本ガイドラインについて|総論

総論

1.目的

肝癌診療ガイドライン2021 年版(第5 版)(以下,本ガイドラインまたは第5 版と記す)の主たる目的は,本邦における肝癌の診療レベルを地域や施設による格差を解消しつつ(均てん化),全体として向上させることであり,ひいては肝癌患者の生存期間の延長と生活の質の改善を目指している。本ガイドラインはエビデンスとコンセンサスに基づき,肝癌の本邦における標準的サーベイランス法,診断法と治療法を提示する。なお,本邦の原発性肝癌の90%以上は肝細胞癌であるため,本ガイドラインで用いる「肝癌」は肝細胞癌のことを意味する。本邦の原発性肝癌で2 番目に多い肝内胆管癌については別途策定された肝内胆管癌診療ガイドライン2021 年版(日本肝癌研究会編)を参照されたい。

2.使用法

本ガイドラインは系統的文献検索で得られたエビデンスを尊重するとともに,本邦の医療保険制度や診療現場の実情にも配慮した肝癌診療専門家のコンセンサスに基づいて作成されており,診療現場において肝細胞癌の治療を実践する際のツールとして利用することができる。具体的には個々の症例のサーベイランス,診断,治療方針を立てるための参考となり,患者・家族へのインフォームド・コンセントの場でも活用できる。ただし,本ガイドラインは肝癌に対する診療方針を立てるための一つの目安を示すものであり,記載されている以外の診療方針や治療法を規制したり,医師の裁量権を制限したりするものではない。患者,施設・地域に特有の条件・事情により,診断,治療方針が変わりうることもできるだけ勘案した推奨を掲げているので,その点を考慮して,推奨内容を参照していただきたい。

また,本ガイドラインは医療訴訟などでの参考資料となることを想定していない。本ガイドラインの記述内容については日本肝臓学会が責任を負うものとするが,個々の治療結果についての責任は直接の治療担当医に帰属すべきもので,日本肝臓学会および肝癌診療ガイドライン改訂委員会(以下,改訂委員会と記す)は責任を負わない。

3.対象

原則として,肝癌の診療に携わる肝臓専門医・一般医師を含むすべての臨床医を対象とする。

4.今後の改訂

日本肝臓学会が設置したガイドライン統括委員会の方針に基づき,常設の改訂委員会が組織され,原則的に4 年ごとに大改訂を行う。ただし,日常診療に重大な影響を及ぼす新知見が確認された場合は,改訂委員会の判断で随時マイナーな改訂を行うこととする。

5.公開

本ガイドラインが日本全国の肝癌診療現場で広く活用されるために書籍として出版し,さらに日本肝臓学会などのホームページで公開する。

表1 診療ガイドライン策定参加者のCOI 自己申告項目の開示基準額と金額区分

1)
6.一般向けの解説

旧版の一般向け解説は日本医療機能評価機構医療情報サービス(Minds)に公開されている(https://minds.jcqhc.or.jp/n/pub/2/pub0018/G0000118)。

7.資金

本ガイドラインの作成に要した資金は日本肝臓学会の支援によるものであり,その他の組織や企業からの支援は一切受けていない。

8.利益相反(COI)

第1 回委員会(2019 年7 月5 日)の後,すべての委員・専門委員から利益相反(COI)を日本肝臓学会事務局に提出していただき,ガイドライン統括委員会で審議され,正式に委員・専門委員が選任された。本ガイドライン発刊前(2021 年4 月)に改めてCOI を提出していただき,これを公表することにした(参照)。なお,COI と議決権,および公表範囲については,ガイドライン統括委員会の審議の結果,以下の通りに決定された。

  1. 日本医学会のCOI 規定(表11)において,各項目の金額区分③に該当する委員は経済的COI ありとみなし,関連するclinical question(CQ)での議決権を放棄する。
  2. 学術的COI も考慮する。定義については,各CQ で参考文献として引用されている論文の著者(共著者含む)は全員学術的COI ありとみなす。
  3. COI の公表範囲について,第5 版からは各委員ごとにCOI を記載することになった。
9.出版後のガイドラインのモニタリング

肝癌診療ガイドライン2005 年版(初版)に含まれる一部の推奨については,quality indicator と第17 回全国原発性肝癌追跡調査報告(日本肝癌研究会)を用いて,ガイドラインの普及度が評価された2)。また,National Clinical Database に登録されている施設を対象としたアンケート調査により,ガイドラインの遵守度が肝細胞癌に対する肝切除後mortality に与える影響も評価された3)

本ガイドライン発刊後も全国原発性肝癌追跡調査報告(日本肝癌研究会)のデータを用いて,本ガイドラインの普及度や診療内容の変化,予後改善へのインパクトなどを評価したい。

参考文献

1)
日本医学会.診療ガイドライン策定参加資格基準ガイダンス.
https://jams.med.or.jp/guideline/clinical_guidance.pdf
2)
Higashi T, Hasegawa K, Kokudo N, Makuuchi M, Izumi N, Ichida T, et al. Demonstration of quality of care measurement using the Japanese liver cancer registry. Hepatol Res 2011; 41: 1208-15. PMID: 21978019
3)
Arita J, Yamamoto H, Kokudo T, Hasegawa K, Miyata H, Toh Y, et al. Impact of board certification system and adherence to the clinical practice guidelines for liver cancer on post-hepatectomy risk-adjusted mortality rate in Japan: a questionnaire survey of departments registered with the National Clinical Database. J Hepatobiliary Pancreat Sci 2021(Epub ahead of print). PMID:34043880