本ガイドラインについて(2018 年版)

1.はじめに

臨床診療ガイドラインの目的は,肺癌に関してEBM の手法およびコンセンサスに基づいた効果的・効率的な診断・治療法を体系化し,効果的な保健医療を確立し,ひいては豊かで活力ある長寿社会を創造するための一翼を担うことである。本ガイドラインの対象は,肺癌診療に携わる医師としたため,一般の方々にとっては専門的すぎる内容もみられるが,肺癌診療医とともに御覧になっていただきたい。

本ガイドラインは,日本肺癌学会ガイドライン検討委員会と各小委員会の多くの委員ならびに協力者(名簿)による討論のうえ,理事会の議を経て承認されたものである。

診療ガイドラインは,あくまでも診断や治療に対する「判断指針」であり,強制力をもつものではない。ガイドライン作成の基になったエビデンスはある特定の症例集団を基にした臨床試験の結果であり,日常の診療においてはこれらのデータがそのまま実践に応用できるとも限らないことを十分に認識すべきである。一方,次々に出てくる臨床試験の結果を踏まえてガイドラインの内容を逐次変更していくことは現実的に難しい。ガイドラインの情報を踏まえたうえで,個々のレベルで新しい情報を整理することが勧められる。また,提示された診療の推奨度は一つの大規模臨床試験の結果のみで左右されるものではなく,複数の要因を考慮しながら決定されるものであると理解していただきたい。

2.GRADE に基づく新推奨度について

2018 年版の肺癌診療ガイドライン改訂では,一昨年版の序文で宣言していたとおり,2003 年発刊の第1 版から踏襲してきた策定方法を一歩進め,世界標準のガイドライン作成手法であるGRADE アプローチを全領域において取り入れた。

従来どおりの樹形図に基づく標記は残しながら,記載については,各領域のクリニカルクエスチョン(CQ)毎にシステマティックレビュー(SR)を行い,これらに対する推奨度を策定している。ここでGRADE アプローチによる推奨度の記載について,従来との違いを簡単に述べておく。

GRADE の表記は数字(1 か2)+英語(A からD)の組み合わせからなるが,最初に決定されるのは数字の末尾についている英語表記で,これはエビデンスの強さを示す。エビデンスの評価は従来の手法では各文献に対して行ってきたが,GRADE ではCQ に対するエビデンス総体に対して評価する(表1)。エビデンスの解釈にあたっては2 名の生物統計学者に批判的吟味を依頼し,近年様々に報告されているメタ解析の質の評価やサブセット解析の意義などについて検討を行っている。

表1 エビデンス総体のエビデンスの強さ
表1 エビデンス総体のエビデンスの強さ

次に前方の数字が決定されるが,これが推奨度を示す。GRADE アプローチの推奨度は,まったくの中立地点を起点として「行う・行わない」という2 つの方向性を「推奨する(=1)・提案する(=2)」という2 つの強さで示す(図1)。従来の推奨度ではA を最高評価としB・C(1・2)・D と連なる5 段階評価であったが,① GRADE では1 と2 の2 段階になること,②数字と英語の関係性が独立していることに注意が必要である。つまり,推奨度が1 であれば1A でも1B でも(エビデンスの強さに差はあれ)同じように「推奨される」のである。なお,そうは言っても「行う・行わない」の2 元論では表現しづらい命題もあり,これについては「行うよう勧めるだけの根拠が明確でない」としている。推奨度の決定については,エビデンスの強さを基にしつつ,臨床的有用性の大きさ・その臨床適応性・有害事象なども踏まえて委員会で議論を尽くし,最終的に60%以上の賛同を得られた結果を記載している。また,医師のみならず,薬剤師2 名,看護師2 名,患者団体代表者2名を加えており,多職種による推奨度の評価を行った。

図1 GRADE に基づいた推奨度
図1 GRADE に基づいた推奨度

GRADE アプローチを採用した収穫として,従来の課題であった稀少な遺伝子変異/転座陽性例に対する分子標的治療薬の推奨度決定が挙げられる。一方で,エビデンスの質が低い場合に「臨床的有用性」だけが独り歩きする懸念もある。前述した多職種でのアプローチに加え,外科療法・放射線療法を含めた判定が必要な場合には外科療法小委員会・放射線治療及び集学的治療小委員会と合同で会議を行った。

3.目的・対象

よりよい肺癌医療を患者およびその家族に届けるため,それに携わる医師をはじめ,薬剤師・看護師などのすべての医療者に利用されることを目的に改訂した。患者の治療法を決定するにあたって,本ガイドラインの推奨度のみならず,推奨度が決定された過程を患者に紹介したうえで,よりよい治療が提供できる,コミュニケーション・ツールになることを期待する。

4.使用上の注意

本ガイドラインは,あくまでも標準的治療を示した参考資料である。個々の患者の病態や医療施設の体制は異なるため,治療方針は個々の患者に応じて,医療者と患者の話し合いで決定されるものである。本ガイドラインが医療を強制したり医療者の裁量権を制限したりするものではない。

5.資金源・利益相反(COI)について

ガイドライン作成のための費用はすべて日本肺癌学会が負担した。ガイドライン検討委員会の委員は会議参加のための交通費,宿泊費の支給は受けたが,文献入手に関わる費用,原稿作成,会議参加に対しての報酬は受け取らなかった。

また,すべての委員が,利益相反管理委員会においてガイドライン検討委員就任の適格性について審査を受け承認され,日本肺癌学会のCOI 規定に基づき申告を行った。

6.一部の委員が助成を受けている企業名一覧(34 社)
アステラス製薬株式会社 アストラゼネカ株式会社
アッヴィ合同会社 株式会社EPS アソシエイト
エーザイ株式会社 AC メディカル株式会社
MSD 株式会社 小野薬品工業株式会社
杏林製薬株式会社 クインタイルズ・トランスナショナル・ジャパン株式会社
グラクソ・スミスクライン株式会社 コニカミノルタ株式会社
サクラファインテックジャパン株式会社 沢井製薬株式会社
第一三共株式会社 大鵬薬品工業株式会社
武田薬品工業株式会社 中外製薬株式会社
東芝メディカルシステムズ株式会社 日本イーライリリー株式会社
日本クリニカルオペレーション株式会社 日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社
日本メジフィジックス株式会社 ノバルティス・ファーマ株式会社
バイエル薬品株式会社 パレクセル・インターナショナル株式会社
久光製薬株式会社 ファイザー株式会社
富士製薬株式会社 富士フイルム富山化学株式会社
ブリストル・マイヤーズスクイブ株式会社 メルクセローノ株式会社
ヤクルト本社 株式会社リニカル