悪性胸膜中皮腫

総論
悪性胸膜中皮腫診療ガイドライン2020 年版を利用するにあたり

解説

悪性中皮腫は,胸膜,腹膜,心膜,精巣鞘膜に発生する悪性腫瘍であり,胸膜が80~85%,腹膜が10~15%,その他の部位での発生は1%以下とされる。

発症原因として,欧米男性の78~88%,女性では23~65%の悪性中皮腫症例においてアスベスト(石綿)曝露との関連性を指摘されているように1)2),アスベストは主因の1 つとして考えられるが,明らかなアスベスト曝露がなくても発症している報告もある3)。一方,長期のアスベスト曝露歴をもった労働者では,悪性中皮腫が発症する頻度は約5%である。国外の検討では,主にクロシドライト曝露歴が明らかな約22,000 人の40 年以上の追跡調査により約3%に胸膜中皮腫が,0.7%に腹膜中皮腫が発症したと報告されている4)。本邦では1980 年代半ばまでアスベストの輸入が行われていた。アスベストとしてクリソタイル(白石綿),アモサイト(茶石綿),そしてクロシドライト(青石綿)が主として利用されたが,これらを用いた製品の製造や処理等に関わった労働者や,労働者の家族,および工場の周辺住民における中皮腫の発症リスクの上昇が報告されている5)6)。アスベスト曝露開始から発症までの潜伏期間が25~50 年とされていることから,本邦における今後の悪性中皮腫の発生ピークは2030 年頃で,罹患者数は年間3,000 人に及ぶと予測されている。また悪性中皮腫による死亡者数も1997 年の597 人から,2002 年810 人,2007 年1,068 人,2012 年1,400 人,2017 年1,555 人と確実に増加の一途をたどっている7)

悪性中皮腫発生において遺伝的因子の関与も最近明らかになってきた。高リスクの遺伝的因子として,生殖細胞系列(germline)における腫瘍抑制遺伝子の変異がある。BAP1 遺伝子の生殖細胞系列の変異は遺伝性腫瘍の原因であり,BAP1 tumor predisposition syndrome(BAP1-TPDS:BAP1 腫瘍素因症候群)と呼ばれている8)。保因者には,悪性中皮腫の他に,ブドウ膜メラノーマ,腎癌,皮膚メラノーマなどが好発する。国際的には,欧米とオーストラリアの症例を中心に2017 年12 月までの発表論文を含めてBAP1-TPDS として181 家系と140 個の異なるバリアント(DNA 塩基配列の違い)が報告されている8)。BAP1 遺伝子以外の生殖細胞系列変異としては,頻度は低いがBRCA2 遺伝子,CHEK2 遺伝子などの遺伝子変異も報告されている。

悪性胸膜中皮腫は,初期は無症状であるが,胸水の増加に伴い胸部圧迫感や労作時呼吸困難が出現する9)。胸壁に浸潤が始まると胸痛,背部痛を自覚するようになる。疼痛は病期の進行につれて高度になる。中皮腫細胞は胸腔穿刺路や手術創に沿って播種病変を形成することがある。病気が進行すると,体重減少,食欲不振,発熱,寝汗,貧血,血小板増多症,低アルブミン血症などを呈することがある。

悪性中皮腫の診断に際しては画像診断のみならず,病期診断にも苦慮することが実地臨床では多い。具体的には,低侵襲的な画像検査(胸・腹部CT,胸・腹部MRI,PET/CT,超音波)の後に,主治医が判断した場合には侵襲的な生体検査(EBUS,VATS,縦隔鏡,腹腔鏡)も必要となることがある。また確定診断や病理診断においては,悪性胸膜中皮腫は反応性中皮過形成,線維性胸膜炎,肺腺癌,肺肉腫様癌,滑膜肉腫などとの鑑別が重要であるが,時に鑑別診断が困難な場合もある。本ガイドラインの「画像診断,確定診断,病理診断,病期診断」で取り上げたClinical Question(CQ)が,実地臨床の場でその診断の参考になれば幸いである。

悪性胸膜中皮腫の治療は,WHO 分類による組織分類(表1)とUICC-TNM 分類による病期分類(表23)を総合的に評価して決定される。一般に,切除可能症例には外科治療が,切除不可能症例や術後再発症例には薬物治療が,それぞれ治療の主体となる。一方,放射線治療は外科治療や薬物治療と組み合わせた集学的治療の一環として施行される場合が多く,その他に疼痛コントロール目的の緩和治療として施行される場合もある。本ガイドラインでは,「外科治療,放射線治療,内科治療,および緩和治療」について実地臨床で役立つCQ をそれぞれ念頭において設定したので,ぜひとも参考にしていただきたい。注目なのは,悪性胸膜中皮腫診療ガイドライン2018 年版で初めて掲載された免疫チェックポイント阻害薬が,今回は薬物治療の二次治療における1 つのオプションとして掲載されているところである。今後のエビデンスの増加が期待される。

全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査(2020 年3 月集計)による病期別5 年生存率は,Ⅰ期15.8%(n=57),Ⅱ期0.0%(n=37),Ⅲ期10.2%(n=60),Ⅳ期2.1%(n=96)といずれも予後不良であることが報告されている10)。このような現況にあって,本来であれば悪性胸膜中皮腫に対する集学的治療をベースとしたランダム化比較試験に基づくエビデンスの構築が期待されるところであるが,本疾患の絶対数が少ないことからそれが困難となっている。また,診断のエビデンスについても同様であり,診断・治療ともにエビデンスに乏しい疾患といえる。それゆえ,本ガイドラインではエビデンスの強さよりも推奨度の決定が極めて重要であり,胸膜中皮腫小委員会(ガイドライン作成班)の投票結果を是非とも参考にしていただきたいと思う次第である。

最後に,胸膜中皮腫の確定診断を受けた患者には,労災保険制度や石綿健康被害救済制度などの社会保障の申請が可能であることから11),その旨を患者に伝えて1 人でも多くの患者救済に繫がることを期待する。

悪性胸膜中皮腫の分類
表1 胸膜腫瘍の組織分類(WHO 分類,2015)
胸膜腫瘍の組織分類(WHO 分類,2015)
表2 悪性胸膜中皮腫のUICC-TNM 分類Ver. 8
悪性胸膜中皮腫のUICC-TNM 分類Ver. 8
表3 悪性胸膜中皮腫の病期分類(UICC-TNM 分類Ver. 8)
悪性胸膜中皮腫の病期分類(UICC-TNM 分類Ver. 8)
ECOG(Eastern Cooperative Oncology Group) Performance Status
ECOG(Eastern Cooperative Oncology Group) Performance Status

引用文献

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https://www.mhlw.go.jp/seisaku/06.html

Ⅰ.診断

画像診断

CQ1
どのような画像所見のときに中皮腫を疑うのか?

エビデンスの強さC
胸水貯留と胸膜肥厚が認められたら,中皮腫を鑑別診断に挙げることを推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:90%〕

解説

胸膜中皮腫において胸水貯留と胸膜肥厚が高頻度に認められる所見である1)2)。早期の中皮腫では,胸水貯留のみか,胸膜肥厚はあっても軽微であり,縦隔側や葉間の胸膜不整像に注目する必要がある3)

診断率:典型例では,①肺を取り囲む全周性の胸膜肥厚(pleural rind)がみられる。さらに,②結節状の胸膜肥厚,③厚さが1 cm を越える胸膜肥厚,④縦隔胸膜の肥厚,を加えた4 つの所見が胸膜病変の良・悪性の鑑別に重要であり,感度はそれぞれ41%,51%,36%,56%であり,特異度はそれぞれ100%,94%,94%,88%と報告されている4)。また,これらの1 つないし複数の所見がある場合,悪性病変である可能性が極めて高い5)。しかし,胸膜中皮腫と転移性胸膜腫瘍の画像所見にはオーバーラップがみられ,鑑別は困難である。中皮腫は,単発や多発の胸膜腫瘤,縦隔腫瘍や胸壁腫瘍類似の所見を呈することもある。

以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価では胸水貯留と胸膜肥厚が認められたら,中皮腫を鑑別診断に挙げることを強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

引用文献

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確定診断

CQ2
末梢血中のマーカーによる中皮腫の確定診断は勧められるか?

エビデンスの強さ評価できず
末梢血中のマーカーにより中皮腫の確定診断を行わないよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:85%〕

解説

中皮腫の確定診断に末梢血中のマーカーが勧められるかどうかを確定診断,つまり生検組織と前向きに比較した試験はない。検査の信頼性を示す指標として,診断率,つまり感度と特異度に関する観察研究がある。

感度,特異度:血清の可溶性メソテリン関連ペプチド(SMRP)値について16 研究から中皮腫1,026 例および対照症例4,491 例を含むメタアナリシスにおいて,2.0 nmol/L をカットオフ値とすると,感度は19~68%,特異度は88~100%であった1)。感度が低いことから,早期診断での有用性は限られる。つまり,中皮腫を疑う症例で血清メソテリンが陽性であった場合には,次の診断手順に進むことが推奨される。SMRP とオステオポンチンの推移と病態進行を前方視的に解析した報告では,血清SMRP の変化と化学療法による腫瘍縮小には有意な関連が認められたが,オステオポンチンでは認められなかった2)。アスベストに関連する非悪性肺疾患を有する被験者69 例,アスベスト曝露のない被験者45 例,および胸膜中皮腫患者76 例を比較した研究において,48.3 ng/mL をカットオフ値とすると,感度は77.6%,特異度は85.5%であった3)。したがって,血清中のバイオマーカーだけで中皮腫の診断を行うことは難しい。

以上より,エビデンスの強さは評価できず,また総合的評価では末梢血中のマーカーによる中皮腫の確定診断を行わないよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

CQ3
胸水中の腫瘍マーカーやヒアルロン酸の測定は,中皮腫の確定診断に勧められるか?

エビデンスの強さ評価できず
胸水中の腫瘍マーカーやヒアルロン酸の測定で,中皮腫の確定診断を行わないよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:80%〕

解説

中皮腫の確定診断に胸水中の腫瘍マーカーやヒアルロン酸が勧められるかどうかを確定診断,つまり生検組織と前向きに比較した試験はない。検査の信頼性を示す指標として,診断率,つまり感度と特異度に関する観察研究がある。

感度,特異度:中皮腫50 例を含む334 例の日本人で胸水ヒアルロン酸について行われた検討では,ROC 解析のAUC=0.832(95%CI:0.765-0.898)で,100,000 ng/mL をカットオフ値としたときの感度は44%,特異度は96.5%であった4)。感度が低いことから,早期診断での有用性は限られる。

胸水の可溶性メソテリン関連ペプチド(SMRP)値について13 研究から中皮腫759 例,中皮腫ではない悪性胸水1,061 例,および良性疾患の胸水1,539 例を含むメタアナリシスで,感度は68%,特異度は91%であった5)

したがって,胸水中のバイオマーカーだけで中皮腫の診断を行うことは難しい6)。中皮腫を疑う症例で胸水メソテリン,ヒアルロン酸が高値であった場合には,次の診断手順に進むことが推奨される。

以上より,エビデンスの強さは評価できず,また総合的評価では胸水中の腫瘍マーカーやヒアルロン酸の測定による中皮腫の確定診断を行わないよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

CQ4
確定診断のための胸膜採取法として,何が勧められるか?

