治療ガイドライン

第2章 卵巣癌・卵管癌・腹膜癌

総説

本邦の卵巣悪性腫瘍は増加傾向にあり,2014 年には10,001 人と報告されている1)。同腫瘍による死亡者数は横ばいで,2018 年は4,784 人であり,女性生殖器悪性腫瘍の中で最も死亡者数の多い疾患である1)。本邦の卵巣悪性腫瘍の90%以上は上皮性すなわち卵巣癌である2)。卵巣癌は,初期には自覚症状に乏しく,Ⅲ・Ⅳ期症例が40%以上を占める3)。卵巣癌Ⅲ・Ⅳ期症例の予後は不良で,2011 年初回治療例の5 年生存率は48.2%,30.5%である3)。よって,進行症例における治療成績の向上が卵巣癌治療の重要な課題となっている。

卵巣悪性腫瘍の組織型

卵巣癌の組織型は,漿液性癌,明細胞癌,類内膜癌,粘液性癌,悪性ブレンナー腫瘍,漿液粘液性癌,未分化癌に分類される4)。卵巣癌は単一疾患ではなく,組織学的な特徴,および遺伝子背景や生物学的態度の異なる複数の腫瘍からなる。本邦における卵巣癌の各組織型の割合は漿液性癌33.2%,明細胞癌24.4%,類内膜癌16.6%,粘液性癌9.1%である2)

漿液性癌は,高異型度漿液性癌(high-grade serous carcinoma;HGSC)と低異型度漿液性癌(low-grade serous carcinoma;LGSC)の2 つに分けられ,別個の生物学的特性を有し,前者が圧倒的多数を占める。HGSC は多くが進行癌として発見され,化学療法薬剤感受性が高いものの,再発をきたす頻度が高く予後不良である5)TP53 変異や高度のゲノム不安定性を示し,KRAS およびBRAF の変異がみられる頻度は低い6)。20%程度の症例に生殖細胞系列ないし体細胞のBRCA1 あるいはBRCA2 の変異を認める7)。LGSC は,両側性発生の頻度が高く進行癌も稀ではない。卵巣に限局する症例は予後良好であるが,化学療法薬剤感受性は低く,残存腫瘍径が1 cm をこえる場合は,1 cm 以下のものに比して無病生存期間および全生存率が低下する8)。LGSC は漿液性境界悪性腫瘍を前駆病変として発生し,KRASBRAF 変異を認める頻度が高いが,通常TP53 変異はみられない9, 10)

明細胞癌は,約半数がⅠ期と進行例は少ないが,化学療法薬剤感受性が低い。高カルシウム血症や血栓症を合併することがある。多くは子宮内膜症を背景に発生し,ほぼ半数にARID1APIK3CA の変異がそれぞれみられる11, 12)

類内膜癌の多くは低異型度であり,進行例は少ない13)。しばしば子宮内膜症を発生母地とするが,類内膜腺線維腫からの進展を示すものがある。ARID1A, PIK3CA, CTNNB1/β-catenin 異常のほかマイクロサテライト不安定性がみられる14)

粘液性癌は,粘液性腺腫から境界悪性腫瘍を経て癌に進展するという腺腫−癌シークエンス説が成り立つと考えられている。高頻度にKRAS 変異がみられる14)。片側性で腫瘍径が10 cm をこえる大型の多房性囊胞を形成することが多い。進行例は少ないが,化学療法薬剤感受性が低い14, 15)

悪性ブレンナー腫瘍は良性・境界悪性からの組織発生を示唆されるものと,それらとの関連が証明できないものに分けられる。

漿液粘液性癌は新たに設定された組織型であるが,稀であり,未だその特性は不明である。

治療方針の決定にあたっては組織型,進行期とともに腫瘍の組織学的異型度/Grade が重要である。Grade 分類にはFIGO 分類16),GOG 分類17)などが挙げられるが,世界的に普遍性の高い分類は存在しない。明細胞癌はそれ自体が高異型度でありGrade 分類の対象外とされる。粘液性癌の多くはGrade 1 またはGrade 2 で,Grade 3 は例外的である。類内膜癌は,子宮体部内膜の類内膜癌と同様に構築と核異型によってGrade を決定する17)。悪性ブレンナー腫瘍は膀胱の尿路上皮癌と同様に主に細胞異型によってGrade を評価する。未分化癌はGrade 4 として取り扱われる。

卵管癌と原発性腹膜癌(腹膜癌)

