診療ガイドライン

1 疫学

総論

前立腺癌の罹患数は2012 年に全世界で年間約110 万人,男性癌の14.8%で第2位であった。年齢調整罹患率は10 万人あたり30.7(世界人口基準)で,やはり第2位であった。罹患率は先進国で高く発展途上国で低く,その差は約5倍ある2)。死亡数は年間約31万人で6.6%を占め第5位,年齢調整死亡率は10 万人あたり7.8 で第5位であった2)

本邦では2011 年の罹患数が78,728 人,年齢調整罹患率は10 万人あたり66.8(1985 年人口モデル)で胃癌,大腸癌に次いで男性癌の第3位であった。2014 年の死亡数は11,507 人,年齢調整死亡率は10 万人あたり7.3 で,肺癌,胃癌,大腸癌,肝臓癌,膵癌,結腸癌,直腸癌,食道癌に次いで第9位であり,2000 年の8.6 をピークとして緩徐な減少傾向にある。2015 年の短期予測では罹患数は年間98,400 人(第1位),死亡数は年間12,200 人(第6位)と予測されている3)

人種別では,前立腺癌の生涯罹患率はアジア人で13人に1人,白人で8人に1人,黒人で4人に1人と推定されている4)。一方,ラテント癌の頻度はアジア人19.9%,白人26.7%,黒人26.2%と報告されており5),人種間の差は臨床癌ほど大きくはない。

前立腺癌のリスクとしては,家族歴は罹患リスクを約2.4〜5.6 倍に高めることが知られており,遺伝的要因の関与は確実と考えられる6)。ゲノムワイド関連解析研究(genome-wide association study;GWAS)によって同定された前立腺癌発症に関わる遺伝子座については,8q24 領域を筆頭に約60 カ所に及ぶが,個々の遺伝子多型のオッズ比は1.5 未満であり浸透率は低い7)

後天的な要因として推測されているのは,①生活習慣 (食事,運動,嗜好品,機能性食品等),②肥満,糖尿病およびメタボリック症候群,③前立腺の炎症や感染,④前立腺肥大症や男性下部尿路症状(lower urinary tract symptoms;LUTS),⑤環境因子や化学物質への曝露等が挙げられる。しかし結果が相反する報告も多く,前立腺癌の罹患に関与する後天的要因を特定することは困難である。

前立腺癌の自然史はラテント癌と臨床癌とで異なり,PSA 検査普及前後の時代でも異なるであろう。ラテント癌が若年男性にもみられて年齢とともに頻度が高くなることから,前立腺癌の多くは数十年の経過で極めて緩徐に成長すると考えられる。臨床癌は,PSA 検査普及前に行われた前立腺全摘除術と待機遅延ホルモン療法の無作為化比較試験(観察期間中央値13.4 年)では,全死亡率(57.6% vs 71.0%),前立腺癌特異的死亡率(18.2% vs 28.4%)ともに待機遅延ホルモン療法群で有意に不良であった8)。一方,PSA 検査普及後に診断された限局性前立腺癌患者を対象とした同様の研究(観察期間中央値10年)では,全死亡率(47.0%vs 49.9%),前立腺癌特異的死亡率(5.8% vs 8.4%)ともに群間に有意差は認められなかった9)。これらの研究から,前立腺癌は総じて進行は緩徐であるが,臨床的に診断される前立腺癌の一部は進行して致死的になると推察される。

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CQ1
前立腺癌の罹患率・死亡率はいくらか?

2012 年の全世界での前立腺癌罹患数は約110 万人で,男性癌の14.8%(第2位)を占め,死亡数は年間約31 万人(6.6%)で5番目に多い。年齢調整罹患率は10 万人あたり30.7(第2位),年齢調整死亡率は10 万人あたり7.8(第5位)である。いずれも欧米等の先進国で高く,PSA 検査導入後は死亡率が減少傾向にある。本邦における罹患数は2011 年に78,728 人(第2位(男性))で,2015 年に98,400 人(第1位(男性))へ増加することが予測されている。一方,本邦における2014年の死亡数は11,507人(第7位(男性))で,年齢調整死亡率は10万人あたり7.3(第9位(男性))であった。

解説

全世界の前立腺癌罹患数は2012 年に年間約110 万人とされ,男性癌の14.8%で,肺癌(約124 万人(16.8%))に次いで2番目に多い。死亡数は年間約31万人で6.6%を占め,5番目に多い2)。世界人口を基準とした年齢調整罹患率は,全世界で10 万人あたり30.7 と肺癌(34.2)に次いで多く,先進国では69.5と最多であるのに対し,発展途上国では14.5(第4位)と約5倍の差がある2)。世界の地域別にみた年齢調整罹患率はオセアニア(111.6),北米(97.2),西欧(94.9),北欧(85.0)の順で,西アジア(28.0),東南アジア(11.2),東アジア(10.5)等のアジア地域で低い。年齢調整死亡率は,全世界で10万人あたり7.8 と5番目に高い。先進国では10.0 で3番目に高く,発展途上国では6.6で6番目に高い2)。米国では死亡率が1990 年代前半をピークに減少が続いており,2011 年には47%低下している3)。前立腺癌の罹患には明らかな人種差があり,生涯罹患率はアジア人で13人に1人,白人で8人に1人,黒人で4人に1人と推定される4)

本邦では,2011 年の前立腺癌罹患数は年間78,728 人であり,すべての男性癌の15.9%を占め,胃癌(90,083 人(18.2%))に次いで2番目であった。1985 年を基準とした年齢調整罹患率は10 万人あたり66.8 で,胃癌(80.4),大腸癌(67.2)に次いで3番目であった。2000 年の年齢調整罹患率が22.9 であったので,10 年で罹患率は約3倍に増加したことになる。2014年の前立腺癌死亡数は11,507 人(第7位(男性)),年齢調整死亡率は10 万人あたり7.3 で,肺癌(39.7),胃癌(24.1),大腸癌(21.0),肝臓癌(15.0),膵癌(13.3),結腸癌(12.8),直腸癌(8.2),食道癌(8.0)に次いで9番目であった。年齢調整死亡率は2000 年の8.6をピークとして2005 年まで横ばいであったが,それ以降やや減少している(2014年で7.3)。2015年の短期予測では罹患数は年間98,400 人(第1位(男性)),死亡数は年間12,200人(第6位(男性))とされている5)

ラテント癌(臨床的に前立腺癌の徴候が認められず,死後の剖検により初めて確認される癌)の頻度は,アジア人19.9%,白人26.7%,黒人26.2%と報告され,人種間の差は小さい6)。経時的には,本邦の単一施設からの報告で,1983〜1989 年は20.8%(104/501 人),2008〜2013 年は43.3%(55/127 人)と増加していた7)。年齢別には,40 歳代,50 歳代,60 歳代,70 歳代,80 歳代,90 歳代の順に, アジア人では6.3%,17.3%,17.7%,25.4%,33.2%,50.0%,白人では15.0%,26.9%,33.3%,35.4%,49.0%,91.1%,黒人では24.7%,39.6%,56.7%(70歳代以降のデータなし)と,高齢者で高い6)。線形モデルでは,年齢が10 歳増す毎にラテント癌のリスクは71%増加する8)

偶発癌(臨床的に指摘されていなかったが,他疾患の治療のために切除された組織の検索で発見された癌)の頻度は,膀胱全摘除術を受けた男性68/114 人(59.6%)9),931/4,299 人(21.7%)等とされる10)。アジアでは,中国人で95/340 人(27.9%)11),日本人で91/349 人(26.1%)であった12)

参考文献

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CQ2
前立腺癌罹患リスクとしての先天的・遺伝的要因は何か?

前立腺癌の家族歴は罹患リスクを2.4〜5.6 倍に高める。HOXB13 G84E 変異保因者の罹患リスクは3.3〜20.1 倍高いとされる。その他の遺伝子変異や一塩基多型も罹患リスクとなるが,オッズ比はおおよそ1.5 未満であり,その影響は大きくない。

解説

白人を中心としたメタアナリシス(2003 年)によれば,第一度近親者に1人の前立腺癌患者がいる場合,前立腺癌罹患リスクは2.5 倍(95%CI:2.2〜2.8)に上昇する。父子の場合は2.5 倍(95%CI:2.1〜3.1),兄弟の場合は3.4 倍(95%CI:2.9〜4.1)とされる。また,第一度近親者の発症年齢が65 歳以上の場合のリスクは2.4 倍(95%CI:2.0〜2.9)であるが,65歳未満の場合は4.3 倍(95%CI:2.9〜6.3)に高まる1)。本邦の疫学的研究(2007年)では,第一度近親者に1人の前立腺癌患者がいる場合の罹患リスクは5.6 倍(95%CI:1.5〜20.5)であった2)。日本人を含むKiciński らのメタアナリシス(2011 年)では,第一度近親者に1人の前立腺癌患者がいる場合は2.5 倍(95%CI:2.3〜2.7),父親が前立腺癌に罹患した場合は2.4 倍(95%CI:2.0〜2.7),兄弟の場合は3.1 倍(95%CI:2.4〜4.2),第一度近親者に複数の罹患者がいる場合は4.4 倍(95%CI:2.6〜7.4)であった。第一度近親者の発症年齢が65 歳以上の場合のリスクは1.9 倍(95%CI:1.5〜2.5),65 歳未満の場合は2.9 倍(95%CI:2.2〜3.7)であった3)

前立腺癌罹患リスクに関連する遺伝子や遺伝的変異も知られている。高リスクの家系を対象とした連鎖解析では,RNASEL(1q25),ELAC2(17q12),MSR1(8p22),HOXB13(17q21)等が責任遺伝子として同定されている4)。HOXB13 G84E 変異(rs138213197)は2012 年にJohns Hopkins 大学の研究者らによって報告された比較的新しい遺伝子変異であり,コドン84 番目のグルタミン酸がグリシンに置き換わるミスセンス変異である。この変異は前立腺癌患者の1.4%(72/5,083 例),コントロール群の0.1%(1 /1,401 例)に認められ,罹患リスクは20.1 倍(95%CI:3.5〜803.3)となる5)。諸家の報告をまとめると,同変異保因者の前立腺癌罹患リスクは3.3〜20.1 倍とされる4)。家族性前立腺癌の家系では同変異保因者の割合は高く,前立腺癌に罹患していない男性の31%(42/137 例),罹患した男性の51%(194/382 例)に同変異がみつかっている。家族性前立腺癌の家系内における同変異の頻度は地域差があり,フィンランド22.4%,スウェーデン8.2%,北米0〜6.1%,オーストラリア2.6%である6)。人種別では,同変異の頻度は欧州人の家族性前立腺癌家系で4.8%であったが,アフリカ人家系,ユダヤ人家系,中国人家系では同変異はみつかっていない7)

2000 年代半ばからGWAS が行われている9)。前立腺癌罹患リスクと関連する一塩基多型の数は100 近くで10),日本人のGWASから発見された多型もある1112)。前立腺癌罹患リスクと関連する遺伝子座も8q24 領域を筆頭に約60 カ所に及ぶ13)。ただし,GWAS によって明らかにされた一塩基多型のアレル頻度には人種差があり,ある人種ではリスクとなる一塩基多型が他人種ではそうでないこともある1014)。また,個々の一塩基多型のリスクのオッズ比はおおよそ1.5 未満であり浸透率は高くないと考えられる13)

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CQ3
前立腺癌罹患リスクとしての後天的・局所的要因は何か?

前立腺癌との関連性が推測されている後天的要因としては,①生活習慣(食事,運動,嗜好品,機能性食品 等),②肥満,糖尿病およびメタボリック症候群,③前立腺の炎症や感染,④前立腺肥大症や男性下部尿路症状,⑤環境因子や化学物質への曝露,等が挙げられる。しかし,いずれの要因についても相反する研究があり,方法論的にも交絡因子を除外するには限界があるので,前立腺癌の罹患に関与する後天的要因を特定することは困難である。

 

解説

生活習慣と前立腺癌発生との関係および生活習慣の改善による前立腺癌の予防については,「2.(化学)予防」を参照願いたい。

肥満については,前立腺癌,特にhigh grade の癌のリスクと関係するとの報告が多い1)。メタアナリシスの結果,限局性癌,進行性癌のリスクはbody mass index(BMI)が増加するにつれてそれぞれ減少,増加したことが示されている2)。本邦からの報告では,BMI が高いほど低悪性度癌,高悪性度癌双方の発見率が上昇した3)。成人後の体重増加が著しいほど発癌のリスクが高まったとの報告もある4)

糖尿病は前立腺癌発生リスクを抑制するとの報告が多い5-7)。139,131 例の男性を12 年間経過観察したところ,糖尿病を有する男性の癌発生リスクは26%減少した(95%CI:0.63〜0.86)7)。一方,糖尿病は前立腺癌全体の発見率とは関係がなかったが,BMI≧25 の肥満者においてはGleasonスコア8〜10 の癌発見のリスクが有意に高かったとの本邦からの報告がある8)。Reduction by Dutasteride of Prostate Cancer Events(REDUCE)試験のサブ解析においても,糖尿病は正常体重(BMI<25)においてはGleasonスコア7〜10 の癌の発見リスク低下(オッズ比:0.35),肥満者(BMI≧30)においてはリスク増加(オッズ比:1.38)の傾向があったことが示されている9)

腹囲増加,高血圧,高血糖,脂質代謝異常を所見とするメタボリック症候群と前立腺癌の関係は明確ではない。メタアナリシスでは,メタボリック症候群は癌発生リスクを12%増加させたが有意ではなかった(p=0.231)10)。285,040 例を12 年間観察した大規模研究では,メタボリック症候群の前立腺癌発生率は11%,非メタボリック症候群のそれは13%と,むしろメタボリック症候群において前立腺癌発生が抑制されていた11)。一方,最近の大規模研究では,メタボリック症候群は前立腺癌,臨床的に重要な癌,Gleason スコア7〜10 の癌すべてのリスクを増加させたことが報告されている12)。メタボリック症候群の構成要因との関係では,個々の要因と関連を認めなかったとの報告12)から高血圧と腹囲増加のみが有意な因子であったとの報告10)まで様々である。本邦においては,高トリグリセリド血症の癌発見のオッズ比は60 歳以上の男性においては約2であった13)。脂質異常症薬スタチン使用による前立腺癌発生リスクの低下は7% (95%CI:0.87〜0.99,p=0.03)と報告されている14)

前立腺癌の局所的な発生要因として炎症の重要性が指摘されている1516)。しかし,前立腺炎と前立腺癌発生の関係は必ずしも一定していない16)。20 の症例対照研究を対象としたメタアナリシスでは,前立腺炎と前立腺癌の有意な関係が示されている (fixed effect model オッズ比:1.50(95 %CI:1.39〜1.62),random effects model オッズ比:1.64(95 %CI:1.36〜1.98))17)。原虫(T. vaginalis),細菌(T. pallidum,N. gonorrhoeae,P. acnes,C. trachomatis),ureaplasma,mycoplasma あるいはウイルス(herpes simplex virus,BK virus,xenotropic murine leukemia virus-related virus(XMRV),human papilloma virus(HPV),cytomegalovirus)等も関与が推測されているが,結論は一定していない1516)。XMRV やHPV の関与は否定的とする報告が多い。

LUTS を主訴として外来を受診した日本人男性では,前立腺癌の発見率は4.4%と人間ドック検診や集団検診における発見率よりも高かったとの報告がある18)。一方,国際前立腺症状スコア(IPSS)が7点以下と8点以上の癌発見率はそれぞれ27.4%,32.7%と同様であったとの報告19)や,むしろIPSS が7点以下であることは前立腺体積に関わらず前立腺癌やhigh grade の癌発見の危険因子であったとの報告もある20)

太陽放射への曝露が少ないと前立腺癌の発生リスクが高いとの報告が散見されるが,メタアナリシスではこの傾向は明らかではなかった21)。公害や殺虫剤への曝露は危険因子である可能性がある。長崎の爆心地の近くで被爆した男性生存者の前立腺発癌リスクは高いとの報告があり22),放射線の影響も推測されている。

いずれの要因についても相反する報告も多く,結論は一定していない。交絡因子を除外するには限界もあり,前立腺癌の罹患に関与している後天的要因を特定することは困難である。

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CQ4
前立腺癌の自然史は?

前立腺癌の多くは数十年の経過で極めて緩徐に成長すると考えられる。そのため,前立腺癌保有者の多くは診断されることなく他の疾患で死亡し,一部が検診あるいは臨床症状の発現から診断されるものと推定される。前立腺癌は総じて進行は緩徐であるが,臨床的に診断される前立腺癌の一部は進行して致死的となる。

 

解説

生前に前立腺癌を疑う臨床所見がなく,剖検時に初めて確認された前立腺癌をラテント癌と呼ぶ。若年者の剖検による検討で,微小なラテント癌は30 歳代から認められると報告されている1)。1948〜2013年に発表された剖検による29 研究のシステマティックレビューでは,ラテント癌の保有率は年代とともに非線形的に上昇し,30 歳未満で5%,80 歳以上で59%であったと報告されている2)。ラテント癌は加齢とともに緩徐に発生・成長するものと考えられる。

また,臨床癌の罹患率は欧米で高く本邦で低いのに比べ,ラテント癌の頻度は地域差が小さいことが知られている3)。米国の黒人,白人,コロンビア人,ハワイ移住の日本人および日本在住日本人の剖検検体を用いたラテント癌の比較研究では,ラテント癌を浸潤型と非浸潤型に分けた場合,50 歳以上における浸潤型腫瘍の頻度は,黒人23.5%,白人18.2%,コロンビア人19.8%,ハワイ在住の日本人13.8%,日本在住の日本人8.8%であり,世界の前立腺癌罹患率と同様の人種差がみられた。しかし,非浸潤型腫瘍の頻度は人種による有意差がみられなかった。このことから,非浸潤型ラテント癌は生涯臨床癌にならずに経過する可能性が示唆された3)。すなわち,ラテント癌と臨床癌は生物学的に異なる自然史をもつ可能性が考えられる。

一方,同一施設での1955〜1960 年および1991〜2001年における剖検例の比較検討では,40 歳以上での前立腺ラテント癌の頻度が4.8%から1.2%へ有意に減少したとの報告がある。PSA 検査の普及によって早期に前立腺癌が診断されるようになり,ラテント癌の頻度が低下した可能性が示唆されている4)。このように臨床癌およびラテント癌の様相には変化がみられ,PSA 時代におけるラテント癌は生物学的に独立した小集団ではなく,長い前立腺癌の自然史におけるある1つの段階とも捉えられよう5)

臨床的に診断される前立腺癌の自然史はどうであろうか。PSA 検査が普及する以前の早期前立腺癌患者695 例を対象として,前立腺全摘除術と待機遅延ホルモン療法の無作為化比較試験が行われた。観察期間中央値13.4 年で前立腺全摘除術群200/347 例(57.6%),待機遅延ホルモン療法群247/348 例(71.0%)が死亡したが,前立腺癌特異的死亡はそれぞれ63 例(18.2%)および99 例(28.4%)であり,有意に待機遅延ホルモン療法群で多かった。また,観察開始から18 年の時点で待機遅延ホルモン療法群の67.4%がホルモン療法を受けたが,長期生存者の大部分は緩和治療を必要としなかった6)。また,PSA 検査普及後に診断された限局性前立腺癌731例を対象として同様の研究が行われ,観察期間(中央値)10 年で,前立腺全摘除術群171/364 例(47.0%),待機遅延ホルモン療法群183/367 例(49.9%)が死亡したが,前立腺癌特異的死亡はそれぞれ21 例(5.8%)および31 例(8.4%)であり,全死亡率および前立腺癌特異的死亡率に差はなかった7)。これら2つの研究から,臨床的に診断された前立腺癌においては,一部は癌が進行して死亡の転帰をとるが,緩徐に進行し他の疾患で死亡する患者が多いことが示された。

前立腺ラテント癌は若年男性にもみられ,年齢とともに頻度が高くなることから,前立腺癌は数十年の経過で極めて緩徐に成長すると考えられる。前立腺癌保有者の多くは診断されることなく他の疾患で死亡し,一部が検診あるいは臨床症状の発現から臨床癌として診断される。さらにその一部で致死的となるのであろう。すなわち,前立腺癌は総じて進行は緩徐であるが,臨床的に診断される前立腺癌の一部は進行して致死的となる。

参考文献

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2 (化学)予防

総論

『前立腺癌診療ガイドライン』では前版の2012 年版より「予防」に関する記載が新たに設けられ,本改訂版でも継続して取り上げられることになった。すなわち,本来の診療ガイドラインに記載される疾患の診断・治療とは直接的な関連は少ないものの,特に前立腺癌においては疫学的研究の進歩とその病態の解明が深まるにしたがって予防につながる検討が数多く行われ,予防医学の重要性も認識すべき重要課題と考えてのことである。まず,前版の「予防」で述べられた総論1)を要約して紹介する。

前立腺癌においては,その発癌の要因としてアンドロゲンとの関わりが強く,さらに,生活環境との関わりも指摘され,これらを考慮した予防戦略の構築が積極的に検討されている。そこで,本疾患の予防を考えるには,生活環境因子や宿主側因子に関する議論も重要である。

近年,前立腺癌化学予防への関心の高まりは著しい。しかし,最も高いエビデンスで証明された5α還元酵素阻害薬においてhigh grade の癌は,むしろ対照群より高率に発生したという病理学的結果や,薬剤特有の副作用への懸念,さらには医療費負担の経済的問題等も考慮すると,前立腺癌の化学予防法としては一般的に支持されにくい。したがって,医薬品による予防は,むしろ,早期低リスク癌患者を対象とした治療としての位置付けが妥当な方向性なのかもしれない。

一方,大豆食品等の食事面からの介入は,比較的問題は少ないと思われる。しかし,食事という習慣や文化に密接する問題では,その介入方法に慎重さが求められる。アジアでの前立腺癌の低罹患率が食事形態と相関があると仮定しても,アジア型食事形態を世界に求めることは,食の文化を根底から覆すに等しく,受け容れ難いものである。言い換えると,食事に関する科学的検討から新たな予防法の開発を目指す方向性が妥当と考えられる。

このように前立腺癌の予防について実に巧くまとめられており,前版の準備時点から約5年が経過した現在でも全く時代錯誤を感じさせることなく通用する。つまり,予防医学の研究内容は,日進月歩の著しい疾患の診断や治療法(技術)の進歩に比べると,長期間を要する膨大な規模の疫学的研究に支えられ,時には中長期を要する動物実験に代表される基礎的研究の介入も必要となることから,ややもすると軽視されがちである。また,対象集団や方法論のわずかな違いにより研究結果が多種多様を極め,その解析にも慎重さが求められる。しかし,超高齢社会を迎えた本邦において,今後の社会経済的に真に問われる医学のあり方であることはいうまでもない。

そこで,今回の「予防」においても,前述した化学予防薬としての5α還元酵素阻害薬,機能性食品としての大豆食品等に関する記載,つまり前版と同様のCQ についてその後の研究の進捗を記載するとともに,その他の化学予防として,アスピリン,スタチン,メトホルミン等を新たに取り上げた。結果の詳細は各CQ に記載されているが,治療編にみられるような高い推奨グレードはいまだ得られていないのが現状である。しかし,今後とも地球規模からの長期にわたる地道な研究が要求されるのではなかろうか。

参考文献

1)
赤座英之.予防 総論.日本泌尿器科学会(編).前立腺癌診療ガイドライン2012年版.東京:金原出版;2012.p.20.

CQ1
生活習慣の改善は前立腺癌の予防に有用か?

推奨グレードC1
環境要因としてライフスタイルを改善することで前立腺癌の発症を予防できたとの明確なエビデンスはないが,生活習慣の改善が前立腺癌の予防に有効である可能性はある。食生活では,魚類に多く含まれているドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA),あるいは乳製品,カルシウム,脂肪等の摂取が前立腺癌のリスクに影響すると報告されているが,相反する報告もあり,いまだ明らかにされていない。最近では肥満やメタボリック症候群と前立腺癌の関連も指摘されている。ライフスタイルを変えることで,前立腺癌の予防に有効である可能性が示唆されている。

背景・目的

前立腺癌の罹患率には民族や地域間で大きな差があり,特に欧米人ではアジア人の約10 倍の発症率であるとされる1)。古くから日本人の前立腺癌の罹患率は欧米のそれよりも非常に低いものであったが,米国へ移住した日本人の前立腺癌の罹患率は日本に住む日本人と米国に住む米国人の中間になることが知られている3)。このことより,環境因子が前立腺癌のリスクを高めていることが推測される。最近の研究では,肥満は前立腺癌の発症に関与していることが知られてきており,また,メタボリック症候群(metabolic syndrome;MetS)も前立腺癌の発症に関連しているという報告も多い。しかしMetS と前立腺癌の発症の関係性はいまだ複雑であり,これからの解析が待たれるところである。

解説

1 食品は前立腺癌に影響するか?

疫学的研究から,前立腺癌に促進的に働く食品として高脂肪食があり,症例対照研究およびコホート研究における結果は一貫している4)。動物性脂肪に含まれる飽和脂肪酸は血清アンドロゲンを増加させるため,前立腺癌のリスクを高めるとされているが5),それ以外の要因も提唱されている6)。多価不飽和脂肪酸はヒト生体内で合成できない必須脂肪酸であり,食事から摂取する必要がある。ω-3 脂肪酸のうち魚類に多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA),あるいはω-6脂肪酸のリノール酸等が代表的である。ω-3 多価不飽和脂肪酸やω-6 多価不飽和脂肪酸は,前立腺癌細胞の増殖を抑制することが示されている。6,272 例のスウェーデン人男性を30年間経過観察した疫学的研究では,魚をほとんど摂取しない男性は魚を多く摂取する男性と比べて前立腺癌の発症リスクが高く(相対リスク比:2.3(95%CI:1.2〜4.5)),前立腺癌による死亡リスクも高かった(相対リスク比:3.3(95%CI:1.8〜6.0))7)。スウェーデン人男性525 例を対象にした研究では,ω-3DHA やtotal marine fatty acid(全海洋脂肪酸)を摂取すると前立腺癌死亡率が40%低下し,total fat(総脂肪酸)や飽和ミリスチン酸等の飽和脂肪酸を摂取すると前立腺癌の生存率が悪化するとされている8)。しかし,ω-3脂肪酸と前立腺癌のリスクについてはあいまいな部分もあり9),さらに最近の報告では相反する結果も出ており10),現状ではその関係は明確ではない。

カルシウムの過剰摂取と前立腺癌についても研究されている。1日に2,000mg 以上のカルシウムを摂取する男性において,転移性前立腺癌のリスクは500mg 未満の男性の5倍近くになるとされる11)。12 件の前向き研究を解析したメタアナリシスでは,乳製品とカルシウムを多く摂取する男性では前立腺癌の発症リスクは高いと報告されたが12),別の45 件のメタアナリシスでは乳製品,ミルクの摂取量と前立腺癌の発症には関係を認めなかったと報告されている13)。現状では,乳製品やカルシウム摂取と前立腺癌のリスクは,関連が明確ではないと考えられる。

European Prospective Investigation into Cancer and Nutrition(EPIC)は,7カ国130,544 例を1993〜1999 年の平均4.8 年経過観察した野菜と果物の総摂取量に関する大規模コホート研究であるが,野菜と果物の前立腺癌予防効果は明らかではなかった14)。これら多数の研究から,食品が前立腺癌のリスクを減らすか増やすかについては明らかではないのが現状である。

2 喫煙は前立腺癌に影響するか?

喫煙と前立腺癌のリスクについては否定的な報告も多いが,最近まとめられた24 件のコホート研究21,579 例を対象としたメタアナリシスでは,喫煙本数,年数が多い男性は前立腺癌のリスクが上がることが報告されている15)。また,欧州の男性145,112 例を対象とした前向き研究(EPIC)16)においても,ヘビースモーカー(25本/日以上)あるいは40 年以上喫煙歴があると,前立腺癌の死亡リスクが上がった(相対リスク比:1.81(95%CI:1.11〜2.93),相対リスク比:1.38(95%CI:1.01〜1.87))と報告されている。最近の研究結果からは,ヘビースモーカーは前立腺癌死のリスクが高くなることが示唆されている。

3 運動,MetS,肥満は前立腺癌に影響するか?

近年,運動療法が身体的,精神的な改善をもたらすことが注目されつつある。運動による前立腺癌のリスクへの影響については,カナダ人を対象とした解析で,50 歳代前半の積極的な運動への取り組みが前立腺癌のリスクを減少させると報告されている17)。さらに,88,294 例を対象として運動と前立腺癌のリスクを検討したメタアナリシス18)では,totalphysical activity(総身体活動)を行うと前立腺癌リスクが低下し(相対リスク比:0.90(95%CI:0.84〜0.95)),特に20〜45 歳,45〜65 歳において有意に低下させるとしている。

Sourbeer ら19)は,前立腺癌の発症リスクについてのReduction by Dutasteride of Prostate Cancer Events(REDUCE)試験のPost hoc 解析で,6,426 例を対象に前立腺癌とMetS 因子との関連性について報告した。ここでは,糖尿病,高血圧,高コレステロール血症,body mass index(BMI)のうち複数のMetS 因子がある男性では高リスク前立腺癌(Gleason スコア7〜10)の発症リスクが高かったことが示された。またBhindi ら20)も,後ろ向き研究ではあるものの2,235 例を対象に肥満,高血圧,糖尿病または空腹時血糖異常,低HDL コレステロール血症,高トリグリセリド血症の5つの独立したMetS 因子と前立腺癌発症との間に有意な関連は認められなかったが,これらのうち3つ以上のMetS 因子をもつ患者は有意に前立腺癌発症のリスクが高かったと報告している。また,2,322 例のMetS 患者を34 年間追跡したスウェーデンの前向き研究では,他疾患による死亡を除外した場合は,MetS は前立腺癌の有意な発症リスクになるとの成績が示されている21)。しかし,MetS 因子と前立腺癌発症メカニズムの関係性はいまだ複雑であり,今後の解析が待たれるところである。

最近の研究では,肥満は前立腺癌の発症に関与していることが知られてきており,MetS 同様,前立腺癌のリスク因子として研究されている。Prostate Cancer Prevention Trial(PCPT)では,BMI<25kg/m2の男性と比較すると,BMI≧30kg/m2の男性では低リスク前立腺癌に罹患するリスクは18%低いが,Gleason スコア8〜10 の高リスク前立腺癌では78%増加することが示された22)。疫学における68,000 例以上の男性を対象としたメタアナリシスによる観察研究では,BMI の増加は前立腺癌全体の発症リスクとしては弱い相関性(5kg/m2のBMI 増加に対して相対リスク1.05 倍)を認めるのみであるが,この関係は進行性前立腺癌ではさらに強くなる23)。現時点での一般的な見解は,肥満は悪性度の低い前立腺癌と診断されるリスクを低下させるが,悪性度の高い前立腺癌の発症と前立腺癌死のリスクを高めると考えられている24)

以上の食品,喫煙,運動,MetS,肥満を考慮すると,リスクを上げる可能性のある要因を下げるライフスタイルに変更することは,前立腺癌の予防に効果が期待できる可能性がある。

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CQ2
大豆,緑茶,トマト等に含まれる機能因子は前立腺癌の予防に関与するか?

推奨グレードC1およびC2
前立腺癌では,食生活を中心とする生活環境要因が重要な役割を果たしている可能性がある。これまでの研究では,大豆の中に含まれるイソフラボン,緑茶に含まれるカテキン,トマトに含まれるリコペン等の機能因子による前立腺癌発症予防が注目されている。(推奨グレードC1)
しかし,海産物等に含まれるセレニウムやビタミンD,種実類や魚卵に含まれるビタミンE等の機能因子に関しては,前立腺癌に対する予防効果は明らかではない。(推奨グレードC2)
最終的に,疫学的研究や臨床研究からは,有効性において結論が出ている機能因子はなく,今後さらなる研究の発展が望まれている。

背景・目的

前立腺癌は世界的にみて発症頻度の高い癌の1つであり,特に欧米人ではアジア人の約10 倍の発症率であるとされる1)。本邦では前立腺癌が増加しており,その背景として腫瘍マーカーPSA の普及があるが,そのほかに高齢化や食生活の欧米化が影響を与えていると考えられる。前立腺癌では,食生活を中心とする生活環境要因が重要な役割を果たしていると考えられ,大豆イソフラボンやビタミンE 等の機能因子が前立腺癌の予防につながるか検証する。

解説

1 大豆イソフラボン

大豆イソフラボンは,豆類および大豆製品に多く含まれ,これらの摂取により前立腺癌のリスクが低下するとの報告がある。大豆イソフラボンとその誘導体「ゲニステイン,ダイゼイン」は,疫学的研究において前立腺癌予防効果が注目されている2)。中でもダイゼインの代謝産物であるエコールが注目されている。エコールは大豆イソフラボンおよびその誘導体の中で最もエストロゲン受容体(β)との結合能が高く,抗酸化活性が強いことが知られている。さらにジヒドロテストステロン(DHT)と特異的に結合することによりDHTとアンドロゲン受容体との複合体形成を阻害する効果も有することから,前立腺癌の予防効果が強く期待されている4)。ダイゼインをエコールへ代謝できるエコール産生者と,代謝できないエコール非産生者に分けた場合,前立腺癌ではエコール産生者の割合が有意に低いことが判明し,エコール産生に関連した腸内細菌も同定されている6)。この後,イソフラボン投与に関する無作為化二重盲検試験では,イソフラボン投与によりエコール産生者では血中エコール濃度が上昇したが,非産生者では濃度に変化はなかった。イソフラボン投与12 カ月後の針生検で,イソフラボン群とプラセボ群の間に有意差を認めなかったが,65 歳以上ではイソフラボン群がプラセボ群よりも有意に前立腺癌の発症率が低かった7)。イソフラボンは前立腺癌リスクを抑制する可能性が示唆されている。

2 緑茶とコーヒー

緑茶に含まれるカテキンが抗腫瘍効果をもつとされる。本邦で行われた大規模コホート研究では,40〜69 歳の男性49,920 例を追跡し,緑茶飲用と前立腺癌発症との関連が前向きに検討された8)。緑茶飲用と限局性前立腺癌の間には有意な関連を認めなかったが,1日5杯以上の緑茶を飲用する群では,1日1杯未満の群と比べて進行性前立腺癌の発症リスクが有意に低かった(相対リスク比:0.52(95%CI:0.28〜0.96))。また,60 例のhigh grade の前立腺管内上皮過形成(PIN)患者を緑茶サプリメント投与群とプラセボ群に分けた研究では,緑茶群において1年後の前立腺生検で癌発生が抑制されることも報告されている9)

疫学的研究からコーヒーが前立腺癌の予防効果をもつことが報告されているが,コーヒーがもつ前立腺癌の予防効果はカフェインとは無関係に認められており,発症予防の機序はわかっていない。米国から報告された約50,000 例の男性を20 年間経過観察した大規模なコホート研究では,多量のコーヒー摂取は進行性前立腺癌の発症リスクを低下させたと報告されている10)。また英国において6,017例を前向きに検討した結果では11),コーヒー摂取量が多いとhigh grade の前立腺癌のリスクは減るが,前立腺癌全体のリスクには影響がなかったとされた。最近の報告では相反した結果が出ており1213),12 件の論文を解析したメタアナリシスでもコーヒーと前立腺癌リスクとの関連を示すことができていない14)

3 セレニウムとビタミンE

セレニウムはニンニク等の植物や肉・海産物に含まれる微量元素であるが,細胞増殖抑制,アポトーシス誘導作用があることが知られている。前立腺癌におけるセレニウムの予防効果は,皮膚癌予防目的で行われた多施設共同研究で偶然に発見された15)。1,312 例をセレニウム群またはプラセボ群に無作為に割り付けたところ,セレニウム群で前立腺癌が発生したのはプラセボ群の約3分の1であった(相対リスク比:0.37(p=0.002))16)

一方,ビタミンEの前立腺癌リスクに対する影響をみた最大規模の研究は,フィンランドのAlpha-Tocopherol Beta Carotene Cancer Prevention(ATBC)Study であった17)。この研究はビタミンEにより肺癌発生率が低下するか評価するものであったが,前立腺癌は主目的である肺癌に付随して検討された。肺癌の発生率は低下しなかったが,前立腺癌についてはビタミンE が投与された群ではそれ以外の群に比べて前立腺癌の発症が有意に少なかった。しかしながら,American Cancer Society(ACS)による約70,000 例の調査では18),ビタミンEによる前立腺癌の予防効果はみられていない。このようなことからセレニウムとビタミンE に関しては大規模な無作為化二重盲検試験であるSelenium and Vitamin E Cancer Prevention Trial(SELECT)が行われた1920)。この研究では,PSA≦4.0ng/mL等の条件を満たす50 歳以上の男性35,533 例が4群(ビタミンEとプラセボ,セレニウムとプラセボ,ビタミンE とセレニウム,2つともプラセボ)に無作為に割り付けられ,前立腺癌の発症をエンドポイントとして行われたが,予定期間に達する前に予防効果が認められないことが明らかとなった21)。さらにその後の経過観察では,むしろビタミンEは前立腺癌のリスクを17%上昇させると報告されている1920)。しかし,前立腺癌患者においては,血中のビタミンE 濃度が健康人よりも有意に低いという報告もあり22),依然議論の分かれる部分でもある。

4 リコペン

リコペンはトマトに最も多く含まれる赤い色素で,抗酸化作用が強いとされている。トマトソースを週に2回以上摂取した群では前立腺癌の発症が有意に抑えられていたのに対し,野菜のトマトでは差がなかった23)。2004 年のメタアナリシスでは,トマトの消費と前立腺癌のリスクには少ないながらも関連があるとされた24)。49,898例を対象に1986〜2010 年に経過観察した結果では,リコペンの摂取量が多いと致死的な前立腺癌のリスクが減弱していた25)。理由として血管新生を抑制した結果と考えられた。また,最近のメタアナリシスでも,リコペンの摂取量が多いと前立腺癌の発症のリスクを減らす傾向にあるとされ26),リコペンに関しては前立腺癌を抑制する傾向があるとする報告が多い。

5 その他(ビタミンD,クルクミン)

ビタミンD は,活性型代謝物であるカルシトリオールが前立腺癌リスクを下げることを示唆するデータがある。限局性前立腺癌患者にカルシトリオールを投与し,3カ月後には20%の患者において25%以上のPSA 値低下を認めたとの報告がある27)

クルクミンは基礎的解析から,細胞の増殖や生存に関与しているNF-κB のシグナルを阻害することで,細胞のアポトーシスの誘導や増殖を抑制するとされる。大豆イソフラボンとの併用であるが,クルクミンにより有意に血清PSA 値が低下したという報告がある28)

以上のように,今後も機能因子が前立腺癌の予防に効果があるかさらなる研究結果が期待される。

参考文献

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CQ3
5α還元酵素阻害薬は化学予防薬として有用か?

推奨グレードC2
大規模RCT 等により有意な前立腺癌罹患率減少効果を認めたが,悪性度の高い癌を増加させる可能性を完全に否定することはできない。現時点では生存率への有意な効果や影響はないと考えられる。

背景・目的

5α還元酵素はテストステロンを活性型のDHTに変換することで前立腺癌の発生に関与するとされる1)。5α還元酵素には1型と2型があり,5α還元酵素阻害薬であるフィナステリド,デュタステリドはそれぞれ,2型のみ,1,2型両方の作用を阻害する。これらの5α還元酵素阻害薬が前立腺癌の化学予防薬として有用かを検証する。

解説

5α還元酵素阻害薬フィナステリドによる化学予防の研究としては,2003 年に大規模な前向きの無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)であるPCPT が報告された2)。55 歳以上,直腸診所見正常,PSA≦3.0ng/mL の男性18,882例における7年間の経過観察中の前立腺癌罹患率を比較したところ,フィナステリド投与群で18.4%,プラセボ群で24.4%であり,フィナステリドの予防投与で24.8%の減少効果を認めた。しかし,減少したのは悪性度の低い癌(Gleasonスコア≦6)であり,悪性度の高い癌(Gleasonスコア7〜10)の罹患率はフィナステリド投与群で6.4%,プラセボ群で5.1%と増加していた(p=0.005)。また性機能に関する有害事象はフィナステリド投与群で多かった。

その後フィナステリド投与群で悪性度の高い癌が増加した理由の解析が行われ,前立腺体積減少の影響,悪性度の低い癌に対するより強い縮小効果,PSA の癌検出感度の増加等が報告された4)。このような経緯の中,American Society of Clinical Oncology(ASCO)とAmerican Urological Association(AUA)は合同で,関連する15 件のRCTに対するシステマティックレビューに基づいて,前立腺癌化学予防のための5α還元酵素阻害薬使用に関するClinical Practice Guideline を作成した5,6)。しかし,フィナステリド投与が悪性度の高い癌の発生を増加させる可能性を完全に否定することはできないとした。

2010 年にデュタステリドによる化学予防の研究として,REDUCE 試験の結果が報告された7)。50〜75 歳,PSA 2.5〜10.0ng/mL,6カ月以内の生検陰性の男性8,122 例における4年間の経過観察中の前立腺癌罹患率をプラセボ群と比較したところ,デュタステリド投与群で22.8%の罹患率減少を認めた(p<0.001)。ただし,フィナステリドと同様に減少したのは悪性度の低い癌(Gleasonスコア≦6)であり,悪性度の高い癌(Gleasonスコア7〜10)の罹患率はデュタステリド投与群で6.7%,プラセボ群で6.8%と差がなかった(p=0.81)。しかし,Gleasonスコア8〜10 の癌についてみると,デュタステリド投与群で0.9%,プラセボ群で0.6%と,有意ではないがデュタステリド投与群で多かった(p=0.15)。

その理由としては,PCPT と同様のバイアスに加えてREDUCE 試験に特有なバイアスが挙げられ,Food and Drug Administration(FDA)の勧告によりmodified Gleason スケールを採用してREDUCE 試験の結果を解析したところ,Gleason スコア8〜10 の癌罹患率はデュタステリド投与群で1.0%,プラセボ群で0.5%(相対リスク比:2.06)となり,PCPT におけるフィナステリド投与群で1.8%,プラセボ群で1.1%(相対リスク比:1.70)に類似した8)

以上のように,5α還元酵素阻害薬はlow Gleason スコア前立腺癌を減少させたが,high Gleason スコア前立腺癌を増加させた可能性が示唆された。その後,PCPTとREDUCE試験の追跡研究を含めて,この疑問に関するいくつかの報告がある9-12)。PCPT 参加者の経過をSocial Security Death Index を用いて最長18 年まで観察した研究では,フィナステリドを以前服用していた症例における全前立腺癌罹患率は約3分の1減少していたが(相対リスク比:0.70(p<0.001)),high grade の癌は増加していた(相対リスク比:1.17(p=0.05))9)。ただし,2003 年のPCPT 第1報のhigh grade の癌検出の相対リスク比(1.27(p=0.005))と比較すると,そのリスクは減少していた。一方,REDUCE 試験参加者2,751 例に対するその後2年間の電話調査では,デュタステリド投与群とプラセボ群における全前立腺癌の診断数はそれぞれ14 人,7人とデュタステリド投与群で多かったが,Gleason スコア8〜10 の癌は両群とも検出されなかった10)

これらの前立腺癌化学予防薬としての有効性を検証した研究のほかに,前立腺肥大症治療薬として服用した実臨床データに関する報告がある。Prostate Cancer data Base Sweden 2.0 を用いたnationwide, population based case-control study では,前立腺肥大症に対する5α還元酵素阻害薬は服用期間につれて全前立腺癌罹患リスクを減少させ,3年超服用した症例でのオッズ比は0.72(p<0.001)であった。一方,Gleason スコア8〜10 の癌は3年超の服用で有意な増加を認めなかった(p=0.46)11)。また,米国のHealth Professionals Follow-up Study における38,058 例の前向き観察研究では,5α還元酵素阻害薬服用歴がある場合,全前立腺癌罹患リスクは0.77 と減少したが,Gleason スコア8〜10 の癌や致死的癌(metastatic or fatal)の発生リスクは増加しなかった(ハザード比:それぞれ0.97,0.99)12)。以上より,文献9)ではhigh Gleason スコアの癌を増加させた可能性を否定できないが,現時点ではhigh Gleason スコアの癌の有意な増加を確認した報告はないと考えられる。

いうまでもなく,化学予防薬としての有用性の検証で最も重要なエンドポイントは死亡率低下効果である。前述のPCPT 後の観察研究9)では,フィナステリド群とプラセボ群の15 年全生存率はそれぞれ78.0%,78.2%で,両群間に有意差を認めなかった(ハザード比:1.02(p=0.46))。さらにlow grade の癌と診断された症例の10 年全生存率はフィナステリド群とプラセボ群でそれぞれ83.0%,80.9%,high grade の癌と診断された症例では73.0%,73.6%といずれも群間有意差を認めなかった。また英国での4つのデータベースを用いて前立腺癌患者13,892 例を最長12 年間(平均4.5 年)観察した後ろ向きコホート研究13)では,前立腺癌診断前の5α還元酵素阻害薬の服用歴は前立腺癌死亡率(ハザード比:0.96)ならびに全死亡率(ハザード比:1.05)と有意な相関を認めなかった。以上より,現時点では5α還元酵素阻害薬の生存率への有意な効果や影響はないと考えられる。

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CQ4
前立腺癌の化学予防として有用な薬剤は存在するか?

推奨グレードC2
前立腺癌の化学予防については,アスピリン,スタチン,メトホルミンが多く検討されているが,その効果については報告によって様々である。これらの薬剤が化学予防として有用かどうかは,現時点では明らかではない。

背景・目的

CQ3 において取り扱われた5α還元酵素阻害薬を除いた薬剤のうち,前立腺癌の化学予防に有用な可能性があるとして研究が進められているものに抗血小板薬(アスピリン,非ステロイド性抗炎症薬(nonsteroidal antiinflammatory drugs;NSAIDs)),スタチン,血糖降下薬(メトホルミン)が挙げられる。本項ではこれらの薬剤の化学予防効果について検証する。

解説

前立腺癌の化学予防として最も研究が盛んなのはアスピリンである1)。本来の抗血栓薬としての作用機序であるシクロオキシゲナーゼの作用阻害を通じた発癌抑制,浸潤・転移抑制効果ならびにアポトーシスの誘導効果等が考えられている。2013 年までに報告された症例対照研究,コホート研究のメタアナリシスでは,有意ではあるものの10〜14%の相対リスク低下しか認めていない3)。また,米国の2つの前向きコホート研究の解析では年齢調整を行っても2%,多変量解析を行っても3%の相対リスク低下と,有意な差を認めていない4)

一方,スタチンは本来の脂質異常症治療薬としての作用機序であるHMG-CoA(3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A)還元酵素阻害を介したメバロン酸合成経路の関与を通じた増殖シグナル抑制効果,アポトーシス誘導効果が認められている。スタチンに関する15 件のコホート研究と12 件の症例対照研究を含めたメタアナリシスでは,前立腺癌全体で7%,進行性前立腺癌で20%の相対リスクの低下を有意に認めているが,5年以上の長期スタチン内服において有意差は消失している5)。また,人種を限定した症例対照研究では,非ヒスパニックの黒人および白人において,スタチン内服群は非内服群に比較してハザード比を14%下げるものの,有意差を認めなかった6)。いずれの報告もスタチンの化学予防効果については限定的で,米国で行われた前向きコホート研究ではスタチンには化学予防効果はないとする結果が出ている7)

メトホルミンはビグアナイド系薬剤に分類される2型糖尿病(非インスリン依存型)治療薬である。本来の作用機序であるアデノシン1リン酸(AMP)活性化キナーゼの活性化を介した増殖抑制効果や癌幹細胞に対する効果等が認められている。メトホルミンについては前立腺癌の化学予防効果を検証した報告はあるが,台湾人におけるデータベースからは前立腺癌リスクを低下させるという報告はあるものの8),他の報告では前立腺癌の罹患に相関を認めていない10)

いずれの報告も,人種や年齢,内服薬等,均一でない集団に対して検討されており,十分に交絡因子を考慮できていないことから,より質の高いRCT が待たれる。

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3 検診

総論

前立腺特異抗原(prostate specific antigen;PSA)検査を用いた前立腺がん検診は,欧州で行われた無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)であるEuropean Randomized Study of Screening for Prostate Cancer(ERSPC)によって,死亡率低下効果が確実であることが証明された1)。ERSPC の約60%のデータ提供を行っているスウェーデン・イエテボリのRCTは,経過観察期間中央値が14年と最も長く,検診群は2年毎のPSA 検診受診介入を行い,実際に約75%が少なくとも1回は検診を受診し,対照群のPSA検診のコンタミネーションが抑制された結果,intention-to-screen(ITS)解析で44%の高い癌死亡率低下効果が証明された2)。RCT で証明された癌死亡率低下効果は,実践的な検診の有効性検証研究であるオーストリアのチロル地方の研究でも証明され,20 年間の経過観察でPSA 検診曝露率が86.6%と高くなった結果,実測死亡率は死亡率の予測値に対して64%低下した3)

本邦における住民検診での前立腺がん検診の実施率は,公益財団法人前立腺研究財団による2015 年調査4)では83.0%と実施率は上昇傾向にあり,日本人間ドック学会と前立腺研究財団の平成17 年度の調査ではPSA検査がオプション選択できる人間ドック施設は88.9%であり5)受診機会は徐々に増えているものの,発見される前立腺癌の10%前後は診断時に骨転移を伴っており6),PSA 検診の曝露率は依然として低いと予測される。本邦の前立腺癌死亡数は上昇しつづけていることからも7),住民検診や人間ドック等でのPSA 検診の受診機会を広げ,多くの検診対象者に適切な情報提供を行い,本ガイドラインの推奨する,より精度の高い検診システムを整備することが大切である()。

がん検診の導入にあたり,死亡率低下効果という最も重要な利益が明らかになったPSA 検査を用いた前立腺がん検診ではあるが,一方でその死亡率低下の過程において過剰診断,過剰治療や治療によるQOL の低下によって不利益を受ける可能性もある。それらの不利益は,(PSA)監視療法やQOL を考慮に入れた低侵襲的治療の進歩,新しいバイオマーカーの臨床応用等により,より不利益が少なくなり,利益が大きくなる方向で進化することが世界の研究動向からも期待されているが,現時点での検診の受診による利益と不利益を正しく啓発したうえで,受診希望者に対して最適な前立腺がん検診システムを提供することが重要である。

 住民検診・人間ドックにおける受診対象年齢と泌尿器科専門医紹介までの前立腺がん検診アルゴリズム
図 住民検診・人間ドックにおける受診対象年齢と泌尿器科専門医紹介までの前立腺がん検診アルゴリズム

CQ04 CQ2 マーカー,画像,生検 マーカー,画像,生検 表 CQ3

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CQ1
前立腺がん検診により前立腺癌の転移性癌罹患率・死亡率は低下するか?

