診療ガイドライン

Ⅱ 診断

進行度・病期の診断

頭頸部領域には複数の原発部位があり,各原発部位は必ずしも一定の構造を有しているわけではない。そのため原発巣の評価に際しては臨床診断も尊重し,腫瘍の進行度と同時に各部位の解剖学的特性を十分理解したうえで検査方法を選択する。リンパ節転移や遠隔転移は頭頸部癌の重要な予後因子であり,その適切な評価が治療法の選択に必要である。

1)原発巣の評価は?

頭頸部癌の原発巣診断は問診および視診・触診を行い,各原発巣に応じて鼻咽腔・喉頭鏡検査,上部消化管内視鏡検査,パノラマX 線検査,下咽頭食道造影検査,超音波検査(US),CT 検査,MRI 検査により総合的に判断する。最終的な診断は病理組織学的検査ないしは細胞学的検査による。深部浸潤,隣接臓器への浸潤の評価にはCT 検査,MRI 検査が有用である。一般にCT 検査は骨皮質の描出においてMRI 検査より優れ,MRI 検査は骨髄,軟部組織,隣接臓器浸潤の評価に優れる 1-3)

甲状腺癌の診断にはUSおよびUS ガイド下穿刺吸引細胞診が第一選択であり 4, 5),必要に応じてCT 検査,MRI 検査を行う。

喉頭癌の診断には内視鏡検査や喉頭鏡検査にCT検査,MRI 検査を併用することで診断精度が向上する。声門癌T1 病変では内視鏡検査のみでも診断可能であるが,進行癌・声門上癌・声門下癌・下咽頭癌については過小評価となりやすい 6-11)。中下咽頭の表在性腫瘍病変の診断に拡大内視鏡,狭帯領域内視鏡の有用性が報告されている 12, 13)

2)リンパ節転移・遠隔転移の評価は?

リンパ節転移,遠隔転移の診断は問診および視診・触診を行い,US,CT 検査,MRI 検査,胸部X 線検査,PET-CTなどにより,総合的に判断する 14-21)

肺転移は頭頸部癌の遠隔転移のなかで最も頻度が高く,胸部X線検査は必須である。進行例や単純X 線検査で異常があれば胸部CT 検査を施行する。頸部食道病変が疑われる場合はCT,MRI により縦隔リンパ節転移を評価することが望ましい。

重複癌の検索

1995 年の主要7 施設での調査結果では,頭頸部扁平上皮癌の14. 5%に多重癌の発生を認め,第1 癌の原発部位では下咽頭,中咽頭,喉頭,口腔,鼻・副鼻腔の順であり,重複癌の発生部位では食道が最も多く,次いで頭頸部,胃,肺,肝の順であった。頭頸部扁平上皮癌症例では他の頭頸部癌,胸部食道癌,胃癌の合併に留意する必要がある 22, 23)

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Ⅲ 治療

🅰 治療総論

Ⅲ-A-1.外科療法

頭頸部癌は単一の疾患ではなく,解剖学的にも病理組織学的にも多種多様な疾患が含まれている。そのため,治療法も原発部位や病理組織学的診断により異なるが,外科療法はほとんどの頭頸部癌に対する根治治療の柱である。いかなる場合においても,外科療法で最も重要な点は完全切除である。診断技術の進歩によりこれまで困難であった部位でも早期発見・早期診断が可能となり,早期癌に対しては根治性のみならず術後機能障害の軽減の観点から,内視鏡切除や経口的切除等の低侵襲な外科的療法の適応拡大がなされている。進行癌に対する根治的治療では,術前や術後に化学療法や放射線治療を組み合わせた集学的治療が必要となるが,機能温存との両立を目指す場合でも,外科療法においては完全切除が大原則である。

術前評価

腫瘍側因子と患者側因子について,非外科的治療との比較を行いながら検討する必要がある。腫瘍側因子は原発部位およびその浸潤範囲やTNM 病期,放射線感受性などであり,手術に際しては切除範囲に最も大きな影響を及ぼす。患者側因子は,年齢,性別,合併症の有無などによる手術や周術期のリスクの他に,退院後の生活や社会復帰の支援となる家族の有無なども含まれる。患者側因子は術後の機能障害の点から個別的な評価が重要である。これらのいくつかの制約の中で,根治性および治療後の機能障害を相対的に評価し,患者の意向を考慮して適切と考えられる術式のインフォームドコンセントを行う必要がある。仮に,非外科的治療を選択した場合,それが失敗に終わった際に救済手術が可能か否かについても,説明しておくことは重要である。

また,頭頸部扁平上皮癌では重複癌や多発癌の頻度が高い。上部消化管内視鏡検査などによる同時重複癌のスクリーニング検査は必須であり,重複癌が見つかった場合には各々の進行度に応じた対応が必要となる。特に,頭頸部以外の同時重複癌に対しては,根治性や機能障害などから治療の優先順位等を検討するため,他科との十分な協議が必要である。

手術のための診断と切除の原則

根治切除の原則は完全切除であり,そのためには術前の正確な診断が不可欠である。診断技術の進歩により,粘膜表面は内視鏡検査,深部浸潤は造影CT 検査やMRI 検査により腫瘍の進展範囲の把握が可能となっているが,完全切除のための切除ラインは腫瘍浸潤のないところであるため,切除安全域を想定した切除ラインを描けるような診断が重要である。

特に,導入化学療法を含め非外科的治療を行う場合には,その後の手術を想定した進展範囲の記録を治療前に残しておくべきである。その際には,切除ラインを描くための解剖学的なメルクマールを含めた記録が重要である。

また,扁平上皮癌では,表在癌や上皮内癌と浸潤癌に対する切除安全域は区別して考えるべきである。NBIやルゴール染色で正確に腫瘍の進展範囲が診断でき,その外側に切除ラインが描けるのは表在癌や上皮内癌であり,浸潤癌では深部浸潤の範囲を常に想定した切除安全域を考慮する必要がある。

甲状腺腫瘍や大唾液腺腫瘍,口腔咽頭の粘膜下腫瘍の形態を示す小唾液腺腫瘍などでは,画像検査と穿刺細胞診検査で臨床診断が行われることが多い。診断と治療を兼ねて切除を行う場合や,術前の臨床診断で悪性と確定していない場合でも,安易に良性と考えて核出術を行うことなく,悪性腫瘍の可能性を念頭においた切除が求められる。術後の病理組織診断で悪性の診断となっても,不完全切除とならないよう注意が必要である。

周術期および術後管理

周術期および術後管理を適切に行うためには,術前からの全身状態の把握が不可欠である。既往歴や合併症,栄養状態などの評価を行い,糖尿病の合併があれば血糖のコントロールについて,抗血栓薬内服例では休薬および再開の時期やヘパリン置換の要否などについて,麻酔科を含めた他科および多職種との緊密な連携が重要となる。飲酒・喫煙歴のある症例では,生活習慣病として動脈硬化に基づく疾患が潜在的に存在する可能性があるため,特に頸動脈の石灰化や狭窄には注意しておくことが望ましい。術前の禁煙指導は必須である。

頸部に照射歴のある場合には,術前に甲状腺機能低下症のチェックは必ず行う。また,術後は咽喉頭に浮腫が生じやすくなるため,上気道狭窄には要注意である。咽頭の乾燥が強い場合には,去痰困難から術後肺炎をきたしやすく嚥下障害の原因にもなりうる点にも注意が必要である。

術後の手術部位感染(surgical site infection:SSI)の対策は,種々のガイドライン 1-4)に準じて行うことが求められる。予防的抗菌薬の投与は,執刀直前から行い,長時間手術では術中追加投与を行う。術後の投与期間は,耐性菌出現のリスクから24〜48 時間以内が推奨されている。予防的抗菌薬のターゲットが,口腔を開放しない場合では皮膚常在菌である黄色ブドウ球菌,連鎖球菌であり,口腔を開放する場合では口腔内嫌気性菌と連鎖球菌であることを認識して抗菌薬を選択することが重要である。

異時性重複癌に対する配慮

頭頸部扁平上皮癌では異時性重複癌の頻度も高いため,手術や放射線治療のみで十分に根治が目指せる場合には,2 次癌発生時の治療の制約を最小限にすることを考慮し,過剰治療に陥らないようにする。不必要に広い郭清範囲や必要性の乏しい予防的頸部郭清術を行えば,2 次癌発生時に治療の制約が大きくなる可能性がある。また,切除断端陽性のため術後照射が必要となった場合には,局所制御が可能となっても2 次癌発生時に放射線治療の選択肢を失うことになるため,補完的な放射線治療が避けられるような完全切除が行われなければならない。

おわりに

頭頸部ではあらゆる部位が様々な重要な機能に関与しているため,定型的な手術であっても個々の患者に応じた最適な術式を検討し,常に完全切除を行うことが肝要である。頭頸部癌の手術は原発巣の部位により多種多様であるため,個々の手術については原発巣別の各論およびCQを参照いただきたい。

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Ⅲ-A-2.がん薬物療法

頭頸部癌治療においては,頭頸部領域の病状の制御が生存やQOL に大きく影響してくるため,全身療法である化学療法の有効性の期待も遠隔転移病変より局所病変の方に重きを置く考え方になる。基本的に根治治療の主体は外科療法と放射線治療であり,局所進行例においては治癒や機能形態温存を目指した集学的治療の一環として,放射線治療と同時に行う化学放射線療法,根治治療の前に行われる導入化学療法,後に行われる補助化学療法がある。転移・再発例においては,症状緩和と生存期間の延長等を目的に頭頸部癌の薬物療法が行われている。

根治を目指した集学的治療

1)メタアナリシスから見た化学療法の意義

化学療法を根治的治療とどのように組み合わせるかについて,多くの臨床試験が行われてきたが,母集団の不均一さ,結果の不一致,サンプルサイズと検出力等の問題があり,確固たる結論に至っていない。局所根治的治療に化学療法を追加した,化学放射線療法(CRT),導入化学療法(ICT),補助化学療法のメタアナリシスを行ったMACH-NC 1)が報告され,化学療法の追加により全体として5 年生存割合に4. 5%の有意な上乗せ効果が認められ,各治療においては6. 5%:2. 4%:-1%と,CRT で最も高い有効性が示されている 2)

2)化学放射線療法

抗がん薬の放射線治療における増感効果を利用したものであり,喉頭癌・下咽頭癌・中咽頭癌における機能・形態温存(→ CQ11-2),局所進行例における根治(→ CQ11-1),再発高危険群に対する再発予防(→ CQ12-1)の場面で用いられている。遠隔転移を有する場合でも,上咽頭癌においては化学療法,放射線治療に対する感受性が高いため,局所病変に由来する症状緩和,QOL改善を目的として,CRT が行われることがある 3, 4)。メタアナリシスの結果 2)から,5 年生存割合でがん死では差がある(+8. 6%)ものの,非がん死では差がないため,治療の直接的な効果と考えられている。