卵管癌の大部分はHGSC で,女性生殖器に発生する悪性腫瘍の約1%を占めるに過ぎない稀な腫瘍と考えられてきた。しかし,近年,sectioning and extensively examining the fimbriated end(SEE-FIM) protocolによる詳細な検索法を含む研究の結果,従来「卵巣原発のHGSC」とされてきた症例のうち少なくとも約半数は卵管原発と考えられるようになった。したがって,卵管癌の頻度はこれまで過小評価されてきたものと考えられる。なお,卵管HGSC の前駆病変は漿液性卵管上皮内癌(serous tubal intraepithelial carcinoma;STIC)である18)

従来「腹膜癌」とされてきたものは,ほとんどがHGSC であるが,これらの中にも実際には卵管原発のものが含まれている可能性が論じられている。近年,HGSC の原発巣決定の基準が提案され,卵管および卵巣の詳細な組織学的検索でこれらの臓器に原発巣と考えられる病変を欠く場合にのみ腹膜原発と診断することが主流となりつつある19, 20)

手術療法

手術の目的は,原発巣および病理組織学的診断の確定,進行期の決定と最大限の腫瘍減量を行うことである(CQ01CQ02)。

手術の完遂度は治療因子の中でも特に重要な予後因子である。進行癌では,術後の残存腫瘍径は予後と相関し,suboptimal surgery よりoptimal surgery,optimal surgery よりcomplete surgery は予後良好との報告が多い21)。したがって,手術に際しては病巣の完全摘出を目指した最大限の腫瘍減量(maximal debulking surgery)を行うのが原則である。Complete surgery 遂行のためには婦人科腫瘍専門医制度指定修練施設,あるいは婦人科腫瘍専門医が常勤し外科・泌尿器科などとの連携が十分に取れる施設での手術を推奨する。一方で,広汎な腹膜播種や転移巣を伴うなど完全摘出が不可能と予想される症例,全身状態不良症例,血栓症などの重篤な合併症がある症例に対しては,術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy;NAC)を施行後の手術(interval debulking surgery;IDS)を考慮する。NAC+IDS とprimary debulking surgery(PDS)のランダム化比較試験(randomized controlled trial;RCT)の結果からも,症例により NAC+IDS が推奨される22, 23) CQ02CQ04CQ05)。必要に応じて腫瘍内科医(自施設外でも可)の意見を求め,集学的治療が行える施設での治療を推奨する。

妊孕性温存手術は,病理組織学的・臨床的条件を十分に考慮し,病巣の完全摘出や進行期の決定をできるだけ損なうことなく実行される必要がある(CQ06)。また,本邦で臨床試験(JCOG1203)24)が進行中で,その結果が待たれる。

術前評価,術中所見で術式決定が困難な場合は,術中迅速病理診断が治療方針を決定する上で重要である(CQ09)。しかしながら,術中迅速病理検査で卵巣癌と確定し得ず手術を終了し,術後病理検査において卵巣癌と判明した症例に対しては,再開腹による進行期決定開腹手術(staging laparotomy)の施行が推奨される(CQ10)。

卵巣癌に対する腹腔鏡下手術は,現在のところ前方視的研究がないこと,後方視的研究も症例数が少ないケースコントロール研究であること,症例の選択方法が定まっておらずバイアスが大きいことから,一般臨床で奨めるに足るエビデンスがあるとは言えない。また,現時点で保険収載もされておらず,研究的治療に位置づけられる(CQ07)。

BRCA1 あるいはBRCA2BRCA1/2)変異保持女性は,乳癌および卵巣癌の発症リスクが高まることが知られており,遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and/or ovarian cancer;HBOC)と呼ばれ,常染色体優性の遺伝形式をとる。卵巣癌に関しては,BRCA1 変異で生涯発症率は40〜60%程度,BRCA2 変異で20%近くといわれる25, 26)。これらの変異が判明している女性に対しては,リスク低減卵管卵巣摘出術(risk-reducing salpingo-oophorectomy;RRSO)を施行することが推奨されている 27)CQ23)。このBRCA1/2 変異の検査をどのような人に奨めるべきであるかは,十分な問診と家族歴を聴取した上で決定される。NCCN ガイドライン2018 年版では,表8 のような条件を満たす場合が一次検査基準とされている。

表8 遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)の一次検査基準

付記 HBOC における遺伝カウンセリング

BRCA1/2 変異保持卵巣癌患者に対してPARP 阻害薬が初回治療後の維持療法として保険適用となり,産婦人科医がHBOC の遺伝カウンセリングに関わる機会が増えている。施設によりカウンセリングの体制は異なるが,主治医はHBOC の概要として少なくとも① HBOC はBRCA1/2 の生殖細胞系列における変異に起因すること,②常染色体優性遺伝形式を示し,親から子に受け継がれる確率は50%であること,③乳癌,卵巣癌,膵癌,前立腺癌の発症リスクが高いこと,④浸透率は100%ではないこと,⑤初回治療後のメンテナンスにPARP 阻害薬を用いる場合にはBRCA1/2 変異があることが保険適用の条件であること,を患者が理解できるように説明する。その上で,さらなる説明やカウンセリングを希望する患者には,主治医自身が対応(主治医が臨床遺伝専門医などで対応能力がある場合)するか,認定遺伝カウンセラーや臨床遺伝専門医に引き継ぐ。

