等について対象とした文献は抽出されなかった。そのため,本Question をFQ に転換のうえ,ステートメントを「食道がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与の有用性は明らかではない」とした。

文献検索時以降の2021 年11 月,KEYNOTE‒590 試験8)の結果を受け,抗PD‒1 抗体ペムブロリズマブが根治切除不能な進行・再発の食道がんに対して適応拡大となり,ペムブロリズマブ+シスプラチン+5‒FU 療法が使用可能になった。本試験では,G‒CSF の一次予防投与は行われず,FN 発症率は5%未満であった。また,臨床病期ⅠB/Ⅱ/Ⅲ食道がん(T4 を除く)に対する術前CF 療法/術前DCF 療法/術前CF 療法+放射線療法の第Ⅲ相比較試験(JCOG1109)9)では術前DCF 療法でOS の優越性が示された。術前CF 療法/術前DCF 療法/術前CF 療法+放射線療法のそれぞれのFN 発症率は1.0%/16.3%/4.7%であった。本原稿執筆時点で論文未発表であり,本試験のG‒CSF 投与,予防的抗菌薬使用状況などは明らかではない。また,切除不能または再発食道がんに対するCF 療法とbDCF(biweekly DCF)療法の第Ⅲ相RCT(JCOG1314)が行われており,結果が待たれる。

参考文献

1)
Heath EI, Urba S, Marshall J, et al. Phase Ⅱ trial of docetaxel chemotherapy in patients with incurable adenocarcinoma of the esophagus. Invest New Drugs. 2002;20:95‒9.
2)
Muro K, Hamaguchi T, Ohtsu A, et al. A phase Ⅱ study of single‒agent docetaxel in patients with metastatic esophageal cancer. Ann Oncol. 2004;15:955‒9.
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髙橋克之,豕瀬 諒,髙橋正也,他.ドセタキセル+シスプラチン+5‒フルオロウラシル療法施行食道がん患者に対するペグフィルグラスチムによる発熱性好中球減少症の一次予防効果の検討.医療薬.2017;43:336‒43.
4)
Yasuda T, Ishikawa T, Ohta T, et al. Impact of Primary Prophylaxis with Pegfilgrastim on Clinical Outcomes in Patients with Advanced Esophageal Cancer Receiving Chemotherapy with Docetaxel, Cisplatin, and 5‒FU. Gan To Kagaku Ryoho. 2018;45:1733‒6.
5)
Yoshida Y, Komori K, Aoki M, et al. Efficacy of pegfilgrastim administration in patients with esophageal cancer treated with docetaxel, cisplatin, and 5‒fluorouracil. Pharmazie. 2018;73:613‒6.
6)
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Ohkura Y, Ueno M, Udagawa H. Risk factors for febrile neutropenia and effectiveness of primary prophylaxis with pegfilgrastim in patients with esophageal cancer treated with docetaxel, cisplatin, and 5‒fluorouracil. World J Surg Oncol. 2019;17:125.
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Sun JM, Shen L, Shah MA, et al. KEYNOTE‒590 Investigators. Pembrolizumab plus chemotherapy versus chemotherapy alone for first‒line treatment of advanced oesophageal cancer(KEYNOTE‒590):a randomised, placebo‒controlled, phase 3 study. Lancet. 2021;398:759‒71.
9)
Kato K, Ito Y, Daiko H, et al. A randomized controlled phase Ⅲ trial comparing two chemotherapy regimen and chemoradiotherapy regimen as neoadjuvant treatment for locally advanced esophageal cancer, JCOG1109 NExT study. ASCO GI 2022;January 20‒22, 2022. Abstract 238.

Q5(FQ)
胃がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

胃がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与の有用性は明らかではない

合意率:95.8%(23/24 名)

1 本FQ の背景

胃がんには,フッ化ピリミジン系抗がん薬やプラチナ系抗がん薬,免疫チェックポイント阻害薬,タキサン系抗がん薬,イリノテカン,ラムシルマブ,トラスツズマブ,トラスツズマブ デルクステカンなどが用いられる。本ガイドライン2013 年版ver. 5 では胃がんでFN 発症率が20%を超えるレジメンとして,ドセタキセル+シスプラチン療法,ドセタキセル+シスプラチン+5‒FU 療法が記載されているが,現在の標準治療ではなく,実地診療でG‒CSF の一次予防投与はほとんど行われていない。海外の主要なガイドラインにおいても,胃がんのがん薬物療法におけるG‒CSF の一次予防投与に関する記載はない。

2 解説

胃がんに対するG‒CSF の一次予防投与の有用性について,システマティックレビューを行って評価した。文献検索時は,治癒切除不能な進行・再発の胃がんに対する化学療法+ニボルマブ療法やHER2 陽性胃がんに対するトラスツズマブ デルクステカンが承認される前であった。本Question は当初CQ として,がん薬物療法を受ける胃がん患者を対象に,G‒CSF を一次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目をアウトカムとして設定し,システマティックレビューでの評価を試みた。文献検索の結果,PubMed 27 編,Cochrane 0 編,医中誌12 編が抽出され,計39 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て,システマティックレビューの対象となる文献が抽出されなかったため,本Question をFQ に転換の上,ステートメントを「胃がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与の有用性は明らかではない」とした。

ATTRACTION‒4 試験1),CheckMate649 試験2)に基づき,治癒切除不能な進行・再発の胃がんに対して化学療法+ニボルマブ療法が承認された。両試験においてG‒CSF の一次予防投与は行われておらず,FN 発症率は,ATTRACTION‒4 試験で1%未満,CheckMate649 試験で2.6%であった。また,DESTINY‒Gastric01 試験3)に基づき,がん化学療法後に増悪したHER2 陽性の治癒切除不能な進行・再発の胃がんに対して,トラスツズマブ デルクステカン療法が承認された。本試験ではG‒CSF の一次予防投与は行われておらず,トラスツズマブ デルクステカンのFN 発症率は4.8%であった。

参考文献

1)
Kang YK, Chen LT, Ryu MH, et al. Nivolumab plus chemotherapy versus placebo plus chemotherapy in patients with HER2‒negative, untreated, unresectable advanced or recurrent gastric or gastro‒oesophageal junction cancer(ATTRACTION‒4):a randomised, multicentre, double‒blind, placebo‒controlled, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2022;23:234‒47.
2)
Janjigian YY, Shitara K, Moehler M, et al. First‒line nivolumab plus chemotherapy versus chemotherapy alone for advanced gastric, gastro‒oesophageal junction, and oesophageal adenocarcinoma(CheckMate 649):a randomised, open‒label, phase 3 trial. Lancet. 2021;398:27‒40.
3)
Shitara K, Bang YJ, Iwasa S, et al. Trastuzumab Deruxtecan in Previously Treated HER2‒Positive Gastric Cancer. N Engl J Med. 2020;382:2419‒30.

Q6(FQ)
膵がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

膵がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与の有用性は明らかではない

合意率:100%(24/24 名)

1 本FQ の背景

進行膵がんに対する代表的なレジメンとして,ゲムシタビン+ナブパクリタキセル療法,FOLFIRINOX 療法,5‒FU+レボホリナート+リポソーマルイリノテカン療法などがある。FN 発症リスクが高いと考えられるレジメンとして,FOLFIRINOX 療法が挙げられる1)。FOLFIRINOX 療法(原法)を日本人集団に実施した場合,FN 発症率が22.2%と報告されている2)。NCCN のガイドラインでもFN 発症率が20%を超える治療レジメンとしてFOLFIRINOX 療法が挙げられている3)。転移性膵がんに対する一次治療としてFOLFIRINOX 療法とゲムシタビンを比較したPRODIGE 4‒ACCORD 11 試験ではG‒CSF の一次予防投与は許容されておらず,FOLFIRINOX 療法によるFN 発症率は5.4%であったが,二次予防投与が許容されており,FOLFIRINOX 療法群の42.5%の症例でG‒CSF が使用されていた1)

2 解説

本Question は当初CQ として,がん薬物療法を受ける膵がん患者を対象に,G‒CSF を一次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目をアウトカムとして設定し,システマティックレビューでの評価を試みた。文献検索の結果,PubMed 17 編,Cochrane 0 編,医中誌11 編が抽出され,ハンドサーチ3 編を加えた計31 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て,症例対照研究2 編,症例集積研究1 編の計3 編が抽出され,定性的システマティックレビューを実施した。

OS について評価した文献は症例対照研究1 編のみであった。Moorcraft らはFOLFIRINOX 療法を実施した局所進行あるいは転移性膵がん49 例について後ろ向き解析を実施した。そのサブグループ解析ではG‒CSF 一次予防投与群に対する非投与群のOS のHR は2.86(95%CI:1.21‒6.2,p=0.005)であり,非投与群でのOS 短縮が観察された4)。しかし,局所進行症例と転移症例が混在しており各群での割合が不明なため背景因子の差が大きい可能性があった。また,G‒CSF の一次予防投与は担当医判断で実施されており,交絡の調整も不十分であると考えられた。サンプル数が少なく,バイアスリスクも深刻であるためエビデンスの強さはD(非常に弱い)と判断した。

FN 発症率,感染による死亡率はMoorcraft らの症例対照研究1 編に加え,二宮らが実施した症例集積研究1 編で評価された。二宮らはmodified FOLFIRINOX 療法を実施した局所進行膵がん10 例について後ろ向き解析を実施した5)。対象となった2 編についてFN 発症率の統合解析を行った結果,G‒CSF 一次予防投与群に対する非投与群のFN 発症率のOR は2.423(95%CI:0.578‒10.163)であり,統計学的有意差はなかった。また,感染による死亡は2 編とも0 例と報告されており,イベント数不足であった。2 編ともサンプル数が少なく,主治医判断によるG‒CSF 使用であることから選択バイアス,不十分な交絡調整のリスクが高いと判断した。全体として深刻なバイアスリスクがあり,FN 発症率および感染による死亡率に関するエビデンスの強さはD(非常に弱い)と判断した。

前述の通り,膵がんのがん薬物療法におけるG‒CSF 一次予防投与の有用性を評価するためのエビデンスが不足しており,本Question をFQ に転換のうえ,ステートメントを「膵がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与の有用性は明らかではない」とした。

よって,PRODIGE 4‒ACCORD 11 試験で実施されたFOLFIRINOX 療法(原法)は高度の骨髄毒性が観察され,毒性に応じてG‒CSF の二次予防投与が許容されていた1)。日本人集団におけるFOLFIRINOX 療法(原法)の有効性・安全性を評価した第Ⅱ相臨床試験ではG‒CSF 一次予防投与は行われなかったが,FN 発症率は22.2%で,52.8%の症例でG‒CSF 二次予防投与を必要とした2)。日本では5‒FU 急速投与を省略し,イリノテカンの投与量を150 mg/m2 に減量したmodified FOLFIRINOX 療法が開発され,単群第Ⅱ相臨床試験で転移性膵がん69 例に対してその有効性・安全性が評価された6)。modified FOLFIRINOX 療法ではFN 発症率は8.7%と減少し,G‒CSF 二次予防投与を要した症例も18%にとどまった。OS 中央値は11.2 カ月であり,PRODIGE 4‒ACCORD 11 試験の報告と同等の結果であった。日本においては,FOLFIRINOX 療法はmodified regimen で行われることが多い。

参考文献

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Moorcraft SY, Khan K, Peckitt C, et al. FOLFIRINOX for locally advanced or metastatic pancreatic ductal adenocarcinoma:The royal marsden experience. Clin Colorectal Cancer. 2014;13:232‒8.
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6)
Ozaka M, Ishii H, Sato T, et al. A phase Ⅱ study of modified FOLFIRINOX for chemotherapy‒naïve patients with metastatic pancreatic cancer. Cancer Chemother Pharmacol. 2018;81:1017‒23.

Q7(FQ)
胆道がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

胆道がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与の有用性は明らかではない

合意率:95.7%(22/23 名)

1 本FQ の背景

胆道がんのがん薬物療法として,ゲムシタビン,シスプラチン,S‒1 などが用いられる。本ガイドライン2013 年版ver. 5 には,胆道がんのレジメンでFN 発症率が20%を超えるものの記載はなく,実地診療でG‒CSF の一次予防投与はほとんど行われていなかった。海外の主要なガイドラインにおいても,胆道がんのがん薬物療法におけるG‒CSF の一次予防投与に関する記載はない。

2 解説

胆道がんに対するG‒CSF の一次予防投与の有用性について,システマティックレビューを行って評価した。文献検索時は,GCS 療法,GS 療法が推奨される前であった。本Question は当初CQ として,がん薬物療法を受ける胆道がん患者を対象に,G‒CSF を一次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目をアウトカムとして設定し,システマティックレビューでの評価を試みた。文献検索の結果,PubMed 1 編,Cochrane 1 編,医中誌0 編が抽出され,計2 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経た結果,システマティックレビューの対象となる文献が抽出されなかったため,本Question をFQ に転換のうえ,ステートメントを「胆道がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与の有用性は明らかではない」とした。

進行胆道がんを対象にGC 療法とGS 療法を比較する第Ⅲ相試験(JCOG1113)1)の結果,GS 療法のGC 療法に対するOS の非劣性が示されたが,この試験ではG‒CSF の一次予防投与は行われておらず,FN 発症率は,GS 療法で1.7%,GC 療法で2.3%であった。切除不能胆道がんを対象にGCS 療法とGC 療法の第Ⅲ相RCT(KHBO1401)2)の結果,GCS 療法の優越性が示されたが,FN 発症率は,GCS 療法,GC 療法ともに約4%であった3)。本原稿執筆時点(2022 年3 月末)で論文未発表であり,詳細なデータの発表が待たれる。

参考文献

1)
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2)
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3)
坂井大介.【肝・胆・膵がんの薬物療法】胆道がん 進行胆道がんに対する一次化学療法.腫瘍内科.2020;25:144‒9.

Q8(CQ)
大腸がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さB(中)
大腸がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与を行わないことを弱く推奨する

合意率:95.5%(21/22 名)

解説

大腸がんのがん薬物療法について,G‒CSF の一次予防投与の有無を直接比較して有用性を示したエビデンスは乏しく,一次予防投与を行うことは推奨されない。FOLFOXIRI+BV 療法原法1)については,海外に比べ国内で高いFN 発症率(21.7~26.1%)が報告されている2,3)。国内では用量を調整したmodified‒FOLFOXIRI+BV 療法の試験4)が行われ,FN 発症率6.3%と報告されている。いずれの試験でもG‒CSF の一次予防投与は行われていない。

1 本CQ の背景

大腸がんのがん薬物療法として,フッ化ピリミジン系抗がん薬,オキサリプラチン,イリノテカン,分子標的治療薬などが使用されている。本ガイドライン2013 年版ver. 5 には大腸がんのレジメンでFN 発症率が20%を超えるものの記載はなく,実地診療でG‒CSF の一次予防投与はほとんど行われていなかった。

その後,新たに治療強度の高いFOLFOXIRI+BV 療法の有効性が示されるなど,使用可能なレジメンが増えている。NCCN ガイドライン5)では,FN 発症率が20%を超えるレジメンとしてFOLFOXIRI 療法,10~20%のレジメンとしてFOLFOX 療法を挙げている。

2 アウトカムの設定

本CQ では,がん薬物療法を受ける大腸がん患者を対象に,G‒CSF を一次予防で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 22 編,Cochrane 0 編,医中誌14 編が抽出され,計36 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出されたRCT 2 編6,7)を対象に定性的システマティックレビューを実施した。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)全生存期間(OS)

FOLFOX+BV 療法,FOLFIRI+BV 療法でG‒CSF の一次予防投与の有無を比較したRCT7)では,イベント数が不足しておりHR の結果はなかった。FOLFOX4 療法,FOLFIRI 療法,FOIL 療法でG‒CSF 一次予防投与の有無を比較したRCT6)ではG‒CSF 投与群の非投与群に対するHR は0.94(95%CI:0.81‒1.10,p=0.440)であり,統計学的有意差は認めなかった。アウトカム不完全報告などのバイアスリスクを認めた。
エビデンスの強さB(中)

(2)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

RCT 2 編6,7)で評価した。統合した結果,FN 発症率は,G‒CSF 一次予防投与群2.6%,非投与群6.5%であり,OR は2.634(95%CI:1.4‒4.953)と,G‒CSF 一次予防投与によって有意なFN 発症率の減少を認めた。目立ったバイアスリスクや文献間のばらつきは認めなかった。
エビデンスの強さA(強)

(3)感染による死亡率

RCT 2 編で評価した。G‒CSF 投与群,非投与群ともに,イベント数は0 でありアウトカム率は0%であった。目立ったバイアスリスクや文献間のばらつきは認めなかった。
エビデンスの強さA(強)

(4)生活の質(QOL)

QOL を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(5)疼痛

RCT 2 編で評価した。G‒CSF 投与群14.7%,非投与群8.7%であり,OR は0.555(95%CI:0.379‒0.813)と有意に疼痛の増加を認めた。ただし,1 編6)でG‒CSF 投与群10.5%,非投与群0.9%に対して,もう1 編7)でG‒CSF 投与群16%,非投与群10.9%と文献による結果のばらつきがあった。
エビデンスの強さB(中)

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

G‒CSF の一次予防投与の有無を比較した文献はRCT 2 編であった。OS についてG‒CSF 一次予防投与の有効性は示されなかった。FN 発症率は,G‒CSF 一次予防投与によって有意に減少していたが,非投与群のFN 発症率は6.5%と低かった。感染による死亡は両群ともに0%であった。これらより,G‒CSF 投与の益は小さいと判断した。

(2)害

G‒CSF 投与により疼痛は有意に上昇した。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,FN 発症率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

(5)まとめ

G‒CSF 投与のOS への有用性は示されなかった。FN 発症率をわずかに低下させることが示されたが,G‒CSF 非投与群のFN 発症率は低く,臨床的に意味のある益とは言えないと判断した。一方でG‒CSF 投与による疼痛は増加することから,大腸がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与を行わないことを弱く推奨する。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は22 名(医師20 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「大腸がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与を行わないことを弱く推奨する」が提示され,推奨決定の協議と投票の結果,22 名中21 名が原案に賛同し合意形成に至った。

7 今後の研究課題

大腸がんのがん薬物療法では,FOLFOXIRI+BV 療法が最も治療強度が高いレジメンである。解説で述べたようにFOLFOXIRI+BV 療法原法は,海外と国内でFN 発症率が異なり,国内での高いFN 発症率を受けてmodified‒FOLFOXIRI+BV 療法の開発が行われた4)。両者の有効性と安全性を直接比較した試験はなく,海外では原法での治療開発が継続しているが8),国内での明確な使い分けは定まっておらず,今後のデータの蓄積が期待される。

参考文献

1)
Cremolini C, Loupakis F, Antoniotti C, et al. FOLFOXIRI plus bevacizumab versus FOLFIRI plus bevacizumab as first‒line treatment of patients with metastatic colorectal cancer:updated overall survival and molecular subgroup analyses of the open‒label, phase 3 TRIBE study. Lancet Oncol. 2015;16:1306‒15.
2)
Oki E, Kato T, Bando H, et al. A Multicenter Clinical Phase Ⅱ Study of FOLFOXIRI Plus Bevacizumab as First‒line Therapy in Patients With Metastatic Colorectal Cancer:QUATTRO Study. Clin Colorectal Cancer. 2018; 17:147‒55.
3)
Shinozaki K, Yamada T, Nasu J, et al. A phase Ⅱ study of FOLFOXIRI plus bevacizumab as initial chemotherapy for patients with untreated metastatic colorectal cancer:TRICC1414(BeTRI). Int J Clin Oncol. 2021;26:399‒408.
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Satake H, Sunakawa Y, Miyamoto Y, et al. A phase Ⅱ trial of 1st‒line modified‒FOLFOXIRI plus bevacizumab treatment for metastatic colorectal cancer harboring RAS mutation:JACCRO CC‒11. Oncotarget. 2018;9:18811‒20.
5)
NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Hematopoietic Growth Factors Version 1. 2022.
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Hecht JR, Pillai M, Gollard R, et al. A randomized, placebo‒controlled phase ⅱ study evaluating the reduction of neutropenia and febrile neutropenia in patients with colorectal cancer receiving pegfilgrastim with every‒2‒week chemotherapy. Clin Colorectal Cancer. 2010;9:95‒101.
7)
Pinter T, Klippel Z, Cesas A, et al. A Phase Ⅲ, Randomized, Double‒Blind, Placebo‒Controlled Trial of Pegfilgrastim in Patients Receiving First‒Line FOLFOX/Bevacizumab or FOLFIRI/Bevacizumab for Locally Advanced or Metastatic Colorectal Cancer:Final Results of the Pegfilgrastim and Anti‒VEGF Evaluation Study(PAVES). Clin Colorectal Cancer. 2017;16:103‒14.e3.
8)
Cremolini C, Antoniotti C, Rossini D, et al. Upfront FOLFOXIRI plus bevacizumab and reintroduction after progression versus mFOLFOX6 plus bevacizumab followed by FOLFIRI plus bevacizumab in the treatment of patients with metastatic colorectal cancer(TRIBE2):a multicentre, open‒label, phase 3, randomised, controlled trial. Lancet Oncol. 2020;21:497‒507.

Q9(FQ)
消化器神経内分泌がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

消化器神経内分泌がんにおいて,G‒CSF一次予防投与の有用性は明らかではない

合意率:100%(23/23 名)

1 本FQ の背景

消化器神経内分泌がんに対するがん薬物療法は,小細胞肺がんに準じて,シスプラチン,イリノテカン,エトポシドなどが使われている。FN が生じるリスクが高いと考えられるレジメンとして,EP 療法やIP 療法が挙げられる。小細胞肺がんにおける同治療の報告では,EP 療法のFN 発症率は概ね10%前後と報告されている1‒5)。肝胆膵原発神経内分泌がんに対してEP 療法を実施した21 例を後ろ向きに観察した症例集積研究では,FN の発症率が38%であったと報告されており6),消化器神経内分泌がんの薬物療法はFN 発症リスクが高い可能性がある。

2 解説

本Question は当初CQ として,がん薬物療法を受ける消化器神経内分泌がん患者を対象に,G‒CSF を一次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目をアウトカムとして設定し,システマティックレビューでの評価を試みた。文献検索の結果,PubMed 17 編,Cochrane 0編,医中誌11 編が抽出され,ハンドサーチ3 編を加えた計31 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て,システマティックレビューの対象となる文献が抽出されなかったため,本Question をFQ に転換した。消化器神経内分泌がんは希少がんであり文献も少ないことから,ステートメントは「消化器神経内分泌がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与の有用性は明らかではない」とした。レジメンは小細胞肺がんにおけるがん薬物療法と共通するため,Q3(CQ)も参照されたい。ただし,消化器神経内分泌がんは消化管粘膜が破綻している例もあるなど,原発部位によってFN リスクが異なる可能性があるため,解釈には注意が必要である。

消化管・肝胆膵原発の切除不能・再発神経内分泌がんを対象としたEP 療法とIP 療法のRCT(JCOG1213)が行われており7),治療の安全性やG‒CSF の有用性についても示唆が得られることを期待したい。

参考文献

1)
Noda K, Nishiwaki Y, Kawahara M, et al. Irinotecan plus Cisplatin Compared with Etoposide plus Cisplatin for Extensive Small‒Cell Lung Cancer. N Engl J Med. 2002;346:85‒91.
2)
Hanna N, Bunn PA, Langer C, et al. Randomized phase Ⅲ trial comparing irinotecan/cisplatin with etoposide/cisplatin in patients with previously untreated extensive‒stage disease small‒cell lime cancer. J Clin Oncol. 2006;24:2038‒43.
3)
Lara PN Jr, Natale R, Crowley J, et al. Phase Ⅲ trial of irinotecan/cisplatin compared with etoposide/cisplatin in extensive‒stage small‒cell lung cancer:Clinical and pharmacogenomic results from SWOG S0124. J Clin Oncol. 2009;27:2530‒5.
4)
Zatloukal P, Cardenal F, Szczesna A, et al. A multicenter international randomized phase Ⅲ study comparing cisplatin in combination with irinotecan or etoposide in previously untreated small‒cell lung cancer patients with extensive disease. Ann Oncol. 2010;21:1810‒6.
5)
Kim DW, Kim HG, Kim JH, et al. Randomized phase Ⅲ trial of irinotecan plus cisplatin versus etoposide plus cisplatin in chemotherapy‒naïve Korean patients with extensive‒disease small cell lung cancer. Cancer Res Treat. 2019;51:119‒27.
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Iwasa S, Morizane C, Okusaka T, et al. Cisplatin and etoposide as first‒line chemotherapy for poorly differentiated neuroendocrine carcinoma of the hepatobiliary tract and pancreas. Jpn J Clin Oncol. 2010;40:313‒8.
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Morizane C, Machida N, Honma Y, et al. Randomized phase Ⅲ study of etoposide plus cisplatin versus irinotecan plus cisplatin in advanced neuroendocrine carcinoma of the digestive system:A Japan Clinical Oncology Group study(JCOG1213). J Clin Oncol. 2022;40(4_suppl):501.

Q10(CQ)
頭頸部がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
頭頸部がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与を行わないことを弱く推奨する

合意率:100%(22/22 名)

解説

頭頸部がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与によるOS 延長やFN 発症率の改善を示すエビデンスは乏しい。

1 本CQ の背景

頭頸部がんに対しては,フッ化ピリミジン系抗がん薬,プラチナ系抗がん薬,タキサン系抗がん薬に加え,セツキシマブ,ペムブロリズマブ,ニボルマブなどの分子標的治療薬,免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせた様々なレジメンが用いられる。FN が生じるリスクが高いと考えられるレジメンとして,TPF 療法があり,導入化学療法としてTPF 療法を用いた臨床試験ではFN 発症率が10%前後と報告されている1,2)

2 アウトカムの設定

本CQ では,がん薬物療法を受ける頭頸部がん患者を対象に,G‒CSF を一次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 25 編,Cochrane 0 編,医中誌28 編が抽出され,計53 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された2 編を対象に定性的システマティックレビューを実施した。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)全生存期間(OS)

採択された文献のうちOS について評価したものは症例対照研究1 編のみであった3)。局所進行頭頸部がんまたは局所進行食道がんに対するTPF 療法の後ろ向き研究で,観察期間が短く,G‒CSF 一次予防投与群,G‒CSF 一次予防投与非実施群(対照群)ともOS 中央値は未達であったが,両群間に統計学的有意差はなかった。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(2)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

症例対照研究2 編を対象にシステマティックレビューを行った。Kawahira らの局所進行頭頸部がんまたは局所進行食道がんに対するTPF 療法の後ろ向き研究3)では,FN 発症率は,G‒CSF 一次予防投与群,対照群でそれぞれ30.8%,29.3%であった。一方,和佐野らの局所進行頭頸部がんに対するTPF 療法の後ろ向き研究4)では,FN 発症率は,G‒CSF 一次予防投与群,対照群でそれぞれ0%,5.0%であった。統合解析の結果,FN 発症率はG‒CSF 一次予防投与群で19.5%,対照群で33.3%,OR は2.056(95%CI:0.938‒4.504)であり,統計学的有意差はなかった。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(3)感染による死亡率

感染による死亡率を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(4)生活の質(QOL)

QOL を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(5)疼痛

疼痛を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

システマティックレビュー対象となった報告は症例対照研究2 編のみであった。2 編を統合解析した結果,FN 発症率に統計学的有意差はなく,G‒CSF 一次予防投与による明確な益はないと考えられた。

(2)害

G‒CSF 投与による有害事象に関する報告はなく,害は評価不能であった。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,FN 発症率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

(5)まとめ

頭頸部がんのがん薬物療法においてG‒CSF の一次予防投与によって,OS やFN 発症率などの益を支持するエビデンスは乏しく,害は評価不能であったが,本対象集団に対するG‒CSF の一次予防投与の有用性は乏しいと考えられる。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は22 名(医師20 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。

システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「頭頸部がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与を行わないことを弱く推奨する」が提示され,推奨決定の協議と投票の結果,22 名中22 名が原案に賛同し合意形成に至った。

7 今後の研究課題

局所進行頭頸部がんに対して喉頭温存を目的とした導入化学療法としてTPF 療法が実施される場合が多いが,これまでTPF 療法の有用性を検証した臨床試験ではキノロン系抗菌薬を予防投与することでFN 発症の抑制が図られている1,2)。予防的抗菌薬投与に加え,G‒CSF 一次予防投与によって有用な効果が得られるか今後の報告が待たれる。

参考文献

1)
Pointreau Y, Garaud P, Chapet S, et al. Randomized trial of induction chemotherapy with cisplatin and 5‒fluorouracil with or without docetaxel for larynx preservation. J Natl Cancer Inst. 2009;101:498‒506.
2)
Hitt R, Grau JJ, López‒Pousa A, et al. A randomized phase Ⅲ trial comparing induction chemotherapy followed by chemoradiotherapy versus chemoradiotherapy alone as treatment of unresectable head and neck cancer. Ann Oncol. 2014;25:216‒25.
3)
Kawahira M, Yokota T, Hamauchi S, et al. Primary prophylactic granulocyte colony‒stimulating factor according to ASCO guidelines has no preventive effect on febrile neutropenia in patients treated with docetaxel, cisplatin, and 5‒fluorouracil chemotherapy. Int J Clin Oncol. 2018;23:1189‒95.
4)
和佐野浩一郎,川崎泰士,平賀良彦,他.頭頸部癌に対するTPF 療法における発熱性好中球減少症 ペグフィルグラスチム導入前後の比較.耳鼻臨床.2017;110:287‒93.