用いる薬剤としては,シスプラチン(CDDP)が他の単剤や多剤併用と比較して高い有効性を示しており,標準薬としての位置づけにある。ほとんどの試験での投与法が100 mg/m2 を放射線治療中に3 回行うものであり,低用量の試験では差がないことから,投与量の重要性が認識されている。高齢になるにしたがい上乗せ効果は低下しており,適応判断には注意が必要である。また,抗EGFR 抗体であるセツキシマブ(Cmab)は,放射線治療への追加効果が(→ CQ11-5)報告され使用されている 5)。CmabのCRTへの追加効果も検討されたが,治療成績に差はなく 6)毒性の面からも推奨されない。

CRT においては,放射線治療(RT)単独と比較して化学療法の毒性が加わるためRT 自体の毒性も強まり,休止による治療期間の延長を来しうる。これが治療成績の低下を招くことが指摘されており,予定通りの治療完遂には最大限の支持療法を提供する熟練した多職種協働のチーム医療体制が必須である。

3)導入化学療法

切除可能例における初回治療として用いられ,腫瘍縮小の状況により手術かRTかの判断とするchemoselection の考え方を利用した臓器温存,局所進行例における化学放射線療法の追加効果,術前に行うことによる手術成績の向上などが目的にあがる。

喉頭全摘を必要とする喉頭癌・下咽頭癌においては,喉頭温存を目的に以前より臨床試験が行われており,ICT(→ CQ11-4)やCRT を利用して行われている。喉頭温存を目指した場合の導入化学療法の評価の主体は原発巣であり,喉頭癌ではCR/PR であると放射線治療単独,PR であると化学放射線療法が推奨されている。一方PRまでの縮小に至らなければ手術への移行が推奨される。化学放射線療法として,CBDCA-RT,Cmab-RT などが行われているが,どれが最適かは明確ではない。

化学療法としてCDDP+5-FU(PF)とTXT+CDDP+5-FU(TPF)の比較試験 7)から,後者における奏効率,喉頭温存割合が有意に高いことが示されており,また,PF とTPF を比較したメタアナリシス 8)においては,死亡リスク低減,進行の抑制,局所再発抑制,遠隔転移抑制の面で有意にTPFが優れていることが示されている。しかし,TPF の毒性は強く,制吐療法,血液毒性・感染症対策を十分に行い,治療強度を維持することが重要である。またこの後に行われる治療として高用量のCDDP-RT は,神経・聴力・腎障害などの毒性があり推奨されない。

局所進行例に対してはCRT が標準治療であるが,CRT の毒性,治療強度増強,遠隔転移の抑制に限界も見えてきた。そこでICT-TPF → CRT として,その有効性をCRT と比較する試験が行われたが,ICT の生存におけるCRT への追加効果の有効性は示されていない 9)

頭頸部癌においては,術前化学療法で縮小させても切除範囲を変えることはできないため縮小手術は成立しておらず,治療選択肢としては推奨されない。予後改善目的として,口腔癌を対象にTPF →手術と手術先行が比較されたが,術前化学療法の有効性は示されていない 10)(→ CQ2-6)。

4)補助化学療法

補助化学療法は根治的治療後に再発を抑える目的で行われるものであるが,メタアナリシスでも示されているようにその有効性は乏しく,早期死亡も多いとされており,明確なエビデンスはなく推奨されない。上咽頭癌においてのみ,標準治療としてCRT 後のPFを行うことが勧められる(→ CQ4-4)。

再発・転移に対する化学療法

初回治療後の再発では,救済手術の適応のない場合に全身化学療法の適応がある。目的は生存期間の延長,腫瘍縮小による症状緩和,QOL の維持・向上,そして開発研究になる。

用いられる薬剤としてはこの場面でもCDDP がKey Drug であり,単剤でも無治療と比較して生存期間の延長を認めている 11)。多剤併用療法は,PF 12)が古くから標準治療として位置づけられ,治療開発に用いられてきた。しかし,CDDP 100 mg/m2,5-FU 1, 000 mg/m2/day×4〜5 days を3 週毎で行うもので,個々の薬剤の最大量の投与は支持療法が十分行えない時代では管理が容易でなく,本邦の実地診療では70〜80%に減量されて実施されていた。また,5-FU の持続静注の煩雑さを解決するため,経口剤への切り替え,タキサン類への切り替え等が行われてきたが,PF を上回ることはできなかった 13)。Cmab が登場したが,CDDP 単独との併用では,生存に関する追加効果は示せなかった。PF への追加効果が検討され 14),PF と比較してPF+Cmab において生存期間の延長,腫瘍縮小,症状緩和,QOL 維持の効果が得られ,本邦でも安全性が確認され 15)使用されている。ここで,プラチナ製剤はCDDP のみならずカルボプラチン(CBDCA)も許容され,最大6 course のプラチナ製剤+5-FU まで投与し,その後はCmab 単独で継続する方法をとっており,問題となる皮膚毒性の対処は重要である。この対象集団では,TPF のような多剤併用療法が高い奏効率を示し導入化学療法ではエビデンスがあるものの,単剤・2 剤のレジメンよりも有効であることを示す比較試験がなく,毒性は高度となるため推奨されない。

プラチナ製剤に対して不応(治療中の進行,最終投与後6カ月以内の再発),不適(腎障害・神経障害など)症例に対する薬物療法として,タキサン類のTXT やPTX,S-1,本邦では未承認ながらMTX などがある。標準治療として確立されたものがないため,新規薬剤の開発の起点にもなっている。本邦で創薬された免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-1抗体のニボルマブを,単剤のTXT,MTX,Cmab のいずれかと比較する試験が行われ 16),有効性・安全性の両面で良好な結果が示され,海外でも 17)本邦でも頭頸部癌に対し適応となった(→ CQ11-8)。現在化学療法や放射線治療との併用での安全性を確認しつつ,根治を目指した治療における有効性評価が進められている。開発途上にも関わらず短期間に広く普及してきており,免疫関連有害事象(immune-related adverse event:irAE)への対応を含むチーム医療体制においてさらなる多職種の参加による整備が急務となっている 18)

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Ⅲ-A-3.放射線治療

頭頸部癌の根治的放射線治療は機能温存,形態温存の利点がその特徴である。半数を超える頭頸部癌は局所進行癌であるため,薬物療法併用が標準的に行われる。進行癌や放射線抵抗性腫瘍には手術が適応されるが,術後照射として放射線治療は重要な役割を担う。また,一部の非扁平上皮癌を中心として粒子線治療のまとまった報告があり,治療選択肢の一つと考えられる。再発転移癌においては,再照射や緩和照射としての放射線治療の役割も重要である。放射線治療は,集学的治療の観点で頭頸部癌の診療において重要な役割を担っている。

線量分割スケジュールの調整

頭頸部扁平上皮癌は,治療開始4 週程度で加速再増殖という現象が発生し,放射線抵抗性を獲得する 1)。放射線の分割法を変え,線量増加や治療期間短縮で成績を改善する治療開発が行われてきた。同日に複数回照射する過分割照射法(正常臓器の回復を利用し総線量を増加する方法),治療期間を短縮する加速照射法(治療期間短縮により治療効果を増強する方法),一回線量を増加し総線量を下げる寡分割照射法(治療期間の短縮に加え治療回数減少の利点があるが,晩期毒性増加リスクを伴う可能性がある)などが代表的な方法である。

これらの非通常分割照射は,15 のランダム化試験6, 515 例によるメタ解析の結果から 2),5 年局所制御率6. 4%(HR:0. 82,p<0. 0001)と5 年生存率3. 4%(HR:0. 92,p=0. 003)の改善が報告された。過分割照射法が治療法の中で最も有効とされるが,治療回数増加による患者および医療スタッフへの負担が増えることは実施上の問題点と考えられる。また,化学療法併用時にその利点は証明されていない 3)

高精度放射線治療と機能温存

強度変調放射線治療(intensity modulated radiotherapy:IMRT)は放射線晩期毒性軽減に有用である。IMRT と通常放射線治療を比較した5 つのランダム化試験の871 例でメタ解析が行われ,IMRT 群でGrade2 以上の唾液腺障害が有意に減少した(HR:0. 76,p<0. 0001)4)。後方視研究でもQOL や嚥下機能評価でIMRT の有効性が示唆された 5, 6)。IMRT の最大の利点は晩期毒性の軽減に寄与する点にあり,放射線治療の侵襲を軽減できる手法と考えられる。化学放射線療法では同時併用法の治療効果が最も良好である反面,晩期毒性の増加が問題とされている。これらの報告において三次元治療計画がもっぱら使用されたが,IMRT の適応により治療後のQOL 向上や晩期毒性の軽減が期待される 7)

2016 年より,頭頸部原発の肉腫には炭素線治療が,小児腫瘍には陽子線治療が保険適用となった。粒子線治療は後方視解析が中心だが,鼻腔・副鼻腔癌,眼腫瘍でまとまった報告がある。放射線感受性の低い非扁平上皮癌や,中枢神経に近接した頭蓋底腫瘍も粒子線の特徴が活かされることが推察され,一定の有用性の報告がある。IMRT に代表される高精度な治療計画は,臨床的および物理的精度管理が重要となる。頭頸部癌の放射線治療に精通した放射線腫瘍医,医学物理士を主体とした放射線治療の品質管理チームによる品質保証・品質管理が重要となる。施設ごとに実施マニュアルの作成や定期的なモニタリングや監査体制の整備が強く推奨される。

集学的治療の中の放射線治療

放射線治療の高精度化で治療成績の向上や晩期有害事象の低減が達成されたが,反面治療強度増強によって明らかに早期有害事象は増加する。前述のように,治療遅延は放射線抵抗性の獲得から治療効果の損失につながるため,可及的に予定期間内に治療を完遂するために適切な支持療法の実践が肝要となる。耳鼻咽喉科,頭頸部外科,腫瘍内科,歯科,口腔外科,皮膚科,精神腫瘍医,薬剤師,専門看護師,栄養サポートチーム,緩和ケアチーム,嚥下リハビリテーション認定士との連携を構築することが推奨される。

頭頸部癌の根治的放射線治療は,手術と並び重要な治療選択肢である。また,腫瘍の責任症状による疼痛,出血,気道狭窄,摂食障害を緩和するための姑息照射も,患者QOL を維持するために重要な役割がある。放射線を担当する医療スタッフは多面的に臨床情報を収集し,放射線治療の効果・安全性のデータ,患者希望を集約し,集学的チームの総意により治療指針を決定していくことが大切である。

参考文献

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Ⅲ-A-4.支持療法

頭頸部癌領域において「支持療法」というカテゴリーが本格的に重要視されてきたのは,21 世紀になってからである。

最近の治療技術革新として,外科領域ではロボット手術や内視鏡下手術,内科領域では分子標的薬剤や粒子線治療を含む高精度放射線治療などがあり,それぞれ専門的な知識と技量を必要とする。これらの先端医療での治療成績は,プロトコールにしたがって治療がしっかりと完遂されたことを前提として公開されている。そのため,治療が途中で止まってしまったり,治療における合併症が管理できず命を危険にさらすようだと,期待された治療成績を残せない。

このように,頭頸部癌の領域ではモダリティーを問わず治療方法の進歩がめざましい一方で,それらを適切に扱わなければ治療成績が逆に低迷してしまうということが,長期フォローアップの結果明らかになっており,治療を安全にITT の概念で完遂できるための支持療法が重要になってきた。