付記 卵巣癌と静脈血栓塞栓症

卵巣癌は,他癌腫と比べて血栓塞栓症の発症リスクが高く,周術期管理には注意が必要である。そのため,術前に血栓塞栓症の存在を検索することが重要で,Wells score やD ダイマーの測定が血栓塞栓症の予知に有用である28, 29)。下肢超音波断層法検査や造影CT で血栓塞栓症が判明した場合には,抗凝固療法を行う。抗凝固療法を行うことができない場合や十分な抗凝固療法中での肺塞栓症の増悪・再発例に対しては,下大静脈フィルターの留置を検討する。

2014 年の米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology;ASCO)の『静脈血栓塞栓症予防ガイドライン』では,悪性腫瘍手術を行う際の血栓塞栓症の予防として,低用量未分画ヘパリンまたは低分子量ヘパリンを用い,弾性ストッキングや間欠的空気圧迫法などの理学的予防法を薬物療法と併用して行うことが推奨されている。術後血栓塞栓症の高リスク因子としては,血栓の既往,運動制限,肥満が挙げられており,このような症例には抗凝固療法を行うことが推奨されている30)。本邦で保険適用がある低分子量ヘパリン(エノキサパリン)の添付文書には「国内臨床試験において,15 日間以上投与した場合の有効性及び安全性は検討されていない」と記載されている点に留意する。

化学療法

シスプラチンの登場により卵巣癌の治療成績は向上したが31),進行卵巣癌(Ⅲ・Ⅳ期)の5年生存率はおよそ20%台にとどまり,女性生殖器悪性腫瘍の中でも最も予後不良とされた。その後,パクリタキセルが導入されたことにより,進行卵巣癌の5 年生存率が明らかに改善していることがNational Cancer Institute(NCI)のSurveillance, Epidemiology, and End Results(SEER) で確認された 32)

一方,予後改善を目指して標準化学療法であるパクリタキセル+カルボプラチン(conventional TC;以下TC)療法に代わる新規化学療法レジメンの開発のために様々な臨床試験が行われた(CQ11)。TC 療法に新規薬剤を加えた大規模試験(GOG182-ICON5)が実施されたが,TC 療法をこえる有効性は認められなかった。TC 療法に対して全生存期間(overall survival;OS)を延長したレジメンは,腹腔内化学療法(intraperitoneal chemotherapy;IP 療法)とパクリタキセルの毎週投与法(dose-dense TC 療法;ddTC 療法)である。

シスプラチンによるIP 療法が静脈内投与に比べて有意に生存の改善に寄与するという複数のRCT とメタアナリシス33, 34)の結果が欧米から報告されている。しかし,これらの試験では純粋に投与方法を置き換えただけの比較がされておらず,IP 群の毒性が過剰な点や,標準治療群が現在の標準治療であるTC 療法でないという問題点があった。そこでIP 療法のベバシズマブ投与下での有効性を検証するために,GOG252 試験(NCT00951496)が行われた。無増悪生存期間(progression free survival;PFS),OS ともにIP 療法の有効性は認められなかった(CQ17)。

婦人科悪性腫瘍研究機構(Japanese Gynecologic Oncology Group;JGOG)主導で行われたTC 療法とddTC 療法のRCT(JGOG3016)の結果,ddTC 療法群で有意にPFS およびOS の延長を認めた。その後ddTC 療法に関する追試が2 試験行われた(GOG262, ICON8)。GOG262 試験(NCT01167712)ではベバシズマブの使用が交絡因子として影響が大きいため,結果の解釈には注意を要する。また,ICON8 試験(NCT01654146)ではddTC 療法の優越性は示されなかったため,JGOG3016 試験との結果の乖離が特に議論の対象になる。しかし,日本人を対象としたJGOG3016 試験でPFS のみならずOS でも大きな有意差がみられており,ddTC 療法は本邦では標準治療の一つと考えられる(CQ11)。