Q11(CQ)
卵巣がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
卵巣がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与を行わないことを弱く推奨する

合意率:95.5%(21/22 名)

解説

卵巣がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与により,FN の発症率が低下する傾向は認めるものの,感染による死亡率を減少させるか否かは不明確で,OS に影響を及ぼす可能性は低く,G‒CSF の一次予防投与を行わないことを弱く推奨する。

1 本CQ の背景

卵巣がんの主な転移様式は腹膜播種であり,比較的早期から転移性病態を認めるため,進行期を問わずがん薬物療法の対象となることが多い。卵巣がんに対しては,プラチナ系抗がん薬やタキサン系抗がん薬などが用いられる。FN 発症リスクが高いと考えられるレジメンは少なく,実地診療でG‒CSF の一次予防投与はほとんど行われていない。卵巣がんのがん薬物療法として,PARP 阻害薬などの分子標的治療薬が使用されるようになり,免疫チェックポイント阻害薬や抗体薬物複合体(antibody‒drug conjugate;ADC)など新しいがん薬物療法の開発も進み,治療パラダイムが大きく変換しつつあり,今後,G‒CSF 一次予防投与の有用性をエビデンスに基づいて検討することが重要である。

2 アウトカムの設定

本CQ では,がん薬物療法を受ける卵巣がん患者を対象に,G‒CSF を一次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 72 編,Cochrane 0 編,医中誌25 編が抽出され,これにハンドサーチ4 編を加えた計101 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された10 編を対象に定性的システマティックレビューを実施した。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)全生存期間(OS)

OS に関するコホート研究が4 編抽出された1‒4)。しかしそのうち2 編は対照群の設定が本CQ とは相違があった1,4)。対照群の設定が適切であった2 編の論文のうち,Poonawalla らによる研究ではG‒CSF 一次予防投与群においてOS の延長が認められた(HR 0.81,p=0.0005)2)が,Matsui らによる研究ではG‒CSF 一次予防投与によるOS の延長は認められなかった(log rank p=0.64)3)。これらの論文に対して定性的システマティックレビューを行ったところ,G‒CSF の一次予防投与がOS に影響を及ぼす可能性は低いと考えられた。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(2)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

FN 発症率に関する非盲検化RCT が1 編,コホート研究が7 編抽出された3‒10)。しかしRCT および3 編のコホート研究において,対照群の設定が不適切であった4‒7)。対照群との比較が行われた4 編のコホート研究のうち,Matsui らによる研究では,G‒CSF 一次予防投与群においてむしろFN が高率に発症し(15.8% vs. 9.0%,p=0.29)3),残りの3 編では,統計学的な有意差は示されないものの一次予防投与群においてFN の発症頻度が低下したと報告されている8‒10)。これらの論文に対して定性的システマティックレビューを行ったところ,G‒CSF の一次予防投与によりFN 発症率は低くなる傾向が認められた。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(3)感染による死亡率

感染による死亡を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(4)生活の質(QOL)

生活の質を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(5)疼痛

疼痛に関する研究として非盲検化RCT が1 編,コホート研究が1 編抽出された1,5)。疼痛の発生率についてRCT では43%から74%,コホート研究では6%と報告されていたが,いずれも対照群が本CQ の設定とは異なっており,G‒CSF の一次予防投与による影響については,結果の解釈に注意が必要と考えられた。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

がん薬物療法を受ける卵巣がん患者に対するG‒CSF 一次予防投与により,FN 発症率は低下傾向がみられたが,OS の改善は限定的であった。感染による死亡率やQOL については文献抽出されなかったため評価不能であった。

(2)害

疼痛の発症状況に関する論文は2 編抽出されたのみであり,評価は不十分であった。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,FN 発症率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

(5)まとめ

がん薬物療法を受ける卵巣がん患者に対するG‒CSF 一次予防投与の有用性は乏しいと考えられる。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は22 名(医師20 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。

システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「卵巣がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与を行わないことを弱く推奨する」が提示され,推奨決定の協議と投票の結果,22 名中21 名が原案に賛同し合意形成に至った。

参考文献

1)
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3)
Matsui K, Mori T, Sawada M, et al. Evaluation of primary prophylaxis with granulocyte colony‒stimulating factor for epithelial ovarian cancer. Eur J Gynecol Oncol. 2014;35:48‒51.
4)
Vergote I, Debruyne P, Kridelka F, et al. Phase Ⅱ study of weekly paclitaxel/carboplatin in combination with prophylactic G‒CSF in the treatment of gynecologic cancers:A study in 108 patients by Belgian Gynaecological Oncology Group. Gynecol Oncol. 2015;138:278‒84.
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Li L, Ma S, Wu M, et al. The prophylactic effects of long‒acting granulocyte colony‒stimulating factor for febrile neutropenia in newly diagnosed patients with epithelia ovarian cancer:a randomised controlled study. BMJ Support Palliat Care. 2019;9:373‒80.
6)
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Bicher A, Kohn E, Sarosy G, et al. The absence of cumulative bone marrow toxicity in patinets with recurrent adenocarcinoma of the ovary receiving dose‒intense taxol and granulocyte colony stimulating factor. Anticancer Drugs. 1993;4:141‒8.
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Julius JM, Hammerstrom A, Wei C, et al. Defining the impact of the use of granulocyte colony stimulating factors on the incidence of chemotherapy‒induced neutropenia in patients with gynecologic malignancies. J Oncol Pharm Pract. 2017;23:121‒7.

Q12(FQ)
子宮頸がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

子宮頸がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与の有用性は明らかではない

合意率:100%(24/24 名)

1 本FQ の背景

子宮頸がんのがん薬物療法として,プラチナ系抗がん薬やタキサン系抗がん薬などが用いられる。子宮頸がんを対象とするがん薬物療法でFN 発症率が20%を超えるものはなく,実地診療でG‒CSF の一次予防投与はほとんど行われていない。

2 解説

本Question は当初CQ として,がん薬物療法を受ける子宮頸がん患者を対象に,G‒CSF を一次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染症による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目をアウトカムとして設定し,システマティックレビューでの評価を試みた。文献検索の結果,PubMed 7 編,Cochrane 0 編,医中誌2 編が抽出され,これにハンドサーチ8 編を加えた計17 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て 13編を除いた 4 編が抽出された1‒3)(うち 1 編は同一研究の続報であった)。

TC 療法(パクリタキセル+カルボプラチン),TP 療法,パクリタキセル単剤におけるG‒CSF 一次予防投与を検討した観察研究であったが,本Question で設定したアウトカムについては検討されておらず,G‒CSF の一次予防投与の有用性を評価することは困難であったため,本Question をFQ に転換のうえ,ステートメントを「子宮頸がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与の有用性は明らかではない」とした。

今後は,同時化学放射線療法を含め,分子標的治療薬を含む新規のレジメンが導入された際に,G‒CSF の有用性について,質の高い臨床研究による検討が望まれる。

参考文献

1)
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Papadimitriou CA, Sarris K, Moulopoulos LA, et al. Phase Ⅱ trial of paclitaxel and cisplatin in metastatic and recurrent carcinoma of the uterine cervix. J Clin Oncol. 1999;17:761‒6.
3)
Kudelka AP, Winn R, Edwards CL, et al. Activity of paclitaxel in advanced or recurrent squamous cell cancer of the cervix. Clin Cancer Res. 1996;2:1285‒8.

Q13(FQ)
子宮体がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

子宮体がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与の有用性は明らかではない

合意率:100%(24/24 名)

1 本FQ の背景

子宮体がんのがん薬物療法として,プラチナ系抗がん薬(シスプラチン,カルボプラチン),アントラサイクリン系抗がん薬(アドリアマイシン),タキサン系抗がん薬(パクリタキセル,ドセタキセル)の中から2 つないし3 つの薬剤を組み合わせたレジメン[AP 療法,TC 療法(パクリタキセル+カルボプラチン),DP 療法,DC 療法,CAP 療法など]が主に用いられている。子宮体がんを対象とするがん薬物療法でFN 発症率が20%を超えるものはなく,実地診療でG‒CSF の一次予防投与はほとんど行われていない。

2 解説

本Question は当初CQ として,がん薬物療法を受ける子宮体がん患者を対象に,G‒CSF を一次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染症による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目をアウトカムとして設定し,システマティックレビューでの評価を試みた。文献検索の結果,PubMed 7 編,Cochrane 0 編,医中誌7 編が抽出され,スクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て観察研究2 編,RCT 1 編(他がん種を含めて100 例のRCT であるが,子宮体がんは8 例のみ)の3 編が抽出された1‒3)

これら3 編の報告はいずれもレジメンが日本で一般的に用いられているTC 療法,DP 療法,AP 療法などとは異なっており,システマティックレビューのエビデンスとしては不適当と考えられたため,本Question はFQ に転換のうえ,ステートメントを「子宮体がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与の有用性は明らかではない」とした。

今後は分子標的治療薬を含めて,新たなレジメンが導入された際に,G‒CSF の有用性について,質の高い臨床研究による検討が望まれる。

参考文献

1)
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Q14(CQ)
前立腺がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さC(弱)
前立腺がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与を行うことを弱く推奨する
該当するレジメンは,カバジタキセル

合意率:91.3%(21/23 名)

解説

前立腺がんに対するカバジタキセル投与の際のG‒CSF の一次予防投与について,OS,感染による死亡率,QOL の評価は困難であったが,FN 発症率を低下させる可能性が示唆され,害に関するエビデンスは明確ではないことから,G‒CSF の一次予防投与を行うことを弱く推奨する。

1 本CQ の背景

転移性去勢抵抗性前立腺がんに対する治療は,新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬やタキサン系抗がん薬を中心とした治療が行われる。一次化学療法としてはドセタキセルが用いられ,カバジタキセルはドセタキセル抵抗性となった症例を対象に有効性が示されている。ドセタキセルのFN 発症率は国際第Ⅲ相試験で3%1),日本での第Ⅱ相試験では16.3%2)であったのに対し,カバジタキセルでは,G‒CSF の一次予防投与が用いられなかった国際第Ⅲ相試験で9%3),日本での第Ⅰ相試験では54.5%4)と高い頻度であった。また,日本においては,発売後3 カ月で208 例に使用された段階で35 例(16.8%)にFN を認め,5 例の死亡例が含まれていたことから,FN のリスク因子を有する患者においてはG‒CSF の一次予防を考慮するように添付文書が改訂されるに至った5)。このような経緯もあり,現在日本の実地医療においてはG‒CSF の一次予防投与が行われていると考えられる。また,近年行われた臨床試験でドセタキセルおよび新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬抵抗性前立腺がんに対してカバジタキセルの有効性が示されたが,カバジタキセル投与の際にはG‒CSF 一次予防投与の使用が必須とされていた6)

NCCN ガイドラインではカバジタキセルはFN 発症率10~20%のレジメンに分類されている。欧州におけるEAU‒EANM‒ESTRO‒ESUR‒ISUP‒SIOG ガイドライン(前立腺がん)ではカバジタキセル投与の際にG‒CSF の一次予防投与を用いることが推奨されている。日本における前立腺癌診療ガイドラインにおいてもカバジタキセルにG‒CSF の一次予防投与を用いることが推奨されている7)

2 アウトカムの設定

本CQ では,がん薬物療法を受ける前立腺がん患者を対象に,G‒CSF を一次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 28 編,Cochrane 0 編,医中誌36 編が抽出され,計64 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された9 編を対象に定性的システマティックレビューを行った。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)全生存期間(OS)

OS は,RCT 1 編8),コホート研究1 編9),症例観察研究1 編10)で評価されていた。しかし,いずれの研究もG‒CSF 一次予防投与の有無での比較はされておらず,評価は困難であった。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(2)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

FN 発症率は,準RCT 2 編5,11),コホート研究2 編9,12),観察研究4 編10,13‒15)で評価されていた。準RCT 2 編は第Ⅰ相試験で,G‒CSF 一次予防投与の有無で比較されておらず,バイアスリスクは高いと考えられた。コホート研究2 編,観察研究4 編(うち3 編がカバジタキセル,1 編がドセタキセル)においてG‒CSF を一次予防投与で用いることによりFN 発症率を8~44.4%から1.8~29.1%に低下させる可能性が示唆された。
エビデンスの強さC(弱)

(3)感染による死亡率

感染による死亡率は,コホート研究1 編9)のみで評価されていた。カバジタキセルが投与された660 例中15 例(2.3%)に治療関連死を認め,うち7 例でG‒CSF 一次予防投与が行われていたが,G‒CSF 一次予防投与の有無で比較検討されていないため,評価は困難であった。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(4)生活の質(QOL)

QOL は,コホート研究1 編12)のみで評価されていた。本研究では,G‒CSF 一次予防が79.5%の症例で実施されており,カバジタキセル投与によりQOL の改善傾向が示唆された。しかし,本研究ではG‒CSF 一次予防投与の有無でQOL を比較しておらず,評価は困難であった。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(5)疼痛

疼痛は,コホート研究1 編12),観察研究1 編10)で評価されていた。32 例中27 例(84.3%)でG‒CSF 一次予防投与が用いられた観察研究では,2 例(6.2%)に背部痛を認めた10)。しかし,これらの研究では,G‒CSF 一次予防投与の有無で疼痛を比較しておらず,評価は困難であった。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

がん薬物療法を受ける前立腺がん患者を対象としてG‒CSF 一次予防投与の有無に割り付けたRCT は存在せず,後ろ向き研究でも,OS,感染による死亡率,QOL については,G‒CSF 一次予防投与の有無で比較されておらず,本CQ に対する評価は困難であった。FN 発症率については,後ろ向きコホートおよび観察研究で,ドセタキセルもしくはカバジタキセル投与の際のG‒CSF 一次予防投与によりFN 発症率を低下させる可能性が示唆された。

(2)害

疼痛に関しては,G‒CSF 投与の有無で比較されていないため,評価は困難であった。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,FN 発症率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

(5)まとめ

本CQ では9 編の論文がシステマティックレビューの対象になったが,RCT は1 編のみであり,その論文も試験デザインが本CQ とは合致していなかった。本CQ に設定されたアウトカムのうち,FN 発症率についてはG‒CSF 一次予防投与によって低下する可能性が示唆され,害に関するエビデンスは明確ではないことから,益が害を上回ると考えられた。カバジタキセルは日本人を対象としたコホート研究でFN 発症率が50%を超えるというデータがあること4),現在行われているカバジタキセルに関する臨床試験では,G‒CSF の一次予防投与が必須とされていることも考慮し,カバジタキセル投与時にはG‒CSF 一次予防投与を行うことを弱く推奨する。エビデンスの強さはFN 発症率に関してはC(弱)であり,その他のアウトカムに関してはD(非常に弱い)であったが,アウトカム全体でみるとエビデンスの強さはC(弱)と判断した。また,ドセタキセルに関しては,小規模の後ろ向き観察研究1 編でFN 発症率の低下が示されていたが,エビデンスは非常に弱いと考え,本CQ の該当するレジメンは,カバジタキセルとした。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は23 名(医師21 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。

システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「前立腺がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与を行うことを弱く推奨する」が提示された。ただし,評価可能なレジメンがカバジタキセルだけであったことから,「該当するレジメンは,カバジタキセル」という注釈をつけた。推奨決定の協議と投票の結果,23 名中21 名が原案に賛同し合意形成に至った。

7 今後の研究課題

システマティックレビューでは前立腺がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与は有用性に関する明確なエビデンスは得られなかった。一方で2021 年には転移性内分泌感受性前立腺がんへのドセタキセルが保険適用になっており,同治療へのG‒CSF 一次予防投与の有用性について今後明らかにしていく必要がある。

参考文献

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Q15(FQ)
非円形細胞軟部肉腫のがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

非円形細胞軟部肉腫において,G‒CSF 一次予防投与の有用性は明らかではない

合意率:100%(24/24 名)

1 本FQ の背景

非円形細胞軟部肉腫は円形細胞軟部肉腫である横紋筋肉腫,骨外性Ewing 肉腫,CIC 遺伝子再構成肉腫などを除いた軟部肉腫の総称であり,全身のあらゆる軟部組織に発生しうる悪性腫瘍である。軟部肉腫の発生数は悪性腫瘍全体の1%程度とされており,希少がんの1 つである。わが国の全国骨・軟部腫瘍登録では年間1,500 例前後の発生が報告されている1)。好発年齢は40~70 歳であるが,小児から高齢者まで幅広い年齢に発生する。

非円形細胞軟部肉腫に対しては,アントラサイクリン系抗がん薬やアルキル化薬などを中心とした様々なレジメンが用いられ,骨髄抑制のリスクを有するものが多い。

ASCO ガイドライン,ESMO ガイドライン2010 年版,NCCN ガイドラインには,非円形細胞軟部肉腫に限定した記載はなく,G‒CSF 一次予防投与は,FN 発症率が20%以上の場合に推奨されると記載されている2‒4)。FN 発症リスクが20%を超えるレジメンとして,ESMO ガイドライン2010 年版には,AI 療法およびMAID 療法3)が,NCCN ガイドラインには両者に加え,ドキソルビシン単剤が記載されている4)

2 解説

本Question は当初CQ として,小児を除く,がん薬物療法を受ける非円形細胞軟部肉腫患者を対象に,G‒CSF を一次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目をアウトカムとして設定し,システマティックレビューでの評価を試みた。文献検索の結果,PubMed 53 編,Cochrane 0 編,医中誌28 編が抽出され,計81 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経た結果,システマティックレビューの対象となる文献は1 編であった。

本文献では,MAID 療法を受ける肉腫患者48 例が,レノグラスチム一次予防投与の有無にランダムに割り付けられた5)。OS に関する記載はなく,FN 発症率は投与あり群で23%に対し,投与なし群で58%であり,両群間に有意差を認めた(p=0.02)。感染による死亡率については,両群ともに有害事象関連死がみられなかった。QOL に関する記載はなく,疼痛(骨痛)は1 サイクル目のみ比較されており,投与あり群で23%,投与なし群で3%であり,投与あり群で頻度が高い傾向がみられた(p=0.06)。

最終的に今回のシステマティックレビューの結果をもとに,本Question のアウトカムを直接的に評価することは困難であり,また,MAID 療法は現在わが国の実地診療において用いられる機会が限定的となっていることから,本Question をFQ に転換のうえ,ステートメントを「非円形細胞軟部肉腫において,G‒CSF 一次予防投与の有用性は明らかではない」とした。

現在,非円形細胞軟部肉腫に対しては,アントラサイクリン系抗がん薬やアルキル化薬,マルチチロシンキナーゼ阻害薬などを中心に様々なレジメンが用いられるが,最もFN 発症のリスクが高いレジメンは,AI 療法である。AI 療法は進行期患者を対象とした臨床試験でFN 発症率46%6),周術期患者を対象とした臨床試験でFN 発症率18~36%7,8)と報告されている。実地診療では,上記FN 発症率を鑑み,AI 療法の際にG‒CSF の一次予防投与が広く行われている。

参考文献

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Q16(FQ)
骨肉腫のがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

小児を除く骨肉腫において,G‒CSF 一次予防投与の有用性は明らかではない

合意率:100%(23/23 名)

1 本FQ の背景

骨肉腫は希少がんの1 つであるが,原発性悪性骨腫瘍の中では最も発生頻度が高く,その約20%を占める。わが国の全国骨・軟部腫瘍登録では年間約200 例前後の発生が報告されており,好発年齢は10 代であるが,20 歳以上も約50%を占める1)。好発部位は長管骨の骨幹端であり,大腿骨遠位,脛骨近位,上腕骨近位の順に多い。

骨肉腫に対しては,メトトレキサート,ドキソルビシン,シスプラチンを中心としたレジメンが用いられ,骨髄抑制のリスクが高いことが知られている2)

ASCO ガイドライン,ESMO ガイドライン2010 年版,NCCN のガイドラインには,骨肉腫に限定した記載はなく,一次予防投与は,FN 発症率が20%以上の場合に推奨されている3‒5)。NCCN のガイドラインには,FN 発症リスクが20%を超えるレジメンとして,AP 療法が記載されている。

2 解説

本Question は当初CQ として,小児を除く,がん薬物療法を受ける骨肉腫患者を対象に,G‒CSF を一次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目をアウトカムとして設定し,システマティックレビューでの評価を試みた。文献検索の結果,PubMed 40 編,Cochrane 0 編,医中誌12 編が抽出され,ハンドサーチによる文献1 編を加えた計53 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て,システマティックレビューの対象となる文献が抽出されなかったため,本Question をFQ に転換のうえ,ステートメントを「小児を除く骨肉腫において,G‒CSF 一次予防投与の有用性は明らかではない」とした。

現在,骨肉腫に対しては,メトトレキサート,ドキソルビシン,シスプラチンを用いた多剤併用療法が用いられるが,FN 発症のリスクが高いレジメンは,AP 療法であり,臨床試験におけるFN 発症率は50%と報告されている6)。実地診療では,上記FN 発症率を鑑み,AP 療法の際にG‒CSF の一次予防投与は広く行われており,治療開発もG‒CSF の一次予防投与を前提として計画されているものが主流となっている。

参考文献

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Q17(FQ)
横紋筋肉腫のがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

小児を除く横紋筋肉腫において,G‒CSF一次予防投与の有用性は明らかではない

合意率:100%(23/23 名)

1 本FQ の背景

横紋筋肉腫は小児・思春期を中心に発生する悪性軟部腫瘍である。SEER のデータによると発症年齢の中央値は16 歳,発症のピークは10 歳未満であり,20 歳未満の発症が全体の59%を占める1)。小児がん全体からみると軟部肉腫の占める割合は7%であり,その約半数を横紋筋肉腫が占める2)。わが国では,小児で年間50~100 例の発症がある3)。一方,先のSEER からのデータから,41%は20 歳以上に発症し,20 代が最も多いものの,以降どの世代でも比較的均一に発症すると報告されている。わが国の全国骨・軟部腫瘍登録では2006~2012 年に20 歳以上の成人の登録が113 例ある4)

横紋筋肉腫に対しては,ビンクリスチン,アクチノマイシンD,シクロホスファミドを中心としたレジメンが用いられることが多く,骨髄抑制のリスクを有するレジメンが広く用いられている5)

ASCO ガイドライン,ESMO ガイドライン2010 年版,NCCN ガイドラインには,横紋筋肉腫に限定した記載はなく,一次予防投与は,FN 発症率が20%以上の場合に推奨されている6‒8)

2 解説

本Question は当初CQ として,小児を除く,がん薬物療法を受ける横紋筋肉腫患者を対象に,G‒CSF を一次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目をアウトカムとして設定し,システマティックレビューでの評価を試みた。文献検索の結果,PubMed 13 編,Cochrane 0 編,医中誌0 編が抽出され,計13 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経た結果,システマティックレビューの対象となる文献が抽出されなかったため,本Question をFQ に転換のうえ,ステートメントを「小児を除く横紋筋肉腫において,G‒CSF 一次予防投与の有用性は明らかではない」とした。

希少性のため成人の横紋筋肉腫の治療データは限られているが,現在,若年成人を中心に小児と同じ臨床試験の枠組みで治療開発が行われている。また成人を対象とした後ろ向き研究で,小児と同様の治療が行われた場合,小児に近い治療成績が報告されている9)。成人と小児では年齢や好発部位,組織亜型の違いはあるが,根治目的に小児と同様の治療戦略が可能と考える場合,実地診療では小児のレジメンを用いたがん薬物療法を含む集学的治療を行うことが多い。

現在,横紋筋肉腫に対して最も頻用されるレジメンは,VAC 療法である。VAC 療法のFN 発症率は臨床試験で85%と報告されている10)。実地診療では,前記FN 発症率を鑑み,VAC 療法の際にG‒CSF の一次予防投与は広く行われており,治療開発もG‒CSF の一次予防投与を前提として計画されているものが多い。

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6)
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7)
Crawford J, Caserta C, Roila F. ESMO Guidelines Working Group. Hematopoietic growth factors:ESMO Clinical Practice Guidelines for the applications. Ann Oncol. 2010;21 Suppl 5:v248‒51.
8)
NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Hematopoietic Growth Factors Version 1. 2022.
9)
Little DJ, Ballo MT, Zagars GK, et al. Adult rhabdomyosarcoma:outcome following multimodality treatment. Cancer. 2002;95:377‒88.
10)
Arndt CA, Stoner JA, Hawkins DS, et al. Vincristine, actinomycin, and cyclophosphamide compared with vincristine, actinomycin, and cyclophosphamide alternating with vincristine, topotecan, and cyclophosphamide for intermediate‒risk rhabdomyosarcoma:children’s oncology group study D9803. J Clin Oncol. 2009;27:5182‒8.

Q18(FQ)
Ewing 肉腫のがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

小児を除くEwing 肉腫において,G‒CSF 一次予防投与の有用性は明らかではないが,根治目的の治療時は行われることが多い

合意率:100%(25/25 名)

1 本FQ の背景

Ewing 肉腫は骨および軟部組織のいずれにも発生し得る悪性腫瘍であり,原発性悪性骨腫瘍の中では骨肉腫,軟骨肉腫に次いで高頻度にみられる1)。好発年齢は10 代であり,約60~80%が20 歳未満の小児や若年者に発生する。病理学的には小円形腫瘍細胞の増殖を特徴とし,EWSR1‒FLI1 などの特異的融合遺伝子を有する。

Ewing 肉腫に対しては,アントラサイクリン系抗がん薬やアルキル化薬などを中心に多剤併用療法が用いられ,骨髄抑制のリスクが高いレジメンが広く用いられている。

ASCO ガイドライン,ESMO ガイドライン2010 年版,NCCN ガイドラインには,Ewing 肉腫に限定した記載はなく,一次予防投与は,FN 発症率が20%以上の場合に推奨されている2‒4)

2 解説

本Question は当初CQ として,小児を除く,がん薬物療法を受けるEwing 肉腫患者を対象に,G‒CSF を一次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目をアウトカムとして設定し,システマティックレビューでの評価を試みた。文献検索の結果,PubMed 25 編,Cochrane 0 編,医中誌5 編が抽出され,計30 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経た結果,システマティックレビューの対象となる文献は1 編であった。

本文献は,VIDE 療法を受けたEwing 肉腫患者851 例を対象としたコホート研究であり,G‒CSF の投与が行われた場合のFN 発症率が60.8%,感染症発症率が54.7%,G‒CSF の投与が行われなかった場合のFN 発症率が65.8%,感染症発症率が61.0%と報告されているが,それぞれ有意差検定はなされていない5)。よって,最終的に今回のシステマティックレビューの結果をもとに,本Question のアウトカムを直接的に評価することは困難であることから,本Question をFQ に転換のうえ,ステートメントを「小児を除くEwing 肉腫において,G‒CSF 一次予防投与の有用性は明らかではないが,根治目的の治療時は行われることが多い」とした。

現在,Ewing 肉腫に対しては,アントラサイクリン系抗がん薬やアルキル化薬,トポイソメラーゼ阻害薬などを中心とした多剤併用療法が頻用され,FN 発症のリスクが高いレジメンが広く用いられている。根治目的の治療時に選択される代表的なレジメンはVDC/IE 療法であり,G‒CSF 一次予防投与を行わない場合のFN 発症率は,49.0~72.5%と報告されている6,7)。実地診療では,上記FN 発症率を鑑み,VDC/IE 療法の際にG‒CSF の一次予防投与は広く行われている。また,Q34(CQ)に後述するが,限局期Ewing 肉腫に対してはG‒CSF の一次予防投与を前提に治療間隔を3 週から2 週に短縮したVDC/IE 療法が標準となっている。

参考文献

1)
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2)
Smith TJ, Bohlke K, Lyman GH, et al. American Society of Clinical Oncology. Recommendations for the Use of WBC Growth Factors:American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline Update. J Clin Oncol. 2015;33:3199‒212.
3)
Crawford J, Caserta C, Roila F. ESMO Guidelines Working Group. Hematopoietic growth factors:ESMO Clinical Practice Guidelines for the applications. Ann Oncol. 2010;21 Suppl 5:v248‒51.
4)
NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Hematopoietic Growth Factors Version 1. 2022.
5)
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6)
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7)
Chin M, Yokoyama R, Sumi M, et al. Multimodal treatment including standard chemotherapy with vincristine, doxorubicin, cyclophosphamide, ifosfamide, and etoposide for the Ewing sarcoma family of tumors in Japan:Results of the Japan Ewing Sarcoma Study 04. Pediatr Blood Cancer. 2020;67:e28194.

