ガイドライン改訂の手順

6 年振りに『腎癌診療ガイドライン』が改訂される運びとなりました。
この6 年間で腎癌診療は顕著な発展を遂げ,大きく様変わりして参りました。外科治療の領域におきましては,ロボット支援腎部分切除術が保険収載され,小径腎腫瘍の治療は劇的な変化を遂げつつあります。また,2008 年に本邦でも使用可能となった分子標的薬は,前回の本ガイドライン改訂後も新たに2 剤が加わり,現在計6 剤が進行腎癌の治療に用いられています。さらに2016 年には免疫チェックポイント阻害薬という新たなカテゴリーの薬剤が導入されるに至り,腎癌の薬物療法は一層多様化してきております。

上記の背景を踏まえ作成の基本的方法は前2 版を踏襲し,一般泌尿器科医を主たる対象に,これまでの「危険因子・予防」「診断」「外科療法・局所療法」「全身治療」に「病理」「フォローアップ」の新たな分野を加えた広い範囲から腎癌の日常診療における疑問を網羅的にクリニカルクエスチョン(CQ)として抽出しました。前回の改訂から6 年が経過しましたが,前述のロボット支援腎部分切除術,新たな分子標的薬,免疫チェックポイント阻害薬等に加え,監視療法,それに絡む腎腫瘍の生検等は,多くの臨床医が興味のある内容と考えます。これらを反映して,分野数は第2 版の4 から6 へと増加し,CQ 数も24 から29 になりました。


1 対象と目的

本ガイドラインは,「腎癌の診療に携わる医療者」を対象とし,①腎癌の治療法についての適正な適応を示すこと,②腎癌の治療の成績と安全性の向上を図ること,③治療における施設間差を少なくすること,④無駄な治療を廃して,人的・経済的負担を軽減すること,⑤医療者と患者の相互理解に役立てること,等を目的とする。なお,本ガイドラインは記載した内容と異なる診療行為を制限するものではない。

2 作成の基本方針

本ガイドラインは検診を受ける成人,あるいは腎癌患者に対する本邦における「腎癌診療ガイドライン」作成を目標にして,文献検索範囲を医学中央雑誌まで広げた。しかしながら,エビデンスの観点から引用の主体は海外の文献にならざるを得ず,本ガイドラインは必ずしも本邦の実状を反映していない可能性があることに配慮する必要がある。特に,海外ですでにエビデンスが認められているが,本邦で保険収載されていないものや未承認のものについて,本ガイドラインが重要と判断されるものを「本邦未承認」と明記し取り上げていることに留意をいただきたい。

3 作成の手順

本ガイドラインは『Minds 診療ガイドライン作成の手引き2007』1)に従って作成された。まず,作成委員によって①危険因子・予防,②診断,③外科療法・局所療法 ④全身治療,⑤病理,⑥フォローアップ,の計6 分野と全体で29 のクリニカルクエスチョン(CQ)が設定された。続いて,日本医学図書館協会の協力のもと,すべてのCQ に対してPubMed と医学中央雑誌を対象に,2011 年1月〜2015 年9月の文献がCQ 毎に設定したキーワードを基に作成した検索式によって抽出された(表1)。なお,2011 年版と同じCQ では2011 年1 月以前の文献の抽出作業は,本ガイドラインの2007 年版2),および2011 年版3)で完了して おり,今回の検索作業から省かれた。本ガイドラインで新しく設定されたCQ に対しては2006 年1 月〜2015 年9 月の文献を検索対象にした。また,一部のCQ に対してはCochrane Library での検索も行い,PubMed での検索結果との重複を削除して文献リストを作成した。抽出された文献は各委員によって取捨選択され,抽出作業後に公表された重要と考えられる文献も加えられ,最終的に委員会による討議によって引用する文献が決定された。

引用文献の「エビデンスレベル」の評価は,原則として研究デザインによる科学的妥当性を根拠とした(表2)。文献の結果をまとめたCQ 毎のクリニカルアンサー(CA)には「推奨グレード」を記載した(表3)。「推奨グレード」は,臨床研究ならびに疫学的研究等の文献から得られた情報を根拠とするもので,まず①エビデンスレベル,②同じ結論に至るエビデンスの多さ,ばらつきの少なさでエビデンス総体の強さを評価し,さらに③臨床的有効性の大きさ,④臨床上の適用性の広さ,⑤合併症の少なさ,⑥医療コストの多寡の順で検討し,委員会による討議に続く挙手多数をもって決定された。なお,推奨グレードA の根拠となるエビデンス総体の強さは,少なくともエビデンスレベルIの研究があること,推奨グレードB は少なくとも2 つ以上のエビデンスレベルIIまたはIIIの研究があることを条件とした。

作成された初校は,「外部評価」として日本癌治療学会ならびに日本泌尿器科学会ガイドライン委員会の委員のもとで査読されるとともに,日本泌尿器科学会ホームページを通じて患者・市民からの意見公募が行われた。これら「外部評価」によって寄せられた意見を基に最終校は作成され,日本泌尿器科学会の承認を経て発刊に至った。

表1 CQ 数と検索文献数
表1 CQ 数と検索文献数
表2 エビデンスのレベル分類(質の高いもの順)
表2 エビデンスのレベル分類(質の高いもの順)
表3 推奨グレード
表3 推奨グレード

4 責任

本ガイドラインの記述の内容に対する責任は日本泌尿器科学会が負う。しかし,個々の診断・治療において本ガイドラインを用いる最終判断はその利用者が行うべきものである。すなわち,治療結果に対する責任は直接の治療担当者に帰属すべきものであり,学会が責任を負うものではない。また,本ガイドラインは保険医療の審査基準や医療紛争・医療訴訟の資料として用いることを目的としたものではない。

5 作成資金

本ガイドラインは社会貢献を目的として作成されたもので,その作成に要した資金は日本泌尿器科学会より賄われている。

6 利益相反

本ガイドラインの作成に関わる各委員個人と企業間との講演活動等を通じた利益相反は存在する。しかし,本ガイドラインの内容は科学的根拠に基づくものであり,特定の営利・非営利団体や医薬品,医療用製品等との利害関係により影響を受けたものではない。

7 改訂

本ガイドラインの内容は,今後公表される臨床研究の成果,診療状況の進歩・変化を勘案し,必要に応じて改訂される。

参考文献

1)
Minds診療ガイドライン選定部会(監).Minds 診療ガイドライン作成の手引き2007. 東京:医学書院;2007.
2)
日本泌尿器科学会(編).腎癌診療ガイドライン2007 年版. 東京:金原出版;2007.
3)
日本泌尿器科学会(編).腎癌診療ガイドライン2011 年版. 東京:金原出版;2011.