診療ガイドライン

第 1 章 総論・評価

CQ 01
がん患者のリハビリテーションに関する診療ガイドラインは存在するか?

がんのリハビリテーションに関して,原発巣や治療的介入別に網羅された包括的なガイドラインは数少ない。海外では,American Cancer Society(ACS)から発表された「がん患者の栄養と身体活動に関するガイドライン」,American College of Sports Medicine(ACSM)から発表された「がん患者の運動療法に関するガイドライン」,National Comprehensive Cancer Network (NCCN) から発表された「サバイバーシップケアのためのガイドライン」がある。わが国では,2013 年に初めて「がんのリハビリテーションガイドライン」が発表された。

解説

がんのリハビリテーションに関する包括的なガイドラインは5 つ抽出された 1-5)

American Cancer Society(ACS)は,2003 年に「がん治療中・後の栄養と身体活動に関するガイドライン」を発表 1),2006 年および2012 年に改訂版が発表された 2, 3)。2012 年の改訂では,「がんサバイバーのための栄養と身体活動に関するガイドライン」と名称が変更された。がん治療中・後の患者に対する栄養と運動療法に関する提言が,病期(がんの治療中,治療後の回復期,安定期およびがんが進行した病期)や原発巣(乳がん,大腸がん,造血幹細胞移植,肺がん,前立腺がん,上部消化管と頭頸部がん)別に記載されている。また,2012 年の改訂では,患者を対象としたページが設けられ,一般向けにわかりやすくガイドラインを解説している。そのなかで,がんサバイバーの日常生活における目標としては,健全な体重の維持,活動的な生活習慣,健康的な食生活を推奨している。

2010 年にAmerican College of Sports Medicine(ACSM)から発表されたガイドライン 4)では,全身持久力改善を目的とした有酸素運動と四肢や体幹の筋力増強を目的としたレジスタンストレーニングに関して,運動処方の具体的な内容とともに,原発巣(乳がん,婦人科がん,前立腺がん,大腸がん,血液悪性腫瘍,造血幹細胞移植)別,病期や治療介入(放射線・化学療法)別に提言されている。このガイドラインのなかでは,「がん治療中・後の運動を実施する際には特別のリスク管理を要するが,運動の実施は安全である。運動トレーニングは,乳がん・前立腺がん・血液がん患者に対して,体力・筋力・生活の質(quality of life;QOL),倦怠感の改善に有効である。レジスタンストレーニングは乳がん患者に対して,リンパ浮腫の合併の有無にかかわらず,安全に実施できる。他のがん患者への運動の効果は十分に明らかでなく,がんの種類・病期,運動の量や内容についてさらに研究が必要である」と総括されている。

また,同年(2010 年)には,ACSM のガイドラインをもとにした「がん患者のための運動前スクリーニングと運動処方のガイドライン」5)が発表された。このガイドラインでは,治療中や治療後の活動性の低い患者でも適切な運動ができるように,運動前に評価(スクリーニング)を行い,F.I.T.T. すなわち,Frequency(1 週の運動回数),Intensity(運動強度),Time(運動時間),Type(運動の種類)を基本として,患者の状態に応じた運動処方を提案している。

アメリカの National Comprehensive Cancer Network(NCCN)から,「サバイバーシップケアのためのガイドライン」6)が公開されている。2018 年版では,サバイバーシップで懸念される問題として,心毒性,不安・抑うつ・苦悩,認知機能,全身倦怠感,リンパ浮腫,ホルモン関連症状,疼痛,性機能,睡眠障害,健康的なライフスタイル,免疫機能・感染が取り上げられ,推奨されるケアの方法が述べられている。

一方,わが国では,がん種・治療目的・病期別の包括的な診療ガイドラインとして,2013 年に「がんのリハビリテーションガイドライン」が発表された 7)

がん患者に対して,リハビリテーション治療は安全に実施可能であり有効性が検証されつつあるが,世界的にみても包括的なガイドラインはごく限定されたものしかないのが現状である。

付記
◉ がん種・治療目的・病期別のガイドライン

がん種・治療目的・病期別のガイドラインとしては,2016 年にドイツにおいて発表されたサイコオンコロジー領域におけるリハビリテーション診療ガイドライン 1)があり,乳がん,前立腺がん,結腸がん患者を対象としたリハビリテーション治療を実施する際には精神心理的アプローチが重要であることを示した。2016 年には,イギリスで頭頸部がんに関する包括的ガイドラインが策定され,そのなかには,言語と嚥下リハビリテーション治療に関する章立て 2)がある。また,Harris ら 3)は,2001〜2011 年に発表された乳がんのリハビリテーションに関する診療ガイドラインを吟味し,推奨されている内容を整理するとともに現在の問題点を提起している。

一方,わが国では,「骨転移診療ガイドライン」4),「がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス(2016 年版)」5),「がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン2016 年版」6),「科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン ①治療編2015 年版」7),「頭頸部がん診療ガイドライン2018 年版」8)に,リハビリテーションの章立てや記載がある。

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CQ 02
がん患者の身体機能,日常生活動作(ADL),QOL 評価の方法は?

  1. がん患者にリハビリテーションを行うにあたり,がんの病態や治療戦略,機能障害(performance status),能力低下〔活動制限,日常生活動作(ADL)障害〕,社会的不利(参加制約)を評価することを推奨する。
  2. 汎用され,信頼性・妥当性が検証されている以下の評価尺度を用いることを推奨する。
    1. 1)機能障害(performance status 等):
      Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)
      Performance Status,Karnofsky Performance Scale(KPS)
    2. 2)ADL:Barthel 指数(BI),Functional Independence Measure(FIM),Katz Index
      IADL:Lawton IADL Scale

解説

がんのリハビリテーションを実施するうえでは,performance status,すなわち実際の身体機能の状態やセルフケア能力を的確に評価し,病状の進行や治療の効果を判定していくことが必要である。

がん患者のperformance status を評価する尺度として,がん医療の現場で世界的に広く用いられているのは,Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)Performance Status である。再テスト法によって高い信頼性が検証されている 1, 2)。妥当性に関しては,生存期間の予測因子として予測的妥当性が検証されている 3, 4)。また,Karnofsky Performance Scale(KPS)も広く用いられており,再テスト法によって高い信頼性が検証されている 1, 5, 6)。妥当性に関しては,生存期間の予測因子として予測的妥当性 3, 4)および構成概念妥当性について検証されている 5, 6)

近年開発された新たな評価尺度として,Palliative Performance Scale(PPS)7, 8),Edmonton Functional Assessment Tool(EFAT-2)9, 10),Cancer Functional Assessment Set(cFAS)11)があるが,それらの使用はまだ限定的である。

日常生活動作(activities of daily living;ADL)および手段的ADL(instrumental ADL;IADL)に関しては,がんに特化した尺度はなく,疾患を問わず使用できる標準的なADL の評価尺度である Barthel 指数や機能的自立度評価法(Functional Independence Measure;FIM)が用いられる。Barthel 指数 12-14)およびFIM 15-17)では高い信頼性・妥当性が報告されている。また,がん治療や予後に関する研究では,1960 年代に開発されたKatz Index 18)が用いられることが未だ多い。一方,IADL に関しては,主に Lawton IADL Scale 19)が使用されている。

がん患者のADL および手段的ADL(Instrumental ADL;IADL)の評価を目的とした観察研究のメタアナリシス20)では43 文献が抽出され,ADL の評価ではKatz Index およびFIM,IADL 評価ではLawton IADL Scale の使用頻度が多かったと報告されている。

付記
◉ 機能障害の評価(performance status 等)の評価

がんのリハビリテーションを実施するうえでは,実際の身体機能の状態やセルフケア能力を的確に評価し,病状の進行や治療の効果を判定していくことが必要である。Performance status(PS)は,がん患者に対する治療の適応基準の判断,治療効果の指標,予後予測因子としてがん医療の現場で用いられている。がん患者のリハビリテーション治療の効果を評価するためには,信頼性・妥当性に優れ,その効果が鋭敏に反映されるような標準化された身体機能のアセスメントツールが必要である。

がん患者の身体機能評価に世界的に広く使用されているのは,ECOG Performance Status 1-3)とKPS scale 4)である。両者ともに,利点は採点が容易で短時間で測定可能であることである。欠点は,感度が低く,がんのリハビリテーションの効果判定には不十分なことである。また,病的骨折や運動麻痺などの機能障害のために活動性が制限されている場合には,たとえ全身状態が良好であっても低いグレードになってしまうことに注意が必要である。ECOG Performance Status の評定尺度は5 段階で,がん患者の全身状態を簡便に採点できる(表1)。JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)のweb サイトには日本語訳が掲載されている 3)。パブリックドメイン(公有)であるため,知的財産権は発生しないが,複製する場合には,Common Toxicity Criteria, Version 2.0, Publish Date April 30, 1999 およびJCOG web サイト(http://www.jcog.jp/)からの引用であることを明記する必要がある。一方,KPS は,1948 年に初めて報告された評価法であるが,現在でもECOG と並んで世界的に広く用いられている(表2)。病状や労働・日常生活の介助状況により,100%(正常)から0%(死)まで11 段階で採点を行う。著作権はなく制限なく利用できる。

表1  ECOG Performance Status Scale(PS)日本語版

表2  Karnofsky Performance Scale(KPS)

既存の評価尺度ではがん患者の身体機能を多面的に評価できず,がん自体およびその治療に伴うさまざまな身体症状を詳細に評価することが困難であるため,リハビリテーション治療の効果を検討していくうえでは不十分であり,がん患者特有の症状や機能障害を的確に評価することができる新しい評価尺度の開発が望まれている。近年,新たな評価尺度としてPalliative Performance Scale(PPS)5)やEdmonton Functional Assessment Tool-2(EFAT-2)6),cFAS 7)が開発された。PPS 5)は,KPS の問題点を考慮し,現状の医療状況と矛盾しないようにKPS を修正したものである。小項目として,移動・活動性・セルフケア・食物摂取・意識状態を各々評価し,KPS と同様に11 段階で採点する。EFAT-2 6)は直接的に身体機能に影響するバランス,動作,移動,倦怠感,意欲,ADL 等の項目を含み,末期がん患者の個々の障害を評価することができる。cFAS 7)は,がん患者の機能障害に焦点をあて,関節可動域,筋力,感覚機能,バランス,最大動作能力,活動性の各領域を4 段階もしくは6 段階で評価する。がん患者の身体機能の障害の程度を包括的に評価可能であり,リハビリテーションプログラムの作成やリハビリテーション治療の効果判定に役立つ。

◉ ADL, IADL の評価

ADL 評価はがん患者に対するリハビリテーションプログラムを作成するうえでは必須である。ADL のアセスメントツールとして,現在,世界的に広く用いられている標準的な ADL 評価尺度は,Barthel 指数 8)とFIM 9, 10)である。Barthel 指数は1965 年に開発されて以降,国内外において数多くの研究に用いられてきた実績があり,現在でも簡便なADL 評価法として汎用されている。FIM は,運動項目13 項目と認知項目5 項目から構成され,各項目を7 段階で評価する。認知項目を有するため高次脳機能障害,精神心理面の問題を有する場合もよい適応となる。介護量(burden of care)の測定を目的とし,日常生活で実際にどのように行っているかを観察などによって採点する。また,治療・予後研究や投薬治療効果比較などの臨床研究ではKatz Index が使用されている。評定尺度は2 段階(自立か介助)である。評価項目は6 項目(入浴,更衣,トイレ,移乗,排泄,食事)から構成されており,採点が容易である 11)

一方,IADL は重要な項目が年齢・性別・生活環境(家庭内での役割・住居の状態・生活スタイル)などによって異なるため,国際的に統一した評価尺度の開発は難しく,汎用性をもつ評価法の開発・普及は進んでいない。比較的よく用いられるものとして,1960 年代に開発されたLawton IADL Scale 12)がある。電話の使用,買い物,食事の支度,家事,洗濯,移動手段,服薬の管理,財産管理の8 項目から構成される。

また,Frenchay Activities Index(FAI)13)は,日本語版が開発されている 14)。食事の用意,食事の片づけ,洗濯,掃除や整頓,力仕事,買い物,外出,屋外歩行,趣味,交通手段の利用,旅行,庭仕事,家や車の手入れ,読書,仕事の15 項目から構成され,評定尺度は4 段階で各項目共通である。

◉ がんに伴う倦怠感(cancer-related fatigue;CRF)の特徴・評価

1)特徴

National Comprehensive Cancer Network(NCCN)ガイドライン 15)では,がんに伴う倦怠感とは「がんやがん治療に伴う永続的,主観的な疲れであり,肉体的,精神的,感情的な側面をもっている感覚で,エネルギーが少なくなっている状態」と定義されている。がんに伴う倦怠感は,がん治療を受けている患者の14〜96% 16-18),がん治療後の患者の19〜82%に認められると報告されている 19, 20)。倦怠感の明確な発症機序は不明であるが,化学療法や放射線療法などのがん治療や,鎮痛剤,抗うつ薬,睡眠導入剤などのがん関連症状に対する薬剤,がんと診断されたことや長期間の治療に伴うストレスなどの精神・心理的要因が倦怠感へとつながる。さらに,がんの進行に伴う代謝異常,がん細胞より産生されるサイトカイン,貧血,疼痛,有害事象,栄養障害,睡眠障害,身体活動の低下,がん悪液質などの身体的要因によるものなど,さまざまな要因が関連する。日本語では,「がんに関連した疲労感」「疲労感」などと訳されることもあるが,緩和ケアなどの場面では,「倦怠感」と表現していることが多い。また,患者向けには,「からだのつらさ・きもちのつらさ」といった表現も,ほぼ同等の概念として用いられている。

2)評価尺度

多数の評価法が用いられているが,一元的な尺度で倦怠感の有無やその程度を評価するものと,多角的な尺度で倦怠感が身体面・感情面・認知面にどのような影響を与えるか評価するものに大別される。

一元的な尺度では,Profile of Mood States(POMS)21)の fatigue subscale や,Brief Fatigue Inventry(BFI)22)がよく用いられる。簡易的には,Visual Analogue Scale(VAS),no fatigue から worst fatigue を 10 段階で示すNumerical Rating Scale(NRS)23)や,0〜100 の自覚的尺度のSymptom Assessment Scale(SAS)24)が使われている。一方,多角的な尺度では,改訂版Piper Fatigue Scale(PFS)25),Schwartz Cancer Fatigue Scale(SCFS)26),Cancer Fatigue Scale(CFS)27)が信頼性・妥当性も確かめられており,広く用いられている。

これらのなかで,日本語版が作成され,その信頼性・妥当性が証明されているものは,BFI 28)およびCFS 29)である。BFI はアメリカMD Anderson Cancer Center で開発された倦怠感を評価するための自己記入式の質問表であり,9 項目の質問から構成されている。全項目の平均スコア(0〜10)を用いて倦怠感の程度の指標とする。CFS はがん患者の倦怠感を評価する簡便な自己記入式の質問票であり,15 項目の質問から構成され,5 段階で評価する。身体的倦怠感・精神的倦怠感・認知的倦怠感という3 つの下位尺度から構成されており,高得点ほど強い倦怠感を表す。

◉ がん患者の精神心理面の評価

がん患者の抑うつや不安などの精神心理面の評価には,包括的QOL 評価尺度の心理領域が用いられるほか,精神心理面に特化した評価法が用いられている。日本語での信頼性・妥当性が検証されている代表的な評価尺度を表3 に示す 30-35)

表3  精神心理面の評価尺度

◉ がん患者のQOL の評価

がん患者のQOL を評価する場合には,慢性疾患全般に広く用いられている評価法〔MOS 36-Item Short-Form Health Survey(SF-36)36)など〕を用いる場合と,がん特異的尺度〔Functional Assesment of Cancer Therapy(FACT)37),The European Organization for Research and Treatment of Cancer Quality of Life Questionnaire(EORTC QLQ)38)など〕を用いる場合がある。

がん特異的尺度は,身体面・機能面・心理面・社会面といったQOL の領域(これらの領域群を健康関連QOL とよぶ)を含み,これにがん種・治療法・症状別にモジュールや下位尺度を追加した形式をとることが多い。たとえばFACT 37)では,身体症状について(7 項目)・社会的/家族との関係について(8 項目)・性生活(1 項目)・精神状態について(6 項目)・活動状況について(7 項目)という包括的尺度(FACT-G)に加え,乳がんであれば呼吸困難・浮腫・体重増加がないかなどの9 項目の尺度を追加し,FACT-B として用いられている。FACT,EORTC QLQ は,包括的尺度 37, 38)も追加尺度部分 39, 40)も,信頼性と妥当性が検証され広く用いられている。

PS のよい早期の患者などでは,重視しているQOL 領域によって,複数のQOL の評価法や領域特異的な評価(心理面であれば既存の不安・うつの尺度)を併用し,より詳細な評価を行っている報告が多い。また,治療後の患者ではがん特異的尺度よりも慢性疾患用の評価法(SF-36 など)が用いられていることが多い。FACT やEORTC QLQ などのがん特異的尺度は比較的簡便であるため進行期・終末期にも用いられる。

◉ 悪液質の特徴・評価

1)特徴

悪液質は,体重および筋肉量の減少によって定義される複合的疾患である 41, 42)。飢餓状態では脂肪組織の減少が主であり骨格筋の大きな喪失を伴わないが,悪液質では脂肪組織のみならず骨格筋の多大な喪失を呈することが大きな違いである。中枢神経系に作用し食欲不振を生じるとともに,腫瘍産生因子であるproteolysis-inducing factor(PIF)や炎症性サイトカイン(TNF-α,アンギオテンシンⅡ)が筋蛋白・筋線維の分解を促進し,筋崩壊が生じ,筋萎縮・筋力低下を呈する結果,不動や活動性の低下による廃用性筋萎縮が進行し,さらに身体活動が制限され,体力・持久力の低下を生じるという悪循環に陥る。

2)評価

悪液質は,European Palliative Care Research Collaborative(EPCRC)による悪液質ガイドライン 43)により,前悪液質,悪液質,不応性悪液質の3 つの段階に分類することができる(図1)。>

図1  がん悪液質の重症度分類

進行がん患者においては,食欲不振の症状の有無とともに,スクリーニング評価として,体重減少,BMI,筋量・筋力(サルコペニア)の有無を定期的に評価し,悪液質に対する早期から適切なマネージメントを実施することが,限られた余命の間の全身倦怠感などの症状や身体機能の低下を生じさせない上で重要である(図2)。なお,筋量はDXA 法もしくはL3 レベルでのCT 筋断面積で評価し,筋力としては握力の評価が推奨されている 42)

図2  がん悪液質に対するマネジメント

◉ 高齢がん患者の特徴・評価

1)特徴

高齢化に伴い高齢がん患者の数は年々増加している。高齢がん患者では,加齢に伴い併存疾患の数が増加すると同時に,尿失禁,転倒,体重減少,めまい,視力低下など高齢者特有のさまざまな病態(いわゆる老年症候群)を呈する。これらの病態が1 つ以上あるとADL 低下のリスクは増加し,複数あるとそのリスクはさらに増加する 44)。さらには,併存疾患による内服薬の増加,認知機能の低下や抑うつなどの精神・心理的な問題,家族形態や経済状況などの社会的問題も存在するなど,高齢がん患者は多くの点で非高齢がん患者と異なる 45)

近年,老年医学の分野では,高齢者の健康寿命や要介護状態に影響を与える要因として「フレイル」が注目されている。がん医療の分野においても,がん治療前から存在する「フレイル」が化学療法・放射線療法の完遂率の低下,治療関連毒性の増大,術後合併症の増加,死亡率と関連があると報告され,高齢がん患者の治療に及ぼす「フレイル」の悪影響が明らかにされている 46)

2)評価

高齢がん患者においては治療前の段階で,身体的・精神的・社会的な機能を把握し,適切な治療選択を行うことが重要となる。そのためには,治療前に高齢がん患者の全身状態を総合的に判断することが重要となるが,そのためのツールとして高齢者機能評価(geriatric assessment;GA)がある。GA は,①身体機能,②併存症,③薬剤,④栄養,⑤認知機能,⑥気分,⑦社会支援,⑧老年症候群を基本的な構成因子(ドメイン)としている。各ドメインの代表的なGA ツールを表4 に示した 47, 48)

表4  高齢者機能評価の構成因子と評価ツール

高齢がん患者では,治療前やリハビリテーション治療の開始時にGA を行い,治療方針やリハビリテーション治療の方針決定を行う必要がある。GA のすべてのドメインを網羅するには1 時間半〜2 時間程度を要するため,まずは少ない質問項目で機能障害の有無をスクリーニングし,機能障害を有していると判断された患者に対してのみGA を実施することが推奨されている。定量評価が可能なGA のスクリーニングツールとしてG8(Geriatric 8),VES-13(Vulnerable Elders Survey-13),fTRST(Flemish version of the Triage Risk Screening Tool),MINI-COG 等が開発されている 49)

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第 2 章 肺がん

CQ 01
肺がん患者に対して,術前にリハビリテーション治療(運動療法,呼吸リハビリテーション)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2B
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
肺がん患者に対して,術前にリハビリテーション治療(運動療法,呼吸リハビリテーション)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

肺がんにおいては,慢性閉塞性肺疾患など呼吸に影響を与える基礎疾患がある例,進行してから発見される例など,治療開始前から呼吸機能,運動耐容能が低下している例が多く,術後の合併症が重大な問題となる。そのため,術前からリハビリテーション治療を行い,呼吸機能および心肺機能を高めようという試みが本ガイドライン初版作成時以降に多く報告されている。そこで今回の改訂では,新しい知見を加え,肺がん患者に対するリハビリテーション治療の有効性について検討した。

なお,今回対象とした「リハビリテーション治療」は,肺がんと診断され手術が予定されている患者に対して,「有酸素運動」「筋力増強訓練」「呼吸筋訓練」のいずれかもしくは組み合わせた介入を行っているものとした(英語論文では “preoperative exercise training” と表現されている)。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①入院期間・合併症頻度の改善(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,システマティックレビューおよびメタアナリシス2 件,ランダム化比較試験6 件を採用した。

・評価

Cavalheri ら 1)は,術前にリハビリテーション治療(preoperative exercise training)を行っているランダム化比較試験5 件をメタアナリシスし,介入群で術後呼吸器合併症は67%減少し,入院期間や胸腔ドレーンの留置期間が,対照群に比して有意に少なかったとした。Garcia ら 2)は,術前にリハビリテーション治療を行っている21 論文をメタアナリシスし(ランダム化比較試験5 件を含む),介入群で入院期間・術後合併症頻度が,対照群に比して有意に少なかったとした。

Benzo 3)らは,慢性閉塞性肺疾患合併の肺がん術前患者に対し,術前に監督下で,20 分のトレッドミルと上肢エルゴメーター,セラバンドを用いた上下肢筋力増強訓練,10〜15 分の吸気筋力訓練,10 分の口すぼめ呼吸練習と,週末の自主練習についての指導を1 日2 回,10 セッション行い,対照群に比して胸腔ドレーンの留置が延長する割合が低く,留置期間が有意に短かった(術後肺炎の頻度・重度の無気肺の頻度・呼吸器装着時間の延長の頻度には有意差がなかった)。Lai ら 4)は,70 歳以上の肺がん術前患者に対し,術前に監督下で,30 分のステッパーを用いた有酸素運動と,深呼吸やインセンティブスパイロメトリーを用いた肺を拡張させる手技,横隔膜筋力改善を目指した腹式呼吸訓練を,1 回15〜30 分,1 日2 回,7 日間行い,術後肺炎の頻度,入院期間は対照群に比して有意に少なかった(対照群はDVD 視聴などによる教育セッション)。Morano 5)らは,呼吸機能障害がある肺がん術前患者に対し,最高心拍数の80%の有酸素運動(10 分から 30 分に漸増)および吸気筋訓練,柔軟,ストレッチ,バランス訓練を週5 セッション,4 週間行い,入院期間,胸腔ドレーンの留置期間は,対照群に比べて有意に短かった。肺炎の頻度には有意差がなかった(対照群は lung expansion technique 指導などの呼吸リハビリテーションのみ)。Pehlivan ら 6)は,肺がん術前患者に対し,chest physiotherapy(横隔膜呼吸,口すぼめ,segmental breathing exercise,インセンティブスパイロメトリーの使用法指導,咳練習)とトレッドミル1 日3 回(患者の耐容性に合わせた強度)からなる “intensive physical therapy” を週5 回,4 週間行い,入院期間は対照群に比して有意に短かったが,術後合併症頻度には有意差がなかった。Licker ら 7)は,肺がん術前患者に対し,理学療法士の監督下で,最高心拍数の50%の強度10 分と80〜100%の強度のスプリント15 秒を組み合わせた高強度インターバルトレーニング2 セットを最大週3 回(中央値で合計8 回)行い,術後の合併症頻度は対照群と比して有意差がなかったが,呼吸器合併症は有意に少なく,無気肺頻度は少なく麻酔科床にいる期間が短かった。1 年後の生存率は対照群と比して有意差がなかった 8)

・統合

それぞれの報告で対象が限定されており,アウトカム指標もそれぞれ異なるが,合併症頻度,入院期間の有意な改善がみられており,エビデンスの強さはB とした。

②運動耐容能の改善(重要性6,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験4 件を採用した。

・評価

Stefanelli ら 9)は,慢性閉塞性肺疾患合併の肺がん術前患者に対し,高強度の上下肢筋力訓練と,最高心拍数の 70%から徐々に負荷を上げる有酸素運動30 分と呼吸訓練を含む3 時間のセッションを15 回(3 週間)行い,介入後と術後60 日目の運動耐容能は,対照群に比して有意に改善していた。Lai ら 4),Morano ら 5),Licker ら 7)も,前述のリハビリテーション治療により,介入後の最高酸素摂取量や6 分間歩行テストで評価された運動耐容能が対照群に比べ有意に改善したと報告した。

・統合

それぞれの報告で対象が限定されているが,運動耐容能の有意な改善がみられており,エビデンスの強さはB とした。

③呼吸機能の改善(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験4 件を採用した。

・評価

前述の介入により,Lai ら 4)は術後の最大呼気流量,Morano ら 5)は1 カ月後(術前)の努力性肺活量,Pehlivan ら 6)は介入後(術前)努力性肺活量,肺拡散能力,動脈血中酸素濃度,動脈血中二酸化炭素濃度が,対照群に比して有意に良好であったと報告した。Stefanelli ら 9)は,介入後と術後60 日目の努力性肺活量は,対照群と有意差がなかったと報告した。

・統合

それぞれの報告で対象が限定されており,アウトカム指標もそれぞれ異なるが,呼吸機能の有意な改善がみられており,エビデンスの強さはB とした。

④有害事象の発生(害:重要性6,エビデンスの強さ:D)

Licker ら 7)は,アドヒアランスは平均87%と良好であり,有害事象はなかったとした。その他の報告でも,害の報告は認めていない。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:B(中)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,術後合併症の減少や入院期間の短縮,運動耐容能,呼吸機能の改善がみられた。一方,害(望ましくない効果)として,有害事象の増加は認められなかった。以上より,益が害を大きく上回っており,その効果の差は大きいと判断した。

患者の価値観・希望

術前のリハビリテーション治療は,害が少なく益が大きい治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられる。一方で,術前に1〜4 週間リハビリテーション治療を行うことで手術が遅れることに関しては,価値観・希望の多様性は高いと考えられる(早期の治療を望む可能性がある)。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

入院によるリハビリテーション治療の場合には,「がん患者リハビリテーション料」の算定要件に含まれるため医療保険の適用が可能である。外来での実施の場合には,医療保険での算定が困難である(慢性閉塞性肺疾患患者であれば呼吸器リハビリテーション料での算定が可能)。

・外的妥当性(臨床適応性)

術前に1〜4 週間,リハビリテーション治療のために入院する,もしくは外来で頻回に集中してリハビリテーション治療を行うことは,体制が整っていない現状では多くの病院で対応困難であると考えられ,臨床適応性は低い。

総合評価

肺がん患者に対して,術前にリハビリテーション治療(運動療法,呼吸リハビリテーション)を行うことを提案する。

肺がん患者に対し,術前にリハビリテーション治療(運動療法,呼吸リハビリテーション)を行うことは,重要なアウトカムに対するエビデンスは強く,益と害のバランスは確実である(益の確実性が高い)。ただし,報告されているリハビリテーション治療は「有酸素運動」「筋力増強訓練」「呼吸筋訓練」をさまざまな程度で複合させた治療で,治療期間も1〜4 週間と差が大きい。また,手術の実施が1〜4 週遅れることへの患者の価値感・希望は多様であると考えられる。そのため,術前のリハビリテーションについては提案にとどめ,その方法(特に期間)については患者によって配慮すべきであることを付記する。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・ここで扱われたリハビリテーション治療は,術前に入院や集中的な外来で平均2 週間ほど行われており,そのために手術が延期してしまうことになり,合併症リスクの少ない若年の肺がん患者ではかえって不利になる可能性もある。術前呼吸リハビリテーション治療を行うべき対象を明確にする必要がある。
  • ・わが国では診療報酬上,術前呼吸リハビリテーション治療が認められているのは1 週間のみであり,報告されているような介入は臨床適応性が低い。
■投票結果

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CQ 02
肺がん患者に対して,術後にリハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2C
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
肺がん患者に対して,術後にリハビリテーション治療(運動療法)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

肺がんの術後は,呼吸機能,心肺機能が低下しやすく,呼吸困難からQOL も低下しやすいことが報告され,術後の身体能力やQOL 維持への関心が高まっている。本ガイドライン初版作成時には,肺がん術後患者を対象としたリハビリテーション治療の報告は少数の観察研究などに限られており,推奨を示すことはできなかった。その後,肺がん患者に対する運動療法などリハビリテーション治療の報告が増えており,心肺機能やQOL に対する知見が蓄積してきている。そこで今回の改訂では,新しい知見を加え,肺がん患者に対する運動療法の有効性について検討した。

なお,手術を行った患者に対する研究を検討しており,すべて開胸もしくは胸腔鏡補助下手術(VATS)を受けた,非小細胞がん患者(以下,肺がん術後患者)が対象となっている。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①運動耐容能の改善(重要性8,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を行い,システマティックレビューおよびメタアナリシス2 件,ランダム化比較試験6 件を採用した。

・評価

Cavalheri ら 1)は,術後運動療法を行っている4 件のランダム化比較試験をメタアナリシスし,運動耐容能が対照群に比して有意に改善したとした。Ni ら 2)は,術前・術後の実施を比較し,術後も12 週間の運動療法で運動耐容能の改善はみられるが,術前介入よりも長期間が必要になっているとした。

Arbane ら 3)は,肺がん術後患者に対し,術後5 日目(入院中)から,最高酸素摂取量の60〜80%の有酸素運動5〜10 分と筋力増強訓練を組み合わせた監督下の運動療法を開始し,退院後は同様の運動を週2 回行うこと指導し月1 回の訪問で継続を促す,在宅を中心した運動療法を12 週間継続し,6 分間歩行テストで評価された運動耐容能は対照群と有意差を認めなかった。Arbane ら 4)は,肺がん術後患者に対し,術後1 日目から,心拍数予備能の60〜90%の有酸素運動5〜30 分を開始し,退院後は在宅を中心した運動療法(毎日30 分のウォーキングを指導し週1 回の電話で継続を促す)を4 週間継続し,シャトルウォーキングテストで評価された運動耐容能は対照群と有意差を認めなかった。Brocki ら 5)は,肺がん患者に対し,術後3 週から,監督下で最高酸素摂取量の60〜80%の有酸素運動20 分と筋力増強訓練,呼吸苦マネジメント指導を組み合わせた運動療法を週1 回,10 週間行い,6 分間歩行テストで評価された運動耐容能は,在宅での運動指導のみを受けた群と有意差を認めなかった。Brocki ら 6)は,術後肺炎のリスクがある(70 歳以上,1 秒率 70%以下)肺がん術後患者に対し,術前の呼吸指導と術後2 日目からの理学療法は両群とも共通して行い,介入群に対してはそれに加えて吸気筋トレーニング(POWERbreathK3 を用いた吸気筋トレーニング)を術後1 日目から2 週間,1 日2 回,入院中は監督下で,退院後は在宅で電話での指導を受けながら実施し,6 分間歩行テストは対照群と比して有意差がなかった。Edvardsen ら 7)は,肺がん術後患者に対し,術後5〜7 週から,監督下で最高酸素摂取量の80〜95%(高強度)の有酸素運動と筋力増強訓練を組み合わせた運動療法を,週1 回,60 分,20 週間行い,最大酸素摂取量で評価された運動耐容能は対照群に比べ有意に改善していた。Salhi ら 8)は,肺がん術後患者に対し,術後8 週以内もしくは補助療法終了後2 週以内から,監督下で週3 回,最高酸素摂取量の70%の有酸素運動20 分と筋力増強訓練を組み合わせた運動療法を12 週間行い,6 分間歩行テストは通常ケア群と比べ有意に改善していたが,最大酸素摂取量は通常ケア群と比べ有意差がなかった(3 群でもう一つ whole-body vibration を行っており,運動療法群と whole-body vibration では有意差がない)。Stigt ら 9)は,肺がん術後患者に対し,退院4 週後から,週2 回,監督下で最高酸素摂取量の60〜80%の有酸素運動20 分と筋力増強訓練を組み合わせた運動療法,および疼痛専門家やソーシャルワーカーへの定期的な受診を12 週間行い,6 分間歩行テストは通常ケア群と比べ有意に改善していた。

・統合

対照群が「在宅運動群」であるBrocki の報告を除き,4 つの報告をメタアナリシスしたところ,運動療法群で運動耐容能の改善を認め,エビデンスの強さはA とした。

② QOL の改善(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験6 件を採用した。

・評価

Edvardsen ら 7)は,前述の介入により,SF-36 で評価されたQOL(身体機能,メンタルヘルス),European Organization for Research and Treatment of Cancer(EORTC)QLQ-C30 の呼吸困難スコアは,通常ケア群と比べ有意に改善していたと報告した。Arbane ら 3, 4),Salhi ら 8),Stigt ら 9)は,術後の運動療法により,EORTC QLQ-C30,EORTC QLQ-LC13,SF-36,St.George’s Respiratory Questionnaire(SGRQ),Dutch Version of the McGill Pain Questionnaire(MPQ-DLV QLI)で評価されたQOL は,対照群と比べ有意差を認めなかったと報告した。Brocki ら 5)も,前述の介入により,SF-36 で評価されたQOL は在宅での運動指導のみを受けた群と有意差を認めなかったとした。

・統合

対照群が「在宅運動群」であるBrocki の報告,スコアが論文中に示されていないStigt らの報告を除いてメタアナリシスしたところ,QOL(身体機能)の改善は有意ではなかった。ランダム化比較試験1 件において,QOL の一部項目で有意な改善がみられており,エビデンスの強さはC とした。

③筋力の改善(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験3 件を採用した。

・評価

Edvardsen ら 7)は,前述の介入により,下肢筋力や筋量は通常ケア群と比べ有意に改善していたと報告した。Arbane ら 3, 4)は,前述の介入により,四頭筋筋力で評価された筋力は対照群と有意差を認めなかったと報告した。

・統合

筋力を評価しているランダム化比較試験1 件で有意な改善がみられており,エビデンスの強さはB とした。

④呼吸機能の改善(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験5 件を採用した。

・評価

Kim ら 10)は,肺がん術後患者に対し,術後1 日目から理学療法士の監督下で,呼吸リハビリテーションプログラム(可動域訓練,肺を拡張させる運動,segmental breathing,インセンティブスパイロメトリーを用いた呼吸筋訓練,有酸素活動時の呼吸法指導)を入院中毎日30 分,退院後は6 カ月間在宅を基盤とした自主練習の指導とフィードバックを行い,6 カ月後の努力性肺活量,Modified Borg Dyspnea Scale は対照群に比べ有意に改善していた。Brocki ら 6)は,前述の介入により,呼吸筋力(最大吸気筋力,最大呼気筋力)・呼吸機能は対照群と比して有意差がなかったが,術後3,4 日目の酸素飽和度は介入群で有意に良好であったと報告した。Edvardsen ら 7)は,前述の介入により,1 秒量は通常ケア群と比べ有意差がなかったが,carbon monoxide transfer factor(Tlco)は通常ケア群と比べ有意に改善していたと報告した。Brocki ら 5),Stigt ら 9)は,前述の介入により,1 秒量は対照群と比べて有意差がなかったと報告した。

・統合

呼吸機能として主には1 秒量が比較されているが,1 秒量をアウトカムとした上記3 論文すべてで有意な改善がみられていない。ランダム化比較試験1 件において Tlco,別の1 件において努力性肺活量の改善がみられており,エビデンスの強さはC とした。

⑤疼痛(害:重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

Stigt ら 9)は,前述の運動療法により,通常ケア群と比べ介入終了時(3 カ月後)と6 カ月後のMPQ-DLV やSF-36 で評価された疼痛が強い傾向にあると報告した。Kim ら 10)は,前述の介入により,3 カ月後,6 カ月後のVAS で評価された疼痛は対照群に比べ改善していたと報告した。Brocki ら 5)は,監督下での介入では,SF-36 の疼痛のスコアが在宅での運動指導のみを受けた群に比べ有意に良好であったと報告した。

・統合

疼痛に関しては,悪化,改善,いずれも報告されている。疼痛悪化の傾向があるとしたStigt ら 9)は,積極的な運動療法を行っており,改善を報告したKim ら 10)の介入は呼吸リハビリテーション中心である。Stigt ら以外の運動療法の報告で疼痛の悪化が報告されているわけではないが,運動療法群で疼痛が強くなるリスクはあると考え,害として,エビデンスの強さはC とした。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:C(弱)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,運動耐容能の改善,筋力の改善がみられた。一方,介入群で術後3 カ月後,6 カ月後の疼痛が強い傾向にあるなど害も報告されていることから,益と害のバランスは確実とはいえないと判断した。

患者の価値観・希望

術後に呼吸困難や疼痛などが強い肺がん術後患者にとって,術後の運動療法は他のがん種に比べても困難さを伴い,価値観や希望の多様性は高いと考えられる。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

肺がん患者の運動療法は監督下で行われているものが多い。入院中には,「がん患者リハビリテーション料」の診療報酬算定により保険診療で実施できる。一方,外来では「がん患者リハビリテーション料」の算定要件を満たさないため,保険診療で実施することはできない。

・臨床適応性(外的妥当性)

多くのがん専門医療機関では,入院中には保険診療により,リハビリテーション科医,リハビリテーション専門職(理学療法士等)から構成されるリハビリテーションチームの体制のもとで,監督下での運動療法(supervised-exercise)を行うことができるため,臨床適応性は高い。

一方,外来では保険診療の適用外になるため,監督下での運動療法および専門スタッフの監督なしで行う,在宅を基盤とした運動療法(home-based exercise)ともに実施可能な医療機関は少なく,現状では臨床適応性は低い。

総合評価

肺がん患者に対して,術後にリハビリテーション治療(運動療法)を行うことを提案する。

肺がん術後患者に対する術後の運動療法などのリハビリテーション治療は,行わない場合に比べて運動耐容能や筋力の改善はあるものの,QOL への効果は限定的で疼痛に関しても対照群より強い傾向など害がある可能性もあることから,提案(弱い推奨)にとどめる。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・術後は呼吸機能が落ちて苦しかったという人が多く,呼吸が苦しいと不安やうつ傾向・QOL の低下にもつながる。患者1 人では呼吸困難や不安,疼痛により運動が困難なので,専門的な指導のもとで適切な運動を行うことのニーズは高いと考えられる。
■投票結果

付記

◉ インセンティブスパイロメトリーについて

開胸開腹術前のがん患者に対して行われる主な呼吸リハビリテーション手技として,①深呼吸練習 ②胸郭理学療法(thoracic physiotherapy) ③インセンティブスパイロメトリー(を用いた呼吸訓練) ④吸気筋筋力訓練(inspiratory muscle training;IMT) ⑤間欠的陽圧呼吸(intermittent positive pressure breathing;IPPB)が挙げられる。これらを運動療法などと組み合わせたリハビリテーション治療については,2 章肺がん,3 章消化器がんで解説した。一方,呼吸リハビリテーション手技単独での呼吸器合併症の予防効果に関しては,未だ統一した見解が得られていない。

1994 年Thomas ら 1)は,深呼吸やインセンティブスパイロメトリーを使用した呼吸訓練についてシステマティックレビューおよびメタアナリシスを行い,術後呼吸器合併症が減少したと報告したが,2014 年のメタアナリシス2)では,術後呼吸器合併症の減少は示されなかった。また,Lunardi ら 3)は,上部消化管手術を行った患者に対し(悪性疾患の患者はそのうち60%程度),術後5 日間,肺を拡張させる手技(容量式インセンティブスパイロメトリー,流量式インセンティブスパイロメトリー,深呼吸の3 群)を実施したが,どの介入によっても,肺機能や術後合併症頻度は対照群と比して差がなかったことを報告した。また,American Association for Respiratory Care(AARC)の診療ガイドライン 4)でも,インセンティブスパイロメトリーを用いた呼吸訓練について,すべての術後患者に同じように行うことは推奨されないとし,適応となる病態も明確でないとした。しかし,これらの報告の対象者は,主に良性疾患患者(虫垂炎,胆嚢炎,心臓外科手術など)であり,平均年齢も20〜50 歳代と比較的若年者が多いため,結果をがん患者に外挿することは難しいと考えられる。

IMT については,高リスクの肺がん術後患者に対して,通常のリハビリテーション治療に加えて,IMT を1 日1 回の頻度で2 週間行ったところ,術後の合併症頻度は対照群と有意差がないものの,経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)は有意に良好であったという報告 5)がある。また,胸部・上部消化管手術前の患者(心臓外科手術など良性疾患中心)に,IMT を行ったランダム化比較試験12 件のメタアナリシス6)では,術後呼吸器合併症の発症率が,対照群もしくは別の介入に比べて有意に少なかったことが示されているが,インセンティブスパイロメトリーと同様に,がん患者を主な対象としたランダム化比較試験は未だ少ない。

文献

1)
Cavalheri V, Tahirah F, Nonoyama M, et al. Exercise training for people following lung resection for non-small cell lung cancer – a Cochrane systematic review. Cancer Treat Rev. 2014;40:585-94.
2)
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3)
Arbane G, Tropman D, Jackson D, et al. Evaluation of an early exercise intervention after thoracotomy for non-small cell lung cancer(NSCLC), effects on quality of life, muscle strength and exercise tolerance: randomised controlled trial. Lung Cancer. 2011;71:229-34.
4)
Arbane G, Douiri A, Hart N, et al. Effect of postoperative physical training on activity after curative surgery for non-small cell lung cancer: a multicentre randomised controlled trial. Physiotherapy. 2014;100:100-7.
5)
Brocki BC, Andreasen J, Nielsen LR, et al. Short and long-term effects of supervised versus unsupervised exercise training on health-related quality of life and functional outcomes following lung cancer surgery – a randomized controlled trial. Lung Cancer. 2014;83:102-8.
6)
Brocki BC, Andreasen JJ, Langer D, et al. Postoperative inspiratory muscle training in addition to breathing exercises and early mobilization improves oxygenation in high-risk patients after lung cancer surgery: a randomized controlled trial. Eur J Cardiothorac Surg. 2016;49:1483-91.
7)
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Salhi B, Haenebalcke C, Perez-Bogerd S,et al. Rehabilitation in patients with radically treated respiratory cancer: a randomised controlled trial comparing two training modalities. Lung Cancer. 2015;89:167-74.
9)
Stigt JA, Uil SM, van Riesen SJ, et al. A randomized controlled trial of postthoracotomy pulmonary rehabilitation in patients with resectable lung cancer. J Thorac Oncol. 2013;8:214-21.
10)
Kim SK, Ahn YH, Yoon JA, et al. Efficacy of Systemic Postoperative Pulmonary Rehabilitation After Lung Resection Surgery. Ann Rehabil Med. 2015;39:366-73.
付記文献
1)
Thomas JA, McIntosh JM. Are incentive spirometry, intermittent positive pressure breathing, and deep breathing exercises effective in the prevention of postoperative pulmonary complications after upper abdominal surgery? A systematic overview and meta-analysis. Phys Ther. 1994;74:3-10;discussion 10-6.
2)
do Nascimento Junior P, Modolo NS, Andrade S, et al. Incentive spirometry for prevention of postoperative pulmonary complications in upper abdominal surgery. Cochrane Database Syst Rev. 2014:CD006058.
3)
Lunardi AC, Paisani DM, Silva C, et al. Comparison of lung expansion techniques on thoracoabdominal mechanics and incidence of pulmonary complications after upper abdominal surgery: a randomized and controlled trial. Chest. 2015;148:1003-10.
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Strickland SL, Rubin BK, Drescher GS, et al. AARC clinical practice guideline: effectiveness of nonpharmacologic airway clearance therapies in hospitalized patients. Respir Care. 2013;58:2187-93.
5)
Brocki BC, Andreasen JJ, Langer D, et al. Postoperative inspiratory muscle training in addition to breathing exercises and early mobilization improves oxygenation in high-risk patients after lung cancer surgery: a randomized controlled trial. Eur J Cardiothorac Surg. 2016;49:1483-91.
6)
Katsura M, Kuriyama A, Takeshima T, et al. Preoperative inspiratory muscle training for postoperative pulmonary complications in adults undergoing cardiac and major abdominal surgery. Cochrane Database Syst Rev. 2015:CD010356.

第 3 章 消化器がん

CQ 01
消化器がんで腹部手術を行う予定の患者に対して,術前にリハビリテーション治療(運動療法,呼吸リハビリテーション)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2C
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
消化器がんで腹部手術を行う予定の患者に対して,術前にリハビリテーション治療(運動療法,呼吸リハビリテーション)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

消化器がん患者は,高齢の患者も多く,術後の合併症が起こりやすく,長期にわたる心肺機能の低下のリスクもある。本ガイドライン初版作成時から,術前呼吸リハビリテーションは入院期間や合併症を減じるとされてきたが,その後,運動耐容能の改善も目指し積極的な運動療法も含む術前リハビリテーションの報告が多くなされている。そこで今回の改訂では,新しい知見を加え,術前のリハビリテーション治療が,術後の合併症予防や運動耐容能の維持・改善に関して有効かを検証した。

ただし前提として,術前の呼吸練習や生活指導,術後の早期離床は既に基本的な治療として行われており(対照群でも行われている),ここではそれに付加して専門的な運動療法や呼吸リハビリテーションなどのリハビリテーション治療を介入として行っているものに関して検討した(英語では “prehabilation” と表現されていることが多い)。手術に関しては,開腹か腹腔鏡下かは問わない。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①術後の合併症の減少・入院期間の短縮(重要性8,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,システマティックレビュー1 件,ランダム化比較試験3 件を採用した。

・評価

Hijazi ら 1)は,腹部がん患者(多くは結腸がんだが,膀胱がん患者も含む)に対して,術前リハビリテーション治療を実施した9 論文をレビューし,2 論文で合併症頻度をアウトカムとしているが,いずれも対照群と有意差がないことを示した。

Gillis ら 2)は,結腸がん患者に対し,手術の4 週前から在宅を基盤とした運動療法(有酸素運動と筋力増強運動)を1 日50 分,週3 回行い,術後合併症頻度や入院期間は対照群と比べて有意差がなかった。Dronkers ら 3)は,腹部手術が予定されているがん患者に対して,外来,監督下で,筋力増強訓練・吸気筋筋力増強訓練・最高酸素摂取量の55〜75%の有酸素運動を週2 回,手術までの待機期間中に2〜4 週間行い,対照群に比べ,術後合併症頻度や入院期間に有意差は認めなかった。Yamana ら 4)は,食道がん患者に対し,術前に,入院で,理学療法士監督下での7 日間以上の呼吸リハビリテーション(呼吸筋・胸郭ストレッチ,深呼吸・腹式呼吸,咳訓練)と,下肢・腹筋筋力訓練およびエルゴメーター20 分を行い,術後1 日目のClavien-Dindo classification(合併症スコア)が,対照群に比べ有意に低下していた。

・統合

結腸がんの報告では,合併症頻度で対照群と有意差がなかった。食道がんの報告では,限られた指標ではあるが合併症が減少しており,エビデンスの強さはC とした。

②運動耐容能の改善(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

Carli ら 5)は,手術が予定されている結腸がん患者に対して,在宅を基盤として,最高心拍数の50%から毎週10%ずつ強度を上げるエルゴメーターでの有酸素運動と,筋力増強訓練を行い,訪問と週1 回の電話でフォローした(対照群は,30 分のウォーキングと呼吸法指導をされた)。術前介入期間は平均52 日間で,介入後および術後に6 分間歩行テストが改善した患者の割合は,介入群で,対照群に比べ有意に多かった。Gillis 6)は,前述の介入により,術直後からの介入に比べ,術後8 週目の6 分間歩行テストで評価された運動耐容能が対照群に比べ有意に改善していたと報告した。

・統合

運動耐容能について,介入群で有意に改善が得られているが,評価項目や評価時期にばらつきがあり,エビデンスの強さはB とした。

③倦怠感の悪化(害:重要性7,エビデンスの強さ:C)

有害事象は報告されていないが,在宅を基盤として負荷の強い運動療法を実施したCarli ら 5)の報告ではアドヒアランスは16%と低く,システマティックレビュー 7)でも,監督下での実施が勧められている。

・統合

報告から確認できた範囲内で,有害事象の出現は認められなかった。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:C(弱)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,運動耐容能の改善がみられた。一方,害(望ましくない効果)として,有害事象の増加は認められなかった。以上より,益が害を上回っていると判断した。

患者の価値観・希望

患者の背景,治療プロトコールに多様性が高いため,価値観や希望の多様性も高いと考えられる。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

術前に1〜4 週間実施する報告が多い。入院中には,「がん患者リハビリテーション料」の診療報酬算定により保険診療で実施できる。一方,外来では「がん患者リハビリテーション料」の算定要件を満たさないため,保険診療で実施することはできない。

・臨床適応性(外的妥当性)

多くのがん専門医療機関では,入院中には保険診療により,リハビリテーション科医,リハビリテーション専門職(理学療法士等)から構成されるリハビリテーションチームの体制のもとで,監督下での運動療法(supervised-exercise)を行うことができるため,臨床適応性は高い。

一方,外来では保険診療の適用外になるため,監督下での運動療法および専門スタッフの監督なしで行う,在宅を基盤とした運動療法(home-based exercise)ともに,実施可能な医療機関は少なく現状では臨床適応性は低い。

総合評価

消化器がんで腹部手術を行う予定の患者に対して,術前にリハビリテーション治療(運動療法,呼吸リハビリテーション)を行うことを提案する。

消化器がん患者に対し,術前にリハビリテーション治療(運動療法,呼吸リハビリテーション)を行うことによる術後合併症予防の効果は明らかでなくエビデンスレベルはC とした。しかし,食道がんでは有効性が示されており,食道がんのようによりリスクや侵襲性が高い手術,もしくはもともと運動耐容能が低い患者では,有効である可能性はある。また,有害事象の増加はないが,特に長期間の,在宅を基盤とする,運動負荷の強い術前リハビリテーションではアドヒアランスが低下する可能性があることを念頭に置く必要がある。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・特に消化器がん患者においては,術後のリハビリテーション治療について知らない患者も多いと考えられ,腫瘍治療医からの情報提供も必要であると考えられる。
■投票結果

文献

1)
Hijazi Y, Gondal U, Aziz O. A systematic review of prehabilitation programs in abdominal cancer surgery. Int J Surg. 2017;39:156-62.
2)
Gillis C, Li C, Lee L, et al. Prehabilitation versus rehabilitation: a randomized control trial in patients undergoing colorectal resection for cancer. Anesthesiology. 2014;121:937-47.
3)
Dronkers JJ, Lamberts H, Reutelingsperger IM, et al. Preoperative therapeutic programme for elderly patients scheduled for elective abdominal oncological surgery: a randomized controlled pilot study. Clin Rehabil. 2010;24:614-22.
4)
Yamana I, Takeno S, Hashimoto T, et al. Randomized Controlled Study to Evaluate the Efficacy of a Preoperative Respiratory Rehabilitation Program to Prevent Postoperative Pulmonary Complications after Esophagectomy. Dig Surg. 2015;32:331-7.
5)
Jensen BT, Petersen AK, Jensen JB, et al. Efficacy of a multiprofessional rehabilitation programme in radical cystectomy pathways: a prospective randomized controlled trial. Scand J Urol. 2015;49:133-41.
6)
Carli F, Charlebois P, Stein B, et al. Randomized clinical trial of prehabilitation in colorectal surgery. Br J Surg. 2010;97:1187-97.
7)
Hijazi Y, Gondal U, Aziz O. A systematic review of prehabilitation programs in abdominal cancer surgery. Int J Surg. 2017;39:156-62.

CQ 02
消化器がん術後患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2C
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
消化器がん術後患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

消化器がんのなかで特にリハビリテーション治療の報告が多い結腸がんでは,術後すぐの合併症を予防することがリハビリテーション治療の主な目的となっており,これまでは術前の呼吸リハビリテーションや周術期早期離床といった介入の報告が多かった。一方,運動耐容能の改善などを目的とした積極的な運動療法などの報告は少なく,本ガイドライン初版では,術後患者に運動療法を行い免疫機能の改善を認めたという1 論文のみを取り上げた。その後,運動耐容能や倦怠感など,より臨床的な指標を検討したRCT が複数報告されている。そこで今回の改訂では,新しい知見を加え,消化器がん術後患者に対するリハビリテーション治療の有効性について検討した。

本CQ では,術後の介入で早期離床援助や栄養療法のみのものは除き,より積極的に運動療法など専門的なリハビリテーション治療を行っている研究を対象とした。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①運動耐容能の改善(重要性8,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験3 件を採用した。

・評価

Lin ら 1)は,術後平均37.8 日で,入院もしくは外来で化学療法中のStageⅡ,Ⅲの結腸がん患者に対し,最高心拍数の40〜75%(漸増)のエルゴメーターでの有酸素運動30〜40 分と筋力増強訓練を,監督下で,週2 回,12 週間行い,6 分間歩行テストで評価された運動耐容能は,対照群と比べ有意差がなかった。Courneya ら 2)は,3 カ月以内に手術を受けた(平均術後70 日程度,約60%が術後化学療法を経験)結腸がん患者に対し,予想最高心拍数の65〜75%のウォーキングなどの有酸素運動を20〜30 分,週3〜5 回,在宅を基盤として行い,3 カ月後に修正 Balke トレッドミルテストで評価された運動耐容能は,対照群と比して有意差がなかった。Devin ら 3)は,術後1 カ月以上経過した結腸がん患者(平均術後30 カ月程度,約 60%が化学療法を経験)に対し,高強度群では最高心拍数の85〜95%の,中強度群では最高心拍数の70%のエルゴメーターを,監督下で,週3 回,4 週間行い,12 週後の最高酸素摂取量は高強度群で中強度群よりよい傾向であった。

・統合

運動耐容能について運動療法群と対照群の有意差はなかったが,前後比較では改善がみられており,エビデンスの強さはC とした。

②身体活動性の改善(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

Lin ら 1)は,前述の介入により,3 カ月後の身体活動量は,介入前に比べ改善したと報告した。Fagevik Olsén ら 4)は,食道がん患者に対し,術後ICU からリハビリテーション治療を開始し,介入群には退院時に肺機能を改善させる運動,胸郭や肩のROM 練習,背筋・肩・下肢筋筋力増強訓練を理学療法士が指導し,在宅を基盤に継続し,3 カ月後のスポーツへの従事時間が,対照群に比べ有意に改善していた。

・統合

身体活動性の直接的な指標では,群間の有意差がないため,エビデンスの強さはC とした。

③ QOL の改善(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験3 件を採用した。

・評価

Lin ら 1)は,前述の介入により,European Organization for Research and Treatment of Cancer(EORTC)QLQ-C30 で評価されたQOL のphysical functioning, role functioning, social functioning, pain scale が介入前に比べ改善したと報告したが,対照群と有意差はなかった。Courneya ら 2)やFagevik Olsén ら 4)は,前述の介入により,3 カ月後QOL は対照群と比して有意差がなかったとした。Houborg ら 5)は,60 歳以上の結腸がん術後患者に対し,術後1〜2 日目から,入院中は週5 日,理学療法士による有酸素運動と50〜80%1RM の上下肢の筋力増強訓練を行い,退院後は在宅を中心とした運動療法(同様の運動を週6 回行うことを指導し,週1 回理学療法士が訪問指導する)を行い,術後7 日,30 日,90 日目の SF-36 で評価されたQOL は,対照群に比べ有意差がなかった。

・統合

ランダム化比較試験3 件すべてでQOL は対照群と比して有意差がなく,メタアナリシスを行っても有意差を認めなかった。前後比較での改善はみられていることから,エビデンスの強さはC とした。

④倦怠感の改善(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

Houborg ら 5)は,前述の介入により,術後7 日目の Visual Analog Scale(VAS)で評価された倦怠感が,対照群に比べ有意によかったとした(30 日後,90 日後は有意差なし)。Lin ら 1)は,前述の介入により,EORTC QLQ-C30 で評価された倦怠感は介入前に比べよい傾向であったと報告したが,対照群と有意差はなかった。

・統合

倦怠感について,運動療法群でよい傾向にはあり,ランダム化比較試験1 件で早期の1 時点(術後7 日)ではあるが,有意に改善がみられている。そのため,エビデンスの強さはB とした。

⑤筋力の改善(重要性6,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

Lin ら 1)は,前述の介入により,握力は介入前に比べ改善したとしたが,対照群との有意差はなかった。Houborg 5)は,前述の介入により,術後7 日,30 日,90 日目の四頭筋筋力は,対照群に比べ有意差がなかったとした。

・統合

ランダム化比較試験2 件で筋力は対照群と比して有意差はなかったが,前後比較での改善はみられていることから,エビデンスの強さはC とした。

⑥体組成の改善(重要性7,エビデンスの強さ:D)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

Courneya ら 2)は,前述の介入により,3 カ月後のBMI は,対照群と比して有意差がなかった(肥満の改善なし)と報告した。Devin ら 3)は,前述の介入により,12 週後の徐脂肪体重は高強度群で介入前に比べ増加したと報告した。

・統合

ランダム化比較試験1 件でBMI に有意差がなかった。高強度の運動で中強度よりも徐脂肪体重の増加傾向がみられ,間接的な指標ではあるが体組成へのよい影響を示しており,エビデンスの強さはC とした。

⑦有害事象の出現(害:重要性7,エビデンスの強さ:C)

Devin ら 3)は,高強度運動群においても,高い参加率(100%)・アドヒアランス(99.7%)を報告し,有害事象はなかったと報告した。

・統合

報告から確認できた範囲内で,ドロップアウト率やアドヒアランスは他の疾患と大きな差はなく,有害事象の出現は認められなかった。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:C(弱)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,倦怠感の改善(1 時点のみ)がみられた。一方,害(望ましくない効果)として,有害事象の出現は認められなかった。以上より,益が害を上回っていると判断した。

患者の価値観・希望

患者の背景,治療プロトコールに多様性が高いため,価値観や希望の多様性も高いと考えられる。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

術直後から開始し,3 カ月程度継続する報告が多い。入院中には,「がん患者リハビリテーション料」の診療報酬算定により保険診療で実施できる。一方,外来では「がん患者リハビリテーション料」の算定要件を満たさないため,保険診療で実施することはできない。

・臨床適応性(外的妥当性)

多くのがん専門医療機関では,入院中には保険診療により,リハビリテーション科医,リハビリテーション専門職(理学療法士等)から構成されるリハビリテーションチームの体制のもとで,監督下での運動療法(supervised-exercise)を行うことができるため,臨床適応性は高い。一方,外来では,保険診療の適用外になるため,監督下での運動療法および専門スタッフの監督なしで行う,在宅を基盤とした運動療法(home-based exercise)ともに,実施可能な医療機関は少なく現状では臨床適応性は低い。

総合評価

消化器がん術後患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことを提案する。

消化器がん患者に対し,術後にリハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて,倦怠感の改善(一時点のみ)はあるものの,運動耐容能・身体活動性・QOL・筋力・体組成への効果は限定的であり,提案(弱い推奨)にとどめる。

■投票結果

付記

◉ 用語の整理

肺がん患者では,術前に行われ,運動療法・呼吸リハビリテーション(呼吸筋訓練が積極的に行われる)を含むリハビリテーション治療は,“preoperative exercise training” と示されていることが多い。

消化器がんでは,術前に行われ,運動療法・呼吸リハビリテーションを含むリハビリテーション治療は,“prehabilation” と表現されていることが多く,栄養サポートや心理社会的介入も行われていることがある。

消化器がん患者に対する,“fast-track rehabilitation program, enhanced recovery program” は,術前教育を行う,bowel preparation をしない,低侵襲手術を行う,ドレーンなどをなるべく留置しない,術後なるべく早く経口摂取や基本動作や歩行を開始する,といった一連の介入 1)を示しており,“early rehabilitation” はこのような一連の介入のうち,「術後なるべく早く基本動作や歩行を開始する」部分を取り出したもの 2)である。これらは,必ずしも積極的な運動療法を行っていたり,リハビリテーション関連職が関わっているわけではないため,今回のガイドライン改訂においては,それぞれの内容を確認して各CQ に合致するもののみを採用した。

◉ 食道がん術後の摂食嚥下リハビリテーション治療

食道がん術後には,肺炎や急性呼吸窮迫症候群などの呼吸器合併症が17〜60%以上でみられるとされ,その少なくとも一部は嚥下障害,誤嚥に起因すると考えられている 3)。胸部食道がん術後は前頸筋群の切離による喉頭挙上制限,反回神経麻痺,残存食道と再建臓器の吻合部の瘢痕狭窄などによって嚥下障害が起こり得る。したがって,術後の呼吸器合併症予防のためには,嚥下に関しても適切な評価や訓練を行うことが必要と考えられるが,未だランダム化比較試験など質の高い研究はない。

Berry ら 4)は,食道がん術後の患者に対し,口腔の動き,唾液嚥下時の喉頭挙上,少量の氷片や液体を嚥下したときの咳や声の観察などのベッドサイドでのスクリーニングを行い,必要に応じて嚥下造影検査等を行って経口摂取の可否や食形態を決定する「食道がん術後嚥下障害の包括的評価」を実施し,その評価を行っていなかった時期(ヒストリカルコントロール)と比較して,肺炎の発症頻度が減少したことを報告した。Kumai ら 5)は,3 領域リンパ節郭清を伴う食道がん術後2〜3 週間以内の患者に嚥下造影検査を行い,喉頭挙上の低下が誤嚥と有意に関係していることを示し,「chin-down combined with supraglottic swallow(頸部屈曲位での息こらえ嚥下)」で嚥下造影上の誤嚥スコアが改善したこと報告しており,これらの訓練が有用である可能性を示唆した。

文献

1)
Lin KY, Shun SC, Lai YH, et al. Comparison of the effects of a supervised exercise program and usual care in patients with colorectal cancer undergoing chemotherapy. Cancer Nurs. 2014;37:e21-9.
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Courneya KS, Friedenreich CM, Quinney HA, et al. A randomized trial of exercise and quality of life in colorectal cancer survivors. Eur J Cancer Care(Engl). 2003;12:347-57.
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Houborg KB, Jensen MB, Rasmussen P, et al. Postoperative physical training following colorectal surgery: a randomised, placebo-controlled study. Scand J Surg. 2006;95:17-22.
付記文献
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3)
Lee SY, Cheon HJ, Kim SJ, et al. Clinical predictors of aspiration after esophagectomy in esophageal cancer patients. Support Care Cancer. 2016;24:295-9.
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Berry MF, Atkins BZ, Tong BC, et al. A comprehensive evaluation for aspiration after esophagectomy reduces the incidence of postoperative pneumonia. J Thorac Cardiovasc Surg. 2010;140:1266-71.
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Kumai Y, Samejima Y, Watanabe M, et al. Videofluoroscopic evaluation of pharyngeal swallowing dysfunction after esophagectomy with three-field lymph node dissection. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2017;274:321-6.

第 4 章 前立腺がん

CQ 01
前立腺がん患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2B
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
前立腺がん患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

前立腺がんでは,長期間のホルモン療法(アンドロゲン遮断療法,androgen-deprivation therapy;ADT)を要することが多く,倦怠感,心理的影響,筋肉量の低下,身体機能やQOL の低下が引き起こされ,心大血管疾患のリスクも上昇する。これに対し運動療法を行う報告は2000 年代からみられ始め,本ガイドライン初版では,ADT,放射線療法中の患者に運動療法を行うことは運動耐容能,筋力,QOL などの改善に有用であるとして推奨した。その後,治療中の患者だけでなく治療後の患者を対象にした報告や,さまざまなアウトカムに対する報告が得られてきている。そこで今回の改訂では,新しい知見を加え,前立腺がん治療中・治療後の運動療法の有効性について検討した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①運動耐容能の改善(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,メタアナリシス1 件,ランダム化比較試験11 件を採用した。

・評価

Bourke ら 1)は,前立腺がん患者(治療はさまざま)に対し運動療法を行ったランダム化比較試験16 件のシステマティックレビュー,メタアナリシスを行い,介入後の運動耐容能は,対照群と有意差がなかった。

【治療中の患者を対象とした報告】

Bourke ら 3)は,長期間(平均33 カ月)のADT を行っている,進行し(局所的だが進行,もしくは遠隔転移がある),活動性が低い前立腺がん患者に対し,監督下で週2 回・在宅で週1 回(後半6 週間は監督下週1 回・在宅で週2 回),予想最高心拍数の55〜75%の有酸素運動30 分と,60%1RM の負荷で8〜12 回の筋力増強訓練を組み合わせた運動療法を週3 回,計12 週間行い,12 週後,6 カ月後の最大下トレッドミルテストで評価された運動耐容能は,対照群に比べ有意に改善していた。Galvão ら 4)は,ADT を行っている,骨転移がない前立腺がん患者に対し,監督下で,最高心拍数の65〜80%の有酸素運動15〜20 分と,6〜12RM の負荷で6〜12 回の筋力増強訓練を組み合わせた運動療法を週2 回,12 週間行い,12 週後の400m 歩行速度は,対照群に比べよい傾向ではあったが有意ではなかった。6m 歩行や,6m 後ろ歩き(バランス評価)は有意に改善していた。Cormie ら 5)は,ADT を開始した前立腺がん患者に対し,監督下で,予想最高心拍数の70〜85%の有酸素運動20〜30 分と,60〜85%1RM の筋力増強訓練6〜12 回を,週2 回,3 カ月行い,3 カ月後の400m 歩行時間や最高酸素摂取量が,対照群に比べ有意に改善していた。Uth ら 6)は,ADT を6 カ月以上行っている,76 歳未満の前立腺がん患者に対し,最高心拍数の70〜100%の有酸素運動(フットボールの練習とゲーム)を12 週間行い,最高酸素摂取量で評価された運動耐容能は,対照群と比べよい傾向ではあったが,有意差がなかった。Nilsen ら 7)は,ADT と高用量放射線療法が開始された前立腺がん患者に対し,監督下で,マシンでの9 種類の筋力増強訓練を,徐々に負荷を増やして16 週間行い,シャトルウォーキングテストで評価された運動耐容能の有意な改善を認めた。Segal ら 8)は,放射線療法が開始された(そのうち約60%がADT 中)前立腺がん患者に対し,監督下で,①60〜70%1RM の筋力増強訓練を8〜12 回,週3 回,②最大酸素摂取量の60%から70〜75%の有酸素運動を15 分から45 分に漸増して週3 回,③通常ケア,の3 群で24 週間介入を行い,筋力増強訓練群では通常ケア群に比べて,最大酸素摂取量で評価される運動耐容能は有意に改善していた。有酸素運動群では通常ケア群に比べて,最大酸素摂取量で評価される運動耐容能はよい傾向ではあったが有意ではなかった。Monga ら 9)は,転移がなく局所放射線療法を行っている前立腺がん患者に対し,監督下で,心拍予備能の65%の有酸素運動を30 分,週3 回,8 週間行い,最大下Bruce treadmill test で評価された運動耐容能が,対照群に比べ有意に改善していた。Hojan ら 10)は,放射線療法中の前立腺がん患者に対し,監督下で,予測最高心拍数の65〜70%の有酸素運動を30 分,70〜75%1RM の筋力増強訓練を8 回・2 セットを,週5 回,8 週間行い,対照群に比べ6 分間歩行テストで評価される運動耐容能の改善を認めた。

【治療後の患者を対象とした報告】

Cormie ら 11)は,骨転移がある(骨盤,腰椎,肋骨など)治療後の前立腺がん患者に対し,監督下で,8〜12RM の筋力増強訓練8〜12 回を週2 回と,在宅を基盤とした有酸素運動(週150 分以上を指導)を12 週間行い,12 週後の400m 歩行時間や6m 歩行時間が,対照群に比べて有意に改善していた。Galvãoら 12)は,骨転移がない,治療後の前立腺がん患者に対し,監督下で最高心拍数の75〜80%の有酸素運動20〜30 分と6〜12RM の負荷で6〜12 回の筋力訓練を週2 回,在宅での有酸素運動を週2 回を6 カ月,その後6 カ月在宅基盤で上記の運動療法を継続し,6 カ月後,12 カ月後の400m 歩行速度は,対照群に比べ有意に改善していた。Jones ら 13)は,根治術後の前立腺がん患者に対し,監督下で,最高酸素摂取量の55〜100%の有酸素運動を30〜45 分,週5 回,6 カ月行い,最高酸素摂取量は,対照群と比較して有意な改善はなかった。

・統合

運動耐容能についてランダム化比較試験9 件をメタアナリシスしたところ,対照群との有意差はなかった。一方,放射線療法が中心の時期や治療後に限ると,それぞれ対照群に比べ有意に運動耐容能の改善を認めたため,エビデンスの強さはB とした。

②身体活動性の改善(重要性8,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験3 件を採用した。

・評価

Winters-Stone ら 14)は,ADT 中もしくは治療後の前立腺がん患者に対し,監督下で,パートナーとともに,徐々に負荷を上げる筋力増強訓練とグループ訓練を週2 回行い,身体活動量は,対照群に比べて有意に改善していた。Culos-Reed ら 15)は,ADT 中の前立腺がん患者に対し,在宅を基盤とした,有酸素運動と筋力増強訓練および週1 回のグループ訓練を16 週間行い,Leisure score index で評価された身体活動性は,対照群に比べ有意に改善していた。Livingston ら 16)は,治療後の前立腺がん患者に対し,週3 回の運動療法(週2 回は監督下,1 回は在宅)を12 週間行い,高強度の活動の活動時間が,対照群に比べて有意に増加した。

・統合

身体活動性は,介入群で有意に拡大し,エビデンスの強さはA とした。

③ QOL の改善(重要性7,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を行い,システマティックレビューおよびメタアナリシス1 件,ランダム化比較試験14 件を採用した。

・評価

Vashistha ら 17)は,前立腺がん患者に対し運動療法を行っている報告で,アウトカムとしてQOL や精神心理面を評価しているランダム化比較試験13 件をメタアナリシスし,介入により,対照群に比べて有意にQOL が改善するとした。

【治療中の患者を対象とした報告】

Segal ら 18)は,ADT 中の前立腺がん患者に対し,60〜70%1RM の筋力増強訓練8〜12 回を2 セット,週3 回行い,Functional Assessment of Cancer Therapy-Prostate(FACT-P)で評価されたQOL は対照群に比べ有意に改善していた。Buffart ら 19)は,ADT 中の前立腺がん患者に対し,グループで,予想最大心拍数の65〜80%の有酸素運動15〜20 分と12〜6RM の筋力増強訓練2〜4 セットを週2 回,12 週間行い,SF-36,The European Organization for Research and Treatment of Cancer(EORTC)QLQ-C30 で評価されたQOL(general health)の有意な改善を認めた。Bourke ら 3)の前述の介入では,12 週後のFACT-P で評価されたQOL は,対照群に比べ有意に改善していたが,6 カ月後には有意差がなかった。Cormie ら 5)の前述の介入では,3 カ月後のSF-36 のsocial functioning, mental health, EORTC QLQ-PR25 のsexual activity, sexual function の項目は,対照群に比べ有意な改善を認めた。Galvão ら 4)の前述の介入では,12 週後のSF-36 のgeneral health の項目は,対照群に比べ有意に改善していた。Culos-Reed ら 15)の前述の介入では,EORTC QLQ-C30 で評価されたQOL は,対照群と比べて有意差がなかった。Segal ら 8)の前述の介入では,筋力訓練群では対照群に比べて,FACT-P で評価されるQOL(general scale)は有意に改善していた。有酸素運動群では対照群と比べて有意差がなかった。Winters-Stone ら 14)の前述の介入では,SF-36 の physical function は,対照群と比べて有意差がなかった。Hojan ら 10)の前述の介入では,EORTC QLQ-C30 のphysical, emotional, cognitive function,QLQ-PR23 でのincontinence aid の項目で,対照群に比べ有意な改善を認めた。Monga ら 9)の前述の介入では,FACT-P,FACT-General での physical well-being, social-well-being の項目で,対照群に比べ有意な改善を認めた。

【治療後の患者を対象とした報告】

Cormie ら 11)の前述の介入では,12 週後のFACT-bone pain やSF-36 で評価されたQOL は,対照群と比べて有意差はなかった。Livingston ら 16)の前述の介入では,EORTC QLQ-C30 で評価されたQOL は,対照群と比べて有意差はなかった。Galvão ら 12)の前述の介入では,6 カ月後にはSF-36 の physical functioning やrole physical,social functioning, mental health,12 カ月後にはphysical functioning とrole emotional の項目が,対照群に比べ有意に改善していた。

・統合

治療中も治療後も,QOL もしくはその一部項目において,介入群で,対照群に比べて有意な改善を示している。メタアナリシスでも有意な改善が示されており,エビデンスの強さはA とした。

④倦怠感の改善(重要性7,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を行い,システマティックレビューおよびメタアナリシス1 件,ランダム化比較試験12 件を採用した。

・評価

Vashistha ら 17)は,ランダム化比較試験13 件をメタアナリシスし,介入により,対照群に比べて有意に倦怠感が改善するとした。

【治療中の患者を対象とした報告】

Bourke ら 3)の前述の介入では,12 週後,6 カ月後のFACT-Fatigue で評価された倦怠感は,対照群に比べ有意に改善していた。Cormie ら 5)の前述の介入では,3 カ月後のFunctional Assessment of Chronic Illness Therapy(FACIT)-fatigue で評価された倦怠感は,対照群に比べ有意に改善していた。Galvão ら 4)の前述の介入では,12 週後のEORTC QLQ-C30 で評価された倦怠感は,対照群に比べ有意に改善していた。Segal ら 18)の前述の介入では,FACT-F で評価された倦怠感は,対照群に比べ有意に改善していた。Segal ら 8)の前述の介入では,筋力増強訓練群および有酸素運動群で,FACT-F で評価された倦怠感は,対照群に比べ有意に改善していた。Culos-Reed ら 15)の前述の介入では,Fatigue severity scale で評価された倦怠感は,対照群と比べて有意差がなかった。Windsor ら 20)は,局所放射線療法を行う前立腺がん患者に対し,予測最大心拍数の60〜70%の有酸素運動を30 分,週3 回,8 週間(放射線療法中)行い,8 週後にBrief Fatigue Inventory で評価された倦怠感は,対照群と比べて有意差がなかった。Monga ら 9)の前述の介入では,Piper Fatigue Scale で評価された倦怠感が,対照群に比べ有意に改善していた。Hojan ら 10)の前述の介入では,FACT-F で評価された倦怠感が,対照群に比べ有意に改善していた。