エビデンスの強さC
  1. a. 全身麻酔下の外科的胸膜生検により,十分な量の生検を行うよう推奨する。

    〔推奨の強さ:1,合意率:85%〕

エビデンスの強さC
  1. b. 外科的胸膜生検の適応がない症例において腫瘤形成がある場合は,CT ガイド下針生検をまず行うよう推奨する。

    〔推奨の強さ:1,合意率:85%〕

解説

胸膜中皮腫の確定診断のためには,胸膜生検によって確実な組織診断を行い,組織亜型や病変の浸潤度まで診断をつけることが望ましい。

胸膜生検の方法としては,経皮的針生検(盲目的生検,CT や超音波による画像ガイド下生検),内科的(局所麻酔下)胸腔鏡下生検,外科的全身麻酔下(胸腔鏡下,開胸)生検などがある。

a.

診断率:生検方法の違いによる確定診断率を比較した報告7)では,Abrams 針生検68%,胸腔鏡下生検87%,開胸生検91%であった。

胸腔鏡下生検(局所麻酔下もしくは全身麻酔下)の診断率は95%以上と報告されている8)9)。全身麻酔下胸腔鏡下生検では,CT 下もしくは超音波下による画像ガイド下生検では確定診断に至らなかった25 例の検討において,全例確定診断が得られた(23 例は胸膜中皮腫,2 例は慢性膿胸)との報告がある8)

局所麻酔下胸腔鏡下生検の問題点として,病理亜型までの診断がつきにくいことが挙げられる。病理亜型の診断において,内科的胸腔鏡下生検を行った胸膜中皮腫95 例の報告10)では,上皮型の診断でsensitivity 94%,specificity 20%,positive predictive value 86%,negative predictive value 37%であり,二相型ではsensitivity 20%,specificity 98%,positive predictive value 75%,negative predictive value 87%であった。このため,内科的胸腔鏡下生検は胸膜中皮腫の診断には有用であるが,亜型までは診断できないとされた。

また,採取組織径10 mm 以上では診断率が75%であったが,10 mm 未満では8%であり,生検標本の大きさは確定診断には重要な要素であるとされた11)

安全性:全身麻酔下での胸腔鏡下もしくは開胸胸膜生検と局所麻酔下胸腔鏡もしくは針生検の安全性に関するランダム化比較試験はないうえ,重大な合併症が起こることも少ないためか,合併症に関して記載している報告が少ない。全身麻酔下での胸腔鏡下もしくは開胸胸膜生検において周術期死亡の報告は見当たらない。Boutin らによる胸腔鏡下生検を行った188 例の検討では,皮下気腫1 例,限局性胸膜炎4 例,術中脈管損傷による100 mL 以下の出血3 例,38 度以上の発熱26 例,生検創部の播種再発12 例が報告されており,重大な合併症は認めなかったが,ほとんど合併症を認めない針生検よりは一定の頻度で合併症を認めると報告している9)

中皮腫の生検において問題となる生検切開創の播種に関して,播種の発生率は,画像ガイド下針生検4%,外科的生検22%であり,外科的生検による播種発生率の高さが指摘された12)。このため,外科的生検を行う場合は,その必要性を十分検討し,できるかぎり生検の切開創を少なくかつ小さくすることを推奨する。また,生検切開創は,上記の記述の通り腫瘍播種の可能性があるため,後日の切除手術の皮膚切開線上に設定し,切除手術時に生検切開創を合併切除できるようにすることを推奨する。

b.

診断率:Abrams 針生検とCT ガイド下針生検のランダム化比較試験(50 例の登録)では,前者のsensitivity 47%,negative predictive value 44%に対して,後者ではsensitivity 87%,negative predictive value 80%と後者が有意に良好な結果であった13)

安全性:上述したAbrams 針生検とCT ガイド下針生検のランダム化比較試験では,Abrams 針生検を

行った1 例に治療を要さない皮下血腫を認めたが,CT ガイド下生検においては合併症を認めなかったと報告されている13)

以上より,推奨a についてはエビデンスの強さはC,総合的評価では全身麻酔下の外科的胸膜生検により,十分な量の生検を行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。また,推奨b についてはエビデンスの強さはC,総合的評価では外科的胸膜生検の適応がない症例において腫瘤形成がある場合は,CT ガイド下針生検をまず行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

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病理診断

CQ5
中皮腫の診断に組織診断は必要か?

エビデンスの強さC
中皮腫の診断に組織診断を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

中皮腫以外の腫瘍あるいは腫瘍に類似した疾患でも放射線画像上中皮腫のような所見を呈することがある1)。また,早期の中皮腫は胸水のみを認めることが多いため,反応性病変と鑑別することが困難な場合がある2)

よって,組織の採取が可能な場合,中皮腫の診断には,組織診断を行うことが推奨される。

以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価では組織診断を行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

CQ6
迅速凍結切片で中皮腫の確定診断をつけることは勧められるか?

エビデンスの強さC
迅速凍結切片で中皮腫の確定診断を行わないよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:90%〕

解説

診断率:病理診断にはホルマリン固定パラフィン包埋標本による診断と凍結切片を用いた術中迅速診断がある。凍結切片での診断率に関して,156 例の胸膜病変について,ホルマリン固定パラフィン包埋標本による確定診断と比較して,凍結切片を用いた迅速診断でも約92%の診断精度があるので有用だとする報告がある3)。しかし,誤診例が5 例,診断が確定されなかった症例が7 例存在する。内訳をみると,誤診例のうち1 例は凍結切片では悪性と診断されたが,パラフィン包埋標本による診断は胸膜炎であった。残りの4 例は凍結切片では良性とされたが,パラフィン包埋標本による診断は悪性(扁平上皮癌1 例,腺癌2 例,二相型中皮腫1 例)であった。確定診断のできなかった7 例のうち4 例は中皮腫であった(上皮型2 例,肉腫型1 例,線維形成性1 例)。他の2 例は転移性癌,1 例は胸膜炎である。この検討には中皮腫を31 例含むので,凍結切片による正診率は84%(26/31)に留まる。

したがって,迅速凍結切片では中皮腫の確定診断を行わないよう推奨する。

以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価では行わないよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

CQ7
体腔液が貯留している場合に,体腔液細胞診を行うことは勧められるか?

エビデンスの強さB
  1. a. 体腔液が貯留している場合は,体腔液細胞診を行うよう推奨する。

    〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

エビデンスの強さB
  1. b. 体腔液細胞診にセルブロック法などによる補助的検査を追加するよう推奨する。

    〔推奨の強さ:1,合意率:95%〕

解説

現時点での臨床的ガイドラインでは最終的には生検組織による診断を推奨しているが,近年発達してきた遺伝子変異に基づいた補助アッセイ(BAP1 IHC,MTAP IHC,CDKN2A/p16 FISH など)を用いることによって,現状では上皮型および二相型の上皮様部分にかぎり,細胞診での診断率も高くなってきた。

診断率:細胞診による中皮腫の確定診断には従来より議論のあるところであるが,前述のごとく状況は変化してきている。細胞診による中皮腫の形態学的criteria を明確にしたIMIG 細胞診ガイドライン4)の筆頭著者Hjerpe らによると,カロリンスカ大学病院での10 年の経験では,76 例の体腔液細胞診の62%(47 例)で中皮腫と確定診断がなされ,中皮腫疑いを含めると79%であった5)。この診断率の数値は決して高いものではないが,米国・カナダの55 施設での調査では約2/3 の施設で体腔液検体から最終診断が行われている現状が報告されている6)。近年では中皮腫の遺伝子変異に基づく新たな診断アッセイの進歩があり,免染によるBAP1 loss あるいはMTAP loss(FISH によるCDKN2A/p16 遺伝子のホモ欠失検出の代替アッセイ)の検出によって,組織とほぼ同様にセルブロックでも70~80%の症例で増殖する中皮細胞の良・悪性の判定が可能となっている7)~9)。また,細胞診のみで上皮型中皮腫と診断された症例と,組織診で上皮型中皮腫と診断された症例では,その後の治療を含めて予後に差がないことが示されている10)

しかし,2018 年に発表されたASCO のガイドラインによると,体腔液を認めて症状がある場合には,体腔液細胞診を行うべきであるが,化学療法が行われる場合は,胸腔鏡により生検を行うことが強く推奨されると記載されている11)。2018 年のBTS のガイドラインによると,中皮腫において体腔液細胞診で診断できる割合は16~73%と幅があり,これは細胞診診断医の経験に依存するとされている。しかし,施設によっては,セルブロックでp16 のホモ接合性欠失を検討しており,このことにより診断精度が向上すると記載されている12)。2018 年発表のIMIG 中皮腫病理診断ガイドライン2017 update においても,細胞診による診断には議論があるところだとしながらも,塗抹標本あるいはセルブロックに免疫染色と分子生物学的技法を加えることにより診断精度が向上すると記載されている2)。WHO 2015 分類の最新の補遺といえるEURACAN/IASLC proposal においては,BAP1 免染,p16 FISH,MTAP 免染は組織・細胞診の両者に応用可能な良・悪性判定の手段だが,単独で用いられるべきではなく,その他の臨床・形態・免疫組織化学データとあわせて診断に用いられるべきだと述べられている13)

以上より,体腔液が貯留している場合は体腔液細胞診を行うよう推奨し,その際には上記の補助アッセイを施行することを推奨する。したがって,推奨a についてはエビデンスの強さはB,総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。また,推奨b についてもエビデンスの強さはB,総合的評価でも行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

CQ8
上皮型中皮腫と反応性中皮過形成の鑑別診断に何が勧められるか?