Q19(CQ)
古典的ホジキンリンパ腫のがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
古典的ホジキンリンパ腫のがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与を行うことを弱く推奨する
該当するレジメンは,BV‒AVD 療法

合意率:95.7%(22/23 名)

解説

古典的ホジキンリンパ腫に対してBV‒AVD 療法を行う際に,G‒CSF 一次予防投与によってFN発症率を低下させることが示唆されており,BV‒AVD 療法を行う際にはG‒CSF 一次予防投与を行うことを弱く推奨する。

1 本CQ の背景

古典的ホジキンリンパ腫に対しては,ABVD 療法が標準治療レジメンとして施行されている。進行期患者においては,BV‒AVD 療法が,ABVD 療法と比較した第Ⅲ相RCT(ECHELON‒1)1)の結果により標準治療となった。本ガイドライン2013 年版ver. 5 では,ABVD 療法のFN 発症率は3~4%と記載され,G‒CSF の一次予防投与は推奨されていない。BV‒AVD 療法では,ECHELON‒1 試験においてG‒CSF 一次予防投与を行わなかった場合のFN 発症率は19%と報告された。ECHELON‒1 試験では患者登録が75%の段階で,BV‒AVD 療法群にG‒CSF 一次予防投与を推奨するレターが発行された2)。このため,ECHELON‒1 試験ではBV‒AVD 療法群においてG‒CSF 一次予防投与を行った患者と行わなかった患者が混在していた。結果としてBV‒AVD 療法に割り付けられた患者で,579 例はG‒CSF 一次予防投与未施行で,83 例は一次予防投与を受けた。FN 発症率は,G‒CSF 一次予防投与未施行で21%であったのに対し,一次予防投与を施行した患者では11%であった。BV‒AVD 療法群でプロトコール治療終了30 日以内に9 例中7 例が好中球減少症に起因する事象で死亡し,これらの患者は1 例を除いてG‒CSF 一次予防投与未施行であったと報告された2)

NCCN ガイドラインでは,BV‒AVD 療法はFN 発症率20%を超えるレジメンとして記載されているが,ABVD 療法中のG‒CSF 投与はブレオマイシンの薬剤性肺障害の発症頻度を高めるため,ルーティンな使用は推奨されないと記載されている3)

2 アウトカムの設定

本CQ では,小児を除く,がん薬物療法を受ける古典的ホジキンリンパ腫患者を対象に,G‒CSF を一次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 30 編,Cochrane 1 編,医中誌8 編が抽出され,これにハンドサーチ2 編を加えた計41 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された7 編を対象に定性的システマティックレビューを実施した。厳密にG‒CSF の一次予防投与を行った介入群を有する臨床試験は,コホート研究1 編4)のみであったため,メタアナリシスは実施しなかった。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)全生存期間(OS)

G‒CSF 一次予防投与の有無によるOS を比較した研究は抽出されなかった。

本CQ の設定とは異なるため結果の解釈には注意が必要であるが,OS については以下の通りである。BV‒AVD 療法においては,ECHELON‒1 のプロトコール治療終了30 日以内に9 例中7 例が好中球減少症に起因する事象で死亡し,これらの患者は1 例を除いてG‒CSF 一次予防投与未施行であったと報告された2)。ECHELON‒1 におけるBV‒AVD 療法群とABVD 療法群とのOS で有意差は認めなかったが,G‒CSF 一次予防投与はBV‒AVD 療法による好中球減少に起因する事象による死亡を減らす可能性が示唆される。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(2)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

RCT 2 編のうち1 編1)は,BV‒AVD 療法とABVD 療法の第Ⅲ相試験であり,BV‒AVD 療法を受けた介入群662 例中83 例(13%),ABVD 療法を受けた対照群659 例中43 例(7%)がG‒CSF 一次予防投与を受けていた。介入群でFN 発症率が高かったが[RR 2.45(95%CI:1.81‒3.32)],介入群が対照群よりも血液毒性が強い治療レジメンであり,かつG‒CSF 一次予防投与の効果を検証するデザインではなかったため,両群の比較においてG‒CSF 一次予防投与によってFN 発症率が改善するか否かの評価は困難であった。本CQ の設定とは異なるため結果の解釈には注意が必要であるが,BV‒AVD 療法群におけるFN 発症率は,G‒CSF 一次予防投与未施行の患者で21%であったのに対し,一次予防投与を施行した患者では11%であった1)
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(3)感染による死亡率

コホート研究3 編のうち1 編3)が,MOPP/ABVD 療法を受けた古典的ホジキンリンパ腫を対象に,フィルグラスチム投与群16 例,非投与群25 例を比較していた。感染症による死亡率は,介入群(フィルグラスチム投与群)では0%(16 例中0 例),対照群(フィルグラスチム非投与群)では4%(25 例中1 例)であった。しかし,患者数が少なく不精確性が高いと考えられた。BV‒AVD 療法においては,ECHELON‒1 のプロトコール治療終了30 日以内に9 例中7 例が好中球減少症に起因する事象で死亡し,これらの患者は1 例を除いてG‒CSF 一次予防投与未施行であったと報告された2)。ECHELON‒1 におけるBV‒AVD 療法群とABVD 療法群とのOS で有意差は認めなかったが,G‒CSF 一次予防投与はBV‒AVD 療法による好中球減少に起因する事象による死亡を減らす可能性が示唆される。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(4)生活の質(QOL)

QOL を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(5)疼痛

コホート研究3 編のうち1 編3)が,MOPP/ABVD 療法を受けた古典的ホジキンリンパ腫を対象に,フィルグラスチム投与群16 例,非投与群25 例を比較していた。疼痛については,介入群(フィルグラスチム投与群)では25%(16 例中4 例),対照群(フィルグラスチム非投与群)では0%(25 例中0 例)に軽度~中等度の骨格筋痛を認めた。しかし,患者数が少なく不精確性が高い。RCT 1 編はBV‒AVD 療法とABVD 療法の第Ⅲ相試験であり,BV‒AVD 療法を受けた介入群662 例中83 例(13%),ABVD 療法を受けた対照群659 例中43 例(7%)がG‒CSF 一次予防投与を受けていた1,2)。治療群を問わず,G‒CSF 一次予防投与を受けた患者群と,G‒CSF 一次予防非投与の患者群とを比較して,骨痛の発現頻度は25%と18%でG‒CSF 一次予防投与を受けた患者群で高頻度であった。本CQ の設定とは異なるため結果の解釈には注意が必要であるが,G‒CSF 一次予防投与によって疼痛(骨痛)の発現頻度は高まると考えられる。
エビデンスの強さC(弱)

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

G‒CSF 一次予防投与の有無を比較する試験は抽出されなかったため,G‒CSF 一次予防投与のOS,FN 発症率,感染による死亡率への影響の評価は困難であり,エビデンスの強さはD(非常に弱い)とした。

しかし,BV‒AVD 療法においては,G‒CSF 一次予防投与によってFN 発症率を低下させることが示唆され,また,BV‒AVD 療法においてG‒CSF 一次予防投与を行わなかった場合,好中球減少症に起因した事象による死亡が認められており,BV‒AVD 療法を行う際には,G‒CSF 一次予防投与による益があると考えられる。

(2)害

G‒CSF 一次予防投与によって骨痛の頻度が高まる可能性がある。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,FN 発症率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがありうることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

(5)まとめ

G‒CSF 一次予防投与の有無を比較する試験は抽出されなかったため,一次予防投与のOS,FN 発症率,感染による死亡率,疼痛への影響の評価は困難であった。しかし,BV‒AVD 療法においては,G‒CSF 一次予防投与によってFN 発症率を低下させることが示唆されている。G‒CSF 一次予防投与によって骨痛の頻度が高まる可能性があるが,益が害を上回ると考えられることから,古典的ホジキンリンパ腫に対してBV‒AVD 療法を行う際にはG‒CSF 一次予防投与を行うことを弱く推奨する。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は23 名(医師21 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「行うことを弱く推奨する」が提示され,推奨決定の協議と投票の結果,23 名中22 名が原案に賛同し合意形成に至った。

7 今後の研究課題

古典的ホジキンリンパ腫に対してBV‒AVD 療法を行う際のG‒CSF 一次予防投与について,適切な投与方法は定まっておらず,今後の研究課題である。

参考文献

1)
Connors JM, Jurczak W, Straus DJ, et al. Brentuximab vedotin with chemotherapy for stage Ⅲ or Ⅳ Hodgkin’s lymphoma. N Engl J Med. 2018;378:331‒44.
2)
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3)
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4)
Gustavsson A. G‒CSF(filgrastim)as an adjunct to MOPP/ABVD therapy in Hodgkin’s disease. Acta Oncol. 1997;36:483‒8.

Q20(CQ)
B 細胞リンパ腫のがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
B 細胞リンパ腫のがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与を行うことを弱く推奨する

合意率:91.3%(21/23 名)

解説

B 細胞リンパ腫のがん薬物療法におけるG‒CSF の一次予防投与については,有用性を示すエビデンスが乏しいが,実地診療では,高齢や併存疾患を有するなど高リスク患者に対してG‒CSF の一次予防投与が行われる場合があり,患者の病態に即した検討が必要となる。

1 本CQ の背景

B 細胞リンパ腫は様々な病型からなり,びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫の発症頻度が最も高い。低悪性度B 細胞リンパ腫として,濾胞性リンパ腫,辺縁帯リンパ腫などが代表的である。比較的稀な病型としてマントル細胞リンパ腫がある。

これらB 細胞リンパ腫に対しては,抗CD20 抗体薬を併用したドキソルビシンを含むがん薬物療法とドキソルビシンを含まないがん薬物療法が行われる。ドキソルビシンを含むがん薬物療法の代表的なレジメンとして,CHOP 療法(21 日間隔が標準)が挙げられる。一方で,R‒CHOP 療法のFN 発症率は20%を超えておらず,G‒CSF の一次予防投与を推奨する根拠に乏しい1)。ドキソルビシンを含まないがん薬物療法としては,R‒CVP 療法に加えて,未治療の低悪性度B 細胞リンパ腫に対してBR 療法の有効性が2013 年に示されたが2),FN 発症率は低く,臨床試験でもG‒CSF 一次予防投与は推奨されていなかった2)。さらに,最近では,濾胞性リンパ腫に対しては,新規の抗CD20 抗体であるオビヌツズマブも使用可能となった3)

このように,B 細胞リンパ腫全体として治療選択肢は増えているが,それぞれのレジメンに対するG‒CSF の一次予防投与の有用性は定まっていない。

NCCN ガイドラインでは,CHOP 療法とベンダムスチンは,FN 発症率10~20%の中間リスクのレジメンと位置付けられ,すべての患者に対するG‒CSF の一次予防投与は推奨されていない4)。ASCO ガイドラインでは,R‒CHOP 療法を行う,びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫の65 歳以上の高齢者,特に併存疾患のある場合,G‒CSF の一次予防投与が推奨されている5)

2 アウトカムの設定

本CQ では,小児を除く,がん薬物療法を受けるB 細胞リンパ腫患者を対象に,G‒CSF を一次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 36 編,Cochrane 0 編,医中誌46 編が抽出され,これにハンドサーチ5 編を加えた計87 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された15 編を対象に定性的システマティックレビューを実施した。厳密にG‒CSF の一次予防投与の有無を比較した試験はなく,上記の15 編も不均一な研究であったため,メタアナリシスは実施しなかった。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)全生存期間(OS)

4 編のRCT の報告があった。そのうち,2 編がR‒CHOP‒14 療法(CHOP 療法を14 日間隔に短縮)に関する試験6,7),1 編はオビヌツズマブに関する試験3),もう1 編はVR‒CAP 療法に関する試験8)であった。厳密にG‒CSF の一次予防投与の有無を比較した試験はなく,本CQ の設定とは異なる部分があり,結果の解釈には注意が必要である。概要は下記のとおりである。

R‒CHOP‒14 療法に関する試験では,びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫6)と低悪性度B 細胞リンパ腫(JCOG0203 試験)7)の2 試験が対象であり,いずれの試験も対照群が標準治療の3 週間隔で施行するR‒CHOP 療法,介入群はR‒CHOP‒14 療法であった。これらの試験ではR‒CHOP‒14 療法のR‒CHOP 療法に対するPFS およびOS に関する優越性を証明できなかったため,引き続きR‒CHOP 療法が標準治療と位置付けられた。また,両試験ともに,介入群においてG‒CSF が一次予防投与されていたが,対照群においてはG‒CSF の二次予防投与(または治療投与)が許容されていた。

オビヌツズマブに関する試験(GALLIUM 試験)は,濾胞性リンパ腫が対象であり,対照群がリツキシマブ併用のがん薬物療法,介入群はオビヌツズマブ併用のがん薬物療法であった3)。がん薬物療法は,ベンダムスチン,CHOP 療法,CVP 療法から選択可能であった。オビヌツズマブ併用群の,リツキシマブ併用群に対するPFS の優越性が示された。OS では両群に有意差を認めなかった。オビヌツズマブ併用CHOP 療法では,60 歳以上の高齢者や併存疾患のある患者でG‒CSF の一次予防投与が推奨されていた3)

VR‒CAP 療法は未治療マントル細胞リンパ腫を対象とし,対照群がR‒CHOP 療法,介入群をVR‒CAP 療法とした第Ⅲ相RCT によって開発された8)。最終解析において,VR‒CAP 療法群はR‒CHOP 療法群に対してOS が有意に良好であった。本試験では,G‒CSF 一次予防投与は規定されていなかった。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(2)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

5 編のRCT の報告があったが,うち4 編はOS で述べたと同じ試験3,6‒8)であった。残り1 編は,R‒CHOP 療法を受けたB 細胞リンパ腫に対してG‒CSF を連日もしくは隔日の投与とした少人数の探索的な臨床研究であった9)。G‒CSF 一次予防投与の有無を比較したデザインではなく,本CQ の設定とは異なる部分があり,結果の解釈には注意が必要である。

びまん性大細胞型B 細胞リンパ腫を対象としたR‒CHOP‒14 療法に関する試験では,対象群のR‒CHOP 療法でのFN 発症率は11%であったが,54%の患者が二次予防投与を受けていた6)。一方で,低悪性度B 細胞リンパ腫を対象とした試験(JCOG0203 試験)では,ASCO ガイドラインに基づきR‒CHOP 療法群でも40%の患者でG‒CSF の二次予防投与(または治療投与)が行われており,FN 発症率は15%との結果であった7)

オビヌツズマブに関する試験(GALLIUM 試験)では,オビヌツズマブ併用CHOP 療法において60 歳以上の高齢者や併存疾患のある患者でG‒CSF 一次予防投与が推奨されていた3)。CHOP 療法群56%,ベンダムスチン群15%,CVP 療法群20%の患者でG‒CSF の投与が行われていた。FN 発症率は,オビヌツズマブ併用CHOP 療法で12%,リツキシマブ併用CHOP 療法で7%であった。他のがん薬物療法(ベンダムスチン,CVP 療法)でのFN 発症率はCHOP 療法より低い結果であった。一方,日本人患者では82.9%でCHOP 療法が選択されていたが,日本人患者におけるサブグループ解析の結果,オビヌツズマブ併用のがん薬物療法(CHOP 療法,ベンダムスチン,CVP 療法)でのFN 発症率は20%であった10)

未治療マントル細胞リンパ腫を対象とした第Ⅲ相RCT では,R‒CHOP 療法61%,VR‒CAP 療法78%でG‒CSF が投与されていた。FN 発症率は,それぞれ8%と11%であった8)
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(3)感染による死亡率

5 編のRCT の報告があったが,FN 発症率で述べた試験と同じ試験3,6‒9)であった。G‒CSF 一次予防投与の有無で比較した試験はなく,本CQ の設定とは異なる部分があり,結果の解釈には注意が必要である。感染による死亡率はすべての試験において1%未満であった。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(4)生活の質(QOL)

QOL を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(5)疼痛

1 編の前向き観察研究の報告があった10)。がん薬物療法に伴う好中球減少症もしくはFN の予防のためにG‒CSF を投与されたびまん性大細胞型B 細胞リンパ腫245 例が対象であった。骨痛7 例(2.9%),関節痛2 例(0.8%),背部痛2 例(0.8%)が報告された。本試験は,G‒CSF 一次予防投与は規定されていなかった。そのため,G‒CSF 一次予防投与による疼痛への影響については評価が困難であった。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

厳密にG‒CSF の一次予防投与の有無を比較した試験はなく,G‒CSF 一次予防投与のOS,FN 発症率,感染による死亡率のアウトカムへの影響の評価は困難であった。オビヌツズマブに関する試験(GALLIUM 試験)では,オビヌツズマブ併用CHOP 療法において60 歳以上の高齢者や併存疾患のある患者でG‒CSF 一次予防投与が推奨され,レジメン別でもG‒CSF 使用が最多であった3)。オビヌツズマブ併用CHOP 療法でのFN 発症率は12%であった。G‒CSF 一次予防投与が推奨されていない他のレジメンでは,FN 発症率は10%未満であった。そのため,いずれのアウトカムのエビデンス総体でもエビデンスの強さはD(非常に弱い)と判断した。QOL については,評価不能であった。

(2)害

対象となる疾患・病態で評価した試験,および,厳密にG‒CSF の一次予防投与の有無を評価した試験がなく,疼痛については評価不能であった。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,FN 発症率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがありうることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

(5)まとめ

厳密にG‒CSF の一次予防投与の有無を評価した試験はなく,G‒CSF 一次予防投与のそれぞれのアウトカムへの影響の評価は困難であった。オビヌツズマブに関する試験(GALLIUM 試験)では,オビヌツズマブ併用CHOP 療法において60 歳以上の高齢者や併存疾患のある患者でG‒CSF 一次予防投与が推奨されていた3)。そして,日本人のサブグループ解析では,オビヌツズマブ併用のがん薬物療法(CHOP 療法群が82.9%)でFN 発症率が20%であった10)。GALLIUM 試験3)やASCO ガイドライン5)を踏まえたうえで,オビヌツズマブ併用CHOP 療法,あるいは特に併存疾患のある高齢者に対するR‒CHOP 療法では,G‒CSF 一次予防投与が弱く推奨される。一方で,その他のがん薬物療法(ベンダムスチン,CVP 療法,VR‒CAP 療法)では,G‒CSF の一次予防投与は推奨されない。そのため,エビデンスの強さはD(非常に弱い)と判断した。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は23 名(医師21 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「行うことを弱く推奨する」が提示され,推奨決定の協議と投票の結果,23 名中21 名が原案に賛同し合意形成に至った。

参考文献

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7)
Watanabe T, Tobinai K, Shibata T, et al. Phase Ⅱ/Ⅲ study of R‒CHOP‒21 versus R‒CHOP‒14 for untreated indolent B‒cell non‒Hodgkin’s lymphoma:JCOG 0203 trial. J Clin Oncol. 2011;29:3990‒8.
8)
Robak T, Huang H, Jin J, et al. Bortezomib‒based therapy for newly diagnosed mantle‒cell lymphoma. N Engl J Med. 2015;372:944‒53.
9)
Yakushijin Y, Shikata H, Takaoka I, et al. Usage of granulocyte colony‒stimulating factor every 2 days is clinically useful and cost‒effective for febrile neutropenia during early courses of chemotherapy. Int J Clin Oncol. 2011;16:118‒24.
10)
Ohmachi K, Tobinai K, Kinoshita T, et al. Efficacy and safety of obinutuzumab in patients with previously untreated follicular lymphoma:a subgroup analysis of patients enrolled in Japan in the randomized phase Ⅲ GALLIUM trial. Int J Hematol. 2018;108:499‒509.

Q21(CQ)
T/NK 細胞リンパ腫および再発・難治リンパ腫のがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
T/NK 細胞リンパ腫および再発・難治リンパ腫のがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与を行うことを弱く推奨する

合意率:87.0%(20/23 名)

解説

BV‒CHP 療法においてはG‒CSF 一次予防投与によってFN 発症率を低下させることが示唆されている。また,RT‒2/3DeVIC 療法,SMILE 療法,再発・難治性リンパ腫に対する複数の治療レジメン(GDP 療法を除く)において,その高いFN 発症率からG‒CSF 一次予防投与が行われている。

1 本CQ の背景

T/NK 細胞リンパ腫に対する初回治療は病型によって異なる。T 細胞リンパ腫の標準治療はCHOP 療法であるが,そのうち腫瘍細胞がCD30 陽性のT 細胞リンパ腫に対する標準治療は,CHOP 療法と比較した第Ⅲ相RCT(ECHELON‒2)1)の結果,BV‒CHP 療法となった。本ガイドライン2013 年版ver. 5 では,CHOP 療法のFN 発症率は17~50%とされていた。BV‒CHP 療法については,ECHELON‒2 試験においてG‒CSF の一次予防投与は必須とされていなかった。BV‒CHP 療法群で一次予防投与が行われなかった66%の患者におけるFN 発症率は20%であり,一次予防投与が行われた患者のFN 発症率は16%であった。節外性NK/T 細胞リンパ腫(extranodal NK/T‒cell lymphoma;ENKL)の標準治療は,限局期では放射線療法(RT)と2/3 量DeVIC 療法との同時併用療法(RT‒2/3DeVIC 療法)であり,進行期ではSMILE 療法である。本ガイドライン2013 年版ver. 5 では,RT‒2/3DeVIC 療法のFN 発症率は15%,SMILE 療法のFN 発症率は39%とされていた。RT‒2/3DeVIC 療法の臨床試験(JCOG0211)2)では白血球数2,000/μL 未満あるいは好中球数1,000/μL 未満となったらG‒CSF 投与が規定されていた。JCOG0211 ではgrade 3 以上の白血球減少症および好中球減少症は,それぞれ100%および93%に発現していることから,ほとんどの患者でG‒CSF 投与が行われたと考えられる。また,SMILE 療法の第Ⅱ相試験3)では,第Ⅰ相試験結果4)を受けてG‒CSF 一次予防投与が規定されていた。

再発・難治性リンパ腫に対するがん薬物療法の選択肢は複数あり,標準治療レジメンは定まっていない。実地診療ではDHAP 療法,ESHAP 療法,ICE 療法,CHASE 療法などが施行されている。これらの多剤併用化学療法のFN 発症率は,本ガイドライン2013 年版ver. 5 では,いずれも20%を超えるとされている。最近GDP 療法が実地診療で施行されることがあるが,カナダのグループが行った臨床試験(NCIC‒CTG LY.12)5)では,G‒CSF 二次予防投与が規定されており,第2 コースまでのFN 発症率は9%であった。NCCN ガイドラインには,BV‒CHP 療法,ICE 療法,DHAP 療法,ESHAP 療法はFN 発症率20%を超える高リスクレジメンとして記載されている6)。 

本CQ は,「T/NK 細胞リンパ腫に対してがん薬物療法を行う場合,G‒CSF の一次予防投与は有用か?」と「再発・難治悪性リンパ腫に対してがん薬物療法を行う場合,G‒CSF 一次予防投与は有用か?」を統合したものである。スクリーニングの結果,いずれのCQ も5 編以下であったため,存続要否を検討し,この2 つのCQ はリンパ腫病型を分けたために採択件数が減少したと判断して,統合して新たなCQ とする方針とした。

2 アウトカムの設定

本CQ では,小児を除く,がん薬物療法を受けるT/NK 細胞リンパ腫患者および再発・難治リンパ腫患者を対象に,G‒CSF を一次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ は,「T/NK 細胞リンパ腫に対してがん薬物療法を行う場合,G‒CSF の一次予防投与は有用か?」と「再発・難治悪性リンパ腫に対してがん薬物療法を行う場合,G‒CSF の一次予防投与は有用か?」を統合したものである。前者に対する文献検索の結果,PubMed 55 編,Cochrane 0 編,医中誌35 編が抽出され,これにハンドサーチ3 編を加えた計93 編がスクリーニング対象となり,2 回のスクリーニングを経た結果,4 編が採択された。後者に対する文献検索の結果,PubMed 27 編,Cochrane 0 編,医中誌35 編が抽出され,これにハンドサーチ4 編を加えた計66 編がスクリーニング対象となり,2 回のスクリーニングを経た結果,3 編が採択された。いずれのCQ も5 編以下であったため,存続要否を検討した結果,この2 つのCQ はリンパ腫病型を分けたために採択件数が減少したと判断して,統合して新たなCQ とする方針とした。統合した本CQ に対する文献検索の結果は,PubMed 82 編,Cochrane 0 編,医中誌70 編が抽出され,これにハンドサーチ7 編を加えた計159 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された7 編を対象に定性的システマティックレビューを実施した。厳密にG‒CSF の一次予防投与の有無を比較した試験はなく,上記の7 編も不均一な研究であったため,メタアナリシスは実施せず,定性的システマティックレビューのみを実施した。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)全生存期間(OS)

G‒CSF 一次予防投与の有無でOS を比較した研究は抽出されなかった。本CQ の設定とは異なるため結果の解釈には注意が必要であるが,進行期ENKL に対するSMILE 療法の第Ⅰ相試験では,G‒CSF 一次予防投与が規定されていなかった期間に,1 例で好中球減少に起因する死亡が認められ,G‒CSF 一次予防投与を必須とするプロトコール改訂後には死亡を含む重症感染症の発現は認められていない4)
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(2)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

G‒CSF 一次予防投与の有無でFN 発症率を比較した試験は抽出されなかった。本CQ の設定とは異なるため結果の解釈には注意が必要であるが,CD30 陽性T 細胞リンパ腫を対象としたECHELON‒2 試験におけるFN 発症率は,BV‒CHP 療法群のG‒CSF 一次予防投与未施行患者で20%,施行患者で16%,CHOP 療法群のG‒CSF 一次予防投与未施行患者で16%,施行患者で11%であり,G‒CSF 一次予防投与によってFN 発症率が低下することが示唆されている1)。また,進行期ENKL に対するSMILE 療法の第Ⅰ相試験では当初G‒CSF の一次予防投与は規定されていなかったが,最初の3 例中2 例でFN を発症し,G‒CSF 一次予防投与を必須とするプロトコール改訂後に追加された3 例には,FN の発症は認められなかった4)
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(3)感染による死亡率

G‒CSF 一次予防投与の有無で感染による死亡率を比較した研究は抽出されなかった。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(4)生活の質(QOL)

QOL を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(5)疼痛

G‒CSF 一次予防投与の有無による疼痛を評価した研究はなかった。本CQ の設定とは異なるため結果の解釈には注意が必要であるが,再発・抵抗性リンパ腫患者に対するがん薬物療法後のペグフィルグラスチムとフィルグラスチムとの比較試験で,前者の29 例中11 例(37.9%),後者の31 例中9 例(29.0%)で疼痛を認めた7)
エビデンスの強さD(非常に弱い)

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

G‒CSF 一次予防投与の有無を比較する試験は抽出されなかったため,一次予防投与のOS,FN 発症率,感染による死亡率,QOL への影響の評価は困難であった。しかし,BV‒CHP 療法においてはG‒CSF 一次予防投与によってFN 発症率が低下することが示唆され,進行期ENKL に対するSMILE 療法でもG‒CSF 一次予防投与によってFN 発症率や感染による死亡率の軽減が示唆されている。

(2)害

G‒CSF 一次予防投与の害は評価できなかった。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,FN 発症率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

(5)まとめ

G‒CSF 一次予防投与の有無を比較する試験は抽出されず,いずれのアウトカムのエビデンス総体でもエビデンスの強さはD(非常に弱い)と判断した。しかし,多くのレジメンでFN 発症率が高いことが知られており,G‒CSF 一次予防投与によるFN 発症率低下が示唆されていることから,T/NK 細胞リンパ腫および再発・難治リンパ腫のがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与を行うことを弱く推奨する。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は23 名(医師21 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「行うことを弱く推奨する」が提示され,推奨決定の協議と投票の結果,23 名中20 名が原案に賛同し合意形成に至った。

参考文献

1)
Horwitz S, O’Connor OA, Pro B, et al. Brentuximab vedotin with chemotherapy for CD30‒positive peripheral T‒cell lymphoma(ECHELON‒2):a global, double‒blind, randomized, phase 3 trial. Lancet. 2019;393:229‒40.
2)
Yamaguchi M, Tobinai K, Oguchi M, et al. Phase Ⅰ/Ⅱ study of concurrent chemoradiotherapy for localized nasal natural killer/T‒cell lymphoma:Japan Clinical Oncology Group Study JCOG0211. J Clin Oncol. 2009;27:5594‒600.
3)
Yamaguchi M, Kwong YL, Kim WS, et al. Phase Ⅱ study of SMILE chemotherapy for newly diagnosed stage Ⅳ, relapsed, or refractory extranodal natural killer(NK)/T‒cell lymphoma, nasal type:The NK‒Cell Tumor Study Group study. J Clin Oncol. 2011;29:4410‒6.
4)
Yamaguchi M, Suzuki R, Kwong YL, et al. Phase Ⅰ study of dexamethasone, methotrexate, ifosfamide, L‒asparaginase, and etoposide(SMILE)chemotherapy for advanced‒stage, relapsed or refractory extranodal natural killer(NK)/T‒cell lymphoma and leukemia. Cancer Sci. 2008;99:1016‒20.
5)
Crump M, Kuruvilla J, Couban S, et al. Randomized comparison of gemcitabine, dexamethasone, and cisplatin versus dexamethasone, sytarabine, and cisplatin chemotherapy before autologous stem‒cell transplantation for relapsed and refractory aggressive lymphomas:NCIC‒CTG LY.12. J Clin Oncol. 2014;32:3490‒6.
6)
NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Hematopoietic Growth Factors. Version 1. 2022.
7)
Vose JM, Crump M, Lazarus H, et al. Randomized, multicenter, open‒label study of pegfilgrastim compared with daily filgrastim after chemotherapy for lymphoma. J Clin Oncol. 2003;21:514‒9.