【治療後の患者を対象とした報告】

Cormie ら 11)の前述の介入では,12 週後 のMultidimentional Fatigue Symptom Inventory-Short Form で評価された倦怠感は,対照群と比べて有意差がなかった。Jones ら 13)の前述の介入では,FACT-F で評価された倦怠感は,対照群と比べて有意差がなかった。Winters-Stone ら 14)の前述の介入では,SF-36 の倦怠感の項目は,対照群と比べて有意差がなかった。

・統合

倦怠感は,メタアナリシスでも有意な改善が示されており,エビデンスの強さはA とした。ただし,治療後の患者に対する介入では,有意な改善はみられていない。

⑤筋力の改善(重要性7,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を行い,システマティックレビューおよびメタアナリシス1 件,ランダム化比較試験10 件を採用した。

・評価

Keilani ら 21)は,前立腺がん患者に対し,筋力増強訓練を行っている32 論文をシステマティックレビュー,メタアナリシスし,介入により,対照群に比べて,有意な筋力の改善がみられたことを示した。

【治療中の患者を対象とした報告】

Galvão ら 4)の前述の介入では,12 週後の筋力(chest press, seated row, leg press, leg extension の最大出力値)は,対照群に比べ有意に改善していた。Segal ら 18)の前述の介入では,上下肢筋力は,対照群に比べ有意に改善していた。Segal ら 8)の前述の介入では,筋力訓練群では,leg press, chest press で評価される上下肢筋力は,対照群に比べ有意に改善していた。有酸素運動群では,上肢筋力のみ,対照群に比べ有意に改善していた。Cormie ら 5)の前述の介入では,6 カ月後,12 カ月後の筋力(chest press, leg press の最大出力値)は,対照群に比べ有意に改善していた。Uth ら 6)の前述の介入では,筋力(knee extension)は,対照群に比べ有意に改善していた。Nilsen ら 7)の前述の介入では,leg press, chest press, shoulder press での最大筋出力は,対照群に比べ有意に改善していた。Winters-Stone ら 14)の前述の介入では,上肢筋力は,対照群に比べ有意に改善していた。Monga ら 9)の前述の介入では,standand-sit test で評価された筋力は,対照群に比べ有意に改善していた。

【治療後の患者を対象とした報告】

Park ら 22)は,前立腺全摘術を受けた前立腺がん患者に対し,監督下で,心拍予備能の45〜75%の有酸素運動 60 分,筋力増強訓練および骨盤底筋筋力訓練(Kegel 訓練)を週2 回,12 週間行い,下肢筋力は対照群(骨盤底筋筋力訓練のみ)に比べ有意に改善していた。Cormie ら 11)の前述の介入では,12 週後の下肢筋力(leg extension)は,対照群に比べ有意に改善していた。

・統合

筋力は,メタアナリシスでも有意な改善が示されており,エビデンスの強さはA とした。

⑥体組成の改善(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験8 件を採用した。Primary outcome を体組成(主に徐脂肪体重)にしているもの,もしくはsecondary outcome でもDXA 法などで体組成を評価している論文を対象とし,体重や四肢などの周径のみを評価しているものは除いた。

・評価

【治療中の患者を対象とした報告】

Galvão ら 4)の前述の介入では,12 週後の徐脂肪体重は,対照群に比べ有意に改善していた。Segal ら 8)の前述の介入では,体脂肪率が,筋力増強訓練群では対照群に比べ有意に改善していたが,有酸素運動群では対照群と比べて有意差がなかった。Cormie ら 5)の前述の介入では,3 カ月後の腹部徐脂肪量と体脂肪量は,対照群に比べ有意に改善していた。Uth ら 6)の前述の介入では,徐脂肪体重は,対照群に比べ有意に改善していた。

Winters-Stone ら 23)は,ADT 中の前立腺がん患者に対し,「骨粗鬆症予防のためのハイインパクトな運動を含む筋力増強訓練プログラム」を,監督下で週2 回と在宅で週1 回,12 カ月行い,12 カ月後の骨密度は,対照群に比べ有意に良好(保たれていた)であった。

【治療後の患者を対象とした報告】

Cormie ら 11)の前述の介入では,12 週後の徐脂肪体重は,対照群に比べ有意に改善していた。Galvão ら 12)の前述の介入では,6 カ月後の腹部筋量は,対照群に比べ有意に改善していたが,12 カ月後では有意差がなかった。Winters-Stone ら 14)の前述の介入では,徐脂肪体重などの体組成は,対照群と比べて有意差がなかった。

・統合

評価方法や実施時期により結果に差があるが,治療中の除脂肪体重は,筋力増強訓練が含まれる介入により対照群に比べて有意に改善しており,エビデンスの強さはB とした。骨量に関しても,1 件のみであるが,有意な改善を認めた。

⑦精神心理面の改善(重要性6,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,システマティックレビューおよびメタアナリシス1 件,ランダム化比較試験7 件を採用した。

・評価

Newby ら 24)は,前立腺がん患者のうつ症状に対する介入を行っている報告をシステマティックレビューし,身体的介入を行っている4 論文についてメタアナリシスを行い,対照群と比べて有意差がなかった(1 対1 の心理療法やピアサポートでは有意な改善あり)。

【治療中の患者を対象とした報告】

Berglund ら 25)は,前立腺がん患者に対し,①週60 分の身体トレーニング群,②情報提供,③その両方,④対照群の4 群に分けて7 週間の介入を行い,いずれの介入群も Hospital Anxiety and Depression Scale で評価されたうつ症状は,対照群と比べて有意差がなかった。Cormie ら 5)の前述の介入では,3 カ月後の The Brief Symptom Inventrory-18(BSI-18)で有意な改善を認めた。Culos-Reed ら 15)の前述の介入では,The Center for Epidemiologic Studies-Depression Scale(CES-D)で評価されたうつ症状は,対照群と比べて有意差がなかった。Monga ら 9)の前述の介入では,Beck Depression Inventory で評価されたうつ症状が,対照群に比べ有意に改善していた。

【治療後の患者を対象とした報告】

Carmack Taylor ら 26)は,毎週もしくは隔週90 分,理学療法士の指導も含む活動量を増やす認知行動療法を行い,6 カ月後のCES-D で評価されるうつ症状は,対照群と比べて有意差がなかった。Cormie ら 11)の前述の介入では,12 週後のBSI-18 で評価されたうつ・不安などの心理的苦痛は,対照群と比べて有意差がなかった。Livingston ら 16)の前述の介入では,Memorial Anxiety Scale で評価された不安が,対照群に比べ有意に改善していた。

・統合

うつ症状をアウトカムとしているランダム化比較試験4 件のメタアナリシスでは,対照群と比べて有意差がなかった。ただし,治療中の患者に対してのランダム化比較試験2 件で,対照群に比べて有意な改善があり,エビデンスの強さはB とした。

⑧性機能の改善(重要性6,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験3 件を採用した。

・評価

Dieperink ら 27)は,放射線療法およびADT 中の前立腺がん患者に対し,放射線療法12 週前から治療中4 週間とその後21〜22 週間,骨盤底筋群筋力訓練と,低強度以上のウォーキングを毎日30 分以上行うリハビリテーション治療を行い,The Extended Prostate Cancer Index Composite で評価される性機能スコアは,対照群と比べて有意差がなかった。Jones ら 13)の前述の介入では,性機能スコアは,対照群と比べて有意差がなかった。Cormie ら 5)の前述の介入では,3 カ月後のEORTC QLQ-PR25 のsexual function は,対照群と比べて有意差がなかった。

・統合

性機能としては,有意差が示されていない。間接的な指標ではあるが,QOL の性機能のドメインで有意差がある報告があるため,エビデンスの強さはC とした。

⑨有害事象の発生(重要性7,エビデンスの強さ:C)

Cormie ら 11)は,骨転移がある(骨盤,腰椎,肋骨など)患者に対し,監督下での筋力増強訓練を中心とした運動療法を行い,リハビリテーション治療中の骨有害事象はなく,高い参加率(83%),アドヒアランス(93%)を報告した。その他の報告でも,介入による有害事象の増加は報告されていない。

・統合

報告から確認できた範囲内で有害事象の報告はなく,有害事象の増加はないと考えられた。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:B(中)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,運動耐容能,身体活動,QOL,倦怠感,筋力,体組成の改善がみられた。一方,害(望ましくない効果)として,有害事象の増加は認められなかった。以上より,益が害を大きく上回っており,その効果の差は大きいと判断した。

患者の価値観・希望

害が少なく益が大きい治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられ,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

ADT 中,放射線療法中,サバイバー期とさまざまな治療時期の報告があるが,多くは監督下で行われている。入院中には,「がん患者リハビリテーション料」の診療報酬算定により保険診療で実施できる。一方,外来では,「がん患者リハビリテーション料」の算定要件を満たさないため(入院中に限定される),保険診療で実施することはできない。

・臨床適応性(外的妥当性)

多くのがん専門医療機関では,入院中には保険診療により,リハビリテーション科医,リハビリテーション専門職(理学療法士等)から構成されるリハビリテーションチームの体制のもとで,監督下での運動療法(supervised-exercise)を行うことができるため,臨床適応性は高い。

一方,外来では,保険診療の適応外になるため,監督下での運動療法および専門スタッフの監督なしで行う,在宅を基盤とした運動療法(home-based exercise)ともに,実施可能な医療機関は少なく現状では臨床適応性は低い。

総合評価

前立腺がん患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことを提案する。

前立腺がん患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,運動耐容能,身体活動,倦怠感,QOL,筋力,体組成の改善があり,うつ症状や性機能もよい傾向がみられた。重要なアウトカムに対するエビデンスは高く,益と害のバランスは確実である(益の確実性が高い)。患者の価値観も確実性が高く,多様性は低い(一致している)。ただし,ADT は治療期間も長く,その間医療機関で運動療法を継続することは臨床適応性という点で困難である面が大きいと考え,提案(弱い推奨)にとどめた。

■投票結果

文献

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CQ 02
尿失禁のリスクがある前立腺がん術後患者に対して,リハビリテーション治療(骨盤底筋筋力訓練)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2B
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
尿失禁のリスクがある前立腺がん術後患者に対して,リハビリテーション治療(骨盤底筋筋力訓練)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

前立腺がんに対する前立腺全摘術においては術後尿失禁が起こりやすく,QOL 低下の原因になる。これに対し,骨盤底筋筋力訓練が以前から行われ,一定の効果が報告され,本ガイドライン初版でもグレードA で推奨した。しかし,その後2012 年のコクラン・レビューでは,従来の方法での骨盤底筋筋力訓練の効果は不確実とされ,術前から骨盤底筋筋力訓練を開始し訓練期間を増やした介入など,新たな介入の報告も増えてきている。そこで今回の改訂では,新たな知見を加え,リハビリテーション治療(骨盤底筋筋力訓練)の有効性を検討した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①尿失禁の軽減(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,システマティックレビューおよびメタアナリシス2 件,ランダム化比較試験11 件を採用した。「術後尿失禁がある患者への介入(何らかの方法でスクリーニングし,術後尿失禁がある患者のみ対象者にする)」と「術前からもしくは術後の予防的介入(リスクのある患者全員を対象者にする)」に分けて評価する。

・評価

【術後尿失禁がある患者への介入】

Anderson ら 1)は,術後尿失禁がある患者に対する保存的な療法〔術前・術後・術前後骨盤底筋筋力訓練(バイオフィードバックの有無は問わない),術後電気もしくは磁気刺激〕に関してシステマティックレビューおよびメタアナリシスを行い,術後の骨盤底筋筋力訓練で,早期(術後3 カ月以内),中期(6 カ月),晩期(1 年後)いずれの時期でも,尿失禁がある患者数は対照群と変わらないとした。1 日のなかでの失禁の回数を調べた2 報告のメタアナリシスでは,3 カ月以内の失禁の回数が,対照群に比べて有意に少なかった。

Glazener ら 2)は,イギリスの34 のセンターで前立腺がんの手術(開腹約8 割・腹腔鏡2 割)を受け,術後6 週の時点で尿失禁症状がある患者に対し,3 カ月で4 回の排泄ケア専門の理学療法士や看護師による骨盤底筋筋力訓練を行い,1 年後の尿失禁者の数・尿失禁スコアは,対照群と比べて有意差がなかった。Dubbelman ら 3)は,尿道カテーテル抜去後1 週の時点で尿失禁症状がある患者に対して,理学療法士監督下での9 回までの骨盤底筋筋力訓練を行い,4 週,8 週,12 週,26 週時点で尿失禁のある患者数は,対照群と比べて有意差がなかった。Franke ら 4)は,術後6 週の時点で尿失禁がある患者に対して,術後筋電図フィードバック下での骨盤底筋筋力訓練を,6 週,7 週,9 週,11 週,16 週目に行い,終了後尿失禁のある患者数は対照群と比べて有意差がなかった。Goode ら 5)は,1 年以上尿失禁がある患者に対し,①骨盤底筋筋力訓練と行動療法,②行動療法とバイオフィードバックおよび電気刺激を8 週間のうちに4 回以上行い,3 カ月以内の尿失禁回数(排尿日記による)が,対照群に比べて有意に少なかった(6 カ月後,12 カ月後は有意差なし)。Manassero ら 6)は,尿道カテーテル抜去後1 週の時点で尿失禁症状がある患者に対して,収縮をフィードバックしながらの「骨盤底筋筋力訓練再教育プログラム」と在宅で毎日45〜90 回の骨盤底筋筋力訓練を,尿失禁がなくなるまで継続し,1 カ月,3 カ月,6 カ月後に尿失禁のある患者数は,対照群に比べて有意に少なかった。Moore ら 7)は,術後8 週間以上尿失禁がある患者に対し,①在宅で骨盤底筋筋力訓練を1 日 30 分,週3 回,②在宅で骨盤底筋筋力訓練に加え,理学療法士による30 分,週2 回の骨盤底筋筋力訓練と電気刺激を12 週間行い,12 週,16 週,24 週後の尿失禁のある患者数は,両介入群とも対照群と比べて有意差がなかった。Moore ら 8)は,尿道カテーテル抜去後4 週の時点で尿失禁症状がある患者に対して,バイオフィードバック下での30 分の骨盤底筋筋力訓練を週1 回,在宅で骨盤底筋筋力訓練を週2〜3 回,尿失禁がなくなるまで最大24 週間行い,尿失禁のある患者数は,対照群と比べて有意差がなかった。Van Kampen ら 9)は,尿道カテーテル抜去後4 週の時点で尿失禁症状がある患者に対して,退院前に1 回と,その後週1 回尿失禁がなくなるまで(最長1 年間),理学療法,在宅でのバイオフィードバックを用いた骨盤底筋筋力訓練,収縮が非常に弱い場合には電気刺激も併用し,3 カ月,1 年後に尿失禁のある患者数は対照群に比べて有意に少なかった。Floratos ら 10)は,術後4 週間もしくは尿道カテーテル抜去後1〜2 週の時点で尿失禁症状がある患者に対して,①表面筋電図フィードバックでの骨盤底筋筋力訓練を30 分,週3 回,計15 回,②言葉での説明による骨盤底筋筋力訓練を実施し,1 カ月,2 カ月,3 カ月,6 カ月後に尿失禁のある患者数は,両介入群とも対照群と比べて有意差がなかった。

【術前から,もしくは術後の予防的介入】

Anderson ら 1)は,術前から,もしくは術後全員に予防的に行う保存的な療法に関して,システマティックレビューおよびメタアナリシスを行い,1 年後の尿失禁の相対リスクは0.32 と,対照群に比して有意に低いことを示した(ただし,パッドテストなど客観的な指標で改善が示された報告はなく,結論の解釈は慎重にすべきであるとしている)。Wang ら 11)は,術前から骨盤底筋筋力訓練を行ったRCT5 件をメタアナリシスし,早期(術後3 カ月以内),中期(6 カ月),晩期(1 年後)いずれでも尿失禁の頻度は対照群と比べて有意差がないとした。

Bales ら 12)は,前立腺がん患者に対し,手術2〜4 週前から,看護師によるバイオフィードバック下での骨盤底筋筋力訓練を行い,在宅でも1 日4 回継続し,術後1 カ月,3 カ月,6 カ月後に尿失禁のある患者数は,対照群と比べて有意差がないとした。Burgio ら 13)は,術前にバイオフィードバック下での骨盤底筋筋力訓練を行い,在宅でも1 日45 回行い,術後も指導内容をリマインドした。尿失禁がなくなるまでの期間や6 カ月後の尿失禁(咳や歩行などさまざまな動作に伴う)の人数は,対照群に比べて有意に減少していた。Laurienzo ら 14)は,①骨盤底筋筋力訓練の口頭での説明(対照群),②術前に理学療法士による骨盤底筋筋力訓練を 10 回,③術前に理学療法士による骨盤底筋筋力訓練と電気刺激を10 回を行い,1 カ月,3 カ月,6 カ月後の尿失禁(パッドテスト)は,両介入群とも対照群と有意差がなかった。Mathewson 15)は,バイオフィードバックを用いた骨盤底筋筋力訓練を15〜45 回,週3 回行うように指導し(education program),尿失禁が続く期間や失禁の回数は,対照群と有意差がなかった。Overgård ら 16)は,尿道カテーテル抜去後すぐから,理学療法士が毎週45 分骨盤底筋筋力訓練を1 年間指導し(遠方の患者はDVD 視聴),12 カ月後の尿失禁は,対照群と比べ有意に少なかった。Pareck ら 17)は,術前に 2 回の骨盤底筋筋力訓練の指導と,術後は3 週間に1 回は理学療法士監督下で,週2 回は在宅での骨盤底筋筋力訓練を行い,12 週後の尿失禁は対照群に比して有意に少なかったが,1 年後は有意差がなかった。Riberio ら 18)は,週1 回はバイオフィードバックを用いた骨盤底筋筋力訓練,週2 回は在宅での骨盤底筋筋力訓練を3 カ月行い,12 カ月後の尿失禁がある患者は,対照群に比べ有意に少なかった。Tienforti ら 19)は,術前に1 回と,尿道カテーテル抜去後すぐからバイオフィードバック下での骨盤底筋筋力訓練を行い,在宅で1 日10 分間の構造化されたプログラムを継続した。実施記録をつけ,1 カ月,3 カ月,6 カ月後に経過観察の訪問を受け,尿失禁がなくなるまで継続され,3 カ月,6 カ月後の尿失禁がある患者数,尿失禁スコアは,対照群に比して有意に改善していた。Park ら 20)は,監督下で最大心拍予備能の45〜75%の有酸素運動60 分,筋力増強訓練および骨盤底筋筋力訓練(Kegel 訓練)を12 週間行い,対照群(骨盤底筋筋力訓練のみ)に比べ,尿失禁患者の数や24 時間パッドテストは有意に改善した。

・統合

ある一定期間(おおむね4 週間以上)尿失禁が持続している患者に対しては,骨盤底筋筋力訓練の効果は不確実である。一方,リスクがある患者全員に対して,術前から,もしくは術直後から骨盤底筋筋力訓練行うことは,対照群に比べて有意に尿失禁がある患者を減少させた。そのため,エビデンスの強さはB とした。

② QOL の改善(重要性6,エビデンスの強さ:C)

Manassero ら 6)の前述の介入では,12 カ月後の QOL は,対照群に比べ有意に改善していた。Laurienzo ら 14)の前述の介入では,1 カ月,3 カ月,6 カ月後の ICIQ-SF(International Consultation on Incontinence Questionnaire-Short Form)は,対照群と比べて有意差がなかった。Ribeiro ら 18)の前述の介入では,12 カ月後の QOL,対照群と比べて有意差がなかった。Tienforti ら 19)の前述の介入では,3 カ月,6 カ月後の IPSS(International Prostate Symptom Score)-QOL は,対照群と比べて有意差がなかった。Dijkstra ら 22)の前述の介入では,1 年後のIPSS やKHQ(King’s Health Questionnaire)で評価されたQOL は,対照群と比べて有意差がなかった。

・統合

QOL については報告が少なく,とくにprimary outcome としている報告が少なかった。メタアナリシスで有意差はなく,エビデンスの強さはC とした。

③有害事象の出現(害:重要性7,エビデンスの強さ:D)

Anderson ら 1)のシステマティックレビューで,骨盤底筋筋力訓練中の骨有害事象はないと報告された。その他の有害事象の報告も認めていない。

・統合

確認できた範囲で,介入による有害事象の出現はないと考えられた。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:B(中)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,尿失禁の改善がみられた。一方,害(望ましくない効果)として,有害事象の増加は認められなかった。以上より,益が害を大きく上回っており,その効果の差は大きいと判断した。

患者の価値観・希望

害が少なく益が大きい治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられ,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

有効性が示された方法は,術前から,もしくは術直後から,一律に介入を開始し,尿失禁がある間長期間にわたりフォローしていくような介入である。前立腺がんの術前・術後のリハビリテーション治療は,「がん患者リハビリテーション料」の算定基準に含まれないため,保険診療で実施することはできない(指導は,排尿自立指導料での算定も可能)。

・臨床適応性(外的妥当性)

多くのがん専門医療機関では,骨盤底筋筋力訓練の指導は可能であるが,監督下での訓練を繰り返し実施することが可能な医療機関は少ないため,現状では臨床適応性は低い。

総合評価

尿失禁のリスクがある前立腺がん術後患者に対して,リハビリテーション治療(骨盤底筋筋力訓練)を行うことを提案する。

前立腺がん術後患者に対して,リハビリテーション治療(骨盤底筋筋力訓練)を行うことは,行わない場合に比べて尿失禁の改善を認めた。ただし,有意差をもって尿失禁患者が減るのは,「術前から,もしくは術後比較的早期の患者(尿道カテーテル抜去後,おおむね7〜10 日)に,バイオフィードバックなどを行いながらの監督下での訓練と,その後在宅でも定期的な指導や促しを行う」介入に限られ,同様の介入でもアウトカムに差があるなど,どのような対象に,どのような時期から,そしてどのような頻度や強度,継続期間で行うことが適切かに関してはまだ確立されていない。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・手術により損傷が軽度な例が,骨盤底筋筋力訓練が有効である例と考えられるが,それらでは自然回復も多いため,有効性が示されにくいと考えられる。
■投票結果

付記

◉ 尿失禁に対する介入によるアウトカムの比較

術後尿失禁がある・リスクがある患者に対する保存的な療法には,骨盤底筋筋力訓練,電気刺激もしくは磁気刺激療法がある。骨盤底筋筋力訓練時には,多くの場合バイオフィードバックが併用されている。電気・磁気刺激については,Anderson らがランダム化比較試験4 件をシステマティックレビューおよびメタアナリシスし,尿失禁がある患者数は,対照群と比べて有意に少なかったことを示した(どの時点でも)。ただし,それぞれの時点でメタアナリシス可能であったRCT はそれぞれ1〜3 件であり,サンプルサイズは小さくエビデンスは限定的であったとしている。

文献

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第 5 章 頭頸部がん

CQ 01
頭頸部がんに対する治療(手術,化学放射線療法)が行われた患者に対して,リハビリテーション治療を行った場合にその治療効果を確認する評価の方法は?

解説

リハビリテーション医療においては,リハビリテーション治療の効果を確認するための評価を行うことは重要である。本ガイドライン初版では頭頸部がん領域の系統的なリハビリテーション評価に関しては,独自性のあるものこそ多くはないが,他の領域でも用いられている適切な評価を行いながらリハビリテーション医療を行うことが推奨された(グレードB)。今回の改訂においては,本ガイドライン初版掲載の評価項目に,2011 年以降の文献において新たに加えられた評価法や前回は未掲載であった評価法を追記し,項目および参照文献のみの記述とした。

①音声障害および構音障害の評価

100 音節明瞭度テスト 1),単語明瞭度検査,25 単音節明瞭度検査,スクリーニングとしての一定の会話や文章音読から5 段階で発話明瞭度を評価する方法 2),音響分析,聴覚的印象評価(GRBAS 尺度),単音節発話明瞭度検査(25 単音節/100 音節),単語明瞭度検査,文章明瞭度検査,会話明瞭度検査(田口法,会話機能評価基準など),エレクトロパラトグラフィ。

②上肢機能障害の評価

一般的な関節可動域評価および筋力評価,疼痛に対するVisual Analogue Scale(VAS)3),能力障害に対するShoulder Disability Questionnaire(SDQ)4),日常生活動作(activities of daily living;ADL)に対するDASH 質問紙表(The Disability of Arm, Shoulder and Hand)5, 6),頸部郭清術後機能評価 7)

③摂食嚥下障害の評価

Repetitive Saliva Swallowing Test(RSST),Modified Water Swallowing Test(MWST),水飲みテスト,嚥下機 能評価基準(swallowing ability scale)8-10),MTF スコア 9, 10),嚥下造影検査(videofluoroscopic examination of swallowing;VF)および簡易評価法(AsR スコア)11),oropharyngeal swallowing efficiency(OPSE)12),嚥下内視鏡検査(videoenoscopic examination of swallowing;VE),嚥下シンチグラフィー,Functional Oral Intake Scale(FOIS)13),Mann Assessment of Swallowing Ability(MASA)14)

④QOL の評価

RANd-36 15),EORTC(The European Organization for Research and Treatment of Cancer)QLQ-C30 16, 17),EORTC QLQ-H&N35 17),SF-36 v2 18),VHI 19),VR-QOL 20),University of Washington Quality of Life(UW-QOL)17, 21),頭頸部がんに関する機能尺度(Performance Status Scale for Head and Neck Cancer;PSS-HN)22)

⑤精神状態の評価

Centre for Epidemiological Studies Depression Scale(CES-D)3)

頭頸部がんに対する治療(手術,化学放射線療法)が行われた患者に対して,リハビリテーション治療を行った場合にその治療効果を確認する評価の方法について紹介した。

今回のガイドライン改訂では,頭頸部がんのリハビリテーション治療領域における機能障害の多様性や評価項目の幅広さから,重要臨床課題としては扱うが個々の評価の詳細記載や集積した論文の総体的なエビデンス評価は行わず,推奨も決定しないこととし,項目および参照文献のみ掲載した。

文献

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CQ 02
舌がん・口腔がんに対する手術が行われる患者に対して,術後のリハビリテーション治療(摂食嚥下療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2D
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
とても弱い
舌がん・口腔がんに対する手術が行われる患者に対して,術後のリハビリテーション治療(摂食嚥下療法)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

舌がん・口腔がん術後の摂食嚥下障害に対するリハビリテーション治療(摂食嚥下療法)は一般的には必要性があると考えられるが,原発巣・切除範囲・術式などに最終帰結が左右される可能性が高く,そのエビデンスや推奨の程度は不明瞭ともいえる。リハビリテーション治療のランダム化比較試験実施の困難さとも相まって,本ガイドライン初版作成時点ではエビデンスに優れたランダム化比較試験がなく,観察研究を中心とする状況のなかで臨床上の有用性などが総合的に判定され,推奨グレードB という評価となっていた。今回の改訂では同じCQ を採用し,本ガイドライン初版以降の文献検索結果を中心に,術後の摂食嚥下療法のさらなるエビデンス・推奨を検証した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①摂食嚥下機能の改善(重要性8,エビデンスの強さ:D)

・検索

系統的文献検索を行い,観察研究2 件を採用した。

・評価

舌がん術後患者58 名に対してエキスパートチームによる術後の摂食嚥下療法を10 日間(1 日30 分)実施したZhang ら 1)の観察研究では,水飲みテストにおける摂食嚥下機能を評価している。50%未満の切除群(30 名)は 50%以上の切除群(28 名)と比べて改善がみられ(p=0.037),がんの初期ステージ群は進行ステージ群よりも改善がみられた(p=0.047)。対象群が舌がん・口腔がんのみではないが,Ahlberg ら 2)は,頭頸部がん術後374 名をセルフケアに基づく早期の予防的な摂食嚥下療法群と対照群の2 群に分けた観察研究を行ったところ,摂食嚥下機能の改善に関してポジティブな結果は得られなかった。

・統合

観察研究が主体かつバイアスリスクと非直接性を認めたため,エビデンスの強さはD となった。

② QOL の向上(重要性7,エビデンスの強さ:D)

・検索

系統的文献検索を行い,観察研究2 件を採用した。

・評価

舌がん術後患者46 名を看護師による摂食嚥下療法群23 名(1 日30 分,週6 回,2 週間)と対照群23 名に分けたZhen ら 3)の非ランダム化比較研究では,QOL をMDADI(M.D. Anderson Dysphagia Inventory)score で評価しており,摂食嚥下療法群の方が有意な向上を示していた(p<0.01)。前述のAhlberg ら 2)の観察研究では,EORTC QLQ-C30 で評価した75 名の6 カ月後の QOL には有意差は認めなかった(p=0.29)。

・統合

観察研究が主体かつバイアスリスクと非直接性を認めたため,エビデンスの強さはD となった。

③摂食嚥下療法によってもたらされる肺炎などの有害事象(害:重要性7,エビデンスの強さ:D)

前述の文献において,摂食嚥下療法経過中における肺炎などの有害事象の記載は認めなかった。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:D(とても弱い)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,今回の検討において摂食嚥下療法は一部分で有効であった。一方,害(望ましくない効果)として,摂食嚥下療法による有害事象(肺炎の増加,口腔内の疼痛など)は報告がなく,害が生じるリスクは少ないと考えられる。以上より,益と害のバランスは確実である。

患者の価値観・希望

術後の摂食嚥下療法は,他の医学的治療に比べても一般的に害が少なく益が大きい治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられる。特に摂食嚥下障害は日常生活に支障をきたし,多くの患者が摂食嚥下療法を行い,早期に安全な経口摂取の再獲得を目標とすることが想定される。誤嚥に注意して実施すれば,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

「がん患者リハビリテーション料」は入院中の実施であれば術前から算定可能であり,術前からの摂食嚥下療法の説明は,予想される機能予後(摂食嚥下障害など)に基づいた計画立案に有効である。入院中の術後摂食嚥下療法は一般的な療法時間(40〜60 分)において患者のコスト負担は少なく実施できる。退院後の外来では「がん患者リハビリテーション料」は算定ができない。

・臨床適応性

術後の摂食嚥下機能回復に向けての摂食嚥下療法の必要性は一般的に想定されるものである。さらに入院中であれば,治療前から主診療科の医師・リハビリテーション科医・リハビリテーション療法士(言語聴覚士等)が機能障害についての説明を行い,術後に専門的な摂食嚥下療法を監督下で行う体制は普及している。術後早期の回復が期待できるこのような摂食嚥下療法の臨床適応性は高い。

総合評価

舌がん・口腔がんに対する手術が行われる患者に対して,リハビリテーション治療(摂食嚥下療法)を行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスはD という確実性の低い結果であったが,臨床上の有用性は高く安全性は保たれている点,益と害のバランスも確実性がある(益の確実性が高い)点,費用の妥当性と臨床適応性の高さがある点を総合的に考慮し,「摂食嚥下療法を行うことを提案する(弱い推奨)」とした。

なお本CQ では摂食嚥下療法の有無によるアウトカムの差に言及することを想定していたが,文献検索の結果として摂食嚥下療法の有無に言及したランダム化比較試験などによるエビデンスの検証は困難であった。術前の摂食嚥下療法の有用性,術式別の検討や栄養学的指標を取り入れた比較試験も該当すべきものはなかった。本領域においては今後も単なる摂食嚥下療法の有用性だけではなく,その内容によるエビデンスの構築や術式別の介入方法の検討,長期介入効果の報告などが求められるであろう。臨床では退院後に摂食嚥下障害が遷延する場合に外来での「がん患者リハビリテーション料」の算定ができない関係上,自主訓練指導(摂食嚥下指導,食形態の調整)と状態観察にとどまることが問題である。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・術後の摂食嚥下療法は,術後1〜2 年経過した後であっても毎日自己にて自主訓練を行う必要があると感じる患者が多いので,重要なリハビリテーション治療の一つである。
■投票結果

付記

◉ 一般的な術後の摂食嚥下療法のポイント

一般的に術後摂食嚥下機能に影響する要因として,切除範囲,加齢,放射線療法の有無,術後創部感染や合併症の有無,気管切開の有無が挙げられている。特に口腔がん拡大切除では,術後摂食嚥下障害が生じることを考慮し,喉頭挙上術や輪状咽頭筋切除術といった嚥下機能改善術が施行されるため,嚥下機能改善術の効果を理解したうえで関わることが大切となる 1)。摂食嚥下療法は,間接訓練(口腔内移送障害に対しては舌の可動域拡大訓練や構音訓練,喉頭挙上制限に対してはシャキア法やおでこ体操など)と直接訓練を切除範囲と診断された術後病態に沿って立案し,姿勢代償やchin down などの嚥下法,呼吸法の指導などを行っていく。口腔内移送障害により食塊を咽頭へ運ぶことが難しい症例に対しては,姿勢代償だけではなく,移送をサポートするような代償方法(ドレッシングボトルに延長チューブをつけたものなど)による直接訓練も検討する。広範囲切除術では上気道狭窄に対する気道確保や喀痰排出障害の対策として気管切開手術を併用することが多い。カニューレ自体が摂食嚥下障害を引き起こすことがいわれているが,気管カニューレの有無にかかわらず術後早期には誤嚥が生じることがあり,気管カニューレを抜去することで即時に摂食嚥下機能が改善されるとはいえない可能性もある。上気道狭窄が軽減し唾液の咽頭クリアランスがよく,痰喀出能がよい場合には,発声可能なカニューレへ変更される。変更されることにより嚥下時の声門下圧の上昇に関係するため,直接訓練の開始を検討する時期となる。

◉ 摂食嚥下療法を補完する治療方法

口腔ケア(術前術後の口腔ケア介入プログラムが肺炎を含む術後感染症発生を軽減した報告 2)),気管切開管理(集学的嚥下機能回復治療で,気管カニューレ抜去は術後平均12 日,抜去からほぼ10 日前後で直接訓練の開始が可能となった報告 3)),間欠的経口食道経管栄養法を用いた症例報告 4),舌接触補助床(palatal augmentation prosthesis;PAP)の装着が報告されている。特にPAP 装着に関してはいくつかの国内の報告を認める。PAP は口腔がん再建術後患者の舌と口蓋との接触が得られなくなる場合に咽頭への送り込みを補助するための装着物であるが,関谷ら 5)の舌・口底・下顎歯肉がんの術後1〜2 週後に直接訓練ができなかった患者に対するPAP 装着の術後状態などに関する後方視的調査では,PAP 装着群に筋皮弁使用例,両側頸部郭清術後例が多く,非装着群に縫縮・片側頸部郭清術後例が多かったことが示されている。またOkayama ら 6)は,舌がん術後7 名に対するPAP 装着と摂食嚥下障害の関連性について超音波装置を用いて検討したところ,PAP 装着時の方が舌と口蓋の接触時間は短くなり,術後の摂食嚥下に関する舌運動を補助していたと報告している。柴野ら 7)の報告では,口腔〜咽頭がん術後10 名に対するPAP 装着有無の評価の結果,舌と口蓋の接触回復により食塊形成が良好となり,咽頭への送り込みのタイミングが改善され,誤嚥が軽減したとされ,摂食嚥下障害の改善につながったとされている。PAP の装着は術後必要なものではなく,隆起型再建舌の形態が良好な場合は使用しないことがあるため,摂食嚥下機能・構音機能に合わせて主診療科の医師・歯科医・言語聴覚士で作成の可否を検討することが大切である。

◉ 外来で施行される放射線療法について

舌がん・口腔がんの治療では,術後再発を防止するために術後の(化学)放射線療法が,主に外来で施行されることがある。再建皮弁は放射線療法や体重減少などにより皮弁容積が変化するという報告 8)がなされており,術後放射線療法中に肺炎を合併することなく完遂できるよう,再建皮弁の状況に応じた摂食嚥下療法が必要となる。外来通院での術後放射線療法では,外来診療における定期的かつ適切な摂食嚥下機能の評価や自主訓練指導,食事形態の調整などが求められる。

文献

1)
Zhang L, Huang Z, Wu H, et al. Effect of swallowing training on dysphagia and depression in postoperative tongue cancer patients. Eur J Oncol Nurs. 2014;18:626-9.
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付記文献
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横尾聡.口腔癌広範切除症例に対する嚥下機能再建の意義.日口腔科会誌.2008;57:1-18.
2)
大田洋二郎.口腔ケア介入は頭頸部進行癌における再建手術の術後合併症率を減少させる 静岡県立静岡がんセンターにおける挑戦.歯界展望.2005;106:766-72.
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Brookes JT, Seikaly H, Diamond C, et al. Prospective randomized trial comparing the effect of early suturing of tracheostomy sites on postoperative patient swallowing and rehabilitation. J Otolaryngol. 2006;35:77-82.
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野原幹司,舘村卓,藤田義典,他.舌口底癌術後の誤嚥症状改善に間欠的経口食道経管栄養法を併用した嚥下訓練が有効であった1 例.日口腔外会誌.2001;47:416-9.
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関谷秀樹,濱田良樹,園山智生,他.口腔悪性腫瘍術後の摂食嚥下障害に対する舌接触補助床を用いた機能回復法の有効性の検討(第1 報)舌接触補助床使用群と非使用群の術後状態における比較.顎顔面補綴.2009;32:100-5.
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Okayama H, Tamura F, Kikutani T, et al. Effects of a palatal augmentation prosthesis on lingual function in postoperative patients with oral cancer:coronal section analysis by ultrasonography. Odontology. 2008;96:26-31.
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柴野荘一,山脇正永,中根綾子,他.舌接触補助床(PAP)は口腔相及び咽頭相の嚥下機能に影響する.嚥下医学.2012;1:204-11.
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Kimata Y, Sakuraba M, Hishinuma S, et al. Analysis of the relations between the shape of the reconstructed tongue and postoperative functions after subtotal or total glossectomy. Laryngoscope. 2003;113:905-9.

CQ 03
咽頭がん・喉頭がんに対する手術が行われる患者に対して,術前後にリハビリテーション治療(摂食嚥下療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2C
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
咽頭がん・喉頭がんに対する手術が行われる患者に対して,術前後にリハビリテーション治療(摂食嚥下療法)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

中咽頭がんに対する舌根部を含む広範囲の中咽頭切除および組織再建を行った場合は,誤嚥や鼻腔への逆流などの摂食嚥下障害が問題となる。下咽頭がんの手術は喉頭全摘出を行うものと喉頭温存を図るものに分けられるが,前者は誤嚥の問題はないものの通過障害の要因があり,後者は誤嚥のリスクを生じる。喉頭がんに対する手術では,喉頭部分切除術の場合に生じる喉頭の挙上障害・気道内圧低下・気道開放による嚥下反射の鈍化,などによる摂食嚥下障害が問題となる。

以上のようなさまざまな病態においては効率的で安全なリハビリテーション治療(摂食嚥下療法)が重要となり,「安全により術後から短い期間で」低下した摂食嚥下機能を再獲得できるかどうかに関するエビデンスを確立することは重要臨床課題と思われ,本ガイドライン初版から引き続き今回の改訂においてもCQ として採用した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①完全経口摂取への期間短縮(重要性8,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験1 件,後方視的研究1 件,観察研究2 件を採用した。

・評価

Brookes ら 1)はランダム化比較試験として,口腔・中咽頭がん術後患者75 名を気管切開孔早期縫合閉鎖群33 名と自然閉鎖(非縫合)群31 名にわけて経口摂取再獲得までの期間などを調査しているが,前者の方が嚥下開始日が早期(0.58 vs. 2.7)で抜管から退院までの日数も短期(5.5 vs. 8.3)であった。喉頭部分切除術周術期の摂食嚥下療法において,術後のみ摂食嚥下療法を行った群25 名と術前後に摂食嚥下療法を行うようになった群18 名を後方視的に比較検討したCavalot ら 2)の報告によると,良好な摂食嚥下機能の再獲得までの日数は術後のみ摂食嚥下療法を行った群(27.76±5.2 日)に対し,術前後に摂食嚥下療法を行った群(16.38±2.9 日)の方が有意に短く,経鼻胃管の使用期間が短縮された。Denk ら 3)は,頭頸部がん(舌,口腔底,咽頭,喉頭)の術後から1 週間経過した時点で中等度から重度の摂食嚥下障害が遷延した症例32 名に対し摂食嚥下療法を行ったところ,そのうち24 名(75%)に改善を認めたが,この帰結に統計学的に関与した要因は,術前のステージ・年齢・訓練開始時期と嚥下造影検査(VF)での口腔咽頭通過時間,咽頭期誘発遅延時間,喉頭蓋閉鎖時間であり,VF 評価は口腔咽頭相における摂食嚥下障害と誤嚥の予後評価に貢献したと報告した。またDenk ら 4)は,頭頸部がん(舌,口腔底,咽頭,喉頭)術後患者に対し,嚥下内視鏡検査(VE)のもとで咽頭残留や誤嚥を評価しながら最適な嚥下方法を学習するフィードバック訓練(入院中:週5 回,外来通院中:週2〜3 回,1 回45 分)を,一般的な摂食嚥下療法(口腔器官運動,メンデルゾーン手技,姿勢調整)に併用した群19 名と一般的な摂食嚥下療法を行った対照群14 名で比較検討しているが,訓練開始40 日目の時点ではVE を用いたフィードバック訓練併用群の方が嚥下獲得成功率は高く,80 日目までは成功率の差を認め,この方法を訓練開始後40 日間にわたり用いることでリハビリテーション治療期間の短縮につながったと報告している。

・統合

ランダム化比較試験と観察研究が混在していること,摂食嚥下療法の方法論が異なること,対象病態(術式)の混在,対象者数の少なさ,その他のバイアスなどから,エビデンスの強さはC とした。

②摂食嚥下機能の再獲得率の向上(重要性8,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,観察研究2 件を採用した。

・評価

Denk ら 3)は,摂食嚥下療法を行った群24 名(75%)の改善に統計学的に関与した要因は,VF での口腔咽頭通過時間,咽頭期誘発遅延時間,喉頭蓋閉鎖時間であり,VF 評価は口腔咽頭相における摂食嚥下障害と誤嚥の予後評価,嚥下再獲得に貢献したとしている。Denk ら 4)の報告ではVE を用いたフィードバック訓練併用群の方が嚥下獲得成功率は高く,80 日目までは成功率の差を認め,この方法を訓練開始後40 日間にわたり用いることで嚥下獲得成功率を上げたとされている。

・統合

観察研究であること,摂食嚥下療法の方法論が異なること,対象病態(術式)の混在,対象者数の少なさ,その他のバイアスなどから,エビデンスの強さはC とした。

③摂食嚥下療法による誤嚥の増加(害:重要性8,エビデンスの強さ:D)

摂食嚥下療法中における誤嚥の増加などの有害事象の記載は前述の文献では認めなかった。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:C(弱)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,今回の検討において摂食嚥下療法は有効であった。一方,害(望ましくない効果)として,摂食嚥下療法による有害事象(死亡,肺炎,誤嚥の増加など)は報告がなく,摂食嚥下療法によって害が生じるリスクは少ないと考えられる。以上より,益と害のバランスは確実である。

患者の価値観・希望

術後の摂食嚥下療法は,他の医学的治療に比べても一般的に害が少なく益が大きい治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられる。特に手術による摂食嚥下機能低下は日常生活に支障をきたし,多くの患者が摂食嚥下療法を行い,早期に安全な経口摂取の再獲得を目標とすることが想定される。誤嚥や低栄養に注意して実施すれば,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

「がん患者リハビリテーション料」は入院中の実施であれば術前から算定可能であり,術前からの摂食嚥下療法の説明は,予想される機能予後(摂食嚥下障害など)に基づいた計画立案に有効である。入院中の術後リハビリテーション治療は一般的な療法時間(40〜60 分)において患者のコスト負担は少なく実施できる。退院後の外来では「がん患者リハビリテーション料」は算定ができない。

・臨床適応性

術後の摂食嚥下機能回復に向けての摂食嚥下療法の必要性は一般的に想定されるものである。さらに入院中であれば,治療前から主診療科の医師・リハビリテーション科医・リハビリテーション療法士(言語聴覚士等)が機能障害についての説明を行い,術後に専門的な摂食嚥下療法を監督下で行う体制は普及している。術後早期の回復が期待できるこのような摂食嚥下療法の臨床適応性は高い。

総合評価

咽頭がん・喉頭がんに対する手術が行われる患者に対して,術前後にリハビリテーション治療(摂食嚥下療法)を行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスはC にとどまったが,臨床上の有用性の報告がある点,益と害のバランスも確実性がある(益の確実性が高い)点,患者の価値観・希望の確実性がある(一致している)点,費用の妥当性と臨床適応性の高さがある点を総合的に考慮し,「摂食嚥下療法を行うことを提案する(弱い推奨)」とした。

なお部位別・術式別にエビデンスを検証し,推奨を決定すべきところであったが,今回は咽頭がんと喉頭がんを分別せずに扱った文献が多く,疾病や術式を分別したうえでのエビデンスを導くことが困難であった。今後は手術内容に応じた摂食嚥下療法のエビデンスの構築が望まれる。臨床では退院後に外来での「がん患者リハビリテーション料」の算定ができない関係上,自主訓練指導(摂食嚥下指導,食形態の調整)と状態観察にとどまることが問題である。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・対象部位別(咽頭がんもしくは喉頭がん)および術式別(部分切除もしくは全摘出)を明確化してエビデンスおよび推奨を決定すべきである。
■投票結果

付記

◉ 咽頭がんの術式と摂食嚥下療法

中咽頭がんの術式には,口内法切除術,外切開による切除,再建手術が挙げられる。再建手術の際は,Gehanno 法といわれる鼻咽腔閉鎖機能を再建する手術を併せて行うこともある。広範囲切除による欠損から鼻咽腔閉鎖不全や嚥下内圧の低下を生じることで咽頭残留や誤嚥を呈することがあるため,術後の嚥下機能障害に対する摂食嚥下療法は必要となる。下咽頭がんの術式は喉頭を温存する下咽頭部分切除術(経口的切除・外切開)と音声喪失を伴う下咽頭喉頭頸部食道摘出手術(咽頭食摘)に分けられる。下咽頭部分切除は切除範囲が小さい場合は一次縫合となるが,切除範囲によっては再建術が必要となるため,嚥下障害を呈することがある。咽喉食摘は喉頭・下咽頭・頸部食道の広範囲切除となるため,遊離空腸再建術が施行される。食道と喉頭が分離されるため誤嚥の危険性はないが,(化学)放射線療法後の再発に対する救済手術や術後(化学)放射線療法が行われることで鼻咽腔逆流,再建臓器の浮腫による通過障害や吻合部狭窄を呈することがあり,状態により食事形態の工夫を行うことが大切である。

◉ 喉頭がんの術式と摂食嚥下療法

喉頭がんの術式にはレーザー治療,喉頭部分切除術,喉頭亜全摘術,喉頭全摘術などがある。喉頭全摘術は喉頭と食道が分離されることで誤嚥を呈さない手術だが,鼻咽腔逆流や摂食嚥下障害を呈する場合もあるため,摂取できない要因を検討し介入する必要がある。喉頭部分切除として喉頭垂直部分切除と喉頭水平部分切除がある。喉頭水平部分切除は喉頭挙上や喉頭閉鎖といった気道防御機能が著しく障害される術式であるため,術後は摂食嚥下療法が必要となる。矢内ら 1)は喉頭水平部分切除後の2 症例に摂食嚥下療法を実施したところ,良好な摂食嚥下機能を再獲得したと報告している。長坂ら 2)の症例報告では,同じ声門上部分切除(喉頭水平部分切除)の摂食嚥下障害でも年齢や放射線療法,術後感染の有無などにより摂食嚥下機能が異なるため,適切な評価と摂食嚥下療法を施行する必要があると述べている。また杉浦ら 3)は喉頭半切・亜全摘後の嚥下動態を検討し有効と考えられるアプローチとして「breath-holding maneuver」が効果的と挙げている。喉頭亜全摘術に関しては中山ら 4)の術後摂食嚥下障害の症例報告や横堀ら 5)のチーム医療およびクリニカルパスの報告がある。鮫島ら 6)は喉頭がん患者18 名中11 名に嚥下造影検査による術前評価,4 名に術前摂食嚥下療法を行いその報告を行っている。経口摂取自立までの期間と術前摂食嚥下療法の関係性はなかったものの,術前摂食嚥下療法は術後摂食嚥下療法の重要性を理解させるうえで有用であったとまとめている。喉頭がんは術式により嚥下動態が異なることから,術前摂食嚥下療法やその細かな内容について,今後わが国でも詳細に検討していく必要がある。

文献

1)
Brookes JT, Seikaly H, Diamond C, et al. Prospective randomized trial comparing the effect of early suturing of tracheostomy sites on postoperative patient swallowing and rehabilitation. J Otolaryngol. 2006;35:77-82.
2)
Cavalot AL, Ricci E, Schindler A, et al. The importance of preoperative swallowing therapy in subtotal laryngectomies. Otolaryngol Head Neck Surg. 2009;140:822-5.
3)
Denk DM, Swoboda H, Schima W, et al. Prognostic factors for swallowing rehabilitation following head and neck cancer surgery. Acta Otolaryngol. 1997;117:769-74.
4)
Denk DM, Kaider A. Videoendoscopic biofeedback:a simple method to improve the efficacy of swallowing rehabilitation of patients after head and neck surgery. ORL J Otorhinolaryngol Relat Spec. 1997;59:100-5.
付記文献
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矢内敬子,中平光彦,久場潔実,他.喉頭水平部分切除術後の嚥下リハビリテーションの経験.頭頸部癌.2015;41:358-62.
2)
長坂誠,香取幸夫,渡邊健一,他.声門上喉頭部分切除術後,嚥下リハビリテーションにより摂食可能となった 2 例.耳鼻と臨.2008;54(Suppl. 2):s175-8.
3)
杉浦淳子,藤本保志,中島努,他.喉頭半切・亜全摘術施行例における嚥下動態の経時的変化.耳鼻と臨.2006;52(Suppl. 1):s53-8.
4)
中山明仁,八尾和雄,西山耕一郎,他.喉頭癌に対するCricohyoidoepiglottopexy 後の嚥下機能の検討.日耳鼻会報.2002;105:8-13.
5)
横堀学,中山明仁,清野由輩,他.喉頭亜全摘術の術後嚥下機能再獲得に対するチーム医療.耳鼻・頭頸外科.2009;81:257-64.
6)
鮫島靖浩,村上大造,湯本英二.頭頸部癌手術前の嚥下機能評価と術前および術中の介入の意義.頭頸部癌.2014;40:302-9.

CQ 04
頭頸部がんに対する放射線療法中・後の患者に対して,リハビリテーション治療(摂食嚥下療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード1B
推奨の強さ強い推奨
エビデンスの
確実性
頭頸部がんに対する放射線療法中・後の患者に対して,リハビリテーション治療(摂食嚥下療法)を行うことを推奨する。

重要臨床課題の確認

頭頸部がんに対する放射線療法は,原疾患の部位や大きさ,進展形式により放射線照射範囲が調整される。近年では強度変調放射線療法により合併症を軽減しながら根治性を高める照射技術が普及しているものの,放射線療法中・後に唾液分泌低下,粘膜炎(口腔咽喉頭)などが生じ,嚥下反射惹起遅延や咽頭残留,喉頭侵入や誤嚥につながり,このような摂食嚥下機能低下は結果的に誤嚥性肺炎の発症や生命予後の悪化に結びつく。摂食嚥下機能低下の要因としては放射線療法による咽頭収縮筋の弱化が推測されており 1),放射線療法後の患者の非がん疾患死の間接的な要因である誤嚥性肺炎との因果関係も示唆されている 2)。わが国にて放射線療法を受ける患者は増加しており,また2010 年に放射線療法中・後のがん患者リハビリテーション料算定が認められた医療背景から,本ガイドライン初版では放射線療法時の嚥下造影検査(VF)による評価の有用性がCQ として挙げられ,推奨グレードB と判断されている。また2016 年にはコクラン・ライブラリーでの報告もなされた 3)。今回の改訂では,VF などの評価の必要性や有用性のみならず,摂食嚥下機能低下に対するリハビリテーション治療(摂食嚥下療法)への有効性(摂食嚥下機能の改善,肺炎予防,生命予後改善など)を検証することは極めて重要な課題であると捉え,新たなCQ として採用した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①摂食嚥下機能の改善(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験5 件,非ランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Kotz ら 4)のランダム化比較試験では,化学放射線療法を施行された症例をその治療前からの予防的な摂食嚥下療法群13 名と対照群13 名に分けてFOIS で摂食嚥下機能を評価しているが,放射線療法終了直後の低下した摂食嚥下機能に有意差はないものの,3 カ月後,6 カ月後の時点では療法群の方がより良好な摂食嚥下機能の改善を示していることが報告されている。Lazarus ら 5)のランダム化比較試験では,化学放射線療法中の症例23 名を通常の摂食嚥下療法群11 名と通常の摂食嚥下療法に舌筋力強化プログラムを加えた群(強化群)12 名に分けて治療前後の摂食嚥下機能を OPSE(Oropharyngeal Swallow Efficiency)で評価しているが,10 週後では舌筋力および摂食嚥下機能に関して統計学的有意差は認めなかったものの強化群の方が改善傾向にあると報告した。Carnaby-Mann ら 6)は,通常の摂食嚥下療法群13 名と予防的な摂食嚥下療法群(“Pharyngocise” といわれる標準化された高強度の摂食嚥下療法;裏声発声,舌の抵抗運動,努力嚥下,セラバイトを使用した開口訓練などの総称)14 名の比較では,予防的な摂食嚥下療法群において,FOIS で良好な傾向であり,MASA では有意に良好であったと報告している。Tang ら 7)のランダム化比較試験では,放射線療法後の3 カ月間の摂食嚥下療法群22 名と対照群21 名への水飲みテストを用いた摂食嚥下機能評価では摂食嚥下療法群で有意に良好な結果であったと報告している。Van der Molen ら 8)は,実験的予防的な摂食嚥下療法群24 名は対照群よりも10 週後のVF における固形物の咽頭残留量が少ないことを示し,摂食嚥下機能の改善を提示した。またランダム化比較試験ではないが,放射線療法に伴う障害に対して,放射線療法前から予防的な摂食嚥下療法を行うことで摂食嚥下機能は保たれているというCarroll ら 9)の報告もある。

・統合

複数のランダム化比較試験において摂食嚥下療法群の方が対照群と比較して摂食嚥下機能を改善させるという結果が示された。しかし,摂食嚥下療法群のプロトコール,改善の時期,評価方法が異なる点から各文献の統合的な評価は困難であり,また対象症例が少ないことも考慮して,エビデンスの強さはB とした。

②放射線療法による有害事象または摂食嚥下関連合併症の減少(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Carnaby-Mann ら 6)は,化学放射線療法における有害事象として治療6 週後における唾液量減少や味覚障害の出現を摂食嚥下機能低下の一つとして評価している。予防的な摂食嚥下療法群14 名では通常の摂食嚥下療法の群に比較して唾液量減少や味覚障害を示した患者の割合が有意に少なかった。また摂食嚥下機能に関わる筋群のサイズも比較しているが,予防的な摂食嚥下療法群14 名では通常の摂食嚥下療法群に比較して筋群のサイズの減少が有意に少なかった。

・統合

予防的な摂食嚥下療法は摂食嚥下機能低下を有意に防止している可能性が示唆されるが,1 件の検討結果であることを考慮し,エビデンスの強さはB とした。

③誤嚥の減少(重要性6,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験3 件を採用した。

・評価

Lazarus ら 5)は治療10 週後における誤嚥の減少に関しての有意差は認めなかったと報告している。同じくvan der Molen ら 8)の報告でも治療前後の誤嚥について評価しているが,有意差は認めなかった。Mortensen ら 10)は放射線療法5 カ月後のVF における喉頭侵入や誤嚥を調査しているが,通常の摂食嚥下療法群22 名と予防的な摂食嚥下訓練群22 名での有意差は認めなかったと報告している。

・統合

摂食嚥下療法群のプロトコールが異なるため各文献の統合評価は困難であるが,摂食嚥下療法群の方が対照群と比較して誤嚥を有意に減少させるという結果には至らなかったため,エビデンスの強さはC とした。

④ QOL の改善(重要性6,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験5 件を採用した。

・評価

Kotz ら 4)の報告では,摂食嚥下療法群はPSS-HN で評価したQOL は①で述べた摂食嚥下機能と同様,放射線療法終了直後は対照群と有意差なく低下するものの,3 カ月後,6 カ月後の時点では摂食嚥下療法群の方がよりよいQOL の改善を示している。Lazarus ら 5)の報告では,HNCI(Head and Neck Cancer Inventory)による放射線療法後のQOL 評価において,「食事」と「発話」に関するQOL の項目は通常の摂食嚥下療法群と強化群ではともに改善していたが,「社会的に中断している」というQOL の項目は強化群の方がより大きな改善を示しており,摂食嚥下機能の改善と社会復帰率の向上の可能性が示唆された。Van der Molen ら 8)が評価した質問指標によるQOL,Mortensen ら 10)がEORTIC QLQ-C30 H&N36 で評価したQOL は,ともに摂食嚥下療法群と対照群で有意差は認めなかったと報告されている。またvan den Berg ら 11)も化学放射線療法後のQOL をPSS-HN にて評価しているが,摂食嚥下療法群とさらに栄養カウンセリングも加えた群での比較においてQOL に有意差はなかったと報告している。

・統合

摂食嚥下療法やQOL 評価方法のばらつきにて統合評価は困難であるが,QOL の改善は一部の項目で改善を認めたが全般的な明らかな改善までは示唆されなかったため,エビデンスの強さはC とした。

⑤摂食嚥下療法による有害事象(害:重要性6,エビデンスの強さ:C)

・検索

前述の文献2 件に有害事象の記載を認めた。

・評価

Kotz ら 4)の報告では,摂食嚥下療法経過中の4 名に口腔内疼痛,胸部違和感,倦怠感が生じ継続不可となったとされている。いずれも摂食嚥下療法との直接的因果関係は不明であった。Lazarus ら 5)は口腔咽頭痛,咳嗽,嘔気(吐き気)で摂食嚥下療法が継続困難となった患者があったことを報告した。

・統合

評価を統合する作業は困難であるが,摂食嚥下療法と因果関係との明確な有害事象の数は極めて少なく,エビデンスの強さはC とした。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:B(中)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,今回の検討において摂食嚥下療法は特に摂食嚥下機能の改善と新たな有害事象の抑制の面で有効であった。一方,害(望ましくない効果)として,摂食嚥下療法が直接的な誘因となる重大な有害事象(誤嚥性肺炎の増加,口腔内の疼痛の増悪など)は報告がなく,摂食嚥下療法によって害が生じるリスクは少ない。以上より,益と害のバランスは確実である。

患者の価値観・希望

放射線療法中・後の摂食嚥下療法は,他の医学的治療に比べても一般的に害が少なく益が大きい治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられる。特に摂食嚥下障害は日常生活に支障をきたし,多くの患者が摂食嚥下療法を行い,早期に安全な経口摂取の再獲得を目標とすることが想定される。摂食嚥下機能低下の出現に注意して実施すれば,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

「がん患者リハビリテーション料」は入院中の実施であれば放射線療法開始前・中・後の算定は可能である。放射線療法前からの摂食嚥下療法は,予想される機能予後(摂食嚥下障害など)に基づいた計画立案に有効であり,放射線療法中・後に一般的な療法時間(40〜60 分)を行う際の患者のコスト負担は少なく実施できる。退院後の外来では「がん患者リハビリテーション料」は算定ができない。

・臨床適応性

放射線療法中・後の摂食嚥下療法は,周術期の運動療法などに比べて一般的にはまだ普及していない可能性があり,放射線療法対象患者数と摂食嚥下療法の実施が可能なリハビリテーション療法士(言語聴覚士等)の数がつり合わない現状も踏まえ,臨床適応性は現時点では高いとは言い難い。

総合評価

頭頸部がんに対する放射線療法中・後の患者に対して,リハビリテーション治療(摂食嚥下療法)を行うことを推奨する。

重要なアウトカムに対するエビデンスはB ではあるが,臨床上の有用性や安全性が保たれている点,益と害のバランスに確実性がある(益の確実性が高い)点,患者数増加のなかで摂食嚥下機能低下から生じる誤嚥性肺炎による非がん死の抑制は必須である点から,わが国における放射線療法対象者数とリハビリテーション療法士数のバランスの問題は残るものの,「摂食嚥下療法を行うことを推奨する(強い推奨)」とした。

前述の文献を統合したレビュー 3)では,研究の対象症例数が少ないことから,摂食嚥下療法は摂食嚥下機能低下を改善するという明確な結論にまでは至っていない。今後は放射線療法中・後の摂食嚥下療法の短期効果のみならず,長期効果・晩期の障害抑制・生命予後改善なども視野に入れた研究が望まれる。臨床では放射線療法前に主診療科の医師や放射線治療科医のみならずリハビリテーション科医やリハビリテーション療法士(言語聴覚士など)が摂食嚥下機能障害へ今後積極的に関与することが重要であろう。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・高いエビデンスが判明しているが,わが国の実臨床ではまだ十分に行われていない現状がある。言語聴覚士が中心となり,診療放射線技師とともに摂食嚥下療法の重要性を患者へ説明していくことが重要となる。
■投票結果

付記

◉ 栄養管理

放射線療法中・後に生じる摂食嚥下障害の病態は,摂食嚥下関連筋群や頸部周囲の線維化によるところが大きく,その拘縮予防のために行う摂食嚥下療法(舌・舌床・口唇・喉頭の関節可動域訓練,舌・下顎・口唇の筋力増強訓練,声門上嚥下,息こらえ嚥下,舌突出嚥下,メンデルゾーン手技)が報告されている 1, 2)。治療経過に伴い,粘膜炎に伴う疼痛や唾液分泌障害に伴う口腔内乾燥などを呈した場合も,痛みの生じない運動を継続することが大切である。それでも治療中は粘膜炎や嘔気(吐き気),味覚障害などから,経口摂取が困難となり栄養状態の悪化や治療未完遂となる可能性があるため,治療前から胃瘻を造設し確実な栄養管理を行うことがある。治療6 週後の時点での体重減少は経鼻胃管群の方が胃瘻群よりも有意に進み,四肢周径も経鼻胃管群の方がより小さくなっていたという報告がある 3)。頭頸部癌診療ガイドラインには,栄養管理や薬物の確実な投与経路として胃瘻造設を含む経管栄養が勧められるが,胃瘻に関しては造設だけでは胃体重減少を抑えられず綿密な栄養管理が重要と記載されており 4),管理栄養士や栄養サポートチームなどとの連携が必要である。

◉ わが国での報告

わが国ではランダム化比較試験ではないが,放射線療法前から積極的に摂食嚥下筋力向上の摂食嚥下療法を施行した患者17 名において摂食嚥下療法を毎日実施できた患者群の方が摂食嚥下障害の出現頻度を軽減させる(摂食嚥下障害の悪化は少ない傾向にあった)ことが示唆されたと報告されている 5)。経口摂取に関しては,治療中の栄養摂取方法を経口のみ・胃瘻と経口の併用・胃瘻のみの3 群に分けた検討では,胃瘻の使用有無にかかわらず,経口摂取を続けていた群において治療後の食形態が良好であったと報告されている 6)。よって,治療早期から胃瘻依存にならないよう,粘膜炎に対する疼痛緩和を心がけながら,摂食嚥下障害の程度に合わせた食形態を調整し,可能な限り経口摂取を継続させることが必要である。

またわが国では晩期の摂食嚥下障害についていくつかの報告がある。治療後半年以上経過してから生じる有害事象としての嚥下障害は,治療終了から時間が経過して顕在化する筋組織の線維化や血管・神経などの損傷によって生じる。治療後の晩期の有害事象に関する報告では,化学放射線療法後1 年以上経過した症例に対し嚥下内視鏡検査を行ったところ,4 割の症例に嚥下反射惹起遅延や下咽頭貯留を認めたという報告 7)や,晩期の摂食嚥下障害 8)や喉頭壊死 9)といった症例報告がなされている。晩期の摂食嚥下障害に対する摂食嚥下療法に関しては,今後のデータ蓄積・症例累積が必要であると考える。

文献

1)
Caudell JJ, Schaner PE, Desmond RA, et al. Dosimetric factors associated with long-term dysphagia after definitive radiotherapy for squamous cell carcinoma of the head and neck. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2010;76:403-9.
2)
Forastiere AA, Zhang Q, Weber RS, et al. Long-term results of RTOG 91-11:a comparison of three nonsurgical treatment strategies to preserve the larynx in patients with locally advanced larynx cancer. J Clin Oncol. 2013;31:845-52.
3)
Perry A, Lee SH, Cotton S, et al. Therapeutic exercises for affecting post-treatment swallowing in people treated for advanced-stage head and neck cancers. Cochrane Database Syst Rev. 2016:CD011112.
4)
Kotz T, Federman AD, Kao J, et al. Prophylactic swallowing exercises in patients with head and neck cancer undergoing chemoradiation:a randomized trial. Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 2012;138:376-82.
5)
Lazarus CL, Husaini H, Falciglia D, et al. Effects of exercise on swallowing and tongue strength in patients with oral and oropharyngeal cancer treated with primary radiotherapy with or without chemotherapy. Int J Oral Maxillofac Surg. 2014;43:523-30.
6)
Carnaby-Mann G, Crary MA, Schmalfuse I, et al. “Pharyngocise”:randomized controlled trial of preventative exercises to maintain muscle structure and swallowing function during head-and-neck chemoradiotherapy. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2012;83:210-9.
7)
Tang Y, Shen Q, Wang Y, et al. A randomized prospective study of rehabilitation therapy in the treatment of radiation-induced dysphagia and trismus. Strahlenther Onkol. 2011;187:39-44.
8)
van der Molen L, van Rossum MA, Burkhead LM, et al. A randomized preventive rehabilitation trial in advanced head and neck cancer patients treated with chemoradiotherapy:feasibility, compliance, and short-term effects. Dysphagia. 2011;26:155-70.
9)
Carroll WR, Locher JL, Canon CL, et al. Pretreatment swallowing exercises improve swallow function after chemoradiation. Laryngoscope. 2008;118:39-43.
10)
Mortensen HR, Jensen K, Aksglæde K, et al. Prophylactic swallowing exercises in head and neck cancer radiotherapy. Dysphagia. 2015;30:304-14.
11)
van den Berg MG, Kalf JG, Hendriks JC, et al. Normalcy of food intake in patients with head and neck cancer supported by combined dietary counseling and swallowing therapy:a randomized clinical trial. Head Neck. 2016;38(Suppl. 1):e198-206.
付記文献
1)
Mittal BB, Pauloski BR, Haraf DJ, et al. Swallowing dysfunction- preventative and rehabilitation strategies in patients with head-and-neck cancers treated with surgery, radiotherapy, and chemotherapy:a critical review. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2003;57:1219-30.
2)
Logemman JA. Swallowing and communication rehabilitation. Semin Oncol Nurs. 1989;5:205-12.
3)
Nugent B, Lewis S, O’Sullivan JM. Enteral feeding methods for nutritional management in patients with head and neck cancers being treated with radiotherapy and/or chemotherapy. Cochrane Database Syst Rev. 2010:CD007904.
4)
日本頭頸部癌学会(編).頭頸部癌診療ガイドライン2018 年版.p19,金原出版,2017.
5)
常行美貴,前田達慶,米澤宏一郎,他.頭頸部癌患者における同時併用化学放射線療法後の口内炎と嚥下障害についての検討. 耳鼻と臨.2010;56(Suppl. 2):s240-5.
6)
Langmore S, Krisciunas GP, Miloro KV, et al. Dose PEG use cause dysphagia in head and neck cancer patients? Dysphagia. 2012;27:251-9.
7)
小松正規,石戸谷淳一,池田陽一,他.化学放射線同時併用療法の晩期有害事象が摂食・嚥下に与える影響について.日気管食道会報.2010;61:8-14.
8)
目須田康,本間明宏,西澤典子,他.上咽頭癌放射線治療後に晩期嚥下障害を発症した3 例.耳鼻と臨.2006;52(Suppl. 4):s286-90.
9)
小林麻里,伊藤依子,尾関英徳,他.喉頭壊死をきたした放射線療法晩期障害の1 症例.耳鼻・頭頸外科.2001;73:53-6.

CQ 05
舌がん・口腔がんに対する手術が行われる患者に対して,術後のリハビリテーション治療(音声言語訓練)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2D
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
とても弱い
舌がん・口腔がんに対する手術が行われる患者に対して,術後のリハビリテーション治療(音声言語訓練)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

舌および口腔がんに対する治療では,一般的に舌部分切除〜半切除までは会話に明らかな支障をきたさないが,舌(亜)全摘出や口腔底の広範な切除などの場合は発話明瞭度が低くなり,コミュニケーションに支障をきたす。このような術後の音声言語障害(構音障害)に対して,音声言語訓練・構音訓練を行うことは発話明瞭度の再獲得のために必要であるとは思われるが,本ガイドライン初版発刊時までには,音声言語訓練の有無や内容に明確に言及したランダム化比較試験がなく,その臨床的な重要性を高いエビデンスで示すことができなかった。よって今回の改訂でもエビデンスを検証することに意義があると考え,改めてCQ として採用した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①発話明瞭度の改善(重要性7,エビデンスの強さ:D)

・検索

系統的文献検索を行い,観察研究2 件を採用した。

・評価

De Carvalho-Teles ら 1)が舌全摘術6 名・舌亜全摘術9 名・舌部分切除術12 名の術後の発話明瞭度を音声言語訓練の前後で比較したところ,舌部分切除術では訓練の前後で変化はなかったが,舌全摘・亜全摘術では発話明瞭度に改善を認めた。Furia ら 2)が舌がん術後患者36 名に比較的術後早期から舌接触補助床(PAP)を装着し,3 カ月間音声言語訓練を行った後の自発話の発話明瞭度評価では,PAP 装着時の方がPAP 非装着時よりも良好であった。

・統合

音声言語訓練と発話明瞭度の関係において一定の改善は認めるものの,観察研究2 件のみの結果であること,音声言語訓練の内容が異なること,対象患者数の少なさや評価のバイアスの観点などからエビデンスの強さはD となった。

②音声言語機能の低下,代用手段への移行(害:重要性6,エビデンスの強さ:D)

・検索

系統的文献検索を行い,観察研究2 件を採用した。

・評価

前述の文献において,音声言語訓練施行中における口腔器官の過用・疼痛・皮弁の異常などで音声言語機能がさらに低下し,その結果としての発声機会の喪失や,やむなき代償手段(ジェスチャーや筆談など)への移行などの有害事象の記載は認めなかった。

・統合

音声言語訓練と有害事象の発生において顕著な因果関係はないようであるが,観察研究であること,対象症例数の少なさなどからエビデンスの強さはD となった。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:D(とても弱い)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,今回の検討において音声言語訓練は少ない観察研究の範疇ではあるが有効性が示されていた。一方,害(望ましくない効果)として,音声言語訓練による有害事象(残存舌機能の低下や皮弁の異常など)は明確な報告がなく,音声言語訓練によって害が生じるリスクは少ないと考えられる。以上より,益と害のバランスは確実である。

患者の価値観・希望

術後の音声言語訓練は,他の医学的治療に比べても一般的に害が少なく,一定のレベルまでは益が期待できる治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられる。特に手術による音声言語機能低下は日常生活に支障をきたし,多くの患者が残存口腔器官の運動および音声言語訓練を行い,早期に明瞭な音声言語コミュニケーション再獲得を目標とすることが想定されるため,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

「がん患者リハビリテーション料」は入院中の実施であれば術前から算定可能である。術前からの音声言語訓練の説明は,予想される機能予後(音声言語能力低下など)に基づいた計画立案に有効である。術前後の音声言語訓練においては一般的な訓練時間(40〜60 分)であり,患者のコスト負担は少なく実施できる。退院後の外来では「がん患者リハビリテーション料」は算定ができない。

・臨床適応性

術後の音声言語機能回復に向けての音声言語訓練は一般的に想定されるものである。患者の希望に対し治療前に主診療科の医師のみならず,リハビリテーション科医やリハビリテーション療法士(言語聴覚士等)が機能障害への説明と音声言語訓練を行うことで,患者の心理的受け入れと一定レベルの改善が期待できる。したがって術後のこのような音声言語訓練の臨床適応性は高い。

総合評価

舌がん・口腔がんに対する手術が行われる患者に対して,術後のリハビリテーション治療(音声言語訓練)を行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスはD という確実性の低い結果であったが,臨床上の有用性は高く安全性は保たれている点,益と害のバランスに確実性がある(益の確実性が高い)点,費用の妥当性と臨床適応性の高さがある点を総合的に考慮し,「音声言語訓練を行うことを提案する(弱い推奨)」とした。

2015 年のBlyth らのシステマティックレビュー 3)の内容および検索された文献においても音声言語訓練の有無や優劣を明確に示しておらず,今後は単なる音声言語訓練の有無(自然経過との比較)での有効性のみならず,訓練の内容の違いとそのエビデンスの構築が望まれる。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・音声言語訓練のエビデンスは低いようであるが,術後に発話や会話に支障が生じることは精神的なコンプレックスとなり社会復帰の妨げになることがある。また社会復帰以降はより明瞭度の高い発話能力が必要となる。社会生活のレベルに応じた音声言語訓練が外来にて施行される環境の設立が望ましい。
■投票結果

付記

◉ わが国における術後の構音機能評価

わが国における舌がん・口腔がん術後の構音機能評価に関する報告として,熊倉 1)は構音機能の評価・分析には,日本語100 単音節を用いた発話明瞭度検査を行い,明瞭度(%)の産出と,分析表を用いて詳しい音の置換,省略,歪みの程度を検討し,構音訓練を進めていくと述べている。また,重度の構音障害の音声言語訓練においては,補綴治療の役割として,明瞭度の向上ばかりではなく,「話しやすさ」も加えるべきだとしている。山城ら 2)は,舌がん術後6 カ月以上経過した時点での発話明瞭度に関して,日本語100 単音節発話明瞭度検査と会話明瞭度検査を行い,口内法切除群64 名では91.7〜93.6%と良好,pull through 法切除群45 名でも舌部分切除・可動部舌半側切除における発話明瞭度は81.5〜89.2%と良好とされているが,可動部亜全摘,可動部舌全摘では発話明瞭度がそれぞれ65.1%,37.4%と有意に低かったと報告している。また,再建舌形態と構音機能の関連についての報告 3, 4)では,隆起型の舌形態を再建する方が,術後の会話・発話明瞭度がよいとされている。

◉ 皮弁の変化と音声言語訓練

わが国における舌がん切除後の構音障害に対する音声言語訓練に関する症例報告 4, 5)は散見されるが,大規模な検証は認めない。切除範囲や再建の違いのため,系統的な音声言語訓練の優劣よりも切除範囲,残存舌の可動性,再建舌形態などを踏まえた個別のサポートが必要なためと推測する。術後の再建皮弁の形態は,時間的経過による皮弁の形状変化だけではなく,放射線療法や体重減少も要因となるため,治療経過に合わせてPAP の導入が必要となる場合があり,歯科医との連携が重要となる。ただし,必ずしもPAP が音声言語訓練としての構音の改善に効果的でない場合もあるため,主診療科の医師および歯科医に確認を行うことが必要である。

文献

1)
de Carvalho-Teles V, Sennes LU, Gielow I. Speech evaluation after palatal augmentation in patients undergoing glossectomy. Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 2008;134:1066-70.
2)
Furia CL, Kowalski LP, Latorre MR, et al. Speech intelligibility after glossectomy and speech rehabilitation. Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 2001;127:877-83.
3)
Blyth KM, McCabe P, Madill C, et al. Speech and swallow rehabilitation following partial glossectomy:a systematic review. Int J Speech Lang Pathol. 2015;17:401-10.
付記文献
1)
熊倉勇美.舌・口底癌患者の構音障害とそのリハビリテーション.顎顔面補綴.2010;33:73-4.
2)
山城正司,三浦千佳,水谷美保,他.可動部舌切除の術後機能 構音障害と舌運動.日口腔腫瘍会誌.2015;27:88-94.
3)
前川二郎,吉田豊一,久保田彰,他.舌・口腔底再建における術後構音機能と形態の関連性の検討.頭頸部外.1992;2:75-80.
4)
Kimata Y, Sakuraba M, Hishinuma S, et al. Analysis of the relations between the shape of the reconstructed tongue and postoperative functions after subtotal or total glossectomy. Laryngoscope. 2003;113:905-9.
5)
山下夕香里,森紀美江,武井良子,他.5 年間にわたり構音機能の経時変化を検討した舌亜全摘出術施行例の1 例 言語所見と超音波画像所見の変化について.日口腔腫瘍会誌.2013;25:33-9.
6)
山下夕香里,高橋浩二,宇山理紗,他.舌癌術後に舌接触補助床を装着した1 症例の構音機能の改善過程 言語所見および超音波画像所見について.日口腔科会誌.2011;60:349-55.