推奨グレードB
信頼性の高いRCT と実践的な前向きの検証研究で,PSA 検査を基盤とした前立腺がん検診の実施により,進行性癌や転移性癌の罹患率が低下し,前立腺癌死亡率が低下することが証明された。

背景・目的

国家レベルでがん検診の受診機会の均てん化を目指す場合,確実な死亡率低下効果が得られることが必要かつ最低条件であるが,実際のがん検診導入・整備は,各国の政治・経済状況,医療体制,疾患体系,健康福祉政策等,様々な社会的・医学的な背景に左右される。先進国であり,かつ高齢化社会を迎えている本邦は,医療分野の中での癌対策の優先順位は高く,死亡率低下効果が証明されたがん検診の利益を最大限に引き出し,不利益対策を同時に進め,適切に活用することが重要である。

解説

前立腺がん検診の導入が遅れているアジア各国では,前立腺癌登録における転移性癌比率は非常に高い1)。現在は前立腺がん検診の受診機会の均てん化がアジアの中で比較的進んでいる本邦においても,PSA 検診の一般診療への普及前(1982~1991 年)の泌尿器科外来で発見された前立腺癌の48.1%は転移性癌であった2)。一方で,本邦の前立腺がん検診の曝露率の高い市町村では,転移性癌罹患率(世界人口調整)が低下する可能性が示唆されており3),他の時系列研究では,1995~2004 年の推定検診曝露率が65%と高い地域において,全発見癌に占める転移性癌症例比率は1995~1999 年が8%,2000~2004 年は3%と低下傾向にある4)。ERSPC に約60%の症例を提供したスウェーデン・イエテボリ研究では,イエテボリ在住の50~64 歳の住民約20,000 人を検診群と対照群に無作為に割り付け,10 年間の経過観察で,進行性癌(転移性癌とPSA≧100ng/mLの癌)罹患率が検診群では対照群と比べ49%低下した5)

癌死低下効果を検証したRCT では,ERSPC の観察期間中央値13 年間の解析結果6)で,55〜69 歳の中核となる年齢層において,検診群は対照群と比べITS 解析で21%の死亡率低下効果が認められた。研究開始からの経過年数と死亡率低下効果の関係では,対照群に対する検診群の死亡率は研究開始から4年以内では12%,4~8年では18%,8~12 年では28%低下していた。

米国のProstate, Lung, Colorectal, and Ovarian(PLCO)Cancer Screening 研究7)では,約76,000 人を検診群と対照群に無作為に分け,検診群ではPSA 検診を1回/年で6年間,直腸診を1回/年で4年間提供し,対照群では通常の医療ケアが行われた。PLCO Cancer Screening 研究の最も重大な問題点は対照群のPSA 検診のコンタミネーション(対照群におけるPSA 検診受診率)の高さで,研究登録前の3年間で44%の参加者にPSA 検査の実施歴があり,研究開始後1年間で40%がPSA 検診を受診していた。さらに,研究開始から5年の時点で対照群の一部を対象に過去数年以内のPSA 検査実施率を調べたところ,85%と高かった8)。2016 年に報告されたPLCO Cancer Screening 研究の調査では,対照群の約90%が研究期間内に少なくとも1回のPSA 検査を受けており,さらに研究開始後6~12 年の調査では検診群よりも対照群の検診実施率は高かった9)。そのような背景の結果,両群ともに転移性癌比率は非常に低く(対照群2.7%,検診群2.4%),13 年間の経過観察結果10)においても,前立腺癌死亡率は両群間で差がなく,PSA 検診の有効性検証の論文としての評価は困難である11)。PLCO Cancer Screening 研究のコホートを,RCT の割り付け群別の比較ではなく,研究開始以前3年間のPSA 検診受診群と非受診群で比較した別解析では,前者の死亡率は後者に比べ45%低下していた12)

スウェーデン・イエテボリ研究の経過観察期間中央値14 年の解析13)では,検診群の参加者中,約75%が実際に少なくとも1回のPSA 検診を受け,対照群のPSA 検診のコンタミネーションが低く抑えられた結果,検診群は対照群と比較しITS 解析で44%,検診群の実際の検診受診者では56%の死亡率低下効果を認めた。

検診効率の簡易指標であるが,1人の前立腺癌死亡を減らすために必要な検診受診者数(number needed to screen;NNS),癌診断症例数(number needed to diagnose;NND)は,ERSPC の観察期間中央値13 年の解析結果6)ではNNS は781 人,NNDは27 人であり,より長期の経過観察で対照群のPSA検診のコンタミネーションが低いイエテボリ研究での検証13)では,NNS は293 人,NND は12 人であった。マンモグラフィーを用いた乳がん検診の13 年間の経過観察でのNNS は1,339~2,000 人であり14),PSA 検診のがん検診効率は乳がん検診と比較して良好である。

また,RCT で証明された癌死亡率低下効果は,地域社会においてがん検診を導入した場合,その検診システムの実用性の問題等から同様の成果が得られないことも多い。PSA 検診では,実践的な検診の有効性検証研究であるオーストリアのチロル地方の20 年間の成果が報告された15)。1988 年よりPSA 検査と直腸診による検診,1993 年より45~75 歳の住民に対して無料でPSA 検診を開始した結果,2005 年にはPSA 検診曝露率は86.6%に上昇し,2008 年の時点の実測死亡率は死亡率の予測値に対して64%低下していた。

前立腺がん検診の死亡率低下効果に関するシステマティックレビューとしては,2013 年にIlic らが発表したレビュー16)は5つのRCT を検討対象に入れているが,ERSPC 以外の4つの研究(カナダ・ケベック州のRCT17),米国PLCO Cancer Screening 研究10),ノルコーピング研究18),ストックホルム研究19))は,コントロール群のコンタミネーションが高い,検診システムが古く現在のPSA 検診システムの評価に耐えられない等,問題が多い20)。明らかに質の異なる研究を批判的検証なしにERSPC と同等の研究として解析を行っているため,今回のガイドラインでのがん検診有効性検証の科学的根拠としては採用を見合わせた。

参考文献

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CQ2
前立腺がん検診で推奨されるPSA カットオフ値と検診受診間隔は?

推奨グレードB
PSA カットオフ値は,全年齢で0.0~4.0ng/mL,あるいは年齢階層別カットオフ値(50~64歳:0.0~3.0ng/mL,65~69歳:0.0~3.5ng/mL,70 歳以上:0.0~4.0ng/mL)が推奨される。
推奨グレードB
PSA 0.0~1.0ng/mL の場合は3年毎,PSA 1.1ng/mL~カットオフ値上限では毎年の検診受診が推奨される。

背景・目的

PSA カットオフ値上限は通常は4.0ng/mLに設定されてきたが,この値以下でもある程度の確率で前立腺癌が診断される。一方で,微小癌や低悪性度癌の割合はPSA 値が低いほど多い1)。したがって,前立腺がん検診におけるPSA カットオフ値は,過剰診断を避けつつ治療を要する癌を検出して,前立腺癌死亡率を低下させることを目的として設定すべきである。

検診受診と次の検診までの期間に癌が発症したり(中間期癌:interval cancer),進行したりする可能性が指摘される2)。そこで,検診精度を維持しつつ費用対効果の向上を達成できるような適切な検診受診間隔を設定することが求められる。

解説

本邦では,PSA カットオフ値として多くの検診で0.0〜4.0ng/mLが用いられてきた。生検推奨PSA 閾値や検診間隔等を変化させた35種類の検診方法モデルを比較した研究によれば,PSA 4.0ng/mL をカットオフ値とした毎年の検診で前立腺癌死亡リスクが2.86%から2.15%に減少した3)。条件を変化させても前立腺癌死亡リスクに大きな変動はなかった。

より余命の長い年齢層における前立腺癌診断の感度改善と根治的治療による前立腺癌死亡率低下のために,70 歳未満の年齢層においてPSA カットオフ値上限を引き下げる年齢階層別カットオフ値が提案され,その有用性が報告された4)。また,欧米で施行されたRCT ではPSA 値上限を3.0ng/mL あるいは2.5ng/mL とした研究で前立腺癌死亡率の低下効果が証明されたが,カットオフ値上限を全年齢層において低下させることによって,特に高齢者において不必要な生検や過剰治療が増加するリスクがある。そして,治療法の進歩により根治可能な癌の範囲も拡大すると推測される。以上より,現在の本邦での前立腺がん検診のPSA カットオフ値は0.0~4.0ng/mL が妥当であり,前立腺癌の自然史を考慮した場合,70 歳未満の年齢層におけるカットオフ値上限を引き下げる年齢階層別カットオフ値を用いることも推奨される。

適切な検診間隔については,PSA 値別に間隔を推奨することが提案されている。多くの研究により,PSA 基礎値が低値であるほどその後のPSA値のカットオフ値以上への上昇や前立腺癌診断の確率が低いことが実証されている。具体的には,PSA≦1.0ng/mLでは3〜10 年の検診間隔が推奨されている5-8)。一方,それ以上のPSA 値では,より短い検診間隔が推奨される。フィンランドでのRCT を解析した研究によれば,進行性癌の減少効果は毎年の検診で40%,2年毎の検診で24%と報告された9)。また,費用対効果の観点からも,PSA≦1.0ng/mL の検診間隔を3年,1.1~4.0ng/mL では毎年とする方法が,PSA 値に関わらず毎年の検診を行う方法と比較して,優れていた10)

今後の課題として,全年齢同一カットオフ値(0.0~4.0ng/mL)と年齢階層別カットオフ値の費用対効果と不利益の比較,60 歳以下での定点的なPSA 基礎値によるリスク評価とそれに基づく検診間隔の設定,高齢者でPSA カットオフ値上限を引き上げる可能性等を検討することが望まれる。

参考文献

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CQ3
前立腺がん検診の受診が推奨される対象者の年齢や健康状態の条件は?

推奨グレードB
60 歳以下での定点的なPSA 検査を行い,PSA 基礎値を確認することで,個々の受診者における今後の長期的な前立腺癌の発症・転移・癌死に関するリスク管理を行うことが重要である。高齢者におけるPSA 検診継続の判断をするための,余命を予測する正確なモデルは現時点ではないが,将来の方向性として,健康状態評価手段(G8 geriatric screening tool 等)を検診受診推奨判定に用いることは,方策の1つである。

背景・目的

PSA 検査を基盤にした前立腺がん検診には,基本的に毎年PSA 検査を行う画一的な定期検診(ルーチン検診)のほかに,将来の前立腺癌罹患・癌死を予測するために定点的にPSA 検査を行い,検診効率を高める個別化検診(テーラーメイド検診)の概念がある。

解説

1 推奨される検診対象者の年齢

『前立腺癌診療ガイドライン2012 年版』1)における前立腺がん検診の年齢に関するCQ は「受診対象年齢は何歳に設定すべきか?」であり,年齢下限・上限設定に関するエビデンスが主に論説されていた。その後,欧米の検診ガイドラインが発刊され,一律の上・下限年齢設定ではなく,個々の受診者の暦年齢だけではなく健康状態等の背景を考慮した検診受診者設定がより推奨されている。

American Urological Association(AUA)の関連ガイドライン2)では,検診の死亡率低下効果の観点から55~69 歳以外の年齢に属する受診者に対して画一的な定期検診(ルーチン検診)は推奨されていない。しかしながら,55 歳未満では家族歴や人種の見地から高リスク群に限ってPSA 検診受診を推奨する記載,70 歳を超えても健康状態良好であればPSA 検診受診継続は有益である可能性があるとの記載がみられる。

European Association of Urology(EAU)の関連ガイドライン3)では,暦年齢ではなく,10〜15 年の余命を有し,全身状態が良好であり,検診の利益・不利益に基づいた自己決定が可能な受診者に対しては,早期発見の目的で個々のリスクの程度を勘案したテーラーメイド検診を提供すべきであると記載され,50 歳を超えた段階で将来の前立腺癌発症リスクを把握するため,早期のPSA検査が推奨されている。また,①前立腺癌の家族歴を有する45 歳を超えた男性,②アフリカ系米国人,③40 歳,60 歳の時点でのPSA値がそれぞれ1.0ng/mL 超,2.0ng/mL 超の男性が前立腺癌発症に対するリスク群として明記されている。

Vickers ら4)は前立腺癌の転移進展や前立腺癌死予測の観点から,40~55 歳時のPSA 値(PSA 基礎値)を用いてリスク分類の解析を行った。その結果,45~49 歳時,51~55 歳時のPSA 値のカットラインをそれぞれ1.6ng/mL,2.4ng/mL に設定した場合,カットライン以上の男性(高リスク群)の25 年以内の転移性癌進展リスクは,カットライン未満の男性(低リスク群)と比べ7.61 倍,11.44 倍と有意に増加していた。よって,上記年齢において高リスク群となった場合,より徹底した検診継続を推奨し,低リスク群においては40 歳代後半,50 歳代前半,60 歳における3点の定点的なPSA 測定でも十分な可能性がある。

また,Carlsson ら5)もコホート内症例対照研究における将来の検診群と非検診群の前立腺癌死リスクの比較により,60 歳時にPSA<1.0ng/mL であれば,それ以降のPSA 検診は不要である可能性があると論じている。一方,60 歳の段階でPSA≧2.0ng/mLであれば,検診継続は癌死低下効果の点で有益性があり,1.0~2.0ng/mL の範疇であれば,PSA 検診継続は受診者と医師との相談により個別に判断すべきとしている。

本邦における前立腺がん検診においても,Sawadaら6)は55~59 歳,60~64 歳のPSA 値が0.6~1.0ng/mL(低値群)と1.1ng/mL 以上(高値群)の群において,10 年後の前立腺癌発症のリスクは高値群が有意に高いことを報告している。

2 推奨される健康状態の条件

がん検診の受診は本来個々の健康状態に応じた検診受診対応が重要であるが,現時点で本邦において個々の余命を勘案した検診システムを構築しているがん検診は皆無である。前立腺がん検診の受診を決定する場合,個々の受診者において,余命が10~15 年程度見込まれるか否かが重要であるといわれている。しかし,欧米においても80 歳を超える高齢者の35.3%がPSA 検診を受診している現況より(55~69 歳の検診受診率:32.3%),余命を組み入れた前立腺がん検診システムは実践されていない7)

Sammon ら8)は,前立腺癌に罹患した患者の余命期間について,臨床医が算定した予測モデル論文と政府が広報している生命表の対比の検討を行い,過去に報告された予測モデルに優位性を見出せなかったと報告している。本研究結果からわかるように,現時点で正確な余命算定手段がない状況であることから,相応の比率で高齢者の検診受診機会が継続されている現状である。

余命を算定する方法のほかに,経時的な高齢者の健康状態を評価する手段としてInternational Society of Geriatric Oncology(SIOG)の「G8 geriatric screening tool」という,老年者に対するスクリーニング実施の判断をするための健康状態評価手法がある()。Kenis らは,「G8 geriatric screening tool」の評価手段を用いた検証で,担癌者の予後予測に有用であると報告している9)。Droz らは,上記の「G8 geriatric screening tool」を一次評価手法として高齢前立腺癌患者の健康状態の評価ののち,良好群(fit),脆弱群(vulnerable),虚弱群(frail)の3群に分類し,診療指針の運用手段として用いることを推奨している10)。良好群と脆弱群(医療介入によって良好群に改善可能な群)に関しては,個人単位での早期前立腺癌診断が推奨されている一方,虚弱群においては前立腺がん検診は推奨されていない。PSA検診の対象者に対する指針としては,暦年齢ではなく健康状態と本人の希望に応じて行うことが重要と論じている。本邦においても,様々な検診受診機会において,検診受診希望者が自身の健康に不安を抱える場合,簡易なG8 geriatric screening tool 等の健康状態評価手段を用いた検診受診推奨判定の導入を進めることは,将来の方向性として好ましい。

 G8 geriatric screening tool:国際老年腫瘍学会(SIOG)
表 G8 geriatric screening tool:国際老年腫瘍学会(SIOG)

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CQ4
前立腺がん検診の主な利益と不利益は?

推奨グレードB
前立腺がん検診を受診することの主な利益は,進行性癌,転移性癌への進展抑制と前立腺癌の死亡率が低下することである。また癌を早期に発見することにより個々の症例において多くの治療法から適正な選択が可能になることである。一方,不利益は検診では発見できない癌があること,不必要な前立腺生検の増加,前立腺生検に伴う合併症,過剰診断,過剰治療のリスクの増加,治療に伴う合併症によるQOL の低下が挙げられる。

背景・目的

どのようながん検診にも,検診受診に伴う利益と不利益が存在する。前立腺がん検診は近年,RCT により死亡率の低下が明確に証明されている。しかし,受診希望者にその有効性を伝えるだけでなく利益,不利益についての情報を正確に伝えたうえで,前立腺がん検診の受診を判断してもらう必要がある。前立腺がん検診の利益,不利益については近年,大規模RCT の累積したデータより多くの検討がなされ,以前よりも明確になりつつある。ここでは,信頼できる大規模RCTからの報告を主に参考にしながら前立腺がん検診の利益,不利益について解説する。

解説

前立腺がん検診を受診する最大の利益は癌死亡率の低下である。この事実は信頼性の高いRCT で証明されており,ERSPC では検診群は対照群に比べ13 年間の経過観察で21%死亡率が低下したことが示された1)。また,オーストリアのチロル地方ではPSA 検査を用いた前立腺がん検診を導入後,20 年間の経過観察により死亡率の低下が示され,すでに地域社会における有用性も証明されている2)。また前立腺がん検診による転移性癌リスクの低下も同様で,前述したERSPC では転移性癌のリスクが0.60(95%CI:0.52~0.70)に低下し3),またスウェーデンで行われた症例対照研究でも15 年間の経過観察で0.73(95%CI:0.38~1.42)に低下したことが報告されている4) (転移性癌,死亡率の低下についての詳細はCQ1 を参照)。

また前立腺がん検診を受診することにより臨床的に重要な癌を早期に発見することで,病状,価値観,合併症に対する受容,社会的な状況等に応じて,治療効果とQOL の低下のバランスから,最も自分自身に適した治療法を,多彩な治療選択肢から選べることも利益の1つと考えられる。

前立腺がん検診の不利益として,次に示すような問題が挙げられる。

  1. PSA 値がカットオフ値以下でも即時治療が好ましい「臨床的に意義のある前立腺癌」が存在する場合がある5)
  2. PSA 値がカットオフ値を超えて前立腺癌を疑い前立腺生検を施行しても50~80%は前立腺癌が検出されず,結果的に不必要な検査を受けることになる6)。ERSPC ではPSA 値上昇で前立腺生検を施行した76%に前立腺癌が検出されなかったことが報告されている7)。この問題に関してはすでに運用されている様々なPSA関連マーカーの使用,年齢階層別カットオフ値,近年発達したMRI等の画像診断,さらに今後は新たなるバイオマーカーである[−2]proPSA8)(本邦においては体外診断医薬品として未承認)等の使用で,より適切な生検適応症例の選別が行われるように医療が進歩しており,今後も改善が見込まれている。
  3. 前立腺生検の合併症により,血尿,直腸出血,血精液症,排尿困難等のQOL の低下を招くことがある。しかし敗血症等で死亡に至る合併症は極めて稀であり,ERSPC の検討では10,474 例の生検で死亡例はなく9),本邦の検討でもわずか1/212,065 例(0.0005%)であった10)。しかし感染に関する合併症は近年増加傾向にあることが報告されており,注意が必要である11)
  4. 標準的な生検でも単回生検では20~30%の前立腺癌が見逃される可能性がある12)。実際に臨床の現場では生検陰性後も注意深くPSAを測定しながら経過観察が行われ,その変動により再生検が行われており,臨床的に治療の遅れによる病状進行が問題になることは少ない。
  5. 前立腺癌死に至らない「臨床上意義のない前立腺癌」が発見され(過剰診断),治療される(過剰治療)可能性がある。この頻度はメタアナリシスで1.7~67%と報告により大きな幅がみられている13)。この問題はPSA 検診曝露率の高い米国で重要視されているが,本邦では現状ではPSA 検診の普及が不十分であり,過剰診断,過剰治療の割合は低いと予想される。また対策としては監視療法の確立,普及が推進されている。これにより過剰治療を減らし,一定期間,即時治療によるQOL の低下を避けることが可能となり,すでに臨床の現場では一部の低リスク症例に実践されている。
  6. 治療(手術,放射線療法,ホルモン療法)を受けたことによる合併症により勃起障害,尿失禁等のQOL の低下,さらには治療により死亡する危険性が指摘されている14)。これについてはロボット支援手術の普及を含めた手術技術の向上,放射線療法では小線源療法,強度変調放射線治療(IMRT),粒子線治療の進歩と普及によりすでに改善しつつある。2011 年に公開された U.S. Preventive Services Task Force(USPSTF)の勧告でPSA スクリーニングを否定する要因として挙げられた術後30日以内の死亡が0.5%との危険性も14),最近の報告では0.1%程度と改善しつつある1516)

検診の利益と不利益をまとめた本邦の厚生労働省研究班(濱島班)のガイドライン17)における,過剰診断の不利益に関する記述は参考になる。しかし,利益や不利益の多くの部分において,最新の重要な研究成果に関する考察がなされていない。そのため現時点では,『前立腺がん検診ガイドライン2010 年増補版』18)に準拠した一般住民向けのPSA検診の最新情報・利益と不利益等を解説した啓発資料(『PSA 検診受診の手引き』(公益財団法人前立腺研究財団発行)等)を用いた情報提供を行うことが望ましいが,全般的に前立腺がん検診の不利益に関する要因は近年その多くが改善傾向にある。

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CQ5
前立腺がん検診の費用対効果比・検診効率についての評価は?

推奨グレードC1
前立腺がん検診は過剰診断・過剰治療による余剰費用の負担が大きいため,費用対効果は劣るとされてきた。しかし2014 年に報告された欧州でのRCT の結果を用いた費用効果分析では,55〜59 歳で検診間隔が2年のグループにおける増分費用効果比は質調整生存年(QALY)1年増加あたり7.3 万ドルと試算され,従来の報告と異なり費用対効果が優れることが示された。一方で,63 歳を超えるグループでは過剰診断によるQALY の減少により費用対効果がやはり劣ることも示された。

背景・目的

患者ではなく健常者集団を対象とするがん検診は,①低侵襲であり,②RCT で死亡率低下効果が証明されており,かつ③費用対効果に優れていることが理想とされる。

前立腺がん検診は,①の要件を満たしており,②についても近年相次いで質の高い研究結果が示されている。2009 年に「The New England Journal of Medicine」に報告されたERSPC の中間報告において,中央値9年間の経過観察後の検診群における前立腺癌死亡の相対リスク比は0.80(95%CI:0.65~0.98)となり,検診による有意な死亡率低下効果が示された。NNS は1,410 人,NND は48 人であった1)。さらに,2014 年に「The Lancet」に報告されたERSPC の13 年間経過観察後の解析結果でも,55~69 歳において検診群は対照群と比べて21%の死亡率低下効果を認め,NNS は781 人,NND は27 人であった2)。また,スウェーデン・イエテボリ研究では,中央値14 年間の経過観察後,検診群は対照群と比べて44%の死亡率低下効果を認め,NNS は293 人,NND は12 人であった3)

これらの報告に基づいて,費用対効果を検討した医療経済評価研究がいくつか報告されている。本項では,前立腺がん検診の経済評価に関して,2009 年以降の文献を中心に解説する。

解説

2008 年以前は,費用効果分析に必要な死亡率低下効果に関する信頼性の高いデータがなかった。そのため,楽観的な仮定値に基づく分析と悲観的な仮定値に基づく分析との間で費用対効果の計算結果に著しい乖離が認められた4)

2009 年のERSPC の中間報告データを引用した欧州での前立腺がん検診の費用分析によると,非検診群100,000 人を25 年間追跡調査すると仮定した場合,2,378 人に前立腺癌が発見され,検診・治療を含めた総費用は約3,028 万ユーロと試算された。一方,検診群100,000 人からは4,956 人に前立腺癌が発見され,その総費用は約6,069万ユーロと試算された。そのうち,PSA検診自体の費用は総費用の約5%(304 万ユーロ)に止まり,過剰診断・過剰治療にかかるコストが総費用の約39%(2,367 万ユーロ)となった5)

また,同報告データに米国の医療費データを当てはめた費用効果分析では,1人の前立腺癌死亡を回避するために必要な費用は約522 万ドル,増分費用効果比(incremental costeffectiveness ratio;ICER)は1生存年増加あたり約26.3 万ドルとなった。また,1生存年増加あたり費用を10 万ドル未満に低減するには,治療必要数(number needed to treat;NNT)が21 人を下回る必要があると試算された6)

2009〜2013 年に報告されたいくつかの費用効果分析の結果は,おおむね60 歳以下の男性でPSA≧3.0ng/mL である場合,費用対効果に優れることを示している7)

2014 年のERSPC の報告データを用いた最新の研究では,55~59 歳で検診間隔が2年のグループではICER が質調整生存年(quality-adjusted life-years;QALY)1年増加あたり7.3 万ドルであった8)。一般に,費用対効果に優れるか劣るかを判定するために用いられる1QALY 増加あたりのICER の閾値は,米国では5万〜10 万ドルと設定されている9)。7.3 万ドルという結果はこの閾値の上限値を下回っており,費用対効果に優れると判定される。これらのグループでは,生涯の前立腺癌死亡減少率は13%であり,検診発見癌の33%が過剰診断であると推計された。もっとも,63 歳を超えるグループでは,過剰診断によるQALY の減少により費用対効果が劣る計算になることも示された8)

前立腺がん検診の費用を押し上げる最大の要因は,過剰診断・過剰治療による余剰費用である。今後,前立腺がん検診の有効性のみならず経済効率性を改善するには,過剰診断を克服する技術革新が重要となると考えられる。

参考文献

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4 病期・リスク分類・ノモグラム

総論

前立腺癌を診断した際には,進行度を客観的に評価し,患者の予後予測と治療方針の決定のため,最初に臨床病期分類を行う。世界的に最も広く使用されているのは2009 年のUnion for International Cancer Control(UICC)分類(第7版)1)であり,本邦の『前立腺癌取扱い規約第4版』2)でもこのUICC 分類を用いている(表1)。T:原発腫瘍,N:所属リンパ節,M:遠隔転移であり,N分類,M分類に関してはCT,骨シンチグラフィー,骨盤MRIで評価することで現在のコンセンサスは得られているが,T分類に関しては直腸診によるもの,MRI 等の画像によるものが混在しており,診断に用いたモダリティーを記載する必要がある。次に治療後の再発率や予後を予測するリスク分類が行われ,患者の全身状態,合併症,年齢を考慮した治療選択がなされる。特に限局性前立腺癌においては,臨床病期,PSA値,Gleason スコアによるD’Amico 分類(表23)やNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)分類(表34)が普及している。ただし,これらのリスク分類の中間リスク症例や高リスク症例は,予後の異なる多様な患者が含まれていること6),また,海外の患者のデータベースを基にしているため日本人に当てはまらない可能性があることに注意が必要である。一方,ノモグラムはリスク分類よりも多い複数の因子により,個々の患者に対する治療成績や予後予測を提供する数学的モデルである。近年,前立腺癌を含む多くの領域において,様々なエンドポイントを予測するノモグラムが作成されている。前立腺癌では,1993 年にPartin らによる前立腺全摘除術後の病理病期予測ノモグラム(Partin Table)が作成され,泌尿器科医に広く使用される契機となった7)。本邦でもPartin Tableと同様の趣旨で日本人のコホートによるJapan PC Table8)が作成されている。ノモグラムは,患者の治療アウトカムを予測する優れたツールであり,リスク分類の不均一性(heterogeneity)をさらに層別化することが可能である。しかし,使用にあたってはノモグラムの基礎となったデータが現在の標準検査,分類法,治療モダリティーと異なる場合もあり,十分な注意が必要である。将来的には,遺伝子変異等の新たなバイオマーカー9)や患者の全身状態(年齢,合併症,認知機能等)の評価10)を加えた,総合的でより精度の高いリスク分類やノモグラムの開発が期待される。

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CQ1
前立腺癌の病期診断はどのように行われるべきか?

推奨グレードB
直腸診や画像検査等の所見を基に適確な病期診断を行うことが必要である。

背景・目的

前立腺癌の治療では病期診断がその後の治療法選択や予後予測に大きな影響を与えるため,できるだけ正確な病期診断を行うことが必要である。病期分類には現在では「TNM 悪性腫瘍の分類改訂第7版」(2009 年,表1)を用いることが推奨されており,従来使用されていたJewett Staging System は参考に止まる。病期決定のためには原発腫瘍(T),所属リンパ節(N),遠隔転移(M)をそれぞれ評価する必要がある1)

表1 TNM 悪性腫瘍の分類改訂第7版(2009 年)
表1 TNM 悪性腫瘍の分類改訂第7版(2009 年)

解説

病期診断を決定するための手段としては,直腸診とともに癌の進行度に応じてCT,MRI,骨シンチグラフィー,経直腸的超音波断層法等の画像診断が用いられる。前立腺生検の病理結果は病期診断には用いない。最近ではフルオロデオキシグルコース(FDG)等の各種トレーサーを用いたPET-CT が原発巣や転移巣の同定に用いられることもあるが,現在のところ病期診断にPET を用いることは一般的ではない2)

適切な治療法を選択するために正確な病期診断が求められる一方で,実際の病期診断においては病期決定をどのように行うか曖昧な点がある。また臨床的な病期が全摘標本等における病理学的な病期と一致しないことも多い3)。T-病期決定においては,現在では直腸診とMRI が病期決定に用いられるが,特に早期癌においては直腸診は再現性や客観性に乏しい検査とされている5)。最近ではMRI により前立腺局所の癌病巣をある程度正確に捉えることが可能になってきたため,MRI の所見を病期決定に用いることもあるが,直腸診の所見とMRI の所見が異なる場合,どのようにT-病期を決定するかについては一定の見解には至っていない。直腸診に基づく診断では腹側の癌の評価は困難なためT1c の割合が多くなる傾向があるが,MRI の所見を積極的に採用すればT2 やT3 と判断される機会が増加する可能性がある。現状ではT-病期決定に用いた診断ツールを併記することが推奨される1)

N-病期の決定にはCT やMRI が画像検査として用いられる。しかしながら画像でリンパ節転移が明らかでなくても,高リスク症例における拡大リンパ節郭清では20%前後に微小リンパ節転移があるとされており6),画像診断によるN-病期の決定には限界がある。

M-病期の決定にはCTや骨シンチグラフィーが用いられる。CT は主に臓器転移やリンパ節転移の同定に有用である。有症状の骨転移の評価のためにCT やMRI が撮影されることもあるが,全身検索のためには骨シンチグラフィーが用いられることが一般的である。

MRI やPET 等の画像技術の進歩により,より正確に原発巣や転移巣を捉えることが可能となってきているが,その所見をどのように病期診断やそれに基づく治療法の選択に用いていくかについては課題がある。現実的には直腸診や画像所見等から決定された病期診断を基に,PSA 値やGleason スコア,年齢や合併症等の情報も参考にして治療方針等が決定されているものと考えられる。

参考文献

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CQ2
前立腺癌のリスク分類は有用か?

推奨グレードB
前立腺癌におけるリスク分類は,根治的治療後の治療成績(再発率)を予測するうえで有用である。

背景・目的

転移のない前立腺癌に対し使用頻度の高いリスク分類は,1998 年にD’Amico が考案したリスク分類(表21)と,NCCN のリスク分類(表3)である。D’Amico がリスク分類を作成した目的は,多彩な背景因子をもつ前立腺癌患者を,3つの因子(T-病期,Gleason スコア,PSA 値)を用いて再発リスク毎に3分類(低(Low),中間(Intermediate),高リスク(High))し,それぞれに最適な治療方法を検討することにあった。これらリスク分類は簡便で,多施設患者による再現性も確認され2-4),世界中に浸透した。ただし使用にあたっては,各リスク因子(T-病期とGleasonスコア)の診断上の問題点と,同一リスク集団内の不均一性(heterogeneity)について理解して用いることが重要であり,それらの項目について解説を行う。

表2 D’Amico 分類
表2 D’Amico 分類
表3 NCCN 分類
表3 NCCN 分類

解説

臨床的T-病期の診断で用いる直腸診の問題点は,検者の主観的評価,経験に依存し検者間で診断の不一致が起こりやすいことである5)。また経直腸的超音波断層法(グレースケール±カラードップラー)においては,前立腺癌を見落とすことなく診断できる割合(感度)は60%にすぎない7)。生検標本のGleason スコアにおいても病理医間の診断の不一致性が存在し,中央病理医と一般病理医におけるGleason スコアの一致率は59〜65%と報告されている9)。臨床的T-病期の不確実性を解決すべく客観的な診断方法の確立が望まれ,またGleason スコアの不一致性についても,必要時に専門性の高い泌尿器病理医に意見を仰ぐ等,対策が必要である。

低リスク前立腺癌は,治療成績のうえで比較的均質な集団であり,手術および放射線療法のいずれの方法を選択しても,治療後10 年の時点で前立腺癌死する可能性は極めて低い。ただし,低リスクと診断し,手術を施行した患者の摘出標本を観察すると,5〜15%の患者で被膜外浸潤もしくは精囊浸潤を認めることが報告され,過小評価している可能性を常に念頭におき診療を行う1011)

中間リスク前立腺癌においては,同じ集団内での治療成績の不均一性(heterogeneity)が指摘されている。Zumsteg らは,中間リスク前立腺癌患者1,024 例に対し81Gy 以上の放射線療法を実施し,その治療成績を後ろ向きに検討した12)。単一のリスク因子を有する条件のよい中間リスク症例と,複数のリスク因子を有する中間リスク症例を比較すると,同じ中間リスク症例にもかかわらず前立腺癌死に対するハザード比が,最大で25.6(95%CI:5.6〜116.1)に達した。治療後8年の時点での前立腺癌死亡率の差(推定)は最大で9.7%に及んだ(0.8% vs 10.5%)。複数のリスク因子を有する中間リスク症例の治療成績は高リスク症例に近く,単一リスク因子を有する中間リスク症例は低リスク症例に近い性質を示していた。

高リスク前立腺癌においても,同じ集団内での治療成績の不均一性(heterogeneity)が指摘されている1314)。Joniau らは,高リスク前立腺癌1,360 例に対する手術後の治療成績を後ろ向きに検討した14)。単一リスク因子を有する条件のよい高リスク症例と複数のリスク因子を有する高リスク症例では,10 年前立腺癌死亡率で最大15.7%もの差を認めた(4.6% vs 20.3%(p<0.0001))。

いずれも後ろ向きの検討ではあるが,同じリスク群内における治療成績の不均一性が示された12-14)。複数のリスク因子を有する中間・高リスク前立腺癌患者の治療方針を,いかに工夫し改善させていくか,現在の重要な課題である15)

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CQ3
前立腺癌ノモグラムは有用か?

推奨グレードB
ノモグラムはエビデンスに基づいた現在最も正確な予測ツールであり,前立腺癌診療においても使用が推奨される。

背景・目的

臨床現場における様々なエンドポイント(検出率,再発率等)の予測は,患者に対する病態理解のための情報提供として,また治療方針決定の場面における判断材料として重要である。単一の因子での予測には限界があるため,より正確な予測のためには複数の因子を組み合わせることが必要である。ノモグラムは複数の因子から個々の患者に対する予測値を95%CI 付きで提供できる数学的モデルであり,図表として提示される。近年,前立腺癌を含む多くの領域において,様々なエンドポイントを予測するノモグラムが報告されている。

解説

前立腺癌においては1993 年にPartin らによる病理病期予測ノモグラムが報告され,後にPartin Table としてアップデートされ泌尿器科医に広く使用されることとなった2)。その後,Kattanらによる「前立腺全摘除術後のPSA再発予測」をはじめとして「生検における癌検出」「病理病期」「治療後のアウトカム」等を予測するノモグラムが多数報告されている3-6)。近年では初回生検時のみならず「再生検時の癌検出の予測」や「根治的治療後の尿禁制/勃起機能の予測」等,様々な臨床の場面でのノモグラムの使用が可能になっている8)

臨床医の経験に基づく判断,リスク分類,classification and regression tree analysis(CART 分析),artificial neural network 等よりも多変量解析を基にしたノモグラムの予測は正確であり,現在最も信頼できる予測ツールであることは前立腺癌のコホートにおいても立証されている9-11)。たとえばノモグラム同様に臨床の場で頻用されるD’Amico 分類における各リスク群はバラツキの大きい不均一な集団で構成されているが,ノモグラムでは個々の患者の臨床因子に基づいた予測値が得られるためリスク分類よりも正確な情報が得られ,個々の患者により正確な情報を提供することが可能であり治療方針決定の助けになる1213)。その他,臨床試験での対象症例選別においても有益なツールであると考えられる。

以上より,前立腺癌診療においてもノモグラムの使用が推奨されるが,以下の点に注意すべきである。

  1. ノモグラムによる予測値は現状では最も信頼できるが,完璧な予測に至ってはいない(正確度:70〜80%)。今後も新規のバイオマーカーや画像検査等の因子が加えられた,さらに予測精度が高く臨床のニーズに応えたノモグラムの作成が期待される。
  2. ノモグラムの基になったデータと実際に使用する患者との臨床背景(人種,検査値等)や施設間の違い,また外部データでの検証がなされているか等を熟知したうえで使用すべきである。たとえば作成から長い時間が経過したノモグラムを現在の患者に使用するのは患者背景の経年的変化を考慮すると望ましくないと考えられる。Partin Table は数年毎に新しいコホートを用いてアップデートされており,最新の患者背景を反映したノモグラムになっている14)。また,前立腺癌における人種間の違いを考慮すると,本邦のデータに基づいて作成された,または本邦のデータでの検証が行われたノモグラムの使用が望ましいと考えられる1516)
  3. ノモグラムでは個々の患者の状況に応じた数値が示されるが,この数値のみで治療方針等が決定されることがあってはならない。患者に対する「答え」ではなく「正確な情報」を提供するツールであることを念頭において使用すべきである。

参考文献

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5 診断方法(マーカー,画像,生検)

総論

前立腺癌の診断は,PSA 検査を中心としたスクリーニング,生検による確定診断,各種画像診断による病期診断という3つの段階を経て完結する。いずれの段階の診断も必須のものであり,これらを通じて得られる所見は,前立腺癌の診断に止まらず,治療法の決定および臨床経過の予測という意味においても極めて重要な情報であることは周知の事実である。

前立腺癌診断におけるスクリーニング検査としてのPSA 測定の重要性は,確立されたものであるが,一方でPSA 低値が必ずしも癌の存在を否定し得ないということも明らかにされている1)。つまり,PSA 値のみに基づく前立腺癌検出の特異度は決して満足できるものではなく,不必要な生検を回避するという意味においても,その改善に向けた様々な試みがなされてきた。代表的な取り組みとしては,PSA濃度(PSA density;PSAD),free-to-total PSA ratio(F/T比)等のPSA関連パラメーターの導入である3)。また,これらのPSA 関連パラメーターに直腸診所見,前立腺体積,経直腸的超音波検査(TRUS)所見等を併せて評価し,前立腺癌のリスクをより総合的に解析するノモグラム等の有用性も明らかにされている4)。さらに,近年PSA 前駆体あるいは新規バイオマーカー等の導入による優れた前立腺癌検出率が報告されつつあり6),今後の展開が期待されている。

前立腺癌の確定には,前立腺生検による病理組織学的診断が必要である。Hodge らが提唱した6カ所生検が標準的手法として広く施行されてきたが7),生検施行対象となる患者背景の変化とともに種々の改良が加えられ,初回生検においては標準的6カ所生検に辺縁領域外側4〜6カ所を加えた計10〜12 カ所の生検が推奨されるに至っている8)。また,このほかにも尖部および腹側では直腸診陰性症例において癌が高率に検出されることが知られており,再生検症例ではこれらの部位を追加した多数カ所生検を行うことにより癌検出率を改善できる可能性が示唆されている9)

前立腺生検のアプローチ法としては,経直腸生検および経会陰生検の2種類があるが,両者の癌検出率はほぼ同等であると認識されている10)。一方,合併症の中で敗血症等の重篤な感染症の発症リスクは,経会陰生検施行群よりも経直腸生検施行群において高いとされている11)。しかし,経会陰生検施行に際しては麻酔方法の工夫が必要であり,両者の優劣に関しては検査時間や費用等も含めてより総合的に評価されるべきである。

前立腺癌の病期診断は治療方針の決定に大きく影響するため,各種画像診断によりできるだけ正確になされるべきである。T-病期診断に関しては,MRI 最も信頼性の高い画像診断検査として位置付けられている。形態を評価するT2 強調画像に加えて,機能的な情報を加味するダイナミック造影,拡散強調画像を加えたmultiparametric MRIによる総合的な評価を行うことで,診断能が向上することが示されている1213)。また,3テスラMRI を使用することで,より空間分解能の高い画像を得ることが可能となり,前立腺癌のT-病期診断における有用性も明らかにされている。

一方,転移巣診断に関しては,従来の概念を揺るがし得る新たな知見の報告は少ない。つまり,N-病期診断に関しては,最良の評価法はリンパ節郭清術であり14),CT,MRI のリンパ節転移診断能は決して十分でなく,ともに感度40%程度,特異度80%程度であると報告されている15)。また,M-病期診断の中でも,骨転移診断には99mTc 製剤による骨シンチグラフィーが依然として汎用されており16),骨以外の転移巣診断にはCT,MRI 適宜選択されている。しかし近年,前立腺癌の転移巣診断における新規造影剤を用いたMRI,コリン代謝に基づくポジトロン断層撮影法(positron emission tomography;PET)等の有用性が報告されており1718),今後の研究推移が注目される。

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CQ1
PSA 検査の特異度を向上させるために推奨される方法は?

推奨グレードC1
% free PSA,PSA 濃度(PSAD)およびノモグラム等はPSA検査の特異度を向上させる可能性がある。

背景・目的

PSA の単回測定のみでの前立腺癌検出に限界があることは以前より指摘されている。PSA 検査による前立腺癌検出の特異度は,決して満足できるものではなく,その向上を目的とした多くの試みがなされている。特異度の向上は,不必要な生検の回避にもつながることからも,臨床上重要な課題である。

解説

PSA 検査の特異度を向上させる試みとして,遊離型PSA(free PSA)の割合が前立腺癌患者で低いことを利用したパラメーター(% free PSA,F/T比等),前立腺および移行領域の体積を考慮したパラメーター(PSAD,PSA density of transition zone(PSATZ)等),PSA の上昇速度を考慮したパラメーター(PSA 年間増加度(PSA velocity;PSAV))等が報告され,一定の有効性が示されている。Roddam らはPSA 値が2〜10ng/mL の症例を対象とした66 の研究についてメタアナリシスを行い,PSA 値が2〜4 ng/mL あるいは4〜10ng/mL の症例においても,F/T比がPSA 検査単独よりも優れていたことを報告している1)。PSAD についてもその有用性は散見される一方で2-5),PSAV に関してはVickers らがシステマティックレビューを行ったが,PSA 検査単独よりも優れたものではなかったと報告している6)

さらに,これらのPSA 関連パラメーターに加え,年齢,家族歴,直腸診所見,前立腺体積,TRUS 所見等を組み合わせて前立腺癌のリスクを求める計算式やノモグラムが数多く考案されている。しかし,実際には十分な数のコホートで外部検証されているモデルは少なく,Louie らはMEDLINE で文献を系統的に検索し見出した127 のモデルのうち,5つ以上の研究で外部検証されたのは6モデルにすぎなかったことを報告している7)。このメタアナリシスでは,外部検証されたAUC(area under the curve)を統合し,その値をPSA 検査と比較している。Prostate Cancer Prevention Trial(PCPT)モデル8)を除く5つのモデルは,コホート全体でのPSA 検査と比較し優れたAUC 値を示したが2-59),同じコホートを解析し算出されたAUC 値ではないため,この結果に基づいてモデル間の優劣を比較することはできない。

近年,PSA 前駆体である[−2]proPSA(p2PSA)あるいはprostate cancer antigen 3(PCA3)等を他のパラメーターと組み合わせて利用することにより,PSA 検査の特異度が改善することが報告されているが1011),本邦では試験用試薬としての使用が認められているのみであり,保険収載されていない。

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CQ2
前立腺生検で推奨される生検部位と生検本数は?