エビデンスの強さB
脂肪組織への浸潤あるいはBAP1 loss,MTAP loss,CDKN2A/p16 のホモ接合性欠失を確認するよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:95%〕

解説

上皮型中皮腫と反応性中皮過形成の鑑別診断に関して,HE のみによる診断と診断率を比較検討した試験はないが,遺伝子変異に基づいた補助アッセイ(BAP1 IHC,MTAP IHC,CDKN2A/p16 FISH など)の施行によって診断精度の上昇が報告されている。

診断率:組織学的に,上皮型中皮腫と反応性中皮過形成の鑑別は,腫瘍細胞による壁側胸膜・胸壁の脂肪組織や骨格筋層への浸潤または臓側胸膜・肺への浸潤が確認された場合にのみ可能だとされてきた。両者の細胞異型の程度は時に類似し,過形成においても表層部では間質浸潤様所見を呈し得るからである。しかし,近年の分子生物学的検討から,FISH によるCDKN2A/p16 遺伝子のホモ接合性欠失の検出と,免疫染色によるBAP1 蛋白の核からの消失(BAP1 loss)の検出は,上皮型中皮腫と反応性中皮過形成の鑑別において特異度100%であることが確認された2)14)15)。p16 FISH の代替アッセイとして,免疫染色によるMTAP 蛋白の細胞質からの消失(MTAP loss)の検出も有用であることが確認された16)~18)。これらの新たなアッセイの併用は両者の鑑別における診断率を上げ,日常診療に有用である13)14)16)18)19)

なお,直接的に診断率をみたものではないが,これらのアッセイの進歩によってmesothelioma in situ の概念も見直されてきた。初期にはBAP1 loss が最も多く認められることがわかり,現時点では,①表面を覆う1 層の中皮細胞にBAP1 loss が認められ,②生検の時点で画像的にも胸腔鏡的にも腫瘍の存在を示唆する所見は認められず,③生検後少なくとも1 年は浸潤性腫瘍が生じてこないもの,という定義が提案されている20)

以上より,上皮型中皮腫と反応性中皮過形成の鑑別診断には,脂肪組織への浸潤あるいはBAP1 loss,MTAP loss,CDKN2A/p16 のホモ接合性欠失を確認するよう推奨する。したがって,エビデンスの強さはB,また総合的評価では確認を行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

CQ9
線維形成性中皮腫と線維性胸膜炎の鑑別に何が勧められるか?

エビデンスの強さC
組織学的zonation およびCDKN2A/p16 ホモ接合性欠失を確認するよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:90%〕

解説

HE 標本における線維形成性中皮腫と線維性胸膜炎の鑑別に関して直接的に診断率をみたものはないが,IMIG 中皮腫病理診断ガイドライン2017 update 2)には以下のごとく鑑別に関して記載されている。「線維形成性中皮腫は,密な膠原線維性組織とその線維間に疎に存在する紡錘形の中皮腫細胞が特徴である。異型はあっても弱いのが一般的で,線維性胸膜炎(特に表層で器質化を伴う炎症)では核がやや腫大した紡錘形の反応性中皮細胞を伴うことが多いので,鑑別が難しい。胸膜炎ではzonation と呼ばれる所見〔胸膜の胸腔側(特に炎症性滲出物直下)では肉芽組織形成を伴って細胞密度が高く,深部(胸壁側)にいくにしたがって線維化が優勢となり細胞密度が低くなる〕が特徴的だが,線維形成性中皮腫では認められない。また,胸膜炎では特に胸腔側で,毛細血管の発達がよく,胸膜表面に対して直交するように増生するが,線維形成性中皮腫では毛細血管の増生はさほど目立たない。一方で,線維形成性中皮腫では一部に細胞密度の高い部分が結節様に認められることがあるが(cellular stromal nodules),胸膜炎ではみられない。脂肪組織まで浸潤する紡錘形中皮細胞が認められれば,線維形成性中皮腫の診断を支持するが,この際には,サイトケラチンの免疫染色が有用である。ただし,いわゆるfake fat と呼ばれるアーチファクトへの注意も必要である。これは線維成分の固定時の収縮のために,脂肪細胞様の空隙が線維間に生じてしまうことを指す。これを脂肪浸潤と間違わないようにしなければならない。一般的に,真の脂肪浸潤の際には腫瘍細胞は多少なりとも下向きに増殖するが,fake fat の際には細胞は胸膜表面と平行に分布する2)。」

診断率:HE 所見との診断率に関する比較試験はないが,FISH によるp16 のホモ接合性欠失検出の有用性を指摘した論文はみられる。線維形成性中皮腫を含む肉腫型中皮腫においてはp16 のホモ接合性欠失が高頻度(90~100%)に認められるが,線維性胸膜炎では認められず(特異度100%),両者の鑑別にp16 FISH は有用である2)21)22)

以上より,線維形成性中皮腫と線維性胸膜炎の鑑別診断には,組織学的zonation およびCDKN2A/p16 ホモ接合性欠失を確認するよう推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では確認を行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

CQ10
肉腫型中皮腫と肺肉腫様癌の鑑別診断に何が勧められるか?

エビデンスの強さD
肉腫型中皮腫と肺肉腫様癌の鑑別は,病理組織所見だけではなく,臨床情報,画像所見,免疫染色所見とともに判断するよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:60%〕

解説

診断率:臨床情報,画像所見などの情報の有無による肉腫型中皮腫と肺肉腫様癌の鑑別診断における診断率を算出した論文はないが,WHO 分類や欧米の中皮腫ガイドライン23)24)には,臨床情報,画像所見の重要性が記載されている。この場合,病変の主座が胸膜にあれば肉腫型中皮腫,肺内にあれば紡錘細胞癌あるいは多形癌の可能性があるとしている23)24)。また,肉腫型中皮腫と肺肉腫様癌は組織像が類似しているため,病理所見だけで診断することはできず,免疫組織化学的染色を検討する。胸膜病変であり,サイトケラチンが陽性で,中皮マーカーが2 種以上陽性,癌腫マーカーが2 種以上陰性ならば肉腫型中皮腫と診断する24)。また,GATA3 は,肉腫型中皮腫の100%(19/19),肺肉腫様癌の15%(2/13)で陽性25),MUC4 は,肉腫型中皮腫の0%(0/31),肺肉腫様癌の72%(21/29)に陽性と報告されており26),これらの抗体は両者の鑑別に応用できる可能性がある。

よって,肉腫型中皮腫と肺肉腫様癌の鑑別診断には,病理組織所見だけではなく,臨床情報や画像所見,免疫染色所見を参考にして診断することが推奨される。

以上より,エビデンスの強さはD,また総合的評価では上記所見を参考にして診断を行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

CQ11
肉腫型中皮腫と滑膜肉腫の鑑別診断に何が勧められるか?

エビデンスの強さB
滑膜肉腫の診断にはFISHまたはRT-PCRにて染色体相互転座t(X;18)(p11.2;q11.2)による融合遺伝子SS18-SSX の形成を検出するよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

診断率:肉腫型中皮腫と滑膜肉腫の鑑別診断における診断率を直接検討した試験はないが,滑膜肉腫における融合遺伝子SS18-SSX 形成検出と肉腫型中皮腫におけるp16 のホモ接合性欠失の有用性を指摘した論文は報告されている。

滑膜肉腫synovial sarcomaは,特異的な染色体相互転座t(X;18)(p11.2;q11.2)によって融合遺伝子SS18-SSX を形成する間葉系紡錘形細胞肉腫であると定義される。胸膜に生じるものは単相型が多く,その組織学的パターンは肉腫型中皮腫と時に類似し,免疫組織化学的にも共通点が多い27)

滑膜肉腫の診断にとって,FISH または RT-PCR にてt(X;18)(p11.2;q11.2)を検出することがいわゆるゴールドスタンダード28)であり,肉腫型中皮腫においてはこの転座は認められない29)。また,肉腫型中皮腫ではp16 のホモ接合性欠失が高頻度(90~100%)に認められる2)21)22)のに対して,滑膜肉腫ではp16 のヘテロ接合性欠失は高頻度(60~74%)に認められるが,ホモ接合性欠失はみられない30)

以上より,肉腫型中皮腫と滑膜肉腫の鑑別診断には融合遺伝子SS18-SSX の形成を検出するよう推奨する。エビデンスの強さはB,また総合的評価では上記遺伝子形成の検出を行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

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病期診断

CQ12
中皮腫のCT による病期診断に造影剤使用は勧められるか?

エビデンスの強さC
存在診断および病期診断には,CT 撮像時に造影剤を使用するよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

胸膜中皮腫の患者を対象に単純CT に対する造影CT の有用性を検討した比較試験はない。

存在診断時には,胸膜不整所見の有無が重要な所見となるが,造影剤を使用することにより胸膜不整のより詳細な描出が可能となる1)2)

中皮腫が存在する際には血性胸水を伴うことが多く,漏出性胸水に比し高吸収化する。その場合単純CT のみでは,胸膜と胸水のコントラストがつきづらい場合がある。造影剤を使用することにより中皮腫病変は造影され,より詳細な胸膜所見の描出が可能となる3)

また胸膜プラークが同時に存在する場合に中皮腫は造影効果を有するのに対し胸膜プラークは造影効果を認めず,その鑑別が容易となる4)

病期診断の際にも造影剤を使用することで,中皮腫病変が造影効果を有することから,胸壁や内胸筋群への浸潤や横隔膜浸潤が明瞭化する5)6)

以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価ではCT 撮像時に造影剤を使用するよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

CQ13
中皮腫の病期診断にFDG-PET/CT は勧められるか?

エビデンスの強さC
  1. a. FDG-PET/CT は,存在診断,病期診断において行うよう推奨する。

    〔推奨の強さ:1,合意率:85%〕

エビデンスの強さC
  1. b. FDG-PET/CT は,胸膜病変の良・悪性鑑別の確定診断として行わないよう推奨する。

    〔推奨の強さ:1,合意率:85%〕

解説

胸膜中皮腫の患者を対象にCT,MRI に対するFDG-PET/CT の有用性を前向きに検討した比較試験はない。

  1. a. FDG-PET は,病変の存在診断において有用である。病期診断においては,ステージⅡおよびⅢに対する正診率はCT やMRI よりも高い7)。局所浸潤の評価には向かないが,無症状あるいは他の画像診断で発見されていない胸郭外遠隔転移の検出に優れている8)~11)。最近では,PET/MRI がPET/CT よりもT 分類において有用な可能性が報告されている12)

    以上より,FDG-PET/CT の費用対効果を十分に検討した研究はみられないが,エビデンスの強さはC,また総合的評価ではFDG-PET/CT を行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  2. 投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年
  3. b. FDG-PET は,胸膜病変の良・悪性の鑑別においてもその有用性が報告されている13)~15)。多時相で,定量評価として用いられているSUV を計測する方法において,悪性病変では遅延相での集積の増加が認められる14)15)。しかし,半定量的評価によるFDG-PET/CT の診断能は中等度であり,鑑別のためのルーチンの検査としては推奨できないとするメタアナリシスの論文がある16)

    以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価ではFDG-PET/CT を行わないよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  4. 投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

CQ14
中皮腫の病期診断に胸部MRI は勧められるか?