CQ 06
咽頭がん・喉頭がんに対する手術が行われる患者に対して,術後のリハビリテーション治療(音声言語訓練)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2C
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
咽頭がん・喉頭がんに対する手術が行われる患者に対して,術後のリハビリテーション治療(音声言語訓練)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

咽頭がん・喉頭がんの手術において,最も問題となる事象の一つに喉頭全摘出後の音声喪失が挙げられる。それによる術後のコミュニケーション障害に関して治療前から,正常発声機能の解説・術式・音声喪失の事実,術後コミュニケーションの再獲得方法の説明などを行うことが重要とされている。再獲得にはリハビリテーション治療(音声言語訓練)が必須となることが想定されるので,その有無や優劣を比較する研究デザインそのものが困難であることが想像されるが,本ガイドライン初版では喉頭全摘出後に代用音声の訓練を行えば音声を再獲得できることを示した文献 1)などから推奨グレードB という評価であった。今回の改訂でもその治療内容や期間などに関するエビデンスの集約は重要臨床課題であると考え,本ガイドライン初版に引き続きCQ として採用した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①発話再獲得率の向上(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,観察研究2 件を採用した。

・評価

欧米での166 名を対象としたHillman ら 1)の2 年間の観察研究では,術後1 カ月の時点で他者と音声でのコミュニケーションを行っている喉頭全摘出後患者129 名のうち109 名(85%)が電気式人工喉頭を使用し,シャント発声(2%)と比較して明らかに多かった。術後2 年経過後でも55%の症例が電気式人工喉頭でコミュニケーションを行っており,電気式人工喉頭は代用音声選択の第一選択肢であった。Singer ら 2)は,喉頭全摘出後の発話明瞭度の経過を上記の3 つの方法においてそれぞれ6 カ月後に273 名,1 年後には225 名の追跡調査を行っているが,シャント発声が最も発話明瞭度がよく,かつ音声言語訓練群において対照群と比較して客観的明瞭度の改善がみられた。

・統合

観察研究である点を考慮し,エビデンスの強さはC とした。

② QOL の向上(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,非ランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

喉頭がん・下咽頭がんにおける喉頭全摘出後の113 名を音声言語訓練群52 名と対照群61 名に分けたVarghese ら 3)のQOL に関する検証では,音声言語訓練群の方が対照群に比べて,EORTC QLQ-C30 やEORTC QLQ-H&N 35 において有意に高かった。

・統合

非ランダム化比較試験である点を考慮し,エビデンスの強さはC とした。

③抑うつ(害:重要性6,エビデンスの強さ:D)

音声言語訓練施行の期間中に,コミュニケーション能力を再獲得することの困難さから有害事象として抑うつを発症する可能性を検証したが,そのような記載は認めなかった。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:C(弱)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,今回の検討において音声言語訓練は基本的には喉頭全摘出後の音声によるコミュニケーション能力の獲得という益がある。患者は希望や実情に応じて,大きく分けて3 つの方法(電気式人工喉頭,食道発声,シャント発声)のなかから選択することができ,音声言語訓練はそれを支援できる。一方,害(望ましくない効果)として,音声言語訓練は身体的な負担や有害事象がほとんど想定できない治療であり,明確に害となるような事象には至らないと考えられる。以上より,益と害のバランスは確実である。

患者の価値観・希望

術後の音声言語訓練は,他の医学的治療に比べても一般的に害や身体的負担が少なく益が大きい治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられる。特に喉頭全摘出後の音声喪失によるコミュニケーション能力の低下は日常生活に支障をきたし,多くの患者が音声言語訓練を行い,早期に音声でのコミュニケーション能力再獲得を目標とすることが想定されるため,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

「がん患者リハビリテーション料」は入院中の実施であれば術前から算定可能であり,術前からの音声言語訓練の説明は,予想される機能予後(音声言語能力・コミュニケーション能力低下など)に基づいた計画立案に有効である。術前後の音声言語訓練は一般的な訓練時間(40〜60 分)にて患者のコスト負担は少なく実施できる。ただしわが国においては選択した代用音声の方法によって手術費用,治療機器,消耗品にかかる費用,習得期間,利用できる社会制度が異なるので(付記参照),その選択に関する説明が重要である。退院後の外来では「がん患者リハビリテーション料」の算定ができない。

・臨床適応性

術後の音声言語機能再獲得に向けての音声言語訓練は一般的に想定されるものであり,患者の希望に対し,治療前に主診療科の医師・リハビリテーション科医・リハビリテーション療法士(言語聴覚士等)が機能障害への説明と音声言語訓練を行うことで確実な再獲得が期待できる。したがって術後の音声機能障害や代用音声の習得に関する音声言語訓練の臨床適応性は高い。

総合評価

咽頭がん・喉頭がんに対する手術が行われる患者に対して,術後のリハビリテーション治療(音声言語訓練)を行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスはC となったが,臨床上の必要性と有用性は高く安全性は保たれている点,益と害のバランスに確実性がある(益の確実性が高い)点,患者の価値観・希望の確実性がある(一致している)点,費用の妥当性と臨床適応性の高さがある点を統合的に考慮し,「音声言語訓練を行うことを提案する(弱い推奨)」とした。

なお本CQ の文献検索の結果は喉頭全摘出後の患者に限定され,咽頭がん術後および喉頭全摘出以外の術後に関する文献は得られなかった。また音声言語訓練による早期の明瞭な音声言語獲得などのエビデンスを検証したランダム化比較試験は該当するものがなかった。喉頭全摘出後の音声言語訓練の有無を設定しにくいこと,比較的容易に音声再獲得できるシャント発声およびボイスプロテーゼの普及にて時間をかけた音声言語訓練が少なくなったことなどから,エビデンスの確実性は今後も向上しない可能性はあるが,今後は単なる音声言語訓練の有無での有用性ではなく,その内容によるエビデンスの構築が望まれる。臨床において音声喪失後の代用音声獲得は必須かつ長期の課題であり,外来にて「がん患者リハビリテーション料」算定にて実施できるようになることが望ましい。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・喉頭全摘出後に音声言語訓練を行わない対照群をつくって臨床研究を行うことは倫理的に困難なため,今後も音声言語訓練の有無を要件としたランダム化比較試験自体が難しく,これ以上エビデンスを挙げることは困難と思われる。代用音声の獲得に対する各々の音声言語訓練の有効性や獲得率を検証し,利点と欠点を見極めることが重要である。
■投票結果

付記

◉ わが国での QOL 評価

喉頭がんに対する外科的治療法は喉頭微細手術,喉頭部分切除術,喉頭亜全摘術,喉頭全摘術などがあり,それぞれの治療成績は報告されているが,わが国では音声言語訓練やその結果としてQOL がどのように改善するかという観点からの報告はほとんどない。折舘ら 1)は喉頭がん患者の音声に関するQOL をVoice-Related Quality of Life(V-RQOL)質問表とVoice Handicap Index-10(VHI-10)質問表を用いて検証している。V-RQOL とVHI-10 は強い相関を示し,またV-RQOL は聴覚印象評価(grade)と中程度の相関を示しており,これらの質問表は喉頭がん治療後の音声QOL 評価に有用であると報告している。

◉ 代用音声について

下咽頭がんや喉頭がんに対する喉頭全摘出後の音声喪失への代用音声として,電気式人工喉頭,食道発声,気管食道瘻発声(シャント発声)があり,医療者はそれぞれのメリット・デメリットを理解し,患者・家族へ代用音声の提供を行う。また,代用音声の選択に関しては,術式,原疾患の進行や治療計画,患者の社会背景にも十分に考慮する必要がある。退院後は,代用音声を習得した患者で構成されている患者会に関する情報提供や,患者会へ紹介することも大切である。

1)人工喉頭には呼気を駆動力とする笛式人工喉頭と電気エネルギーを駆動力とする電気式人工喉頭があるが,近年では笛式人工喉頭の使用は減少し,電気式人工喉頭の使用がほとんどである。電気式人工喉頭は,振動を頸部に当て,咽頭内に伝導・共鳴させて発生した音源を口腔や咽頭の構音機能によって発声する方法である。訓練の際のポイントは,振動部の皮膚面への適度な接触・角度,言葉の区切りの際の器具のオン/オフ,である。振動部の適度な接触は手術や放射線療法による瘢痕,硬化した皮膚には難しい場合も多く,接触面が合わず雑音が多くなる場合には下顎や頬部に当てるとうまくいくことがある 2)。嘉村ら 3)は喉頭摘出後早期における口腔伝導用チューブを用いた電気式人工喉頭発声について検討を行っており,頸部接触による電気式人工喉頭に比して術前から口腔伝導用チューブを用いた電気式人工喉頭の方が,発話明瞭度改善への寄与はわずかだが,術直後や放射線療法中のコミュニケーション手段として有用であるとしている。食道発声に比べると,術後早期から習得できるコミュニケーション手段であり,比較的容易に発声機能を獲得しやすい。しかし,術前後の音声言語訓練やその有用性を検討した報告はない。

2)食道発声は空気を飲み込み,吐き出すことで生じる気流が咽頭食道の狭窄部粘膜(新声門)を振動させて音源となる。特別な器具を必要としないが,習得までに長期間の訓練が必要であり,またその習得は必ずしも容易ではない。喉頭全摘出者の食道発声訓練はリハビリテーション療法士による介入報告が少なく,習得基準なども確立されていないため,訓練効果としてのエビデンスの集積は難しい。喉頭全摘出後の患者会での習得を目指す場合も多いが,他者との交流が難しい患者は参加を拒む場合もある。一般的には喉頭全摘出後のコミュニケーション手段の確保のためには食道発声と電気式人工喉頭使用の訓練を並行して実施していく必要があるといえる。わが国では神田ら 4)が喉頭全摘出および下咽頭喉頭頸部食道全摘を受け,術後4 カ月以上食道発声訓練を実施した39 名について術式別に検討を行い,後者は前者と比べて食道発声の習得が難しく,長期的な指導が必要であると報告している。

3)シャント発声には気管食道瘻発声と気管空腸瘻発声の2 種類があり,ボイスプロステーシスの挿入時期は一期的挿入と二期的挿入に分かれる。一般的には気管食道瘻または気管空腸瘻に挿入し,ボイスプロステーシスを介して呼気を食道または空腸に導くことで粘膜が振動して発声が可能となる。食道発声に比べ,音声獲得率は82%5)や92.3%6)と高いが,発声に関しては,呼気を強く吐きすぎると呼気圧の上昇とともに筋緊張が高まり安定した音声が得られにくいことから,リラックスして楽な発声をするよう指導する 7)。欧米では代用音声の選択としてシャント発声が主流となっており,わが国でもシャント発声が普及しつつあるが,ボイスプロステーシス周囲の肉芽形成と感染,誤嚥性肺炎などといった合併症の問題が挙げられる 8)。また,合併症以外の問題として,維持費や通院間隔,生活環境・家族環境,発声に対する意欲の有無も重要である 8)。シャント発声を継続するために必要な費用や定期診察の回数などについても十分理解が得られたうえで適応となる症例を選択する必要があるが,わが国における音声言語訓練が必要な対象症例の器質的病態についても十分に検討する必要がある。

◉ わが国における代用音声に関する制度と費用について

喉頭全摘出後の障害種別は音声機能・言語機能障害に位置づけられる。音声喪失という場合には,先天性のものも含まれており,無喉頭,喉頭部外傷による喪失,発声筋麻痺による音声喪失,失語症,ろうあなどであり,全く発声ができないか,言語機能を喪失したものとなっている。著しい障害といった場合には,喉頭の障害,または形態異常,唇顎口蓋裂や中枢性疾患などとなり,音声または言語のみを用いて意思を疎通することが困難な場合を示す。診断書用紙は自治体や管轄の福祉事務所が窓口となり,身体障害者福祉法第15 条に定める指定医の記載が必要である。喉頭全摘出後の障害等級は「音声機能の喪失」に該当するため3 級が付与される。日常生活用具は自治体ごとに用具の種類や負担額が異なる場合があるが,使用することで自己負担を抑え電気式人工喉頭を安価で購入することができる。また,シャント発声では人工鼻関連給付が生活用具給付として自治体レベルで給付が認められるようになったが,電気式人工喉頭と比べ,支給している自治体は限られている。今後,人工鼻関連給付が広く普及することで,シャント発声のサポート器具としてだけでなく加温・加湿効果といった本来の人工鼻の役割として,喉頭全摘出者への給付認定が普及していく可能性がある。

文献

1)
Hillman RE, Walsh MJ, Wolf GT, et al. Functional outcomes following treatment for advanced laryngeal cancer. Part I-voice preservation in advanced laryngeal cancer. Part II-laryngectomy rehabilitation:the state of the art in the VA system. Research speech-language pathologists. Department of veterans affairs laryngeal cancer study group. Ann Otol Rhinol Laryngol Suppl. 1998;172:1-27.
2)
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3)
Varghese BT, Mathew A, Sebastian P, et al. Comparison of quality of life between voice rehabilitated and nonrehabilitated laryngectomies in a developing world community. Acta Otolaryngol. 2011;131:310-5.
付記文献
1)
折舘伸彦,本間明宏,福田諭.喉頭癌治療後の音声に関するQOL の検討.耳鼻・頭頸外科.2008;80:597-603.
2)
大月直樹,丹生健一.頭頸部癌治療後のリハビリテーション.ENTONI.2016;192:155-60.
3)
嘉村陽子,岩江信法,平山裕次,他.喉頭摘出後早期における口腔伝導用チューブを用いた電気式人工喉頭発声についての検討.頭頸部癌.2014;40:120-5.
4)
神田亨,田沼明,鬼塚哲郎,他.術式による食道発声訓練経過の差異 喉頭全摘術後と下咽頭喉頭頸部食道全摘術後との比較.言語聴覚研.2008;5:152-9.
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小島卓朗,加藤一郎,中田誠一,他.voice prosthesis を用いた気管食道シャント手術による術後音声機能獲得に関する検討.音声言語医.2014;55:215-8.
6)
寺田友紀,佐伯暢生,宇和伸浩,他.喉頭摘出後のProvox2 による音声獲得と長期経過観察.日耳鼻会報.2010;113:838-43.
7)
大月直樹,丹生健一.頭頸部癌治療後のリハビリテーション.ENTONI.2016;192:155-60.
8)
寺田友紀.ボイスプロテーゼによる喉頭摘出後の代用音声.日耳鼻会報.2012;115:870-1.

CQ 07
頭頸部がんに対する放射線療法中・後の患者に対して,リハビリテーション治療(音声言語訓練)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2B
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
頭頸部がんに対する放射線療法中・後の患者に対して,リハビリテーション治療(音声言語訓練)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

頭頸部がんに対する放射線療法は,原疾患の部位や大きさ,進展形式により放射線照射範囲が調整される。近年では強度変調放射線療法により合併症を軽減しながら根治性を高める照射技術が普及しているものの,放射線療法中・後に唾液分泌低下,粘膜炎(口腔咽喉頭)などが生じ,音声言語障害につながる。本領域における音声言語訓練に関しては,海外でも2010 年以前は散見される程度の文献数であったが,疾患の早期発見,放射線療法の進歩,音声機能温存の方向性などに伴い,主に2014 年以降に放射線療法中・後の音声言語障害に関するランダム化比較試験の結果が報告されてきた。わが国でも放射線療法を受ける患者は増加しており,また2010 年に頭頸部がん患者における放射線療法中・後のリハビリテーション算定が認められた医療背景から,今回の改訂においてリハビリテーション治療(音声言語訓練)の有用性は検証すべき重要臨床課題として捉え,新たなCQ として採用した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①コミュニケーション能力の向上(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Karlsson ら 1)のランダム化比較試験における報告では,放射線療法中の喉頭がん患者74 名を音声言語訓練群37 名と対照群37 名に分け,コミュニケーション能力を治療前・治療後・6 カ月後に S-SECEL(Self-Evaluation of Communication Experiences after Laryngeal Cancer)を用いて評価したところ,訓練群は対照群と比べてコミュニケーション能力の改善は良好であった。

・統合

ランダム化比較試験1 件のみの検証ではあるが,いくつか存在するバイアスはリハビリテーション医療に特有の事象のみであり,対象人数も比較的確保できていることからエビデンスの強さはB とした。

② QOL の向上(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

前述のKarlsson ら 1)の報告では,同様の2 群間で HRQL(health-related quality of life)を治療前・治療後・6 カ月後にEORTC QLQ-C30 およびEORTC QLQ-H&N 35 を用いて評価したところ,訓練群は対照群と比べて,コミュニケーションに関するQOL スコアはより良好であった。Tuomi ら 2)は,放射線療法中の喉頭がん患者42 名を音声言語訓練群19 名と対照群23 名に分け,治療前・6 カ月後・12 カ月後にHRQL を評価したところ,訓練群の方が対照群よりも改善傾向にあったと報告した。

・統合

2 つのランダム化比較試験におけるいくつかのバイアスはリハビリテーション医療に特有の事象のみであり,対象人数も比較的確保できていることからエビデンスの強さはB とした。

③音声(声質)の改善(重要性6,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

Tuomi ら 2)の報告では,音声を治療前・6 カ月後・12 カ月後で評価し,音声言語訓練群の方が対照群よりも自覚的には改善していた。またTuomi ら 3)は別の研究において,放射線療法中の喉頭がん79 名を音声言語訓練群41 名と対照群33 名に分けて音声分析を施行し,訓練群は対照群よりも発声機能の改善を自覚していたことを報告している。

・統合

2 つのランダム化比較試験におけるいくつかのバイアスはリハビリテーション医療に特有の事象のみであり,対象人数も比較的確保できていることからエビデンスの強さはB とした。

④発声困難による抑うつや精神的不安の改善(重要性6,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Bergström ら 4)は放射線療法後の喉頭がん63 名を音声言語訓練群31 名と一般的な音声指導のみの対照群32 名に分け,精神心理面の推移をHADS(Hospital Anxiety and Depression Scale)で治療前・6 カ月後・12 カ月後で評価しているが,音声言語訓練の有無と精神心理面(抑うつ,不安)の関係性において,訓練群の方が対照群よりも有意な改善を認めたと報告している。

・統合

ランダム化比較試験1 件のみの検証ではあるが,いくつか存在するバイアスはリハビリテーション医療に特有の事象のみであり,対象人数も比較的確保できていることからエビデンスの強さはB とした。

⑤発声の過負荷による声量低下(害:重要性6,エビデンスの強さ:D)

一般的に音声言語訓練(特に発声訓練)によって声帯に負荷がかかり,声量低下や嗄声につながるような有害事象が想定されるが,前述の研究においてはそのような害につながるような事象は報告されていない。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:B(中)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,今回の検討において音声言語訓練は有効であった。一方,害(望ましくない効果)として,音声言語訓練による有害事象(声量低下など)の増悪は報告がなく,音声言語訓練によって害が生じるリスクは少ないと考えられる。以上より,益と害のバランスは確実である。

患者の価値観・希望

放射線療法中・後の音声言語訓練は,他の医学的治療に比べても一般的に害が少なく益が大きい治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられる。声量低下・発話明瞭度低下によるコミュニケーション能力の低下に対し,早期に明瞭な声量・声質の再獲得を目標とすることが想定される。発声の過負荷(声帯の酷使)による声量低下などに注意して実施すれば,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

「がん患者リハビリテーション料」は入院中の実施であれば放射線療法前から算定可能である。放射線療法前からの音声言語訓練は,予想される機能予後に基づいた計画立案に有効である。放射線療法中・後の音声言語訓練の一般的な訓練時間(40〜60 分)においては患者のコスト負担は少なく実施できる。退院後の外来では「がん患者リハビリテーション料」は算定ができない。

・臨床適応性

想定される患者数に対して専門的に指導できる施設やリハビリテーション療法士の数が少ないこと,また仮に実施している施設であってもすべての対象症例に頻回に実施することは現実的ではないこと,症状が一過性であることが予測されることやコミュニケーション能力の度合いによっては希望しない患者も存在すると思われることなどから,臨床適応性は現時点では高いとは言い難い。

総合評価

頭頸部がんに対する放射線療法中・後の患者に対して,リハビリテーション治療(音声言語訓練)を行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスはB であり,臨床上の有用性は高く安全性は保たれている点,本ガイドライン初版作成時以降の検証の確立が進んでいる点,益と害のバランスに確実性がある(益の確実性が高い)点,患者の価値観・希望の確実性がある(一致している)点,費用の妥当性と臨床適応性の課題(患者数に比べてリハビリテーション療法士が少ないなど)がある点を総合的に考慮し,「音声言語訓練を行うことを提案する(弱い推奨)」とした。

今回の文献検索結果の対象は主に喉頭がんに限定され,咽頭がんに関する報告は該当しなかった。音声言語訓練群は対照群よりも音声(声質)の改善,QOL の向上,コミュニケーション能力の向上が図れることが示され,一部には放射線療法以前からの予防的介入の効果も検証されている。言語学的な意味から海外(他国語)での有効性がそのままわが国(日本語)にあてはまる,もしくは応用できるかどうかも課題として残るため,わが国での研究報告が待たれる。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・放射線療法中・後の摂食嚥下障害と同様に,比較的エビデンスが高いにもかかわらずわが国では十分に普及していない。入院中から外来に至るまで多職種の理解・協力も交えて音声言語訓練の確立と均てん化を図ることが今後は重要である。
■投票結果

付記

◉ 喉頭がん治療後の音声機能

喉頭がんの音声機能について,わか国では澤津橋ら 1)の早期声門がんの治療成績に関する報告のなかで,治療後の声門がんT1a 症例の音声評価として周期変動指数,振幅変動指数,調波対雑音比を算出し,レーザー治療後および放射線療法後について音声機能を比較している。T1a 症例の音声機能は,レーザー治療・放射線療法の選択をしても有意な差はないが,放射線療法は治療期間が長いためレーザー治療の方が早期に音声改善が得られると報告している。喉頭がんの音声に関するQOL について,放射線療法後のV-RQOL;92.2±16.9/VHI-10;2.95±6.11,化学放射線療法後のV-RQOL;92.9±13.4/VHI-10;2.34±4.11 との報告 2)がある。

頭頸部がんに対する(化学)放射線療法の音声言語訓練の報告はわが国にはないが,主観的評価と客観的評価に乖離が生じる場合もあることから,両側面からの慎重な評価が必要であり,評価や方法,症例選択などが課題となる。

文献

1)
Karlsson T, Johansson M, Andrell P, et al. Effects of voice rehabilitation on health-related quality of life, communication and voice in laryngeal cancer patients treated with radiotherapy:a randomised controlled trial. Acta Oncol. 2015;54:1017-24.
2)
Tuomi L, Johansson M, Lindell E, et al. Voice range profile and health-related quality of life measurements following voice rehabilitation after radiotherapy;a randomized controlled study. J Voice. 2017;31:115.e9-16.
3)
Tuomi L, Andréll P, Finizia C. Effects of voice rehabilitation after radiation therapy for laryngeal cancer:a randomized controlled study. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2014;89:964-72.
4)
Bergström L, Ward EC, Finizia C. Voice rehabilitation after laryngeal cancer:associated effects on psychological well-being. Support Care Cancer. 2017;25:2683-90.
5)
Jacobi I, van der Molen L, Huiskens H, et al. Voice and speech outcomes of chemoradiation for advanced head and neck cancer:a systematic review. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2010;267:1495-505.
付記文献
1)
澤津橋基広,梅崎俊郎,安達一雄,他.音声からみた早期声門癌の治療成績 . 喉頭.2012;24:13-9.
2)
折舘伸彦,古田康,西澤典子,他.放射線治療を受けた喉頭癌患者の治療後音声に関するQOL の検討 . 喉頭.2007;19:59-64.

CQ 08
頭頸部がんに対する頸部リンパ節郭清術が行われる患者に対して,術後のリハビリテーション治療(上肢機能訓練)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード1B
推奨の強さ強い推奨
エビデンスの
確実性
頭頸部がんに対する頸部リンパ節郭清術が行われる患者に対して,術後のリハビリテーション治療(上肢機能訓練)を行うことを推奨する。

重要臨床課題の確認

頸部リンパ節郭清術後に生じる副神経麻痺による僧帽筋機能不全や肩関節機能障害は,上肢の可動域制限や疼痛をきたし,日常生活の阻害因子となり得る。頸部リンパ節郭清術後のこれらの症状に対して行われるリハビリテーション治療(上肢機能訓練)の有効性について,本ガイドライン初版では2 つのランダム化比較試験1, 2)の結果を中心に,肩関節周囲の疼痛・筋力・可動域の改善の観点から推奨グレードA と判定された。今回の改訂にあたって前回と同じCQ を採用し,さらなる研究の積み重ねやその後に報告されたシステマティックレビュー 3)を中心に頸部リンパ節郭清術後に生じる副神経麻痺による僧帽筋機能不全や肩関節機能障害への上肢機能訓練について検証した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①疼痛および能力低下の改善(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験3 件,システマティックレビュー1 件を採用した。

・評価

頸部リンパ節郭清術後患者52 名を無作為に対照群(上肢自動・他動関節可動域訓練;週3 回,12 週間)25 名と筋力増強訓練群(可動域訓練+筋力増強訓練;1 日2 セット,週3 回,12 週間)27 名に分けたMcNeely ら 1)のランダム化比較試験および頸部リンパ節郭清術後20 名を無作為に対照群(同上)10 名と筋力増強訓練群(1 セット15〜20 回,1 日3 セット,週3 回,12 週間)10 名に分けた同じくMcNeely ら 2)のランダム化比較試験を統合したCarvalho ら 3)のシステマティックレビューでは,12 週後の自覚的な肩関節に関する疼痛と能力低下に関してSPADI(The Shoulder Pain and Disability Index)で評価しているが,そのなかの「疼痛」ではリスク差の統合値6.26(95%CI:0.31-12.20,p=0.039),「能力低下」ではリスク差の統合値8.48(95%CI:1.88-15.07,p=0.012)となり,筋力増強訓練群は対照群に比較して有意な改善を認めた。頸部リンパ節郭清術後59 名を無作為に監督下の肩甲帯筋力増強訓練群(1 セット8〜12 回,1 日2〜3 セット,週3 回,12 週)32 名と対照群(通常の理学療法のみ)27 名に分けたMcGarvey ら 4)のランダム化比較試験では,開始時・1 カ月・3 カ月・6 カ月・12 カ月経過時にSPADI にて評価を行っているが,合計値には有意差を認めなかった。

・統合

バイアスリスクの少ないランダム化比較試験およびそれを統合したシステマティックレビューの結果ではあるが,上肢機能訓練の内容の違いがあることからエビデンスの強さはB とした。

②肩関節可動域の改善(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験3 件,システマティックレビュー1 件を採用した。

・評価

2 つのランダム化比較試験1, 2)を統合した前述のシステマティックレビュー 3)では,筋力増強訓練群は対照群に比較して,12 週後の自動外旋の可動域は有意な改善(95%CI:7.87-21.14,p<0.01)を認め,また他動外転・前方屈曲・外旋・水平外転の可動域も有意な改善を認めた。自動外転・前方屈曲の可動域の改善においては有意差を認めなかった。前述のMcGarvery ら 4)のランダム化比較試験では,12 週時点での自動外転の可動域において筋力増強訓練群の方が有意に改善(95%CI:7.3-46,p<0.01)したが,6 カ月・12 カ月の評価では有意差は認めなかった。

・統合

バイアスリスクの少ないランダム化比較試験およびそれを統合したシステマティックレビューの結果ではあるが,上肢機能訓練の内容の違いがあることからエビデンスの強さはB とした。

③ QOL の向上(重要性6,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験3 件,システマティックレビュー1 件を採用した。

・評価

前述のシステマティックレビュー 3)では,筋力増強訓練群は対象群に比較して,12 週後のFACT-G(Functional Assessment of Cancer Therapy-General)によるQOL 評価では有意な差を認めなかった。McGarvey ら 4)のランダム化比較試験では,NDII(The Neck Dissection Impairment Index)によるQOL 評価を用いているが,両群における有意差は認めなかった。

・統合

バイアスリスクの少ないランダム化比較試験およびそれを統合したシステマティックレビューの結果であるが,上肢機能訓練の有無によるQOL に有意差はないことから,エビデンスの強さはC とした。

④疼痛の悪化,筋力の低下,拘縮の進行,アドヒアランスの不良(害:重要性7,エビデンスの強さ:C)

McNeely の2 つの文献 1, 2)では上肢機能訓練に伴うような有害事象は対照群では認めず,筋力増強訓練群にそれぞれ1 名ずつ肩甲帯付近軟部組織の疼痛の増悪と嘔気(吐き気)を認めた。上肢機能訓練に伴う過用を疑わせるような可動域の低下は認めず,治療効果は維持されていた。また訓練のアドヒアランスはMcNeely 1)では 87%,McNeely 2)では 93%であり,継続性は良好といえた。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:B(中)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,今回の上肢機能訓練は基本的には疼痛の減弱や能力低下の改善,肩関節運動における自動および他動可動域に改善の傾向があり,特に筋力増強訓練群において益があり,アドヒアランスも良好であった。一方,害(望ましくない効果)として,筋力増強訓練群のごく少数に疼痛などを認めた。以上より,益と害のバランスは確実である。

患者の価値観・希望

術後の上肢機能訓練は,他の医学的治療に比べても一般的に害が少なく益が大きい治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられる。特に肩関節機能障害は日常生活に支障をきたし,多くの患者が上肢機能訓練を行うことを希望することが想定され,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

「がん患者リハビリテーション料」は入院中の実施であれば算定可能であり,術後上肢機能訓練としての一般的な訓練時間(40〜60 分)においては患者のコスト負担は少なく実施できる。なお術前評価や起こり得る肩関節機能障害の説明が外来診療の段階で実施される場合があると思われるが,これらには「がん患者リハビリテーション料」は適応されない。退院後の外来では「がん患者リハビリテーション料」は算定ができない。

・臨床適応性

入院中に主診療科の医師,リハビリテーション科医,リハビリテーション療法士(理学療法士,作業療法士)が起こり得る機能障害に対する説明を行い,そのうえで上肢機能訓練にて一定の改善に導くことができるため,臨床適応性は高い。

総合評価

頭頸部がんに対する頸部リンパ節郭清術が行われる患者に対して,術後のリハビリテーション治療(上肢機能訓練)を行うことを推奨する。

重要なアウトカムに対するエビデンスはB であり,臨床上の有用性は高く安全性は保たれている点,本ガイドライン初版作成時以降の検証の確立が進んでいる点,益と害のバランスに確実性がある(益の確実性が高い)点,費用の妥当性と臨床適応性の高さがある点を総合的に考慮し「上肢機能訓練を行うことを推奨する(強い推奨)」とした。

なお本CQ では上肢機能訓練の有無の検証を想定していたが,文献検索の結果として上肢機能訓練の内容の追加に言及したエビデンスへの検証となった。今後は上肢機能訓練の内容のさらなる検証,外来での上肢機能訓練継続の必要性を踏まえた長期介入結果,今回エビデンスがC であったQOL に関する検証などが着目される。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・頸部リンパ節郭清術後は肩関節機能障害だけでなく,創部に直接関連した顔面・頸部の疼痛やそれに起因する不安の慢性化・長期化が問題になる場合がある。今後はその創部に直接関する症状にもリハビリテーション療法士が入院・外来を問わず積極的に関与してほしい。
■投票結果

付記

◉ わが国の現状

頸部リンパ節郭清術時に,副神経切離であれば完全麻痺が生じ,切離しなくとも不全麻痺が生じることが多い。この結果,副神経麻痺(僧帽筋麻痺)が生じ,上肢拳上困難,肩関節周囲違和感などの症状が出現し,日常生活に支障をきたす。上肢機能訓練のエビデンス・推奨は前述した通りであるが,その他に臨床課題として挙げていた若年者と高齢者の回復の違い,外来での上肢機能訓練を継続したうえでの機能回復における長期成績,術前上肢機能訓練の有効性などについて明確に言及した文献はなかった。

国内報告においてランダム化比較試験は認めないが,以前より上肢機能訓練の有効性を評価している研究 1, 2)は散見され,本ガイドライン初版の発刊以降には機能改善やQOL に着目した後方視的研究も認める。石井ら 3)は,手術後肩関節外転可動域の変化比への影響因子は,手術後合併症の有無,両側郭清の有無,手術後の肩甲骨脊椎間距離および握力であるとしている。また同じく石井ら 4)が手術後早期の外転可動域の改善はQOL の長期的経過に影響を与えることを報告している。上肢機能訓練の有無や新たな治療方法の有無で機能障害改善などの帰結をランダム化比較試験として報告しているものは認めなかったが,国内からも上肢機能訓練の効果検証が進んでいることは望ましい傾向である。

本CQ で述べたランダム化比較試験にも要約されているように,今後は長期効果(3 カ月以降)の検証が進むことが期待され,わが国においては外来での上肢機能訓練の継続の必要性も,さらに討論されていくことになるであろう。

文献

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2)
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3)
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付記文献
1)
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石井貴弥,原毅,出浦健太郎,他.副神経を温存した頸部郭清術後の頭頸部がん患者の手術後早期における肩関節外転可動域の影響因子.頭頸部外.2016;26:211-6.
4)
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CQ 09
頭頸部がんに対する放射線療法中・後の患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2B
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
頭頸部がんに対する放射線療法中・後の患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

放射線療法および化学療法中・後のがん患者では,倦怠感や運動能力の低下をきたすことが多いが,リハビリテーション治療(運動療法)に関する報告は乳がんや前立腺がんなどの報告に比較すると本領域ではこれまで非常に少なかった。頭頸部がんへの放射線療法中・後には口腔粘膜炎や摂食嚥下障害,食欲低下,体重減少,倦怠感が生じ,二次的な体力低下や日常生活活動の低下につながることが予想される。このような状況下で運動療法に取り組むことへの有効性の検証は今後の重要臨床課題と考え,また2016 年にシステマティックレビュー 1)も報告されていることから,今回の改訂でも本ガイドライン初版と同様のCQ として採用した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①除脂肪体重減少の抑制(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験3 件を採用した。

・評価

Lonbro ら 2)は,放射線療法が施行された頭頸部がん患者41 名を筋力増強訓練の実施時期で前期12 週群(20 名)と後期12 週群(21 名)の2 群化し除脂肪体重を調査しているが,どちらの訓練時期であっても訓練を実施せずに自由な日常生活を送っている12 週よりも訓練を実施する12 週の方が除脂肪体重は約4%増加していた。同じくLonbro ら 3)は,放射線療法が施行された頭頸部がん患者30 名に筋力増強訓練を行い,さらにサプリメント受給有無で2 群に分け除脂肪体重を調査しているが,両群ともに除脂肪体重は有意差なく増加していた。Rogers ら 4)は,放射線療法が施行された頭頸部がん患者15 名を筋力増強訓練介入群7 名と対照群8 名の2 群に分け除脂肪体重を調査したが,変化量に有意差は認めなかった。

・統合

バイアスリスクの少ないランダム化比較試験およびそれを統合したシステマティックレビュー 1)において一定の効果を認めているが,運動療法の内容の違いがあること,対象症例数の少なさからエビデンスの強さはB とした。

②運動能力の向上(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験4 件を採用した。

・評価

Samuel ら 5)は,放射線療法が施行された頭頸部がん患者48 名を監督下の運動療法群24 名と対照群24 名に分け,運動耐容能(6 分間歩行テスト)を評価しているが,6 週後の評価では療法群の方が42m 改善(p<0.05)し,対照群は96m 短縮していた。Lonbro ら 2)は,運動能力を調査しているが,後期に筋力増強訓練を行った群は前期に自由な日常生活を送っている群と比較して運動能力が有意に向上していた。Lonbro ら 3)は,2 群間の運動能力を調査しているが,両群とも向上していた。Rogers ら 4)は,2 群間の運動能力(椅子からの立ち上がり時間)を調査し,筋力増強訓練群の方が6 週目・12 週目の評価でそれぞれ有意に高かったことを報告している。

・統合

バイアスリスクの少ないランダム化比較試験およびそれを統合したシステマティックレビュー 1)において,運動能力の向上を認めるが,運動療法の内容の違いがあること,対象症例数の少なさからエビデンスの強さはB とした。

③ QOL の向上(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験3 件を採用した。

・評価

Lonbro ら 2)は,2 群間のQOL も調査しているが,前期に筋力増強訓練を行った群の方が後期に筋力増強訓練を行った群と比較して有意にQOL は改善していた。同じくRogers ら 4)も2 群間のQOL を調査しているが,筋力増強訓練群は改善し対照群は下降していた。Samuel ら 5)も2 群間でのQOL の比較をSF-36 で評価しているが,筋力増強訓練群は改善し対照群は下降していた。

・統合

バイアスリスクの少ないランダム化比較試験およびそれを統合したシステマティックレビュー 1)において,QOL の向上は認められるが,運動療法の内容の違いがあること,対象症例数の少なさからエビデンスの強さはB とした。

④筋力の向上(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験3 件を採用した。

・評価

Lonbro ら 2)は,2 群間の筋力も調査しているが,どちらの訓練時期であっても筋力増強訓練を実施している期間は筋力増強訓練を実施せずに自由な日常生活を送っている期間よりも最大筋力は増加していたと報告している。Lonbro ら 3)の報告では,両群ともに筋力増強訓練効果として筋力は増加していたが,サプリメント摂取の有無による2 群間での有意差はなかった。Rogers ら 4)の報告では,2 群間の筋力を開始時・6 週・12 週時に調査し,両群に有意差はないものの対照群の方が筋力増強訓練群に比べて徐々に下降傾向にあった。

・統合

バイアスリスクの少ないランダム化比較試験およびそれを統合したシステマティックレビュー 1)において,運動療法の内容の違いがあること,対象患者数の少なさから,エビデンスの強さはB とした。

⑤倦怠感の増悪,訓練による外傷,放射線療法からの脱落(害:重要性7,エビデンスの強さ:D)

前述の文献からは,運動療法施行中における運動療法自体による倦怠感の増悪・外傷・放射線療法からの脱落などの有害事象が,運動療法群に有意差をもって多く出現するという記載は認めなかった。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:B(中)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,今回の運動療法は有効であった。一方,害(望ましくない効果)として,運動療法による有害事象(倦怠感や外傷など)の増悪は報告がなく,運動療法によって害の要素が対照群よりもより多く生じるリスクは少ないと考えられる。以上より,益と害のバランスは確実である。

患者の価値観・希望

放射線療法中・後の運動療法は,他の医学的治療に比べても一般的に害が少なく益が大きい治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられる。特に治療による体力低下は日常生活活動に支障をきたし,多くの患者が運動療法を行い,早期に安全な体力の再獲得を目標とすることが想定されるため,過負荷や疲労の蓄積に注意して実施すれば,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

「がん患者リハビリテーション料」は入院中の実施であれば算定可能であり,入院中の放射線療法前・中・後に一般的な療法時間(40〜60 分)においては患者のコスト負担は少なく実施できる。退院後の外来では「がん患者リハビリテーション料」は算定ができない。

・臨床適応性

頭頸部がんに対する放射線療法中・後の患者への体力低下の防止や早期改善を目的とした運動療法に関しては,全国的にはまだ十分に普及しておらず,臨床適応性は現時点では低い。

総合評価

頭頸部がんに対する放射線療法中・後の患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスはB であり,臨床上の有用性は高く,安全性は保たれており,益と害のバランスに確実性があり(益の確実性が高い),患者の価値観・希望も確実性は十分にある(一致している)。現時点ではまだ十分に浸透していない臨床適応性の低さ(外来放射線療法通院中の実施困難や患者数に比べてリハビリテーション療法士が少ないなど)を総合的に考慮し,「運動療法を行うことを提案する(弱い推奨)」とした。

なお本CQ では運動療法の有無の検討を想定していたが,文献評価の結果として運動療法の有無だけではなく,その治療にさまざまな負荷を加え比較言及したエビデンスへの検証となった。2016 年のシステマティックレビューにも要約されているように,今後頭頸部がん治療において運動療法の価値が高まることを期待したい。臨床においては,放射線療法前に主診療科の医師や放射線治療科医のみならず,リハビリテーション科医やリハビリテーション療法士(理学療法士等)が,「放射線療法と並行して運動療法を行うことで体力低下の防止や早期の改善が期待できること」を(できれば入院前の段階から)摂食嚥下障害への対策と同等に普及させることが臨床適応性を高めるうえで重要となる。外来においては前述の算定の問題もあり運動療法を実施している病院は少ないと予想するが,非監督下での運動療法継続への指導は必要である。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・放射線療法中・後に生じる体力低下,倦怠感,疲労の改善を目的とした運動療法を知らされていない患者は多い。患者にとってはその方法の指導を受けるだけでも有益であり体力維持への好影響が生じると思われる。
  • ・エビデンスレベルB でありながら実施の体制が確立していないリハビリテーション治療であるからこそ「推奨する」という考え方もあるだろう。
■投票結果

付記

◉ 運動療法の重要性

がんの治療中・後に行う有酸素運動など運動耐容能低下にアプローチするさまざまなリハビリテーション治療は,筋力・持久力などの筋骨格系および心肺系機能を改善させ,患者の活動性やQOL の向上にも好影響を及ぼすといわれている 1)。前述したように頭頸部がんの放射線療法中・後における運動療法の効果を示すような文献は多くはないが,乳がん 2)・血液がん 3)などでは運動耐容能向上や倦怠感の改善につながる放射線療法・化学療法中の有酸素運動の効果を示したエビデンスレベルの高い文献を認めるので,その内容を十分に応用できると考える。頭頸部がんへの放射線療法は一般的に6〜8 週間の治療として行われることが多いが,この治療が全期間入院で行われている場合,1 日の治療時間自体が短いことから運動療法の時間は十分にあると思われる。本章CQ4 で示したように放射線療法中・後には摂食嚥下障害の出現率が高く,摂食嚥下療法は重要であるが,放射線療法後の速やかな退院につなげるためにも食事摂取量の安定とならんで,倦怠感の改善や運動耐容能維持目的の運動療法は重要である。臨床上の経験では,口腔粘膜炎や頸部皮膚炎などの有害事象で放射線療法期間途中に運動療法を中断した時期があったとしても,治療開始当初に行うことのできた負荷量での運動療法を放射線療法完遂後・退院前に再度実施できるようになると体力面での自信が戻り安心して退院できるようであり,運動療法は精神心理的な支援にもつながっていると思われる。

文献

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Lonbro S, Dalgas U, Primdahl H, et al. Feasibility and efficacy of progressive resistance training and dietary supplements in radiotherapy treated head and neck cancer patients-the DAHANCA 25A study. Acta Oncol. 2013;52:310-8.
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付記文献
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第 6 章 乳がん・婦人科がん

CQ 01
乳がん患者に対して,術後にリハビリテーション治療(肩関節可動域訓練など)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード1A
推奨の強さ強い推奨
エビデンスの
確実性
乳がん患者に対して,術後にリハビリテーション治療(肩関節可動域訓練など)を行うことを推奨する。

重要臨床課題の確認

乳がん術後の患者においては,患側肩関節可動域が制限されやすく,日常生活動作や日常生活関連動作の制限となる。2010 年にコクラン・レビュー 1)から乳がん治療による上肢機能障害に対する運動介入の効果に関してシステマティックレビューが報告され,ランダム化比較試験6 件で術直後の運動介入による術後短期における肩関節可動域の改善や,術後の運動介入によりリンパ浮腫の発症が増加しなかったことが示されている。乳癌診療ガイドライン2018 年版 2)では「腋窩リンパ節郭清術後の患側上肢のリハビリテーションは勧められるか?」というBQ(バックグラウンドクエスチョン)に対して,「腋窩リンパ節郭清術後の患側上肢に対してはリハビリテーションを行う」とされている。

本ガイドライン初版では,乳がん術後の患者に対して生活指導および肩関節可動域訓練や上肢筋力増強訓練などの包括的リハビリテーションを実施することは,グレードA として強く推奨した。今回の改訂では,新たな知見を加えて乳がん術後の患者に対するリハビリテーション治療の有用性を検討した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①術後の肩関節可動域の拡大(重要性9,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験5 件を採用した。

・評価

Testa ら 3)は,腋窩リンパ節郭清を伴う乳房部分切除術もしくは胸筋温存乳房切除術後の乳がん術後患者70 名(術後早期からリハビリテーション治療を行った35 名,対照群35 名)に対し,術後2 日目からドレーン抜去まで入院中に週5 回,ドレーン抜去後に4 週間外来で60 分×週5 回(計20 回)のストレッチと自動運動を行った。術後リハビリテーション治療を行わなかった対照群に比べて,介入群は術後5 日,1 カ月,6 カ月,12 カ月でいずれも肩屈曲,外転の関節可動域が有意に改善した。

Cinar ら 4)は,胸筋温存乳房切除術後の乳がん患者57 名(術後早期からリハビリテーション治療を行った27 名,対照群30 名)に対し,術後1 日目から監督下で段階的に運動を開始し,ドレーン抜去後に15 回の監督下での運動と8 週間の在宅を基盤とした運動を行った。ドレーン抜去後に運動のパンフレットを渡されたのみの対照群に比べ,介入群は術後6 カ月までの肩屈曲,外転,内転の関節可動域が経時的に有意に改善した。

Box ら 5)は腋窩リンパ節郭清を伴う乳房温存術もしくは胸筋温存乳房切除術後の乳がん術後患者65 名(術後早期からリハビリテーション治療を行った32 名,対照群33 名)に対し,入院外来での段階的な運動指導やリンパ浮腫教育,必要に応じた個別のリハビリテーション治療などを実施した。運動パンフレットを渡されたのみの対照群に比べ,介入群は肩外転の関節可動域が術前レベルまで早期に改善し,術後3 カ月,24 カ月の肩外転の関節可動域が有意に改善した。

Wingate ら 6)は,胸筋温存乳房切除術後の115 名(術後早期からリハビリテーション治療を行った61 名,対照群54 名)に対し,術後1 日目から入院中段階的に監督下での運動を行い,術後8 週間在宅を基盤とした運動を継続するよう指導した。術後にリハビリテーション治療を行わなかった対照群に比べ,介入群は術後5 日,3 カ月の肩屈曲,外転の関節可動域が有意に改善した。

Beurskens ら 7)は,腋窩リンパ節郭清を伴う乳房温存術もしくは乳房切除術を行った乳がん術後患者30 名(術後2 週から外来でのリハビリテーション治療を行った15 名,対照群15 名)に対し,3 カ月以内に9 回,外来でリハビリテーション治療を行った。運動パンフレットを渡されたのみの対照群に比べ,介入群は介入後3 カ月6 カ月の肩屈曲,外転の効果量が有意に高かった。

・統合

ランダム化比較試験5 件で介入方法の違いはあるが,いずれも術直後からのリハビリテーション治療による肩関節可動域の改善を示しており,エビデンスの強さはA とした。

②術後の上肢機能の改善(重要性6,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験4 件を採用した。

・評価

前述のCinar ら 4)は,10 項目の質問を用いて上肢機能を比較し,対照群に比べ,術後早期からリハビリテーション治療を行った介入群は機能スコアが経時的に有意に改善した。

前述のBox ら 5)は,12 項目の質問を用いて上肢機能を比較し,術後早期からリハビリテーション治療を行った介入群に比べ,対照群は術後1 カ月で機能障害がある上肢機能項目が多かったが,術後3 カ月では有意な差がなくなった。

前述のWingate ら 6)は,6 項目の質問を用いて上肢機能を比較し,術後早期からリハビリテーション治療が行われた介入群に比べ,対照群は術後5 日で3 項目,術後3 カ月で5 項目と問題がある割合が有意に多かった。

前述のBeurskens ら 7)は,介入前後の上肢障害評価表(DASH),握力を比較した。対照群に比べ,外来でリハビリテーション治療を行った介入群は介入後3 カ月,6 カ月のDASH スコアの変化量は有意に大きかったが,握力の変化に差はなかった。

・統合

ランダム化比較試験4 件で,術直後からの肩関節可動域訓練を含めたリハビリテーション治療による何らかの上肢機能の改善を示しているが,上肢機能を評価する尺度が異なるため,エビデンスの強さはB とした。

③術後のリンパ浮腫,術後合併症の発生・増加(害:重要性7,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験3 件を採用した。

・評価

前述のCinar ら 4)は,上肢周径を用いた術後のリンパ浮腫と術後合併症の発症を比較し,対照群と術後早期からリハビリテーション治療を行った介入群で,リンパ浮腫や術後合併症の発症に群間の有意差はなかった。

前述のWingate ら 6)は,上肢周径と術後合併症を比較し,対照群と術後早期からリハビリテーション治療を行った介入群で,術後3 カ月で上肢周径の群間の有意差はあるが0.2cm 以上の差は認めず,術後の合併症も群間の有意差はなかった。

前述のBeurskens ら 7)は,介入前後の上肢体積を用いてリンパ浮腫の発症を比較し,対照群と外来でリハビリテーション治療を行った介入群で,介入後3 カ月,6 カ月どちらも体積変化に群間の差はなかった。

・統合

ランダム化比較試験3 件で,術後早期の肩関節可動域訓練を含めたリハビリテーション治療が術後のリンパ浮腫や術後合併症の発症を増加させる報告はなく,エビデンスの強さはA とした。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:A(強)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,術後の肩関節可動域の拡大,上肢機能の改善が認められた。一方,害(望ましくない効果)として,術後のリハビリテーション治療によるリンパ浮腫や術後合併症の発生・増加は認められなかった。以上より,益が害を大きく上回っており,その効果の差は大きいと判断した。

患者の価値観・希望

乳がん術後の患側上肢の運動や日常生活での使用,痛みやしびれなどの症状,リンパ浮腫に対する不安を覚える患者は多い。術後のリハビリテーション治療は害が少なく益が大きいため,多くの患者が行うことを希望すると考えられ,確実性は高く,多様性は低いと考えられる。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

腋窩リンパ節郭清を伴う乳房切除術が行われる乳がん患者は,入院中には「がん患者リハビリテーション料」の診療報酬算定により保険診療で実施できる。一方,外来では「がん患者リハビリテーション料」の算定要件を満たさないため,保険診療で実施することはできない。また,センチネルリンパ節生検術後など腋窩リンパ節郭清を伴わない場合は「がん患者リハビリテーション料」の算定対象外となる。

・臨床適応性(外的妥当性)

多くの医療機関では,腋窩リンパ節郭清を伴う乳がん術後の入院中には保険診療により,リハビリテーション科医,リハビリテーション専門職(理学療法士,作業療法士等)から構成されるリハビリテーションチームの体制のもとで,監督下での肩関節可動域訓練などのリハビリテーション治療を行うことができるため,臨床適応性は高い。一方,外来では保険診療の適用外になるため,監督下での肩関節可動域訓練などのリハビリテーション治療を実施可能な医療機関は少なく現状では臨床適応性は低い。

総合評価

乳がん患者に対して,術後にリハビリテーション治療(肩関節可動域訓練など)を行うことを推奨する。

重要なアウトカムに対するエビデンスが強く,益と害のバランスが確実である(益の確実性が高い)。患者の価値観は確実性が高く,多様性は低い(一致している)。腋窩リンパ節郭清を伴う乳がん術後患者の場合,入院中は保険診療で実施されるため患者のコスト負担は少なく,多くの医療機関で実施できることから,正味の利益はコストや医療資源に十分に見合っている。一方,外来での実施やセンチネルリンパ節生検術後など腋窩リンパ節郭清を伴わない場合は保険診療の適用外となり,臨床適応性に課題がある。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・参加した委員からは,外来でのリハビリテーション治療を求める声が多くあるとの意見があった。また,早期に退院した場合,実際にリハビリテーション治療を行う必要があるのは外来になり,外来でリハビリテーション治療が実施できる体制が必要であろうとの意見があった。
■投票結果

付記

◉ 乳がんのリハビリテーション治療に関する診療ガイドライン

Harris ら 1)は,2001〜2011 年に発表された乳がんのリハビリテーション治療に関する診療ガイドラインを統合し,推奨されている内容を整理している。そのなかで,上肢のリハビリテーション治療として,治療前に両側上肢の機能評価を行うことや,術後の運動は6〜8 週間または全可動域に到達するまで継続すること,術後評価は術後 1 年まで定期的に行うことが挙げられている。

◉ 訓練プログラムの内容

De Groef ら 2)は,乳がん術後患者の肩関節可動域に関して,18 件のランダム化比較試験のシステマティックレビューで,複合的な理学療法や単一的な運動療法による治療効果を示唆しているが,各試験の質は低く,質の高い臨床試験の計画が望まれると結論づけている。現在,乳がん術後の関節可動域訓練はタオルや壁を用いた運動など各施設で設定しているが,より有効な訓練プログラムの検討が今後の課題となる。

◉ センチネルリンパ節生検術後に対するリハビリテーション治療

今回採用された文献はすべて腋窩リンパ節郭清術後であり,センチネルリンパ節生検術後の患者に対するリハビリテーション治療の効果は明らかでない。近年では,センチネルリンパ節生検の導入で腋窩リンパ節郭清が省略可能となることが増加している 3)。センチネルリンパ節生検のみでは,腋窩リンパ節郭清に比べて術後の上肢機能障害は少ないとされるが 4),肩関節可動域制限が生じている場合はリハビリテーション専門職による治療を検討する。

◉ 腋窩ウェブ症候群(axillary web syndrome ; AWS)

腋窩ウェブ症候群とは乳がん手術後に腋窩から上腕内側に皮下索状組織(cord)を生じるもので,疼痛を伴い,肩関節(特に外転方向)の可動域を制限する原因となる 5)。リンパ・静脈系の障害が原因とされ,発症頻度は腋窩リンパ節郭清術後で5.2〜36%,センチネルリンパ節生検術後で0.9〜25%と報告されている。多くは術後 8 週以内に発症し,症状は3 カ月以内に自然に軽快する例が多いが,長期化する例や3 カ月より晩期に発症することも報告されている。リスク因子として手術侵襲の大きさや若年者,低BMI,術後の合併症が挙げられている。治療として,関節可動域訓練やストレッチ,筋膜リリース手技,用手的リンパドレナージなどが報告されているが,システマティックレビューでも研究の質は低く有効な治療の検討が必要とされており,今回の文献検索でもエビデンスとなる文献は得られなかった。

◉ 乳がん術後の放射線療法中・後のリハビリテーション治療

乳がん術後の放射線療法では,治療中急性期の皮膚炎による疼痛や運動に対する不安に伴う患側上肢の不使用から筋力低下を生じたり,晩期の有害事象として照射野の皮膚・皮下組織の線維化や萎縮により肩関節の可動域制限が生じることがある。術後にリハビリテーション治療が行われた場合,放射線療法を開始した時点で肩関節可動域は大きな制限がない状態まで改善していると考えられるが,放射線療法中も自主訓練を継続するよう指導したり,放射線療法中に痛みを訴えた際には専門的なリハビリテーション治療を検討することが望ましい。

文献

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CQ 02
乳がん術後の患者に対して,積極的な肩関節可動域訓練を術後 5〜8 日目から開始することは,術直後から開始する場合に比べて推奨されるか?

グレード1B
推奨の強さ強い推奨
エビデンスの
確実性
乳がん術後の患者に対して,積極的な肩関節可動域訓練を術後5〜8 日目から開始することを推奨する。

重要臨床課題の確認

乳がん術後の患者に対し,適切なリハビリテーション治療を行うことは推奨されている。患側肩可動域訓練に関してはどのようなスケジュールで行うべきかについて議論があったが,本ガイドライン初版において「積極的な肩関節可動域訓練は術後5〜7 日目から開始すること」をグレードA で推奨した。今回の改訂では,手術方法の変化や,知見が増えたことで,この推奨に修正を加える必要があるかを検討した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①感染・漿液腫のリスクの軽減(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,システマティックレビューおよびメタアナリシス1 件,ランダム化比較試験5 件を採用した。

・評価

McNeely ら 1)は,乳がん術後の患者を対象として,肩関節可動域訓練などを含んだリハビリテーション治療を行った報告をメタアナリシスし,介入開始時期による比較をした。その結果,術後5〜7 日目から積極的な肩関節可動域訓練を行うことは,術後0〜3 日目から可動域訓練を開始することに比べて,漿液腫の発生頻度に有意差はないが,ドレナージ量は有意に少ないことを示した。

Van der Horst ら 2)は,腋窩リンパ節郭清を伴う乳がん手術を行った乳がん患者に対し,早期訓練開始群に対しては,術後すぐから積極的な関節可動域訓練を2 週間行い,遅延開始群に対しては術後7 日目から積極的な関節可動域訓練を1 週間行い,創からのドレナージ量は2 群で有意差がないことを示した。Abe ら 3)は,リンパ節郭清を伴う乳がん手術を行った乳がん患者に対し,早期訓練開始群は術翌日から,遅延開始群は術後8 日目から積極的な関節可動域訓練を行い,術後創からのドレナージ量や漿液腫の発生は,遅延開始群で有意に少なかった。Schultz ら 4)は,リンパ節郭清を伴う乳がん手術を行った乳がん患者に対し,早期訓練開始群には術翌日から,遅延開始群は術後8 日目から積極的な関節可動域訓練を行い,術後創からのドレナージ量は2 群で有意差はなかったが,遅延開始群で漿液腫の発生が有意に少なかった。Todd ら 5)は,リンパ節郭清を伴う乳がん手術を行った乳がん患者に対し,早期訓練開始群は術後1〜2 日目から,遅延開始群は術後8 日目から積極的な関節可動域訓練を行い,術後創からのドレナージ量は,遅延開始群で有意に少なかった。Petrek ら 6)は,リンパ節郭清を伴う乳がん手術を行った乳がん患者に対し,早期訓練開始群は術後2 日目から,遅延開始群は,術後5 日目から積極的な関節可動域訓練を行い,術後創からのドレナージ量は2 群で有意差がなかった。

・統合

上述のランダム化比較試験5 件は,積極的な関節可動域訓練の開始を5〜8 日目以降に遅らせた方が,ドレナージ量や漿液腫など急性期の感染リスクを高める可能性がある有害事象が少なく,安全であることを示した。これらのリスク軽減においてエビデンスの強さはB とした。

②患側肩可動域の改善(重要性6,エビデンスの強さ:D)

・検索

系統的文献検索を行い,メタアナリシス1 件,ランダム化比較試験5 件を採用した。

・評価

前述のMcNeely ら 1)のメタアナリシスでは,遅延開始群(術後5〜7 日目から積極的な肩関節可動域訓練を行う)は,術後1 週目,4〜6 週目,6 カ月後の肩関節可動域が,早期開始群(術後0〜3 日目から開始)に比べて,有意に制限が大きいが,2 年後には有意差がないことを示した。Van der Horst ら 2)は,前述の介入により,6 カ月後の肩関節可動域が「大きく制限されている」,「わずかに制限されている」,「完全に回復している」人数を比較し,2 群で有意差がないことを示した。Abe ら 3)は,2 週後の肩屈曲角度は遅延開始群で有意に制限が大きいが,1 カ月後には2 群で有意差がなかったとした。Schultz ら 4)は,1 週後に肩可動域が制限されている人数は遅延開始群で有意に多かったが,4〜6 カ月後には 2 群で有意差がなかったことを示した。Todd ら 5)は,1 年後には2 群で肩外転角度に有意差がなかったことを示した。Bendz ら 7)は,2 週後はすべての可動方向で遅延開始群の可動域制限が大きく,4 週後,6 カ月後は肩屈曲角度のみ遅延開始群の可動域制限が大きく,2 年後にも屈曲と外転は遅延開始群の可動域制限が大きいことを示した。

・統合

上述のランダム化比較試験5 件はそれぞれ評価項目や時期が異なるが,メタアナリシスすると術後1 週,4〜6 週ごろ,6 カ月までは遅延開始群の方が不利であり,1〜2 年後には差がなくなっていた。患側肩可動域については,少なくとも術後4〜6 週後までは,遅延開始群の方が早期開始群に比べて制限が大きく,エビデンスの強さはD とした。

③術後の上肢機能の改善(重要性6,エビデンスの強さ:D)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

Todd ら 5)は,前述の介入により,1 年後には2 群で筋力に有意差がないことを示した。Bendz ら 7)は,2 週,1 カ月,6 カ月・2 年後の筋力は2 群で差がないことを示した。

・統合

筋力については,2 群間で有意差がなく,エビデンスの強さはD とした。

④入院期間の延長(害:重要性6,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Petrek ら 6)は,前述の介入を行い,入院期間は2 群で有意差がないことを示した。

・統合

遅延開始群の入院期間の延長はなく,入院期間の延長という害は示されなかった。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:B(中)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,ドレナージ量の増加や漿液腫の発生の減少(感染リスクの低下)があり,これに関しては遅延介入群で有利であった。関節可動域の改善については,遅延介入群は不利であった。一方,害(望ましくない効果)として,入院期間の延長は認められなかった。よって,益が害を上回っていると判断した。

患者の価値観・希望

患者にとっては術後早期の関節可動域よりも,同時期のドレナージ量や漿液腫など感染リスクの増大の方が問題として大きいと考えられ,多くの患者が術後5〜8 日目からの開始を希望すると考えられ,確実性は高く,多様性は低い。一方,術後放射線療法が予定される患者などで術後比較的早期の肩関節可動域改善が重要となる例もあり,その場合には希望が異なる可能性がある。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

入院中の指導・リハビリテーション治療の方法の差であり,早期からでも遅延しての開始でも患者にとっての経済的負担は変わらない。

・臨床適応性(外的妥当性)

既に多くの施設で,術後5〜8 日目から積極的に関節可動域訓練を行う術後リハビリテーションプログラムが実施されており,臨床適応性は高い。

総合評価

乳がん術後の患者に対して,積極的な肩関節可動域訓練を術後5〜8 日目から開始することを推奨する。

重要なアウトカムに対するエビデンスが強く,益と害のバランスが確実である(益の確実性が高い)。患者の価値観は確実性が高く,多様性は低い(一致している)。治療の開始時期の違いであり,コストや臨床適応性については差がない。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・合併症予防という点だけでなく,術後5 日目以降の方が患者が精神的に安定しており,落ち着いて指導が受けられるという点でも有利であると考えられる。
■投票結果

文献

1)
McNeely ML, Campbell K, Ospina M, et al. Exercise interventions for upper-limb dysfunction due to breast cancer treatment. Cochrane Database Syst Rev. 2010:CD005211.
2)
van der Horst CM, Kenter JA, de Jong MT, et al. Shoulder function following early mobilization of the shoulder after mastectomy and axillary dissection. Neth J Surg. 1985;37:105-8.
3)
Abe M, Iwase T, Takeuchi T, et al. A Randomized Controlled Trial on the Prevention of Seroma after Partial or Total Mastectomy and Axillary Lymph Node Dissection. Breast Cancer. 1998;5:67-9.
4)
Schultz I, Barholm M, Grondal S. Delayed shoulder exercises in reducing seroma frequency after modified radical mastectomy: a prospective randomized study. Ann Surg Oncol. 1997;4:293-7.
5)
Todd J, Scally A, Dodwell D, et al. A randomised controlled trial of two programmes of shoulder exercise following axillary node dissection for invasive breast cancer. Physiotherapy. 2008;94:265-73.
6)
Petrek JA, Peters MM, Nori S, et al. Axillary lymphadenectomy. A prospective, randomized trial of 13 factors influencing drainage, including early or delayed arm mobilization. Arch Surg. 1990;125:378-82.
7)
Bendz I, Fagevik Olsen M. Evaluation of immediate versus delayed shoulder exercises after breast cancer surgery including lymph node dissection ─ a randomised controlled trial. Breast. 2002;11:241-8.

CQ 03
乳房再建術後の患者に対して,リハビリテーション治療(肩関節可動域訓練など)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2D
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
とても弱い
乳房再建術後の患者に対して,リハビリテーション治療(肩関節可動域訓練など)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

自家組織を使用した乳房再建術に加え,2013 年にシリコンインプラントによる乳房再建術が保険適用となり,近年乳がん術後の乳房の整容性や患者のQOL 向上のために行われることが増加している。乳房再建術後においても肩関節可動域や日常生活動作の制限が生じ,効率的で安全なリハビリテーション治療が必要となる。今回の改訂では,乳房再建術後の患者を対象としたリハビリテーション治療の有用性や有害反応について検討した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①術後の肩関節可動域の拡大(重要性8,エビデンスの強さ:D)

・検索

系統的文献検索を行い,前向き観察研究1 件を採用した。

・評価

Scaffidi ら 1)は,乳房再建術後の27 例を含む乳がん術後患者83 名に対し,時期ごとに異なるリハビリテーション治療を行った2 群で,術後15〜30 日,60 日,180 日時点での30°以上の可動域制限の有無で肩関節の可動性を比較した。術前に口頭での指導のみ行った11 名に比べ,術前の書面での指導に加え入院中に肩関節可動域訓練を含む理学療法を行った16 名は,術後180 日時点で肩関節可動域制限のある割合が有意に少なかった。

・統合

観察研究1 件で症例数も少数のため,エビデンスの強さはD とした。

②術後の上肢機能の改善(重要性6,エビデンスの強さ:D)

・検索

系統的文献検索を行い,前向き観察研究1 件を採用した。

・評価

前述のScaffidi ら 1)は,時期ごとに異なるリハビリテーション治療を行った2 群で術後60 日,180 日時点での上肢機能をConstant&Murley Score で比較した。術前に口頭での指導のみ行った群に比べ,術前の書面での指導と入院中に肩関節可動域訓練を含む理学療法を行った群は術後180 日時点で有意な改善がみられた。

・統合

観察研究1 件で症例数も少数のため,エビデンスの強さはD とした。

③創離開や治癒遷延などの有害反応の増加(害:重要性7,エビデンスの強さ:D)

・検索

系統的文献検索からは評価に該当する文献は得られず,Scaffidi ら 1)の報告では有害反応の記載はなかった。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:D(とても弱い)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,肩関節可動域の拡大,上肢機能の改善が認められたが,その益は小さかった。一方,害(望ましくない効果)としてリハビリテーション治療による創離開や治癒遷延などの有害反応の増加は認められなかった。以上より,益が害を上回っているが,その効果の差は小さいと判断した。

患者の価値観・希望

乳房再建術後の患側上肢の運動や日常生活での使用,二次的な肩関節拘縮に不安をもつ患者は多い。再建術後の安静や運動開始時期,運動内容の指導を含め,術後のリハビリテーション治療は多くの患者が行うことを希望すると考えられ,確実性は高く,多様性は低いと考えられる。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

腋窩リンパ節郭清を伴う同時再建が行われる乳がん患者は,入院中には「がん患者リハビリテーション料」の診療報酬算定により保険診療で実施できる。一方,外来では「がん患者リハビリテーション料」の算定要件を満たさないため,保険診療で実施することはできない。また,腋窩リンパ節郭清を伴わない乳房再建術の場合は入院中においても「がん患者リハビリテーション料」の算定対象外となる。

・臨床適応性(外的妥当性)

乳房再建術後の患側上肢の安静や運動開始時期,運動内容に関するエビデンスは乏しく,標準的なリハビリテーション治療が存在しない。現状では施設や術者によって術後のリハビリテーション治療の実施状況は異なることから,臨床適応性は低い。

総合評価

乳房再建術後の患者に対して,リハビリテーション治療(肩関節可動域訓練など)を行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスは非常に弱く,益と害のバランスは確実とはいえない。患者の価値観は確実性が高く,多様性は低い(一致している)。腋窩リンパ節郭清を伴う同時再建の場合は,入院中は保険診療で実施されるため患者のコスト負担は少ないが,現状では施設や術者によって術後の安静やリハビリテーション治療の実施状況が異なり,臨床適応性の課題がある。乳房再建術後の標準的なリハビリテーション治療を確立するために,さらなるエビデンスの構築が必要である。

乳房再建術後のリハビリテーション治療は入院中の介入と外来での介入に分けられるが,今回得られたエビデンスは前者のみであった。また,乳房再建術は広背筋皮弁などの自家組織を用いる再建方法と,インプラントを用いる人工物による再建方法があるが,今回再建方法の違いによるリハビリテーション治療の有用性のエビデンスは得られなかった。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・乳房再建術後にどの程度動かしてよいかわからない患者も多い。形成外科医と連携を取り合い,今後推奨されることが望ましい。
■投票結果

文献

1)
Scaffidi M, Vulpiani MC, Vetrano M, et al. Early rehabilitation reduces the onset of complications in the upper limb following breast cancer surgery. Eur J Phys Rehabil Med. 2012;48:601-11.