推奨グレードA
初回生検では,辺縁領域(PZ)を中心とした10〜12 カ所の多数カ所生検が推奨される。
推奨グレードB
再生検では,尖部や腹側生検を追加した多数カ所生検が癌検出率を高める可能性がある。

背景・目的

1988 年にMcNeal らは,前立腺を辺縁領域(PZ),移行領域(TZ),中心領域(CZ)に分け,前立腺癌の発生頻度はPZ で68%,TZ で24%,CZ で8%であることを報告し,前立腺肥大症の影響を受けにくいPZ が前立腺癌の好発部位であることを示した1)。この報告により,前立腺癌を効率よく検出するためにPZ を中心とした生検の重要性が示唆された。

生検方法に関しては,1989 年にHodge らが傍正中の底部,中部,尖部の左右1 本ずつを採取する経直腸的系統的6カ所生検を提唱し2),それ以降の標準的な生検法となった。近年,PSA 検診の普及に伴い,直腸診陰性かつPSA低値での生検症例が増加したことから,6カ所以上から標本を採取する多数カ所生検(extended biopsy)が一般的となった。

解説

Eichler らは標準的6カ所生検および多数カ所生検の結果を解析した87 研究,20,698 例を対象としたメタアナリシスの結果を報告した3)。標準的6カ所生検にTZを含む中央部の生検を加えても癌検出率に有意な増加は認めないが,6カ所のPZ 外側生検を加えた多数カ所生検では癌検出率が31%増加することを示した。また,生検本数を18〜24 本に増加させても,12 カ所生検と比較して癌検出率に有意な改善を認めなかった。有害事象に関しては,6カ所生検と12 カ所生検で有意な差を認めなかった。

生検標本と全摘標本のGleason スコアの一致率に関しては,San Francisco らが6カ所生検では多数カ所生検と比較して有意にGleason スコアが低く診断されていることを報告し,多数カ所生検の正診率が有意に高いことを示した4)。またSiuらは6カ所生検と多数カ所生検において,臨床的に意義のない癌(全摘標本において臓器限局性で,最大腫瘍径≦1.0cm,Gleason スコア≦6)の検出率に有意差を認めないことを報告し,多数カ所生検が過剰診断にはならないことを示している5)

生検本数の増加に関しては,2001 年にStewart らが初回6カ所生検陰性の再生検症例に対して,生検本数を著明に増加させることで癌の検出率を上げることを目的として“saturation biopsy”の概念を提唱した6)。この報告では平均23本(14〜45 本)の生検を施行し34%の症例で癌を検出したことで,再生検におけるsaturation biopsy の有用性を示した。しかし,初回生検においては,多数カ所生検(>6カ所)と比較してsaturation biopsy の優位性を示す報告は少ない7-9)

Ploussard らは2,753 例を対象とした前向き試験で,前立腺体積が大きくPSAD が0.2ng/mL/g 未満の症例においては,21 カ所生検が12 カ所生検と比較し,臨床的に意義のない癌の検出率を増加させることなく,癌検出率を有意に改善することを報告しており9),前立腺体積が大きい症例では生検本数の増加を考慮する必要がある。

生検部位に関しては,PZ 外側,TZ,中央部以外で癌検出における重要部位として尖部および腹側が挙げられる。これらの部位には直腸診陰性症例において癌が存在することが多く10),再生検での癌検出率も高い1112)。したがって,再生検においてはPZ 外側に加え,尖部および腹側を標的とした生検を追加することが,癌検出率の改善という点で重要であることが示唆される。

以上より,初回生検では癌検出率および合併症の観点から標準的6カ所生検にPZ 外側の4〜6カ所を加えた10〜12 カ所程度の多数カ所生検が推奨される。また,前立腺体積が大きい症例では生検本数を増加することで癌検出率を高める可能性があり,再生検症例では尖部や腹側等を追加した多数カ所生検を行うことで癌検出率を改善できる可能性がある。

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CQ3
経直腸生検,経会陰生検,あるいはその併用のいずれが推奨されるか?

推奨グレードA
経直腸生検と経会陰生検の癌検出率は同等であるが,合併症の中で感染症に関するリスクは経直腸生検の方が高い。

背景・目的

前立腺生検の到達経路には,経直腸(TR)と経会陰(TP)の2種類がある。また,両者を併用した生検法も考案されている。癌検出については,前立腺尖部や腹側においてはTRが不利であるが,恥骨弓干渉が高度であるとTPによる標本採取の難易度が増すとの報告もあり,両者の併用はそれぞれの欠点を補う方法として有用である可能性が示唆される。最近では,MRI ガイド下三次元生検の有用性も検証されている。また,TR においては直腸出血と感染症のリスクを避けられず,TPでは麻酔方法の工夫が必要であり,両者の優劣に関しては,検査時間や費用を含めて総合的に検討されるべきである。

解説

主な比較試験,システマティックレビュー,メタアナリシスでは,癌検出率および合併症のいずれにおいてもTR とTP の間に有意差はなく,両者ともに局所麻酔で施行可能なことから,両生検の有用性は同等といえる。しかし最近では,重篤な感染症の合併がなく,前立腺尖部や腹側の癌検出に優位なテンプレートガイド下TR生検を推奨する報告も増加している。

Abdollah らは,再生検472 例(TR 群332 例,TP 群140 例)において癌検出率を比較した。両群とも局所麻酔下に24カ所生検が施行され,全体の癌検出率は28.6%であった。傾向スコア分析にて,主要な患者背景をマッチングさせた各群140 例の癌検出率は,TR 群31.4%およびTP 群25.7%となり両群間に有意差を認めなかった1)。またShenらは,7つの無作為化比較試験あるいは症例対照研究のメタアナリシスを施行し, sextant,extensive,saturation のすべての採取方法においてTR とTP の癌検出率に有意差を認めないことを報告した2)。しかし,論文や施設毎に対象,生検本数,生検部位,MRI や病理組織診断所見も標準化されていない現状で,到達法の違いによる成績比較の意義を疑問視する向きもある。

一方, TR とTP の併用についてはTakeshita らが,三次元14 カ所生検(TP6カ所とTR8カ所併用)を施行した1,103 例を前向きに評価した。各採取部位での癌検出率のみならず,いわゆる臨床的に意義のある癌の検出が効率的であり,PSA<20ng/mLの症例に対するTP およびTR を併用した三次元14 カ所生検の有用性が示された3)

合併症についてはGrummet らが,メルボルン地区の多施設共同で前向きに集積したデータベースの解析に,PubMed およびEmbase の文献レビューの結果を併せて評価することにより,TP 群では敗血症等の重篤な感染症が原因で再入院となる患者が存在せず,直腸内多剤耐性菌の影響を考慮するとTP が望ましいと報告した4)

Nelson らは,TR saturation 生検,TP 生検,MRI 所見を加味した生検に関する46 文献から4,657 例の初回TR 生検陰性症例を抽出し,メタ回帰アナリシスによる癌検出の精度の比較を行い,MRIの情報に基づいた生検の癌検出率は他の生検法よりも優れていることを報告した5)。近年,3テスラ-multiparametric MRI 併用US-fusion target biopsy の優れた診断精度も報告されており,最新のMRI 情報を基にした生検が,臨床的意義のある高リスク癌の効率的検出に有用である可能性が示唆されている。

参考文献

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CQ4
原発巣の評価(T-病期診断)にはどのような検査が推奨されるか?

推奨グレードB
原発巣の評価(T-病期診断)は画像診断による。特に3テスラMRI を用いて,T2 強調画像にダイナミック造影,拡散強調画像を加えたmultiparametric MRI を施行することにより,診断能向上が認められる。

背景・目的

T-病期診断で最も重要なことは,癌が前立腺内に止まっているか(T1,T2),前立腺外へ進展しているか(T3,T4)を見極めることで,これは以後の治療方針の選択に極めて重要である。しかし,顕微鏡的な癌の検出は不可能であり,病期分類における有用性には限界がある。

解説

すべての症例で原発巣の正確な病期決定が必要なわけではないが,治療方針の決定に直接影響する所見が得られることもあり,詳細な原発巣の評価を施行すべきである。しかし,用いた診断ツールによりT-病期診断が異なることがあり,これを付記することが望ましい。また,生検所見は考慮しないという解釈が一般的である。

直腸診は局所浸潤を過小評価しがちであり,直腸診と病理学的病期との一致率は50%以下と報告されている1)。TRUS は,腫瘍進展の把握が不正確であり,ルーチンに施行する病期診断ツールとしては推奨されず,T2 とT3 の鑑別診断はTRUS のみでは行うべきでない3)。また,CT は濃度分解能が低く,局所病期診断には適していない4)

MRI は前立腺癌の局所病期診断において,客観的で信頼性の高い画像診断検査として位置付けられる。形態を評価するT2強調画像に加えて,機能的な情報を加味するダイナミック造影,拡散強調画像を加えたmultiparametric MRI により総合的に評価される。生検に伴う出血が診断能を低下させるため,可能ならば生検前に施行すべきであるが,生検後に撮像する場合は少なくとも3週間以上の間隔を空けることが望ましい。

広く普及している1.5 テスラMRI による撮像に際しては,欧米では主に経直腸コイルが用いられるが,本邦では経直腸コイルは普及しておらず,一般的にはフェーズドアレイコイル等の体表コイルが用いられる。しかし,最近普及しつつある3テスラMRI を使用することで,体表コイルを用いても空間分解能の高い画像を得ることができる。

局所病期診断においては,画像検査で病巣が検出されない場合があるが(T1c),その割合は診断手技により大きく異なる。MRIでは読影者の経験による診断能のばらつきが大きく,撮像,読影の標準化の指標としてProstate Imaging and Reporting and Data System (PI-RADS)が提唱された6)。最近のメタアナリシスによれば,これを用いた場合の病変検出感度は78%,特異度は79%と報告されている7)

MRI による前立腺外進展,精囊浸潤診断に関しては,3テスラMRI の方が1.5 テスラMRI よりも高感度であるが,経直腸コイルの有無による診断能の差はほとんどなく,3テスラMRI で経直腸コイルを用いない場合の感度,特異度が最も高いと報告されている7)。またT2 強調画像のみによる診断と比較して,機能的情報が追加されると感度,特異度がともに改善されるためmultiparametric MRI での評価が推奨される8)

参考文献

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CQ5
転移巣の評価(NおよびM-病期診断)にはどのような検査が推奨されるか?

推奨グレードB
リンパ節評価にはリンパ節郭清術が最も優れるが,閉鎖リンパ節のみを対象とした郭清では不十分である。
推奨グレードC1
リンパ節の評価においては,CT やMRI は感度,特異度ともに十分ではない。
推奨グレードB
未治療症例でPSA≧10.0ng/mL,かつ直腸診陽性またはGleasonスコア≧8の症例,および骨転移を示唆する症状のある症例においては,骨シンチグラフィーが有用である。

背景・目的

リンパ節転移および骨をはじめとする種々の臓器への遠隔転移の存在は,治療方針の決定に大きな影響を及ぼし,患者の予後予測にも極めて重要である。N およびM-病期診断が,どのような症例において必要とされるか,またその場合に推奨される検査法を検証する。

解説

リンパ節の評価は,治療方針の決定に直接の関与を有する場合に重要であり,特に根治的治療の対象となる症例において,その意義は大きい。リンパ節転移が存在する確率は,PSA 値,臨床病期,生検時のGleason スコアの組み合わせにより異なり,日本版ノモグラムではPSA≦10.0ng/mL,臨床病期≦T2a,かつGleason スコア≦6の症例では,リンパ節転移を有する確率は5%未満であるとされている1)。このような症例においては,根治的治療を行う前のリンパ節の評価を省略できる場合もあり,個々の症例での転移の確率を考慮してリンパ節評価の検査適用を決定する必要がある。

最良のリンパ節評価方法はリンパ節郭清術であるが,4〜5割のリンパ節転移が閉鎖リンパ節以外に存在したという報告があり,閉鎖リンパ節のみを対象とした郭清はリンパ節評価として不十分である3)

大きさを診断基準として用いるCT,MRI のリンパ節転移診断能は十分でなく,メタアナリシスによれば,ともに感度40%程度,特異度80%程度で,CT とMRI の診断能に差を認めない4)。MRI 用のリンパ節用造影剤であるultra-small superparamagnetic iron oxide(USPIO)製剤を用いたMR lymphography の有用性が報告されているが,USPIO 製剤の入手は困難である5)。F-18 あるいはC-11 でラベルしたCholine PET は,最近報告されたメタアナリシスによると,感度65%程度,特異度90%程度であり,その診断能は優れているが6),本邦では保険適用外である。

前立腺癌は骨をはじめとして種々の臓器へ,遠隔転移をきたし得る。99mTc 製剤による骨シンチグラフィーは,骨代謝の亢進した部位に集積し,特に造骨性骨転移の検出に優れた画像診断検査であるが,その特異度はやや低いとされている7)。また,PSA<10.0ng/mL で無症状である場合,骨転移を有する確率はほとんどないため,すべての前立腺癌症例のM-病期診断に骨シンチグラフィーを施行することには問題があるとされており,その適応は,症状,PSA 値,Gleason スコアおよび直腸診所見等を考慮して決定する必要がある9)18F-Fluoride は,99mTc による骨シンチグラフィー製剤と同様の集積機序をもつPET 製剤である。骨シンチグラフィーと比較して感度,特異度に優れると報告されているが10),本邦での保険適用はない。

骨以外の転移に関しては,胸部X 線,超音波検査,CT,MRI 等が適応となるが,骨以外の転移巣の頻度,診断能等に関するエビデンスは乏しい。前立腺癌はブドウ糖代謝が活発でなく,また尿路排泄による影響を受けやすいため18F-FDG PET 有用性は高くない。細胞膜構成要素であるコリンの代謝に基づく11C-Choline,18F-Choline によるPET の有用性が報告されているが6),これらのCholine PET も本邦での保険適用はない。

参考文献

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6 病理学的事項

総論

前立腺癌は病理診断でのみ確定診断がなされる。そのために,前立腺生検を行い,癌細胞の有無を病理学的に診断することが必須である。またその病理診断結果は治療方針に影響を及ぼすことを,診断する病理医はもちろんのこと,泌尿器科医も十分に理解しておく必要がある。病理組織学的分類では米国のGleason によって1966 年に提唱されたGleason スコアという前立腺癌特有の組織学的悪性度分類が広く普及している。これは270 例の前立腺癌症例から考案した前立腺癌に特化した分化度分類であり1),組織学的形態を1〜5のパターンに分類したものを基本としている。おのおのの標本においては最も広い面積を有するパターンを第1パターン,次いで広い面積を有するものを第2パターンとして,その合計をGleason スコアとする。1つの標本の癌組織で2つのパターンを評価し,2つを合計するという点や細胞異型ではなく組織構築と浸潤様式で評価する等,他臓器の癌に類をみないユニークな分類法である。ただし,PSA が存在しなかった時代には多くが進行性前立腺癌で,前立腺肥大症として経尿道的前立腺切除術後の標本で診断される例外を除き,限局性前立腺癌と診断される症例は少なかった。しかしPSA 検診の普及に伴い,限局性前立腺癌として診断される症例が急増し,古典的Gleason 分類にはそぐわない状況が出現した。また,Gleason 分類の診断基準も様々であった。これらの問題に対応するため,適宜改訂が加えられてきている3)

HE 染色のみでなく免疫組織化学染色が前立腺癌の診断では有用である。特に基底細胞を染色するhigh molecular weight cytokeratin を用いることにより,癌に特異的な2層性の消失を容易に判定することが可能となった4)。上記抗体に,前立腺癌に高頻度に発現するalpha-methylacyl-CoA racemase を加えたPIN カクテル等も,診断困難例には積極的に活用することが推奨されている5)

何度か改訂が繰り返されてきたGleason スコアであるが,臨床および分子生物学的な研究の蓄積から,いくつかの課題も明らかとなっている。1つは針生検組織でGleasonパターン1や2と判定されることはほとんどなく,実臨床ではGleason スコア2〜5と診断される前立腺癌はほぼ存在しない。このことを踏まえ,2015 年にはGleason スコアによる分類からグレードグループ分類という大きな改訂がなされている6)。また,前立腺内で不均一性(heterogeneity)のある前立腺癌において8),真に治療対象とすべきindex tumorとは何かという問題,単なるGleasonパターンではなく,予後不良因子であるとともに,非浸潤癌においては背景に高悪性度前立腺癌が存在する可能性を示唆するintraductal carcinoma of theprostate(IDC-P)の臨床的な意義9),さらには融合遺伝子に代表される遺伝子異常の診断的意義1011)等が明らかにされると予測され,今後の前立腺癌における位置付けが注目される。

参考文献

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CQ1
ISUP2014 の改訂によって何が変わったのか?

前立腺癌の悪性度評価法として汎用されてきたGleason 分類に代わり新しいグレードグループ分類が提唱され,ISUP2014 のコンセンサス会議で承認された。今後はこの新分類による評価とGleason スコアの併記を経て,将来的には新分類に一本化されると予測される。

解説

前立腺癌の悪性度評価法であるGleason 分類は1966 年にGleason によって提唱されたもの2)で,以来約半世紀の間,全世界で広く用いられてきた。1974 年3),1977 年4)にGleason 自身が改訂を加え,さらに2005 年5)にはInternational Society of Urological Pathology(ISUP)により改訂された(ISUP2005)。

前立腺癌臨床の変遷に伴い,Gleason 分類における種々の問題点が指摘されるようになってきた。主なものとしては,①Gleason 分類においては,同様の予後,悪性度の腫瘍に対して多種類のグレードが存在する,②理論的にはスコア2〜10 の9段階評価であるにもかかわらず,現実としてスコアはほぼ6〜10 のいずれかに振り分けられ,スコア分布に偏りがあるため患者の誤解を招きやすい,③Gleason スコア3+4=7と4+3=7の予後は異なる6)にもかかわらず,同じスコア7に包括されている,④Gleason スコア8と9〜10 は悪性度,予後が異なる7)にもかかわらず,現行のリスク分類では1つのグループに入れられている,等である。

これらの点を解決するために,前立腺癌に対する新しいグレードグループ分類(新分類)が,まず2013 年に提唱された8)。新分類では現行のGleason 分類を基にして,各スコアを適切に群化することによりグレードグループ1〜5を設定しており,数値が増す毎に悪性度が高くなる。具体的には,Gleason スコア2〜6が新分類のグレードグループ1,Gleason スコア3+4=7がグレードグループ2,Gleason スコア4+3=7がグレードグループ3,Gleason スコア8がグレードグループ4,Gleason スコア9〜10 がグレードグループ5に相当する。おのおののグレードグループ決定のための基本的な癌の組織学的パターンそのものに大きな変更はない。この時点では,ISUP2005 改訂以降の7,869 例の前立腺全摘除症例を解析した結果,グレードグループとPSA 非再発率の間には良好な相関関係が得られた8)。この結果を基に,多施設間の前立腺全摘除術20,845 例,生検16,176 例,放射線療法5,501 例のメタアナリシスにより追試を行い,同様に各グレードグループとPSA 非再発率との間に良好な相関関係が得られた9)。この新分類により,各症例は悪性度,予後階層別の1〜5のグレードグループのいずれかに振り分けられることになる。また,最も予後良好な群が1で表示されることとなり,悪性度,予後の異なるGleason スコア3+4=7と4+3=7を分離でき,同様にGleason スコア8と9〜10 を分離することが可能となった。

上記の内容は2014 年11 月に米国シカゴで開催されたISUPのコンセンサス会議において綿密に討議され,当面はGleason スコアを併記するかたちでこの新分類を使用する,ということが承認された10)

また,新分類は2016 年2月に発刊されたWHO 分類11)に収載されており,今後の前立腺癌の悪性度評価法のスタンダードになっていくと思われる。いまだ解決されていない事項,たとえば前立腺全摘除症例における第3パターンの取り扱いや生検標本におけるGleason パターン4の割合の表記等に関しては今後の討議により解決を図ることになっている。また今回の改訂により,各種のリスク分類やノモグラムの改訂は必須であると考えられる。

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CQ2
Index tumor とはどのような病変か?

前立腺癌は異なるクローンにより多発することが知られているが,生命予後に影響を及ぼす可能性があり,治療の対象となる病変は限られる。このような病変がindex tumor(もしくはdominant nodule)である。近年ではindex tumor のみを治療対象とする局所療法が試みられている。

解説

前立腺癌は多発性に発生し,それぞれが遺伝子的に異なる存在であることが知られている2)。大きさおよび発生部位によりそれぞれの前立腺癌病変は悪性度が異なることが非常に多く,患者予後を決定する病変を同定する必要性が指摘されていた3)。従来は腫瘍量もしくは腫瘍径が最も重要な予後不良因子であると考えられ4),最も大きな病変をindex tumor とする傾向があった5)。一般的に最も大きな病変はおおむねGleason スコアおよび病理学的T-病期が最も高い傾向にある6-8)。そのため,局所療法で治療対象として最大腫瘍径病変が選択されることが多い9)。しかしながら,腫瘍径とGleason スコアや病理学的T-病期が乖離する症例は少なくなく10),そのような症例では腫瘍径以外の項目が重要な予後因子となることが多い11)

Gleason スコアは重要な予後因子であり,index tumor の選定に影響を及ぼす。近年,Gleason スコア3+3=6の病変をindex tumor として取り扱うか否かについて議論がある。前立腺癌の転移は複数のクローンが別々に転移することが判明し12),IDC-P のような高悪性度病変からGleason スコア3+3=6のような低悪性度病変まで転移能を有することが報告されている1314)。よって,真のindex tumorの決定には精緻な分子生物学的検討を必要とするべきであるとの意見がある15)。しかしながら,Gleason grade4成分と比較してGleason grade3成分は増殖能力が乏しく,不死能を獲得しておらず,転移能は乏しい9)。実臨床においても,ISUP によるGleason grading の診断基準16)によりGleason スコア3+3=6と診断された症例の遠隔転移は極めて稀である1718)。この点から,Gleason スコア3+4=7以上の病変がindex tumor の候補となる。ただし,Gleason スコア3+3=6でも腫瘍径の大きい病変はindex tumor の対象とする方向にある。しかしながら,現在のところindex tumorを規定するGleason スコアおよび大きさに関する明確な病理学的定義は存在しない。

このような状況から,報告書へのindex tumor の記載方法や臨床上の取り扱いについても明確な規定は現時点ではない。しかしながら今後は腫瘍径,Gleason スコアおよび病理学的T-病期の総合的評価からindex tumor の選定を行い,報告されることが期待される。

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CQ3
Intraductal carcinoma of the prostate(IDC-P)の診断的意義は?

治療方法に関わらず,浸潤癌内のIDC-P の存在はPSA 再発,臨床再発,癌特異的死亡率,全生存率に影響を及ぼす病理学的予後不良因子である。浸潤癌成分を認めない生検標本内でのIDC-P の存在は,背景に高悪性度前立腺癌が存在する可能性を示唆する。

解説

IDC-P はKovi らにより最初に提唱された概念で,既存の前立腺導管および腺房内に前立腺癌細胞が進展する病態として報告された1)。IDC-P の発生機序として,導管もしくは腺房内に腫瘍が発生するとする概念と浸潤癌成分が既存の導管もしくは腺房内に進入するとする概念がある2)。近年,IDC-P には浸潤病変と関連する病変と関連しない病変の2つのタイプが存在することが指摘されている4)

McNeal らは,浸潤癌におけるIDC-P の存在が予後不良因子となり得ることを最初に報告した。McNeal らは浸潤癌成分を伴ったIDC-P を以下の2つの基準を満たす病変と定義した5)

  1. 明らかな腫瘍細胞により構成された境界明瞭な病変で,その周囲は基底細胞の存在を伴った正常組織に取り囲まれている。
  2. 構成する腫瘍細胞は,浸潤病変の腫瘍細胞と同じ所見を呈する。

McNeal らは前立腺全摘標本を用いた検討で,IDC-P の存在する症例は病期が有意に進行していること,PSA 再発率が有意に高いことを示した5)。McNeal らの定義は多くのIDC-P の検討に用いられ,その後の追試でもその結果の妥当性が示されている7)。近年ではCohen らがMcNeal らの定義を少し改変した定義を提唱している2)

Epstein らは,浸潤癌が存在しない針生検検体にて,以下のいずれかの項目を満たす,特に顕著な構造および細胞異型を示すhigh grade prostatic intraepithelial neoplasia(HGPIN)症例をIDC-P と定義した8)

  1. 充実性もしくは密な篩状構造を示す。
  2. 疎な篩状構造もしくは微小乳頭状構造を示す場合には,構成する腫瘍細胞の核の大きさが正常前立腺腺上皮細胞の6倍もしくはcomedonecrosis(面皰壊死)を示す。

Epstein らの定義するIDC-P は,非浸潤病変から高悪性度浸潤癌の存在を予測することが一義的な目的であるため,McNeal らの定義よりも厳しい基準で作製されているのが特徴である。

Epstein らは,彼らの基準を満たすIDC-P 成分を有する針生検症例で前立腺全摘除術が行われた症例の多くはhigh Gleason スコアでかつ進行性癌であったこと,ホルモン療法もしくは放射線療法を行った症例の多くは早期にPSA 再発をきたしたことを示した9)。前立腺全摘標本でも,浸潤癌成分を伴わないIDC-P 成分が存在することが近年知られてきた3)。したがって,IDC-P の存在が必ずしも浸潤癌の存在を保証しないことには留意する必要がある。

WHO の成書によるIDC-P の定義は導管および腺房内での高度異型細胞の増殖が基本的な骨子であり,参考としてEpstein の定義が掲載されている10)。臨床的有用性の観点からどちらの定義が有用であるとの結論は出ていないが,報告されている臨床データ的にはMcNeal の定義に基づく検討が多い。

最近の検討ではIDC-P を有する症例はホルモン療法および放射線療法に対する抵抗性を示すことが知られてきた1112)。また,前立腺全摘除術を受けた症例において,IDC-P を有する症例は有しない症例に比して有意にPSA再発率,臨床再発率,癌特異的死亡率が高く,全生存率が有意に低いことが示された13-15)。また,初発時に遠隔転移を有する症例においても,IDC-P を有する症例は有しない症例に比して癌特異的死亡率が有意に高く,全生存率が有意に低いことが示された1617)。このことから,IDC-P は重要な予後因子として認識されてきている。

今後は前立腺針生検および前立腺全摘標本においても,IDC-P の有無を記載することによってより患者の予後が精緻に予測されることが期待される。

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CQ4
前立腺癌の遺伝子異常はどこまでわかっているのか?

前立腺癌にはTMPRSS2:ERG 融合遺伝子を有する癌が多く存在し,その産物であるERG タンパク質を用いた診断が臨床応用されるようになった。また進行性前立腺癌ではDNA 修復に関わる遺伝子の異常等も指摘されており,今後は遺伝子異常を基にした個別化医療が進むものと思われる。

解説

遺伝子融合は白血病やリンパ腫,肉腫において報告されてきたが,前立腺癌でも遺伝子の網羅的解析を基に融合遺伝子が存在することを,Tomlins らが2005 年に初めて報告した1)。前立腺癌遺伝子発現データベースを基にTMPRSS2(a prostate-specific,androgen-responsive,transmembrane serine protease gene)の5’末端の非翻訳領域が,ETS ファミリー癌遺伝子ERG やETV1 の5’末端領域と置き換わっている融合遺伝子を発見した。欧米人の前立腺癌の約50%程度にTMPRSS2:ERG 融合遺伝子が認められ,またTMPRSS2 以外にも他の遺伝子とETS ファミリー遺伝子とが融合遺伝子を形成している例も報告されている(ETS 融合遺伝子)2)。この融合遺伝子の形成には,アンドロゲン刺激を受けたアンドロゲン受容体(androgen receptor;AR)が大きく関与しているといわれており,そのためAR を発現している前立腺特異的にTMPRSS2:ERG 融合遺伝子の形成が誘発されると考えられている3)。この融合遺伝子は正常前立腺や前立腺肥大症組織ではほとんど検出されないが,前癌病変とされているHGPIN では約20%程度に検出される4)。したがって,TMPRSS2:ERG 融合遺伝子の形成は前立腺癌の発癌段階の早期の現象であると考えられている。組織・尿・血液検体を用いてTMPRSS2:ERG 融合遺伝子の産物であるERG タンパク質やTMPRSS2:ERG 融合遺伝子のmRNAの検出・測定をすることで前立腺癌の診断に応用されるようになった5)。一方,ETS 融合遺伝子陽性癌と陰性癌とでは分子変異が異なることもわかってきており,後者にはserine-protease inhibitor であるSPINK 遺伝子の過剰発現6)やchromatin-remodeling enzyme の1つであるCHD1 遺伝子の欠損7),後に述べるSPOP 遺伝子の変異を認める症例があることもわかってきた9)。また,前立腺癌はその病状の進行とともに多くの症例でAR の増幅や変異,さらにはこのAR経路に関わる遺伝子群に異常をきたすといわれている10)。ヒトゲノム解読終了後,得られたヒトゲノム地図を基に癌ゲノム解読が開始された。次世代シークエンス(next generation sequencing;NGS)技術の進歩により,大量のゲノム配列を短時間で解読することが実用化されると,癌ゲノムの解析は大きく進展し,新たな癌遺伝子が発見されている。前立腺局所の癌,転移巣のwhole NGS の結果,それぞれの癌細胞の系統図(phylogenic tree)を描いてみると,転移巣から局所への移動,転移巣から別の転移巣への移動等,これまで考えられないような癌細胞の体内の移動がわかってきた11)。前立腺癌では,ほかの癌に比べ点突然変異の頻度は少なく,発癌への寄与は少ないと考えられている。代表的な変異遺伝子としてE3 ubiquitin ligase substrate-binding protein であるSPOP(10%程度の前立腺癌に認める)がある。一方,copy-number alterations(CNAs)の頻度は高く,その発癌過程で重要性が示唆されている10)。CNAsの割合が前立腺癌の細胞悪性度,PSA 再発率,転移の程度に相関するとの報告もある。進行性前立腺癌の約20%にBRCA1 やBRCA2 等の遺伝子修復に関わる遺伝子の異常があることがわかってきており10),こうした症例はPARP(poly[ADP]-ribose polymerase)阻害薬や白金系抗癌剤の効果が期待できることも報告されている12)

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7 監視療法

総論

血清PSA 検査は前立腺癌の早期発見に大きな貢献を果たしてきた。一方で,PSA 検査を契機に発見される前立腺癌の中には患者の生命予後に影響を与えないものが少なからず存在することも明らかになっており,これらを適切に見分け根治的治療を回避することは,治療に伴う様々な患者の苦痛やQOL の低下を回避できるだけでなく,医療経済的な側面の恩恵も大きい。問題は,現在の医療診断技術では前立腺癌と診断がついた時点で放置してもよい前立腺癌と治療すべき前立腺癌の区別が完全にはできないことである。そこで対応策として登場したのが監視療法(active surveillance)という治療戦略である。暫時治療開始を延期しても生命予後に悪影響を与えないと考えられる患者群を選別し,その後定期的な検査の中で根治的治療を開始すべき前立腺癌をみつけていく,という方法である。類似の治療戦略としてしばしば混同される「待機療法」は,転移出現等の病勢の明らかな増悪を待ってホルモン療法を開始する治療法であるが,監視療法を選択した患者が期待余命10 年未満になって病勢進行をみたためホルモン療法を開始する臨床経過は十分に想定されるわけであり,監視療法と待機療法はシームレスな関係といえる。

さて,監視療法の主な問題点は2つある。1つは監視療法適応患者の選択基準であり,もう1つは経過観察中の検査方法の信頼性である。前者の選択基準に関しては,患者の安全性を担保するあまり基準を厳しくしすぎ,その結果として過剰治療率が十分に低減できない懸念と,逆に甘い基準のために患者の生命予後に悪影響を与える懸念の両面がある。現在,世界的な規模で遂行中のProstate cancer Research International:Active Surveillance(PRIAS)study1)をはじめいくつかの監視療法に関する前向き研究が進行中であり,これらの研究結果から患者の選別基準に関しては一定程度の共通認識が醸成されつつあり,今回のガイドラインにも反映されている。Movember Foundation は男性の健康科学研究,特に癌の早期発見や予防法等の研究に対して積極的に財政支援を行っているオーストラリア発祥の財団だが,この財団の支援を受けてPRIAS study を中心とした世界中で遂行中の主な監視療法研究者がコンソーシアムを形成し,おのおのの試験の登録患者の膨大なデータを集積中で,このデータベースを基にして監視療法に関するガイドラインを作成中である2)。日本人に関するデータも2000 年から集積された厚生労働省研究班登録患者4)とPRIAS study に登録中の患者データ5)が集積されており,これまでのガイドラインよりも一歩踏み込んだ指針が示されるものと期待される。今後の展望を予測すると,監視療法患者の選択基準は徐々に緩める方向での研究が進むと予想される。ただし,新規診断マーカーや遺伝子診断法の登場,画像診断のさらなる進歩等が前提となる7)

一方,経過観察中の病勢進行をモニターする指標に関しては,当初はPSA 倍加時間(PSA doubling time;PSADT)やPSA 年間増加度(PSA velocity;PSAV)等のPSA 動態が積極的治療開始のトリガーとして重要視されていたが,早期前立腺癌患者の前立腺に併存する慢性炎症等がPSA 値の不規則な変動の要因となるため,信頼性が低下してきた8)。今回のガイドラインで「PSA 監視療法」ではなく「監視療法」という用語に統一した理由は,PSA 値だけを監視するような誤解を患者に与える懸念があるため,今後は単純に「監視療法」という用語に統一するべきではないかと考えたからである。PRIAS study では,PSADT<10 年では再生検を毎年施行することが推奨されている。1年以内に施行する再生検は初回生検の過小評価を補正する意味で大変重要であるが,その後の経過観察中の生検の頻度を増加させることは患者の負担につながり,実際に再生検を拒否する患者も無視できない比率で存在することがPRIAS study や日本人患者の研究では判明している10)。そのため,再生検の代わりにmultiparametric MRI(mpMRI)が代替手段として利用できないかが今後の臨床研究の課題となっている。実臨床上,どうしても再生検を拒否するものの(PSA)監視療法の継続を希望する患者にはmpMRI の施行が望ましいと考えられる。

監視療法に関する懸念材料として,長期の安全性と患者の精神面を中心としたQOL への影響が挙げられる。単一群ではあるがいくつかの大規模な試験(PRIAS study,トロント大学,Johns Hopkins 大学による研究等)に関して,長期の安全性に関するデータが徐々に明らかになってきた。これらからは,総じて低リスクであれば長期の安全性に問題ないことが示唆されている10-12)。QOL への影響に関しては,いまだ監視療法後長期の縦断研究結果はないが,6カ月〜1年の短期でのQOL への影響に関してはおおむね問題ないとの報告が多い1314)。横断研究やコホート研究を対象としたシステマティックレビューでも監視療法患者の健康関連QOL は良好に保たれていた15)。ただし無作為化された研究は含まれず,選択バイアスが存在すること,本邦の患者を含めて長期的な成績はいまだ不明であることが検討課題である。もう1つ留意しなければならないのは,監視療法患者における下部尿路症状(lower urinary tract symptoms;LUTS)の管理である。今回のガイドラインにおいても監視療法に相応しい患者としてPSA 濃度(PSA density;PSAD)< 0.2 あるいは< 0.15ng/mL/mLと記載されているが,この基準を満たす患者は当然ながら前立腺容積が大きめの患者が想定される。したがって,監視療法開始前ないしは経過中にLUTS が患者QOL にとって大きな問題になる可能性がある。2002 年から2年間に登録された日本人の監視療法患者117 例においても,13 例(11%)が病勢進行を認めないもののLUTS のために経尿道的前立腺切除術(TURP)や前立腺全摘除術を経過中に施行されている。こういった背景から,監視療法中のLUTSの増悪を回避し,さらに何も治療をしないことに関する不安感を和らげる効果や病勢進行予防を期待して,監視療法患者における5α還元酵素阻害薬(デュタステリド)の有効性を検証する無作為化第Ⅲ 相試験(REduction by Dutasteride of clinical progression Events in Expectant Management(REDEEM)試験)が実施された。主要エンドポイントは3年までの観察で病理学的基準逸脱(reclassification)または臨床的病勢進行までの期間と設定され,デュタステリド群で病勢進行が有意に抑制されていた16)。このほかにも,抗腫瘍効果が期待されているポリフェノール含有量の多いザクロ,緑茶,ブロッコリー,ウコンからなる合剤の有効性検証試験(Pomi-T試験)17)や,日本人監視療法患者に対する前立腺肥大症薬であるクロルマジノンのPSA 値の増加率抑制効果やreclassification 率抑制効果を検証する無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)(PROSAS 試験)が実施中である。

最後に,監視療法は低リスク前立腺癌患者に対する選択肢として,本邦においても試行的段階を終了し実臨床で安全に施行できる段階になったといえるが18),上述したような問題点は完全に解消されてはおらず今後の臨床研究の進展が期待される。また,精神面の問題を抱える患者やパートナーがいない患者,不十分な生検で診断された患者等は不安感から精神面でのQOL が悪いとの指摘もあり19),治療法選択時や監視療法開始後の経過観察において注意すべきである。どのような疾患にもあてはまるが,とりわけ監視療法では「医療者側の十分な説明」と「患者側の十分な病態の理解」が必須であることを改めて強調しておきたい。

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CQ1
どのような患者が監視療法に適しているのか?

推奨グレードB
PSA ≦ 10ng/mL,臨床病期≦ pT2,陽性コア数≦2本(ただし,ターゲット生検,saturation 生検の場合はこの限りではない),Gleason スコア≦6,さらにPSA 濃度(PSAD)<0.2あるいは<0.15ng/mL/mLの症例が適応となる。 

背景・目的

監視療法は前立腺癌診療における過剰治療を防ぐための有用な解決策の1つであり,今後はさらに適応症例の増加が予測される。これを安全に運用し,広く普及させるためには,まずその患者選択が重要となってくる。ここでは現在遂行されているいくつかの監視療法研究から,その適応患者基準について検討する。

解説

現在,世界ではいくつかの監視療法に関する前向き研究が進行中である(1-4)。いずれの患者選択基準もいわゆるD’Amico 分類における低リスク群の定義(診断時PSA≦10ng/mL,Gleason スコア≦6,T1〜T2a)よりはやや厳しいものになっている。欧州を中心に展開しているPRIAS study とJohns Hopkins 大学の基準4)にはPSAD が組み込まれていることが特徴的である。PSAD は監視療法経過中の病理学的基準逸脱(reclassification)と関連していると報告されており6),安全に遂行するための重要なパラメーターであると考えられている。陽性コア数については,2本以下と規定するものが多い。近年,MRI や超音波所見に基づいたターゲット生検や,生検本数を増加させたいわゆるsaturation生検が施行されることがある。PRIAS study では,ターゲット生検の場合は陽性コア数の上限をなくし,saturation 生検ではコア数の上限を4本までとして,コア数の15%までの陽性コア数を許容することとしている。

 各国の監視療法に関する前向き試験での患者選択基準
表 各国の監視療法に関する前向き試験での患者選択基準

これらの基準に適合した症例においても, 監視療法開始1 年後の再生検でのreclassification 率は約30〜40%と高率である。これは監視療法エントリー時の過小評価を反映していると考えられる。PSA 値と生検所見で候補患者を選択するにはある程度の限界があり,一定の割合の悪性度の高い癌が含まれるという危険性がある。そのため現在,悪性度を正確に反映するような新規マーカー7-9)や,MRI 等の画像検査を併用して監視療法により適した症例の選択方法を検討中である。しかし,再生検でのreclassification はそれがそのまま生命予後に直結するものではない。後の項目でも述べるが,これらの選択基準で選ばれた症例の長期予後は非常に良好であることも示されている10)

さらに,初期の患者選択基準で検出されなかった悪性度の高い前立腺癌や経過中の病勢進行をいち早く検知するために,様々な方策によって安全性の担保を図っている。

これらの基準での長期の安全性がほぼ確立してきたため,現在では適応範囲の拡大が試みられている。PRIAS study では,カナダの基準と同様に70 歳以上ではGleason スコア3+4=7までが許容されるようになりつつある。National Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドラインでも2016年版では一部の中間リスク前立腺癌にも監視療法を考慮すると記載されるようになった11)。本邦は2010 年からPRIAS study にPRIAS-JAPAN として参加しており,年間約100例の登録を得ている。今後,これらの長期成績を基に,人種差を加味した本邦独自の監視療法プログラムの確立が期待される。

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https://www.nccn.org/ : accessed on August 1, 2016.

CQ2
監視療法中の経過観察方法と治療開始基準は何か?

推奨グレードB
監視療法中の経過観察方法は,3〜6カ月毎の直腸診とPSA 検査,および1〜3年毎の前立腺生検の実施である。治療開始基準は監視療法中に行われる前立腺再生検の結果でGleason スコアの上昇または陽性コア数の増加(病理学的基準逸脱(reclassification)),および臨床病期の進行が認められた場合である。治療開始基準におけるPSA 倍加時間(PSADT)やPSA 年間増加度(PSAV)の意義は確立されていない。

背景・目的

監視療法は主に低リスク前立腺癌に対して積極的に無治療で経過を観察し,病状に進展や増悪の兆候がある時点で治癒を目的とした治療を行う方法であり,治療が不要だと考えられる早期前立腺癌患者への過剰治療を回避する方法と位置付けられる。そのため監視療法の経過観察方法と治療開始基準は重要である。ここでは,最新の大規模な前向きコホート研究報告と国際多施設共同研究のPRIAS study の報告を中心に経過観察方法と治療開始基準を概説する。

解説

米国Johns Hopkins 大学では1995 年から研究が開始され1),観察方法は6カ月毎のPSA 検査と直腸診,1年毎の生検であり,治療開始は登録適格基準(臨床病期pT1c,PSAD<0.15ng/mL/mL,Gleason スコア≦6,陽性コア数≦2本・生検癌占拠率≦50%,高齢者では臨床病期pT1c/pT2a,PSA<10ng/mL,Gleason スコア≦6の低リスク群も適格)を満たさなくなった場合としている。1,298 例が登録され,10 年と15 年の結果はそれぞれreclassification 率26%と31%,治療開始率50%と57%,無転移生存率はともに99.4%,疾患特異的生存率もともに99.9%,全生存率93%と69%であった。カナダのトロント大学でも1995 年より研究が開始された2)。観察方法は,最初の2年は3カ月毎,以後6カ月毎のPSA 検査,前立腺生検は登録1年以内に1回施行,その後は3〜4年毎に施行する。ただし1996〜2008 年ではPSADT<3年は毎年の生検,2009 年以降はPSADT<3年は毎年の生検またはMRI検査となっている。治療開始基準は直腸診で結節の触知または生検のreclassification である。993 例が登録され,10 年と15 年の疾患特異的生存率はそれぞれ98%と94%であった。PRIAS study は国際多施設共同研究で日本も参加しており(PRIASJAPAN),現在も症例登録が進行中である。経過観察方法は最初の2年は3カ月毎,その後は6カ月毎のPSA検査,開始から1,4,7年後の前立腺生検,ただしPSADT が10 年未満になった場合は1年以内の再生検が必要となる。治療開始基準は生検でのreclassification (この研究ではGleason スコア≧7:ただし70 歳以上では3+4 まで許容,または陽性コア数≧3 本)と cT3 以上への up-stage である。2013 年の報告3)では2,494 例が登録され,28%がreclassification となった。治療無開始生存率は2年で77.3%,4年で67.7%であり,前立腺癌死は認めていない。

経過観察中の前立腺生検はすべての研究で組み入れられており,その重要性は確立されているといえる。多くの報告より開始1年目の生検は必須といえるが,その後の生検時期はいまだ確立されていない。PSADT やPSAV 等のPSA kinetics に関してトロント大学の登録症例を用いて検討が加えられた4)。PSADT やPSAV のカットオフ値によって治療開始勧告を行う症例がPSADT で 37〜50%,PSAV で42〜84%と大きく変動し,多数の症例が治療を受けることになるため,さらに検討が必要と報告している。MRIを監視療法の経過観察方法に採用した研究はあるが,MRI の前立腺癌におけるモニタリングの有用性はいまだ確立されていない5)。しかし,mpMRI は直腸診で触知し得ない前立腺腹側腫瘍や病勢進行の速い前立腺癌で一定程度の診断能力を有することが認められており,経過観察のツールとしての活用が推奨される。PRIAS study では再生検を拒否する患者においてMRI が代替手段となり得るか検証が進められている。

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CQ3
監視療法の長期的な安全性は?

推奨グレードB
長期間にわたる検討結果はまだないが,中期的な検討結果から,低リスク前立腺癌患者は,監視療法と根治的治療で予後に差がない可能性があり,監視療法のよい適応であると考えられる。特に,期待余命が10 年以下の患者はいうまでもなく,期待余命が10〜20 年の患者においても予後に差がない可能性が高い。また,短期・中期的な検討では,監視療法は患者のQOL に大きな影響を及ぼさないことが示されている。

背景・目的

PSA 検査の普及により前立腺癌の早期発見が可能になっている。これにより,早期前立腺癌と考えられる低リスク前立腺癌も数多く発見されることとなり,即時的な根治的治療が不要と考えられる場合は監視療法が治療の有力な選択肢の1つとして受け入れられるようになってきた。ただし,積極的治療の導入の遅延が予後を悪化させないか,精神的なQOL に影響が生じないかといった懸念が残されている。この項では,限局性前立腺癌患者における監視療法による予後および精神的QOL を含む長期的安全性について検討した。

解説

限局性前立腺癌における監視療法と即時的な根治的治療とを比較したRCT は,現在北米(START trial)および英国(ProtecT trial)で進行中であるが,その成績の報告はなされていない。すなわち,いずれの治療法が優れているか断ずることは困難である。ただし,根治的前立腺全摘除術(radical prostatectomy;RP)と待機療法(watchful waiting;WW)を比較したRCT はScandinavian Prostate Cancer Group Study Number 4(SPCG-4)により経時的に報告されている。695 例の早期前立腺癌患者が登録され,347 例のRP 群(294 例が実際にRP を施行された)と348 例のWW 群(294 例が実際に観察期間中WW を完遂)とに無作為に割り付けられた(観察期間中央値13.4 年)。RP 群において癌特異的死亡率の有意な減少(相対リスク比:0.56)を認めた。癌死という点において手術による恩恵を受ける群は65 歳未満(相対リスク比:0.45),中間リスク前立腺癌患者(相対リスク比:0.38)であり,65 歳以上においては全死亡率・癌特異的死亡率ともに両群間に有意差を認めなかった1)。また,監視療法と根治的治療の予後を比較したコホート研究がある。この報告では,6,849 例の限局性前立腺癌患者(Gleason スコア≦7,PSA<20ng/mL)にそれぞれ監視療法(2,021 例),RP(3,399 例)および放射線療法(1,429 例)が施行され,各群における死亡率についての検討が行われている(観察期間中央値8.2 年)。結果として,低リスク群における10 年後の推定累積癌特異的死亡率はそれぞれ2.4%,0.4%,1.8%であり,中間リスク群ではそれぞれ5.2%,3.4%,3.8%であったため,低リスク症例であれば監視療法の適応となり得ると結論付けている2)。しかしこの研究はRCT ではなく,監視療法を受けた群に併存疾患が存在する患者や社会経済的に低い層が多いという選択バイアスが存在することを十分に考慮する必要がある。単一群(single arm)ではいくつか大規模な試験の結果が報告されているが,これまでは観察期間が比較的短く,長期の予後については不明であるとされていた。しかしながら,最近少しずつ長期的な成績が明らかになってきている。Klotz らの報告は最も規模の大きいコホート研究の1つで,計993 例の患者(うち79%がD’Amico 分類における低リスク症例)が監視療法の対象となり(観察期間中央値6.4 年),267 例にPSADT<3年,2回目以降の生検における組織学的進行,臨床的進行等を理由に治療介入がなされた。この報告における推定10 年および15 年全生存率はそれぞれ80%,62%,推定10 年および15 年疾患特異的生存率はそれぞれ98%および94%と良好であった3)

本CQ に含まれる長期的という時間的概念を踏まえた検討においては,患者個々の期待余命も考慮しなければならないと考える。監視療法が推奨される患者選択においてEuropean Association of Urology(EAU)ガイドライン2015 年版においては,10 年以上の予後が見込める等,低リスク前立腺癌症例の中でもより厳格に選別された症例としている。さらに,米国のNCCN ガイドライン2015 年版では,条件を厳格化した超低リスク前立腺癌および低リスク前立腺癌を定義し,それらの期待余命が10 年以上であれば監視療法が治療選択肢に提示されるが,期待余命が10 年以下の場合はWW が推奨されている。

QOL の観点からは本邦の監視療法の前向き研究において,一般的健康関連QOL を登録時と1年後にSF-36 を用いて比較した報告がある4)。この報告では登録時と1年後との比較で有意な変化はみられず,1年の観察期間では監視療法患者における一般的健康関連QOL 障害はみられなかったとされている。

さらに欧州を中心に世界的に展開されているPRIAS study の報告でも,監視療法開始から9カ月までの不安や気分の落ち込みは低いレベルに抑えられており,増大していないことが示されている5)。ただし,神経質な性格は抑うつと関係があることも示されており6),患者によっては個別に注意を払う必要があると考えられる。2006〜2014 年に報告された監視療法における健康関連QOL に関する6つの横断研究と4つのコホート研究を対象としたシステマティックレビューでは966 例に監視療法が施行(観察期間は9〜36 カ月)され,総合的によいQOL スコアであり,根治的治療がなされた群と同等もしくは良好な成績であった。ただし無作為化された研究は含まれず,選択バイアスが存在すること,長期的な成績はいまだ不明であることが検討課題である7)

監視療法はRP の尿失禁や性機能不全,放射線照射後のLUTS や腸管関連合併症等がほとんどないという点では優位であるが,一部の症例では不安等,ある程度のQOL 低下はみられることもあり,そういった面からの症例の選択も配慮すべきである。

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8 前立腺全摘除術

総論

前立腺全摘除術(radical prostatectomy;RP)は, 無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)にて無治療経過観察(待機療法(watchful waiting;WW),待機遅延ホルモン療法)と比較して全生存率と癌特異的生存率の改善が証明された唯一の根治的治療法である。一方,侵襲的な治療法であり,治療選択にあたっては利益と不利益に関する十分な情報提供が求められる。Scandinavian Prostate Cancer Group Study Number 4(SPCG-4)研究1),Prostate Cancer Intervention versus Observation Trial (PIVOT)研究2)等から,RP は期待余命が10 年以上の,低〜中間リスク限局性前立腺癌症例に推奨される。さらに高リスク限局性前立腺癌症例に対してもRP を選択肢とした情報提供が必要である3)。RP の適応決定には期待余命が大きな因子になることから,高齢者においては併存症を含む健康状態の評価が重要である5)

CT やMRI による術前のリンパ節転移の診断は十分ではなく,リンパ節郭清が最も確実な診断方法である。リンパ節転移の正確な把握は追加治療の決定にも有用である。診断的意義および治療的意義の可能性から,リンパ節転移のリスクの低い症例以外では拡大リンパ節郭清を行うべきである7)。範囲は外腸骨,閉鎖,内腸骨を基本とする9)。限局リンパ節郭清は推奨されない。

RP 後の尿禁制には多因子が複雑に関係する。術前因子として,年齢,肥満(BMI),併存症,勃起能,骨盤底筋の解剖等の関与が考えられている10,11)。手術手技に関連する因子として,神経温存ならびに尿道括約筋の温存が重要である1213)。術後尿失禁(postoperative urinary incontinence;PUI)の治療として骨盤底筋体操が有効であり,重症例では人工尿道括約筋植込術が標準治療である1415)

前立腺後外側の神経血管束(neurovascular bundle;NVB)を温存する神経温存術式により性機能の回復が期待できる。術前に性機能があり,PSA 値,生検所見,T-病期,MRI 所見等から被膜外進展のリスクが低いと診断される症例では,神経温存を考慮する1617) 。NVB 非温存よりはNVB 温存手術が,片側温存よりは両側温存手術が,さらにはより多くの海綿体神経線維を温存するために前立腺周囲の筋膜をより前方・正中から剝離する術式が,術後性機能の回復に寄与することが示されている1819)。神経温存手術後のphosphodiesterase(PDE)5 阻害薬投与に関する数多くのRCT が行われ,PDE5 阻害薬は術後勃起障害(erectile dysfunction;ED)に有効であるとのエビデンスが得られている20-22)。しかし,その投与方法に関して,選択薬剤や,継続的PDE5 阻害薬内服とon demand な投与とのED 予防効果における優劣については一定の見解は得られていない。

RP として, 本邦では開腹による恥骨後式前立腺全摘除術(retropubic radical prostatectomy;RRP), 腹腔鏡下前立腺全摘除術(laparoscopic radical prostatectomy;LRP),ミニマム創内視鏡下前立腺全摘除術(ミニマム),ロボット支援前立腺全摘除術(robotic-assisted laparoscopic radical prostatectomy;RALP)が保険適用のもとに施行されている。2012 年のNovara らによるメタアナリシスおよび他のコホート研究で,RALP,LRP,RRP はほぼ同等の断端陽性率および生化学的再発率であった2324)。手術時間はLRP,RALP,RRP の順に長く,RRP に対しLRP とRALP は出血量および輸血率の減少,在院日数の短縮,早期の社会復帰が認められる2526)。術後尿禁制および性機能の回復では評価時期や方法の違いから様々な報告があり,一定の見解を導き難い。術後尿禁制は2つのメタアナリシスでRRP およびLRP と比較しRALP で有意に早期の回復が認められた1027)。また,性機能においてもRRP およびLRP と比較しRALP で回復率の改善が認められる28)

pT3 または外科切除断端陽性例に対するRP 後アジュバント放射線療法に関しては3つのRCT がある(ARO 96-02/AUO AP 09/9529),EORTC 2291130),SWOG 879431))。これらの長期観察結果から,期待余命15 年以上のpT3N0M0,特に精囊浸潤例に対しては,術後アジュバント放射線療法を考慮してよいと考えられる32)。pN1 症例に対しては,ホルモン療法(アンドロゲン遮断療法)が推奨される33)。pN1 症例に対するアジュバントホルモン療法と骨盤内照射の併用は考慮してもよいが,十分なエビデンスがないと考えられる34)。pN0 症例に対するアジュバントホルモン療法の意義に関しては十分なエビデンスがなく,ルーチンに行うことは推奨されない3536)

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CQ1
前立腺全摘除術が推奨されるのはどのような患者か?