エビデンスの強さD
中皮腫の存在診断,病期診断に胸部MRI をルーチンに行わないよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:80%〕

解説

MRI は,胸壁や内胸筋膜への局所浸潤や横隔膜浸潤の診断能はCT より高い5)。同様に葉間裂への広がり,骨への局所浸潤の評価においてもCT より有用との報告がある17)。しかし,近年のmultidetector CT の発達に伴い任意の方向で再構成できるようになり,CT でも局所の広がりに関してかなり正確に評価可能である18)。また,病期診断において,全身MRI はFDG PET/CT と同様の診断精度を有するとの報告もある19)

胸膜病変の良悪性の鑑別においては,MRI による病変の信号強度20)21)や造影剤を用いたT1 強調画像の所見4)22),拡散強調画像23)が有用であるとする報告がある。

しかし,MRI は常にCT に付加する情報が得られるわけではなく,実臨床において多くの施設でルーチンには用いられておらず24),さらなる知見の集積が望まれる。

以上より,エビデンスの強さはD,また総合的評価では胸部MRI をルーチンに行わないよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

CQ15
中皮腫の病期診断に頭部造影MRI は勧められるか?

エビデンスの強さD
頭部造影MRI はルーチンには行わないよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:85%〕

解説

中皮腫診療における頭部造影MRI の必要性を検討した研究はないが,脳転移の頻度についての症例集積研究は5 本ある。その結果,脳転移の頻度は病期全体を通じて3%以下と低頻度である25)~29)。中皮腫診断時に脳転移が存在する頻度はさらに低いと考えられる。したがって,病期診断に際し,全例に脳転移診断のための頭部造影MRI を施行する必要はない。ただし,外科治療を検討する際にはこのかぎりではなく,造影MRI による脳転移診断を行ってもよい。

以上より,エビデンスの強さはD,また総合的評価では頭部MRI をルーチンに行わないよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2018 年

CQ16
中皮腫の病期診断に侵襲的検査(EBUS,VATS,縦隔鏡,腹腔鏡)は勧められるか?

エビデンスの強さD
縦隔リンパ節転移や腹腔内浸潤・播種が画像的に疑われ,検査に耐え得る場合は,侵襲的検査を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:70%〕

解説

中皮腫の病期診断に侵襲的検査(EBUS,VATS,縦隔鏡,腹腔鏡)が勧められるかどうかを非侵襲的検査(画像:CT,PET,MRI)と前向きに比較した試験はなく,後方視的な観察研究より,以下の主要評価項目について判断した。

診断率:同側縦隔リンパ節転移(以下,N1)診断に関しては,診断アルゴリズムに沿って非侵襲的画像検査(以下,画像検査)後に行った縦隔鏡のsensitivity とaccuracy が各々36%と80%という報告があった30)。一方,N1 陽性118 例のうち63 例(54%)が縦隔鏡で診断でき,EBUS を加えるとさらに30 例(26%)が診断可能であった31)ことから,N 因子の部位に応じた検査方法の選択も重要であると考えられた。しかし,実際に画像検査と侵襲的検査を直接比較した報告では,sensitivity とnegative predictive value が,各々CT で38%と46%,PET で39%と43%であったのに対し,EBUS で52%と50%,縦隔鏡で28%と49%であったことから,EBUS の比較的良好な感度は示されたものの,侵襲的検査によるN 因子診断が必ずしも正確とはいえない32)ことが判明した。一方,画像検査によりT1-2N0 と判定された18 例に対しEBUS や縦隔鏡を行ったところ,8 例においてN1 陽性を発見した33)ことや,対側縦隔リンパ節転移(以下,N2)診断においては,縦隔鏡により111 例中4 例(3.6%)にN2 を認めた30)ことから,症例によっては侵襲的検査の診断率の向上とともに適切な治療方針に繫がることも示唆された。

腹腔内病巣に関しては,画像検査によりT1-2N0 と判定された18 例のうち15 例に対し腹腔鏡が行われ,8 例に病巣が指摘された33)。多数例の検討では,腹腔鏡により109 例中10 例(9.2%)に病巣が発見されるも,そのうち3 例しか画像所見では指摘できなかった30)ことから,侵襲的検査を行うことにより予想外の病期診断に繫がる症例もあることが示唆された。

安全性:安全性に関する検討は少なく,まったく合併症を認めなかったという報告33)もあれば,侵襲的検査を受けた118 例中,合併症が6 例(無気肺,脾損傷,イレウス,無尿)という報告30)もあった。一方,侵襲的検査を実施することにより治療までの期間が15 日必要となり30),治療開始が遅れることも報告されている。

したがって侵襲的検査は,縦隔リンパ節転移や腹腔内浸潤・播種が画像的に疑われ,検査に耐え得る症例に対し安全性に十分配慮して行われれば,治療開始が遅れる側面もあるが,T・N 因子のより正確な病期診断により,過大な外科治療を防ぐ可能性もあり,エビデンスの強さはD,また総合的評価では侵襲的検査を行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

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Ⅱ.治療

外科治療

CQ1
臨床病期Ⅰ-Ⅲ期に外科治療を行うことは勧められるか?
特に,
a.T2-3 が疑われる場合に勧められるか?
b.同側縦隔リンパ節転移が疑われる場合に勧められるか?

エビデンスの強さB
臨床病期Ⅰ-Ⅲ期で術後に肉眼的完全切除を得られると考えられる症例に対して外科治療を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:70%〕

エビデンスの強さB
  1. a. T2-3 が疑われる場合も,外科治療を行うよう提案する。

    〔推奨の強さ:2,合意率:85%〕

エビデンスの強さC
  1. b-1. 同側縦隔リンパ節転移が疑われるが,病理学的に診断されていない場合には外科治療を行うよう提案する。

    〔推奨の強さ:2,合意率:85%〕

エビデンスの強さC
  1. b-2. 同側縦隔リンパ節転移が病理学的に証明されている場合には,外科治療を行わないよう提案する。

    〔推奨の強さ:2,合意率:65%〕

解説

胸膜肺全摘術(EPP)とベストサポーティブケア(BSC)を比較するシステマティックレビューにおいては,1 つのランダム化比較試験と13 の非ランダム化比較試験がまとめられている。胸膜切除/肺剝皮術(P/D)とBSC を比較するシステマティックレビューにおいては,11 の非ランダム化比較試験がまとめられている。また,EPP が行われた34 の非ランダム化比較試験をまとめたシステマティックレビュー,および,P/D が行われた34 の非ランダム化比較試験をまとめたシステマティックレビューが存在する。さらに,大規模なデータベースを元にした後方視的研究が3 件,本邦における非ランダム化第Ⅱ相試験が1 つある。

臨床病期Ⅰ-Ⅲ期に外科治療を行うことは勧められるか?

OS:EPP とBSC を比較するシステマティックレビューにおいては,組織型が上皮型の場合にはEPP 群とBSC 群でOS 中央値がそれぞれ19 カ月,7 カ月であり外科治療の生存率への寄与が認められたが,EPP 群の30 日死亡率は7.8%であった1)

P/D とBSC を比較するシステマティックレビューにおいて,P/D 群とBSC 群のOS 中央値はそれぞれ15.3 カ月,7.1 カ月(P<0.000)と有意に良好であった2)

34 の非ランダム化比較試験をまとめたシステマティックレビューにおいて,EPP を含む集学的治療を受けた患者のOS 中央値は9.4~27.5 カ月であった3)

34 の非ランダム化比較試験(1,916 症例)をまとめたシステマティックレビューにおいて,P/D を受けた患者のOS 中央値は7.1~31.7 カ月,無再発生存期間(RFS)中央値は6~16 カ月であった4)

イタリア6 施設で1982 年9 月~2012 年9 月に生検された連続1,365 人の中皮腫患者の多施設後方視的研究では,1,365 人の中皮腫患者において,非手術群(化学療法またはBSC),P/D,EPP のOS 中央値はそれぞれ11.7(10.5-12.5),20.5(18.2-23.1),18.8(17.2-20.9)と,手術群で有意に良好であった5)。しかし,予後良好なグループ(70 歳以下,上皮型,化学療法実施)に限れば,化学療法群,P/D,EPP のOS 中央値はそれぞれ18.6(16.2-24.9),24.6(20.5-29.0),20.9(17.6-23.4)と有意差を認めなかった。

また,SEER データベースの5,937 人を,cancer-directed surgery を受けたものを介入群(1,317 人),受けなかったものを対照群(4,587 人)としたところ,背景因子を補正してもcancer-related surgery にsurvival benefit(生存利益)があった6)

本邦におけるEPP を含む集学的治療に関する第Ⅱ相臨床試験において42 例の登録患者におけるOS中央値は19.9 カ月であった7)

RFS:34 の非ランダム化比較試験をまとめたシステマティックレビューにおいて,EPP を含む集学的治療を受けた患者のRFS 中央値は7~19 カ月であった3)

34 の非ランダム化比較試験(1,916 症例)をまとめたシステマティックレビューにおいて,P/D を受けた患者のRFS 中央値は6~16 カ月であった4)

本邦におけるEPP を含む集学的治療に関する第Ⅱ相臨床試験において42 例の登録患者における2年無再発率は37.0%であった7)

安全性:EPP とBSC を比較するシステマティックレビューにおいては,EPP 群の30 日死亡率は7.8%であった1)

P/D とBSC を比較するシステマティックレビューにおいて,P/D 群の手術死亡率は9.1%であった2)

34 の非ランダム化比較試験をまとめたシステマティックレビューにおいて,EPP を含む集学的治療を受けた患者の周術期死亡率は0~11%,周術期合併症発生率は22~82%であった3)

34 の非ランダム化比較試験(1,916 症例)をまとめたシステマティックレビューにおいて,P/D を受けた患者の周術期死亡率は0~11%,周術期合併症発生率は13~43%であった4)

イタリア6 施設の多施設後方視的研究では,P/D 群の30 日および90 日手術死亡率および術後合併症発生率はそれぞれ2.6%,6.0%,10.4%,EPP 群の30 日および90 日手術死亡率および術後合併症発生率はそれぞれ4.1%,6.9%,21.6%であった5)

本邦におけるEPP を含む集学的治療に関する第Ⅱ相臨床試験において治療関連死亡は9.5%であった7)

QOL:17 論文から659 症例を抽出した1 つのシステマティックレビューによれば,EPP:102 症例とP/D:432 症例の間の術後のQOL と呼吸機能は,術前と有意な差はなかった8)

a.cT2-3 が疑われる場合に勧められるか?