CQ 04
化学療法・放射線療法中の乳がん患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード1A
推奨の強さ強い推奨
エビデンスの
確実性
化学療法・放射線療法中の乳がん患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことを推奨する。

重要臨床課題の確認

がん患者は治療中安静にしがちであるが,過度の安静は廃用を招き,心肺機能や普段の生活活動レベルを低下させることが知られている。特に集学的治療を要し,治療による活動性低下を招きやすい乳がん患者においては,心肺機能,活動性を維持,改善させる重要性が指摘され,多くの介入研究がなされてきた。本ガイドライン初版においても,乳がん患者に対する運動療法は,多くのアウトカムに対してグレードA で推奨されている。その後,さらに知見は増え,「どの時期にどのような運動療法を行うか」を分けて論じることが可能となっている。そこで今回の改訂では,治療時期で分けてレビューし,本CQ では「乳がん術後化学療法・放射線療法中の患者」を対象に,治療中の運動療法の有用性について検討することとした。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①心肺機能の改善(重要性7,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を行い,メタアナリシス1 件,ランダム化比較試験14 件を採用した。

・評価

Furmaniak ら 1)は,化学療法・放射線療法中の乳がん患者を対象として,運動療法を行っているランダム化比較試験15 件をメタアナリシスし,介入群で,対照群に比し有意に心肺機能の改善があることを示した。

MacVicar ら 2)は,化学療法中の StageⅡ乳がん患者に対し,監督下で,最大酸素摂取量の60〜85%のエルゴメーターを20〜30 分,週3 回,10〜12 週間行い,最高酸素摂取量が,運動プラセボ(ストレッチなどのみ)や対照に比べて有意に改善した。Reis ら 3)は,放射線療法を開始する StageⅠ〜Ⅲ乳がん患者に対し,監督下で,有酸素運動(Nia exercise;全身運動)を20〜60 分,週3 回,12 週間行い,6 分間歩行テストは対照群と比べて有意差がなかった。Hornsby ら 4)は,術前化学療法を4 クール行う,StageⅢB〜ⅢC の乳がん患者に対し,監督下で,最高酸素摂取量の 60〜100%のエルゴメーターを週3 回,12 週間行い,最高酸素摂取量が対照群と比して有意に改善した。Van Waart ら 5)は,化学療法を行う予定の乳がん患者を3 群に分け,監督下での運動療法群では最大酸素摂取量の 50〜80%の有酸素運動30 分と 80%1RM 8 回の筋力増強訓練を週5 回,化学療法が終了するまで(中央値17 週)行い,在宅基盤の運動療法群では低強度(Borg Scale 12〜14)の身体活動プログラムを30 分,週5 日行い,監督下での運動療法群では,在宅基盤の運動療法群や対照群に比べ,Steep Ramp Test での心肺機能の低下が有意に小さかった。監督下での運動療法群でも,在宅基盤の運動療法群でも,対照群に比べ70%予測最大負荷量での運動の耐久時間の低下が有意に小さかった。その他,Campbell ら 6),Mutrie ら 7),Hayes ら 8)は,運動療法により,心肺機能が,対照群に比べ有意に改善したと報告した。一方,Segal ら 9),Kim ら 10),Courneya ら 11),Haines ら 12),Travier ら 13),Schmidt ら 14),Cornette ら 15)は,心肺機能の改善は,対照群に比べ有意差がなかったと報告した。

・統合

複数のランダム化比較試験およびメタアナリシスで心肺機能の有意な改善が示され,運動療法の心肺機能改善に対するエビデンスの強さはA とした。

② QOL の改善(重要性8,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を行い,メタアナリシス1 件,ランダム化比較試験15 件を採用した。

・評価

Furmaniak ら 1)は,運動療法を行っているランダム化比較試験11 件をメタアナリシスし,介入群で,対照群に比しQOL の改善がよい傾向であることを示した。

Segal ら 9)は,化学療法・ホルモン療法・放射線療法中のStageⅠ〜Ⅱ乳がん患者に対し,監督下で予測最高酸素摂取量の 50〜60%の有酸素運動(歩行プログラム)を週3 回,26 週間行い,対照群に比べ,SF-36 の physical functioning(身体機能)の改善を認めたが,Functional Assessment of Cancer Therapy(FACT)-General, FACT-Breast では有意差がなかった。Campbell 6)は,化学療法もしくは放射線療法中の乳がん患者に対し,監督下,グループで最大酸素摂取量の60〜75%の有酸素運動を10〜20 分と,筋力増強訓練,行動療法を週2 回,12 週間行い,対照群に比べFACT-G の有意な改善を認めた。Courneya ら 11)は,化学療法を開始する乳がん患者に対し,有酸素運動群では監督下で最大酸素摂取量60〜80%の有酸素運動15〜45 分,筋力増強訓練群では60〜70%1RM の負荷で8〜12 回の繰り返しの筋力増強訓練を,それぞれ週3 回,化学療法中(中央値17 週)行った。FACT-Anemia の改善は,有酸素運動群・筋力増強訓練群とも有意ではなかったが,自己効力感はいずれの介入群でも対照群に比べて有意に改善した。Mutrie ら 7)は,化学療法や放射線療法中の乳がん患者に対し,監督下で中等度の強度の有酸素運動と筋力増強訓練を,45 分,週2 回,12 週間行い,それに加えて週1 回在宅での運動も指導し,FACT-G は対照群に比べて有意差を認めなかったが,下位項目では有意な改善がみられた。Cadmus ら 16)は,化学療法・放射線療法を予定されているもしくは始まったばかりの乳がん患者に対し,在宅基盤での,60〜80%予測最大心拍数の有酸素運動を30 分,週5 回と,週1 回の電話確認を6 カ月実施した。6 カ月後,FACT-B や SF-36 でのQOL は対照群と有意差がなかった。Haines ら 12)は,化学療法・放射線療法を行っている乳がん患者に対し,在宅基盤の運動療法プログラム〔DVD での教育・筋力訓練(10〜15 回繰り返し)・20 分のウォーキング〕を12 カ月実施し,介入群では,3 カ月時点でのEuroQOL-5D やThe European Organization for Research and Treatment of Cancer(EORTC)QLQ-C30 のphysical function scale が,対照群に比べ有意に改善していた。Hayes ら 8)は,術後・化学療法を行っている乳がん患者に対し,対面群では対面で,電話群では電話で計16 回(8 カ月),有酸素運動と筋力増強訓練を組み合わせた週180 分の運動を指導した。両群とも,対照群に比べて,FACT-B でのQOL が有意に改善していた。前述のvan Waart ら 5)の介入では,監督下・在宅基盤のいずれの運動療法群でも,EORTC QLQ-C30 での身体機能の低下や,嘔気(吐き気)や嘔吐,痛みが,対照群に比べ有意に小さかった。また,6 カ月後のEORTC QLQ-C30 でのsocial functioning も対照群に比べ有意に良好であった。そのほか,Steindorf ら 17),Schmidt ら 14),Gokai ら 18)は,運動療法により,QOL 全般もしくは一部の項目が対照群に比べ有意に改善したと報告した。Reis ら 3),Hornsby ら 4),Travier ら 13),Cornette ら 15)は,QOL の改善は対照群に比べ有意でなかったと報告した。

・統合

ランダム化比較試験15 件のうち,FACT-B やFACT-G などの合計点で有意な改善を認めたのは2 件であり,メタアナリシスでも有意な改善は得られていない。しかし,下位尺度,特に自己効力感では有意な改善があり,エビデンスの強さはA とした。

③倦怠感の改善(重要性7,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を行い,メタアナリシス1 件,ランダム化比較試験10 件を採用した。

・評価

Furmaniak ら 1)は,運動療法を行っているランダム化比較試験18 件をメタアナリシスし,介入群で,対照群に比べ倦怠感が有意に低下することを示した。

Steindorf ら 17)は,放射線療法を行っているStageⅠ〜Ⅲの乳がん患者に対し,監督下,グループでの筋力増強訓練(マシン訓練)60〜80%1RM,8〜12 回,3 セット,週2 回,12 週間行い,Fatigue Assessment Questionnaire(FAQ)の全体的倦怠感が対照群と比較し有意に改善した。Schmidt ら 14)は,化学療法・放射線療法を行っている乳がん患者に対し,監督下,グループでの筋力増強訓練60〜80%1RM,8〜12 回,3 セット,週2 回,12 週間行い,FAQ のtotal fatigue は対照群と有意差がなかった。うつ症状がない人に限ると,全体的倦怠感や身体的倦怠感の悪化が,対照群より有意に少なかった。Travier ら 13)は,化学療法中の乳がん患者に対し,監督下で25 分の有酸素運動と 25 分の筋力増強訓練を週2 回,18 週間行い,Multidimensional Fatigue Inventory で評価される倦怠感は,対照群に比べ有意差はなかった。その他,Campbell ら 6),Courneya ら 11),Reis ら 3),van Waart ら 5),Gokai ら 18),Hayes ら 8)は,介入群で倦怠感が対照群に比べ有意に改善したと報告した。Haines ら 12),Hornsby ら 4)は,倦怠感の改善は対照群に比べ有意でなかったと報告した。

・統合

複数のランダム化比較試験およびメタアナリシスで倦怠感の有意な改善が示され,運動療法の倦怠感改善に対するエビデンスの強さはA とした。

④うつ・不安症状の改善(重要性6,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,メタアナリシス1 件,ランダム化比較試験6 件を採用した。

・評価

Furmaniak ら 1)は,運動療法を行っているランダム化比較試験5 件をメタアナリシスし,介入群で,対照群に比べうつ・不安が軽減する傾向であることを示した。

前述のMutrie ら 7)の介入では,Beck Depression Inventory で評価されたうつ症状は,対照群に比べて有意差を認めなかったが,The Positive and Negative Affect Schedule のpositive mood では有意な改善がみられた。Gokai ら 18)は,活動性が低い,化学療法・放射線療法中の StageⅠ〜Ⅲの乳がん患者に対し,在宅基盤での中強度のウォーキングを10〜30 分,週5 回,12 週間行い,Hospital Anxiety and Depression Scale でのうつや,Profile of Mood States(POMS)での不安は,対照群と有意差がなかった。

その他,Cadmus ら 16),Courneya ら 11),Steindorf ら 17),Travier ら 13)は,運動療法によるうつ・不安の改善は,対照群に比べ有意でなかったと報告した。

・統合

メタアナリシスでも,それぞれのランダム化比較試験でも,うつや不安尺度の合計点では,対照群に比して有意な改善を認めなかった。下位尺度で有意な改善がみられているものもあり,エビデンスの強さはB とした。

⑤体組成の改善(重要性5,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験5 件を採用した。

・評価

前述のSegal ら 9)の介入では,監督下での運動療法群では,対照群に比べて体重が有意に減少したが,在宅基盤の運動療法群では体重変化は有意ではなかった。Courneya ら 11)は,筋力増強訓練介入群で,除脂肪体重の増加を認めた。Mutrie ら 7),Haines ら 12),Travier ら 13)は,運動療法により,BMI や体脂肪量,体重の改善は有意ではなかったと報告した。

・統合

アウトカムが,体重・BMI 減少,徐脂肪体重の増加,体脂肪率の現象などばらつきがあり,メタアナリシスは行っていない。ランダム化比較試験で有意に改善がみられている項目もあり,エビデンスの強さはB とした。

⑥筋力の改善(重要性5,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験5 件を採用した。

・評価

前述のvan Waart ら 5)の介入では,監督下での運動療法群では,在宅基盤の運動療法群・対照群に比べ,上下肢の筋力や握力が有意に改善した。Courneya ら 11),Travier ら 13)は,介入により筋力が対照群に比べ有意に改善したと報告した。Haines ら 12),Cornette ら 15)は,介入による筋力の改善は対照群に比べ有意でなかったと報告した。

・統合

複数のランダム化比較試験で有意な改善が示され,エビデンスの強さはA とした。

⑦治療の有害反応(重要性6,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験3 件を採用した。

・評価

前述のCourneya ら 11)の介入では,化学療法の完遂率が対照群に比べ有意によかったとした。Van Waart ら 5)は,監督下での運動療法群では,在宅基盤の運動療法群や対照群に比べ,化学療法のレジメを調整する必要性がある患者が有意に少なかったことを報告したが,治療の完遂率に有意差はなかった。Hayes ら 8)は,更年期症状や疼痛に有意差はなかったとした。

・統合

化学療法のレジメ調整の必要性や治療の完遂率について,ランダム化比較試験1 件では介入により有意に改善がみられたが,メタアナリシスでは介入による改善は有意ではなかった。このためエビデンスの強さはB とした。

⑧就業率の改善(重要性6,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Van Waart ら 5)は,監督下での運動療法群および在宅基盤の運動療法群では,対照群に比べ化学療法終了時,6 カ月後の就業率が有意に高かったと報告した。

・統合

介入により「離職率の低下」がみられたが,報告がランダム化比較試験1 件でアウトカム指標も間接的な指標であることから,エビデンスの強さはB とした。

⑨リンパ浮腫の出現・悪化(害:重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験3 件を採用した。

・評価

Courneya ら 11),Haines ら 12),Hayes ら 8)は,運動療法群でも対照群に比べて上腕周径は有意差がなかったと報告した。

・統合

上肢周径を比較している上述のランダム化比較試験3 件で,介入により対照群に比べて周径が有意に増大することはなかった。その他のランダム化比較試験でも害として浮腫の出現・悪化を報告しているものはないため,エビデンスの強さはB とした。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:A(強)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,心肺機能,QOL,倦怠感,うつや不安,体組成,筋力,治療の副反応,就業率の改善がみられた。一方,害(望ましくない効果)として,有害事象の増加は認められなかった。以上より,益が害を大きく上回っており,その効果の差は大きいと判断した。

患者の価値観・希望

リハビリテーション治療(運動療法)は害が少なく益が大きい治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられ,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

化学療法・放射線療法中は,運動療法は監督下で行われることが多いが,入院中には「がん患者リハビリテーション料」の診療報酬算定により保険診療で実施できる。一方,外来では「がん患者リハビリテーション料」の算定要件を満たさないため,保険診療で実施することはできない。

・臨床適応性(外的妥当性)

多くのがん専門医療機関では,入院中には保険診療により,リハビリテーション科医,リハビリテーション専門職(理学療法士等)から構成されるリハビリテーションチームの体制のもとで,監督下での運動療法(supervised exercise)を行うことができるため,臨床適応性は高い。

一方,外来では保険診療の適用外になるため,監督下での運動療法および専門スタッフの監督なしで行う,在宅を基盤とした運動療法(home-based exercise)ともに,実施可能な医療機関は少なく現状では臨床適応性は低い。

総合評価

化学療法中・放射線療法中の乳がん患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことを推奨する。

重要なアウトカムに対するエビデンスは高く,益と害のバランスは確実である(益の確実性が高い)。患者の価値観も確実性が高く,多様性は低い(一致している)。よって,乳がん患者に対し,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことを推奨する(強い推奨)とした。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・エビデンスは高いが,保険算定上の問題で外来では十分に行われていないのが現状である。
■投票結果

文献

1)
Furmaniak AC, Menig M, Markes MH. Exercise for women receiving adjuvant therapy for breast cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2016:CD005001.
2)
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Travier N, Velthuis MJ, Steins Bisschop CN, et al. Effects of an 18-week exercise programme started early during breast cancer treatment: a randomised controlled trial. BMC Med. 2015;13:121.
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CQ 05
治療終了後の乳がん患者(サバイバー)に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2A
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
治療終了後の乳がん患者(サバイバー)に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

本章CQ4 で,化学療法・放射線療法中の乳がん患者に対するリハビリテーション治療について検討した。乳がんにおいては,身体活動性の維持や体組成の適性化(肥満防止)は,再発予防やサバイバー期のQOL の維持向上のためにも重要である。本CQ では,乳がん術後,化学療法,放射線療法を終了したサバイバー期の患者を対象に,運動療法の有用性について検討した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①心肺機能の改善(重要性:7,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験6 件を採用した。

・評価

Pinto ら 1)は,治療後(診断後3 年以内),身体活動性が低い乳がんサバイバーに対し,監督下で,最高酸素摂取量の60〜70%を目標に漸増させての有酸素運動を週3 回と,在宅でも週1 回運動を行うよう郵送物や電話でのカウンセリングを行い,さらに最後の1 カ月は筋力増強訓練も追加した12 週間の介入を行い,1 マイル歩行時間は,対照群に比べて有意に改善した。Basen ら 2)は,治療後の乳がんサバイバーに対し,6 カ月のlifestyle physical activity program(運動指導)を行い,6 分間歩行テストが,対照群に比べ有意に改善した。Daley ら 3)は,治療後1〜3 年の乳がんサバイバーに対し,監督下での最大心拍数の65〜85%(Borg Scale 12〜13)の有酸素運動50 分を週3 回,8 週間行い,8 分間歩行距離が,対照群に比べ有意に改善した。このほか,Courneya ら 4),Herrero ら 5)も,運動療法により心肺機能が対照群に比べ有意に改善したと報告した。Saarto ら 6)は,乳がんサバイバーに対し,監督下,グループでの運動療法(骨量増加のためのステップ訓練含む)とその後在宅基盤での運動療法を1 年間行い,2km 歩行時間は,対照群に比して有意差がなかった。

・統合

上述のランダム化比較試験6 件をメタアナリシスすると,介入群で有意に心肺機能の改善がみられ,エビデンスの強さはA とした。

② QOL の改善(重要性7,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験14 件を採用した。

・評価

Milne ら 7)は,治療後(治療終了から2 年以内)の乳がんサバイバーに対し,監督下で最大心拍数の75%(Borg Scale 15)の有酸素運動20 分と筋力増強訓練を週3 回,12 週間行い,対照群に比べてFACT-G,FACT-B が有意に改善した。Murtezani ら 8)は,乳がんサバイバーに対し,監督下で中強度の有酸素運動25〜40 分,10 週間 行 い,FACT-G,FACT-B,functional well-being,emotional well-being が対照群に比べて有意に改善した。Galiano ら 9)は,化学療法を終了した乳がんサバイバーに対し,web ベースでの運動療法を8 週間 行 い,EORTC QLQ-C30 のglobal health status やphysical functioning, congnitive function, pain で,対照群に比べ有意に改善した。Pinto ら 10)は,前述 1)と同様の12 週間の介入を行い,body esteem scale におけるボディーイメージやphysical condition が,対照群に比して有意に改善した。Ohira ら 11)は,治療後4 カ月以上経過した乳がんサバイバーに対し,監督下,グループで,9 種類のマシンや重錘を用いての筋力増強訓練を週2 回,13 週間と,その後在宅で6 カ月まで継続し,対照群に比しCancer Rehabilitation Evaluation System の総スコアでは有意差がなかったが,physical global score, psychosocial global score が有意に改善した。Cadmus ら 12)は,治療後の乳がんサバイバーに対し,監督下で,中〜高強度の有酸素運動30 分,週5 回,6 カ月行い,対照群に比しFACT-G, FACT-B の総スコアは有意差がなかったが,下位項目である社会生活機能について有意な改善がみられた。Speck ら 13)は,治療後4 カ月以上経過した乳がんサバイバー(リンパ浮腫がある者を含む)に対し,監督下,グループで,9 種類のマシンや重錘を用いての筋力増強訓練を週2 回,13 週間と,その後在宅で6 カ月まで継続する介入を行い,対照群に比べ全般的なQOL は有意差がなかったが,ボディーイメージが有意に改善した。その他,Pinto ら 1),Courneya ら 4),Herrero ら 5),Basen ら 2),Daley ら 3)は,運動療法により全般的QOL もしくは一部のQOL の項目が対照群に比べ有意に改善したと報告した。

Fillion ら 14)は,治療後 2 年以上経過し転移がない乳がんサバイバーに対し,監督下,グループでのウォーキング1 時間(在宅でもウォーキングを促す)と,ストレス・疲労マネージメントのための心理・教育介入を1 カ月行い,SF-12 でのQOL は,対照群に比してよい傾向であったが有意な差はなかった。Ligibel ら 15)は,転移のある乳がん患者に対し中等度の運動療法を16 週間行い,EORTC QLQ-C30 は対照群に比べ有意差がなかった。その他,Saarto ら 6)も,運動療法によりQOL の有意な改善はみられなかったと報告した。

・統合

ランダム化比較試験14 件のうち,FACT-B やFACT-G などの合計点で有意な改善を認めたのは6 件であり,メタアナリシスでも効果量はわずかである。ただし,下位尺度,特にボディーイメージでは有意な改善がみられ,エビデンスの強さはA とした。

③倦怠感の改善(重要性6,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験3 件を採用した。

・評価

Heim ら 16)は,治療後で Visual Analogue Scale(VAS)4 以上の慢性的な倦怠感がある乳がん患者に対し,入院で構造化された身体トレーニングプログラムと筋力増強訓練,有酸素運動を行い,3 カ月後のFACT-Fatigue は,対照群(対照群も入院して一般的なリハビリテーションを行う)に比し有意に改善した。Pinto ら 1),Daley ら 3),Galiano ら 9)も,運動療法により倦怠感が対照群に比べ有意に改善したと報告した。

・統合

ランダム化比較試験3 件で,介入により倦怠感の有意な改善があり,エビデンスの強さはA とした。

④うつ・不安症状の改善(重要性6,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験3 件を採用した。

・評価

前述のDaley ら 3)の介入では,Beck Depression Inventory(BDI)でのdepression score が対照群に比べ有意に改善した。Pinto ら 10),Pinto ら 1)は,POMS total mood は有意差がなかったと報告した。

・統合

ランダム化比較試験1 件でうつ・不安の改善がみられているが,メタアナリシスで全般的な気分障害については有意差がなく,エビデンスの強さはB とした。

⑤体組成の改善(重要性5,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験5 件を採用した。

・評価

Schmitz ら 17)は,治療後4 カ月以上経過した乳がんサバイバーに対し,監督下,グループで,9 種類のマシンや重錘を用いての筋力増強訓練を週2 回,13 週間と,その後在宅で6 カ月まで継続する介入を行い,体脂肪とIGFⅡが対照群に比べ有意に低下していた。Irwin ら 18)は,治療後,閉経後乳がんサバイバーに対し,監督下で,地域のヘルスセンターか在宅で,最大心拍数の60〜80%の有酸素運動を30 分,週5 回(3 回がヘルスセンター,2 回が在宅),6 カ月行い,体脂肪減少,徐脂肪体重・骨量増加が対照群に比べて有意に認められた。Saarto ら 19)は,前述 6)と同様の介入を1 年間行い,骨量が対照群に比して有意に増加していた。Pinto ら 10),Mattews ら 20)は,運動療法により対照群に比べて体脂肪やBMI に有意差がなかったと報告した。

・統合

アウトカムにばらつきはあるが,徐脂肪体重,体脂肪率については複数のランダム化比較試験で介入群で有利であったことが示されており,エビデンスの強さはA とした。

⑥筋力の改善(重要性5,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験5 件を採用した。

・評価

Ahmed ら 21)は,治療後4 カ月以上経過した乳がんサバイバー(リンパ浮腫がある者を含む)に対し,監督下,グループで,9 種類のマシンや重錘を用いての筋力訓練を週2 回,13 週間と,その後在宅で6 カ月まで継続する介入を行い,対照群に比べleg press やbench press での筋力の改善を認めた。Twiss ら 22)は,治療後6 カ月以上経過,閉経後,骨量低下がある乳がんサバイバーに対し,在宅で重錘を用いた筋力増強訓練とバランス訓練を30〜45 分,週2 回,32 週間と,32 週以降はフィットネスセンターでマシンを用いての筋力増強訓練を24 カ月まで継続し,股関節周囲や膝周囲筋の筋力が対照群に比べて有意に改善した。Winters ら 23)は,閉経後の初期乳がんサバイバーに対し,「骨粗鬆症予防のためのハイインパクトな運動を含む筋力増強訓練プログラム」を1 年間行い,leg press や bench press での筋力が有意に改善した。Speck ら 13),Galiano ら 9)も,介入により対照群に比べ握力や下肢筋力が有意に改善したと報告した。

・統合

ランダム化比較試験5 件で有意な改善がみられており,エビデンスの強さはA とした。

⑦リンパ浮腫の出現・悪化(害:重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Ahmed ら 21)は,運動療法により対照群と比して上肢周径の悪化を認めなかったと報告した。

・統合

上肢周径を比較しているランダム化比較試験で,対照群に比べて介入群で周径が有意に増大することはなく,その他のランダム化比較試験でも害として報告されているものもないため,エビデンスの強さはB とした。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:A(強)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,心肺機能,QOL,倦怠感,うつや不安,体組成,筋力の改善がみられた。一方,害(望ましくない効果)として,有害事象の増加は認められなかった。以上より,益が害を大きく上回っており,その効果の差は大きいと判断した。

患者の価値観・希望

リハビリテーション治療(運動療法)は害が少なく益が大きい治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられ,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

サバイバー期でも監督下での実施の方がより高い効果が報告されているが,サバイバー期は一般的には,「がん患者リハビリテーション料」の算定要件を満たさないため,保険診療で実施することはできない。

・臨床適応性(外的妥当性)

サバイバー期のリハビリテーション治療は,保険診療の適用外になるため,監督下での運動療法(supervised exercise)および専門スタッフの監督なしで行う運動療法(home-based exercise)ともに,実施可能な医療機関は少なく現状では臨床適応性は低い。

総合評価

治療終了後の乳がん患者(サバイバー)に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスは強く,益と害のバランスは確実である(益の確実性が高い)。患者の価値観も確実性が高く,多様性は低い(一致している)。ただし,現状では医療機関やその他の施設で長期間運動療法を行うことは保険診療上困難であり,提案(弱い推奨)にとどめた。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・サバイバー期にグループなどで運動療法を行うことは,メンタル面のケアにもなり有用と考えられるが,人数が多いのでどのような患者を特に優先していくかなどのスクリーニング体制は必要と考えられる。
■投票結果

文献

1)
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CQ 06
乳がんによる慢性疼痛がある患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2B
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
乳がんによる慢性疼痛がある患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

乳がん患者において,疼痛は 9〜72%と多くにみられ,5 年以上経過した慢性期にも12〜29%にみられるとされる。3 分の1 の患者では,慢性期に疼痛が悪化することも報告されており 1),慢性疼痛は重要な臨床課題である。そこで今回の改訂では,慢性期の乳がんサバイバーを対象に,手術や化学療法の影響による慢性疼痛(骨転移による骨痛が中心であるものは除く)に対するリハビリテーション治療(運動療法)の有用性について検討した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①疼痛の改善(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

Cantarero-Villanueva ら 2)は,治療終了後3 カ月以上経過した乳がんサバイバーに対し,週3 回のwater program(35 分の軽負荷のプール運動など)を8 週間行い,Visual Analogue Scale(VAS)で評価された頸部や肩の疼痛の軽減,疼痛閾値の上昇,トリガーポイントの減少が,対照群に比べて有意に認められた。Fernández ら 3)は,治療終了後3 カ月以上経過した乳がんサバイバー対し,週3 回,筋力増強訓練やマッサージなどを含んだリハビリテーション治療を行い,VAS で評価された頸部や肩の疼痛の軽減,疼痛閾値の上昇,トリガーポイントの減少が,対照群に比べて有意に認められた。

・統合

上述のランダム化比較試験2 件の介入内容は異なるが,いずれもVAS で示される疼痛の軽減や,疼痛閾値の改善を認めた。ただしランダム化比較試験2 件は同じ研究グループからの報告であり,エビデンスの強さはB とした。

②疼痛の悪化(害:重要性8,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

ランダム化比較試験2 件で,介入群において疼痛の軽減を認め悪化は報告されていない。

・統合

疼痛の軽減を認め,他の有害事象も報告されていない。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:B(中)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,疼痛の改善がみられた。一方,害(望ましくない効果)として,有害事象の増加は認められなかった。以上より,益が害を大きく上回っており,その効果の差は大きいと判断した。

患者の価値観・希望

リハビリテーション治療(運動療法)は害が少なく益が大きい治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられ,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

サバイバー期の介入であり外来での実施が想定されるが,「がん患者リハビリテーション料」の算定要件を満たさないため保険診療で実施することはできない。

・臨床適応性(外的妥当性)

外来では保険診療の適用外になるため,リハビリテーション専門職が行う運動療法を実施可能な医療機関は少なく,現状では臨床適応性は低い。

総合評価

乳がんによる慢性疼痛がある患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスは高く,益と害のバランスは確実である(益の確実性が高い)。患者の価値観も確実性が高く,多様性は低い(一致している)。一方,サバイバー期のリハビリテーション治療(運動療法)はコスト,臨床適応性の点で施行が困難であり,提案(弱い推奨)にとどめた。また,慢性痛にはさまざまな発症機序があると考えられており,治療後からの期間によっても疼痛発症機序や性質は異なるとされている。このため,対象を適切に選定しての介入が望まれる。

■投票結果

付記

◉ 経皮的電気神経刺激(TENS)

乳がん治療に伴う慢性痛に対する物理療法の一つである経皮的電気神経刺激(transcutaneous electrical nerve stimulation;TENS)については,対照群と有意な差がないとメタアナリシスで示されている 1)。タキサン系の化学療法を行う予定の患者に,予防的に電気鍼治療を行う試みも報告されているが,12 週時点で対照群と疼痛に差がなく,16 週時点ではかえって疼痛が強かった 2)

文献

1)
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付記文献
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CQ 07
がんやがん治療に関連した認知機能障害がある乳がん患者に対して,リハビリテーション治療(認知機能訓練)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2B
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
がんやがん治療に関連した認知機能障害がある乳がん患者に対して,リハビリテーション治療(認知機能訓練)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

がんやがんの治療に関係して認知機能障害を認めるがん患者は75%にのぼるという報告もあり 1),重要な臨床課題である。そこで今回の改訂では,認知機能障害がある乳がんサバイバーを対象とした認知機能訓練の有用性について検討した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①認知機能の改善(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験6 件を採用した。

・評価

Ferguson ら 2)は,化学療法後に認知機能障害の自覚がある乳がんがんサバイバーに対し,Memory and Attention Adaptation Training(MAAT)(認知行動療法)を,1 回30〜50 分の通所を2 週間に1 回,電話でのセッションを2 週間に1 回,18 週間行い,言語性記憶は対照群と比して有意な改善を認めたが,自覚的な認知機能については有意な改善は認めなかった。Ferguson ら 3)は,化学療法後に認知機能障害の自覚がある乳がん患者に対し,MAAT を video conference で行い,自覚的な認知機能と処理速度は対照群に比して有意な改善を認めた。Kesler ら 4)は,乳がんサバイバーに対しオンラインでの遂行機能・認知機能訓練を行い,wisconsin card sorting test(WCST)で評価された遂行機能,言語の流暢性,処理速度は対照群に比して有意な改善を認めた。Ercoli ら 5)は,乳がんサバイバーに対して心理教育や認知訓練を含んだ少人数のグループ訓練を週1 回,5 週間行い,Symbol Digit テスト,Stroop テスト,自覚的な認知機能(total and memory-specific cognitive complaint)は,対照群に比して有意な改善を認めた。Ercoli ら 6)は,乳がんサバイバーに対して心理教育や認知訓練を含んだ少人数のグループ訓練を行い,Rey Auditory Verbal Learning Test(RAVLT),自覚的な認知機能(patient’s assessment of own functioning inventory)の改善を認めた。Von Ah ら 7)は,認知機能障害の自覚がある乳がんサバイバーに対し,記憶訓練(Advanced Cognitive Training for Independent and Vital Eldery に基づく),もしくは処理速度訓練(コンピュータープログラム Insight による)を,1 回 1 時間,10 回行った。記憶訓練群では2 カ月後のRAVLT などで評価される記憶機能が,処理速度訓練群では介入直後と2 カ月後のUseful Field of View(UFOV)などで評価される処理速度および記憶機能検査が,対照群に比べ有意に改善していた。

・統合

いずれのランダム化比較試験でも,なんらかの客観的な心理検査指標の改善を認めているが,直接的な指標といえる自覚的認知機能の改善については結果にばらつきがあるため,エビデンスの強さはB とした。

②有害事象の出現(害:重要性6,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

前述のFerguson ら 2)の介入では,QOL-Cancer Survivors も評価され,psychological well-being やphysical well-being は対照群と有意差はなかった。Von Ah ら 7)の介入でも,倦怠感,うつ傾向,不安が評価され,対照群と比べて悪化は認めなかった。

・統合

ランダム化比較試験2 件において,介入群で倦怠感の悪化がみられないことが確認された。他のランダム化比較試験でも害の報告は認めていない。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:B(中)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,認知機能の改善が得られた。一方,害(望ましくない効果)として,有害事象の増加は認められなかった。以上より,益が害を大きく上回っており,その効果の差は大きいと判断した。

患者の価値観・希望

リハビリテーション治療(認知機能訓練)は害が少なく益が大きい治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられ,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

外来での実施が中心と考えられるが,外来では「がん患者リハビリテーション料」の算定要件を満たさないため保険診療で実施することはできない。グループ訓練やPC プログラム,ビデオカンファランスなどさまざまな方法が報告されており,それらを用いた患者負担が少ない方法を実施できる可能性はある。

・臨床適応性(外的妥当性)

外来もしくは在宅を基盤とした患者に対して認知機能訓練を提供できる医療機関,その他の施設は少なく,臨床適応性は低いと考えられる。

総合評価

がんやがん治療に関連した認知機能障害がある乳がん患者に対して,リハビリテーション治療(認知機能訓練)を行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスは高く,益と害のバランスは確実である(益の確実性が高い)。患者の価値観も確実性が高く,多様性は低い(一致している)。一方,コスト,臨床適応性の点で施行が困難であり,提案(弱い推奨)にとどめた。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・認知機能訓練プログラムや評価法に関して,標準化・構造化していくことが今後必要である。
■投票結果

文献

1)
Treanor CJ, McMenamin UC, O’Neill RF, et al. Non-pharmacological interventions for cognitive impairment due to systemic cancer treatment. Cochrane Database Syst Rev. 2016:CD011325.
2)
Ferguson RJ, McDonald BC, Rocque MA, et al. Development of CBT for chemotherapy-related cognitive change: results of a waitlist control trial. Psychooncology. 2012;21:176-86.
3)
Ferguson RJ, Sigmon ST, Pritchard AJ, et al. A randomized trial of videoconference-delivered cognitive behavioral therapy for survivors of breast cancer with self-reported cognitive dysfunction. Cancer. 2016; 122:1782-91.
4)
Kesler S, Hadi Hosseini SM, Heckler C, et al. Cognitive training for improving executive function in chemotherapy-treated breast cancer survivors. Clin Breast Cancer. 2013;13:299-306.
5)
Ercoli LM, Castellon SA, Hunter AM, et al. Assessment of the feasibility of a rehabilitation intervention program for breast cancer survivors with cognitive complaints. Brain Imaging Behav. 2013;7:543-53.
6)
Ercoli LM, Petersen L, Hunter AM, et al. Cognitive rehabilitation group intervention for breast cancer survivors: results of a randomized clinical trial. Psychooncology. 2015;24:1360-7.
7)
Von Ah D, Carpenter JS, Saykin A, et al. Advanced cognitive training for breast cancer survivors: a randomized controlled trial. Breast Cancer Res Treat. 2012;135:799-809.

CQ 08
乳がん術後でリンパ浮腫の危険性がある患者に対して,リハビリテーション治療を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2B
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
乳がん術後でリンパ浮腫の危険性がある患者に対して,リハビリテーション治療を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

腋窩リンパ節郭清を伴う乳がん手術を受けた患者の16%程度に 1),センチネルリンパ節切除のみでも5〜7%に 2)患側上肢のリンパ浮腫が生じるとされ,リンパ浮腫予防への関心は高い。本ガイドライン初版においても,リンパ浮腫の危険性がある乳がん患者に対するリンパ浮腫発症予防のための包括的リハビリテーションの実施はグレードA で推奨されたが,このときには採用された論文数も少なく,検討されたアウトカムも限られていた。そこで今回の改訂では新しい知見を加え,乳がん術後患者を対象とした術後リハビリテーション治療が,リンパ浮腫予防という点で有用かどうかについて検討した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①リンパ浮腫の発症率低下(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験4 件を採用した。

・評価

Box ら 3)は,腋窩リンパ節郭清後の乳がん患者に対し,術後早期から肩関節可動域訓練や軽負荷の上肢運動などを含んだリハビリテーション治療を行い,2 年後の浮腫の発症は,対照群に比べ有意に少なかった。Boccardo ら 4)は,乳がん術後患者に対して,術式の工夫やリハビリテーション治療を含んだ「浮腫予防プログラム」を行い,浮腫の発症は対照群に比べ有意に少なかった。Torres ら 5)は,腋窩リンパ節郭清後の乳がん患者に対し用手的リンパドレナージ(manual lymph drainage;MLD)を含む早期リハビリテーション治療を行い,対照群に比べて浮腫の発症が有意に少なかった。Castro-Sånches ら 6)は,乳がん術後患者に対して,弾性着衣とMLD を週5 回,6 カ月行い,浮腫の発症は対照群(患者教育のみ)に比べ有意差がなかった。

・統合

上述のランダム化比較試験4 件のメタアナリシスでは,介入群で有意に浮腫の発症が少ない。ただし,介入もそれぞれ異なり,浮腫の発症を確認するフォロー期間も異なっており,エビデンスの強さはB とした。

②リンパ浮腫の出現・悪化(害:重要性8,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

Sagen ら 7)は,腋窩リンパ節郭清後の乳がん患者に対し中等度の筋力増強訓練を含むリハビリテーションプログラムを行い,浮腫の発症は対照群と比べて有意差がなかった。Schmitz ら 8)は,乳がんサバイバーに対し,監督下でのウェイトリフティングなどの運動療法13 週間と,その後9 カ月の在宅基盤での運動を指導し,対照群に比べて浮腫の発症に差がなかった。

・統合

リンパ浮腫の予防を目的としたアウトカム①のランダム化比較試験4 件以外にも,セカンドアウトカムをリンパ浮腫の出現としたランダム化比較試験2 件で,介入によってリンパ浮腫の出現や悪化が増えることはないとされ,害はないと考えられた。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:B(中)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,リンパ浮腫の発症率の低下がみられた。一方,害(望ましくない効果)として,有害事象の増加は認められなかった。以上より,益が害を大きく上回っており,その効果の差は大きいと判断した。

患者の価値観・希望

術後に浮腫予防教育や関節可動域訓練,上肢運動を行うようなリハビリテーション治療は,害が少なく益が大きい治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられ,確実性は高く,多様性は低い。ただし,リハビリテーション治療の内容が文献によって異なり,MLD や弾性着衣の予防的着用のような介入では患者の価値観に合致しない可能性もある。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

術後比較的早期に予防介入を行うことは,「リンパ浮腫管理指導料」や「がん患者リハビリテーション料」によって算定可能である。一方,長期間の実施については,外来では「がん患者リハビリテーション料」の算定要件を満たさないため,保険診療で実施することはできない。

・臨床適応性(外的妥当性)

多くのがん専門医療機関では,入院中には保険診療により,リハビリテーション科医,リハビリテーション専門職(理学療法士・作業療法士)から構成されるリハビリテーションチームの体制のもとで,リンパ浮腫管理や早期のリハビリテーション治療が可能である。一方,外来ではリンパ浮腫の予防のための定期的なリハビリテーション治療を実施可能な医療機関は少ないため,現状では臨床適応性は低い。

総合評価

乳がん術後でリンパ浮腫の危険性がある患者に対して,リハビリテーション治療を行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスは高く,益と害のバランスは確実である(益の確実性が高い)。患者の価値観も確実性が高く,多様性は低い(一致している)。一方,早期以外の介入についてはコスト・臨床適応性の点で施行が困難であることも多く,提案(弱い推奨)にとどめた。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・報告されている介入は,それぞれ内容が異なっており,どの要素が予防に寄与しているのかがまだ明確でなく,今後の検討を要する。
■投票結果

付記

◉ 術後のリンパ浮腫予防のためのリハビリテーション治療

術後,リンパ浮腫予防を目指したリハビリテーション治療の内容は,報告によりさまざまである。特に予防的なMLD の有無は,患者への負担(頻回の通院や費用),コスト,実施できる施設の制限などに関わるため関心が高く,すでにMLD を含む治療と含まない治療の比較研究も報告されている。MLD の有無(対照群はMLD のない理学療法)によりアウトカムを比較すると,1 件のランダム化比較試験ではMLD があることにより有意に発症率が低下し 1),もう1 件のランダム化比較試験では有意ではない 2)。付記文献 1)に関しては,観察期間が6 カ月と短く,不精確性が高い。

文献

1)
Li L, Yuan L, Chen X, et al. Current Treatments for Breast Cancer-Related Lymphoedema: A Systematic Review. Asian Pac J Cancer Prev. 2016;17:4875-83.
2)
Wilke LG, McCall LM, Posther KE, et al. Surgical complications associated with sentinel lymph node biopsy: results from a prospective international cooperative group trial. Ann Surg Oncol. 2006;13:491-500.
3)
Box RC, Reul-Hirche HM, Bullock-Saxton JE, et al. Physiotherapy after breast cancer surgery: results of a randomised controlled study to minimise lymphoedema. Breast Cancer Res Treat. 2002;75:51-64.
4)
Boccardo FM, Ansaldi F, Bellini C, et al. Prospective evaluation of a prevention protocol for lymphedema following surgery for breast cancer. Lymphology. 2009;42:1-9.
5)
Torres Lacomba M, Yuste Sánchez MJ, Zapico Goñi A, et al. Effectiveness of early physiotherapy to prevent lymphoedema after surgery for breast cancer: randomised, single blinded, clinical trial. BMJ. 2010;340:b5396.
6)
Castro-Sånchez AM, Moreno-Lorenzo C, Matarán-Peñarrocha GA, et al.[Preventing lymphoedema after breast cancer surgery by elastic restraint orthotic and manual lymphatic drainage: a randomized clinical trial]. Med Clin(Barc). 2011;137:204-7.
7)
Sagen A, Kåresen R, Risberg MA. Physical activity for the affected limb and arm lymphedema after breast cancer surgery. A prospective, randomized controlled trial with two years follow-up. Acta Oncol. 2009;48:1102-10.
8)
Schmitz KH, Ahmed RL, Troxel AB, et al. Weight lifting for women at risk for breast cancer-related lymphedema: a randomized trial. JAMA. 2010;304:2699-705.
付記文献
1)
Zimmermann A, Wozniewski M, Szklarska A, et al. Efficacy of manual lymphatic drainage in preventing secondary lymphedema after breast cancer surgery. Lymphology. 2012;45:103-12.
2)
Devoogdt N, Christiaens MR, Geraerts I, et al. Effect of manual lymph drainage in addition to guidelines and exercise therapy on arm lymphoedema related to breast cancer: randomised controlled trial. BMJ. 2011;343:d5326.

CQ 09
肥満がある治療終了後の子宮体がん患者(サバイバー)に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2B
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
肥満がある治療終了後の子宮体がん患者(サバイバー)に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

子宮体がん(内膜がん)は40 歳代から増加し,50〜60 歳代の閉経前後に多いがんであり,近年食生活の欧米化などに伴い増えているとされる。5 年生存率は 80%を超えているものの,子宮体がん患者・サバイバーには肥満が多く身体活動が低下しやすいことが指摘され 1),治療中・治療後の身体活動や体組成の改善,QOL の維持に対する関心が高い。本ガイドライン初版においても,婦人科がん患者に対する運動療法の実施はグレードB で推奨されたが,採用された論文数も少なく,検討されたアウトカムも限られていた。そこで今回の改訂では,子宮がん患者のなかでもより身体活動が低下しやすい肥満がある患者を対象とし,サバイバー期の運動療法の有用性について検討した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①体組成の改善(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験4 件を採用した。

・評価

Von Gruenigen ら 2)は,肥満がある子宮体がんサバイバーに対し,有酸素運動45 分,週5 回と食事指導を含んだライフスタイル介入を6 カ月行い,体重が対照群に比べて有意に減少した。Von Gruenigen ら 3)は,肥満がある子宮体がんサバイバーに対し,上記と同様の介入を6 カ月行い,6 カ月後だけでなく12 カ月後も介入群で有意に体重減少を認めた。McCarroll ら 4)は,肥満がある子宮体がんサバイバーに対し上記と同様の介入を6 カ月行い,6 カ月後のBMI は対照群に比べ有意に低下していた。Rossi ら 1)は,肥満がある(平均 BMI 37)子宮体がんサバイバーに対し,在宅を基盤としたウォーキングなどの運動療法と,生活指導,カウンセリングを12 週間行い,体重減少については有意差がないものの,腹囲では対照群に比して有意に改善がみられた。

・統合

上述のランダム化比較試験4 件のうち,3 件は1 グループによる対象が重複するランダム化比較試験であり,統合に際してはMcCarroll ら 4)の結果のみ採用した。いずれのランダム化比較試験でも,何らかの体組成の指標での改善がみられているが,メインアウトカムの体重減少で有意差がない報告もあり,エビデンスの強さはB とした。

② QOL の改善(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

Von Gruenigen ら 5)は,肥満がある子宮体がんサバイバーに対しvon Gruenigen ら 2)と同様の介入を行い,対照群に比して有意にFACT-G の改善を認めた。前述のRossi ら 1)の介入では,FACT-G は対照群に比して有意差がなかったが,FACT-Endometrial では有意に改善していた。

・統合

ランダム化比較試験1 件で有意な改善があり,別のランダム化比較試験でも下位尺度では改善があるため,エビデンスの強さはB とした。

③心肺機能の改善(重要性6,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

前述のRossi ら 1)の介入では,6 分間歩行テストの変化量が対照群と比して有意に改善していた。

・統合

ランダム化比較試験1 件であり,対象者数も少なく,介入後の6 分間歩行テストの2 群比較では対照群と有意差がないことから,エビデンスの強さはC とした。

④リンパ浮腫の出現・悪化(害:重要性7,エビデンスの強さ:D)

・評価

上述のランダム化比較試験の介入群において,リンパ浮腫の出現や悪化が多いとする報告はない。

・統合

害の増加はないと考えられた。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:B(中)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,体組成,QOL,心肺機能の改善がみられた。一方,害(望ましくない効果)として,有害事象の増加は認められなかった。以上より,益が害を大きく上回っており,その効果の差は大きいと判断した。

患者の価値観・希望

リハビリテーション治療(運動療法)は害が少なく益が大きい治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられ,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

婦人科がんは「がん患者リハビリテーション料」の算定要件を満たさないため,保険診療で実施することはできない。

・臨床適応性(外的妥当性)

婦人科がんは,「がん患者リハビリテーション料」の算定要件を満たさないため,リハビリテーション専門職が関わって実施することは困難で,現状では臨床適応性は低い。

総合評価

肥満がある治療終了後の子宮体がん患者(サバイバー)に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスは高く,益と害のバランスは確実である(益の確実性が高い)。患者の価値観も確実性が高く,多様性は低い(一致している)。ただしこれらの結果は,肥満のある子宮体がんサバイバーにおけるものであり,肥満がないもの,サバイバー期でないものに関しての見解は確立していない。また,サバイバー期の運動療法はコスト,臨床適応性の点で施行が困難であり,提案(弱い推奨)にとどめた。

■投票結果

文献

1)
Rossi A, Garber CE, Ortiz M, et al. Feasibility of a physical activity intervention for obese, socioculturally diverse endometrial cancer survivors. Gynecol Oncol. 2016;142:304-10.
2)
von Gruenigen VE, Courneya KS, Gibbons HE, et al. Feasibility and effectiveness of a lifestyle intervention program in obese endometrial cancer patients: a randomized trial. Gynecol Oncol. 2008;109:19-26.
3)
von Gruenigen V, Frasure H, Kavanagh MB, et al. Survivors of uterine cancer empowered by exercise and healthy diet(SUCCEED): a randomized controlled trial. Gynecol Oncol. 2012;125:699-704.
4)
McCarroll ML, Armbruster S, Frasure HE, et al. Self-efficacy, quality of life, and weight loss in overweight/obese endometrial cancer survivors(SUCCEED): a randomized controlled trial. Gynecol Oncol. 2014; 132:397-402.
5)
von Gruenigen VE, Gibbons HE, Kavanagh MB, et al. A randomized trial of a lifestyle intervention in obese endometrial cancer survivors: quality of life outcomes and mediators of behavior change. Health Qual Life Outcomes. 2009;7:17.

CQ 10
化学療法中の卵巣がん患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2C
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
化学療法中の卵巣がん患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

卵巣がんは高齢患者が多く,また進行してからの発見も多く,手術と化学療法など集学的な治療を要することが多い。治療の副作用,身体機能の低下,うつ症状,QOL の低下などを呈することが多いことが報告され 1),それらへの対処は重要である。そこで今回の改訂では,卵巣がん患者を対象に,治療中の運動療法の有用性について検討した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①心肺機能の改善(重要性5,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,前後比較試験1 件を採用した。

・評価

Newton ら 1)は,化学療法中の卵巣がん患者に対しウォーキングなどの在宅を基盤とした身体活動介入を行い,介入後に6 分間歩行テストの改善を認めた。

・統合

前後比較の1 件で介入後に心肺機能の改善を認め,エビデンスの強さはC とした。

②倦怠感の改善(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,前後比較試験1 件を採用した。

・評価

Mizrahi ら 2)は,化学療法中の再発性卵巣がん患者に対し,監督下での運動療法と在宅での運動指導を12 週間行い,介入後に倦怠感の改善を認めた。

・統合

前後比較の1 件で介入後に倦怠感の改善を認め,エビデンスの強さはC とした。

③ QOL の改善(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,前後比較試験3 件を採用した。

・評価

前述のMizrahi ら 2)の介入により,FACT-Ovary で評価されたQOL の改善を認めた。前述のNewton ら 1)の介入により,介入後にFACT-Ovary のfunctional well-being や卵巣がん特有の項目で改善を認めた。Von Gruenigen 3)は,化学療法中の卵巣がん患者に対し身体活動と栄養の質を改善させる介入を行い,介入後にFACT-G の改善を認めた。

・統合

前後比較の3 件で介入後に全般的QOL もしくは一部の項目の改善を認め,エビデンスの強さはC とした。

④うつ・不安症状の改善(重要性6,エビデンスの強さ:D)

・検索

系統的文献検索を行い,前後比較試験2 件を採用した。

・評価

前述のMizrahi ら 2)の介入により,介入後にメンタルヘルスの改善を認めた。前述のNewton 1)の介入により,介入後のHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)の不安やうつ症状は介入前に比べて有意な改善を認めなかった。

・統合

精神心理面をアウトカムとした介入研究は前後比較が2 編あり,1 編は介入後にメンタルヘルスの改善を認めたが,もう1 編では有意な改善を認めなかったため,エビデンスの強さはD とした。

⑤リンパ浮腫の出現・悪化(害:重要性7,エビデンスの強さ:D)

・評価

上述の3 編の前後比較試験において,リンパ浮腫の出現・悪化は認められていない。

・統合

運動療法による害はないと考えられた。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:C(弱)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,介入後に心肺機能,倦怠感,QOL,精神心理面の改善がみられた。一方,害(望ましくない効果)として,有害事象の増加は認められなかった。以上より,益が害を上回っていると判断した。

患者の価値観・希望

リハビリテーション治療(運動療法)は害が少なく益が大きい治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられ,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

婦人科がんは「がん患者リハビリテーション料」の算定要件を満たさないため,保険診療で実施することはできない。

・臨床適応性(外的妥当性)

婦人科がんは,「がん患者リハビリテーション料」の算定要件を満たさないため,リハビリテーション専門職が関わって実施することは困難で,現状では臨床適応性は低い。

総合評価

化学療法中の卵巣がん患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことを提案する。

卵巣がん患者に対してのリハビリテーション治療(運動療法)は,重要なアウトカムに対するエビデンスが低く,コスト,臨床適応性の点でも施行が困難であり,提案(弱い推奨)にとどめた。

■投票結果

文献

1)
Newton MJ, Hayes SC, Janda M, et al. Safety, feasibility and effects of an individualised walking intervention for women undergoing chemotherapy for ovarian cancer: a pilot study. BMC Cancer. 2011;11:389.
2)
Mizrahi D, Broderick C, Friedlander M, et al. An Exercise Intervention During Chemotherapy for Women With Recurrent Ovarian Cancer: A Feasibility Study. Int J Gynecol Cancer. 2015;25:985-92.
3)
von Gruenigen VE, Frasure HE, Kavanagh MB, et al. Feasibility of a lifestyle intervention for ovarian cancer patients receiving adjuvant chemotherapy. Gynecol Oncol. 2011;122:328-33.

CQ 11
婦人科がん術後で,尿失禁もしくはその危険性がある患者に対して,リハビリテーション治療(骨盤底筋筋力訓練)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2C
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
婦人科がん術後で,尿失禁もしくはその危険性がある患者に対して,リハビリテーション治療(骨盤底筋筋力訓練)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

婦人科がん術後,骨盤内郭清術を施行した患者の6 割以上で,治療後1 年経過しても中等度以上の尿失禁がみられるとされ 1),臨床的に重要な課題である。今回の改訂では,婦人科がん術後で尿失禁やその危険性がある患者を対象にして行う骨盤底筋筋力訓練を中心としたプログラムの有用性について検討した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①尿失禁の改善(重要性8,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

Yang ら 2)は,婦人科がんサバイバーで尿失禁がある患者に対し,45 分の骨盤底筋リハビリテーションプログラム(理学療法士により行われる,バイオフィードバックや体幹筋訓練を含んだリハビリテーションプログラム)と30 分のカウンセリング(在宅での訓練指導を含む)を週1 回,4 週間行い,尿失禁のスコアに有意差を認めなかった。Rutledge ら 3)は,婦人科がんサバイバーで尿失禁がある患者に対し,在宅を基盤とした骨盤底筋筋力訓練15 分および電話などでのリマインドを12 週間行い,自覚的改善スコア(global impression of improvement scale)は,対照群に比して有意に改善した。

・統合

Yang ら 2)は,膀胱機能の間接的な指標である神経根刺激時のmotor evoked potential 潜時の短縮での有意な改善は示したが,尿失禁スコアの改善はなく,直接的な指標では改善は有意でなかったと判断した。Rutledge ら 3)は,自覚的スコアの改善が有意であったものの,対象者数が少なく不精確と考えられた。そのため,エビデンスの強さはC とした。

② QOL の改善(重要性6,エビデンスの強さ:D)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

前述のYang ら 2)の介入により,EORTC QLQ-C30 のphysical functioning は対照群と比べて有意差を認めなかったが,臨床的に意味のある差(10 ポイント以上)を認めた。

・統合

ランダム化比較試験1 件でQOL が評価されていた。介入群ではいくつかのQOL の項目で臨床的に意味のある改善がみられたと報告されているが,統計学的な有意差はなく,エビデンスの強さはD とした。

③リンパ浮腫の悪化(害:重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

前述のYang ら 2)はEORTC QLQ-Cervical Cancer24 を評価し,そのリンパ浮腫の項において対照群と有意差を認めなかった。

・統合

間接的な評価によるものであり,エビデンスの強さはC とした。他の介入研究においても有害事象は報告されていない。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:C(弱)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,尿失禁の自覚的症状の改善がみられた。一方,害(望ましくない効果)として,有害事象の増加は認められなかった。以上より,益が害を大きく上回っており,その効果の差は大きいと判断した。

患者の価値観・希望

骨盤底筋筋力訓練は害が少なく益が大きい治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられ,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

入院中・早期には「排泄自立指導料」の診療報酬算定により保険診療で実施できる。一方,婦人科がんは「がん患者リハビリテーション料」の算定要件を満たさないため,リハビリテーション治療としての算定はできない。

・臨床適応性(外的妥当性)

指導書を用いた骨盤底筋筋力訓練指導はどの施設でも実施でき,臨床適応性は高い。一方,リハビリテーション専門職が関わって繰り返し訓練することは保険診療の適用外になり,実施可能な医療機関は少なく現状では臨床適応性は低い。

総合評価

婦人科がん術後で,尿失禁もしくはその危険性がある患者に対して,リハビリテーション治療(骨盤底筋筋力訓練)を行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスは低いが,益と害のバランスは確実である(益の確実性が高い)。患者の価値観も確実性が高く,多様性は低い(一致している)。しかし,早期の指導は臨床適応性も高く実施できるが,定期的な指導や長期的フォローについては臨床適応性が低いと考えられるため,提案(弱い推奨)にとどめた。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・尿失禁で悩んでいる患者は多く,運動指導を受けてもうまくできない患者もいる。マンツーマンでの指導が患者にとって望ましい。
■投票結果

文献

1)
Rutledge TL, Heckman SR, Qualls C, et al. Pelvic floor disorders and sexual function in gynecologic cancer survivors: a cohort study. Am J Obstet Gynecol. 2010;203:514.e1-7.
2)
Yang EJ, Lim JY, Rah UW, et al. Effect of a pelvic floor muscle training program on gynecologic cancer survivors with pelvic floor dysfunction: a randomized controlled trial. Gynecol Oncol. 2012;125:705-11.
3)
Rutledge TL, Rogers R, Lee SJ, et al. A pilot randomized control trial to evaluate pelvic floor muscle training for urinary incontinence amo ng gynecologic cancer survivors. Gynecol Oncol. 2014;132:154-8.

第 7 章 骨軟部腫瘍

CQ 01
四肢の悪性腫瘍に対して,手術が実施される場合,患肢温存手術を行うことは,四肢切断術を行う場合に比べて推奨されるか?

グレード2C
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
四肢の悪性腫瘍に対して,手術が実施される場合,患肢温存手術を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

四肢の悪性腫瘍の手術には切断と患肢温存手術がある。腫瘍学的予後に関しては,選択バイアスが大きくエビデンスレベルとしては低いものの,患肢温存手術が劣るものではないとされている 1)。そのため現在では神経血管束が温存できる場合にはほとんどの場合で患肢温存手術が行われている。そして悪性骨腫瘍だけではなく,骨に近接あるいは浸潤している軟部肉腫においても,罹患骨を切除し人工関節等で再建する場合が多い。しかし,腫瘍用人工関節を中心とした患肢温存手術は,周術期の合併症だけではなく長期の耐久性や生活様式の制限に問題があり,5.2〜21.2%の症例は二次的に切断となるため 2, 3),患肢温存手術が一次的に切断を行うことに比べて利益が大きいのか明確なエビデンスは確立されていない。四肢の悪性腫瘍手術後のリハビリテーションにおいて,この両術式の特徴,長所や短所を知ることは重要である。

そこで今回の改訂では,両術式の機能,ADL,QOL,および合併症を比較検討することとした。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①機能予後の改善(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索からはエビデンスとなる文献は5 件採用された。

・評価

機能評価としてはMusculoskeletal Tumor Society Score(MSTS スコア)が最も標準である 4)。これは下肢なら疼痛,機能,自己満足度,支持性,歩行能力,歩容の6 項目,上肢なら疼痛,機能,自己満足度,手の移動能力,巧緻性,挙上能力の6 項目について,医療者側からの面接法で点数化して総合スコアを求めパーセンテージで表示するものである。

患肢温存手術と切断の機能比較に関して,患肢温存手術が確立され5 年以上の経過観察が可能になった1990 年以降における両者を比較した論文は複数ある。Han らはメタアナリシスを行い,患肢温存手術の方が優っていると報告している 5)。Aksnes らは患肢温存手術ではMSTS スコア80%であるのに対し切断では60%(p<0.001)6),また Renard らは患肢温存手術では中央値77%,切断では60%(p<0.0001)と報告し,両者とも患肢温存手術の方が優っていると報告している 7)。長期経過観察した報告でも,Rougraff らは患肢温存手術ではMSTS スコアは77%,膝上切断では63%と患肢温存手術が優っていると報告している 1)。しかし切断レベル別にみると膝上切断や股関節離断では患肢温存手術に比べ有意に劣るものの,膝下切断は患肢温存手術と同等であると述べている 6, 8)

・統合

疾患と手術の特殊性を考えるとランダム化比較試験はなくすべて後ろ向き研究であり,エビデンスの強さはC と判定した。

② ADL の改善(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索からはエビデンスとなる文献は5 件採用された。

・評価

ADL の評価としては,日常生活動作を患者自身で評価するToronto Extremity Salvage Score(TESS)で評価することが多い 9)。Davis らは患肢温存手術では85.1,切断では74.5(p=0.15),またRobert らは患肢温存手術で78.7,切断では78.2 でいずれも有意差を認めないと報告している 10)。Aksnes らも患肢温存手術で90,切断では88 で有意差を認めないと報告している 6)。Ginberg らやNagarajan らも両者には差がないとしている 8, 11)。Mei は6 論文のレビューを行い,機能は同等としている 3)

・統合

疾患と手術の特殊性を考えるとランダム化比較試験はなくすべて後ろ向き研究であり,エビデンスの強さはC と判定した。

③ QOL の改善(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索からはエビデンスとなる文献は11 件採用された。

・評価

Stokke, Mei らは両者ともメタアナリシスの結果QOL は差がないとしている 3, 12)。またQOL の評価としてSF-36 を使用しているものでは,一部の項目では差があるものの有意差はないとしている 6, 8, 9, 13, 14)。むしろ切断の方が良好な傾向があるが有意ではないとしている報告もある 15, 16)。それ以外の評価法〔The European Organization for Research and Treatment of Cancer(EORTC)QLQ-C30 など〕を用いた報告でも 10, 13, 15, 17),切断と患肢温存手術についてQOL には有意な差はないとしている。

・統合

疾患と手術の特殊性を考えるとランダム化比較試験はなくすべて後ろ向き研究であり,エビデンスの強さはC と判定した。

④手術部位における早期および晩期性合併症(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索からはエビデンスとなる文献は4 件採用された。またハンドサーチで5 件採用された。

・評価

合併症の定義により発生率はさまざまである。合併症は早期および晩期に分類されるがその区別も単純ではない。しかしいずれの論文でも患肢温存手術に合併症が多いことは一致している 7, 18-21)。その結果腫瘍用人工関節で再建したものでは8〜10 年でのprosthetic survival は50〜71%と想定され 22-24),合併症により後に二次的に切断となる率は小児で5.2%,成人で10% 前後とされる 2, 24)

・統合

疾患と手術の特殊性を考えるとランダム化比較試験はなくすべて後ろ向き研究であるが,患肢温存手術の方が合併症が多いことは一致しており,理論的にも矛盾しないためエビデンスの強さはB と判定した。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:C(弱)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,患肢温存手術の方が機能が優れていることが挙げられる。また文献では当然のこととして述べられていないが,幻肢痛がなく,義肢の必要性がないことも挙げられる。一方で,ADL,QOL に関しては有意な差が得られていなかった。

害(望ましくない効果)として合併症率が高いことが挙げられる。

しかし患肢温存手術は術後機能や疼痛については益があり,患肢温存手術後に合併症で大きな障害が発生したとしても,そのときに二次的に切断を選択することも可能である。そのため全体としては益があると判断した。

患者の価値観・希望

切断によるボディーイメージの変化や幻肢痛,移動に常時義肢の着用が必要であることは患者にとって不快感を伴うことがあるため,多くの患者が患肢温存手術を希望すると考えられ,確実性は高い。一方,多様性に関しては,肉体労働やスポーツへの参加には切断が有利であるために,切断を希望する患者も一定の割合で存在する。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

患肢温存手術は手術コストが高く,切断では装具(義肢)のコストが高い。しかし手術は両者ともすべて保険診療でまかなわれる。義肢の費用は,初回の義肢(仮義足)は健康保険が適用され高額療養費制度も利用可能であり,本義足は身体障害者手帳が交付されたのち,申請をすることにより助成される。

・臨床適応性

両術式の特徴を患者に説明し,そのうえで患者自身に選択してもらうことが必要である。現在では患肢温存を希望する場合がほとんどである。患肢温存手術は腫瘍専門整形外科医のみが行える手技であるため,現在では実施可能な施設は限られている。

総合評価

四肢の悪性腫瘍に対して,手術が実施される場合,患肢温存手術を行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスの確実性は低く,患者の価値観の多様性が高いため,提案する(弱い推奨)とした。どちらの術式も選択できる場合には両術式の害と益を十分に説明し,最終的には患者自身の希望とライフスタイルに応じて選択をすることが必要である。

■投票結果

付記

◉ Musculoskeletal Tumor Society Score(MSTS スコア)

四肢の骨軟部腫瘍手術後の機能評価として世界的に標準に使用される評価法である。患肢温存手術だけではなく切断後の評価にも使用される。上肢,下肢各々6 項目の評価項目があり,各々医療従事者側が0 点から5 点までの点数をつけた後,総合点を求め,正常(最大スコア)に対するパーセンテージで表す(表11)

表1  ISOLS/MSTS 機能評価法
Ⅰ.下肢

Ⅱ.上肢

◉ Toronto Extremity Salvage Score(TESS)

Davis らにより骨軟部腫瘍患者の術後の機能を評価するために開発された患者記入式の評価法で,上肢用と下肢用に分かれている。ズボンをはくこと,靴を履くこと,浴槽に入ったり出たりすること,車を運転すること,といった日常生活動作に対する質問が,上肢用は29 項目,下肢用では30 項目あり,各々が1 週でどれくらいできたかを問うものである。質問のうち11 項目は上肢下肢に共通である。各々の項目に対して,1 不可能である,2 非常に困難,3 中程度困難,4 少し困難,5 全く困難はない,6 この動作は私には当てはまらない,の中から患者自身に選択して記入してもらう。その後患者にとって関係ない動作(6 この動作は私には当てはまらない,を選択した項目)を除いて総合点をもとめ,最大スコアに対するパーセンテージを求め,評価点とするものである。(日本語版については付記文献を参照)

文献

1)
Rougraff BT, Simon MA, Kneisl JS, et al. Limb salvage compared with amputation for osteosarcoma of the distal end of the femur. A long-term oncological, functional, and quality-of-life study. J Bone Joint Surg Am. 1994;76:649-56.
2)
Groundland JS, Ambler SB, Houskamp LD, et al. Surgical and Functional Outcomes After Limb-Preservation Surgery for Tumor in Pediatric Patients:A Systematic Review. JBJS Rev. 2016;4:pii:01874474-201602000-00002.
3)
Mei J, Zhu XZ, Wang ZY, et al. Functional outcomes and quality of life in patients with osteosarcoma treated with amputation versus limb-salvage surgery:a systematic review and meta-analysis. Arch Orthop Trauma Surg. 2014;134:1507-16.
4)
Enneking WF, Dunham W, Gebhardt MC, et al. A system for the functional evaluation of reconstructive procedures after surgical treatment of tumors of the musculoskeletal system. Clin Orthop Relat Res. 1993;286:241-6.
5)
Han G, Bi WZ, Xu M, et al. Amputation Versus Limb-Salvage Surgery in Patients with Osteosarcoma:A Meta-analysis. World J Surg. 2016;40:2016-27.
6)
Aksnes LH, Bauer HC, Jebsen NL, et al. Limb-sparing surgery preserves more function than amputation:a Scandinavian sarcoma group study of 118 patients. J Bone Joint Surg Br. 2008;90:786-94.
7)
Renard AJ, Veth RP, Schreuder HW, et al. Function and complications after ablative and limb-salvage therapy in lower extremity sarcoma of bone. J Surg Oncol. 2000;73:198-205.
8)
Ginsberg JP, Rai SN, Carlson CA, et al. A comparative analysis of functional outcomes in adolescents and young adults with lower-extremity bone sarcoma. Pediatr Blood Cancer. 2007;49:964-9.
9)
Davis AM, Devlin M, Griffin AM, et al. Functional outcome in amputation versus limb sparing of patients with lower extremity sarcoma:a matched case-control study. Arch Phys Med Rehabil. 1999;80:615-8.
10)
Robert RS, Ottaviani G, Huh WW, et al. Psychosocial and functional outcomes in long-term survivors of osteosarcoma:a comparison of limb-salvage surgery and amputation. Pediatr Blood Cancer. 2010;54:990-9.
11)
Nagarajan R, Clohisy DR, Neglia JP, et al. Function and quality-of-life of survivors of pelvic and lower extremity osteosarcoma and Ewing’s sarcoma:the Childhood Cancer Survivor Study. Br J Cancer. 2004;91:1858-65.
12)
Stokke J, Sung L, Gupta A, et al. Systematic review and meta-analysis of objective and subjective quality of life among pediatric, adolescent, and young adult bone tumor survivors. Pediatr Blood Cancer. 2015;62:1616-29.
13)
Malek F, Somerson JS, Mitchel S, et al. Does limb-salvage surgery offer patients better quality of life and functional capacity than amputation? Clin Orthop Relat Res. 2012;470:2000-6.
14)
Eiser C, Darlington AS, Stride CB, et al. Quality of life implications as a consequence of surgery:limb salvage, primary and secondary amputation. Sarcoma. 2001;5:189-95.
15)
Barrera M, Teall T, Barr R, et al. Health related quality of life in adolescent and young adult survivors of lower extremity bone tumors. Pediatr Blood Cancer. 2012;58:265-73.
16)
Bekkering WP, Vliet Vlieland TP, Koopman HM, et al. Functional ability and physical activity in children and young adults after limb-salvage or ablative surgery for lower extremity bone tumors. J Surg Oncol. 2011;103:276-82.
17)
Zahlten-Hinguranage A, Bernd L, Ewerbeck V, et al. Equal quality of life after limb-sparing or ablative surgery for lower extremity sarcomas. Br J Cancer. 2004;91:1012-4.
18)
Mavrogenis AF, Abati CN, Romagnoli C, et al. Similar survival but better function for patients after limb salvage versus amputation for distal tibia osteosarcoma. Clin Orthop Relat Res. 2012;470:1735-48.
19)
Nagarajan R, Neglia JP, Clohisy DR, et al. Limb salvage and amputation in survivors of pediatric lower-extremity bone tumors:what are the long-term implications? J Clin Oncol. 2002;20:4493-501.
20)
Ruggieri P, De Cristofaro R, Picci P, et al. Complications and surgical indications in 144 cases of nonmetastatic osteosarcoma of the extremities treated with neoadjuvant chemotherapy. Clin Orthop Relat Res. 1993;295:226-38.
21)
Bacci G, Picci P, Ferrari S, et al. Primary chemotherapy and delayed surgery for nonmetastatic osteosarcoma of the extremities. Results in 164 patients preoperatively treated with high doses of methotrexate followed by cisplatin and doxorubicin. Cancer. 1993;72:3227-38.
22)
Kawai A, Lin PP, Boland PJ, et al. Relationship between magnitude of resection, complication, and prosthetic survival after prosthetic knee reconstructions for distal femoral tumors. J Surg Oncol. 1999;70:109-15.
23)
Pala E, Trovarelli G, Calabrò T, et al. Survival of modern knee tumor megaprostheses:failures, functional results, and a comparative statistical analysis. Clin Orthop Relat Res. 2015;473:891-9.
24)
Tan PX, Yong BC, Wang J, et al. Analysis of the efficacy and prognosis of limb-salvage surgery for osteosarcoma around the knee. Eur J Surg Oncol. 2012;38:1171-7.
付記文献
1)
Enneking WF, Dunham W, Gebhardt MC, et al. A system for the functional evaluation of reconstructive procedures after surgical treatment of tumors of the musculoskeletal system. Clin Orthop Relat Res. 1993;286:241-6.
2)
小倉浩一,上原浩介,秋山達,他.日本語版 Toronto Extremity Salvage Score 下肢の開発 言語的妥当性を担保した翻訳版の作成.日整会誌.2016;67:223-7.
3)
秋山達,上原浩介,小倉浩一,他.日本語版 Toronto Extremity Salvage Score(TESS)-上肢の開発 言語的妥当性を担保した翻訳版の作成.日整会誌.2016;67:933-7.

CQ 02
四肢原発骨軟部肉腫に対する患肢温存手術を実施する患者に対して,液体窒素または放射線あるいは加温処理骨による再建を行うことは,腫瘍用人工関節を使用する場合に比べて推奨されるか?

