診療ガイドライン(第4章・第5章)

第4章 内科・集学的治療 ─ Clinical Question・推奨・解説─

まえがき

膵・消化管神経内分泌腫瘍に対する治療法は,神経内分泌腫瘍(NET)と神経内分泌癌(NEC)で異なり,NET は膵原発と消化管原発で治療方針が異なる(表1)。このNET に対して,切除が可能であれば切除を,消化管NET に対しては,内視鏡治療も考慮される。肝転移に対して,ラジオ波焼灼術や肝動脈化学塞栓術なども選択される。再発予防の補助化学療法は,NET に対して確立していない。また,ホルモン症状を有する機能性NET に対しては,症状をコントロールする目的でソマトスタチンアナログとして,オクトレオチドやランレオチドが用いられる。腫瘍制御を目的とした場合に,ソマトスタチンアナログ,分子標的治療薬,細胞障害性抗がん剤が用いられる。ソマトスタチンアナログとして,膵NET にはランレオチド,消化管NET にはオクトレオチドとランレオチドが保険適用となっている。分子標的治療薬として,膵NET にはエベロリムスとスニチニブ,消化管NET にはエベロリムスが保険適用になっている。細胞障害性抗がん剤として,膵NET,消化管NET の両者に対して,ストレプトゾシンが保険適用となっており,欧米ではカペシタビンとテモゾロミドの併用療法も期待されている。放射線治療は,骨転移,脳転移に対する緩和目的にて行われることがある。また,放射性核種標識ペプチド治療(peptide receptor radionuclide therapy;PRRT)が欧米ではしばしば使用されている。このNET の治療方針の決定においては,転移巣の再生検も考慮する(病理 CQ1 参照)。また,これらの治療をどのように使い分けるかは明らかにされておらず,今後の課題である。

また,NEC に対しては,切除可能であれば切除が行われるが,その意義は明らかになっていない。また,切除が行われた場合は,術後の再発予防の目的にて,補助化学療法が検討される。NEC において,肝転移に対する切除は推奨されていない。切除不能例に対してはプラチナ系薬剤を含む併用療法として,エトポシド+シスプラチン(EP),イリノテカン+シスプラチン(IP),エトポシド+カルボプラチンなどが挙げられる。これらの治療に抵抗性の場合に有効な薬物療法は確立していない。

膵・消化管NET は希少疾患であるが,切除やラジオ波焼灼術,肝動脈化学塞栓術などの有効な局所療法もあり,これまでに数々のランダム化比較試験が行われ,それぞれの薬剤の有用性が示され,承認されている薬剤も多数ある。実際の診療においては,これらの治療を駆使した集学的な治療が行われている。

表1 膵・消化管NEN に対する治療法

消化管NET に対する内視鏡的切除の適応および推奨される手技は何か?

CQ1-1
胃NET に対する内視鏡的切除の適応および推奨される手技は何か?

Rindi 分類Ⅰ型で腫瘍径1 cm 未満,かつ深達度が粘膜下層までにとどまる胃NET は経過観察または内視鏡的切除術を推奨する(グレード B,合意率 100%)。Rindi 分類Ⅱ型で腫瘍径1 cm 未満,かつ深達度が粘膜下層までにとどまる胃NET は内視鏡的切除を推奨する(グレード C1,合意率 100%)。Rindi 分類Ⅲ型胃NET は基本的に内視鏡的切除の適応とはならない(グレード C2,合意率 100%)。

胃NET に対する内視鏡的切除術として推奨されるのは,吸引法,2 チャンネル法などの内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)である(グレード B,合意率 100%)。

解説

胃NET の治療に関しては,エビデンスが少なく,まだ十分なコンセンサスが得られていない。Rindi 分類Ⅰ型とⅡ型は悪性度が低く内視鏡的切除の適応となり得るが,Ⅲ型は悪性度が高く基本的に適応とならない1)。一般的にⅠ型で腫瘍径1 cm 未満,個数が5 個以下,深達度sm 以浅であれば,内視鏡的切除術の適応とされてきたが2),近年,多くのⅠ型胃NET は良性の転帰をたどることが明らかになり,経過観察でよいとする意見も少なくない3, 4)。現時点では,1 cm 未満,粘膜下層以浅のⅠ型胃NET に関して,経過観察または内視鏡的切除の方針が選択される。多発例で内視鏡的切除が困難な場合,幽門洞切除術による高ガストリン血症の是正も治療の選択肢となり得る。1 cm 以上2 cm 未満のⅠ型胃NET の内視鏡的切除の適応については十分なエビデンスがない。Ⅱ型胃NET の内視鏡的切除の適応はⅠ型に準ずるが,Ⅱ型はⅠ型より悪性度が高いとする報告もある。腫瘍径の小さいⅡ型胃NET に対してⅠ型同様に内視鏡的切除とともに経過観察も推奨されている欧米のガイドラインがあるが,多数例での検討はなく今後の課題である。近年,Ⅲ型胃NET に対する内視鏡的切除の報告があるが,まだ十分なエビデンスがなく,基本的には外科的手術を推奨する5, 6)

胃NET において粘膜内病変は少なく,内視鏡的治療の対象となる病変の多くは深達度sm であるため,切除断端を陰性とする目的で,吸引法7)や2 チャンネル法8)によるEMR が用いられ有用である。近年,ESD の有用性も報告されている9)

文献

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COLUMN

❶Rindi 分類

Rindi ら1)は,胃NET を基礎疾患,高ガストリン血症の有無から以下の3 型に分類し,腫瘍の悪性度や臨床経過とよく相関することを示した。


Ⅰ型は萎縮性胃炎(自己免疫性胃炎およびヘリコバクター・ピロリ胃炎),Ⅱ型はZollinger-Ellison 症候群を基礎疾患とするもので,いずれも高ガストリン血症を伴う。胃底腺のECL 細胞がその増殖因子であるガストリン刺激の増強により腫瘍化したもので,初期にはガストリンに反応性の状態が存在すると考えられる。胃底腺領域に1 cm 以下で多発することが多く,悪性度は低いものが多い。特にⅠ型は通常,良性の経過を示す。

Ⅲ型は基礎疾患を伴わない例であり,高ガストリン血症を伴わない。通常,単発であり,発見時1 cm 以上であることがしばしばである。胃体部のみではなく前庭部にも発生する。悪性度は高く,リンパ節転移,肝転移をきたす確率が高い。

文献

1)
Rindi G, Luinetti O, Cornaggia M, et al. Three subtypes of gastric argyrophil carcinoid and the gastric neuroendocrine carcinoma: a clinicopathologic study. Gastroenterology. 1993; 104(4): 994-1006.

消化管NET に対する内視鏡的切除の適応および推奨される手技は何か?

CQ1-2
十二指腸NET に対する内視鏡的切除の適応および推奨される手技は何か?

十二指腸NET に対する内視鏡的切除術の有効性は確立していない。内視鏡的切除術としては内視鏡的粘膜切除術(EMR)が推奨される(グレード C1,合意率 100%)。十二指腸ガストリノーマに対しては内視鏡的治療は推奨されない(グレード D,合意率 92%)。

解説

十二指腸NET の内視鏡的治療に関しては,腫瘍径1 cm 未満,深達度sm 以浅の腫瘍は転移率が比較的低いため1),内視鏡的切除術が施行され再発がなかったとの報告もあるが2-5),エビデンスが少ない。腫瘍径の小さい十二指腸NET に対して内視鏡的切除が推奨されている欧米のガイドラインがあるが,多数例での検討はなく今後の課題である。

内視鏡的切除を行う場合は1 cm 未満の腫瘍に対してEMR を考慮してもよい2-5)。十二指腸は内視鏡的切除術による偶発症のリスクが高いため,手技に習熟した施設で施行されることが望ましい。内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)に関しては,まだ報告症例が少なく十分なエビデンスが得られていない5)

十二指腸ガストリノーマのリンパ節転移率は60%あり,開腹手術によるリンパ節郭清が必要である6)

文献

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消化管NET に対する内視鏡的切除の適応および推奨される手技は何か?

CQ1-3
直腸・結腸NET に対する内視鏡的切除の適応および推奨される手技は何か?

腫瘍径1 cm 未満,深達度が粘膜下層までにとどまる直腸NET は内視鏡的切除が推奨される(グレード B,合意率 100%)。

内視鏡的切除術として,吸引法,2 チャンネル法などの内視鏡的粘膜切除術(EMR),内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD),経肛門的内視鏡下マイクロサージャリー(TEM)が推奨される(グレード B,合意率 100%)。

結腸NET の内視鏡的切除は直腸NET に準じる(グレード C1,合意率 100%)。

解説

悪性度の指標として腫瘍径,固有筋層への浸潤,中心陥凹・潰瘍形成,脈管侵襲,核分裂像,Ki-67 指数高値などが挙げられる1-3)。腫瘍径1 cm 未満で深達度が粘膜下層までにとどまる腫瘍は転移率が低く,EUS やCT などの画像診断でリンパ節転移,遠隔転移の所見を認めない場合,通常,内視鏡的切除の適応とされる4, 5)。切除標本の病理組織学的診断で脈管侵襲,多数の核分裂像,Ki-67 指数高値,高いグレード(G2)などを認める場合は,転移のリスクが高く2, 3),追加治療の検討を行う。近年,内視鏡的切除標本の病理組織学的診断でD2-40 やElastica van Gieson(EVG)などの免疫染色・特殊染色を行うことにより22~57%と高い脈管侵襲陽性率が認められるが,これらの症例の転移再発はほとんど認められなかったとする複数の後ろ向き研究が報告された6-9)。一方,手術標本を含む検討で脈管侵襲は転移の危険因子として報告されており10, 11),また,手術症例に関するメタアナリシスでも腫瘍径,腫瘍深達度,中心陥凹とともに静脈侵襲がリンパ節転移の危険因子として報告されている12)。腫瘍径1 cm 未満で深達度が粘膜下層までにとどまる直腸NETの内視鏡的切除例で脈管侵襲陽性となった場合,追加手術は行わずに経過観察できる可能性が残されるが,現時点では十分なエビデンスが得られているとは言い難い。一方,手術によるQOL 低下の可能性には十分に留意する必要がある。追加切除の根拠となる核分裂細胞数,Ki-67 指数の基準値に関してはコンセンサスがない。