Q22(CQ)
成人急性骨髄性白血病(急性前骨髄球性白血病を除く)の寛解導入療法において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さB(中)
成人急性骨髄性白血病(急性前骨髄球性白血病を除く)の寛解導入療法において,G‒CSF の一次予防投与を行わないことを弱く推奨する

合意率:100%(23/23 名)

解説

急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia;AML)の寛解導入療法におけるG‒CSF の一次予防投与は,感染による死亡率の低下,血球減少期間の短縮,AML のOS の改善に対する効果は認められず有用性に乏しいものの,原疾患の増悪には影響しない。一方,好中球減少期間を短縮する効果は期待でき,重症感染症を併発している場合にはG‒CSF の一次予防投与を検討してもよい。

1 本CQ の背景

AML は治癒が期待できる疾患で,根治を目指して寛解導入療法と寛解後療法が行われる。寛解導入療法は血液学的寛解を得ることを目的にした強力ながん薬物療法であり,高度な好中球減少症(好中球数<100/μL)がしばしば遷延する。

NCCN ガイドライン1)では,致死的敗血症を併発したAML 患者に寛解導入療法を行う場合,または寛解後療法の支持療法としてG‒CSF の一次予防投与を考慮してもよいとしている。ASCO ガイドライン2)は,AML に対するG‒CSF の一次予防投与に関する記載はない。

2 アウトカムの設定

本CQ では,小児を除く,がん薬物療法を受けるAML 患者(急性前骨髄球性白血病を除く)を対象に,G‒CSF を一次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「感染による死亡率」「全生存期間(OS)」「血球減少期間」「原疾患の増悪」「疼痛などの有害事象」の5 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 217 編,Cochrane 1 編,医中誌69 編が抽出され,ハンドサーチ8 編を加えた計295 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された16 編を対象に定性的システマティックレビュー,うち6 編(感染による死亡率),3 編(原疾患の増悪),2 編(疼痛などの有害事象)に対してメタアナリシスを実施した。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)感染による死亡率

AML 60 歳以下を対象に高用量シタラビンを実施したRCT が1 編3),16 歳以上を対象とした標準的寛解導入療法(アントラサイクリン+標準量シタラビンをもとにしたがん薬物療法)のRCT 2 編4,5),55 歳以上または65 歳以上が対象のRCT 3 編6‒8)が抽出された。RCT 6 編はいずれも,G‒CSF 一次予防投与の有無で感染による死亡率に有意差がないとの結論で一致していた。RCT 6 編のメタアナリシスでは出版バイアスは認められず,RR 0.96(95%CI:0.71‒1.30,p=0.80)であった。
エビデンスの強さA(強)

感染による死亡率のメタアナリシス結果

(2)全生存期間(OS)

全年齢層が対象のRCT 1 編9),55 歳から65 歳以上を対象としたRCT 3 編6,8,10),60 歳または65 歳未満が対象のRCT 2 編3,11)の計6 編および症例対照研究1 編12)の定性的アウトカムを評価した。RCT はいずれも,G‒CSF 一次予防投与の有無でOS に有意差がないとの結論で一致しており,症例対照研究1 編も同様の結論であった。効果指標の不一致からメタアナリシスは実施しなかった。
エビデンスの強さB(中)

(3)血球減少期間

全年齢層9),60 歳以上10),60 歳未満3)を対象とするRCT 3 編と症例対照研究1 編12),コホート研究1 編13)の検証結果を評価した。RCT 3 編はいずれも割り付けの隠蔽化が十分でなく,うち2 編で盲検化が未実施であった。症例対照研究の1 編は検証両群の年齢,チャールソン併存疾患指数,細胞遺伝学的リスクに差があり,コホート研究の1 編は交絡の調整が不十分であり,バイアスリスクが存在した。このような条件下ではあるが,全5 編とも,G‒CSF 一次予防投与の有無で血球減少期間に有意差がないとの結論で一致していた。一方,G‒CSF 投与により好中球減少期間を短縮する効果は期待される3,9,10)
エビデンスの強さB(中)

(4)原疾患の増悪

RCT 6 編が抽出され,その対象は全年齢層2 編9,14),55 歳から65 歳以上3 編6,8,10),65 歳未満1 編11)であり,AML の標準的寛解導入療法をもとにしたがん薬物療法の検証であった。このRCT 6 編に加え,症例対照研究1 編12),コホート研究1 編13)の計8 編のすべてにおいて,G‒CSF 一次予防投与は原疾患の増悪に影響しないとの結論で一致していた。RCT 6 編中,効果指標の不一致を除いた3 編のメタアナリシスの結果,出版バイアスの可能性は否定できないものの,研究間での結果のばらつきはI2=33%と小さく,RR 0.99(95%CI:0.78‒1.27,p=0.97)と先に記載した結論と同様であった。
エビデンスの強さA(強)

原疾患の増悪のメタアナリシス結果

(5)疼痛などの有害事象

AML の全年齢層と55 歳以上のそれぞれ1 編ずつの計2 編5,6)のRCT が抽出され,ともにAML の標準的寛解導入療法をもとにしたがん薬物療法で検証した。RCT の1 編は,施設間での差はあるものの,メタアナリシスにおいて出版バイアスは認められず,RR 0.72(95%CI:0.10‒5.45,p=0.75)と,G‒CSF 一次予防投与の有無で発疹を含む疼痛などの有害事象に有意差がないとの結論であったが,I2=69%と研究間での結果のばらつきは大きいと評価した。
エビデンスの強さB(中)

疼痛などの有害事象のメタアナリシス結果

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

AML の寛解導入療法におけるG‒CSF の一次予防投与について,RCT 10 編,症例対照研究1 編,コホート研究1 編で評価した。G‒CSF の一次予防投与は,感染による死亡率,OS の改善,血球減少期間短縮に寄与せず,有用性に乏しいことが示された。一方,好中球減少期間を短縮する効果は認められた。

(2)害

AML 細胞はG‒CSF 受容体を発現しているため,G‒CSF の一次予防投与による白血病細胞の増殖が懸念されるが,AML の増悪には影響しない可能性が示唆された。疼痛などの有害事象は,G‒CSF 投与群と対照群とを比較しても差がないという結論であったが,メタアナリシスで研究間での結果のばらつきが大きいことが示された。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,FN 発症率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

(5)まとめ

AML の寛解導入療法において,G‒CSF の一次予防投与は,益も害も明確になっておらず,行わないことを弱く推奨する。好中球減少期間を短縮する効果は認められるため,重症感染症を併発している場合には検討してもよいと考えられた。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は23 名(医師21 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断した。システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案を提示し,推奨決定の協議と投票の結果,23 名中23 名(100%)が原案に賛同し合意形成に至った。

参考文献

1)
NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Acute Myeloid Leukemia Version 1. 2022.
2)
Smith TJ, Bohlke K, Lyman GH, et al. American Society of Clinical Oncology. Recommendations for the use of WBC growth factors:American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline Update. J Clin Oncol. 2015;33:3199‒212.
3)
Bradstock K, Matthews J, Young G, et al. Effects of glycosylated recombinant human granulocyte colony‒stimulating factor after high‒dose cytarabine‒based induction chemotherapy for adult acute myeloid leukaemia. Leukemia. 2001;15:1331‒8.
4)
Usuki K, Urabe A, Masaoka T, et al. Efficacy of granulocyte colony‒stimulating factor in the treatment of acute myelogenous leukaemia:a multicentre randomized study. Br J Haematol. 2002;116:103‒12.
5)
Heil G, Hoelzer D, Sanz MA, et al. A randomized, double‒blind, placebo‒controlled, phase Ⅲ study of filgrastim in remission induction and consolidation therapy for adults with de novo acute myeloid leukemia. The International Acute Myeloid Leukemia Study Group. Blood. 1997;90:4710‒8.
6)
Godwin JE, Kopecky KJ, Head DR, et al. A double‒blind placebo‒controlled trial of granulocyte colony‒stimulating factor in elderly patients with previously untreated acute myeloid leukemia:a Southwest oncology group study(9031). Blood. 1998;91:3607‒15.
7)
Bennett CL, Hynes D, Godwin J, et al. Economic analysis of granulocyte colony stimulating factor as adjunct therapy for older patients with acute myelogenous leukemia(AML):estimates from a Southwest Oncology Group clinical trial. Cancer Invest. 2001;19:603‒10.
8)
Dombret H, Chastang C, Fenaux P, et al. A controlled study of recombinant human granulocyte colony‒stimulating factor in elderly patients after treatment for acute myelogenous leukemia. AML Cooperative Study Group. N Engl J Med. 1995;332:1678‒83.
9)
Wheatley K, Goldstone AH, Littlewood T, et al. Randomized placebo‒controlled trial of granulocyte colony stimulating factor(G‒CSF)as supportive care after induction chemotherapy in adult patients with acute myeloid leukaemia:a study of the United Kingdom Medical Research Council Adult Leukaemia Working Party. Br J Haematol. 2009;146:54‒63.
10)
Amadori S, Suciu S, Jehn U, et al. Use of glycosylated recombinant human G‒CSF(lenograstim)during and/or after induction chemotherapy in patients 61 years of age and older with acute myeloid leukemia:final results of AML‒13, a randomized phase‒3 study. Blood. 2005;106:27‒34.
11)
Beksac M, Ali R, Ozcelik T, et al. Short and long term effects of granulocyte colony‒stimulating factor during induction therapy in acute myeloid leukemia patients younger than 65:results of a randomized multicenter phase Ⅲ trial. Leuk Res. 2011;35:340‒5.
12)
Kang KW, Kim DS, Lee SR, et al. Effect of granulocyte colony‒stimulating factor on outcomes in patients with non‒M3 acute myelogenous leukemia treated with anthracycline‒based induction(7+3 regimen)chemotherapies. Leuk Res. 2017;57:1‒8.
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川戸正文,三國主税,廣田 豊.急性骨髄性白血病における化学療法後の好中球減少症に対するG‒CSF 投与の効果.医療.2003;57:420‒5.
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Ohno R, Tomonaga M, Kobayashi T, et al. Effect of granulocyte colony‒stimulating factor after intensive induction therapy in relapsed or refractory acute leukemia. N Engl J Med. 1990;323:871‒7.

Q23(CQ)
成人急性リンパ性白血病の治療において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さB(中)
成人急性リンパ性白血病の治療において,G‒CSF の一次予防投与を行うことを弱く推奨する

【推奨の強さ:2(弱い)合意率:95.7%(22/23 名)】

解説

重篤な骨髄抑制を惹起する急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia;ALL)のがん薬物療法においては,G‒CSF の一次予防投与によりFN 発症率を低減させる傾向がある。感染による死亡率を減少させるか否かは明確ではないが,OSを改善することが示唆される。二次発がんに与える影響は不明であるが,G‒CSF の一次予防投与を行うことが弱く推奨される。

1 本CQ の背景

ALL に対しては,標準的な治療は確立されているとは言い難い。従来どおりの治療法ではアントラサイクリン・アルキル化剤などのがん薬物療法を用いることで,重篤な骨髄抑制が避けられないが,近年,思春期・若年成人におけるALL 治療に関して,ステロイド・ビンクリスチン・L‒アスパラギナーゼなどの薬剤量が比較的多く,治療強度の高い小児プロトコールに準じた治療が,従来型成人ALL 治療プロトコールと比べてより有効であることが報告されている1)。NCCN ガイドラインでは,ALL の治療において,G‒CSF の投与は推奨されるとしている2)。ASCO ガイドラインでは,2015 年の改訂で,小児に対するG‒CSF 使用が慎重投与から非推奨に変更されているが,小児プロトコールに準じた治療を行うことが多くなっている思春期・若年成人においては同様の言及はされていない3)

2 アウトカムの設定

本CQ では,小児を除く,がん薬物療法を受けるALL 患者を対象に,G‒CSF を一次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「感染による死亡率」「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「二次発がん」「原疾患の増悪」「生活の質(QOL)」の6 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 65 編,Cochrane 1 編,医中誌34 編が抽出され,これにハンドサーチ4 編を加えた計104 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された9 編(RCT 6 編4‒9),症例対照研究3 編10‒12))を対象に定性的システマティックレビュー,うち2 編(感染症による死亡率),3 編(FN 発症率),3 編(原疾患の増悪)についてメタアナリシスを実施した。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)感染による死亡率

評価可能なRCT 2 編4,7)は,各々55 歳,65 歳までを対象としており,本CQ の対象に合致しているが,いずれもプラセボ対照ではなくバイアスリスクはやや高い。メタアナリシスの結果I2=0%と各研究間での統計学的なばらつきは小さかった。症例対照研究2 編中,1 編12)は対照群の症例数が不明で評価困難であり,1 編11)は14 例と小規模でhistorical control との比較であり,非直接性を有する。RCT,症例対照研究のいずれの報告も,G‒CSF 一次予防投与の有無で有意差がないという結論で一致していた。
エビデンスの強さB(中)

感染による死亡率のメタアナリシス結果

(2)全生存期間(OS)

評価可能なRCT 4 編4‒6,9)は成人初発ALL 標準療法症例を対象としており,本CQ の対象に合致している。1 編5)はプラセボ対照,3 編4,6,9)はopen label で軽微なバイアスリスクを有する。効果指標の不一致からメタアナリシスは実施困難であったが,1 編9)はG‒CSF 一次予防投与群で有意に良好,3 編4‒6)は有意差を認めなかったが,G‒CSF 一次予防投与群でOS が長い傾向が認められており,各研究間でばらつきは少ないと考えられた。症例対照研究1 編12)はG‒CSF 一次予防投与群が1991~1992 年,G‒CSF 一次予防投与非実施群が1982~1990 年の症例を対象としており,バイアスリスクを有する。この研究では,有意差はないが,G‒CSF 一次予防投与群でOS が長い傾向が認められた。
エビデンスの強さB(中)

(3)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

評価可能なRCT 3 編6‒8)は79 歳,65 歳,60 歳代までの標準治療を受ける成人ALL を対象とし,年齢中央値からは対象,介入ともに本CQ に合致している。open label であり軽微なバイアスリスクを有する。RCT 3 編では,1 編6)においてG‒CSF 一次予防投与群でFN 発症率は低く,残る2 編7,8)においても有意差はないがG‒CSF 一次予防投与群でFN 発症率が低かった。メタアナリシスの結果,RR 0.67(95%CI:0.42‒1.06,p=0.09)とG‒CSF 一次予防投与群でFN 発症率が低い傾向を認めた。I2=22%と非一貫性は低かった。症例対照研究1 編11)では,FN 発症率はOR 0.53(95%CI:0.11‒2.56)で有意差は認めなかった。
エビデンスの強さA(強い)

FN 発症率のメタアナリシス結果

(4)二次発がん

二次発がんを評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(5)原疾患の増悪

評価可能なRCT 3 編5,7,9)の対象年齢は79 歳,65 歳,58 歳までの標準治療を受ける成人ALL を対象とし,年齢中央値から対象,介入ともにCQ に合致し非直接性は低い。1 編5)のみプラセボ対照試験,残り2 編7,9)はopen label で軽微なバイアスリスクを有する。メタアナリシスの結果I2=22%と各研究間での統計学的なばらつきは小さく,RR は0.81(95%CI:0.60‒1.09,p=0.17)と,G‒CSF 一次予防投与群で原疾患の増悪がやや低い傾向にあったが,有意差は認められなかった。症例対照研究1 編12)は再発例も含めた治療介入であるためG‒CSF 一次予防投与非実施群の情報に乏しく,非直接性もバイアスリスクも高いことから,評価が困難であった。
エビデンスの強さA(強)

原疾患の増悪のメタアナリシス結果

(6)生活の質(QOL)

QOL を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

ALL の寛解導入療法におけるG‒CSF の一次予防投与によりFN 発症率を低減する傾向を認め,原疾患の増悪には影響しない,という結果であった。感染による死亡率には影響がなく,OS が改善する傾向が認められた。いずれも近年の感染症治療薬やがん薬物療法プロトコールを用いた研究報告ではない。

(2)害

二次発がんに関してのエビデンスは得られなかった。また原疾患の増悪に関しては害となる明確なエビデンスは得られなかった。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,FN 発症率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

一般的に考慮して,通常入院にて一貫して行うALL の治療に関して,G‒CSF 投与による通院負担が増加することはなく,治療効果に関して害悪の恐れも確実なものではないため,患者の価値観・好みに関して妨げとなる要素はないと推察される。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

ALL の治療におけるG‒CSF の一次予防投与は,日本においては保険診療として行うことができる。ALL に対する一貫した治療の一部として,入院診療における診断群分類別包括評価(DPC)や高額療養費制度を活用することにより,G‒CSF 一次予防投与を行うことで患者個人の費用負担が増加する懸念は,日本においては問題にならないと考える。ただし日本の保険医療費総体としての増加に寄与することは否めないが,今回の検討でその詳細については考慮されていない。

(5)まとめ

本CQ については,疾患の特性から小児を対象とした文献が多く,一部は16 歳以上の症例を含んでいたが,症例の内訳が不明のものは除外した。近年新たに実施されたRCT はなく,2000 年代前半以前の文献が抽出された。システマティックレビューの結果,G‒CSF 一次予防投与による益が示唆され,害は明確ではないことから,G‒CSF の一次予防投与を行うことを弱く推奨する。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は23 名(医師21 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。

システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「成人急性リンパ性白血病の治療において,G‒CSF の一次予防投与を行うことを弱く推奨する」が提示され,推奨決定の協議と投票の結果,23 名中22 名(95.7%)が原案に賛同し合意形成に至った。

7 今後の研究課題

近年,より治療強度の高い小児型プロトコールが採用され,実地診療ではG‒CSF の一次予防投与も一定の頻度で実施されていると思われるが,今回の検討ではその役割を評価することはできず,今後の課題の一つと考えられた。

一方でALL は治療成績が改善し長期生存期間が飛躍的に改善しており,近年ASCO ガイドラインなどでは,二次発がんなどを懸念して,G‒CSF の一次予防投与は推奨から外れている。今回の検討からは二次発がんとQOL に関して評価が困難であった。がん薬物療法が長期間実施されるALL において,G‒CSF の使用は支持療法の一部にすぎないため,G‒CSF そのものの長期的な影響の評価を行うことは難しく,今後の課題であると考えられた。

参考文献

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Q24(CQ)
好中球減少症が持続する骨髄異形成症候群において,G‒CSF の一次予防投与は有用か?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さC(弱)
好中球減少症が持続する骨髄異形成症候群において,G‒CSF の一次予防投与を行うことを弱く推奨する

意率:100%(23/23 名)

解説

骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes;MDS)は,疾患の特性として慢性的な好中球減少を呈する疾患である。本CQ は,がん薬物療法の対象となる高リスク群MDS にとどまらず,低リスク群MDS を含めた全リスク群に共通の慢性的な好中球減少を呈する疾患という特性を踏まえ,がん薬物療法施行の有無については問わないことにし,MDS に対するG‒CSF の使用を「一次予防」と定義した。MDS におけるG‒CSF の一次予防投与について,G‒CSF 単独投与のエビデンスは乏しく,エリスロポエチンとの同時併用に限定されたエビデンスのみであるが,OS を延長する傾向が示されている。感染症による死亡率の低減への寄与は不明確であるが,G‒CSF の一次予防投与を行うことを弱く推奨する。なおG‒CSF 投与は,原疾患の増悪には影響しないと推定されるが,実際の投与は個々の患者の病状・全身状態を考慮して実施する必要がある。

1 本CQ の背景

MDS は単~多系統の血球減少をきたし,その程度は患者により様々であるが,慢性的で重篤な好中球減少症は,致死的な感染症を合併するリスクとなる。ASCO ガイドラインでは重篤な好中球減少症を呈する患者に対してG‒CSF を間欠的に投与することを推奨している1)。一方NCCN ガイドラインでは好中球減少症へのルーチンでの投与は推奨しておらず,感染症を繰り返す場合や,感染症が治療抵抗性である場合に対して許容している2)。日本血液学会「造血器腫瘍診療ガイドライン2018 年版補訂版」では,「低リスクMDS に対してのG‒CSF のエリスロポエチンとの併用投与は,エリスロポエチンへの反応性を上昇させるが,ダルベポエチンの効果増強を目的としたG‒CSF の使用は日本では保険適用となっていない」との記載にとどまり,G‒CSF 単独の推奨に関しては言及されていない3)

2 アウトカムの設定

本CQ では,小児を除く,慢性的な好中球減少症を呈するMDS 患者を対象に,G‒CSF を一次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「感染による死亡率」「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「原疾患の増悪」「生活の質(QOL)」「疼痛などの有害事象」の6 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 42 編,Cochrane 1 編,医中誌27 編が抽出され,これにハンドサーチ14 編を加えた計84 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された3 編4‒6)を対象に定性的システマティックレビュー,うち2 編4,6)についてメタアナリシスを実施した。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)感染による死亡率

介入がG‒CSF だけでなく,エリスロポエチンとの同時投与のRCT 1 編4)をもとに評価した。感染による死亡率は,G‒CSF 一次予防投与の有無で有意差はみられなかった[OR 0.00(95%CI:0‒39.0,p=1.00)]。RCT は1 編のみに限られるため,結果の解釈には注意が必要である。
エビデンスの強さB(中)

(2)全生存期間(OS)

RCT はなく,コホート研究1 編5)のみで評価した。介入は,G‒CSF とエリスロポエチンの同時投与であった。1990 年代の症例であり,現在とは支持療法も異なっていた。OS は対照群に比して投与群で優れ有意差ありとされていたが,低リスクMDS が6 割を占める集団の検証であること,また輸血量が少ない症例でOS が優れる傾向にあったことからG‒CSF の影響と解釈できない点に注意が必要である。G‒CSF による効果は,エリスロポエチンの貧血に対する治療効果の補助的意味合いが強い。
エビデンスの強さC(弱)

(3)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(4)原疾患の増悪

RCT 2 編4,6),コホート研究1 編5)で評価した。いずれも,介入は,G‒CSF とエリスロポエチンの同時投与であった。RCT 2 編は両群合わせてそれぞれ60 例,30 例と少数例の検討であるが,2000 年以降の症例であり,支持療法は現在と大きくは変わらないと考えられる。原疾患の増悪は投与群と対照群とで差はなく,コホート研究でも同様の結論であり,研究間の結果に一貫性はあると判断された。RCT 2 編でのメタアナリシスにおいて出版バイアスは認められず,RR 1.00(95%CI:0.21‒4.74,p=1.00)であったことから,G‒CSF の投与が原疾患の増悪には影響せず,I2=0%と各研究間での統計学的なばらつきは小さいと判断された。
エビデンスの強さB(中)

原疾患の増悪のメタアナリシス結果

(5)生活の質(QOL)

RCT 1 編4)のみで評価され,介入は,G‒CSF とエリスロポエチンの同時投与であった。FACT‒An(Functional Assessment of Cancer Therapy‒Anemia)の28 週および56 週後の改善について,投与群と対照群で有意差はみられなかった[28 週:OR 0.44(95%CI:0.08‒2.20,p=0.30),56 週:OR 1.81(95%CI:0.18‒17.5,p=0.64)]。ただし,QOL に影響する因子として,エリスロポエチンによる貧血改善効果があり,G‒CSF そのものによる効果の評価は困難である。
エビデンスの強さB(中)

(6)疼痛などの有害事象

RCT 1 編6)のみで評価され,介入は,G‒CSF とエリスロポエチンの同時投与であった。投与群と対照群の両群合わせて30 例と少数例の検討であった。関連する有害事象は多くが注射部位の痒みであり,その頻度は両群で有意差を認めなかった[OR 0.74(95%CI:0.11‒4.55,p=1.00)]。また,この有害事象により投与が中断された症例は認められなかった。
エビデンスの強さB(中)

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

好中球減少症が持続するMDS に対するG‒CSF 一次予防投与は,いずれもエリスロポエチンとの同時投与の検証のみであり,エビデンスが強いものは存在しなかった。G‒CSF とエリスロポエチンの併用により,OS が延長する傾向はあったが,感染症による死亡率の低減への寄与は不明確であった。本CQ に関する報告はRCT 2 編,コホート研究1 編のみで,いずれも少数例での検討であることから結果の解釈には注意が必要である。「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」で検証された報告は抽出されなかった。

(2)害

「益」同様に,エビデンスレベルが強いものは存在しなかった。G‒CSF の一次予防投与が骨髄系腫瘍であるMDS において懸念される「原疾患の増悪」には影響しないことが推定されたが,少数例の検討であることから,結果の解釈には注意が必要である。「疼痛などの有害事象」に関しても同様と推定された。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,FN 発症率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

(5)まとめ

介入がG‒CSF のみの投与ではなく,エリスロポエチンが同時投与されていること,MDS に対する標準治療が近年変化していることから,結果の解釈には注意が必要であるが,システマティックレビューの結果からは,益が害を上回ると考えられ,G‒CSF の一次予防投与を行うことを弱く推奨する。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は23 名(医師21 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。

システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「好中球減少症が持続する骨髄異形成症候群において,G‒CSF の一次予防投与を行うことを弱く推奨する」が提示され,推奨決定の協議と投票の結果,23 名中23 名が原案に賛同し合意形成に至った。

7 今後の研究課題

MDS の低リスク群あるいは高リスク群など対象を限定した上で,G‒CSF 単独投与の有用性を明らかにする臨床試験の実施が望まれる。

参考文献

1)
Smith TJ, Bohlke K, Lyman GH, et al. American Society of Clinical Oncology. Recommendations for the Use of WBC Growth Factors:American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline Update. J Clin Oncol. 2015;33:3199‒212.
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Ⅳ.治療強度増強

Q25(CQ)
乳がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法を行うことは有用か?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さA(強)
乳がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を増強したがん薬物療法を行うことを弱く推奨する

合意率:100%(23/23 名)

解説

G‒CSF 一次予防投与を前提に,乳がんの周術期がん薬物療法のサイクルを3 週毎から2 週毎に短縮するdose‒dense 療法によってOS やEFS の改善が示唆されており,乳がん周術期治療としてdose‒dense 療法を行うことを弱く推奨する。

1 本CQ の背景

乳がんの周術期がん薬物療法はCMF 療法から始まり,アントラサイクリン系抗がん薬の登場,さらにタキサン系抗がん薬の併用により予後改善効果が高まってきた。そして,さらなる予後改善を図るために,用いる薬剤の使用法の検討がなされるようになってきた。その一つとして,ノートン・サイモン仮説に基づき投与間隔を短くするdose‒dense 療法が考案された。乳がんの周術期がん薬物療法において従来の3 週間隔から2 週間隔とするdose‒dense 療法が,複数の臨床試験によって検討されてきた。本CQ では,乳がん周術期がん薬物療法においてG‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を増強したdose‒dense 療法の益と害を評価し,その有用性を検討した。

2 アウトカムの設定

本CQ では,がん薬物療法を受ける乳がん患者を対象に,G‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を増強したがん薬物療法を行う場合(dose‒dense 療法)と治療強度を増強しない従来の用法・用量でがん薬物療法を行う場合(conventional 療法)を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「無イベント生存期間(EFS)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の6 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 473 編,Cochrane 1 編,医中誌60 編が抽出され,ハンドサーチによる3 編を加え合計537 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された23 編1‒23)を対象に定性的システマティックレビュー,うちOS については12 編,FN 発症率については18 編,疼痛については6 編,EFS は12 編を対象にメタアナリシスを実施した。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)全生存期間(OS)

OS は,12 編のRCT で評価されており,これらを用いてメタアナリシスを実施した。このうち1 編のRCT で両群のイベント数がともに0 であったため,解析から除外した。メタアナリシスの結果,dose‒dense 療法群でOS が延長する傾向が示唆された[HR 0.90(95%CI:0.78‒1.03,p=0.13)]。異質性は大きくなく,また出版バイアスはみられなかった。

12 編のRCT はすべて非盲検試験であったが,ランダム化の方法などには重大な問題はなかった。しかし,I2 は60%であり,結果のばらつきは中程度と判断した。これらからエビデンスの強さはB(中)と判断した。
エビデンスの強さB(中)

OS のメタアナリシス結果

(2)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

FN 発症率は18 編のRCT でメタアナリシスを実施した。その結果,dose‒dense 療法群でFN 発症率の増加は認めなかった[OR 0.90(95%CI:0.58‒1.40,p=0.65)]。バイアスリスクが高く,また,I2 は75%であり,結果のばらつきは中程度と判断した。これらからエビデンスの強さはB(中)と判断した。
エビデンスの強さB(中)

(3)無イベント生存期間(EFS)

EFS は12 編のRCT で評価されておりメタアナリシスを実施した。その結果,dose‒dense 群でEFS が延長する傾向が示唆された[HR 0.90(95%CI:0.80‒1.01,p=0.07)]。出版バイアスはないものの,非盲検試験であることや,I2 は61%と中程度の結果のばらつきを認めたことから,エビデンスの強さはB(中)と判断した。
エビデンスの強さB(中)

EFS のメタアナリシス結果

(4)感染による死亡率

感染による死亡率は13 編のRCT から合計8,505 例で評価されていたが,イベントはconventional 療法群の1 例のみであった。そのため,本アウトカムについてのメタアナリシスは実施しなかった。定性的な評価としてはdose‒dense 療法での感染による死亡率は増加しないと考えられるが,イベント数が少なく評価は難しいと判断した。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(5)生活の質(QOL)

QOL は1 編のRCT22)でのみ評価されていたためメタアナリシスは実施しなかった。本RCT では,EORTC‒QLQ C30 global health status quality‒of‒life scale を用いて評価された。スコア平均はdose‒dense 療法群で54.3 点,conventional 療法群で59.4 点であり,スコア10 点以下の臨床的に意義のある低下はdose‒dense 群67%,conventional 療法群57%であった。Dose‒dense 療法によりQOL が低下する可能性が示唆された。RCT は1 編のみでありエビデンスの強さはC(弱)と判断した。
エビデンスの強さC(弱)

(6)疼痛

疼痛は6 編のRCT で評価されておりメタアナリシスを実施した。このうち1 編のRCT はイベント数が両群ともに0 であった。メタアナリシスの結果,dose‒dense 療法群で疼痛が増強することが示された[OR 2.57(95%CI:1.00‒6.62,p=0.05)]。

非盲検試験であることと,I2 は94%と高い非一貫性を認めたことから,エビデンスの強さはB(中)と判断した。
エビデンスの強さB(中)

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

OS とEFS について,ともに延長の傾向が示された。いずれもエビデンスの強さはB(中)であった。

(2)害

Dose‒dense 療法群で疼痛の頻度は増加した。FN 発症率の増加や感染による死亡率の増加は認めず,QOL が低下する可能性を認めたが,エビデンスの強さはD(非常に弱い)~C(弱)であった。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,FN 発症率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

(5)まとめ

以上より益と害のバランスは益が上回ると判断した。エビデンスの強さは4 つのアウトカムでB(中),1 つでC(弱),1 つでD(非常に弱い)であったが,全体としては複数の良くコントロールされたRCT があることから,エビデンスの強さはA(強)と判断した。益であるOS やEFS 改善の程度は比較的小さく(ともにHR 0.9),弱く推奨するとした。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は23 名(医師21 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。

システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「乳がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を増強したがん薬物療法を行うことを弱く推奨する」が提示され,推奨決定の協議と投票の結果,23 名中23 名が原案に賛同し合意形成に至った。

7 今後の研究課題

乳がんにおけるdose‒dense 療法によるOS やEFS の延長効果がより顕著となるような集団を絞り込むことが今後の課題である。

参考文献

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Q26(FQ)
食道がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法を行うことは有用か?