グレード2C
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
四肢原発骨軟部肉腫に対する患肢温存手術を実施する患者に対して,液体窒素または放射線あるいは加温処理骨による再建を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

四肢骨軟部原発悪性骨腫瘍に対して患肢温存手術を行う場合,手術後の後療法と長期間経過後の成績は極めて重要である。骨切除後の再建に対しては,世界的には腫瘍用人工関節あるいは同種骨を用いて再建することが最も多く行われており標準といえる。人工関節の場合は手術直後より支持性が獲得され,早期から荷重が可能である。しかし感染や摩耗,人工関節のloosening 等により長期耐久性に問題がある 1)。同種骨はわが国では社会的あるいは宗教的な問題により,適切なサイズの同種骨を入手することは困難である。それらの問題を解決するため,切除した骨をパスツール処理,体外放射線療法,あるいは液体窒素に浸けるなどの処理を行い,骨に残っている悪性細胞を殺処理し,その後体内に戻すという方法が,1990 年代からアジア,特に日本を中心に行われている 2-5)。この処理骨による再建が本当に腫瘍用人工関節による再建に比べて利益が大きいのかは明確なエビデンスが確立されていない。患肢温存手術後のリハビリテーションでは,これら2 つの再建方法の特徴と長所や短所を理解することが必要である。

そこで今回の改訂では,両者の機能,ADL,QOL,および合併症を比較検討することとした。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①全荷重可能となるまでの期間(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索からはエビデンスとなる文献は4 件採用され,ハンドサーチで1 件(手術手技資料)採用された。

・評価

人工関節では手術直後より荷重が可能である。文献では当然のこととして具体的な荷重までの期間については言及されていない。1 世代前の腫瘍用人工関節であるHMRS システムの手技書には3 カ月で全荷重を許可と書かれている 6)。現状では術後疼痛が軽快し四頭筋の筋力が荷重に耐え得る状態になれば部分荷重を開始し,創が落ち着き筋力が回復する3 カ月前後で全荷重に移行する施設がほとんどであると推測する。一方処理骨を用いた再建では,骨癒合が得られた後に全荷重となる。荷重までの期間について言及している論文は少なく,Igarashi らは2 カ月で部分荷重,骨癒合し全荷重となるまで平均6.2 カ月を要したと 7),Nakamura らは平均7 カ月で 8),Muramatsu らは平均6.8 カ月で全荷重となったと 9),Mottard らは,平均約4 カ月で部分荷重,5.3 カ月で全荷重したと報告している 10)。いずれにせよ全荷重まで半年以上を要することが多いため,全荷重までの期間は人工関節に比べ明らかに長期間を要する。

②機能予後の改善(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索からはエビデンスとなる文献は14 件採用され,ハンドサーチで1 件採用された。

・評価

患肢温存手術の機能評価はMSTS スコアで評価することが標準である 11)。自家処理骨による再建術では部位や骨処理方法がさまざまであるが,77〜92%と報告されており,人工関節に比べて劣るものではない 2, 4, 8, 9, 12-20)。2 群を直接比較したものはLiu らが上腕骨に限定した報告があるが,有意差はないと報告している 21)。ほとんどが症例集積研究であり,エビデンスレベルは低いものの,以上より処理骨を用いた再建術の機能予後は人工関節とほぼ同等といえる。

・統合

疾患と手術の特殊性を考えるとランダム化比較試験はなく,すべて後ろ向き研究であり,エビデンスの強さはC と判定した。

③ ADL の改善(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索からはエビデンスとなる文献は3 件採用された。

・評価

患肢温存手術後のADL はTESS を用いて評価することが標準である。しかし処理骨再建後のADL について言及している文献は少ない。照射処理骨再建後のADL をTESS を用い評価している論文が3 件あり,Arpornchayanon らは81%,Krieg らは骨盤部の再建で85%,Davidson らは 81%と報告している 13, 16, 19)。いずれも症例集積研究であり,再建部位も統一されていないためエビデンスレベルは低いが,腫瘍用人工関節とほぼ同等である。

・統合

疾患と手術の特殊性を考えるとランダム化比較試験はなく,すべて後ろ向き研究であり,エビデンスの強さはC と判定した。

④手術部位における感染症および晩期合併症(重要性8,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索からはエビデンスとなる文献は13 件採用され,ハンドサーチで3 件採用された。

・評価

術後感染については部位も処理の方法もさまざまであるため,0〜35%の報告があり文献により差が大きい 2, 4, 7, 8, 15-17, 21-25)。一方,腫瘍用人工関節の場合の感染は10%前後と報告されており,自家処理骨を使用しても感染率が低下するわけではない 1, 26)。しかし処理骨のgraft survival は報告では67〜100%にわたるが,半数以上が80%台であり 4, 7-9, 12, 14-17, 20, 22, 25),また複数の文献で20〜80 カ月でgraft survival は安定に達することが示されている 2, 7, 13, 21, 25)。一方,腫瘍用人工関節のprosthetic survival は8〜10 年で50〜71%と報告されており 26-28),感染や創壊死といった周術期の合併症のみならず,長期間を経過した後でも摩耗やaseptic loosening 等によりprosthetic survival の経時的低下は避けられない。処理骨による再建は比較的新しい手術法であり20 年以上経過後の成績については不明な点があるものの,耐久性という点では腫瘍用人工関節より優れていることが推測される。

・統合

疾患と手術の特殊性を考えるとランダム化比較試験はなく,すべて後ろ向き研究であり,エビデンスの強さはC と判定した。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:C(弱)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,処理骨による再建は長期の耐久性に優れている可能性が高いことが挙げられる。一方で,ADL,QOL に関しては文献からは優位性は確認できない。

害(望ましくない効果)として早期荷重が不可能でリハビリテーション期間が長いことと,手術時間が長くなるため手術侵襲が高くなることが挙げられる。

しかし,骨癒合して一定期間を経過すればgraft survival は安定し,処理骨自身も同化し,生きている骨に置き換わることも期待できるため 29),益があると判断

患者の価値観・希望

処理骨再建の場合は症例が少ないうえ,術式が多様であるため,人工関節ほどの確実なデータを患者に提示できない。また骨癒合を促進させるため,腓骨や腸骨といった健常部からの骨移植を必要とする場合がある。さらに早期の荷重や社会復帰が不可能である。これらの点から処理骨再建を希望する確実性は高くない。一方多様性に関しては,腫瘍用人工関節は長期的にみると耐久性に問題があり,特に若年者では複数回の再置換を要することも稀ではないため,自家処理骨による再建を強く希望する患者もおり,多様性があると考える。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

処理骨はインプラントが骨接合材料だけであるので手術コストが低く,腫瘍用人工関節ではインプラント費用だけで100 万円以上の高額になる。しかし両者とも保険診療の範囲であり,特別な自費の負担はない。

・臨床適応性

両術式の特徴を患者に十分説明し,そのうえで患者自身に選択してもらうことが必要である。腫瘍用人工関節は腫瘍専門整形外科医がいる施設でのみ行われており,処理骨による再建を行っている施設はさらに少ないと考えられる。

総合評価

四肢原発骨軟部肉腫に対する患肢温存手術を実施する患者に対して,液体窒素または放射線あるいは加温処理骨による再建を行うことを提案する。

長期の耐久性に関しては自家処理骨による再建の方に益が大きいと考えられるが,再建部位や処理骨の形態により成績はさまざまであるため,エビデンスレベルは高くない。また,良好な成績を得るためには詳細な条件設定が必要であり,患者の年齢や骨質の状態によっては処理骨による再建が適応とならない場合もあるため,提案する(弱い推奨)とした。一方,人工関節置換は術後早期の時点では利益が大きく,腫瘍専門整形外科医であればどの施設でも行うことが可能で,患者の骨質も選ばないため臨床適応性は高い。どちらの術式も選択できる場合には両術式の益と害を十分に説明し,最終的に患者自身の希望とライフスタイルに応じた選択をすることが望ましい。

■投票結果

付記
◉ 自家処理骨の腫瘍学的安全性

悪性腫瘍が含まれたままの骨をパスツール処理,術中対外放射線療法,あるいは液体窒素による凍結処理を行った場合,それを体内に戻して本当に安全であるのか,という危惧を抱くのは当然である。しかし文献上処理骨で再建を行った場合の局所再発は軟部からの再発のみで,処理後体内に戻した骨そのものからの再発の報告はない。いずれの方法もすでに15 年以上の歴史があり,正確に処理を行っている限り,体内に戻した処理骨自身からの再発の危険はないと考える 2-5, 7, 8, 10)

  • ※本CQ のアウトカムとして,QOL の改善も挙げていたが,該当する文献は得られなかった。

文献

1)
Henderson ER, Groundland JS, Pala E, et al. Failure mode classification for tumor endoprostheses:retrospective review of five institutions and a literature review. J Bone Joint Surg Am. 2011;93:418-29.
2)
Hayashi K, Araki N, Koizumi M, et al. Long-term results of intraoperative extracorporeal irradiation of autogenous bone grafts on primary bone and soft tissue malignancies. Acta Oncol. 2015;54:138-41.
3)
Tsuchiya H, Wan SL, Sakayama K, et al. Reconstruction using an autograft containing tumour treated by liquid nitrogen. J Bone Joint Surg Br. 2005;87:218-25.
4)
Sugiura H, Nishida Y, Nakashima H, et al. Evaluation of long-term outcomes of pasteurized autografts in limb salvage surgeries for bone and soft tissue sarcomas. Arch Orthop Trauma Surg. 2012;132:1685-95.
5)
Manabe J, Ahmed AR, Kawaguchi N, et al. Pasteurized autologous bone graft in surgery for bone and soft tissue sarcoma. Clin Orthop Relat Res. 2004;419:258-66.
6)
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7)
Igarashi K, Yamamoto N, Shirai T, et al. The long-term outcome following the use of frozen autograft treated with liquid nitrogen in the management of bone and soft-tissue sarcomas. Bone Joint J. 2014;96-B:555-61.
8)
Nakamura T, Abudu A, Grimer RJ, et al. The clinical outcomes of extracorporeal irradiated and re-implanted cemented autologous bone graft of femoral diaphysis after tumour resection. Int Orthop. 2013;37:647-51.
9)
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CQ 03
骨転移を有する患者に対して,病的骨折や脊髄圧迫による麻痺などのリスクを予測するための評価を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード1C
推奨の強さ強い推奨
エビデンスの
確実性
骨転移を有する患者に対して,病的骨折や脊髄圧迫による麻痺などのリスクを予測するための評価を行うことを推奨する。

重要臨床課題の確認

骨はがんの好発部位の一つであり,骨転移は日常診療において頻繁に遭遇する。骨転移では病的骨折や脊髄圧迫による麻痺を生じる危険性がある。しかしながら,これらの有害事象を恐れ,リハビリテーション治療を控えることや必要以上の活動制限を行うことは,患者のADL やQOL を著しく損なうこととなる。このため,骨転移を有する患者においては,その危険性を評価し,リハビリテーション治療を進めることが必要と考えられる。本ガイドライン初版(推奨グレードB)から引き続き今回の改訂でもCQ として採用した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①予測精度(重要性5,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,観察研究9 件を採用した。また,ハンドサーチから1 件を採用した。

・評価

Fisher らは脊椎転移症例において脊柱の安定性をスコア化する方法として,専門家によるDelphi 法によりSpinal Instability Neoplastic Score(SINS)を開発している。これは転移部位,動作時や脊椎への負荷時の疼痛,腫瘍の性状,X 線撮影における椎体アライメントの評価,椎体破壊,脊椎の後外側の病変により脊椎の安定性を点数化するものである。18 点満点のスコアであり,高得点ほど安定性は不良と判断する。6 点以下は不安定性なし,7〜12 点は中等度の不安定性,13 点以上は不安定性ありと評価する方法である 1)

Huisman らは脊椎転移症例に対する放射線療法後に追加治療が必要になった38 症例の調査を行っている。追加治療が必要になった症例は,対照群(76 例)と比較して有意にSINS スコアが高値であった。不安定の可能性がある群(7〜12 点)ではオッズ比5.9(95%CI:1.1-31.7),不安定群(13〜18 点)ではオッズ比12.8(95%CI:1.6-105.5)であった 2)

Fisher らは放射線腫瘍医33 名を対象として,SINS の信頼性を調査している。そこでは脊椎転移のある30 症例についてSINS で評価を行っている。検者間信頼性はκ係数において0.76,検者内信頼性はκ係数において0.80 であった 3)

Fourney らは脊椎腫瘍医24 名を対象として,SINS の信頼性を調査している。そこでは脊椎転移のある30 症例についてSINS で評価を行っている。検者間の級内相関係数(intraclass correlation coefficients;ICC)は0.846(95%CI:0.773-0.911),検者内のICC は 0.886(95%CI:0.868-0.902)と,信頼性も良好であったとしている。そして予測精度は感度95.7%,特異度79.5%であったとしている 4)

Campos らも同様にSINS の検者間信頼性を検証している 5)

Mirels は長管骨転移に対して放射線療法を実施された38 症例,78 病変の調査を行い,病的骨折の予測モデルの開発と予測精度の検証を行っている。78 病変のうち27 病変(35%)で6 カ月以内に骨折を生じていた。予測モデルには,転移部位,疼痛,病変の性状,大きさが含まれている。各項目1〜3 点が配点され,合計12 点の評価である。点数が大きいほど骨折のリスクは大きいと判断する方法である。9 点以上の場合には骨折の危険性は33%であったとしている 6)

Damron らはMirels スコアの信頼性を検証している。53 名の医師により12 症例の大腿骨転移患者の骨折リスクをMirels スコアにより行っている。検者間信頼性をκ係数により求めている。部位のκ係数は0.752 で良好であるのに対し,サイズは0.292 となっていた。病的骨折を予測する感度は91%,特異度は35%であった 7)

El-Husseiny らは長管骨転移を生じている47 症例を対象としてMirels スコアの信頼性を検討している。評価は4 名の整形外科医が行った。検者内信頼性はκ係数で0.396,検者間信頼性は0.183-0.218 であった 8)

Damron らは大腿骨転移の78 症例において,Mirels スコアとCT による強度分析の予測精度の比較を行っている。7.7%で骨折を生じていた。CT では感度100.0%,特異度60.6%であったのに対し,Mirels スコアでは感度66.7%,特異度47.9%であった。Receiver operating characteristic 曲線による分析においても,曲線下面積はCT では0.801(95%CI:0.706-0.876),Mirels では0.566(95%CI:0.460-0.668)であり,予測精度はCT が優れていた 9)

Evans らはMirel スコアの上腕骨転移での予測精度と検者間信頼性を検証している。上腕骨転移のある12 症例のうち,3 症例で実際に骨折を生じていた。Mirels スコア9 点以上をハイリスクとした場合では感度14.5%,特異度82.9%であった。7 点以上をハイリスクとしたところ,感度81.4%,特異度32.1%となった。κ係数は0.443 であり,検者間信頼性は中等度としている 10)

・統合

脊椎の不安定性の評価としてはSINS,長管骨病的骨折の予測方法としてはMirels の予測モデルが報告されていた。いずれも複数の危険因子を組み合わせスコア化するものである。これらについては再現性を検証した報告が複数みられた。これらはいずれも観察研究であり,エビデンスの強さはC と判断した。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:C(弱)

益と害のバランス評価

病的骨折や脊髄圧迫による麻痺の予測をすることにより,これらの有害事象が抑制され,ADL やQOL が向上するという益(望ましい効果)のエビデンスはみられなかった。しかしこれらの有害事象は重大な結果を生じる危険性があるものであり,ハイリスクな患者をスクリーニングすることは重要であると考えられる。害(望ましくない効果)として,予測精度が不十分であることが考えられる。各種評価方法の再現性の検証において,予測精度は確実なものではなかった。偽陽性・偽陰性があるという限界を認識して使用することにより,重大な害は生じないと考えられる。これらより,病的骨折や脊髄圧迫による麻痺などのリスクを予測するための評価を行うことは,益が大きいと判断した。

患者の価値観・希望

リハビリテーション治療の計画にあたり,有害事象発生の危険性を評価することは患者の負担は少なく,安全な医療を提供する目的であることを考慮すると多くの患者が行うことを希望すると考えられ,確実性は高く,多様性は低いと考えられる。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

今回検索された評価方法は,病歴や画像,疼痛などから行うものである。これらは通常の診療において実施されているものであると考えられる。追加のコストは発生しないものと想定される。

リハビリテーション治療については,入院中のがん患者では「がん患者リハビリテーション料」が算定できるため,患者のコスト負担は少ない。

・臨床適応性

上述のように,今回検索された評価方法は,通常の診療において実施されているものであると考えられる。特殊な検査機器などは必要としないため,一般的な医療機関で実施可能であると想定される。

総合評価

骨転移を有する患者に対して,病的骨折や脊髄圧迫による麻痺などのリスクを予測するための評価を行うことを推奨する。

重要なアウトカムに対するエビデンスは存在しなかった。これは訓練中に骨折を生じる頻度は必ずしも高くないこと,訓練中の有害事象は医療機関にとって公開しにくいことなどによる情報バイアスの危険性がある。

しかし,骨転移では病的骨折や脊髄圧迫による麻痺などの重大な有害事象の危険性がある。この危険性を評価せずにリハビリテーション治療を実施し,有害事象を生じることで患者の不利益を生じることは回避するべきである。

病的骨折や脊髄圧迫による麻痺のリスクを予測するモデルの予測精度は確実なものではない。しかし,この精度の限界を知って使用することにより,重大な害は生じにくいものと考えられる。

重要なアウトカムに対するエビデンスは十分ではないが,害を生じる可能性は低い。患者の価値観は確実性が高く,多様性は低い(一致している)ものと考えられる。保険診療で実施されるため,患者のコスト負担も少なく,多くの医療機関で実施できることから,正味の利益はコストや医療資源に十分見合っている。

これらのことより,重要なアウトカムに対するエビデンスは強くはないものの,推奨する(強い推奨)とした。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・患者の立場から考えても,不安に感じられる点である。適切に情報提供される必要がある。
■投票結果

付記

◉ 大腿骨病的骨折の発生頻度

文献検索期間対象外の調査であるが,Shimoyama らは,以下の報告をしている。大腿骨転移に対する放射線療法後に,骨折は 7.7%で生じたとされている。Harrington の基準にてハイリスクと判断された症例の13.9%,Mirels スコアでハイリスク(9 点以上)と判断された症例の11.8%で骨折が生じたとしている。11 点の症例においても骨折は20.8%であった。骨折は照射後3 カ月以内に生じることが多かったとしている。Harrington やMirels の報告した病的骨折発生頻度と比較して低率であったとしている。ここでは明らかな骨破壊がみられる患者に対しては,松葉杖使用による部分荷重が3 カ月間実施されていた 1)

病的骨折のリスクが高い患者を識別し,予防策を実施したことにより病的骨折が抑制されている可能性があると考えられる。既存の予測モデルを適応する際には,その再現性に注意する必要がある。

  • ※本CQ のアウトカムとして,骨関連事象の抑制,機能予後の改善,ADL の改善,QOL の改善も挙げていたが,該当する文献は得られなかった。

文献

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付記文献
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CQ 04
四肢長幹骨に骨転移を有する患者に対して,病的骨折が生じた後に手術を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード1C
推奨の強さ強い推奨
エビデンスの
確実性
四肢長幹骨に骨転移を有する患者に対して,病的骨折が生じた後に手術を行うことを推奨する。

重要臨床課題の確認

長管骨への骨転移により病的骨折が生じることは,一般病院でも遭遇することは稀ではない。特に荷重骨である大腿骨に発生して治療を要することが多い。しかし手術によりどのような合併症のリスクがあり,どの程度機能が回復するかはあまり顧みられていない。手術によりどの程度の機能やADL の回復が期待でき,どのような合併症に留意しなければならないかを知ることは,術後のリハビリテーションを進めるうえで重要である。

そこで今回の改訂では,最も頻度が多い大腿骨病的骨折を中心に,手術を行った場合の機能,ADL,QOL,および合併症を比較検討することとした。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①機能予後の改善(重要性8,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索からはエビデンスとなる文献は14 件採用された。

・評価

大腿骨の骨転移手術後の機能評価としては,単純に歩行あるいは荷重が可能となったか否かで評価しているものと,原発性骨腫瘍と同様にMSTS スコア 1)で評価しているものがある。

まず歩行能力について病的骨折に対して行ったさまざまな手術をまとめて解析した場合,術後歩行可能となったのは61〜81%であると報告されている 2-7)。術式を分けて検討したものではZacherl らは人工骨頭で63%,骨接合では58%が歩行可能になったと報告している 8)。Van Doorn らは100%の症例で機能改善があったとしている 9)。また骨折と切迫骨折を併せた報告ではHattori らは81%が歩行可能であったと,Edwards らは全例が全荷重可能になったと報告している 10, 11)

MSTS スコアによる評価では,病的骨折例と切迫骨折例を併せた報告であるが,Talbot らによるとスコアは術前26%であったものが経時的に改善し術後12 週では58%に 12),Böhm らは術前21.5%から術後55.9%に 13),Peterson らは15%から70%にいずれも改善したとしている 14)。Harvey らは術前のデータは提示していないが術後髄内釘で80%,人工骨頭置換で70%と報告している 15)

比較対象となる下肢病的骨折に手術を行わず経過をみた報告はない。しかし病的骨折のままでは歩行は不可能で,疼痛でギャッチアップや寝返りすら困難であるのでMSTS スコアは0%である。その状態から,手術により60〜80%の症例で歩行可能となり,100%近い症例で機能の改善あるいは荷重が可能となると考えられる。MSTS スコアでも手術により0%から60〜80%に改善すると考えられる。

・統合

1 件を除き 12)すべて後ろ向きの症例集積研究であるが,病態の特殊性を考えると 倫理的にランダム化比較試験はあり得ない。手術をしない場合に比較し手術により機能が回復する可能性は高くエビデンスの強さはB と判定した。

② ADL の改善(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索からはエビデンスとなる文献は2 件採用された。

・評価

ADL の評価としてはTESS,Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)のPerformance Status(PS),Karnofsky Performance Scale Index(KPS)で評価したものがある。Talbot らは病的骨折例と切迫骨折例を併せて解析しTESS は術前39.7 であったものが手術後6 週で53.8 に 12),12 週で63.3 と経時的に改善したと,またPeterson らはPS が手術前は3.5 であったものが手術後2 に,KPS では40 から60 に改善したと報告している 14)

・統合

1 件は前向き,もう1 件は後ろ向き研究であるが,両者とも症例集積研究である。しかし病態の特殊性を考えると倫理的にランダム化比較試験はあり得ない。手術をしない場合に比較し手術によりADL が改善する可能性は高くエビデンスの強さはB と判定した。

③ QOL の改善(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索からはエビデンスとなる文献は1 件採用された。

・評価

Talbot らはSF-36 で評価し,術前と術後で有意な変化はなかったとしている。

・統合

1 件の前向きの症例集積研究であるが,ランダム化比較試験ではなくエビデンスの強さはC と判定した。

④手術部位における早期および晩期性合併症(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索からはエビデンスとなる文献は16 件採用された。ハンドサーチで1 件採用された。

・評価

合併症の定義によりその発生率はさまざまな値が報告されているが,手術の妥当性を知るために,重篤なあるいは全身的合併症発生率と周術期の死亡率について調べた。

深刻な合併症や死亡例はないとの報告もあるが,症例数が少ない症例集積研究であるため確実性は低い 14)。その他のものをまとめると重篤あるいは全身的合併症は1〜12.1%に発生し,周術期の死亡は0〜13%に発生すると報告されている 3, 5, 7, 9-12, 16-23)。最も症例数が多いのはTsuda らがDPC database を利用して1,400 例以上を調査したもので,何らかの合併症が12.1%に発生し,術後30 日以内の死亡率は2.6%と述べられている 24)

・統合

1 件を除きすべて後ろ向き研究であるが,疾患と手術の特殊性を考えるとランダム化比較試験はあり得ず,エビデンスの強さはC と判定した。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:C(弱)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)としては,多くの症例で疼痛が軽快し,機能やADL が改善することがある。

害(望ましくない効果)としては,合併症率が10%を超える可能性があり,周術期の死亡も2%を超える報告が多いことが挙げられる。

しかし,大腿骨病的骨折に手術を行わない場合はギャッチアップどころか側臥位にもなれないため,強い苦痛があるばかりでなく誤嚥性肺炎,褥瘡,深部静脈血栓症,腸閉塞等の重篤な合併症が高率に発生すると考えられる。以上より手術を行うことによる益は大きいと判断した。

患者の価値観・希望

病的骨折を生じると激痛で身動きもできない状態になるため,意識がない患者を除けばほとんどの患者が手術を希望すると考えられ,確実性は高く多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

手術はコストが高く,特に人工骨頭や人工骨幹に置換する場合はインプラント費用だけで100 万円を超える。しかしすべて保険適用であり,高額療養費制度も利用可能である。

・臨床適応性

手術には,①単純な内固定,②内固定に病巣掻爬と骨欠損部のセメント充填を併用するもの,③病巣を切除して人工骨で置換するもの,の3 種類がある。単純な内固定は整形外科医が常勤する施設であればほとんどの施設で可能である。一方,骨セメントを併用する術式や,病巣切除後に人工骨で置換する術式は,腫瘍専門整形外科医がいない施設では困難である。

総合評価

四肢長幹骨に骨転移を有する患者に対して,病的骨折が生じた後に手術を行うことを推奨する。

重要なアウトカムに対するエビデンスの確実性は低いが,耐術性がある場合には手術により除痛,移動能力の改善が得られる可能性は高いので益は大きく,手術を検討しないことは現在では許容されず,可能な限り手術を行う必要があるため,推奨する(強い推奨)とした。どの術式が適応になるのかについては腫瘍専門整形外科医にコンサルトすることが望ましい。

■投票結果

付記

◉ 手術後の補助放射線療法

内固定を行った場合や病巣切除が腫瘍内切除であった場合は,腫瘍の局所増悪を防ぐために放射線療法を追加することが必要であり,放射線治療医との協力も必要である。

文献

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CQ 05
四肢長幹骨骨転移による切迫骨折の患者に対して,病的骨折が生じる前に予防的な手術を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2C
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
四肢長幹骨骨転移による切迫骨折の患者に対して,病的骨折が生じる前に予防的な手術を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

長管骨骨転移により下肢荷重骨に病的骨折が生じた場合は,手術を行うことに迷う場合はほとんどない。しかし骨折する前の段階,つまり疼痛があり画像で切迫骨折が疑われる状態で発見されることも少なくない。この場合切迫骨折として手術を推奨する基準は文献上複数ある。最も有名なのはMirels スコアである 1)。これは,長管骨の骨転移病変を部位,痛み,骨転移の型,病変のサイズによりスコアリングし,9 点以上を切迫骨折として予防的手術を勧めるものである。次に使われているのがHarrington の基準である 2)。しかしこれらの基準は骨修飾薬(bone modifying agent;BMA)や分子標的薬の登場する前,1980 年代の資料を基に考えられたものであり,近年では骨折のハイリスクの症例であっても放射線療法後に実際に骨折を発症したのは 20%以下であったとの報告もある 3, 4)。つまり現在では,放射線療法でも一定の成績は得られることが示唆されている。さらに骨転移は原発巣や内臓転移の状態,推定予後などさまざまな病態の症例が含まれるため手術適応に迷う場合が多く,予防的手術を行うことがよいのかは明確なエビデンスは確立されていない。しかしこの切迫骨折の状態でリハビリテーションを依頼される機会は少なくないと推察する。

そこで今回の改訂では,切迫骨折で予防的手術を行った場合の機能,ADL,QOL,および合併症を,病的骨折後に手術を行った場合と比較検討することとした。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①機能予後の改善(重要性8,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索からはエビデンスとなる文献は11 件採用された。

・評価

病的骨折を生じる前の手術(予防的手術)と病的骨折後の手術について,両者の機能の比較としては,単純に歩行あるいは荷重が可能となったか,自宅退院が可能であったか,という点で評価しているもののみである。

病的骨折の症例にさまざまな手術を行ったものを解析した場合,術後歩行可能となったのは61〜81%であると報告されている 5-10)。術式を分けて検討したものではZacherl らは人工骨頭で63%,骨接合では58%が歩行可能になったと報告している 11)。またvan Doorn らは100%の症例で機能改善があったとしている 12)。一方,病的骨折と切迫骨折を比較したものでは意見は一致していない。Arvinius らは病的骨折群では75.9%が歩行可能になったのに対して予防的手術群では100%歩行可能になったとし 10),Ward らも予防的手術では病的骨折に比べて入院期間が3 日短く,自宅退院が可能となる率が高く(79% vs.56%),サポートなしの歩行可能である率もより高い(35% vs. 12%)13),さらにDijstra らも,予防的手術では90%は歩行可能となり,病的骨折では69%が歩行可能となったのみで,歩行可能となるまでの時間も予防的手術で12 日,病的骨折では18 日を要したと報告し 6),いずれも予防的手術を推奨している。Edwards らも予防的手術では在院期間が病的骨折に比べて有意に短く,全荷重までの日数は約22 日早い(6.75 vs. 29)とし 14),van Geffen らも予防的手術ではもともと歩行可能であった場合には機能低下をきたしたものはなく,一方病的骨折後では 31%で低下があり有意差があったとしている 7)。一方,van Doorn らは予防的手術を行った25 例中2 例は臨床できなかったとして予防的手術には状態を悪化させる可能性もあるとして警鐘を鳴らしている 12)。予防的手術に否定的な意見としてAmpil らは予防的手術では57%が,病的骨折では80%が歩行可能となり,入院期間も予防的手術では中央値で6 日長いと報告している 15)。Tan らも予防的手術では60%,病的骨折では60.9%が歩行可能となり病的骨折後の成績が劣ってはいないことを報告している 5)

これらから,退院可能となるまでの機能回復に関しては予防的手術が早いが,最終的な機能に関しては明確な差があるとまではいえないと判断する。

・統合

病態の特殊性を考えると倫理的にランダム化比較試験はあり得ず,すべて後ろ向き研究であり,エビデンスの強さはC と判定した。

②手術侵襲と合併症(重要性8,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索からはエビデンスとなる文献は5 件採用された。ハンドサーチで1 件採用された。

・評価

予防的手術の優位性を指摘した文献として,Wedin らは上腕骨の症例で,局所のfailure は病的骨折後の症例の方が多い(11% vs. 4%)としている 16)。Ward らも予防的手術の方が有意に出血量が少ないことを指摘している 13)。一方,Aneja らは周術期の死亡,心,肺,脳血管の重篤な合併症,および入院期間について両者に有意差はなく,病的骨折後では輸血を要した頻度が高いが,DVT や肺塞栓については予防的手術で有意に頻度が高かったと注意を促している 17)。また出血量について有意差はないとしている報告や 6, 14),周術期の死亡は両者とも10%で差がないとの報告もある 5)

これらからわかることは,予防的手術の場合は出血量が少ない傾向があるが,合併症や周術期死亡率は病的骨折に比べて少ないとはいえないと考えられる。

・統合

疾患と手術の特殊性を考えるとランダム化比較試験はあり得ず,すべて後ろ向き研究であり,エビデンスの強さはC と判定した。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:C(弱)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,手術後の回復が早く,歩行可能となるまでの期間および入院期間が短いことが挙げられる。最終的な機能やADL が病的骨折後の手術より改善するかについては明確ではない。

害(望ましくない効果)として,予防的手術といえども合併症が軽減できるわけではなく,肺塞栓に関してはより発生しやすい可能性があることである。また冒頭で述べたように,画像で切迫骨折と判断されても現在では骨折に至る率はMirels の報告ほど高くはなく,切迫骨折に予防的手術を行うことはover treatment となる可能性がある。以上より画像所見を主体とする従来の基準のみで切迫骨折を判断して手術を行うことは害が益を上回る場合があると判断した。

患者の価値観・希望

切迫骨折であっても,疼痛で身動きもできない状態の場合は手術を強く希望する場合もある。一方,疼痛が少ない場合は希望する可能性が低いと考えられ,確実性は低く多様性は高い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

手術はコストが高く,特に人工骨に置換する場合はインプラント費用だけで100 万円を超える。しかしすべて保険適用であり,高額療養費制度も利用可能である。

・臨床適応性

手術には,①単純な内固定,②内固定に病巣掻爬と骨欠損部のセメント充填を併用するもの,③病巣部を切除し人工骨で置換するもの,の3 種類がある。単純な内固定は整形外科医が常勤する施設であればほとんどの施設で可能である。一方,骨セメントを併用する術式や,病巣部切除後に人工骨で置換する術式は,腫瘍専門整形外科医がいない施設では困難である。

総合評価

四肢長幹骨骨転移による切迫骨折の患者に対して,病的骨折が生じる前に予防的な手術を行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスの確実性は低く,予防的手術の優位性は高いとはいえないため,提案する(弱い推奨)とした。現在までの報告では予防的手術の優位性は高いとはいえず,さらに予防的手術の適応の判断基準となる切迫骨折の定義も確実性が低い。しかし既に放射線療法を行っているにもかかわらず疼痛が継続する症例や,腎癌,甲状腺癌で放射線療法の効果が期待できない症例,体重が重かったり,年齢や体力から有効な免荷が不可能である場合には,病的骨折に至る可能性が極めて高いと考えられ,症状緩和と治療期間の短縮のために骨折する前の段階での手術が勧められる。どの術式が適応になるのかについては原発巣の種類や予後で判断する必要があり,腫瘍専門整形外科医にコンサルトすることが望ましい。

■投票結果

付記

◉ 切迫骨折の基準

  1. 1)Harrington’s criteria for impending fracture 2)
    1 皮質骨の破壊 > 50%
    2 大腿骨近位病変で ≧2.5cm
    3 小転子の剥離骨折
    4 放射線療法後も疼痛が残存
  2. 2)Mirels スコア(表1, 21)
表1  Mirels による切迫骨折判断のためのスコアリングシステム

表2  Mirels による切迫骨折度と推奨治療

  • ※本CQ のアウトカムとして,ADL の改善,QOL の改善も挙げていたが,該当する文献は得られなかった。

文献

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付記文献
1)
Mirels H. Metastatic disease in long bones. A proposed scoring system for diagnosing impending pathologic fractures. Clin Orthop Relat Res. 1989;249:256-64.

CQ 06
脊椎転移による麻痺の症例に対して,手術施行を検討することは,手術施行を検討しない場合に比べて推奨されるか?

グレード2C
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
脊椎転移による麻痺の症例に対して,手術施行を検討することを提案する。

重要臨床課題の確認

脊椎転移に対しては,麻痺がなく疼痛のみの症状であれば放射線療法(RT)で良好な除痛を得られる可能性は高く,放射線療法を行うことが標準といえる 1, 2)

しかし脊髄圧迫による不全麻痺がある場合には,未治療前立腺がんや悪性リンパ腫のように放射線療法に高感受性の腫瘍では照射で麻痺回復が可能であるが 3),それ以外では麻痺の回復は期待できない場合が多く,手術も考慮に入れる必要がある。しかし骨転移症例は原発巣や内臓転移の状態,推定予後などさまざまな病態の症例が含まれるうえに,脊椎転移では四肢の骨転移に比べると手術侵襲が大きい。加えてすべての症例で麻痺が回復するわけではなく,数カ月後に麻痺が再悪化することもしばしばあるため適応に迷う場合が多く,脊椎転移による麻痺の症例に対し手術を行うことには明確なエビデンスは確立されていない。不全麻痺や対麻痺に対してリハビリテーションを依頼されることもある。そこで今回の改訂では,手術を行った場合の機能,ADL,QOL,および合併症を比較検討することとした。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
① ADL の改善(重要性8,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索からはエビデンスとなる文献はなく,ハンドサーチで6 件採用された。

・評価

直接にADL を評価した文献はないために,神経所見や運動機能,歩行能力が手術により改善する度合いを評価した。手術+RT vs. RT のみの2 群を直接比較した論文は2 件ある。Patchell らは4 歩歩行可能であればambulatory と定義し,治療後ambulatory であったのは手術+RT 群では84%,RT のみ群では57%で有意差を認め 4),Rades らは運動機能の改善は手術(除圧と固定)群では28%,RT のみ群は19%で有意差を認めた(p=0.024)と報告している 5)。しかし治療後ambulatory 率は手術+RT 群86%,RT のみ群67%と手術+RT 群が高いが,有意差には至っていない(p=0.3)。Chen らは6 論文のメタアナリシスを行い,移動能力の改善は手術±照射で22%,照射のみでは 12%であり有意差(p<0.01)があるとしている 6)

しかしこれらは術前に歩行可能であった症例も含まれている。それでは歩行不可能になっている症例の場合はどうであろうか。Patchell らは手術+RT 群では62%が,RT 群では19%が歩行可能となった(p=0.012)と,Rades らは手術+RT 群では45%が,RT 群では18%が歩行可能となった(p=0.29)と報告している。Chen らはこの2 文献についてメタアナリシスを行い,手術+RT 群が歩行能力の改善に優っているが有意ではないと結論づけている。

しかし前述の文献の症例のなかで65 歳以上の症例を分析した結果,65 歳以上の場合は手術を行っても運動機能,局所制御,生存率に関してRT 単独と比較して有意差がないと報告されている 7, 8)。コクラン・レビューでは,歩行不能,65 歳未満,対麻痺発症後48 時間以内,圧迫病変が単発,放射線療法に感受性が低い,予後が3 カ月以上の症例では手術+RT が有益かもしれないと結論づけている 1)

・統合

Patchell 論文はランダム化比較試験であり,Rades 論文は201 例のマッチドペア分析であるが,前者は既照射例を除外,後者は放射線に抵抗性のある腫瘍に限定されており,両者とも推定予後が3 カ月以上,手術に耐え得ると判断されるなど曖昧な基準で症例選択されている。Patchell 論文の対象症例は脊髄圧迫をきたした症例の10〜15%にすぎないと想定されており,エビデンスとしては弱い。よって,エビデンスの強さはC と判定した。

② QOL の改善(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索からはエビデンスとなる文献はなく,ハンドサーチで9 件採用された。

・評価

手術に関する多くの文献は機能のみを評価しており,QOL を評価しているものはごく少数である 9)。手術群と非手術群のQOL を直接比較した文献は2 件あり,いずれも患者および家族が治療法を選択した結果をFunctional Assessment of Cancer Therapy-General(FACT-G)で評価している 10, 11)。両者ともsocial/family 以外は手術群の方が非手術群よりも優っており,手術では多くの項目で術前より改善した一方,非手術では差がないか低下していると報告している。対照をもたない症例集積研究ではEORTC QLQ-C30 を用いたものが3 件あり,Falicov らは術後6 カ月でglobal health status,role functioning,emotional functioning,social functioning は改善し 12),Bernard らは術後45 日ではすべての項目で改善したと報告している 13)。Quan らは退院時ではsocial/family 以外は有意に改善し,経時的改善傾向があり1 年生存者では全項目で改善したと述べている 14)。その他の評価法の結果では,Wai らはEdmonton Symptom Assessment Scale で評価し術後9 項目中6 項目で6 カ月まで改善が維持されていたと 15),Ruiter らはEQ5D で評価しいずれの術式でも術前より改善し効果は1 年まで持続したと 16),Fehlings らは手術により疼痛は有意に改善し,SF-36 では8 項目中6 項目で改善したと述べている 17)。一方,ECOG のPS で評価すると有意差はないという結果もあり 12),手術を行うことがQOL の改善に寄与する可能性が高いが,評価法により結果が安定しないことが推測される。

・統合

症例対照研究と後ろ向き症例集積研究のみであり,エビデンスレベルとしては低くエビデンスの強さはC と判定した。

③手術の合併症(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索からはエビデンスとなる文献は採用されたものはなく,ハンドサーチで9 件採用された。

・評価

合併症の定義によりその発生率はさまざまな値が報告されている。一般に合併症は早期および晩期に分類されるがその区別も単純ではない。周術期の合併症は10〜27%程度と報告されている 8, 17-23)。内容としては,感染,血腫,肺炎,DVT 等がある。既往症や高齢が合併症のリスク因子とされ 22),年齢が1 歳上がるごとに死亡率が 1%上がるという報告もある 20)。また周術期死亡を術後1 カ月以内の死亡と定義すると,Patil らは 5.6%,Fehlings らは 9%が周術期に死亡したと報告している。Jansson らは13%が周術期に死亡し,そのうち3%は合併症によると報告している 21)。しかし手術により生存期間に悪影響を与えていることはないとも報告されている 7, 8)。近年,最小侵襲脊椎固定術(MISTs)といわれる小侵襲の手術により出血や合併症の減少が報告されているため今後の報告に期待したい 24)

・統合

厳密な前向きランダム化比較試験はないのでエビデンスとしては弱い。しかし当然であるが放射線療法のみでは感染や近位型DVT,血腫といった重篤な合併症はほとんど発生しないため,手術に重篤な合併症が多いと考えられ,エビデンスの強さはB と判定した。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:C(弱)

益と害のバランス評価

手術そのものについての益(望ましい効果)として,麻痺や移動能力の改善が優れていることが挙げられる。また疼痛の改善が放射線療法単独に比べて優れている可能性があることも挙げられる。特に骨折による脊椎不安定性から生じる疼痛の場合は,手術による固定が優れている。

害(望ましくない効果)として合併症率が比較的高いことが挙げられる。

一定の条件を満たしたもとでは,手術を行うことは機能や疼痛改善には益があり,合併症の可能性があるものの生存期間には悪影響を与えていない可能性が高く,そのため益が害を上回る場合もあると判断した。手術施行を検討すること自体は害がないため,手術施行を検討することは益が害を上回ると判断した。

患者の価値観・希望

脊椎転移に対する手術の目的は病気の治癒ではなく一定期間疼痛や移動能力を改善することであり,麻痺の改善は放射線療法に比べて優っている可能性が高いが確実ではないこと,さらに生命に関わる合併症のリスクがあることなどの特徴を患者に十分説明した場合,手術を選択する確実性は高くはない。一方,多様性に関しては,手術ではなく薬物による緩和医療や除痛目的の放射線療法のみを希望する患者も一定の割合で存在する。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

脊椎転移に対する固定手術は放射線療法単独より圧倒的にコストが高い。固定に用いるインプラント費用だけで100 万円以上を要するが,すべて保険適用であり高額療養費制度も利用が可能である。

・臨床適応性

慎重な除圧操作や大出血に対する対応が必要になり,脊椎手術に習熟した医師が必要となるため,現在では手術を行うことができる施設は限られている。

総合評価

脊椎転移による麻痺の症例に対して,手術施行を検討することを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスの確実性は低く,提案する(弱い推奨)とした。しかし,手術の適応となる一定の条件を満たした場合には手術で利点がある可能性があるため,遅滞なく脊椎専門医と相談し手術の適応があるか否かを検討し,患者と話し合うことは重要である。手術適応があると判断される場合には手術の益と害を十分に説明し,患者自身の希望に応じた選択をすることが望まれる。

■投票結果

付記

◉ 脊椎転移の手術適応

手術適応としては必ずしも統一されたものはない。一般的にいわれている適応の基準は,
・完全麻痺になってから72 時間以内
・予後が3(〜6)カ月以上
・耐術性がある
・脊椎手術既往がない
・脊椎の不安定性がある
・保存的治療に抵抗性の強い疼痛がある,あるいは不全麻痺がある
・病変が1 カ所に限局している
といったものである 1-6)。原発巣の種類について放射線に感受性の高い悪性リンパ腫と骨髄腫を除外しているものもある 7)。高感受性の腫瘍だけでなく放射線療法抵抗性のものも除外している報告もある 8)。コクラン・レビューではさらに手術適応を限定して,
・完全麻痺になってから48 時間以内
・65 歳未満
・歩行不能
・単発圧迫病変
・予後>3 カ月
・放射線療法抵抗性腫瘍
の場合には手術により利益があるかもしれないと記述している。

文献

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Ibrahim A, Crockard A, Antonietti P, et al. Does spinal surgery improve the quality of life for those with extradural(spinal)osseous metastases? An international multicenter prospective observational study of 223 patients. Invited submission from the Joint Section Meeting on Disorders of the Spine and Peripheral Nerves, March 2007. J Neurosurg Spine. 2008;8:271-8.
8)
Fehlings MG, Nater A, Tetreault L, et al. Survival and clinical outcomes in surgically treated patients with metastatic epidural spinal cord compression:results of the prospective multicenter AOSpine study. J Clin Oncol. 2016;34:268-76.

CQ 07
骨転移によりADL やQOL が障害されている患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2C
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
骨転移によりADL やQOL が障害されている患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

American Cancer Society(ACS),American College of Sports Medicine(ACSM)のガイドラインでは,いずれにおいても,がん治療中・後の運動を実施する際には特別のリスク管理を要するが,運動の実施は安全であり,体力,筋力,QOL,疲労の改善に有効である,と総括されている。しかし,骨転移を有する患者においては,病的骨折や脊髄圧迫による麻痺を生じる危険性があり,特別な配慮が必要であると考えられる。本ガイドライン初版(推奨グレードB)から引き続き,今回の改訂でもCQ として採用した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①機能予後の改善(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験1 件と,観察研究5 件を採用した。ハンドサーチからランダム化比較試験1 件と,観察研究2 件を採用した。

・評価

Rief らは,放射線療法を実施された脊椎転移患者に対する,傍脊柱筋の筋力増強訓練に関するRCT の実行可能性について検討している。介入群に割り振られた30 症例中の25 症例(83.3%)で訓練は実施可能であった。介入は週に5 回,2 週間の個別に設定された筋力増強訓練を実施された。対照群に対しては呼吸訓練および物理療法などが実施された。筋力増強訓練を実施した群において,椅子からの立ち上がりテストで有意な改善を得たとしている。また疼痛も有意に改善したとしている 1)

McKinley らは,脊椎転移を生じリハビリテーション治療の実施が可能であった32 症例の調査を行っている。入院時と比較して退院時には移乗などの介助量が有意に軽減したとしている。また84%で自宅退院が可能であった 2)

Ruff らは,脊椎転移により歩行困難となった症例に対してリハビリテーション治療を実施した介入群と,リハビリテーション治療が実施されなかった対照群とで比較を行っている。リハビリテーション治療が実施された群の67%で移乗が可能となったが,リハビリテーション治療非実施群では移乗が可能となった症例はなかった。また,リハビリテーション治療実施群の75%で自宅退院が可能であったのに対して,リハビリテーション治療非実施群では20%にとどまった 3)

Tang らは,脊椎転移により脊髄圧迫を生じリハビリテーション病棟に入院した63 症例の調査を行った。FIM の中央値は入院時に83 であったものが退院時には102 まで改善し,有意差がみられていた。FIM 効率は0.38/日であったとしている 4)

Parsch らは,脊椎転移により脊髄圧迫を生じ脊髄損傷ユニットに入院した68 症例の調査を行った。リハビリテーション治療を遂行できたのは51 症例であった。FIM の中央値は入院時に62 であったものが退院時には84 まで改善し,有意差がみられていた。FIM 効率は0.33/日であったとしている 5)

Fattal らは,脊椎転移により対麻痺を呈した症例を対象とし,アウトカムとして機能的状態,疼痛,膀胱機能を報告している研究のレビューを行っている。47 件の研究が対象となった。リハビリテーション治療前に歩行可能であった 3,050 症例は治療後に11%が歩行能力を喪失していた。その一方で,治療前に歩行不能であった2,352 症例は治療後に50%が歩行能力を再獲得していた 6)

Cormie らは,骨転移のある前立腺がん患者20 症例に対して12 週間の筋力増強訓練を実施したランダム化比較試験を実施している。12 週間の訓練終了後,通常のケア群と比較して,筋力増強訓練を実施した群において,筋力,歩行能力,活動性で有意な改善が得られたとしている 7)

Cormie らの追加の報告によると,6 カ月後のフォローアップにおいて,身体機能と活動性,QOL の向上が得られたとしている 8)

王谷らは,骨転移のある34 症例にリハビリテーション治療を実施し,その効果について報告している。リハビリテーション治療開始前のBarthel 指数(BI)は中央値70 であったものが,終了時の中央値は95 と改善していた。生命予後予測が短期の患者13 症例においても,11 例でBI の改善が得られていた 9)

Bunting らは,骨転移による病的骨折でリハビリテーション病院に入院した58 症例の調査を行っている。入院時には全症例で移乗や歩行を行うことができなかったが,退院時には45%で移乗が可能となり,40%で歩行が可能となった。また59%の症例が自宅退院可能であった。Kenny score においても入院時と比較して退院時には有意な改善が得られていた 10)

・統合

ランダム化比較試験があり,立ち上がりテストで有意差が得られていた。しかし立ち上がりテストはセカンダリーエンドポイントであった。その他にも複数の文献が抽出されているが,いずれも観察研究であった。このため,エビデンスの強さはC と判定した。

②病的骨折や脊髄圧迫による麻痺の発生(害:重要性9,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Rief らは,放射線療法を実施された脊椎転移患者に対して,傍脊柱筋の筋力増強訓練に関するRCT の実行可能性について検討している。介入は週に5 回,2 週間の個別に設定された筋力増強訓練を実施された。介入群,対照群ともに病的骨折や麻痺の増悪は生じていなかった 1)

・統合

骨折や麻痺の増悪についてはセカンダリーエンドポイントであった。また,対象となっている症例数が60 例と少ないため,有害事象の発生が観察されなかった可能性がある。ランダム化比較試験ではあるものの,エビデンスの強さはC と判定した。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:C(弱)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,歩行能力向上などのADL 改善がみられていた。またQOL 改善が得られたとしているものもみられた。害としては,運動負荷による病的骨折や脊髄圧迫による麻痺が考えられるが,リハビリテーション治療によりこれらの有害事象が増加するとしたエビデンスはみられなかった。有害事象の危険性を評価し,適切な訓練処方をすることで,益が害を上回ると考えられる。しかし,訓練中にこれらの有害事象を生じる頻度は高くはないと想定されるため,十分なサンプル数を有する報告が待たれるところである。

患者の価値観・希望

骨転移を有する患者においても,移動や排泄などの活動を希望することはあると想定される。その際,安全に苦痛なく動作ができるよう,リハビリテーション治療を実施されることを患者が希望する可能性は高いと考えられる。その一方で,リハビリテーション治療において疼痛を伴うこともあり,症状によっては患者が訓練の実施を希望しない可能性もあり得る。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

「がん患者リハビリテーション科」が算定できる患者では,保険診療の対象となるため,患者のコスト負担は少ない。

・臨床適応性

骨転移を有する患者では,病的骨折や脊髄圧迫による麻痺などの有害事象のリスクを考慮してリハビリテーション治療を実施する必要がある。この判断のもと,高い専門性をもつ医師により訓練処方が行われる必要がある。

総合評価

骨転移によりADL やQOL が障害されている患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことを提案する。

骨転移を有する患者のリハビリテーションでは有害事象に注意が必要であるが,害に関する報告はなく,益の確実性はあるものと考えられる。しかし,有害事象に関する報告は少なく,情報バイアスが存在する可能性がある。

重要なアウトカムに対するエビデンスは十分ではないが,患者の価値観は確実性が高く,多様性は低い(一致している)。保険診療で実施されるため,患者のコスト負担も少なく,多くの医療機関で実施できることから,正味の利益はコストや医療資源に十分に見合っている。以上より,提案する(弱い推奨)とした。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・転移性骨腫瘍を有する患者においても,歩行ができるということは QOL 向上につながると考えられる。
  • ・有害事象の報告はあまりないが,バイアスの問題もある。特に溶骨性の病変である場合には,訓練中のリスク管理や適応基準が重要となる。そのためにも骨転移のカンファレンスやキャンサーボードを行い,治療内容を多職種で考え,運動療法を行っていくことが重要である。
■投票結果

付記

◉ 骨転移における活動制限

骨転移を有する患者において,病的骨折や脊髄圧迫による麻痺を恐れるあまり,過度な活動制限を実施され,廃用症候群を生じる危険性が想定される。がん患者は深部静脈血栓症やせん妄のリスク因子ももっていることから,活動制限を実施することはこれらの合併症を生じるリスクも高くなる危険性があることに配慮する必要がある。また,活動制限は患者のQOL を低下させるものとなるため,必要最低限とするべきである。

実際のリハビリテーション治療においては,有害事象のリスクを評価し,十分に安全に配慮したうえで,可能な限り活動を促していくことが望ましいと考えられる。

  • ※本CQ のアウトカムとして,QOL の改善も挙げていたが,該当する文献は得られなかった。

文献

1)
Rief H, Omlor G, Akbar M, et al. Feasibility of isometric spinal muscle training in patients with bone metastases under radiation therapy – first results of a randomized pilot trial. BMC Cancer. 2014;14:67.
2)
McKinley WO, Conti-Wyneken AR, Vokac CW, et al. Rehabilitative functional outcome of patients with neoplastic spinal cord compressions. Arch Phys Med Rehabil. 1996;77:892-5.
3)
Ruff RL, Adamson VW, Ruff SS, et al. Directed rehabilitation reduces pain and depression while increasing independence and satisfaction with life for patients with paraplegia due to epidural metastatic spinal cord compression. J Rehabil Res Dev. 2007;44:1-10.
4)
Tang V, Harvey D, Park Dorsay J, et al. Prognostic indicators in metastatic spinal cord compression:using functional independence measure and Tokuhashi scale to optimize rehabilitation planning. Spinal Cord. 2007;45:671-7.
5)
Parsch D, Mikut R, Abel R. Postacute management of patients with spinal cord injury due to metastatic tumour disease:survival and efficacy of rehabilitation. Spinal Cord. 2003;41:205-10.
6)
Fattal C, Fabbro M, Rouays-Mabit H, et al. Metastatic paraplegia and functional outcomes:perspectives and limitations for rehabilitation care. Part 2. Arch Phys Med Rehabil. 2011;92:134-45.
7)
Cormie P, Newton RU, Spry N, et al. Safety and efficacy of resistance exercise in prostate cancer patients with bone metastases. Prostate Cancer Prostatic Dis. 2013;16:328-35.
8)
Cormie P, Galvão DA, Spry N, et al. Functional benefits are sustained after a program of supervised resistance exercise in cancer patients with bone metastases:longitudinal results of a pilot study. Support Care Cancer. 2014;22:1537-48.
9)
王谷英達,濱田健一郎,坂井孝司,他.骨転移治療戦略とがんのリハビリテーション 転移性骨腫瘍患者へのがんリハビリテーションの現状.日整会誌.2015;89:786-9.
10)
Bunting RW, Boublik M, Blevins FT, et al. Functional outcome of pathologic fracture secondary to malignant disease in a rehabilitation hospital. Cancer. 1992;69:98-102.

CQ 08
骨転移を有し病的骨折や脊髄圧迫による麻痺の危険性がある患者に対して,装具を使用することは,使用しない場合に比べて推奨されるか?

グレード2C
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
骨転移を有し病的骨折や脊髄圧迫による麻痺の危険性がある患者に対して,装具を使用することを提案する。

重要臨床課題の確認

椎体圧迫骨折や長管骨骨折などに対する保存的治療や後療法として装具を使用される機会は多くみられる。同様に,骨転移においても病的骨折や脊髄圧迫による麻痺を予防する目的で装具が使用されている。装具の使用により病的骨折や脊髄圧迫による麻痺の予防が可能かを検討する目的で,本ガイドライン初版(推奨グレードC1)から引き続き,今回の改訂でもCQ として採用した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①骨関連事象の抑制(重要性9,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索からはエビデンスとなる文献は得られなかった。ハンドサーチにより,脊椎転移患者における装具療法に関する観察研究2 件を採用した。

・評価

Rief らは,胸腰推の脊椎転移に対する放射線療法後に体幹装具を使用することの効果について後方視的コホート調査を行っている。915 症例が対象となり,放射線療法後6 カ月の時点で82 症例(9.0%)に病的骨折が発生していた。病的骨折の発生頻度は体幹装具群で8.6%,体幹装具を使用されなかった群で9.3%に生じていた。これらの間に有意差はなかった。この調査の限界は,後方視的コホート調査であり,放射線照射前に椎体の不安定性がある症例は体幹装具群68.3%,体幹装具を使用しなかった群32.3%で有意差を認めている。この点が体幹装具の効果の減弱を生じている可能性がある 1)

中田らは,脊椎転移に対して保存的加療を行った58 例を対象として,SINS による評価を実施し,SINS が中等度あるいは重度の不安定性があると判断される症例に対して装具を(カラー,コルセット等)着用して離床させた。これらの装具の着用期間は3 カ月としている。6 カ月間のフォローが行われた。初診時に麻痺を認めなかった症例において全例で麻痺の出現はなかった。初診時麻痺を認めた6 症例では,改善3 症例,不変2 症例,増悪1 症例であった 2)

・統合

観察研究であるため,エビデンスの強さはC と判定した。Rief らの研究については,体幹装具を使用した群に椎体の不安定性がある症例が多く含まれている。この交絡因子により,装具の効果が過小評価されている可能性がある。

②機能予後の改善(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索からランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Bailey らは,後彎が軽度かつ神経学的異常のない胸腰推破裂骨折に対する体幹装具の効果について,RCT を実施している。体幹装具を着用した47 症例と,装具を着用しなかった49 症例の比較において,受傷後3 カ月時の Roland Morris Disability Questionnaire Score(RMDQ)や後彎変形に有意な差を認めなかったとしている 3)

・統合

ランダム化比較試験のデザインではあるが,対象患者は胸腰椎破裂骨折となっており,非直接性が存在する。また,評価はRMDQ で実施されており,患者自身の主観的評価が含まれている。実際の患者のADL を反映しているかは不明である。これらより,エビデンスの強さはC と判定した。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:C(弱)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,麻痺の予防効果がみられた。一方で,病的骨折の発生に関しては有意差が得られていなかった。害(望ましくない効果)として装具による褥瘡が想定されるが,今回採用された文献にはこの発生に関する記述はみられなかった。脊髄圧迫による麻痺の発生を抑制することは益が大きいと判断した。

患者の価値観・希望

装具の着用は患者にとって圧迫感などの不快感を伴うことがある。また,体幹装具の使用は,起き上がりなどの基本動作の妨げとなる可能性がある。患者の希望については多様性を伴うと考えられる。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

装具の作製は医療保険の適用になるが,療養費払いとして,作製費用を患者に一時負担してもらう必要がある。

・臨床適応性

装具は侵襲を伴う治療ではないが,着用による不快感や作製時の費用負担を生じる。適応にあたっては,装具の必要性を個別に考慮し,患者に十分説明することが必要である。

装具は義肢装具士により作製される。義肢装具士が常勤,あるいは訪問している医療機関において作製が可能である。

総合評価

骨転移を有し病的骨折や脊髄圧迫による麻痺の危険性がある患者に対して,装具を使用することを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスは十分ではないが,重大な害を生じる可能性は低い。患者の価値観は確実性があるが,多様性も存在するものと考えられる。保険診療で実施されるため,患者のコスト負担は少なく,多くの医療機関で実施できることから,正味の利益はコストや医療資源に見合うものと考えられる。以上より,提案する(弱い推奨)とした。

装具の主な対象は,脊椎転移と四肢の骨転移になると考えられるが,今回得られたエビデンスは前者のみであった。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・装具を作製することで,義肢装具士からも着脱方法の指導などが行われる。患者の知識が増えることはQOL 向上につながる可能性もある。
■投票結果

付記
◉ 放射線療法との併用

骨転移に対して放射線療法を施行される機会は多く,良好な除痛効果が報告されている。しかし手術による固定術とは異なり,転移部の病的骨折のリスクはすぐには解決されない点に注意が必要である。照射後,骨の強度が回復するまでには数カ月を要するものと考えられる。このため,装具を補助的に使用することも考慮するべきである。

◉ 骨転移診療ガイドライン

日本臨床腫瘍学会から,2015 年に骨転移診療ガイドラインが刊行された。このなかで,装具療法のエビデンスは不十分ながらも,装具を使用することを強く推奨している。専門家による投票結果に基づいており,質の高いエキスパートコンセンサスとして,参考にするべきである。

  • ※本CQ のアウトカムとして,QOL の改善,装具による褥瘡も挙げていたが,該当する文献は得られなかった。

文献

1)
Rief H, Förster R, Rieken S, et al. The influence of orthopedic corsets on the incidence of pathological fractures in patients with spinal bone metastases after radiotherapy. BMC Cancer. 2015;15:745.
2)
中田英二,杉原進介,尾崎敏文.脊椎 SRE(skeletal related events)の保存的治療の治療成績.中四整外会誌.2014;26:279-83.
3)
Bailey CS, Urquhart JC, Dvorak MF, et al. Orthosis versus no orthosis for the treatment of thoracolumbar burst fractures without neurologic injury:a multicenter prospective randomized equivalence trial. Spine J. 2014;14:2557-64.

CQ 09
骨転移を有する患者に対して,ADL 向上のために放射線療法を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2C
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
骨転移を有する患者に対して,ADL 向上のために放射線療法を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

骨転移では,疼痛や脊髄圧迫による麻痺などによりADL の低下をきたすことがある。このような症例に対して,骨折や麻痺の予防目的に放射線療法が選択されることもある。これらの有害事象のリスクが軽減されることでADL が改善する可能性もあると考えられる。本ガイドライン初版のCQ としては,骨関連事象の予防効果としていたが,今回の改訂では放射線療法のADL 向上に関する効果について検討することとした。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①機能予後の改善(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,観察研究2 件を採用した。また,ハンドサーチから系統的レビュー1 件,観察研究6 件を採用した。

・評価

George らは,コクラン・レビューにおいて脊椎転移に対する放射線療法の効果についてレビューしている。そこでは照射回数による効果の比較,手術やステロイド併用による効果の比較などが検討されている。照射回数と歩行能力の比較が行われているが,有意差は得られなかった。放射線療法前に歩行不能であった症例では,放射線療法後に歩行が再獲得できる可能性は16〜29%であったとしている 1)

Rades らは,脊椎転移に対して放射線療法のみを実施された216 症例と,手術および放射線療法を実施された108 症例の症例対照研究を実施している。運動機能の改善が放射線単独では27%,放射線に手術を追加した群では26%で得られたとしている。そして治療前に歩行不能であった患者のそれぞれ 30%と26%で歩行能力が再獲得されたとしている。また,運動機能の改善が得られやすい原発巣は骨髄腫・リンパ腫(63%),乳がん(29%)であった 2)

Rades らは,脊椎転移に対して放射線療法を実施した2,096 症例の調査を行っている。放射線療法後に68%で歩行が可能であったとしている。歩行能力の予測因子としては,ECOG のPS(RR 14.28, 95%CI:4.38-46.54),原発巣(RR 7.75, 95%CI:3.48-16.06),腫瘍の診断から脊髄圧迫までの期間(RR 1.81, 95%CI:1.29-2.54),内臓転移(RR 1.58, 95%CI:1.14-2.20),放射線療法前の運動機能(RR 21.41, 95%CI:7.72-59.40),運動障害発生に至った期間(RR 8.20, 95%CI:5.59-12.05)であった。骨髄腫・リンパ腫89%,乳がん81%,前立腺がん68%で放射線療法後に歩行可能である症例が多くみられた 3)

Rades らは,放射線療法後に歩行が可能となるかを予測するモデルを構築している。予測因子は,原発巣のタイプ(5〜9 点),腫瘍の診断から脊髄圧迫を生じるまでの期間(6〜8 点),放射線療法時の内臓転移の有無(5〜8 点),放射線療法前の運動機能(1〜10 点),放射線療法前の運動障害の進行期間(4〜9 点)の5 項目(合計21〜44 点)である。点数により3 群に分けたところ,放射線療法後に歩行可能であったのは,21〜28 点の群では6.2〜10.6%,29〜37 点の群では68.4〜70.9%,38〜44 点の群では98.5〜98.7%であった 4)

Kida らは,脊椎転移に対する放射線療法の効果について調査を行っている。放射線療法後には神経学的障害のある28 症例のうち7 症例(25%)で改善が得られていた。そのうちFrankel 分類A の患者で改善が得られたのは15%,Frankel 分類C の患者で改善が得られたのは46%であった 5)

Townsend らは,大腿骨,寛骨臼,上腕骨の病的骨折や切迫骨折を生じた60 症例の調査を行っている。手術に放射線療法を加えた群と,手術のみの群を比較する症例対照研究が報告されている。そこでは手術に放射線療法を加えた群では53%,手術のみの群では11.5%で良好な上肢または下肢機能を獲得できていたとしている 6)

中田らは,脊椎転移に対して保存的加療を行った58 症例を対象として,SINS による評価を行った。53 症例で放射線療法が実施されていた。SINS が中等度あるいは不安定と判断される症例に対してフィラデルフィアカラーやハローベスト固定として離床させた。これらの装具の着用期間は3 カ月としている。6 カ月間のフォローが行われた。初診時に麻痺を認めなかった症例において全例で麻痺の出現はなかった。初診時麻痺を認めた6 症例では,改善3 症例,不変2 症例,増悪1 症例であった。平均 Barthel 指数(BI)は開始時71 で経時的に改善し,最終観察時は82 であった 7)

Harada らは,大腿骨転移に対する放射線療法の効果に関する72 症例84 病変の調査を行った。照射後3 カ月の時点で画像所見において改善がみられたのは42%(35/84 病変)であった。23%(19/84 病変)では画像所見で増悪がみられていた。13%(11/84 病変)で追加の手術が必要になった。画像所見において増悪がみられた症例は42%(8/19 病変)で手術が必要となった。全身療法(化学療法やホルモン療法),ビスフォスフォネート製剤を使用されている症例において画像所見の改善がみられる傾向にあり,原発巣としては,肺がん(65%),乳がん(47%),前立腺がん(42%)で画像所見の改善が得られていた 8)

片桐らは,大腿骨転移に対する放射線療法の効果について調査を行った。放射線療法により85%(60/71 症例)の症例で生存期間中に骨折が回避されていた。そして歩行機能が維持または再獲得された症例は65%であった 9)

・統合

システマティックレビューが1 件あるものの,放射線照射の回数の比較であった。介入の非直接性があり,その他の報告は観察研究であったことから,エビデンスの強さはC と判定した。

②急性有害反応の出現(害:重要性7,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索から採用された文献はなかった。ハンドサーチからランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Howell らは,有痛性の脊椎転移に対する放射線療法に関するランダム化比較試験を実施している。ここでは8Gy 単回照射を実施された124 症例と30Gy 複数回照射を実施された111 症例とを比較している。疼痛改善効果は両群間で有意差を認めなかった。放射線療法による副作用としては,Common Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)グレード2〜4 の有害事象は,8Gy 単回照射では10%,30Gy 複数回照射では20%生じ,有意差を認めていた。グレード4 の有害事象は8Gy 単回照射群では発生しなかったのに対し,30Gy 複数回照射では2 例の有害事象を生じていた 10)

・統合

質の高いランダム化比較試験が含まれており,エビデンスの強さはA と判定した。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:C(弱)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,歩行能力などのADL が改善したとする報告が複数みられた。エビデンスの確実性は高くないものの,歩行能力の再獲得による益は大きいと考えられる。害(望ましくない効果)として,放射線療法による有害事象の頻度は低く,CTCAE グレード4 以上の重大な有害事象は稀であった。このことより,益が害を上回ると判断した。

患者の価値観・希望

骨転移は疼痛を伴うことも多く,放射線療法の疼痛抑制効果は確実性の高いものとなっている。疼痛が改善し,ADL の改善が期待できることは多くの患者が行うことを希望すると考えられる。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

骨転移に対する放射線療法は医療保険の適用となり,そのコストも高いものではない。

・臨床適応性

放射線療法には,照射装置が必要である。治療可能な施設はがん治療を実施している大規模医療機関に限られる。

総合評価

骨転移を有する患者に対して,ADL 向上のために放射線療法を行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスは十分ではないが,重大な害を生じる可能性は低い。患者の価値観は確実性が高く,多様性は低い(一致している)ものと考えられる。保険診療で実施されるため,患者のコスト負担も少なく,正味の利益はコストや医療資源に見合っている。以上より,提案する(弱い推奨)とした。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・放射線療法による疼痛改善によりADL が向上している可能性があると考えられる。
  • ・ADL が低下している場合は,疼痛や麻痺のいずれかがあると思われる。禁忌事項がなければ放射線療法を行わないことは倫理的な問題もあると考えられる。
■投票結果

付記
※本CQ のアウトカムとして,QOL の改善も挙げていたが,該当する文献は得られなかった。

文献

1)
George R, Jeba J, Ramkumar G, et al. Interventions for the treatment of metastatic extradural spinal cord compression in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2015:CD006716.
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Rades D, Rudat V, Veninga T, et al. A score predicting posttreatment ambulatory status in patients irradiated for metastatic spinal cord compression. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2008;72:905-8.
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Rades D, Douglas S, Huttenlocher S, et al. Validation of a score predicting post-treatment ambulatory status after radiotherapy for metastatic spinal cord compression. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2011;79:1503-6.
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Kida A, Taniguchi S, Fukuda H, et al. Radiation therapy for metastatic spinal tumors. Radiat Med. 2000;18:15-20.
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中田英二,杉原進介,尾崎敏文.脊椎 SRE(skeletal related events)の保存的治療の治療成績.中四整外会誌.2014;26:279-83.
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Harada H, Katagiri H, Kamata M, et al. Radiological response and clinical outcome in patients with femoral bone metastases after radiotherapy. J Radiat Res. 2010;51:131-6.
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10)
Howell DD, James JL, Hartsell WF, et al. Single-fraction radiotherapy versus multifraction radiotherapy for palliation of painful vertebral bone metastases-equivalent efficacy, less toxicity, more convenient:a subset analysis of Radiation Therapy Oncology Group trial 97-14. Cancer. 2013;119:888-96.

CQ 10
骨転移を有する患者に対して,リハビリテーションゴール設定のために生命予後の予測評価法を用いることは,用いない場合に比べて推奨されるか?

グレード1C
推奨の強さ強い推奨
エビデンスの
確実性
骨転移を有する患者に対して,リハビリテーションゴール設定のために,生命予後の予測評価法を用いることを推奨する。

重要臨床課題の確認

リハビリテーション治療の実施にあたっては,その目的とゴール設定を明確にすることが必要である。がんにより遠隔転移を生じている状態では,生命予後は不良であることも少なくない。生命予後はリハビリテーションのゴール設定に与える影響は大きいものと考えられる。

そこで今回の改訂ではCQ を新規に追加し,生命予後予測の有用性について検討することとした。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①予測精度(害:重要性5,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,観察研究8 件を採用した。ハンドサーチから観察研究5 件を採用した。

・評価

Fattal らは,脊椎転移により脊髄圧迫をきたした症例の生命予後の報告に関するレビューを行っている。対象となった38 件の報告では,生存期間の中央値は2.4〜30 カ月であり,12 カ月後の生存率は12〜58%であったとしている 1)

Katagiri らは,350 症例の前向きコホート調査により骨転移患者の生命予後の調査を行った。そこでは原発巣(0〜3 点),内臓・脳転移(0〜2 点),PS 不良(0〜1 点),化学療法の既往(0〜1 点),多発骨転移(0〜1 点)の5 つが予測因子として挙げられている。合計8 点のスコアであり,高得点ほど生命予後は不良と予測する方法である。6 点以上の予後不良と予測される群では,6 カ月時の生存率は 31.3%(95%CI:22.4-40.1),12 カ月時の生存率は 10.9%(95%CI:4.9-16.9)であった 2)

Katagiri らは,808 例の前向きコホート調査により骨転移患者の生命予後を調査し,2005 年の Katagiri らのスコアの改訂を行った。そこでは原発巣(0〜3 点),内臓・脳転移(0〜2 点),血液検査異常(0〜2 点),PS 不良(0〜1 点),化学療法の既往(0〜1 点),多発骨転移(0〜1 点)の6 つが予測因子として挙げられている。合計10 点のスコアであり,高得点ほど生命予後は不良と予測する方法である。7 点以上の予後不良と予測される群では6 カ月時の生存率は26.9%(95%CI:22.2-31.6),12 カ月時の生存率は6.0%(95%CI:3.5-8.5)であった。2005 年の Katagiri の方法では予後不良と予測される群の12 カ月時の生存率は44%であり,改訂版では予測精度が向上したとしている 3)

片桐らは,下肢・体幹の手術を行った骨転移症例53 症例を対象とし,生命予後予測スコア(新片桐スコア)と達成された移動能力の関連を調査している。0〜3 点の低リスク群,4〜6 点の中リスク群,7〜10 点の高リスク群と分類して分析が行われた。低・中リスク群では79%で歩行が可能となっていた。それに対して高リスク群で歩行可能となったのは58%であり,25%で自宅退院が不可能であった 4)

Tokuhashi らは,246 症例の準前向きコホート調査により脊椎転移患者の生命予後を予測する方法を構築している。そこではPS(0〜2 点),脊椎以外の他の骨転移数(0〜2 点),脊椎転移の数(0〜2 点),原発巣の種類(0〜5 点),主要臓器転移の有無(0〜2 点),麻痺の状態(0〜2 点)の6 つが予測因子として挙げられている。合計15 点のスコアであり,高得点ほど生命予後は良好と予測する方法である。0〜8 点は予後6 カ月未満,12〜15 点は1 年以上の予後と予測する。0〜8 点の予後不良群では85.3%,12〜15 点の予後良好群では95.4%で予測が的中したとしている 5)

徳橋らは,脊椎転移のある246 症例の調査では,予後判定点数12〜15 点(予想予後1 年以上)では,手術,保存療法のいずれにおいてもBarthel 指数(BI)90 以上が期待でき,80%以上が自宅退院となるとしている。その一方で,判定点数8 点以下(予想予後6 カ月以内)はBI が不良であり,自宅退院も困難であったとしている 6)

Tang らは,脊椎転移により脊髄圧迫を生じ,リハビリテーション病棟に入院した63 症例の調査を行った。FIM の中央値は入院時に83 であったものが,退院時には102 まで改善し,有意差がみられていた。多変量解析の結果,FIM 改善を予測する因子はTokuhashi スコアとリハビリテーション実施期間の長さであった。それぞれのオッズ比は1.30(95%CI:1.04-1.62),1.04(95%CI:1.01-1.07)であった 7)

Tomita らは,67 症例の後ろ向きコホート調査により,脊椎転移患者の生命予後を予測する方法を構築している。そこでは原発巣(1〜4 点),内臓転移(0〜4 点),骨転移数(1〜2 点)の3 つが予測因子として挙げられている。合計10 点(最低点2 点)のスコアであり,高得点ほど生命予後は不良と予測する方法である。スコアにより脊椎転移に対する手術適応や術式を示している。61 症例に対してそのスコアに応じた治療を実施している。予後良好と予測される群(2〜5 点)の生存期間は6〜84 カ月(平均38.2 カ月)であったとしている 8)

Bauer らは,241 症例の手術を実施された骨転移患者における生命予後の調査を行っている。重回帰分析により抽出された予測因子は,病的骨折,内臓または脳転移,肺がんであった。この結果をもとに3 つの予測因子からなる予測モデルを構築している。予後良好と予測される群では1 年後の生存率は 50%であったとしている 9)

Kim らは,112 症例の脊椎転移症例においてTomita スコアとTokuhashi スコアの再現性を検証している。Tomita スコアの予後良好群(2〜3 点)では平均生存期間53.6 カ月(95%CI:36.3-70.8),予後不良群(8〜10 点)では平均生存期間4.6 カ月(95%CI:3.2-6.0)であった。Tokuhashi スコアの予後良好群(12〜15 点)では平均生存期間37.1 カ月(95%CI:18.9-55.3),予後不良群(0〜8 点)では平均生存期間9.4 カ月(95%CI:6.6-12.3)であった。スコアと生存期間の相関係数はそれぞれ-0.994 と0.790 であり,Tomita スコアが生存期間との関連がより強くみられていた 10)

Dardic らは,196 症例の脊椎転移症例において生命予後予測スコアの再現性を検証している。Tokuhashi スコアでは予後良好群(12〜15 点)と予後不良群(0〜8 点)ではハザード比3.72(95%CI:2.17-6.39)であった。Tomita スコアでは予後良好群(2〜3 点)と予後不良群(8〜10 点)ではハザード比 5.65(95%CI:3.81-9.01)であった。Bauer スコアでは予後良好群と予後不良群ではハザード比 6.90(95%CI:4.16-11.44)であった 11)

Ogihara らは,肺がんによる脊椎転移症例114 症例の生命予後を調査している。多変量解析において,PS,血清 Ca,Alb 値が生命予後と関連していたとしている。そしてTokuhashi スコアで予後良好とされる症例において,必ずしもその生命予後は良好ではなかったとしている 12)

Ulmar らは,乳がんによる脊椎転移のある55 症例の生命予後を調査している。Tokuhashi スコアを改訂することで予測精度は向上したとしている 13)。Ulmar らは,乳がん以外の原発巣の脊椎転移症例217 症例における生命予後の調査でも同様の結果を得たとしている 14)

・統合

骨転移を有する患者における生命予後予測モデルの報告は複数みられた。複数の予測因子を組み合わせることによりスコア化するモデルであった。それらの一部は再現性の検証も行われている。いずれの研究デザインも観察研究であった。エビデンスの強さはC と判定した。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:C(弱)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)に関するエビデンスはみられなかった。しかしリハビリテーション治療を開始する際には,その目的を明確にすることは一般的である。特にがん患者では生命予後がさまざまであり,リハビリテーション治療の目的を明確にするためには,生命予後の予測が重要となる。害(望ましくない効果)として想定されるものはなく,益と害のバランスでは益が上回ると予想される。

患者の価値観・希望

生命予後を予測することで患者の負担となることはなく,大多数の患者がそれを拒むことはないと考えられる。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

今回抽出された予測モデルは,病歴や画像,疼痛などから行うものである。これらは通常の診療において実施されているものであり,追加のコストは発生しないものと考えられる。

リハビリテーション治療については,入院中のがん患者では「がん患者リハビリテーション料」が算定できるため,患者のコスト負担は少ない。

・臨床適応性

上述のように,今回検索された評価方法は,通常の診療において実施されているものであると考えられる。特殊な検査機器などは必要としないため,一般的な医療機関で実施可能であると考えられる。

総合評価

骨転移を有する患者に対して,リハビリテーションゴール設定のために,生命予後の予測評価法を用いることを推奨する。

リハビリテーション治療を実施するにあたり,ゴール設定を行い,治療目的を明確にすることは一般的である。

重要なアウトカムに対するエビデンスは十分ではないが,害を生じる可能性は低い。患者の価値観は確実性が高く,多様性は低い(一致している)ものと考えられる。保険診療で実施されるため,患者のコスト負担も少なく,多くの医療機関で実施できることから,正味の利益はコストや医療資源に十分見合っている。以上より,推奨する(強い推奨)とした。

■投票結果

付記

◉ 生命予後予測の必要性

リハビリテーション治療においては,将来の機能予後を予測し,治療計画を行うことが一般的である。特にがん患者では予後がさまざまであり,リハビリテーションの目的も多様となる。Dietz はがん患者のリハビリテーション治療の目的として予防的・回復的・維持的・緩和的を挙げている。これを明確にするためには,生命予後を予測することが必要となる。

◉ がん治療の進歩

がん治療の進歩により,がん患者の生命予後は改善している。このため,生命予後予測評価を用いる際には,最新のものを用いることが望ましいと考えられる。

  • ※本CQ のアウトカムとして,機能予後の改善,QOL の改善,治療期間の適正化も挙げていたが,該当する文献は得られなかった。

文献

1)
Fattal C, Fabbro M, Gelis A, et al. Metastatic paraplegia and vital prognosis:perspectives and limitations for rehabilitation care. Part 1. Arch Phys Med Rehabil. 2011;92:125-33.
2)
Katagiri H, Takahashi M, Wakai K, et al. Prognostic factors and a scoring system for patients with skeletal metastasis. J Bone Joint Surg Br. 2005;87:698-703.
3)
Katagiri H, Okada R, Takagi T, et al. New prognostic factors and scoring system for patients with skeletal metastasis. Cancer Med. 2014;3:1359-67.
4)
片桐浩久,田沼明,高橋満,他.骨転移治療戦略とがんのリハビリテーション 骨転移手術のリハビリテーション 予後スコアとリハビリテーションのゴールについて.日整会誌.2015;89:790-7.
5)
Tokuhashi Y, Matsuzaki H, Oda H, et al. A revised scoring system for preoperative evaluation of metastatic spine tumor prognosis. Spine. 2005;30:2186-91.
6)
徳橋泰明,上井浩,大島正史,他.転移性骨腫瘍への治療戦略(脊椎・骨盤・四肢)転移性脊椎腫瘍に対する手術療法.日整会誌.2013;87:903-8.
7)
Tang V, Harvey D, Park Dorsay J, et al. Prognostic indicators in metastatic spinal cord compression:using functional independence measure and Tokuhashi scale to optimize rehabilitation planning. Spinal Cord. 2007;45:671-7.
8)
Tomita K, Kawahara N, Kobayashi T, et al. Surgical strategy for spinal metastases. Spine. 2001;26:298-306.
9)
Bauer HC, Wedin R. Survival after surgery for spinal and extremity metastases. Prognostication in 241 patients. Acta Orthop Scand. 1995;66:143-6.
10)
Kim J, Lee SH, Park SJ, et al. Analysis of the predictive role and new proposal for surgical strategies based on the modified Tomita and Tokuhashi scoring systems for spinal metastasis. World J Surg Oncol. 2014;12:245.
11)
Dardic M, Wibmer C, Berghold A, et al. Evaluation of prognostic scoring systems for spinal metastases in 196 patients treated during 2005-2010. Eur Spine J. 2015;24:2133-41.
12)
Ogihara S, Seichi A, Hozumi T, et al. Prognostic factors for patients with spinal metastases from lung cancer. Spine. 2006;31:1585-90.
13)
Ulmar B, Richter M, Cakir B, et al. The Tokuhashi score:significant predictive value for the life expectancy of patients with breast cancer with spinal metastases. Spine. 2005;30:2222-6.
14)
Ulmar B, Huch K, Naumann U, et al. Evaluation of the Tokuhashi prognosis score and its modifications in 217 patients with vertebral metastases. Eur J Surg Oncol. 2007;33:914-9.

第 8 章 脳腫瘍

CQ 01
脳腫瘍患者に対して,リハビリテーション治療を行った場合に,その治療効果を確認する評価の方法は?