OS:cT2-3 の悪性胸膜中皮腫症例において,手術群と非手術群を直接比較した研究はない。

1995~2013 年までのIASLC による大規模国際登録の解析調査において,cT 因子別のOS 中央値はcT1:27.0 カ月,cT2:19.0 カ月,cT3:16.7 カ月と報告されているが,外科治療の有無については記載がない9)

1995~2009 年までのIASLC による大規模国際登録の解析調査において,T 因子別のany surgery 群とcurative-intent surgery 群のOS 中央値が比較されている10)。T1 では20 カ月vs 29 カ月,T2 では18 カ月vs 20 カ月,T3 では16 カ月vs 16 カ月と,T 因子が上昇するにつれて外科治療による生存率改善が小さくなる傾向である。しかし,この比較がany surgery 群とcurative-intent surgery 群の比較であり,no-surgery 群とcurative-intent surgery 群の比較でないことを考慮すれば,T2 あるいはT3 症例においても外科治療による予後改善が期待できる。

安全性:T 因子別に安全性やQOL を検証した論文は見当たらない。

b.同側縦隔リンパ節転移が疑われる場合に勧められるか?

OS:IASLC による大規模国際登録の解析調査において,cN 因子が予後を反映しないことが明らかになっている11)。また,同じ調査において,cN 因子の信頼性に関して,cN とpN に大きな乖離があることが判明している。pN 因子と予後の関係については,根治目的手術を施行した症例を対象としたOS 中央値の比較では,N0 群では24 カ月,同側肺門リンパ節転移群では17 カ月,同側縦隔リンパ節転移群では17 カ月と,N0 群に比べて同側の肺門または縦隔リンパ節転移を有する症例で予後不良であった。

1 つの多施設後ろ向き研究におけるpN 因子別のOS 中央値の比較では,N0 群では19 カ月,同側肺門リンパ節転移群では19 カ月,同側縦隔リンパ節転移群では10 カ月と,N0 群,同側の肺門リンパ節転移群に比べて縦隔リンパ節転移群で予後不良であった12)

別の単施設による後ろ向き研究では,N0 群,同側肺門リンパ節転移群,同側縦隔リンパ節転移群,同側肺門+縦隔リンパ節転移群のOS 中央値がそれぞれ26 カ月,17 カ月,16 カ月,13 カ月)と,N0群が良好,同側肺門+縦隔リンパ節転移群が不良であった13)

安全性:N 因子別に安全性やQOL を検証した論文は見当たらない。

以上の結果より,切除可能中皮腫において根治術(EPP またはP/D)はBSC よりも生存率改善に寄与すると考えられる。ただし,いずれの根治術も合併症および手術死亡の発生率が高く,慎重な手術適応決定が重要である。以上より,臨床病期Ⅰ-Ⅲ期に外科治療を行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した(エビデンスの強さはB)。

cT2-3 が疑われる場合にも根治術(EPP またはP/D)は外科治療による予後改善が期待できるため,外科治療を行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した(エビデンスの強さはB)。

病理学的に同側縦隔リンパ節転移が証明されている場合は,縦隔リンパ節転移群で予後不良であることが報告されているため,外科治療をしないよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した(エビデンスの強さはC)。

ただし,病理学的に同側縦隔リンパ節転移が証明されていない場合,画像診断によるcN 因子が予後を反映しないことが明らかになっていること,cN 因子の信頼性に関してcN とpN に大きな乖離があることが判明していることから,外科治療を忌避する根拠にはならないと判断するので,外科治療を行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した(エビデンスの強さはC)。

以上のように,画像診断にて同側縦隔リンパ節転移が疑われる場合,病理学的診断を得ることが重要である。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

CQ2
耐術能のある切除可能中皮腫には,胸膜肺全摘術(EPP)と胸膜切除/肺剝皮術(P/D)いずれの術式が勧められるか?

エビデンスの強さB
EPP とP/D のいずれかの術式選択は,患者の状態や外科医・施設の習熟度や経験により決定するよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:85%〕

解説

これまでにEPP とP/D を直接比較したランダム化前方視的試験は存在しない。EPP あるいはP/D が行われた非ランダム化比較試験をまとめたシステマティックレビューが3 件,米国NCD を元にした後方視的研究が1 件ある。

OS:7 つの論文からP/D:513 症例とEPP:632 症例を抽出してメタアナリシスを行ったシステマティックレビューによれば,OS 中央値は同等(13~29 カ月vs 12~22 カ月)であった14)

24 のデータセットからP/D:1,512 症例とEPP:1,391 症例を集積し,P/D とEPP を比較した別のメタアナリシスでは,2 年死亡率は同等(23.8% vs 25%)であった15)

15 のデータセットからP/D:2,236 症例とEPP:1,672 症例を集積し,P/D とEPP を比較したメタアナリシスでは,長期予後は同等であった16)

米国NCD を用いたコホート研究(P/D:1,036 例,EPP:271 例)では,OS 中央値はP/D で16 カ月,EPP では19 カ月で有意差がなかった17)

手術関連死亡:1 つのメタアナリシスによれば,手術死亡率はP/D がEPP よりも有意に良好であった(2.9% vs 6.8%,P=0.02)14)

別のメタアナリシスでは,術後短期死亡率はP/D がEPP よりも有意に良好であった(1.7% vs 4.5%,P<0.05)15)

別のメタアナリシスでは,術後30 日死亡率はP/D がEPP よりも有意に良好であった(OR 3.24,P<0.001)が,術後90 日死亡率は同等であった16)

米国NCD を用いたコホート研究では,30 日手術死亡率はP/D,EPP ともに5%,傾向スコアマッチング分析でも有意差がなかった17)

手術合併症:1 つのメタアナリシスによれば,術後合併症発生率はP/D がEPP よりも有意に良好であった(27.9% vs 62.0%,P<0.0001)14)

米国NCD を用いて傾向スコアマッチング分析を行ったコホート研究では,30 日再入院率はP/D で5%,EPP で7%で有意差がなかった17)

QOL:17 論文から659 症例(P/D:432,EPP:102)を抽出した1 つのシステマティックレビューによれば,術後のQOL や呼吸機能はEPP よりもP/D で良好であったが,この論文では姑息目的のVATS pleurectomy もP/D 群としており,やや信頼性に欠ける8)

以上のように,P/D はEPP と比較して周術期死亡と合併症はEPP より少ないが,生存率では同等,QOL と呼吸機能では信頼性の高い報告がないため,P/D はEPP と同等といえる。EPP とP/D のいずれかの術式選択は,患者の状態や外科医・施設の習熟度や経験により決定するよう推奨する。

以上より,エビデンスの強さはB,総合的評価では上記条件により決定するよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

CQ3
肉腫型および二相型中皮腫に外科治療は勧められるか?

エビデンスの強さB
  1. a. 肉腫型中皮腫に外科治療を行わないよう提案する。

    〔推奨の強さ:2,合意率:65%〕

エビデンスの強さB
  1. b. 二相型中皮腫に外科治療を行うよう提案する。

    〔推奨の強さ:2,合意率:80%〕

解説

a.肉腫型中皮腫に外科治療が勧められるか?

OS:EPP を受けた患者の予後因子に関するシステマティックレビューにおいて,非上皮型は17 論文中11 論文で有意な予後不良因子であった18)

SEER データベースの1,183 人の検討では,外科治療を受けた上皮型,二相型,肉腫型患者のOS 中央値は,19 カ月,12 カ月,4 カ月であった(P<0.01)19)。肉腫型中皮腫においては手術群と非手術群の間でOS に差はなく予後の延長には否定的であった。

米国NCD 2004~13 年の臨床病期Ⅰ-Ⅱ期症例の検討では,手術群と非手術群のOS において,肉腫型では7.56 カ月vs 4.21 カ月,であり外科治療の有効性が示唆された20)

安全性,QOL:米国NCD 2004~13 年の臨床病期Ⅰ-Ⅱ期症例の検討では,術後の30 日,90 日死亡率は肉腫型中皮腫で9.7%,29.8%と高かった20)。QOL についての記載はない。

b.二相型中皮腫に外科治療が勧められるか?

OS:EPP を受けた患者の予後因子に関するシステマティックレビューにおいて,非上皮型は17 論文中11 論文で有意な予後不良因子であった18)

SEER データベースの1,183 人の検討では,外科治療を受けた上皮型,二相型,肉腫型患者のOS 中央値は,19 カ月,12 カ月,4 カ月であった(P<0.01)19)。上皮型および二相型において手術群が非手術群に比べて有意に予後良好であり多変量解析において外科治療が予後良好因子であった。

米国NCD 2004~13 年の臨床病期Ⅰ-Ⅱ期症例の検討では,手術群と非手術群のOS において,二相型では15.8 カ月vs 9.3 カ月とそれぞれ有意に手術群が良好であった20)

1 つの単施設後ろ向き研究によれば,二相型中皮腫において,上皮型コンポーネントの割合が独立した予後予測因子である21)。全症例144 人において,上皮型の割合が100%(n=77),51~99%(n=39),50%以下(n=28)の患者のOS 中央値はそれぞれ20.1 カ月,11.8 カ月,6.6 カ月であった。したがって,二相型中皮腫患者に外科治療を勧めるときには,この点を慎重に検討すべきである。

安全性,QOL:米国NCD 2004~13 年の臨床病期Ⅰ-Ⅱ期症例の検討では,術後の30 日,90 日死亡率は二相型中皮腫で2.5%,13.5%とやや高かった20)。QOL についての記載はない。

以上より,推奨a についてはエビデンスの強さがB,総合的評価では外科治療を行わないよう弱く推奨(2 で推奨)でき,また,推奨b についてはエビデンスの強さがB,総合的評価では外科治療を行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

CQ4
手術中の局所療法併用は勧められるか?

