ガイドラインについて

『頭頸部癌診療ガイドライン』初版は2009 年に出版され,『TNM 悪性腫瘍の分類』と『頭頸部癌取扱い規約』の改訂を受けて,2013 年に第1 回の改訂版『頭頸部癌診療ガイドライン2013』が発刊された。以来,僅か4年の間に,鼻副鼻腔癌に対する内視鏡手術や喉頭下咽頭癌に対する経口切除は標準治療の一つとなり,分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤など,従来の抗がん剤と全く作用機序の異なる薬物療法が登場した。更に,2017年に発刊された『TNM悪性腫瘍の分類 第8 版』では,HPV 関連中咽頭癌が古典的な中咽頭癌から独立し,p16陰性・EBER陰性の場合のみ原発不明癌と定義されるなど,近年の知見を反映し大幅に改訂されている。

本改訂では,こうした目覚しい進歩と変化を踏まえ,現状で最も妥当と考えられる診断・治療法を取り上げ,エビデンスレベルを示すとともに推奨グレードを提示している。治療の概要を示した「Ⅲ.治療」では,多職種によるチーム医療の重要性がますます大きくなってきた状況を踏まえ,「治療総論」の項を新設し,外科療法,化学療法,放射線治療とともに支持療法,頭頸部癌患者に対するがんリハビリテーション,緩和ケアについての解説を加えた。最新の診断法や治療法については「Ⅳ.クリニカルクエスチョン」の項目を大幅に増やして対応している。


1 目的と対象

本ガイドラインの対象となるのは頭頸部に発生した悪性腫瘍を有する患者である。口腔,上顎洞,咽頭,喉頭の扁平上皮癌,甲状腺分化癌,耳下腺癌について解説し,悪性リンパ腫や稀な病理組織の腫瘍については扱っていない。頭頸部癌の診療に携わる医師および歯科医師が利用することを想定し,①頭頸部癌の適正な診断と治療を示すこと,②頭頸部癌診療における施設間差を少なくすること,③治療の安全性と治療成績の向上を図ること,④過剰な治療を避けて,人的・経済的負担を軽減すること,⑤ガイドラインを広く一般にも公開して,医療者と患者の相互理解にも役立てることを目的として作成した。

頭頸部はヒトが人として生きるために欠かすことができない多くの機能を司っており,頭頸部癌の治療にあたっては「根治性」と「生活の質の維持」の両立が求められる。本ガイドラインは記載した内容と異なる診断法や治療法を施行することを規制するものではないが,現在,本邦で実施可能な多様な治療法のなかから,個々の症例に最も適した治療法を選択するための参考となることにより,患者に最善のアウトカムをもたらすことを目指している。

2 学会の責任

本ガイドラインの記述内容に対しては日本頭頸部癌学会(以下,本学会)が責任を負うものとする。しかし治療結果に対する責任は直接の治療担当者に帰属すべきものであり,本学会は責任を負わない。

3 基本方針・構成

一般的に行われている診断法や根治的治療法の適応を示すことを原則とし,各診断,治療法の技術的な問題には立ち入らない。「Ⅱ.診断」では原発巣,転移巣の評価に必要な診断法について述べるとともに,頭頸部癌の特徴である重複癌の検索の必要性についても触れた。「Ⅲ.治療」では,多職種によるチーム医療の重要性が益々大きくなってきた状況を踏まえ「, Ⅲ-A.治療総論」の項を新設し,外科療法,がん薬物療法,放射線治療とともに支持療法,頭頸部癌患者に対するがんリハビリテーション,緩和ケアについての解説を加えた。「Ⅲ-B.治療各論」ではまず,各部位の亜部位やTNM 分類,悪性度分類を記載し,その後にT 分類にしたがって治療のアルゴリズムを記載した。原発巣切除術式は原則としてアルゴリズム中に記載し, 放射線治療, 外科療法, がん薬物療法の適応について解説した。「Ⅲ-B-9.原発不明頸部転移癌」ではアルゴリズムは掲載せず,現在最も妥当と考えられる治療法や各治療法の見解について解説した。「Ⅳ.クリニカルクエスチョン」では推奨文と解説および推奨グレードを記載した。