殺細胞性薬物療法の検討に続き,卵巣癌領域でも分子標的治療薬の導入が進められた。血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor;VEGF)に対する抗体薬であるベバシズマブの有用性が検証された。TC 療法+ベバシズマブ併用/維持療法についてGOG218 試験(NCT00262847)とICON7 試験(NCT00483782)が行われ,両試験ともにTC 療法+ベバシズマブ併用/維持療法においてTC 療法と比較して主要評価項目のPFS の延長が示されたが,OS の有意な延長は認められなかった。これらの結果からⅢ・Ⅳ期症例ではTC 療法+ベバシズマブ併用/維持療法も標準治療の一つとなるが,使用する際には慎重な患者選択と適切な有害事象のモニタリングが必要である(CQ11)。

続いて初回治療において有用性が示されたのは,PARP 阻害薬のオラパリブである。TC療法+オラパリブ維持療法の有効性は,SOLO-1 試験(NCT01844986)において検証された。BRCA1/2変異を有する患者を対象に,TC 療法後のオラパリブ維持療法とプラセボ投与が比較され,3 年無増悪生存率はオラパリブ維持療法で著明に改善された。初回治療におけるオラパリブ使用に際してはBRCA1/2 の遺伝学的検査が必要となるが,日本婦人科腫瘍学会からの見解(卵巣癌患者に対してBRCA1 あるいはBRCA2 の遺伝学的検査を実施する際の考え方,https://jsgo.or.jp/opinion/02.html)を十分に理解した上で行うことが必要である。また,他のPARP 阻害薬の初回治療における有効性も報告されている(CQ11, CQ12, CQ13)。

組織型により化学療法薬剤に対する感受性が異なることが注目されてきており,明細胞癌と粘液性癌は,漿液性癌や類内膜癌に比べてTC 療法による奏効率が明らかに低いことが報告されている。特に明細胞癌は本邦と欧米においてその発生頻度が大きく異なる。明細胞癌を対象としたTC 療法とイリノテカン+シスプラチン(CPT-P)療法を比較するJGOG 主導による初の国際共同臨床試験(GCIG/JGOG3017 試験)が実施された。最終解析の結果,TC 療法とCPT-P 療法の間でPFS ならびにOS において有意な差は認められなかった(CQ16)。

粘液性癌に関しては,mEOC trial/GOG241 試験において,TC 療法とオキサリプラチン+カペシタビン併用療法とを比較した第Ⅲ相RCT が行われたが,オキサリプラチン+カペシタビン療法の有効性は示されなかった。これらの結果から,粘液性癌に対し消化器癌で用いられている化学療法の有効性は示されていない(CQ16)。

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CQ01
Ⅰ期からⅡA 期と考えられる患者に対して,どのような進行期決定開腹手術が奨められるか?

エビデンスレベルB
  1. 両側付属器摘出術+子宮全摘出術+大網切除術+腹腔細胞診+腹腔内各所の生検に加え,骨盤・傍大動脈リンパ節郭清(生検)を実施することを推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルC
  1. 腹腔内の生検は,播種が疑われる部位に加え,ダグラス窩,壁側腹膜,横隔膜表面,腸管や腸間膜表面から採取することを提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 100%)

目的

病巣が卵巣に限局していると予想される症例でも,進行期決定開腹手術(staging laparotomy)によって腹膜播種や後腹膜リンパ節転移が病理組織学的にわかりⅡ・Ⅲ期となる症例がある。Ⅰ期からⅡA 期と考えられる卵巣癌に対する適切な術式について検討する。

解説

骨盤内に限局した早期卵巣癌に対するRCT は 1 件のみである。Optimal(最大残存腫瘍径1 cm 未満)に腫瘍減量できた症例を対象に,系統的リンパ節郭清群とコントロール群(骨盤・傍大動脈リンパ節生検)をリンパ節転移の有無を主要評価項目として比較した1)。郭清群とコントロール群のリンパ節転移率は,Ⅰ期相当では18%と4%,Ⅱ期相当では31%と20%で,郭清群ではより多くの転移リンパ節が摘出されていると考えられた。しかし,系統的リンパ節郭清はOS,PFS のいずれの改善にも寄与しなかった(HR 0.85, 0.72)。この試験はRCT であるものの,手術の質が担保されていない,郭清群において片側の腫瘍に対しては片側のみのリンパ節郭清が許容されている,主要評価項目がOS ではなくリンパ節転移の有無である,といった問題点が存在する。

pT1,pT2 卵巣癌の14 文献のメタアナリシスではリンパ節転移を平均14.2%(6.1〜29.6%)に認め,骨盤内リンパ節単独転移を2.9%,傍大動脈リンパ節単独転移を7.1%,骨盤内リンパ節・傍大動脈リンパ節双方への転移を4.3%に認めており2),リンパ節郭清は早期卵巣癌において正確なステージングに寄与する。組織型別・Grade 別にみた後腹膜リンパ節への転移頻度に関して,組織型では漿液性癌で頻度が高く(23.3%),粘液性癌で頻度が低く(2.6%),Grade は高いほど頻度が高いと報告されている2)。Ⅰ期からⅡA 期推定の場合は系統的郭清によりアップステージする可能性があり,治療方針や予後に関する患者への情報提供の内容に影響する可能性がある。