消化管NET は発見時に粘膜内にとどまっていることは少なく,内視鏡的切除の適応となる病変の多くは深達度sm である。通常の内視鏡的ポリペクトミーやEMR では切除断端が陽性となる可能性が高い。そのためEMR でも吸引法(食道静脈瘤治療用ligation device を用いたESMR-L や,内視鏡先端に装着したキャップ内に吸引するEMR-C など)や2 チャンネル法など,切除法に工夫がなされている4)。またESD の成績も良好で,どちらも通常のポリペクトミーやEMR と比べて有意に高い切除断端陰性率が報告されている13-16)。近年,複数のメタアナリシスが報告されているが,ESD やキャップ法2 チャンネル法などのEMR(modified EMR)は局注とスネアリングのみのEMR(conventional EMR)と比較して有意に完全切除率が高く,また,ESD とmodified EMR 間では完全切除率に差がないとする報告が多い17, 18)

TEM も直腸NET の局所切除法として安全で低侵襲な治療法である。EMR 後の遺残症例を含めて,高い切除断端陰性率が報告されている19)

結腸NET に対する内視鏡的切除の適応および手技に関してはエビデンスが十分でなく,直腸NET に準じて行われることが多い。

文献

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CQ2
膵・消化管NEN の内分泌症状に対して推奨される薬物療法は何か?

[アルゴリズム1516]

膵・消化管NEN の内分泌症状の治療にはソマトスタチンアナログなどの薬物療法が推奨される(グレード A,合意率 100%)。

解説

機能性膵消化管NEN の多くにソマトスタチン受容体が発現し,その場合ソマトスタチンアナログが過剰なホルモン分泌を抑制することで内分泌症状を改善させる1, 2)。ガストリノーマ,VIP オーマ,グルカゴノーマ,カルチノイド症候群で有用性が高い。

ガストリノーマによる消化性潰瘍,下痢に対してソマトスタチンアナログおよびPPI が推奨される3)

VIP オーマによる大量の下痢による脱水症状に対して,大量の電解質輸液が推奨される4)。多くの場合,ソマトスタチンアナログとの併用が必要である。

インスリノーマによる急性期低血糖に対して高濃度のブドウ糖補充が推奨される。低血糖発作の頻度の抑制にジアゾキシド5)やエベロリムス6)が有効な場合がある。ソマトスタチンアナログによるインスリン抑制が不十分な場合に,グルカゴンの抑制によって低血糖発作が悪化することがある7)

グルカゴノーマによる遊走性壊死性紅斑や倦怠感などの症状に対して,アミノ酸輸液と脂肪製剤の適切な輸液が推奨される8)。ソマトスタチンアナログの併用も有用である。

カルチノイド症候群の症状コントロールに対して,ランレオチドが有用であることがランダム化比較試験において示されており,推奨される9)。下痢に対してはロペラミドなどの止痢薬が推奨される。カルチノイドクリーゼが,手術,麻酔,生検,抗腫瘍薬物療法,腫瘍の触診などによって誘発されることがあるが,その場合は血漿製剤の輸注とソマトスタチンアナログの使用が推奨される10)。手術,麻酔,生検などが予定されている場合は,術前にソマトスタチンアナログの予防的投与が推奨される。

文献

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CQ3
同時性遠隔転移を伴う膵・消化管NEN に行われる治療法は何か?

[アルゴリズム16]

同時性遠隔転移を伴う膵・消化管NEN に対しては集学的治療を行うことが推奨される(グレード B,合意率 100%)。

治癒切除可能病変に対しては切除を中心とした集学的治療を行うことを推奨する(術前・術後補助療法については内科・集学的治療 CQ8 を参照)(グレード B,合意率 100%)。

治癒切除不能病変に対しては各種モダリティを駆使した集学的治療を行うことを推奨する(内科・集学的治療 CQ5-1, 5-2 参照)(グレード B,合意率 100%)。

膵・消化管NEC の手術適応は明らかでない(推奨なし,合意率 100%)。薬物療法が推奨される(グレード B,合意率 100%)。

解説

1.膵・消化管NET

治癒切除不能症例では,抗腫瘍薬を中心とした集学的治療の適応である。これまで切除不能膵・消化管NEN に対する有効性が示された抗腫瘍薬は,オクトレオチド(消化管,膵は症状緩和のみ),ランレオチド(膵・消化管),エベロリムス(膵・消化管),スニチニブ(膵),ストレプトゾシン(膵・消化管)である(内科・集学的治療 CQ5-1, 5-2 参照)。また,肝転移巣に対する局所療法として肝動脈化学塞栓術(transcatheter arterial chemoembolization;TACE)や腫瘍焼灼術の有用性が報告されている(内科・集学的治療 CQ7 参照)。骨転移には症状緩和を目的とした放射線治療が行われる(内科・集学的治療 CQ9 参照)。

切除可能な遠隔転移を有する膵・消化管NET は,原発巣ならびに遠隔転移巣の手術適応があり,特に機能性腫瘍ではホルモン症状の改善のみならず,生命予後の延長が期待できる1, 2)。米国のSEER(Surveillance Epidemiology and End Results)レジストリの大規模データで,領域リンパ節転移もしくは周囲臓器への浸潤を伴う症例や遠隔転移を有する症例に対する外科治療は予後を改善したと報告されている3)。ただし,切除のみで根治が得られる症例は少なく,集学的治療を必要とすることが多い。

肝転移を有する膵・消化管NET は切除不能な肝外病変がない場合に肝切除の適応となる。切除可能な肝転移を有する膵NET は,領域リンパ節郭清を伴う手術を施行した場合に,65~80%という良好な5 年生存率が報告されている4-8)。また,肝切除後3 年以内の再発はリンパ節転移が多い9)。以上より,肝転移を伴う膵NET は,リンパ節郭清を伴う定型手術(膵頭十二指腸切除術あるいは膵体尾部脾切除術)が推奨される。ただし,肝膵同時切除は,適応を慎重に判断する10)

転移巣が肝臓に限局している場合,90%以上の減量切除が生命予後とQOL を改善するとの報告がみられる。最近では70%以上の腫瘍減量により切除後の他治療の奏効率が改善したとする報告がある。また,切除不能な肝転移を伴う症例に対する原発巣のみの切除の意義は明らかではない11-15)。切除不能NET 肝転移に対する肝移植は,欧米では適応を厳格化することで,良好な予後が報告されているが,本邦では保険適用となっていない16, 17)

治癒切除不能の症例でも,①ホルモン症状の緩和が期待できる場合,②消化管閉塞症状の解除が期待できる場合,③生命予後およびQOL の改善が期待できる場合,には手術が許容される。

一方,消化管NET においては,短腸症候群を回避するように腸管切除を最小限とすることが推奨される18)

機能性NET のうち,ACTH オーマは経過が早く,予後不良とされている。切除不能ACTH オーマに伴う異所性クッシング症候群に対しては,高コルチゾール血症のコントロールのための副腎酵素阻害薬としてメチラポン,トリロスタン,ミトタンがある。トリロスタンとミトタンの効果発現は遅いため,メチラポンで治療を開始することが勧められる。治療は,メチラポンなどによってコルチゾール合成を十分に抑制したうえで,不足する生理量の糖質ステロイドをヒドロコルチゾンやプレドニゾロンで補充するというblock and replace 療法が安全である。ミトタンは副腎皮質組織の不可逆性の破壊を生じて作用する薬剤であるので,このことに留意して用いる。不応例に対しては両側副腎摘出が考慮される。ガストリノーマに対しては,かつては腫瘍切除および胃全摘術が行われていたが,H2 受容体拮抗薬やPPI などの強力な制酸剤の登場により,現在では胃全摘の適応症例はほとんどないと考えられる。

2.膵・消化管NEC

転移を伴う低分化型NEC が切除の対象となることは稀で,抗腫瘍薬としてプラチナ系薬剤を含む併用療法が選択されることが多い(内科・集学的治療 CQ6 参照)。ただし,症例を選んで切除を行った症例の予後が良かったとの報告もある19)

文献

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CQ4
膵・消化管NEN の再発病巣に行われる治療法は何か?

[アルゴリズム16]

治癒切除可能病変に対しては切除を中心とした集学的治療を行うことを推奨する(術前・術後補助療法については内科・集学的治療 CQ8 を参照)(グレード B,合意率 100%)。

治癒切除不能病変に対しては各種モダリティを駆使した集学的治療を行うことを推奨する(内科・集学的治療 CQ5-1, 5-2 参照)(グレード B,合意率 100%)。

膵・消化管NEC の手術適応は明らかでない(推奨なし,合意率 100%)。薬物療法が推奨される(グレード B,合意率 100%)。

解説

1.膵・消化管NET

同時性転移症例と同じく,集学的治療が推奨される(内科・集学的治療 CQ3 参照)。

膵・消化管NET の肝・肺・腹膜転移,腹腔内リンパ節転移に対する手術については,同時性転移を有する症例と同様に腫瘍遺残のない手術が可能である場合に適応となる1)。局所再発を含む再発病変に対して積極的に手術を行い,有意差はないが生存期間と無病生存期間は再手術を施行した群で良好な傾向を認めたとの報告2)があることから,画像上,切除可能な局所再発に対する切除術は許容される。

内分泌症状を有する腫瘍に対し,臨床症状を改善させるには,90%以上の減量手術が必要である3-7)。また,腹膜播種や原発巣による諸症状(臓器の圧排,狭窄,閉塞)に対し,消化管バイパス,人工肛門造設 , 胃瘻造設が有用であり8, 9),現在の日常診療では,内視鏡的消化管ステント留置術や内視鏡的胆道ステント留置術なども行われている。

2.膵・消化管NEC

膵・消化管NEC の再発病巣が切除の対象となることは稀である。一般に,抗腫瘍薬としてプラチナ系薬剤を含む併用療法が使用される(内科・集学的治療 CQ6 参照)。

文献

1)
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膵・消化管NET に対して推奨される抗腫瘍薬は何か?