食道がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法の有用性は明らかではない

合意率:95.8%(23/24 名)

1 本FQ の背景

がん薬物療法の強度を増強する方法として,抗がん薬の種類は変えずに,投与量の増量や投与間隔の短縮を行う方法と,併用抗がん薬の種類を増やす方法がある。食道がんに対しては,臨床病期ⅠB/Ⅱ/Ⅲ食道がん(T4 を除く)に対する術前CF 療法/DCF 療法/CF 療法+放射線療法の第Ⅲ相RCT(JCOG1109)1),切除不能または再発食道がんに対するCF 療法とbDCF(biweekly DCF)療法の第Ⅲ相RCT(JCOG1314)に代表されるように,併用抗がん薬の種類を増やすことが主流となっている。本Question は,食道がんについてG‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を高めることの有用性について検討した。海外の主要なガイドラインでは本Question に関する記載はない。

2 解説

本Question は,食道がんについてG‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を高めることの有用性についてシステマティックレビューを行って評価した。本Question は当初CQ として,がん薬物療法を受ける食道がん患者を対象とし,G‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を増強したがん薬物療法を行う場合と治療強度を増強しない従来の用法・用量でがん薬物療法を行う場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目をアウトカムとして設定し,システマティックレビューでの評価を試みた。文献検索の結果,PubMed 18 編,Cochrane 0 編,医中誌14 編が抽出され,計32 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て,症例対照研究5 編2‒6),介入試験1 編7)が抽出されたが,いずれも文献検索時の標準治療であるCF 療法等を対象としておらず,DCF 療法を対象としたものであった。また,G‒CSF 投与群で,DCF 療法の増量,投与間隔の短縮は行われておらず,治療強度の増強を目的とした研究でないと判断し,最終的にシステマティックレビューの対象となる文献は抽出されなかった。以上から,本Question をFQ に転換のうえ,ステートメントを「食道がんについて,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法の有用性は明らかではない」とした。食道がんの新規治療情報については,Q4(FQ)を参照されたい。

参考文献

1)
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3)
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Q27(FQ)
膵がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法を行うことは有用か?

膵がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法の有用性は明らかではない

合意率:100%(24/24 名)

1 本FQ の背景

進行膵がんに対する代表的なレジメンのうち,FOLFIRINOX 療法はFN 発症リスクが高く1),modified FOLFIRINOX 療法として用量を減量したレジメンが国内外で開発され2,3),FN リスクの低減が図られている。一方で,G‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を高める治療戦略も考えられるため,本Question について検証した。

2 解説

本Question は当初CQ として,がん薬物療法を受ける膵がん患者を対象に,G‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を増強したがん薬物療法を行う場合と治療強度を増強しない従来の用法・用量でがん薬物療法を行う場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目をアウトカムとして設定し,システマティックレビューでの評価を試みた。文献検索の結果,PubMed 14 編,Cochrane 0 編,医中誌11 編が抽出され,ハンドサーチ4 編を加えた計29 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て,症例対照研究1 編が抽出された。

抽出された文献はQ6(FQ)で抽出された文献と同一で,Moorcraft らが実施したFOLFIRINOX 療法を実施した局所進行あるいは転移性膵がん49 例の後ろ向き解析であった4)。G‒CSF 一次予防投与を行うことで,FOLFIRINOX 療法の治療スケジュールや用量を減弱せずに治療できる可能性はあるが,本報告はG‒CSF 併用による治療強度増強を目的とした研究ではなく,システマティックレビューの対象となる文献はないと判断した。

以上から,本Question をFQ に転換のうえ,ステートメントを「膵がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法の有用性は明らかではない」とした。

modified FOLFIRINOX 療法に関する報告ではFOLFIRINOX 療法原法と遜色ない治療効果(PFS,OS)が報告されており2,3),日本における膵がん薬物療法の開発もmodified FOLFIRINOX 療法を中心に実施されている。現時点では膵がんにおいてG‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法の有用性は明らかではないが,治療戦略のひとつになると考えられ,今後の動向が注目される。

参考文献

1)
Conroy T, Desseigne F, Ychou M, et al. FOLFIRINOX versus gemcitabine for metastatic pancreatic cancer. N Engl J Med. 2011;364:1817‒25.
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3)
Ozaka M, Ishii H, Sato T, et al. A phase Ⅱ study of modified FOLFIRINOX for chemotherapy‒naïve patients with metastatic pancreatic cancer. Cancer Chemother Pharmacol. 2018;81:1017‒23.
4)
Moorcraft SY, Khan K, Peckitt C, et al. FOLFIRINOX for locally advanced or metastatic pancreatic ductal adenocarcinoma:The royal marsden experience. Clin Colorectal Cancer. 2014;13:232‒8.

Q28(FQ)
大腸がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法を行うことは有用か?

大腸がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法の有用性は明らかではない

合意率:100%(24/24 名)

1 本FQ の背景

がん薬物療法の強度を増強する方法として,抗がん薬の種類は変えずに,投与量の増量や投与間隔の短縮を行う方法と,併用抗がん薬の種類を増やす方法がある。大腸がんでは,フッ化ピリミジン系抗がん薬,オキサリプラチン,イリノテカン,分子標的治療薬を用いた併用レジメンなどが使用されている。抗がん薬として,フッ化ピリミジン系抗がん薬にオキサリプラチンまたはイリノテカンを併用する2 剤併用ではなく,フッ化ピリミジン系抗がん薬,オキサリプラチン,イリノテカンの3 剤併用が試みられており,抗がん薬3 剤併用+分子標的治療薬は,併用抗がん薬の種類を増やす方法に該当する。海外の主要なガイドラインにおいて,大腸がんについての本Question に関する記載はない。

2 解説

本Question は,大腸がんについてG‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を高めることの有用性についてシステマティックレビューを行って評価した。本Question は当初CQ として,がん薬物療法を受ける大腸がん患者を対象に,G‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を増強したがん薬物療法を行う場合と治療強度を増強しない従来の用法・用量でがん薬物療法を行う場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目をアウトカムとして設定し,システマティックレビューでの評価を試みた。文献検索の結果,PubMed 36 編,Cochrane 0 編,医中誌14 編が抽出され,計50 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経た結果,RCT 2 編1,2)が抽出されたが,検討の結果,G‒CSF 投与群で用法・用量の調整は行われておらず,治療強度の増強を目的とした研究でないと判断し,最終的にシステマティックレビューの対象となる文献は抽出されなかった。以上から,本Question をFQ に転換のうえ,ステートメントを「大腸がんについて,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法の有用性は明らかではない」とした。抗がん薬3 剤併用+分子標的治療薬であるFOLFOXIRI+BV 療法は,日本人で高いFN 発症率が報告されているが,国内では用量を調整したレジメンの試験も行われている。いずれもG‒CSF の一次予防は用いられていない。詳細は,Q8(CQ) を参照されたい。

参考文献

1)
Hecht JR, Pillai M, Gollard R, et al. A randomized, placebo‒controlled phase ⅱ study evaluating the reduction of neutropenia and febrile neutropenia in patients with colorectal cancer receiving pegfilgrastim with every‒2‒week chemotherapy. Clin Colorectal Cancer. 2010;9:95‒101.
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Q29(FQ)
頭頸部がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法を行うことは有用か?

頭頸部がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法の有用性は明らかではない

合意率:100%(24/24 名)

1 本FQ の背景

頭頸部がんに対するレジメンのうち,TPF 療法はFN 発症リスクが高いが,G‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を保ち,かつFN 発症リスクを減少させる治療戦略も考えられるため,本Question について検証した。

2 解説

本Question は当初CQ として,がん薬物療法を受ける頭頸部がん患者を対象に,G‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を増強したがん薬物療法を行う場合と治療強度を増強しない従来の用法・用量でがん薬物療法を行う場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目をアウトカムとして設定し,システマティックレビューでの評価を試みた。文献検索の結果,PubMed 46 編,Cochrane 0 編,医中誌34 編が抽出され,計80 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て,システマティックレビューの対象となる文献が抽出されなかったため,本Question をFQ に転換のうえ,ステートメントを「頭頸部がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与の有用性は明らかではない」とした。

Q10(CQ)で言及した通り,これまでTPF 療法の有用性を検証した臨床試験ではキノロン系抗菌薬を予防投与することでFN 発症を抑制していたが1,2),それでも10%前後の頻度でFN を発症しており,その結果,用量の減量が必要となる症例も存在する。Q10(CQ)で採択されたKawahira らの報告は,TPF 療法を実施された頭頸部がん症例,食道がん症例におけるG‒CSF 一次予防投与実施群,一次予防投与非実施群の治療成績を比較した症例対照研究であるが,G‒CSF 一次予防投与によって治療強度はわずかに向上するものの,奏効率,FN 発症率ともに両群に有意差はなかった3)。TPF 療法では5‒FU がDay 4~5 まで持続投与されるため,抗がん薬投与終了後からG‒CSF を投与開始しても骨髄抑制を防ぐ効果が乏しいことが一因として考察されている。TPF 療法でG‒CSF 一次予防投与を5‒FU 投与中のDay 3 から開始する試みもあるが4),奏効率,PFS,OS などの治療成績向上に寄与するかは不明である。G‒CSF の添付文書においてもがん薬物療法中のG‒CSF 投与は避けるよう注意喚起されているため,がん薬物療法中のG‒CSF 投与の有用性は臨床研究の枠組みで検証されるべきである。

参考文献

1)
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2)
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Kawahira M, Yokota T, Hamauchi S, et al. Primary prophylactic granulocyte colony‒stimulating factor according to ASCO guidelines has no preventive effect on febrile neutropenia in patients treated with docetaxel, cisplatin, and 5‒fluorouracil chemotherapy. Int J Clin Oncol. 2018;23:1189‒95.
4)
Linot B, Augereau P, Breheret R, et al. Efficacy and safety of early G‒CSF administration in patients with head and neck cancer treated by docetaxel‒cisplatin and 5‒fluorouracil(DCF protocol):a retrospective study. Support Care Cancer. 2014;22:2831‒7.

Q30(CQ)
卵巣がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法を行うことは有用か?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
卵巣がんの薬物療法において,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法を行わないことを弱く推奨する

合意率:87.0%(20/23 名)

解説

卵巣がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法は,現時点で検証されているレジメンではFN 発症率およびOS において有意差を示せていないため,有用性は低い。

1 本CQ の背景

卵巣がんに対しては,プラチナ系抗がん薬やタキサン系抗がん薬などのレジメンが多く用いられており,さらなる予後改善を図るために,薬剤の使用法で治療強度増強がなされたdose‒dense TC 療法(パクリタキセル+カルボプラチン)も広く採用されている。ただし本ガイドライン2013 年版ver. 5 に記載された治療強度増強レジメンの中でFN 発症率が20%を超えるものはなく,実地診療では,治療強度増強レジメンにおいてG‒CSF の一次予防投与が行われることはほとんどないと考えられる。

2 アウトカムの設定

本CQ では,がん薬物療法を受ける卵巣がん患者を対象に,G‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を増強したがん薬物療法を行う場合と治療強度を増強しない従来の用法・用量でがん薬物療法を行う場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 122 編,Cochrane 0 編,医中誌25 編が抽出され,計147 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された9 編を対象に定性的システマティックレビューを実施した。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)全生存期間(OS)

OS に関するRCT が1 編1),コホート研究が3 編抽出された2‒4)。RCT ではタキサン系抗がん薬治療歴のない進行/再発卵巣がん患者330 例がパクリタキセル175 mg/m2(従来治療群)と250 mg/m2(G‒CSF 併用治療増強群)に割り付けられたが,従来治療群とG‒CSF 併用治療増強群でOS に有意差はみられなかった。3 編のコホートはいずれも介入群のみの報告であり,従来治療との比較はなされていない。G‒CSF の一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法を施行した場合,OS に影響を及ぼす可能性は低いと判断された。
エビデンスの強さB(中)

(2)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

FN 発症率に関するRCT が1 編1),コホート研究が4 編抽出された2,5‒7)。RCT は前述のOS に関するRCT であり,副次評価項目としてFN 発症率を設定している。従来治療群(パクリタキセル175 mg/m2)とG‒CSF 併用治療増強群(パクリタキセル250 mg/m2)においてFN 発症率は22%と19%で有意差は認められなかった。4 編のコホート研究においてはいずれも介入群のみの報告であり,従来治療との比較はなされていない。
エビデンスの強さA(強)

(3)感染による死亡率

感染による死亡率については,コホート研究が1 編抽出された8)。進行卵巣がん患者22 例に対し,G‒CSF 投与下においてパクリタキセル225 mg/m2 およびカルボプラチン(AUC 6,7,8,9 の4 群に分けて投与)が併用されており,感染による死亡は認めなかった。G‒CSF 併用法が一次予防投与としてではなかったこと,治療増強群のみのアウトカム報告であることより直接的な関連性は限定的であると考えられた。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(4)生活の質(QOL)

QOL については,コホート研究が1 編抽出された8)。本研究ではG‒CSF 併用下で投与した増強したがん薬物療法においてGrade 3 以上の血液毒性は高率(好中球減少症83~100%,貧血33~75%)であったが,後遺症は認められなかった。単群のアウトカム報告であり,比較はされていない。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(5)疼痛

疼痛に関するコホート研究が1 編抽出された2)。進行卵巣がん患者62 例を対象に,G‒CSF 併用下でパクリタキセル250 mg/m2,シスプラチン75 mg/m2,シクロホスファミド750 mg/m2 を投与したところ骨疼痛が66%に出現したと報告されている。単群報告であり比較はされていない。
エビデンスの強さC(弱い)

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

卵巣がんのがん薬物療法において,G‒CSF の一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法によるOS の改善やFN 発症率の低下は示されていない。本CQ に関してはRCT が1 編存在するのみで,エビデンスは乏しい。

(2)害

G‒CSF の一次予防投与によると思われる骨疼痛の出現率に関する報告が1 編あるのみで,従来法との比較ではないため評価は困難であった。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,FN 発症率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は23 名(医師21 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。

システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「卵巣がんの薬物療法において,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法を行わないことを弱く推奨する」が提示され,推奨決定の協議と投票の結果,23 名中20 名が原案に賛同し合意形成に至った。

参考文献

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Q31(CQ)
尿路上皮がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法を行うことは有用か?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さB(中)
尿路上皮がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を増強したがん薬物療法を行うことを弱く推奨する
該当するレジメンは,dose‒dense MVAC 療法

合意率:100%(23/23 名)

解説

尿路上皮がんに対するdose‒dense MVAC 療法において,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法を行うことは,FN 発症率の低減が示され,OS の延長も示唆されていること,および,害に関する直接的なエビデンスは明確でないことから,弱く推奨される。

1 本CQ の背景

尿路上皮がんに対しては,一次治療としてGC 療法,GCarbo 療法,あるいはMVAC 療法が用いられている。MVAC 療法については,骨髄抑制が強く,FN 発症率が26%と報告されており1),実地診療ではGC 療法が用いられることが多い。

また,免疫チェックポイント阻害薬のアベルマブとペムブロリズマブは,それぞれ一次治療の維持療法,二次治療として用いられ,三次治療ではエンホルツマブ・ベドチンが用いられるが,いずれもFN 発症率は高くはない。

本ガイドライン2013 年版ver. 5 およびESMO ガイドライン2010 年版に記載されたレジメンの中ではFN 発症率が20%を超えるものとしてMVAC 療法が記載されている2)

治療強度を増強する目的のdose‒dense MVAC 療法が,標準的MVAC 療法に比較し,PFS,5 年生存率で優れることが示されている1,3)。これらの臨床試験では,dose‒dense MVAC 療法において,G‒CSF 一次予防投与の使用が推奨されていた。NCCN ガイドライン4)では,膀胱がんに対するdose‒dense MVAC 療法が,G‒CSF 一次予防投与のレジメン例として挙げられている。

2 アウトカムの設定

本CQ では,がん薬物療法を受ける尿路上皮がん患者を対象に,G‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を増強したがん薬物療法を行う場合と治療強度を増強しない従来の用法・用量でがん薬物療法を行う場合を比較して,「全生存期間(OS)」「がん特異的生存期間(CSS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の6 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 56 編,Cochrane 0 編,医中誌27 編が抽出され,計83 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された7 編を対象に定性的システマティックレビューを実施した。また,感染による死亡率については2 編のRCT で評価されていたため,メタアナリシスを実施した。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)全生存期間(OS)

OS については,RCT 1 編1,3),コホート研究3 編5‒7)で評価されていた。この中でコホート研究3 編は比較対象が存在しないが,従来の用法・用量で実施する治療と比較したRCT3)ではOS の延長が示されていた[HR 0.76(95%CI:0.58‒0.99)]。
エビデンスの強さB(中)

(2)がん特異的生存期間(CSS)

CSS を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(3)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

FN 発症率については,RCT 1 編1)で評価されていた。同文献では,FN 発症率の低減が示されていた[RR 0.38(95%CI:0.209‒0.687)]。
エビデンスの強さB(中)

(4)感染による死亡率

RCT 2 編3,8),コホート研究2 編5,9)で評価されており,RCT 2 編のメタアナリシスを実施した。その結果,感染による死亡のOR は0.97(95%CI:0.27‒3.54)であり,感染による死亡率低減は示されなかった。また,対象論文数が2 つと少なく判断が難しいものの,明らかな出版バイアスは認められなかった。
エビデンスの強さA(強)

感染による死亡率のメタアナリシス結果

(5)生活の質(QOL)

QOL を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(6)疼痛

疼痛について評価したのはコホート研究1 編9)のみであった。この研究では疼痛発現率78%とされているが,比較対象がないことから評価は困難であった。
エビデンスの強さC(弱)

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

dose‒dense MVAC 療法については,OS の延長とFN 発症率の低減が一つのRCT で示されており,G‒CSF の一次予防投与は有益と考えられる。CSS,QOL を評価した研究は抽出されず評価不能であった。また,その他のレジメンについては抽出された研究はなく評価は不能であった。

(2)害

疼痛についてのコホート研究1 編の報告のみであり,評価は困難であった。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,FN 発症率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

(5)まとめ

本CQ では7 編の論文がシステマティックレビューの対象になったが,最重要アウトカムであるOS の延長が示唆されるものの,判断根拠は1 編のRCT による。FN 発症率も根拠はRCT 1 編であるが介入による発症率低減が示されていた。害についてはコホート研究による疼痛の報告があるも関連性は限定的であり,益が害を上回ると考えられる。本CQ では「G‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を増強したがん薬物療法を行う」ことの有用性について検討したが,実際に抽出された文献はMVAC 療法の治療強度をG‒CSF 投与下に増強することを試みたもののみであり,他のレジメンについては検討されていなかった。そのため該当するレジメンをdose‒dense MVAC 療法とした上で,エビデンスの強さをB とした。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は23 名(医師21 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。

システマティックレビューレポートに基づいて推奨草案「尿路上皮がんにおいて,G‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を増強したがん薬物療法を行うことを弱く推奨する」が提示された。最重要アウトカムであるOS の延長が示されているものの,判断根拠が1 編のRCT のみ,かつ限られたレジメンであることから,該当するレジメンの注釈をつけたうえで「行うことを弱く推奨する」とした。

推奨決定の協議と投票の結果,23 名中23 名が原案に賛同し合意形成に至った。

参考文献

1)
Sternberg CN, de Mulder PH, Schornagel JH, et al. Randomized phase Ⅲ trial of high‒dose‒intensity methotrexate, vinblastine, doxorubicin, and cisplatin(MVAC)chemotherapy and recombinant human granulocyte colony‒stimulating factor versus classic MVAC in advanced urothelial tract tumors:European Organization for Research and Treatment of Cancer Protocol no. 30924. J Clin Oncol. 2001;19:2638‒46.
2)
Crawford J, Caserta C, Roila F. ESMO Guidelines Working Group. Hematopoietic growth factors:ESMO Clinical Practice Guidelines for the applications. Ann Oncol. 2010;21 Suppl 5:v248‒51.
3)
Sternberg CN, de Mulder P, Schornagel JH, et al. Seven year update of an EORTC phase Ⅲ trial of high‒dose intensity M‒VAC chemotherapy and G‒CSF versus classic M‒VAC in advanced urothelial tract tumours. Eur J Cancer. 2006;42:50‒4.
4)
NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Hematopoietic Growth Factors Version 1. 2022.
5)
Plimack ER, Hoffman‒Censits JH, Viterbo R, et al. Accelerated methotrexate, vinblastine, doxorubicin, and cisplatin is safe, effective, and efficient neoadjuvant treatment for muscle‒invasive bladder cancer:results of a multicenter phase Ⅱ study with molecular correlates of response and toxicity. J Clin Oncol. 2014;32:1895‒901.
6)
Dodd PM, McCaffrey JA, Mazumdar M, et al. Evaluation of drug delivery and survival impact of dose‒intense relative to conventional‒dose methotrexate, vinblastine, doxorubicin, and cisplatin chemotherapy in urothelial cancer. Cancer Invest. 2000;18:626‒34.
7)
井上高光,小原 崇,齋藤 満,他.転移性尿路上皮癌患者に対するHigh‒Dose‒Intensity MVAC 療法とConventional MVAC 療法との比較検討(POSSIBLE SURVIVAL BENEFIT OF HIGH‒DOSE‒INTENSITY METHOTREXATE, VINBLASTINE, DOXORUBIGIN, AND CISPLATIN COMBINATION THERAPY(HD‒MVAC)OVER CONVENTIONAL MVAC IN METASTATIC UROTHELIAL CARCINOMA PATIENTS).泌紀.2007;53:613‒8.
8)
Kuroda M, Kotake T, Akaza H, et al. Efficacy of dose‒intensified MEC(methotrexate, epirubicin and cisplatin)chemotherapy for advanced urothelial carcinoma:a prospective randomized trial comparing MEC and M‒VAC(methotrexate, vinblastine, doxorubicin and cisplatin). Japanese Urothelial Cancer Research Group. Jpn J Clin Oncol. 1998;28:497‒501.
9)
Seidman AD, Scher HI, Gabrilove JL, et al. Dose‒intensification of MVAC with recombinant granulocyte colony‒stimulating factor as initial therapy in advanced urothelial cancer. J Clin Oncol. 1993;11:408‒14.

Q32(FQ)
非円形細胞軟部肉腫において,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法を行うことは有用か?

非円形細胞軟部肉腫において,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法の有用性は明らかではない

合意率:100%(22/22 名)

1 本FQ の背景

非円形細胞軟部肉腫に対しては,アントラサイクリン系抗がん薬やアルキル化薬などを中心に様々なレジメンが用いられ,骨髄抑制のリスクを有するレジメンが広く用いられている1)

ASCO ガイドライン,ESMO ガイドライン2010 年版,NCCN ガイドラインには,成人の非円形細胞軟部肉腫に対するG‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法の有用性に関する記載はない2‒4)

2 解説

本Question は当初CQ として,小児を除く,がん薬物療法を受ける非円形細胞軟部肉腫患者を対象に,G‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を増強したがん薬物療法を行う場合と治療強度を増強しない従来の用法・用量でがん薬物療法を行う場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目をアウトカムとして設定し,システマティックレビューでの評価を試みた。文献検索の結果,PubMed 126 編,Cochrane 0 編,医中誌28 編が抽出され,計154 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経た結果,システマティックレビューの対象となる文献は2 編であった。

文献は,AI 療法(A:ドキソルビシン,I:イホスファミド)を受ける肉腫患者を対象としたRCT 1 編5)( G‒CSF 一次予防投与あり:A 60 mg/m2+I 5 g/m2 3 週毎投与vs. G‒CSF 一次予防投与なし:A 60 mg/m2+I 9 g/m2 4 週毎投与)と非 RCT 1 編6)(G‒CSF 一次予防投与あり:A 90 mg/m2+I 10 g/m2 vs. G‒CSF 一次予防投与なし:A 75 mg/m2+I 10 g/m2)であり,いずれの報告でもOS の統計学的比較は行われていなかった。FN 発症率はRCT からのみ報告されており,両群ともに全例でFN を発症した。感染による死亡率,QOL,疼痛はいずれの論文でも報告されていなかった。最終的に今回のシステマティックレビューの結果をもとに,本Question のアウトカムを直接的に評価することは困難であることから,本Question をFQ に転換のうえ,ステートメントを「非円形細胞軟部肉腫において,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法の有用性は明らかではない」とした。

参考文献

1)
Tanaka K, Mizusawa J, Fukuda H, et al. Perioperative chemotherapy with ifosfamide and doxorubicin for high‒grade soft tissue sarcomas in the extremities(JCOG0304). Jpn J Clin Oncol. 2015;45:555‒61.
2)
Smith TJ, Bohlke K, Lyman GH, et al. American Society of Clinical Oncology. Recommendations for the Use of WBC Growth Factors:American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline Update. J Clin Oncol. 2015;33:3199‒212.
3)
Crawford J, Caserta C, Roila F. ESMO Guidelines Working Group. Hematopoietic growth factors:ESMO Clinical Practice Guidelines for the applications. Ann Oncol. 2010;21 Suppl 5:v248‒51.
4)
NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Hematopoietic Growth Factors Version 1. 2022.
5)
Erkisi M, Erkurt E, Ozbarlas S, et al. The use of recombinant human granulocyte colony‒stimulating factor in combination with single or fractionated doses of ifosfamide and doxorubicin in patients with advanced soft tissue sarcoma. J Chemother. 1996;8:224‒8.
6)
Patel SR, Vadhan‒Raj S, Burgess MA, et al. Results of two consecutive trials of dose‒intensive chemotherapy with doxorubicin and ifosfamide in patients with sarcomas. Am J Clin Oncol. 1998;21:317‒21.

Q33(FQ)
横紋筋肉腫において,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法を行うことは有用か?

小児を除く横紋筋肉腫において,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法の有用性は明らかではない

合意率:100%(22/22名)

1 本FQ の背景

横紋筋肉腫に対しては,ビンクリスチン,アクチノマイシンD,シクロホスファミドを中心としたレジメンが用いられることが多く,骨髄抑制のリスクを有するレジメンが広く用いられており,小児・思春期を中心とした横紋筋肉腫の治療開発は,G‒CSF の一次予防投与を前提として治療強度の高いレジメンを含むものが多い1)

ASCO ガイドライン,ESMO ガイドライン2010 年版,NCCN ガイドラインには,成人の横紋筋肉腫に対するG‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法の有用性に関する記載はない2‒4)

2 解説

本Question は当初CQ として,小児を除く,がん薬物療法を受ける横紋筋肉腫患者を対象に,G‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を増強したがん薬物療法を行う場合と治療強度を増強しない従来の用法・用量でがん薬物療法を行う場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目をアウトカムとして設定し,システマティックレビューでの評価を試みた。文献検索の結果,PubMed 8 編,Cochrane 0 編,医中誌0 編が抽出され,計8 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て,システマティックレビューの対象となる文献が抽出されなかったため,本Question をFQ に転換のうえ,ステートメントを「小児を除く横紋筋肉腫において,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法の有用性は明らかではない」とした。

参考文献

1)
Maurer HM, Beltangady M, Gehan EA, et al. The Intergroup Rhabdomyosarcoma Study‒Ⅰ. A final report. Cancer. 1988;61:209‒20.
2)
Smith TJ, Bohlke K, Lyman GH, et al. American Society of Clinical Oncology. Recommendations for the Use of WBC Growth Factors:American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline Update. J Clin Oncol. 2015;33:3199‒212.
3)
Crawford J, Caserta C, Roila F. ESMO Guidelines Working Group. Hematopoietic growth factors:ESMO Clinical Practice Guidelines for the applications. Ann Oncol. 2010;21 Suppl 5:v248‒51.
4)
NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Hematopoietic Growth Factors Version 1. 2022.