支持療法の種類

頭頸部癌に限らず,すべての疾患/治療における支持療法の目的は,本治療で出現する有害事象/合併症による被害を最小限にし,本治療のポテンシャルを最大限に引きだすことにある。

有害事象/合併症に対してのアプローチは, 大きく分けて予防的介入(Prevention/Prophylactic intervention)と対症的介入(Symptom management)の2 種類がある。

1)予防的介入:Prevention/ Prophylactic intervention

予防的介入とは有害事象/合併症が出現する前から介入し,有害事象/合併症の発生自体を抑えるものである。

予防的介入での一番の目標は「有害事象/合併症の頻度を下げる」ことである。予防的介入の結果により,従来の方法より有害事象/合併症の頻度が下がれば予防的介入の価値があるといえる。しかしながら,予防的介入は,いずれも発症してからでは効果が得にくいため,何も起きていない状態から介入を開始することになる。この場合,発生する有害事象/合併症の頻度によっては,何もしなくても有害事象/合併症が起こらない患者に対しても介入を行っている可能性がある。よって,予防的介入は大切だからというだけで行うことは,必ずしも患者の利益になっていないということについても常に頭に入れておくことが必要である。

2)対症的介入:Symptom management

対症的介入とは出現した有害事象/合併症に対して介入し,それによる被害を最小限に抑えるものである。

有害事象/合併症の機序によっては,発現してからの対症的介入では効果が乏しい場合がある。しかし,患者とメディカルスタッフの双方に,対症的介入のほうが予防的介入よりも「効いた」という実感があるといった特徴がある。このため,発現した有害事象/合併症に対しては対症的介入の余地がある。

対症的介入での一番の目標は「有害事象/合併症の重症度を軽減する」ことである。対症的介入の結果により,従来の方法より有害事象/合併症の重症度が軽減されれば,対症的介入の価値があるといえる。実際には有害事象/合併症が重篤化するのを防いだり,有害事象/合併症の発現期間が短縮したりすることで効果を得られる。一方,実臨床では有害事象/合併症は単一で起こることは稀であり,他の複数の症状に対して複数の介入が同時に行われていることが多く,実際に対症的介入の効果を一対一対応で正確に把握することは難しい場合が多い。

他の施設と同じ対症的介入を行っているにもかかわらず,有害事象/合併症の重篤化が頻繁に起こってしまう場合には,対症的介入の具体的な内容(介入時期,介入期間,1 回の介入にかける時間,評価方法,介入者の人数/職種/経験年数など)に間違いがあることが多い。これらについて他の施設とも情報交換を行い,修正を行うことによって治療成績が飛躍的に向上することが期待できる。

図1 予防的介入と対照的介入の具体例 1-3)
図1 予防的介入と対照的介入の具体例

頭頸部癌領域における支持療法での必須事項:多職種医療連携と共通言語

頭頸部領域の支持療法では口腔ケア(歯科),気管孔/皮膚炎処置(看護師),栄養指導(栄養士),嚥下リハビリテーション(言語聴覚士),理学療法士,作業療法士など,他の領域に比べて多くの職種が一人の患者に携わる領域であるため,多職種医療連携は最低限必要なインフラである。さらに,多職種医療連携において医師,看護師などの各職種は同一の患者の病態についてお互いに説明するには共通言語が必要であるため,以下の点について留意する必要がある。

1)カルテにローカルルールの隠語を用いない

現在は電子カルテ化も進み,医師カルテと同じように看護記録も参照できるようになり,職種間で情報を確認しやすい状況になった。しかし,医師はカルテで略語を使用することが多く,メディカルスタッフ,とくに看護師以外のスタッフには解読が困難なこともある。略語自体は悪いことではないが,一般的に使用されているもの(TPLE:下咽頭喉頭頸部食道摘出術,RT:放射線治療,ND:頸部郭清術など)にとどめ,メディカルスタッフに対してはそれぞれ用語の解釈を周知する必要がある。

2)有害事象/合併症の評価は広く用いられている指標を用いる

メディカルスタッフから医師へある患者の有害事象に関する報告を行う場合,例えば「口内炎がひどくなっています」とだけ言っても,他のメディカルスタッフが「ひどい」という程度についてどのような重症度で認識するのかは様々である。この状況では,せっかく多職種カンファレンスを行っても情報共有ができているとはいえない。こういった場合に,Common Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)のGrade で情報共有を行うことが有用である。CTCAE は項目が多岐にわたるため各論については割愛するが,施設内で習熟すれば他職種連携に不可欠なツールとなる(有害事象共通用語規準 v4. 0 日本語訳 JCOG版[CTCAE v4. 03/MedDRA v12. 0(日本語表記:MedDRA/J v19. 0)対応]http://www.jcog.jp/doctor/tool/CTCAEv4J_20160310.pdf)。

CTCAE では表現しづらい嚥下機能/リハビリの進行状況などについては,施設独自の基準を用いている病院もあるが,それでは他の病院との連携が難しくなるため,これらについても自施設以外でも広く行われている評価方法を取り入れることが望ましい(→ 資料参照)。

支持療法各論

頭頸部領域において前向き試験でその効果,安全性を評価した支持療法は非常に少ない。支持療法は,エビデンスレベルが高くなくても,それを行うことにより治療効果の相殺やそれ自体での副作用などのリスクが生じない場合には,推奨度が高く設定される。

1)放射線皮膚炎に対する保湿処置

頭頸部領域では臨床第Ⅱ相試験 4)において,113 例の頭頸部癌(化学)放射線治療患者に対し洗浄と保湿処置のみを行った結果,治療の妨げになるGrade4 の皮膚炎は0 例であったと報告されている。

放射線治療に限らず,損傷した皮膚組織は湿潤環境にて,より創傷治癒能力が高まるということが1960 年にNature に発表された論文 5)で示されており,時代背景から比較試験等はないものの,放射線治療によって損傷した皮膚組織を保湿することは適切であるといえる。よって保湿処置を行うことの推奨グレードはB である。なお,創傷被覆材などを利用した保湿環境の保持 6)については前向き試験でのデータが乏しいため,推奨グレードはC1 にとどめられる。また,保湿に用いる軟膏の種類については特定のものを推奨する根拠はない。

ステロイド外用薬について,乳腺領域の放射線治療(総線量60 Gy 以下)では掻痒感や皮膚炎の低減効果が確認されている 7-9)が,頭頸部領域の放射線治療(総線量60 Gy 以上)において同様の効果が得られるかは不明であり,広範な湿性落屑の部位に塗布した場合には感染のリスクが懸念されるため,推奨グレードはC2 となる。

2)放射線治療による口内炎/粘膜炎に対するオピオイドの使用

臨床第Ⅱ相試験においてオピオイド中心の疼痛管理を行うことにより,粘膜炎による放射線治療の中断を最小限にすることができるということが示されている 2)ことや,海外ではすでに実臨床でオピオイドを使用することが特別視されていないことから,推奨グレードB とする。

3)放射線治療前の胃瘻造設

栄養管理や薬物の確実な投与経路として胃瘻造設を含む経管栄養が勧められているが,胃瘻に関しては造設だけでは体重減少をおさえられず,綿密な栄養管理が重要と考えられる。しかし,他の栄養経路に対する優位性について明確に示したデータに乏しいことを勘案し,推奨グレードはC2 とする。

4)口腔ケア

効果的な口腔衛生管理は,口腔合併症のリスクの軽減に寄与すると期待できる。そして口腔ケアを行うこと自体にリスクは少ない。

歯性感染症は,がん治療開始前の事前の歯科チェック,応急処置そして治療中のブラッシングを中心としたケアでその発症リスクを軽減することが可能であり,骨髄抑制が予想される治療における感染制御に有用である。特に,骨髄抑制期の口腔粘膜炎は全身感染症の強いリスク因子となるため,口腔ケアによる感染管理は重要である 10)

頭頸部放射線治療後の口腔晩期障害で最も重篤なものである顎骨壊死は,予防的な歯科介入(治療開始前の予防的な抜歯,治療終了後の定期的な歯科管理など)により,以前と比較しその発症頻度は抑制されている 11)。一方,放射線治療中の急性期口内炎については口腔ケアだけでは防ぎきれないことが報告されている 12)。これらを総合的に解釈し,手術,化学療法,放射線治療のいずれを開始する場合にも,頭頸部領域では治療前から他の支持療法に並行して口腔ケアを継続して行うことが推奨される(推奨グレードB)。

5)その他

個別の手技については支持療法の各論に言及した手引きも出版されており,実臨床では参照することを勧める 13)

さいごに

支持療法は本治療(手術/放射線治療/化学療法など)の性質によってその役割は変わってくるが,あくまで本治療の補助であることは変わらない。支持療法に携わる医療従事者はその目的を見失ってはいけない。

手術や放射線治療および化学療法は,正常組織にとってはどれも有害であり,有害事象/合併症をゼロにすることは不可能である。よって,支持療法でどこまで有害事象/合併症を軽減できるかということを,介入前に適切に設定することが非常に大切である。

参考文献

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13)
国立がん研究センター研究開発費:がん患者の外見支援に関するガイドライン構築に向けた研究班編.がん患者に対するアピアランスケアの手引き2016 年度版.金原出版,2016.

Ⅲ-A-5.頭頸部癌患者に対するがんリハビリテーション

がんリハビリテーションの概要

1)がんリハビリテーションの目的

がんリハビリテーションは,その目的により,予防的,回復的,維持的および緩和的(緩和ケアが主体となる時期の)リハビリテーションの4つの段階に分けられる(図11, 2)

図1 がんリハビリテーションの病期別の目的
図1 がんリハビリテーションの病期別の目的

文献12 から引用,一部改変)

入院中には,手術や化学・放射線療法などの治療中・後の合併症・障害の予防・軽減が主な目的となる。一方,外来では,自宅療養生活の質の維持・向上を目的に,地域医療や福祉(介護保険サービス)と連携をとりつつ,生活を支援し社会復帰を促進する。

2)がんのリハビリテーション診療ガイドライン

「がんのリハビリテーションガイドライン作成のためのシステム構築に関する研究(第3次対がん総合戦略研究事業)」では,日本リハビリテーション医学会と協働してガイドライン策定作業に取り組み,2013 年に「がんのリハビリテーションガイドライン」が公開された。原発巣・治療目的・病期別に8領域に分けられ,エビデンスの高い臨床研究が多数示されている 3)

頭頸部癌に関しては10 のCQ が挙げられているが(表1),頸部リンパ節郭清術後の副神経麻痺(僧帽筋麻痺)に対するリハビリテーションの効果に関しては,推奨グレードA(行うよう強く勧められる)である以外は,推奨グレードB(行うよう勧められる)〜C1(行うことを考慮してもよいが,十分な科学的根拠がない)に留まっており,ランダム化比較試験など質の高い研究の実施が必要である。

表1 がんのリハビリテーションガイドラインにおけるClinical Question と推奨グレード
表1 がんのリハビリテーションガイドラインにおけるClinical Question と推奨グレード