CQ5-1
膵NET に対して推奨される抗腫瘍薬は何か?

[アルゴリズム1617]

ソマトスタチンアナログ(ランレオチド),エベロリムス,スニチニブの使用が推奨される(グレード A,合意率 100%)。ストレプトゾシンを用いた化学療法も選択肢の一つである(グレード B,合意率 100%)。カペシタビン・テモゾロミド併用療法は有用な治療法の一つであるが,本邦では保険未承認である(推奨なし,合意率 100%)。

解説

膵NET の場合,転移を有していても数年の経過において腫瘍増大がみられない症例が含まれるため,抗腫瘍効果を目指した全身薬物治療は,腫瘍増大が認められる例などが適応となる。

膵NET に対する腫瘍制御を目的とした場合の薬物療法としては,ソマトスタチンアナログ(ランレオチド),分子標的治療薬(エベロリムス・スニチニブ),細胞障害性抗がん剤(ストレプトゾシン)が挙げられる。

薬物療法の選択においては,腫瘍増殖能(Ki-67 指数など),腫瘍量,転移の有無,ソマトスタチン受容体発現の有無,合併症 /併存症の有無,全身状態(PS など)を考慮して総合的に判断する必要がある。また,各薬剤については,添付文書に記載のある既知の有害事象について,十分に患者への説明を行う。

1.ランレオチド

ソマトスタチンアナログであるランレオチドはソマトスタチン受容体(SSTR)2 と5 に対して高い親和性を有する合成ペプチドであり,腫瘍細胞に対しては直接的作用として,SSTR を介して腫瘍細胞のアポトーシス誘導や,腫瘍細胞のインスリン様成長因子(IGF-1)をはじめとした増殖因子の合成および産生を阻害するほか,間接的作用として,血管新生の阻害によって腫瘍増殖を抑制する1)。切除不能もしくは転移性消化管・膵NET(Ki-67 指数 10%未満の中~高分化型NET と診断され,SRS にてSSTR の発現が認められる患者)に対するランレオチドの有効性を検討した第Ⅲ相ランダム化比較試験(CLARINET 試験)2)において,主要評価項目である無増悪生存期間の有意な延長が示された。その結果,ランレオチド群:中央値に達せず,プラセボ群:18.0 カ月,ハザード比:0.47[95%信頼区間(CI):0.30-0.73],P<0.001)であったが,その後の追跡調査においてランレオチド群の無増悪生存期間中央値は32.8 カ月と報告された3)。膵NET に対するサブグループ解析においてもハザード比:0.58[95% CI:0.32-1.04],P=0.063 と有意差は認めないものの,抗腫瘍効果を認める傾向を示した。その後,国内での第Ⅱ相試験4)を経て,2017 年7 月に消化管・膵NET に対して本邦で保険承認された。

2.エベロリムス

哺乳類ラパマイシン標的蛋白(mammalian target of rapamycin;mTOR)は増殖,成長,血管新生,免疫応答,栄養応答に関与する重要な分子である。エベロリムスはmTOR 経路の阻害により腫瘍細胞の増殖を抑制し,抗腫瘍効果を発揮する。エベロリムスは膵NET(治療開始前12 カ月以内に病勢進行が確認された低悪性度 /中悪性度の患者)に対する第Ⅲ相ランダム化比較試験(RADIANT-3)5)において,主要評価項目である無増悪生存期間の有意な延長が示された(エベロリムス群11.0 カ月,プラセボ群4.6 カ月,ハザード比:0.35[95% CI:0.27-0.45],P<0.001)。生存期間中央値は44.0 カ月(プラセボ群37.7 カ月,ハザード比:0.94[95% CI:0.73-1.20])で有意差はないが6),これはプラセボ群の 84.7%にクロスオーバーがあったことが理由と考えられる。2011 年12 月に膵NET に対して本邦で保険承認された。

3.スニチニブ

スニチニブは,受容体チロシンキナーゼ(RTK)のシグナル伝達経路を標的として遮断する,マルチターゲット型RTK 阻害剤である。膵NET に対しては,血管内皮増殖因子受容体(vascular endothelial growth factor receptor;VEGFR)と血小板由来増殖因子受容体(platelet-derived growth factor receptor;PDGFR)のATP 部位を競合的に阻害し,下流のPI3K/Akt 経路へのシグナル伝達を抑制することで抗腫瘍効果を発揮する。スニチニブは第Ⅲ相ランダム化比較試験(SUN1111)7)において,主要評価項目である無増悪生存期間の有意な延長が示された(スニチニブ群:11.4 カ月,プラセボ群:5.5 カ月,ハザード比:0.42[95% CI:0.26-0.66], P<0.001)。生存期間中央値は38.6 カ月(プラセボ群29.1 カ月,ハザード比:0.73[95% CI:0.50-1.06],P=0.09)で有意差は認められなかったが,エベロリムス同様,プラセボ群の69%にクロスオーバーがあったことが理由と考えられる。本邦でも第Ⅱ相試験が行われ8),2012 年8 月に膵NET に対して本邦で保険承認された。

4.ストレプトゾシン

細胞障害性抗がん剤であるストレプトゾシンは細胞分裂の初期,細胞周期の特にG2/M 期に影響を与えて細胞死を与えるアルキル化剤である。諸外国での膵NET に対するストレプトゾシン使用の歴史は古く,1992 年にストレプトゾシン+5-FU 群とストレプトゾシン+ドキソルビシン群とクロロゾトシン単剤群のランダム化比較試験9)が報告されている。ストレプトゾシン+ドキソルビシン群で69%の奏効率が得られ,生存期間も有意に良好であったことが示された。しかし,抗腫瘍評価の妥当性や各群の登録症例数の少なさなどの点から適切にデザインされた比較試験とは言い難い。それでも,細胞障害性抗がん剤は分子標的治療薬に比べておおよそ奏効率が30~40%と比較的高いことから,腫瘍量が多い患者,有症状の患者における選択肢としてNCCN のガイドラインやENETS のガイドラインなどにおいて推奨されている。

本邦ではストレプトゾシン単剤(weekly 投与,daily 投与)の第Ⅰ/Ⅱ相試験が行われ,有効性・安全性が評価され,2015 年2 月に本邦でも使用可能となった。しかし,海外での報告のほとんどは,ストレプトゾシンは5-FU やドキソルビシンなどの併用レジメンであり,単剤の報告は極めて少ない。最近の本邦からの後ろ向きの検討では単剤と併用では有効性に差は認めず,Ki-67>5%以上で有効であることが報告された10)

また,カペシタビン・テモゾロミド併用療法(CAPTEM 療法)11)は多くは後ろ向きの検討であるが20~70%と高い奏効率を示し,かつ,有害事象が比較的軽度であることから注目されている治療法である(保険適用外)(COLUMN❷参照)。

文献

1)
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11)
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COLUMN

❷カペシタビン+テモゾロミド療法

近年,膵NET を対象としたカペシタビン+テモゾロミド療法(CAPTEM)の高い奏効割合が海外で報告されている1-4)。これらの結果をもとに,NCCN やENETS のガイドラインにおいても,ストレプトゾシンやカペシタビン+テモゾロミドなどの細胞障害性抗がん剤は,腫瘍量が多い患者,有症状の患者における選択肢として推奨されている。

近年では,テモゾロミドの臨床試験もいくつか行われており,米国ECOG で行われた進行性で遠隔転移を有する膵NET(NET G1/2)に対するテモゾロミド単独とテモゾロミド+カペシタビン併用療法のランダム化第Ⅱ相試験(E2211)が,2018 年のASCO で報告された。主要評価項目であるPFS はカペシタビン+テモゾロミド群が22.7 カ月とテモゾロミド単独の14.4 カ月より有意な延長を示した(ハザード比:0.58[95% CI:0.36-0.93],P=0.023)。この試験によって,テモゾロミドに対するカペシタビンの上乗せ効果が証明された5)

CAPTEM 療法は有用な治療法であるが,本邦では,テモゾロミド,カペシタビンともに膵NET に対する適応は承認されていない。

文献

1)
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Fine RL, Gulati AP, Krantz BA, et al. Capecitabine and temozolomide (CAPTEM) for metastatic, well-differentiated neuroendocrine cancers: The Pancreas Center at Columbia University experience. Cancer Chemother Pharmacol. 2013; 71(3): 663-670.
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膵・消化管NET に対して推奨される抗腫瘍薬は何か?

CQ5-2
消化管NET に対して推奨される抗腫瘍薬は何か?