外科治療に併用する治療法選択として様々な術中局所療法が報告されるが,これらの局所療法を勧めるだけの根拠が明確ではない。

〔推奨度決定不能〕

解説

手術中の局所療法についての大規模なランダム化比較試験はない。

術中温熱化学療法に関しては1 つの単施設第Ⅰ相試験22),1 つの単施設第Ⅰ/Ⅱ相試験23),2 つの単施設観察研究24)25)が存在する。

他の術中局所療法については,2 つの観察研究が存在する。局所療法の内容としては光線力学的治療法(PDT)26)・ポビドンヨード洗浄療法27)などで,それぞれ良好とする治療成績が報告されているが,治療効果について十分なエビデンスはなく,また安全性も確立されていないため,局所療法を勧めるだけの十分な根拠がない。

OS:1 つの単施設第Ⅰ相試験においては,104 人に対してシスプラチン+ゲムシタビンによる術中温熱化学療法を行ったところ,OS およびRFS がそれぞれ20.3 カ月,10.7 カ月であった22)

胸膜切除+術中局所化学療法を行った単施設第Ⅰ/Ⅱ相の症例蓄積研究においてOS 中央値は完全切除群では13 カ月であった23)

1 つの単施設観察研究では,予後因子を調整した温熱化学療法施行群(72 例)と手術単独群(31 例)を比較したところ,OS が35.3 カ月vs 22.8 カ月と,温熱化学療法施行群で良好であった24)

また,P/D 術中に温熱化学療法を行う本邦の単施設症例蓄積研究では,P/D+術中温熱化学療法4例中3 例で再発を認めていない25)

また38 例においてP/D+PDT 療法を行った単施設症例蓄積研究においてはOS は31.7 カ月であった。なかでも上皮型においては41.2 カ月と良好な成績であった26)

またP/D 術中ポピドンヨード洗浄療法を行った単施設症例蓄積研究では,OS は32 カ月であった。なかでもR0-1 切除ができた上皮型の症例ではOS は45 カ月であった27)

局所再発率:胸膜切除+術中局所化学療法を行った単施設第Ⅰ/Ⅱ相の症例蓄積研究において,局所化学療法高量投与群と低量投与群を比較したところ,同側胸腔再発率はそれぞれ54%(19/35)と67%(6/9)で差がなかったが,RFS は9 カ月vs 4 カ月と有意に前者で良好で,局所化学療法による局所制御が示唆された23)

温熱化学療法施行群と手術単独群を比較した1 つの単施設観察研究では,RFS が27.1 カ月vs 12.8カ月で,温熱化学療法による局所制御が示唆された24)

P/D 術中ポピドンヨード洗浄療法を行った単施設症例蓄積研究では,局所制御の失敗(再発時の初発部位が同側胸腔または同側肺)が89.5%(68/76)に及んだ27)

局所療法による合併症:1 つの術中温熱化学療法単施設第Ⅰ相試験においては,手術死亡率はP/D 群0%,EPP 群2%,重篤な合併症発生率はP/D 群39%,EPP 群46%であった22)

胸膜切除+術中局所化学療法を行った単施設第Ⅰ/Ⅱ相の症例蓄積研究において,手術死亡率は11%(5/44),心房細動32%(14/44),深部静脈血栓9%(4/44)であった23)

1 つの単施設観察研究では,予後因子を調整した温熱化学療法施行群(72 例)と手術単独群(31 例)を比較したところ,周術期死亡率は前者で4%,後者で0%であったが,在院日数は差がなかった24)

また術中に温熱化学療法を行う本邦の単施設症例蓄積研究(P/D4 例)では手術死亡はなく,合併症発生率は100%であった25)

P/D+PDT 療法を行った単施設症例蓄積研究においては,術後30 日,90 日死亡率はそれぞれ3%,4%であった26)

P/D 術中ポピドンヨード洗浄療法を行った単施設症例蓄積研究では,手術死亡はなく,術後合併症は29.4%に発生した27)

QOL:QOL について,記載している論文は見当たらない。

以上の結果より,術中局所療法を勧めるだけの根拠が明確ではない。その総合的評価では推奨度決定不能と判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

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放射線治療

CQ5
胸膜肺全摘術(EPP)の術後に片側胸郭照射を行うことは勧められるか?

エビデンスの強さD
EPP の術後に片側胸郭照射を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:85%〕

解説

OS と局所制御:放射線治療は集学的治療の1 つとして,EPP 後の片側胸郭照射として用いられてきた。MSKCC のグループは通常照射による54 Gy の片側胸郭照射を試み,1995~98 年の第Ⅱ相試験では,EPP と片側胸郭照射を施行した54 例において,局所領域再発(遠隔転移再発を伴うものを含む)が13%,局所領域再発のみは4%であったと報告している1)。また,1993~2008 年に治療を行った78 例の後方視的解析においても,局所領域制御が約60%に上ったと報告している〔全局所領域再発(遠隔転移再発を伴うものを含む):41%,うち局所領域再発のみ:19%〕2)。一方,Harvard 大学のグループは低線量(30.6 Gy)の片側胸郭照射において,通常照射より局所領域再発率が高いことを報告3)4)した。これらの報告では領域や局所の定義,評価時期についての統一はなされていないものの,線量増加により局所領域制御の改善が得られる可能性が示唆される。

なお,OS への寄与については様々な報告がある。2000~13 年のSEER データベースからの傾向スコアマッチング2,166 例を対象とした研究では469 例で術後放射線治療が行われ,術後放射線治療群でOS の延長がみられた。しかし,conditional survival analysis では生存率改善は確認できなかった。この報告では,肉腫型,リンパ節転移陽性,70 歳以上が予後不良因子であったとしている5)。同様に2004~13 年のNCD からの傾向スコアマッチング24,914 例を対象とした研究では,手術単独群,術後照射群のそれぞれ454 例を比較し,術後照射群で有意にOS の延長がみられた。多変量解析では,術後照射に加えて組織型(上皮型),化学療法の実施もOS を改善する有意な因子であった6)。また,Milano 大学のグループは,2003~15 年に三者併用療法(導入化学療法,EPP,術後放射線治療)を行った83 例について,完遂率が45%と低かったが,完遂できた症例では局所制御が良好で,粗生存率も良好であったと報告している7)。一方,2005~12 年に151 例を対象として,導入化学療法+EPP 後に片側胸郭照射の有無によるランダム化前向き第Ⅱ相試験(SAKK 17/04)が行われたが,OS に関して,片側胸郭照射の有効性を確認することはできなかった〔中央値:照射群20.8 カ月(95%CI 14.4-27.8),非照射群19.3 カ月(95%CI 11.5-21.8)〕8)。無増悪生存期間(PFS)に関しての報告は少なく,同ランダム化前向き第Ⅱ相試験において,術後照射群でわずかに改善のみられるのみであった〔中央値:照射群7.6カ月(95%CI 5.2-10.6),非照射群5.7 カ月(95%CI 3.5-8.8)〕。

安全性:悪心や倦怠感以外に重篤な有害事象の報告はみられないが,特に強度変調放射線治療(IMRT)においては,対側肺への影響が避けられないことから,放射線肺臓炎への注意が必要である(CQ7)。

悪性胸膜中皮腫に対するEPP 後の局所制御改善には片側胸郭照射は有効であるとされながらも,完遂率の低さや,生存率向上への寄与が低いことが指摘されている。ただし,いずれの報告も単施設からの後方視的観察もしくは第Ⅱ相試験であり,片側胸郭照射の可否を目的とした第Ⅲ相試験は現在のところ存在しない。

以上より,エビデンスの強さはD,また総合的評価ではEPP の術後に片側胸部照射を行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

CQ6
胸膜切除/肺剝皮術(P/D)の術後または手術非適応症例に放射線治療は勧められるか?

エビデンスの強さD
P/D の術後または手術非適応症例に放射線治療を行わないよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:74%〕

解説

OS と安全性:MSKCC のグループは,P/D 後に通常照射での片側胸郭照射(median 42.5 Gy)を施行した123 例について,2 年全生存率23%,1 年局所制御率42%で,Grade 3 以上の放射線肺臓炎が10.6%(Grade 5:1 例)と報告し,P/D 後の片側胸郭照射は有効な治療選択肢ではないとしている9)。一方,P/D 施行後および非切除例に対してIMRT を用いた片側胸郭照射を行った36 症例について2年生存率がそれぞれ53%,28%であったが,Grade 3 以上の放射線肺臓炎は20%(Grade 5:1 例)であり実行可能と報告している10)。その後,P/D 後の209 例について,hemithoracic intensity-modulated pleural radiation therapy(IMPRINT)を行った78 例と3 次元原体放射線治療を用いたconventional RT(CONV)を行った131 例の結果について報告している。この結果,OS 中央値と2 年生存率は,IMPRINT 群で20.2 カ月と42%,CONV 群で12.3 カ月と20%であった。Kamofsky PS が高いこと,上皮型,顕微鏡的完全切除,化学療法の併用,IMPRINT の使用がOS 延長の因子とされた。

有害事象については,食道炎がIMPRINT 群で有意に少ないが,Grade 2 以上の放射線性肺臓炎は両群で有意差を認めなかった11)。MDACC のグループは,P/D 施行後,IMRT にて45 Gy の片側胸郭照射を行った24 症例(P/D-IMRT 群)とEPP 施行後にIMRT を行った24 例(EPP-IMRT 群)とのマッチング比較を行い,OS 中央値は28.4 カ月と14.2 カ月(P=0.04)でP/D-IMRT 群でやや良好で,Grade 4~5 の有害事象に有意差は認めなかった(0% vs 12.5%,P=0.23)と報告している12)。その後,MSKCC とMDACC によるIMPRINT の前向き第Ⅱ相試験が行われ,放射線性肺臓炎については27 例中Grade 2~3 が8 例で,Grade 4~5 はみられなかった。この結果,P/D 後のIMPRINT は安全で,許容できる放射線性肺臓炎発生率であると結論している13)

これらの結果を受け,ASCO からのガイドライン14)においても,P/D 後にIMPRINT を行うことを考慮してよいとしている。このように海外ではIMPRINT の導入により有害事象の低減が期待できるようになっているが,本邦においては効果と安全性の確認は行われておらず,P/D 術後または手術非適応症例に対して放射線治療を行う場合には,十分な経験を有する施設で臨床試験として行われるべきである。

以上より,エビデンスの強さはD,また総合的評価では,現時点では実臨床においてP/D 後に片側胸郭照射を行わないよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

CQ7
EPP 後放射線治療として3 次元原体放射線治療(3D-CRT)や強度変調放射線治療(IMRT)は勧められるか?