推奨グレードA
期待余命が10年以上の低〜中間リスク限局性前立腺癌症例に推奨される。
推奨グレードB
高リスク限局性前立腺癌症例に対しても適応がある。

背景・目的

RP は,RCT にて無治療経過観察(WW,待機遅延ホルモン療法)と比較して全生存率と癌特異的生存率の改善が証明された唯一の根治的治療法である。一方,侵襲的な治療法であり,周術期の合併症のリスクに加えて,尿失禁,ED等の後遺症も起こり得る。治療選択にあたっては利益と不利益に関する十分な情報提供が求められる。どのような患者がRP の利益を最も享受できるのか,これまでのエビデンスを検証する。なお,リスク分類はD’Amico 分類1)に準じる。

解説

RP の適応年齢の上限についてのコンセンサスはない。期待余命と腫瘍の特徴によってその利益が異なることが示されている。RP とWW(待機遅延ホルモン療法)との比較について,これまで2つのランドマークRCT が報告されている。SPCG-4 研究では,観察期間中央値13.4 年で,RP による全死亡率(相対リスク比:0.71)と癌特異的死亡率(相対リスク比:0.56)の改善効果が示された2)。1人の前立腺癌死を減らすための治療必要数(number needed totreat;NNT)は8人であった。年齢によるサブグループ解析では,65 歳未満群が3つの主要エンドポイントすべてにおいて改善効果を示し(全死亡率の相対リスク比:0.50,癌特異的死亡率の相対リスク比:0.45,転移リスクの相対リスク比:0.49),NNT は4人であった。65 歳以上では,転移リスクのみが有意に減少した(相対リスク比:0.68)。リスク別の解析から,最もRP の利益があったのは中間リスク群であり,すべての主要エンドポイントで改善がみられた(全死亡率の相対リスク比:0.71,癌特異的死亡率の相対リスク比:0.38,転移リスクの相対リスク比:0.49)。低リスク群では全死亡率(相対リスク比:0.57)と転移リスク(相対リスク比:0.40)が有意に減少したが,癌特異的死亡率では差がなかった。高リスク群では,いずれの主要エンドポイントも改善効果がみられなかった。一方,比較的高齢者(平均年齢67 歳)が対象となったPIVOT 研究では,全死亡率,癌特異的死亡率のいずれも改善効果を認めなかった3)。リスク別の解析では,中間リスク群とPSA>10ng/mL 群で全死亡率の改善効果があった。

以上から,RP は,期待余命が10 年以上の低〜中間リスク限局性癌症例に最も推奨される。SPCG-4 研究では,対象の約4分の3は触知癌であり,PSA検査で発見された癌は5%のみであった。現在ではスクリーニングで発見される機会が多く,より早期の癌が診断されている。またGleason 分類も改訂されており,低リスク癌の予後はさらに良好と考えられる。低リスク症例については監視療法の選択肢について十分な情報提供が必要である4)

高リスク群に対しては,これまでアンドロゲン遮断療法併用の放射線療法が標準治療とされてきた。一方,高リスク癌の予後は一様ではなく,比較的予後が良好な癌も含まれる。近年,RPでも同等またはそれ以上の成績が報告されるようになってきた6)。前述のPIVOT 研究でも,高リスク群で全死亡率の減少傾向が認められた3)。さらに,RP のメリットとして,病理組織学的診断によりアジュバント療法に最適な症例を選択できる,放射線療法+長期ホルモン療法の過剰治療を回避できる,局所コントロール等が挙げられる。したがって,高リスク症例においても,RP を選択肢とした情報提供が必要である。

RP は下部尿路症状(LUTS)の改善効果がある。術前にLUTS を有する症例においては,RP を選択する参考となる8)

RP の適応決定には期待余命が大きな因子になることから,高齢者においては併存症を含む健康状態の評価が重要となっている9-11)。Charlson Comorbidity Index,Geriatric 8 等の種々の評価ツールが提唱されている。今後,高齢者の客観的な健康評価法の確立が望まれる。

参考文献

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CQ2
前立腺全摘除術でリンパ節郭清はどのような患者に推奨されるか?
また郭清の範囲はどのようにすべきか?

推奨グレードB
中間〜高リスク症例で行うべきである。
推奨グレードB
拡大リンパ節郭清を行うべきであり,範囲は外腸骨,閉鎖,内腸骨を基本とする。限局リンパ節郭清は推奨されない。

背景・目的

海外の主なガイドライン(European Association of Urology(EAU)1),National Comprehensive Cancer Network(NCCN)2))では,診断的意義および治療的意義の可能性からリンパ節転移のリスクの低い症例以外では拡大リンパ節郭清を行うべきであるとしている。リンパ節郭清の意義,適応,範囲について検証する。

解説

CT やMRI による術前のリンパ節転移の診断は十分ではなく4),現在でもリンパ節郭清が最も確実な診断方法である。リンパ節転移の正確な把握は追加治療の決定にも有用である。

拡大リンパ節郭清を行うことで,より多くのリンパ節が摘出され,より高率にリンパ節転移が診断されることが明らかにされている。Heidenreich ら5)は拡大リンパ節郭清では限局リンパ節郭清に比し摘出されるリンパ節が2倍に増え,リンパ節転移は2.8 倍高率に診断されたと報告している。限局リンパ節郭清は過小診断につながり,行うべきでないとしている。Miki ら6)は拡大リンパ節郭清により高リスク癌ではリンパ節転移を23%に認めたと報告し,日本人でも高リスク癌ではリンパ節転移の頻度が欧米人と同等に高いことを示している。

リンパ節郭清の予後改善効果についてはRCT による結果がないため結論は出ていないが,摘出リンパ節数が多いほど予後良好であるとの報告は多い8)。リンパ節転移陰性例でも同様の傾向を認めることから,拡大リンパ節郭清が微小転移を除去し予後改善につながる可能性も示唆されている9)。またリンパ節転移症例の中には予後良好の症例もあり,特に1個以下10)や2個以下11)の転移は予後良好と報告されている。

郭清の範囲についても議論があり,一定していない。2つのマッピングスタディー1213)等の所見から,外腸骨,閉鎖,内腸骨が拡大リンパ節郭清の基本であると考えられる。Mattei ら12)は総腸骨の尿管分岐部までを加えることで75%のリンパ節をカバーできるとしている。さらに仙骨前リンパ節を加えるべき13)との意見もあるが,手術時間,合併症,手技の難易度の問題から慎重に議論される必要がある。転移様式は個人差が大きいとされ,センチネルリンパ節の同定14)はテーラーメイドの郭清範囲決定に寄与する可能性がある。

不要な郭清を避けるため,症例選択にはノモグラムが有用であるとされているが,拡大リンパ節郭清によるものは少ない。Briganti ら15)は生検の陽性コア数を加味した拡大リンパ節郭清によるノモグラムを作成し,5%をカットオフとしている。おおむね低リスク癌では不要という意見が多い16)

術式については,ロボット支援下手術でも有効性,合併症は開腹手術と同等である17)と報告されている。一方で,ロボット支援下手術では中間〜高リスク症例でもリンパ節郭清の施行頻度が減少し郭清範囲が縮小される傾向が報告されており,注意が必要である18)。中間リスク以上の症例では術式に関わらず確実な拡大リンパ節郭清を行うべきである。

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CQ3
術後の尿禁制回復にはどのような因子が関係するか?
また術後尿失禁に対する有効な治療法はあるか?

推奨グレードC1
術前因子として,年齢,肥満(BMI),併存症,勃起能,骨盤底筋の解剖等の関与が考えられている。
推奨グレードA
尿禁制を保つために神経温存ならびに尿道括約筋の温存は有効とされている。
推奨グレードB
術後尿失禁の治療として骨盤底筋体操,および人工尿道括約筋植込術は有効とされている。

背景・目的

RP の術後尿失禁(PUI)は,性機能障害と並び患者のQOL を下げる重要な合併症である。PUI の回復率はおよそ60〜96%と報告されており2),近年の技術の向上をもってしても一定の割合でPUI が存続する。尿禁制回復のために行われた試みを検証する。

解説

1 術後尿禁制回復の予測因子

近年,MRI 等による膜様部尿道長3-5),あるいは尿道体積5)や尿道形態4)等のパラメーターが術後の尿禁制回復の予測因子として報告されている。術前あるいは術後の膜様部尿道が長い症例で早期の尿禁制回復が見込まれる3-5)。しかしながら,文献によって測定方法が異なるため,今後の最適な測定部位やカットオフ値の決定が期待される。

尿流動態検査パラメーターについては,術前の最大尿道閉鎖圧がPUI の予測因子として報告されている7)。一方,膀胱因子である術前の排尿筋過活動や膀胱コンプライアンスの低下がPUI の予測因子となる可能性も報告されている8)

そのほかに,術後の尿禁制回復の予測因子として小さな前立腺9),低BMI 10),術者経験11)の関与が,PUI の予測因子として高齢1012),高度肥満13),併存症の存在12),術前勃起能低下10)等の関与が報告されているが,いずれもエビデンスは確立されていない。

2 手術手技によるPUI の予防

尿道括約筋の温存は術後の尿禁制に必須であり,尿禁制回復に寄与する14)。神経温存手術の尿禁制に対する効果については,これまで賛否があったが,近年の大規模なメタアナリシス15) と多施設前向き研究16) で,神経温存症例における尿禁制の有意な回復が確認された。神経温存は術後の尿禁制に関与し,PUI 予防を目的とした神経温存手術は有意義である。後壁(+前壁)補強は,メタアナリシスで尿禁制回復への有効性が確認されたが,回復程度が小さく臨床的意義は疑問視されている1)。膀胱頸部温存の有効性も報告されているが,エビデンスは確立されていない17)

術式と尿禁制回復に関するメタアナリシスでは,術後12 カ月での尿禁制は,RALP がRRP,LRP よりも有意に良好であった1)

3 PUI に対する有効な治療法

抗コリン薬を中心とする薬物療法のエビデンスは確立されていない18)。骨盤底筋体操を含む行動療法の有効性はこれまで議論されてきたが19),術前から行う骨盤底筋体操の有効性を検討したメタアナリシスで,長期的な成績に違いはないものの早期の尿禁制回復に対する有効性が報告されている20)。手術療法については,いわゆる Gold standard である人工尿道括約筋植込術21)が2012 年に保険適用となり,本邦でも重症例に対する観血的治療が可能になった。

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CQ4
前立腺全摘除術における性機能を保つ有効な手技として神経温存手術は推奨されるか?
また術後性機能障害に対する有効な治療法はあるか?

推奨グレードB
性機能を保つため,術中の神経温存が有効とされている。
推奨グレードB
神経温存手術後のPDE5 阻害薬内服が有効とされている。

背景・目的

RP 後の性機能障害はQOL を低下させる重要な合併症である。RP 後のED は術直後から発症し,そのあと徐々に改善傾向を示す。欧米の報告のメタアナリシスでは回復の確固たる定義はないものの,6割弱が回復するとされている1)。一方,本邦の報告では,手術5年後のUCLA-PCI 性機能スコアは術前の32%2)と完全回復にはほど遠く,また,術前の状態に回復できた症例は全体で32%,神経温存を行った症例でも54%と報告されている3)。術後性機能障害改善のために行われた試みを検証する。

解説

1 神経温存手術

Walsh とDonker4)が1980 年代に提唱した前立腺後外側のNVB を温存する神経温存RP が行われるようになった。術前に性機能があり,PSA 値,生検所見,T-病期,MRI 所見等から被膜外進展のリスクが低いと診断される症例では,神経温存を考慮する6)。病理学的病期を予測するノモグラムも参考となる7)。 NVB 非温存よりはNVB 温存手術が,片側温存よりは両側温存手術が,さらにはより多くの海綿体神経線維を温存するために前立腺周囲の筋膜をより前方・正中から剝離する術式が,術後性機能の回復に寄与することが明らかになっている8-13)。さらに最近では,ロボット支援下手術(RALP)を導入することにより,従来の開腹手術(RRP),腹腔鏡下手術(LRP)よりも良好な術後成績が得られる可能性が報告されている14-16)

2 術後性機能障害に対する治療:PDE5 阻害薬内服

陰茎海綿体の線維化予防を目的とした陰茎リハビリテーションの考えが提唱され17),PDE5 阻害薬に組織保護作用があるという基礎研究から,そのファーストラインとして注目された。続いて,神経温存手術後のPDE5 阻害薬投与に関する数多くのRCTが行われ,これらの試験を基にしたメタアナリシスにおいてもPDE5 阻害薬は術後ED に有効であるとのエビデンスが得られている1819)。しかし,その投与方法に関して,選択薬剤や,継続的PDE5 阻害薬内服とon demand な投与とのED予防効果における優劣については一定の見解は得られていない20-22)

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CQ5
ロボット支援前立腺全摘除術,腹腔鏡下前立腺全摘除術,恥骨後式前立腺全摘除術の治療成績に違いがあるか?

推奨グレードB
ロボット支援前立腺全摘除術(RALP),腹腔鏡下前立腺全摘除術(LRP)は恥骨後式前立腺全摘除術(RRP)と比較し同等の制癌効果が得られる。
推奨グレードB
RALPおよびLRPはRRPに比べ低侵襲であり,出血量の減少,尿禁制や性機能等の術後QOL 早期回復が認められる。

背景・目的

前立腺癌に対するRP として,本邦では開腹によるRRP,LRP,ミニマム創内視鏡下前立腺全摘除術(ミニマム),RALP が保険適用のもとに施行されている。一般的にRRP,ミニマムは腹膜外,LRP は腹膜内または外,RALP は腹膜内アプローチで施行される。

RP は狭小な空間で剝離や縫合等の微細な操作が必要であり,RRP では様々な静脈性出血により時に触覚に頼った手術とならざるを得ない場面があり,温存すべき周囲組織を詳細に判別するのが難しい。LRP は気腹による出血量の減少と腹腔鏡の拡大視野により外科解剖の詳細が認識できるが,鉗子操作の難点より手技の修得には長いlearning curve が必要となる。RALP は本邦で2009 年に薬事承認された「da Vinci サージカルシステム」を使用し,術者はコンソールで三次元画像を観察しながら微細な手術操作ができる。RALP はLRP の経験によらず急峻なlearning curve で修得可能である2)。2012 年に保険適用となり導入施設および手術数は急速に増加し,本邦においても限局性前立腺癌に対する新たな標準術式として定着した。RP 各術式の治療成績につき比較検討する。

解説

1 腫瘍制御

2012 年のNovara らのメタアナリシスおよび他のコホート研究で,RALP,LRP はRRP とほぼ同等の断端陽性(positive surgical margin;PSM)率および生化学的再発(biochemical recurrence;BCR)率であった3-5)。その後,経験を積んだ施設においてRRP に比しRALP でのPSM 率およびBCR 率の改善が報告されつつある6-8)。これは症例の蓄積とロボットによる手術操作性の改善が融合した結果であり,今後,RALP の腫瘍制御に与える影響に関する解析が待たれる。

2 周術期成績

手術時間はLRP,RALP,RRP の順に長く,RRP に対しLRP とRALP は出血量および輸血率の減少,在院日数の短縮,早期の社会復帰が認められる9-11)。ミニマムの周術期成績はRRP とほぼ同等である12)。合併症の頻度は術式による相違なしとする報告もあるが10),RALP において低下するとの報告もある1314)。しかし,LRP に比べてRALP のlearning curve 短縮が認められ,経験により合併症発生率も低下する傾向にある15)

3 術後QOL

術後尿禁制および性機能の回復では評価時期や方法の違いから様々な報告があり,一定の見解を導き難い状況である。術後尿禁制は2つのメタアナリシスでRRP およびLRP と比較しRALP で有意に早期の回復が認められた1617)。また,性機能においてもRRP およびLRP と比較しRALP で回復率の改善が認められる1819)。なお,術後の尿禁制・性機能の回復に関しては,それぞれCQ3の解説も参照されたい。

参考文献

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CQ6
術後アジュバント療法が推奨されるのはどのような患者か?
またどのような治療が推奨されるか?

推奨グレードB
期待余命15 年以上のpT3N0M0,特に精囊浸潤例に対しては,術後アジュバント放射線療法が推奨される。
推奨グレードB
リンパ節転移陽性例に対しては,ホルモン療法(アンドロゲン遮断療法)が推奨される。
推奨グレードC1
リンパ節転移陽性例に対しては,骨盤内照射+ホルモン療法(アンドロゲン遮断療法)が推奨される。

背景・目的

RP 後再発の危険因子を有する前立腺癌症例に対して,術後アジュバント療法として施行する放射線療法やホルモン療法の意義とその適応について検討する。

解説

pT3 またはPSM 例に対するRP 後アジュバント放射線療法に関しては,3つのRCT がある(ARO 96-02/AUO AP 09/951),EORTC 229112),SWOG 87943))。いずれも無治療経過観察群をコントロール群とした試験であり,60〜64Gy のアジュバント放射線療法は生化学的無再発生存期間を延長させたが,全生存期間の延長は示されていない。メタアナリシス4)においても同様の結果であり,生化学的無再発生存期間についてはハザード比:0.47(95%CI:0.40〜0.56,p<0.00001),全生存期間についてはハザード比:0.91(p=0.52)であった。その後のSWOG 8794 試験の最終解析5)において,10 年全生存率がアジュバント放射線療法あり群で74%,なし群で66%であり,アジュバント放射線療法による全生存期間の延長が証明された(ハザード比:0.72(95%CI:0.55〜0.96,p=0.023))。サバイバルベネフィットの違いが明確になるのに15 年以上のフォローアップが必要であった。しかしARO 96-02/AUO AP 09/95 の最終解析6)では無増悪生存期間(ハザード比:0.51(95%CI:0.37〜0.70,p<0.0001))を,EORTC 22911 の最終解析7)では生化学的無再発生存期間(ハザード比:0.49(p<0.0001))を延長することはできたが,全生存期間の延長は示されなかった。これらの最終試験の結果を踏まえたメタアナリシスの解析結果が待たれる。SWOG 8794 試験のサブ解析8)では精囊浸潤があるpT3 症例ではアジュバント放射線療法あり群で生物学的無再発生存期間(ハザード比:1.37(p=0.04))および全生存期間(ハザード比:1.43(p=0.02))の延長が証明された。また,EORTC 229117)のサブ解析で全年齢においてアジュバント放射線療法による生化学的無再発生存期間の延長が証明されたが,70 歳以上での生化学的無再発生存期間(ハザード比:0.75 (95%CI:0.52〜1.08,p=0.1196))および全生存期間(ハザード比:2.94(95%CI:1.75〜4.93,p<0.0001))の延長は証明できなかった。アジュバント療法の開始時期(アジュバント放射線療法 vs 即時救済放射線療法)については進行中のRadiotherapy- Adjuvant Versus Early Salvage(RAVES)試験9)があり,結果が待たれる。以上より,期待余命15 年以上のpT3N0M0,特に精囊浸潤例に対しては,術後アジュバント放射線療法を考慮してよいと考えられる。

RP 後アジュバントホルモン療法に関しては,3つのRCT がある10-13)。pN1 症例に対する即時ゴセレリンまたは精巣摘除術と無治療経過観察の比較試験では,アジュバントホルモン療法群で全生存期間が上回っていた(ハザード比:1.84(p=0.04))11)。この知見はその後のデータベース研究で反証されているが,この研究は後ろ向き研究である14)。現時点においてNCCN ガイドライン(version 3. 2016)15)ではpN1 症例に対するアジュバントホルモン療法はカテゴリー1となっており,その他の選択肢として,PSA値が検出可能になるまでの経過観察が推奨されている。3番目の選択肢としてアジュバントホルモン療法に骨盤内照射の追加がある。Da Pozzo らの研究16)におけるpN1症例に対するアジュバントホルモン療法のみの群とアジュバントホルモン療法+放射線照射併用群との比較では,放射線照射併用が生物学的無再発生存期間と癌特異的生存期間の延長に寄与した。ただし,後ろ向き研究であり,適切な照射範囲等については定まっていない。よってpN1 症例に対するアジュバントホルモン療法と骨盤内照射の併用は考慮してもよいが,十分なエビデンスがないと考えられる。

一方,pN0 症例に対するフルタミド療法(750mg/日)には,無治療経過観察と比較して無再発生存期間の延長効果がみられたが(ハザード比:0.51(p=0.0041)),全生存期間には差がなかった12)。またビカルタミド(150mg/日)によるアジュバント療法は,局所浸潤性前立腺癌の無再発生存期間を延長したが(ハザード比:0.75(p=0.004)),限局性および局所浸潤性前立腺癌のいずれにおいても全生存期間の延長効果は認めなかった13)。メタアナリシスにおいても,アジュバントホルモン療法は無再発生存期間の延長(オッズ比:3.73(p<0.00001))を認めるものの,全生存期間の延長は認めないという結果であった1718)。すなわちリンパ節転移のない例に対するアジュバントホルモン療法の意義に関しては十分なエビデンスがなく,ルーチンに行うことは推奨されない。

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9 放射線療法(外照射)

総論

1980 年代半ばから行われてきた数々の大規模前向き無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)の長期成績に基づき,今日では前立腺癌治療における放射線療法の位置付けは確固たるものとなっている。同時に治療技術,テクノロジーも進歩し,より安全に局所線量を高め癌の一層有効な制御を図ることも可能となっている。本ガイドラインでは以上の背景を基にさらに最新の知見1-15)をレビューし,21 世紀の外照射でのエビデンスをまとめた。

クリニカルクエスチョンは,①根治的X線外照射での至適線量,分割方法,照射範囲はどのようなものか? ②陽子線および重粒子線治療はどのような患者に推奨されるか? ③根治的外照射においてホルモン療法は治療成績を改善するか? また至適な併用のタイミング,薬剤,期間はどのようなものか? ④ホルモン療法不応癌での局所再燃に対する放射線療法は有効か? N1 あるいはM1 前立腺癌での局所放射線療法は有効か? ⑤放射線療法後の二次発癌(膀胱癌,直腸癌)の治療法別発生リスクに違いはあるか? ⑥外照射の有害事象とその対策,の6つとした。

照射技術の進歩により確かに線量増加は可能となったが,有害事象がなくなったわけではなく,線量相応の事象発生が知られている。長期生存が可能となったため,相対的に二次発癌のリスクも無視できない。より正確に線量を集中させることによりこれらのリスクは軽減できるのか。ホルモン療法感受性を有する悪性腫瘍である前立腺癌において,従来より一般に用いられてきたホルモン療法は,骨塩量を低下させる等の副作用のほか,心血管系の毒性,さらには認知機能の低下,抑うつ,男性機能低下等QOL に少なからず影響することが知られている。特に欧米のガイドラインではホルモン療法を絶対に必要な場合にのみ適応するべきとの推奨もなされている。高線量投与が可能となった現在,ホルモン療法を併用することの意義は何か,より局所制御が期待できるのであろうか。どのような症例群に適応されるのか。また,X 線よりも生物学的効果比が高いとされる陽子線および重粒子線治療の治療上の利点は何か。さらには従来,制御が難しいとされてきたリンパ節転移,骨転移のあるホルモン療法不応癌症例において照射による局所制御に意味はあるのか。1つの解が次の臨床命題を生み出していく。この連鎖に限りはないようである。また,情報が瞬時に伝わる今日では日々続々と「エビデンス」が生み出されているといっても過言ではなく,治療概念の革新速度も速い。個々の治療法の優劣をどのように客観的に評価するべきなのかも容易ではなくなった。精度の高いRCT の結果により優劣が定まったとされる治療法も,新たな薬剤の登場により疾患群の治療歴,背景が変わってしまえば,必ずしも期待された効果が得られないかもしれない。どの時代の診断技術,そしてどのような治療背景をもった症例群に基づいた結果であるのか等,問題は複雑である。特に技術革新の目覚ましい放射線療法の分野であればなおさらの感がある。実際にホルモン療法,化学療法を中心とした薬物療法においての急速な進歩とも相まって,新規の併用療法でのより有効な癌制御効果のエビデンスを論ずる必要も出てきたものと思われるが,これは次回以降の改訂に委ねたい。

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CQ1
根治的X線外照射での至適線量,分割方法,照射範囲はどのようなものか?

推奨グレードA
BED1.5 で170〜190Gy(通常分割照射で72Gy/36fr.〜80Gy/40fr. 相当)の線量が推奨される。
推奨グレードA
通常分割照射が推奨される。
推奨グレードB
低〜中間リスク症例において中程度寡分割照射は通常分割照射の代替として推奨される。
推奨グレードD
中間〜高リスク症例に対して骨盤リンパ節領域に対する予防的照射(全骨盤照射)を画一的に行うことは推奨されない。

背景・目的

前立腺癌に対する放射線療法では,照射機器および技術の進歩等によって治療内容は変化している。ここでは,根治的外照射の至適線量や分割照射,および骨盤照射の意義について検討した。

解説

複数のRCT を含む局所線量増加試験の結果,BED1.5(α/β値を1.5Gy とした場合の生物学的実効線量(biologically effective dose;BED))で140Gy(60Gy/35fr.相当)〜190Gy(80Gy/40fr.相当)の線量域において,線量増加に伴い腫瘍制御率(生化学的非再発率)が改善するdose-response が認められている2)。X 線外照射における至適線量を確認する臨床試験は行われていないが,高線量率遠隔操作式後充填法(HDR-RALS)を含む55論文のメタアナリシスの結果,BED1.5 で200Gy 以上の線量域では腫瘍制御率は頭打ちとなってdoseresponse が認められず,200Gy 以上へ線量を増加する妥当性を見出すことができなかった2)。したがって,70Gy 以下の線量に対して長期の優位性が確認されているBED1.5で170~190Gy(通常分割照射で72Gy/36fr.〜80Gy/40fr.相当)の線量を,リスク分類に応じて投与することが推奨される。なお,現在までに局所線量増加の生存への寄与は確認されていない1)

ただし,上記の知見は放射線単独療法のみまたは放射線単独療法が多く含まれた治療成績に基づいている。したがって,ホルモン療法を併用した場合に同様のdose-response が認められるかについては明らかではない。2015 年に結果が報告された中間リスク前立腺癌を対象とした3群のRCT では,6カ月の短期ホルモン療法併用下での70Gy 群の治療成績が外照射単独で加療された76Gy 群よりも有意に良好であり(短期ホルモン療法併用の76Gy 群が最も良好な成績であった)3),ホルモン療法併用下においては外照射単独の場合よりも必要線量が低くなることが示されており,ホルモン療法併用下での至適線量は今後の検討課題である。また, 上記の線量は主として三次元原体照射(3D conformal radiation therapy;3D-CRT)による線量増加試験において用いられた線量であり,実質的な線量増加となるD95 処方による強度変調放射線治療(intensity-modulated radiation therapy;IMRT)や画像誘導放射線治療においては,必要線量が低くなる可能性があり注意が必要である4)



前立腺癌細胞のα/β値は1.5Gy 前後の低値であると推定されており6),直腸等のリスク臓器の晩期有害事象の3Gy よりも低い。したがって,理論上は,通常分割照射よりも1回線量を大きくした寡分割照射が抗腫瘍効果と有害事象のバランス上有利となる7)。前立腺癌に対する寡分割照射は,1回線量が2.5〜4Gy の中程度寡分割照射と1回線量5〜10Gy で4〜7分割の超寡分割照射による体幹部定位放射線治療(stereotactic body radiation therapy;SBRT)の2つのアプローチに大別される7)

中程度寡分割照射は,低リスクおよび中間リスク症例を対象にデザインされた複数のRCT において,通常分割照射と同等の生化学的非再発率と有害事象発生率であったことが経過観察期間が4〜8年で報告されている8)。非劣性試験は結果待ちの状態である。一方,SBRT は,主として低リスク症例を対象とし,経過観察期間2〜5年の前向き第Ⅱ相試験によって,通常分割照射と同様の生化学的非再発率が報告されているが,直腸および尿路有害事象増加が示唆されている9)。今後,第Ⅲ相試験による通常分割照射との比較検証が待たれる。
 
骨盤リンパ節領域に対する予防的全骨盤照射は,高リスク症例を中心に慣例的に施行されてきたが,現在までに結果が報告されている3つのRCT のすべてにおいて,局所照射に対する全骨盤照射の治療成績改善効果は認められなかった10)。したがって,現時点においては,中間〜高リスクの局所限局性前立腺癌に対して画一的に全骨盤照射を行うことは推奨されない。

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CQ2
陽子線および重粒子線治療はどのような患者に推奨されるか?

推奨グレードC1
限局性および局所進行性前立腺癌に対する陽子線および重粒子線治療は良好な臨床試験結果が報告されているが,既存の治療に対して明確な優位性を示すためにはさらに高レベルの臨床試験が必要である。

背景・目的

前立腺癌に対する外照射においては,「いかに副作用を少なくし,治療線量を上げるか」が課題であるが,陽子線,重粒子線(炭素イオン線)は,その放射線物理特性(ブラッグピーク)をもつことにより線量分布が改善(標的線量増加,リスク臓器線量低減)する2)。これに伴う臨床結果の差について現時点における陽子線,重粒子線治療の成績を従来のX線治療と比較検討した。

解説

前立腺癌に対する放射線療法では線量依存性に生化学的非再発率が改善することが知られている。X 線治療の大規模な線量増加試験としては米国のRTOG 9406 で78Gy 群の5年生化学的無再発生存率が68.4Gy 群に比して有意に良好であったと報告されているほか4),IMRT による86.4Gy の治療で5年生化学的無再発生存率が低リスク群で98%,高リスク群で70%という優れた成績も報告されている5)

線量増加による成績の向上は陽子線を用いた臨床試験の結果でも検証されており,X線と陽子線を併用して70.2Gy と79.2Gy を比較した第Ⅲ相試験(PROG 9509)が報告されている6)。393 例が登録され,低リスク群の5年生化学的無再発生存率は低線量群で82.6%,高線量群で97.3%と良好であった。中間・高リスク群の5年生化学的無再発生存率は低線量群で74.1%,高線量群で81.8%とこちらも3D-CRT の臨床試験と比較して良好といえる4)。障害については,高線量群で泌尿生殖器系の急性期障害の増加を認めたものの,Grade 3 以上の晩期障害では1〜2%と差が認められなかった。他の施設からもX線+陽子線の線量増加臨床試験においておおむね治療成績が向上している報告が得られている7)。陽子線単独での前向き臨床試験の結果はまだ限られているが8-10),Grade 3 以上の晩期障害は泌尿生殖器系,消化器系ともに0〜2%程度であり良好な結果が得られている。

重粒子線治療は1994 年に世界に先駆けて本邦で臨床応用が開始され,前立腺癌の治療は1995 年から第Ⅰ/Ⅱ相試験が開始された11)。重粒子線治療は陽子線治療と同様にブラッグピークを用いることで良好な線量分布が得られることに加え,X 線や陽子線に比べて癌細胞に対する生物学的効果比(RBE)が2〜3倍高いことが特長である12)。線量増加試験で一定の安全性と奏効率が示され,前向き第Ⅱ相試験が開始された13)。重粒子線治療の5年生化学的無再発生存率は低リスク群で90%,高リスク群で88%とこちらも従来の3D-CRT と比較して十分に良好な成績であった3,1415)。障害に関しても晩期Grade 2 以上の泌尿生殖器系障害は6.3%,消化器系障害は1.9%と線量分布に応じて有害事象も低く抑えられている。

一方で,X 線治療の進歩もあり,陽子線治療との比較では差が明らかでないとする報告も存在する1516)。米国のSurveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)データベースを利用した研究では,線量や分割回数,再診頻度等は考慮せずにpropensity score matching を行ったところ,陽子線治療とIMRT とで治療効果,および排尿症状や骨盤骨折,性機能障害では有意差がみられず,消化管障害の疑いで精査された頻度,治療を受けた頻度はわずかに陽子線治療が多かった16)。また,同時期同一施設で治療されたケースマッチした後ろ向きコホート研究では,併用ホルモン療法や治療前排尿状態等が有意差をもってマッチングできていないものの,陽子線治療とIMRT は直腸出血や排尿症状等の有害事象に有意差がみられなかった17)

これらをまとめると,複数の前向き臨床研究の結果,陽子線・重粒子線治療は有害事象発生率の低い有効な治療手段であり,粒子線の物理的性質による良好な線量分布から期待される仮説と合致していると考えられる。現在,米国ではQOL を主要エンドポイントとした比較臨床試験が行われているように,他の外照射法に対する明確な優位性を示すためには,さらなるエビデンスの蓄積が必要である。治療の適応に関しては,陽子線・重粒子線治療はいずれも先進医療(2016 年1月現在)であるため,費用の点を考慮したうえで,本治療を希望する症例と考えられる。

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CQ3
根治的外照射においてホルモン療法は治療成績を改善するか?
また至適な併用のタイミング,薬剤,期間はどのようなものか?

推奨グレードB
中間リスク症例に対しては,4〜6カ月程度のホルモン療法(照射前 ± 同時併用)が推奨される。
推奨グレードC1
高リスク症例に対してはアジュバント療法が推奨されるが,80Gy程度の高線量照射では,その有効性は不明確である。
推奨グレードA
ホルモン療法を併用する際は照射前に開始する。
推奨グレードB
併用薬剤はLH-RHアゴニスト(またはアンタゴニスト)±抗アンドロゲン薬が推奨される。
推奨グレードC2
6カ月を超えるネオアジュバントホルモン療法が治療成績を改善する明確なエビデンスはない。

背景・目的

低リスク症例に対する外照射単独での治療成績は手術成績とほぼ同等であり,ホルモン療法の併用の利点は少ないと考えられる。一方,中間・高リスク症例に対する外照射単独での治療成績は不良であるため,これらの症例を対象としてホルモン療法併用の有効性が検証されてきた。その結果,従来の70Gy 程度までの外照射では,中間リスク症例では3〜6カ月,高リスク症例では2〜3年間の併用が治療成績を改善することが示された。しかしながら,同時期に線量増加による治療成績の改善が示されたため,70Gy を超える線量がすでに実臨床で用いられている。

解説

1 低リスク症例への併用効果

低リスク症例に対する外照射単独での治療成績は手術成績とほぼ同等であることが示され1),この症例群に対するホルモン療法併用の有用性は少ないと考えられる2)。T1b〜T2bN0M0,PSA≦20ng/mL の限局性前立腺癌症例を対象とした,46.8Gy の骨盤照射に19.8Gy の前立腺局所照射を追加する放射線療法に4カ月間の複合アンドロゲン遮断(combined androgen blockade;CAB)療法(照射前+同時)併用の有無による比較試験では,照射単独群の10 年全生存率が57%,併用群では62%であったが(p=0.03),低リスク症例に限ると,照射単独群が64%,併用群は67%で差は認められなかった3)。一方この試験では,中間リスク症例の10 年全生存率は照射単独群54%,併用群61%であったが(p=0.03),高リスク症例ではホルモン療法併用の有効性は認められなかった。

2 ネオアジュバント療法

同様の照射法(骨盤照射+局所追加照射で総線量65〜70Gy)を用いて,ネオアジュバント療法の有効性が検証されてきた。T1b〜T2b,PSA値が10〜40ng/mL を満たす限局性前立腺癌206 例に対するRCTの結果,6カ月間のホルモン療法併用群の5年生存率は88%で,照射単独群の78%と比較して良好であり(p=0.04),疾患特異的生存率も有意に改善した4)。RTOG 8610 では腫瘍体積の大きいT2 およびT3〜T4 の症例を対象とした照射単独群と4カ月間のネオアジュバントCAB療法併用群との比較試験が行われ,10年全生存率(34% vs 43%)は併用群で良好であったが,有意差には達しなかった(p=0.12)。一方,10年疾患特異的生存率(p=0.01),遠隔転移率(p=0.006),非再発生存率(p<0.0001)はいずれも併用群で優れていた5)。最近では骨盤照射を省略した前立腺局所照射の場合でもネオアジュバント療法の有効性が示されている。TROG 96.01 試験ではT2b〜T4 の前立腺癌802 例に対する66Gy の局所照射と3カ月あるいは6カ月のネオアジュバントCAB療法の併用効果が検証された。その結果,併用期間に関わらず,併用群の生化学的非再発率,局所制御率,無病生存率は照射単独群よりも良好であった6)

一方,74Gy 以上の高線量を照射した場合では,その有効性は十分には検証されていない。後ろ向きな検討ではあるが,IMRT による81Gy 以上の局所照射を施行した中間リスク症例(照射単独群353 例,ホルモン療法併用群357例)に対する解析結果では,5〜7カ月間のネオアジュバント療法が生化学的再発,遠隔転移,および疾患特異的死亡を有意に減少させた7)。さらに,中間リスク症例に対して,80Gy の外照射における4カ月間のネオアジュバントCAB 療法併用効果を検証する比較試験(GETUG 14)の初期成績では,生化学的非再発率(97% vs 91%,p=0.04)および臨床的非再発率(92% vs 86%,p=0.09)はいずれも併用群で良好であり,長期での解析結果が待たれる8)

ネオアジュバント療法の期間に関しては,主に中間リスク症例を対象として,照射前+中の合計16 週間と36 週間を比較する試験が行われた。10 年生化学的再発率は両群とも27%(p=0.77)であり,全生存,疾患特異的生存,局所制御,遠隔転移についても成績の差は認められなかった9)。66Gy の外照射に3カ月と8カ月のネオアジュバントCAB 療法併用を比較した試験では,高リスク症例では8カ月群で5年無病生存率が高かったものの(71% vs 42%,p=0.01),低・中間リスク症例では成績の差は示されなかった10)。同様に,中間・高リスク症例276 例に対して,70Gy の外照射に4カ月と8カ月のネオアジュバントCAB 療法併用を比較する試験でも,治療成績に差は認められなかった11)。さらに,66〜70Gy の照射にネオアジュバントCAB 療法併用の有効性を検証した3つのRCT の成績をその併用期間で検討した結果,6カ月併用群の疾患特異的死亡率は3または4カ月併用群よりも良好であった(10% vs 17%,p<0.001)。また,Gleason スコアが7の症例では同様の結果が得られたものの,6以下あるいは8以上の症例では併用期間による成績の差はみられなかった12)。上述したように,TROG 96.01 試験では局所制御率はCAB 療法の併用期間(3カ月と6カ月)による差はなかったものの,遠隔転移や疾患特異的死亡は6カ月群のみが照射単独群に比べて良好であった6)。これらの結果から,局所制御には期間によらず照射前からのホルモン療法が効果的であるものの,潜在的転移病変の可能性が高い高リスク症例に対する長期予後の改善には3カ月のホルモン療法では不十分であることが示唆される。

放射線療法にホルモン療法を併用するタイミングは,照射開始前に始めることで照射効果を高めることが期待される。照射2年後の前立腺生検では,3カ月のネオアジュバントCAB 療法併用群が,照射単独群に比べ有意に陽性コア率を低下させたが,6カ月のアジュバントCAB 療法併用群と差がなかった13)。しかしながら,その上乗せ効果が,単なる相加効果であるのか,それ以上であるかに関しては結論付けられていない14-16)。一方で,ネオアジュバント療法による前立腺体積の縮小は,リスク臓器への照射線量や照射体積を減ずることが可能であり,CAB 療法の開始から3カ月毎にCT 撮影を行った結果,3カ月後の前立腺体積は31%,6カ月後ではさらに9%減じたものの,9カ月後では変化がみられなかった17)。以上の結果と局所照射の治療計画に要する期間を考慮すると,ネオアジュバント療法は照射前に合計で4〜6カ月間程度が適していると考えられる。

また,放射線療法にホルモン療法を併用した比較試験ではその多くがCAB 療法を併用しているが,LH-RH 製剤単独での報告もあり,それらが与える臨床成績の差については明確ではない。

3 アジュバント療法

これまでの多くの臨床試験の結果,65〜70Gy 照射後のアジュバント療法は高リスク症例の予後を改善させることが示されている。主に中間・高リスク症例に対する5つの比較試験(RTOG 7506, 7706, 8307, 8531, 8610) のメタアナリシスでは,Gleason スコアが8〜10,Gleason スコアが7でN(+)またはT3 の高リスク症例では長期ホルモン療法の併用が全生存率を改善することが示された18)。さらに,T2c〜T4 の前立腺癌1,554 例に対して,4カ月のネオアジュバントCAB 療法に,ゴセレリン単独で24 カ月間のアジュバント療法を追加した効果を検証する比較試験でも,アジュバント療法群では10 年疾患特異的生存率(88.7% vs 83.9%,p=0.0042)をはじめ,全生存率を除く再発率,無再発生存率,遠隔転移率,局所制御率で良好な成績であり,Gleason スコアが8〜10 の症例に限れば,全生存率でも良好であった(81.0% vs 70.7%,p=0.044)19)。また,高リスク症例に対する70Gy の照射と3年間のゴセレリン投与は10 年全生存率を有意に改善した(58.1% vs 39.8%,p=0.0004)20)。次いで,6カ月と3年のアジュバントホルモン療法の併用を比較する試験が行われ,長期併用群で原病生存率が良好であった(p=0.002)21)。後ろ向きな検討では,高リスク症例に対する75〜79.2Gy の照射に1年以上の長期アジュバントホルモン療法の併用が全生存率および疾患特異的死亡率を改善したことが報告されたが22),高線量照射において長期のアジュバント療法が予後を改善できるかについては明らかではない。以上から,高リスク症例に対して70Gy 程度までの照射に3年程度のアジュバントホルモン療法を併用することが長期予後を改善させることは明らかであるが,すでに実臨床で用いられている74Gy 以上の高線量照射を併用した場合の最適な併用期間は今後の課題である。

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CQ4
ホルモン療法不応癌での局所再燃に対する放射線療法は有効か?
N1 あるいはM1 前立腺癌での局所放射線療法は有効か?

推奨グレードC1
ホルモン療法不応癌での局所再燃例は放射線療法の適応となる。
推奨グレードC1
N1前立腺癌では,ホルモン療法に放射線療法を併用することで予後が改善する。
推奨グレードC2
M1 前立腺癌での局所放射線療法の有効性は明らかではない。

背景・目的

前立腺癌はホルモン療法に著明な初期効果を示すことが多いが,やがて去勢抵抗性となることが多い。従来,去勢抵抗性前立腺癌や,N1,M1 前立腺癌に対する放射線療法は,主に緩和的治療として位置付けられていた。しかし,これらの予後が良好とはいえない状態でも,放射線療法を加えることの有用性が明らかになりつつある。

解説

去勢抵抗性前立腺癌は一般的には予後不良であるが,局所に限局している例では,根治的放射線療法によりPSA 値低下が得られることが報告されている。症例が限られるため,臨床試験としてはほとんど行われていないが,放射線療法の有効性を示すいくつかの後ろ向きの報告がなされている。治療後に遠隔転移をきたす例も多いが,局所制御は比較的良好で,5年臨床的非再発率は40%前後とされている2)。また,ホルモン療法不応で遠隔転移を伴う場合でも,局所再燃により生じた尿閉等の症状改善には,前立腺局所に対する緩和的放射線療法が有効である3)

N1 前立腺癌に対する放射線療法の有効性についてもエビデンスが確立しつつある5)。米国National Cancer Data Base から抽出したN1 前立腺癌にて,ホルモン療法単独およびホルモン療法に放射線療法を加えた2群でpropensity score matchingを行い,放射線療法を加えた群で5年全生存率が50%改善したと報告されている4)。これらの結果から,期待余命が見込まれるN1 前立腺癌では,ホルモン療法に放射線療法の併用を検討すべきである。

現在,M1 前立腺癌に関して,局所療法併用の有用性が検討されている。米国SEER データベースからM1 前立腺癌4,069 例を抽出し,手術併用群47 例,IMRT 併用群88 例,3D-CRT群107 例を抽出し,propensity score を用いた解析を行い,手術併用群,IMRT 併用群で生存率の改善が認められた6)。しかし,M1 前立腺癌に対する局所療法併用の有用性についてのエビデンスは十分には蓄積されておらず,現在進行中のEORTC-1201 等の臨床試験の結果が待たれる。

また,上記のいずれの報告も後ろ向きの報告や大規模データベースからの解析であり,適切な線量や照射範囲は明らかとはなっていない。

参考文献

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Sasaki T, Nakamura K, Ogawa K, et al;Japanese Patterns of Care Study Working Subgroup on Prostate Cancer. Radiotherapy for patients with localized hormone-refractory prostate cancer:results of the Patterns of Care Study in Japan. BJU Int. 2009;104:1462-6.(Ⅴ)
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CQ5
放射線療法後の二次発癌(膀胱癌,直腸癌)の治療法別発生リスクに違いはあるか?