[アルゴリズム1617]

ソマトスタチンアナログ(オクトレオチドLAR・ランレオチド),エベロリムスの使用が推奨される(グレード A,合意率 100%)。上記の薬剤が適応とならない場合には,ストレプトゾシンが選択肢となる(グレード C1,合意率 100%)。

解説

薬物療法の選択においては,原発部位(前腸・中腸・後腸),腫瘍増殖能(Ki-67 指数など),腫瘍量,転移の有無,ソマトスタチン受容体(SSTR)発現の有無,合併症 /併存症の有無,全身状態(PS など)を考慮して総合的に判断する必要がある1, 2)

現在,本邦において消化管NET に対する腫瘍制御を目的とした場合の薬物療法としては,ソマトスタチンアナログ〔オクトレオチドLAR(long acting release),ランレオチド〕,分子標的治療薬(エベロリムス),細胞障害性抗がん剤(ストレプトゾシン)が挙げられる。各薬剤については,添付文書に記載のある既知の有害事象について,十分に患者への説明を行う。

1.ソマトスタチンアナログ(オクトレオチドLAR・ランレオチド)

ソマトスタチンアナログであるオクトレオチドLAR は,SSTR への作用により,ホルモン産生腫瘍の内分泌症状を緩和する目的で開発された薬剤であるが,消化管NET への抗腫瘍効果を有することが示された。その根拠となるのが,中腸原発または原発不明の切除不能高分化NET(機能性 /非機能性は問わない)を対象とした,オクトレオチドLAR の抗腫瘍効果の検証を目的としたランダム化比較試験のPROMID 試験である3)。主要評価項目である無増悪期間(TTP) の中央値は,オクトレオチドLAR 群で14.3 カ月,プラセボ群で6.0 カ月とオクトレオチドLAR 群にて有意な延長を認めた(ハザード比:0.34[95% CI:0.20-0.59],P<0.001)。上記試験の結果を受け,2011 年11 月に消化管NET に対して本邦で保険承認された。

一方,ランレオチドの有用性は,Ki-67 指数:10%以下かつSRS 陽性の,消化管(中腸 /後腸)・膵の切除不能非機能性NET を対象としたプラセボ対照のランダム化比較試験であるCLARINET 試験において示された4)。CLARINET 試験には本邦の症例が含まれていなかったことから,国内第Ⅱ相試験5)が行われ,主要評価項目であるclinical benefit rate が64.3%,PFS 中央値が36.3 週と日本人における有用性が示され2017 年7 月に消化管・膵NET に対して本邦で保険承認された。

本邦をはじめとするアジア圏に多い前腸・後腸原発NET への本剤の有効性のデータは乏しい。ソマトスタチンアナログを用いる際には,SRS や腫瘍組織を用いた免疫染色にて腫瘍におけるSSTR の発現の有無をチェックすることが推奨される。

2.エベロリムス療法

エベロリムスはmTOR を阻害することにより抗腫瘍効果を発揮する分子標的治療薬であり,消化管NET の治療として推奨される。その根拠となるのが,消化管(前 /中/ 後腸原発)または肺原発の非機能性切除不能NET を対象に行われたプラセボ対照のランダム化比較試験のRADIANT-4 試験6)である。主要評価項目であるPFS の中央値は,エベロリムス群で11.0 カ月,プラセボ群で3.9 カ月とエベロリムス群にて有意な延長を認めた(ハザード比 : 0.48[95%CI:0.35-0.67],P<0.001)。サブグループ解析7)では,消化管原発のサブセット(PFS 中央値:13.1 カ月 vs 5.4 カ月 , ハザード比:0.56[95% CI:0.37-0.84]),そして非中腸原発のサブセット(PFS 中央値:8.11 カ月 vs 1.94 カ月,ハザード比:0.27[95% CI:0.15-0.51])のいずれにおいても,エベロリムス群の治療成績が良好な傾向を認めた。上記試験の結果を受けて,2016 年8 月に消化管NET に対して本邦で保険承認された。

3.ストレプトゾシン療法

アルキル化薬であるストレプトゾシンは,1980 年代から単剤療法やほかの細胞障害性抗がん剤との併用療法8, 9)が行われてきた薬剤である。本邦では,国内第Ⅰ/Ⅱ相試験の結果を基に2014 年9 月に承認された。

これまで存在するNET への細胞障害性抗がん剤の効果を検討したデータの大部分は,消化管・膵・肺原発NET が混在したものが対象となっている。原発部位別の細胞性障害性抗がん剤の効果を検討したメタアナリシスにおいて,奏効率は膵原発に比べ膵以外(主に消化管 /膵原発)において不良な傾向が示されている(統合オッズ比:0.45[95% CI:0.19-1.07])10)

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CQ6
膵・消化管NEC に対して推奨される抗腫瘍薬は何か?

[アルゴリズム17]

小細胞肺癌の治療に用いるプラチナ系薬剤とエトポシドまたはイリノテカンの併用療法を推奨する(グレード C1,合意率 100%)。

解説

膵・消化管NEC は悪性度の高い腫瘍であり,特に遠隔転移を伴う場合には極めて予後不良である1)。原発臓器による予後や治療成績の違いを示唆する報告はあるものの2, 3),抗腫瘍薬の選択については,臓器を問わず小細胞肺癌に準じたプラチナ系薬剤を含む併用療法が推奨される1)

表1 膵・消化管 NEC に対する併用療法の成績

5) 6) 7) 8) 2) 2) 3) 10) 9) 2) 2) 11) 12)

海外ではシスプラチン+エトポシドが用いられることが多い(保険適用外)。本邦では小細胞肺癌においてシスプラチン+イリノテカンがシスプラチン+エトポシドに対して優越性を示したことより4),シスプラチン+イリノテカンも多く用いられる(保険適用外)。各薬剤については,添付文書に記載のある既知の有害事象について,十分に患者への説明を行う。

シスプラチン+エトポシドとシスプラチン+イリノテカンのどちらが,切除不能進行・再発消化管NEC に対する一次治療としてより適切な治療法であるかは明らかにされておらず,現在,日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)において,消化管・肝胆膵原発NEC を対象として,両者の有用性を比較するランダム化試験 (JCOG1213:TOPIC-NEC 試験) が進行中であり,結果がまたれる。

二次治療についても小細胞肺癌の治療指針を参考に一次治療に使用されなかったレジメンが使用される機会が多いが,NEC に対して推奨される二次治療は確立していない。

*保険適用外ではあるが,社会保険診療報酬支払基金の審査情報提供検討委員会による検討の結果,平成30 年2 月26 日付の審査情報提供により,イリノテカン塩酸塩水和物,エトポシド,シスプラチン,カルボプラチン(注射薬)を「神経内分泌細胞癌」に対して投与した場合,実質的に保険の査定を受けなくなった。

文献

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CQ7
膵・消化管NEN の切除不能肝転移に対して推奨される局所療法は何か?

[アルゴリズム16]

TAE/TACE は肝転移の局所治療として推奨される(グレード C1,合意率 100%)。また,切除不能の肝転移巣を有するが,腫瘍量が少ない場合には腫瘍焼灼術も選択できる(グレード C1,合意率 100%)。

解説

NEN の肝転移を伴った症例においては治癒切除困難例が多い。膵・消化管NEN のQOL や5 年生存率の向上には肝転移巣の制御が重要であり,局所療法は内分泌症状のコントロールにも寄与する1-3)

NEN の肝転移は血流が豊富なものが多く,腫瘍への血流は90%以上肝動脈から供給されている4)。肝細胞癌と同様にTAE やTACE がNEN の肝転移(特に高腫瘍量)の局所治療として有用である1, 4)。胆道再建術後,門脈腫瘍塞栓や腹水の存在は積極的な適応としない5, 6)。胆管拡張症例や門脈閉塞症例はTACE 後の肝壊死のリスクが高いとされる7)。また,肝外病変があってもTACE が有用とする報告もある8)

TAE,TACE いずれも高い症状緩和効果を有しており,50~90%の症例で症状の改善が12 カ月以上持続すると報告されている1, 4-6)。TAE,TACE 後の無増悪期間(TTP)は12~25 カ月とされている1, 5, 6, 9, 10)。TAE,TACE 後の生存率に関する報告は,TAE では5 年生存率が13~37%(中央値 31%),生存期間中央値は18~43 カ月,TACE では5 年生存率が19~83%(中央値36%),生存期間中央値も24~44 カ月である1, 4-6, 9)。中腸原発NEN の肝転移に対してTAE とTACE の治療効果を比較したランダム化比較試験において,2 年後のPFS に両者で有意差を認めなかった(44% vs. 38%)11)。本邦から膵・消化管NEN に対するTA(C)E の成績が最近報告され,奏効率56%,病勢制御率96%,全生存期間86.1 カ月であった10)。内分泌症状を伴うNEN ではTAE/TACE 術中や術直後にクリーゼをきたすことがあり,術前のソマトスタチンアナログの投与が有用である5)

切除不能の肝転移巣を有する症例に対して,腫瘍焼灼が有用との報告もある2, 3, 5, 12-14)。実際には,焼灼法にはラジオ波焼灼術(RFA)が用いられることが多く,経皮的もしくは開腹下 /腹腔鏡下に施行される12-15)。最近のシステマティック・レビューでは,RFA 後(RFA 単独もしくは外科切除との併用)の症状緩和効果が92%の症例で認められ,14~27 カ月持続するとの報告がある14)

NET 肝転移巣への単独治療としての肝動注化学療法の報告は稀で,NCCN16)およびENETS17)ガイドラインでも抗がん剤の肝動注療法についての記載はない。

文献

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CQ8
膵・消化管NEN に対して術前・術後の補助療法は推奨されるか?