エビデンスの強さC
EPP 後放射線治療として,3D-CRT やIMRT を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:80%〕

解説

OS:EPP 後の片側胸郭照射の方法としてX 線と電子線を組み合わせた3 次元原体放射線治療(3D-CRT)が行われてきた15)。標的体積が胸腔から腹腔を含む広範囲かつ複雑な形状を呈している片側胸郭照射の場合,強度変調放射線治療(IMRT)は3D-CRT よりも標的体積への線量分布の改善が期待できる16)

EPP 後に3D-CRT を行った35 例では局所再発が37%と報告されている15)。一方,EPP 後にIMRT を用いた63 例の治療成績として,照射野内再発がわずか5%と良好な成績が報告されている17)。さらに3D-CRT を施行した24 例とIMRT を施行した14 例の比較では,IMRT 群で有意に局所再発が低かったとの報告がある(41.7% vs 14.3%,P=0.03)18)。IMRT に関するレビューでもIMRT を施行することで従来の成績を超える可能性はあるとしている19)20)。国内からの報告では,前向き第Ⅱ相試験であるJMIG0601 試験の結果,三者併用療法の完遂率の低さには課題があるが,EPP 後の3D-CRT は19 例中17 例で完遂(有害事象による中止1 例)でき,術後放射線治療を行った群で生存率,2 年PFS が良好であった21)。また,京都大学のグループはEPP 後にIMRT を行った21 例について,17 例で完遂でき,良好な局所制御(3 年局所再発率12.3%)が得られたとしている22)

安全性:Harvard 大学からのEPP 後のIMRT に関する初期報告で13 例中6 例に致死的な放射線肺臓炎を生じ,対側健常肺への照射線量が問題とされ23),EPP 後のIMRT による有害事象として放射線肺臓炎に留意する必要がある。特に低線量域の拡大を示すパラメータを抑制することが重要であることが示された。IMRT を施行した63 例の報告では6 例(9.5%)の呼吸器関連死を認めており,肺のV20 Gy(20 Gy 以上照射される肺体積の全肺体積に対する割合)は多変量解析にて有意な因子であったとしている24)。以上の報告から,IMRT による放射線肺臓炎は対側健常肺への照射線量に依存する傾向にあり,肺毒性低減のためにIASLC などのグループからは厳格な線量制約(V20 Gy<7%,Mean Lung Dose<8 Gy)を守ることを推奨している25)

このように胸膜中皮腫に対する術後IMRT は,局所制御やリスク臓器保護の面で期待されるものの,重篤な放射線肺臓炎などの有害事象を引き起こす可能性があるため,症例数が見込める経験のある施設またはプロトコールを確立した状態で行うべきである。

現時点では,いずれの報告も後方視的観察もしくは第Ⅱ相試験であり,IMRT と3D-CRT を比較した第Ⅲ相試験は現在のところ存在しないことから,放射線治療の方法として3D-CRT またはIMRT を行うことを考慮してもよい。

以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価ではEPP 術後放射線治療として,3D-CRT やIMRT を行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

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内科治療

3-1
周術期

CQ8
胸水コントロールのためにタルクやOK432 による胸膜癒着術は勧められるか?

エビデンスの強さB
  1. a. 胸水コントロールのため胸膜癒着術を行うよう推奨する。

    〔推奨の強さ:1,合意率:85%〕

エビデンスの強さC
  1. b. 胸膜癒着術に用いる薬剤としてはタルク懸濁液を提案する。

    〔推奨の強さ:2,合意率:60%〕

解説

悪性胸膜中皮腫の周術期のみを対象に胸膜癒着の有用性を検討した比較試験はない。

有効性(胸水コントロール):癌腫を問わないいわゆる癌性胸膜炎に対し,胸腔ドレナージ単独と,その後の胸水の再貯留を抑制するための胸膜癒着術を比較した試験において,タルクによる胸膜癒着術施行群で胸水コントロール率が優れていた(100% vs 60%)との報告がある1)。悪性胸膜中皮腫に対する使用薬剤についてはタルクを用いた172 症例の前向き観察研究で,胸水コントロール率は3 カ月時点で49%(85/172 例),1 年生存者においては93%(79/85 例)であった2)。また,タルクによる胸膜癒着術88 例とVATS による胸膜部分切除87 例とのランダム化比較試験では,1 年生存率は前者が57%,後者が52%であり,1 年生存者の胸水コントロール率はそれぞれ77%(27/35 例)と70%(23/33 例)と報告され,胸水貯留のある中皮腫に対する胸膜癒着術の胸水コントロール率は胸膜部分切除と同等であった3)

有効性(OS,RFS):胸膜癒着術施行後のOS について2 つの比較試験2)4),PFS については1 つの比較試験がある5)。いずれの試験においても,胸膜癒着術の有無によりOS,PFS に有意差は認められていない。

安全性:胸膜中皮腫85 例を含んだ前向きコホート試験において,タルク懸濁法はARDS の併発を来さなかった6)。タルクによる胸膜癒着術とVATS による胸膜部分切除とのランダム化比較試験では,合併症はそれぞれ14%と31%であった3)

QOL:胸膜癒着術後のQOL の変化について,3 つの比較試験において検討されているが3)5)7),少なくとも胸膜癒着術がQOL を損なうことを示唆する報告はない。

  1. a. よって,胸水制御と症状軽減を目的とした胸膜癒着術は,外科治療などの積極的な治療の適応の有無にかかわらず実施可能であり,有用と考える。特にドレナージ後に肺の再拡張が得られた症例では生検後に胸水コントロール目的の胸膜癒着術を行うよう推奨する。以上より,エビデンスの強さはB,また総合的評価では胸膜癒着術を行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
  2. 投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年
  3. b. 使用薬剤としてはタルク懸濁液が胸水制御率に優れているとのエビデンスが多く存在する。以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価ではタルク懸濁液を用いた胸膜癒着を行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
  4. 投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

CQ9
術前・術後の化学療法は勧められるか?

エビデンスの強さC
  1. a. 術前もしくは術後の化学療法を行うよう推奨する。

    〔推奨の強さ:1,合意率:85%〕

エビデンスの強さC
  1. b. 化学療法レジメンとしてはシスプラチン+ペメトレキセド併用療法を推奨する。

    〔推奨の強さ:1,合意率:90%〕

解説

手術可能な悪性胸膜中皮腫症例には,術前または術後のどちらかに集学的治療の一環として化学療法が検討されるが,周術期化学療法を術前または術後のどちらに行うべきかの前向き比較試験の報告はない。後ろ向き観察研究,集学的治療について検討した論文について下記に記載する。

OS:周術期に化学療法を実施した症例を対象とした後ろ向き観察研究では,術前と術後でOS の有意差は認められなかった(20.9 カ月vs 21.7 カ月P=0.500)8)。術前あるいは術後化学療法と外科治療(胸膜肺全摘術),術後放射線治療を組み合わせた集学的治療に関する複数の第Ⅱ相試験9)~12)および前向きコホート研究13)~15)がある。このうちCDDP+PEM 併用療法による術前化学療法と胸膜肺全摘術,術後放射線治療を行った3 つの第Ⅱ相試験において,OS 中央値は16.8~19.9 カ月9)~11)であり,胸膜剝皮術とCDDP+PEM 併用療法による術後化学療法,術後放射線治療を行った前向きコホート研究では,OS 中央値は30 カ月,また2 年,3 年生存率はそれぞれ69%,50%であった14)

PFS:上述した臨床試験のうち術前あるいは術後に化学療法を行いPFS を解析した論文は4 編ある。PFS の中央値は10.1~13.9 カ月9)~12)であった。

RR:術前化学療法の奏効率に関して,CDDP+PEM 併用療法を用いた場合の奏効率は26.0~33.3%9)11)16)であり,CDDP+GEM 併用療法を用いた試験では26%であった16)

安全性:術前化学療法として実施したCDDP+PEM 併用療法で,Grade 3 以上の血液毒性,発熱性好中球減少,肺炎,胸痛,肺血栓の報告があるが,97%以上のdose intensity が保たれており,その後の外科治療のリスクを高めることはないとされている9)

QOL:術前化学療法によるQOL の変化について1 つの臨床試験があり,術後に身体的なQOL の低下がみられたが,その後回復したと報告されている12)

  1. a. よって,術前あるいは術後に化学療法を行うことの有用性を手術単独と比較した試験はないが,化学療法の毒性は許容範囲内であり,術前,術後いずれかに化学療法を行うことが推奨される。以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価では化学療法を行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
  2. 投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年
  3. b. 推奨されるレジメンとしては,複数の第Ⅱ相臨床試験で有効性と安全性が報告されているCDDP+PEM 併用療法を切除不能症例に対する化学療法に準じ実施することを推奨する。以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価ではCDDP+PEM 併用療法を行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
  4. 投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

引用文献

1)
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3-2
進行期

CQ10
胸水コントロールなどの局所療法と全身的な薬物療法のどちらを先に行うべきか?

エビデンスの強さD
自覚症状を呈するような胸水貯留を伴う場合は,局所療法を先行するよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:65%〕

解説

胸水コントロールなどの局所療法と全身的な薬物治療を比較した試験はない。大量の胸水がある症例に薬物治療を行う場合,薬物によっては半減期が長くなるなど薬物動態に影響を与え,毒性の増強につながる可能性があるため注意が必要である。悪性胸膜中皮腫の場合,薬物治療のみで胸水のコントロールができる症例は限られると考えられるため,少なくとも息切れ・呼吸困難などの自覚症状を呈するような胸水貯留を伴う場合は,局所療法を先行することが推奨される。

以上より,エビデンスの強さはD,また総合的評価では自覚症状を呈するような胸水貯留を伴う場合は,局所療法を先行するよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

CQ11
PS 0-2 の一次治療にプラチナ併用療法は勧められるか?

エビデンスの強さB
シスプラチン+ペメトレキセド併用療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:95%〕

解説

PS 良好例に対する一次治療として,化学療法(MVP 療法:MMC+VBL+CDDP もしくはVNR 単剤療法)と対症療法のランダム化比較試験1)が,その後,CDDP 単剤とCDDP+PEM 併用療法の第Ⅲ相比較試験が行われた2)。また,CBDCA+PEM 併用療法については2 つの第Ⅱ相試験がある3)4)

OS:対症療法に比べ,MVP 療法のOS 延長効果は示されなかった(8.5 カ月vs 7.6 カ月,HR 0.89,P=0.29)が,VNR 単剤療法は統計学的に有意ではないものの,OS 延長効果が示された(9.5 カ月vs 7.6 カ月,HR 0.80,P=0.08)。CDDP 単剤とCDDP+PEM 併用療法の比較では併用療法のOS 延長効果が示された(9.3 カ月vs 12.1 カ月)。CDDP 単剤療法が対症療法よりOS が短くなるとは考えにくいことから,CDDP+PEM 併用療法によるOS 延長効果はあるものと考えられる。

また,CBDCA+PEM 併用療法については2 つの第Ⅱ相試験で報告されている結果から,いずれもCBDCA+PEM 併用療法のOS 中央値はCDDP+PEM 併用療法と同様な値(12.7~14 カ月)が得られている。

PFS:MVP 療法と対症療法の比較試験ではOS 同様に延長効果を認めなかった(5.1 カ月vs 5.6 カ月,HR 0.91,P=0.39)が,CDDP 単剤とCDDP+PEM 併用療法の比較では併用療法の延長効果を認めた(TTP 3.9 カ月vs 5.7 カ月)。

また,CBDCA+PEM 併用療法では,CDDP+PEM 併用療法と比較し同等であった(TTP:6.5~8.0 カ月)。

RR:CDDP 単剤とCDDP+PEM 併用療法の比較では16.7% vs 41.3%と併用療法で有意に良好であった。

また,CBDCA+PEM 併用療法は,CDDP+PEM 併用療法と比較しORR は18.6%~25%とやや劣る結果であった。

安全性:CDDP 単剤とCDDP+PEM 併用療法の比較ではGrade 3~4 の好中球減少(27.9% vs 2.3%),血小板減少(0% vs 5.8%)はいずれも有意(P<0.001)にCDDP+PEM 併用療法で高かった。

また,CBDCA+PEM 併用療法は,CDDP+PEM 併用療法と比較し好中球減少,貧血を除き毒性は軽度であった。

QOL:化学療法と対症療法との比較試験ではEORTC QLQ-C30 で評価されたが,化学療法と対症療法に差は認めなかった。

よって,PS 良好な症例にはプラチナ併用療法,CDDP の使用が可能であればCDDP+PEM 併用療法を行うよう推奨する。CBDCA+PEM 併用療法については比較試験に基づいたものではないが,CDDP 不耐な患者に対しては選択肢の1 つにしてよいと判断される。なお,PEM を用いた維持療法の有効性について検証した比較試験で,論文化されたものは見当たらない。

以上より,エビデンスの強さはB,また総合的評価ではCDDP+PEM 併用療法を行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

CQ12
プラチナ製剤併用薬物療法で勧められる投与コース数は?