進行期分類に必要な基本的検査である腹腔細胞診は,採取する腹水が十分ある場合は腹水の性状や量を確認し採取する。腹水を認めない場合は,十分量の生理食塩水で腹腔内全体を洗浄し採取する。

大網の切除法には,横行結腸下で切除する大網部分切除術,胃大網動静脈直下で切除する大網亜全切除術,胃大網動静脈も切除する大網全切除術がある。三者のうち,どの術式が最も推奨されるかを示す文献はない。しかしながら,早期卵巣癌と術中診断された症例の2〜7%に大網転移があることから,早期卵巣癌に対しても大網部分切除術は必須である3, 4)

腹腔内各所の生検を積極的に行うことは,正しい進行期の決定に際し重要である。開腹時に腹腔内各所を十分に観察し,播種病巣を疑う場合には,ダグラス窩,膀胱腹膜,左右骨盤側壁,左右傍結腸溝,右横隔膜の腹膜生検(右横隔膜腹膜は擦過細胞診でも可)が推奨される5)。卵巣癌127 例に対して腹膜のランダム生検を行った結果,6 例(5%)がⅡ期に,3 例(2%)がⅢA2 期にアップステージしたとの報告がある4)

虫垂は,粘液性癌の場合において虫垂原発癌との鑑別のため切除術を考慮する6-8)。卵巣の粘液性癌では42 例中2 例(5%)が虫垂癌からの転移との報告がある9)。卵巣癌における虫垂切除の意義は確立していないが,2.8%に肉眼的に正常な虫垂への転移を認めたという報告がある6)。一方で,肉眼的に虫垂に異常がなければ粘液性癌でも虫垂切除は不要との報告もある9, 10)。また,虫垂切除術が以前に行われていても粘液性卵巣癌の発生頻度の低下にはつながらないとの報告もある11)

癌の広がりを検索するstaging laparotomy は,病理組織学的に進行期を決定し,術後治療の適応となる症例を抽出する観点から奨められる術式であり,staging laparotomy 自体が予後を直接改善するかどうかのエビデンスは未だにないのが現状である。

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CQ02
術前にⅡB 期以上と考えられる患者に対して,primary debulking surgery(PDS)は奨められるか?

エビデンスレベルA
  1. 肉眼的残存腫瘍がない状態(complete surgery)を目指した最大限の腫瘍減量手術(debulking surgery)を推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルC
  1. 婦人科腫瘍専門医制度指定修練施設,あるいは婦人科腫瘍専門医が常勤し,外科・泌尿器科・腫瘍内科医などとの連携が十分に取れ,集学的治療が行える施設で実施することを推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 94%)

目的

進行卵巣癌に対して推奨される手術術式を検討する。
☞リンパ節郭清(生検)に関してはCQ03 を参照

解説

進行癌における手術の基本は,腹腔内播種や転移病巣の可及的摘出を行うdebulking surgery である。

最大残存腫瘍径と予後は相関するとされ,PDS によって最大残存腫瘍径1 cm 未満にできた場合をoptimal surgery,1 cm 以上の場合をsuboptimal surgery とすることが多く,optimal surgery を行うことで予後が改善するとされている 1-3)。さらに,complete surgery として肉眼的残存腫瘍のない状態にできた場合には,1 cm 未満にできた場合のoptimal surgery より有意に予後が改善することが示されている4-6)

進行例に対するPDS には定型的な方法・手順というものは存在しない。播種・転移臓器にかかわらず可能な限りの腫瘍摘出を行い,腫瘍減量を図ることが基本である。播種や転移病巣に対して,膀胱子宮窩,ダグラス窩,傍結腸溝などの各種の腹膜播種病巣を,周辺腹膜とともに切除することを考慮する7)。Optimal surgery を達成することにより予後改善が見込めるため,ダグラス窩部位での直腸への浸潤,S 状結腸への浸潤,大網播種病巣の横行結腸への浸潤・進展,小腸への浸潤・転移を認めた場合は,積極的に腸管部分切除・再建術を考慮する8, 9)。その場合,切除部位によっては人工肛門造設を要する場合もあることを十分に説明しておく。また,虫垂は,粘液性癌の場合において虫垂原発癌との鑑別のため切除術を考慮する10)