膵・消化管NET に対する術前・術後の補助療法の有効性は明らかでない(推奨なし,合意率100%)。

膵・消化管NEC に対して切除を施行した場合にはプラチナ系薬剤を用いた術後補助療法を行うことを推奨する(グレード C1,合意率 100%)。術前治療の有効性は明らかではない(推奨なし,合意率 100%)。

解説

膵・消化管NET 切除後の補助療法については現時点で質の高いエビデンスはない。切除標本のKi-67 が高い場合,リンパ節転移陽性例1, 2),組織学的断端陽性例3),肝転移巣切除後4, 5)などでは術後再発率が高いことがわかっているが,術後補助療法の意義は不明である。一方,術前補助療法のエビデンスもないが,高度局所進行ないし遠隔転移を伴う膵・消化管NET で,薬物治療後に切除が可能になった報告がある5, 6)

膵・消化管NEC について,後ろ向き研究7, 8)の結果を基に,NCCN 9)や ENETS 10),NANETS 11)のガイドラインでは,肺小細胞癌に対する薬物療法のレジメンに準じたプラチナ系薬剤を用いた術後補助療法を推奨している。治療レジメンとしては,シスプラチン(カルボプラチン)+エトポシド,シスプラチン+イリノテカンが代表的である (内科・集学的治療 CQ6 参照)。NANETS ガイドライン11)では4~6 コースの術後補助療法を推奨している。なお,術前治療に関するエビデンスはない。

文献

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CQ9
膵・消化管NEN に対して放射線治療は推奨されるか?

  • 原発巣に対する外照射治療については 推奨できるだけの十分なエビデンスがない(推奨なし,合意率 100%)。
  • 骨転移に対する疼痛緩和目的の外照射が推奨される(グレード A)。
  • 放射性核種標識ペプチド治療(peptide receptor radionuclide therapy: PRRT)はソマトスタチン受容体陽性の膵・消化管NET に対して、二次治療以降の他剤無効例に対する代替治療として推奨される(グレード A、合意率 100%)。

解説

1.外照射

原発巣に対する外照射治療について後ろ向き研究を解析したsystematic review 1)によれば,91 例に対して中央値で50.4 Gy/28 分割の外照射が行われ,奏効率は57%,局所再発率は29%と報告されている。また術前,術後補助療法として施行された外照射の局所再発率は18%と報告されている。外照射後遠隔転移を伴わない2 年生存率は46%であったとする報告2)や,遠隔転移を伴わない生存期間は12.4 カ月との報告3)もあり,外照射の有用性を支持する論文4)も認められるが,腫瘍縮小,無増悪期間の延長,予後の延長に寄与するか否かについての科学的根拠は不十分であり,推奨できる明確な根拠はない。

2.骨転移に対する外照射

膵・消化管NET からの骨転移のみに対する疼痛緩和についてのまとまった報告はない。骨転移に対する疼痛緩和目的の放射線治療は,多くの固形癌では放射線治療の疼痛緩和に関しての有効率は75~90%と高く,8 Gy/1 回照射,20 Gy/5 分割,30 Gy/10 分割,35 Gy/14 分割といった複数の線量分割が有効である5-9)。ただし,1 回照射と分割照射では,寛解率や完全寛解率に差がみられないが,1 回照射において同一部位への再照射率が高いことが複数のメタアナリシスで一致しているため9-11),予後予測に基づいた線量,線量分割の選択が必要である。

なお,89Sr による内照射は原材料が入手困難となり,製造販売が中止され2019 年2 月より施行不能となった。

3.放射性核種標識ペプチド治療(peptide receptor radionuclide therapy;PRRT)

放射線内用療法の一つである放射性核種標識ペプチド治療(peptide receptor radionuclide therapy: PRRT)に使用される、ルテチウムオキソドトレオチド(177Lu)は、投与の際に使用されるアミノ酸輸液とともに国内外の臨床試験の結果をもとに承認された。

PRRTの適応は、転移性または局所進行性で根治切除不能であり、ソマトスタチン受容体シンチグラフィー等の画像検査にて、ソマトスタチン受容体が陽性と判定された膵・消化管を含めたすべてのNET の症例であり、NECに対する有効性は示されていない。

オクトレオチドLAR 30 mg/月にて増悪を含めた中腸NET に対しては、177Lu-DotatateとオクトレオチドLAR 60 mg/月を比較した第III相試験で有意に良好な無増悪生存期間が示されているが12)、その他のNET に対してはランダム化比較試験の結果は示されていない。しかし、膵を含むその他のNET の他剤無効例に対して良好な抗腫瘍効果が示されており、中腸NET に限定せず、あらゆる部位のNET に対して保険適用となった。したがって、海外のガイドライン13)でも、中腸NET に対しては、ソマトスタチンアナログにて増悪を認めた二次治療以降の治療として、膵を含むその他のNET に対しては既承認薬に無効例に対する代替治療として推奨されている。

PRRT は、急性期には、嘔気や食思不振などの副作用がみられるが、比較的軽微で一過性であることが多い。一方、中長期的には、白血病や骨髄異形成症候群等の血液系二次発がんや腎機能障害に関する報告が散見される。治療前の骨髄機能、肝機能 、腎機能等、十分な臓器機能を有することが必要である。

文献

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COLUMN

❸Peptide receptor radionuclide therapy (PRRT)

膵・消化管由来のNET はSSTR を高率に発現していることから,ソマトスタチンアナログに放射線同位元素を標識した薬剤を用いるPRRT が開発されてきた。根治切除不能の中腸NET を対象とした第Ⅲ相試験でその有用性が報告された(NETTER1 試験)1)。オクトレオチドLAR 30 mg/月にて,増悪と判定された症例を対象に177Lu-DOTA-TATE による7.4 GBq のPRRT を8 週ごとに計4 回施行するグループと,オクトレオチドLAR を60 mg に増量投与するグループにランダムに割り付けた国際共同のランダム化第Ⅲ相試験である。対照群のオクトレオチドLAR 群のPFS 8.4 カ月に対して177Lu-DOTA-TATE 群ではPFS は40 カ月と推定され,オクトレオチドLAR に対してハザード比:0.21[0.129-0.338](P<0.0001)と明らかな優越性が証明された。奏効率も19%で対照群の3%との間に有意差が認められた(P=0.00043)。また治療関連の重篤な副作用も9%であり,長期にわたる経過においても腎機能の低下はほとんどみられなかった。

欧州の各施設からの多数例のこれまでの報告(表1)では,中腸のみならず膵・消化管神経内分泌腫瘍に対してPRRT は有用な治療である可能性が示されている2)177Lu-DOTA-TATE は2018 年1 月に膵・消化管神経内分泌腫瘍に対してFDA(米国食品医薬品局)で承認され,ENETS のガイドラインにも明記されている3)

現在本邦では国内第Ⅰ / Ⅱ相試験が行われており,有効性・安全性は確立していないが,今後新たな治療法として期待される。

表1 PRRT 抗腫瘍効果

4) 5) 6) 7) 1)

文献

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第5章 MEN1/VHL ─ Clinical Question・推奨・解説─

まえがき

多発性内分泌腫瘍症1 型(MEN1)の約 60%,von Hippel-Lindau 病(VHL)の約8~17%に膵・消化管NET を合併する。一方,全膵NET の4~10%は背景にMEN1 を有する(全膵NET に占めるVHL の割合についてはデータがない)。多くの膵・消化管NET 患者のなかからMEN1/VHL 患者を適切に診断する重要性として,1)MEN1/VHL では散発例とは異なる診断法や経過観察方針,治療方針が求められる,2)MEN1/VHL と診断が確定した場合には,MEN1 であれば副甲状腺や下垂体,VHL であれば網膜および中枢神経血管芽腫や腎癌など,ほかの併発病変の早期診断,早期治療を目的としたサーベイランスを行う必要がある,3)MEN1,VHL のいずれも常染色体優性遺伝性疾患であり,ひとりの患者の診断を確定することにより,まだ診断されていないリスクのある血縁者を発症前遺伝学的検査によって確定し,早期診断および早期治療を可能にする(あるいは遺伝していない血縁者に対する無駄なサーベイランスを回避できる),ことが挙げられる。しかしながら,すべての膵・消化管NET 患者に対してMEN1 やVHL を念頭においた検索を行うことは効率的ではなく,可能性の高い患者を適切に抽出する必要がある。

なお,MEN1/VHL ではNEC は極めて稀であることから,この章では略語として“NET”のみを用いる。

CQ1
どのような膵・消化管NET でMEN1/VHL を疑うべきか?

[アルゴリズム18]

下記の症例でMEN1/VHL を疑うことを推奨する。

  • 多発性膵NET(グレード B,合意率 100%
  • 再発性膵NET(グレード B,合意率 100%
  • ガストリノーマ(グレード B,合意率 100%
  • 若年のインスリノーマ(グレード B,合意率 86%
  • 高カルシウム血症の併発(グレード A,合意率 100%
  • MEN1 およびVHL 関連腫瘍の存在と既往(グレード A,合意率 100%
  • MEN1 およびVHL 関連腫瘍の家族歴(グレード A,合意率 100%

解説

膵・消化管NET のうちMEN1 に伴うものは,以前の研究では約 10%を占める1-3)とする報告が多かったが,日本人を対象にした最近の調査では4.3%と報告されている4)。これは画像診断技術や検診の普及によって偶発的に散発性NET の診断機会が増えたことと関連している可能性がある。また102 個の膵NET に全ゲノム解析を行った研究では,6 個(6%)にMEN1 遺伝子の生殖細胞系列病的バリアントが同定されている5)。したがって,これより明らかにMEN1 患者が占める割合が大きい条件を満たす膵NET では積極的にMEN1 を疑う必要がある。

膵・消化管NET の約80%は単発性NET であるが1),MEN1 患者では膵NET 診断時に74%が複数の腫瘍を認めていた6)ことから,多発NET はMEN1 を強く疑う根拠となる。遠隔転移を伴わない膵内再発と異時性新規発症の場合にはMEN1 を精査することが推奨される。