解説

リハビリテーション医療においては,リハビリテーション治療の効果を確認するための評価を行うことは重要である。本ガイドライン初版では脳腫瘍領域の系統的なリハビリテーション評価に関しては,独自性のあるものこそ多くはないが,他の領域でも用いられている適切な評価を行いながらリハビリテーション医療を行うことが推奨された(グレードB)。今回のガイドライン改訂においては,本ガイドライン初版掲載の評価項目に,2011 年以降の文献において新たに加えられた評価法や前回は未掲載であった評価法を追記し,項目および参照文献のみの記述とした。

◎評価の方法

脳腫瘍患者は,運動障害,感覚障害,高次脳機能障害,摂食・嚥下障害を抱える。脳腫瘍のリハビリテーション評価は,同様の障害を抱える脳卒中のリハビリテーションの評価法を使用することができると考える。しかし,病状の進行による全身状態や症状の変化は脳卒中とは異なるため,評価のタイミング,評価法の変更や追加などを検討する必要がある。リハビリテーション治療を行うにあたり,全般的身体機能,日常生活動作,生活の質,高次脳機能障害を患者の状態に応じて系統的に評価するために,以下の尺度を用いることが勧められる。

  1. 全般的身体機能:KPS(Karnofsky Performance Scale)
  2. 日常生活動作:機能的自立度評価法(Functional Independence Measure;FIM),Barthel 指数
  3. 生活の質:FACT-Br(Functional Assessment of Cancer Therapy-Brain),EORTC QLQ-BN20(The European Organization for Research and Treatment of Cancer Quality of Life Questionnaire BN20 module),SF-36(MOS 36-Item Short-Form Health Survey)
  4. 高次脳機能障害の総合的評価:MMSE(Mini-Mental State Examination),改訂版長谷川式簡易知能評価スケール(Hasegawa Dementia Rating Scale-Revised;HDS-R)

がんの全般的な身体機能の評価としてKPS があり,脳腫瘍の場合でも用いられる 1-3)

脳腫瘍に対してリハビリテーション治療を行うとき,日常生活動作(activities of daily living;ADL)の評価として機能的自立度評価法(FIM)1, 4-8)やBarthel 指数 2, 9-12)がよく用いられる。Barthel 指数はKPS と相関し 2),また,生存期間とも関連性が認められる 2)。FIM もKPS との相関がみられる 1)

生活の質(quality of life;QOL)の評価では,脳腫瘍に特化したものとしてFACT-Br 1, 11, 13),EORTC QLQ-BN20 14)がある。リハビリテーション治療によりQOL が改善し,また,QOL の改善はADL の改善より遅れることが指摘されている 1)。一般的なQOL 尺度であるSF-36 が用いられることもある 15)

脳腫瘍では高次脳機能障害が高率にみられ,20〜80%と報告されており 9, 16),スクリーニング検査は重要である。高次脳機能障害の評価には多くの種類の神経心理学的検査があり,記憶,注意,遂行機能などが評価されるが 17),スクリーニング検査として有用なのはMMSE3)である。MMSE はKPS および神経学的所見と相関し 3),病状の変化を捉えることができる。わが国では改訂版長谷川式簡易知能評価スケールも用いられる。病状が進行するとき,ADL ,QOL の悪化に先行して神経心理学的検査による結果が悪化し 11),注意の低下がADL の低下を招く 18)ことが指摘されている。

脳腫瘍患者に対して,リハビリテーション治療を行った場合にその治療効果を確認する評価の方法について紹介した。今回のガイドライン改訂では,脳腫瘍のリハビリテーション治療領域における機能障害の多様性や評価項目の幅広さから,重要臨床課題としては扱うが個々の評価の詳細記載や集積した論文の総体的なエビデンス評価は行わず,推奨も決定しないこととし,項目および参照文献のみ掲載した。

文献

1)
Huang ME, Wartella JE, Kreutzer JS. Functional outcomes and quality of life in patients with brain tumors: a preliminary report. Arch Phys Med Rehabil. 2001;82:1540-6.
2)
Brazil L, Thomas R, Laing R, et al. Verbally administered Barthel Index as functional assessment in brain tumour patients. J Neurooncol. 1997;34:187-92.
3)
Choucair AK, Scott C, Urtasun R, et al. Quality of life and neuropsychological evaluation for patients with malignant astrocytomas: RTOG 91-14. Radiation Therapy Oncology Group. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 1997;38:9-20.
4)
Fu JB, Parsons HA, Shin KY, et al. Comparison of functional outcomes in low-and high-grade astrocytoma rehabilitation inpatients. Am J Phys Med Rehabil. 2010;89:205-12.
5)
Greenberg E, Treger I, Ring H. Rehabilitation outcomes in patients with brain tumors and acute stroke: comparative study of inpatient rehabilitation. Am J Phys Med Rehabil. 2006;85:568-73.
6)
和田勇治,赤星和人,永田雅章.脳腫瘍開頭術後患者の入院リハビリテーションの機能的帰結.総合リハ.2010;38:275-80.
7)
Marciniak CM, Sliwa JA, Heinemann AW, et al. Functional outcomes of persons with brain tumors after inpatient rehabilitation. Arch Phys Med Rehabil. 2001;82:457-63.
8)
Khan F, Amatya B, Drummond K, et al. Effectiveness of integrated multidisciplinary rehabilitation in primary brain cancer survivors in an Australian community cohort: a controlled clinical trial. J Rehabil Med. 2014;46:754-60.
9)
百瀬由佳,小林一成.脳腫瘍入院患者に対する早期リハビリテーションの効果.Jpn J Rehabil Med.2007;44:745-50.
10)
水落和也,小野恵子.悪性腫瘍による脊髄障害と脳腫瘍による麻痺への対応.J Clin Rehabil.2001;10:604-9.
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Li J, Bentzen SM, Renschler M, et al. Relationship between neurocognitive function and quality of life after whole-brain radiotherapy in patients with brain metastasis. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2008;71:64-70.
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Yoon J, Chun MH, Lee SJ, et al. Effect of virtual reality-based rehabilitation on upper-extremity function in patients with brain tumor: controlled trial. Am J Phys Med Rehabil. 2015;94:449-59.
13)
Huang ME, Wartella JE, Kreutzer JS. Functional outcomes and quality of life in patients with brain tumors: a preliminary report. Arch Phys Med Rehabil. 2001;82:1540-6.
14)
Pace A, Parisi C, Di Lelio M, et al. Home rehabilitation for brain tumor patients. J Exp Clin Cancer Res. 2007;26:297-300.
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Neil-Dwyer G, Lang D, Garfield J. The realities of postoperative disability and the carer’s burden. Ann R Coll Surg Engl. 2001;83:215-8.
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Mukand JA, Blackinton DD, Crincoli MG, et al. Incidence of neurologic deficits and rehabilitation of patients with brain tumors. Am J Phys Med Rehabil. 2001;80:346-50.
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Gehring K, Sitskoorn MM, Gundy CM, et al. Cognitive rehabilitation in patients with gliomas: a randomized, controlled trial. J Clin Oncol. 2009;27:3712-22.
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Papazoglou A, King TZ, Morris RD, et al. Attention mediates radiation’s impact on daily living skills in children treated for brain tumors. Pediatr Blood Cancer. 2008;50:1253-7.

CQ 02
運動障害を有する脳腫瘍患者に対して,リハビリテーション治療を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2C
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
運動障害を有する脳腫瘍患者に対して,リハビリテーション治療を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

脳腫瘍患者は,腫瘍そのものによる運動麻痺や感覚障害,協調性障害などに加え,手術療法や化学療法,放射線療法など治療の副作用の影響も受けるため,リハビリテーション治療のニーズが高い症例が多い。しかし,本ガイドライン初版においては,運動障害を有する脳腫瘍患者へのリハビリテーション治療の効果を明確に示した介入研究がなく,その臨床的な重要性を高いエビデンスで示すことができなかった。そこで,今回の改訂でもCQ として取り上げ,エビデンスを検証することとした。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
① ADL の改善(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,システマティックレビュー1 件,比較対照研究2 件,前後比較研究1 件を採
用した。

・評価

脳腫瘍患者に対する多職種によるリハビリテーション治療の効果についてのシステマティックレビュー 1)では,症例対照研究を1 件採用しており,エビデンスは低いがADL の改善に有効であると結論づけている。この症例対照研究において,Khan ら 2)は治療後の脳腫瘍患者106 名を対象に,多職種の外来リハビリテーション介入群と,対照群(リハビリテーション治療は行わず,地域で通常の活動を続けた)で機能的自立度評価法(FIM)を評価した。介入3 カ月後において,介入群は対照群と比較して複数のFIM 下位項目(セルフケア,排泄コントロール,移乗,移動,コミュニケーション)で有意差を認めた。さらに介入6 カ月後においても,介入群は対照群と比較して複数のFIM 下位項目(排泄コントロール,コミュニケーション,社会的認知)の改善が維持されていた。

介入内容に関しては,介入群では理学療法,作業療法,心理カウンセリング,ソーシャルワークを組み合わせた外来リハビリテーション治療が30 分間,週2〜3 回,6〜8 週間行われた。

Yoon ら 3)は40 名の脳腫瘍患者を対象に,介入群〔virtual reality-based(以下 VR)リハビリテーション治療と作業療法との組み合わせ〕と対照群(作業療法のみ)でKorean-version of the Modified Barthel 指数(BI)を評価した。両群間に有意な差は認めなかったが,両群ともにADL の改善を認めた。

Sarah ら 4)は,術後入院中の脳腫瘍患者に対して個別的な有酸素運動によるリハビリテーション治療を行い,治療後の持久力(6 分間歩行テスト),ADL(FIM の運動項目)の評価を行った。前後比較において,介入群では6 分間歩行テスト,FIM の運動項目ともに,有意な改善を認めた。

・統合

システマティックレビューはKhan ら 2)の症例対照研究のみを採用しており,本アウトカムにおいても同じ研究を採用した。この研究はランダム化比較試験ではないが,検査者や治療者に対する盲検化や割り付けの際には腫瘍の進行に応じたmatching が行われており,バイアスリスクへの配慮がなされていた。このKhan ら 2)の症例対照研究,Yoon ら 3)の研究,Sarah ら 4)の研究,すべてにおいてリハビリテーション治療によるADL の改善を支持する結果であったため,エビデンスの強さはB と判定した。

② QOL の改善(重要性8,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,比較対照研究1 件,前後比較研究3 件を採用した。

・評価

Khan ら 2)は治療後の脳腫瘍患者106 名を対象に,多職種の外来リハビリテーション介入群とコントロール群(リハビリテーション治療は行わず,地域で通常の活動を続けた)で,Cancer Rehabilitation Evaluation System-Short Form(CARES-SF)を評価した。両群間において有意な差は認めなかった。

Ayotte ら 4)は,術後入院中の脳腫瘍患者に対して個別的な有酸素運動によるリハビリテーション治療を行い,QOL をFACIT-F(Functional Assessment of Chronic Illness Therapy-Fatigue)により評価した。前後比較において,介入後ではFACIT-F の有意な改善を認めた。

Huang ら 5)は原発性脳腫瘍術後の入院患者10 名を対象に,多職種リハビリテーション治療(理学療法,作業療法,言語療法,レクリエーション療法,看護,ケースワーク)を7〜35 日間行い,QOL の評価指
標であるFACT-Br(Functional Assessment Of Cancer Therapy-Brain)を調査した。ベースラインと
比較して,退院時,退院1 カ月後,退院3 カ月後は改善傾向であった。

Pace ら 6)は脳腫瘍手術を受けた患者121 名に自宅退院後3 カ月間のリハビリテーションプログラムを行い,脳腫瘍患者のQOL の指標であるEORTC QLQ-C30,EORTC QLQ-BN20 を評価した。治療前と治療後にQOL アンケートを完了したのは54 名であったが,その 72%ではベースラインと比較して少なくとも1 つのドメインスコアの改善がみられた。

・統合

採用論文においては,一致した見解は得られなかった。しかしながら,リハビリテーション治療によりQOL は維持または改善傾向を示す報告が多いため,エビデンスの強さはC と判定した。

③精神機能の改善(重要性6,エビデンスの強さ:D)

・検索

系統的文献検索を行い,比較対照研究1 件を採用した。

・評価

Khan ら 2)は治療後の脳腫瘍患者106 名を対象に,多職種の外来リハビリテーション介入群と対照群(リハビリテーション治療は行わず,地域で通常の活動を続けた)で,Depression Anxiety Stress Scale-21 を評価した。両群間において有意な差は認めなかった。

・統合

本論文はバイアスリスクへの配慮がなされているが,症例対照研究1 件のみであり,エビデンスの強さはD とした。

④運動療法による有害事象の頻度の増加(害:重要性6,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,比較対照研究2 件を採用した。

・評価

Khan ら 2)は治療後の脳腫瘍患者106 名を対象に,多職種の外来リハビリテーション介入群と対照群(リハビリテーション治療は行わず,地域で通常の活動を続けた)で,臨床的必要性に応じて割り付けた。介入群,対照群ともに,治療中の転倒やけがはみられなかった。また,脳腫瘍関連症状(疼痛/頭痛)の報告は,介入群と対照群において差を認めなかったが,両群とも半数の症例が症状を報告した。

Yoon ら 3)は40 名の脳腫瘍患者を対象に,VR リハビリテーション治療と作業療法とを組み合わせた介入群と作業療法のみの対照群を比較したが,両群において有害事象は認めなかった。

・統合

比較対照研究2 件のみの結果であることから,エビデンスの強さはC と判定した。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:C(弱)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,ADL の改善,一部のQOL の改善は認められたが,その益は小さかった。一方,害(望ましくない効果)として,有害事象の増加は認められなかった。以上より,益が害を上回ってはいるが,その効果の差は小さいと判断した。

患者の価値観・希望

害が少なく益が大きい治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられ,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

入院中には,「がん患者リハビリテーション料」の診療報酬算定により保険診療で実施できる。一方,外来では「がん患者リハビリテーション料」の算定要件を満たさないため(入院中に限定される),保険診療で実施することはできない。

・臨床適応性(外的妥当性)

多くのがん専門医療機関では,入院中には保険診療により,リハビリテーション科医,リハビリテーション専門職(理学療法士等)から構成されるリハビリテーションチームの体制のもとで,監督下での運動療法(supervised exercise)を行うことができるため,臨床適応性は高い。

一方,外来では保険診療の適用外になるため,監督下での運動療法および専門スタッフの監督なしで行う,在宅を基盤とした運動療法(home-based exercise)ともに,実施可能な医療機関は少なく現状では臨床適応性は低い。

総合評価

運動障害を有する脳腫瘍患者に対して,リハビリテーション治療を行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスの確実性は低いが,害を生じる可能性は低く,症例の価値観は確実性が高く,多様性は低い(一致している)。保険診療で実施されるため患者のコスト負担は少なく,多くの医療機関で実施できることから,正味の利益はコストや医療資源に十分に見合っており,提案する(弱い推奨)とした。しかし,膠芽腫など悪性度の高い種類の脳腫瘍は,病状が急速に悪化する可能性がありアドヒアランスが得られない場合があるため,腫瘍の種類や部位,生命予後により,リハビリテーション治療の内容を調整する必要がある。

本CQ では,2017 年のシステマティックレビュー1 件を採用したが,ランダム化比較試験の報告はなく,比較対照研究2 件,前後比較研究3 件を採用することとなった。今後,研究報告のさらなる蓄積が待たれる。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・脳腫瘍自体は不安が大きい。何かをできるということ自体が希望となるので,リハビリテーション治療を行う意味は大きい。
■投票結果

付記

◉ 脳腫瘍患者に対するリハビリテーション治療

脳腫瘍のリハビリテーション治療の効果に関する質の高い研究は依然少ないが,多くの症例で脳卒中のリハビリテーション治療の技法を使用することができる。周術期には片麻痺,失調症などの運動障害,高次脳機能障害,摂食嚥下障害等に対して,機能回復,社会復帰を目的としてリハビリテーション治療を行う。一方,再発や腫瘍の増大に伴い神経症状が悪化しつつある症例は,全身状態や症状に応じた維持的もしくは緩和的リハビリテーション治療の適応となる。その際には,脳浮腫の悪化,腫瘍からの出血,痙攣発作,水頭症などで意識状態や神経症状の変動がしばしばみられるため,リハビリテーション治療を行う際には注意が必要である。

◉ 化学療法,放射線療法中の脳腫瘍患者に対するリハビリテーション治療の有効性について

化学療法,放射線療法中の脳腫瘍患者に対するリハビリテーション治療は重要であるが,研究論文はいまだ少ない。

Bigatão ら 1)のランダム化比較試験では,化学放射線療法中の高悪性度の成人神経膠腫患者23 名を介入群(倦怠感に対する予防教育プログラム:教育用リーフレットとADL 指導による患者教育)と対照群(通常のケア)へ無作為に割り付け,Functional Assessment of Chronic Illness Therapy-Fatigue(FACIT-F)と Beck Depression Inventory(BDI)を用いてQOL と抑うつ,倦怠感を評価した。その結果,両群間に有意な差は認めなかったが,介入群においてのみ介入後のQOL と抑うつ,倦怠感が有意に改善した。また,Ruden ら 2)の前方視的観察研究では ,サルベージ治療または薬物療法中の悪性の神経膠腫再発患者243 名を対象に,運動習慣(Godin Leisure-Time Exercise Questionnaire)とその後の生存率の関係性が調査された。その結果,運動習慣は生存の独立した予測因子であったことを報告している。

これらの報告から,治療中の脳腫瘍患者においても,QOL や抑うつ,倦怠感,治療後の生存期間に対してリハビリテーション治療が有効である可能性が示されたが,これらの研究のみでエビデンスを検討することは困難であり,今後さらなる研究の蓄積が必要である。

文献

1)
Khan F, Amatya B, Ng L, et al. Multidisciplinary rehabilitation after primary brain tumour treatment. Cochrane Database Syst Rev. 2015:CD009509.
2)
Khan F, Amatya B, Drummond K, et al. Effectiveness of integrated multidisciplinary rehabilitation in primary brain cancer survivors in an Australian community cohort:a controlled clinical trial. J Rehabil Med. 2014;46:754-60.
3)
Yoon J, Chun MH, Lee SJ, et al. Effect of virtual reality-based rehabilitation on upper-extremity function in patients with brain tumor:controlled trial. Am J Phys Med Rehabil. 2015;94:449-59.
4)
Ayotte S, Harro C. Effects of an Individualized Aerobic Exercise Program in Individuals With a Brain Tumor Undergoing Inpatient Rehabilitation:A Feasibility Study. Rehabilitation Oncology. 2017;35:163-71.
5)
Huang ME, Wartella JE, Kreutzer JS. Functional outcomes and quality of life in patients with brain tumors:a preliminary report. Arch Phys Med Rehabil. 2001;82:1540-6.
6)
Pace A, Parisi C, Di Lelio M, et al. Home rehabilitation for brain tumor patients. J Exp Clin Cancer Res. 2007;26:297-300.
付記文献
1)
Bigatão Mdos R, Peria FM, Tirapelli DP, et al. Educational program on fatigue for brain tumor patients:possibility strategy? Arq Neuropsiquiatr. 2016;74:155-60.
2)
Ruden E, Reardon DA, Coan AD, et al. Exercise behavior, functional capacity, and survival in adults with malignant recurrent glioma. J Clin Oncol. 2011;29:2918-23.

CQ 03
脳腫瘍の高次脳機能障害に対して,リハビリテーション治療を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード1A
推奨の強さ強い推奨
エビデンスの
確実性
脳腫瘍の高次脳機能障害に対して,リハビリテーション治療を行うことを推奨する。

重要臨床課題の確認

脳腫瘍の高次脳機能障害は,注意障害,記憶障害,遂行機能障害,社会行動障害などを主症状とする認知障害をいう。失語,失認,失行とは区別して扱われることが多い。脳腫瘍患者の20〜80%に高次脳機能障害,14〜24%に失語がみられるとの報告がある。高次脳機能障害により,日常生活,社会生活が妨げられることが多く,リハビリテーションアプローチの重要課題となる。

本ガイドライン初版においては,「脳腫瘍の高次脳機能障害に対して,リハビリテーションを行うことは,行わない場合に比べて,認知機能を改善させるか?」というCQ を取り上げ,グレードB で推奨した。

今回の改訂でも新たなエビデンスを加えて有用性を示すため,CQ として採用し検証することとした。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①認知機能の改善(重要性8,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を用い,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

Zucchella ら 1)は,原発性脳腫瘍患者53 名を対象に,介入群25 名(コンピュータ演習とメタ認知訓練)と対照群 28 名(認知訓練なしの通常のケア)へ無作為に割り付け,神経心理学的尺度を調査した。言語記憶の評価指標である Rey Auditory Verbal Learning Test(RAVLT)の遅延再生,logical memory for verbal memory の即時再生と遅延再生,視覚注意の評価指標であるTrail Making Test A(TMTA),Trail Making Test B(TMTB),Attentive Matrices for visual selective attention において介入群に優位な改善を示した。介入群は,リハビリテーション療法士による個別指導の認知訓練を4 週間にわたり16 時間実施した。

Gehring ら 2)は,低悪性度および退形成性神経膠腫患者140 名を対象に,介入群70 名(臨床心理士による多面的な認知リハビリテーションプログラム)と対照群70 名(通常ケア)に無作為に割り付け,認知機能を評価した。短期(介入直後)では,主観的認知症状の改善を認め,長期(6 カ月後)では神経心理的検査と精神疲労の改善を認めた。介入群は,注意,記憶,遂行機能に対する教育と,実践的な代償的訓練を7 週間実施した。プログラムは週6 回,各2 時間の個別指導と数時間の宿題,およびコンピューターベースでの再訓練から構成されていた。

・統合

2 つのランダム化比較試験において,介入群で複数の評価項目で認知機能の有意な改善を認めたことから,エビデンスの強さはA と判定した。

② QOL の改善(重要性6,エビデンスの強さ:D)

・検索

系統的文献検索を用い,ランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Gehring ら 2)は,神経膠腫患者140 名を対象に,介入群70 名(臨床心理士による多面的な認知リハビリテーションプログラム)と対照群70 名(通常ケア)に無作為に割り付け,QOL の評価指標であるSF-36 を評価した結果,介入直後,6 カ月後の評価でも統計学的に有意な改善は認められなかった。

・統合

採用論文においては,リハビリテーション治療によるQOL の改善を認めなかったため,エビデンスの強さはD と判定した。

③有害事象の増加(害:重要性6,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を用い,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

Zucchella ら 1)は,原発性脳腫瘍患者53 名を対象に,介入群25 名(コンピュータ演習とメタ認知訓練)と対照群28 名(認知訓練なしの通常のケア)へ無作為に割り付け,神経心理学的尺度を調査した。両群において脱落の理由は原疾患に起因するものであり,認知訓練による有害事象の増加は認めなかった。

Gehring ら 2)は,神経膠腫患者140 名を対象に,介入群70 名(臨床心理士による多面的な認知リハビリテーションプログラム)と対照群70 名(通常ケア)に無作為に割り付け,認知機能を評価した。認知リハビリテーションプログラムによる有害事象の増加は認めなかった。

・統合

採用文献においては,リハビリテーション治療による有害事象の増加を認めなかったため,エビデンスの強さはC と判定した。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:A(強)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,認知機能の改善が認められた。一方,害(望ましくない効果)として,有害事象の増加(病状悪化,疲労の増加など)は認められなかった。以上より,益が害を上回っており,その効果の差は大きいと判断した。

患者の価値観・希望

害が少なく益が大きい治療であるため,社会復帰,学力向上プログラムとして多くの患者が行うことを希望すると考えられ,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

入院中には,「がん患者リハビリテーション料」の診療報酬算定により保険診療で実施できる。一方,外来では「がん患者リハビリテーション料」の算定要件を満たさないため(入院中に限定される),保険診療で実施することはできない。退院時指導を受けたうえで自主訓練および介護者の介助による訓練を行うことは,コスト負担が少なく実施できる。

・臨床適応性(外的妥当性)

多くのがん専門医療機関では,入院中には保険診療により,リハビリテーション科医,リハビリテーション専門職(理学療法士,作業療法士等)から構成されるリハビリテーションチームの体制のもとで,認知機能訓練を行うことができるため,臨床適応性は高い。しかし,アドヒアランスには注意が必要であり,生命予後を考慮したうえで介入内容を調整する必要がある。

一方,外来では保険診療の適用外になるため,監督下での認知機能訓練は実施可能な医療機関は少なく,現状では臨床適応性は低い。

総合評価

脳腫瘍の高次脳機能障害に対して,リハビリテーション治療を行うことを推奨する。

重要なアウトカムに対するエビデンスの確実性は高く,益と害のバランスが確実である(益の確実性が高い)。患者の価値観は確実性が高く,多様性は低い(一致している)。保険診療で実施されるため患者のコスト負担は少なく,多くの医療機関で実施できることから,正味の利益はコストや医療資源に十分に見合っており,推奨する(強い推奨)とした。障害の内容に応じて,適切なリハビリテーション介入を行うことが求められる。

■投票結果

付記

◉ 脳腫瘍と高次脳機能障害について

高次脳機能障害とは,「注意障害,記憶障害,遂行機能障害,社会的行動障害などを主症状とする認知障害」であり,脳腫瘍患者の 20〜80%にみられるという報告がある 1, 2)。失語,失認,失行も高次脳機能障害に分類される症状であるが,区別して扱われることが多い。脳腫瘍患者においては,失語は14〜24%にみられるとの報告がある 1, 2)

注意障害では,集中できない,ミスが多い,ものをみつけるのに時間がかかる,同時に複数のことができないなどの症状,記憶障害では,新しいことが覚えられない,以前覚えていたことを思い出せない,などの症状,遂行機能障害では,計画を立てて要領よく行動できない,時間に遅れる,などの症状がみられる。欲求コントロール低下,感情爆発,対人技能拙劣,固執性などは,社会的行動障害とよばれる。高次脳機能障害に対する病識が欠如していることも多い。高次脳機能障害により日常生活および社会生活が妨げられることが多く,リハビリテーションアプローチが重要になる。

◉ 放射線療法による高次脳機能障害

高次脳機能障害は脳腫瘍そのものにより発症するだけでなく,放射線療法によっても起こり得る。脳腫瘍が消失していても,放射線療法の数年後に晩期反応として,高次脳機能障害が発症することもある。放射線療法が認知機能に及ぼす影響は,放射線療法の適用時期や線量(分割線量,総線量),照射方法(全脳照射,局所照射など)のみならず,患者要素(年齢,併存症など),脳腫瘍の性状と症状(組織,部位,大きさ,神経所見,てんかんの有無など),治療内容(手術,化学療法,抗てんかん剤の有無など)などにより変化し得ると考えられ,一律に論じることはできないが,脳腫瘍では常に高次脳機能障害が出現し得ることを念頭に,障害評価を行う必要がある。

文献

1)
Zucchella C, Capone A, Codella V, et al. Cognitive rehabilitation for early post-surgery inpatients affected by primary brain tumor:a randomized, controlled trial. J Neurooncol. 2013;114:93-100.
2)
Gehring K, Sitskoorn MM, Gundy CM, et al. Cognitive rehabilitation in patients with gliomas:a randomized, controlled trial. J Clin Oncol. 2009;27:3712-22.
付記文献
1)
百瀬由佳,小林一成 . 脳腫瘍入院患者に対する早期リハビリテーションの効果 . Jpn J Rehabil Med. 2007;44:745-50.
2)
Mukand JA, Blackinton DD, Crincoli MG, et al. Incidence of neurologic deficits and rehabilitation of patients with brain tumors. Am J Phys Med Rehabil. 2001;80:346-50.

第 9 章 血液腫瘍・造血幹細胞移植

CQ 01
血液腫瘍に対して造血幹細胞移植が行われた患者に対して,造血幹細胞移植中・後にリハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード1A
推奨の強さ強い推奨
エビデンスの
確実性
血液腫瘍に対して造血幹細胞移植が行われた患者に対して,造血幹細胞移植中・後にリハビリテーション治療(運動療法)を行うことを推奨する。

重要臨床課題の確認

造血幹細胞移植患者では,移植治療中より身体活動性が低下し,筋力や運動耐容能などの身体機能低下,不安・抑うつなどの精神機能の低下,心理面への影響が生じる。そして,これらは健康関連QOL やADL 低下の原因となる。また,全身倦怠感をはじめとする身体症状も移植治療中に頻回に出現し,患者のQOL を低下させる。このような機能低下や身体症状に対してリハビリテーション治療(運動療法)が有効であることが示されており,その適応や効果に関するエビデンスを十分に検討し臨床応用する必要がある。本ガイドライン初版では,造血幹細胞移植中・後のリハビリテーション治療(運動療法)の有用性がCQ として検討され,推奨グレードA もしくはB と判断されている。そこで,今回の改訂でもCQ として採用し,リハビリテーション治療(運動療法)の有用性を検討することにした。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①身体活動性の改善(重要性8,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

身体活動性に対する運動療法の有効性を示した研究はランダム化比較試験が2 件あり 1, 2),両研究とも有用性が認められた。

Hacker ら 1, 2)は,造血幹細胞移植患者に自重やレジスタンスバンドを用いた上下肢・体幹筋に対する筋力増強訓練(運動強度:Borg Scale 13)を入院中から退院後6 週まで週3 回実施することで,リストウォッチ型加速度計で評価した身体活動性が向上したと報告している。

・統合

ランダム化比較試験の報告が2 件あり,運動療法の身体活動性に対する有用性が認められたことから,エビデンスの強さはA とした。

②運動機能の改善(重要性8,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を行い,メタアナリシス/システマティックレビュー1 件,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

運動機能に対する運動療法の有用性を示した研究は,ランダム化比較試験が2 件あり 2, 3),両研究とも有用性が認められた。

Hacker ら 2)の研究では,造血幹細胞移植患者に運動療法を実施することで,段差昇降テストおよびTimed Up & Go テストで評価した運動機能が向上したと報告している。また,Shelton ら 3)は,同種造血幹細胞移植患者に年齢予測最大心拍予備能の60〜75%の運動強度での有酸素運動(エルゴメーター,トレッドミル),筋力増強訓練(マシントレーニング)を20〜30 分/セッション,3 セッション/週を4 週実施することで50-foot walk test で評価した歩行速度が改善したと報告している。Bergenthal ら 4)によるコクラン・ライブラリーのメタアナリシス/システマティックレビューでも,運動療法は運動機能の改善に有用であると報告されている。

・統合

メタアナリシス/システマティックレビューが1 件,ランダム化比較試験の報告が2 件あり,運動機能に対する運動療法の有用性が認められたことから,エビデンスの強さはA とした。

③筋力の改善(重要性8,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を行い,メタアナリシス/システマティックレビュー1 件,ランダム化比較試験8 件,準ランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

筋力に対する運動療法の有用性を示した研究は,メタアナリシス/システマティックレビューが1 件 5),ランダム化比較試験が8 件 1, 2, 6-11),準ランダム化比較試験が1 件 12)あり,準ランダム化比較試験1 件 12)の研究では有用性が認められなかった。

造血幹細胞移植後の患者にトレッドミルやエルゴメーターによる有酸素運動,ストレッチおよび筋力増強訓練を組み合わせた運動療法を行うことにより,運動を実施しない群やストレッチのみ実施した群と比べて筋力が改善した 1, 2, 5-11)。Mello らの報告 7)では,同種造血幹細胞移植患者にストレッチ,上下肢筋力増強訓練,トレッドミルでのウォーキング(年齢予測最大心拍予備能の70%)を40 分/セッション,週5 日を6 週実施することで上下肢筋力が改善した。Baumann ら 9)は,同種/自家造血幹細胞移植患者に移植前6 日から退院まで,監督下のエルゴメーターによる有酸素運動とADL 訓練を1 日2 回,7 週実施することで,筋力が維持できたと報告している。Persoon らのメタアナリシス/システマティックレビュー 5)でも有酸素運動と筋力増強訓練は上下肢筋力の改善に有用であると報告されている。

・統合

メタアナリシス/システマティックレビューで1 件,ランダム化比較試験で8 件,準ランダム化比較試験で1 件の報告があり,準ランダム化比較試験の1 件では有用性は認められなかったものの,多くの試験で筋力に対する運動療法の有用性が認められたことから,エビデンスの強さはA とした。

④運動耐容能の改善(重要性8,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を行い,メタアナリシス/システマティックレビュー1 件,ランダム化比較試験7 件,準ランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

運動耐容能に対する運動療法の有用性を示した研究はメタアナリシス/システマティックレビューが1 件 5),ランダム化比較試験が7 件 3, 8, 9, 11, 13-15),準ランダム化比較試験が1 件 12)あり,準ランダム化比較試験1 件 12)の研究では有用性が認められなかった。

造血幹細胞移植後の患者にトレッドミルやエルゴメーターを用いた有酸素運動を実施することにより,運動を実施しない群や自主トレーニングのみを実施する群と比べて,運動耐容能が改善した 3, 5, 8, 9, 11, 13-15)。Shelton ら 3)は同種造血幹細胞移植患者に有酸素運動(エルゴメーター,トレッドミル)と筋力増強訓練(マシントレーニング)を実施することにより,6 分間歩行テストで評価した運動耐容能が改善したと報告している。Jarden ら 11)は,同種造血幹細胞移植患者に入院中に有酸素運動,筋力増強訓練やリラクゼーションなどから構成される4〜6 週の運動療法プログラムを行うことで運動耐容能(最大酸素摂取量)が改善したと報告している。Persoon らのメタアナリシス/システマティックレビュー 5)でも有酸素運動と筋力増強訓練は運動耐容能の改善に有用であると報告されている。

・統合

メタアナリシス/システマティックレビューで1 件,ランダム化比較試験で7 件,準ランダム化比較試験で1 件の報告があり,準ランダム化比較試験1 件の研究では有用性は認められなかったものの,多くの試験で運動耐容能に対する運動療法の有用性が認められことから,エビデンスの強さはA とした。

⑤倦怠感の改善(重要性8,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を行い,メタアナリシス/システマティックレビュー3 件,ランダム化比較試験5 件,準ランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

倦怠感に対する運動療法の有用性を示した研究は,メタアナリシス/システマティックレビューが3 件 4, 5, 16),ランダム化比較試験が5 件 1-3, 8, 17),準ランダム化比較試験が1 件 12)あり,ランダム化比較試験1 件 3)および準ランダム化比較試験1 件 12)の研究では有用性が認められなかった。

Kim ら 17)は,入院中の同種造血幹細胞移植患者に毎日30 分,6 週,監督下の運動療法とリラクゼーションプログラムを行うことで,Piper Fatigue Scale(PFS)で評価した倦怠感が改善したと報告している。メタアナリシス/システマティックレビュー3 件 4, 5, 16)でも有酸素運動や筋力増強訓練などから構成される運動療法を行うことで倦怠感が改善したと報告されている。

・統合

メタアナリシス/システマティックレビュー3 件,ランダム化比較試験5 件,準ランダム化比較試験1 件の報告があり,ランダム化比較試験1 件および準ランダム化比較試験1 件では有用性が認められなかったものの,倦怠感に対する運動療法の有用性が認められたことから,エビデンスの強さはA とした。

⑥ QOL の改善(重要性8,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を行い,メタアナリシス/システマティックレビュー3 件,ランダム化比較試験6 件を採用した。

・評価

QOL に対する運動療法の有用性を示した研究はメタアナリシス/システマティックレビューが3 件 4, 5, 16),ランダム化比較試験が6 件 1, 2, 8, 10, 14, 18)あり,ランダム化比較試験3 件 1, 2, 18)の研究で有用性が認められなかった。

Knols ら 10)は,同種もしくは自家造血幹細胞移植患者に対して,監督下の歩行トレーニングプログラムを12 週実施することで,The European Organization for Research and Treatment of Cancer(EORTC)QLQ-C30 で評価したQOL が改善したと報告している。メタアナリシス/システマティックレビュー3 件 4, 5, 16)においても,有酸素運動や筋力増強訓練などにより構成される運動療法を行うことでQOL が改善したと報告されている。

・統合

メタアナリシス/システマティックレビュー3 件,ランダム化比較試験6 件の報告があり,ランダム化比較試験 3 件で有用性は認められなかったものの,多くの試験でQOL に対する運動療法の効果が認められたことから,エビデンスの強さはA とした。

⑦精神機能・心理面の改善(重要性6,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,メタアナリシス/システマティックレビュー1 件,ランダム化比較試験3 件を採用した。

・評価

精神機能・心理面に対する運動療法の有用性を示した研究はメタアナリシス/システマティックレビューが1 件 4),ランダム化比較試験が3 件 8, 15, 18)あり,ランダム化比較試験1 件 18)では有用性は認められなかった。

DeFor ら 15)は,同種造血幹細胞移植治療中の入院時から退院後にかけて100 日間,入院中は監督下にて1 回15 分,1 日2 回のトレッドミルによる有酸素運動,退院後は非監督下にて1 回30 分以上,1 日1 回のウォーキングにより,精神的well-being や不安が改善したと報告している。Bergenthal らによるコクラン・ライブラリーのメタアナリシス/システマティックレビュー 4)でも,運動療法は精神機能・心理面の改善に有用であると報告されている。

・統合

メタアナリシス/システマティックレビュー1 件,ランダム化比較試験3 件の報告があり,ランダム化比較試験1 件で有用性が認められなかったものの,半数以上の研究で精神機能・心理面に対する運動療法の有用性が認められた。しかしながら,効果判定のためのアウトカム評価法に論文によるばらつきを認めたため,エビデンスの強さはB とした。

⑧身体症状の改善(重要性6,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験3 件を採用した。

・評価

身体症状に対する運動療法の有用性を示した研究はランダム化比較試験が3 件 1, 18, 19)あり,そのうち2 件の研究 1, 18)では有用性は認められなかった。

Jarden ら 19)は,入院中の同種造血幹細胞移植患者に有酸素運動,筋力増強訓練やリラクゼーションなどから構成される4〜6 週の運動療法プログラムを行うことで,身体症状や下痢の重症度が軽減したと報告している。一方,Jacobsen ら 18)や Hacker ら 1)の報告では,運動療法は同種移植患者の睡眠障害や疼痛を改善しなかったと報告している。

・統合

ランダム化比較試験 1 件により身体症状や下痢の重症度における運動療法の有用性が示されているが,他のランダム化比較試験2 件では睡眠障害や疼痛などの症状に対する運動療法の有用性は認めなかった。効果判定のためのアウトカム評価法も論文によりばらつきを認めることから,エビデンスの強さはC とした。

⑨体組成の改善(重要性6,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,準ランダム化比較試験1 件 12)を採用した。

・評価

Coleman ら 12)は,自家造血幹細胞移植を受ける多発性骨髄腫患者に,移植前3 カ月から移植後3 カ月にわたり,非監督下の有酸素運動と筋力増強訓練を1 回20 分,週3 回実施することで,平均体重が対照群では減少したが介入群では増加したと報告している。

・統合

準ランダム化比較試験1 件にて,運動療法により平均体重が増加することが示された。しかし,サンプル数が少なく確実性が低いことから,エビデンスの強さはC とした。

⑩有害事象の増加(害:重要性6,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

Hacker ら 1)は,造血幹細胞移植患者に筋力増強訓練を入院中から退院後6 週まで週3 回実施したが,運動療法開始前と退院後6 週の運動療法実施後のEORTC QLQ-C30 で評価した疼痛や嘔気(吐き気)・嘔吐の増加は認めなかった。また,Jacobsen らの報告 18)でも,運動療法による睡眠障害や疼痛,嘔気の増加は認めなかった。

・統合

ランダム化比較試験2 件のいずれも運動療法による有害事象の増加を示してはいないが,有害事象自体を統計学的手法を用いて検討したものではないため,エビデンスの強さはC とした。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:A(強)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,身体活動性,運動機能,筋力,運動耐容能,倦怠感,QOL,精神機能・心理面に対して運動療法は有用であった。一方で,身体症状や体組成に対しては有用性が低いことも示された。

害(望ましくない効果)として,運動療法による有害事象(疼痛,嘔気・嘔吐,睡眠障害,倦怠感の増悪,転倒など)の報告はなく,運動療法によって害が生じるリスクは少ないと考えられる。

以上より,益と害のバランスは確実であると判断した。

患者の価値観・希望

他の医学的治療に比べても,造血幹細胞移植中・後の運動療法は一般的に害が少なく益が大きい治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられる。特に,造血幹細胞移植では治療中・後の身体機能や身体活動性の低下は,ADL やQOL の低下,倦怠感の増悪を招く。これらを予防,改善させるためにリハビリテーション治療を行うことへの患者の価値観・希望の確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

「がん患者リハビリテーション料」は入院中であれば,移植治療前から治療後の退院時まで算定可能である。入院中のリハビリテーション治療は一般的な治療時間(20〜40 分)で,患者のコスト負担も少なく実施できる。退院後の外来では「がん患者リハビリテーション料」は算定できない。

・臨床適応性

造血幹細胞移植治療中・後の身体活動性,運動機能,筋力,運動耐容能,倦怠感,QOL,精神機能・心理面の回復に向けてのリハビリテーション治療(運動療法)の必要性は一般的に想定されるものである。また,造血幹細胞移植患者に対して専門的なリハビリテーション治療を監督下で行う体制は普及しつつあるので,造血幹細胞移植治療中・後の回復が期待できるリハビリテーション治療の臨床適応性は高いといえる。一方,退院後も機能回復が遅延する場合は,外来では保険診療の適用外のため,監督下での運動療法および専門スタッフの監督なしで行う運動療法を実施可能な医療機関は少なく現状では臨床適応性は低い。

総合評価

血液腫瘍に対して造血幹細胞移植が行われた患者に対して,造血幹細胞移植中・後にリハビリテーション治療(運動療法)を行うことを推奨する。

重要なアウトカムに対するリハビリテーション治療(運動療法)の有用性のエビデンスは強く,また,益と害のバランスは確実である(益の確実性が高い)。患者の価値観は確実性が高く,多様性は低い(一致している)。入院中のリハビリテーション治療(運動療法)は保険診療で実施されるため患者のコスト負担は少なく,多くの医療期間で実施できることから正味の利益はコストや医療資源に十分見合っており,推奨する(強い推奨)とした。一方,退院後の外来でのリハビリテーション治療(運動療法)の実施は保険診療の適用外のため,外来での運動療法が実施可能な医療機関は少なく,現状では臨床適応性は低い。

■投票結果

付記

◉ 造血幹細胞移植患者に対して運動療法はなぜ必要なのか?

造血幹細胞移植患者は,原疾患に起因する身体活動性の低下,前治療としての寛解導入療法や地固め療法などの化学療法による体力低下や有害事象,移植前処置療法に伴う安静臥床,移植後有害事象としての全身倦怠感,消化器症状,不眠,免疫力低下に伴う感染症,移植片対宿主病(graft versus host disease;GVHD)などの発症により,身体活動が著しく制限される。さらに,クリーンルーム内での長期間の隔離・安静により,全身筋力および体力の低下,柔軟性低下,心肺機能低下,抑うつ・認知機能低下など重度の廃用症候群が生じる危険性が高い 1-3)。これらの廃用症候群は,退院後の日常生活復帰を遅延させ,職業復帰や余暇活動にも悪影響を及ぼし,移植患者のQOL を著しく低下させる 4, 5)。移植患者の4 割が身体機能の回復に1 年を要し,3 割が体力低下のために移植後2 年間職業復帰できなかったとの報告もあり,廃用症候群予防のために移植中・後のできるだけ早期からのリハビリテーション治療(運動療法)が必要である 6)

◉ 造血幹細胞移植患者に対する運動療法と栄養療法との併用は有用か?

造血幹細胞移植患者では,前述のような廃用症候群とともに大量化学療法や全身放射線療法の有害事象である嘔気・嘔吐,口腔粘膜障害,下痢,感染症などにより経口摂取量が減少し,体重減少,栄養不良をきたしてしまう 7)。廃用症候群や栄養不良の改善には運動療法と栄養療法との併用が必要となる。今回,造血幹細胞移植患者への運動療法と栄養療法との併用の有用性についても系統的文献検索を行ったが,その有用性を示すエビデンスは認められなかった。

しかしながら,European Society for Clinical Nutrition and Metabolism(ESPEN)によるガイドラインでは,大量化学療法や造血幹細胞移植後の患者に身体活動性を維持するための運動療法や栄養摂取量を維持するための栄養療法を行うことについて,エビデンスレベルは「とても弱い」であるが,推奨度は「強く推奨する」とされており 8),運動療法と栄養療法との併用は実施を考慮してもよい。

◉ 静脈血栓塞栓症に対する運動療法および間欠的空気圧迫法の有用性について

造血幹細胞移植患者では,腫瘍自体の影響,大量化学療法や全身放射線療法,長期間にわたる入院生活や身体活動性の低下,中心静脈カテーテル留置などさまざまな要因により静脈血栓塞栓症の発症リスクが高い。造血幹細胞移植後1 年以内の静脈血栓塞栓症の発症率は3.7%であったとの報告もある 9)。造血幹細胞移植患者の静脈血栓塞栓症の発症予防に関する運動療法および間欠的空気圧迫法の有用性についても系統的文献検索を行ったが,その有用性を示すエビデンスは認められなかった。

しかしながら,「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2017 年改訂版)」10)では,静脈血栓塞栓症の予防法として,「すべてのリスクの患者に対して早期離床および積極的な運動を行う」(推奨クラスⅠ,エビデンスレベルC),「中リスク患者に対して弾性ストッキングを着用させる」(推奨クラスⅡa,エビデンスレベルA),「中リスク患者に対して間欠的空気圧迫法を行う」(推奨クラスⅡa,エビデンスレベルA),「高リスク患者に対して間欠的空気圧迫法あるいは抗凝固療法を行う」(推奨クラスⅡa,エビデンスレベルA),「最高リスク患者に対して「薬物予防法と間欠的空気圧迫法の併用」および「薬物予防法と弾性ストッキングの併用」を行う。また出血リスクの高い患者に対して間欠的空気圧迫法を行う」(推奨クラスⅡa,エビデンスA)と述べられている。また,同ガイドラインでは,がん患者においては,「治療中は VTE(静脈血栓塞栓症)の発症を念頭に置いた患者教育を行い,VTE(静脈血栓塞栓症)の早期発見・早期治療を心がける必要がある。とくに,入院・臥床・入院化学療法などVTE(静脈血栓塞栓症)リスクを増大させる要因がある場合は,弾性ストッキングや IPC(間欠的空気圧迫法)を行うことを推奨する」とされていることから,造血幹細胞移植患者でも静脈血栓塞栓症予防のために運動療法や弾性ストッキング,間欠的空気圧迫法の実施を考慮すべきである。

文献

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https://js-phlebology.jp/?p=1428(最終アクセス日:2019 年 2 月 2 日)

CQ 02
血液腫瘍に対して造血幹細胞移植が行われ,造血幹細胞移植後に認知機能障害を生じた患者に対して,リハビリテーション治療(神経認知機能訓練)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2D
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
とても弱い
血液腫瘍に対して造血幹細胞移植が行われ,造血幹細胞移植後に認知機能障害を生じた患者に対して,リハビリテーション治療(神経認知機能訓練)を行わないことを提案する。

重要臨床課題の確認

化学療法の治療中から治療後にかけて,認知機能低下や高次脳機能障害が出現することが報告されている 1)。これらを総称して「ケモブレイン」という用語が用いられ,近年調査が進められている 2)。ケモブレインには現在のところ明確な定義はなく,概念自体が広く認知されているものではないが,薬物療法の進歩により生存期間が長期化している現状を鑑みると,今後,重大な有害事象として顕在化してくることは論をまたない。また,造血幹細胞移植後の患者でも同様の障害が生じることが報告されている 3)。しかし,これらの障害に対するリハビリテーション治療のエビデンスは十分ではないのが現状である。本ガイドライン初版では,造血幹細胞移植後の認知機能障害に対するリハビリテーション治療(神経認知機能障害)の有用性についてはCQ として採用されていなかったが,新たに検証すべき臨床重要課題として捉え,リハビリテーション治療の有用性を検討した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①認知機能低下の改善(重要性7,エビデンスの強さ:D)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Poppelreuter ら 4)は,血液腫瘍に罹患し造血幹細胞移植後に認知機能低下を認めた患者に入院中のランダム化比較試験を行い,作業療法士による認知機能訓練(記憶・想起・注意課題,1 時間/回,4 回/週)を実施した群,パソコンによる認知機能訓練(記憶・想起・注意課題,1 時間/回,4 回/週)を実施した群,および対照群の3 群を比較した。しかし,いずれの群でも介入前後で,注意・認知機能尺度であるTest Battery for Attentional Performance(TAP),EORTC QLQ-C30 “Cognitive”, Multidimensional Fatigue Inventory(MFI)“Mental Fatigue”, Questionnaire of Self-Perceived Deficits in Attention(FEDA)に有意な差は認めなかったと報告している。

・統合

ランダム化比較試験1 件のみの報告があり,同研究では治療効果は認められなかった。また,サンプルサイズも各群30 名弱と少なく確実性が低いことから,エビデンスの強さはD とした。

②有害事象の増加(害:重要性6,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Poppelreuter らによるランダム化比較試験 4)にて,EORTC QLQ-C30 にて評価した倦怠感に3 群で差は認められなかった。その他の有害事象の増加についても報告されていない。しかしながら,脱落群の脱落理由として,「検査・訓練が厳しすぎる」,「興味の低下」,「モチベーションの低下」などが挙げられていた。

・統合

ランダム化比較試験1 件にて,有害事象の増加(倦怠感の増悪)は認められなかったが,有害事象自体を統計学的手法を用いて検討したものではないため,エビデンスの強さはC とした。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:D(とても弱い)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)について,リハビリテーション治療の有用性を示すエビデンスは現在のところ認められない。また,害(望ましくない効果)については,リハビリテーション治療による有害事象の増加(倦怠感の増悪)に関するエビデンスはないが,造血幹細胞移植後のクリーンルームという閉鎖空間にて活動範囲を制限されている患者では精神的ストレスが多大であることが予想され,リハビリテーション治療(神経認知機能訓練,認知機能検査を含む)の実施に伴うストレスや倦怠感の増悪などのリスクも考えられる。以上より益と害のバランスは不確実であると判断した。

患者の価値観・希望

認知機能低下に対してリハビリテーション治療を希望する患者は多いと想定されるが,造血幹細胞移植後のクリーンルーム内に活動範囲を制限されている患者では精神的ストレスが多大であることが予想され,リハビリテーション治療(神経認知機能訓練,認知機能検査を含む)の実施に伴うストレスや倦怠感の増悪などが危惧される。移植治療中・治療直後におけるリハビリテーション治療に対する患者の受け入れには難があると考えられ,確実性は低く,多様性は高いと判断した。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

「がん患者リハビリテーション料」は入院中であれば,移植治療前から治療後の退院時まで算定可能である。入院中のリハビリテーション治療は一般的な治療時間(20〜40 分)で,患者のコスト負担も少なく実施できる。退院後の外来では「がん患者リハビリテーション料」は算定できない。また,採用した研究と同様のリハビリテーション治療の実施には,パーソナルコンピューターや専門のソフトウェアの購入が必要であり,退院後に自宅で訓練を実施する場合にはそのコストを負担する必要がある。

・臨床適応性

造血幹細胞移植後に認知機能障害を生じた患者へのリハビリテーション治療はわが国でも実施可能であるが,介入効果のエビデンス不足や患者への大きな負担,リハビリテーション治療実施に必要な機器の購入費用などの問題を考慮すると臨床適応性は低い。

総合評価

血液腫瘍に対して造血幹細胞移植が行われ,造血幹細胞移植後に認知機能障害を生じた患者に対して,リハビリテーション治療(神経認知機能訓練)を行わないことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスの確実性は非常に低く,益と害のバランスは不確実であった。患者の価値観・希望は確実性が低く,多様性が高い。また,入院中のリハビリテーション治療(神経認知機能訓練)は保険診療で実施されるため患者のコスト負担は小さいが,外来では保険診療適用外となるため,現状では臨床適応性は低い。以上より,正味の利益はコストや医療資源に十分見合っているとはいえないことから,行わないことを提案する(弱い推奨)とした。しかしながら,化学療法後の認知機能障害へのリハビリテーション治療の有用性については報告があるため 5, 6),移植治療中や直後だけではなく,その後の治療過程における認知機能障害へのリハビリテーション治療の有用性に関するエビデンス構築が望まれる。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・現在のところ造血幹細胞移植後に認知機能障害が生じた患者へのリハビリテーション治療(神経認知機能訓練)の有用性を示すエビデンスは確立されていないので,今後のエビデンスの構築に期待したい。
■投票結果

付記

◉ 造血幹細胞移植患者に対する精神的リラクゼーション(音楽療法)の有用性について

造血幹細胞移植後の患者では,治療に伴う毒性や有害事象により,心肺機能低下や筋力低下などの身体機能低下,疼痛,全身倦怠感,食欲低下などの身体症状,不安・抑うつ,認知機能低下などの精神機能低下・精神症状が短期的・長期的に出現する 1)。これらの症状に対して,精神的リラクゼーション(音楽療法)が有効であることが示されている。Cassileth ら 2)は,自家造血幹細胞移植を受けた患者に,入院中に3 日ごとに20〜30 分の音楽療法士による個別の音楽療法を2 週実施することにより,実施しない群と比べ,the Profile of Mood States(POMS)で評価した気分〔下位尺度の緊張−不安(tension-anxiety),活気(vigor),疲労(fatigue)〕が改善したと報告している。Dóro ら 3)は,同種造血幹細胞移植を受けた患者に,音楽療法士による個別の音楽療法を1 回30 分,週2 回実施することで,実施しなかった群と比べ,Visual Analogue Scale(VAS)で評価した気分,不安,および疼痛に改善が認められたと報告している。Fredenburg ら 4)は,骨髄移植を受けた患者に,音楽療法士による個別の音楽療法を1 回30 分実施することにより,実施しなかった群と比べ,the 10-item Positive and Negative Affect Schedule 短縮版(I-PANAS-SF)で評価した気分に改善が認められたと報告している。

以上より,造血幹細胞移植患者に音楽療法を実施することにはある一定の効果を認め,実施を考慮してもよいと考えるが,介入者が音楽療法士であるため,音楽療法士が所属しない施設においては治療の実施が困難であり,また,音楽療法の医療保険での算定は不可能なため,医療機関で保険診療下で実施することは困難であると考えられる。

文献

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CQ 03
血液腫瘍に対して造血幹細胞移植が行われる予定の高齢患者に対して,造血幹細胞移植前に高齢者総合的機能評価(サルコぺニア,フレイルの評価を含む)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2C
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
血液腫瘍に対して造血幹細胞移植が行われる予定の高齢患者に対して,造血幹細胞移植前に高齢者総合的機能評価(サルコぺニア,フレイルの評価を含む)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

近年,診断技術や治療技術,支持療法が進歩し,造血幹細胞移植の適応対象が拡大してきている。自家造血幹細胞移植では80 歳以上の高齢者に対する適応が検討され,また,骨髄非破壊的前処置療法による同種造血幹細胞移植も70 歳代の高齢者に対する適応が検討されている。さらに,虚弱な患者に対する造血幹細胞移植の適応も検討されている 1)。高齢がん患者の治療前のフレイルやサルコペニアの有無が,治療に伴う有害事象や治療後の転機,生命予後に影響を与えること,また,治療前の高齢者総合的機能評価がそれらの予測に有用であることが報告されている 2)。本ガイドライン初版ではCQ として採用されていなかったが,新たに検証すべき臨床重要課題として捉え,造血幹細胞移植患者に対する治療前の高齢者総合的機能評価の有用性を検討することにした。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①生存期間・再発率の予測(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,観察研究5 件 1), 3-6)を採用した。

・評価

Muffly ら 3)は,同種造血幹細胞移植を受ける予定の患者に,移植前の身体機能としてEastern Cooperative Oncology Group Performance Status(ECOG PS), ADL としてKat’z Activities of Daily Living,IADL としてmodified Lawton’s Instrumental Activities of Daily Living,身体的QOL としてSF-36 PCS,フレイルとしてFried Frailty Index,併存疾患としてHCT-CI および CIRS-G,メンタルヘルスとしてSF-36 MCS,栄養評価として血清アルブミン値および自覚的体重減少,炎症として CRP から構成される高齢者総合的機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment;CGA)を行ったところ,年齢(60 歳以上),骨髄破壊的移植前処置療法,サイトメガロウイルス抗原血症,HCT-CI 高値,IADL制限,歩行速度低値,メンタルヘルス低値,血清アルブミン低値,CRP 高値が全生存期間(OS)に関連し,年齢(60 歳以上),IADL 制限,HCT-CI 高値,CRP 高値が無再発生存期間に関連していたと報告している。また,disease risk 高値および歩行速度低値が再発率と関連していたと述べている。多変量解析においても,IADL 制限,歩行速度低値,SF-36 MCS 低値,CRP 高値が全生存期間(OS)に関連していたと報告している。

Artz ら 1)は,同種造血幹細胞移植施行前にFried Frailty Index にてフレイルの評価を行ったところ,50 歳以上の患者の 81%が「プレフレイル」以上と判定され,そのうち24%が「フレイル」と判定された。「フレイル」は無再発生存期間および全生存期間(OS)とは関連しなかったが,再発率と関連していたと報告している。また,Artz らは別の報告 4)で,ECOG PS と Charlson Comorbidity Index(CCI)にて評価した併存疾患が移植関連死亡率および全生存期間(OS)と関連していたと報告している。

Sorror ら 5)は,CGA の1 領域である併存疾患が2 年無再発生存期間および全生存期間(OS)と関連していたと報告しており,造血幹細胞移植患者ではHCT-CI が有用であると述べている。また,Sorror らは別の報告 6)で,骨髄非破壊的前処置療法による同種造血幹細胞移植前のKarnofsky Performance Status(KPS)80%以下が,無再発生存期間および死亡率と関連していたと報告している。

・統合

造血幹細胞移植前のフレイルやCGA 評価の生存期間,再発率の予測に対する有用性について観察研究が5 件あり,4 件で生存期間,再発率の予測への有用性が認められたが,1 件で生存期間の予測に対する有用性は認められなかったことから,エビデンスの強さはC とした。

②有害事象・治療毒性の予測(害:重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,観察研究3 件を採用した。

・評価

Sorror ら 5)は,同種造血幹細胞移植前にHCT-CI を用いて評価した併存疾患のスコアが,移植関連毒性の発症率と関連していたと報告している。また,Sorror ら 6)は別に,骨髄非破壊的前処置療法による同種造血幹細胞移植前のKPS 80%以下が,移植関連毒性の発症率と関連していたと報告している。

一方,Artz ら 1)は,同種造血幹細胞移植施行前にFried Frailty Index にてフレイルの評価を行ったところ,50 歳以上の患者の81%が「プレフレイル」以上と判定され,そのうち24%が「フレイル」と判定されたが,「フレイル」は急性GVHD の発症率とは関連しなかったと報告している。

・統合

造血幹細胞移植前のフレイルやCGA 評価の,有害事象や治療毒性の予測に関する有用性について,観察研究が3 件あり,2 件で有害事象・治療毒性の予測への有用性が認められたが,1 件で有害事象・治療毒性の予測に関する有用性が認められなかったことから,エビデンスの強さはC とした。

③高齢者総合的機能評価施行による有害事象の発症・増加(重要性6,エビデンスの強さ:C)

造血幹細胞移植前のフレイルやCGA 評価施行による有害事象の発症や増加の記載は前述の文献では認めなかった。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:C(弱)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,造血幹細胞移植前のフレイルやCGA 評価により生存期間や再発率,有害事象・治療毒性の予測が可能となり,治療方針の決定や治療中のケアの選択に活用できることが期待できる。一方で,害(望ましくない効果)として重大な有害事象の報告はなかったことから,益と害のバランスは確実であると判断した。

患者の価値観・希望

CGA 評価には40〜60 分の時間を要するが,治療方針やケアの選択に有用な評価であるため,CGA 評価の患者の受け入れは問題なく,確実性は高く,多様性は低いと考えられる。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

評価のみの場合は入院・外来にかかわらず「疾患別リハビリテーション料」での算定は困難であるが,造血幹細胞移植前のCGA 評価に加えてリハビリテーション指導や運動療法などを実施することにより,入院中であれば「がん患者リハビリテーション料」での算定が可能となる。その場合,評価・介入時間は40〜60 分であり患者のコスト負担は少ない。

・臨床適応性

造血幹細胞移植の治療方針決定やケアの選択のためのCGA 評価の必要性は,徐々に認知されはじめている。しかし,CGA 評価には40〜60 分の時間を要するため,臨床上で評価のための十分な時間や人員を確保できるかどうかは各施設の状況によるところが大きく,臨床適応性が十分であるとはいえない。

総合評価

血液腫瘍に対して造血幹細胞移植が行われる予定の高齢患者に対して,造血幹細胞移植前に高齢者総合的機能評価(サルコぺニア,フレイルの評価を含む)を行うことを提案する。

造血幹細胞移植前のCGA 評価の生存期間や再発率,有害事象・治療毒性の予測に対する有用性について,質の高いランダム化比較試験がなく,観察研究のみの評価となるので,重要なアウトカムに対するエビデンスは弱いが,益と害のバランスは確実である(益の確実性が高い)。患者の価値観・希望は確実性が高く,多様性は低い(一致している)。CGA 評価に加えてリハビリテーション治療を行う場合には,保険診療で実施されるため患者のコスト負担は少ない。一方,退院後の外来でのCGA 評価およびリハビリテーション治療の実施は保険診療の適用外のため,現状では臨床適応性は低い。また,CGA 評価を臨床上で実施するための十分な時間や人員を確保できるかどうかは各施設の状況によるところが大きく,臨床適応性が十分であるとはいえず,今回の改訂では提案する(弱い推奨)とした。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・高齢がん患者への対応については,患者本人のみならず家族にも安心感を与えるため推奨したい。
  • ・高齢者のがん診療がトピックスであるので,「高齢」という状態を認識して対応することが重要である。
■投票結果

付記

◉ アメリカ臨床腫瘍学会ガイドラインにおけるCGA 評価の位置づけ

造血幹細胞移植前のCGA 評価の有用性に関する報告は限られているが,化学療法開始前のCGA 評価の治療毒性や生存期間の予測に対する有用性が多くの論文で報告されている。アメリカ臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology;ASCO)のガイドライン 1)では,化学療法を受ける65 歳以上の高齢がん患者の身体機能,併存疾患,転倒歴,抑うつ,認知機能,栄養状態を治療前にCGA を用いて評価することを推奨している。また,化学療法毒性の予測のためにGeriatric 8(G8)やVulnerable Elders Survey-13(VES-13)などのスクリーニングツールも用いることを推奨している。

文献

1)
Artz A, Swanson K, Kocherginsky M, et al. Features of frailty are surprisingly common in adults 50 years and older undergoing allogeneic hematopoietic cell transplantation(HCT)in the modern era. Biol Blood Marrow Transplant. 2011;17:s302.
2)
Hamaker ME, Vos AG, Smorenburg CH, et al. The value of geriatric assessments in predicting treatment tolerance and all-cause mortality in older patients with cancer. Oncologist. 2012;17:1439-49.
3)
Muffly LS, Kocherginsky M, Stock W, et al. Geriatric assessment to predict survival in older allogeneic hematopoietic cell transplantation recipients. Haematologica. 2014;99:1373-9.
4)
Artz AS, Pollyea DA, Kocherginsky M, et al. Performance status and comorbidity predict transplant-related mortality after allogeneic hematopoietic cell transplantation. Biol Blood Marrow Transplant. 2006;12:954-64.
5)
Sorror ML, Maris MB, Storb R, et al. Hematopoietic cell transplantation(HCT)-specific comorbidity index:a new tool for risk assessment before allogeneic HCT. Blood. 2005;106:2912-9.
6)
Sorror M, Storer B, Sandmaier BM, et al. Hematopoietic cell transplantation-comorbidity index and Karnofsky performance status are independent predictors of morbidity and mortality after allogeneic nonmyeloablative hematopoietic cell transplantation. Cancer. 2008;112:1992-2001.
付記文献
1)
Mohile SG, Dale W, Somerfield MR, et al. Practical Assessment and Management of Vulnerabilities in Older Patients Receiving Chemotherapy:ASCO Guideline for Geriatric Oncology. J Clin Oncol. 2018;36:2326-47.

第 10 章 化学療法・放射線療法

CQ01
化学療法・放射線療法中の患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード1B
推奨の強さ強い推奨
エビデンスの
確実性
化学療法・放射線療法中の患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を実施することを推奨する。

重要臨床課題の確認

がん患者では,化学療法前後に身体活動性が低下し,筋力や運動耐容能,身体機能の低下が生じる。化学療法は精神機能・心理面に対しても悪影響を与え,これらは健康関連QOL やADL 低下の原因となる。また倦怠感をはじめとする治療の有害事象も治療中に頻回に出現して患者のQOL を損なうだけでなく,重篤になれば治療の完遂にも影響を与える。これらの症状に対して運動療法が有効であることが示されており,その適応や効果に関するエビデンスを十分に検討し臨床応用する必要がある。本ガイドライン初版では,化学療法・放射線療法中のリハビリテーション治療(運動療法)の有用性がCQ として採用され,推奨グレードA と判断されている。そこで,今回の改訂においてもCQ として採用し,運動療法の有用性について検討した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①身体活動性の改善(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索からランダム化比較試験8 件を採用した。

・評価

身体活動性に対する運動療法の有用性を示した研究は5 件あり 1-5),3 件の研究では効果が認められなかった 6-8)。運動療法の内容は,在宅を基盤とした(home-based)ウォーキング主体の運動療法に関する研究が5 件,監督下での運動療法(supervised exercise)に関する研究が3 件であった。

在宅を基盤とした運動療法に関しては,Culos-Reed ら 3)は ADT(androgen deprivation therapy)を受ける前立腺がん患者に対し,16 週の在宅を基盤とした運動療法の指導を行った。有酸素運動および軽い筋力増強訓練を組み合わせた治療で,治療後の LSI(Godin’s Leisure Score Index)が介入群において有意に改善し,有意な交互作用を認めたと報告している。Gokal ら 4)は化学療法を受ける乳がん患者に12 週の在宅を基盤とした運動療法指導を実施した。週5 回30 分間のウォーキングを推奨し,歩数計で歩数のカウントを行い,計画的行動理論に基づいたパンフレットの配布も行ったところ,自覚的身体活動レベルの質問紙であるGeneral Practice Physical Activity Questionnaire で評価した身体活動性が介入群において有意に上昇したと報告している。

一方,監督下での運動療法は,Streckmann ら 1)が悪性リンパ腫患者に監督下での運動療法を実施し,血液がんでの身体活動性に対する有用性を示している。

・統合

固形がん,血液がん双方で運動療法の身体活動性に対する有用性が認められた。効果が認められなかった文献は,サンプル数が少ないことや,脱落例の多さ,対処方法などに不明な点があることなどからエビデンスへの影響は小さいと判断して,エビデンスの強さはB とした。

②運動耐容能の改善(重要性8,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索からはランダム化比較試験17 件を採用した。

・評価

運動耐容能に対する運動療法の有用性を示した研究は13 件あり 2, 9-20),4 件の研究で効果が認められなかった 3, 21-23)。介入は在宅を基盤とした運動療法に関する研究が4 件,監督下での運動療法に関する研究が9 件であった。

在宅を基盤とした運動療法では,Windsor ら 20)は4 週の放射線療法を受ける前立腺がん患者を運動群,対照群に分類し,運動群には放射線療法中,在宅を基盤とした中等度(予測最大心拍数の60〜70%)の30 分間連続したウォーキングを週3 回実施した。治療後,シャトルウォーキングテストの距離が対照群では479.1m から467.6m と減少したのに対し,介入群では511.6m から579.1m と有意に増加して有意な群間差が認められた。一方,Coleman ら 21)の報告では,化学療法および造血幹細胞移植を受ける多発性骨髄腫患者に,在宅を基盤としたウォーキング〔自覚的運動強度(rating of perceived exertion;RPE)で11〜13 の強度〕,筋力増強訓練(RPE で15〜17 の強度)およびストレッチ(ハムストリング)を行ったが,対照群と比較して,6 分間歩行テストでは有意な差を認めなかった。他の2 件の報告でも在宅を基盤とした介入は有意な効果を示していない。

監督下での運動療法について,Segal ら 17)は放射線療法を受ける前立腺がん患者を筋力増強訓練群,有酸素運動群,対照群に分類して,週3 回24 週にわたり理学療法士の監督下での運動療法を実施した。筋力増強訓練群はleg extension や biceps curl など10 種類の上下肢の筋力増強訓練を8〜12RM の強度で2 セット実施,有酸素運動群はエルゴメーターやトレッドミル等の運動を最高酸素摂取量50〜60%の負荷で15 分から開始して最高酸素摂取量70〜75%,45 分まで負荷を漸増したところ,筋力増強訓練群は対照群と比較して有意に最高酸素摂取量が改善していた。一方,有酸素運動群では有意差はみられなかったものの最高酸素摂取量の介入前後での変化は改善傾向を認めた。化学療法・放射線療法中のがん患者への運動療法効果に関する研究は,主に乳がん,前立腺がん患者についてのものが多いが,近年では他のがん種に対するエビデンスも増加してきている。PACT study 2)では,化学療法中の大腸がん患者に,週2 回18 週の理学療法士による監督下での運動療法を行った。運動療法の内容はウォームアップ10 分,有酸素運動および筋力増強訓練40 分,クールダウン10 分の計1 時間の運動療法に加え,1 日30 分以上の活動を推奨する生活指導であり,女性のみであるが最高酸素摂取量の有意な改善を認めた。Henke ら 15)は化学療法を受ける進行非小細胞肺がん患者に,治療開始時から3 コース終了時まで毎日運動療法を行った。週5 日は6 分間の廊下でのウォーキングおよび2 分間の階段昇降練習,ACBT(active cycle breathing)などの呼吸法指導を行い,週2 日はレジスタンスバンド(緑:4.6 ポンド=2.1kg)などを使用した上下肢,体幹の全身的な筋力増強訓練を実施した。結果として介入群では6 分間歩行テストや2 分間の階段昇降の段数に有意な増加がみられた。Samuel ら 12)は化学放射線療法を受ける頭頸部がん患者に6 週の運動療法を実施しており,有酸素運動は週5 回 RPE で3〜5/10 の強度の速歩を15〜20 分,筋力増強訓練は週5 回上下肢筋群を中心に,RPE で3〜5/10 の強度で8〜10 回2〜3 セット行った。結果は,介入群では6 分間歩行テストが42m 改善したが,対照群は96m 悪化しており有意な差が認められた。血液がんでも運動耐容能に対する効果は認められており,Alibhai ら 13)は急性骨髄性白血病患者に,化学療法導入中週4〜5 回理学療法士による監督下での運動療法を実施し,介入群で対照群と比較して6 分間歩行テストの有意な改善を報告している。

・統合

採用された文献のうち,運動療法の効果を認めなかった文献もみられたが,バイアスリスクが高く,エビデンスへの影響は少ないと考えた。多くの文献で運動耐容能への効果は認められ,非一貫性は少なく,効果のある論文はバイアスリスクの低い論文が多く,サンプル数も十分である。大きくエビデンスレベルを下げる要因もないことからエビデンスの強さはA と判定した。また,在宅を基盤とした運動療法を行った4 件の文献のうち3 件が介入効果を認めておらず,監督下での介入が望ましいことが推察できる。

③筋力の改善(重要性8,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索からランダム化比較試験14 件を採用した。

・評価

筋力への運動療法の有用性を示した研究は10 件あり 11, 13-17, 22, 24-26),2 件の研究で効果が認められなかった 3, 27)。介入方法は在宅を基盤とした運動療法に関する研究が1 件,監督下での運動療法に関する研究が11 件であった。

在宅を基盤とした運動療法は,Culos-Reed ら 3)がADT を受ける前立腺がん患者に対して,16 週間の在宅を基盤とした運動療法(有酸素運動および低強度の筋力増強訓練を組み合わせたプログラム)の指導を実施したが,握力などの筋力に有意な群間差を認めなかった。

監督下での運動療法は,11 件中7 件がホルモン療法中もしくは放射線療法中の前立腺がん患者を対象とした報告であり,そのほとんどで筋力への有用性が示されている。Galvão ら 22)はAST(androgen suppression therapy)を受けている前立腺がん患者に,週2 回12 週にわたり,理学療法士による監督下での筋力増強訓練および有酸素運動を実施した。筋力増強訓練はchest press やleg press を中心とした上下肢筋群の筋力増強訓練を6〜12RM の強度で2〜4 セット,有酸素運動は15〜20 分間,サイクリングやジョギングなどの運動を65〜80%MHR(最大心拍数)またはBorg Scale 11〜13 の負荷で実施した。その結果,chest press,leg press やseated row の1RM は介入群で有意に改善した。Cormie ら 11)もホルモン療法を行う前立腺がん患者に運動療法を実施しておりエビデンスの高い報告を行っている。運動療法内容は週2 回3 カ月にわたる理学療法士による監督下での運動療法であり,1 回の治療時間は60 分,中等度から高強度の有酸素運動および筋力増強訓練であった。有酸素運動はトレッドミルやエルゴメーターを用いて,70〜85%MHR の強度で20〜30 分実施した。筋力増強訓練は6〜12RM の強度で1〜4 セット実施した。その結果,chest press,leg press やseated row の1RM は介入群で有意に改善した。前立腺がん患者のほかにもAdamsen ら 16)は化学療法を受けるさまざまながん種の患者に対して運動療法(理学療法士や訓練された看護師の監督下で,週3 回90 分間の運動療法と週2 回のリラクゼーションプログラム)を実施した。運動は週43METs になるように調整され,30 分間のウォームアップ,45 分間の筋力増強訓練(leg press,chest press,70〜100%1RM),15 分間の有酸素運動(50〜70W,85〜95%MHR)が実施された。その結果,chest press,leg press やseated row の1RM は介入群で有意に改善した。Henke ら 15)も筋力への介入効果を検討しており,上肢筋群の有意な筋力改善を認めた。血液がんもAlibhai ら 13)の研究では,対照群の握力が約4.1kg 低下した一方で,介入群では約0.5kg の改善を認め,有意な群間差が認められた。

・統合

採用された文献は効果の一貫性が強く,バイアスリスクの低い報告が多い。運動療法の効果を認めなかった文献もみられたが,サンプル数が少なく,総サンプル数の1 割に満たないことから,エビデンスを下げる要因にはなり得ないと判断した。以上からエビデンスの強さはA と判定した。また,在宅を基盤とした運動療法を行った1 件は介入効果を認めず,監督下での介入が望ましいと考えられた。

④身体機能の改善(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索からランダム化比較試験11 件が採用された。

・評価

TUG(Timed Up & Go Test)や SPPB(Short Physical Performance Battery)などの身体機能への運動療法の有用性を示した研究は7 件あり 1, 11, 13, 15, 19, 22, 24),3 件の研究では効果が認められなかった 14, 25, 28)。介入はすべて監督下で実施されており,ホルモン療法中もしくは放射線療法中の前立腺がん患者を対象とした報告が散見され,ほとんどの研究で運動療法により身体機能の有意な改善を認めた。PEPC study 24)ではADT 療法中の前立腺がん患者に週3 回16 週にわたる監督下での運動療法を実施した。具体的には,上下肢の筋群の筋力増強訓練を,介入開始時は50〜60%1RM の強度で10 回2 セット行い,運動負荷を漸増させて最終的に月曜日には10RM を1〜3 セット,水曜日には80〜90%10RM を2〜3 セット,金曜日には6RM を2〜3 セットのプログラムで行った。その結果,sit to stand(30 秒間での椅子立ち座り)の回数が有意に増加し,階段昇降能力も改善したと報告している。Monga ら 19)は放射線療法中の前立腺がん患者に,理学療法士および訓練された医師による監督下での週3 回8 週の有酸素運動プログラム(放射線療法日の治療実施前午前中に10 分間のウォームアップ,30 分間の有酸素運動〔65%HRR(予備心拍数)〕,5〜10 分間のクールダウン)を実施した。その結果,stand and sit test(5 回椅子立ち座りの時間)が介入群で有意に短縮した。血液がんではStreckmann らとAlibhai らの報告がある。Streckmann ら 1)は化学療法中の悪性リンパ腫患者に,週2 回36 週以上の理学療法士による監督下の介入を実施した。1 日1 時間で有酸素運動(60〜80%MHR のエルゴメーターもしくは10〜30 分のウォーキング),バランス訓練(4 種類の姿勢保持訓練を3 セット),筋力増強訓練(レジスタンスバンドによる4 種類の運動)を行うプログラムであり,介入後,体幹動揺軌跡の減少,動的バランスの改善を認めた。Alibhai ら 13)は前述の通り,急性骨髄性白血病患者に化学療法導入中,週4〜5 回理学療法士監督下での運動療法を行った結果,椅子立ち座りの時間が有意に短縮したと報告している。

・統合

運動療法の有用性を示した報告は散見されるが,文献によって結果が異なり,若干の非一貫性が認められる。効果がないとする論文にもバイアスリスクが低いものが数件あり,その影響は無視できない。以上から,エビデンスの強さはB と判定した。

⑤倦怠感の改善(重要性8,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索からランダム化比較試験18 件を採用した。

・評価

倦怠感への運動療法の有用性を示した研究は11 件あり 2, 9, 11, 16-19, 26, 29-31),7 件の研究では効果が認められなかった 3, 13, 20, 21, 24, 25, 32)。介入は在宅を基盤とした運動療法に関する研究が5 件,監督下での運動療法に関する研究が13 件であった。

在宅を基盤とした運動療法について,Zhang ら 30)は化学療法を受ける肺がん患者をタイ式ヨガ+運動を実施する群,低強度の運動を実施する対照群の2 群に割り付け,1 時間のセッションを12 週実施した。結果として,両群とも経時的にMFSI-SF(Multidimensional Fatigue Symptom Inventory-Short From)で評価した倦怠感は増悪したが,6 週時点,12 週時点でのヨガ+運動群の倦怠感は対照群と比較して有意に低く,増悪を緩徐にとどめることが可能であった。他の4 件の文献の運動療法内容は,低強度の筋力増強訓練やウォーキングを中心とした有酸素運動であり,すべて倦怠感への効果は認めなかった。

監督下での運動療法では,Hojan ら 9)は放射線療法を受ける前立腺がん患者に,治療中(8 週)は週5 回,治療後(10 カ月)は週3 回の介入頻度で運動療法を実施した。治療中は30 分の有酸素運動および25 分の筋力増強訓練(70〜75%1RM で5 種類)を実施し,治療後は40 分の有酸素運動(70〜80%HRR)および35 分の筋力増強訓練を行った結果,Functional Assessment of Cancer Therapy-Fatigue(FACT-F)で評価した倦怠感が,放射線療法後および運動療法介入終了後いずれも,介入群では増悪が認められなかったが,対照群では有意に増悪が認められた。同様にSegal ら 17)の報告でも,放射線療法を実施した前立腺がん患者に筋力増強訓練を行った群,有酸素運動を行った群は,対照群と比較して,介入12 週後のFACT-F で評価した倦怠感が有意に改善した。その効果は介入終了時(24 週後)も継続しており,対照群と比較して有酸素運動群では改善傾向が,筋力増強訓練群では有意な改善が認められた。ADT 療法中の前立腺がん患者でも,Cormie ら 11)が,理学療法士の監督下での介入により,介入3 カ月後のFACIT-F が対照群と比較して有意に改善されたと報告している。