横隔膜への播種病巣を認めた場合には,stripping もしくはfull-thickness resection を考慮する11)。横隔膜の播種病巣を切除することでcomplete surgery の達成率が高まる12)。脾臓への浸潤を認めた場合には,脾臓摘出術も考慮する13)。そのほか,上腹部に播種病巣が進展・拡大している場合にも,肉眼的に完全摘出できた例の予後は改善されるため,積極的にcomplete surgery の遂行を目指す2, 5)

Complete surgery 遂行のためには婦人科腫瘍専門医制度指定修練施設,あるいは婦人科腫瘍専門医が常勤し,外科・泌尿器科などとの連携が十分に取れる施設での手術を推奨する。進行卵巣癌においてPDS を行う際にcomplete surgery にできた割合は,腫瘍専門施設が60%であったのに対し,非腫瘍専門施設では25%と有意な差があることが報告されている14)。また,多職種で婦人科腫瘍治療を集学的に行うことが予後を改善するとのシステマティックレビューがある15)

さらに,術後の化学療法や分子標的治療薬によるメンテナンス,再発時の治療薬剤選択などに備え,必要に応じて腫瘍内科医(自施設外でも可)の意見を求め,集学的治療が行える施設において卵巣癌治療を行うことを推奨する。

付記 高齢者に対する手術術式

高齢者の年齢の定義はないが,高齢者においても肉眼的残存腫瘍がない状態(complete surgery)を目指した,最大限の腫瘍減量手術(debulking surgery)を行うことが望ましい。全身状態,栄養状態,合併症の状態を加味して手術プランを立てることが重要である。

高齢になると,合併症の増加,心肺機能の低下から周術期合併症が増加するので注意が必要となる16)。卵巣癌術後30 日以内の死亡率は,70 歳未満で1.5%であるのに対し,70〜79 歳では6.6%,80 歳以上で9.8%と上昇する。死亡の原因として,術後感染,出血(24%),呼吸不全(18%),心不全(13%),血栓・塞栓症(11%)が挙げられる17)。両側付属器摘出術+子宮全摘出術+大網切除術の基本術式だけではなく,腸管部分切除術,横隔膜切除術,脾臓摘出術など手術の複雑性が増すごとに周術期合併症が増加するので,術後管理に注意が必要である18)。年齢だけを基準として術式を決定するのではなく,全身状態や栄養状態,診断時のステージを考慮して術式を決定する。

進行卵巣癌では,米国のNational Cancer Database から抽出した75 歳以上(中央値79 歳)の卵巣癌患者9,339 名のうち,PDS が行われず化学療法単独治療の961 名(Ⅲ〜Ⅳ期98.3%)と比較し,IDS を施行したNAC 治療の700 名(Ⅲ〜Ⅳ期91.3%)の予後は有意(HR 0.44)に良好であった。IDS ができる全身状態の患者であることが予後を良くしているかもしれないが,IDS ができる全身状態の患者に,高齢を理由としてNAC を避けるべきではないとは言えよう19)

全身状態はperformance status(PS)(表9)やThe American Society of Anesthesiologists(ASA)physical status classification system(表10)で評価し,ASA のClass 3 以上(PS 3 以上に相当)の全身状態や血清アルブミン3.0 g/dL 未満のような低栄養状態およびⅢ・Ⅳ期の進行症例に対しては,特に配慮が必要になる16, 20)。このような症例には2〜3 サイクルのNAC を行ってから手術を考慮する。全身状態や栄養状態が改善したのち,IDS としてcomplete surgery を行う21)

表9 ECOG PS(Eastern Cooperative Oncology Group performance status)

表10 ASA physical status classification system

参考文献

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CQ03
Systematic Review
ⅡB 期以上と考えられる患者に対する初回手術で,骨盤・傍大動脈リンパ節郭清は奨められるか?

エビデンスレベルB
  1. 画像検査および術中の触診と視診により臨床的にリンパ節転移を認めない場合は,骨盤・傍大動脈リンパ節郭清を実施しないことを提案する。
    推奨の強さ 2 (↓)(合意率 95%)
エビデンスレベルB
  1. 画像検査や術中の触診と視診により臨床的にリンパ節転移を認める場合は,肉眼的完全手術が達成できた場合に,骨盤・傍大動脈リンパ節郭清または腫大リンパ節の摘出を実施することを推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)

明日への提言

推奨①は,LION 試験によるところが大きいが,LION 試験では明細胞癌の頻度は低い。本邦で頻度の高い明細胞癌に関しては系統的リンパ節郭清の治療的意義は不明であり,ⅡB 期以上の明細胞癌患者を対象とした臨床試験によりその意義を検証する必要がある。


目的

ⅡB 期以上と考えられる患者には,系統的な骨盤・傍大動脈リンパ節郭清は腫瘍減量および正確なステージングのために行われているが,治療的な意義は確立していない。システマティックレビューを行うことにより,系統的リンパ節郭清の意義を明らかにする。