消化管NEN に占めるMEN1 の割合は 0.42%と低いため4),単独の消化管NEN は積極的にMEN1 を疑う病変とはいえない。ただしガストリノーマの16~25%はMEN1 に伴うものであり1-4),特にMEN1 のガストリノーマはその多くが十二指腸に発生することから,十二指腸原発のガストリノーマでは特にMEN1 を強く疑って検索を進める必要がある。また,MEN1 における膵・消化管NET の罹病率は約60%であるが,NIH の報告ではその40%はガストリノーマ関連症状で初発しており,45%ではそれが副甲状腺機能亢進症よりも先に出現している7)

インスリノーマはほかの膵・消化管NET に比較して若年に発症する傾向がある8)。すべての膵・消化管NET のうち20 歳未満での発症は1%程度を占めるに過ぎないのに対し1),本邦で集計されたMEN1 のインスリノーマでは診断時年齢の記載のある症例の24%が20 歳未満で診断されており9),若年発症のインスリノーマではMEN1 が強く示唆されるのでMEN1 を念頭においた精査が推奨される。

臨床的にはMEN1 家族歴が確認された場合,一病変の確定のみでMEN1 と診断することが推奨されている10)。また,MEN1 のうち約75%は家族歴があり,血縁者に罹患者が存在する11)。ただし,一部では家族歴があるにもかかわらず認識されていない場合もあり,家族歴の否定には慎重である必要がある。患者や血縁者は甲状腺と副甲状腺,膵NET と膵癌など,紛らわしい病名を混同している場合も少なくない。

VHL に関しては,本邦で用いられている診断基準に基づけば,膵NET を有する患者の場合,VHL の家族歴が明らかでない患者の診断の確定には中枢神経系血管芽腫もしくは網膜血管腫の存在が必須条件となっている12)。膵NET 患者全体に占めるVHL 患者の割合に関する報告はないが,前述の膵NET に全ゲノム解析を行った研究では1 例にVHL の生殖細胞系列病的バリアントが同定されている。この症例におけるVHL 関連病変の有無については記載されていない。また,VHL においては膵NET のほかに膵嚢胞性病変も16~71%に認められることから,膵にNET と嚢胞性病変を合併する例ではVHL の可能性が考えられるが,これについて根拠となり得る論文報告は見当たらない。

MEN1/VHL に伴う膵NET の病理学的特徴については,病理 COLUMN❷を参照。

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CQ2
膵・消化管NET 患者に対して推奨されるMEN1/VHL のスクリーニング検査は何か?

[アルゴリズム18]

  • MEN1/VHL ともに,家族歴聴取が推奨される(グレード A,合意率 100%)。
  • MEN1 では,原発性副甲状腺機能亢進症の検索(アルブミン補正血清カルシウム・血清リン・血漿インタクトPTH の同時測定)を実施する(グレード A,合意率 100%)。さらに,下垂体腫瘍(血清プロラクチン・下垂体 MRI)を中心に関連病変の検索を進める(グレード A,合意率 100%)。
  • VHL では既に病態が判明している場合が多く,スクリーニング検査として推奨されるものはない(推奨なし,合意率 86%)。
  • MEN1/VHL の遺伝学的検査についてMEN1/VHL CQ6 を参照。

解説

MEN1 の3 大病変とその罹患率は,副甲状腺過形成による原発性副甲状腺機能亢進症(PHPT)95%以上,膵消化管NET 60%,下垂体腫瘍 50%であり,その他の関連疾患として副腎皮質腫瘍20~30%,胸腺NET 5%などが挙げられる1, 2)。PHPT は無症候性のことが多いため,アルブミン補正血清カルシウム・血清リン・血漿インタクトPTH の同時測定によるスクリーニングによりPTH 過剰分泌に伴う高カルシウム血症や低リン血症を確認する2, 3)。膵消化管NET に関しては,合併した原発性副甲状腺機能亢進症に起因する高カルシウム血症によりガストリンやインスリンの分泌が亢進し得ることを念頭におき診断する必要がある2, 3)。下垂体腫瘍ではプロラクチノーマや成長ホルモン(GH)産生腫瘍が主な機能性腫瘍であるため,血清プロラクチンやIGF-1 を測定する。先端巨大症が疑われる場合は75g OGTT でGH 分泌が正常域まで抑制されないことを確認する。非機能性腫瘍も発生するため,下垂体造影MRI や視野検査も行う2, 3)。副腎皮質腫瘍(非機能性が多く,悪性は少ない)や胸腺NET があり,胸腹部CT およびMRI が診断の一助となる2, 3)

VHL に生じる主な病変およびその罹患率は,中枢神経系(主に小脳,脳幹,脊髄)の血管芽腫60~80%,網膜血管腫40~70%,内耳リンパ嚢腫12~50%,腎嚢胞60~80%,腎癌20~50%,褐色細胞腫10~20%,膵嚢胞17~61%,膵NET 8~17%であり,多発性・再発性に若年で発症する4-7)。既に病態が判明している場合が多く,スクリーニング検査として推奨されるものはないが,中枢神経血管芽腫,網膜血管腫,腎嚢胞・腎癌,褐色細胞腫の存在が診断の契機となり得る8, 9)。中枢神経血管芽腫では造影MRI,網膜血管腫では散瞳下眼底検査・細隙灯顕微鏡検査・蛍光眼底血管造影,腎病変では腹部US・造影CT・単純MRI にて病変を確認する5, 6)。褐色細胞腫では,血中カテコールアミン分画(正常上限の3 倍以上またはアドレナリン+ノルアドレナリン2,000 pg/mL 以上)や随時尿中メタネフリン分画(尿中Cr 濃度で補正したメタネフリン,ノルメタネフリンが正常上限の3 倍以上または500 ng/mg・Cr 以上)の増加があれば,24 時間蓄尿により尿中カテコールアミン(正常上限の2 倍以上)および尿中総メタネフリン分画(正常上限の3 倍以上)を確認する。MRI や123I-MIBG シンチグラフィは腫瘍の局在診断に有用である5, 7, 10)

MEN1,VHL とも,問診や家族歴聴取を十分に行うことが重要であり,遺伝学的検査の実施を考慮する(MEN1/VHL CQ6 参照)2, 5, 6)

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CQ3
MEN1/VHL を疑う場合に推奨される局在診断法は何か?

MEN1/VHL では多発性の小さな膵NET を伴うことがあり,CT,MRI のほかにEUS,EUS-FNA を行うことが推奨される(グレード B,合意率 100%)。

機能性膵・消化管NET が疑われる場合は SASI テストが推奨される(グレード B,合意率 100%)。

ソマトスタチン受容体シンチグラフィが有効である場合がある(グレード C1,合意率 100%)。

解説

MEN1 の膵・消化管NET の特徴は,1)多発性,2)小病変,3)異時性発生である1-3)。MEN1 の膵・消化管NET で最も多い機能性腫瘍はガストリノーマである。ガストリノーマの多くは十二指腸粘膜下に小腫瘍として発生し,その半数が初診時に発生しているが,一方で膵内に腫瘍が散発性に発生することもある4)

膵・消化管NET の治療方針決定のうえで正確な局在診断は非常に重要である。CT やMRI と比較し,小さな膵NET に対するEUS の検出感度は優れており5, 6),MEN1 症例の局在診断にも推奨される7)

機能性膵・消化管NET の局在診断には感度および特異度の高いSASI テストが優れている4, 8, 9)。ただし,MEN1 に罹患率が高い副甲状腺機能亢進症が存在している場合,高カルシウム血症によってガストリンやインスリン分泌が亢進しており,診断上注意を要する10)。膵・消化管NET の予後には肝転移の制御が重要とされる。MEN1 の膵NET の腫瘍径が3 cm を超えると肝転移の頻度が23%と高くなり,うち5%は死亡したとの報告もある11)。肝転移含め遠隔転移の検索については,US,CT,MRI が用いられている12)。近年SRS の有用性が示されている7, 12)

VHL に合併する膵NET のほとんどは非機能性である13)。膵NET 診断時にほかの腫瘍(腎癌,褐色細胞腫など)を併発している,もしくは既往のある症例が多く,膵NET の多発例も認められる14)。本邦のVHL ガイドラインではVHL 患者の膵NET と腎癌のスクリーニングを15 歳から行うことが推奨されている15)。画像診断モダリティはCT やMRI が使用される16, 17)

MEN1,VHL ともに,腫瘤が検出された場合,EUS-FNA やSRS はNET の確定診断に有用であり,SRS は病期診断にも有用である。

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CQ4
MEN1/VHL に伴う膵・消化管NET の手術適応と推奨される術式は何か?