TNM 分類は『頭頸部癌取扱い規約 第6 版』 1),『甲状腺癌取扱い規約 第7 版』 2)ならびに『TNM悪性腫瘍の分類 日本語版 第8 版』 3)より引用した。クリニカルクエスチョン(CQ)は各委員から提案された案を委員会全員で協議して選別した。文献の検索は原則として2001 年以降の英文検索をPubMed で,和文検索を医学中央雑誌にて行い,必要に応じてハンドサーチにより論文を追加した。各CQ の検索式は,それぞれのCQ の解説の後に示している。抽出された文献の中から各CQ に適した質の高い論文を採用し,委員会での検討を経て推奨文と解説文を作成した。

CQ に対する推奨文には,エビデンスと作成委員のコンセンサスに基づいて作成した推奨グレードを示した。推奨グレードの決定にあたっては,①科学的根拠,②安全性や侵襲度,③費用対効果や経済的負担,④本邦における普及度や使用経験に加え,患者団体や学識経験者などの外部評価委員から示された患者の希望や価値観を踏まえ,委員会で全員の異議がなくなるまで討論して合議の上で決定した。

[文献のエビデンスレベル]
[文献のエビデンスレベル]
[推奨グレード]
[推奨グレード]

4 作成・改訂

本ガイドラインは『頭頸部癌診療ガイドライン2013 年版』(第2 版)をもとに,日本頭頸部癌学会診療ガイドライン委員会(以下,本委員会)において改訂案を作成し,評価委員の評価およびパブリックコメントを経て最終案を取りまとめた。本学会の承認を得て発効するものとし,医療の進歩に応じて順次改訂する。改訂の手順は,本委員会にて原案を作成し,学会の承認を得て発効するものとする。次回改訂は5 年後を目処としている。本ガイドライン実施後に,実際の適応に際して不都合がある場合は本委員会に連絡し,次回改訂の資料とする。

5 公開・利用法

本ガイドラインは癌治療の現場で広く利用されるために冊子として出版し,日本癌治療学会のホームページでも公開する。頭頸部癌の治療は放射線治療,外科療法,化学療法を組み合わせた集学的治療である。各治療法については『頭頸部癌取扱い規約 第6版』(日本頭頸部癌学会編) 1),『甲状腺癌取扱い規約 第7 版』(日本甲状腺外科学会編) 2),『甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018』 4)(日本内分泌外科学会,日本甲状腺外科学会編)を,放射線治療計画の詳細に関しては『放射線治療計画ガイドライン2016 年版』(日本放射線腫瘍学会編) 5)を,薬物療法については『頭頸部がん薬物療法ガイダンス』(日本臨床腫瘍学会編) 6)も参照されたい。

6 資金と利益相反

本ガイドライン作成に要した資金は日本頭頸部癌学会と国立研究開発機構日本医療研究開発機構革新的がん医療実用化研究事業「頭頸部癌全国症例登録システムの構築と臓器温存治療のエビデンス創出」の負担による。外部企業からの寄付等は一切ない。

本ガイドラインの内容は特定の営利・非営利団体や医薬品,医療用製品などとの利害関係はなく,日本頭頸部癌学会はガイドライン作成委員の利益相反の状況を調査し,経済的利益相反と学術的利益相反がないことを確認した。

参考文献

1)
日本頭頸部癌学会編.頭頸部癌取扱い規約 第6 版.金原出版,2018.
2)
日本甲状腺外科学会編.甲状腺癌取扱い規約 第7 版.金原出版,2015.
3)
Sobin LH, Wittekind Ch 編,UICC 日本委員会TNM 委員会訳.TNM 悪性腫瘍の分類 日本語版(第8 版).金原出版,2017.
4)
日本内分泌外科学会,日本甲状腺外科学会編.甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018.日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌,in print.
5)
日本放射線腫瘍学会編.放射線治療計画ガイドライン2016年版(第4 版).金原出版,2016.
6)
日本臨床腫瘍学会編.頭頸部がん薬物療法ガイダンス.金原出版,2015.