前立腺がん以外では,Schuler ら 29)が化学療法を受けるさまざまながん種の患者を対照群,理学療法士の運動指導のみを受ける群,理学療法士の運動指導および直接的な運動療法を受ける群の3 群に割り付け,12 週介入したところ,対照群と比較して,運動指導のみを受けた群で精神的倦怠感の改善が認められたと報告している。また,大腸がん患者を対象にしたPACT study 2)では,対照群と比較して介入後と介入終了後18 週のMultidimensional Fatigue Inventory(MFI)で評価した全体的な倦怠感や身体的倦怠感が,介入群で有意に改善した。さらにAdamsen ら 16)の報告では,化学療法を受けるさまざまながん種の患者に対して理学療法士や訓練された看護師が運動療法を実施した結果,The European Organization for Research and Treatment of Cancer(EORTC)QLQ-C30 で評価した倦怠感が対照群と比較して,有意に減少した。またpilot study ではあるが,Rief ら 40)は脊椎転移を有し放射線療法を受けている患者への運動療法の効果を検証した。1 日30 分,週3 回6 カ月の在宅を基盤とした筋力増強訓練を実施した群は,対照群と比較して,EORTC QLQ-FA13 で評価した身体的倦怠感および日常生活の障害(interference with daily life)が介入後3 カ月では有意差は認められなかったものの,介入後6 カ月の終了時点で有意に改善したと報告している。血液がんはSchuler やAdamsen らの研究対象にも含まれているが,Chang ら 18)は化学療法を受けている急性骨髄性白血病患者に1 日12 分のウォーキングを週5 回繰り返した結果,投薬後1 週および2 週時点でのBrief Fatigue Inventory で評価した平均的な倦怠感,最も強い倦怠感,倦怠感による生活の障害の程度が介入群で有意に減少し,交互作用も認められたと報告している。

・統合

採用された文献のうち,運動療法の効果を認めなかった文献もみられたが,サンプル数が少ないことからエビデンスレベルへの影響は小さいと考えた。また,多くの文献で倦怠感への効果は認められており,非一貫性は少ないと判断した。以上からエビデンスの強さはA と判定した。また,在宅を基盤とした介入を行った5 件の文献のうち,4 件では介入効果を認めなかったので,監督下での介入が望ましいと考えられた。

⑥精神機能・心理面の改善(重要性6,エビデンスの強さ:D)

・検索

系統的文献検索からランダム化比較試験11 件を採用した。

・評価

精神機能・心理面への運動療法の有用性を示した研究は4 件のみにとどまり 9, 11, 18, 33),7 件の研究で効果が認められなかった 2, 3, 10, 13, 15, 19, 24)。介入は在宅を基盤とした運動療法に関する研究が1 件,監督下での運動療法に関する研究が10 件であった。

在宅を基盤とした運動療法では,Culos-Reed ら 3)がADT を受ける前立腺がん患者に対して16 週の在宅を基盤とした運動療法(有酸素運動および低強度の筋力増強訓練を組み合わせたプログラム)の指導を行ったが,CES-D(the center for epidemiological studies depression scale)で評価した抑うつに有意な群間差を認めなかった。

監督下での運動療法は,放射線療法もしくはホルモン療法を行う前立腺がん患者を対象にしたHojan ら 9)やCormie ら 36)の研究では,EORTC QLQ-C30 やFACT-G で評価した精神機能,BSI-18(The Brief Symptom Inventory-18)の下位項目である全体的な悩みの程度が改善されたと報告され,Adamsen ら 16)やChang ら 18)の研究 でもProfile of Mood States(POMS)やHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)といった精神機能が対照群と比較して有意に改善したと報告されている。しかし,有用性が示されていない報告も多く,大腸がんを対象にしたPACT study 2)や血液がんを対象にしたAlibhai ら 13)の報告では,ともにHADS で評価した精神機能に介入効果を認められなかった。

・統合

採用された文献のうち,有用性を示した文献と示さなかった文献でバイアスリスクや総サンプル数に大きな差はなく,運動療法の精神機能や心理面に対する影響を検討するには,介入対象や介入期間,介入方法などの統一が必要であるが,そこまでのエビデンスはまだ不十分である。有用性を示さなかった文献数,総サンプル数を考慮し,ネガティブな方向でのエビデンス構成とした。しかし,有用性を示した文献のエビデンスレベルへの影響は無視できないため,全体的なエビデンスの強さはD と判定した。

⑦有害事象の改善(重要性6,エビデンスの強さ:D)

・検索

系統的文献検索からランダム化比較試験10 件を採用した。

・評価

本項で取り扱う有害事象は他のアウトカム項目で取り扱う倦怠感および末梢神経障害,精神機能を省略しており,主に睡眠障害や痛み,呼吸障害や便秘などを対象にしている。抽出された文献ではEORTC QLQ-C30 による有害事象の評価が多く,Common Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)ver4.0 など化学療法の有害事象評価としてスタンダードな評価方法を使用したものはほとんどない。

有害事象に対する運動療法の有用性を示した研究は4 件のみにとどまり 1, 10, 15, 34),6 件の研究で効果が認められなかった 2, 9, 16, 21, 24, 35)。介入は在宅を基盤とした運動療法の研究が2 件,監督下での運動療法の研究が8 件であった。

在宅を基盤とした運動療法は,Coleman ら 21)の報告では,化学療法および造血幹細胞移植を受ける多発性骨髄腫患者に在宅を基盤としたウォーキング(RPE で11〜13 の強度),筋力増強訓練(RPE で15〜17 の強度)およびストレッチ(ハムストリング)を行ったが,対照群と比較して睡眠障害の改善はなかった。またKapur ら 35)は4 週の放射線療法を受ける前立腺がん患者にランダム化比較試験を実施し,介入群には在宅を基盤とした中等度(予測最大心拍数の60〜70%)の運動強度のウォーキングを週3 回以上実施するよう指導したが,両群間でRTOG/EORTC(Radiation Therapy Oncology Group / European Organization for Research and Treatment of Cancer)scale で評価した膀胱・直腸障害に有意な差は認めなかった。

監督下での運動療法は,Streckmann ら 1)は化学療法中の悪性リンパ腫患者に,週2 回36 週以上の理学療法士による監督下での運動療法〔1 日1 時間で有酸素運動(60〜80%MHR のエルゴメーターもしくは10〜30 分のウォーキング),バランス練習(4 種類の姿勢保持訓練を3 セット),筋力増強訓練(レジスタンスバンドによる4 種類の運動)から構成されるプログラム〕を実施したところ,介入後に便秘や下痢などの消化器症状の改善を認めた。Vanderbyl ら 10)は化学療法を受ける非小細胞肺がんおよび消化器がん患者で気功と運動療法の比較を実施しているが,6 週で12 セッションの介入を行ったところ(気功45 分,監督下での有酸素運動と筋力増強訓練),運動療法群で睡眠障害の改善を認めたと報告している。

・統合

採用された文献のうち,有用性を示した研究もあるが,多くの研究では効果は認められなかった。評価方法がEORTC QLQ-C30 によるものが大部分であり,有害事象の軽減を主目的にした研究もないため,本アウトカムに関する運動療法介入のエビデンスはまだ不十分である。有用性を示さなかった文献数,総サンプル数を考慮してネガティブな方向でのエビデンス構成とした。効果を示した論文も散見されるが,サンプル数が少なく,バイアスリスクが高いことから,エビデンスレベルへの影響は少ないと判断した。有害事象への効果をサブ解析によって示す論文や主観的尺度によるQOL 評価を採用している論文が多いことから,非直接性が高いと判断し,全体的なエビデンスの強さはD と判定した。

⑧末梢神経障害による機能障害の改善(重要性6,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索からランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

介入は在宅を基盤として運動療法に関する研究が0 件,監督下での運動療法に関する研究が2 件であった。

監督下での運動療法では,Schönsteiner ら 28)は化学療法による末梢神経障害(chemotherapy-induced peripheral neuropathy;CIPN)をもつ患者を運動介入群と運動介入+WBV(whole body vibration)群に割り付けて,運動介入群は他動的ストレッチおよびマッサージとバランストレーニング,歩数計による在宅を基盤とした生活指導,WBV 群ではこれらに加えてWBV による介入が週2 回15 セッション実施された。WBV はガリレオフィットネスという振動機能があるプラットフォームに乗り,ウォームアップ,クールダウン合わせて20 分程度訓練するものであるが,介入後,運動介入群と比較してwarm detection threshold(温覚の閾値)の改善,疼痛の軽減効果と椅子から5 回立ち座りするパフォーマンスの改善を報告している。また,Streckmann ら 1)は化学療法中の悪性リンパ腫患者に週2 回36 週以上のバランス訓練を含む運動療法を実施したところ,介入後体幹動揺軌跡の減少,動的バランスの改善を認めただけでなく,振動覚で評価した深部感覚障害が対照群と比較して有意に消失したと報告している。

・統合

2 件のランダム化比較試験により,末梢神経障害への運動療法はパフォーマンスと感覚障害の改善に有効であることが示された。非一貫性はみられないが,研究数やサンプル数が少なく確実性が低いこと,Schonsteiner らの報告は運動と運動+WBV による介入のため非直接性があることなどからエビデンスの強さはC と判定した。

⑨日常生活動作の改善(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索からランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

介入は在宅を基盤とした運動療法に関する研究はなく,監督下での運動療法に関する研究が2 件であった。Kerri ら 25)はADT 療法を受ける前立腺がん患者を POWIR(prevent osteoporosis with impact +resistance)群,ストレッチのみの対照群に割り付け,12 カ月の介入を実施した。週2 回の監督下と週1 回の在宅を基盤とした介入であり,POWIR 群は自重による関節運動やジャンピングなどを含み,自宅ではレジスタンスバンドによる筋力増強訓練を実施,対照群は他動的なリラクゼーションおよび自宅でのストレッチやリラクゼーションの実施とした。結果,POWIR 群ではLLFDI(Late Life Function and Disability Impairment)で評価したADL 障害の程度が,対照群と比較して有意に改善していたと報告している。Henke ら 15)の研究では化学療法中の非小細胞肺がん患者に運動療法を行い,ベースラインと3 コース後のADL をBarthel 指数(BI)で比較したところ,対照群は約92 点から約81 点に低下したが,介入群は約98 点から約97 点と介入期間中の低下を認めず,有意な群間差を示した。

・統合

2 件のランダム化比較試験で運動療法によるADL の改善が示され,非一貫性は低い。しかし,論文数やサンプル数が少ないことから,確実性が低いためエビデンスの強さはB とした。

⑩ QOL の改善(重要性6,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索からランダム化比較試験22 件を採用した。

・評価

本項で採用した文献では,QOL の評価には疾患特異的尺度としてEORTC QLQ-C30 およびFACT-G が主に使用されているが,SF-36 を使用した文献もある。本項ではEORTC QLQ-C30 の下位項目は有害事象や精神機能のアウトカムと重複するものもあるため検討からは除外し,全般的なQOL 改善の有無に焦点を当てた。

QOL に対する運動療法の有用性を示した研究は10 件に留まり 1, 11, 12, 16, 17, 19, 22, 26, 34, 36),12 件の研究で効果が認められなかった 2, 3, 9, 10, 13, 15, 23-25, 27, 28, 37)。介入は在宅を基盤とした運動療法に関する研究が2 件,監督下での運動療法に関する研究は20 件であった。

在宅を基盤とした運動療法では,Culos-Reed ら 3)がADT を受ける前立腺がん患者に対して16 週の在宅を基盤とした運動(有酸素運動および低強度の筋力増強訓練を組み合わせたプログラム)の指導を行ったが,QOL に有意な群間差を認めなかった。さらに,Griffith ら 23)は化学療法もしくは放射線療法を受けている乳がん,前立腺がん,大腸がん,その他のがん患者に12 週の介入(在宅を基盤とした,予測最大心拍数の50〜70%の運動強度での5 分間ウォーキング,ゆっくりした速度での5 分間ウォーキングを交互に行うインターバルウォーキングの,20〜30 分程度の実施を指導)を実施した結果,両群間でSF-36 で評価したQOL には群間差を認めなかったことを報告している。

監督下での運動療法は,Streckmann ら 1)は化学療法中の悪性リンパ腫患者に週2 回36 週以上の理学療法士による監督下での運動療法〔1 日1 時間で有酸素運動(60〜80%MHR のエルゴメーターもしくは10〜30 分のウォーキング),バランス訓練(4 種類の姿勢保持訓練を3 セット),筋力増強訓練(レジスタンスバンドによる4 種類の運動)から構成されたプログラム〕を行ったところ,介入後対照群でQOL の改善は認めなかったものの,介入群では介入36 週後において有意にQOL の改善が認められた。EORTC QLQ-C30 における全般的QOL の改善を認めた研究はStreckmann の報告のみ,SF-36 のgeneral health 項目で改善が認められたのはGalvao ら 22)の報告のみであり,全般的QOL の改善のみに焦点を当てた場合,運動療法の効果は不十分といわざるを得ない。しかし,多くの研究でSF-36 で示されるPCS(Physical Component Summary)や MCS(Mental Component Summary)などの身体的,精神的なQOL に対する運動療法の有用性が示されている。Samuel ら 12)は化学放射線療法を受ける頭頸部がん患者に6 週間の介入(有酸素運動は週5 回RPE で3〜5/10 の強度の速歩を15〜20 分,筋力増強訓練は週5 回上下肢筋群を中心に,RPE で3〜5/10 の強度で8〜10 回2〜3 セット)を行った結果,対照群ではSF-36 のPCS およびMCS が低下したのに対して,介入群ではPCS は著変なかったが,MCS は改善傾向を示した。Adamsen ら 16)も化学療法を受けるさまざまながん腫に対して運動療法を行った結果,SF-36 のPCS およびMCS が介入群と比較して有意に改善を示したことを報告している。

・統合

採用された文献のうち,有用性を示した研究と示さなかった研究の数は同様であった。バイアスリスクは両者で差異はなかったが,有用性を示さなかった研究のサンプル数が総サンプル数の半数に満たないことから,運動療法はQOL の改善に効果があると判断した。バイアスリスクや確実性,非直接性などには問題が少ないが,非一貫性の強さがあることからエビデンスの強さはC と判定した。また,在宅を基盤に介入した2 件はともに介入効果を認めず,監督下での介入が望ましいと考えられる。介入の効果として全般的QOL よりも身体的QOL,精神的QOL への効果が散見されており,今後アウトカムを細分化して効果検証を行う必要がある。

⑪血小板低値時の出血,倦怠感・疲労の憎悪,転倒(害:重要性6,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索からは本項に掲げたアウトカムを主要アウトカムとして評価し統計学的解析を行った文献はなく,エビデンスとなる文献はなかった。そのため,本CQ の文献のうち,サンプルサイズが介入群,対照群ともに100 名を超え,さまざまながん種を含み,バイアスリスクの低いAdamsen らの報告を採用した。倦怠感に関しては,アウトカム⑤で既に運動療法の有用性は示されている。転倒に関しては参考となる文献はなかった。

・評価

Adamsen ら 16)は介入前にフィジカルチェックを実施しており,除外基準に該当する患者にはトレーニングを行わなかった(除外基準:拡張期血圧>95mmHg or <45mmHg,安静時心拍数>100 回/分,体温>38℃,呼吸数>20 回/分,抗菌薬治療を必要とする感染,継続する出血,新鮮な出血斑,内出血,血小板<50000/L,白血球<1000/L)。6 週の介入期間中,感染で脱落した症例は対照群で1.5%(2/134 名),介入群で5.2%(7/135 名),骨髄抑制で脱落した症例は対照群で3.0%(4/134 名),介入群で2.9%(4/135 名)であった。骨髄抑制の報告はあるが,それによる出血は報告されていない。

・統合

出血や転倒の有無をアウトカムとして扱った文献はほとんどないが,介入基準や骨髄抑制,感染などの有害事象が含まれる脱落者の記載を参考にすることが可能である。また,多くのfeasibility study や pilot study が報告されており,それらを参考にすることも有用である 38-40)。害のアウトカムの報告が少なく,統計学的手法を用いていないことから,エビデンスの強さはC とした。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:B(中)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,運動耐容能,筋力,身体機能,倦怠感,身体活動性,ADL,末梢神経障害,QOL への改善効果が認められた。一方で,精神機能・心理面や有害事象には有用性がないことも示された。

害(望ましくない効果)として運動時の出血や倦怠感の増悪,転倒などが予想されるが,介入群で害が出現したとの報告はほとんどなく,対照群と比較して害の出現が多いとはいえない。

患者の価値観・希望

身体機能や身体活動性の低下はADL の低下,倦怠感や身体QOL の増悪を招くため,多くの患者が行うことを希望すると考えられ,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

入院中は「がん患者リハビリテーション料」で算定可能である(放射線療法中は算定対象となるがん種が限定されている)が,外来では「がん患者リハビリテーション料」は算定できない。

・臨床適応性

多くのがん専門医療機関では,入院中は保険診療でリハビリテーション科医,リハビリテーション専門職(理学療法士など),看護師などから構成されるリハビリテーション医療チームのもとで,監督下での運動療法を行うことができるため,臨床適応性は高い。

一方,外来では保険診療の適用外であるため,監督下での運動療法および専門スタッフの監督なしで行う運動療法が実施可能な医療機関は少なく,現状では臨床適応性は低い。

総合評価

化学療法・放射線療法中の患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を実施することを推奨する。

重要なアウトカムに対するエビデンスは強く,益と害のバランスは確実である(益の確実性が高い)。患者の価値観は確実性が高く,多様性は低い(一致している)。入院中のリハビリテーション治療(運動療法)は保険診療で実施されるため患者のコスト負担は小さく,多くの医療機関で実施できることから,正味の利益はコストや医療資源に十分に見合っており,推奨する(強い推奨)とした。一方,外来でのリハビリテーション治療(運動療法)は保険診療の適用外であるため,実施可能な医療機関は少なく,現状では臨床適応性は低い。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・化学療法・放射線療法中には,患者自身が運動に積極的に取り組むことができないことが多い。ガイドラインで運動を推奨してもらえれば,患者自身も取り組むきっかけとなり,その後のQOL によい影響があると考えられる。
■投票結果

付記
◉ 社会復帰を目的としたリハビリテーション治療

化学療法や放射線療法の発展により生存期間が延長している昨今,治療目的の一つとして社会復帰が挙げられる。リハビリテーション治療により身体的,精神的な支援を実施することで早期の社会復帰が見込まれるので,本CQ でもアウトカムとして設定していたが,エビデンスとなる文献は得られなかったのが現状である。復職や再雇用に関するシステマティックレビューでも仕事の要求度が高く,hard work やhard stress は復職率に影響することが示されており 1),リハビリテーション治療の必要性は高まっている。今後の観察研究や介入研究の発展に期待したい。

文献

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付記文献
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CQ 02
化学療法・放射線療法中もしくは治療後のがん患者に対して,化学療法・放射線療法中・後に物理療法(寒冷療法,電気鍼治療)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2B
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
化学療法・放射線療法中もしくは治療後のがん患者に対して,化学療法・放射線療法中・後に物理療法(寒冷療法,電気鍼治療)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

化学療法・放射線療法中の患者では,嘔気(吐き気)・嘔吐,口内炎,骨髄抑制,脱毛など多岐にわたる有害事象が生じることによりQOL が低下し,重症化すると治療の完遂率にも影響する。近年,それらの有害事象への薬物療法のほかに支持療法としての物理療法が着目されているが,その適応や効果に関するエビデンスは十分でない。本ガイドライン初版では,運動療法または物理療法による有害事象の改善への効果についてCQ として採用されており,推奨グレードA と判断されている。今回の改訂では,物理療法のみに焦点を絞り,有用性を検討した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①口内炎の改善(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索からランダム化比較試験5 件,メタアナリシス1 件を採用した。

・評価

Worthington ら 1)のコクラン・ライブラリーによるシステマティックレビューは口腔内寒冷療法の有用性を調査している。14 件のランダム化比較試験が採用され,そのうち11 件でメタアナリシスが実施されている。主に5-FU(ランダム化比較試験5 件)とメルファラン(ランダム化比較試験5 件)に関して検討されており,5-FU は介入群における口内炎発生のリスク比が0.61(95%CI:0.52-0.72),重篤な口内炎発生のリスク比が0.40(95%CI:0.27-0.61)であった。一方,メルファランは介入群における重篤な口内炎発生のリスク比が0.38(95%CI:0.20-0.72)であった。介入方法としては化学療法前から氷塊(ice tip)を口に含み続ける方法が一般的であるが,文献検索から得られたランダム化比較試験では,寒冷療法を中心に香り付けや味付けをした氷塊を使用した検討が実施されており,いずれも有用性が示されている 2, 3)

・統合

系統的文献検索によって得られたランダム化比較試験では,対照群にも何らかの介入を実施しているものが多く非直接性がある。1 件のメタアナリシスがあり,多くの研究でバイアスリスクが高いと紹介されているものの,寒冷療法の有用性は示されているので,エビデンスの強さはB とした。

②嘔気(吐き気)の改善(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索からランダム化比較試験9 件を採用した。

・評価

嘔気に関する介入では鍼治療によるものが散見される。Jones ら 4)は嘔気誘発性の化学療法を実施するがん患者に,1 コース目は対象者を介入群とプラセボ群に割り付け,2 コース目は対象者をすべて対照群に割り付け,3 コース目は再度介入群とプラセボ群に割り付ける,3 群のクロスオーバー試験を実施した。介入群は鍼機能を有するリストバンドを巻きつけて手関節腹側,手関節のしわから3 横指近位に位置するP6 ポイントに対して刺激を行い,プラセボ群には鍼機能がないリストバンドを巻きつけた。その結果,リストバンドは自覚的には嘔気予防に寄与しているという結果が得られたが,群間差はなく,プラセボ効果以上は望めないと報告している。一方,Shen ら 5)は化学療法を受けた乳がん患者を電気鍼群,プラセボ群,対照群の3 群に割り付け,投薬後5 日の介入で嘔気に対する効果を検証したところ,P6 ポイントおよびST6 ポイントに電気鍼を打つ群が他の2 群と比較して嘔気のエピソードが有意に少なかったと報告している。

この2 件の研究では,嘔気の有無や程度のみの評価にとどまっているが,化学療法による嘔気・嘔吐には急性(1 日)と遅発性(2〜5 日目)があり各期で介入効果を検討する必要がある。急性,遅発性が分類可能な評価を行っている研究は7 件あり 7-12),SeaBand や ReliefBand といった器具による電気刺激治療が5 件あったが,急性の嘔気・嘔吐に効果があった研究は4 件 11, 13, 14, 16),遅発性の嘔気・嘔吐に効果があった研究は4 件であった 7, 8, 9, 12)。Molassiotis ら 9)は初回化学療法を実施する乳がん患者にSeaBand を配布し,投薬開始から5 日P6 ポイントに装着し,2 時間毎に2〜3 分間の圧刺激を加えるよう指導した。結果としてRhodes Index of Nausea, Vomiting and Retching(INVR)で評価した嘔気・嘔吐の点数が1〜5 日目にかけて有意に低値になることが示された。

・統合

鍼治療による嘔気の改善のエビデンスが散見されるが,鍼師による介入よりもP6 ポイントをターゲットにしたリストバンド式電気鍼による介入が多く,一貫性の高い結果である。介入方法も機能のないリストバンドを用いたプラセボと比較している研究が多く,バイアスリスクも高くない研究が多い。以上からエビデンスの強さはB とした。

③脱毛の改善(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索からランダム化比較試験7 件を採用した。

・評価

脱毛への介入は薬剤投与中の頭皮冷却法が散見される。Nangia ら 18)がJAMA で報告したSCALP(The Scalp Cooling Alopecia Prevention)trial では,化学療法を受ける乳がん患者を介入群と対照群に割り付け,介入群は化学療法投与前30 分,投与中,投与後90 分頭部を専用の頭皮冷却装置で冷却した。脱毛の評価は頭皮を6 つに区分し,各々の区分の毛髪をCTCAE ver4.0 で評価しGrade0 と1 を予防成功,Grade2〔50%以上の毛髪の損失または,ウィッグ(かつら)などの使用が必要〕以上を予防失敗と定義した。4 コースの治療終了後,介入群では区分毎に違いはみられるものの予防成功率は50.5%,一方,対照群では 0%という結果から,有意な介入効果が示された。同様の介入効果は他の研究でも認められており 15-17),デバイスとしてPaxman やColdCap が主に使用されている。冷却による有害事象としては頭痛が10% 14),寒気や悪寒は各々25%,5%程度出現する 15)。有害事象が認められやすいことから,最適な冷却時間の検討も実施されており 18, 19),Komen ら 19)は乳がん患者に対してPaxman を用いて投与後20 分の冷却を行う群,投与後45 分の冷却を行う群に割り付け,両群ともに投与前30 分,投与中は同様に冷却を行ったところ,ウィッグや帽子などの使用が不必要であると定義される介入成功は,投与後20 分冷却した群は73%,45 分冷却した群は79%と両群間に有意差はなく,有害事象も両群間で同じであった。

・統合

頭皮冷却法による脱毛予防のエビデンスが散見され,介入方法はPaxman やCold Cap などで頭部を冷却するものが一般的である。冷却方法や時間は,統一された見解はなく検討段階であるが,介入効果は一貫性が高く,質の高い文献もみられる。以上の点からエビデンスの強さはB とした。

④有害事象の増加(害:重要性3,エビデンスの強さ:D)

・検索

系統的文献検索からは有害事象を主要アウトカムとして評価し統計学的解析を行った文献は少ないので,参考としてコクラン・ライブラリーによるシステマティックレビュー1 件,ランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

口内炎に対する寒冷療法は,Worthington ら 1)のコクラン・ライブラリーによるシステマティックレビューにより,安全性も担保されている。脱毛に対する寒冷療法はNangia ら 18)が報告しており,頭皮の疼痛や寒気,頭痛などの発生は10%未満であり,軽度なものが多い。

・統合

寒冷療法は統計学的手法を用いた比較がないが,治療による有害事象の研究が散見され,おおむね安全性が確認されている。治療法が多岐にわたること,統計学的手法を用いていないことなどから,エビデンスの強さはD とした。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:B(中)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,化学療法中の口内炎,嘔気,脱毛の予防効果がみられた。

害(望ましくない効果)として,鍼治療による痛みや寒冷療法での寒気,頭痛などの有害事象は報告されているが,治療中の一時的なものであり,害よりも益が大きいと判断した。

患者の価値観・希望

鍼治療や寒冷療法では益も大きいが,いくつかの害もあるため,治療に対する患者の希望については多様性を伴う。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

本CQ で紹介したリハビリテーション治療は,口内炎対策では氷塊などを用意する必要があり,嘔気に対する鍼治療,脱毛に対する寒冷療法は,保険診療の適用外となり患者の自己負担によって実施される。

・臨床適応性

口内炎への寒冷療法は,実施されているがん専門医療機関も多く臨床適応性は高い。他は治療のための機器の準備が必要でありコストもかかることから,まだ十分に普及しておらず臨床適応性は低い。

総合評価

化学療法・放射線療法中もしくは治療後のがん患者に対して,化学療法・放射線療法中・後に物理療法(寒冷療法,電気鍼治療)を行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスは強く,益と害のバランスも確実である(益の確実性が高い)。患者の価値観には多様性を伴い,保険診療の適用外での実施となるため患者のコスト負担は大きい。正味の利益はコストや医療資源に十分に見合っているとはいえないため,今回の改訂では提案する(弱い推奨)とした。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・頭皮冷却法は患者にとって,とても辛い治療である。辛い治療であるにもかかわらず効果が現れにくいものは,患者にとっては負担でしかない。鍼治療は患者により効果がある場合もある。
  • ・口内炎予防の寒冷療法,脱毛に対する頭皮冷却療法は看護師によるケアの範疇であることに留意したい。
■投票結果

付記
◉ 化学療法・放射線療法中がん患者に対する物理療法の効果

身体機能や身体活動性に対する物理療法の効果検証はまだ少なく,今後のエビデンス構築が期待される。Maddocks ら 1)は緩和的化学療法を受けているStageⅣの進行性非小細胞肺がんを対象に,NMES(neuromuscular electrical stimulation)を大腿四頭筋に周波数50Hz 対称性Biphasic 正方形の波形,パルス幅350μsec,筋収縮が認められ患者が耐え得る刺激強度(mA)で8〜11 週実施したが,対照群と介入群では身体活動性に変化はなかったと報告している(介入群 vs. 対照群=2766 歩/日 vs. 3332 歩/日,p=1.00)。また,大腿四頭筋の筋量や筋力も評価しているが,いずれも介入群と対照群に有意差は認めなかったと報告している。

◉ 嘔気に対する鍼治療について

鍼治療の嘔気への効果検証はリハビリテーション医療と異なる領域にあるが,リストバンド式の電気鍼は侵襲も少なく,理学療法場面で実施する経皮的電気神経刺激(trancutaneous electrical nerve stimulation;TENS)とも大きな違いはないため,今後の臨床応用の可能性が考慮される。

◉ 脱毛に対する寒冷療法について

脱毛に関してはPaxman やCold Cap といった装置で寒冷療法を実施しているが,わが国においてこれらのデバイスの使用効果は未知数であり,今後臨床現場における導入が期待される。

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4)
Jones E, Isom S, Kemper KJ, et al. Acupressure for chemotherapy-associated nausea and vomiting in children. J Soc Integr Oncol. 2008;6:141-5.
5)
Shen J, Wenger N, Glaspy J, et al. Electroacupuncture for control of myeloablative chemotherapy-induced emesis:a randomized controlled trial. JAMA. 2000;284:2755-61.
6)
Eghbali M, Yekaninejad MS, Varaei S, et al. The effect of auricular acupressure on nausea and vomiting caused by chemotherapy among breast cancer patients. Complement Ther Clin Pract. 2016;24:189-94.
7)
Shen Y, Liu L, Chiang JS, et al. Randomized, placebo-controlled trial of K1 acupoint acustimulation to prevent cisplatin-induced or oxaliplatin-induced nausea. Cancer. 2015;121:84-92.
8)
Suh EE. The effects of P6 acupressure and nurse-provided counseling on chemotherapy-induced nausea and vomiting in patients with breast cancer. Oncol Nurs Forum. 2012;39:e1-9.
9)
Molassiotis A, Helin AM, Dabbour R, et al. The effects of P6 acupressure in the prophylaxis of chemotherapy-related nausea and vomiting in breast cancer patients. Complement Ther Med. 2007;15:3-12.
10)
Roscoe JA, Matteson SE, Morrow GR, et al. Acustimulation wrist bands are not effective for the control of chemotherapy-induced nausea in women with breast cancer. J Pain Symptom Manage. 2005;29:376-84.
11)
Roscoe JA, Morrow GR, Hickok JT, et al. The efficacy of acupressure and acustimulation wrist bands for the relief of chemotherapy-induced nausea and vomiting. A University of Rochester Cancer Center Community Clinical Oncology Program multicenter study. J Pain Symptom Manage. 2003;26:731-42.
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Pearl ML, Fischer M, McCauley DL, et al. Transcutaneous electrical nerve stimulation as an adjunct for controlling chemotherapy-induced nausea and vomiting in gynecologic oncology patients. Cancer Nurs. 1999;22:307-11.
13)
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14)
Betticher DC, Delmore G, Breitenstein U, et al. Efficacy and tolerability of two scalp cooling systems for the prevention of alopecia associated with docetaxel treatment. Support Care Cancer. 2013;21:2565-73.
15)
van den Hurk CJ, Breed WP, Nortier JW. Short post-infusion scalp cooling time in the prevention of docetaxel-induced alopecia. Support Care Cancer. 2012;20:3255-60.
16)
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Giaccone G, Di Giulio F, Morandini MP, et al. Scalp hypothermia in the prevention of doxorubicin-induced hair loss. Cancer Nurs. 1988;11:170-3.
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Nangia J, Wang T, Osborne C, et al. Effect of a Scalp Cooling Device on Alopecia in Women Undergoing Chemotherapy for Breast Cancer:The SCALP Randomized Clinical Trial. JAMA. 2017;317:596-605.
19)
Komen MM, Breed WP, Smorenburg CH, et al. Results of 20- versus 45-min post-infusion scalp cooling time in the prevention of docetaxel-induced alopecia. Support Care Cancer. 2016;24:2735-41.
付記文献
1)
Maddocks M, Halliday V, Chauhan A, et al. Neuromuscular electrical stimulation of the quadriceps in patients with non-small cell lung cancer receiving palliative chemotherapy:a randomized phase II study. PLoS One. 2013;8:e86059.

CQ 03
化学療法・放射線療法中もしくは治療後に認知機能障害のあるがん患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード1A
推奨の強さ強い推奨
エビデンスの
確実性
化学療法・放射線療法もしくは治療後に認知機能障害のあるがん患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことを推奨する。

重要臨床課題の確認

化学療法の治療中から治療後にかけて,認知機能低下や高次脳機能障害が出現することが報告されている 1)。これらを総称して「ケモブレイン」という語が用いられ,近年調査が進められている 2)。ケモブレインには現在のところ明確な定義はなく,概念自体が広く認知されているものではないが,薬物療法の進歩により生存期間が長期化している現状を鑑みると,今後,重大な有害事象として顕在化してくることは論をまたない。しかし,これらの機能改善に関するリハビリテーション治療のエビデンスは十分ではないのが現状である。本ガイドライン初版では,化学療法・放射線療法中・後の認知機能障害に対するリハビリテーション治療(運動療法)の有用性はCQ として採用されていなかったが,新たに検証すべき臨床重要課題として捉え,リハビリテーション治療の有用性を検討した。文献抄読の結果,運動療法と作業療法の介入方法が大きく異なるため,CQ を分けてエビデンスを記載した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①認知機能(全般的精神知的機能)低下の改善(重要性6,エビデンスの強さ:D)

・検索

系統的文献検索から,治療後のがん患者を対象にしたランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Campbell ら 3)はStageⅠ-ⅢA の乳がんの化学療法後,自覚的に認知機能低下を認めた患者にランダム化比較試験を行った。有酸素運動を24 週,45 分の中〜高強度の有酸素運動からなる監督下でのセッションを2 回/週,および30 分のウォーキングもしくは患者が選択した活動からなる在宅を基盤としたセッションを2 回/週の計150 分/週,運動強度は予備心拍数(heart rate reserve;HRR)を使用しHRR 60%から漸増的に運動療法を実施した群と対照群を比較したが,主観的認知機能尺度であるFunctional Assessment of Cancer Therapy Cognitive Function(FACT-COG)version3 の得点に両群間で有意な差は認めなかったと報告している。

・統合

介入結果はネガティブな方向性であった。Campbell らの報告ではサンプルサイズが各群10 名程度と少なく確実性が低い。バイアスリスクや非直接性に問題はないものの,エビデンスの強さはD と判定した。

②遂行機能障害の改善(重要性7,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索から,治療後のがん患者を対象にしたランダム化比較試験2 件を採用した 3, 4)

・評価

Miki ら 4)は化学療法,放射線療法,ホルモン療法などの治療歴のある乳がんおよび前立腺がん患者に対するspeed-feedback 療法の認知機能への効果をランダム化比較試験で検証した。Speed-feedback 療法はパーソナルコンピューターの画面上に任意に指示されるスピードに合わせて自転車エルゴメーターを漕ぐ(ペダリング)運動療法である。Speed-feedback 療法(4 週,5 分で20W 最大80rpm の強度を1 回/週)を実施した群は対照群と比較して,前頭葉機能評価であるFrontal Assessment Battery(FAB)の得点に有意な改善を認めたと報告している。一方,アウトカム①認知機能の項で述べたCampbell ら 3)の報告では,運動療法の結果,遂行機能評価であるTMT-A が有意に改善していた。

・統合

運動療法に関する2 件のランダム化比較試験はいずれもバイアスリスクは低く,直接性も強く,結果に一貫性があることから,エビデンスの強さはA と判定した。

③有害事象の増加(害:重要性6,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索から,治療後のがん患者を対象にしたランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Campbell らの報告では,質問紙による倦怠感や不安感などのアウトカムも評価されているが,介入群においてそれらの項目の増悪は認めておらず,対照群と比較しても有意差は認めなかった。

・統合

有害事象に直接言及している論文が少ないが,介入前後で比較を行っているCampbell らの報告をもとにエビデンスの強さはB と判定した。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:A(強)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,運動療法により遂行機能障害の改善がみられた。害(望ましくない効果)として,運動や認知課題による倦怠感増悪などが予想される。今回採用された文献には害に関する記述は少ないが,Campbell らの研究では,介入群と対照群との間に倦怠感増悪の有意な差はなかった。以上より,益と害のバランスは確実であると判断した。

患者の価値観・希望

運動療法は害が少なく益が大きい治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられ,確実性は高く,多様性は低い。また,得られた文献の治療時間はいずれもおおよそ45 分未満であり,治療への患者の受け入れは問題ないと考える。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

入院中は「がん患者リハビリテーション料」で算定可能である(放射線療法中は算定対象となるがん種が限定されている)が,外来では「がん患者リハビリテーション料」は算定できない。

・臨床適応性

多くのがん専門医療機関では,入院中は保険診療でリハビリテーション科医,リハビリテーション専門職(理学療法士など),看護師などから構成されるリハビリテーション医療チームのもとで,監督下での運動療法を行うことができるため,臨床適応性は高い。

一方,外来では保険診療の適用外であるため,監督下での運動療法および専門スタッフの監督なしで行う運動療法が実施可能な医療機関は少なく,現状では臨床適応性は低い。

総合評価

化学療法・放射線療法後に認知機能障害のある患者に対して,リハビリテーション治療(運動療法)を行うことを推奨する。

重要なアウトカムに対するエビデンスは強く,高次脳機能障害の一つである遂行機能障害のみで考えると治療の適応は十分に高い。運動療法は害が少なく益が大きい治療であるため,益と害のバランスは確実である(益の確実性が高い)。多くの患者が行うことを希望すると考えられ,患者の価値観や意向の確実性は高く,多様性は低い(一致している)ことから,推奨する(強い推奨)とした。しかし,現行の診療報酬制度内では入院中の実施は可能であるが,外来でのがん患者に対する運動療法の実施は困難である。リハビリテーション専門職ががん患者と接する機会が多いのは入院期間中であるが,治療中の介入研究は少なく,国内外問わず,今後の研究が待たれる。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・化学療法中は,患者は認知機能障害に特に不安を感じやすく,社会復帰にも消極的になる。ガイドラインで強く推奨し,積極的なリハビリテーション治療に取り組み,社会復帰につなげてもらいたい。
■投票結果

付記
◉ 精神機能に対するリハビリテーション治療の効果

認知機能のほかに,抑うつ症状や不安,失望といった精神機能に対する運動療法や精神心理的アプローチを実施した文献の検討を行った。介入方法には心理療法や認知行動療法,リラクゼーションが散見されたが,いずれの治療法も研究デザインや対象者のランダム化に関する詳細な記載,介入方法の統一などの点でバイアスリスクが高い論文が多く,介入結果も一貫性に乏しいのが現状であった。そのため,今後,質の高い研究やエビデンスの蓄積が期待される。

文献

1)
Deprez S, Amant F, Smeets A, et al. Longitudinal assessment of chemotherapy-induced structural changes in cerebral white matter and its correlation with impaired cognitive functioning. J Clin Oncol. 2012;30:274-81.
2)
Hislop JO. Yes, Virginia, chemo brain is real. Clin Breast Cancer. 2015;15:87-9.
3)
Campbell KL, Kam JWY, Neil-Sztramko SE, et al. Effect of aerobic exercise on cancer-associated cognitive impairment:a proof-of-concept RCT. Psychooncology. 2018;27:53-60.
4)
Miki E, Kataoka T, Okamura H. Feasibility and efficacy of speed-feedback therapy with a bicycle ergometer on cognitive function in elderly cancer patients in Japan. Psychooncology. 2014;23:906-13.
5)
Culos-Reed SN, Carlson LE, Daroux LM, et al. A pilot study of yoga for breast cancer survivors:physical and psychological benefits. Psychooncology. 2006;15:891-7.

CQ 04
化学療法・放射線療法中もしくは治療後に認知機能障害のあるがん患者に対して,リハビリテーション治療(認知機能訓練)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2B
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
化学療法・放射線療法中もしくは治療後に認知機能障害のあるがん患者に対して,リハビリテーション治療(認知機能訓練)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

化学療法の治療中から治療後にかけて,認知機能低下や高次脳機能障害が出現することが報告されている 1)。これらを総称して「ケモブレイン」という語が用いられ,近年調査が進められている 2)。ケモブレインには現在のところ明確な定義はなく,概念自体が広く認知されているものではないが,薬物療法の進歩により生存期間が長期化している現状を鑑みると,今後,重大な有害事象として顕在化してくることは論をまたない。しかし,これらの機能改善に関するリハビリテーション治療のエビデンスは十分ではないのが現状である。本ガイドライン初版では,化学療法・放射線療法中・後の認知機能障害のリハビリテーション治療(認知機能訓練)の有用性についてはCQ として採用されていなかったが,新たに検証すべき臨床重要課題として捉え,リハビリテーション治療の有用性を検討した。文献抄読の結果,運動療法と作業療法の介入方法が大きく異なるため,CQ を分けてエビデンスを記載した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①認知機能(全般的精神知的機能)低下の改善(重要性6,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索から,治療後のがん患者を対象にしたランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Bray ら 3)は化学療法後の患者(90%は乳がん)に対してランダム化比較試験を行った。Web-based の認知療法プログラム(15 週,40 分のセッションを4 回/週の計40 時間)を実施した群は対照群と比較し,FACT-COG version3 の得点に有意な差を認めたと報告している。

・統合

Bray らの研究のエビデンスレベルは高いが文献が1 件のみであり,エビデンスの強さはB と判定した。

②遂行機能障害の改善(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索から,治療後のがん患者を対象にしたランダム化比較試験4 件を採用した。

・評価

作業療法に関連するランダム化比較試験4 件のうち,1 件はBray らの研究 3)であり,残り3 件はいずれも化学療法後の乳がん患者を対象にしている。Ferguson ら 4)は認知行動療法の一つであるMemory and Attention Adaptation Training(2 カ月,30〜50 分のセッションを1 回/隔週の計4 回)を実施した群は,対照群と比較して記憶機能が改善したと報告しており,Kesler ら 5)はweb-based のプログラム(12 週,5 セッション,20〜30 分/セッションを4 回/週)を実施した群は,対照群と比較して処理速度や言語流暢性などの遂行機能に有意な差を認めたと報告している。Von ら 6)はmemory training,speed of processing taining の2 種類の認知療法(各トレーニング:2 カ月,1 時間のセッションを10 回/6〜8 週)の介入効果を検証したところ,対照群と比較して各トレーニングによる即時記憶,遅延記憶への有意な効果を認め,speed of processing training では処理速度への有意な効果も認めたことを報告している。

・統合

作業療法は3 件のランダム化比較試験で効果が認められているが,エビデンスレベルが高く症例数の多いBray らのランダム化比較試験では作業療法の効果が示されていない。この影響は大きいと考え,一貫性の問題からエビデンスの強さはB とした。

③原疾患治療による有害事象の減少(重要性2,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索から治療後のがん患者に対するランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

Bray らおよびVon らの報告では,質問紙による倦怠感や不安感などのアウトカムも評価されている。どちらの研究も介入群で倦怠感や不安感が対照群と比較して改善傾向にあることを示している。

・統合

有害事象に直接言及している論文は少ないが,質問紙を用いて対照群と比較している2 件の研究をベースにエビデンスの強さはA と判定した。

④有害事象の増加(害:重要性6,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索から治療後のがん患者を対象にしたランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

Bray らおよびVon らの報告では,質問紙による倦怠感や不安感などのアウトカムも評価されている。どちらの研究も認知課題での有害事象と想定される倦怠感などの項目が介入群で増加せず,むしろ改善傾向にあることを示している。

・統合

有害事象に直接言及している論文は少ないが,質問紙を用いて対照群と比較している2 件の研究をベースにエビデンスの強さはB と判定した。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:B(中)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,認知機能訓練により全般的な認知機能改善,記憶力や遂行機能などの高次脳機能障害の改善がみられた。害(望ましくない効果)として,運動や認知課題による倦怠感増悪などが予想されるが,今回採用された文献には害に関する記述はほとんどなく,介入によって倦怠感などの改善がみられたとする報告も散見された。以上より,益と害のバランスは確実であると判断した。

患者の価値観・希望

認知機能訓練は,害が少なく益が大きい治療であり確実性は高い。一方,得られた文献の治療時間はいずれも1 時間近くのものが多く,web-based の治療様式が主となるため,多くの患者が行うことを希望するとは考えにくく,多様性を伴うと考えられる。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

認知課題は研究の多くがweb アプリを使用しているため,電子デバイスの購入やアプリへの登録などが必要である。入院中に治療が実施される場合は「がん患者リハビリテーション料」での算定が可能であり,患者へのコスト負担は少ないが,在宅を基盤とした介入では患者が自己負担で機器を購入する必要がある。また,外来では「がん患者リハビリテーション料」の算定はできない。

・臨床適応性

わが国では化学療法後は速やかに退院が予定されるため,本CQ で採用した文献と同じ背景をもつ患者に,入院中の監督下でのリハビリテーション治療の実施は困難である。しかし,外来では,Bray らのように在宅を基盤としたweb アプリを用いた認知課題の実施は,アプリの紹介や退院後の実施率の確認など簡単なフォローにより実施することは可能である一方,そのような医療機関は限定され,臨床適応性は低い。

総合評価

化学療法・放射線療法後に認知機能障害のあるがん患者に対して,リハビリテーション治療(認知機能訓練)を行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスは強く,作業療法(認知機能訓練)の介入効果が認められ,益と害のバランスは確実である(益の確実性が高い)。患者の価値観・希望については,害が少なく益が大きい治療であり確実性は高い(一致している)。一方,治療時間が1 時間近くにわたり,web-based の治療様式が主となるため,多くの患者が行うことを希望するとは考えにくく,多様性は高い。入院中は保険診療で実施されるため患者のコスト負担は少ないが,在宅を基盤とした介入では患者が自己負担で機器を購入する必要がある。また,外来では保険診療の適用外であるため,実施可能な医療機関は少なく,現状では臨床適応性は低い。したがって,正味の利益はコストや医療資源に十分に見合っているとはいえず,今回の改訂では提案する(弱い推奨)とした。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・認知機能訓練により認知機能障害や遂行機能障害の改善が認められるため,認知機能障害へのリハビリテーション治療としては,運動療法よりも認知機能訓練の方がよいのではないかと考えられる。
■投票結果

付記
◉ 認知機能訓練の今後の課題

検索結果で得られた作業療法は認知課題を用いる介入が中心であり,その効果は認知機能低下や高次脳機能障害を改善させるには十分である。アプリによるweb-based で認知課題を実施するものは無料登録が可能なものも多く,汎用性も高い。アプリの詳細は文献を参照されたい。また,認知課題を実施する際には,課題自体を嫌う患者も少なからず存在するため,患者に十分説明し同意を得ることが必要である。

わが国では治療後に外来でがんのリハビリテーション医療を行うことは診療報酬制度上困難であるため,本CQ で得られた在宅を基盤とした介入方法は実現可能性が高く有用であると考えらえる。CQ 全体としての研究数が少ないが,ポジティブな結果が出ている報告が多いため,今後は質の高い研究の蓄積を期待したい。

文献

1)
Deprez S, Amant F, Smeets A, et al. Longitudinal assessment of chemotherapy-induced structural changes in cerebral white matter and its correlation with impaired cognitive functioning. J Clin Oncol. 2012;30:274-81.
2)
Hislop JO. Yes, Virginia, chemo brain is real. Clin Breast Cancer. 2015;15:87-9.
3)
Bray VJ, Dhillon HM, Bell ML, et al. Evaluation of a web-based cognitive rehabilitation program in cancer survivors reporting cognitive symptoms after chemotherapy. J Clin Oncol. 2017;35:217-25.
4)
Ferguson RJ, McDonald BC, Rocque MA, et al. Development of CBT for chemotherapy-related cognitive change:results of a waitlist control trial. Psychooncology. 2012;21:176-86.
5)
Kesler S, Hadi Hosseini SM, Heckler C, et al. Cognitive training for improving executive function in chemotherapy-treated breast cancer survivors. Clin Breast Cancer. 2013;13:299-306.
6)
Von Ah D, Carpenter JS, Saykin A, et al. Advanced cognitive training for breast cancer survivors:a randomized controlled trial. Breast Cancer Res Treat. 2012;135:799-809.

CQ 05
化学療法・放射線療法施行予定の高齢患者に対して,治療前の高齢者総合的機能評価を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2C
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
化学療法・放射線療法施行予定の高齢患者に対して,治療前の高齢者総合的機能評価を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

高齢がん患者は世界的に著しく増加しており,治療強度に関する検討がなされている。積極的治療に対するvulnerability つまり脆弱性を評価する尺度として着目されているのが,高齢者総合的機能評価(comprehensive geriatric assessment;CGA)である 1)。高齢者医療の現場で開発された概念であるが,近年ではがん医療の分野でも適応されつつある。本ガイドライン初版では,高齢がん患者に対する治療前のCGA 評価の有用性をCQ として採用していなかったが,新たに検証すべき臨床重要課題として捉え,その有用性について検討した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①有害事象の予測(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索からランダム化比較試験1 件および観察研究13 件を採用した。観察研究のうち,サルコペニアに関する研究が2 件,フレイルに関する研究が3 件,CGA に関する研究が8 件あった。

・評価

ESOGIA-GFPC-GECP 08-02 study 2)は,登録された494 名の進行期高齢非小細胞肺がん患者をランダムに通常群とCGA 群に割り付けた研究である。通常群は Performance Status(PS)および年齢の2 要因で治療を決定し,CGA 群はPS,ADL,instrumental ADL(IADL),Mini-Mental State Examination(MMSE),老年症候群,合併症,抑うつ症状などの項目を用い,fit,vulnerable,frail の3 群に分類して各々の群に対応した治療を行った。その結果,2 群間にoverall survival(OS)やtreatment failure-free survival(TFFS)の差は認められなかったが,すべてのグレードの有害事象発生率およびグレード3〜4 の有害事象発生率はCGA 群で有意に低かった。

観察研究では,CGA に関する研究が8 件抽出され,そのうち6 件では化学療法中に何らかの有害事象を予測可能であったが 3-8),2 件では予測不可能であった 9, 10)。有害事象を予測できた研究でもCGA の項目は多岐にわたり,各項目を合わせたスコアで有害事象の予測を検討している論文は2 件のみである 3, 4)。その研究もCGA の項目ごとに検討しており,結果はそれほど一致していない。サルコペニアは腹部CT によるL3 高位での筋量測定を実施しており,2 件の文献ともサルコペニア(筋量低下)を高体重,高BMI と掛け合わせることでdose limiting toxicity の予測が可能であった 11, 12)。また,フレイルの評価により3 件中2 件で有害事象が予測可能という結果となっている 13-15)。なかでも握力がグレード3〜5 の化学療法毒性を予測するといった報告や 13),年齢,合併症,認知機能,身体機能で分類されるfit(健康),intermediate(中間),frail(フレイル)の3 群に分けて検討したところ,fit 群と比較し,frail 群はOS およびグレード3 以上の非血液系有害事象発生率および化学療法非完遂率が有意に高かったとの報告もある 15)

・統合

介入研究1 件を中心にエビデンスを構成した。ランダム化比較試験であるがopen label であり,ランダム化の方法も不明瞭であるため,エビデンスレベルは高いとはいえない。観察研究ではCGA やフレイルの項目が統一されていないこと,サルコペニアの評価もBMI を合わせるなど,研究によって評価方法の差異がみられるため,確実性が低い。特にCGA の研究ではスコアなどを使用せず,CGA の構成項目ごとに予測能が検討されており,項目ごとでみれば結果に一貫性が欠けている。以上よりエビデンスの強さはC と判定した。

②有害事象の増加(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索からランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

ESOGIA-GFPC-GECP 08-02 study では,通常群に比べCGA 群では詳細な評価を実施しているが,転倒や倦怠感の増悪といった有害事象はない。また,CGA 群では治療での有害事象の発生が有意に減少しており,十分に安全な評価方法といえる。

・統合

介入研究1 件を中心にエビデンスを構成した。ランダム化比較試験であるがopen label であり,ランダム化の方法も不明瞭であるため,エビデンスレベルは高いとはいえず,エビデンスの強さはC と判定した。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:C(弱)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,化学療法前にCGA を実施することで,治療中の有害事象の予測が可能であることが示された。またCGA の実施により治療耐久性が評価されることで,積極的治療からベストサポーティブケア(BSC)まで治療選択の幅が拡大し,より適正な治療の実施が期待される。一方,害(望ましくない効果)として重大な有害事象の報告はなかったことから,益と害のバランスは確実であると判断した。

患者の価値観・希望

CGA 評価には40〜60 分の時間を要するが,治療方針やケアの選択に有用な評価であるため,CGA 評価に対する患者の受け入れについては問題なく,確実性は高く,多様性は低いと考えられる。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

評価のみの場合は入院・外来にかかわらず「疾患別リハビリテーション料」での算定は困難であるが,治療前のCGA 評価に加えてリハビリテーション指導や運動療法などを実施することにより,入院中であれば「がん患者リハビリテーション料」での算定が可能となる。その場合,評価・介入時間は40〜60 分であり患者のコスト負担は少ない。

・臨床適応性

治療方針決定やケアの選択のためのCGA 評価の必要性は,徐々に認知されはじめている。しかし,CGA 評価には40〜60 分の時間を要するため,臨床上で評価のための十分な時間や人員を確保できるかどうかは各施設の状況によるところが大きく,臨床適応性が十分であるとはいえない。

総合評価

化学療法・放射線療法施行予定の高齢患者に対して,治療前の高齢者総合的機能評価を行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスは弱いが,益と害のバランスは確実である(益の確実性が高い)。患者の価値観・希望は確実性が高く,多様性は低い(一致している)。CGA 評価に加えてリハビリテーション治療を行う場合には,保険診療で実施されるため患者のコスト負担は少ない。一方,退院後の外来でのCGA 評価およびリハビリテーション治療の実施は保険診療の適用外のため,現状では臨床適応性は低い。また,CGA 評価を臨床上で実施するための十分な時間や人員を確保できるかどうかは各施設の状況によるところが大きく,臨床適応性が十分であるとはいえない。しかし,近年の高齢がん患者の著しい増加の現状を考慮すると,CGA 評価により積極的治療からベストサポーティブケア(BSC)まで治療選択の幅が拡大し,より適正な治療の実施が期待できることから,今回の改訂では提案する(弱い推奨)とした。ただし,研究ごとに評価項目が異なることや有害事象を予測する項目に一貫性がないことから,臨床現場で使用する際には付記を参考にされたい。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・CGA は重要な評価であるが,評価に40〜60 分の時間を要するため,すべての患者に行うことは困難である。今後,注意を要する高齢患者を簡便に選別できるスクリーニングツールの開発が求められる。
■投票結果

付記
◉ アメリカ臨床腫瘍学会ガイドラインにおけるCGA 評価の位置づけ

2018 年ASCO(American Society of Clinical Oncology)がgeriatric assessment に関するガイドラインを刊行している 1)。このなかで推奨されている評価項目としてはIADL,転倒回数,合併症,認知機能,抑うつ,栄養状態,CARG toxicity tool,CRASH tool,G8,VES-13,SPPB,TUG,歩行速度などがある。その他有益な情報も多く,エキスパートコンセンサスとして参考にしてもらいたい。

文献

1)
Caillet P, Canoui-Poitrine F, Vouriot J, et al. Comprehensive geriatric assessment in the decision-making process in elderly patients with cancer:ELCAPA study. J Clin Oncol. 2011;29:3636-42.
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Corre R, Greillier L, Le Caër H, et al. Use of a Comprehensive Geriatric Assessment for the Management of Elderly Patients With Advanced Non-Small-Cell Lung Cancer:The Phase III Randomized ESOGIA-GFPC-GECP 08-02 Study. J Clin Oncol. 2016;34:1476-83.
3)
Hurria A, Togawa K, Mohile SG, et al. Predicting chemotherapy toxicity in older adults with cancer:a prospective multicenter study. J Clin Oncol. 2011;29:3457-65.
4)
Hamaker ME, Seynaeve C, Wymenga AN, et al. Baseline comprehensive geriatric assessment is associated with toxicity and survival in elderly metastatic breast cancer patients receiving single-agent chemotherapy:results from the OMEGA study of the Dutch breast cancer trialists’ group. Breast. 2014;23:81-7.
5)
Biesma B, Wymenga AN, Vincent A, et al. Quality of life, geriatric assessment and survival in elderly patients with non-small-cell lung cancer treated with carboplatin-gemcitabine or carboplatin-paclitaxel:NVALT-3 a phase III study. Ann Oncol. 2011;22:1520-7.
6)
Marinello R, Marenco D, Roglia D, et al. Predictors of treatment failures during chemotherapy:a prospective study on 110 older cancer patients. Arch Gerontol Geriatr. 2009;48:222-6.
7)
Wildes TM, Ruwe AP, Fournier C, et al. Geriatric assessment is associated with completion of chemotherapy, toxicity, and survival in older adults with cancer. J Geriatr Oncol. 2013;4:227-34.
8)
Freyer G, Geay JF, Touzet S, et al. Comprehensive geriatric assessment predicts tolerance to chemotherapy and survival in elderly patients with advanced ovarian carcinoma:a GINECO study. Ann Oncol. 2005;16:1795-800.
9)
Extermann M, Chen H, Cantor AB, et al. Predictors of tolerance to chemotherapy in older cancer patients:a prospective pilot study. Eur J Cancer. 2002;38:1466-73.
10)
Hurria A, Fleming MT, Baker SD, et al. Pharmacokinetics and toxicity of weekly docetaxel in older patients. Clin Cancer Res. 2006;12:6100-5.
11)
Anandavadivelan P, Brismar TB, Nilsson M, et al. Sarcopenic obesity:a probable risk factor for dose limiting toxicity during neo-adjuvant chemotherapy in oesophageal cancer patients. Clin Nutr. 2016;35:724-30.
12)
Antoun S, Baracos VE, Birdsell L, et al. Low body mass index and sarcopenia associated with dose-limiting toxicity of sorafenib in patients with renal cell carcinoma. Ann Oncol. 2010;21:1594-8.
13)
Puts MT, Monette J, Girre V, et al. Are frailty markers useful for predicting treatment toxicity and mortality in older newly diagnosed cancer patients? Results from a prospective pilot study. Crit Rev Oncol Hematol. 2011;78:138-49.
14)
Palumbo A, Bringhen S, Mateos MV, et al. Geriatric assessment predicts survival and toxicities in elderly myeloma patients:an International Myeloma Working Group report. Blood. 2015;125:2068-74.
15)
Massa E, Madeddu C, Astara G, et al. An attempt to correlate a “Multidimensional Geriatric Assessment”(MGA), treatment assignment and clinical outcome in elderly cancer patients:results of a phase II open study. Crit Rev Oncol Hematol. 2008;66:75-83.
付記文献
1)
Mohile SG, Dale W, Somerfield MR, et al. Practical Assessment and Management of Vulnerabilities in Older Patients Receiving Chemotherapy:ASCO Guideline for Geriatric Oncology. J Clin Oncol. 2018;36:2326-47.

CQ 06
化学療法・放射線療法中の患者に対して,運動療法と併せて栄養療法を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2C
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
化学療法・放射線療法中の患者に対して,運動療法と併せて栄養療法を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

化学療法中は,有害事象などにより患者は不活動となり,身体機能低下を招く。不活動は体重増加のリスク因子であり,前立腺がんや乳がん患者では,過体重は死亡率や再発率と密接な関係にあることが示されている 1, 2)。また,化学療法による嘔気(吐き気)や食欲不振は,体重減少を惹起して悪液質に至らせ,予後に影響を与える 3)。化学療法中の身体機能の維持や体重管理は予後を考えるうえで解決すべき問題である。本ガイドライン初版では,運動療法と栄養療法の併用の有用性についてはCQ として採用していなかったが,新たに検証すべき臨床重要課題として捉え,運動療法と併せて栄養療法を行うことの有用性について検討することとした。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①体組成の改善(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索からランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Djuric ら 4)は化学療法中の乳がん患者に,6 カ月,管理栄養士の食事指導や運動指導といった患者教育および電話相談介入を行った結果,介入6 カ月後の腹囲が95.3cm から87.7cm へと減少し,さらに介入群のうち,ベースラインのBMI が30kg/m2 を超えている患者は介入によりBMI が1.5kg/m2 低下したと報告している。

・統合

Djuric らの研究では脱落例が多く,ややバイアスリスクが高い。また,平均BMI が26.5kg/m2 であり,日本人への適用は注意を要する。エビデンスの強さはC と判定した。

②有害事象の増加(重要性3,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索からfeasibility study2 件を採用した。

・評価

Demark-Wahnefried ら 6)は術後化学療法を受ける乳がん患者をカルシウム付加のみの対照群とカルシウム付加+運動群,カルシウム付加+運動+果物野菜類中心の低脂肪食群に分けて比較したところ,治療に関連する有害事象は生じておらず,脱落率もすべての群において10%未満であることを報告しており,他の1 件の研究も介入に関連した有害事象はなかった 5)

・統合

すべての研究で有害事象は報告されていないが,統計学的に介入群,対照群を比較した論文はないためエビデンスの強さはC とした。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:C(弱)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,運動療法と栄養療法の併用による体組成への効果が認められた。害(望ましくない効果)として運動療法による出血や倦怠感,疲労の増悪などが予想されるが,今回採用された文献にはこの発生に関する記述はなかった。以上より,益と害のバランスは確実であると判断した。

患者の価値観・希望

運動療法と併せて栄養療法を実施することは害が少なく益が大きい治療であり,多くの患者が行うことを希望すると考えられ,確実性は高い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

運動療法は「がん患者リハビリテーション料」として入院中の実施であれば算定可能である。入院中のリハビリテーション治療は一般的な治療時間(20〜40 分)で,患者のコスト負担も少なく実施できる。退院後の外来では「がん患者リハビリテーション料」は算定できない。

栄養療法は,栄養補助食品の利用の場合は,購入費用など患者のコスト負担が大きいが,本CQ で紹介した文献では,栄養療法は管理栄養士による栄養指導や相談が中心であり,患者のコスト負担は低い。

・臨床適応性

本CQ で紹介した運動療法,栄養療法はいずれも特別な器具や補助食品などを使用しておらず,臨床適応性は高い。しかし,管理栄養士の配置が不十分であり,栄養相談の支援が充実していない医療機関では実施が困難である。運動療法は多くのがん専門医療機関で入院中に「がん患者リハビリテーション料」により,専門スタッフ監督下で行うことができる。

総合評価

化学療法・放射線療法中の患者に対して,運動療法と併せて栄養療法を行うことを提案する。

文献の数が少なく,体重を減らす方向性と増やす方向性の研究の混在,比較群で栄養療法や運動療法が単独で実施され非直接性が存在することなどから,エビデンスの確実性は低い。益と害のバランスは確実であり(益の確実性が高い),患者の価値観は確実性が高く,多様性は低い(一致している)。運動療法は入院中であれば保険診療で実施されるが,外来では保険診療外となることが問題となる。栄養療法は,管理栄養士による栄養指導が中心であるため保険診療で実施可能である。以上より,提案する(弱い推奨)とした。

なお,ヨーロッパ臨床栄養代謝学会(European Society for Clinical Nutrition and Metabolism;ESPEN)のがん患者の栄養に関するガイドライン 7)では,栄養療法は運動療法と併用して行うことを推奨している。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・乳がん患者は,化学療法中の使用薬剤により食欲増進や体重増加を認める患者もいるため,化学療法中から運動療法と併せて栄養療法を行うことを推奨すべきである。
■投票結果

文献

1)
Su LJ, Arab L, Steck SE, et al. Obesity and prostate cancer aggressiveness among African and Caucasian Americans in a population-based study. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2011;20:844-53.
2)
Kroenke CH, Chen WY, Rosner B, et al. Weight, weight gain, and survival after breast cancer diagnosis. J Clin Oncol. 2005;23:1370-8.
3)
Silver HJ, Dietrich MS, Murphy BA. Changes in body mass, energy balance, physical function, and inflammatory state in patients with locally advanced head and neck cancer treated with concurrent chemoradiation after low-dose induction chemotherapy. Head Neck. 2007;29:893-900.
4)
Djuric Z, Ellsworth JS, Weldon AL, et al. A diet and exercise intervention during chemotherapy for breast cancer. Open Obes J. 2011;3:87-97.
5)
Moyer-Mileur LJ, Ransdell L, Bruggers CS. Fitness of children with standard-risk acute lymphoblastic leukemia during maintenance therapy:response to a home-based exercise and nutrition program. J Pediatr Hematol Oncol. 2009;31:259-66.
6)
Demark-Wahnefried W, Case LD, Blackwell K, et al. Results of a diet/exercise feasibility trial to prevent adverse body composition change in breast cancer patients on adjuvant chemotherapy. Clin Breast Cancer. 2008;8:70-9.
7)
Arends J, Bachmann P, Baracos V, et al. ESPEN guidelines on nutrition in cancer patients. Clin Nutr. 2017;36:11-48.

CQ 07
化学療法・放射線療法後の患者に対して,運動療法と併せて栄養療法を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2B
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
化学療法・放射線療法後の患者に対して,運動療法と併せて栄養療法を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

化学療法によって身体機能は低下する。さらに,治療中の不活動は体重増加のリスク因子であり,前立腺がんや乳がん患者では,過体重は死亡率や再発率と密接な関係にあることが示されている 1, 2)。本ガイドライン初版では,化学療法・放射線療法後に運動療法と併せて栄養療法を行うことの有用性についてCQ として採用していなかったが,新たに検証すべき臨床重要課題として捉え,運動療法と併せて栄養療法を行うことの有用性を検討した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①体組成の改善(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索からランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

Ghavami ら 3)は放射線療法もしくは化学療法終了後の乳がん患者に,24 週の監督下での運動療法(3〜5 回/週,1 回 50 分,HRR 70〜85%程度の有酸素運動中心)および摂取カロリー制限による栄養指導を行ったところ,通常ケアのみの対照群と比較して,介入群で有意にBMI が低下したと報告している。また,Hébert ら 4)は放射線療法を受けた前立腺がん患者に,週1 回2.5 時間程度のグループセッションによる食生活や運動,ストレスコーピングに関する3 カ月の患者教育と,その後3 カ月の電話によるカウンセリングを実施したところ,通常ケアのみの対照群と比較して介入群で総脂肪率や飽和脂肪率が有意に減少したことを報告している。

・統合

Ghavami,Hébert らの研究の結果は体組成の維持に有効であり一貫性が高い。エビデンスの強さはB と判定した。

②全身倦怠感の改善(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索からランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Ghavami らの報告では,Cancer Fatigue Scale で評価した倦怠感が通常ケアのみの対照群と比較して介入群で有意に改善している。

・統合

倦怠感への介入効果は大きく,エビデンスの強さはB と判定した。

③有害事象の増加(害:重要性3,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索からランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

前述のGhavami,Hébert らの研究では治療による有害事象の発生はなく,健康上の問題での脱落も介入群,対照群でほぼ同数であった。

・統合

有害事象は報告されていないが,統計学的に介入群,対照群を比較した論文はないためエビデンスの強さはC とした。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:B(中)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,全身倦怠感の改善および体組成への効果は高い。害(望ましくない効果)として運動療法による出血や倦怠感,疲労の増悪などが想定されるが,今回採用された文献には害に関する記述はみられなかった。よって,運動療法および栄養療法による益が大きく,益と害のバランスは確実であると判断した。

患者の価値観・希望

化学療法後の運動療法および栄養療法は確実性が十分ではないため,患者の価値観に多様性は高いと考えられる。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

運動療法は「がん患者リハビリテーション料」として入院中の実施であれば算定可能である。入院中のリハビリテーション治療は一般的な治療時間(20〜40 分)で,患者のコスト負担も少なく実施できる。退院後の外来では「がん患者リハビリテーション料」は算定できない。

栄養療法は,栄養補助食品の利用の場合は,購入費用など患者のコスト負担が大きい。

・臨床適応性

本CQ で紹介した運動療法は特別な器具を使用しておらず臨床適応性は高い。一方,栄養療法は,サプリメントなどの栄養補助食品の購入が必要となり,患者の負担が大きく臨床適応性は低い。また,体重減少を目標にした介入は,海外の研究対象と日本人の体型に差があるため,その臨床適応には注意が必要である。

総合評価

化学療法・放射線療法後の患者に対して,運動療法と併せて栄養療法を行うことを提案する。

本CQ に関連する文献は,数がやや少ないが,重要なアウトカムに対するエビデンスは強い。また,益と害のバランスは確実である(益の確実性が高い)。患者の価値観・希望については,化学療法後の運動療法および栄養療法は確実性が十分ではなく,価値観の多様性は高い。運動療法は入院中であれば保険診療で実施されるため患者のコスト負担は少ない。外来では保険診療の適用外となる。栄養療法は,栄養補助食品の利用の場合は,その購入費用などの患者のコスト負担が大きい。運動療法は実施している医療機関も多く臨床適応性は高い。一方,栄養療法は,栄養補助食品の購入が必要となり,患者の負担が大きく臨床適応性は低い。また,体重減少を目標にした介入は,海外の研究対象と日本人の体型に差があるため臨床適応には注意が必要である。以上より,提案する(弱い推奨)とした。本CQ に関してさらなる質の高い研究の蓄積が期待される。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・化学療法や放射線療法は治療が長期にわたるため,治療期間中に体重が増加もしくは減少してしまう患者が多い。食習慣が不安定で乱れてしまうため,運動療法と併せて栄養療法を行えば,食習慣・生活習慣も改善し,QOL の向上につながると考えられる。
■投票結果

付記
◉ European Society for Clinical Nutrition and Metabolism(ESPEN)によるガイドライン

ESPEN のガイドラインにおいても,がん患者における栄養療法と運動療法について言及されており,参考にすることが望ましい。

文献

1)
Su LJ, Arab L, Steck SE,et al. Obesity and prostate cancer aggressiveness among African and Caucasian Americans in a population-based study. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2011;20:844-53.
2)
Kroenke CH, Chen WY, Rosner B, et al. Weight, weight gain, and survival after breast cancer diagnosis. J Clin Oncol. 2005;23:1370-8.
3)
Ghavami H, Akyolcu N. The impact of lifestyle interventions in breast cancer women after completion of primary therapy:a randomized study. J Breast Health. 2017;13:94-9.
4)
Hébert JR, Hurley TG, Harmon BE, et al. A diet, physical activity, and stress reduction intervention in men with rising prostate-specific antigen after treatment for prostate cancer. Cancer Epidemiol. 2012;36:e128-36.
付記文献
1)
Arends J, Bachmann P, Baracos V, et al. ESPEN guidelines on nutrition in cancer patients. Clin Nutr. 2017;36:11-48.

第 11 章 進行がん・末期がん

CQ 01
根治治療対象外の進行がん患者に対しても,監督下での運動療法を行うことは,行わない場合と比べて推奨されるか?