治療法別に二次発癌発生リスクには違いがある。旧来の照射野の広い二次元照射や術後照射では,現在の高精度外照射や組織内照射に比べて二次発癌発生リスクが高い。

背景・目的

治療法の進歩や新規治療薬の登場等によって前立腺癌治療後の生存期間が長くなってきている。そのため,放射線療法後の二次発癌が問題視されるようになった。ここでは,放射線療法後の二次発癌のリスクを治療法別に検討した。

解説

前立腺癌に対する放射線療法後に発見される膀胱癌,直腸癌は臨床的に患者,治療者を悩ませる問題である。厳密には放射線照射による二次発癌とそれ以外の二次発癌を区別することは困難である。一般的に,放射線照射後の放射線による二次発癌は,照射5年以降に発生した照射野に起こるすべての癌と定義される。前立腺癌に対する放射線療法後の二次発癌について,大規模データベースおよび単一施設からの報告が多数ある。一般大衆や放射線療法を受けていない前立腺癌患者を対照としたものがあり,観察期間も5年,10 年を超えるものから,5年未満の短い観察期間のものまで様々である。また,手術症例と放射線療法症例の比較では,患者背景において年齢,併発疾患等(放射線療法群の方が高齢で併発病変も多い傾向がある)が異なり,単純に比較することには問題がある。さらに,手術,放射線療法を2群に分けたRCTの報告はなく,高いエビデンスに基づく二次発癌発生リスクに関する知見は存在しないのが現状である。

1973〜2005 年に治療された外照射群と非照射群の比較では,外照射群で直腸癌,膀胱癌ともに二次発癌発生率が有意に高いとする報告が多い1)。SEER データベースによるpopulation based cohort study(1988〜2003 年治療)では,手術と比較して外照射では,直腸癌発生率が5年以降で1.39 倍,10 年以降で1.79 倍と有意に高く,膀胱癌発生率も5年以降で2.26 倍,10 年以降で1.83 倍と有意に高かった2)。French Canadian population based cohort study(1983〜2003 年治療)による検討でも,5年目以降の膀胱癌,直腸癌の発生率は手術群と比較して,それぞれ1.5倍,1.9倍と有意に高い3)。ただし,これらの報告は旧来の照射野の広い時代の成績であり,高精度治療が普及している現在の症例にそのままあてはまるとは限らない。Huang らの手術群を対照としたmatched-pair analysis では,旧来の二次元照射群では直腸癌の発生率に差は認められなかったが,膀胱癌は発生率が2.97 倍高かったのに対して,3D-CRT およびIMRT 群では,直腸癌,膀胱癌ともに発生率に差を認めなかった4)

現在の高精度な3D-CRT やIMRT と手術症例との比較では,直腸癌,膀胱癌ともに二次発癌発生率に有意な差を認めないという報告が多くみられる5)。Huang らのmatched-pair analysis では,3D-CRT,IMRT,小線源療法,外照射併用小線源療法において手術との間に二次発癌発生率に差はなく,唯一,旧来の二次元照射において有意に二次発癌が多い結果であった(ハザード比:1.76)4)。ESTRO のシステマティックレビュー1)では,小線源療法(外照射併用を含めて)における膀胱癌,直腸癌の発生率について,非照射群と比べて差がないとする報告が多く,唯一,膀胱癌の発生率が小線源療法単独で1.64 倍,外照射併用で1.80 倍と有意に高かったという報告が1論文採用されている2)。ただし,これら高精度放射線療法や小線源療法の報告は10 年以上の長期経過観察による報告が少なく,検出力不足の限界があるのも事実である。

術後照射に関しては有意に二次発癌発生率が高いとする報告が多い1)。SEER データベース(1973〜2005 年治療)による検討では,手術,放射線療法のいずれも受けていない患者群を対照に,術後照射群は,膀胱癌の発生率が5年以降でハザード比:1.5,10 年以降でハザード比:1.94 と有意に高かった6)。同様にSEER データベース(1973〜2002 年治療)による手術単独群との比較でも,臓器別には記載されていないが,照射野内の二次発癌発生率が5年以降(ハザード比:1.82)で有意に高かった7)。術後照射の場合,前立腺床が対象になるため,本来,照射を避けるべき膀胱,直腸,尿道も照射野に含まれることが要因になる。

これまでの長期観察期間を有する報告は,旧来の照射法によるものがほとんどであり,現在の高精度放射線療法における二次発癌発生率については今後の報告を待つ必要があるが,標的臓器(前立腺)以外の正常組織への照射量を考えれば,外照射に比べて組織内照射野や粒子線治療の二次発癌リスクが低いことが期待される8)。しかし,放射線療法である以上,周囲組織への照射(低線量被曝)は避けられず,期待余命の長い若年者に関しては二次発癌のリスクを十分に説明することが肝要である。

参考文献

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CQ6
外照射の有害事象とその対策

推奨グレードA
外照射の主な有害事象は,消化管障害,尿路障害,性機能障害で,それらの発生頻度は照射線量の増加により高まる。
推奨グレードB
外照射の有害事象の予防には強度変調放射線治療(IMRT)を用いて直腸,膀胱,尿道球部への照射線量を低減させることが重要である。

背景・目的

これまでのRCT の結果より,より高い線量により癌の治療効果は向上することが示されているが,線量増加は有害事象により制限される1-6)

放射線療法の有害事象は3カ月以内に生じる急性のものと,それ以降の晩期のものとがある。主な有害事象は消化管障害,尿路障害,性機能障害であり,外照射においては特に消化管(特に直腸)障害が重要である。

有害事象の評価ツールは種々あり(RTOG, RTOG/EORTC, NCI-CTC, CTCAE 等),それぞれの報告で評価のツールが異なっていることがあるため注意を要する。

ここでは,外照射(光子線治療)による有害事象について述べる。外照射(粒子線治療),組織内照射については他項での解説を参考にしていただきたい。

解説

1 消化管有害事象

これまでのRCT の結果では急性のGrade 2 の消化管障害の頻度は7〜57%,Grade 3 以上は0〜6%,晩期について,Grade 2 は1.6〜33%,Grade 3 以上は1〜6%3)とされている。また,急性,晩期障害のリスク因子は,高齢,大きな直腸容積,腹部手術の既往,糖尿病,痔,炎症性腸疾患の合併である3)。また,急性の直腸障害の発生は晩期の直腸障害のリスクが高くなると報告されている3)

Kuban らは3D-CRT を用いた70Gy と78Gy での消化管有害事象の比較を行い,中央値8.7 年の経過観察においてRTOG Grade 2 以上の消化管有害事象の発生頻度は78Gy において約2倍高かった(28% vs 15%,p=0.013)としている5)。線量分布の検討において,直腸線量の減少が有害事象の減少につながっており,70Gy 以上の線量が直腸容積の26%未満であればRTOG Grade 2 以上の有害事象の発生頻度は14%であり,それ以上であると46%であったとしている5)。Peeters らは68Gy と78Gy での消化管有害事象の比較を報告しており7),晩期の直腸出血は高い線量でより高頻度で発生していた(p=0.007)。Matzinger らは70,74,78Gy を3D-CRT とIMRT で照射した検討(EORTC 22991)での急性の有害事象について報告している8)。78Gy までの線量増加は認容可能であり,CTCAE2.0 Grade 2 以上の消化管の急性有害事象は放射線照射法に影響され,IMRT では消化管有害事象の発生がより少なかったとしている8)

2 尿路有害事象

尿路の有害事象は発生しても,その症状はおよそ12 カ月で解消され,24 カ月で治療前の状態に戻るとされている。また,小線源療法に比較して,外照射では有意に尿路の有害事象が少ないとされ,外照射における尿失禁や他の重篤な尿路症状は稀である3)。治療前の尿路症状,経尿道的前立腺切除術(TURP),経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)の既往は尿路有害事象に影響を与える3)

Peeters らは68Gy と78Gy の比較を行い,有害事象について全体では変わらないが,晩期の尿路有害事象の発生は78Gy群でやや高かったとしている。3年でのRTOG/EORTC Grade 2 以上の尿路有害事象は68Gy 群では28.5%,78Gy 群では30.2%であった。Grade 3 以上はそれぞれ5.1%と6.9%であった7)

Zelefsky らはIMRT(81Gy)の7年の観察でNCI-CTC Grade 2 以上の尿路有害事象の頻度は9%,Grade 3 以上は3%であったとしている9)

3 性機能障害

勃起機能障害は放射線療法の有害事象の1つとされているが,前立腺全摘除術とは異なり,放射線療法では治療後すぐに生じる有害事象ではなく,長期にわたる評価の中で年齢によるものや,他の合併症等によって生じる可能性もあるため,評価は難しい3)。年齢,ホルモン療法の有無,治療前の勃起機能が重要な予測因子であり,糖尿病はリスク因子になるとされている3)

Mangar らは,64Gy または74Gy の3D-CRT(+3〜6カ月のホルモン療法)の報告で,2年後の勃起不全は33.3%に生じ,尿道球部でのD90>50Gy が有意な勃起機能障害のリスク因子となるとしている10)。van der Wielen らは68Gy と78Gy の比較において2,3年後の勃起機能障害の発生頻度は36%,38%で,照射線量による違いはなかったとしている11)

4 その他の有害事象

下肢,外陰部の浮腫や大腿骨頭壊死もあり得るが稀である2)

5 有害事象の対策

治療計画等により有害事象を予防すること,程度を軽減することが非常に重要であるが,生じた場合には対症療法が中心になる。

(1)消化管有害事象

特に直腸炎,直腸出血が重要な有害事象であり,一般的な対症療法でもコントロールが困難な場合には,直腸炎に対する高圧酸素療法12)や,直腸出血に対してアルゴンプラズマ止血術13)も考慮される。

(2)尿路有害事象

尿路の有害事象は軽度のものが多く,重症のものは稀であるが,対症療法でのコントロールが困難な放射線性膀胱炎には高圧酸素療法12)が考慮される。

(3)性機能障害

放射線療法に起因する勃起機能障害は血管障害によるものと考えられるので,その治療と予防にphosphodiesterase(PDE)5 阻害薬は有効である可能性がある。小線源療法においては早期にPDE5 阻害薬を用いることにより,長期にわたり勃起機能が良好であったと報告されている14)

6 前立腺全摘除術後アジュバント,救済放射線療法の有害事象

EORTC 22911 のRCT において術後アジュバント放射線療法(60Gy)または救済放射線療法で,Grade 2 または3 の晩期有害事象の頻度は4.2%であった15)としている。SWOG のRCT ではアジュバント放射線療法群は観察群と比較して5年間にわたり排尿回数がより多く,また2年間は腸管機能障害があり得た。しかしこれらの違いは全経過中には消失した16)

De Meerleer らは救済放射線療法の報告でIMRT を用いれば高い線量の照射が可能で,75Gy までは有害事象の頻度を上げることなく照射可能であったとしている17)

7 寡分割照射

最近ではより高い治療効率の可能性がある寡分割照射の試みがなされている18)

現状では1回線量2.5〜4Gy(中程度寡分割照射),または5〜10Gy(超寡分割照射)によるSBRT が選択され,前者の有害事象の頻度は通常の照射法と同様であるとされているが,後者では中〜高度の有害事象が10〜20%の頻度で生じるとされている。超寡分割照射は高度の有害事象が生じる可能性があるため,現状では臨床研究のもとでのみの使用に限られるとしている。

参考文献

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10 放射線療法(組織内照射)

総論

1 はじめに

最近の放射線療法技術の進歩から,より目標に限局させた照射を行うことで,有害事象を増加させることなく照射線量の増加が可能となり,癌治療における放射線療法の有効性が向上した2)。放射線療法にはいくつかの手法があるが,一般的に行われているものには,X 線等を用いた外照射(external beam radiation therapy;EBRT)と線源を組織内に入れて内から照射する組織内照射(小線源療法)がある。前立腺癌治療に用いられている組織内照射には,低線量率ヨウ素125 シード線源を用いた永久挿入密封小線源療法(low dose rate brachytherapy;LDR)と高線量率イリジウム192 線源を用いた高線量率組織内照射(highdose rate brachytherapy;HDR)の2通りの方法があるが,本邦ではLDR を実施する施設の方が多く,症例数もこちらの方が多い。LDR は低リスク症例や一部の中間リスク症例に対し単独での治療が行われることが多いが,高リスク症例に対してもEBRT やホルモン療法と併用することで高い有効性が得られている3-5)。HDR は 高リスク例に対し実施されることが多く,その場合はEBRT とホルモン療法の併用が一般的だが7),EBRT を併用せずHDR 単独での治療も積極的に行われている9)。組織内照射は放射線療法の1つの手法だが,その特徴は強度変調放射線治療(intensity-modulated radiation therapy;IMRT)等のX 線照射に比べて生物学的効果線量(biologically effective dose;BED)に換算した照射線量が高いことにあり,それにより高い治療効果が期待できる1011)。また,前立腺内に限局した照射が可能なことより,周囲の臓器での有害事象の発生を低く抑え,治療後のQOL を高く維持することも期待される。

2 永久挿入密封小線源療法(LDR)

ヨウ素125 シード線源を用いたLDR は,シード線源を永久的に前立腺内に留置することで照射を行う放射線療法で,本邦では2003 年に開始された。ヨウ素125 の半減期は59.4 日であり,1年経つと放出される放射線は無視できるほど低くなるが,その間は低量ながら体内から放射線が出ており,生活上の注意が必要となる12)。LDR は2015 年までに全国で34,000 例を超す治療がなされており,長期の成績も報告されてその有効性が示されている13)。LDR の有効性は低リスク症例において前立腺全摘除術(radical prostatectomy;RP)やEBRT と同等であることは以前から示されており14-16),当初この治療は低リスク症例に対する治療と考えられていた。しかしその後,EBRT やホルモン療法と併用することで中間リスク症例や高リスク症例に対する有効性が示され1718),LDR の治療適応が拡大されてきている。さらに,中間・高リスク症例に関しては,IMRT による高線量EBRT やRP に比べて全生存率に差がないものの,生化学的非再発生存率において優れているとする報告もみられ3),LDR が中間・高リスク前立腺癌の選択肢として認識されてきている。中間・高リスク症例に対してはEBRT の併用が推奨されているが,併用により高線量の照射が行われるため直腸や尿道での有害事象の発生が多くなることが懸念される1920)。LDR においてもEBRT 同様,ホルモン療法の併用は治療成績の向上に有用である可能性がある21)。特に高リスク症例におけるLDR,EBRT,ホルモン療法の3者併用療法は高線量の放射線療法にホルモン療法が加わり,良好な治療成績が期待できる171822)。しかし,ホルモン療法の使用方法や期間に関しては明確な基準が存在していないのが現状である。現在本邦で実施されているTrimodality with BT,EBRT,and HT for high-risk localized prostate cancer(TRIP)試験23)は,高リスク症例に対するLDR とEBRT の併用療法に対するホルモン療法の相加効果を検証するものである。

LDR は高線量の照射が前立腺に限局して行われるため,有害事象の発生率が低く,治療後のQOL を高く維持することが期待できる24)。LDR,EBRT,RP の治療後のQOL を比較した報告では,一般にLDRでは尿路症状としての尿意切迫感,頻尿が治療後のQOL を低下させ,EBRT では腸管症状としての肛門出血,RP では尿失禁がQOL を低下させる要因となっている25-27)。性機能に関してはいずれの治療法においても治療後低下するが,LDR において比較的性機能に関するQOL の低下が少ないとされている28-30)

3 高線量率組織内照射(HDR)

前立腺癌に対するイリジウム192 線源を用いたHDRは,本邦では1994 年から行われている。これは前立腺内に十数本の針を刺入し,遠隔操作式後充填装置(remote-controlled afterloading system;RALS)を用いてそれらを通し,コンピュータ制御下にイリジウム192 線源を前立腺内に短時間挿入して照射を行う。LDRが認可されてからは前立腺癌に対してHDR を実施する施設は本邦では多くないが,この治療は高線量の照射が可能であることより,最近では米国や欧州ではガイドライン等を作成して積極的に行われている3132)

この治療を受ける患者は治療の間,外筒針を会陰部から前立腺内に留置しておかねばならず,少なからず負担はあるが,それを軽減し,さらに治療効果を増強するため,最近では1回線量を増加させて照射回数を減らす傾向にある33)。EBRT を併用する場合には線量がさらに高くなるため,高リスク症例に対する有効性が期待されるが,一方で有害事象の発生が懸念される34)

4 LDR,HDR とEBRT の併用の方法と留意点

併用療法では単独療法に比べてより高いBED を目指すため,有害事象が増加する懸念がある。中間リスク症例を対象としたLDR とEBRT の併用療法の第Ⅱ相試験であるRTOG 0019 は,重篤な有害事象についての前向き多施設研究であり,長期的に重篤な晩期有害事象が予想よりも多かったと報告している19)。この試験のプロトコールは明示されているが,その遵守や線量体積因子と有害事象の関係については報告されていない。一方,上記の第Ⅱ相試験を含め,多数の第Ⅱ相試験において併用療法の安全性が報告されている1834-38)。このうち,LDR とEBRT の併用については第Ⅱ相,第Ⅲ相試験がある1835)

EBRT 併用のHDR における第Ⅱ相試験では組織内照射における尿道および直腸の線量制約を遵守することにより有害事象が減ることが報告され,1回線量の異なるスケジュール毎に遵守すべき線量制約がある3436-38)。HDR では数回にわたる治療のたびにアプリケーターが移動する問題があり,固定や治療毎の修正が重要であることが認識され,最近では組織内照射の治療回数を1回とする臨床試験がある38)

EBRT 併用のLDR において,有害事象を抑える目的で治療計画における線量制約は厳守すべきであるが,術後評価の線量は必ずしも計画時と一致しない。術後評価において直腸線量が十分に制約された例では,併用療法においても有害事象が明らかに少ないことが本邦の大規模な前向きコホート研究で確認されている39)。また,併用するEBRT の線量を44Gy と20Gy で比較した第Ⅲ相試験では,両群に毒性や再発の差を認めなかった3540)。この試験では,LDR の質が高く,術後評価における前立腺線量が十分に高い場合にはEBRT 線量の寄与は少ないと考察されている。EBRT 線量を比較した唯一の臨床試験であり,小線源療法を先行してEBRT を追加する場合には,術後線量評価を勘案してEBRT の線量を調整することは安全面から許容され得る。また,最近はEBRT の技術が向上しており,IMRT や画像誘導放射線治療(image-guided radiotherapy;IGRT)の技術を併用療法に応用し,正常臓器の線量制約により有害事象を軽減できるという報告がある4142)。なお,EBRT の線量は40〜50Gy が一般的であり,照射野は前立腺および精囊に限局する場合と骨盤照射を用いる場合があり,併用療法の照射野について比較したデータは不足している。

LDR とEBRT の併用療法はこれまでの臨床試験の結果を十分に吟味し,適応を予後不良な患者群,すなわち高リスクおよび一部の中間リスク症例までに限定することが推奨される。各照射法の技術や線量制約,併用の方法については,報告されている臨床試験の方法や結果を参考にしたうえで,有害事象に注意して慎重に実施することが推奨される。

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CQ1
永久挿入密封小線源療法の治療成績は他の治療と比べてどのような優位点があるか?

推奨グレードC1
永久挿入密封小線源療法(LDR)は低リスク症例においては前立腺全摘除術と同等の生化学的非再発率が得られる。また,リスクが高くなるにつれて前立腺全摘除術よりも良好な生化学的非再発率が期待できるが,全生存率の優位性に関しては明確なエビデンスはない。
推奨グレードB
LDR は,高線量のEBRT と比較して全生存率には差がないものの,長期的により良好な生化学的非再発率が得られる。

背景・目的

LDR は放射線療法の一手法だが,その特徴はBED に換算した照射線量が高いことにあり,良好な治療成績が期待できる。このような前立腺癌シード治療が,他の一般的な治療法であるRP もしくはIMRT 等のEBRT に比べて,治療成績の面でどのような優位点があるかについて検討する。

解説

治療を選択する際の重要な要素は有効性と安全性になるが,有効性を評価する指標としてよく用いられるものが治療成績となる非再発率,全生存率である。全生存率は最も重要な指標だが,それが同等であっても救済療法を必要としない経過の方が望ましく,そこで非再発率も重要な指標になってくる。

LDR は良好な治療成績が示されており,最近の海外の報告では全生存率が5年93.7%,10年76.1%,生化学的無再発生存率が5年91.9%,10年81.5%とされ1),他の低・中間リスク症例のみにおける報告では,全生存率が10 年83.5%,生化学的無再発生存率が10 年94.1%とされている2)。本邦の報告においても全生存率が5年96.7%,10年89.8%,生化学的無再発生存率が5年95.4%,10年90.7%とされている3)。海外のリスク分類別のLDR 単独治療の報告では,15 年生化学的無再発生存率は低リスク症例85.9%,中間リスク症例79.9%,高リスク症例62.2%であった4)。本邦の報告では10年 生化学的無再発生存率は低リスク症例98.2%,中間リスク症例87.8%,高リスク症例78.6%となっているが3),この報告では中間リスク症例の一部と高リスク症例はEBRTが併用されている。高リスク症例においてはLDR 単独では再発率が高く5),American Brachytherapy Society(ABS)においてもEBRT との併用が推奨されている6)

1 RP との比較

治療の効果を比較するうえで無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)は不可欠なものだが,LDR に関するRCT はほとんど存在しない。Gibertiら7)のLDR とRP のRCT の報告では,低リスク症例において5年生化学的無再発生存率はLDR が91.7%,RPが91.0%と同等であった。Fisher ら8)の低・中間リスク症例において比較した報告,あるいはColberg ら9)の低・中間・高リスク症例において比較した報告においても,LDR とRP で5年生化学的無再発生存率に有意差はなかった。Peinemann ら10)は31 編の治療成績を比較した論文をまとめているが,LDR とRP を比較した16 編のうち3編において生化学的無再発生存率に有意差がみられ,3編ともにLDR の方が有意に成績良好であったとしている。Crook11)は最近の中間・高リスク症例のLDRとRPの治療成績に関する論文を抽出し結果を検討しているが,EBRT 併用を含めたLDR の成績の方が優れているとしている。本邦の林ら12)の低・中間リスク症例に関する報告では,LDR とRP で全生存率に差はなかったが,生化学的無再発生存率においてはLDR が優っていたとしている。

2 EBRT との比較

Zelefsky ら1314)は低・中間リスク症例においてLDR と高線量IMRT(低リスク症例81Gy,中間リスク症例86.4Gy)の治療成績を比較しているが,7年生化学的無再発生存率においてともに有意にLDR の結果が優っていた。Smithら15)が膨大なデータベースから解析を行った結果,LDR とEBRT の比較において,低リスク症例,中間リスク症例のいずれにおいてもLDR の方が生化学的無再発生存率において優れていたが,全生存率は同等であったとしている。Peinemann ら10)の31 編の治療法による治療成績を比較した論文のまとめでは,LDR とEBRT を比較した15 編のうち3編において治療成績に有意差がみられ,3編ともにLDR の方が有意に成績は良好であったとしている。一方,Norderhaugら16)は治療法による治療成績の比較を行った論文を4編抽出し,LDR とEBRT を比較した3編では5年生化学的無再発生存率において両治療法間に差がなかったとしている。Morris らは中間・高リスク症例に対してLDR と高線量EBRT の多施設共同RCT を行っている。そこでは中間リスク症例, 高リスク症例ともに全生存率には差がないものの,長期的にLDR の方が生化学的再発率が有意に低いことが示された17)

LDR,EBRT,RP の3つの治療法を比較したものでは,8年生化学的無再発生存率において3つの治療法の間に差はないが,全生存率ではLDR>RP>EBRT,臨床的非再発生存率ではRP>EBRT>LDRのようになり,有意差があったとする報告18)や,臨床病期T1〜T2 では3つの治療法ともに生化学的無再発生存率に差がなかったとする報告19)等がみられる。また,少し前の報告では高リスク症例ではEBRT とホルモン療法の併用が最も成績良好とするものがみられる2021)。Grimm ら22)は様々な治療法での前立腺癌根治的治療の成績を報告した文献18,000 編以上の中から一定の基準に見合った文献を抽出し,その成績をリスク別に比較している。そこではすべてのリスクにおいて,EBRT 併用例も含めてLDR の成績が最も良好であり,リスクが高くなるにしたがってEBRT やRP との差が顕著になっている。

3 まとめ

LDR,EBRT,RP を比較したRCT はほとんどなく,各治療法の優位性に関するエビデンスを得るのは難しい。前立腺癌は経過が長く治療結果が得られるまでに時間を要する。したがって,新しい論文であっても実施された治療が一時代前の質の低い治療であった可能性があり,論文によるエビデンスが最新の治療実態に追いついていない可能性がある。LDR においては最近,高リスク症例でEBRT や一定期間のホルモン療法を併用して治療成績が向上している。EBRT においても最新の技術による高線量照射で治療成績が向上し,RP においてもロボットの導入により同様の期待がある。今後これらの新しい治療による成績が得られることで,これまでのエビデンスが変わってくるものと考えられる。

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CQ2
永久挿入密封小線源療法と外照射とホルモン療法の3者併用療法はどのような患者に推奨されるか?

推奨グレードC1
高リスク症例に推奨される。ただし一部にホルモン療法の必要ない患者群が存在し得る。くわえて,中間リスク症例の一部にも適応があるが,明確な基準はない。

 

背景・目的

LDR の適応は低リスク症例に始まり中間リスク症例,さらに高リスク症例まで広がってきた。適応拡大とともにLDR にEBRT やホルモン療法を組み合わせた2者併用療法あるいは3者併用療法が使われはじめている。ただしLDR はEBRT に比べて格段に高い線量が投与される特徴をもっており,それによってEBRT 併用やホルモン療法併用を一部の患者群で省略できる可能性がある点に注意が必要である。

National Comprehensive Cancer Network(NCCN)のガイドラインでは高リスク症例に関しては比較的明確に基準が示されており長期ホルモン療法の併用が推奨されている。ただしLDR とEBRT の併用の場合はホルモン療法を省くことも可能とされている。一方で中間リスク症例での基準は明確ではなくLDR 単独,LDR とEBRT の併用あるいは短期ホルモン療法,さらに3者併用療法のすべてが選択可能とされている。

解説

1 EBRT 併用について

 中間〜高リスク症例にEBRT を併用する主な目的は局所の線量増加と被膜外浸潤への対応だが,治療成績に強く相関するのは前者とされている1)。一方でLDR 単独でも十分な高線量投与が可能とする意見もあり,少なくとも中間リスク症例に関しては単独治療でも決して悪い成績ではない3)。EBRT の併用は有害事象の増加4-6)につながるので必要のない併用は省くべきであるが,どこで線を引くか明確なエビデンスはない。中間リスク症例におけるEBRT 併用の是非に関しては,RTOG 0232 で現在検証中である。

2 ホルモン療法併用について

 放射線療法(EBRT)におけるホルモン療法併用の有効性については複数のRCT8)で証明されており,ホルモン療法の期間についても少なくとも高リスク症例は短期(4〜6カ月)よりも長期(2〜3年)に用いるべきとされている9)。LDR は放射線療法の一種であるため,上記RCT の結果は取り入れるべきであろう。一方でホルモン療法を併用することで他因死(特に心疾患)の増加やQOL 低下等が指摘されており10),省略が可能であれば患者の利益は大きい。LDR では中間〜高リスク症例であってもホルモン療法の上乗せ効果がなかったとする報告が多く11-13),特に十分な高線量が投与された症例ではホルモン療法省略の可能性が残されている。LDR±EBRT でどのリスク症例まで長期ホルモン療法が必要か,本邦で進行中の多施設共同研究Seed and Hormone for Intermediate-risk Prostate Cancer(SHIP)14)およびTRIP15)試験の結果が待たれる。

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CQ3
永久挿入密封小線源療法はQOL 保持の点で推奨されるか?

推奨グレードB
尿禁制等の排尿機能の保持において,前立腺全摘除術よりも優れており,EBRT とは同等である。

 

推奨グレードC1
性機能の保持において,治療後早期は前立腺全摘除術よりも優れており,EBRT とは同等である。

 

背景・目的

前立腺癌に対する根治的治療法として,従来の外科的摘除術に加え,高精度放射線療法であるヨウ素125LDR やIMRT の普及が進み,本邦でも標準治療として定着したといえる。このように根治的治療法が多岐にわたる中,各根治的治療法の癌制御率のみならず術後のQOL に関しても主治医ならびに患者自身が把握しておくことは,治療選択の観点からも大切な点である。

またQOL の評価についても,Short Form-36(SF-36),European Organisation for Research and Treatment of Cancer(EORTC)QLQ-C30,UCLA Prostate Cancer Index(UCLA-PCI),Expanded Prostate Cancer Index Composite(EPIC)等に代表される各QOL モジュールが作成され,それぞれ日本語版が確立されたことで,日本人における各治療法後のQOL も明らかになってきている。このような背景の中,LDR における治療後のQOL 比較として,根治的RP ならびにEBRT との違いについて検討を行い,特にQOL の相違が認められる排尿機能・尿失禁,性機能を中心に解説を行う。

解説

1 排尿機能・尿失禁について

術後の尿禁制を含めた排尿機能については,非転移性前立腺癌を対象としたRP とLDR における治療後のQOL を比較検討した第Ⅲ 相RCT(Surgical Prostatectomy Versus Interstitial Radiation Intervention Trial(SPIRIT))が代表的なものとして挙げられる1)。この検討は,EPIC,Short Form 12 Physical Component Score (SF-12 PCS)ならびにShort Form 12 Mental Component Score(SF-12 MCS)を用いた治療後5年(中央値5.2年)の評価において,消化器とホルモンのドメインに関しては両群間に差を認めなかったものの,排尿機能に関してはLDR がRP よりも有意に優れており,排尿機能の患者満足度に関してもLDR が同じく優れている結果が報告されている。

他のRP,LDR,EBRT を比較した大規模な前向きコホート研究においても2),EPIC-26 とService Satisfaction Scale for Cancer Care(SCA)を用いたQOL 評価にて,RP は術後2カ月の時点でLDR やEBRT との比較において尿失禁が最も悪化しており,術後早期を含めた尿禁制におけるLDR の優位性が確認されている。この結論は,他の複数にわたるコホート研究でも同一の結論が認められている3-11)

2 性機能について

前述のSPIRIT1)での検討において,LDR の性機能はRP よりも優れており,勃起の有無やその硬度,勃起の頻度や性行為の可否等の項目において,LDR の優位性が認められている。また他のUCLA-PCI を用いたロボット支援前立腺全摘除術や凍結療法を含めた前向きコホート研究においても12),LDR は早期にベースラインの性機能に回復することが確認されている。しかしながらRP においても,両側の神経温存を行うことによってLDR との性機能における格差は小さくなることが確認されている8)。ただし,治療前に併存疾患を有する症例の性機能においては,RP ならびにLDR の両群ともに不良であり,治療方法のみならず複合的な因子が関与することも考慮する必要がある13)

参考文献

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CQ4
高線量率組織内照射の単独治療はどのように行われるか?
またどのような患者に推奨されるか?

推奨グレードC1
高線量率組織内照射単独治療にはコンセンサスを得た統一的な線量分割がなく,1回線量6〜20Gy,総線量19〜54Gy,分割回数1〜9回,治療日数1〜5日,刺入回数1〜3回の報告があり,世界的な傾向として,より寡分割,1回大線量,短期治療になりつつある。

 

推奨グレードC1
高線量率組織内照射単独治療は,低〜中間リスク症例がよい適応とする考え方と,中間〜高リスク症例まで積極的に適応に含める考え方の2つに分かれている。EBRT よりも短期間で治療を終了したい患者や,LDRではEBRT併用が必要かもしれない中間〜高リスク症例で十分な線量増加を図りたい患者に推奨される。

 

背景・目的

前立腺癌に対する組織内照射(小線源療法(brachytherapy))は,低線量率線源を用いた永久挿入法(LDR)から始まった。LDR 単独治療は低リスク症例に対して成績良好であったが,中間〜高リスク症例に対してはEBRT 併用LDR も行われるようになった。一方,RALS の開発により高線量率線源の一時挿入法(HDR)も始まり,EBRT 併用HDR がまず行われた1-3)。その後,HDR 単独療法が始まった4-9)

HDR では,前立腺被膜外までアプリケーター針を留置して,被膜外浸潤部位,精囊,膀胱頸部まで高線量を投与可能である。移動線源の停留時間を調節して,線量分布を均一化したり尿道線量を低減し得る放射線物理学上の利点がある。α/β値の小さい前立腺癌は,1回線量を上げて分割回数を減らす(寡分割照射)とBED が高くなることが知られており,元々1回線量の大きいHDR は放射線生物学上も有利である。HDR は理論上極めて優れた照射法であり,臨床結果が注目されているが,現状では臨床試験参加施設あるいは十分な経験のある施設で行うべきである1-3)

解説

HDR 単独治療の線量分割は,大阪大学4)における6Gy×8〜9回(現在は6.5Gy×7回)を皮切りに,米国6)で9.5Gy ×4回,ドイツ7)で11.5Gy ×3回,英国8)で13Gy ×2回等,より寡分割な照射が次々に行われ,遂には19Gy×1回9)の照射も登場している。2015 年のNCCN ガイドラインに収載されている線量分割は13.5Gy×2回6)である。

HDR 単独治療の長期成績はまだ少なく,中央値8年の報告が最長である4)。5年生化学的制御率は低リスク症例85〜99%,中間リスク症例93〜94%,高リスク症例81〜93%とされる7)。有害事象は,EBRT 単独と比較すれば,一般に直腸障害が少なく尿路系の障害がやや多い。Grade 3 以上は5%未満とする報告がほとんどである10)

HDR 単独治療の適応として2つの考え方がある。1つは,LDR のスキームに倣って低〜中間リスク症例を単独治療の適応とし,中間〜高リスク症例はEBRT 併用とする考え方である9)。もう1つは,HDR では被膜外まで十分に治療域に含められることから,中間〜高リスク症例も単独治療の積極的な適応とする考え方である8)

また,上記は根治的治療としての適応を述べたが,EBRT 後の生化学的再発に対する救済療法として,あるいはfocal therapy(根治的治療や救済療法も含め)として,今後HDR 単独治療が適応となる可能性がある。

参考文献

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11 Focal therapy(凍結療法,HIFU)

総論

1980 年代に前立腺癌に対するPSA 検査が広まると,1992 年のピーク以降,前立腺癌死亡率は減少に転じているものの,その過剰診断や過剰診療の問題点が指摘されている。低リスク限局性前立腺癌に対しては,制癌効果と治療毒性のバランスを鑑み,監視療法・待機療法やfocal therapy といった根治的治療以外の治療介入の可能性が議論されている。

2006 年2月24 日,米国フロリダで2006 Consensus Conference on Focal Treatment of Prostatic Carcinomaが開かれた1)。ここではfocal therapyは“Individualized treatment that selectively ablates known disease and preserves existing functions, with the overall objective of minimizing lifetime morbidity without compromising life expectancy” と定義されている。また2007 年12 月にInternational Task Force on Prostate Cancer and the Focal Lesion Paradigm からのfocal therapy に関するレビューが報告され2),この中では“targeted ablation of a limited area of the prostate expected to contain the dominant or only focus of cancer” と定義されている。また,Transatlantic Consensus Group on Active Surveillance and Focal Therapy for Prostate Cancerでは“Focal therapy is an emerging tissue preservation strategy that aims for treat only areas of cancer” と報告されている3)。すなわち,focal therapy とは前立腺内の臨床的に有意な癌病巣を非侵襲的な方法で治療することであり4),前立腺全体への治療が前立腺癌に対する唯一の治療であるという従来の考え方とは異なっている。

従来,固形癌に対しては臓器全体を摘出する根治手術が行われてきた。しかし,臓器温存手術であっても制癌効果に差がみられないことから,乳癌,腎癌等の癌種では,部分切除術も標準治療となっている。Focal therapy の選択について,International Task Force on Prostate Cancer and the Focal Lesion Paradigmでは以下の条件を満たすことを推奨している2)

  1. ①治療域全体の前立腺癌の状態が明らかであること
  2. ②治療中のリアルタイムなモニタリングが可能であること
  3. ③前立腺に経皮あるいは経直腸,経尿道からアプローチ可能であること
  4. ④主病変に対して治療を行う。性機能,排尿機能,排便機能に最小限の影響であること
  5. ⑤廉価であること
  6. ⑥再治療可能であること
  7. ⑦根治手術や放射線療法等の前立腺全体への治療が,有害事象を増やすことなく可能であること

Focal therapy には無治療領域があるため,そこに臨床的に意義のある癌が存在した場合,不完全治療に陥る可能性があり5),適応,再発の定義,経過観察方法等,いくつかの確立すべき問題点がある。

適応症例は臨床データ,生検の結果,画像診断から低リスク限局性前立腺癌と診断されなければならない2)。International Task Force on Prostate Cancer and the Focal Lesion Paradigm から推奨されたfocal therapy の適格基準はcT1 or cT2a,PSA<10ng/mL,PSA 濃度(PSA density)<0.15ng/mL/mL,PSA 年間増加度(PSA velocity)<2ng/mL/年である3)

それに対して2006 Consensus Conference on Focal Treatment of Prostatic Carcinoma1)での適格基準は,年齢下限はなし,最低期待余命5年以上が望ましい,cT1~cT3,PSA<15ng/mL,遠隔転移症例は絶対的禁忌だがリンパ節転移症例は比較的禁忌である,PSA 倍加時間(PSA doubling time)・PSA density・Gleason スコアは影響しないとなっている。さらに2015 年に「European Urology」に報告されたコンセンサスパネルの結果では,NationalComprehensive Cancer Network(NCCN)分類の中間リスク症例に対しては多くの専門家がfocal therapy の対象と考えているが,低リスク症例に対しては意見が分かれた6)

このようにfocal therapy の適応基準は,泌尿器科,病理,放射線科のオピニオンリーダーを揃えたとしても見解が大きく異なる。すなわちいまだ確立されていないことの証であり,早急な確立が必要と考えられる。

治療効果判定および再発進展の定義については,最小限,残存腫瘍と治療効果判定のための多箇所生検,治療効果判定のための画像診断,他のデータとの対比,排尿機能・排便機能・性機能への影響,生化学的あるいは臨床的再発と再治療,そしてQOL の項目は治療効果判定に含むべきと推奨されている2)。しかし具体的な基準はいずれも確立していない。

Muller らはDelphi consensus project によるfocal therapy 後の具体的な経過観察法について提言を報告している7)。PSA 検査,multiparametric MRI,前立腺生検に,排尿機能および性機能に対するアンケート調査も組み込んだ5年間の経過観察を推奨しており,興味深い。

またfocal therapy 後に再発進展をきたした場合の後治療についても根治的治療を必要とするのか,その他の治療選択の可能性についても十分な検討がなされていない。

将来のfocal therapy の成功に関する重大な要素は,信頼できる前立腺画像診断の確立である。画像診断には,正確な前立腺内癌局在診断のみならず治療効果判定も要求される。Focal therapy を可能とするために理想的な画像診断は,高い感度,高い再現性をもって前立腺内癌病巣を描出可能であること,簡便性,非侵襲性と低コストであることが必要であるといわれている4)

Mendez らは総説の中で,focal therapy の臨床試験が2006 年以降毎年増えつづけていることを示している8)。前立腺癌に対する過剰診療を防ぐためにfocal therapy が有用であるという認識も広まりつつあり,新しい診療機器の開発を含め,問題点の解決に向けた取り組みが進められている。

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CQ1
低リスク限局性前立腺癌に対してfocal therapy は推奨されるか?

推奨グレードC1
Focal therapy は,MRI 所見に基づいた生検,あるいはテンプレート生検により癌の局在診断が行われた低リスク限局性前立腺癌に対する治療選択肢の1つとなる可能性がある。

 

背景・目的

Focal therapy は,根治的治療と監視療法の中間に位置する治療概念と考えられ,患者の予後に影響すると考えられる癌病巣を治療する一方,正常組織を可能な限り温存し,癌治療と患者の機能温存を両立することを目的とする。この項では,低リスク限局性前立腺癌に対してfocal therapy は推奨されるか検討した。

解説

Focal therapy は,患者の予後に影響すると考えられる癌病巣を治療する一方,正常組織を可能な限り温存し,癌治療と患者の機能温存を両立することを目的とするものである。このため,MRI 所見に基づいた生検1)や,テンプレート生検2)により診断された臨床的に意義のある癌の空間的局在や悪性度3)に基づいて治療が行われる。一方,局在診断が困難な系統的生検4)により診断された前立腺癌症例は,患者選択基準から除外される5)

これまでに,focal therapy は,主に低・中間リスク限局性前立腺癌症例に対して,高密度焦点超音波療法(high-intensity focused ultrasound;HIFU)6-9),凍結療法10-13),小線源療法14)等を用いて行われてきた。治療成績としては,治療後6〜12 カ月後に行われた前立腺生検における臨床的に意義のある癌検出率は0〜10%7-9,13),全生存率は97.7〜100%6-101314),癌特異的生存率は97.7〜100%6-101314)と報告されている。また,治療法別では,HIFU 後の2年生化学的無再発生存率(低リスク症例のみ)は83.3%6),HIFU あるいは凍結療法後の3年生化学的無再発生存率は75.7〜95%9,1012),小線源療法後の5年および8年生化学的無再発生存率は91.5〜 91.9%および78.1〜86.2% 14)と報告されている。一方,これまでの治療成績は,American Society for Radiation Oncology(ASTRO)definition,Phoenix ASTRO definition,Stuttgart definition を用いた生化学的無再発生存率により評価されてきたが,focal therapy では症例毎に異なる体積の正常組織が温存され,さらに正常組織内に前立腺肥大症や慢性前立腺炎等のPSA 値を上昇させる組織が残存する可能性もあることから,前立腺生検やMRI を利用した正確な治療効果判定方法の確立が期待されている15)

限局性前立腺癌に対するfocal therapy は,これまでの報告から,低リスクおよび一部の中間リスク限局性前立腺癌の治療選択肢の1つとなる可能性があり16),今後,さらに多くの症例の長期成績の集積が望まれる。

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CQ2
限局性前立腺癌に対してQOL を保つことを目的にfocal therapy は推奨されるか?

推奨グレードC1
根治手術の適応にならない,あるいは希望しない限局性前立腺癌に対しては,治療の限界を十分に理解したうえで,症例によってはQOL を保つことを目的にfocaltherapy が推奨される。

 

背景・目的

限局性前立腺癌に対する治療選択において,治療後に予想されるQOL の変化は,患者が治療選択するうえで重要な因子の1つである2)。さらに前立腺癌は根治的治療後の期待余命中央値が13.8 年3)と報告されているように,治療開始後も長期間にわたりQOL を保てることが患者にとって極めて重要である。前立腺癌に対する治療でQOL を損なう多くは排尿機能,性機能,直腸機能であり,この3つを長期間,患者の負担および負担感なしに保持することが必要となる。しかし現状では,標準治療後に十分なQOL を保つことが可能であるとは言い難い。たとえば治療15 年後の尿禁制については,根治的前立腺全摘除術で18.3%,根治的放射線療法で9.4%の患者がコントロールできず,性機能については,根治的前立腺全摘除術で43.5%,放射線療法で37.7%の患者が性機能障害で悩んでいる4)。UCLA Prostate Cancer Index(UCLA-PCI)を用いたQOL の評価では,ロボット支援下,腹腔鏡下いずれの根治的摘除術であっても,3年経過しても術前の値には戻らない5)。Focal therapy は正常組織部分に対する治療侵襲を避けることが目的の1つであり,自ずと治療後のQOL が保たれることが期待されている。

解説

CQ1 で詳しく述べたが,focal therapy そのものが理論が先行し十分な評価がいまだ行われていない治療法である。したがってfocal therapy 後のQOL を評価した報告数も少なく,さらに症例数も極めて限られる。

HIFU によるhockey stick ablation(n=29)後に国際前立腺症状スコア(IPSS),UCLAPCI のurinary function とurinary bother を用いてQOL を評価した報告では,治療6カ月後,12 カ月後にfocal therapy 施行群と全体照射群の間で有意差を全く認めなかった6)。また,HIFU によるhemi ablation(n=20)後のQOL を術前と比較した報告7)では,国際勃起機能スコア(International Index of Erectile Function;IIEF)-15 およびEPIC urinary incontinence score が術後6カ月までは有意な低下を示さず,IPSS は術後6カ月目で術前よりも有意な改善を認めた。さらにHIFUによるlesion targeted focal therapy(n=41)後のQOL 評価では8),IIEF-15,EPIC urinary incontinence score いずれも術後に低下するが,術後12 カ月で術前と有意差を認めなかった。また凍結療法では,hemi ablation(n=73)後のIIEF-5 の比較で,術前中央値22 から1年後中央値17,2年後中央値19 と改善した9)

いずれの報告も100 例未満と症例数が少なく,focal therapy の具体的な方法(対象,治療方法)が異なり,経過観察期間も1〜10 年と十分ではない。したがってfocal therapy 後にQOL を保つことができるかどうかを検討する十分な根拠がない。もちろん,限局性前立腺癌に対する治療選択はQOL の評価だけで決定するわけではない。あくまで癌治療の一部であり制癌効果の期待および評価を除外することはできない。したがって前立腺癌の状態と治療の意義,および治療後に予想されるQOL を十分に理解したうえで,患者および医療者によるshared decision making が必要となる。

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12 救済療法:根治的治療(手術・放射線)後の再発治療

総論

限局性前立腺癌に対する根治的前立腺全摘除術や根治的放射線療法後には,一定の頻度で再発が生じるが,再発診断の定義は先行治療により異なる。一方,再発症例にはその後の適切な治療によりsecond cure に持ち込める症例も少なくない。したがって,適切な再発の定義や診断法の確立は極めて重要である。

一般にいずれの根治的治療でも経過観察にはPSA 測定は必須であり,PSA 値のみの上昇を生化学的再発,画像診断や組織学的検査で再発部位を同定できるものを臨床的再発として区別している。

1 根治的前立腺全摘除術後の再発

根治的前立腺全摘除術後の生化学的再発について,『前立腺癌取扱い規約第4版』では,“ 根治手術後の生化学的再発に関して,術後1ヶ月以上経過した時点のPSA が<0.2ng/mL である場合,PSA 再発無しとする。その後の経過で2〜4週あけて測定したPSA 2回連続して≧0.2ng/mL となった場合はPSA 再発と判定し,初回の変化日を再発日とする。術後一度もPSA が<0.2ng/mL に下降しなかった場合は,手術日の時点で再発とする”と定義されている1)。2013 年のAmerican Urological Association(AUA)および2015 年のEuropean Association of Urology(EAU)ガイドラインにおいても同様の生化学的再発定義を推奨している。しかし,時に生化学的再発と診断した後,PSA 値の上昇のみで臨床的再発に至らない症例が存在する。また,カットオフ値を0.4ng/mL とした場合,転移発現との相関がより高まること2),0.5ng/mL 未満で二次治療を開始すればアジュバント放射線療法(adjuvant radiation therapy;ART)と比較して転帰に差がないこと3)等から,実際の二次治療は0.4〜0.5ng/mL から開始されることが多い。

生化学的再発の場合,病巣が局所なのか遠隔臓器なのかを同定することは現時点では困難である。術前および生化学的再発時のPSA 値,PSA 倍加時間(PSA doubling time;PSADT),さらにGleasonスコア,断端陽性,精囊浸潤,リンパ節転移の有無等の摘除組織所見等から総合的に両者を鑑別する4)。局所再発単独であれば救済放射線療法(salvage radiation therapy;SRT)でsecond cure が期待される。SRT の照射線量については,70Gy までは安全に照射が可能とされているが5),より高い照射線量による有害事象については解明されていない。SRT の有効性が期待しにくい場合,あるいはSRT 後にもPSA 値の低下が認められない場合は救済ホルモン療法(salvage hormone therapy;SHT)が検討される。さらに,SRT とSHT の併用,ドセタキセルを中心とする抗癌剤とSHT の併用療法等も治療オプションとなるが,今後の臨床研究の結果が待たれる。

2 根治的放射線療法後の再発

生化学的再発の定義に関しては, 以前はAmerican Society for Radiation Oncology(ASTRO)が提唱したPSA 値の3回連続の上昇を再発とする定義6)が用いられた。しかし,ホルモン療法中止の影響や観察期間の影響がある等の問題が指摘され,2005 年,治療後PSA最低値から2.0ng/mL 以上の上昇を生化学的再発とするPhoenixの定義が提唱され,現在広く用いられている7)。根治的放射線療法後にはPSA 値が一過性に上昇するいわゆるPSA バウンスを少なからず認めることが知られている9)。しかし,PSA バウンスの定義は定まったものがなく,放射線単独外照射,永久挿入密封小線源療法のいずれでも起こるとされている。Phoenix の再発定義に抵触するPSA バウンスはいずれの照射法においても5%程度発生するため,慎重な経過観察が必要である。

生化学的再発に対して,経過観察あるいはホルモン療法が選択肢となる。これらの症例の転移出現および前立腺癌死までの期間の中央値はそれぞれ5.4 年,10.5 年と報告されており10),過剰治療を避ける目的で治療開始のタイミングも重要である。PSA<10ng/mLでSHT を開始した方が全生存率を延長するとの報告11)が多いが,生検Gleason スコア8〜10,前立腺癌診断時臨床病期T3b〜4,生化学的再発時のPSADT<3カ月,治療から再発までの期間<3年の転移出現リスク因子を有さない症例では経過観察は有力な選択肢となる10)

臨床的再発のうち,局所再発の診断法については一定のコンセンサスは得られていない。MRI の特異度はやや高いものの,感度が低いという欠点をもつ12)。前立腺生検については,救済前立腺全摘除術を行う前には施行することが推奨されている。しかし,組織変性により治療後2年間は癌の活動性を診断することが困難との報告13)があり,適切な生検時期についてコンセンサスは得られていない。局所再発に対する方針として,経過観察,ホルモン療法,前立腺全摘除術,凍結療法,組織内照射,高密度焦点式超音波療法(high intensity focused ultrasound;HIFU)が挙げられるが,特に強く推奨される救済療法はない。救済前立腺全摘除術の腫瘍制御は比較的良好で,10 年生化学的無再発生存率,癌特異的生存率,全生存率はそれぞれ28〜53%,70〜83%,54〜89% である14)。しかし,手術合併症は吻合部狭窄7〜41%,直腸損傷0〜28%,尿失禁は21〜90%,勃起障害はほぼ全例に認められるとの報告14)があり,これらはいずれも初期治療としての根治的前立腺全摘除術よりも高率である。ロボット支援前立腺全摘除術でも吻合部狭窄,尿失禁,勃起障害は同様に生じるが,開放性手術と比較し直腸損傷のリスクは低下する15)

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CQ1
前立腺全摘除術後の再発様式と定義は?
また,根治的前立腺全摘除術後再発の早期発見のためにPSAの定期モニタリングは推奨されるか?