舌がん,口腔がん,咽頭がん,喉頭がんと診断され,治療が行われる予定の患者または行われた患者

文献3 から引用)

3)診療報酬算定について

2010 年度の診療報酬改定で,「がん患者リハビリテーション料」が新設された。本算定では,疾患(=がん)を横断的にみすえて障害に焦点があてられており,合併症や後遺症の予防を目的に治療前から介入を行うことが可能となった。治療の質を担保するため,「がんのリハビリテーション研修ワークショップCAREER」の受講歴が必須の算定要件となる 4)

頭頸部癌の手術および放射線・化学療法が予定されている入院患者には,治療後の障害の予防や軽減を目的に,治療開始前から「がん患者リハビリテーション料」を算定可能である。

口腔癌・中咽頭癌の周術期

1)障害の概要

舌癌をはじめとする口腔癌の術後には,舌の運動障害のため嚥下障害および構音障害を様々な程度で認める。

舌の半分以上が切除された場合には,腹直筋皮弁などで再建が行われるが,食塊の咀嚼・形成,咽頭への移送といった口腔期の嚥下障害が生じる。残存舌と口蓋が接触せず,食塊をうまくコントロールすることができない。切除範囲が舌に限局している患者では,咽頭や喉頭の機能は保たれており誤嚥の危険は少ないので,液体やペースト状のものを,頸部を後方へ傾けて重力を使いながら咽頭へ送り込むようにする(dump and swallow)。

構音障害に関しては,舌の切除範囲が大きくなるほどその可動性は制限され,発話明瞭度は低下する。唾液の貯留や,咽頭まで切除範囲が及び開鼻声が顕著になると,さらに明瞭度は低下する。

口腔底前方部の複合手術(下顎区域切除,舌部分切除,頸部郭清術との合併)では,再建の方法,舌の切除範囲,舌骨上筋群の切断の有無によって嚥下障害の程度は様々である。

癌が上咽頭や中咽頭に及ぶと,腫瘍の切除範囲,再建の方法,舌骨上筋群の切断の有無によって,鼻咽腔閉鎖不全,喉頭挙上の障害や食道入口部の開大不全など様々な咽頭期の障害を生じ,誤嚥を引き起こす可能性がある。食塊が咽頭を通過するには,舌根と咽頭壁の協調運動が必要であるため,舌根の働きは重要である。舌全摘と舌根が残存している場合の嚥下や構音障害の程度には大きな違いがある 5)

2)リハビリテーションプログラム

術前には嚥下機能および構音機能に関して術前評価を行い,手術によって失われる機能や障害される機能,機能回復の可能性や限界,術後のリハビリテーションの進め方について説明する。

術後はできるだけ早期から介入し,創部の状態に合わせて訓練をすすめていく。術後7 日目頃,創部の状態も落ち着き経口摂取可能となった場合には,ビデオ嚥下造影検査(VF)・嚥下内視鏡検査(VE)を施行し,経口摂取可能かどうか判断する。

創部の抜鈎・抜糸が済んだ頃からは積極的なリハビリテーションが可能となる。この時期には,食事の形態はまだ常食には至っていないが,主たる栄養摂取の手段として経口摂取となっていることが多い。しかし,嚥下障害が重度で,誤嚥の危険から直接嚥下訓練までで食事開始に至っていない場合や,食事が開始されていても摂取量が不足している場合,主たる栄養摂取の手段として経口摂取が確立するまでに時間がかかることが予測される場合には,間欠的経管栄養法(OE 法など)や経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG 法)を選択する。

構音や嚥下障害の改善を目的とした舌接触補助床(PAP)や,軟口蓋挙上装置(PLP)などの歯科補綴装置も機能向上に大きな役割を果たすので,その適応について歯科・口腔外科医と相談する。

退院時に嚥下障害や構音障害が残存している場合には,外来リハビリテーションを継続する。嚥下障害に関しては,まだ改善が見込めるので外来でもVF やVE を定期的に行い,食事の形態のアップやとろみ剤の必要性,姿勢や一口量などの代償手段の見直しを行う。構音障害に関しては,舌の半分以上(特に全摘や亜全摘)が切除された患者に対してはさらにリハビリテーションを継続する必要がある。

復職を希望されている場合には,今後のおおよその回復の見込み(どの程度まで嚥下・構音機能が回復するのか,どれくらい期間がかかるのか)を説明した上で,患者とよく話し合って,目標を設定する必要がある。

3)リハビリテーションの効果に関するエビデンス

嚥下障害に関しては,舌癌および口腔癌患者64 例を含む82 例の頭頸部癌術後患者の嚥下機能をVFで評価し,嚥下訓練(口腔器官運動,息こらえ嚥下訓練,頸部の姿勢調整,メンデルゾーン手技,食材形態調整)を実施した経過を後方視的に調査したところ,咽頭期に重度の問題点のある9例を除いた患者群では,口腔移送と誤嚥の改善を認めたという報告がある 6)

構音障害に関しては,舌全摘出術・舌亜全摘出術・舌部分切除術患者を対象に,平均術後5 週間から構音訓練(舌運動訓練,音読訓練,会話訓練,録音による聴覚的フィードバック)を開始し,3〜6 カ月継続したところ,舌全摘出術・舌亜全摘出術後など舌切除範囲が広い症例では,発話明瞭度に改善を認めたという報告がある 7)。また,舌癌切除後症例に比較的早期からPAPを装着し,3カ月間使用したところ,PAP装着時のほうが非装着時よりも,発声発語の明瞭度は良好であったことが示されている 8)

喉頭癌・下咽頭癌の周術期(喉頭全摘出術,下咽頭喉頭頸部食道摘出術)

1)障害の概要

喉頭全摘出術や下咽頭喉頭頸部食道摘出術後では,声帯が除去されてしまうため声帯を音源とした通常の発声ができなくなるので,代用音声を獲得するためのリハビリテーションが必要である。気管と食道は完全に分離されているので,経口摂取で誤嚥の危険はないが,特に遊離空腸移植をされた場合には,腸管の蠕動運動の具合によって移植部で停滞してしまったり,吻合部が狭窄したりして,経口摂取がうまく進まないことがある 5)

2)リハビリテーションプログラム
(1)代用音声訓練

術後に頸部の創部が安定した後,導入が容易な電気式人工喉頭から開始する。スイッチを押さえると原音となるブザー音が鳴り,この原音を頸部皮膚より舌根に向かって伝導させる。口の形を母音「ア」のようにすると,ブザー音の「ブー」が「アー」という音声になる。習得が容易なため,術後早期のコミュニケーション手段としてはよく,実用的に用いられている方も多い。機械的で単調な音声であること,片手がふさがってしまうことが欠点である。退院時にほとんどの患者が,実用レベルに達する。

食道発声は食道内に摂取した空気を吐き出すことにより,下咽頭部にある新声門(仮声門)を振動させることで原音を作り,口腔,咽頭,鼻腔などの共鳴・構音器官に伝導させる。食道発声は抑揚のある音声を明瞭に発声でき,器具を用いることもない優れた方法であるが,習得の難易度が高いことが難点である。習得に時間を要するため,退院後に外来訓練に移行し継続する。咽喉食摘術後の患者では,遊離空腸移植により食道の形態が変化しているため,狭窄部位による振動音が得られにくく,習得が難しい場合が多い。

肺からの呼気を駆動源とするシャント発声は,食道発声よりも習得が容易である。気管食道瘻に,一方向弁のvoice prosthesis を挿入する方法は,手術手技が比較的簡単で誤嚥も少ない。手術費用や付属品の定期的な購入などで費用負担を要するが,普及しつつある。voice prosthesis 使用時には,シャントおよび弁周囲の肉芽組織,唾液漏出,胃食道逆流が問題となることがあるため,外来での定期的なメンテナンス体制を確立することが重要である。

(2)嚥下リハビリテーション

バリウムによる食道造影検査により,創部からの漏れがないことを確認した後,術後7 日目頃から経口摂取が開始となる。主食は5分粥,副食は細きざみ食から開始し,全粥一口大,米飯一口大へと進める。気管と食道は分離されているので,誤嚥の危険はないが,特に遊離空腸移植をされた場合には,腸管の蠕動運動の具合によって,移植部で停滞してしまい,飲み込みにくさの訴えや鼻腔から水分や食べたものが逆流してきてしまうことがある。その場合には食べ方のペースや一口量の調整により対応する。

3)リハビリテーションの効果に関するエビデンス

欧米での調査研究 9)では,術後1 カ月の時点で他者と音声でのコミュニケーションを行っている患者のうち,85%が電気式人工喉頭を使用していた。術後2 年の時点でも,55%の患者が電気式人工喉頭を使用しており,代用音声選択の第一選択であった。一方,シャント発声の使用率は31%,食道発声は6%であった。

術後6 カ月以上経過した喉頭癌術後患者のQOL を評価した報告によると,電気式人工喉頭のみで発声コミュニケーションを行っている患者は,シャント発声を用いている患者と比較してQOL が低下していた 10)。その音声に抑揚がないこと(ロボット様),片手がふさがってしまうことが主な理由であった。

気管食道瘻造設後に,5〜21 カ月の経過で観察調査した報告では,73%がシャント発声をコミュニケーションに使用していた 11)。一期的に気管食道瘻を造設した患者の術後観察研究では,平均20 日目に音声訓練を開始し,3カ月後に77%がシャント発声を獲得していた 12)

本邦でもvoice prosthesis による代用音声の報告がある。喉頭癌・下咽頭癌に対する喉摘後患者に対して,シャント造設後にvoice prosthesis を装着した追跡調査(5 年間)では,約90%の患者が音声を再獲得しており,これは食道発声および電気式人工喉頭による代用音声習得率(62. 8%)を上回っていた 13)。長期的な使用状況に関する追跡調査(10 年間)では,音声獲得率は90%と高い成績であったが,日常生活で会話に使用している症例の割合は66. 7%とやや低下していた 14)

頭頸部癌に対する化学放射線療法中・後

1)障害の概要

化学放射線療法は,切除治療と比較して機能形態が温存されることが利点である。しかし,一方では,照射野に口腔や唾液腺,咽喉頭の粘膜や分泌腺を含むため,咽喉頭の乾燥や浮腫,味覚障害,粘膜炎,栄養障害など様々な有害反応を伴い,QOL が低下してしまう。

放射線療法による急性期の有害反応は照射期間中に発症する急性炎症で,ほとんどが可逆的である。口腔領域の放射線照射が行われると,早期反応として,照射開始数日後から,唾液の流出量が減少し,口腔乾燥や口腔粘膜炎による疼痛を生じる。その結果,舌の運動が拙劣となり,咽頭への移送が遅れるようになり,嚥下反射の誘発も遅延する。味覚も低下し,味を楽しむことができなくなる。咽頭に照射野が含まれる場合には,咽頭の収縮能力や喉頭挙上量の低下が生じ,喉頭蓋谷や梨状陥凹への食塊の貯留・残留や誤嚥の原因となる。不顕性誤嚥から肺炎を発症する危険性があるので,適切な管理を行う必要がある。また,喉頭に照射野が含まれる場合には,声帯炎により声質が変化し(嗄声など),音声障害を生じる。

