がん診療は,疾患の病理学的診断と進行度の評価,治療の益と不利益,患者の嗜好などから多角的に評価し行われてきた。この中で,疾患の診断にあたっては,原発巣の同定と組織型の確定は,治療方針決定の上で基幹をなす重要な診療情報であった。近年の分子生物学的進歩により,腫瘍の様々な生物学的特性が明らかにされるに従い,疾患の臓器特性を超えた臓器横断的「Tumor-agnostic」な薬剤の開発承認がなされてきている。本ガイドラインは,従来の臓器特異的な治療ではなく,臓器横断的「Tumor-agnostic」な治療について,臨床現場での円滑な検査・治療実践を行う目的で策定された。
本ガイドラインは,deficient mismatch repair(dMMR)固形がんに対する抗PD-1/PD-L1 抗体薬,neurotrophic receptor tyrosine kinase(NTRK)融合遺伝子陽性固形がんに対するtropomyosin receptor kinase(TRK)阻害薬について言及する。将来さらに新規のtumor-agnostic な薬剤が臨床導入された暁には,本ガイドラインもまた時宜を得た改訂を予定する。
dMMR 固形がん
- 標準的な薬物療法を実施中,または標準的な治療が困難な固形がん患者に対して,抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判断するためにdMMR 判定検査を強く推奨する。
- MMR 機能に関わらず抗PD-1/PD-L1 抗体薬が既に実地臨床で使用可能な切除不能固形がん患者に対し,抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判断するためにdMMR 判定検査を考慮する。
- 局所治療で根治可能な固形がん患者に対し,抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判断するためにdMMR 判定検査を推奨しない。
- 抗PD-1/PD-L1 抗体薬が既に使用された切除不能な固形がん患者に対し,再度抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判断するためにdMMR 判定検査を推奨しない。
- 既にリンチ症候群と診断されている患者に発生した腫瘍の際,抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判断するためにdMMR 判定検査を推奨する。
- 抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判定するためのdMMR 判定検査として,microsatellite instability(MSI)検査を強く推奨する。
- 抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判定するためのdMMR 判定検査として,immunohistochemistry(IHC)検査を推奨する。
- 抗PD-1/PD-L1 抗体薬の適応を判定するためのdMMR 判定検査として,分析学的妥当性が確立されたnext-generation Sequencing(NGS)検査を推奨する。
- 免疫チェックポイント阻害薬は,免疫関連有害事象への十分な対応が可能な体制のもと投与することを強く推奨する。
NTRK 融合遺伝子を有する固形がん
- NTRK 融合遺伝子と相互排他的な遺伝子異常を有する固形がん患者では,NTRK 融合遺伝子検査を推奨しない。
- NTRK 融合遺伝子が高頻度に検出されることが知られているがん種では,NTRK 融合遺伝子検査を強く推奨する。
- 上記1,2 以外のすべての転移・再発固形がん患者で,TRK 阻害薬の適応を判断するためにNTRK 融合遺伝子検査を行うことを推奨する。
- NTRK 融合遺伝子が高頻度に検出されることが知られているがん種では,根治治療可能な固形がん患者に対して,NTRK 融合遺伝子の検査を推奨する。
- 上記4 以外のすべての早期固形がん患者で,TRK 阻害薬の適応を判断するためにNTRK 融合遺伝子検査を行うことを考慮する。
- 標準治療開始前あるいは標準治療中からNTRK 融合遺伝子の検査を行うことを強く推奨する。
- TRK 阻害薬の適応を判断するために,分析的妥当性が確立されたNGS 検査を強く推奨する。
- NTRK 融合遺伝子のスクリーニング検査法としてfluorescence in situ hybridization(FISH)を推奨しない。
- NTRK 融合遺伝子のスクリーニング検査法としてpolymerase chain reaction(PCR)は現時点で推奨を決定することはできない。
- NTRK 融合遺伝子が高頻度に検出されることが知られているがん種では,FISH あるいはPCR によるNTRK 融合遺伝子(特にETV6-NTRK3 融合遺伝子)検査を行ってもよい。
- NTRK 融合遺伝子のスクリーニング検査としてIHC を推奨する。
- TRK 阻害薬の適応を判断するためにはIHC を推奨しない。
- TRK 阻害薬の適応を判断するためのNTRK 融合遺伝子の検査法としてNanoString を推奨しない。
- NTRK 融合遺伝子を有する切除不能・転移・再発固形がんに対してTRK 阻害薬の使用を強く推奨する。
- 初回治療からTRK 阻害薬の使用を推奨する。