クリニカルクエスチョン・推奨一覧

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Ⅲ.骨髄腫

1.多発性骨髄腫(MM)

総論

No. クリニカルクエスチョン 推奨 グレード
【くすぶり型多発性骨髄腫】
CQ1 くすぶり型多発性骨髄腫患者に対して診断後直ちに化学療法を実施することは妥当か くすぶり型多発性骨髄腫患者に対して診断後直ちに化学療法を実施することは,臓器障害発現時まで化学療法の開始を待つ戦略に比べて,生存期間の延長効果は認められず推奨されない。しかし,2014 年に改訂されたIMWG 診断規準で多発性骨髄腫(症候性)に組み入れられた高リスク群(骨髄形質細胞比率≧60%,遊離軽鎖比≧100,MRI で2 つ以上のfocal lesion を持つ)1)では,比較的早期の経過で高率に症候性骨髄腫への進展を認める可能性が高いことから治療開始も選択肢となるが,経過観察が可能であれば慎重に経過観察を行い,増悪を認めた時点で直ちに治療を開始する。 3
CQ2 くすぶり型多発性骨髄腫患者に対するビスホスホネート製剤の投与は妥当か くすぶり型多発性骨髄腫に対するビスホスホネート製剤の投与は,増悪時の骨関連事象の合併頻度を減少させるが,症候性多発性骨髄腫に至るまでの期間や生存期間を延長させる効果は認められず,積極的な投与は推奨されない。 4
【移植適応のある初発多発性骨髄腫(症候性)】
CQ1 若年者症候性骨髄腫患者における移植を前提とした寛解導入療法では何が優れているか 移植を前提とした寛解導入療法としてボルテゾミブを含むレジメン,レナリドミドを含むレジメンが推奨される。 1
CQ2 若年者症候性骨髄腫患者に対する自家造血幹細胞移植併用療法は薬物療法単独と比べて生存期間を延長させるか 若年者症候性骨髄腫に対して自家造血幹細胞移植併用療法は薬物療法単独と比べて無増悪生存期間を延長させることから推奨される。 1
CQ3 若年者症候性骨髄腫患者に対して寛解導入後早期に自家造血幹細胞移植を行うことは再発時に移植を行うよりも勧められるか 若年者症候性骨髄腫患者に対して寛解導入後早期に自家造血幹細胞移植を行うことは再発時に移植を行う場合と比べて無症状・無治療かつ副作用のない期間を延長させることから推奨される。 1
CQ4 自家造血幹細胞移植における前処置として大量メルファラン療法は全身放射線照射を含む前処置と比べて優れているか 自家造血幹細胞移植における前処置として大量メルファラン療法が推奨される。 1
CQ5