[アルゴリズム19, 20]

  1. 1.MEN1 に伴う膵・消化管NET
    • 多発性の小NET が多く,手術の適応と術式の決定には腫瘍の数と局在および内分泌症状の有無を考慮することが推奨される(グレード A,合意率 100%)。
    • 機能性NET は外科的治療が推奨される(グレード A,合意率 100%)。
    • 非機能性膵NET は腫瘍径2 cm 以上で手術を考慮する(グレード B,合意率 100%)。
    • 膵切除術式は可能な限り膵機能を温存する術式を考慮する(グレード B,合意率 86%)。
  2. 2.VHL に伴う膵・消化管NET
    • 最大腫瘍径2 cm 以上かつ腫瘍のダブリングタイム(倍加時間)500 日以下を目安として切除適応を決定する(グレード B,合意率 100%)。
    • 膵切除術式は可能な限り膵機能を温存する術式を考慮する(グレード B,合意率 86%)。

解説

1.MEN1 に伴う膵・消化管NET

MEN1 の膵・消化管NET の特徴は,1)多発性,2)小病変,3)異時性発生が散発性膵・消化管NET に比べて高い点であり,この特徴を考慮して手術適応を検討する1-4)。非機能性膵NET においては,腫瘍径が2 cm 以上の場合5, 6),2 cm 未満でも増殖速度が速い場合1, 7, 8)には切除を考慮する。膵NET の多発例では,膵全摘術を回避することが推奨される9)

ガストリノーマでは積極的な外科治療を行った群の肝転移発生率が3~5%であるのに対し,保存的治療を行った群では23~29%に達したと報告されていることから10-12),MEN1 のガストリノーマは積極的な外科治療が推奨される4)。MEN1 患者に発生する機能性膵・消化管NET の多くは十二指腸に発生するガストリノーマであり,根治性を重視した術式選択を行う4, 12)

インスリノーマでは膵切除または腫瘍核出術が推奨される13, 14)

その他の機能性膵NET では膵切除が推奨される15)

機能性NET と非機能性NET が同時に存在する場合の手術適応はそれぞれの腫瘍について判断する。

2.VHL に伴う膵・消化管NET

VHL に伴う膵 NET 手術の適応は慎重に検討する必要がある。その理由として,多発例が多いこと,腫瘍の増殖が緩慢であること,さらに腎癌などに対して複数回の手術が必要となることなどが挙げられる16-20)

本邦のVHL 病に合併する膵NET の経過観察に関しては,6~12 カ月ごとに腹部Dynamic CT が推奨されている21)。切除適応については2 つの予後因子(①最大腫瘍径2 cm 以上,②腫瘍の倍加時間500 日以下)から下記のように判断する21)

  • 予後因子= 0;2~3 年ごとの腹部Dynamic CT
  • 予後因子= 1;6~12 カ月ごとの腹部Dynamic CT
  • 予後因子= 2;切除適応

なお,切除適応に関する最近の研究では,腫瘍径の基準を2.8 cm22),3.0 cm 23)としている。

遺伝子検索についてはVHL のエクソン3 変異検索が手術適応について有用な情報であり22-24),網羅的遺伝情報の解析結果に基づく高リスク症例の層別化が可能となりつつあるが,現時点で保険適用や実施体制が未整備となっている。

膵切除術式は腫瘍核出術を基本とし,可能な限り膵機能を温存する術式を考慮する25)

Blansfield らは膵NET を合併したVHL 症例の予後決定因子として,①最大腫瘍径が3 cm 以上,②VHL のエクソン 3 に変異を有する,③腫瘍径の倍加時間が500 日以下,を挙げた。このうち1 項目のみ該当する症例では遠隔転移を認めないが,2 項目該当例では33%,3 項目該当例では67%に遠隔転移がみられた26)。本邦の膵NET 疫学調査においては腫瘍径2 cm 以上で肝転移が高頻度に認められた27)

切除不能な転移をきたした症例に対しては抗腫瘍薬,局所療法,支持療法が考慮される。その適応は基本的に散発例と同様である(内科・集学的治療 CQ2~6, 9 参照)。

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8)
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9)
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CQ5
MEN1/VHL の膵・消化管NET に推奨される経過観察法は何か?

[アルゴリズム1920]

MEN1 症例においては少なくとも1 年ごとに診察,CT またはMRI による画像検査,機能性NET を念頭においたホルモン測定が推奨される(グレード C1,合意率 86%)。

VHL についてはMEN1/VHL CQ4 を参照。

解説

MEN1 に合併した膵・消化管NET の増大スピードは0.1~1.3 mm/ 年と緩徐であり1-3),特に1 cm 未満の腫瘍ではほとんど増大しないという報告もある3)。以上からMEN1 の非機能性膵・消化管NET には1 年ごとの画像検査による経過観察が推奨される。

機能性腫瘍の新規発症を念頭におき,年1 回の内分泌機能検査(ガストリン,空腹時インスリン,空腹時血糖)が推奨される。

VHL についてはMEN1/VHL CQ4 を参照。

文献

1)
Pieterman CRC, de Laat JM, Twisk JWR, et al. Long-term natural course of small nonfunctional pancreatic neuroendocrine tumors in MEN1-results from the Dutch MEN1 Study Group. J Clin Endocrinol Metab. 2017; 102(10): 3795-3805. (レベルⅣb)
2)
Kappelle WF, Valk GD, Leenders M, et al. Growth rate of small pancreatic neuroendocrine tumors in multiple endocrine neoplasia type 1: results from an endoscopic ultrasound based cohort study. Endoscopy. 2017; 49(1): 27-34. (レベルⅣb)
3)
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CQ6
MEN1/VHL の遺伝学的検査は推奨されるか?

[アルゴリズム18]

以下に示す臨床像もしくは家族歴を有する患者に対しては,遺伝学的検査を実施することが推奨される(グレード B,合意率 100%)。

MEN1 遺伝学的検査

  • 副甲状腺機能亢進症もしくは下垂体腫瘍の合併
  • 膵・消化管NET の多発
  • ガストリノーマ,特に十二指腸粘膜領域に発生した場合
  • 若年で発症したインスリノーマ
  • MEN1 もしくはMEN1 関連病変の家族歴

VHL 遺伝学的検査

  • 網膜血管腫,中枢神経血管芽腫,腎癌,褐色細胞腫,多発性膵嚢胞,精巣上体嚢胞腺腫,内耳リンパ嚢腫などの合併
  • VHL もしくはVHL 関連病変の家族歴

解説

家族歴を有する典型的なMEN1 もしくはVHL 症例の場合は,診断を確定させるための遺伝学的検査は必ずしも必要ではない。しかし,家系内の非発症者を発症前に診断するための情報を得るためには,発症者の遺伝学的検査が必要となる1)。一方,臨床的なMEN1 あるいはVHL の診断基準を満たさない場合でも,ガストリノーマ(25%はMEN1 による),多発性膵・消化管NET,再発性膵・消化管NET,若年性(20 歳以下)インスリノーマなどはMEN1 を2-4),若年発症の(多発性,再発性)非機能性膵NET ではVHL を疑う根拠として重要であり5-7),確定診断のためにMEN1 もしくはVHL の遺伝学的検査を行うことが推奨される。

病的バリアントが確定している家系においては,血縁者の遺伝学的検査は強く推奨される。この場合,発端者の病的バリアントの情報が不可欠であり,血縁者の遺伝学的検査では当該病的バリアントの部位のみを検査する。病的バリアントを有する血縁者に対しては,関連病変の早期発見治療に結びつくサーベイランスを実施する。変異を有しない場合は,サーベイランスは不要となる8-10)

MEN1 の遺伝学的検査は,610 アミノ酸からなるmenin 蛋白をコードするがん抑制遺伝子MEN1 のエクソン2~10 をPCR で増幅し,直接シークエンス法で調べる。変異検出率は家族歴のある例で 90%,家族歴のない例では約 50%である8)。さらにMLPA 法などの欠失・重複検出法を加えると検出率は1~4%向上する2, 11)VHL の遺伝学的検査は213 あるいは160 アミノ酸からなるVHL 蛋白をコードするがん抑制遺伝子VHL のエクソン1~3 をPCR で増幅し,直接シークエンス法で調べる。この方法による病的バリアント検出率は 75%であるが,MLPA 法などの欠失・重複検出法を加えると検出率は84%に向上する10, 12)

文献

1)
Thakker RV, Newey PJ, Walls GV, et al.; Endocrine Society. Clinical practice guidelines for multiple endocrine neoplasia type 1 (MEN1). J Clin Endocrinol Metab. 2012; 97(9): 2990-3011. (レベルⅥ)
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3)
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4)
Kihara M, Miyauchi A, Ito Y, et al. MEN1 gene analysis in patients with primary hyperparathyroidism: 10-year experience of a single institution for thyroid and parathyroid care in Japan. Endocr J. 2009; 56(5): 649-656. (レベルⅣb)
5)
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7)
Hough DM, Stephens DH, Johnson CD, et al. Pancreatic lesions in von Hippel-Lindau disease: prevalence, clinical significance, and CT findings. AJR Am J Roentgenol. 1994; 162(5): 1091-1094. (レベルⅣb)
8)
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9)
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10)
執印太郎,「多彩な内分泌異常を生じる遺伝性疾患(多発性内分泌腫瘍症およびフォン・ヒッペル・リンドウ病)の実態把握と診療標準化の研究」班 編.フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病診療ガイドライン 2017 年版.
http://www.kochi-ms.ac.jp/~hs_urol/pdf/vhl_2017ver.pdf (レベルⅥ)
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Owens M, Ellard S, Vaidya B. Analysis of gross deletions in the MEN1 gene in patients with multiple endocrine neoplasia type 1. Clin Endocrinol (Oxf). 2008; 68(3): 350-354. (レベルⅣb)
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CQ7
膵・消化管NET はMEN1/VHL の予後因子か?