解説

後方視的な進行卵巣癌の観察研究7 件1-7),早期卵巣癌の観察研究2 件8, 9)を用いてメタアナリシスを行った。リンパ節郭清がOS を改善するという結果が進行卵巣癌(HR 0.74),早期卵巣癌(HR 0.64)のいずれにおいても示された。これまで,後方視的観察研究の結果に基づき系統的リンパ節郭清が行われてきた。しかし,観察研究には高齢,PS 不良,合併症,重大な既往症などの理由で系統的リンパ節郭清が行われなかったというバイアスが存在するため非郭清群の予後が不良となった可能性がある。

そこで,本CQ に対する推奨の作成にあたっては3 つのRCT を主たるエビデンスとして検討した。進行卵巣癌はLION 試験(NCT00712218)10),Panici らの試験11),骨盤内に限局した初期卵巣癌はMaggioni らの試験12)である。

LION 試験は腫瘍の肉眼的完全切除が達成され,術前および術中所見でリンパ節に転移が疑われないⅡB 期〜Ⅳ期を対象とし,骨盤・傍大動脈リンパ節郭清群の非郭清群に対する優越性の検証を目的としたRCT である。Panici らの試験はⅢB〜Ⅳ期を対象とし,骨盤・傍大動脈リンパ節郭清群のコントロール群(直径1 cm 以上の腫大リンパ節はできるだけ摘出)に対する優越性の検証を目的としたRCT である。進行卵巣癌はこの2 試験を対象に解析を行った。

進行卵巣癌において系統的リンパ節郭清はOS を改善させなかった(HR 1.02)。また,系統的リンパ節郭清はPFS の改善にも寄与しなかった(HR 0.92)。LION 試験は画像上リンパ節腫大がない症例のみが対象であり,腹腔内病変がすべて摘出できたときに初めてランダム化され,手術の質が担保されていることから,系統的リンパ節郭清の意義を評価するにあたりバイアスが少ない。一方,Panici らの試験には,約60%の症例において手術時に腹腔内の腫瘍残存がある,コントロール群で腫大リンパ節の摘出が許容されている,手術の質が担保されていない,というバイアスリスクが存在する。LION 試験ではリンパ節郭清群の55.7%にリンパ節転移が認められ,非郭清群でも同程度の患者にリンパ節転移があったと推測されるにもかかわらず,生存期間中央値は郭清群で65.5 カ月,非郭清群で69.2 カ月と差はなく,系統的リンパ節郭清の治療的な意義はないことが示された10)。本邦で頻度が高い明細胞癌はLION 試験では647 例中14 例(2.2%),Panici らの試験では427 例中16 例(3.7%)である。明細胞癌240 例の後方視的な解析では,早期症例,進行例ともにリンパ節郭清群は非郭清群に比較して予後が良いとの報告があるが13),RCT による進行明細胞癌に対するリンパ節郭清の治療的意義の検討は不十分である。

進行卵巣癌で臨床的に転移が疑われる腫大リンパ節がある場合,腫瘍の肉眼的な完全摘出が予後を改善することから14),腹腔内病変が外科的に制御できたときには最大限の腫瘍減量を目指したリンパ節摘出・郭清が考慮される。一方,肉眼的完全手術が達成できなかった場合は,転移があると考えられるリンパ節の摘出が腫瘍減量になると判断した場合にはリンパ節の摘出を行い,画像や術中所見から転移を疑う腫大リンパ節がない場合には行わないことを考慮する。

3 つのRCT を対象として有害事象の検討を行った。LION 試験ではリンパ節郭清群において術後60 日以内の死亡率が有意に高かったが10),メタアナリシスではリンパ節郭清による手術に関連した死亡率への影響は認められなかった〔risk ratio(RR)0.99〕。リンパ節非郭清群は輸血を必要とした症例が有意に少なかった(RR 0.80)。また,LION 試験においてはリンパ節郭清群で有意に感染,リンパ囊腫,合併症による再開腹の割合が高かった10)

以上より進行卵巣癌で臨床上リンパ節転移が疑われない場合は,系統的リンパ節郭清は予後の改善に寄与せず有意に有害事象が多いことから,骨盤・傍大動脈リンパ節郭清を実施しないことを提案する15)。ただし,本邦で頻度の高い明細胞癌に関しては系統的リンパ節郭清の治療的意義は不明であり,今後の検証が必要である。

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CQ04
初回手術(PDS)でsuboptimal surgery となった進行例に対して,interval debulking surgery(IDS)は奨められるか?