Q34(CQ)
Ewing 肉腫において,G‒CSF 投与を前提に増強したがん薬物療法を行うことは有用か?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さC(弱)
Ewing 肉腫において,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法を行うことを弱く推奨する

合意率:96.0%(24/25 名)

解説

Ewing 肉腫に対するG‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法は,OS の延長は統計学的に有意ではなかったものの,EFS の延長が質の高いRCT により示されている。以上より,Ewing 肉腫において,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法を行うことを弱く推奨する。

1 本CQ の背景

現在,Ewing 肉腫に対しては,アントラサイクリン系抗がん薬やアルキル化薬,トポイソメラーゼ阻害薬などを中心とした多剤併用療法が頻用され,骨髄抑制のリスクが高いレジメンが広く用いられている。根治目的の治療時に選択される代表的なレジメンはVDC/IE 療法である1)。VDC/IE 療法は3 週間隔で繰り返し投与する方法が従来行われていたが,近年では,G‒CSF 一次予防投与を前提に2 週間隔で繰り返す増強した投与法も行われている2)

ASCO ガイドライン,ESMO ガイドライン2010 年版,NCCN ガイドラインには,成人のEwing 肉腫に対するG‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法の有用性に関する記載はない3‒5)

2 アウトカムの設定

本CQ では,小児を除く,がん薬物療法を受けるEwing 肉腫患者を対象に,G‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を増強したがん薬物療法を行う場合と治療強度を増強しない従来の用法・用量でがん薬物療法を行う場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 20 編,Cochrane 0 編,医中誌5 編が抽出され,計25 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て2 編が抽出された。1 編は,現在実地診療で使用されているレジメンではないので,グループ内で検討した結果,除外する方針とした6)。もう1 編はRCT であり現在のEwing 肉腫治療の標準療法の根拠となっているpivotal study であった2)。抽出された文献の内容についてCQ を担当するグループ内で検討した結果,1 編のみではあるが,G‒CSF を併用し治療強度増強することを意図した質の高いRCT であったため,本Question はCQ として,システマティックレビューを行うこととした。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)全生存期間(OS)

文献はRCT 1 編2)のみであった。VDC/IE 療法の3 週毎投与と2 週毎投与を比較するもので,568 例の適格症例が登録された。両群ともにフィルグラスチムが一次予防投与で使用されている。OS について2 週毎投与の3 週毎投与に対するHR は0.69(95%CI:0.47‒1.0,p=0.056)で,死亡リスクを下げる傾向にあった。一方,本試験のプライマリーエンドポイントはEFS であり,EFS のHR は0.74(95%CI:0.54‒0.99,p=0.048)と,統計学的有意差をもって2 週毎投与によるEFS 延長が示された。OS はエンドポイントに設定されておらずOS の優越性を検証する試験デザインになっていない。日常診療では本試験結果をもって2 週毎投与が標準治療と位置づけられている。単独のRCT による評価であることから,エビデンスの強さはC(弱)と判定した。
エビデンスの強さC(弱)

(2)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

文献は上述のRCT 1 編2)のみで,それぞれのFN 発症サイクル数が報告され,2 週毎投与でFN 発症率が高い傾向があった。文献中で統計学的な検証の記載はないが,OR は1.19[95%CI:0.99‒1.43,p=0.067(Fisher’s exact test)]となった。単独のRCT による評価であることから,エビデンスの強さはC(弱)と判定した。
エビデンスの強さC(弱)

(3)感染による死亡率

文献は上述のRCT 1 編2)のみであった。2 週毎投与で感染症による死亡例が1 例報告され,3 週毎投与では感染症による死亡例はなかった。イベント数が少なく,正確な評価は困難である。単独のRCT による評価であることから,エビデンスの強さはD(非常に弱い)と判定した。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(4)生活の質(QOL)

QOL を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(5)疼痛

疼痛を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

対象となった文献はRCT 1 編のみであった2)。G‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を増強したがん薬物療法であるVDC/IE 療法の2 週毎投与により,統計学的に有意ではないが,OS が延長する傾向がみられた。FN 発症率および感染症による死亡率について,治療強度を増強したがん薬物療法であるVDC/IE 療法の2 週毎投与で高い傾向がみられたが統計学的に有意ではなかった。

(2)害

対象となった文献はRCT 1 報のみであった2)。疼痛については評価不能であった。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,益となる望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

(5)まとめ

システマティックレビューの対象となったのは,RCT 1 編のみであったが,Ewing 肉腫において,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法は益が害を上回ると考えられた。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は25 名(医師23 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「Ewing 肉腫において,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法を行うことを弱く推奨する」が提示され,推奨決定の協議と投票の結果,25 名中24 名が原案に賛同し合意形成に至った。

7 今後の研究課題

Ewing 肉腫は希少がんであるが,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法によるOS の延長効果について,さらなる検証が必要である。

参考文献

1)
Grier HE, Krailo MD, Tarbell NJ, et al. Addition of ifosfamide and etoposide to standard chemotherapy for Ewing’s sarcoma and primitive neuroectodermal tumor of bone. N Engl J Med. 2003;348:694‒701.
2)
Womer RB, West DC, Krailo MD, et al. Randomized controlled trial of interval‒compressed chemotherapy for the treatment of localized Ewing sarcoma:a report from the Children’s Oncology Group. J Clin Oncol. 2012;30:4148‒54.
3)
Smith TJ, Bohlke K, Lyman GH, et al. American Society of Clinical Oncology. Recommendations for the Use of WBC Growth Factors:American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline Update. J Clin Oncol. 2015;33:3199‒212.
4)
Crawford J, Caserta C, Roila F. ESMO Guidelines Working Group. Hematopoietic growth factors:ESMO Clinical Practice Guidelines for the applications. Ann Oncol. 2010;21 Suppl 5:v248‒51.
5)
NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Hematopoietic Growth Factors Version 1. 2022.
6)
Marina NM, Pappo AS, Parham DM, et al. Chemotherapy dose‒intensification for pediatric patients with Ewing’s family of tumors and desmoplastic small round‒cell tumors:a feasibility study at St. Jude Children’s Research Hospital. J Clin Oncol. 1999;17:180‒90.

Q35(CQ)
バーキットリンパ腫・マントル細胞リンパ腫において,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法を行うことは有用か?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
バーキットリンパ腫・マントル細胞リンパ腫において,G‒CSF 一次予防投与を前提に増強したがん薬物療法を行うことを弱く推奨する

合意率:90.9%(20/22 名)

解説

バーキットリンパ腫やマントル細胞リンパ腫において,特に若年患者に対して治療強度を高めたがん薬物療法が標準治療として行われている。これらの治療による血液毒性およびFN は高頻度に発現し,多くの治療レジメンではG‒CSF 一次予防投与が規定されている。

1 本CQ の背景

バーキットリンパ腫に対する代表的な治療レジメンとして,CODOX‒M/IVAC 療法+リツキシマブ,Hyper CVAD/MA 療法+リツキシマブ,およびdose‒adjusted EPOCH 療法+リツキシマブが挙げられる。これらのレジメンに関する比較試験は存在しないため,それぞれの優劣は不明である。いずれも治療強度を高めたレジメンであり,FN 発症率は20%を超える。いずれもG‒CSF 一次予防投与が規定されていた1‒3)。マントル細胞リンパ腫に対する治療方針は,自家造血幹細胞移植併用大量化学療法(自家移植)の適応有無によって異なる。自家移植は主に若年患者が適応となるが,FN 発症率は20%を超え,G‒CSF 一次予防投与が規定されていた4)。主に高齢患者では自家移植の適応とならず,BR 療法5)やVR‒CAP 療法6)が標準的な治療レジメンであるが,いずれもG‒CSF の一次予防投与は規定されていなかった。BR 療法ではFN 発症率は4%であった。VR‒CAP 療法ではFN 発症率は17%であった。

NCCN ガイドラインでは,Hyper CVAD 療法,dose‒adjusted EPOCH 療法はFN 発症率20%を超えるFN の高リスクレジメンとして記載されている7)

2 アウトカムの設定

本CQ では,小児を除く,がん薬物療法を受けるバーキットリンパ腫・マントル細胞リンパ腫患者を対象に,G‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を増強したがん薬物療法を行う場合と治療強度を増強しない従来の用法・用量でがん薬物療法を行う場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 87 編,Cochrane 0 編,医中誌2 編が抽出され,これにハンドサーチ2 編を加えた計91 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された17 編を対象に定性的システマティックレビューを実施した。RCT 1 編6)はVR‒CAP とR‒CHOP の比較試験であり,必ずしも治療強度を増強したがん薬物療法ではなく,観察研究16 編中8 編は治療強度を増強したがん薬物療法だが,すべて単一群であり対照群がないため,メタアナリシスは実施せず,定性的システマティックレビューのみを実施した。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)全生存期間(OS)

本CQ の設定とは異なるため結果の解釈には注意が必要であるが,バーキットリンパ腫ではG‒CSF 一次予防投与が規定された治療強度を増強したがん薬物療法の施行により,通常のがん薬物療法(CHOP 療法など)のヒストリカル・コントロールと比較してOS の改善が示されている。マントル細胞リンパ腫ではG‒CSF 一次予防投与を前提とした自家移植を含む治療強度を増強したがん薬物療法の施行により,一部の研究でOS の改善が示されている。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(2)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

観察研究15 試験中7 試験1,8‒13)は,G‒CSF 一次予防投与を行い,治療強度を増強したがん薬物療法であるが,11~93%のFN 発症率を認めている。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(3)感染による死亡率

観察研究16 試験中8 試験1,8‒14)は,G‒CSF 一次予防投与を行い,治療強度を増強したがん薬物療法であるが,0~3%程度の感染による死亡を認めている。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(4)生活の質(QOL)

QOL を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(5)疼痛

観察研究7 試験中3 試験8‒10)は,G‒CSF 一次予防投与を行い,治療強度を増強したがん薬物療法であるが,8~18%で疼痛を認めた。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

RCT は抽出されなかった。観察研究16 編中8 編は評価に値するが,対象となる患者群が試験ごとに異なり,単群の試験であることから,直接の比較が困難であり,G‒CSF 一次予防投与を前提に治療強度を増強したがん薬物療法のOS,FN 発症率,感染による死亡率,疼痛への影響の判断は難しいと考えられた。なお,QOL を評価した試験はなかったため,評価不能とした。以上から,いずれのアウトカムのエビデンス総体でもエビデンスの強さはD(非常に弱い)と判断した。

しかし,バーキットリンパ腫および移植適応マントル細胞リンパ腫において,標準治療となっている治療強度を高めたがん薬物療法では,いずれの治療レジメンもG‒CSF 一次予防投与が規定されていた。

(2)害

観察研究7 試験中3 試験は評価に値するが,すべて単群であり,対象となる患者群や疼痛の部位が試験ごとに異なるため,評価には注意を要する。以上からエビデンスの強さはD(非常に弱い)と判断した。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,FN 発症率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

(5)まとめ

バーキットリンパ腫および移植適応マントル細胞リンパ腫において,標準治療である治療強度を高めたがん薬物療法では,血液毒性およびFN 発症率も高率であるが,いずれの治療レジメンもG‒CSF 一次予防投与が規定されていた。したがって,実地診療においてもG‒CSF 一次予防投与が行われている。エビデンスの強さはD(非常に弱い)と判断した。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は23 名(医師21 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「行うことを弱く推奨する」が提示され,推奨決定の協議と投票の結果,22 名中20 名が原案に賛同し合意形成に至った。

参考文献

1)
Maruyama D, Watanabe T, Maeshima AM, et al. Modified cyclophosphamide, vincristine, doxorubicin, and methotrexate(CODOX‒M)/ifosfamide, etoposide, and cytarabine(IVAC)therapy with or without rituximab in Japanese adult patients with Burkitt lymphoma(BL)and B cell lymphoma, unclassifiable, with features intermediate between diffuse large B cell lymphoma and BL. Int J Hematol. 2010;92:732‒43.
2)
Thomas DA, Faderl S, O’Brien S, et al. Chemoimmunotherapy with hyper‒CVAD plus rituximab for the treatment of adult Burkitt and Burkitt‒type lymphoma or acute lymphoblastic leukemia. Cancer. 2006;106:1569‒80.
3)
Dunleavy K, Pittaluga S, Shovlin M, et al. Low‒intensity therapy in adults with Burkitt’s lymphoma. N Engl J Med. 2013;369:1915‒25.
4)
Ogura M, Yamamoto K, Morishima Y, et al. R‒High‒CHOP/CHASER/LEED with autologous stem cell transplantation in newly diagnosed mantle cell lymphoma:JCOG0406 STUDY. Cancer Sci. 2018;109:2830‒40.
5)
Ogura M, Ishizawa K, Maruyama D, et al. Bendamustine plus rituximab for previously untreated patients with indolent B‒cell non‒Hodgkin lymphoma or mantle cell lymphoma:a multicenter Phase Ⅱ clinical trial in Japan. Int J Hematol. 2017;105:470‒7.
6)
Robak T, Huang H, Jin J, et al. Bortezomib‒based therapy for newly diagnosed mantle‒cell lymphoma. N Engl J Med. 2015;372:944‒53.
7)
NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Hematopoietic Growth Factors Version 1. 2022.
8)
Arranz R, Garcia‒Noblejas A, Grande C, et al. First‒line treatment with rituximab‒hyperCVAD alternating with rituximab‒methotrexate‒cytarabine and followed by consolidation with 90Y‒ibritumomab‒tiuxetan in patients with mantle cell lymphoma. Results of a multicenter, phase 2 pilot trial from the GELTAMO group. Haematologica. 2013;98:1563‒70.
9)
Bernstein SH, Epner E, Unger JM, et al. A phase Ⅱ multicenter trial of hyperCVAD MTX/Ara‒C and rituximab in patients with previously untreated mantle cell lymphoma;SWOG 0213. Ann Oncol. 2013;24:1587‒93.
10)
Kujawski LA, Longo WL, Williams EC, et al. A 5‒drug regimen maximizing the dose of cyclophosphamide is effective therapy for adult Burkitt or Burkitt‒like lymphomas. Cancer Invest. 2007;25:87‒93.
11)
Romaguera JE, Fayad L, Rodriguez MA, et al. High rate of durable remissions after treatment of newly diagnosed aggressive mantle‒cell lymphoma with rituximab plus hyper‒CVAD alternating with rituximab plus high‒dose methotrexate and cytarabine. J Clin Oncol. 2005;23:7013‒23.
12)
Wang M, Fayad L, Cabanillas F, et al. Phase 2 trial of rituximab plus hyper‒CVAD alternating with rituximab plus methotrexate‒cytarabine for relapsed or refractory aggressive mantle cell lymphoma. Cancer. 2008;113:2734‒41.
13)
Mead GM, Barrans SL, Qian W, et al. A prospective clinicopathologic study of dose‒modified CODOX‒M/IVAC in patients with sporadic Burkitt lymphoma defined using cytogenetic and immunophenotypic criteria(MRC/NCRI LY10 trial). Blood. 2008;112:2248‒60.
14)
Romaguera JE, Khouri IF, Kantarjian HM, et al. Untreated aggressive mantle cell lymphoma:results with intensive chemotherapy without stem cell transplant in elderly patients. Leuk Lymphoma. 2000;39:77‒85.

Ⅴ.血液がん

Q36(BQ)
悪性リンパ腫・多発性骨髄腫の自家末梢血幹細胞採取において,G‒CSF の投与は有用か?

悪性リンパ腫・多発性骨髄腫の自家末梢血幹細胞採取において,G‒CSF の投与が一般的に行われている

合意率:100%(23/23 名)

1 本BQ の背景

自家造血幹細胞移植併用大量化学療法は,悪性リンパ腫や多発性骨髄腫の治療法のひとつである。自家造血幹細胞移植では,患者自身から造血幹細胞を採取し,大量化学療法施行後に輸注する。自家造血幹細胞の採取には,骨髄からの幹細胞採取(骨髄幹細胞採取)と末梢血に動員された幹細胞採取(自家末梢血幹細胞採取)の2 通りの手法がある。

NCCN のガイドラインでは,自家末梢血幹細胞採取において,G‒CSF の投与は標準治療として扱われている1)。また,前治療が多い悪性リンパ腫や多発性骨髄腫患者の症例では,G‒CSF 単独に比べて,G‒CSF とプレリキサホルの併用が自家末梢血幹細胞採取に有用であると記載されている。

2 解説

本Question は当初CQ として,小児を除く,自家末梢血幹細胞採取を受ける悪性リンパ腫・多発性骨髄腫患者を対象に,G‒CSF を自家末梢血幹細胞採取で用いる場合と用いない場合を比較して,「CD34 陽性細胞数」「アフェレーシス日数」「入院日数」「コスト」「骨痛」の5 項目をアウトカムとして設定し,システマティックレビューでの評価を試みた。悪性リンパ腫・多発性骨髄腫の自家末梢血幹細胞採取におけるG‒CSF の投与の有用性に関する定性的システマティックレビューでは65 編が対象になった。しかしながら,いずれもG‒CSF の使用の有無を比較した研究はなく,エビデンスに乏しいと結論づけられた。

自家末梢血幹細胞採取は骨髄幹細胞採取と比較して,採取が容易であること,全身麻酔が不要であること,移植後の生着が早いことなどの利点がある。このため,現在は自家造血幹細胞採取において,骨髄幹細胞採取が行われることは稀である。自家末梢血幹細胞採取では,造血幹細胞を末梢血中に動員する際にG‒CSF 投与を必須とする。循環血液中に造血幹細胞が十分に出現する時期に,血液成分分離装置を用いてアフェレーシス(血球成分の分離)が実施される。定性的システマティックレビューの対象となった65 編の研究の多くは,自家末梢血幹細胞採取におけるCD34 陽性細胞数を主たる評価項目としていた。これらの研究は幹細胞採取の方法として,G‒CSF 単独とG‒CSF とケモカイン受容体(CXCR4 受容体)拮抗薬であるプレリキサホルの併用,G‒CSF 単独とG‒CSF とがん薬物療法の併用,救援的なプレリキサホルの投与について検討したものがほとんどであった。

以上のような背景から,本Question は,エビデンスの強さとしてD(非常に弱い)とせざるを得ないが,実臨床では悪性リンパ腫・多発性骨髄腫の自家末梢血幹細胞採取においてG‒CSF の投与が標準治療であり,CQ の推奨草案として「行うことを強く推奨する」としていた。しかし,初回投票で合意水準に達しなかったため(合意率54.5%;12/22 名),推奨決定が保留となった。実臨床ではG‒CSF 投与が広く浸透していることを考慮し,本Question をBQ に転換のうえ,ステートメント案を「悪性リンパ腫・多発性骨髄腫の自家末梢血幹細胞採取において,G‒CSF の投与が一般的に行われている」として,再度の協議を行い,2 回目の投票で23 名中23 名が原案に賛同し合意形成に至った。

前述の通り本Question のシステマティックレビューの多くは,G‒CSF とプレリキサホルの併用投与の有用性の検討であった。採取されたCD34 陽性細胞数を主要評価項目としていることから,アフェレーシスの日数については目標細胞数を達成するまでの日数を評価したものが多く,実日数をアウトカムとした評価は難しいと思われた。また国内では入院でのアフェレーシスが主流であるが,海外では外来でアフェレーシスを実施されていることが多く,海外での研究を評価対象とした場合,入院日数の評価は難しいと思われた。コストについては,少数の研究のみで検討されていたが,G‒CSF にプレリキサホルやがん薬物療法を併用した場合に,高コストとなっていた。骨痛に関しては各試験で有害事象として評価されているものの,プラセボとの比較がないため,G‒CSF 投与による骨痛の増加は明らかではなかった。

プレリキサホルに関しては,非ホジキンリンパ腫に対する3101 試験2),多発性骨髄腫に対する3102 試験3)が第Ⅲ相RCT として報告されており,いずれもG‒CSF+プラセボ群と比較し,G‒CSF+プレリキサホル群で採取されたCD34 陽性細胞数が有意に多かった。実臨床においてはG‒CSF とプレリキサホルの併用要否について,患者ごとに判断していく必要があると考えられる。この際,プレリキサホル併用時のコスト増加にも配慮する必要がある。

参考文献

1)
NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Hematopoietic Cell Transplantation;Stem Cell Mobilization, Version 5, 2021.
2)
DiPersio JF, Micallef IN, Stiff PJ, et al. Phase Ⅲ prospective randomized double‒blind placebo‒controlled trial of plerixafor plus granulocyte colony‒stimulating factor compared with placebo plus granulocyte colony‒stimulating factor for autologous stem‒cell mobilization and transplantation for patients with non‒Hodgkin’s lymphoma. J Clin Oncol. 2009;27:4767‒73.
3)
DiPersio JF, Stadtmauer EA, Nademanee A, et al. Plerixafor and G‒CSF versus placebo and G‒CSF to mobilize hematopoietic stem cells for autologous stem cell transplantation in patients with multiple myeloma. Blood. 2009;113:5720‒6.

Q37(CQ)
前コースで発熱性好中球減少症を認めた悪性リンパ腫に対してがん薬物療法を継続して行う場合,G‒CSF の二次予防投与は有用か?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
前コースで発熱性好中球減少症を認めた悪性リンパ腫に対してがん薬物療法を継続して行う場合,G‒CSF の二次予防投与を行うことを弱く推奨する

合意率:95.7%(22/23 名)

解説

前コースでFN を発症した悪性リンパ腫では,継続してがん薬物療法を行う場合,治療の遅れによる相対用量強度(relative dose intensity;RDI)の減弱,抗がん薬の減量などを要する場合がある。そのため,G‒CSF の二次予防投与の有用性を示すエビデンスは乏しいが,前コースと同じ投与量,同じスケジュールを計画する場合,G‒CSF の二次予防投与を考慮する。

1 本CQ の背景

悪性リンパ腫の治療方法は病型によって異なり,治療強度やFN 発症率も治療レジメンによって異なる。G‒CSF 一次予防投与が推奨されない治療レジメンであっても,一度FN を発症すると,治療の遅れや減量による相対的治療強度の減弱を要する場合があり,治療効果にも影響する可能性がある。NCCN ガイドラインでは,G‒CSF の使用歴がなくFN を認めた患者では,前コースと同じ投与量,同じスケジュールを計画する場合,G‒CSF 二次予防投与を考慮するべきであるとされている1)

2 アウトカムの設定

本CQ では,小児を除く,前コースでFN を認め,継続してがん薬物療法を受ける悪性リンパ腫患者を対象に,G‒CSF を二次予防投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 47 編,Cochrane 1 編,医中誌8 編が抽出され,計56 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された11 編を対象に定性的システマティックレビューを実施した。G‒CSF の二次予防投与の有無を比較した試験はなく,上記の11 編も不均一な研究であったため,メタアナリシスは実施せず,定性的システマティックレビューのみを実施した。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)全生存期間(OS)

OS を評価した試験は後ろ向きコホート研究が1 編のみであった2)。SEER のデータベースから非ホジキンリンパ腫(non‒Hodgkin lymphoma;NHL)に対するがん薬物療法を受けた13,203 例を抽出し,G‒CSF の使用による予後の改善などを検討した。本解析では,傾向スコアでの調整が行われており,さらに,実施レジメンや全生存者の実数などが明記されていなかったため,その結果の解釈には注意が必要となる。

解析結果としては,G‒CSF の二次予防を受けた患者のOS の中央値は3.1 年であり,受けなかった患者(2.3 年)に比べて良好な結果であり,G‒CSF の二次予防投与により有意に予後の改善を認めた[HR 0.87(95%CI:0.82‒0.92,p<0.001)]。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(2)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

FN 発症率を評価できた試験は後ろ向きコホート研究が2 編のみであった3,4)。しかしながら,これら2 つの試験では,G‒CSF の二次予防投与の定義が,CHOP 療法1 サイクル目のFN の有無にかかわらず2 サイクル目以降のG‒CSF の投与であり,本CQ の設定とは異なり,結果の解釈には注意が必要である。

CHOP 療法を受けた中悪性度NHL 170 例の米国からの解析より,G‒CSF の二次予防投与でのFN 発症率は,7 日未満の投与で16.7%,7 日以上の投与で6.1%であった3)。さらに,(R)CHOP 療法もしくは(R)CHOP‒like 療法を受けた未治療NHL 199 例のイタリアからの解析より,FN 発症率は,一次予防投与群では21%に対して,二次予防投与群で30%であった。それら以外のG‒CSF の使用では,FN 発症率は50%であった4)
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(3)感染による死亡率

感染による死亡率を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(4)生活の質(QOL)

QOL を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(5)疼痛

疼痛を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

対象となる疾患・病態で評価した試験,および,厳密にG‒CSF の二次予防投与の有無を比較した試験がなく,G‒CSF 二次予防投与のOS とFN 発症率のアウトカムへの影響の評価は困難であった。そのため,いずれのアウトカムのエビデンス総体でもエビデンスの強さはD(非常に弱い)と判断した。感染による死亡率とQOL については,評価不能であった。

(2)害

疼痛については評価不能であった。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,FN 発症率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

(5)まとめ

対象となる疾患・病態で評価した試験,および,厳密にG‒CSF の二次予防投与の有無を比較した試験がなく,それぞれのアウトカムへの影響の評価は困難であった。そのため,エビデンスの強さはD(非常に弱い)と判断した。後ろ向きコホート研究ではNHL に対するG‒CSF の二次予防投与によりOS が改善することが示唆されており2),益が害を上回ると考えられた。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は23 名(医師21 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「行うことを弱く推奨する」が提示され,推奨決定の協議と投票の結果,23 名中22 名が原案に賛同し合意形成に至った。

参考文献

1)
NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology. Hematopoietic Growth Factors Version 1. 2022.
2)
Gruschkus SK, Lairson D, Dunn JK, et al. Cost‒effectiveness of white blood cell growth factor use among a large nationwide cohort of elderly non‒Hodgkin’s lymphoma patients treated with chemotherapy. Value Health. 2011;14:253‒62.
3)
Scott SD, Chrischilles EA, Link BK, et al. Days of prophylactic filgrastim use to reduce febrile neutropenia in patients with non‒Hodgkin’s lymphoma treated with chemotherapy. J Manag Care Pharm. 2003;9:15‒21.
4)
Vitolo U, Angrili F, DeCosta L, et al. G‒CSF use in patients receiving first‒line chemotherapy for non‒Hodgkin’s lymphoma(NHL)and granulocyte‒colony stimulating factors(G‒CSF)as observed in clinical practice in Italy. Med Oncol. 2016;33:139.