  • MEN1 の予後因子は膵・消化管NET と胸腺腫瘍である(グレード B,合意率 100%)。
  • VHL の予後因子は腎癌である(グレード B,合意率 100%)。

解説

MEN1 病変における死亡危険因子のハザード比は,女性が0.46,家族歴が0.46,胸腺腫瘍が4.64,非機能性腫瘍が3.43,ガストリノーマが1.89,GVS(グルカゴノーマ,VIP オーマ,ソマトスタチノーマ)が 4.29 であり,インスリノーマ,下垂体腫瘍,気管腫瘍,副腎腫瘍は予後因子ではないという報告がある1, 2)。2017 年の報告3)では,MEN1 の287 症例中199 例217 病変に膵・十二指腸NET が発症して,腫瘍径3 cm 以上を含む外科的治療を受けた群は8 年の観察期間で14%が平均51 歳で死亡していた。大きさの中央値は2.4 cm で,非機能性腫瘍が44%,ガストリノーマが33%,インスリノーマが21%を占めていた。転移は腫瘍径では予測不能で,転移の危険性は年間6%ずつ上昇していた。2018 年の報告4)では,MEN1 に伴う2 cm 未満の非機能性NET の45 人中44 人は約11 年の経過観察で生存が確認された。28 人はstable で16 人は腫瘍の増大や個数の増加を認め,7 人が切除を要し,1 人が転移後死亡した。また,別の報告5)では,MEN1 に伴う非機能性腫瘍の増大率は1 年に0.4 mm であるが,1.6 mm で増えるサブグループも存在するとしている。胸腺NET の有病率はMEN1 の3.7%と低いが10 年生存率は25%と不良であり,発症時年齢(ハザード比:1.4,P=0.03),腫瘍径(ハザード比:1.5,P=0.04),転移(ハザード比:1.6,P=0.04)が予後不良決定因子である6)。MEN1 の5%に気管NET が発症するが,poorly でなければ生命予後に関係しなかったという報告もある7)

VHL は,脳,脊髄,網膜,膵臓,腎臓,副腎および精巣上体などに腫瘍性病変が発症する。発症年齢は25~40 歳であり,65 歳での浸透率は90%以上で,未治療の場合50 歳以前に死亡する。VHL の最大の予後因子は3 cm 以上の腎細胞癌であり,全生存率のハザード比は9.87,P=0.035 である8)。ただし,淡明細胞腎細胞癌においてVHL 遺伝子の変異は,ハザード比が0.79,P=0.12 で必ずしも全生存率に影響しない9)。VHL に伴う膵NET は転移がある群では,①腫瘍径3 cm 以上で,②エクソン3 の変異があり,③倍加時間が337 日で,一方転移のない群の倍加時間は約7 年である10)。このため,同報告では転移がない原発巣に対してこの2 項目以上を満たす症例を手術の適応,1 項目を満たす場合は6~12 カ月ごとにCT/MRI,すべて満たさない場合は2~3 年ごとの画像サーベイランスとしている。

文献

1)
Goudet P, Murat A, Binquet C, et al. Risk factors and causes of death in MEN1 disease. A GTE (Groupe d’Etude des Tumeurs Endocrines) cohort study among 758 patients. World J Surg. 2010; 34: 249-255. (レベルⅣa)
2)
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3)
Donegan D, Singh Ospina N, Rodriguez-Gutierrez R, et al. Long-term outcomes in patients with multiple endocrine neoplasia type 1 and pancreaticoduodenal neuroendocrine tumours. Clin Endocrinol (Oxf). 2017; 86(2): 199-206. (レベルⅣa)
4)
Triponez F, Sadowski SM, Pattou F, et al. Long-term follow-up of MEN1 patients who do not have initial surgery for small ≤2 cm nonfunctioning pancreatic neuroendocrine tumors, an AFCE and GTE study: Association Francophone de Chirurgie Endocrinienne & Groupe d’Etude des Tumeurs Endocrines. Ann Surg. 2018; 268(1): 158-164. (レベルⅣa)
5)
Pieterman CRC, de Laat JM, Twisk JWR, et al. Long-term natural course of small nonfunctional pancreatic neuroendocrine tumors in MEN1-results from the Dutch MEN1 Study Group. J Clin Endocrinol Metab. 2017; 102(10): 3795-3805. (レベルⅣa)
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Ye L, Wang W, Ospina NS, et al. Clinical features and prognosis of thymic neuroendocrine tumours associated with multiple endocrine neoplasia type 1: A single-centre study, systematic review and meta-analysis. Clin Endocrinol (Oxf) . 2017; 87(6): 706-716. (レベルⅣa)
7)
Lecomte P, Binquet C, Le Bras M, et al. Histologically proven bronchial neuroendocrine tumors in MEN1: a GTE 51-case cohort study. World J Surg. 2018; 42(1): 143-152. (レベルⅣa)
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Kwon T, Jeong IG, Pak S, et al. Renal tumor size is an independent prognostic factor for overall survival in von Hippel-Lindau disease. J Cancer Res Clin Oncol. 2014; 140(7): 1171-1177. (レベルⅣa)
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Blansfield JA, Choyke L, Morita SY, et al. Clinical, genetic and radiographic analysis of 108 patients with von Hippel-Lindau disease (VHL) manifested by pancreatic neuroendocrine neoplasms (PNETs) . Surgery. 2007; 142(6): 814-818; discussion 818.e1-2. (レベルⅣa)

COLUMN

❶MEN1/VHL 関連腫瘍の治療の優先順位について

複数のMEN1/VHL 関連腫瘍を有する患者における個々の病変の治療優先順位は,それぞれの患者の状況に応じて判断する必要があり,機械的な順位付けはできない。

MEN1 で膵・消化管NET の外科治療を考慮する場合は,副甲状腺機能亢進症の合併があれば,原則として副甲状腺の手術を先に行う。高カルシウム血症の是正が全身管理において重要と考えられる。しかし,副甲状腺機能亢進症が軽度で,膵・消化管NET の治療が急がれる場合(機能性腫瘍による臨床症状が強度の場合や悪性例など)には,膵消化管病変の治療が優先される。下垂体腫瘍で緊急の治療を要することは少ないが,膵・消化管NET に悪性を疑わせる所見がなく,下垂体腫瘍の増大による視野障害や正常下垂体機能の障害が認められる場合(ACTH 分泌不全による副腎皮質機能不全がある場合など)には下垂体の治療を優先する必要がある。胸腺NET は悪性度が高いため,発見されれば治療の優先度は高い。副腎皮質腫瘍は通常非機能性であり,腫瘍径も経過観察を許容するレベルにとどまることが多い。また,病変や患者の身体状況を評価したうえで,複数病変の同時手術も考慮する。

VHL では手術を考慮した場合にまず褐色細胞腫の有無を確認し,発症している場合にはまず褐色細胞腫に対する手術を優先する。中枢神経系血管芽腫と褐色細胞腫以外の病変が手術適応となる場合は,術中血圧変動による血管芽腫の破裂や致死的脳出血の危険を回避するため,前者の手術を優先するのが妥当と考えられる。VHL に伴う膵NET は大多数が非機能性で増殖も緩徐であることが多いため,他病変の手術に優先して治療を行わなければならない状況はほとんどないと考えられる。

❷膵・消化管NET 未発症者に対するサーベイランス法

MEN1 やVHL では,発端者の遺伝学的検査によって病的バリアントが同定されれば,血縁者の発症前遺伝学的検査が可能となり,病的バリアントを有する血縁者に対しては,NET の発症前からサーベイランスを開始することで,病変の早期発見,早期治療につなげることが可能になる。

MEN1 については,インスリノーマについては5 歳から,ガストリノーマについては20 歳からの生化学的サーベイランスを,ほかの膵・消化管NET については10 歳以前から1~3 年ごとの画像検査と生化学検査が推奨されている1, 2)。ただし非機能性腫瘍のサーベイランスを目的としたクロモグラニンA や膵ポリペプチドの測定は本邦では保険適用となっていない。一方,若年で腫瘍を発症することがあっても重症病変が発生する可能性は極めて低いことから,サーベイランス開始を16 歳まで遅らせてもよいとする論文もある3)

VHL では膵NET 合併の最年少の報告例は12 歳で,16 歳の報告例が続くことを根拠に,15 歳から超音波とMRI 単純撮像を1 年ごとに交互に検査を行うことが推奨されている4)。膵漿液性嚢胞腺腫は基本的には経過観察は必須ではないが,膵NET に対する経過観察時に同時に評価が可能である。

❸遺伝学的検査の実施にあたって

日本医学会による「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」では,既に発症している患者を対象とした遺伝学的検査の実施に際しては,「検査前の適切な時期にその意義や目的の説明を行うことに加えて,結果が得られた後の状況,および検査結果が血縁者に影響を与える可能性があること等についても説明し,被検者がそれらを十分に理解した上で検査を受けるか受けないかについて本人が自律的に意思決定できるように支援する必要がある。十分な説明と支援の後には,書面による同意を得ることが推奨される。これら遺伝学的検査の事前の説明と同意・了解(成人におけるインフォームド・コンセント,未成年者等におけるインフォームド・アセント)の確認は,原則として主治医が行う。また,必要に応じて専門家による遺伝カウンセリングや意思決定のための支援を受けられるように配慮する」とあり,検査実施の主体は基本的には主治医である。検査によって病的バリアントが同定された場合には,本人の診断が確定するとともに血縁者の発症前遺伝学的検査が可能となる。検査で病的バリアントが同定されない場合でもMEN1 やVHL が否定されるとは限らないことには注意が必要である。また,頻度は低いが意義不明のバリアント(variant of unknown significance;VUS)が同定されることもあり,この場合の解釈は遺伝の専門家の協力を仰ぐことが望ましい。

MEN1 やVHL を発症していない血縁者に対する発症前遺伝学的検査は,事前に適切な遺伝カウンセリングを行った後に実施する必要がある。特に未成年者に対する発症前検査にあたっては,本人に代わって検査の実施を承諾することのできる立場にある者の代諾を得る必要があるが,その場合でも被検者の理解度に応じた説明を行い,本人の了解(インフォームド・アセント)を得ることを原則とする。

文献

1)
Thakker RV, Newey PJ, Walls GV, et al. Clinical practice guidelines for multiple endocrine neoplasia type 1(MEN1) . J Clin Endocrinol Metab. 2012; 97(9): 2990-3011.
2)
NCCN Guidelines: Neuroendocrine tumors.
https://www.nccn.org/
3)
Manoharan J, Raue F, Lopez CL, et al. Is routine screening of young asymptomatic MEN1 patients necessary? World J Surg. 2017; 41(8): 2026-2032.
4)
執印太郎,「多彩な内分泌異常を生じる遺伝性疾患(多発性内分泌腫瘍症およびフォン・ヒッペル・リンドウ病)の実態把握と診療標準化の研究」班 編.フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病診療ガイドライン2017 年版.
http://www.kochi-ms.ac.jp/̃hs_urol/pdf/vhl_2017ver.pdf

第1章 診断→