放射線療法後半年以降の晩期の有害反応は,照射野の毛細血管が損傷を受けて局所の血流量が低下し,組織は線維化していくので,不可逆性であることが多い。持続する嚥下障害,音声障害,唾液腺分泌低下による口腔乾燥症は,患者のQOL の低下の大きな原因となる。

したがって,治療中や後の嚥下障害の評価と訓練および栄養摂取手段の確立とともに,音声障害に関しては音声機能の評価や発声訓練を継続して行い,QOL の維持・向上に努める必要がある 15)

2)リハビリテーションプログラム

治療開始前には,リハビリテーションの必要性や方法について説明,治療前の評価を行う。治療前期には,組織の線維化予防のために,頸部のストレッチ,口腔器官の運動(舌・舌根部・口唇・咽頭喉頭の可動域訓練)とともに,誤嚥を予防するために,咽頭期を中心とした運動(頭部挙上訓練,メンデルゾーン手技)や嚥下方法の指導(息こらえ嚥下法,舌前方保持嚥下法)を行う。治療中期から後期には,嚥下障害の進行に応じてVF やVE を実施し,1 回量やペース,食形態,姿勢の指導を行い,誤嚥を防止し,安全な経口摂取ができるように指導する。口腔粘膜の炎症や咽頭痛により食事摂取量が徐々に低下してきた場合には,緩和ケアチームや栄養サポートチームとも連携して,食事摂取量の維持・改善に努める。口腔ケアに関しては,歯科医や歯科衛生士の介入も重要である。

放射線治療による早期反応から晩期反応へと移行し,経口摂取不能な状態が続く場合には,外来でも介入を継続する。

音声障害に対しても,治療中から定期的な音声機能の主観的・客観的評価とともに,言語聴覚士(ST)による音声訓練を定期的に実施することが必要である。

3)リハビリテーションの効果に関するエビデンス

放射線療法中の頭頸部癌患者に対しVF を実施し,健常人の嚥下動態と比較検討したところ,高率に舌根部後方の運動および喉頭挙上運動の低下を認め,さらに誤嚥の所見も確認できたという報告があり,治療中のVF の有効性を示している 16)

晩期反応に関しては,放射線療法終了から約2 年経過した頭頸部癌患者群にVF を実施したところ,高率に喉頭侵入の所見を認め,約3 分の2 の症例に誤嚥の所見を認めた報告がある 17)

進行頭頸部癌で化学放射線療法を受けた患者のうち,約半数は3 カ月以上の経管栄養を必要とする重度の嚥下障害を生じ,大部分の患者で治療中の体重減少を認め,誤嚥性肺炎を発症し死亡した症例もあるという報告があり,嚥下障害の評価とともに栄養管理の重要性が指摘されている 18)

頸部郭清術後

1)障害の概要

全頸部郭清術(radical neck dissection:RND)により胸鎖乳突筋,副神経が合併切除されると僧帽筋が麻痺し,肩関節の屈曲・外転障害・翼状肩甲をきたし,症状として上肢の挙上障害,頸・肩甲帯のしめつけ感をともなう疼痛などを生じ,そのまま不動の状態が持続すると二次的な肩関節の炎症や拘縮,いわゆる癒着性関節包炎を生じ,疼痛や肩可動域制限が遷延してしまう。

一方,保存的頸部郭清術(modified radical neck dissection:MRND)や選択的頸部郭清術(selective neck dissection:SND)にて副神経が温存された場合でも,術中の副神経の長時間の牽引や圧迫などにより,副神経の脱髄や軸索変性をきたし,僧帽筋の完全もしくは不全麻痺に陥ることがしばしばみられる。神経のダメージの程度によるが,神経の回復には半年から1 年程度を要する 5)

2)リハビリテーションプログラム

リハビリテーションの目的は,肩に負担のかからない日常生活の指導,肩甲周囲や頸部の温熱,肩・肩甲骨・頸部の関節可動域(range of motion:ROM)訓練を行い,二次性の癒着性関節包炎を予防することである。

RNDの場合には肩甲周囲の代償筋の筋力増強訓練を行い,MRND やSND の場合には神経の回復に応じた麻痺筋の筋力増強訓練を実施する。

3)リハビリテーションの効果に関するエビデンス

選択的頸部郭清術後の患者を,3 カ月間のリハビリテーション施行群(肩関節他動可動域訓練主体:術後15〜30 日で開始,入院中週3 回,退院後は外来で継続実施)と非施行群に分けたランダム化比較試験では,術後6 カ月時の調査において,リハビリテーション施行群のほうが有意に肩関節の自動・他動関節可動域や疼痛が改善し,仕事や余暇における活動性にも優れていたという報告がある 19)

訓練内容の比較検討では,頸部郭清術(根治的・保存的)後の患者を3 カ月間の標準的訓練群(自動・他動関節可動域訓練,ストレッチング)と漸増抵抗運動群(標準的訓練+10〜15 回の筋力増強訓練)に分けたランダム化比較試験で,漸増抵抗運動群は標準的な訓練群に比較して,上肢筋力や肩関節外転・外旋可動域,自覚的な肩の痛みにおいて有意な改善を認めており,肩や肩甲帯の可動域訓練に筋力増強訓練を併用することの有効性が示されている 20)

国内では,保存的頸部郭清術後患者において,術後4〜5 日目からリハビリテーションを開始したところ,術後6 カ月時には肩外転可動域が全例150 度以上に改善した 21)という報告がある。

参考文献

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鬼塚哲郎,海老原充,飯田善幸,他.副神経保存した頸部郭清術における僧帽筋麻痺の経時的回復.頭頸部癌.2008;34:67-70.

Ⅲ-A-6.緩和ケア

緩和ケアとは?

緩和ケアはこの20 年で急速に普及し,医療に欠かすことができないものとなった。緩和ケアは世界保健機構(WHO)により以下のように定義されている。

「生命を脅かす病に関連する問題に直面している患者と家族の痛みその他の身体的,心理社会的,スピリチュアルな問題を早期に同定し適切に評価し対応することを通して,苦痛(suffering)を予防し緩和することにより,患者と家族のQuality of Life を改善する取り組みである」1)

従来緩和ケアの対象は,がんをはじめとした積極的治療に反応しなくなった患者とその家族であるとされていたが,①疾患の種類を問わない(悪性腫瘍に限定せず,心不全や慢性閉塞性肺疾患,神経筋疾患,認知症なども対象とする),②病気の時期を問わず,特に早期から予防的にかかわることの重要性が認識されてきている。また,WHO は緩和ケアの理念と具体的な実践を次の9 項目にまとめている(表11)

表1 緩和ケアの理念と実践
表1 緩和ケアの理念と実践

文献1 を翻訳して引用,一部改変)

緩和ケアの専門性を一言で表すと,治癒が望めない人も積極的な医療の対象として捉え,死への過程の質(Quality of Death)を追求することである。医学は病気を治癒することや延命を目的に発展し,その中で死は避けるべきものとして扱われることが多く,その過程に医学の観点から目が向けられることが少なかった。緩和ケアは,死を人間が一度は体験する,避けることのできないプロセスと捉え,多面的かつ包括的なアセスメントに基づいて患者と家族のQOL の向上を目指すものであり,「Suffering(つらさ)のマネジメント」と「エンド・オブ・ライフケア(終末期ケア)」がその根幹をなす。

近年,複数の緩和ケアの介入研究により,診断時から緩和ケアチームが専門的な緩和ケアを治療と並行して提供することにより,QOL が改善し,予後をも改善する可能性が示唆されており 2),その緩和ケアによる早期からの緩和ケア介入の内容として,関係性の構築(患者自身の理解),診断時の衝撃への対応,病状理解の促進,がん治療に関する意思決定支援と生活支援,終末期医療に関する計画,家族へのケア,症状マネジメント(非薬物療法を含む),があげられている 3)

がんに対する緩和ケアの現状

本邦の緩和ケアの現状を,基本的緩和ケア,専門的緩和ケア(緩和ケア病棟,緩和ケアチーム,在宅緩和ケア)に分けて述べる。ここで基本的緩和ケアは,「全ての医療従事者が日常診療の一環として提供する緩和ケア」,専門的緩和ケアを「専門家が提供する緩和ケアで,その代表的なものとして,緩和ケア病棟,緩和ケアチーム,在宅緩和ケアにおける診療・ケアがあげられる」と操作的に定義する。

1)基本的緩和ケア

従来本邦では系統的な基本的緩和ケアの教育は行われてこなかったが,2007 年に成立したがん対策基本法に基づくがん対策推進基本計画で,すべてのがん診療に従事する医療従事者が基本的な緩和ケア研修を受けることが義務付けられた。2008 年から厚生労働省委託事業として,日本緩和医療学会ががん診療に携わる医師のための緩和ケア研修等事業を行い,2017 年3 月までに93, 250 名が受講した。これにより,がん患者の痛みをはじめとする苦痛のスクリーニングならびに,苦痛への基本的な対処をがん治療医が行う体制が整備された。

2)専門的緩和ケア

基本的緩和ケアの実施により改善が難しい苦痛やつらさに対しては,専門的緩和ケアに紹介する必要がある。まずは全てのがん診療拠点病院に設置されている緩和ケアチームに相談するとよい。もしくは,緩和ケアチームがない場合は,がん診療拠点病院に設置されているがん相談支援センターに連絡し,適切な専門家を紹介してもらうとよい。痛みをはじめとする苦痛への適切な対処や在宅緩和ケアなど,患者・家族の病状や事情に合わせて,専門的な緩和ケアが提供できるように調整する体制がある。入院の上で専門的な緩和ケアが必要な患者に対しては,緩和ケア病棟が整備されている。2015 年3 月現在で330 施設,6, 500 床を超える病床が認可されており,がん死亡者の10%は緩和ケア病棟で最期を迎えている。緩和ケア病棟に入院した患者は全てそこで最期を迎えるわけではなく,つらい症状などが緩和され,自宅退院が可能となる患者も少なくない。専門的緩和ケアへの紹介基準を表2 に示す 4)

表2 外来患者を専門的緩和ケアに紹介する基準
表2 外来患者を専門的緩和ケアに紹介する基準

文献4 を翻訳して引用,一部改変)

まとめ

基本的緩和ケアで重要な点を3 つ挙げる。①患者・家族の苦痛に気づくこと(つらさに対するスクリーニングを行うこと)。②ガイドラインに沿ったつらさへの初期対応を実践すること,特にがんの痛みについては,非オピオイド鎮痛薬とオピオイドを組み合わせることによって,多くの患者の苦痛を軽減することができる。③基本的緩和ケアの実践で改善できないつらさや複雑な問題がある場合は,専門的緩和ケアに紹介すること。この3 点に留意して頭頸部癌診療の実践が行われることを望むものである。

参考文献

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🅱 治療各論

Ⅲ-B-1.口腔癌(舌癌)

口腔癌の亜部位は頰粘膜,上歯槽と歯肉,下歯槽と歯肉,硬口蓋,舌,口腔底に分類される。ここでは最も症例数の多い舌癌を対象に作成した。

病期診断

[T 分類]
[T 分類]
[N 分類]
[N 分類]
[M 分類]
[M 分類]
[病期分類]
[病期分類]