Q38(CQ)
成人急性骨髄性白血病(急性前骨髄球性白血病を除く)の治療において,G‒CSF とがん薬物療法の併用投与は有用か?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さC(弱)
成人急性骨髄性白血病(急性前骨髄球性白血病を除く)の治療において,G‒CSF とがん薬物療法の併用投与を行わないことを弱く推奨する

合意率:86.4%(19/22 名)

解説

急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia;AML)に対するG‒CSF とがん薬物療法の併用投与はOS を改善しない。一方,サブ解析ではAML の染色体標準リスクや高用量シタラビンの治療を受けた患者ではOS が改善したとの報告があり,一部の患者には有用な可能性がある。

1 本CQ の背景

AML に対するG‒CSF とがん薬物療法の併用投与は,白血病細胞を細胞周期のS 期に導入し,細胞周期依存性薬剤の感受性を増強させるpriming 効果が期待される。Priming 効果は,白血病細胞の殺細胞効果を増強し,AML の治療成績の向上につながる可能性がある。一方,G‒CSF とがん薬物療法の併用投与は,治療強度の増強を目的としているため,安全性への懸念がある。

ASCO ガイドライン1)には,AML でのG‒CSF とがん薬物療法の併用投与に関する記載はない。NCCN ガイドライン2)は,60 歳未満のAML 予後標準リスクまたは不良リスクに対して,がん薬物療法にG‒CSF を併用したレジメン(FLAG 療法)をcategory 2B で推奨している。

2 アウトカムの設定

本CQ では,小児を除く,がん薬物療法を受けるAML 患者(急性前骨髄球性白血病を除く)を対象に,G‒CSF をAML のがん薬物療法に併用する場合と併用しない場合を比較して,「感染による死亡率」「全生存期間(OS)」「原疾患の増悪」「治療成績の向上(Priming 効果)」「血球減少期間」「二次発がん」「疼痛などの有害事象」「生活の質(QOL)」の8 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 196 編,Cochrane 1 編,医中誌77 編が抽出され,計274 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された11 編を対象に定性的システマティックレビューを行い,原疾患の増悪(3 編),治療成績の向上(Priming 効果)(10 編),疼痛などの有害事象(2 編)のアウトカムについてメタアナリシスを行った。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)感染による死亡率

評価可能なRCT 1 編3)は,60 歳以下の初発AML を対象としたもので,プラセボ対照ではなくバイアスリスクを有する。感染による死亡率はG‒CSF 併用の有無で有意差を認めなかった[OR 1.83(95%CI:0.79‒4.52,p=0.175)]。対照群・介入群とも300 例を超え,本CQ と関連性のある良質な文献であるが,1 編での評価のため,結果の解釈には注意を要する。
エビデンスの強さB(中)

(2)全生存期間(OS)

RCT 5 編中1 編は高齢者のみ4),2 編は60 歳以下3,5),2 編は全年齢層の初発AML6,7)を対象とし,G‒CSF に併用する治療は標準的がん薬物療法(アントラサイクリン+標準量シタラビンをもとにした治療)以外に高用量シタラビンを含む複数のランダム化が含まれ,研究間で異なる。プラセボ対照ではなくバイアスリスクも有する。RCT 5 編ともOS に有意差を認めなかったが,サブ解析ではAML の染色体標準リスク3),高用量シタラビンの治療を受けた患者5)でG‒CSF 併用群のOS が有意に良好であった。効果指標の相違によりメタアナリシスの実施は困難であった。症例対照研究は5 編を解析し,初発 AML 3編8‒10)(1 編は染色体予後良好群のみ),再発・難治性 AML 1編11),二次性 AML 1編12)など対象は様々で,介入も2 編はプリンアナログ+高用量シタラビン療法vs. 標準的がん薬物療法と非対称な比較で10,12),本CQ の設定とは相違がありバイアスが大きい。再発・難治AML 2 編の解析では,G‒CSF 併用群のOS が有意に良好で11),5 年全生存率は良好な傾向(p=0.054)12)にあったが,残りの3 編は有意差なく一貫していない。総じてG‒CSF 併用群はOS に影響せず,対象によっては益となる可能性があるが,報告が一貫せず明確ではない。
エビデンスの強さB(中)

(3)原疾患の増悪

RCT 3 編はいずれも初発AML を対象とし,年齢も60 歳以下が2 編3,5),全年齢が1 編6),併用治療は標準的がん薬物療法が1 編3),高用量シタラビンvs. 標準量シタラビンなどその他のランダム化を有する試験が2 編5,6)あり,いずれもプラセボ対照ではなく本CQ の設定とは相違がありバイアスリスクを有する。再発率は1 編3)で有意に低く(p=0.04),2 編5,6)は有意差を認めなかった。メタアナリシスの結果I2=4%と研究間での結果のばらつきは小さく,RR 0.91(95%CI:0.82‒1.01,p=0.08)とG‒CSF 併用群で再発率が低い傾向にあった。症例対照研究4 編のうち,2 編8,10)は80 代までの高齢者を含み,また初発 AML 3 編8‒10)(1 編は染色体予後良好群のみ),再発・難治性 AML 1 編11)と対象の背景が異なっていた。介入も,1 編10)はプリンアナログ+高用量シタラビン療法vs. 標準的がん薬物療法のように非対称な比較で本CQ の設定とは相違があった。1 編で有意にG‒CSF 併用群の再発率が低く9),2 編でRFS が良好10,11)であったが,効果指標の相違からメタアナリシスの実施は困難であった。総じてG‒CSF 併用は原疾患の増悪に有意な影響を与えず,対象によっては益となる可能性があるが,報告が一貫せず明確ではない。また,益とされる報告の背景に多様性があり,結果の解釈に注意を要する。
エビデンスの強さA(強)

原疾患の増悪のメタアナリシス結果

(4)治療成績の向上(Priming 効果)

完全寛解導入率を効果指標とした。RCT 6 編の対象は,全年齢2 編6,7),高齢者のみが1 編4),60 歳以下2 編3,5),66 歳以下が1 編13)と多様であった。4 編3‒5,7)が初発AML,2 編は再発・難治性AML6,13)を対象とし,併用治療は標準的がん薬物療法が3 編,高用量シタラビンと標準量シタラビンなどその他のランダム化も行った試験が3 編,プラセボ対照は1 編13)のみで本CQ の設定とは相違がありバイアスリスクを有した。メタアナリシスの結果はI2=55%と研究間でばらつきが大きく,RR 1.03(95%CI:0.96‒1.10,p=0.42)とCR 率に有意差を認めなかった。症例対照研究4 編の対象は全年齢が3 編9,10,12),60 歳以下1 編11),初発AML 3 編9,10,12),難治性AML 1 編11)と患者の背景が異なっている。がん薬物療法は,1 編がプリンアナログ+高用量シタラビン療法vs. 標準的がん薬物療法と非対称10),初発・再発難治AML など,研究間での設定に相違を認めバイアスリスクを有していた。メタアナリシスの結果はI2=3%と一貫しており,RR 1.27(95%CI:1.12‒1.43,p=0.0002)と有意にG‒CSF 併用群で奏効率が優れた。G‒CSF 併用の治療奏効率への影響は,RCT では有意差なく非RCT では有意に益となり,乖離がみられた。初発高齢AML や予後不良群(非RCT 4 編)など,対象によっては益となる可能性が示唆されたが,報告が一貫せず明確ではない。
エビデンスの強さA(強)

Priming 効果のメタアナリシス結果

(5)血球減少期間

RCT 4 編で対象年齢は2 編が60 歳以下3,5),1 編が66 歳以下13),1 編6)は全年齢,対象病期は初発AML 2 編3,5),再発・難治性AML 2 編6,13),治療は標準的がん薬物療法2 編3,13),高用量シタラビンと標準量シタラビンなどその他のランダム化を有する試験が2 編5,6)含まれ多様である。2 編はG‒CSF 併用群で好中球減少期間が有意に短縮6,13),1 編は有意差なし3),1 編は有意に好中球減少が遷延(cycle2 のみ)5)しており研究間で結果が一貫していなかった。効果指標の相違からメタアナリシスの実施は困難であった。症例対照研究は2 編で,1 編は初発の二次性AML のみを対象とし12),治療はプリンアナログ+高用量シタラビン療法vs. 標準的がん薬物療法と非対称であった。2 編ともG‒CSF 群で有意に好中球減少期間が短縮した9,12)。研究間で結果は一貫しておらず,またG‒CSF はがん薬物療法開始時から好中球回復まで使用を継続する設定が多く,G‒CSF 併用そのものによる血球減少期間への影響は明確ではない。
エビデンスの強さB(中)

(6)二次発がん

二次発がんを評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(7)疼痛などの有害事象

RCT は2 編4,13)が評価可能で,66 歳以下の難治性AML13)または高齢者の初発AML4)を対象とし,1 編13)のみプラセボ対照で本CQ の設定との相違を認めバイアスリスクを有する。メタアナリシスの結果はI2=0%であり,研究間での結果のばらつきは小さく,介入群と対照群で骨痛などの疼痛に有意差を認めなかった。ただし,症例数が少なく,結果の解釈には注意を要する。
エビデンスの強さB(中)

疼痛などの有害事象のメタアナリシス結果

(8)生活の質(QOL)

QOL を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

AML に対するG‒CSF とがん薬物療法の併用投与によるOS と治療成績の向上(Priming 効果)は,RCT では明らかには示されなかった。しかし,サブ解析では染色体標準リスク群や高用量シタラビンの治療を受けた患者で,G‒CSF 併用によりOS が有意に改善していた。また症例対照研究2 編で,再発・難治AML におけるG‒CSF 併用の有用性が示されており,対象によっては有益な可能性がある。一方,多様な背景の症例が多彩なレジメンで評価されており,現時点では確実に推奨し得る患者群は抽出できていない。

(2)害

G‒CSF とがん薬物療法の併用投与は,感染による死亡率の増加,原疾患の増悪,疼痛などの有害事象の発現には影響していなかった。また,G‒CSF 併用投与による血球減少期間への影響は,好中球回復までG‒CSF を投与している設定が多かったため評価が困難であった。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,OS と治療成績の向上(Priming 効果)などの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

(5)まとめ

AML に対するG‒CSF とがん薬物療法の併用投与によるOS の改善は明らかでなく,害を上回る益があるとは言えないため,G‒CSF とがん薬物療法の併用投与を行わないことを弱く推奨する。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は23 名(医師21 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断した。システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案を提示し,推奨決定の協議と投票の結果,22 名中19 名(86.4%)が原案に賛同し合意形成に至った。

7 今後の研究課題

システマティックレビューでは,AML に対するG‒CSF とがん薬物療法の併用投与によるOS の改善は明らかではなかったが,サブ解析ではAML の染色体標準リスクや高用量シタラビンの治療を受けた患者ではOS が改善したとの報告があり,一部の患者には有用な可能性がある。今後,G‒CSF とがん薬物療法の併用投与が推奨される患者群を特定する研究が望まれる。

なお,推奨決定会議後の2022 年2 月4 日に「再発又は難治性の急性骨髄性白血病に対する抗悪性腫瘍剤との併用療法」について公知申請に係る事前評価が終了し,フルダラビン,シタラビン等のがん薬物療法併用下におけるレノグラスチムとフィルグラスチムは保険適用の対象となることが通知された。

参考文献

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Ⅵ.その他

Q39(BQ)
発熱性好中球減少症の発症リスクと相関する患者背景因子は何か?

発熱性好中球減少症の発症の背景因子として,高齢,がん薬物療法や放射線療法の既往,performance status 不良や発熱性好中球減少症の既往などが挙げられる

合意率:95.7%(22/23 名)

1 本BQ の背景

FN の発症リスクを高める患者背景因子を把握することはがん薬物療法を安全かつ適切に行う上で極めて重要である。さまざまながん種のエビデンスから,FN 発症リスクと相関する患者背景因子を総合的に検証するため,本BQ を設定した。

NCCN ガイドライン1)では,65 歳以上の高齢者,がん薬物療法や放射線療法の既往,好中球減少症や腫瘍の骨髄浸潤の存在,performance status(PS)不良,腎機能低下や肝機能低下などが挙げられている。

ASCO ガイドライン2)においては,65 歳以上の高齢者,進行がん,がん薬物療法や放射線療法の既往,好中球減少症や腫瘍の骨髄浸潤の存在,開放創や直近の手術歴,PS 不良,腎機能低下や肝機能低下,心疾患,HIV 感染などが挙げられている。

EORTC ガイドライン3)では,65 歳以上の高齢者,進行がん,FN の既往,G‒CSF や予防的抗菌薬の不使用などが挙げられている。

ESMO ガイドライン2016 年版4)ではリスク因子に関する記載はない。

2 解説

本BQ では,がん薬物療法によるFN の発症リスクと相関する患者背景因子を検討した。

文献検索の結果,PubMed 595 編,Cochrane 5 編,医中誌96 編が抽出され,これにハンドサーチ1編を加えた計697 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された45 編を対象に検討を行った。

高齢に関しては複数のがん種で多数の臨床研究によりFN の発症リスクと相関する背景因子であることが報告されている5‒8)。ただし高齢の定義は報告により異なり,60 歳5),65 歳6,7),70 歳8)などとされている。小細胞肺がん175 例のRCT5)では,多変量解析の結果,年齢(60 歳以上)のみFN 発症リスクの背景因子であるとしている。また血液腫瘍の領域でも同様に高齢がFN 発症の背景因子とされている。非ホジキンリンパ腫(non‒Hodgkin lymphoma;NHL)577 例の報告では3 サイクル以内にFN を発症するリスクとして65 歳以上の年齢が挙げられている9)

高齢以外のFN 発症リスクの背景因子としては,先行するがん薬物療法や放射線療法の既往歴,PS 不良,FN の既往歴,骨髄への腫瘍浸潤による造血機能障害,進行がん,腎機能障害や肝機能障害等の重篤な合併症などが挙げられている1‒11)。またこれらのリスク因子をスコア化し,がん薬物療法の毒性発現を正確に予測し得ることが報告されている12)。ステートメントとしては,「高齢,がん薬物療法や放射線療法の既往,PS 不良やFN の既往など」をFN の発症リスクの背景因子とした。

参考文献

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Q40(CQ)
がん薬物療法を受けて発熱性好中球減少症を発症した固形がん患者において,G‒CSF の二次予防投与は有用か?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さB(中)
がん薬物療法を受けて発熱性好中球減少症を発症した固形がん患者において,G‒CSF の二次予防投与を行うことを弱く推奨する
特に治癒を含む十分な効果を期待でき,治療強度を下げない方がよいと考えられる疾患

合意率:100%(23/23 名)

解説

治癒を含む十分な効果を目的として,相対用量強度(relative dose intensity;RDI)を下げない方がよいと考えられるがん薬物療法におけるG‒CSF の二次予防投与は,OS を改善するというエビデンスは乏しいが,FN 発症率の低下,RDI の維持を示す弱いエビデンスが存在し,害に関するエビデンスが明確でないことから弱く推奨する。

1 本CQ の背景

一次予防投与が推奨されていないがん薬物療法レジメンにおいて,前コースでFN や遷延性好中球減少症を発症した場合,次のコースにおける対処の選択肢として,G‒CSF の二次予防投与や,がん薬物療法の減量・スケジュールの変更が考えられる。

ASCO ガイドライン1),ESMO ガイドライン2016 年版2),NCC ガイドライン3)では,減量や治療の延期が治療効果に悪影響を及ぼすようながん薬物療法において,前コースで好中球減少による合併症を起こし,かつ,G‒CSF の一次予防投与が行われていない場合,G‒CSF の二次予防投与が考慮される,と記載されている。しかしながら,ASCO ガイドラインには,多くの臨床状況においては,減量や延期が合理的な代替案であるかもしれない,とも記載されている。

2 アウトカムの設定

本CQ では,がん薬物療法を受けてFN を発症し,同じレジメンで次コースを行う固形がん患者を対象に,G‒CSF を二次予防投与で用いる場合とG‒CSF を二次予防投与で用いずにがん薬物療法の減量や延期を考慮する場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡」「生活の質(QOL)」「疼痛」「相対用量強度(relative dose intensity;RDI)」の6 項目について評価した。がん薬物療法のRDI と効果や治癒率に関連が示されているがん種(早期乳がんや胚細胞腫瘍など)が存在することから,本CQ のアウトカムにはRDI を含めた。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 355 編,Cochrane 2 編,医中誌35 編が抽出され,計392 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された12 編を対象に定性的システマティックレビューを実施した。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)全生存期間(OS)

OS は,コホート研究1 編4)で評価されていた。この研究では,G‒CSF の二次予防投与を実施した11 例中1 例(9.1%)が死亡,実施しなかった13 例中7 例(53.8%)が死亡しており(log‒rank test,p=0.019),G‒CSF の二次予防投与によりOS の延長が示唆された。しかし,サンプル数が少ないコホート研究であり,不精確性が高いため,関連性については限定的であった。
エビデンスの強さC(弱)

(2)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

FN 発症率は,RCT 1 編5),前向き観察研究が1 編6),後ろ向きコホート研究8 編4,7‒13)で評価されていた。周術期がん薬物療法中の早期乳がん患者を対象とした396 例のRCT5)では好中球減少に関連する事象(neutropenic event;NE)のRR 0.116(95%CI:0.073‒0.185)であった。また,周術期(47%)と転移性(53%)の固形がん症例を含む前向き観察研究6)では,多変量解析にてG‒CSF の二次予防投与のみがNE の再発を有意に減少していた[HR 0.32(95%CI:0.24‒0.43,p<0.001)]。ただし,これらの研究では,NE の定義として,FN のほかに治療延期や減量を要する好中球減少も含まれており,FN 発症率が低下しているかは不明であった。
エビデンスの強さB(中)

(3)感染による死亡率

感染による死亡率を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(4)生活の質(QOL)

決定分析を使用してquality‒adjusted life year(QALY)を評価した研究が1 編存在した14)。ただし,この研究は仮想症例におけるモデル分析であり,実際の症例のQOL を収集して評価したものではなかったため,本CQ の評価対象外とした。

(5)疼痛

疼痛は,コホート研究1 編11)で評価されていた。研究コホート1,473 例中83 例(5.6%)で筋骨格系の疼痛が認められていたが,本コホートにはG‒CSF の二次予防投与だけでなく,一次予防投与,治療投与も含まれており,かつ比較対象がないことから,評価は困難であった。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(6)相対用量強度(RDI)

RDI についてはRCT 1 編5),コホート研究4 編4,8‒10)で評価されていた。乳がん患者を対象としたRCT5)では,85%以上のRDI を保てなかった率はG‒CSF 二次予防投与群200 例中100 例(50.0%),対照群201 例中151 例(75.1%)であり,G‒CSF 二次予防投与群で有意にRDI(85%以上)が保たれる結果であった[OR 3.02(95%CI:1.98‒4.61)]。
エビデンスの強さB(中)

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

G‒CSF の二次予防投与において,最も重要度の高いアウトカムと設定したOS は,延長が示唆されたが,コホート研究1 編のみによる評価であり,エビデンスの強さはC(弱)とした。一方で,FN 発症率とRDI については,エビデンスの強さB(中)で,有益であることが示唆された。感染による死亡率とQOL に関する研究は抽出されず,評価不能であった。

(2)害

疼痛について評価されたコホート研究1 編が存在したが,この試験では,G‒CSF の一次予防投与や治療投与の症例も含まれた解析であり,エビデンスの強さはD(非常に弱い)であった。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,FN 発症率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

(5)まとめ

G‒CSF の二次予防投与は,益の指標として設定した生存の改善を示す弱いエビデンス,FN 発症の減少,RDI の改善を示す中等度のエビデンスが存在した。害の指標として設定した疼痛について,関連性は限定的であった。そのため,G‒CSF の二次予防投与は,益が害を上回ると考えられた。ただし,今回抽出されたほとんどの研究の対象は,早期乳がんなど,治癒を含む十分な効果を目的としてRDI を下げない方がよいと考えられる疾患であった。そのため,これらの疾患に限定してG‒CSF の二次予防投与を弱く推奨するとした。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は23 名(医師21 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。

システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「がん薬物療法を受けて発熱性好中球減少症を発症した固形がん患者において,G‒CSF の二次予防投与を行うことを弱く推奨する」が,「特に治癒を含む十分な効果を期待でき,治療強度を下げない方がよいと考えられる疾患」という注釈とともに提示された。推奨決定の協議と投票の結果,23 名中23 名が原案に賛同し合意形成に至った。

参考文献

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Smith TJ, Bohlke K, Lyman GH, et al. American Society of Clinical Oncology. Recommendations for the Use of WBC Growth Factors:American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline Update. J Clin Oncol. 2015;33:3199‒212.
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Q41(CQ)
がん薬物療法中の発熱性好中球減少症患者に,G‒CSF の治療投与は有用か?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さC(弱)
がん薬物療法中の発熱性好中球減少症患者に,G‒CSF の治療投与を行わないことを弱く推奨する

合意率:87.0%(20/23 名)

解説

がん薬物療法中に発症したFN 患者に対してG‒CSF の治療投与は,感染による死亡率の有意な改善は認めず,ルーチンの使用は推奨されない。海外ガイドラインにおいてもルーチンの使用は推奨されていないが,高リスクの場合は投与を考慮するとされている。リスク因子としては,長期間続く好中球減少,好中球数100/μL 未満,高齢,重篤な全身状態,真菌感染などが挙げられている。

1 本CQ の背景

本CQ が対象とする状況は,実地診療で出会う機会が多い。本ガイドライン2013 年版ver. 5 では,「ルーチンにG‒CSF の治療投与をすべきでない。ただし,G‒CSF の予防投与を受けていたFN 患者では,G‒CSF の継続投与が勧められる。G‒CSF の予防投与を受けていないFN 患者では,高リスクの場合,G‒CSF の治療投与を検討する。」となっている。ASCO ガイドライン1)では,FN 患者に対して抗菌薬と一緒にルーチンでcolony stimulating factors(CSFs)を使用すべきではないとしている。一方,感染関連合併症のリスクが高い患者や重篤化を予測する予後因子を有する患者では考慮するとしている。高リスク患者の特徴として,好中球低下の持続期間が10 日より長いと予測される場合,好中球数100/μL 未満,65 歳より高齢,原疾患が制御されていない状況,肺炎,低血圧,敗血症の症状としての多臓器不全の合併,侵襲性真菌感染,入院中の発熱が挙げられている。ESMO ガイドライン2010 年版2)でも,リスクの高くないFN 患者に対するG‒CSF の使用は推奨していない。一方,リスクが高いFN 患者では使用が推奨されている。具体的には,7 日より長引くFN,低血圧,敗血症,肺炎,真菌感染が挙げられている。NCCN ガイドライン3)では,予防的G‒CSF 投与を受けていない患者において,感染関連合併症のリスクがない患者では治療投与が推奨されない。一方でリスクがある患者では治療投与を考慮するとしている。リスクとして,敗血症,65 歳より高齢,好中球数100/μL 未満,好中球低下の持続期間が10 日より長いと予測される場合,肺炎,ほかの合併が明らかになっている感染を有する場合,侵襲性真菌感染,入院中の発熱,FN 発症の既往が挙げられている。

2 アウトカムの設定

本CQ では,がん薬物療法を受けてFN を発症した固形がん患者を対象に,G‒CSF を治療投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「感染による死亡率」「入院期間」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 198 編,Cochrane 4 編,医中誌130 編が抽出され,計332 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出されたRCT 2 編4,5)を対象に定性的システマティックレビュー,メタアナリシスを実施した。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)全生存期間(OS)

OS を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(2)感染による死亡率

感染による死亡率については,RCT 2 編4,5)が抽出され,メタアナリシスを行った。イベント数/対象症例数は,G‒CSF 治療投与群で5/134 例(3.73%),G‒CSF 非投与群で6/129 例(4.65%),RR 0.83(95%CI:0.27‒2.58,p=0.54)という結果であり,有意差を認めなかった。ランダム化の手法などにバイアスリスクは存在するものの,重大な問題となるほどのリスクではないと考えられた。2 編の文献における感染による死亡の相対リスクは,それぞれ0.33,0.95 と乖離があり,文献間のばらつきを認めた。また文献数が少なく出版バイアスもあると考えられた。
エビデンスの強さC(弱)

(3)入院期間

抽出されたRCT 2 編4,5)において,入院期間について文献のデータは中央値のみであり,メタアナリシスは施行していない。定性的システマティックレビューでは,1 編の文献で,G‒CSF 治療投与により入院期間が有意に短縮していたが,もう1 編では入院期間に有意差はみられなかった。このため,文献間のばらつきがあると判断した。
エビデンスの強さC(弱)

(4)生活の質(QOL)

QOL を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(5)疼痛

疼痛を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

感染による死亡率について2 編のRCT のメタアナリシスの結果,有意差は認められなかった。また入院期間について,2 編のRCT において一貫性のある結果は示されなかった。QOL について,対象となる文献は抽出されなかった。これらの結果より,G‒CSF の治療投与による益は見いだせなかった。感染による死亡率,入院期間ともにバイアスリスク,非一貫性,不精確性などより,全体のエビデンスの強さはC(弱)とした。

(2)害

害を評価した文献が抽出されず評価不能であった。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,感染による死亡率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

(5)まとめ

G‒CSF の治療投与による益は明らかではなく,G‒CSF の治療投与を行わないことを弱く推奨する。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は23 名(医師21 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「がん薬物療法中の発熱性好中球減少症患者に,G‒CSF の治療投与を行わないことを弱く推奨する」が提示され,推奨決定の協議と投票の結果,23 名中20 名が原案に賛同し合意形成に至った。

7 今後の研究課題

今回のシステマティックレビューで抽出された文献は2001 年と2004 年の2 編のみであり,本ガイドライン2013 年版ver. 5 以降に発表されたものはなかった。また海外のガイドラインにおいても,高リスクのFN 患者の特徴として引用しているのは2006 年の文献6)であり,新規のエビデンスが乏しいことが明らかとなった。一方,現在はG‒CSF が広く普及しており,単純にG‒CSF 投与の有無を比較する試験を行う難しさがある。今後は高リスクFN の知見を積み重ね,G‒CSF の有用性の検討とともにリスク因子の情報をアップデートしていくような研究が求められる。

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Q42(CQ)
がん薬物療法中の無熱性好中球減少症患者に,G‒CSF の治療投与は有用か?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さB(中)
がん薬物療法中の無熱性好中球減少症患者に,G‒CSF の治療投与を行わないことを弱く推奨する

合意率:90.9%(20/22 名)

解説

無熱性好中球減少症患者に,G‒CSF の治療投与を行うことでOS,感染による死亡率,FN 発症率の改善を示すエビデンスは乏しい。好中球減少症以外にFN 発症リスクがない無熱性好中球減少症患者に対してG‒CSF の治療投与を行わないことを弱く推奨する。

1 本CQ の背景

がん薬物療法の経過中に発熱を伴わない好中球減少症をきたすことがある。ASCO ガイドラインではがん薬物療法中の無熱性好中球減少症患者に対して,G‒CSF をルーチンに使用しないことを強く推奨している1)。ESMO ガイドライン2010 年版においても無熱性好中球減少症患者に対して,G‒CSF を使用しないことを推奨している2)。NCCN ガイドラインでは無熱性好中球減少症患者に対するG‒CSF の使用の推奨に関して言及はなかった3)

2 アウトカムの設定

本CQ では,がん薬物療法中に,発熱はないが好中球減少が判明した患者を対象に,G‒CSF を治療投与で用いる場合と用いない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「感染による死亡率」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「生活の質(QOL)」「疼痛」の5 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 12 編,Cochrane 0 編,医中誌4 編が抽出され,計16 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出されたRCT 1 編を対象に定性的システマティックレビューを実施した。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)全生存期間(OS)

OS を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(2)感染による死亡率

抽出されたRCT では,がん薬物療法を受け,無熱性好中球減少をきたした固形がんあるいはリンパ腫の患者を対象に,G‒CSF の治療投与とプラセボ投与が比較された4)。G‒CSF 治療投与群(n=71),プラセボ群(n=67)ともに感染による死亡は1 例ずつあり,統計学的有意差はなかった。
エビデンスの強さB(中)

(3)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

上述のRCT4)でFN 発症率も検討されたが,G‒CSF 治療投与群11.9%,プラセボ群9.9%とほぼ同等であり,統計学的有意差はなかった。
エビデンスの強さB(中)

(4)生活の質(QOL)

QOL を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(5)疼痛

疼痛を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

システマティックレビュー対象となった報告はRCT 1 編のみ4)であった。感染による死亡率,FN 発症率ともに統計学的有意差はなく,無熱性好中球減少症に対するG‒CSF 治療投与による明確な益はない。

(2)害

害を評価した研究は抽出されず,評価不能であった。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,感染による死亡率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

(5)まとめ

無熱性好中球減少症患者にG‒CSF の治療投与を行うことの益はないと考えられるため,がん薬物療法中の無熱性好中球減少症患者に,G‒CSF の治療投与を行わないことを弱く推奨する。

一方,本CQ で抽出されたRCT に組み入れられた症例は,年齢中央値62~63 歳で,PS 0~1 が多数を占めており,全身状態のよい患者集団であったと考えられる。Q39(BQ)で述べるようなFN 発症リスクの高い患者集団の無熱性好中球減少症では,患者がFN を発症した際にすぐ診察を受けられる対策を講じるなどの備えが必要である。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は22 名(医師20 名,看護師1 名.薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。

システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「がん薬物療法中の無熱性好中球減少症患者に,G‒CSF の治療投与を行わないことを弱く推奨する」が提示され,推奨決定の協議と投票の結果,22 名中20 名が原案に賛同し合意形成に至った。

参考文献

1)
Smith TJ, Bohlke K, Lyman GH, et al. American Society of Clinical Oncology. Recommendations for the Use of WBC Growth Factors:American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline Update. J Clin Oncol. 2015;33:3199‒212.
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Crawford J, Caserta C, Roila F. ESMO Guidelines Working Group Hematopoietic growth factors:ESMO Clinical Practice Guidelines for the applications. Ann Oncol. 2010;21 Suppl 5:v248‒51.
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Q43(CQ)
フィルグラスチムを予防投与で用いるとき,バイオシミラーと先行バイオ医薬品のいずれが推奨されるか?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
フィルグラスチムを予防投与で用いるとき,バイオシミラーと先行バイオ医薬品のいずれも弱く推奨する

合意率:100%(22/22 名)

解説

フィルグラスチムのバイオシミラー(バイオ後続品)は,予防投与で用いるとき,フィルグラスチムの先行バイオ医薬品(先行品)と比較してFN 発症率や感染による死亡率,好中球数<500/μL の日数について有意な差はなく,また疼痛についても有意な差は認められなかった。安全性および有効性が同等であることから,バイオシミラーと先行品のいずれも選択可能である。バイオシミラーによるコスト低下は明らかであり,コストも考慮して選択することが望ましい。

1 本CQ の背景

バイオシミラーとは,既に承認された先行品と同等/同質の品質,安全性および有効性を有する医薬品として,異なる製造販売業者により開発された医薬品のことを指す。G‒CSF バイオシミラーは,2008 年にEMA により初めて承認され,2012 年にはFDA でも承認された。日本においても2012 年に初めて承認され,現在は2 製剤(FSK0808:フィルグラスチム後続1,TKN732:フィルグラスチム後続2)が使用可能である。

EORTC ガイドライン1),ASCO ガイドライン2),NCCN ガイドライン3)のいずれにおいても,フィルグラスチムバイオシミラーは,フィルグラスチム先行品と同様のカテゴリーで扱われている。

2 アウトカムの設定

本CQ では,小児を除く,がん薬物療法を受けるがん患者を対象に,フィルグラスチムのバイオシミラーを用いる場合と先行品を用いる場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「好中球数<500/μL の日数」「生活の質(QOL)」「コスト」「疼痛」の7 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 225 編,Cochrane 0 編,医中誌58 編が抽出され,これにハンドサーチ2 編を加えた計285 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された65 編を対象に定性的システマティックレビューを実施した。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)全生存期間(OS)

OS については,2 編の観察研究が抽出されたが,この2 編は骨髄移植患者を対象としており,フィルグラスチムの予防投与との直接的な関連性は低いと考えられた。日本で承認され使用可能な2 つの製剤に関する2 編については,1 年生存率に有意差は認めなかったが,HR の記載はなく,メタアナリシスは実施しなかった。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(2)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

FN 発症率については,RCT 9 編が抽出された。これらのRCT では,介入や対象は明確であり,一部盲検化の問題でバイアスリスクはあるものの,エビデンスレベルはB(中)とした。各報告で概ね一貫した結果であり,バイオシミラーと先行品でFN 発症率に有意差はみられなかった。日本で承認され使用可能な2 つの製剤に関する4 編4‒7)のメタアナリシスでも,FN 発症率に有意差はみられなかった[OR 1.08(95%CI:0.66‒1.75),p=0.77)]。
エビデンスの強さB(中)

(3)感染による死亡率

感染による死亡率については,RCT 12 編が抽出された。これらのRCT では,介入や対象は明確であり,一部盲検化,ランダム化後の脱落の問題があるもののバイアスリスクは低く,エビデンスレベルは中(B)とした。各報告で概ね一貫した結果であり,バイオシミラーと先行品で感染による死亡率に有意差はみられなかった。日本で承認され使用可能な2 つの製剤に関する4 編4‒7)のメタアナリシスでも,感染による死亡率に有意差はみられなかった[OR 1.51(95%CI:0.06‒36.64,p=0.80)]。
エビデンスの強さB(中)

(4)好中球数<500/μL の日数

好中球数<500/μL の日数については,RCT 15 編が抽出された。これらのRCT では,介入や対象は明確であり,一部盲検化,ランダム化後の脱落の問題があるもののバイアスリスクは低く,エビデンスレベルはB(中)とした。各報告で概ね一貫した結果であり,バイオシミラーと先行品で好中球数<500/μL の日数に有意差はみられなかった。
エビデンスの強さB(中)

(5)生活の質(QOL)

生活の質(QOL)を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(6)コスト

コストについて,RCT はなく,観察研究のみが抽出されたが,患者背景などのばらつきがあり,非直接性,バイアスリスクが存在し,評価方法なども一貫しておらず,評価は困難であった。

(7)疼痛

疼痛については,RCT 26 編が抽出された。これらのRCT では,介入や対象は明確であるが,疼痛の評価基準にばらつきがあり,非直接性にも問題があった。また一部に脱落,盲検化,アウトカム不完全報告,選択的アウトカム報告の問題があり,バイアスリスクや疼痛の評価基準にばらつきがあった。全体として一貫性の質は低下しており,エビデンスレベルはC(弱)としたが,バイオシミラーと先行品で疼痛に有意差はみられなかった。日本で承認され使用可能な2 つの製剤に関する2 編4,5)のメタアナリシスでも,疼痛に有意差はみられなかった[OR 1.05(95%CI:0.38‒2.85),p=0.93)]。
エビデンスの強さC(弱)

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

QOL については評価困難であったが,OS についてのエビデンスの強さはD(非常に弱い),FN 発症率,感染による死亡率,好中球数<500/μL の日数についてのエビデンスの強さはいずれもB(中)であり,バイオシミラーと先行品による益に有意差はないと結論付けられた。

(2)害

疼痛については,その評価基準にばらつきがあり,弱いエビデンスではあるが,バイオシミラーと先行品による害に有意差はないと考えられた。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,FN 発症率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,有効性および安全性が同等であれば,バイオシミラーによるコスト低下は明らかである。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は22 名(医師20 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。

本CQ は2 回の投票を経て,推奨が決定した。当初のCQ は「フィルグラスチムのバイオシミラーは,先行バイオ医薬品と比べて有用か?」であり,システマティックレビューレポートに基づいて,初回投票時には「フィルグラスチムのバイオシミラーは,先行バイオ医薬品と比べて有効性および安全性において明らかな差はなく,使用することを弱く推奨する」という推奨草案に対して投票が行われた。初回投票で賛同が得られたのは22 名中16 名であり,合意形成には至らなかった。理由として,本ガイドラインでは先行品とバイオシミラーを比較して優劣をつけたいわけではないため,バイオシミラーがより推奨されるように受け取れる推奨草案は読者の誤解を招く恐れがあるとの意見があった。このため,バイオシミラーと先行品の同等性が明示される表現を検討し,CQ・推奨をそれぞれ「フィルグラスチムを予防投与で用いるとき,バイオシミラーと先行バイオ医薬品のいずれが推奨されるか?」「フィルグラスチムを予防投与で用いるとき,バイオシミラーと先行バイオ医薬品のいずれも弱く推奨する」に変更のうえ,2 回目の投票を行った。その結果,22 名中22 名が賛同し合意形成に至った。

7 今後の研究課題

本CQ のシステマティックレビューは,すべてのフィルグラスチムのバイオシミラー(国内承認され使用可能な2 つの製剤,国内承認されたが製造中止となった1 つの製剤,国内未承認の複数の製剤,国内未承認のペグ化された複数のフィルグラスチム製剤)を一括りにして実施した。しかし,先発医薬品と有効成分の構造が同等である後発医薬品(ジェネリック医薬品)とは異なり,バイオシミラーは物質的に先行バイオ医薬品と完全に同一ではないため,これらを一括りにすることは危険である。このため,本来はバイオシミラーごとにシステマティックレビューが必要と考えられる。バイオシミラー承認時の有効性,安全性,免疫原性の成績は十分な症例数をもとにしているとは言い難く,またその観察期間も短い。市販後医薬品安全性監視が厳重に行われ,投与薬の追跡可能性が保障され,長期にわたる有効性,安全性が検証されることが必要である。

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Q44(CQ)
がん薬物療法において,ペグ化G‒CSF 単回投与は非ペグ化G‒CSF 連日投与より推奨されるか?