グレード2B
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
根治治療対象外の進行がん患者に対しても,全身状態が安定している場合,監督下での運動療法(supervised exercise)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

がん患者に対する運動療法に関しては,本ガイドライン初版にて,がん治療中・後において検証されており,特別なリスク管理が必要であるが運動の実施は安全であり,体力,筋力,QOL,倦怠感に有効であるとされている。しかし,生命予後が限られた根治治療対象外の進行がん患者に対する,身体機能改善を主目的とした運動療法の効果に関してはまだ十分なエビデンスが得られていないのが現状である。そこで,本CQ では,運動療法の内容および負荷量,実施状況の把握が可能な監督下での運動療法に関する文献に限定し,根治治療対象外の進行がん患者を対象とした運動療法の有用性について検討した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
① 身体機能の改善(重要性8,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索を行い,システマティックレビュー4 件,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

Oldervoll ら 1)は,生命予後予測3 カ月以上2 年以下の根治治療対象外の進行がん患者を対象に,介入群〔監督下での運動療法(ウォームアップ10〜15 分,6 種の運動を組み合わせたサーキットトレーニング30 分,ストレッチ/リラクセーション10〜15 分)60 分×2 回/週 × 8 週間〕と対照群(通常のケア)に無作為に割り付け,shuttle walking test, sit-to-stand test,握力,maximal step length を指標として身体機能を評価したところ,介入群は対照群と比較し有意な改善がみられたと報告している。

Segal ら 2)は,ホルモン療法中の前立腺がん患者を対象に介入群〔監督下での筋力増強訓練(60〜70%1RM×9 種×2 セット/回×3 回/週×12 週間)〕と対照群(通常のケア)に無作為に割り付け,standard load test を指標として身体機能を評価した。統計学的検証は,根治抗がん治療中の患者と根治治療対象外の進行がん患者に分けて実施した結果,いずれの治療においても対照群と比較し有意な改善を認めたとしている。

なお,進行がん患者に対する運動療法に関するシステマティックレビューでは,身体機能の改善に有効であると考えられ勧められるが,さらなるランダム化比較試験などの質の高い研究報告が求められるとしている 3-6)

・統合

システマティックレビュー4 件,ランダム化比較試験2 件の報告があり,身体機能に関する複数の評価指標にて改善がみられたことから,エビデンスの強さはA とした。

② QOL の改善(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,システマティックレビュー1 件,ランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Segal ら 2)は,ホルモン療法中の前立腺がん患者を対象に介入群と対照群(通常のケア)に無作為に割り付け,Functional Assessment of Cancer Therapy-Prostate(FACT-P)を指標として疾患関連QOL を評価した。統計学的検証は,根治的抗がん治療中の患者と根治治療対象外の進行がん患者に分けて実施した結果,いずれの治療においても対照群と比較し有意な改善を認めたとしている。

進行がん患者に対する運動療法に関するシステマティックレビューでは,QOL の改善に有効であると考えられ勧められるが,さらなるランダム化比較試験などの質の高い研究報告が求められるとしている 6)

・統合

疾患関連QOL の指標であるFACT-P で改善がみられたが,ランダム化比較試験は1 論文のみの結果であることから,エビデンスの強さはB と判定した。

③ 倦怠感の改善(重要性6,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,システマティックレビュー2 件,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

Oldervoll ら 1)は,生命予後予測3 カ月以上2 年以下の根治的治療対象外の進行がん患者を対象に,介入群と対照群(通常のケア)に無作為に割り付け,Fatigue Questionnaire を指標として倦怠感を評価したところ,そのスコアは,介入群では前後比較でやや減少したが対照群と比較し有意な改善はみられなかったと報告している。

Segal ら 2)は,ホルモン療法中の前立腺がん患者を対象に介入群と対照群(通常のケア)に無作為に割り付け,FACT-Fatigue を指標として倦怠感を評価した。統計学的検証は,根治的抗がん治療中の患者と根治治療対象外の進行がん患者に分けて実施したところ,根治的抗がん治療中の患者では,介入群が対照群と比較し有意な改善を認め,根治治療対象外の進行がん患者においても,有意差は認めなかったが介入群が対照群よりも倦怠感を軽減する傾向にあったとしている。

進行がん患者に対する運動療法に関するシステマティックレビューでは,倦怠感の軽減によい影響を与える,または有効であると考えられ勧められるが,さらなるランダム化比較試験などの質の高い研究報告が求められるとしている 5, 6)

・統合

2 件のランダム化比較試験の結果,倦怠感は軽減傾向がみられたが,対照群と比較し有意な改善は認めなかったとしており,システマティックレビュー2 件も倦怠感の軽減によい影響を与える,または有効であると考えられ勧められるとの言及にとどめていることから,エビデンスの強さはC とした。

④ 有害事象:骨折の発生や疼痛や呼吸困難など身体症状の増悪(害:重要性6,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行ったが,有害事象を検証した研究はなかった。

・評価

本CQ に関して採用した研究 1-6)において,有害事象の報告はされていない。

・統合

根治治療対象外の進行がん患者に対する監督下での運動療法に関して,有害事象を検証した研究はないことから,エビデンスの強さはD とした。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:B(中)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,身体機能とQOL の改善が認められた。一方,害(望ましくない効果)として,有害事象の増加は認められなかった。以上より,益が害を大きく上回っており,その効果の差は大きいと判断した。

患者の価値観・希望

根治治療対象外の進行がん患者では,病勢の進行や全身状態の急激な変化がみられることがあり,そのような状況にある患者では,監督下の運動療法に対する価値観や希望については,確実性は低く,多様性は高い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

入院中には,全身状態が安定しており「がん患者リハビリテーション料」の診療報酬算定要件を満たせば保険診療で実施できる。一方,外来では「がん患者リハビリテーション料」の算定要件を満たさないため(入院中に限定される),保険診療で実施することはできない。

・臨床適応性

多くのがん専門医療機関では,入院中には保険診療により,リハビリテーション科医,リハビリテーション専門職(理学療法士等)から構成されるリハビリテーションチームの体制のもとで,監督下での運動療法(supervised exercise)を行うことができるため,臨床適応性は高い。一方,外来では保険診療の適用外になるため,監督下での運動療法および専門スタッフの監督なしで行う,在宅を基盤とした運動療法(home-based exercise)ともに,実施可能な医療機関は少なく現状では臨床適応性は低い。

総合評価

根治治療対象外の進行がん患者に対しても,全身状態が安定している場合,監督下での運動療法を行うことを提案する。

生命予後が限られた根治治療対象外の進行がん患者においても,全身状態が安定している場合には,根治的治療対象のがん患者と同様に監督下での運動療法は重要なアウトカムに対するエビデンスが強く,益と害のバランスが確実である(益の確実性が高い)。根治治療対象外のがん患者では,全身状態の変動に伴い患者の価値観や意向の多様性を伴うと考えられるが,全身状態が安定している場合には,入院中には保険診療で実施されるため患者のコスト負担は少なく,多くの医療機関で実施できることから正味の利益はコストや医療資源に十分に見合っている。ただし,外来においては,現在の医療事情では難しい。以上より,提案する(弱い推奨)とした。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・進行がんで予後が限られている患者にとっては,「何かをできる」ということが精神的にプラスとなる。
  • ・根治治療対象外の患者は多く存在し,それらの患者がリハビリテーション治療を受けることを希望した場合,そのニーズに対しリハビリテーション治療を提供する専門職が不足する懸念がある。
■投票結果

付記
◉「在宅を基盤とした運動療法(home-based exercise)の効果」および「より適切な運動療法プログラム」の検証

本CQ では,根治治療対象外の進行がん患者に対する,身体機能改善を主目的とした運動療法の効果を明確にするため,医療機関での監督下の運動療法のみに限定して検証したが,電話による指導のもと実施した在宅を基盤とした運動療法(home-based exercise)の効果に関するランダム化比較試験も1 件得られている。Cheville ら 1)は,在宅療養中のStageⅣの肺がん・消化器がん患者を対象に,介入群〔1 マイル=約 1.6km/20 分の速度でのウォーキング×4 日/週+PT による指導(初回個別指導+1 回/2 週の頻度での電話での指導)のもと実施する四肢体幹の筋力訓練(REST プログラム)×2 回以上/週×8 週間〕と対照群(通常のケア)に無作為に割り付け,Ambulatory Post Acute Care Basic Mobility Short Form を指標として身体機能を評価し,FACT-F を指標として倦怠感を評価した結果,介入8 週後の評価時には,身体機能および倦怠感のいずれも介入群では対照群と比較し有意な改善を認めた。また,Symptom Numeric Rating Scale を指標として睡眠の質を評価したところ,介入群は前後比較で有意な改善を認め,介入後の対照群との比較でも有意に高かった。しかし,Symptom Numeric Rating Scale を指標として評価した疼痛,FACT-General を指標として評価したQOL に関しては,介入群と対照群に有意差は認めなかったとしている。また,Lowe らのシステマティックレビューでは,研究の質に問題があるため十分なエビデンスと結論づけられないものの,home-based exercise を実施した場合,行わない場合と比較し,well-being の低下速度や倦怠感の増悪速度が緩やかであると報告しており,また,Albrecht らは,疼痛,倦怠感,呼吸困難,便秘,不眠を改善するため,安全で簡単な運動を日常生活に取り入れられないか腫瘍医と検討すべきと結論づけている。以上の報告からは,根治治療対象外の進行がん患者に対するhome-based exercise は有意義である可能性が高いといえるが,推奨される運動内容やリスクマネジメント方法を含め,今後さらなる検討が必要である。

また,根治治療対象外の進行がん患者に対する “より適切な運動療法プログラム” の検証として,筋力増強訓練と持久力訓練の各効果を比較検討したランダム化比較試験(pilot study)が2 件得られたため以下に記す。

Litterini ら 2)は,緩和ケアサービスを受けている進行がん患者を対象に,筋力増強訓練群(14 種のサーキット筋力訓練)と持久力訓練群(上肢下肢のエルゴメーターやトレッドミル等の訓練)に無作為に割り付け,監督下にて各30〜60 分×2 回/週×10 週間実施した。Short Physical Performance Battery を指標として身体機能を評価したところ,筋力増強訓練群と比較し,持久力訓練群の方がやや効果が高い結果であったが,いずれの訓練群でも身体機能の有意な改善を認めた。また,Visual Analogue Scale(VAS)を指標として倦怠感と疼痛を評価した結果,倦怠感はいずれの訓練群でも有意に改善したが,疼痛は軽減傾向であったものの有意ではなかったと報告している。

Jensen ら 3)は,根治的治療対象外の化学療法中の消化器進行がん患者を対象に,筋力増強訓練群(5 分間の軽い持久力訓練やストレッチなどのウォームアップ+60〜80%1RM×四肢・背筋など数種の筋力増強訓練×2〜3 セット/回)と持久力訓練群〔5 分間の軽い持久力訓練やストレッチなどのウォームアップ+クールダウン+運動強度60〜80%での自転車エルゴメーター(開始時10 分後から,30 分まで漸増)〕に無作為に割り付け,pilot study として監督下にて各45 分×2 回/週×12 週間実施した。The European Organization for Research and Treatment of Cancer(EORTC)QLQ-C30 を指標としてQOL を評価したところ,持久力訓練群ではGlobal Hearth Status とRole Functioning の有意な改善があり,Fatigue に関しては両群ともに有意に改善した。筋力増強訓練群ではhypothetical 1RM テストによる筋力,持久力訓練群ではphysical working capacity(PWC)130 による持久力を指標に身体機能を評価した。筋力増強訓練群は筋力の有意な改善を認めたが,持久力訓練群ではPWC130 の評価に有意な変化はみられなかった。また,身体活動への影響を “Sense Wear ” wrist band を用いて評価した結果,睡眠時間の有意な延長を認め,Freiburger 質問紙を指標に活動量を評価したところ持久力訓練群で有意な差を認めたと報告している。

以上より,筋力増強訓練と持久力訓練のいずれも有効であるため,患者の全身状態や希望に応じて実施することに大きな問題はないと考える。

  • ※本CQ のアウトカムとして,監督下の運動療法による睡眠障害の改善,疼痛の軽減に関する効果も挙げていたが,該当する文献は得られなかった。

文献

1)
Oldervoll LM, Loge JH, Lydersen S, et al. Physical exercise for cancer patients with advanced disease: a randomized controlled trial. Oncologist. 2011;16:1649-57.
2)
Segal RJ, Reid RD, Courneya KS, et al. Resistance exercise in men receiving androgen deprivation therapy for prostate cancer. J Clin Oncol. 2003;21:1653-9.
3)
Lowe SS, Watanabe SM, Courneya KS. Physical activity as a supportive care intervention in palliative cancer patients: a systematic review. J Support Oncol. 2009;7:27-34.
4)
Beaton R, Pagdin-Friesen W, Robertson C, et al. Effects of exercise intervention on persons with metastatic cancer: a systematic review. Physiother Can. 2009;61:141-53.
5)
Albrecht TA, Taylor AG. Physical activity in patients with advanced-stage cancer: a systematic review of the literature. Clin J Oncol Nurs. 2012;16:293-300.
6)
Salakari MR, Surakka T, Nurminen R, et al. Effects of rehabilitation among patients with advances cancer: a systematic review. Acta Oncol. 2015;54:618-28.
付記文献
1)
Cheville AL, Kollasch J, Vandenberg J, et al. A home-based exercise program to improve function, fatigue, and sleep quality in patients with Stage IV lung and colorectal cancer: a randomized controlled trial. J Pain Symptom Manage. 2013;45:811-21.
2)
Litterini AJ, Fieler VK, Cavanaugh JT, et al. Differential effects of cardiovascular and resistance exercise on functional mobility in individuals with advanced cancer: a randomized trial. Arch Phys Med Rehabil. 2013;94:2329-35.
3)
Jensen W, Baumann FT, Stein A, et al. Exercise training in patients with advanced gastrointestinal cancer undergoing palliative chemotherapy: a pilot study. Support Care Cancer. 2014;22:1797-806.

CQ 02
緩和ケアを主体とする時期の進行がん患者に対して,病状の進行や苦痛症状に合わせた包括的リハビリテーション治療を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2B
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
緩和ケアを主体とする時期の進行がん患者に対して,病状の進行や苦痛症状に合わせた包括的リハビリテーション治療を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

緩和ケアを主体とする時期の進行がん患者において,緩和ケアチームの果たす役割は大きい。そして,その緩和ケアチームにおいてリハビリテーション専門職は不可欠であり,患者の機能や症状マネジメントの改善を目指すとされている 1)。しかし,現時点では,その効果に関しては未だ十分な検証が行われていない。よって本CQ では,身体機能やADL 改善を目的とした訓練に加え,苦痛症状に合わせたマッサージやモビライゼーションなどの徒手療法,あるいは,それらに呼吸排痰訓練などを組み合わせて行うリハビリテーション治療を包括的リハビリテーション治療と定義し,その効果を検討した。なお,緩和ケアを主体とする時期は終末期と同義ではなく,患者の全身状態に応じて化学療法や放射線療法などが行われることに注意する。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①身体機能の改善(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Henke ら 2)は,根治治療対象外で化学療法中の進行肺がん(StageⅢ〜Ⅳ)患者を対象に,介入群〔中等度負荷での6 分間歩行+2 分間の階段昇降+呼吸・排痰訓練(各5 回/週)+筋力訓練(隔日)+徒手療法(マッサージ,ストレッチ,モビライゼーション,マニピュレーション)〕と対照群(通常のケア)に無作為に割り付け,化学療法開始時と化学療法3 サイクル終了時の身体機能を6 分間歩行,階段昇降,筋力にて評価したところ,介入群では6 分間歩行,階段昇降,筋力に有意な改善が得られたのに対し,対照群では有意な減少を認めた。

・統合

身体機能の指標である6 分間歩行,階段昇降,筋力で改善がみられたが,1 論文のみの結果であることから,エビデンスの強さはB と判定した。

② ADL の維持(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験1 件,観察研究1 件を採用した。

・評価

Henke ら 2)は,根治治療対象外で化学療法中の進行肺がん(StageⅢ〜Ⅳ)患者を対象に,介入群と対照群(通常のケア)に無作為に割り付け,化学療法開始時と化学療法3 サイクル終了時のADL をBarthel 指数(BI)を用いて評価したところ,介入群ではADL が維持されたが,対照群では有意な低下がみられ,3 サイクル終了時のADL は介入群で有意に高値であったとしている。

Yoshioka 4)は,緩和ケア病棟入院中でリハビリテーション治療を受けた終末期がん患者301 名を対象に,包括的リハビリテーション治療を行ったところ,ADL の指標であるBI は12.4 点から最大19.9 点へと有意に改善,平均改善率は27%であった。また,46 名の患者はADL が改善したため自宅退院が可能となったと報告している。

・統合

ADL の指標であるBI の評価で,介入群と対照群との比較で介入群のBI が高く維持されたとするランダム化比較試験1 論文と,前後比較で介入後に有意な改善を認めたとする観察研究1 論文であったため,エビデンスの強さはB と判定した。

③疼痛の改善(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

Pyszora ら 5)は,緩和ケアサービスを受けており中等度以上(Numerical Pain Rate Scale;NRS≧4/10)の倦怠感を有する進行がん患者を対象に,介入群(四肢の運動+筋膜リリース,PNF テクニック/30 分/回×3 回/週×2 週)と対照群(薬物療法)に無作為に割り付け,Edmonton Symptom Assessment System(ESAS)を用いて症状の評価を行ったところ,介入群では疼痛の有意な改善を認めたが,対照群では有意な変化はみられなかったと報告している。

López ら 6)は,StageⅢ〜Ⅳの進行がんおよび終末期がん患者で,中等度以上(NRS≧4/10)の疼痛を有する患者を対象に,介入群(徒手療法+局所・全身運動+PNF テクニック/30〜35 分間/回×6 セッション/2 週)と対照群(疼痛部位のhand contact/simple touch/30〜35 分間/回×6 セッション/2 週)に無作為に割り付け,Brief Pain Inventory(BPI),Memorial Pain Assessment Card(MPAC)を用いて疼痛の評価を行ったところ,介入群で有意な改善を認めたとしている。

・統合

疼痛の指標であるESAS の下位項目とBPI,MPAC で改善がみられたが,2 論文のみの結果であることから,エビデンスの強さはB と判定した。

④倦怠感の改善(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Pyszora ら 5)は,緩和ケアサービスを受けている患者で中等度以上(NRS≧4/10)の倦怠感を有する進行がん患者を対象に,介入群と対照群(薬物療法)に無作為に割り付け,介入前後の倦怠感をBrief Fatigue Inventory(BFI)を用いて評価したところ,介入群では倦怠感の有意な改善を認め,倦怠感による影響として特に,活動度や気分,周囲との関係,人生の楽しみなどが有意に改善したと報告している。

・統合

倦怠感の指標であるBFI の評価にて改善がみられたが,1 論文のみの結果であることから,エビデンスの強さはB と判定した。

⑤精神心理面の改善(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

Pyszora ら 5)は,緩和ケアサービスを受けており中等度以上(NRS≧4/10)の倦怠感を有する進行がん患者を対象に,介入群と対照群(薬物療法)に無作為に割り付け,ESAS を用いて症状の評価を行ったところ,介入群では,抑うつ・不安に有意な改善を認めたが,対照群では有意な変化はみられなかったと報告している。

López ら 6)は,Stage Ⅲ〜Ⅳの進行がん患者で,中等度以上(NRS≧4/10)の疼痛を有する患者を対象に,介入群と対照群に無作為に割り付け,MPAC を用いて気分の評価と,Memorial Symptom Assessment Scale(MSAS)を用いて精神的苦痛の評価を行ったところ,介入群で有意な改善を認めたとしている。

・統合

精神心理面の指標であるESAS 下位項目の抑うつと不安,MPAC,MSAS の評価にて改善がみられた。2 論文のみの結果であることから,エビデンスの強さはB と判定した。

⑥ QOL の改善(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,観察研究1 件を採用した。

・評価

Sekine ら 3)は,がん治療病院入院中の進行がん患者で2 週間の包括的リハビリテーション治療が実施された患者を対象に,介入前後QOL をShort version of Comprehensive Quality of Life Outcome inventory およびEORTC QLQ-C30 を用いて評価したところ,介入後にはQOL の改善を認めた。また,観察期間中にADL の維持・改善を認めた群とADL が低下した群の2 群に分けてサブ解析を行った結果,両群いずれにおいてもQOL が改善したと報告している。

・統合

QOL の指標であるShort version of Comprehensive Quality of Life Outcome inventory およびEORTC QLQ-C30 で改善がみられた。観察研究1 論文のみの結果であることから,エビデンスの強さはB と判定した。

⑦満足度(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験1 件,観察研究2 件を採用した。

・評価

Sekine ら 3)は,がん治療病院入院中の進行がん患者で2 週間の包括的リハビリテーション治療が実施された患者を対象に,リハビリテーション治療の有効性を7 段階の質問紙を用いて調査したところ,79%が有効であると回答したと報告している。

Yoshioka ら 4)は,緩和ケア病棟にて死亡したがん患者の家族に対し,死後3 カ月以内に手紙での質問紙調査を実施(回答率 56%)した結果,患者の 88%は,入院中に歩行や車椅子での移動に関する希望を有しており,リハビリテーション治療は,63%の患者で有効,78%の患者は満足していたとしている。また,68%の家族はリハビリテーション治療に参加しており,73%の家族からは患者のケアを行う際,リハビリテーション治療のテクニックは有用であったとの回答を得たと報告している。

Pyszora ら 5)は,緩和ケアサービスを受けている患者で中等度以上(NRS≧4/10)の倦怠感を有する進行がん患者を対象に介入群と対照群(薬物療法)に無作為に割り付け介入効果を検証したが,この際,介入群に対し質問紙での満足度評価を行い,29 名中26 名から満足であるとの回答を得たと報告している。

・統合

満足度に関する質問紙での評価にて高い満足度が得られたが,3 つの論文のいずれも主のアウトカムの結果でないため,エビデンスの強さはB と判定した。

⑧有害事象:疼痛・呼吸困難・精神心理面の負担の増悪(害:重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,観察研究1 件を採用した。

・評価

Yoshioka らは,緩和ケア病棟にて死亡したがん患者の家族に対し,死後3 カ月以内に手紙での質問紙調査を実施(回答率56%)した結果,詳細は不明であるが,リハビリテーション治療が効果的でなく患者の状態に負の影響を及ぼしたとする回答が2%あったと報告している。

・統合

有害事象の報告は少なく,採用論文は観察研究のみであるが,発症頻度が少なく軽微であることから,エビデンスの強さはC と判定した。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:B(中)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,身体機能やADL によい影響,精神心理面や疼痛などの苦痛緩和,QOL 改善が認められた。一方,害(望ましくない効果)として,有害事象の報告はなく,脱落例の脱落原因は介入による影響ではなかった(重篤な有害事象の増加は認められなかった)。以上より,益が害を大きく上回っており,その効果の差は大きいと判断した。

患者の価値観・希望

包括的リハビリテーション治療は,害が少なく益が大きい治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられ,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

入院中には,「がん患者リハビリテーション料」の診療報酬算定により保険診療で実施でき,在宅療養中の場合は,介護保険を利用した訪問リハビリテーションを活用可能である。一方,外来では「がん患者リハビリテーション料」の算定要件を満たさないため(入院中に限定される),保険診療で実施することはできない。また,緩和ケア病棟の場合は包括医療となるため実施困難なことが多い。

・臨床適応性

緩和ケアを主体とする時期の進行がん患者では,がん患者に対するリハビリテーション治療の中止基準に合致する全身状態となることがあるが,リハビリテーション治療のすべてが実施困難となることは少なく,訓練内容を調整することで実施可能である。この点では,臨床適応性は高いと考えられる。

がん治療を行う多くの医療機関では,入院中は保険診療により行うことができ,在宅療養中の場合は,介護保険を利用した訪問リハビリテーションを活用可能である。しかし,緩和ケア病棟では「がん患者リハビリテーション料」の算定不可というコストの問題があり,在宅療養中の訪問リハビリテーションにおいては,本人の介護度,地域におけるリハビリテーション専門職の充足度,ケアプランを立案するケアマネージャーのリハビリテーション医療に関する知識の量により,リハビリテーション医療の提供に大きな差がある。よって,現時点での臨床適応性が高いとはいえない。

総合評価

緩和ケアを主体とする時期の進行がん患者に対して,病状の進行や苦痛症状に合わせた包括的リハビリテーション治療を行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスは強くはない。一方,包括的リハビリテーション治療は害が少なく益が大きいアプローチであるため,益と害のバランスは確実である(益の確実性が高い)。多様な問題を抱える多くの進行がん患者が希望すると考えられ,患者の価値観や意向の確実性は高く,多様性は低い(一致している)。しかし,さまざまな療養の場で実施できる専門職者が限られているため実施できるような体制整備が必要であり,臨床適応性が現時点では低いことから,提案する(弱い推奨)とした。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・今後,高齢がん患者,在宅療養が増えることが想定される状況のなか,ケアマネージャーのリハビリテーション医療に関する啓発が必要である。
  • ・「包括的リハビリテーション治療」が指す幅が広すぎるため推奨は難しい。
  • ・患者が倦怠感などの苦痛症状を有する場合,患者・家族のリハビリテーション治療に対するニーズが低い場合もあるのではないか。
■投票結果

文献

1)
Santiago-Palma J, Payne R. Palliative care and rehabilitation. Cancer. 2001;92(Suppl. 4):1049-52.
2)
Henke CC, Cabri J, Fricke L, et al. Strength and endurance training in the treatment of lung cancer patients instages IIIA/IIIB/IV. Support Care Cancer. 2014;22:95-101.
3)
Sekine R, Ogata M, Uchiyama I, et al. Changes in and Associations Among Functional Status and Perceived Quality of Life of Patients With Metastatic/Locally Advanced Cancer Receiving Rehabilitation for General Disability. Am J Hosp Palliat Care. 2015;32:695-702.
4)
Yoshioka H. Rehabilitation for the terminal cancer patient. Am J Phys Med Rehabil. 1994;73:199-206.
5)
Pyszora A, Budzyński J, Wójcik A, et al. Physiotherapy programme reduces fatigue in patients with advanced cancer receiving palliative care: randomized controlled trial. Support Care Cancer. 2017;25:2899-908.
6)
López-Sendín N, Alburquerque-Sendín F, Cleland JA, et al. Effects of physical therapy on pain and mood in patients with terminal cancer: a pilot randomized clinical trial. J Altern Complement Med. 2012;18:480-6.

CQ 03
緩和ケアを主体とする時期の進行がん患者に対して,疼痛や呼吸困難などの症状緩和を目的とした患者教育を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2B
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
緩和ケアを主体とする時期の進行がん患者に対して,疼痛や呼吸困難などの症状緩和を目的とした患者教育を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

進行・終末期のがん患者の抱える苦痛症状は患者のADL を低下させるため,症状緩和を適切に行うことがQOL の維持向上に必要不可欠である。緩和ケア主体の時期のリハビリテーション診療においては,症状緩和を目的とした患者教育が重要であるが,既存のガイドライン 1, 2)では,進行・終末期がん患者を対象としたエビデンスは未だ十分に得られていないのが現状である。

本ガイドライン初版 3)では,進行・終末期がん患者が有する疼痛や呼吸困難の症状に対する患者教育の効果として,疼痛軽減や疼痛活動制限の改善(推奨グレードB),呼吸困難感,身体活動性,抑うつ,ADL 困難度などの改善(推奨グレードA)が示されており,患者教育を行うように勧められている。そこで,本CQ では,新たな知見を追加し,患者教育の有用性について検討した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①運動機能(重要性7,エビデンスの強さ B)

・検索

ハンドサーチによるランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Corner ら 4)は,化学療法・放射線療法後の呼吸困難を有する進行肺がん患者34 名を介入群(ナース・リサーチ・プラクティショナーによる1 回1 時間,週1 回,3〜6 週間の呼吸困難のマネジメント教育)と対照群(呼吸困難のアセスメントと質問への対応)とに無作為に割り付けて,ベースライン・4・12 週目の身体機能をFunctional Capacity Scale(FCS)で評価した。その結果,介入群は対照群と比べて歩行や階段昇降といった身体機能が有意に改善した。主な教育プログラムは,①呼吸困難感に関する評価,②呼吸困難感の管理についての患者・家族教育,③呼吸法の再訓練,④リラクゼーション技法,⑤日常生活や活動での補助呼吸法,⑥対処法の目標設定などであった。

・統合

運動機能はFCS で評価され,運動機能の改善がみられたが,1 論文のみの結果であることからエビデンスの強さはB と判定した。

②活動度(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

ハンドサーチによるランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Corner ら 4)は,化学療法・放射線療法後の呼吸困難を有する進行肺がん患者34 名を対象としたランダム化比較試験で,呼吸困難のマネジメント教育に関する介入を行い,介入後の日常生活動作の困難度をDifficulty in Activities of Daily Living(D-ADL)で評価したところ,介入群は対照群と比べて日常生活動作の困難度が有意に改善した。

・統合

日常生活動作の困難度はD-ADL にて評価され,介入により有意に改善したが,1 件のみの結果である
ことから,エビデンスの強さはB と判定した。

③疼痛の改善(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索やハンドサーチによるランダム化比較試験5 件,システマティックレビュー1 件を採用した。

・評価

Rustøen ら 5)は,外来通院中の骨転移を有するがん患者179 名(乳がん,前立腺がん,大腸がん,その他)を介入群(PRO-SELF での疼痛マネジメントの訓練を受けた看護師による6 週間の疼痛マネジメントプログラム:第1・3・6 週目に自宅訪問,第2・4・5 週目に電話による疼痛マネジメントの指導)と対照群(看護師によるがん性疼痛マネジメントの冊子提供と第1・3・6 週目に自宅訪問,第2・4・5 週目に電話面接)とに無作為に割り付けて研究を行った。介入後の疼痛を週ごとにPain Experience Scale(PES)にて評価したところ,介入群と対照群の両群において介入6 週間の疼痛は改善したが,両群間での有意差はみられなかった。

Kim ら 6)は,外来通院中のがん性疼痛を有するStage Ⅳの進行がん患者108 名(消化器がん,肺がん,頭頸部がん,泌尿器・生殖器系がん,乳がん,その他)を介入群(疼痛マネジメント専門のナース・プラクティショナーによるビデオ・冊子を用いた疼痛教育と電話による症状モニタリング)と対照群(ナース・プラクティショナーによるビデオ・冊子を用いた疼痛教育)とに無作為に割り付けて研究を行った。介入後の疼痛を介入1 週後と2 カ月後にBrief Pain Inventory(BPI)で評価したところ,介入1 週後で,介入群における平均的な疼痛強度(10 のうち4 以上の占める割合)が,対照群に比べて有意に改善した。全対象者(108 名)ではすべての痛みの評価項目で,ベースラインから介入1 週後の疼痛の有意な改善がみられた。

Lovell ら 7)は,外来通院中のがん性疼痛を有する進行がん患者217 名(乳がん,肺がん,前立腺がん,泌尿器・生殖器系がん,大腸がん,その他)を無作為に4 群(①通常ケア群,②通常ケア・冊子提供群,③通常ケア・ビデオ提供群,④通常ケア・冊子・ビデオ提供群)に割り付けてがん性疼痛マネジメント教育(患者・介護者用)に関する4 週間の研究を行った。介入後の疼痛の程度をBPI で評価したところ,通常ケア・冊子・ビデオ提供群は,通常ケア群と比べて,疼痛が有意に改善した。

Ward ら 8)は,外来通院中のがん性疼痛を有する転移性がん222 名(消化器がん,乳がん,泌尿器・生殖器系がん,肺がん,造血器腫瘍,その他)を介入群(がん専門看護師によるがん性疼痛軽減のための患者教育)と対照群(標準的な冊子による教育的情報提供と質問への対応)とに無作為に割り付けて研究を行った。がん性疼痛はBPI を用いて評価され,介入群は対照群と比べて,ベースラインから2 カ月後の疼痛が有意に改善した。

Miaskowski ら 9)は,外来通院中の骨転移を有するがん患者212 名(乳がん,前立腺がん,肺がん,その他)を介入群(PRO-SELF で特別に訓練されたがん専門看護師による6 週間のがん性疼痛マネジメント教育:1・3・6 週目に訪問,2・4・5 週目に電話による疼痛マネジメントの指導)と対照群(リサーチ看護師による患者用ガイドラインの配付やがん性疼痛マネジメント教育:1・3・6 週目に訪問,2・4・5 週目に電話面接)とに無作為に割り付けて研究を行った。介入後の疼痛を BPI で評価したところ,介入群のがん性疼痛が有意に改善した。

Martinez ら 10)は,進行がん患者に対する疼痛マネジメントのための介入に関するシステマティックレビューにおいて,疼痛マネジメントは有効であり,エビデンスは中程度であったことを報告している。19 件の研究のなかで,最も多かった介入は,患者・家族教育17 件(89%)で,7 件が有意な疼痛改善を示した。

・統合

疼痛は PES,NRS,BPI(4 件)で評価され,4 件で痛みの有意な改善がみられ,システマティックレビューでは中程度のエビデンスであったため,エビデンスの強さはB と判定した。

④倦怠感の軽減(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験1 件を採用した。

・評価

Chan ら 11)は,緩和的放射線療法を受けるStage Ⅲ・Ⅳの進行肺がん患者140 名を介入群(看護師による照射開始1 週前と照射開始3 週後での症状マネジメント教育や漸進的筋弛緩法を活用するコーチングを含む心理的教育介入)と対照群(通常ケア)とに無作為に割り付けて研究を行った。ベースライン・3・6・12 週目における倦怠感をPiper Fatigue Scale(PFS)で評価したところ,介入群は対照群と比べて6 週目に倦怠感が有意に改善した。

・統合

倦怠感はPFS で評価され,倦怠感の改善がみられたが,1 論文のみの結果であることから,エビデンスの強さはB と判定した。

⑤呼吸困難の軽減(重要性8,エビデンスの強さ:A)

・検索

系統的文献検索,ハンドサーチによるランダム化比較試験3 件,システマティックレビュー 2 件を採用した。

・評価

Chan ら 11)は,緩和的放射線療法を受けるStage Ⅲ・Ⅳの進行肺がん患者140 名を対象としたランダム化比較試験で,症状マネジメントに関する心理的教育介入を行い,ベースライン・3・6・12 週目における呼吸困難の程度をVAS で評価したところ,介入群は対照群と比べて呼吸困難の有意な改善がみられた。

Bredin ら 12)は,治療終了後に外来通院中の呼吸困難を有する肺がん患者119 名を介入群(専門看護師による週1 回3〜8 週間の教育)と対照群(通常ケア)とに無作為に割り付けて研究を行った。8 週後の呼吸困難や呼吸困難による苦痛をVAS で評価したところ,介入群は対照群と比べて呼吸困難(最良値)の程度が有意に改善した。介入内容は,①呼吸困難に対する詳細な評価,②患者・家族に対する呼吸困難のマネジメント方法についてのアドバイスやサポート,③呼吸法訓練,④リラクセーションテクニック,⑤対処法の目標設定などであった。

Corner ら 4)は,化学療法・放射線療法後の呼吸困難を有する進行肺がん患者34 名を対象としたランダム化比較試験で,呼吸困難のマネジメント教育に関する介入を行い,介入後の呼吸困難感などをVAS で評価したところ,介入群は対照群と比べて,呼吸困難や呼吸困難による苦悩が有意に改善した。

Rueda ら 13)は,肺がん患者のwell-being やQOL の改善に対する非侵襲的な介入の有効性に関するコクラン・ライブラリーにおいて,進行期がん患者の呼吸困難の改善に教育指導は有用であり,呼吸困難に対する看護師によるフォローアップや介入は効果があると報告している。

Ben-Aharon ら 14)は,終末期がん患者の呼吸困難の緩和に関する有効性のシステマティックレビューにおいて,看護師による教育的介入は呼吸困難の改善に有効であると報告している。

・統合

呼吸困難はVAS で評価され,すべての文献で呼吸困難の改善がみられた。よって,エビデンスの強さはA と判定した。

⑥精神心理面(抑うつ,不安など)の軽減(重要性6,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索やハンドサーチによるランダム化比較試験6 件を採用した。

・評価

Kim ら 6)は,外来通院中のがん性疼痛を有するStage Ⅳの進行がん患者108 名を対象としたランダム化比較試験で,疼痛教育に関する介入を行い,ベースライン・1 週後の不安や抑うつの程度をHospital Anxiety and Depression Scale(HADS)で評価したところ,介入群と対照群の比較では有意差はみられなかった。全対象者(108 名)ではベースラインから介入1 週後で不安や抑うつの有意な改善がみられた。

Chan ら 11)は,緩和的放射線療法を受けるStage Ⅲ・Ⅳの進行肺がん患者140 名を対象としたランダム化比較試験で,症状マネジメントなどの心理的教育介入を行い,ベースライン・3・6・12 週目における不安の程度をA-state scale of the State-Trait Anxiety Inventory(STAI)で評価したところ,介入群は対照群と比べて不安が有意に改善した。

Lovell ら 7)は,外来通院中のがん性疼痛を有する進行がん患者217 名を対象としたランダム化比較試験で,疼痛教育に関する介入を行い,不安と抑うつの程度を HADS で評価したところ,4 群間(①通常ケア群,②通常ケア・冊子提供群,③通常ケア・ビデオ提供群,④通常ケア・冊子・ビデオ提供群)で有意差はみられなかった。

Bakitas ら 15)は,進行がん患者322 名(消化器がん,肺がん,泌尿器・生殖器系がん,乳がん)を介入群(高度実践看護師による4 週間の患者と介護者に対する緩和ケアの心理的教育介入)と対照群(通常ケア)とに無作為に割り付けて研究を行った。介入後の抑うつの程度をCenter for Epidemiological Study-Depression Scale(CES-D)を用いて介入1 カ月目および参加者が死亡するまで(または研究が完遂するまで),3 カ月毎に評価したところ,介入群は対照群と比べて抑うつが有意に改善した。

Bredin ら 12)は,治療終了後に外来通院中の呼吸困難を有する肺がん患者119 名を対象とした呼吸困難のマネジメントに関するランダム化比較試験で,介入後8 週目の不安や抑うつの程度をHADS で評価したところ,介入群は対照群と比べて,抑うつの程度に有意な改善がみられた。不安の程度は両群間での有意差はみられなかった。

Corner ら 4)は,化学療法・放射線療法後の呼吸困難を有する進行肺がん患者34 名を対象としたランダム化比較試験で,呼吸困難のマネジメント教育に関する介入を行い,介入後の不安や抑うつをHADS で評価したところ,両群間での有意差はみられなかった。

・統合

不安や抑うつは HADS(4 件),STAI(1 件),CES-D(1 件)で評価され,不安(1 件)や抑うつ(2 件)の有意な改善がみられたが,介入内容や評価方法,評価尺度などの相違により効果が異なる可能性があるため,エビデンスの強さはC と判定した。

⑦ QOL の改善(重要性8,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索やハンドサーチによるランダム化比較試験3 件を採用した。

・評価

Kim ら 6)は,外来通院中のがん性疼痛を有するStage Ⅳの進行がん患者108 名を対象とした疼痛教育に関するランダム化比較試験で,ベースライン・1 週後のQOL をEORTC QLQ-C30 で評価したところ,介入群は対照群と比べて,下位尺度である身体機能が有意に改善した。その他の役割機能,感情機能,認知機能,社会機能,Global QOL では群間での有意差はみられなかった。全対象者(108 名)ではすべての機能において有意な改善がみられた。

Lovell ら 7)は,外来通院中のがん性疼痛を有する進行がん患者217 名を対象とした疼痛教育に関するランダム化比較試験で,介入前後のQOL (Global QOL)を評価したところ,4 群間(①通常ケア群,②通常ケア・冊子提供群,③通常ケア・ビデオ提供群,④通常ケア・冊子・ビデオ提供群)での有意差はみられなかった。

Bakitas ら 15)は,進行がん患者322 名を対象とした緩和ケアの心理的教育介入に関するランダム化比較試験で,介入後のQOL をFunctional Assessment of Chronic Illness Therapy- Palliative Care(FACIT-Pal)で評価したところ,介入群は対照群と比べてQOL が有意に改善した。

・統合

QOL はEORTC QLQ-C30,Global QOL,FACIT-Pal で評価され,QOL の有意な改善(2 件)がみられたが,介入方法や評価尺度が統一されていないため,エビデンスの強さはB と判定した。

⑧有害事象:身体症状(疼痛・呼吸困難など)の増悪や精神心理面の負担(害:重要性6,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索とハンドサーチによるランダム化比較試験6 件を採用した。

・評価

Bakitas ら 15)の進行がん患者322 名を対象とした緩和ケアの心理的教育介入に関するランダム化比較試験では,脱落者が介入群16 名,対照群27 名であった。脱落理由は死亡(介入群3 名,対照群8 名)や研究参加中止(介入群13 名,対照群19 名)であった。研究対象者の介入群と対照群のベースラインにおける背景に有意差はみられなかった。

Ward ら 8)の外来通院中のがん性疼痛を有する転移性がん222 名を対象とした疼痛マネジメントに関するランダム化比較試験では,全体の脱落者が46 名(21%)であった(介入群20 名,対照群26 名)。主な脱落理由は死亡や病気の進行(19 名),転院(11 名)などであった。

Miaskowski ら 9)の外来通院中の骨転移を有するがん患者212 名を対象とした疼痛マネジメントに関するランダム化比較試験では,脱落者が介入群22 名,対照群16 名であった。主な脱落理由は,死亡(介入群6 名,対照群4 名),病気の悪化や入院を要するがん治療のため(介入群16 名,対照群12 名)であったが介入群と対照群での有意差はなかった。

Chan ら 11)のStage Ⅲ・Ⅳの緩和的放射線療法を受ける進行肺がん患者140 名を対象とした症状マネジメントの心理的教育介入に関するランダム化比較試験では,脱落者が介入群11%,対照群42%で,主な脱落理由は死亡であった。考察では,心理的教育介入は進行がん患者であっても,患者に対する害はなく,また患者の負担にもならないことが報告されていた。

Bredin ら 12)の外来治療終了後の呼吸困難を有する肺がん患者119 名を対象とした呼吸困難のマネジメント教育に関するランダム化比較試験では,研究中に16 名が死亡した。脱落者は介入群10 名,対照群18 名で,主な脱落理由は,病気の悪化による参加困難であった。考察において,介入効果は患者の状態によって変わるため,必ずしもすべての患者に益があるわけではないことが報告されていた。

Corner ら 4)の化学療法・放射線療法後の呼吸困難を有する進行肺がん患者34 名を対象とした呼吸困難のマネジメント教育に関するランダム化比較試験では,脱落者が介入群8 名,対照群6 名であった。研究対象となった介入群と対照群との生存期間に有意差はなかった。主な脱落理由として,大多数は患者の生命予後の限界と病状悪化に起因するものであった。考察において,リハビリテーションアプローチは,呼吸困難を改善し,かつ日常生活の活動度を向上させるため患者に益をもたらすことが報告されていた。

・統合

ランダム化比較試験6 件の介入群と対照群の両群に脱落者がみられたが患者教育による有害事象の報告はみられなかった。主な脱落理由は,死亡や病気の悪化が原因で,教育的介入によるものではなかった。患者の状態にもよるが,教育的介入は進行がんの対象者でも益があるとの報告があり,害は少ないと考える。すべての研究は有害事象を比較した研究ではないため,エビデンスの強さはC と判定した。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:B(中)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,運動機能,活動度,疼痛,倦怠感,呼吸困難,QOL の改善が認められた。一方,害(望ましくない効果)としては,進行がんや終末期がんを対象とするので症状悪化や死亡による脱落がみられたが,教育的介入によるものではなかった。以上より,益が害を大きく上回っており,その効果の差は大きいと判断した。

患者の価値観・希望

緩和ケアを主体とする進行期・終末期のがん患者は,がん性疼痛や呼吸困難などの身体症状や不安,抑うつなどの精神症状を有する患者が多く,事前に症状マネジメントの手法を学習することで,セルフケアによる症状緩和が可能になりADL やQOL の維持・向上につながることが想定される。先行研究 4)でも呼吸法を学んだ患者はADL 機能が向上し,呼吸困難感の不安が軽減し自己の自信につながっていることが面接で語られていた。よって,症状緩和を目的とした教育的介入は害が少なく益が大きいため,多くの患者が受けることを希望すると考えられ,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

リハビリテーション診療の一環として,症状緩和を目的とした教育的介入は,主治医やリハビリテーション科医ならびに理学療法士,作業療法士,がん看護専門看護師などを含めた医療チームで実施することは可能であり,入院中や外来,在宅において保険診療や介護保険の範囲内で実施できるため,患者のコスト負担は少ない。教育的介入によって,患者の行動変容が促され,セルフケアが可能になると考える。

・臨床適応性

教育的介入は病院,在宅下,テレモニタリングや電話の活用等,提供方法や場所の選択は多様であり,臨床での活用は可能である。ただし,入院から外来,在宅において,症状緩和の教育的介入を適切に継続して実施できる医療専門職者の人材確保や体制は十分ではないため,臨床適応性には課題がある。

総合評価

緩和ケアを主体とする時期の進行がん患者に対して,疼痛や呼吸困難などの症状緩和を目的とした患者教育を行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスはB であり,益と害のバランスが確実である(益の確実性が高い)。患者の価値観は確実性が高く,多様性は低い(一致している)。保険診療で実施されるため患者のコスト負担は少ない。ただし,さまざまな療養の場で実施できる専門職者が限られているため実施できるような体制整備が必要であり,臨床適応性が現時点では低いことから,提案する(弱い推奨)とした。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・海外での研究が多く,死の観念が日本とは異なる。疼痛,呼吸困難などの知識を含む教育を行うことで患者にネガティブな影響を与える可能性があり,家族に対する教育も必要だと考える。
■投票結果

付記
◉ 呼吸困難に対するマネジメント

呼吸困難は,身体,心理,機能面に影響を与える。呼吸困難を有する患者のQOL を高めるために,薬理学的療法に加えて,その他の療法を含めた包括的アプローチを行うことが重要である。呼吸困難に対するマネジメントとして,呼吸法の訓練やポジショニング,活動計画(エネルギー保存と活動マネジメント),補完療法(マッサージ,鍼灸),顔面へのクーリング(三叉神経第2 枝への寒冷刺激),看護師主導のクリニック 1, 2)などがある。多様な呼吸困難に対するマネジメントを活用して症状を軽減することは可能であり,患者・家族への教育が苦痛レベルを下げるのに役立つことが報告されている 3)

進行期におけるがんと非がん疾患(慢性閉塞性肺疾患,間質性肺炎,慢性心不全,運動ニューロン疾患)の呼吸困難に対する非薬理学的介入に関するコクラン・ライブラリーにおいて,歩行補助具(7 件)と呼吸法訓練(3 件)は中程度のエビデンスがあることが報告されている 1)

  • ※本CQ のアウトカムとして,睡眠障害の軽減も挙げていたが,該当する文献は得られなかった。

文献

1)
日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン委員会.がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2014 年版.金原出版,2016.
2)
日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン委員会.がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン 2016 年版.金原出版,2016.
3)
日本リハビリテーション医学会 がんのリハビリテーションガイドライン策定委員会.がんのリハビリテーションガイドライン.金原出版,2013.
4)
Corner J, Plant H, A’Hern R, Bailey C. Non-pharmacological intervention for breathlessness in lung cancer. Palliat Med. 1996;10:299-305.
5)
Rustøen T, Valeberg BT, Kolstad E, et al. A randomized clinical trial of the efficacy of a self-care intervention to improve cancer pain management. Cancer Nurs. 2014;37:34-43.
6)
Kim HS, Shin SJ, Kim SC, et al. Randomized controlled trial of standardized education and telemonitoring for pain in outpatients with advanced solid tumors. Support Care Cancer. 2013;21:1751-9.
7)
Lovell MR, Forder PM, Stockler MR, et al. A randomized controlled trial of a standardized educational intervention for patients with cancer pain. J Pain Symptom Manage. 2010;40:49-59.
8)
Ward S, Donovan H, Gunnarsdottir S, et al. A randomized trial of a representational intervention to decrease cancer pain(RIDcancerPain). Health Psychol. 2008;27:59-67.
9)
Miaskowski C, Dodd M, West C, et al. Randomized clinical trial of the effectiveness of a self-care intervention to improve cancer pain management. J Clin Oncol. 2004;22:1713-20.
10)
Martinez KA, Aslakson RA, Wilson RF, et al. A systematic review of health care interventions for pain in patients with advanced cancer. Am J Hosp Palliat Care. 2014;31:79-86.
11)
Chan CW, Richardson A, Richardson J. Managing symptoms in patients with advanced lung cancer during radiotherapy: results of a psychoeducational randomized controlled trial. J Pain Symptom Manage. 2011;41:347-57.
12)
Bredin M, Corner J, Krishnasamy M, et al. Multicentre randomised controlled trial of nursing intervention for breathlessness in patients with lung cancer. BMJ. 1999;318:901-4.
13)
Rueda JR, Solà I, Pascual A, et al. Non-invasive interventions for improving well-being and quality of life in patients with lung cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2011:CD004282.
14)
Ben-Aharon I, Gafter-Gvili A, Paul M, et al. Interventions for alleviating cancer-related dyspnea: a systematic review. J Clin Oncol. 2008;26:2396-404.
15)
Bakitas M, Lyons KD, Hegel MT, et al. Effects of a palliative care intervention on clinical outcomes in patients with advanced cancer: the Project ENABLE II randomized controlled trial. JAMA. 2009;302:741-9.
付記文献
1)
Bausewein C, Booth S, Gysels M, et al. Non-pharmacological interventions for breathlessness in advanced stages of malignant and non-malignant diseases. Cochrane Database Syst Rev. 2008:CD005623.
2)
Cairns L. Managing breathlessness in patients with lung cancer. Nurs Stand. 2012;27:44-9.
3)
高倉保幸(日本語版監修).がんリハビリテーション-原則と実践完全ガイド-.ガイアブックス,2018.

CQ 04
疼痛(内臓痛を除く)を有するがん患者に対して,疼痛緩和を目的とした経皮的電気神経刺激(TENS)を行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2C
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
疼痛(内臓痛を除く)を有するがん患者に対して,疼痛緩和を目的とした経皮的電気神経刺激(TENS)を行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

経皮的電気神経刺激(trancutaneous electrical nerve stimulation;TENS)は物理療法の一つであり,1965 年にWall らによって初めて慢性疼痛に対する有効性が報告された 1)。そのメカニズムは,神経反射的効果(触覚などの刺激は太い神経を通って脊髄に至り,そこで疼痛神経線維をブロックする,いわゆるgate control theory)によって説明され,また,刺激部以外の除痛効果や除痛効果の持続に関しては,内因性鎮痛物質エンドルフィンの関与も考えられている。しかし,現在,がん患者における疼痛緩和の効果に関しては,まだ十分な検証が行われていないため,今回の改訂ではCQ として採用し検討した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①疼痛緩和(重要性9,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,システマティックレビュー1 件,ランダム化比較試験2 件,観察研究1 件を採用した。

・評価

Bennett ら 2)は,転移性骨腫瘍に伴う疼痛を有する患者を対象に,介入群〔疼痛部位へのTENS(連続刺激,80Hz,200μs,1 回60 分,2〜7 日)〕と対照群(プラセボ刺激)に無作為に割り付け,疼痛の強さをNRS を用いて評価したところ,介入群で体動時痛が有意に軽減したと報告している。

また,Robb ら 3)は乳がん治療後の二次性疼痛を有する患者を無作為に6 群に割り付け,TENS(連続刺激・高強度だが快適な強度),Transcutaneous Spinal Electroanalgesia(TSE),プラセボ,(シャムTSE 刺激)の3 種の介入を各3 週間ずつクロスオーバーにて実施し,疼痛の強さをNRS を用いて評価したところ,いずれの介入も疼痛は有意に軽減したものの各介入比較では有意差は認めなかった。しかし,介入に対する満足度(有効性)に関して質問紙を用いて調査したところ,有効であるとの回答は,プラセボでは 36%,TSE は27%であったのに対し,TENS では72%であった。また,長期フォローアップ調査の結果,評価終了後も介入継続を希望した患者は63.4%いたが,その希望介入内容の内訳は,TENS57.7%,TSE19.2%,プラセボ23.1%であった。また,TENS を希望した患者の66%は1 年後も継続して実施していたと報告している。

がん患者の疼痛に対するTENS の効果に関するシステマティックレビューでは,ランダム化比較試験の報告が少なく,また,サンプルサイズが小さく研究の質に課題があるため,現状では有効性を示すエビデンスが不足しているとしている 4)

・統合

TENS による疼痛緩和に関する十分なエビデンスが不足しているため,エビデンスの強さはC と判定した。

②有害事象:疼痛憎悪(害:重要性9,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,システマティックレビュー1 件,ランダム化比較試験2 件を採用した。

・評価

Bennett ら 2)は,転移性骨腫瘍に伴う疼痛を有する患者24 名を対象に,介入群と対照群(プラセボ刺激)に無作為に割り付け,疼痛の強さを評価したが,そのうち2 名に疼痛増強を認め,1 名は TENS 実施中,1 名はプラセボ刺激10 日後であったと報告している。また,Robb ら 3)は,乳がん治療後の二次性疼痛を有する患者49 名を対象に,介入群と対照群に無作為に割り付け,疼痛の強さを評価したが,そのうち2 名に疼痛増強を認めたと報告している。がん患者の疼痛に対するTENS の効果に関するシステマティックレビューでは,有害事象はわずかで軽度であるとしている 4)

・統合

有害事象の報告は少ないが,いずれの報告も発症頻度が少なく軽微であることから,エビデンスの強さはC と判定した。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:C(弱)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,疼痛緩和が認められた。一方,害として,有害事象の報告はごく少数の軽微な報告のみであった。以上より,益が害を大きく上回っており,その効果の差は大きいと判断した。

患者の価値観・希望

害が少なく益が大きい治療であるため,多くの患者が行うことを希望すると考えられ,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

消炎鎮痛等処置の診療報酬算定対象となるため患者のコスト負担は安価である。なお,手技としては簡便だが,わが国では現在医療用TENS を患者個人で購入できず外来通院が必要である。

・臨床適応性

TENS 機器は,軽量で持ち運び可能,治療設定も簡便である。また,医療用機器としては安価であるため,購入・提供可能な施設は多いと考えられるが,TENS を所有していない医療機関も存在しているため,現時点で臨床適応性は高いとはいえない。なお,実施に際しては,禁忌に該当しないことを確認する必要がある。

総合評価

疼痛(内臓痛を除く)を有するがん患者に対して,疼痛緩和を目的とした経皮的電気神経刺激(TENS)を行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスはB であるが,益と害のバランスは確実である(益の確実性が高い)。患者の価値観は確実性が高く,多様性は低い(一致している)。入院中であれば保険診療で実施できるため患者のコスト負担は少ないが,TENS を所有していない医療機関もあるため,現時点で臨床適応性は高いとはいえず,提案する(弱い推奨)にとどめた。骨転移に伴う体動時痛や,その他の疼痛(内臓痛を除く)を有する患者の疼痛緩和策として実施することが望まれる。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・現時点で,骨転移に対する標準治療は放射線緩和照射や外科的治療,薬物による症状緩和である。また,現時点では推奨に値するエビデンスに乏しいのではないか。
■投票結果

付記
◉ 経皮的電気神経刺激(TENS)

TENS の刺激頻度としては,高頻度刺激(10〜100Hz)と低頻度刺激(0.5〜10Hz)がある。高頻度刺激は,主に大径感覚神経を刺激することによる脊髄レベルでの鎮痛効果であり,低頻度刺激は主に内因性鎮痛物質を介した鎮痛効果と考えられている。現在,刺激時間や1 日の施行回数の明確な基準はないが,1 回あたり20〜60 分で,1 日数回の施行が一般的である。また,TENS の禁忌は,頸動脈洞の上,心ペースメーカー患者,妊婦とされ,実施に際しては注意が必要である 1)

今回のガイドライン改訂に際しては検索期間対象外となるが,2018 年にはLee ら 2)によって,口腔粘膜障害による疼痛を有する放射線療法中の頭頸部癌患者に対するTENS の鎮痛効果を検証したdouble-blind, randomized, controlled, crossover trial が報告されている。放射線療法4〜6 週の頭頸部がん患者に対して,顎関節と上位頸椎領域にTENS(125Hz,100μs,30 分間)を行うと,プラセボTENS 群および非治療群と比較し有意な疼痛軽減を認めたとしている。

文献

1)
Melzack R, Wall PD. Pain mechanisms: a new theory. Science. 1965;150:971-9.
2)
Bennett MI, Johnson MI, Brown SR, et al. Feasibility study of transcutaneous electrical nerve stimulation(TENS)for cancer bone pain. J Pain. 2010;11:351-9.
3)
Robb KA, Newham DJ, Williams JE. Transcutaneous electrical nerve stimulation vs. transcutaneous spinal electroanalgesia for chronic pain associated with breast cancer treatments. J Pain Symptom Manage. 2007;33:410-9.
4)
Hurlow A, Bennett MI, Robb KA, et al. Transcutaneous electric nerve stimulation(TENS)for cancer pain in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2012:CD006276.
付記文献
1)
内山侑紀,道免和久.電気治療 . 千野直一(監),椿原彰夫,才藤栄一,出江紳一,他(編).現代リハビリテーション医学 第 4 版.pp156-7,金原出版,2017.
2)
Lee JE, Anderson CM, Perkhounkova Y, et al. Transctaneous electrical nerve stimulation reduces resting pain in head and neck cancer patients. Cancer Nursing. 2018. Epub ahead of print.

CQ 05
緩和ケアを主体とする時期の進行がん患者に対して,症状緩和を目的としたマッサージを行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2C
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
緩和ケアを主体とする時期の進行がん患者に対して,症状緩和を目的としたマッサージを行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

マッサージは,がん患者の疼痛緩和や不安の軽減などを目的として活用されている。しかし,がん患者の症状緩和に対するマッサージの研究 1)では,研究デザインの限界からエビデンスは十分ではなく,特に進行期・終末期のがん患者を対象とした研究は限られているのが現状である。

本ガイドライン初版 2)では,終末期がん患者の疼痛緩和に対するマッサージの即時効果が示されており,マッサージを行うように勧められている(推奨グレードB)。そこで本CQ では,新たな知見を追加し,マッサージの有用性について検討した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①疼痛の緩和(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索やハンドサーチを行い,ランダム化比較試験5 件を採用した。

・評価

Toth ら 3)は,在宅における転移性がん患者39 名(乳がん,大腸がん,膵臓がん,卵巣がん)を介入群(マッサージ療法士による1 回約15〜45 分間,最初の1 週間に3 回のマッサージ)と対照群(タッチなしおよび通常ケア)とに無作為に割り付けて研究を行った。VAS とBPI による疼痛評価では,マッサージ前,1 週目のマッサージ介入後とフォローアップ4 週目で,両群間での有意差はみられなかった。

Jane ら 4)は,入院中の骨転移による疼痛を有するがん患者72 名(肺がん,乳がん,消化器がん,泌尿器がん,その他)を介入群(マッサージの訓練を受けた看護師による1 回45 分間,3 日間のフルボディマッサージ)と対照群(患者の身体に全く触れない会話と関心のみ)とに無作為に割り付けて研究を行った。介入前後のPresent Pain Intensity Visual Analogue Scale(PPI-VAS)による疼痛評価で,介入群は対照群に比べて有意に疼痛が改善した。

Kutner ら 5)は,ホスピスにおける中等度以上のがん性疼痛を有するStage Ⅲ・Ⅳの進行がん患者380 名(肺がん,乳がん,膵臓がん,大腸がん,前立腺がん)を介入群(免許を有するマッサージ療法士による1 回30 分,2 週間に6 回のマッサージ)と対照群(シンプルタッチ)に無作為に割り付けて,マッサージの短期的効果と長期的効果の研究を行った。介入中に2 回,短期的な疼痛をMPAC で評価し,加えて介入終了後の長期的な疼痛をBPI で評価した。その結果,介入群は対照群と比べて短期的には有意な疼痛の改善がみられたが長期的には両群間での有意差はみられなかった。

Soden ら 6)は,緩和ケア病棟に入院中のがん患者42 名(乳がん,肺がん,消化器がん,頭頸部がん,前立腺がん,その他)を介入群(背中への週1 回約30 分,4 週間の①マッサージ,②アロマテラピーのみ,③アロマテラピー・マッサージ)と対照群(マッサージなし)とに無作為に割り付けてVAS による疼痛評価を行った。ベースラインから介入終了後までの長期的変化では,対照群を含むすべての群で有意な改善はみられなかった。

Wilkie ら 7)は,在宅にて緩和ケアを受けるがん性疼痛を有するがん患者56 名(肺がん,乳がん,前立腺がん,大腸がん,その他)を介入群(通常の緩和ケアに加え,免許を有するマッサージ療法士による1 回30〜45 分,週2 回・2 週間,合計4 回のマッサージ)と対照群(通常ホスピスケアのみ)とに無作為に割り付けて研究を行った。マッサージ前後のPain Assessment Tool(PAT),Skilled Nursing Visit Report form(SNVR)による疼痛評価では,1 回目と3 回目の介入前後で疼痛が有意に改善したが,長期的変化では,介入群は対照群と比較して有意差はみられなかった。

・統合

疼痛はVAS,BPI(2 件),PPI-VAS,MPAC,PAT,SNVR で評価され,疼痛の有意な改善(3 件)がみられたが主に短期的効果であった。マッサージの部位,手技方法,評価時期などによって効果が異なる可能性が考えられるため,エビデンスの強さはC と判定した。

②精神心理面(抑うつ,不安,気分など)の改善(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索やハンドサーチを行い,ランダム化比較試験4 件を採用した。

・評価

Toth ら 3)は,在宅における転移性がん患者39 名を対象にランダム化比較試験を実施し,マッサージ介入後1 週目とファローアップ4 週目の不安をVAS で評価したところ,両群間の有意差はみられなかった。

Jane ら 4)は,入院中の骨転移による疼痛を有するがん患者72 名を対象にランダム化比較試験を実施し,マッサージ介入前後の気分をVisual Analogue Mood Scales(VAMS)で評価したところ,介入群は対照群に比べて,有意な気分の改善がみられた。

Kutner ら 5)は,ホスピスにおける中等度以上のがん性疼痛を有するStage Ⅲ・Ⅳの進行がん患者380 名を対象にランダム化比較試験を実施し,マッサージ後の気分をMPAC で評価したところ,介入群は対照群と比べて短期的評価で有意な気分の改善がみられた。

Soden ら 6)は,緩和ケア病棟に入院中のがん患者42 名を対象にランダム化比較試験を実施し,マッサージ介入後の不安と抑うつをHADS で評価したところ,マッサージ群は2 週目と4 週目において抑うつが有意に改善した。しかし,ベースラインから介入終了後までの長期的変化については,不安・抑うつの有意な変化はみられなかった。

・統合

精神心理面は,VAS,VAMS,MPAC ,HADS で評価され,気分・抑うつの有意な改善(3 件)がみられたが主に短期的効果であり,不安については有意な改善ではなかったため,エビデンスの強さはC と判定した。

③有害事象:疼痛増悪(害:重要性6,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索とハンドサーチによるランダム化比較試験3 件を採用した。

・評価

Toth ら 3)は在宅での転移性がん患者39 名を対象に,Jane ら 2)は骨転移による疼痛を有する入院中のがん患者72 名を対象にランダム化比較試験を行ったが,マッサージの介入による有害事象は認められなかった。

Kutner ら 5)のホスピスにおける中等度以上のがん性疼痛を有する Stage Ⅲ・Ⅳの進行がん患者380 名を対象にしたランダム化比較試験では,死亡が介入群26 名(13.8%),対照群33 名(17.2%)にみられたが,両群間での有意差はみられなかった。有害事象として,介入群が2 名(1.1%),対照群が6 名(3.1 %)にみられたが,介入による影響ではなかった。

Wilkie ら 7)の在宅で緩和ケアを受けるがん性疼痛を有するがん患者56 名を対象にしたランダム化比較試験では,漸減率は48%(介入群11 名,対照群16 名)であったが,その主な理由は死亡(15 名),精神や体力の急激な低下(6 名)であった。

・統合

進行・終末期のがん患者を対象としているため,死亡や体力の低下による脱落者やわずかな有害事象がみられたがマッサージの介入によるものではないため,害は少ないと考える。すべての研究で有害事象を比較した研究ではないため,エビデンスの強さはC とした。

CQ に対するエビデンスの総括
重大なアウトカムに関する全体的なエビデンスの強さ:C(弱)

益と害のバランス評価

益(望ましい効果)として,疼痛・精神心理面への改善がみられた。一方,害(望ましくない効果)として,マッサージによる有害事象の報告はなかった。以上より,益が害を大きく上回っており,その効果の差は大きいと判断した。

患者の価値観・希望

緩和ケアを主体とする時期のがん患者は,全人的痛みを伴うことが多く,薬理学的療法に加えてマッサージを活用することで,苦痛症状が緩和しQOL の維持・向上につながることが期待できる。よって,症状緩和を目的とした徒手療法としてのマッサージを希望する患者が多いと考えられ,確実性は高く,多様性は低い。

コスト評価,臨床適応性

・コスト評価

入院中・外来とも,マッサージは保険診療での算定が可能であるため,患者の負担は小さく実施することができる。

・臨床適応性

入院中・外来とも,マッサージはリハビリテーション専門職だけでなく,訓練を受けた看護師も看護ケアとして実施できる。しかし,緩和ケア病棟以外の施設では,専門スタッフの配置や時間的制限などの課題があるため,現時点では,臨床適応性が高いとはいえない。また,家族に対し,自宅で実施可能な簡便なマッサージ手技を指導することは可能であるが,その効果についてのエビデンスは確かではない。

総合評価

緩和ケアを主体とする時期の進行がん患者に対して,症状緩和を目的としたマッサージを行うことを提案する。

重要なアウトカムに対するエビデンスはC であるが,益と害のバランスは確実である(益の確実性が高い)。また,患者の価値観は確実性が高く,多様性は低い(一致している)。施設によって実施できる専門スタッフの配置などの課題があり,現時点で臨床適応性は高いとはいえないことから,提案する(弱い推奨)とした。家族への手技の指導などを含め実施できる工夫や体制が望まれる。

推奨決定コンセンサス会議において,委員から出された意見の内容

  • ・マッサージが包括する手技や目的が広く臨床での活用にあたっては判断に迷うため推奨は難しい。
  • ・国内の医療施設で,30 分以上のマッサージの時間を取ることは人的資源や時間的に限界があるため実施可能性としては課題がある。
  • ・進行がんや終末期のがん患者は看護師や家族からであっても,マッサージを受けることで短期的でもよい効果が得られる。よって,推奨されれば,家族も安心してマッサージを行うことができる。
  • ・実際に,理学療法士によるマッサージを行った際,即時的な効果ではあるが患者にとっては大きな意味をもつことがある。
  • ・臨床研究としては,対象者が終末期がん患者の場合,脱落者の存在や施術後の評価が困難になる場合があるため,今後の研究デザインも含めさらなる研究の蓄積が必要である。
■投票結果

付記
◉ がん患者に対するマッサージの効果

終末期・進行がん患者だけでなく,治療期を含んだがん患者の苦痛症状の緩和に対する,マッサージを活用した研究やシステマティックレビューの研究報告 1-3)がある。その報告では,がん患者にマッサージを行うことは,通常ケアと比べて,疼痛緩和,倦怠感や不安の軽減に効果があることが示されている 2)。特に術後や化学療法後の痛みの軽減に有意な効果があり,足のリフレクソロジーはボディマッサージやアロマテラピー・マッサージより効果があるとしている。しかし,マッサージの効果として主に短期的な効果や小規模デザインの研究が多く研究の質には課題があるとしている 3)

入院中の小児がん患者52 名(10〜18 歳)を対象としたランダム化比較試験 4)によるマッサージの介入では,1 週間に3 回の20〜30 分のマッサージを行うことで,がん性疼痛が軽減していたことが報告されている。しかし,研究の限界としてサンプルサイズや統計的な課題があり,子どものQOL やwell-being の向上に活用することは可能ではないかと結論づけている。

先行研究において,アロマテラピー・マッサージを行うことで,がん患者の疼痛緩和や気分,身体症状,QOL が改善したとしているが,対照群との有意差はみられなかった 5-6)。しかし,アロマテラピー・マッサージを受けたすべてのがん患者は,研究終了後の満足度が高く,アロマテラピー・マッサージを継続してほしいという要望があり 6),今後大規模な質の高い研究を行い,エビデンスを構築し実践での活用につなげていくことが必要である。

  • ※本CQ のアウトカムとして,倦怠感の改善も挙げていたが,該当する文献は得られなかった。

文献

1)
日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン委員会.がんの補完代替療法クリニカル・エビデンス 2016 年版.金原出版,2016.
2)
日本リハビリテーション医学会 がんのリハビリテーションガイドライン策定委員会.がんのリハビリテーションガイドライン.金原出版,2013.
3)
Toth M, Marcantonio ER, Davis RB, et al. Massage therapy for patients with metastatic cancer: a pilot randomized controlled trial. J Altern Complement Med. 2013;19:650-6.
4)
Jane SW, Chen SL, Wilkie DJ, et al. Effects of massage on pain, mood status, relaxation, and sleep in Taiwanese patients with metastatic bone pain: a randomized clinical trial. Pain. 2011;152:2432-42.
5)
Kutner JS, Smith MC, Corbin L, et al. Massage therapy versus simple touch to improve pain and mood in patients with advanced cancer: a randomized trial. Ann Intern Med. 2008;149:369-79.
6)
Soden K, Vincent K, Craske S, et al. A randomized controlled trial of aromatherapy massage in a hospice setting. Palliat Med. 2004;18:87-92.
7)
Wilkie DJ, Kampbell J, Cutshall S, et al. Effects of massage on pain intensity, analgesics and quality of life in patients with cancer pain: a pilot study of a randomized clinical trial conducted within hospice care delivery. Hosp J. 2000;15:31-53.
付記文献
1)
Lee SH, Kim JY, Yeo S, et al. Meta-analysis of massage therapy on cancer pain. Integr Cancer Ther. 2015;14:297-304.
2)
Boyd C, Crawford C, Paat CF, et al. The impact of massage therapy on function in pain populations-a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials: part II, cancer pain populations. Pain Med. 2016;17:1553-68.
3)
Shin ES, Seo KH, Lee SH, et al. Massage with or without aromatherapy for symptom relief in people with cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2016:CD009873.
4)
Batalha LM, Mota AA. Massage in children with cancer: effectiveness of a protocol. J Pediatr(Rio J). 2013;89:595-600.
5)
Chen TH, Tung TH, Chen PS, et al. The clinical effects of aromatherapy massage on reducing pain for the cancer patients: meta-analysis of randomized controlled trials. Evid Based Complement Alternat Med. 2016:9147974.
6)
Wilcock A, Manderson C, Weller R, et al. Does aromatherapy massage benefit patients with cancer attending a specialist palliative care day centre? Palliat Med. 2004;18:287-90.

CQ 06
進行がん患者に対して,リハビリテーション専門職を含む多職種チーム医療・アプローチを行うことは,行わない場合に比べて推奨されるか?

グレード2C
推奨の強さ弱い推奨
エビデンスの
確実性
進行がん患者に対して,リハビリテーション専門職を含む多職種チーム医療・アプローチを行うことを提案する。

重要臨床課題の確認

がん患者は,多様で複雑な問題を抱えていることが多く,それらの問題を多角的に評価し解決するために多職種による対応が推奨されている。しかし,現在,進行がん患者に対するリハビリテーション専門職を含む多職種チーム医療・アプローチによる効果に関しては未だ十分な検証が行われていないため,今回の改訂ではCQ として採用し検討した。

エビデンス評価

各アウトカムの結果
①呼吸困難の軽減(重要性7,エビデンスの強さ:B)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験1 件,観察研究1 件を採用した。

・評価

Farquhar ら 1)は,進行がん患者を対象に,介入群〔薬物療法と理学療法士や作業療法士らによる非薬物療法(呼吸のコントロール,動作のペーシング,不安のマネジメント,心理的サポート,緊急時の対応,ポジショニングや環境調整,排痰訓練やリラクセーションなど)を組み合わせたBreathlessness Intervention Service;BIS)と対照群(通常のケア)に無作為に割り付け2 週間毎のmixed method にて行い,呼吸困難の程度をNRS を用いて評価したところ,介入後2 週後・4 週後の評価時には呼吸困難が有意に軽減。また,費用対効果も高いと報告している。

Strasser ら 2)は,15 カ月間の後ろ向き観察研究を行い,古典的な疼痛と症状マネジメント(PSM)外来を受診した進行がん患者と,医師,看護師,薬剤師,理学療法士,作業療法士,言語聴覚士,ソーシャルワーカー,チャプレン,管理栄養士,精神科看護師からなる多職種緩和ケア(MD)外来を受診した進行がん患者を比較した。フォローアップ可能であった患者は,PSM 外来42%,MD 外来58%であり,また,フォローアップ期間の中央値もPSM 外来28 日,MD 外来9 日と異なっていたため両群の統計学的比較検証は実施しなかったが,ESAS を用いて評価した身体症状の強さは,PSM 外来では初診時49.5 点,フォローアップ後46 点であったのに対し,MD 外来では初診時50 点,フォローアップ後36 点との結果が得られ,MD 外来での前後比較では,呼吸困難の有意な改善がみられた。質問紙で評価したMD 外来の満足度も高かったと報告している。

チャプレン:軍隊,学校,病院,刑務所といった施設や組織で働く聖職者

・統合

進行がん患者に対するリハビリテーション専門職を含む多職種チーム医療・アプローチによる呼吸困難緩和に関する報告は少ないが,Farquhar らの研究は質が高く,また,費用対効果・満足度が高いなどの効果も考慮し,エビデンスの強さはB とした。

② well-being の改善(重要性8,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験1 件,観察研究1 件を採用した。

・評価

Cheville ら 3)は,外来通院放射線療法中の進行がん患者を対象に,介入群(体幹・上肢のストレッチ,下肢筋力訓練,立位・座位訓練,ゴムバンドを用いた抵抗運動などの30 分間の理学療法と,精神科医,心理士,看護師,ソーシャルワーカー,チャプレンによる計8 セッション90 分×3 回/週)と対照群(通常のケア)に無作為に割り付け,Linear Analog Self Assessments of physical well-being を評価したところ,介入群の理学療法セッションへの参加率は 89.3%であり,4 週後のphysical well-being は介入群で有意に高かったと報告している。

Strasser ら 2)は,15 カ月間の後ろ向き観察研究を行い,古典的な疼痛と症状マネジメント(PSM)外来を受診した進行がん患者77 名と,多職種緩和ケア(MD)外来を受診した進行がん患者138 名を比較した。フォローアップ可能であった患者は,PSM 外来 42%,MD 外来 58%であり,また,フォローアップ期間の中央値もPSM 外来28 日,MD 外来9 日と異なっていたため両群の統計学的比較検証は実施しなかったが,ESAS を用いて評価した身体症状の強さは,PSM 外来では初診時49.5 点,フォローアップ後46 点であったのに対し,MD 外来では初診時50 点,フォローアップ後36 点との結果を得られ,MD 外来での前後比較では,well-being の有意な改善がみられた。質問紙で評価したMD 外来の満足度も高かったと報告している。

・統合

進行がん患者に対する,リハビリテーション専門職を含む多職種チーム医療・アプローチによるwell-being に対する効果の報告は少ない。また,報告されている研究においても,サンプルサイズが少ないことに加えて限定された治療設定であるなどの問題を有する研究もあるため,本CQ に関して十分なエビデンスが不足していると考えられる。よって,エビデンスの強さはC と判定した。

③ QOL の改善(重要性8,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験3 件,観察研究1 件を採用した。

・評価

Farquhar ら 1)は,進行がん患者を対象に,介入群と対照群(通常のケア)に無作為に割り付け2 週間ごとのmixed method にて行い,Chronic Respiratory Questionnaire を指標としてQOL を評価した。介入後2 週後の評価時には対照群では変化がなかったが,介入群では軽度の改善を認めた。しかし,有意差はなかったと報告している。

Cheville ら 3)は,外来通院放射線療法中の進行がん患者を対象に,介入群と対照群(通常のケア)に無作為に割り付け,Spitzer Uniscale を指標としてoverall QOL を評価したところ,4 週後の評価時には介入群のQOL が有意に高かったと報告している。

Rummans ら 4)は,外来通院放射線療法(計30Gy/10 回〜計72Gy/42 回分割照射)中の進行がん患者を対象に,介入群(体幹・上肢のストレッチ,下肢筋力訓練,立位・座位訓練,ゴムバンドを用いた抵抗運動などの30 分間の理学療法と,精神科医,心理士,看護師,ソーシャルワーカー,チャプレンによる計8 セッション90 分×3 回/週)と対照群(通常のケア)に無作為に割り付けQOL を評価した。Overall QOL の評価はSpitzer QOL Uniscale を用い,QOL の下位構成要素の評価はLinear Analog Self Assessments of QOL を用いた。4 週後,介入群ではoverall QOL が維持されたのに対し,対照群では著しく低下。また,QOL 下位構成要素の評価の結果,介入群は対照群と比較してspiritual well-being が有意に高く,また,対照群では身体症状,emotional well-being, social well-being, legal concerns, spiritual well-being に有意な低下を認めた。その後27 週までの評価では,介入群ではoverall QOL は維持され,対照群では徐々に改善したと報告している。

Gagnon ら 5)は,10〜12 週間の『栄養─リハビリテーションプログラム(医師や看護師による症状マネジメントに加え,理学療法士による2 回/週の筋力・持久力などの訓練+ホームプログラム,作業療法士によるセルフケアに関するエネルギー温存法指導やレジャー対応,栄養カウンセリング,看護師によるスクリーニング・ケアプラン作成,必要に応じた心理士,ソーシャルワーカーによる対応等)』に関する前向き観察研究を実施。遂行率は70%であり,Modified Edmonton Symptom Assessment System(modified ESAS)により評価したQOL に中等度の改善(effet size:0.5-0.7)がみられたと報告している。

・統合

進行がん患者に対するリハビリテーション専門職を含む多職種チーム医療・アプローチによるQOL に対する効果の報告は少ない。また,報告されている研究も,サンプルサイズが少ないことに加えて限定された治療設定であるなどの問題を有する研究もあるため,本CQ に関して十分なエビデンスが不足していると考えられる。よって,エビデンスの強さはC と判定した。

④精神心理面の改善(重要性7,エビデンスの強さ:C)

・検索

系統的文献検索を行い,ランダム化比較試験2 件,観察研究2 件を採用した。

・評価

Farquhar ら 1)は,進行がん患者を対象に,介入群と対照群(通常のケア)に無作為に割り付け2 週間ごとのmixed method にて行い,HADS を指標に不安と抑うつの評価を行ったところ,介入2 週後の評価では,不安スコアは,対照群では変化がなかったのに対し介入群ではやや改善がみられた。しかし,有意差はなかった。また,抑うつスコアは両群ともに変化がなかったと報告している。

Jones ら 6)は,進行がん患者を対象に,介入群(ホスピスにおける多職種チームによる包括的リハビリテーション治療)と対照群(通常のケア)に無作為に割り付け精神的サポートの必要度を評価したところ,介入群で精神的サポートの必要度が有意に減少。また,身体機能,日常生活,ケアサポートの必要度も有意に減少し,費用対効果も高いと報告している。

Strasser ら 2)は,15 カ月間の後ろ向き観察研究を行い,古典的な疼痛と症状マネジメント(PSM)外来を受診した進行がん患者と,多職種緩和ケア(MD)外来を受診した進行がん患者を比較した。フォローアッ