 

推奨グレードB
根治的前立腺全摘除術後の再発様式は,局所再発を生じていく場合もあれば,遠隔転移として進展をきたす場合もある。根治的前立腺全摘除術後再発の早期発見のためには,PSA 値の定期的なモニタリングが最も重要な診断法で,生化学的再発に関するPSA カットオフ値は0.2ng/mL とするのが妥当である。

背景・目的

根治的前立腺全摘除術後の再発に関して,その特徴を明らかにするとともに,適切な再発定義について検討する。

解説

限局性前立腺癌に対する根治的前立腺全摘除術後の再発は,一般的にはPSA 値の持続的な上昇を最も鋭敏な変化と捉え,直腸診や画像検査等で認められる臨床的再発の前に再発診断が行われている。このような再発は生化学的再発(biochemical recurrence)あるいは単にPSA 再発(PSA recurrence)と呼ばれている。PSA 測定キットの臨床利用が始まって間もない1990 年前後の症例においては,稀にPSA 値が検出できないレベルで再発・転移が起こり得ることが,未分化型の腫瘍等で指摘されていた2)。PSA 検査の普及と検査技術の進歩に伴い,大規模な症例数での臨床研究が行われるようになった近年の報告では,PSA 値の上昇のない臨床的再発はほぼないと考えられている3-6)。必ずしも,直腸診や画像検査の有用性を否定するわけではないが,根治的前立腺全摘除術後再発の早期発見のためには,PSA 値の定期的なモニタリングが最も重要な診断法である。

生化学的再発をきたした場合,その意味するところが局所再発であるのか,遠隔転移であるのかは議論のあるところである。たとえば,生化学的再発に対するSRT によりPSA 値が下降した場合は前者を予想し,そうでない場合は後者を予想することが臨床上行われている。生化学的再発に対しては,放射線療法やホルモン療法が行われる等,治療による修飾を受けることも多いため,その自然史は明らかではない。しかし,直腸診,経直腸的生検,CT,骨シンチグラフィー等を用いた生化学的再発の検討では,局所再発を生じていく場合もあれば,遠隔転移として進展をきたす場合もあり,双方の再発様式が示されている4-8)。一方,後ろ向きデータ解析を行ったいくつかの研究では,生化学的再発をきたした後に積極的治療を行わなくても,転移の出現もなく前立腺癌による死亡に関連しない症例が,一定の割合で存在する7-11)。術前および生化学的再発時のPSA 値,PSADT,手術摘除組織の病理組織学的因子等が,生化学的再発以降の臨床的進展や予後に影響することが示されている8-101213)

『前立腺癌取扱い規約第4版』では,術後1カ月以上経過した時点のPSA 値が0.2ng/mL 未満である場合は生化学的再発なし,その後の経過で2〜4週空けて測定したPSA 値が2回連続して0.2ng/mL 以上となった場合は生化学的再発と定義されている14)。2013 年のAUA および2015 年のEAU ガイドラインにおいても同様の生化学的再発定義を推奨している。生化学的再発のPSA カットオフ値に関しては,おおむね0.2ng/mL とする意見15-17)と,0.4ng/mL とする意見1819)が趨勢を占めている。PubMed ベースの文献検索によって検討されたレビューでは,145 の文献が53 種類の定義を用いており,この中で最も多いカットオフ値は0.2ng/mL であった16)。しかし,カットオフ値を0.4ng/mL とした場合,生化学的再発後のPSA 値上昇,臨床的進展,転移発現等との関連が高いことが示されている1819)

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CQ2
根治的前立腺全摘除術後の再発に対し,救済放射線療法は推奨されるか?

推奨グレードB
根治的前立腺全摘除術後の生化学的再発に対する救済放射線療法(SRT)は有効な治療選択肢であり,PSA<0.5ng/mL での開始が望ましい。

背景・目的

根治的前立腺全摘除術後の生化学的再発に対する救済療法の適応,意義について検討する。

解説

根治的前立腺全摘除術後の生化学的再発に対して考えられる救済療法の選択肢としては,放射線療法と薬物療法(ホルモン療法,化学療法等)が挙げられる。まず放射線療法について考えた場合,それを補助療法(ART)として用いるべきなのか,それとも救済療法(SRT)として用いるべきなのかは長きにわたり議論されている。前者に関しては,ART 群と無治療観察群との比較というデザインで3つの無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)が,T3 や切除断端陽性といった高リスクの病理組織所見において良好なPSAcontrol,転移の制御,全生存率の向上等を示している1-3)。一方,後者に関する比較試験としては,単一施設の後ろ向き解析において,SRT を受けた患者の癌特異的生存率はSRT を受けなかった患者よりも優れていたことが示されている(ハザード比:0.32(95%CI:0.19〜0.54,p<0.001))4)。現時点ではART とSRT の優劣に関しての結論は得られていないが,RADICALS(Radiotherapy and Androgen Deprivation in Combination After Local Surgery)試験とRAVES(Radiotherapy Adjuvant vs Early Salvage)試験の2つのRCT が進行中である。双方ともART とSRT の2つのアームを比較するオープンラベルの多施設研究であり,前者は非遠隔転移再発率と前立腺癌特異的生存率を,後者は無増悪生存期間とQOL を主要エンドポイントとしている。

SRT をどのタイミングで始めればよいのかについては,多くの報告でSRT 開始時のPSA 値で評価を行っている。近年の代表的な10 の研究のシステマティックレビューによる後ろ向き検討では,PSA<0.5ng/mL でSRT を開始した場合,それ以上の値で開始した場合に比べ良好な無再発生存率を示すとしている5)。さらに,SRT 開始時のPSA 値が低ければ低いほど無再発生存率は良好であることが次第に明らかになっている7)。SRT 開始時の至適PSA 値に関しては明らかではないが,0.5ng/mL 未満の範疇においてもできるだけ低値での開始がよいとされている6)。しかしSRT 開始時のPSA 値を低く設定した場合,それが真の意味で再発かどうかについての問題点がある。一方,SRT 開始のタイミングのみならず照射線量も治療効果の鍵となる。41 の研究からなる総計5,597 例のシステマティックレビューでは,60〜70Gy の照射線量範囲において,照射線量が高ければ高いほど無再発生存率は良好であることが示されている7)。しかし高い照射線量による有害事象については,解明されているとはいい難い。

SHT は,PSADT≦10 カ月,Gleason スコア8〜10 といったSRT の有効性が期待しにくい場合の治療オプションとなる8)。SRT の有効性予測は,病理組織所見,SRT 開始時のPSA 値,PSADT 等の因子を用いてノモグラムによって行うことが可能であり,生化学的再発時にSRTを行うかSHTを行うかの方針決定に有効と考えられる9)。SHT の開始タイミングについては,Gleason スコア8〜10 またはPSADT≦12 カ月の症例では,PSA≦5 ng/mL で治療を開始した方が予後良好との報告があるが10),SHT 開始のタイミングが生存率に及ぼす影響はおおむね少なく,ホルモン療法そのものが無再発生存率や癌特異的生存率を改善する効果は明らかではない10-12)。また間欠的ホルモン療法によるSHT の報告も散見される1314)。SHT を間欠的ホルモン療法と非間欠的ホルモン療法の2群に分けたRCT(EC 507 試験)では,両群間に去勢抵抗性獲得までの無増悪生存期間に差はなかったとしている15)。一方,ドセタキセルを中心とした抗癌剤併用のSHT に関しては,RCT であるTAX 3501 試験が行われたものの十分な結果を導けず終了している16)。しかし良好なPSA control,転移の制御を示している報告もあり17-19),今後期待される治療オプションと考えられる。

SRT にSHT を併用した場合の有効性については,RTOG 9601 試験等のRCT が進行中であり,SRT と抗アンドロゲン薬によるSHT の併用がSRT 単独よりも治療後のPSA 進行および転移を有意に抑制することが示された(52nd Annual ASTRO Meeting)20)。本邦においてもJCOG 0401 試験が進行中であり,その解析結果が待ち望まれる。

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CQ3
根治的放射線療法後の再発様式と定義は?

推奨グレードA
根治的放射線療法後の生化学的再発の定義は,PSA 最低値+ 2.0ng/mL である。

背景・目的

前立腺癌に対する根治的放射線療法後の再発の定義,および再発様式について検討する。

解説

根治的放射線療法後の再発として,生化学的再発(PSA 再発)と臨床的再発に分類される。

外照射後の生化学的再発の評価法に関しては,Phoenix の定義1),すなわちPSA 最低値から2.0ng/mL 以上上昇した場合を生化学的再発と診断し,上昇を認めた日を再発日と定義しており,現在広く用いられている3)。根治的放射線療法後には一時的なPSA 上昇(PSA バウンス)を少なからず認める。より高頻度に認められる永久挿入密封小線源療法4)においては,多くの報告でPSA バウンスの定義をPSA≧0.2ng/mL としているが6),確立されたコンセンサスは得られていない。また,一般的にPSA バウンスは0.3〜0.76ng/mL の範囲内で認めることから4),永久挿入密封小線源療法後の生化学的再発に関しても,Phoenix の定義を用いて診断する1)

臨床的再発は,局所再発と遠隔転移に分類される。局所再発は,一般的にCT や経直腸的超音波検査での診断は困難である7)。MRI による局所再発の診断は,特異度はやや高いものの(64〜86%),感度が低い(26〜44%)といった欠点をもつ8)。そのため,造影MRI や拡散強調画像を組み合わせた診断9),あるいは18F-Choline-PET による診断10)も行われているが,現在のところ局所再発を確実に診断できる検査はない。一方,放射線療法後の局所再発の診断に生検を用いるといった報告もある11-13)。生検施行の時期については,PSA 値が持続上昇した場合,生化学的再発時,あるいは放射線療法後2年程度経った後にプロトコール生検を行うといった報告がなされているが,一定のコンセンサスは得られていない11-13)

転移に関しては,骨,骨盤内リンパ節の順に多く,他臓器への転移は少ないとされているが,エビデンスレベルの高い検討はなされていない8)

参考文献

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CQ4
根治的放射線療法後の再発に対し,いつどのような救済療法が推奨されるか?

推奨グレードC1
生化学的再発(PSA再発)に対しては,経過観察またはホルモン療法が推奨される。
推奨グレードC1
臨床的再発のうち,局所再発に対しては,経過観察,ホルモン療法に加え根治可能な救済局所療法(前立腺全摘除術,凍結療法,組織内照射,高密度焦点式超音波療(HIFU))が推奨される。
推奨グレードA
臨床的再発の遠隔転移に対しては,ホルモン療法が推奨される。

背景・目的

根治的放射線療法後の生化学的再発,臨床的再発に対する救済療法の適応,意義について検討する。

解説

根治的放射線療法後の再発として,生化学的再発(PSA再発)と臨床的再発があり,後者は局所再発と遠隔転移に区別される。治療の選択肢として,生化学的再発のみで臨床的再発がない場合は経過観察またはホルモン療法,局所再発に対しては経過観察,ホルモン療法に加え,根治可能な救済局所療法(前立腺全摘除術,凍結療法,組織内照射,HIFU),遠隔転移に対してホルモン療法が挙げられる。しかし,エビデンスの高い研究はなく,いつどのような救済療法を行うかコンセンサスはない。

根治的放射線療法後の生化学的再発に対して,経過観察あるいはホルモン療法が選択肢となる。これらの症例の予後は一般的には不良ではなく,転移出現および前立腺癌死までの期間の中央値はそれぞれ5.4 年,10.5 年と報告されている1)。したがって転移出現,究極には癌死を防ぐと同時に過剰治療を避けることも目標となる。放射線療法後の生化学的再発症例の転移出現や前立腺癌死のリスク因子として,生検Gleason スコア8〜10,前立腺癌診断時臨床病期T3b〜4,生化学的再発時のPSADT<3カ月,治療から再発までの期間<3年の4因子があり,症例を0,1,2因子以上の3群に分けると,転移出現および前立腺癌死の頻度が有意に異なることが報告されている1)。長期のホルモン療法の有害事象も考慮すれば,少なくとも上記のリスク因子を有さない症例では経過観察は有力な選択肢となる。またホルモン療法を行うのであれば,間欠投与も考慮される2)

局所再発に対する方針として,経過観察,ホルモン療法に加え,根治可能な救済局所療法(前立腺全摘除術,凍結療法,組織内照射,HIFU)が挙げられる。しかし,これらの治療成績に関する前向きの比較試験はなく,現在特に強く推奨される救済療法はない。上述のリスク因子,患者の年齢,合併症,希望等を総合的に考慮して治療方針を決定することになる。

前立腺全摘除術は,根治的救済療法として最も歴史があり報告も多い4)。最近のシステマティックレビュー4)では良好な腫瘍学的アウトカムが示されている。すなわち5年および10 年生化学的無再発生存率はそれぞれ47〜82%,28〜53%,10 年癌特異的生存率は70〜83%,10 年全生存率は54〜89%と報告されている。救済前立腺全摘除術時のPSA 値および生検Gleason スコアが,進行および癌死の予測因子であった。救済療法を比較した研究は少ないが,前立腺全摘除術は凍結療法よりも無再発生存率および全生存率において優れているという後ろ向き解析の報告がある5)

しかしながら,放射線による線維化,創傷治癒遅延のリスクがあり,手術合併症は初期治療としての前立腺全摘除術よりも増加する6)。上記のシステマティックレビューにおいて,吻合部狭窄7〜41%,直腸損傷0〜28%と報告されている4)ほか,尿閉,尿瘻,感染も多いことが報告されている6)。また機能学的アウトカムも初期治療としての前立腺全摘除術に比べ劣り,尿失禁は21〜90%,勃起障害はほぼ全例に認められると報告されている4)

前立腺全摘除術以外にも,凍結療法8),組織内照射(高線量率(high dose rate;HDR)10),低線量率(low dose rate;LDR)1112)),HIFU1314)による救済療法について比較的良好な腫瘍学的アウトカムが報告されている。これらの救済療法の合併症は,前立腺全摘除術と比べれば軽度とされるが,いずれも初期治療として施行する場合よりは増加することが報告されている。救済局所療法を行う際は,画像診断で転移がないことを十分に確認し,前立腺生検により局所再発の病理学的証明をすることは必須である。

現在のところ,実臨床の場では,根治的放射線療法後に救済局所療法が行われる頻度は低い。米国のCaPSURE データベースによれば,根治的外照射あるいは組織内照射治療後,2000〜2010 年に再発(生化学的再発あるいは二次治療開始)が確認された366 例に対して,ホルモン療法は229 例(63%),経過観察は125 例(34%)に施行されたが,救済局所療法が施行されたのは11 例(3%)のみであった15)。同様に,カナダのBritish Columbia Tumour Registry のデータベースでも16),根治的放射線療法(外照射あるいは組織内照射)後の再発257 例のうち,経過観察が126 例(49%),ホルモン療法が119 例(46%)に施行され,救済局所療法が施行されたのは5例(1.9%)のみであった。なお両研究において,救済療法前に局所再発を認めた症例の頻度は不明である。

再発時に転移が認められた症例に対しては,通常の進行性前立腺癌と同様にホルモン療法が第一選択となる。

参考文献

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13 ホルモン療法

総論

1941 年のHuggins ら1)の報告以来,未治療の進行性前立腺癌に対する治療の中心はホルモン療法でありつづけている。その初期には外科的去勢術やエストロゲン薬による治療であったが,副作用等の問題からエストロゲン薬の使用は控えられるようになった。

ホルモン療法における最初の大きなエポックは,1971 年にSchallyやGuillemin らが黄体形成ホルモン放出ホルモン(luteinizing hormone-releasing hormone;LH-RH) の構造を解明したことによりLH-RH アゴニストが開発され,内科的去勢が可能になったことである2)。次のエポックは,1982 年にLabrie らが単に外科的,あるいは内科的去勢のみでは不十分であるとし,抗アンドロゲン薬との併用の必要性を提唱したことである3)。現在でも複合アンドロゲン遮断(combined androgen blockade;CAB)療法という名称で,一次ホルモン療法として,あるいは去勢単独でのホルモン療法後の再燃に対しても広く用いられている。

本邦における第3のエポックは,新しいホルモン薬として,2012 年にデガレリクス(degarelix)が,2014 年にエンザルタミドとアビラテロンが実臨床に導入されたことであろう。エンザルタミドとアビラテロンに関しては「14.去勢抵抗性前立腺癌(新規ホルモン薬,化学療法薬)」の項に譲るとして,LH-RH アンタゴニストであるデガレリクスの登場は,一次ホルモン療法の選択肢をLabrieら以来30 年ぶりに大きく広げてくれた。アンタゴニスト作用とは,受容体に結合しても生体反応を起こさないことを特徴とし,アゴニストにみられたフレアアップ現象を避けることができると期待されていた。製剤としてはabarelix とデガレリクスが開発されたが,abarelix は重篤なアレルギー反応により使用が制限され,米国と欧州ではデガレリクスが2009 年から使用可能になっている。

また,間欠的ホルモン療法に関するエビデンスも蓄積されつつある。薬剤による内科的去勢が可能となったことを受け,ホルモン療法を間欠的に繰り返すことによって,ホルモンに対する依存性を長期間維持する試みが提唱されたのが1993 年である4)。以来,間欠的な治療によって,性機能障害等の有害事象の軽減やQOL の改善,さらには治療費の削減の可能性が期待されてきている。

本文の最初に「未治療の進行性前立腺癌に対する治療の中心はホルモン療法でありつづけている」と記載したが,この大前提も大きな転換点にきているのかもしれない。海外の臨床試験では,high-volume の転移を有する未治療進行性前立腺癌患者には,初期からのホルモン療法と化学療法の併用が効果的とするエビデンスが認知されつつあるようだ5)。エンザルタミドやアビラテロン等の新規ホルモン薬も,さらに前倒しでの使用が考えられており,今後,前立腺癌のホルモン療法の考え方や薬剤構成が大きく変貌する可能性がある。

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CQ1
転移性前立腺癌に対する一次ホルモン療法として,複合アンドロゲン遮断(CAB)療法は去勢単独療法と比べて優れているか?

 

推奨グレードB
一次ホルモン療法として,非ステロイド性抗アンドロゲン薬を用いた複合アンドロゲン遮断(CAB)療法は,去勢単独療法と比較して有効性が高く,有害事象・QOL・経済性も同等ないし許容される範囲内であるため,本邦では標準治療の1つとして推奨される。ただし,転移性前立腺癌におけるCAB 療法の優位性は明確には立証されていないことに留意する必要がある。

背景・目的

精巣および副腎由来のアンドロゲンを十分に抑制するため,去勢療法と抗アンドロゲン薬の併用療法(CAB 療法)がLabrie ら1)によって提唱されて以来,CAB 療法の有効性と安全性を去勢単独療法と比較検討する試験が数多くなされてきた。転移性前立腺癌に対する一次ホルモン療法としてCAB 療法が去勢単独療法と比較して優れているか検証する。

解説

ステロイド性抗アンドロゲン薬(SAA),非ステロイド性抗アンドロゲン薬(NSAA)のうち,フルタミドとnilutamide(本邦未承認)については,進行性前立腺癌患者(C/D1/D2 期)に対するCAB 療法と去勢単独療法を比較した30 以上の前向きの無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)が行われており,メタアナリシスも複数なされている2-4)。Prostate Cancer Trialists’ Collaborative Group(PCTCG)によるメタアナリシス(解析対象の88%が転移性)では,5年全生存率はCAB 療法と去勢単独療法の間に統計学的に有意な差はなかった。これらの結果は,年齢,転移性か非転移性か,外科的去勢か内科的去勢か,によらなかったとしている。使用した抗アンドロゲン薬の種類別では,去勢単独療法と比較してSAA を用いたCAB 療法では死亡リスクが13%上昇(5年全生存率2.8%悪化に相当)したのに対し,NSAA を用いたCAB 療法では死亡リスクが8%減少(5年全生存率2.9%改善に相当)し,ともに統計学的に有意であった2)。これらの結果は,年齢,病期,外科的去勢か内科的去勢かによらないとしている。Samson らのメタアナリシスでは,CAB 療法は去勢単独療法と比較して2年全生存率には差がなく,5年全生存率に有意な差(ハザード比:0.871)を認めた。D2 期に対象を限定した解析では,2年全生存率には差がなかった。治療中止に至る有害事象はCAB 療法でより頻度が高く,CAB 療法の有用性は5年全生存率の若干の上昇という利益と,有害事象発現リスクの上昇およびそれによるQOL 低下の可能性という不利益のバランスにおいて包括的に検討されるべきであるとしている3)

実臨床で一次ホルモン療法として最も使用されているビカルタミドに関する前向きRCT は少ない。本邦で行われたCAB 療法と去勢単独療法の比較試験5-7)では,ビカルタミドを用いたCAB 療法の全生存率は去勢単独療法よりも有意に高かった(ハザード比:0.78)。サブ解析ではC 期およびD1期の全生存率はCAB 療法で有意に高かったが,D2 期では差がなかった。有害事象や副作用の発現プロファイルに両群間で差はなく,排尿障害や疼痛に関するQOL の早期改善はCAB 療法で優れていた。D2 期前立腺癌に対するCAB 療法におけるビカルタミドとフルタミドの比較試験8)では,ビカルタミド群がフルタミド群よりも増悪までの期間(ハザード比:0.93),生存期間(ハザード比:0.87)とも延長される傾向にあるものの,有意な差ではなかった。ビカルタミド群で血尿の頻度が高かったが,血尿による治療中止はなく,フルタミド群では下痢および下痢による治療中止が多かった。この試験で用いられたビカルタミドは50mg/日であり,上述の本邦の試験で用いられた80mg/日よりも低用量であることに留意すべきと思われる。Klotz ら4)は,PCTCGのメタアナリシスとSchellhammer らの試験のデータを統合解析し,ビカルタミドを用いたCAB 療法は去勢単独療法よりも有益であると推定している。費用対効果分析でもビカルタミドの追加費用は効果に見合ったものであるとされている9)

一次ホルモン療法におけるCAB 療法施行率は,本邦が西欧よりも高く,かつ本邦でホルモン療法を受けた男性の癌特異的死亡率は米国のそれの半分以下であると報告されている10)。転移性前立腺癌の予後に関しては,本邦の大規模データベースJapan Study Group of Prostate Cancer(J-CaP)によると,病期Ⅲ,Ⅳで全生存率に関してCAB 療法がそれ以外のホルモン療法よりも優れている可能性がある11)。また同データベースを用いたサブ解析12-15)では,全生存率においてN1M0 /M1b /M1c 症例(ハザード比:0.66/0.75/0.63),治療前PSA 値が500〜1,000ng/mL の症例,病期ⅣでJ-CAPRA スコア16)が10 以上の症例(5年全生存率46.6% vs 36.3%)でのCAB 療法の優位性が示されている。このように,本邦の実臨床では広くCAB 療法が行われており,エビデンスレベルは高くないが成績についての知見も蓄積されてきている。したがって,現時点ではCAB 療法は本邦における転移性前立腺癌に対する一次ホルモン療法の標準と見なすことができる。一方,世界的にみると,新規ホルモン薬や抗癌剤が使用可能となった現在,一次ホルモン療法としてCAB 療法を選択するかどうかは専門家の間でも意見の統一をみていないことにも留意する必要がある17)

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Gillessen S, Omlin A, Attard G, et al. Management of patients with advanced prostate cancer:recommendations of the St Gallen Advanced Prostate Cancer Consensus Conference(APCCC)2015. Ann Oncol. 2015;26:1589-604.(Ⅵ)

CQ2
一次ホルモン療法として,LH-RH アンタゴニストは推奨されるか?

推奨グレードB
LH-RH アンタゴニスト(デガレリクス)は前立腺癌の一次ホルモン療法として推奨される。

背景・目的

前立腺癌の一次ホルモン療法として本邦では従来LH-RH アゴニスト(リュープロレリンまたはゴセレリン)が用いられてきた。LH-RH アゴニストを用いたホルモン療法は,投与初期におけるテストステロンの一過性の上昇(テストステロンサージ)が起こり,尿路閉塞,骨転移巣の増悪に起因する骨痛や脊髄圧迫等のフレアアップ現象を呈することや,血中テストステロン値が去勢レベルに到達するのに時間がかかること,心血管イベントの発症リスクを増加させること等が問題となっている。2012 年10 月にLH-RH アンタゴニスト(デガレリクス)が国内で発売され,その使用が広がりつつある。

解説

CS21 試験1)によると,LH-RH アンタゴニスト(デガレリクス)はLH-RH アゴニスト(リュープロレリン)でみられるテストステロンサージを起こすことなく血中テストステロン値を速やかに去勢レベルに到達させ,投与3日目には95%以上の症例で0.5ng/mL 以下まで低下していた。またデガレリクスは投与後4週目まではリュープロレリンに比べPSA 値を早期に低下させた。さらにリュープロレリンは血清卵胞刺激ホルモン(FSH)値を前値の約55%に低下させたのに対して,デガレリクスでは前値の約90%まで低下させたことが明らかになったが,PSA 非再発率との関連は不明である。CS21 試験の追加解析において,全体のPSA 非再発率では両者に有意差を認めなかったが,ベースラインPSA>20ng/mL の患者群ではデガレリクス投与によりPSA 再発までの期間が有意に延長したと報告されている2)。また,デガレリクスは骨転移症例における血清アルカリホスファターゼ(ALP)値をリュープロレリンに比べ有意に低下させることも報告されている3)。有害事象に関してはデガレリクスでは注射部位反応が顕著に多いが重篤なものは少なく,2回目以降は軽減するとされる4)。その他,ホットフラッシュや体重増加等の有害事象の発現率はLH-RH アゴニストとほぼ同様である1)

全生存期間とPSA 非再発生存率に関する検討では,CS21 試験とCS35 試験それぞれ単独の解析では差がなかったが,これらのプール解析において,デガレリクスはLH-RH アゴニスト(リュープロレリンまたはゴセレリン)に対して有意に全生存期間(ハザード比:0.47,p=0.023)と生化学的無再発生存率(ハザード比:0.71,p=0.017)を改善させたと報告されている5)。しかしながら,CS21 試験とCS35 試験では対照群で投与されたLH-RH アゴニストが異なることや,デガレリクスの投与法も異なるため,各試験の単独での続報が待たれる。

その他の副次エンドポイントの評価で,デガレリクスはLH-RH アゴニストと比べて筋骨格症状や下部尿路閉塞症状の発生が有意に少ないと報告されている5)。さらにデガレリクスは心血管疾患(cardiovascular disease;CVD)の既往がある患者の新たな心血管イベントの発症または死亡までの時間を有意に延長したとされる6)。また,投与後3カ月目における前立腺体積の減少率はデガレリクス単独投与とゴセレリン+ビカルタミドにおいてほぼ同等であったが,国際前立腺症状スコア(IPSS)で評価した下部尿路症状はデガレリクス群で有意に改善した7)。その機序として,膀胱や前立腺の平滑筋組織にはGnRH 受容体が存在し,サイトカインや種々の成長因子やα1 受容体を含めた制御を行っていることが示唆されている8)

参考文献

1)
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4)
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7)
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8)
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CQ3
転移性前立腺癌に対する一次ホルモン療法として,間欠的ホルモン療法は推奨されるか?

推奨グレードC1
間欠的ホルモン療法は持続的ホルモン療法と比較して全生存期間は同等であり,有害事象,QOL,経済性を勘案すると持続的ホルモン療法の代替療法として有望な選択肢である。しかし,至適プロトコールや真に恩恵を受ける患者群が解明されていないことに十分に留意する必要がある。

背景・目的

間欠的ホルモン療法と持続的ホルモン療法を比較検討した大規模試験の結果や,これまでに施行された複数のRCT のシステマティックレビューやメタアナリシスが報告されている。間欠的ホルモン療法が持続的ホルモン療法と比較して有効性,有害事象,QOL,経済性の観点から有用であるか評価する。

解説

大規模なRCT の結果が2012 年に相次いで報告された。SWOG9346 試験1)では,新規に診断された転移を有する前立腺癌患者3,040 例のうち,7カ月間の導入療法後にPSA 値が4ng/mL 以下となった1,535 例を間欠的ホルモン療法群と持続的ホルモン療法群に1:1の割合で無作為に割り付けた。追跡期間中央値9.8 年の解析で,全生存期間に関して間欠的ホルモン療法の持続的ホルモン療法に対する非劣性は統計学的に証明されなかった。勃起能および精神的健康のスコアは割り付け後3カ月では間欠的ホルモン療法群が有意に優れていたが,以降の評価タイミングでは他項目同様に統計学的に有意な差はみられなくなった。Grade の高い治療関連有害事象の頻度は差がなかった。

NCIC-CTG PR.7 試験2)では,限局性前立腺癌に対する根治的放射線療法あるいは根治術後救済放射線療法から1年以上経過した後にPSA値が3ng/mL を超え,かつ遠隔転移のない1,386 例を間欠的ホルモン療法群と持続的ホルモン療法群に1:1の割合で無作為に割り付けた。追跡期間中央値6.9 年の解析で,全生存期間に関して間欠的ホルモン療法が持続的ホルモン療法に対して統計学的に非劣性であることが証明された。有害事象の頻度は差がなかった。QOL に関しては,症状に関する項目のうちホットフラッシュや性行為の願望,尿路症状では間欠的ホルモン療法群で有意に良好なスコアであった。

上述した2試験以外にも現在までに10以上のRCT が行われているが,対象患者(局所進行性前立腺癌,根治的治療後再発性前立腺癌,転移性前立腺癌),無作為化前の導入療法の有無や期間,ホルモン療法のレジメンおよび間欠的ホルモン療法群の休止・再開の基準がまちまちであり,観察期間も比較的短い。そのためシステマティックレビューやメタアナリシスによる評価が試みられている。間欠的ホルモン療法について,Magnan ら3)やTsai ら4)は持続的ホルモン療法の代替となり得る,Brungs ら5)は有効な標準治療である,Niraula ら6)は推奨するに足るエビデンスがあると結論している。一方,Botrel ら7)はそのような立場を明確にしていない。これらの報告で共通しているのは,局所進行性前立腺癌,根治的治療後再発性前立腺癌,転移性前立腺癌に関わらず間欠的ホルモン療法は持続的ホルモン療法と比較して全生存期間に関しては同等あるいは非劣性であると結論している点である。QOL や有害事象についても統合的な定量解析が不可能であるとしているものが多いが,Botrel ら7)はQOL への影響は同等であるものの,間欠的ホルモン療法群でホットフラッシュの発現頻度が有意に低く,性行為スコアは高い傾向にあるとしている。医療コストについて,Niraula ら6)は間欠的ホルモン療法により48%の経費節減が見込まれるとしている。

間欠的ホルモン療法の至適プロトコールの確立や,間欠的ホルモン療法で真に恩恵を受ける患者群の選別にはさらに研究が必要であり,絶対的な標準治療として推奨されるまでに至っていない8)

参考文献

1)
Hussain M, Tangen CM, Berry DL, et al. Intermittent versus continuous androgen deprivation in prostate cancer. N Engl J Med. 2013;368:1314-25.(Ⅱ)
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4)
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5)
Brungs D, Chen J, Masson P, et al. Intermittent androgen deprivation is a rational standard-ofcare treatment for all stages of progressive prostate cancer:results from a systematic review and meta-analysis. Prostate Cancer Prostatic Dis. 2014;17:105-11.(Ⅰ)
6)
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7)
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Gillessen S, Omlin A, Attard G, et al. Management of patients with advanced prostate cancer:recommendations of the St Gallen Advanced Prostate Cancer Consensus Conference(APCCC)2015. Ann Oncol. 2015;26:1589-604.(Ⅵ)

CQ4
転移性前立腺癌に対して,初回ホルモン療法にドセタキセル化学療法を併用することは推奨されるか?

推奨グレードB
海外の大規模臨床試験では,転移性前立腺癌に対して,初回ホルモン療法にドセタキセル化学療法を併用することで,予後が改善することが報告された。ただし,日本人における症例選択には有害事象を含めた配慮が必要である。

背景・目的

海外の3つの第Ⅲ相RCT において,初回ホルモン療法にドセタキセル化学療法を併用することで全生存期間が改善するかを主要エンドポイントに,オープンラベル試験の結果が報告された。初回ホルモン療法にドセタキセル化学療法を併用することで予後の改善が期待できるかを評価する。

解説

フランス・ベルギーの30 施設で行われたGETUG-AFU15 試験1)では,2004〜2008 年に385 例の転移性前立腺癌患者をホルモン療法単独群とホルモン療法にドセタキセル化学療法(75mg/m2,3週毎,9コースまで)を併用した群に1:1で割り付けて比較した。ホルモン療法単独群の全生存期間中央値が54.2 カ月,ドセタキセル併用群の全生存期間中央値が58.9 カ月で有意差を認めず,またドセタキセル併用群で4例(1.1%)の死亡例を認めた。

一方,北米で行われたChemoHormonal Therapy Versus Androgen Ablation Randomized Trial for Extensive Disease in Prostate Cancer(CHAARTED)試験2)では,2006〜2012 年に790 例の転移性前立腺癌患者をホルモン療法単独群とホルモン療法にドセタキセル化学療法(75mg/m2,3週毎,6コース)を併用した群に1:1で割り付けて比較した。ホルモン療法単独群の全生存期間中央値が44.0カ月で,ドセタキセル併用群の全生存期間中央値が57.6 カ月であり,ドセタキセル併用群の全生存期間が1年以上長かったことが報告された。特にhigh-volume disease の患者群(内臓転移and/or4個以上の骨転移を有する)では,ホルモン療法単独群の全生存期間中央値が32.2 カ月で,ドセタキセル併用群の全生存期間中央値が49.2 カ月であり,ドセタキセル併用での全生存期間延長効果が17 カ月に及ぶことが示された。

Systemic Therapy in Advancing or Metastatic Prostate cancer:Evaluation of Drug Efficacy(STAMPEDE)試験3)は英国を中心に実施され,高リスク前立腺癌に対して標準治療(ホルモン療法と場合により放射線療法)に薬剤の併用を前向きに行う,多くのアームを有する臨床試験である。そのうちのアームA(標準治療のみ),アームB(ゾレドロン酸併用),アームC(ドセタキセル併用:75mg/m2,3週毎,6コース),アームE(ゾレドロン酸とドセタキセル併用)の結果が報告された。2005〜2013 年に2,962 例の高リスク患者がエントリーされた試験である。61%が転移性癌で15%がリンパ節転移を有していた。全体の解析で,標準治療群の全生存期間中央値71 カ月に対して,ドセタキセル併用により全生存期間中央値は81 カ月まで延長していた。特に転移性癌ではドセタキセル併用によって明らかな全生存期間改善が認められた。ただし,Grade 3 以上の有害事象はドセタキセル併用群で52%と,標準治療群の32%と比較して多かった。

以上のように,欧米での3つの臨床試験のうち2つの試験で有意な結果が報告され,また3つの試験のメタアナリシス5)でもドセタキセル併用の有用性が報告された。欧米のガイドラインは転移性前立腺癌に対して,初回ホルモン療法にドセタキセルを6コース併用することを推奨している。ドセタキセルの有害事象も早期の使用の方が重篤な事象が起きにくいとの指摘もある。しかしながら,high-volume disease のみを対象とすべきか,併用療法で予後改善が期待できる患者像は何か等,今後明らかにしていくべき点は多い6)

本邦において,初回ホルモン療法にドセタキセル化学療法を使用したエビデンスはなく,安全性・有用性を含めて予後への優位性は示されていない。また,現在の本邦でのドセタキセルの保険適用は,効能・効果として「前立腺癌」とされるが,使用上の注意として,「前立腺癌では本剤は外科的又は内科的去勢術を行い,進行又は再発が確認された患者を対象とすること」とされている点に留意されたい。

参考文献

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Gravis G, Fizazi K, Joly F, et al. Androgen-deprivation therapy alone or with docetaxel in noncastrate metastatic prostate cancer(GETUG-AFU 15):a randomised, open-label, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2013;14:149-58.(Ⅱ)
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CQ5
根治的治療が適さない限局性前立腺癌に対するホルモン単独療法は,予後改善が期待できるか?

推奨グレードC1
根治的治療が適さない症例に対する一次ホルモン療法の有用性は,諸外国のデータからは長期生存率や疾患特異的生存率の改善に与える影響は少ないと判断される。しかし,ホルモン療法を取り巻く環境は諸外国と本邦では異なるため,本邦における明確な結論は明らかではない。根治的治療が適さない高齢者では,特に副作用のリスク評価を行ったうえで症例の選択を行えば治療効果を期待できる可能性がある。

背景・目的

American Urological Association(AUA)やNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)のガイドラインでは,限局性前立腺癌に対する標準的初期治療として一次ホルモン療法は含まれない。一方,根治的治療が適さない症例に対する一次ホルモン療法の有用性は,治療効果と副作用の両側面からの判断が必要と思われるが,本邦の泌尿器科一般臨床では前立腺癌に対する治療としてホルモン療法が行われる頻度は高い。

諸外国と本邦でのホルモン療法の使用状況の差を踏まえ,根治的治療が適さない高齢者限局性前立腺癌に対するホルモン単独療法の予後に及ぼす影響を治療効果と副作用に基づき検証する。

解説

米国ではSEER(Surveillance, Epidemiology, and End Results Program)データベースを用いて,限局性前立腺癌に対するホルモン単独療法に関する検討がなされている。Lu-Yao らは前立腺癌の確定診断後6カ月以内に何らかの理由で根治的治療を受けなかった66歳以上の限局性前立腺癌患者66,717 例の長期予後を解析し,一次ホルモン療法は15 年での疾患特異的生存率あるいは全生存率の改善に関与しないことを報告した1)。高齢者限局性前立腺癌に対する一次ホルモン療法は長期生存率や疾患特異的生存率の改善に与える影響は少なく,むしろ前立腺癌の進行に伴う症状の緩和や切迫した症状の回避に限定して使用すべきと結論されている。Sammon らは根治的治療を受けなかった限局性前立腺癌患者46,376 例の予後を分析した2)。39%が一次ホルモン療法を受け,残り61%が経過観察であったが ,一次ホルモン療法群では経過観察群に比較し全死亡率が37%増加することを示した。根治的治療を受けなかった場合,一次ホルモン療法は無治療経過観察に比較し生存期間の延長に寄与せず,期待余命が長い場合は一次ホルモン療法に伴う合併症のリスクを念頭におく必要がある。即時および遅延ホルモン療法に関しては,手術を拒否あるいは不適と判断されたT0〜4N0〜2M0 前立腺癌985 例を対象としたRCT であるEORTC 試験30891 で解析され,12 年の追跡調査結果では両群間の疾患特異的生存率に有意差はないものの,急速進行例では遅延ホルモン療法の有効性が低いことが示された3)。一方,Chen らは,2004〜2007 年に限局性前立腺癌と診断された66〜79 歳の症例の治療内容を分析し,NCCNのガイドラインで推奨される治療法と実際に行われた治療法の一致率を解析した4)。低〜中間リスク群での一致率は79〜89%であったが,高リスク群では年齢とともに一致率は低下し,66〜69 歳での66.6%に対し75〜79 歳の一致率は51.9%と低下し,高齢者ほど経過観察やホルモン単独療法が選択される機会が増加した。高リスク群でガイドラインに準拠しない治療を選択した理由は患者年齢で,合併症の有無は関与しなかった。高齢で合併症のない高リスク前立腺癌の場合,積極的治療が必要であるにもかかわらず質の低い医療が提供される可能性が指摘された。したがって,高齢で高リスクの前立腺癌症例では一次ホルモン療法では予後改善は期待できない可能性がある。Liu らは,年齢に加えてCharlson comorbidity index を含む変数で補正した傾向スコア解析を用い,限局性前立腺癌に対する一次ホルモン療法が予後に及ぼす影響を根治的前立腺全摘除術と比較した5)。疾患特異的死亡率および全死亡率とも明らかに一次ホルモン療法が高く,疾患特異的死亡率に差が出たのは,根治的前立腺全摘除術により前立腺癌の進行が抑制されたためとしている。また全死亡率の差が出たのは,ホルモン療法に関連したメタボリック症候群が増加したためと解釈している。ホルモン療法の予後改善効果に関しては心血管系有害事象や耐糖能異常等の合併症の発生を念頭におき評価すべきである。

日本泌尿器科学会がん登録推進委員会の報告では6),局所進行性あるいは限局性前立腺癌8,424 例の約4割に初期治療としてホルモン療法が施行され,限局性前立腺癌に限っても約3割にホルモン単独療法が施行されている。すなわち,本邦では高齢者以外でも臨床病期を超えてホルモン単独療法が行われている可能性が高い。一方,米国では2004〜2009 年で限局性前立腺癌に対する一次ホルモン療法の比率は36%から22%まで減少しており2),本邦と米国ではホルモン療法を取り巻く環境が異なる点には注意を要する。J-CaP Study Group による15,461 例の解析では,2001〜2003年 の新規前立腺癌のうち,局所進行性あるいは限局性前立腺癌に対し一次ホルモン療法を行った場合,一般人口の生存期間と同等の長期生存期間が得られている7)。Matsumoto らの初期治療としてホルモン療法を選択した中間〜高リスクの限局性前立腺癌410 例での報告でも,被膜浸潤とGleasonスコア≧8の両者がなければ,一次ホルモン療法の生存率と一般人口の期待生存率との間には遜色がないことが示されている8)。根治的治療が適さない高齢者では,症例の選択を慎重に行えば限局性前立腺癌にホルモン療法を行うことで一般人口と同等の生存期間が得られる可能性がある。

参考文献

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CQ6
ホルモン療法に伴う有害事象およびその対策にはどのようなものが推奨されるか?