アルゴリズム

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治療法と適応

照射線源の管理の問題などにより,組織内照射が可能な施設が限られてきており,舌癌の治療は外科療法が中心となってきている。

放射線治療

組織内照射はT1,T2 症例,表在性のT3症例に対して適応となる 1-4)(→ CQ2-2)。

手 術

舌の切除術式は舌部分切除術,舌可動部半側切除術,舌可動部(亜)全摘出術,舌半側切除術,舌(亜)全摘出術に分類される。病期Ⅰ・Ⅱ症例に対する予防的頸部郭清術は深部浸潤が高度な症例に対して行われることが多いが,適応基準については一定の見解は得られていない 5-10)(→ CQ2-45)。再建手術は,舌半側切除程度では,直接縫合や薄い皮弁による再建が推奨される(→ CQ2-7)。術後の誤嚥が問題視される舌(亜)全摘出症例では,遊離腹直筋皮弁のような容積のある再建材料を選択する 11,12)(→ CQ2-8)。

薬物療法

進行癌に対してプラチナ製剤を含む化学療法が用いられることがある(→ CQ2-6)。

参考文献

1)
Nakagawa T, Shibuya H, Yoshimura R, et al. Neck node metastasis after successful brachytherapy for early stage tongue carcinoma. Radiother Oncol. 2003;68:129-35. (レベル Ⅴ)
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Ⅲ-B-2.上顎洞癌

病期診断

[T 分類]
[T 分類]
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[N 分類]
[M 分類]
[M 分類]
[病期分類]
[病期分類]

アルゴリズム

 

治療法と適応

機能面と同時に整容面にも配慮し治療を行う必要があり,手術,放射線治療,化学療法を組み合わせた集学的治療が共通した治療方針となっている。

放射線治療

放射線治療は60〜70 Gy/30〜35 回/6〜7 週の外照射が一般的であり,手術,化学療法と併用されることが多い 1-5)。手術後の残存腫瘍体積と放射線治療による局所制御には相関があり,十分な減量が可能な症例では,放射線治療の併用により良好な局所制御が期待できる 6)。晩期毒性軽減のために強度変調放射線治療(intensity modulated radiotherapy;IMRT)なども行われる(→ CQ12-2)。

手 術

切除術式としては上顎部分切除,上顎全摘出,上顎拡大全摘出,頭蓋底手術に分類される。開洞と減量術は上顎部分切除術に含まれる 7-9)。術後の口蓋の欠損に対しては口腔と鼻腔の遮断のためプロテーゼ,ないしは再建手術により閉鎖する必要がある 10)

薬物療法

投与経路は顎動脈などからの動注ないしは全身投与である(→ CQ3-2)。動注レジメンとしてプラチナ製剤,フルオロウラシル系薬剤が選択されることが多い。全身投与ではプラチナ製剤を中心とした多剤併用療法も行われる。導入化学療法として用いられることもある。

参考文献

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Ⅲ-B-3.上咽頭癌

亜部位:①後上壁,②側壁,③下壁に分類

病期診断

[T 分類]
[T 分類]
[N 分類]
[N 分類]
[M 分類]
[M 分類]
[病期分類]
[病期分類]

アルゴリズム

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CQ4-1 CQ4-3 CQ4-4 CQ4-1 CQ4-4 CQ4-2 CQ12-2

治療法と適応

上咽頭癌は低分化・未分化の組織の腫瘍が大部分で放射線感受性が高いこと,解剖学的に手術が困難なことより,Ⅰ-ⅣA 期では放射線治療が標準治療とされる。再燃形式として,遠隔再発が多いこと,化学療法の放射線増感効果が期待できることから,全身状態良好で予備機能が許せば化学療法の併用を積極的に考慮する。

放射線治療

放射線治療は原発病巣と浸潤リンパ節に予防的リンパ節領域に40〜50 Gy を投与し,病巣部に縮小して60〜70 Gy/30〜35 回/6〜7 週の外照射を行う。CT 画像より作成する三次元治療計画が標準である。可能な場合には治療精度が高く,唾液腺障害などの晩期毒性軽減に有用なIMRT の適応を考慮する 1, 2)。病巣の範囲を特定するために,頸部造影CTに加え造影MRIやPET/PET-CT を用いたステージングを考慮する。

薬物療法

複数のメタ解析の結果より,放射線単独治療に比べ化学療法の同時併用法により粗生存・無増悪生存割合が向上し,Ⅱ期以上の症例に適応がある 3-7)(→ CQ4-1〜4)。遠隔転移リスクが高い進行癌では,同時併用法以外に補助化学療法や導入化学療法の併用を考慮する。薬物療法はプラチナ製剤を含む単剤ないしは多剤併用療法が行われる。遠隔転移を有する進行癌では化学療法が主たる治療で,臨床的に利点がある場合に放射線治療の併用も考慮される。

手 術

化学放射線療法後の頸部リンパ節遺残に対して救済手術が考慮される。放射線療法後の局所再発の救済手術の報告があるが,適応は限定される 8)

参考文献

1)
Pow EH, Kwong DL, McMillan AS, et al. Xerostomia and quality of life after intensity-modulated radiotherapy vs. conventional radiotherapy for early-stage nasopharyngeal carcinoma:initial report on a randomized controlled clinical trial. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2006;66:981-91. (レベル Ⅱ)
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Ⅲ-B-4.中咽頭癌

亜部位:①前壁,②側壁,③後壁,④上壁に分類

病期診断

[T 分類]
[T 分類]
[N 分類]
[N 分類]
[M 分類]
[M 分類]
[病期分類]
[病期分類]

アルゴリズム

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治療法と適応

中咽頭癌の治療においては生命予後とともに機能の温存が重要である。これまで手術療法と放射線治療の治療成績を前向きに比較検討した臨床研究はなく,標準的な治療は確立されていない。

近年,中咽頭癌の原因の1 つとしてヒトパピローマウイルス(HPV)が同定され,HPV 非関連の中咽頭癌に比し予後が良好であるとの報告がされている 1, 2)。TNM 分類(第8 版)においても,HPV 関連(p16 陽性)癌とHPV 非関連(p16 陰性)癌が区別された疾患として記載された。HPV 関連癌のN 分類,ステージ分類は従来よりもダウンステージされ,大きく変更された。

HPV感染(p16 染色性)による治療個別化のエビデンスはまだ明らかではない。HPV 関連の中咽頭癌に対する低侵襲治療法の確立のために,多くの比較試験が進行中である 3, 4)(→ CQ5-1)。

放射線治療

放射線治療は原発巣と転移リンパ節を含む予防的領域に40〜50 Gy を照射し,病巣部に縮小し60〜70 Gy/30〜35 回/6〜7 週の外照射を行う。頸部転移の制御が困難と判断される場合は,頸部郭清術を先行しその後,頸部も含めて放射線治療を行ってもよい。多くの比較試験の結果から,放射線単独治療に比べて化学放射線療法での治癒率の向上が示され,化学放射線同時併用療法が広く行われる 5)。HPV 関連の中咽頭癌に対する照射線量の減量などの低侵襲治療についてのエビデンスはまだ確立していない(→ CQ5-1)。手術後の病理検査にて断端陽性,頸部リンパ節の節外浸潤などの危険因子を認めた場合は術後の化学放射線療法が推奨される 6, 7)

手 術

T1,T2 症例であれば口腔内からの切除(口内法)で根治できる症例も多く,術後の障害も比較的少ない 8)。HPV関連の中咽頭癌に対する経口腔切除,頸部郭清と術後補助療法を組み合わせた低侵襲治療の臨床試験が進行中である 3, 4)。側壁癌の進行症例,前壁癌では頸部からのいわゆるpull through 法ないしは下口唇下顎正中離断法が用いられる。頸部郭清術を行う場合はlevel Ⅱ,Ⅲ,Ⅳを中心に行う。原発巣が正中をこえる場合については健側の予防郭清も考慮する 9, 10)。中咽頭前壁は喉頭に連続しており,手術では喉頭温存が問題となる。原発巣の切除範囲が広範な場合や,嚥下機能や鼻咽腔閉鎖機能の保持のために,局所(粘膜)皮弁,有茎(筋)皮弁,遊離(筋)皮弁が切除後の再建材料として用いられる。切除後の欠損形態により再建法を選択することが,術後の機能保持につながる 11)

薬物療法

放射線治療との同時併用,導入化学療法として用いられる。レジメンとしてプラチナ製剤を含む単剤ないしは多剤併用療法が多い。HPV 関連の中咽頭癌に対する導入化学療法を含めた低侵襲治療や放射線治療の併用薬として,シスプラチンとセツキシマブを比較する臨床試験が進行中である 3, 4)

参考文献

1)
Ang KK, Harris J, Wheeler R, et al. Human papillomavirus and survival of patients with oropharyngeal cancer. N Engl J Med. 2010;363:24-35. (レベル Ⅱ)
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Ⅲ-B-5.下咽頭癌

亜部位:①梨状陥凹,②後壁,③輪状後部に分類

病期診断

[T 分類]
[T 分類]
[N 分類]
[N 分類]
[M 分類]
[M 分類]
[病期分類]
[病期分類]

アルゴリズム

*CQ 番号をクリックすると解説画面へ移動します。

治療法と適応

早期例に対しては喉頭温存を目指し,根治照射あるいは喉頭温存手術(経口的切除,外切開による切除)のいずれかを個々の症例に応じて選択する(→ CQ6-1)。進行例に対しては手術治療が主体となるが,解剖学的特性により喉頭摘出を余儀なくされることが多く,切除後の再建方法として,遊離空腸移植による再建が本邦では広く行われている(→ CQ6-2)。QOL 保持の観点より化学放射線同時併用療法や喉頭温存手術も行われる。

放射線治療

放射線治療は60〜70 Gy/30〜35 回/6〜7 週の外照射が一般的であり,根治照射のよい適応となるのはT1,2 症例であるが,腫瘍型や亜部位によっては進行症例も根治照射の適応となる 1, 2)。臨床的にリンパ節転移が認められる場合,放射線治療によって頸部転移の制御が困難と判断される場合は頸部郭清術を先行し,その後頸部も含めて放射線治療を行ってもよい。臨床的にリンパ節転移がなくても腫瘍型や亜部位,進行度により予防的にリンパ節を照射野に含める。米国での比較試験の結果から,放射線単独治療に比べて化学放射線療法での治癒率の向上が示されており,また進行癌に対しては,化学放射線同時併用療法が行われることが多い 3, 4)

手 術

切除術式として内視鏡切除術,経口的切除術,喉頭温存・下咽頭部分切除術,喉頭摘出・下咽頭部分切除術,下咽頭・喉頭全摘出術,下咽頭・喉頭・頸部食道全摘出術,下咽頭・頸部食道切除術に分類される。下咽頭・喉頭全摘出術が進行例に対する標準的な術式となるが,亜部位や進行度により喉頭温存手術も行われる 5-9)。頸部郭清術を行う場合は内深頸領域を中心に行う。喉頭全摘出時は患側の甲状腺を切除し,少なくとも患側の気管傍リンパ節を郭清する 10-12)。下咽頭・喉頭全摘出術後は咽頭の再建が必要となる。再建法としては遊離空腸移植術が一般的である。拡大内視鏡,狭帯領域内視鏡によりはじめて確認される咽頭の表在性腫瘍病変に対しては,内視鏡切除術 13-15)や経口的切除術 16)が行われている。