若年者症候性骨髄腫患者に対して2 回連続自家造血幹細胞移植(タンデム自家移植)を行うことは1 回(シングル)移植と比べて生存期間を延長させるか

導入療法に新規薬剤を使用しないタンデム自家移植は,初回移植で最良部分奏効に到達しない症例において無イベント生存でシングル移植より優れるが,治療関連死亡は増加する。新規薬剤が登場した現在時点でのタンデム自家移植の有用性は明らかではない。 3(染色体高リスク症例では,2B)
CQ6 自家造血幹細胞移植における移植後の地固め・維持療法は生存期間を延長させるか 移植後骨髄腫に対する維持療法はサリドマイドによる無増悪生存期間,全生存期間の延長が期待できるが,長期投与による末梢神経障害の懸念がある。レナリドミドも無増悪生存期間,全生存期間を延長するが二次発がんの可能性が示唆されている。
移植後の地固め療法の生存期間の延長効果については,コンセンサスが得られていない。
地固め療法
2B
維持療法
2A(レナリドミド),2B(サリドマイド,ボルテゾミブ)
CQ7 若年者症候性骨髄腫患者に対するタンデム自家/ 同種(ミニ)移植はタンデム自家/ 自家移植と比べて生存期間を延長させるか 若年者症候性骨髄腫患者において,タンデム自家/同種(ミニ)移植はタンデム自家/自家移植と比べて優れているとの十分な根拠はなく研究的治療である。 3
【移植非適応の初発多発性骨髄腫(症候性)】
CQ1 移植非適応の多発性骨髄腫(症候性)に対する推奨治療レジメンは何か 新規薬剤を用いたD-MPB 療法(ダラツムマブ,メルファラン,プレドニゾロン,ボルテゾミブ)もしくは,D-Ld 療法(ダラツムマブ,レナリドミド,少量デキサメタゾン)が推奨される。患者の状態に応じてMPB 療法,MPT 療法(メルファラン,プレドニゾロン,サリドマイド),Ld 療法,BLd lite 療法(ボルテゾミブ,レナリドミド,少量デキサメタゾン),Bd 療法や従来のMP 療法を選択してもよい。 1
CQ2 高齢骨髄腫患者にデキサメタゾンを投与する場合は少量投与法が推奨されるか 少量デキサメタゾン療法は,大量デキサメタゾン療法に比べて副作用が少なく,生存期間も延長させるので推奨される。 1
【再発・難治性骨髄腫】
CQ1 再発・難治性骨髄腫患者に対する新規薬剤療法は大量デキサメタゾン療法に比べて生存期間を延長させるか 再発・難治性骨髄腫患者に対する新規薬剤療法は,大量デキサメタゾン療法と比較し,無増悪生存期間や生存期間を延長させるので推奨される。 1
CQ2 再発・難治性骨髄腫患者に対する新規薬剤を含む併用療法は新規薬剤の単剤療法に比べて高い効果が期待できるか(プロテアソーム阻害薬と免疫調節薬の併用および抗体療法を除く) 再発・難治例に対する新規薬剤を含む併用療法は,新規薬剤の単剤療法と比較し,より高い奏効割合をもたらすが,毒性の増強が認められることなどに留意すべきであろう。生存期間の延長効果については今後の検討を待つ必要がある。 2A
CQ3 再発・難治性骨髄腫患者に対する新規薬剤併用療法の推奨レジメンは何か 再発・難治性骨髄腫患者に対しては,新規プロテアソーム阻害薬とデキサメタゾンの併用療法,または,それに免疫調節薬(IMiDs)を加えた3 剤療法が推奨される。 1
CQ4 再発・難治性骨髄腫の治療に抗体療法は勧められるか 再発・難治性骨髄腫に対するエロツズマブ+レナリドミド+デキサメタゾン併用療法,ダラツムマブ+レナリドミド+デキサメタゾン併用療法,ダラツムマブ+ボルテゾミブ+デキサメタゾン療法,エロツズマブ+ポマリドミド+デキサメタゾン併用療法は,それぞれ2 剤療法と比較し無増悪生存期間を延長させるので推奨される。 1
CQ5 再発・難治性骨髄腫患者に対する自家造血幹細胞移植や同種造血幹細胞移植は生存期間を延長させるか 再発・難治性骨髄腫患者に対する自家造血幹細胞移植は適切な患者選択を行うことで生存期間の延長が期待できる。 2B
同種造血幹細胞移植においては無増悪生存期間の延長が認められるが,生存期間の延長は明らかでない。 3
【骨髄腫の合併症と治療関連毒性に対する支持療法】
CQ1 骨病変を有する患者に対して骨関連事象を減少させるための推奨治療は何か 骨病変を有する初発骨髄腫患者に対し治療開始時からのデノスマブあるいはゾレドロン酸の投与が推奨される。全生存割合への影響には両者の間で差はないが,デノスマブはゾレドロン酸に比べ無進行生存期間を延長させた。デノスマブは腎毒性が低いため,腎障害例ではデノスマブの投与がより推奨される。 1
CQ2 骨吸収抑制薬を投与する患者に対する口腔内予防処置は顎骨壊死の発生を抑制するか 静脈注射用ビスホスホネートやデノスマブなどの骨吸収抑制薬の投与前に歯科医師による口腔内のチェックを受け必要な歯科処置をまず行い,投与開始後は口腔内ケアを行うとともに侵襲的歯科処置を避け,担当医の許可なく歯科治療を受けないようにすることにより,骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)発生が抑制される。 2A
CQ3 プロテアソーム阻害薬投与中の患者に対するアシクロビル内服は帯状疱疹の発生率を減少させるか プロテアソーム阻害薬投与中の患者に対するアシクロビルの予防内服は帯状疱疹の発生率を減少させるため推奨される。 2A
CQ4 免疫調節薬投与患者に対するアスピリンの内服は深部静脈血栓症の発生を抑制するか サリドマイド,レナリドミドやポマリドミドを含む併用療法では,低用量アスピリン(81〜100 mg/日)の予防内服が深部静脈血栓症(DVT)発症の予防に推奨される。既存のDVT 発症の危険因子を有する患者ではより厳格な管理が必要である。 2A

2.多発性骨髄腫の類縁疾患

No. クリニカルクエスチョン 推奨 グレード
【孤立性形質細胞腫】
総論
CQ1 孤立性形質細胞腫において放射線療法による初期治療後の補助化学療法は多発性骨髄腫への進展を遅らせるか 孤立性形質細胞腫に対し局所放射線療法に加え,多剤併用化学療法の追加による多発性骨髄腫への進展抑制効果は示されていない。逆に二次性白血病などのリスクが高まることが懸念され,放射線療法による初期治療後の多剤併用化学療法による補助化学療法は推奨されない。 2B
【AL アミロイドーシス】
総論
CQ1 全身性アミロイドーシスに対し自家造血幹細胞移植併用大量メルファラン療法を行うことは行わない場合と比べて予後を改善させるか 自家造血幹細胞移植は,適応を慎重に考慮するとともにリスクに応じてメルファランを減量することにより,予後を改善させる可能性がある。 2B
CQ2 移植適応のない全身性アミロイドーシス患者にはどのような治療が推奨されるか MD療法(メルファラン,デキサメタゾン)が推奨される。 2B
【POEMS 症候群】
総論
CQ1 移植非適応患者や再発・難治患者にはどのような治療が推奨されるか メルファラン+デキサメタゾン療法や,サリドマイド,レナリドミド,ボルテゾミブ等の新規薬剤とデキサメタゾン併用療法が試みられる。 2B
CQ2 POEMS 症候群に対する自家造血幹細胞移植を併用した大量メルファラン療法は予後を改善するか 自家造血幹細胞移植を併用した大量メルファラン療法は予後を改善させ,末梢神経障害によるADL 低下も改善させる。移植適応例では,CQ3 に示すように,新規薬剤等による寛解導入療法を行い,全身状態の改善・血清VEGF 値の減少を待って移植を行うことが望ましい。 2B
CQ3 移植適応患者に対して推奨される初回寛解導入レジメンは何か サリドマイド+デキサメタゾン療法が推奨される。サリドマイド不応例については,短期間のレナリドミド+デキサメタゾン療法やボルテゾミブによる治療を考慮する。 2B