推奨の強さ1(強い)
エビデンスの強さA(強)
がん薬物療法において,ペグ化G‒CSF 単回投与を行うことを強く推奨する

合意率:95.5%(20/22 名)

解説

がん薬物療法を受けるがん患者で一次予防投与としてG‒CSF が必要な状況では,非ペグ化G‒CSF を一定期間連日投与するより,ペグ化G‒CSF を1 回投与する方が強く推奨される。G‒CSF の一次予防投与が必要な状況については,各疾患の該当Question(Q1~24)を参照されたい。

1 本CQ の背景

G‒CSF にはペグ化G‒CSF と非ペグ化G‒CSF とがある。ペグ化G‒CSF は,従来のG‒CSF にポリエチレングリコールが化学的に結合されており,G‒CSF の分解が抑制されたり排泄が遅延したりし,血中で長時間G‒CSF が残存する特性がある。日本では,2014 年にペグフィルグラスチムがペグ化G‒CSF として初めて承認された。ペグフィルグラスチムは投与後少なくとも14 日は空けることが求められているが,非ペグ化G‒CSF は連日の投与が可能とされている。本CQ では両者の比較により有用性の検討を行った。

2 アウトカムの設定

本CQ では,がん薬物療法を受ける患者を対象に,単回投与のペグ化G‒CSF と連日投与の非ペグ化G‒CSF を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「好中球数<500/μL の日数」「生活の質(QOL)」「疼痛」の6 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 339 編,Cochrane 1 編,医中誌112 編が抽出され,計452 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された23 編1‒23)を対象に定性的システマティックレビューを行い,うち18 編1‒18)についてメタアナリシスを実施した。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)全生存期間(OS)

単回ペグ化G‒CSF と連日非ペグ化G‒CSF でOS を比較した研究はRCT 1 編15)のみであり,メタアナリシスは実施しなかった。このRCT は,自家末梢血幹細胞移植を受けた小児がん症例を対象としており,ペグ化G‒CSF 21 例,非ペグ化G‒CSF 29 例の1 年生存率はそれぞれ74.5%,84.1%で,有意差は認められなかった。RCT が1 編であることや症例数が少ないことからエビデンスの強さはC(弱)とした。
エビデンスの強さC(弱)

(2)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

単回ペグ化G‒CSF と連日非ペグ化G‒CSF でFN 発症率を比較した研究として,RCT 12 編とコホート研究6 編が抽出され,RCT 12 編でメタアナリシスを実施した。単回投与のペグ化G‒CSF によるFN 発症率の有意な低下が認められた[RR 1.18(95%CI:1.03‒1.34, p=0.01)]。結果のばらつきや出版バイアスも認めず,エビデンスの強さはA(強)と判断した。
エビデンスの強さA(強)

FN 発症率のメタアナリシス結果

(3)感染による死亡率

単回ペグ化G‒CSF と連日非ペグ化G‒CSF で感染による死亡率を比較した研究として,RCT 3 編が抽出された。合計288 例中死亡例は単回ペグ化G‒CSF 群の1 例のみであったため,メタアナリシスは実施しなかった。定性的な評価として,感染による死亡率に明らかな差を認めないと判断した。しかし,イベント数が極端に少なく評価が困難であるため,エビデンスの強さはC(弱)とした。
エビデンスの強さC(弱)

(4)好中球数<500/μL の日数

単回ペグ化G‒CSF と連日非ペグ化G‒CSF で好中球数500/μL 未満の日数を比較した研究として,RCT 13 編と準RCT 4 編が抽出された。単回ペグ化G‒CSF 群では1.3~10.4 日,連日G‒CSF 群では1.6~9.8 日とそれぞれの群で,すでに大きなばらつきが認められた。選択バイアスを含む集団でもあったため,メタアナリシスの実施は見送り定性的な評価とした。エビデンスの強さはC(弱)であるものの,明らかな差は認めないと判断した。
エビデンスの強さC(弱)

(5)生活の質(QOL)

QOL を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(6)疼痛

単回ペグ化G‒CSF と連日非ペグ化G‒CSF で疼痛を比較した研究として,RCT 11 編とコホート研究4 編が抽出され,メタアナリシスを実施した。単回ペグ化G‒CSF と連日G‒CSF で,後者に疼痛の増加傾向はあるものの有意差は認められなかった[RR 0.86(95%CI:0.73‒1.01, p=0.06)]。複数のRCT を含むメタアナリシスが実施されており,結果のばらつきは小さく,エビデンスの強さはA(強)と判断した。
エビデンスの強さA(強)

疼痛のメタアナリシス結果

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

エビデンスの強さはA(強)であり,単回ペグ化G‒CSF は連日非ペグ化G‒CSF と比べFN 発症率の有意な低下を認めた。OS,感染による死亡率,好中球数<500/μL の日数,QOL については,エビデンスの強さはC(弱)だが,明らかな差はないと判断した。

(2)害

唯一の害のアウトカムである疼痛の増加については,エビデンスの強さがA(強)であり,害の増加は認めなかった。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,FN 発症率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。ペグ化G‒CSF は単回投与であり,非ペグ化G‒CSF の連日投与に比べて来院負担は少なく,この点も患者希望に影響すると考えられる。

(4)コスト・資源

コストについては,1 編のRCT で費用に関する評価がされていた13)。本RCT は米国で実施され,自家末梢血幹細胞移植症例を対象としていた。ペグ化G‒CSF 群で患者1 例あたり961 ドルの節約になったと報告されていたが,RCT 1 編の報告でありエビデンスの強さはC(弱)と判断した。このように,ペグ化G‒CSF で費用が下回るとのデータはあるが,対象が自家末梢血幹細胞移植症例であり,一般的な外来治療のがん薬物療法症例とは直接的な関連性が低く,本エビデンスの外挿は難しいと考える。

(5)まとめ

単回ペグ化G‒CSF は連日非ペグ化G‒CSF と比べ,FN 発症率を明確に低下させており,OS やQOLの改善は明らかではないものの,益は大きいと考えられる。害の増加は認められておらず,益が害を上回ると考えられるため,ペグ化G‒CSF 単回投与を行うことを強く推奨する。FN 発症率,疼痛の増加ともにエビデンスの強さはA(強)で,その他3 つのエビデンスの強さはC(弱)ではあるが,総じてエビデンスの強さはA(強)と判断した。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は22 名(医師20 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。

システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「がん薬物療法において,ペグ化G‒CSF単回投与を行うことを強く推奨する」が提示され,推奨決定の協議と投票の結果,22 名中21 名が原案に賛同し合意形成に至った。

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Q45(CQ)
がん薬物療法でペグ化G‒CSF を投与するとき,Day 2 とDay 3~Day 5 のいずれが推奨されるか?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さC(弱)
がん薬物療法でペグ化G‒CSF を投与するとき,Day 2 とDay 3~Day 5 のいずれも弱く推奨する

合意率:100%(20/20 名)

解説

がん薬物療法でペグ化G‒CSF を投与するとき,Day 3~Day 5 の間に単回投与する群では,Day 2 に投与する群と比較し,FN 発症率に有意差はなく,重篤な有害事象の発現率に有意差はみられなかった。現時点においては,投与スケジュールについて,いずれかを推奨するだけの根拠は乏しい。

1 本CQ の背景

がん薬物療法においてペグ化G‒CSF を予防投与する場合,がん薬物療法投与終了翌日(Day 2)以降に投与される。Day 2 投与またはDay 3~Day 5 投与でその効果と有害事象が異なる可能性があるが,どちらが最適かのコンセンサスは得られていない。投与タイミングについて検討する比較試験は複数あり,Day 2 とDay 4 を比較した臨床試験では,Day 4 に投与した方がGrade 3 以上の白血球減少と感染の頻度が少ないという報告と,一方でDay 2 とDay 4 で結果に有意差はなかったという報告もある。NCCN ガイドラインにおいては,本CQ に対する推奨は記載されておらず,Day 2 以降およびDay 3~Day 4 までの投与が推奨されている1)。また,ASCO ガイドラインにおいても,Day 2 からDay 4 までの投与が推奨されており,Day 2 またはDay 3~Day 4 のいずれが推奨されるかについては記載されていない2)

2 アウトカムの設定

本CQ では,がん薬物療法とともにペグ化G‒CSF の予防投与を受ける患者を対象に,ペグ化G‒CSF をがん薬物療法投与翌々日以降(Day 3,Day 4 またはDay 5)に投与する場合とペグ化G‒CSF をがん薬物療法投与翌日(Day 2)に投与する場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」「好中球<500/μL の日数」「重篤な有害事象の発現率」「疼痛」の6 項目について評価した。なかでも「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」「感染による死亡率」を重要なアウトカムとして設定した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 241 編,Cochrane 1 編,医中誌58 編が抽出され,計300 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された4 編を対象にシステマティックレビューを行った。FN 発症率(3 編),感染による死亡率(2 編),重篤な有害事象の発現率(3 編)について,メタアナリシスを実施した。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)全生存期間(OS)

抽出された文献においてOS をアウトカムに設定しているものはなく,評価不能であった。

(2)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

FN 発症率については,RCT 1 編3),準RCT 1 編4)および観察研究1 編5)が抽出された。RCT では,65 歳未満のリンパ節転移陽性早期乳がん患者を対象とし,エピルビシン→パクリタキセル→シクロホスファミド逐次投与とともにペグ化G‒CSF をDay 2 に投与する群とDay 4 に投与する群が設定され,主要評価項目はGrade 4 の好中球減少症発症率であった。Grade 4 の好中球減少症の発症率はDay 2 投与群で47.1%,Day 4 投与群で42.0%(p=0.387)と有意差は認められなかった。FN 発症率はDay 2 投与群で4.7%,Day 4 投与群では8.0%(p=0.271)であり,Day 4 投与群で多い傾向にあった3)。準RCT としては,高用量化学療法および自家造血幹細胞移植を受ける血液がん患者を対象に,ペグ化G‒CSF を移植翌日に投与する群(Day 2 投与群)と移植日から4 日後(Day 5 投与群)に投与する群が設定された(該当論文ではDay+1 と記載されているが,移植日をDay 0 としているため移植日の翌日投与を意味している。通常の化学療法と記載を揃えるため,本文章ではDay 2 投与と記載している)。FN 発症率はDay 2 投与群では67%,Day 5 投与群では60%であり(p=0.77),有意差は認められなかった4)。さらに,リンパ節転移陽性早期乳がん患者を対象に,dose‒dense 療法等の術後薬物療法の有効性を評価したRCT(GIM2)の付随観察研究として,ペグ化G‒CSF をがん薬物療法投与終了から24 時間後,72 時間後,96 時間後に投与するコホートが設定された。FN は72 時間後投与のコホートで1 例認めたのみであった5)

メタアナリシスを実施した結果,ペグ化G‒CSF をDay 2 に投与する群とDay 3~Day 5 に投与した群でFN 発症率に有意差は認められなかった[OR 1.27(95%CI:0.66‒2.46,p=0.47)]。明らかな出版バイアスは認められなかった。

ただし,Day 2 投与群とDay 3~Day 5 投与群では投与のタイミングが異なり盲検化が難しいためバイアスリスクは高く,また研究によってアウトカムの方向にばらつきがあるため,エビデンスの強さはB(中)と判断した。
エビデンスの強さB(中)

FN 発症率のメタアナリシス結果

(3)感染による死亡率

感染による死亡率はRCT 2 編3)で評価されていたが,そのうち1 編では両群ともにイベントが発生していなかった。残る1 編では,ペグ化G‒CSF をDay 3~Day 5 に投与した群で0 例,Day 2 投与群で1 例の感染による死亡を認めた。イベント数と症例数が少なく評価は困難と判断した。
エビデンスの強さD(非常に弱い)

(4)好中球<500/μL の日数

好中球<500μL の日数は準RCT 1 編4)で評価されている。本試験では,高用量化学療法および自家造血幹細胞移植を受ける血液がん患者を対象に,ペグ化G‒CSF をDay 2 に投与する群とDay 5 に投与する群が設定された。主要評価項目は移植から好中球数500/μL 以上となるまでの期間であった。結果として,いずれの群においても移植から好中球数500/μL 以上となるまでの期間は中央値10 日(95%CI:10‒11,p=0.68)であり,差はみられなかった4)。ただし,準RCT 1 編の検討であり,バイアスリスクは高く,非一貫性は中程度であり,エビデンスの強さはC(弱)と判断した。また,固形がんのがん薬物療法に関する文献は抽出されておらず評価できていない。
エビデンスの強さC(弱)

(5)重篤な有害事象の発現率

重篤な有害事象の発現率は,RCT 1 編6),準RCT 1 編4),RCT の付随研究としての観察研究1 編5)で評価されている。RCT では,非ホジキンリンパ腫(non‒Hodgkin lymphoma;NHL)と診断された61~80 歳の未治療症例を対象に,2 週毎のレジメンであるR‒CHOP‒14 療法を行う際に,ペグ化G‒CSF をDay 2 に投与する群とDay 4 に投与する群にランダムに割り付けられ,骨髄抑制,安全性などに関連するエンドポイントが比較された。その結果,Grade 3~4 の白血球減少症の発症率はDay 2 投与群で70%,Day 3~Day 5 投与群で43.3%(p<0.001),白血球減少期間中の治療関連死は,Day 2 投与群で5 例,Day 4 投与群で0 例(p=0.027)であった6)。また,高用量化学療法および自家造血幹細胞移植を受ける血液がん患者を対象に行われた試験では,ペグ化G‒CSF のDay 2 投与群とDay 5 投与群とで,FN 発症率(67% vs. 60%,p=0.77)やFN 期間(2.8 日vs. 2.4 日,p=0.73)に差は認めなかった4)

これらの2 編+観察研究1 編を含めメタアナリシスを実施した。その結果,ペグ化G‒CSF をDay 3~Day 5 に投与した群で重篤な有害事象が低い傾向がみられたが,有意差は認めていない[OR 0.72(95%CI:0.14‒3.67,p=0.69)]。ただし,盲検化が難しいためバイアスリスクは高く,また結果のばらつきは大きく(I2=83%),エビデンスの強さはC(弱)と判断した。
エビデンスの強さC(弱)

重篤な有害事象のメタアナリシス結果

(6)疼痛

疼痛はRCT の付随研究としての観察研究1 編5)で評価されている。同文献では,Grade 1~2 の骨痛が,ペグ化G‒CSF を24 時間後に投与した群の70%,72 時間後に投与した群の80%,96 時間後の群の83.3%で発症していた。Grade 3~4 の骨痛は72 時間後の群の1 例のみであった。また骨痛発症率について検定は行われていない。この結果から,Day 2 の投与と比較しDay 3~Day 5 に投与した群で疼痛が増加する可能性が示唆されるが,RCT の付随として行われた観察研究であり,また症例数(n=41)が少ない点に注意が必要である。バイアスリスクが高く,結果のばらつきは中程度であり,エビデンスの強さはC(弱)と判断した。
エビデンスの強さC(弱)

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

評価可能であったアウトカムはFN 発症率および好中球<500/μL の日数であった。FN 発症率については,抽出されたRCT 1 編,準RCT 1 編および観察研究1 編のメタアナリシスの結果,ペグ化G‒CSF をDay 2 に投与する群とDay 3~Day 5 に投与する群でFN 発症率に有意差はみられなかった。ただし,バイアスリスクは高く,また研究によって結果にばらつきがあり,非一貫性は中程度あると考えられるため,エビデンスの強さはB(中)であった。また,好中球<500μL の日数は準RCT 1 編で評価されており,Day 2 投与群とDay 5 投与群で差はみられなかった。準RCT 1 編の検討であり,バイアスリスクは高く,非一貫性は中程度であり,エビデンスの強さは弱いと判断した。

上記から,ペグ化G‒CSF のDay 2 投与とDay 3~Day 5 投与で益の大きさに明らかな差はみられなかった。いずれのアウトカムにおいても文献数は少なく,またエビデンスの強さもB(中)以下であることから,十分な根拠があるとは考えにくい。

(2)害

重篤な有害事象の発現率および疼痛が評価可能なアウトカムであった。重篤な有害事象の発現率はRCT 1 編,準RCT 1 編,観察研究1 編で評価され,メタアナリシスの結果,ペグ化G‒CSF をDay 3~Day 5 に投与した群で重篤な有害事象が低い可能性が示唆されたが,有意差は認めなかった。評価が可能であった重篤な有害事象は,RCT 1 編においてはGrade 3~4 の白血球減少および白血球減少期間中の治療関連死であり,準RCT 1 編ではFN 発症率であった。ただし,データや結果のばらつきは高度であり,エビデンスの強さはC(弱)と判断した。

疼痛はRCT の付随研究としての観察研究1 編で評価され,Day 3~Day 5 投与で疼痛が増加する可能性が示唆されたが,バイアスリスクが高く,結果のばらつきは中程度であり,エビデンスの強さはC(弱)と判断した。

上記から,いずれのアウトカムにおいても文献数は少なく,また血液がんと乳がんに関する報告のみであり,害の大きさについて明らかな差はみられなかった。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,FN 発症率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

(4)コスト・資源

エビデンスに基づく評価はできていないが,有効性や安全性が同等であれば,G‒CSF の投与回数は同一のため,投与タイミングによって,コスト・資源に大きな差は生じないと考えられる。

(5)まとめ

ペグ化G‒CSF をDay 2 に投与する群と,Day 3~Day 5 に単回投与する群で,FN 発症率に有意差はなく,重篤な有害事象や疼痛の頻度についても有意差はみられなかった。RCT は含まれているものの抽出できた文献数は少なく,またバイアスリスクは高いため,いずれかを推奨する根拠に乏しく,Day 2 とDay 3~Day 5 のいずれも弱く推奨するとした。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は20 名(医師18 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。

システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「がん薬物療法でペグ化G‒CSF を投与するとき,Day 2 とDay 3~Day 5 のいずれも弱く推奨する」が提示され,推奨決定の協議と投票の結果,20 名中20 名が原案に賛同し合意形成に至った。

7 今後の研究課題

がん薬物療法でペグ化G‒CSF を投与するとき,Day 2 とDay 3~Day 5 のいずれが最適かを評価可能であった文献は少なく,多くのアウトカムでバイアスリスクおよび結果のばらつきは高度であった。そのため,特にOS,FN 発症率,感染による死亡率などの重要なアウトカムに関するさらなる研究が必要である。また,脾破裂や肺毒性,あるいは急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia;AML)や骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes;MDS)などのリスクについての評価は十分行われておらず,今後の研究課題であると考える。さらに,今回のシステマティックレビューでは抽出されていないが,がん薬物療法投与当日(Day 1)とDay 2 のペグ化G‒CSF 投与を比較した臨床試験において,Day 1 投与は好中球減少期間が長くなり,FN 発症率が高くなる傾向が示されているが7),近年,Day 1 投与を検討するデータもあり8,9),さらなる研究が必要であると考える。

参考文献

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Q46(CQ)
がん薬物療法と同時に放射線療法を行う場合に,G‒CSFの予防投与や治療投与は有用か?

推奨の強さ2(弱い)
エビデンスの強さD(非常に弱い)
がん薬物療法と同時に放射線療法を行う場合に,G‒CSF の予防投与や治療投与を行わないことを弱く推奨する

合意率:95.0%(19/20 名)

解説

がん薬物療法と同時に放射線療法を行う場合に,G‒CSF の予防投与や治療投与の有効性については,生存期間,FN 発症率のいずれにおいても改善を示すデータはない。一方でエビデンスは弱いものの,口腔粘膜障害や血小板減少症などのリスクが高まる可能性も否定できないことから,がん薬物療法と同時に放射線療法を行う場合に,G‒CSF の予防投与や治療投与を行わないことを弱く推奨する。

1 本CQ の背景

放射線同時併用化学療法を行う主ながん種として,頭頸部がん・肺がん・食道がん・子宮頸がんなどが挙げられる。がん薬物療法あるいは放射線療法単独でも白血球減少を含む骨髄抑制を生じるため,放射線同時併用化学療法ではさらに骨髄抑制に注意を要する。例えば非小細胞肺がんの放射線同時併用化学療法(シスプラチン/ドセタキセル療法)ではFN 発症率は22%であり1),G‒CSF 投与によるFN 予防効果・治療効果の有無は重要な臨床課題である。本ガイドラインでは,放射線同時併用化学療法を行うときのG‒CSF 投与の有用性について,システマティックレビューを行って評価することとした。

ESMO ガイドライン2010 年版2)では放射線同時併用化学療法中のG‒CSF 投与に関する記載はない。ASCO のガイドラインでは,放射線同時併用化学療法中(特に縦隔が照射野に含まれる場合)のG‒CSF 投与は避けるべきとしている3)。また,NCCN ガイドラインでも,放射線同時併用化学療法中のG‒CSF 予防投与は注意を要するとされている4)

2 アウトカムの設定

本CQ では,放射線同時併用化学療法を受ける患者を対象に,G‒CSF を投与する場合と投与しない場合を比較して,「全生存期間(OS)」「発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)」を評価した。また,頭頸部がん・食道がん・肺がんなど肺野が照射野に含まれる放射線療法も多く,放射線肺臓炎なども重要な合併症であるため「感染による死亡率」「放射線肺臓炎発症率」「その他の放射線療法に伴う合併症」も評価対象に加え,計5 項目について評価した。

3 採択された論文

本CQ に対する文献検索の結果,PubMed 59 編,Cochrane 0 編,医中誌67 編が抽出され,計126 編がスクリーニング対象となった。2 回のスクリーニングを経て抽出された11 編を対象に定性的システマティックレビュー,うち4 編についてメタアナリシスを実施した。

4 アウトカムごとのシステマティックレビュー結果

(1)全生存期間(OS)

放射線同時併用化学療法中のG‒CSF 投与の有無によるOS についての報告として,非RCT 1 編が抽出されたが,OS に関する解析はp 値のみ記載であり,評価対象外とした。

(2)発熱性好中球減少症発症率(FN 発症率)

FN 発症率について,非RCT 4 編5‒8)と症例対照研究3 編9‒11)が抽出された。非RCT 4 編のメタアナリシスを施行したところ,症例数は,G‒CSF 投与群153 例,対照群80 例で,G‒CSF 投与によるFN 発症率の有意な低下はみられなかった[OR 0.91(95%CI:0.21‒4.01,p=0.90)]。さらに症例対照研究3 編のメタアナリシス(G‒CSF 投与群32 例,対照群93 例)でも,G‒CSF 投与によるFN 発症率の有意な低下はみられなかった[OR 1.17(95%CI:0.08‒16.81,p=0.91)]。
エビデンスの強さB(中)

(3)感染による死亡率

感染による死亡を評価した研究は抽出されなかったため,評価不能とした。

(4)放射線肺臓炎発症率

放射線肺臓炎発症率について,症例対照研究2 編が抽出され,メタアナリシスを施行した(G‒CSF投与群13 例,対照群12 例)10,12)。G‒CSF 投与群で放射線肺臓炎の発症率が高い傾向であったが,有意差は認められなかった[OR 4.65(95%CI:0.63‒34.41,p=0.13)]。
エビデンスの強さC(弱)

(5)その他の放射線療法に伴う合併症
  1. ①食道炎

    症例対照研究1 編について定性的システマティックレビューを行ったが,G‒CSF 投与群5 例,対照群2 例と症例数が少なくG‒CSF 介入により食道炎が増加するかの評価は困難と考えられた10)。さらに非RCT 1 編について定性的システマティックレビューを行った13)。G‒CSF 投与群35 例中4 例,G‒CSF 非投与群19 例中4 例でGrade 3 以上の食道炎を認めた。非RCT 1 編のみの評価であり,介入効果についての評価は困難と考えられた。
    エビデンスの強さD(非常に弱い)

  2. ②口腔粘膜炎

    非RCT 1 編について定性的システマティックレビューを行った5)。G‒CSF 投与群31 例中21 例,G‒CSF 非投与群35 例中11 例でGrade 3 以上の口腔粘膜炎を認め,G‒CSF 投与群で有意に多かった[p=0.001(Chi‒square test)]。
    エビデンスの強さC(弱)

  3. ③血小板減少症

    胸部放射線療法とがん薬物療法の同時併用ではG‒CSF 投与によって血小板減少症の発症が有意に増加するとの報告13)もある。

5 システマティックレビューの考察・まとめ

(1)益

放射線同時併用化学療法時のG‒CSF 投与について,OS,FN 発症率に関する明らかな益は示されなかった。RCT がないためさらなる検討が必要であるが,現時点では放射線同時併用化学療法時の好中球減少症に対してG‒CSF 投与を推奨する根拠はない。

(2)害

エビデンスの強さとしてはC(弱)~D(非常に弱い)程度であるが,口腔粘膜炎などの有害事象が増える可能性が示唆されている。

(3)患者の価値観・好み

患者の価値観・好みについて,エビデンスに基づく評価はできていないが,FN 発症率を低減させるなどの望ましい効果や,疼痛などの望ましくない効果の受け止め方にはばらつきがあり得ることを考慮した。

(4)コスト・資源

コスト・資源について,エビデンスに基づく評価はできていないが,G‒CSF 使用によってコストがかかることを考慮し,G‒CSF 使用によって得られる益が,コストや資源に見合ったものであるかどうかも含めて検討した。

(5)まとめ

がん薬物療法と同時に放射線療法を行う場合のG‒CSF 投与について,明らかな益は示されておらず,害が増加する可能性が示唆されていることから,行わないことを弱く推奨する。

6 推奨決定会議における協議と投票の結果

推奨決定会議に参加したワーキンググループ委員は20 名(医師18 名,看護師1 名,薬剤師1 名)であった。委員からの事前申告に基づき,経済的COI・アカデミックCOI による推奨決定への影響はないと判断された。

システマティックレビューレポートに基づいて,推奨草案「がん薬物療法と同時に放射線療法を行う場合に,G‒CSF の予防投与や治療投与を行わないことを弱く推奨する」が提示され,推奨決定の協議と投票の結果,合意形成に至った。

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