薬物療法

放射線治療との同時併用,導入化学療法として用いられる。レジメンとしてプラチナ製剤を含む単剤ないしは多剤併用療法,分子標的薬の併用療法が行われる 17-20)(→ CQ11-1〜5)。

参考文献

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Ⅲ-B-6.喉頭癌

亜部位:①声門上部,②声門,③声門下部に分類

病期診断

[T 分類]
[T 分類]
[N 分類]
[N 分類]
[M 分類]
[M 分類]
[病期分類]
[病期分類]

アルゴリズム

*CQ 番号をクリックすると解説画面へ移動します。

治療法と適応

早期癌(Ⅰ,Ⅱ期)症例に対しては,放射線治療あるいは喉頭温存手術のいずれかで喉頭温存を図ることが推奨される 1)(→ CQ7-1)。進行癌症例に対しては,年齢や全身状態,患者の希望などを十分考慮し,喉頭機能温存治療か喉頭全摘出術かを決定する。化学放射線療法などによる喉頭機能温存治療は,再発時に喉頭全摘出術により救済できることが前提となる。

放射線治療

X線のエネルギーは4〜6 MV を用い,固定具(熱可塑性シェル)の使用を前提とし,3次元治療計画に基づいて行われる 2)

早期癌(Ⅰ,Ⅱ期)症例は1 回線量2 Gy,週5 回法の通常分割法で行われ,T1 では60〜66 Gy/30〜33 回,T2 以上では70 Gy/35 回が標準的である 2-4)。声門癌では頸部リンパ節領域を含めないが,声門上部癌では両側内深頸リンパ節領域を照射野に含める 2)。深部浸潤を伴うT2 では化学療法の併用が推奨される 1)

進行癌症例に対しては化学療法の併用が一般的に行われる。放射線単独治療に比して,急性期有害事象は多くなるものの,局所制御率の向上による喉頭温存率 5)および予後の向上 6)が示されてきた。しかしながら,その後の長期観察では,晩期障害 7)および他病死の増加による全生存率や喉頭温存生存率の有意性の消失も報告されている 8)。頸部転移の制御が困難と判断される場合は,頸部郭清術を先行しその後,頸部も含めて放射線治療を行ってもよい。

手 術

喉頭癌に対する手術は,内視鏡切除術・経口的切除術・喉頭部分切除術・喉頭亜全摘出術の,喉頭温存手術と喉頭全摘出術に大別される。内視鏡の精度および診断技術の向上により,上皮内癌の診断が可能となってきた。そのため,声帯や声門上部の表在病変に対しては内視鏡切除か経口的切除が推奨される。早期声門癌に対する喉頭温存手術の治療成績は,放射線治療と同等とする報告が多い 9-11)(→ CQ7-1)。また,早期声門癌に対する放射線治療後の再発例に対し,救済手術として喉頭温存手術が適応となる症例は少なくない 12-18)(→ CQ7-2)。一方,軟骨をこえて軟部組織へ腫瘍浸潤がみられるT4 a 症例に対しては,喉頭全摘出術が標準的であり,化学放射線療法は手術拒否例に対しての選択肢である 19, 20)。声門下部進展例では喉頭全摘出時,患側の甲状腺を切除し気管傍リンパ節の郭清を行うことが望ましい。頸部郭清術を行う場合は内深頸領域を中心に行う 21-23)

薬物療法

進行癌に対する喉頭温存を目的とした治療として,放射線治療との同時併用,導入化学療法として用いられる。レジメンとしてはプラチナ製剤を中心とした単剤ないし多剤併用療法が主であるが,分子標的薬も用いられる(→ CQ11-1〜5)。

参考文献

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http://www.nccn.org/professionals/physician_gls/pdf/head-and-neck.pdf
21)
Spaulding CA, Hahn SS, Constable WC. The effectiveness of treatment of lymph nodes in cancers of the pyriform sinus and supraglottis. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1987;13:963-8. (レベル Ⅴ)
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Billers HF, Davis WH, Ogura JH. Delayed contralateral cervical metastases with laryngeal and laryngopharyngeal cancers. Laryngoscope. 1971;81:1499-502. (レベル Ⅴ)
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吉野邦俊,佐藤武男,藤井 隆,他.喉頭癌に対する頸部郭清術.頭頸部外科.1995;5:85-94. (レベル Ⅴ)

Ⅲ-B-7.甲状腺癌

病期診断

甲状腺癌は主として乳頭癌(papillary thyroid carcinoma:PTC),濾胞癌(follicular thyroid carcinoma:FTC),髄様癌(medullary thyroid carcinoma:MTC),未分化癌(undifferentiated/anaplastic thyroid carcinoma:ATC)に分類され,また髄様癌や未分化癌以外の組織型が分化癌(differentiated thyroid carcinoma:DTC)としてまとめて取扱われることが多い。

これまでは『甲状腺癌取扱い規約 第7 版』 1)とUICC TNM 分類第7版が多くの施設で用いられてきたが,2016 年にUICC『TNM 悪性腫瘍の分類 第8 版』 2)が発行され,甲状腺癌の病期分類に変更が加えられた(2018年1月より適用開始)。

[T 分類]
[T 分類]
[N 分類]
[N 分類]
[病期分類]
[病期分類]

悪性度診断

1)リスク分類

甲状腺癌の予後を予測する目的でいくつかのリスク分類が提唱されている。1979 年のEORTC の報告以来,Lahey ClinicのAMES(Age, Metastasis, Extrathyroidal invasion, Size),Mayo ClinicのAGES(Age, Grade, Extent, Size)やMACIS(Metastasis, Age, Completeness of resection, Invasion, Size),本邦の甲状腺腫瘍診療ガイドラインにおけるハイリスク・ローリスク・グレーゾーンの概念など,年齢,性別,被膜外浸潤,腫瘍径,腫瘍の分化度,リンパ節転移遠隔転移などを組み合わせることによってリスク分類がなされている。基準と考え方は各報告で少しずつ異なっている 3-6)

2)ATA-DTC ガイドライン2015

2009 年にATA ガイドラインで再発に対するリスク分類(低リスク群・高リスク群・中間リスク群)が提唱され 7),その有用性が報告されている 8)。ATA ガイドライン自体は2015 年にアップデートされたが,リスク分類に大きな変更は加えられていない 9)

図1 再発リスク分類
図1 再発リスク分類

文献7 を翻訳して引用,一部改変)

アルゴリズム

 

治療法と適応

1)甲状腺分化癌に対する治療法

甲状腺分化癌において,基本的に手術が根治的標準治療であるとする考え方に変わりはない 9)。しかし,近年,非外科的治療の進歩が著しく,外科的治療といかに組み合わせていくべきか議論が盛んとなっている。

放射性ヨード内用療法(radioactive iodine:RAI),特に術後アブレーション療法は,本邦では実施可能施設が限られるなど制限が多く,欧米に比べて必ずしも積極的に行われてこなかった。しかし,2010 年に131 I(30 mCi)外来投与が認可されたこと,2012 年にタイロゲン(recombinant TSH:rhTSH)の認可により甲状腺ホルモン投与を中断せずに治療準備が可能となったことから,術後アブレーションが適用しやすくなった。また,分子標的薬治療開始の基準として131 I 不応症例(一般にRAI 600 mCi 以上)が推奨されていることもあり,本邦での甲状腺癌治療におけるRAI の役割が増している。

手 術

甲状腺癌における原発巣の切除術式は,全摘,亜全摘,葉切除(峡部切除を合併した場合も含む),葉部分切除,峡部切除(錐体葉の切除も含む),核出,そのほかに分けられる。切除術式は悪性度診断を参考にして選択するが,欧米のガイドラインが甲状腺全摘術+術後RAI を基本とするのに対し,本邦では機能温存と合併症の抑制を目的に葉(峡)部切除にとどめるとする考え方が主流である。しかし,近年では欧米でも日本と同様に一定の条件を満たせば,葉(峡)部切除を許容する傾向にある。ATA-DTC ガイドライン2015 およびNCCN のガイドライン2016 において,全摘の対象とされているのは,術前診断にて遠隔転移,甲状腺被膜外進展,腫瘍径>4 cm,頸部リンパ節転移(ただし,0. 2 cm 未満で5 個以下の微小転移を除く),低分化癌,放射線治療歴,甲状腺癌の家族歴,両葉病変のある症例などであり,それ以外では葉(峡部)切除が許容されている 9, 10)

甲状腺全摘術では残存葉再発は予防できるが,葉峡部切除に比べてリンパ節再発や遠隔転移の発生は減らせないこと,再発・生命予後を向上させるエビデンスは弱い点に注意が必要である。しかし,利点としてサイログロブリン値による経過観察や再発転移時のRAI の適用が容易となる点があげられる(→ CQ8-3)。

葉峡部切除によって得られた永久病理診断の結果として広汎浸潤型濾胞癌や低分化癌が判明した場合にも,放射性ヨードを用いた遠隔転移巣の検索や放射性ヨード内用療法を目的に甲状腺補完全摘術を行う。

頸部郭清の範囲に関しては,原則としてN0 であれば予防的郭清術は行わない方針でよいとする報告が多い 11, 12, 13)。ただし,気管周囲での後発リンパ節転移に対する二次手術では,反回神経麻痺を含む合併症のリスクが高まることなどを考慮すると 14),少なくとも患側の気管周囲の郭清を初回手術時に行うことが推奨される(→ CQ8-2)。

気管浸潤に対する切除法には,切除範囲に応じて気管層状切除(shaving),気管窓状切除,気管環状切除がある 15)。各術式の優劣について直接比較した報告はないので,浸潤の程度によって術式を選択する。

放射線治療
放射線治療(外照射)

外照射は,切除不能もしくは術後腫瘍残存症例で内照射が施行できない場合や,骨転移に対する疼痛緩和目的で行われることが多い。

放射性ヨード内用療法(RAI)

術後再発転移高リスク症例に対しては,131 I による術後アブレーションが推奨されている 9)。一方で,低〜中間リスク症例に対しても一律に適用すべきかについては議論が多い(→ CQ8-4)。

遠隔転移を有する甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)においては,甲状腺全摘後の転移巣に 131 I の取り込みが認められることを確認した後に,治療目的RAI が適用される。治療目的RAI における 131 I 投与量は100〜200 mCi が推奨される 10)

比較的良好な効果が期待できるのは若年の微小結節型の肺転移病変であり 16, 17),局所再発・リンパ節転移・骨転移ではヨード集積を認めても十分な効果が出ないことが多く,脳転移では効果が期待できないとされる 6)