エビデンスの強さC
6 コースを行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:80%〕

解説

至適投与法に関する前向きな検討はない。しかし,CDDP+PEM 併用療法vs PEM 単剤の第Ⅲ相試験においては,原則はPD もしくは忍容不能な毒性が発現するまで投与を継続することが推奨されていたが,CDDP+PEM 併用療法群で8 コース以上投与可能であったのはわずか7.1%に過ぎず,投与コース数の中央値は6 コースであった。よって,6 コースの投与でも十分な可能性がある1)

以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価では6 コースを行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

CQ13
PS 0-2,75 歳以上の一次治療にプラチナ併用療法は勧められるか?

エビデンスの強さD
PS 0-2 であればプラチナ併用療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:85%〕

解説

PS 良好な高齢者の一次治療として,プラチナ併用療法の効果,安全性を検討した比較試験はない。

OS:CDDP+PEM 併用療法とCDDP 単剤の第Ⅲ相比較試験2)では,登録年齢の上限を設けていないため,一定数の75 歳以上の症例が登録されているが,75 歳以上の高齢者に限ったデータの公表はなくOS の延長効果は不明である。

PFS:75 歳以上に限ったサブセットの解析はなく,PFS の延長効果は不明である。

RR:同様に評価は不能であった。

安全性:CBDCA+PEM 併用療法の2 つの試験の後方視的統合解析では,70 歳未満と比較し70 歳以上でGrade 3~4 の貧血(20.8% vs 6.9%,P<0.01)が有意に増加していたが,非血液毒性は同程度であった5)

QOL:75 歳以上の高齢者に限ったQOL を評価できるエビデンスはなく評価不能である。

以上より,PS が良好であれば,75 歳以上の一次治療としてプラチナ併用療法は選択肢の1 つと考えられる。エビデンスの強さはD,また総合的評価ではプラチナ併用療法を行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

CQ14
PS 3-4 に全身的な薬物療法は勧められるか?

エビデンスの強さD
PS 3-4 に対し薬物治療は行わないよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:70%〕

解説

PS 不良例のみを対象とした臨床試験は存在しない。CQ11 で採用した論文では,いずれの臨床試験においても,全身的な薬物治療の対象症例はPS 0-2 であり,PS 3-4 に対するエビデンスは乏しく安全性も不明である。

以上より,PS 3-4 に対する薬物治療は行わないよう推奨される。エビデンスの強さはD,また総合的評価では薬物治療を行わないよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

CQ15
PS 0-2 の二次治療以降に勧められる薬物治療は何か?

エビデンスの強さC
  1. a. ペメトレキセド未使用の場合,ペメトレキセド単剤を推奨する。

    〔推奨の強さ:1,合意率:75%〕

エビデンスの強さD
  1. b. ペメトレキセド単剤の再投与を提案する。

    〔推奨の強さ:2,合意率:90%〕

エビデンスの強さC
  1. c. ビノレルビン単剤,ゲムシタビン単剤もしくはビノレルビン+ゲムシタビン併用療法の投与を提案する。

    〔推奨の強さ:2,合意率:90%〕

エビデンスの強さC
  1. d. ニボルマブ単剤の投与を推奨する。

    〔推奨の強さ:1,合意率:85%〕

解説

a.

OS:一次治療としてPEM が投与されていない症例を対象とした二次治療の第Ⅲ相比較試験6)において,PEM+BSC 群はBSC 群に比べてOS の延長効果は認めなかった。

PFS:PFS(3.6 カ月vs 1.6 カ月,P=0.0148)は延長効果を認めた。

安全性:Grade 3 以上の血液毒性はPEM+BSC 群で好中球減少7.4%,貧血5.8%であった。

QOL:QOL はエビデンスがなく評価不能である。

したがって,一次治療でPEM が投与されていない場合,PEM の投与を行うよう推奨する。以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価ではPEM の投与を行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年
b.

一次治療でPEM 含有レジメンを投与した症例を対象とした観察研究が2 編存在する7)8)

OS:一次治療でPEM の最良効果がnon-PD であった症例が経過観察中にPD となった場合,二次治療としてPEM 単剤もしくはプラチナ製剤+PEM 併用療法を投与した際のOS は10.5~13.6 カ月であった。

PFS:PFS は3.8~5.1 カ月であった。

RR:DCR は48~57%であった。

安全性:Grade 3 以上の血液毒性は9.7%であった。

QOL:エビデンスがなく評価不能である。

したがって,一次治療でPEM がnon-PD で終了していた場合,PEM の再投与を考慮するよう提案する。以上より,エビデンスの強さはD,また総合的評価ではペメトレキセド単剤の再投与を行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年
c.

二次治療におけるVNR 単剤は,第Ⅱ相試験が存在する9)

OS:OS は9.6 カ月であった。

RR:ORR は16%であった。

安全性:Grade 3 以上の好中球減少は55%であった。

QOL:エビデンスがなく評価不能である。

上述の論文はVNR の用量が30 mg/m2 weekly と日本と異なる点に留意が必要である。

したがって,二次治療においてはVNR 単剤の投与も選択肢と考えられるが,毒性については十分配慮すべきである。

また,二次治療におけるVNR+GEM 併用療法も,第Ⅱ相試験が存在する10)

OS:OS は10.9 カ月であった。

RR:RR は10%であった。

安全性:Grade 3 以上の好中球減少は10%であった。

有効性はVNR 単剤療法と同等の成績であり,毒性はVNR の投与量(25 mg/m2,day 1,8)の影響か許容範囲であった。

したがって,二次治療においてはVNR+GEM 併用療法の投与も選択肢の1 つと考えられる。

GEM 単剤は二次治療以降を対象とした,第Ⅱ相試験が存在する11)

OS:OS は8.0 カ月であった。

RR:RR は7%であった。

安全性:Grade 3 以上の好中球減少は30%であったが,発熱性好中球減少は1 例も報告がなかった。

有効性はVNR 単剤療法と同等の成績であり,毒性も許容範囲であった。

したがって,二次治療以降においてはGEM 単剤療法の投与も選択肢の1 つと考えられる。

以上より,二次治療以降におけるVNR 単剤,GEM 単剤,VNR+GEM 併用療法のエビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年
d.

二次治療以降におけるニボルマブ単剤は既治療の日本人(一次治療後24 人,および二次治療後10 人)を対象にしたMERIT および海外の既治療例(一次治療後33 人,および二次治療後1 人)を対象にしたNivoMes の2 編の第Ⅱ相試験が報告されている12)13)

OS:6 カ月生存率は74~85%であった。

PFS:PFS は2.6~6.1 カ月であった。

RR:ORR は24~29%であった。

安全性:ニボルマブ単剤投与による毒性はGrade 3~4 で15~26%であった。

さらに,海外の既治療例を対象にしてニボルマブとニボルマブ+イピリムマブを比較したMAPS2 ランダム化第Ⅱ相試験では,ニボルマブ単剤(一次治療後44 人,および二次治療以降19 人)は,組織型にかかわらずORR 18%,PFS 中央値4.0 カ月,OS 13.6 カ月と前述の2 編の試験と同様の成績であった14)。また,QOL はLung Cancer Symptom Scale を用いて評価され,ニボルマブ単剤投与により治療開始後12 週間で一般的な症状が48%の症例で改善したと報告された。なお,イピリムマブは現時点で切除不能悪性胸膜中皮腫既治療例に対して本邦では保険償還されていない。

以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価ではニボルマブ単剤の投与を行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

引用文献

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緩和医療

CQ16
疼痛緩和目的の放射線治療は勧められるか?

エビデンスの強さC
疼痛緩和目的の放射線治療を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:85%〕

解説

進行した胸膜中皮腫では,圧迫や浸潤により疼痛を来すことが多い。緩和目的で放射線治療を施行した報告では,約60%の症例に疼痛緩和が得られたとされている1)2)。これらの報告では,主として40 Gy/20 回または36 Gy/13 回が用いられていた。また,単施設で189 症例,227 コースの緩和照射例を検討した報告で,1 回線量4 Gy の症例のほうが,1 回線量4 Gy 未満の症例よりも緩和効果が高かった(50% vs 39%)3)。20 Gy/5 回の多施設第Ⅱ相試験の報告で,35%の症例で疼痛緩和効果があったとの報告もある4)。一方,Austin Health のグループによる報告で,45 Gy 以上の高線量でGrade 3 以上の重症な有害事象の発現率が3D-CRT で53%,IMRT で78%と高率に認められたとされている。緩和照射の際には,低線量で小さな範囲での照射が有用と考えられる5)

現在のところ最適な分割方法や至適線量は不明であるが,胸膜中皮腫の疼痛に対して緩和照射は有効であり行うよう勧められる。

以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価では疼痛緩和目的の放射線治療を行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

CQ17
症状緩和目的の胸膜癒着術は勧められるか?

エビデンスの強さB
胸水制御と胸水貯留による症状の軽減を目的とした緩和治療として,胸膜癒着術を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:80%〕

解説

胸膜中皮腫を臨床的に診断し得る最も早期の病態は胸水貯留であり,発見の動機になることが多い。縦隔を偏位させるほど,大量に貯留することもある。胸水による症状は,労作時呼吸困難,胸部圧迫感などがある。

悪性胸膜中皮腫を対象として,胸水コントロールによる症状緩和を主要評価項目とした比較試験はない。胸水コントロールに関するエビデンスは周術期のCQ8 を参照されたい6)~12)

胸腔ドレナージ後の胸膜癒着術はドレナージ単独より胸水コントロール率に優れていることが示されており,胸膜中皮腫においても症状緩和目的の胸腔ドレナージは有用と考えられる。特にドレナージ後に肺の再拡張が得られた症例では胸水コントロール目的の胸膜癒着術を行うよう推奨する。

以上より,エビデンスの強さはB,また総合的評価では胸膜癒着術を行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:胸膜中皮腫小委員会(患者2 名含む)/実施年度:2020 年

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