推奨グレードB
ホルモン療法の有害事象として,骨塩量の低下,骨折リスクの上昇がある。静注または経口ビスホスホネート製剤あるいは抗RANKL 抗体の併用は,骨塩量の低下を予防し骨折のリスクを低下させる。
推奨グレードC1
ホルモン療法による有害事象は治療中のQOL の低下を招くため,患者の訴えに応じた適切な対処が推奨される。また,ホルモン療法が心血管疾患による死亡のリスクを上昇させる明らかなエビデンスはないものの,その発症に関連する糖・脂質代謝異常,体脂肪増加等の代謝異常の発症率を増加させるため,適宜検査を行い適切な介入が推奨される。

背景・目的

ホルモン療法(アンドロゲン遮断療法(ADT))は前立腺癌の薬物療法において最も重要な位置を占めているが,近年ホルモン療法の有効性のみならずその有害事象も注目されている。前立腺以外の臓器におけるアンドロゲンの正常な生理作用を妨げることによって起こる様々な有害事象とその対策について検討する。

解説

1 性機能障害,ホットフラッシュ,疲労

リビドーの低下と勃起不全はホルモン療法を受ける患者の90%以上に発症する。テストステロンの減少による海綿体内の一酸化窒素(NO)の減少と海綿体内圧の低下が原因とされている。放射線照射後のホルモン療法の期間と性機能におけるQOL との関連を検討した研究では,6カ月のホルモン療法は18 カ月と比較して性機能に対する影響が有意に少ないことが報告されている1)

一方,のぼせ,ほてり,発汗等の症状はホットフラッシュと呼ばれ,ホルモン療法施行症例の約80%にみられるQOL の低下を招く有害事象である。ホルモン療法による視床下部体温調節中枢におけるフィードバック機構不全による体温調節障害が原因とされている。治療薬としてシプロテロン2),メドロキシプロゲステロン2),低用量ガバペンチン(300mg/日)3)の有効性が報告されているが,シプロテロンは治療に影響を与える可能性がある。また,ビカルタミドはリュープロライドと比較して,リビドーの低下とホットフラッシュの頻度が低いという報告がある4)。ただし,ホルモン療法の期間や薬剤選択に関しては有害事象のみならず治療効果とのバランスを考慮しなければならない。

疲労は長期ホルモン療法施行患者の約40%に認められ,筋肉量の低下,体脂肪の増加,うつ状態等が原因とされている。有酸素運動やレジスタンス運動が有効であるとの報告があり,16 のRCT のうち質の高い3試験のメタアナリシスにおいて,介入後中央値12 週間のQOL や疲労に対する改善効果が示された5)

2 女性化乳房

女性化乳房と乳房痛はホルモン療法を受ける患者の約20%にみられ,特に抗アンドロゲン薬単独療法では60〜70%と高頻度にみられる有害事象である。RCT のメタアナリシスで,無治療と比較してタモキシフェンと乳房への放射線照射が女性化乳房と乳房痛の発症を有意に低下させ,放射線照射と比較してタモキシフェンの高い有効性が示された6)。しかし,発症しない例や訴えの少ない例もあるため全例に予防処置を行う必要はなく,その選択には慎重を要する。

3 骨に対する影響

12 カ月間のホルモン療法によって骨密度(BMD)は2〜5%減少し7),骨折のリスクは1.5〜1.8 倍増加することが報告されており9),これらの継続的なモニタリングとBMD減少に対する予防的対策が推奨されている。ホルモン療法中のBMD 低下に対するビスホスホネート(BP)製剤の有効性は多くのRCT で明らかにされている。第2世代のBP 製剤であるパミドロン酸二ナトリウム**(60mg/12 週)または第3世代のリセドロン酸ナトリウム**(35mg/週)の併用では,それぞれホルモン療法開始48 週後と2年後のBMD を低下させなかった1011)。また,ゾレドロン酸***(4mg/3カ月)またはアレンドロン酸ナトリウム**(70mg/週)の併用では,1年後のBMDは有意に増加した12-14)。15 のRCT の2,634 例を対象としたメタアナリシスでも,BP製剤非投与群と比較して骨折と骨粗鬆症のリスクを有意に低下させたことが示された(それぞれ相対リスク比:0.80,p=0.005 と相対リスク比:0.39,p<0.00001)15)。抗RANKL 抗体であるデノスマブ(60mg/6カ月)**はホルモン療法開始24 カ月後の腰椎のBMD を5.6%増加させ,36 カ月後の新規脊椎骨折の頻度を有意に低下させた(相対リスク比:0.38,p=0.006)16)

カルシウムとビタミンD の補充を推奨する意見もあるが,それらの至適投与量や有効性を検討したRCT はない。

4 身体組成,糖代謝,脂質代謝に対する影響

ホルモン療法は糖や脂質等の代謝異常のリスクとなることが知られている。Smith らの報告によると,48 週のLH-RH アゴニストの投与により体重が2.4%,皮下脂肪が11.1%増加し,逆に除脂肪体重が2.7%減少した17)。日本人を対象とした前向き観察研究においても,12 カ月間のLH-RH アゴニスト±ビカルタミドにより体重は2.9%増加し,内臓脂肪と皮下脂肪はそれぞれ21.2%と29.8%増加した18)。同時に,総コレステロール値,トリグリセリド値,ヘモグロビンA1c 値がそれぞれ10.6%,16.2%,2.7%上昇したと報告されている18)。また,いくつかの大規模コホート研究において,ホルモン療法が糖尿病のリスクを16〜44%上昇させることが示されている19-21)。身体組成の変化への対策として有酸素運動やレジスタンス運動等の運動療法の有効性が検討されてきたが,その効果はいまだ明らかではない22)

5 心血管系に対する影響

遠隔転移のない症例(T1〜4,N0〜1)を対象とした大規模コホート研究では,ホルモン療法が心血管イベントや心臓突然死を有意に増加させるという報告がある2023)。一方,同様の対象患者で即時ホルモン療法を行った群と行わなかった群(対照群)の2群を比較した8つのRCT を対象としたメタアナリシスでは,経過観察中の即時ホルモン療法群と対照群のCVD 死亡率はそれぞれ11.0%と11.2%で,両群間に有意差を認めなかった24)。また,19,079 例を対象とした大規模な症例対照研究においても,6カ月以上のホルモン療法と急性心筋梗塞や心原性の突然死との関連は認められなかった21)。ホルモン療法がCVD による死亡を増加させるエビデンスはないものの,CVD のリスク因子である脂質代謝異常,体脂肪の増加等に影響を及ぼすことが知られているため,ホルモン療法施行前後にこれらの評価を行い,適切な介入を行うべきであるとする意見もある25)

6 認知機能に対する影響

性腺機能の低下と認知機能の低下の関与に関する最近のメタアナリシスによると,ホルモン療法によって視覚運動能力のみの低下が認められたが,筋力の低下に起因する可能性も指摘されている26)。前向きコホート研究では12 カ月のホルモン療法は認知機能に悪影響を及ぼさないとの報告27)がある一方,後ろ向き傾向スコア解析で,ホルモン療法はアルツハイマー病のリスクを高めるという報告もある28)。現時点ではホルモン療法が認知機能に及ぼす影響は明らかでない。

:本邦では前立腺癌またはホットフラッシュに対する保険適用はない。
**:本邦での適応疾患は骨粗鬆症であり,骨粗鬆症の予防または骨折の予防としての保険適用はない。
***:本邦では骨粗鬆症または転移のない前立腺癌に対する保険適用はない。

(いずれも2016 年1月1日現在)

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14 去勢抵抗性前立腺癌(新規ホルモン薬,化学療法薬)

総論

本邦の去勢抵抗性前立腺癌(castration resistant prostate cancer;CRPC)治療は2014 年より大きく変化しつつある。新規アンドロゲン受容体(AR)シグナル阻害薬である第2世代の抗アンドロゲン薬であるエンザルタミド,CYP17A 阻害薬であるアビラテロン,タキサン系の新規抗癌剤であるカバジタキセルが上市されたからである。

ドセタキセルはCRPC に対する治療の基本となる薬剤であるためCQ1 で取り上げた。新薬3剤の最初の第Ⅲ相大規模臨床試験はドセタキセルに抵抗性となったCRPC 患者を対象に行われた1-3)。その後エンザルタミド,アビラテロンの臨床試験がドセタキセル投与前のCRPC 患者に行われた結果,適応が拡大され,ドセタキセル使用前でも広く使用されつつある5)。CQ として問われている3剤の有効性はグローバルでの第Ⅲ相試験と国内での第Ⅰ・Ⅱ相試験のエビデンスから推奨グレードA とした6-8)。エンザルタミドについてはCQ2,アビラテロンについてはCQ3 を参照されたい。カバジタキセルはドセタキセル後にのみ推奨されている(CQ4 参照)。それぞれの薬剤についての解説では,有効性の根拠とこれまでは大きく取り上げられてこなかった日本人での有害事象にもスポットを当てている。具体的には,エンザルタミドの疲労・血小板減少,アビラテロンの肝機能障害・体液貯留,カバジタキセルの発熱性好中球減少症(febrile neutropenia;FN)と間質性肺炎等である。カバジタキセルの投与においては持続型の顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)製剤の予防投与が推奨される9)

2012 年版の『前立腺癌診療ガイドライン』では“ドセタキセル/prednisone 治療はCRPC に対する標準的治療であるが,ドセタキセル抵抗性となった後の治療方法の研究が必要である”と記載されている。後治療の選択肢はなく,2014 年以前の臨床での課題は,「ドセタキセルをいつまで続けるか?」だったのが,「ドセタキセル後にどの薬剤を使用するか?」あるいは「ドセタキセル使用前に使用すべき薬剤の選択肢があるか?」に変化したといえる。抗アンドロゲン除去症候群(anti-androgen withdrawal syndrome;AWS)を確認する,あるいは抗アンドロゲン薬の交替療法を行うことが日常臨床のルーチンだったが,2014 年のEuropean Association of Urology(EAU)のガイドラインではすでにCRPC の定義においてAWS の確認は必須ではなくなっている10)。一方,PSA値の上昇とは独立して,転移巣の増悪あるいは新規病変の画像診断での出現がCRPC の定義に加わった11-13)。この背景にはPSA 値の変化だけでは把握できない前立腺癌の増悪が指摘されるようになったことがある**。アンドロゲン依存性前立腺癌の指標であるPSA 値の上昇とは同調しない癌の増殖が指摘され,抗癌化学療法の早期の導入が示唆されている14)。つまり,アンドロゲン依存性と非依存性の前立腺癌が混在しているheterogeneity(不均一性)が臨床で考慮されるようになったといえる。

癌は増殖,進展の過程で様々な特徴を有する癌細胞が発生し,薬剤感受性も一様ではない1516)。様々な癌で指摘されている癌の生物学的特徴はその不均一性であり,癌の難治性の最大の原因である。この不均一性の解明に向けての挑戦がバイオマーカー探索といえる。前述したPSA 検査と画像診断あるいは疼痛等の症状に加え,乳酸脱水素酵素(LDH),アルカリホスファターゼ(ALP),C反応性タンパク(CRP)等も癌の病勢の判断材料として加わってきている121317)。この現状に鑑み,CQ5 であえて「評価方法」を取り上げたのも,バイオマーカー探索は基礎研究と臨床をつなぎ,近未来の臨床を変える可能性を秘めているからである。リキッドバイオプシーという概念が浸透してきたことに代表される血中循環腫瘍細胞(circulating tumor cell;CTC)やcell free DNA(cfDNA)の検出は,刻々と変化する癌の病態をリアルタイムで評価しようとする試みである18)。治療抵抗性のバイオマーカーとしてAR のsplice variant であるAR-V7 が話題になっているが,コンパニオン診断(医薬品の効果や有害事象を投薬前に予測するために行われる臨床検査)として確立するための道のりは遠い1920)

また,治療の選択肢が増えた際には逐次療法あるいは併用療法の可能性が常に話題となる。併用療法は有害事象と経済性の問題があり,その欠点をしのいでの根治性あるいは有効性が担保されないと標準治療とはならない。CRPC においてはそこまでのエビデンスは現在においては存在しない。現在我々が悩んでいるのはCQ6 で取り上げた逐次療法である。効かなくなった際の次の一手はどの薬剤か,という問題である。エンザルタミドとアビラテロンに交叉耐性があることが指摘されているので参考にはなるが,確立された逐次療法は存在しない21)。ここでも前立腺癌の不均一性を考慮する必要がある。アンドロゲン依存性と非依存性の前立腺癌の混在を考慮し,どちらが優勢であるかを判断の指標にする。CRPC の不均一性を根拠に薬剤のポジショニングを考慮する時代が訪れたことを強調したい。さらには,より簡便に施行できる日常診療に応用可能なバイオマーカーの発見が期待されている。

2012 年版の『前立腺癌診療ガイドライン』ではホルモン療法後のPSA 値でみた病勢進行について,“4週以上空けて測定したPSA 値が最低値から25%以上,かつ上昇幅2.0ng/mL 以上により定義される” と『前立腺癌取扱い規約』(2010 年)を踏襲して記載されている。
**
最近の欧米諸国のガイドラインでのCRPC の定義とPSA 値について:
EAU のガイドラインでは,血清テストステロン値が50ng/dL未満で,①1週間以上の測定間隔でPSA 値が3回連続で上昇し,最低値から50%以上の上昇が2回みられた場合,かつPSA 値が2.0ng/mL 以上,もしくは②画像上の増悪や新規病変の出現,と定義されている。
Prostate Cancer Working Group 2(PCWG2)(2008 年)におけるPSA 値でみた病勢進行の基準は,1週間以上の測定間隔でPSA 値が連続で上昇,かつPSA 値が2.0ng/mL以上,と定義されている。PCWG3(2015 年) ではPSA 値が1.0ng/mLに変更された。

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CQ1
去勢抵抗性前立腺癌に対する治療としてドセタキセルは推奨されるか?
また投与する際の至適投与方法,注意すべき有害事象にはどのようなものがあるか?

推奨グレードA
転移性去勢抵抗性前立腺癌に対する治療としてドセタキセルは70〜75mg/m2の3週毎+プレドニゾロン10mg の連日併用投与が推奨される。注意すべき有害事象としては血液毒性として好中球減少症と貧血が,非血液毒性として脱毛,食欲不振,全身倦怠感,末梢神経障害,爪の変化,味覚障害,浮腫等が挙げられる。有害事象は発現の時期や用量依存と関連があり,注意が必要である。

背景・目的

ドセタキセルは2004 年にTAX327 試験1)で75mg/m2+ prednisone 10mg 連日併用の有用性が報告されて以来,転移性CRPC(metastatic CRPC;mCRPC)に対する国際的な標準治療として位置付けられてきた。本邦では国内最高用量であった70mg/m2を用いて第Ⅱ相試験(ARD6562 試験2))が行われ,その臨床成績と海外のエビデンスに基づいて2008 年に75mg/m2を承認用量として保険適用となり,現在に至っている。現在,広く日常で使用されるようになったドセタキセルについて有用性,至適投与方法,有害事象を検証する。

解説

ドセタキセルはmCRPC 患者を対象として海外で行われた2つの無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)(TAX327 試験・SWOG9916 試験)において延命効果が認められたことにより,国際的な標準治療として位置付けられてきた3)。本邦においてもプレドニゾロンを併用薬とする第Ⅱ相試験(ARD6562試験)2)の臨床成績に基づき,2008 年に承認されて以降はmCRPC に対するファーストラインの標準治療となった。現在までに様々な投与量,投与間隔,併用薬によるレジメンが報告されているが,エストラムスチンを併用薬としたSWOG9916 試験ではGrade 3 以上の心血管系の有害事象が多く認められたこともあり3),現在ではTAX327 試験で使用された糖質コルチコイドとの併用がスタンダードとなっている。本邦においては承認用量もしくは第Ⅱ相試験の用量である70〜75mg/m2 を3週毎+プレドニゾロン10mg の連日併用による投与が推奨されている。

ドセタキセル導入の至適タイミングに関連して,mCRPC の患者背景は非常に不均一であることから,ドセタキセル療法開始時の患者の状態から,いくつかの因子を用いたリスク分類が提唱されている4)。TAX327 試験のサブ解析から,ドセタキセル投与後12 週以内のPSA 値の30%以上の低下は生存に関する予後予測因子で,内臓転移,疼痛,貧血,骨転移の増悪の4つの因子が多変量解析の結果から得られており,その保有数に応じた予後の階層化が報告された。本邦における後ろ向き研究においても,同様の傾向が報告されている5-7)。これらの結果は,病勢進行が顕著ではない段階においてドセタキセルが導入された場合に,より効果が期待できることを示唆している。アビラテロン投与後のドセタキセル療法については,後ろ向き研究に限られるが,PSA 奏効率が低い傾向にあるとの報告がある一方で9),前治療のアビラテロンに影響を受けないとの報告もある10-12)。エンザルタミド投与後のドセタキセル療法についてはまとまった報告はなく,本邦においては新規AR シグナル阻害薬とドセタキセルの臨床的意義および適切な導入タイミングの検討が必要である。

ドセタキセルの投与サイクルに関して,本邦では2014 年の新規AR シグナル阻害薬登場前までの間,有効性が認められ有害事象がコントロールされる症例では10 サイクルを超えて継続投与される症例も少なくなく,実際,毒性は管理可能なものであることが示されている13)。ドセタキセル投与初期における留意事項として,患者の約10%にPSA 値の一過性の上昇(PSAフレア)が投与初期に認められることがある14-17)。本邦における市販後調査ではPSA フレアが19%に認められ,出現の中央値が26 日(9〜157 日),持続期間の中央値は39.5 日(21〜175 日)であった16)。初期に認められるPSA フレアは予後や生存に影響を及ぼさないことが示されており,病勢進行と間違って解釈しないことが重要で,臨床症状の悪化や有害事象が認められない限り,少なくとも12 週間以上は継続することが推奨される。ドセタキセル中止のタイミングは,新規AR シグナル阻害薬が登場した現在において,明らかな病勢進行,容認できない有害事象等を総合的に判断するのが適切であるが,至適な交替のタイミングについては今後の検討を待たねばならない。

本剤の用量規制因子(dose limiting factor;DLF)は好中球減少症であり,本剤の使用により重篤な骨髄抑制(主に好中球減少)を生じ得る。本邦においてはGrade 3以上(1,000/mm3未満)の好中球減少症が93%に発現し,nadir は8〜11日(中央値9日)で,1〜5日間持続し,回復までの期間は5〜9日間と報告されている1618)。他の有害事象の中で初回投与から数週間のうちに発現しやすいものとして,食欲不振,全身倦怠感,便秘,下痢がある。便秘は腸管運動の抑制によるとされ,下痢はドセタキセルに起因するのみでなく患者の病態によって左右される。また,初回投与から数カ月後に発現しやすい有害事象として,脱毛,末梢神経障害,爪の変化,味覚障害,浮腫等がある。ドセタキセルによる浮腫はfluid retention syndrome と呼ばれ,毛細血管透過性の亢進が主たる原因で総投与量と関連するとされる19)。投与量に依存して末梢神経障害の発現頻度が増加し,休薬によって消失するとされているが,回復が遷延し,時には不可逆的でQOL 低下の要因となることがある1316)。報告は限られているが,有害事象の軽減やQOL の改善を念頭においた間欠的投与が試みられている。休薬期間を設けることで,標準治療と同等の有効性を保持しつつ,有害事象が軽減されることが示唆されている。間欠的投与に関するベネフィットや休薬期間,再開基準等を明確にするためにはさらなる検討が必要であるが,投与初期に奏効を認めた患者では休薬期間を設けることでQOL に対する有益な効果が得られたと報告されており,症例によっては考慮され得る投与法である2021)

本邦では高齢のmCRPC 患者も多く,75 歳以上の後期高齢者に対してもドセタキセルが投与されている現状がある。本邦の第Ⅱ相試験において75 歳以上は除外されていたため,高齢者に対する有効性や安全性について特定使用成績調査や後ろ向き研究が行われてきたが1622-24),70〜75mg/m2のレジメンでの有効性について暦年齢による有意な差は検出されておらず,有害事象においては好中球減少症や間質性肺炎の発現頻度が高齢者に高い傾向にあった。市販後の特定使用成績調査におけるドセタキセルの投与量について,年齢が考慮されて最初から減量調整がなされていた症例はPSA奏効率が低かったこともあり16),年齢のみで安易に減量するのではなく,International Society of Geriatric Oncology(SIOG)が推奨する3つの指標(合併症・ADL/手段的ADL(IADL)・栄養状態)等を参考にして健康状態を評価し,リスク・ベネフィットバランスに基づき,有害事象の発現状況等を考慮して,患者毎に用量を調整することが求められてくる2526)。CRPC に対するドセタキセル投与ではFNの発現率が約10〜20%であることから,特に65 歳以上の高齢者等,FN 発症または重症化のリスクが高いと考えられる因子をもつ患者に対しては予防的なG-CSF 製剤の使用も推奨される2728)

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CQ2
去勢抵抗性前立腺癌に対する治療としてエンザルタミドは推奨されるか?
また注意すべき有害事象にはどのようなものがあるか?

推奨グレードA
エンザルタミドは対照群(プラセボ)と比較して,ドセタキセル治療後の患者に対する全生存期間を有意に延長した。ドセタキセル治療前の患者に対しても画像上の増悪までの期間および全生存期間を有意に延長し,去勢抵抗性前立腺癌に対する治療薬として推奨される。

注意すべき有害事象として疲労感,食欲不振,脱力感等があるが,多くはGrade 1〜2 であり,比較的安全性が高い。しかし,稀ではあるが重篤なものとして血小板減少,痙攣がある。治療開始後4週間は慎重に経過観察すべきである。

背景・目的

mCRPC に対するドセタキセル以来の新規治療薬としてエンザルタミド,アビラテロン,カバジタキセルが本邦でも相次いで承認され,日常臨床にも使われるようになってきた。エンザルタミドは①AR へのリガンド結合抑制,②AR 核内移行の阻害,③AR のDNA 結合およびcofactor 集合阻害等のARシグナル抑制効果により増殖活性を抑制する新規抗アンドロゲン薬であり1),従来の非ステロイド性抗アンドロゲン薬とは一線を画する薬剤2)である。本項ではエンザルタミドの有効性とともに耐性メカニズムや注意すべき有害事象について検討する。

解説

エンザルタミドの半減期は5.8 日で,血中濃度は約4週間で定常状態となる4)。軽度〜中等度の腎機能障害(クレアチニンクリアランス30〜89mL/分)の患者におけるエンザルタミド投与後の見かけのクリアランスは,腎機能正常患者と同様であった。また,肝機能障害者(ボランティア,Child-Pugh 分類A/B)において,エンザルタミド投与後のエンザルタミドと活性代謝物の合計の血中濃度時間曲線下面積(AUC)は肝機能正常者(健常者)と同様であった4)。以上のことから,これらの患者に対する用量調整の必要はない。

Scher らはmCRPC 患者140 例に対するエンザルタミド(開発コード:MDV3100)の安全性と忍容性の検討を目的とした第Ⅰ・Ⅱ相試験を行い,良好な抗腫瘍効果と安全性を認め,最大耐用量(maximum tolerated dose;MTD)は240mg/ 日であったと報告している3)。AFFIRM 試験はドセタキセル治療後のmCRPC 患者1,199 例を対象とした試験で,エンザルタミド群とプラセボ群を2:1に無作為割り付けし,主要エンドポイントを全生存期間とした第Ⅲ相二重盲検RCTである5)。全生存期間の中央値はエンザルタミド群で18.4 カ月,プラセボ群で13.6 カ月であり,エンザルタミド群はプラセボ群と比べて全生存期間を有意に延長し,死亡リスクを37%低下させた(ハザード比:0.63(p < 0.001))。

副次エンドポイントに関しては,PSA 値の50%以上の低下がプラセボ群2%に対してエンザルタミド群で54%の症例で認められた(p<0.001)。エンザルタミド群の25%の症例において,PSA 値が90%以上の低下を示した。生化学的増悪までの期間の中央値は,プラセボ群3.0 カ月に対しエンザルタミド群8.3 カ月と有意に延長していた(ハザード比:0.25(95%CI:0.20〜0.30,p < 0.001))。測定可能病変を有する患者は,プラセボ群208 例(52%),エンザルタミド群446 例(56%)であったが,そのうち軟部組織病変の客観的な奏効率は,完全奏効または部分奏効を合わせてプラセボ群4%に対しエンザルタミド群29%と有意に良好であり(p<0.001),画像上の無増悪生存期間の中央値はプラセボ群2.9 カ月に対してエンザルタミド群8.3 カ月と有意に延長していた(ハザード比:0.40(95% CI:0.35〜0.47,p <0.001))。FACT-P に基づくQOL 奏効率は,プラセボ群18%に対してエンザルタミド群で43%と有意に改善していた(p < 0.001)。骨関連事象(skeletal related events;SRE)の初回発生までの期間の中央値は,プラセボ群13.3 カ月に対してエンザルタミド群16.7 カ月と有意に延長していた(ハザード比:0.69(95%CI:0.57〜0.84,p < 0.001))。AFFIRM 試験では,エンザルタミド群で発現率の高かった副作用は疲労(21.5 %),悪心(20.1 %),ほてり(15.0%),食欲減退(12.6%),無力症(10.0%)であり,痙攣は5例(0.6%)であった。

PREVAIL 試験はドセタキセル治療前のmCRPC 患者1,717 例を対象とした試験で,治療群とプラセボ群を1:1に無作為割り付けし,画像上の無増悪生存期間と全生存期間を主要エンドポイントとした第Ⅲ相二重盲検RCT である6)。全生存期間については,プラセボ群における全生存期間の中央値30.2 カ月(95% CI:28.0〜到達せず)に対して,エンザルタミド群では32.4 カ月(95% CI:30.1〜到達せず)で,エンザルタミド群で有意な全生存期間の延長が示された(ハザード比:0.71(95% CI:0.60〜0.84,p < 0.001)。画像上の無増悪生存期間の中央値は,プラセボ群3.9 カ月に対してエンザルタミド群は中央値に到達しなかった(ハザード比:0.19(95% CI:0.15〜0.23,p < 0.001))。QOL,疼痛,SRE 発生率についてもエンザルタミドの優越性が報告されている7)

治療当初からエンザルタミドが無効(primary resistance)である例がAFFIRM 試験において約25%認められ5),また当初反応性があった症例もその後抵抗性(secondary resistance)を獲得する。その機序として,①AR点突然変異によるエンザルタミドのアゴニスト化8),② AR リガンド結合部位が欠損した変異型AR の出現9),③グルココルチコイド受容体の発現亢進10),等が報告されている。エンザルタミド中止後のAWS の有無の検討では,30 例中2例にPSA 値の低下を認めたとの報告がある11)

Enzalutamide Expanded Access Program(EAP)の有害事象の報告では, 疲労感(全Grade/Grade 3 以上:39.1/9.9%),嘔気(22.7/2.4%),食欲不振(14.8/1.6%)が最も頻度の高い有害事象であり,痙攣を0.8%に認めている12)。有害事象の発症時期は,本邦におけるエンザルタミドの有害事象をまとめた市販後調査13)において,疲労感,食欲不振が2週間以内,疲労感,倦怠感が4週間以内に約半数が出現しており,同薬の血中濃度が定常状態に達する時期(4週)3)とほぼ一致している。特に75 歳以上の発現率は悪心26.7%,疲労感20%,食欲不振40%と高い。また,添付文書が改訂され血小板減少が追加された。ほとんどの症例において有害事象は投与2週間以内に出現している。投与開始後2〜4週間は,血液検査を含めて慎重な経過観察が必要といえる。痙攣は発症頻度1%未満ながら重篤な合併症であり,1日投与量240mg 以下の群0%,360mg 群4%,480mg 群5%,600mg 群33%と用量依存性である3)。特に痙攣や脳梗塞の既往がある患者,脳転移症例,アルコール大量摂取者等5)に対しては慎重に投与すべきであろう。

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CQ3
去勢抵抗性前立腺癌に対する治療としてアビラテロンは推奨されるか?
また注意すべき有害事象にはどのようなものがあるか?

推奨グレードA
転移のある去勢抵抗性前立腺癌に対して,化学療法前あるいは化学療法後のアビラテロン+prednisone併用療法は,全生存期間や画像上の無増悪生存期間延長等の有効性を示し,推奨される。
有害事象には,肝機能障害や体液貯留,心血管系障害等があり,注意が必要である。

背景・目的

進行性前立腺癌に対して,テストステロンを減少させるアンドロゲン除去療法(androgen deprivation therapy;ADT),あるいはそれに抗アンドロゲン薬を併用するホルモン療法が行われる。しかし,多くの症例が数年後にはCRPCになる。本邦のCRPC 治療は,抗アンドロゲン薬の交替療法やエストロゲン薬等を使用する二〜四次ホルモン療法やドセタキセルによる化学療法が行われてきた。アビラテロンはアンドロゲン合成阻害薬であり,CRPC 治療薬としての有用性について検証する。

解説

アビラテロンは,コレステロールからアンドロゲンへの合成経路のうち,代謝酵素CYP17A を選択的に阻害して,アンドロゲン合成を抑制する。LH-RH 製剤によるADTよりも,アビラテロンを追加することによってさらに血中および組織中のアンドロゲン濃度を減少させる1)。つまり,すでにADT を受けているCRPC 患者の血中アンドロゲン濃度を下げることによって治療効果を示す。

海外において,化学療法後(主にドセタキセル治療)のmCRPC を対象とした二重盲検の,プラセボを対照とした多施設の大規模第Ⅲ相試験が行われた(COU-AA-301 試験)2)。この試験は,アビラテロン1,000mg+prednisone 10mg/日とプラセボ+ prednisone 10mg/日の投与群を2:1の割り付けで,1,195 例が組み入れられた。中間解析では,中央値12.8 カ月の観察期間で主要エンドポイントの全生存期間はアビラテロン群が14.8 カ月,プラセボ群は10.9 カ月(ハザード比:0.65(p<0.001))であった。生化学的無増悪生存期間は,アビラテロン群が10.2 カ月,プラセボ群が6.6 カ月であった。最終解析では,中央値20.2 カ月の観察期間で,全生存期間はアビラテロン群が15.8 カ月,プラセボ群が11.2 カ月(ハザード比:0.74(p<0.0001))であった3)。生化学的無増悪生存期間は,アビラテロン群が8.5 カ月,プラセボ群が6.6 カ月であった。画像上の無増悪生存期間は,アビラテロン群が5.6カ月,プラセボ群は3.6カ月であった。また,PSA 奏効率(PSA 値の50%以上の低下)は,アビラテロン群が29.5%,プラセボ群が5.5%であり,いずれもアビラテロン群の有意な改善を認めた。さらに,アビラテロン群ではプラセボ群に比べ有意に倦怠感の減少4)や骨痛の改善5),QOL の改善6)を示した。COU-AA-301 試験のサブ解析では,アビラテロン群およびプラセボ群ともに治療開始時の血中アンドロゲン値(テストステロン,アンドロステンジオン,デヒドロエピアンドロステロン)が中央値よりも高い症例群は,低い症例群よりも有意に全生存期間の延長が認められた7)。また,血中アンドロゲン値の高低に関係なく,アビラテロン群はプラセボ群よりも全生存期間の有意な延長があった7)。その他,年齢(75 歳未満,75 歳以上)や臓器転移の有無に関わらず,アビラテロン群はプラセボ群と比べて全生存期間や画像上の無増悪生存期間の有意な延長を認めている9)

化学療法前のCRPC 症例(1,088 例)を対象に,アビラテロン1,000mg+prednisone 10mg/日の投与群とプラセボ+prednisone 10mg/日の投与群を1:1の割り付けで大規模第Ⅲ相試験が実施された(COU-AA-302 試験)。全例がホルモン療法後にAWS を確認した症例であり,主要エンドポイントは全生存期間と画像上の無増悪生存期間であった。中間解析の結果,画像上の無増悪生存期間の延長10)や疼痛,QOL の改善11)がアビラテロン群で有意に認められた。最終解析の結果では,全生存期間はアビラテロン群の中央値が34.7 カ月,プラセボ群は30.3 カ月(ハザード比:0.81(p = 0.0033))であった12)。プラセボ群の44%が後続治療でアビラテロン治療を受けているにもかかわらず,全生存期間に有意差を認めた。さらに,化学療法の導入,performance status(PS)の悪化,癌性疼痛に対するオピオイド使用,生化学的無増悪生存期間はそれぞれ,アビラテロン群がプラセボ群に比べて有意に延長していた。PSA 奏効率は61.5%と23.8%であり,アビラテロン群が有意差をもって良好であった12)。主要エンドポイントの全生存期間と画像上の無増悪生存期間は強い相関が確認された13)

2つの海外第Ⅲ相試験とも,アビラテロンの忍容性は高かった。COU-AA-302 試験の有害事象の中で,倦怠感や関節痛等はアビラテロン群とプラセボ群で大きな差はなかった。鉱質コルチコイド過剰の有害事象では,体液貯留や低K 血症,心臓障害等,両群間で僅かな差でしかなかった。肝機能障害のALT およびAST 上昇は12% vs 5%,11% vs 5%であり高率ではなかったが,注意すべき有害事象である。

国内では第Ⅰ相試験(JPN-102 試験)14)が行われ,アビラテロン250/500/1,000mg の用量漸増コホート研究の結果,MTD が1,000mg と設定された。最高血中濃度到達時間は2〜3時間であり,アビラテロン単独投与によって,血中コルチコステロンの上昇とテストステロンおよびデヒドロエピアンドロステロンの急激な減少を認めた14)。このあと,化学療法未治療のmCRPC 症例(48 例)を対象とした国内第Ⅱ相試験(JPN-201 試験)が行われた15)。非盲検の単一試験で,アビラテロン1,000mg+プレドニゾロン10mg/日が投与された。サイクル投与数は中央値で6.0(2〜9)であった515)。主要エンドポイントのPSA 奏効率は29/48 例(60.4%)であり,副次エンドポイントの画像上の無増悪生存期間は中央値で253 日であった。画像上の腫瘍縮小効果は,部分奏効(PR)が4 /18 例(22.2%),不変(SD)が11/18 例(61.1%)であった。ドセタキセル治療後のmCRPC 症例を対象とした国内第Ⅱ相試験(JPN-202 試験)のPSA 奏効率は13/46 例(28.3%)であり,海外の第Ⅲ相試験(COU-AA-301 試験)に比べて低い結果であった16)。本邦におけるアビラテロンの全生存期間に対する効果は,今後の結果を待たねばならない。なお,JPN-201 試験の有害事象として,肝機能障害が37.5%(Grade 3 は10.4%)にみられ,Grade 3 の高血圧は1例のみであった15)。JPN-202 試験での肝機能障害は,10/47 例(21.3%),Grade 3 は8.5%であり,鉱質コルチコイド関連の有害事象の発症はすべてGrade 2 以下であった16)

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CQ4
ドセタキセル療法再燃後の去勢抵抗性前立腺癌に対する治療として,カバジタキセルは推奨されるか?
またカバジタキセルを投与する際の至適投与方法,注意すべき有害事象にはどのようなものがあるか?

 

推奨グレードA
ドセタキセル療法後の進行性去勢抵抗性前立腺癌に対して,カバジタキセルは25mg/m2の3週毎の投与で全生存期間の延長が証明されており,推奨される。至適投与方法は上記の標準用法に従うことが基本であるが,患者の併存疾患や年齢,有害事象の発現状況に応じて個別に対応すべきである。カバジタキセル投与に関連した有害事象として,血液毒性では好中球減少症が必発であり注意が必要である。発熱性好中球減少症の予防のため,リスク因子を有する患者においてはG-CSF 製剤の一次予防投与が推奨される。非血液毒性として下痢,肝機能障害,間質性肺炎が挙げられる。これらの有害事象対策を準備したうえでのカバジタキセルの開始が推奨される。

背景・目的

mCRPC に対する一次化学療法としてドセタキセルが標準治療となっているが,ドセタキセル抵抗性の患者に対する二次化学療法として,同じタキサン系抗癌剤であるカバジタキセルが2014 年に承認された。有害事象として重篤な骨髄抑制,特に好中球減少症とFN の発現頻度が高く,注意が必要である。カバジタキセルの有用性と投与方法,有害事象について検証する。

解説

カバジタキセルは静注製剤で,ドセタキセルの側鎖を修飾した約450 種類の化合物のスクリーニングから同定され,チューブリンの重合を促進し,微小管を安定化することにより細胞分裂を阻害する抗癌剤である1)。本邦を除く国際共同第Ⅲ相試験(TROPIC 試験)2)と本邦での第Ⅰ相試験の結果を基に承認された4)。TROPIC 試験では,ドセタキセルによる治療歴を有するmCRPC 患者755 例を対象にprednisoneまたはプレドニゾロン10mg/日との連日経口投与併用で,3週毎のカバジタキセル25mg/m2とミトキサントロン12mg/m2が1:1で割り付けられ,10 サイクルを上限として投与された。患者背景に群間差は認められなかったが,約半数の患者は測定可能病変を有していた。主要エンドポイントは全生存期間であり,中央値はカバジタキセル投与群で15.1 カ月,対照群(ミトキサントロン投与群)で12.7 カ月であり,カバジタキセル投与群の全生存期間は対照群と比較して有意に延長していた(ハザード比:0.70(95%CI:0.59〜0.83,p<0.0001))。2013 年に発表されたupdate では2年生存率は対照群16%に対しカバジタキセル投与群で27%であった(ハザード比:0.72)。副次エンドポイントとして,PSA 奏効率は39.2%と17.8%であった。主な有害事象(全Grade)は,下痢36.4%,疲労29.6%,悪心28.6%,好中球減少症21.8%,嘔吐15.4%,無力症15.4%,食欲減退12.4%,味覚異常10.2%等で,このうちGrade 3以上の主な有害事象は好中球減少症21.3%,FN 7.5%,下痢5.1%,疲労3.8%等であった。

国内第I相臨床試験(TED11576)では,ドセタキセルによる化学療法歴を有する74 歳以下のCRPC 患者を対象として,プレドニゾロン10mg/日経口投与との併用でカバジタキセルが投与され,MTD は25mg/m2であった4)。用量設定試験に引き続き行われた44例による拡大コホートにおいて,Response Evaluation Criteria in Solid Tumors(RECIST)に準拠した抗腫瘍効果は16.7%(2/12 例)に認められ,PSA 奏効率は29.3%(12/41 例)であった4)。全Grade の主な血液毒性は好中球減少症44例(100%),FN 24 例(54.5%),貧血11 例(25%)に認め,FN は時に重篤化するため注意が必要ある。全Grade における非血液毒性は疲労24例(54.5%),悪心21 例(47.7%),下痢20 例(45.5%),食欲減退16 例(36.4%),味覚異常12 例(27.3%)等であった。このうちGrade 3 以上の主な有害事象は,疲労3 例(6.8%),悪心3 例(6.8%),下痢2例(4.5%),食欲減退2例(4.5%)等であった。間質性肺炎はTROPIC 試験で報告されていないが国内第I相臨床試験(安全性評価対象集団44 例)では1例報告されており,発売後に実施された特定使用成績調査(2014年9月4日~2015年3月3日)においても9/253 例(約3.6%)報告されている。重篤な有害事象として報告された6例中2例が死亡していることから,合併症および既往歴の確認に加えて十分な肺機能検査を実施すべきであり,積極的に投与を控えることも念頭において投与の可否を判断する必要がある。ドセタキセルにおいて比較的多い有害事象である末梢神経障害,脱毛,浮腫については頻度,程度ともに低いことが示唆されており5),これらの有害事象のためにドセタキセルが中止もしくは継続困難となりつつある症例では,カバジタキセルにより同様の有害事象が回避できる可能性がある。カバジタキセルは主に肝臓で代謝され,主な代謝酵素はCYP3A が関与する。肝機能障害を有する患者では禁忌である。母集団薬物動態解析において,軽度(クレアチニンクリアランス50~80mL/分)〜中等度(クレアチニンクリアランス30~50mL/分)の腎機能障害患者では腎機能正常患者と比べ薬物動態に大きな影響は認めなかったと報告されている7)

カバジタキセルはドセタキセル後に有効であることが示されているが,エンザルタミドやアビラテロンの使用後の有効性については前向きな検討は報告されていない。Pezaro らはドセタキセル後にアビラテロンやエンザルタミドが投与された41 例に対してカバジタキセルが投与された後ろ向き研究を報告している8)。39%にPSA 奏効(PSA値の50%以上の低下)を認め,抗腫瘍効果は14%で全生存期間中央値は15.8 カ月であった。アビラテロンにおいてPSA 奏効が得られなかった症例でも,49%と半数近くの症例でPSA 奏効を認めていた。またAl Nakouzi らはドセタキセル後にアビラテロンが投与された79 例に対するカバジタキセルの成績を報告している9)。35%にPSA 奏効(PSA 値の50%以上の低下)を認め,全生存期間中央値は10.9 カ月であったと報告している。基礎的知見におけるタキサン系薬剤と新規AR シグナル阻害薬との交叉耐性に関する賛否はあるものの9-11),限られた臨床的知見からは新規AR シグナル阻害薬との交叉耐性はあっても弱く,新規AR シグナル阻害薬後の治療としてカバジタキセルは推奨される。ただし,TROPIC 試験ではPS 2 の患者群において生存期間の延長が認められておらず,重篤な骨髄抑制も危惧されることから,カバジタキセルは全身状態が良好で臓器機能が保たれている状態で導入する必要があり,そのタイミングや適応についてはPSA 検査,画像診断や疼痛等の症状出現の有無を総合的に判断することが求められる。初期投与後にPSA値が一過性に上昇するPSA フレアはドセタキセルと同様カバジタキセルでも投与初期に認められることがあり,2.6 カ月以内に8.3〜30.6%の患者で経験されたと報告されている12)

カバジタキセルの有害事象の特徴は,前治療のドセタキセルによる骨髄抑制の発現状況から予測し得ない重篤な骨髄抑制であり,好中球減少症は100%,FN は54.5%に認められると報告されている4)。好中球減少症の発現時期について,G-CSF 製剤を投与した患者群におけるnadir は6〜16 日(中央値9日)で,1,500/mm3に回復するまでに1〜22 日間を要すると報告されている。65 歳以上と高齢である等,対象患者がすでにFN のリスク因子を有している場合が多く,その発現率が50%を超えるカバジタキセルではG-CSF 製剤の一次予防投与が推奨される。海外においては予防的にG-CSF 製剤を投与することでGrade 3 以上の好中球減少症(FN含む)の発症リスクを7.39 倍まで減少させるとの報告もある13)。2014 年より持続型G-CSF 製剤であるペグフィルグラスチムが投与可能となり,本製剤の一次予防としての使用が考慮される。予防的な持続型G-CSF 製剤の意義についても現在本邦で前向きの検証が進められている。

本邦における第Ⅰ相試験において75 歳以上の後期高齢者は除外されたが,実地臨床においては高齢のCRPC 患者が比較的多く,そうした患者に対してもカバジタキセルが投与されている実状がある。至適投与方法・投与濃度については今後の検討が必要で,年齢のみで安易に減量するのではなく,合併症やPS,栄養状態を適切に評価し,患者の利益・不利益,有害事象の発現状況等を考慮して,患者毎に用量を調整することが求められている1415)

現在,カバジタキセルの至適投与量の再検証のため,ドセタキセルによる治療歴を有するmCRPC 患者を対象とした25mg/m2 と20mg/m2によるRCT(PROSELICA 試験)が行われている。また,mCRPC に対するカバジタキセルの一次化学療法における意義と減量投与による効果を検証するため,本邦も含めたグローバル試験(FIRSTANA試験)が行われており,ドセタキセル75mg/m2に対するカバジタキセル25mg/m2と20mg/m2の臨床成績が待たれる。

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CQ5
ドセタキセルやカバジタキセルならびに新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬(エンザルタミド・アビラテロン)の投与開始の判断あるいは効果判定のために,どのような評価方法(バイオマーカー,画像診断等)が推奨されるか?

推奨グレードC1
去勢抵抗性前立腺癌に対するドセタキセルやカバジタキセルならびに新規アンドロゲン受容体シグナル阻害薬の投与開始の判断や治療効果判定の方法に関する明確な基準は存在しない。PSA をはじめとした血液マーカーや一般的な画像検査所見,患者状態(全身状態,疼痛の有無,臓器転移の有無等)の評価等を総合して症例毎に判断しているのが現状である。今後いくつかの新しいバイオマーカーや画像検査法の応用が期待されている。

背景・目的

本邦では2014 年以降CRPC に対して新しい治療薬が使用可能となり,現在その治療成績が蓄積されている。アビラテロン,エンザルタミドはドセタキセル使用前後のCRPC に投与が可能であり,カバジタキセルはドセタキセル抵抗性となったCRPC に投与可能である。これらの薬剤投与開始の判断や治療効果判定はPSA を中心とする血液マーカーと画像検査所見に基づいて決定されるが,具体的にどのような評価法があるかを検証する。

解説

薬剤の投与開始にあたって,まず血清テストステロン値,PSA 値,および画像所見に基づいたCRPC の診断が前提となる。施行すべき画像検査の種類については特に規定されていないがCT,MRI,骨シンチグラフィーが一般的であり,一部18F-FDG PET/CT も実施されている。各薬剤の投与開始についての明確な基準は存在せず,開始判断の決め手となる予測因子は現在のところ見当たらないが,これまでCRPC に関する種々の予後予測因子の報告があり,判断の参考になる。たとえばLDH,ヘモグロビン(Hb),ALP をはじめとする骨代謝マーカー等,従来から報告されているものや,CTC 数等である1-4)。またPSA 値は実測値のほかにPSA 倍加時間等のPSA 動態がその後の治療による生存率に関連することが報告されており5),薬剤選択や治療開始の参考になる。また内臓転移(特に肝転移)は予後不良因子とされ6),画像検査による内臓転移を含む新規病変の出現や増悪は化学療法薬選択の動機となり,PS や症状の有無も治療開始時に考慮される因子である。さらに最近の研究では,ARのsplicing variant form の中で特にAR-V7 は,CTC での陽性症例において新規AR シグナル阻害薬のPSA 奏効率が顕著に低下し7),一方ドセタキセルやカバジタキセルはその有無に関わらず効果を示すことが報告されており8),薬剤の選択において有用なバイオマーカーの1つとして期待される。また前立腺癌初期診断時の生検組織や手術標本,あるいは治療後の転移巣組織におけるAR-V7 やCYP17,AR の発現の多寡や転写因子ETS ファミリーERG の遺伝子異常が新規AR シグナル阻害薬の治療効果に関連することも報告されている10)。その他のバイオマーカーとして末梢血好中球/ リンパ球比(NLR),CRP,Chromogranin A,PTEN 等が報告されてきているが11-14),いずれもエビデンスレベルの高い研究には乏しく,薬剤の選択に有用なマーカーとして十分に検証されたものは存在しないため,今後のさらなる検討が必要である。

治療効果判定に関しても,PSA 値と画像検査所見,疼痛の出現等の症状の進行を基準として総合的に判断しているのが現状である。PSA nadir 値やPSA 動態は治療効果をみるうえで重要であるが,CRPC ではPSA 値が上昇しない症例やPSA 値の上昇があっても画像検査上は変化を認めない症例が少なからず存在することから,必ずしもサロゲートマーカーとして機能しないことも念頭におく必要がある。したがって,症例毎に前述したPSA 値以外のバイオマーカーの併用も考慮すべきであろう。Prostate Cancer Working Group 2(PCWG2)ガイドライン15)ではPSA 値上昇のみを治療中止・変更の根拠とすべきではないとしており,また海外で開催された有識者によるコンセンサスパネルでも,治療の中止・変更はPSA 値上昇,画像診断に基づく病勢進行,症状による病勢進行のうち2つが認められたときとする意見が多い16)。画像検査による内臓転移等,軟部組織病変の効果判定はCT,MRI を用いたRECIST での評価が一般的である。造骨性骨転移についてはPCWG2 による評価法が多く用いられ,骨シンチグラフィーでの病勢進行を2カ所以上の新規病変の出現およびその後の進行確認と定義している17)。また,従来骨シンチグラフィーは定量的な比較評価が困難であったが,最近 Bone Scan Index(BSI)による定量的解析の報告があり,進行性前立腺癌の治療効果や予後と関連することが示され18),今後骨病変評価の一手法として参考になる可能性がある。画像上の無増悪生存期間は全生存期間と並んで新規AR シグナル阻害薬の一部の第Ⅲ相臨床試験で主要エンドポイントとして設定されている。この画像上の無増悪生存期間は全生存期間と有意に関連していることが示されており,CRPC の治療効果判定において有用な評価項目と考えられ19),PSA 値測定のみではなく定期的に画像診断を施行し,より正確にCRPC の病勢を個々の症例毎に判断することが望まれる。しかし,適切な画像診断の頻度等は定まっておらず,今後の検討課題である。また,画像検査の方法としては11C-Choline,18F-NaF 等の新しいトレーサーを用いたPET による機能画像診断での評価法の研究が進んでおり,今後本邦でも導入が期待される。

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CQ6
去勢抵抗性前立腺癌に対する至適な逐次療法はあるか?