TSH 抑制療法

術後補助療法としてTSH抑制療法を一律に適用することについては対立した議論があり,その位置づけは確立されていない。McGriff らのメタアナリシス 18)では再発転移の高リスク群に対しての有効性が報告されている一方で,Sugitani らは単施設のRCT においてTSH 抑制療法・非施行群の施行群に対する非劣性を示し,特に低リスク症例に対するTSH 抑制療法は合併症を回避する意味でも不要としている 19)

NCCN ガイドラインにおいても再発リスクが高い場合にはTSH 値<0. 1 mU/L,再発リスクが低い場合には正常値下限前後,再発リスクが低いがサイログロブリン陽性が持続する場合にはTSH 値0. 1〜0. 5 mU/L 程度に保ちながら経過観察をすべきとしている 10)。特に,女性や高齢患者では骨粗鬆症を予防するために,TSH値を0. 5μU/mL(正常下限)程度に留めることが推奨されている 20)

薬物療法

近年,RAI 不応の再発転移甲状腺分化癌に対する分子標的薬(tyrosine kinase inhibitor:TKI)としてレンバチニブとソラフェニブの有効性が示されている 21-23)。ただし,PFS の改善は期待できるがOS の延長についてはエビデンスが確定していないため,腫瘍進行速度や症状の有無を勘案した上で,QOL を落とさないように有害事象のマネージメントにも注意しながら適用すべきである(→ CQ8-5)。

2)髄様癌に対する治療法

髄様癌の診断には他の甲状腺分化癌の診断法に加え,カルシトニンやCEA 測定が推奨される。また,MEN2 A,MEN2 B,家族性髄様癌の鑑別のための全身検索およびRET 遺伝子変異の評価も重要である 24)

治療は外科的療法(甲状腺全摘±頸部郭清術)が主体となる 6)。高リスク髄様癌(特に遺伝性髄様癌)では甲状腺全摘と中央区域郭清を基本とし,頸部リンパ節転移がある場合には外側区域郭清を加えることが推奨される。再発転移症例に対する治療について欧米ではバンデタニブがcategory1として推奨されており 10),本邦でもソラフェニブ,レンバチニブに続いて2015 年から保険収載された(→ CQ8-5)。

3)未分化癌に対する治療法

未分化癌の予後不良因子として腫瘍径(>5 cm),急性症状,遠隔転移,白血球増多などがあげられる。未分化癌はいまだ非常に予後の悪い疾患であり,StageⅣA・B 症例で肉眼的に根治手術がなし得た場合には,術後補助療法(放射線治療もしくは化学放射線治療)を加える集学的治療が推奨されている 6, 10, 25)。近年,国内第Ⅱ相試験において未分化癌に対してもTKI が有効とする報告がなされ 26),保険承認されたが,エビデンスのさらなる構築が必要である(→ CQ8-5)。

参考文献

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Ⅲ-B-8.唾液腺癌(耳下腺癌)

大唾液腺として耳下腺,顎下腺,舌下腺がある。ここでは最も症例数の多い耳下腺癌を対象に作成した。

病期診断

[T 分類]
[T 分類]
[N 分類]
[N 分類]
[M 分類]
[M 分類]
[病期分類]
[病期分類]

悪性度診断

・低悪性度群(5 年生存率:85%以上)

粘表皮癌(低悪性度)Mucoepidermoid carcinoma(low grade),腺房細胞癌 Acinic cell carcinoma,多型腺癌 Polymorphous adenocarcinoma,明細胞癌 Clear cell carcinoma,基底細胞腺癌 Basal cell adenocarcinoma,導管内癌 Intraductal carcinoma,腺癌NOS(低悪性度)Adenocarcinoma,NOS(low grade), 上皮筋上皮癌 Epithelial-myoepithelial carcinoma,多形腺腫由来癌(被膜内・微小浸潤型)Carcinoma ex pleomorphic adenoma(intracapsular and minimally invasive types),分泌癌 Secretory carcinoma,オンコサイト癌 Oncocytic carcinoma,唾液腺芽腫 Sialoblastoma

・中悪性度群(5 年生存率:50〜85%)

粘表皮癌(中悪性度)Mucoepidermoid carcinoma(intermediate grade),腺様囊胞癌(篩状・管状型)Adenoid cystic carcinoma(cribriform and tubular types), 脂腺腺癌 Sebaceous adenocarcinoma,リンパ上皮癌 Lymphoepithelial carcinoma

・高悪性度群(5 年生存率:50%以下)

粘表皮癌(高悪性度)Mucoepidermoid carcinoma(high grade),腺様囊胞癌(充実型)Adenoid cystic carcinoma(solid type), 腺癌NOS(高悪性度)Adenocarcinoma, NOS(high grade),唾液腺導管癌 Salivary duct carcinoma,筋上皮癌 Myoepithelial carcinoma *,多形腺腫由来癌(広範浸潤型)Carcinoma ex pleomorphic adenoma(widely invasive type),癌肉腫 Carcinosarcoma,低分化癌 Poorly differentiated carcinoma,扁平上皮癌 Squamous cell carcinoma.
*:一部低〜中悪性

アルゴリズム

 

治療法と適応

手術が根治的治療法であり,特に耳下腺癌では顔面神経の温存が術後のQOL に関わる。

手 術

耳下腺癌の切除術式は耳下腺部分切除術,耳下腺葉切除術(浅葉・深葉),耳下腺全摘出術,耳下腺拡大全摘出術に分類される。顔面神経は麻痺がなければ原則として保存的に扱うが(→ CQ9-2),高悪性度群や周囲組織への浸潤を認める症例では,拡大切除を考慮する 1, 2)。耳下腺癌の予防的頸部郭清については,一般に扁平上皮癌,粘表皮癌(高度性度),腺癌などの高悪性度群では施行することが望ましい。頸部転移陽性であれば全頸部郭清を行う。顔面神経を切除した場合は,可能であれば即時再建を行う 3)(→ CQ9-1)。

放射線治療

根治的治療としての適応は少ない。高悪性度症例や不完全切除症例では術後治療として適応となる 4-6)

薬物療法

確立されたレジメンは現在のところ認められない。

参考文献

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Ⅲ-B-9.原発不明頸部転移癌

2017 年に改訂されたUICC による『TNM 悪性腫瘍の分類 第8 版』によると,組織検査にてp16 免疫染色が陽性であった場合はHPV 関連中咽頭癌として,EBV が検出された場合は上咽頭癌として分類されることとなった。したがって,組織を用いたp16 免疫染色やEBER のin situ hybridization 法(EBER-ISH)は原発不明頸部転移癌を疑った場合,必須の検査となる。新分類ではこれらHPV 関連癌,EBV 関連癌を除き,頸部リンパ節から組織学的あるいは細胞学的に癌が証明されているものの,種々の原発巣検索を行っても初回治療開始までに原発巣が発見できない症例を原発不明頸部転移癌と定義している。頻度は頭頸部癌の3〜5%程度とされる 1, 2)

なお,頸部リンパ節が悪性腫瘍からの転移であることを証明するには,大別すると穿刺吸引細胞診(FNAC)による細胞診断と生検による組織診断がある。上皮性悪性腫瘍はFNAC で診断できる場合が多いが,リンパ節の質的診断が証明できず,かつ疑わしい原発部位が存在しない場合には生検を考慮し,組織学的な検索を遅滞なく行うことが重要である 1)

病期診断

[T 分類]
[T 分類]
[N 分類]
[N 分類]
[M 分類]
[M 分類]
[臨床的・病理学的病期分類]
[臨床的・病理学的病期分類]

原発巣の検索

症状に関する問診と転移性リンパ節の存在部位から,原発巣の局在を予想することができる 1, 2)。また,上内深頸部や中内深頸部に囊胞変性した扁平上皮癌の転移を認めた場合は,口蓋扁桃に原発巣が存在する可能性を疑う 1)。顎下部,上内深頸部,中内深頸部領域に扁平上皮癌の転移性リンパ節がある場合は頭頸部癌が,下内深頸部領域や気管傍領域,鎖骨上領域のみに腺癌の転移性リンパ節がある場合は甲状腺癌か鎖骨以下の胸腹部領域の癌の存在が疑われる 3)。頭頸部の視触診も重要で,特に口蓋扁桃,舌根扁桃,上咽頭,下咽頭梨状陥凹は,隠れた原発巣として有力候補であるので注意してよく観察する。

頭頸部外科医が用いる喉頭内視鏡での観察を基本に,narrow band imaging(NBI)にて微小癌を検出する方法も併用されるべきである 4)。また,下咽頭の輪状後部および梨状陥凹先端付近の観察に体位の工夫で原発巣が発見できることもあり,試みるべきであろう 5)。上部消化管内視鏡検査も,原発巣検索あるいは重複癌検索として重要である。血液検査では各種の腫瘍マーカー測定も参考となり,ある種の癌に特異的なマーカーもあるため有効な場合がある 1)

画像診断では胸部レントゲン写真,頭頸部造影CT,MRI が施行される。CT,MRI では特に造影効果のある粘膜面の肥厚をはじめ左右の非対称性を読影することが大事となる 1)。甲状腺癌が疑われる場合は超音波検査も有用である 6)。PET ないしPET/CT も原発巣検索に使用される。PET での原発巣検出率はおよそ30%程度,PET/CT では50%程度とされ,一般に5 mm以下の小さな原発巣では解像度の関係で検出が難しい 1, 7)。むしろ鎖骨以下の臓器が原発巣である場合により有効である。

ここまでの検査でも原発巣が不明な場合,咽頭(特に上咽頭や舌根,下咽頭など)の無作為生検や口蓋扁桃摘出術を考慮する。リンパ節転移と反対側の口蓋扁桃に原発巣が認められる例が約10%の症例に認められることから,両側の口蓋扁桃摘出術を推奨する報告もある 8)

しかしながら,以上の一連の原発巣検索がなされても,約50〜70%の原発不明頸部転移癌において原発巣は検出できないといわれている 1, 2)

治療法と適応

原発不明頸部転移癌の予後規定因子は遠隔転移がない場合,N 病期とリンパ節転移における節外浸潤である 2)。頸部郭清術が基本となる治療法に位置づけられ,その目的は頸部制御にあるが予後予測の点でも有用である 1, 2)。しかし,長径が3 cm 以下の単一の節外浸潤がないリンパ節転移は,原発不明頸部転移癌の中でも予後良好な群とされ,放射線治療でも制御が可能であり,頸部郭清を施行した場合と有意差がないとする報告もある 9)。多発頸部リンパ節転移例や節外浸潤をはじめとする病理学的な予後因子を明らかにする意味でも,郭清範囲はレベルⅠ〜Ⅴ が推奨されている。

放射線治療は患側(頸部リンパ節転移側)頸部には通常65〜70 Gy,ワルダイエル輪を含む頭頸部の粘膜面および対側の頸部に50 Gy 当てられるが,種々の検査から原発巣が疑われる粘膜部位には60〜64 Gy の照射量が推奨されている 2)。節外浸潤陽性例は,根治的頸部郭清術に加えて化学放射線療法を追加することが推奨されている 1, 2, 9)。併用する化学療法の薬剤には,CDDP を代表とするプラチナ製剤が一般には用いられている 10)

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