推奨グレードC1
去勢抵抗性前立腺癌に対するエビデンスのある画一的な逐次療法は存在しない。患者背景(自覚症状や臓器転移の有無,全身状態)や前治療の効果,薬剤耐性機序を考慮した個々の患者に応じた逐次療法を考慮すべきである。

背景・目的

本邦におけるCRPC の治療は,ドセタキセル,アビラテロン,エンザルタミド,カバジタキセルが承認され,2016 年6月にはラジウム223 も上市された。多くの薬剤が出現したが,その薬剤の使用のタイミングや順番については明確なエビデンスがない。しかし新規薬剤の耐性機序やホルモン療法奏効期間の影響等が徐々に明らかになりつつあり,これらの知見は画一的な逐次療法が意味をなさないことを示唆している。本項では,新規薬剤の逐次療法についてのこれまでの報告を中心に,解説を行う。

解説

CRPC の逐次療法を考える際に,新規AR シグナル阻害薬(エンザルタミド,アビラテロン)と抗癌化学療法であるドセタキセルのどちらを先に選択するのかについては,明確なエビデンスは存在しない。CRPC になる前のホルモン療法の奏効期間とその後の二次ホルモン療法やエンザルタミドの有効性との関連が報告されている1)。初回ホルモン療法の奏効期間が短い症例においては,奏効期間が長い症例に比較して,二次ホルモン療法やエンザルタミドの有効性が劣ると報告されている。これらの報告からは,初回ホルモン療法の奏効期間が短い症例の中で,化学療法が早い段階で選択された方がむしろ予後の改善が期待できる患者群の存在が示唆される。ドセタキセル導入の至適タイミングに関連して,TAX327 試験のサブ解析から内臓転移,疼痛,貧血,骨転移の増悪の4つの因子を用いたリスク分類が提唱されているが,これらの結果は,病勢進行が顕著ではない段階においてドセタキセルが導入された場合により効果が期待できることを示唆している。本邦において,どのような患者群がより早期に化学療法が選択されるべきかについては今後の重要な検討課題である。

新規AR シグナル阻害薬であるエンザルタミドとアビラテロンの逐次療法についても,アビラテロン後のエンザルタミド2-8),またはその逆の組み合わせの有効性10)については多くの報告があるものの,比較的少数例の後ろ向き観察研究であり,現在進行中の試験も含めRCT は存在しない。どちらの薬剤を先行した場合でも生存期間に有意差はなく11),逐次療法の効果は極めて限定的である。新規AR シグナル阻害薬の耐性機序として,①エンザルタミド投与により誘導されるグルココルチコイド受容体による耐性化12),②グルココルチコイド投与によるARの点突然変異13),③ AR splicing variant form の一種であるAR-V7 発現14)等が報告されているが,これら耐性機序の多くがエンザルタミドとアビラテロンで共通しており,両薬剤間に交叉耐性が存在すると推定される。アビラテロン後のドセタキセル治療の効果については,ドセタキセルの作用機序の1つがAR の核内移行(AR trafficking)阻害であること15)を考慮すれば,同じAR を標的とする新規AR シグナル阻害薬の先行治療はドセタキセルの治療効果を減少する可能性は否定できない16)。しかし,後ろ向き試験の結果であるが,アビラテロン後のドセタキセル治療でPSA 値が50%以上低下した割合は26〜48%,全生存期間は12 カ月程度と,アビラテロン後のエンザルタミドの治療効果と比較して悪くはない16)

一方,カバジタキセルは,タキサン耐性機序のP-糖タンパク質に対する親和性も低く,新規AR シグナル阻害薬耐性株に対しても抗腫瘍効果を有する。新規AR シグナル阻害薬後のカバジタキセルの無増悪生存期間,生存期間中央値はそれぞれ4.6 カ月,15.8 カ月と報告され17),TROPIC 試験の結果(それぞれ2.8 カ月,15.1 カ月)18)と遜色がないことより,交叉耐性はあっても弱いと推察される。ドセタキセル治療後の新規AR シグナル阻害薬の治療効果は奏効期間やPSA 低下率がドセタキセル治療前と比べ低下し,特に本邦におけるドセタキセル治療後のアビラテロンの治療効果は低いとする報告が多い1920)。同じアジア人(韓国および台湾)でも新規ARシグナル阻害薬の治療効果はドセタキセル治療の前後で不変であるという報告もあり21),人種差による影響は否定的である。おそらくドセタキセルの施行回数(サイクル数)や患者背景の違いが影響していると思われる。結局,去勢抵抗性となった後,初期に使用した治療薬はlead time bias により奏効期間が長く,後になるほど奏効期間が短くなる傾向が推定される。Chi らはホルモン療法や新規AR シグナル阻害薬の効果,全身状態,自覚症状の有無,臓器転移の有無によりmCRPC 選択薬剤を決定する治療アルゴリズムを提唱している22)。結論として,エビデンスのある画一的な逐次療法はなく,患者背景(自覚症状や臓器転移の有無,全身状態)や前治療の効果,薬剤耐性機序を考慮した個々の患者に応じた逐次療法を考慮すべきである。

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15 骨転移治療(bone targeted therapy,bone health)

総論

前立腺癌の転移部位として最も注意すべき骨への転移は,骨シンチグラフィーで検索されることが一般的であった1)。癌の骨転移に対する骨シンチグラフィーの感度,特異度はメタアナリシス等からそれぞれ86%,81%程度とされているが,最近では18F-FDG-PET(PET/CT を含む)による高感度,高特異度も報告がなされている2)。さらに,被曝のことを考慮して全身のMRI も行われるようになり,いずれも優れた感度,特異度が報告されている3-5)。今後は,単光子放出コンピュータ断層撮影法(single photon emission computed tomography;SPECT)の併用や,本邦では未承認であるが11C-Choline や18F-Choline を用いたPET が期待される6-8)

骨転移に対するモニタリングには画像によるものと画像以外によるものがあり,後者としては骨代謝マーカーによるモニタリングがある。画像によるモニタリングとしては,やはり骨シンチグラフィーあるいはPET/CT,MRI が有用であるとされているが6-8),有転移症例におけるモニタリングと無転移症例におけるモニタリングでは,その意義は異なるものと解釈される。有転移症例における治療中の骨転移のモニタリングでは,PSA 値の変動とともに病勢の進行具合を判断する必要があるため,定期的な画像検査の有用性が報告されている9)。その頻度についてはいまだ議論のあるところであるが,一般的には3〜6カ月毎に行うことの有用性が示唆されている1011)。結局,前立腺癌の分子生物学的特徴を理解したうえで,患者のQOL と全生存期間を勘案しながら,治療変更のタイミングを図る目的で,あくまでも患者の状況を鑑みた適切な頻度で画像検査を行うべきである。最近では,骨シンチグラフィーを行った際にBone Scan Index(BSI)を定量的なバイオマーカーとして用いることの有用性が示唆されている12)。European Association of Urology(EAU)の前立腺癌ガイドラインでは,局所限局性前立腺癌の治療後のフォローアップ期間内で,biochemicalfailure を示唆する兆候がないのであれば,無症状の患者に対して定期的な骨シンチグラフィーやその他の画像検査は推奨されていない9)。このような場合,PSA 倍加時間(PSAdoubling time;PSADT)によって画像検査の間隔を変えるべきであると報告されている。PSADT が8カ月未満であれば,転移がなくとも,3〜6カ月毎に骨シンチグラフィー等によるモニタリングが必要といわれている13)

骨転移に関する骨代謝マーカーには造骨性因子と溶骨性因子がある。前立腺癌の骨転移の多くは造骨性の骨転移であるが,悪性腫瘍の骨転移巣においては溶骨と造骨の両方が起こっており,ホルモン療法に伴う骨密度の変化も同時にモニタリングしていく必要があるため,造骨性マーカーだけでなく溶骨性マーカーも測定されている。実際には,serum type Ⅰ C-telopeptide(1CTP),procollagen type I N-terminal propeptide(P1NP),bone alkaline phosphatase(BAP)等が骨転移を含めた前立腺癌治療における予後の予測に有用であると報告されている14-16)

前立腺癌の骨転移に対する治療には,ホルモン療法を主体とした全身治療としての薬物療法があり1718),その中には骨転移巣における破骨細胞を標的としたゾレドロン酸やデノスマブといったいわゆる骨修飾薬(bone modifying agents;BMA)がある1920)。これらの薬剤は骨転移を有するホルモン療法感受性前立腺癌患者に対しては,無増悪生存,全生存においてその有効性が証明されていない2122)。一方,去勢抵抗性前立腺癌(castration resistant prostate cancer;CRPC)に対しては,骨関連事象(skeletal related event;SRE)抑制効果の点から,早期の使用が推奨される。デノスマブはゾレドロン酸に比べてSRE抑制効果が高く,腎機能低下症例にも使えるという利点を有しているが,顎骨壊死の頻度がやや高いと報告されている192023)。局所的には疼痛の軽減やQOL の改善を目的とした放射線療法24-26),手術療法27-29),ラジオ波による焼灼術(radiofrequency ablation;RFA)3031),凍結療法がある32)。病的骨折や脊髄圧迫を伴わない骨転移の痛みは,外照射により59〜73%の症例で緩和され,23〜34%の症例で消失することがメタアナリシスの結果で示されている。また,RFA や凍結療法も有痛性骨転移の除痛手段の1つとなり得るが,いずれも本邦では保険収載されていない。放射性同位元素であるストロンチウム89 やラジウム223 の骨転移部位への取り込みを利用した治療も行われており,前者は疼痛緩和目的ですでに本邦でも承認されている33-35)。一方,ラジウム223 は骨転移を有するCRPC 患者の全生存期間を延長すると報告されており36),本邦でも最近保険収載された。

このように,骨転移に対してはバイオマーカーや画像によるモニタリングが進歩し,様々な治療法が登場することによって,骨転移を有する前立腺癌患者のQOL 改善や生存期間の延長に役立っているものと思われる。

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CQ1
前立腺癌骨転移の画像診断にはどの方法(モダリティー)が推奨されるか?

推奨グレードB
骨シンチグラフィー,18F-FDG-PET(PET/CT を含む),MRI が骨転移の診断に有効である。

背景・目的

前立腺癌の転移好発部位は骨である。骨転移の有無は,治療方法の選択や患者のQOL に直接的に大きな影響を及ぼすため,より正確な診断が求められる。ここでは,骨転移の画像診断において,どのモダリティーが有効であるかを検討した。

解説

現在,実臨床において骨転移の検索に最も頻用されている画像検査は骨シンチグラフィーである。骨転移をきたしやすい癌(乳癌,肺癌,前立腺癌等)を対象とした報告を主に集積したYang らのメタアナリシスでは,骨シンチグラフィーによる骨転移巣検出の感度は高く,86%とされている1)。しかし,同報告において特異度はやや低く,81.4%とされている。また,骨シンチグラフィーは空間解像度が低く,代謝活性の低い早期の骨転移や溶骨性の骨転移は検出できないことがある2)。本邦では研究目的として用いられているSPECT を併用することで特異性が向上するとされている。18F-FDG-PET(PET/CT を含む)に関しては,骨シンチグラフィーと比較して感度,特異度ともに良好であるという報告が散見される。前述のYang らのメタアナリシスの論文においても,18F-FDG-PET の感度,特異度はそれぞれ89.7%,96.8%としている1)。前立腺癌骨転移のみを対象としてその検出精度を骨シンチグラフィーと18F-FDG-PET/CT で比較したEven-Sapir らの報告によると,感度はそれぞれ35%,87%で,特異度が95%,100%であったとし,18F-FDG-PET だけよりもPET/CT の方が感度が改善すると述べている3)。本邦では未承認であるが,11C-Choline や18F-Choline を用いたPET も海外では使用され,その有用性が報告されている4-6)

被曝がないという利点を生かして,最近ではMRI も全身検索に用いられるようになりつつあり,骨シンチグラフィーと比較して高感度,高特異度(それぞれ89.9%,91.8%)をもって検出を可能にしている7)。また,同報告では拡散強調画像を用いることで,特異度が96.1%にまで向上するとも述べられている。したがって,骨転移の検索においては,拡散強調画像を併用することが推奨される。前立腺癌の骨転移に特化した報告としては,Lecouvet らが全身MRI と,骨シンチグラフィーと局所の単純レントゲンの組み合わせを比較して,感度がそれぞれ98〜100%,86%,特異度がそれぞれ98〜100%,98%で,全身MRI の方がやや優っていると報告している8)。骨シンチグラフィー単独では,早期の骨転移や溶骨性病変に対する感度が低下することは前述のとおりである2)。Pasoglou らが,3D T1 強調撮像と2D T1 強調撮像を比較し,3D T1 強調撮像が前立腺癌骨転移の検出には同等かあるいはむしろ優れていると述べている9)

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CQ2
前立腺癌骨転移のモニタリングにおいて画像以外には何が推奨されるか?

推奨グレードC1
骨代謝マーカーの時間的変化は,画像所見を補足するかたちで骨転移病態のモニタリングに有効である。

背景・目的

前立腺癌骨転移のモニタリング法として,画像診断以外には骨代謝マーカーがある。ここでは,様々な骨代謝マーカーの意義とそれぞれの前立腺癌診療における役割,今後の可能性について検討した。

解説

原発巣で遺伝子変化により癌化が起こり,遠隔臓器への転移巣が形成される過程は,増殖因子,浸潤因子,接着因子,血管新生因子等の様々な因子によって制御されているが,他臓器において,癌細胞は転移先の臓器によって異なる微小環境に曝されることになる2)。骨の微小環境の特徴は,骨には様々な増殖因子が蓄えられており,破骨細胞や骨芽細胞が生理的な骨代謝を制御している点である。溶骨性癌細胞はparathyroid hormone related protein(PTHrP)やinterleukin (IL)-6 等の様々な増殖因子を分泌し,これが骨芽細胞を刺激し,nuclear factor κ B(NF-κB)ligand (RANKL)を分泌する。分泌されたRANKL は前破骨細胞上にあるRANKL receptor(RANK)と結合して破骨細胞を刺激することで骨吸収を促進し,骨基質からtransforming growth factor(TGF),insulin-like growth factor (IGF),bone morphogenetic protein(BMP)等の増殖因子が分泌され,癌細胞の骨への転移,浸潤,そして増殖を促進している。この一連のシグナル伝達は,vicious cycle of bone metastasis(悪循環)仮説として広く知られており,骨転移の生物学的評価因子として骨代謝マーカーが注目される根拠となっている3)。骨代謝マーカーには溶骨性因子と造骨性因子がある。溶骨性因子としては,bone type Ⅰ collagen breakdown product N-telopeptide(urine/serum NTx),1CTP,cross-linked C-terminal telopeptide of type I collagen(CTx),オステオポンチン,total alkaline phosphatase(tALP)等があるが,NTx は腎機能の影響を受けやすいため,近年では尿中のクレアチニンで補正したuNTx/Cr や,腎機能の影響を受けにくいtartrate-resistant acid phosphatase 5b(TRACP-5b)が注目されてきている。一方,BAP(a component of tALP),procollagen type I C-terminal propeptide(P1CP),P1NP 等が代表的な造骨性因子である5)

前立腺癌は骨転移能が高く,転移性のCRPC 患者の80〜90%が骨転移を有している。骨転移のない患者と比較し,骨転移を有する前立腺癌患者では骨代謝マーカーの上昇がみられると同時に,骨転移の広がり程度(extent of disease;EOD)とも相関していることが報告されている6-10)。また,画像上の骨転移進行が明らかになる前に,骨代謝マーカーが連続的に上昇することも報告されている11)。骨代謝マーカーの上昇はCRPC 患者のSRE や予後不良と関連している12-14)。一方で,ゾレドロン酸や抗RANKL 抗体デノスマブへの反応性とも関連することが報告されている15-18)。そこで,前立腺癌骨転移に対してゾレドロン酸やデノスマブの治療を受けた患者の生物学的モニタリングとして骨代謝マーカーの有用性が報告されている5)

病勢進行を検出するための骨代謝マーカーの連続測定の有効性評価を目的とした,ゾレドロン酸投与を受けた骨転移を有するCRPC 77 例の検討では,非進行症例に比べ進行症例ではP1NP,1CTP,BAP の持続的な上昇が認められている19。骨代謝マーカーの死亡リスク予測能評価を目的とした骨転移CRPC 52 例の検討では,1CTP,NTx,P1NP が死亡例で高値であり,P1NP と1CTP は予後因子であると報告されている5)。ゾレドロン酸治療開始後3カ月毎に骨代謝マーカーを測定した骨転移CRPC 98 例での検討では,CTx の減少率が大きい症例は生存期間が長く,BAP とP1NP の減少率が小さい症例ではSRE 発生と関連していた20)。骨転移を有するCRPC 症例に対する近年の無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)においても,骨代謝マーカーは投与された薬剤の有用性を生物学的に評価する指標の1つとして広く用いられてきている。ゾレドロン酸とデノスマブとを比較した二重盲検RCT において,デノスマブはSRE の発生予防効果が大きく,同時に,BAP とNTx の減少率が大きいことが報告されている17)。また,骨転移を有するCRPC 患者を対象に行われたラジウム223 の有効性を検討した第Ⅲ相RCT において,tALP がその効果予測因子であったと述べられている21)。さらに,CRPC に対する第Ⅱ相RCT において,cabozantinib(MET/VEGF 経路遮断薬;本邦未承認)は骨シンチグラフィー所見の改善,CTx とtALP の減少,痛みと麻薬使用量の減少をもたらしたことが報告されている22)11C-Choline PET/CT(本邦未承認)とPSA 動態での比較では,SUVmaxとPSADT,PSA 年間増加度(PSA velocity)が造骨病変では低く,溶骨病変では高いことが報告されている23)。一方で,骨転移の出現や治療抵抗性の指標として,骨代謝マーカーよりもPSA の方が感度・特異度では優れているとの報告がある10)

このように,骨代謝マーカーの時間的変化は骨ホメオスタシスや骨病変進行,骨標的治療への反応を反映している可能性が高く,骨転移の生物学的モニタリングの指標として骨代謝マーカーは臨床的な指標となる可能性が示唆されている。しかし,前向きな臨床研究による検証は行われておらず,骨転移のモニタリングにおける骨代謝マーカーの有用性は確立されていないのが現状であり,本邦の『骨転移診療ガイドライン』(2015 年)でも,日常診療における骨転移治療のモニタリングとして骨代謝マーカーを用いることは推奨されていない。

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CQ3
前立腺癌骨転移に対する骨修飾薬(BMA)はいつから使用することが推奨されるか?

推奨グレードBおよびC2
骨転移を伴う去勢抵抗性前立腺癌に対しては強く推奨されるが(推奨グレードB),ホルモン療法感受性前立腺癌においては議論が多い(推奨グレードC2)。

背景・目的

骨転移を有する前立腺癌では,破骨細胞を標的としたBMA のメカニズムや有害事象を十分に理解し,適切に使用することが求められる。ここでは,それぞれのBMA の臨床試験結果に基づき,その適応や有害事象について検討した。

解説

ホルモン療法が有効である時期の骨転移治療として,第1世代ビスホスホネート製剤clodronate(本邦未承認)をホルモン療法と併用することで生存期間の延長が得られるか検討したところ,プラセボ投与例と比較してclodronate 投与例で有意に全生存期間の延長が得られることを示した(ハザード比:0.77(95%CI:0.60〜0.98,p=0.032))1)。一方,第3世代ビスホスホネート製剤であるゾレドロン酸やデノスマブの併用が生存期間の延長に有効であるかという点は現時点でも議論が多い。骨転移のある前立腺癌患者に対してホルモン療法中にゾレドロン酸またはプラセボを投与したRCTの結果では,無SRE 生存期間,無増悪生存期間,全生存期間ともに両群で差はなかった2)。症例数は少ないが日本人においてホルモン療法感受性症例に対しゾレドロン酸を併用することでSRE の発生を減少させられるかを検証するRCT が実施され,層別解析ではゾレドロン酸の併用が有効となる患者群の存在が示唆されている3)。デノスマブについても現時点では骨転移に対する治療としての意義は証明されていない。CRPC で骨転移を有する場合は予後不良であり,より積極的に骨転移に対する治療を行う必要が生じる。これらの症例に対しては,ゾレドロン酸およびデノスマブのSRE の抑制効果が証明されている5)。ゾレドロン酸については,骨転移を有するCRPC643 例のプラセボ対照RCT において,SRE の抑制効果が示された6)。15 カ月の観察期間でSRE の頻度はゾレドロン酸4mg で33.2%,プラセボで44.2%(p=0.021),病的骨折がそれぞれ13.1%,22.1%(p=0.015),SRE の発生までの期間がそれぞれ420 日以上,321 日(p=0.011)と,いずれもゾレドロン酸4mg の投与が有意に優れていることが証明された。一方,生存期間についてはゾレドロン酸で長い傾向が示されたが,有意差は証明されなかった(p=0.094)。一方,デノスマブについては,骨転移を有するCRPC 1,904 例を対象に,ゾレドロン酸をコントロールとしたRCT においてSRE の抑制効果が示された5)。SRE 発生までの期間がデノスマブで20.7 カ月,ゾレドロン酸で17.1 カ月となり,デノスマブで有意に延長されていた(p=0.0085)。またSRE 発生リスクについてもデノスマブの方がゾレドロン酸よりも18%低い(ハザード比:0.82(p=0.008))ことが示された。有害事象については,両群で有意差がなかったが,低カルシウム血症がデノスマブ投与例で有意に多いことが報告された(13% vs 6%,p<0.0001)。また,顎骨壊死の頻度も有意差はないもののデノスマブ投与例で高率である傾向が報告されている(2% vs 1%,p=0.09)。まとめると,デノスマブの方がゾレドロン酸よりもSRE の抑制効果が強く有効で,なおかつデノスマブは腎機能障害があっても使用可能という長所をもつ。しかし,低カルシウム血症や顎骨壊死等の有害事象の頻度はゾレドロン酸よりも高いことに注意を払う必要がある。

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16 癌救急・緩和

総論

1 前立腺癌における緩和医療

 進行性前立腺癌でもホルモン療法等が奏効している場合には排尿困難,血尿や骨転移巣の痛み等,癌に基づく症状も緩和されていることが多い。問題は去勢抵抗性前立腺癌(castration resistant prostate cancer;CRPC)となった場合であり,抗癌剤等の追加治療を行ってみても最終的にはほとんどの症例が緩和医療の対象となる。前立腺癌の緩和医療として重要な点は①骨転移巣の疼痛対策,②脊椎転移による脊髄麻痺,③血尿,④下部尿路閉塞,⑤尿管の閉塞に伴う腎後性腎不全,等が挙げられる1)

2 疼痛対策

疼痛性骨転移は,前立腺癌の大きな問題となり得る。鎮痛薬,放射線,ステロイド,骨親和性放射性核種,ビスホスホネート製剤やデノスマブが用いられる2)。適切な薬剤の選択のために,WHO が提唱する「がん疼痛治療の基本原則」による3段階のアプローチが広く行われている。

第1段階としては,非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs;NSAIDs)もしくはアセトアミノフェンを使用する。第2段階としては弱オピオイドと非オピオイドを併用する。最近では低用量オキシコドンが用いられることも多い。それでも疼痛の緩和が十分でないときは,第3段階として強オピオイドを副作用対策を講じながら漸増する。癌性疼痛の管理については,日本緩和医療学会から『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2014 年版』が出版されている3)

痛みを訴える骨転移巣が比較的限局しているときには,外照射が極めて有用である。照射方法に関して,8Gy ほどの単回照射と30Gy/10fractions の分割照射の有用性の比較について多くの検討がなされてきた。2012 年に25 の無作為化比較試験(randomized controlled trial;RCT)の結果をまとめたシステマティックレビューが発表された4)。単回照射の寛解率は60%,複数回照射の寛解率は61%と同等であったが,疼痛の再発のために再照射を必要とした割合は単回照射の方が2.6 倍高かった(p<0.00001)。この点に関して再照射の有効性に関するシステマティックレビューが行われ,再照射の有効性は初回照射と同等との結果が示された5)。これを受けて2014 年に発表されたシステマティックレビューでは,初回および再照射ともに単回での照射を推奨している6)

多発性骨転移による痛みに対しては,ストロンチウム89 のような放射性同位元素の有効性が報告されている。本邦では2007 年から前立腺癌の骨転移に対して適応が認可されているが,位置付けとしては鎮痛薬や外照射等,標準的な緩和医療では十分な疼痛管理が困難な場合に鎮痛補助薬として用いることが推奨されている7)

ビスホスホネート製剤やデノスマブは破骨細胞の骨吸収能を抑制する。前立腺癌のような造骨性骨転移巣においても,骨代謝および骨吸収能は亢進している。詳細に関しては「15.骨転移治療」の項を参考にされたい。

3 脊髄麻痺

脊椎転移による脊髄麻痺では診断および治療の遅れにより不可逆性の麻痺や排尿障害が認められるので,何よりも迅速な対応が必要である8)。治療法としてはステロイド投与,放射線療法,手術療法が挙げられる。ステロイド投与は放射線あるいは手術の補助療法として用いられる9)。放射線療法としては30Gy/10fractions を照射することが多く,単回照射に比較して良好な傾向にある。放射線療法単独群と手術療法+放射線療法併用群とのRCT は2つ認められるが,それぞれが異なる結論であった1011)。2012 年のシステマティックレビューでは手術療法との併用を推奨しているが12),2010 年に発表されたmatched pair analysis では両者に差はなかったと報告されており13),いまだ決着がついていないように思われる。American Society for Radiation Oncology(ASTRO)のガイドラインでは手術療法が恩恵を受けやすい因子を挙げており14),個々の症例において手術を行うかどうかを決定するのが実際的だと思われる。

4 血尿に対する対策

タンポナーデとなるような高度の血尿に対して,姑息的な放射線療法が有効であったと報告されている1516)。2014 年のシステマティックレビューでは,姑息的骨盤照射の全体での改善率は75%で,症状別での改善率は血尿73%,疼痛80%,排尿困難63%,直腸症状78%,尿管閉塞62%であった。重篤な有害事象も認められず,CRPC の局所症状に対して有効な治療法であると結論付けている17)

5 下部尿路閉塞に対する対策

排尿困難を有している進行性前立腺癌患者に対する経尿道的前立腺切除術(transurethral resection of the prostate;TURP)は,前立腺肥大症に対するTURP と比較して術後に再度尿閉になったり再手術を必要とする頻度は高いものの,症状の改善には十分に役立ったと報告されている18)。ほかにも進行性前立腺癌患者に対するTURP の有用性を示す報告がある1920)。通常よりも周術期合併症や再手術の頻度が高いこと,前立腺癌の播種を促進する可能性等についても言及しているが,全体としては姑息的TURP を支持する内容であった。

またCRPC で排尿困難を訴える患者の中には排尿筋過活動を伴っているものが半数以上いることも報告されており,TURP を行うに際しては尿流動態検査を行い適応に留意する必要がある21)

6 水腎症に対する対策

前立腺癌の腫大による下部尿路閉塞から水腎症をきたしている場合には,カテーテル留置やTURP が適応となる。前立腺癌が直接膀胱に浸潤することから尿管口の狭窄をきたす場合や,リンパ節転移による尿管の圧迫から水腎症をきたす場合には尿管ステント,尿管皮膚瘻,経皮的腎瘻(percutaneous nephrostomy;PNS)が尿路変向の手段として考えられる。一般的に種々の治療法に対して抵抗性となった悪性腫瘍で水腎症をきたした場合の予後は極めて不良であるため,尿路変向に関しては慎重に行うべきである2223)。一方,CRPC においてもPNS の有用性は認められるとの報告もある2324)。尿管ステント,尿管皮膚瘻,PNS 等の治療手段の優劣を比較検討したRCT はないが,超音波ガイド下のPNS 造設術は侵襲も少なく手技が簡便なうえ,長期にわたる留置も可能であるため第一選択として考えるべきである。尿管ステントは体内に留置するため患者の利便性は高いが,悪性腫瘍による尿管閉塞では再狭窄をきたしやすい25)。これに対し,金属ステントや1つの尿管に2つのステントを留置するtandem ureteral stent の報告が散見される。いずれの方法も有用性を示す報告もあるが少数例の報告であり,今後のさらなる検討が必要と思われる26)

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CQ1
前立腺癌の骨転移による疼痛をどう管理するか?

推奨グレードA
WHO が提唱する「がん疼痛治療の基本原則」による3段階のアプローチに則って使用する鎮痛薬の種類および投与量を決定する。部位が限定される場合は外照射が有効である。

背景・目的

転移性前立腺癌ではホルモン療法が有効である限りは骨転移による疼痛はあまり問題とならないが,CRPC となった場合には骨転移による痛みのコントロールは切実な問題である。

解説

骨転移による疼痛は,前立腺癌の大きな問題となり得る。鎮痛薬,放射線,ステロイド,骨親和性放射性核種,ビスホスホネート製剤やデノスマブといった緩和治療のための多くの治療手段が実施されている1)

鎮痛薬が果たす役割は大きく,適切な薬剤の選択が必要である。一般的にはWHO が提唱する「がん疼痛治療の基本原則」による3段階のアプローチが広く行われている。簡単に解説すると,第1段階としては比較的緩やかな痛みに対しジクロフェナクナトリウム,エトドラク,ナプロキセン等のNSAIDs もしくはアセトアミノフェンを使用する。第2段階としてはジヒドロコデイン,トラマドール,ブプレノルフィン等の弱オピオイドと非オピオイドを併用する。最近では低用量のオキシコドンが用いられることも多い。それでも疼痛の緩和が十分でない高度の疼痛時は第3段階として強オピオイドを使用する。具体的にはモルヒネ,オキシコドン,フェンタニル,タペンタドール,メサドンを副作用対策を講じながら使用する。疼痛時臨時追加投与(レスキュードーズ)としては,定期投与徐放性製剤と同一薬剤の速放性製剤4〜6分の1量を目安に追加投与を行う。即効性ではフェンタニル口腔粘膜吸収製剤が最も優れているが,使用量はベースのオピオイド量と必ずしも相関しないので独自に用量決定が必要である。ペンタゾシン,ブプレノルフィンはジヒドロコデインやモルヒネと併用してはならない。また,鎮痛補助薬として末梢性神経障害性疼痛治療薬,抗うつ薬,抗痙攣薬,抗不安薬,向精神薬,抗不整脈薬,副腎皮質ホルモン等を適宜使用する。癌性疼痛の管理については日本緩和医療学会から『がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2014 年版』が出版されているので参照されたい2)

骨転移巣がそれほど多発でなく,痛みを訴える部位が限局しており,病的骨折等を起こしていない場合,骨痛緩和のための外照射は極めて有用である。骨転移による疼痛対策としての外照射に関しては多くの報告があるものの,ほとんどが複数の癌種を対象とした報告であることに注意されたい。照射方法に関して,8Gy ほどの単回照射と30Gy/10fractions の分割照射の有用性の比較について多くの検討がなされてきた。2012 年に25 のRCT の結果をまとめたシステマティックレビューが発表された。Intention-to-treat 解析の結果,単回照射の寛解率は60%,複数回照射の寛解率は61%であった。完全寛解率に関しても単回照射では23%,複数回照射では24%と有意差は認められなかった。照射後の病的骨折の頻度に関しても両者の間に差はなかった。脊髄圧迫の頻度に関しては,複数回照射の方が少ない傾向にあったが統計学的な有意差は認められなかった。一方,疼痛の再発のために再照射を必要とした割合は単回照射の方が2.6倍高かった(p<0.00001)3)。この点に関しては2014 年に再照射に関するシステマティックレビューが発表され,再照射の有効性は初回照射と同等との結果が示された4)。これを受けて2014 年に発表されたシステマティックレビューでは,初回および再照射ともに単回での照射を推奨している5)。また,単回での照射線量に関しては8Gyが推奨されている6)。単回照射の有用性は以上のようにエビデンスとして確立されているが,実際の現場では複数回照射が行われている頻度が依然として高いことが報告されている7)

骨転移巣が多発で痛みを訴える場合には,以前は全身あるいは半身照射が用いられることがあったが,前立腺癌のような造骨性転移をきたす場合β線を出す放射性同位元素であるストロンチウム89 の有効性が報告されている。本邦では2007 年から前立腺癌の骨転移に対して適応が認可されている。ストロンチウム89 を使用するにあたっては,日本核医学会,日本医学放射線学会,日本放射線腫瘍学会,日本緩和医療学会から『有痛性骨転移の疼痛治療における塩化ストロンチウム-89 治療の適正使用マニュアル』が発刊されている8)。ストロンチウム89 は鎮痛薬や外照射等,標準的な緩和治療では十分な疼痛管理が困難な場合に鎮痛補助薬として用いられる。具体的には多発または散在性の疼痛部位を有する場合や種々の理由により外照射が困難な場合が相当する。有害事象としての骨髄抑制に留意する。また,放射性医薬品であり尿に排泄されるため被曝への配慮が必要である。さらに,α線放出核種であるラジウム223 は前立腺癌多発骨転移症例において全生存期間が延長し,骨関連事象発現までの期間を延長させることが欧米の大規模RCTで示された9)

ビスホスホネート製剤やデノスマブは破骨細胞の骨吸収能を抑制する。前立腺癌の骨転移巣は造骨性が多いが,骨代謝および骨吸収能は亢進している。ビスホスホネート製剤の静脈内投与により病的骨折等の合併症の発生頻度が有意に減少し,疼痛緩和にも有用であったことが報告されている10)。詳細に関しては,「15.骨転移治療」の項を参考にされたい。

参考文献

1)
Cathomas R, Bajory Z, Bouzid M, et al. Management of bone metastases in patients with castration-resistant prostate cancer. Urol Int. 2014;92:377-86.(Ⅵ)
2)
日本緩和医療学会緩和医療ガイドライン作成委員会.がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン(2014年版).東京:金原出版;2014.
3)
Chow E, Zeng L, Salvo N, et al. Update on the systematic review of palliative radiotherapy trials for bone metastases. Clin Onco(l R Coll Radiol). 2012;24:112-24.(Ⅰ)
4)
Wong E, Hoskin P, Bedard G, et al. Re-irradiation for painful bone metastases-a systematic review. Radiother Oncol. 2014;110:61-70.(Ⅰ)
5)
Bedard G, Hoskin P, Chow E. Overall response rates to radiation therapy for patients with painful uncomplicated bone metastases undergoing initial treatment and retreatment. Radiother Oncol. 2014;112:125-7.(Ⅰ)
6)
Dennis K, Makhani L, Zeng L, et al. Single fraction conventional external beam radiation therapy for bone metastases:a systematic review of randomised controlled trials. Radiother Oncol. 2013;106:5-14.(Ⅰ)
7)
Popovic M, den Hartogh M, Zhang L, et al. Review of international patterns of practice for the treatment of painful bone metastases with palliative radiotherapy from 1993 to 2013. Radiother Oncol. 2014;111:11-7.(Ⅰ)
8)
公益社団法人日本アイソトープ協会.有痛性骨転移の疼痛治療における塩化ストロンチウム-89治療の適正使用マニュアル(第五版).
http://www.jrias.or.jp/report/cat4/406.html : accessed on July 14, 2016.
9)
Sartor O, Coleman R, Nilsson S, et al. Effect of radium-223 dichloride on symptomatic skeletal events in patients with castration-resistant prostate cancer and bone metastases:results from a phase 3, double-blind, randomised trial. Lancet Oncol. 2014;15:738-46.(Ⅱ)
10)
Saad F, Gleason DM, Murray R, et al;Zoledronic Acid Prostate Cancer Study Group. A randomized, placebo-controlled trial of zoledronic acid in patients with hormone-refractory metastatic prostate carcinoma. J Natl Cancer Inst. 2002;94:1458-68.(Ⅱ)

CQ2
前立腺癌の脊椎転移から脊髄麻痺をきたした場合の対処法は?

推奨グレードA
ステロイドの投与を即座に開始する。可及的速やかに放射線療法もしくは手術療法(椎弓切除術)を施行する。

背景・目的

脊椎に転移した前立腺癌の場合,腫瘍が増大すると脊髄を圧迫し麻痺を生じることがある。患者は突然の麻痺症状に対し動転することが多い。放置しておくと脊髄麻痺が不可逆性となるため迅速な処置が必要である。診断にはMRI が有用とされている。

解説

脊椎転移による脊髄麻痺では診断および治療の遅れにより不可逆性の麻痺や排尿障害が認められるので,何よりも迅速な対応が必要である1)。治療法としてはステロイド大量投与,放射線療法,手術療法が挙げられる。ステロイド大量投与は放射線あるいは手術の補助療法として用いられ,その有効性はRCTにて検証されている2)。しかしながら無視できない副作用も認められており,大量あるいは常用量のステロイドを投与するかはいまだ議論の分かれるところである。

放射線療法としては30Gy/10fractions を照射することが多く,単回照射に比較して成績は良好な傾向にある。

手術療法としては前立腺癌の脊椎転移による脊髄圧迫の場合,骨の脆弱性がないため椎弓切除術が主になる。放射線療法単独群と手術療法+放射線療法併用群とのRCT は2つ認められる。1980 年の報告では症例数が全体で29 例と少なく,有効率については有意差が認められなかった3)。その後2005 年に発表された論文では,手術療法+放射線療法併用群の方が放射線療法単独群に比し,明らかに術後の歩行可能な割合が多かったため,当初予定されていた目標症例数に到達する以前の101 例が割り付けられた時点で試験が終了となっている4)。さらに,2012 年に発表されたシステマティックレビューでも,手術療法±放射線療法での歩行可能となった割合が64%と,放射線療法単独で歩行可能となった割合の29%と比較して有意に良好であったことが示された(p<0.001)5)。しかしながら,2010 年に発表された手術療法+放射線療法併用群108 例と放射線療法単独群216 例でのmatched pair analysis では術後の歩行可能割合がそれぞれ69%と68%であり両者に差は認められなかったと報告されており,いまだ決着がついていないように思われる6)。ASTRO のガイドラインでは手術療法が恩恵を受けやすい因子を挙げており7),個々の症例において整形外科医,神経内科医,泌尿器科医の判断のもと手術を行うかどうかを決定するのが実際的だと思われる。

参考文献

1)
Husband DJ. Malignant spinal cord compression:prospective study of delays in referral and treatment. BMJ. 1998;317:18-21.(Ⅱ)
2)
Sørensen S, Helweg-Larsen S, Mouridsen H, et al. Effect of high-dose dexamethasone in carcinomatous metastatic spinal cord compression treated with radiotherapy:a randomised trial. Eur J Cancer. 1994;30A:22-7.(Ⅱ)
3)
Young RF, Post EM, King GA. Treatment of spinal epidural metastases. Randomized prospective comparison of laminectomy and radiotherapy. J Neurosurg. 1980;53:741-8.(Ⅱ)
4)
Patchell RA, Tibbs PA, Regine WF, et al. Direct decompressive surgical resection in the treatment of spinal cord compression caused by metastatic cancer:a randomised trial. Lancet. 2005;366:643-8.(Ⅱ)
5)
Kim JM, Losina E, Bono CM, et al. Clinical outcome of metastatic spinal cord compression treated with surgical excision ± radiation versus radiation therapy alone:a systematic review of literature. Spine(Phila Pa 1976). 2012;37:78-84.(Ⅰ)
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Rades D, Huttenlocher S, Dunst J, et al. Matched pair analysis comparing surgery followed by radiotherapy and radiotherapy alone for metastatic spinal cord compression. J Clin Oncol. 2010;28:3597-604.(Ⅲ)
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Lutz S, Berk L, Chang E, et al;American Society for Radiation Oncology(ASTRO). Palliative radiotherapy for bone metastases:an ASTRO evidence-based guideline. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2011;79:965-76.

CQ3
進行性前立腺癌による血尿に対して姑息的な放射線療法は推奨されるか?

推奨グレードC1
タンポナーデとなるような高度の血尿に対し,姑息的な放射線療法が有効である。

背景・目的

進行性前立腺癌の局所症状の1つに血尿がある。ほかには下部尿路閉塞や疼痛があり,患者のQOL に与える影響は大きい。

解説

タンポナーデとなるような高度の血尿に対して姑息的な放射線療法が有効であったと1972 年に報告されている1)。30Gy/10fractions の照射が血尿および排尿困難に有用であったという報告も認められる2)。2009 年のDin らの報告によると,58 例の後ろ向きの検討ではあるが直腸症状,骨盤痛,尿路閉塞,血尿等を有する進行性前立腺癌の局所症状に対して20Gy/5fractions の照射を行うことにより89%の症例で症状の改善を認めたとの報告もあり,考慮すべき治療法の1つといえる3)。Din らの報告を含めた9つの論文のシステマティックレビューでは,姑息的骨盤照射の全体での改善率は75%で,症状別での改善率は血尿73%,疼痛80%,排尿困難63%,直腸症状78%,尿管閉塞62%であった。重篤な有害事象も認められず,CRPC の局所症状に対して有効な治療法であると結論付けている4)。2015 年にCameron らは下部尿路症状や血尿,疼痛等の前立腺局所症状を伴ったCRPC 患者47 例を対象に姑息的骨盤照射(30〜39Gy)の有用性に関する前向き試験を行った。血尿に対して姑息的骨盤照射を行った12 例中11 例において血尿の消失を認めており,有用な治療法であったと報告している5)

参考文献

1)
Kraus PA, Lytton B, Weiss RM, et al. Radiation therapy for local palliative treatment of prostatic cancer. J Urol. 1972;108:612-4.(Ⅳb)
2)
Kawakami S, Kawai T, Yonese J, et al. Palliative radiotherapy for local progression of hormone refractory stage D2 prostate cancer. Nippon Hinyokika Gakkai Zasshi. 1993;84:1681-4.(Ⅳb)
3)
Din OS, Thanvi N, Ferguson CJ, et al. Palliative prostate radiotherapy for symptomatic advanced prostate cancer. Radiother Oncol. 2009;93:192-6.(Ⅳb)
4)
Cameron MG, Kersten C, Guren MG, et al. Palliative pelvic radiotherapy of symptomatic incurable prostate cancer−a systematic review. Radiother Oncol. 2014;110:55-60.(Ⅰ)
5)
Cameron MG, Kersten C, Vistad I, et al. Palliative pelvic radiotherapy for symptomatic incurable prostate cancer − A prospective multicenter study. Radiother Oncol. 2015;115:314-20.(Ⅳa)

CQ4
進行性前立腺癌による排尿困難に対して姑息的な経尿道的前立腺切除術(TURP)は推奨されるか?

推奨グレードC1
排尿困難を有している進行性前立腺癌患者に対して,姑息的な意味での経尿道的前立腺切除術(TURP)が治療選択肢の1つとなる。

背景・目的

進行性前立腺癌の局所症状の1つに下部尿路閉塞がある。TURP の有用性につき検討した。

解説

排尿困難を有している進行性前立腺癌患者に対する姑息的な意味でのTURP の有用性については,議論の分かれるところである。症例数が多くないためエビデンスレベルは低いが,前立腺肥大症に対するTURP に比べ術後に再度尿閉になったり,再手術を必要とする頻度は高いものの症状の改善には十分に役立っていたという報告がある1)。Mazur らの報告によると,41 例の前立腺癌患者に対し姑息的TURP を施行した結果,全例でいったんは自排尿可能となった。外括約筋まで前立腺癌の浸潤を認め同部を切除した2例は術後尿失禁に,またほかの2例で軽度の腹圧性尿失禁を認めた。いくつかの注意すべき点はあるものの,おおむね許容できる治療法と結論付けている2)。また,Marszalek らは,89 例の前立腺癌患者に対し姑息的TURP を施行した結果,約80%の症例において自排尿が可能であったと報告している3)。通常よりも周術期合併症や再手術を必要とする頻度が高いこと,前立腺癌の播種を促進する可能性等についても言及しているが,全体としては姑息的TURP を支持する内容であった。

観点は異なるが,Rom らはCRPC で国際前立腺症状スコア(IPSS)が20 点以上の21 例に対し尿流動態検査を行った結果を発表している。Bladder outlet obstruction index で閉塞型と診断されたのは3/21 例(14%)であり,3例は境界型,15 例は非閉塞型であった。また排尿筋過活動を12 例(57%)に認めた。これらの結果より,姑息的TURP を行う前に排尿動態に関する検査を行うべきであるとしている4)

参考文献

1)
Crain DS, Amling CL, Kane CJ. Palliative transurethral prostate resection for bladder outlet obstruction in patients with locally advanced prostate cancer. J Urol. 2004;171:668-71.(Ⅳb)
2)
Mazur AW, Thompson IM. Efficacy and morbidity of “channel” TURP. Urology. 1991;38:526-8.(Ⅳb)
3)
Marszalek M, Ponholzer A, Rauchenwald M, et al. Palliative transurethral resection of the prostate:functional outcome and impact on survival. BJU Int. 2007;99:56-9.(Ⅳb)
4)
Rom M, Waldert M, Schatzl G, et al. Bladder outlet obstruction(BOO)in men with castrationresistant prostate cancer. BJU Int. 2014;114:62-6.(Ⅳb)

CQ5
前立腺癌の進展に伴う水腎症から腎機能低下をきたしている場合に経皮的腎瘻は推奨されるか?

推奨グレードC1
未治療の前立腺癌で尿管の狭窄から腎機能の低下をきたしている場合は,超音波ガイド下に経皮的腎瘻(PNS)を造設する。

背景・目的

進行性前立腺癌で水腎症をきたす場合,3つの原因が考えられる。1つは前立腺癌が直接膀胱に浸潤することから尿管口の狭窄をきたす場合で,2番目はリンパ節転移による尿管の圧迫から水腎症をきたす場合である。3番目は前立腺癌の腫大に伴い残尿量の増加から水腎症をきたす場合である。両側の尿管が同時に閉塞した場合や3番目の前立腺自体による下部尿路閉塞は腎後性腎不全から尿毒症に至る可能性もあるため,迅速な診断と処置が必要である。

解説

前立腺癌の進展に伴い尿路閉塞が出現する頻度は3.3〜16%と報告されており,尿路閉塞症状を伴わない前立腺癌に比較してその予後は有意に不良である1)。前立腺癌の腫大による下部尿路閉塞から水腎症をきたしている場合には,カテーテル留置あるいはCQ4 で挙げたTURP が適応となる。前立腺癌が直接膀胱に浸潤することから尿管口の狭窄をきたす場合や,リンパ節転移による尿管の圧迫から水腎症をきたす場合には尿管ステント,尿管皮膚瘻,PNS が治療手段として考えられる。前立腺癌が初発でこれからホルモン療法を考慮している場合,一時的にせよ病状が好転することが期待できるため,積極的な治療を試みるべきである。しかしながら,種々の治療法に対して抵抗性となった悪性腫瘍で水腎症をきたした場合の予後は極めて不良(生存期間:38 日)であるため,PNSの造設に関しては慎重に行うべきであるとの報告がある2)。一方,前立腺癌による尿管狭窄から水腎症をきたした26 例に関してPNSの有用性をホルモン感受性の観点から検討した報告がなされた3)。ホルモン未治療患者2例の生存期間平均値が226.5 日,ホルモン感受性のある治療中の患者3例の生存期間平均値が114.3 日,CRPC の患者21例の生存期間中央値は100.2 日であった。ホルモン抵抗性の患者の中にはPNS 造設後435 日間生存した例もあり,CRPC であってもPNS の有用性は認められるとの結論であった。一方で,骨盤内の進行性悪性腫瘍患者22 例に対し36 のPNS を留置した報告が認められる4)。22 例のうち12 例が前立腺癌,4例が膀胱癌で,残りの4例が産婦人科腫瘍と直腸癌であった。36 のPNS のうち,20 は順行性での尿管ステントの留置に変更可能であった。PNS 設置後の平均生存期間は78 日と不良であり,特に膀胱癌の4例はすべて6カ月以内に死亡していた。前立腺癌においても8例は6カ月以内に死亡していたものの3例では600 日 以上の生存が可能であり,PNS 留置にあたっては原疾患の状況をよく把握することを強調している。CRPC に対して新規の治療法が出現してきている現況では,PNS の留置に関してある程度前向きに検討した方がよいように思われる。

また尿管ステント,尿管皮膚瘻,PNS の優劣を比較検討したRCT はないが,尿管ステントもしくはPNS が尿管皮膚瘻に比べ低侵襲である。特に超音波ガイド下のPNS 造設術は侵襲も少なく,手技が簡便なうえ長期にわたる留置も可能であるため第一選択として考えるべきである。尿管ステントは体内に留置するため患者の利便性は高いが,悪性腫瘍による尿管閉塞では再狭窄をきたしやすい5)。これに対し,金属ステントや1つの尿管に2つのステントを留置するtandem ureteral stent の報告が散見される。2012 年に発表された金属ステントに関する報告では,25 例の悪性腫瘍患者に対し37の金属ステントが留置された6)。うち21 ステント(56%)が泌尿器系の悪性腫瘍であり,4例の患者が膀胱鏡にて膀胱三角部に浸潤が認められた前立腺癌患者であった。37 ステントのうち水腎症や腎機能の増悪を認めたものは12 ステント(35%)であり,多変量解析の結果,前立腺癌による膀胱浸潤がステント不全の独立した予測因子であった。今後さらなる検討が必要であるが,前立腺癌患者に対して金属ステントを留置する際には注意する必要があるだろう。Tandem ureteral stent に関しては本邦では採用している施設は少ないようだが,比較的良好な成績が報告されている7)。悪性腫瘍に対する尿管ステントに関しては優れた総説が発表されているので参照されたい8)

参考文献

1)
Oefelein MG. Prognostic significance of obstructive uropathy in advanced prostate cancer. Urology. 2004;63:1117-21.(Ⅳb)
2)
Watkinson AF, A’Hern RP, Jones A, et al. The role of percutaneous nephrostomy in malignant urinary tract obstruction. Clin Radiol. 1993;47:32-5.(Ⅳb)
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Harris MR, Speakman MJ. Nephrostomies in obstructive uropathy;how should hormone resistant prostate cancer patients be managed and can we predict who will benefit? Prostate Cancer Prostatic Dis. 2006;9:42-4.(Ⅳb)
4)
Misra S, Coker C, Richenberg J. Percutaneous nephrostomy for ureteric obstruction due to advanced pelvic malignancy:have we got the balance right? Int Urol Nephrol. 2013;45:627-32.(Ⅳb)
5)
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Goldsmith ZG, Wang AJ, Bañez LL, et al. Outcomes of metallic stents for malignant ureteral obstruction. J Urol. 2012;188:851-5.(Ⅳb)
7)
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8)
Elsamra SE, Leavitt DA, Motato HA, et al. Stenting for malignant ureteral obstruction:Tandem, metal or metal-mesh stents. Int J Urol. 2015;22:629-36.(Ⅵ)