エビデンスレベルC
IDS を提案する。
推奨の強さ 2 (↑)(合意率 95%)

明日への提言

IDS に関するRCT は,現在の標準レジメンであるパクリタキセルとカルボプラチン併用化学療法(TC 療法)が行われていない。さらに分子標的治療薬によるメンテナンスが実臨床で行われるようになっており,IDS の意義について改めて検討する必要がある。


目的

初回手術がsuboptimal surgery となった場合,その後の化学療法中に再び腫瘍減量手術(IDS)を施行することで,予後改善が期待できるかを検討する。

解説

初回手術時に最大残存腫瘍径が1 cm 未満とならなかったsuboptimal 症例に対して,化学療法中に再び腫瘍減量手術(IDS)を行うことの有用性が検討されている。その意義については,予後の改善が期待できるとする報告1)と,期待できないとする報告2, 3)があり,現時点では一定の見解は得られていない。

初回手術時にsuboptimal となった症例に対して,IDS の予後改善の意義を検討したRCT には次の3 つがある。

最初の報告である多施設共同研究では2),初回手術で最大残存腫瘍径が2 cm 以上である86 例のⅡ〜Ⅳ期の卵巣癌症例に対して,シスプラチン併用化学療法を1〜4 サイクル施行,IDS 施行群と非施行群にランダム化し予後を比較した。その結果,IDS 施行群と非施行群のOS の中央値はそれぞれ15 カ月と12 カ月であり,両群間に有意差を認めなかった。しかし,本研究は全体の登録患者数が少ない上,IDS 群に割り付けられた37 人中12 人がIDS を受けておらず,IDS による予後改善が期待できないとする根拠としては弱い。

EORTC-GCG 試験1)は,初回手術で最大残存腫瘍径が1 cm 以上となった425 例のⅡb〜Ⅳ期卵巣癌症例に対して,シクロホスファミド+シスプラチン併用化学療法を3 サイクル施行し,腫瘍縮小(complete response;CR,partial response;PR)を認めた319 症例を対象とし,RCT によりIDS の予後への効果を評価した試験である。その結果,IDS 施行群は非施行群に対し,OS を有意(HR 0.67)に改善した。

GOG152 試験3)は,初回手術で最大残存病巣1 cm 以上となった550 例のⅢ・Ⅳ期卵巣癌症例に対するIDS の予後改善への有用性を検討した試験である。PDS 後パクリタキセル+シスプラチン併用化学療法を3 サイクル後にランダム化できた448 例に対し,その後引き続き化学療法のみを施行した群とIDS 施行後に化学療法を施行した群との間で,PFS,OS ともに有意差が認められない結果であった。

これらの3 つの研究を統合した781 人の患者を対象としたメタアナリシスでは,両群間で死亡リスクの有意差は認めていない4)

GOG152 試験とEORTC-GCG 試験を比較すると,Ⅳ期症例は6%と22%でEORTC-GCG 試験の方が多く,PDS 時の残存腫瘍径2 cm 以下,2.1〜5.0 cm,5 cm 超の割合はそれぞれ12%と5%,43%と23%,44%と72%でEORTC-GCG 試験の方が最大残存腫瘍径が大きい傾向にある3)。このことから,より進行した患者でPDS 時の残存腫瘍径が大きい症例ほど,IDS が予後改善に寄与する可能性がある。以上より,PDS 時の残存腫瘍径が大きく,術後化学療法の効果が高い患者ほどIDS の治療効果が期待できる。

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CQ05
Systematic Review
進行例に対して,primary debulking surgery(PDS) の代わりに術前化学療法(NAC) +interval debulking surgery(IDS)を行うことは奨められるか?

エビデンスレベルB
Optimal surgery が困難あるいは不可能と予測される進行卵巣癌に対して,NAC+IDS を推奨する。
推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)

明日への提言

本邦でも,predictive index スコア1)など客観的な評価方法を日常診療に導入した上で,PDS の手術完遂率,術前化学療法(neoadjuvant chemotherapy;NAC)+IDS の選択基準,患者予後などを施設ごとに検証すべきである。


目的

進行卵巣癌の初回治療において,NAC 後にIDS を施行することはPDS と比べて推奨できるかを,システマティックレビューを行うことにより検討する。

解説

2010〜2018 年のPDS とNAC+IDS を比較した前方視的試験は,EORTC55971/NCIC-OV13 試験2), CHORUS 試験3), JCOG0602 試験4, 5), SCORPION 試験6, 7)の4 試験である8)。それら4 試験において,化学療法のレジメンはタキサン製剤とプラチナ製剤の併用がそれぞれ86%,66%,100%,99%であり,残りはほとんどがプラチナ製剤単独であった8)。IDS の際の後腹膜リンパ節郭清に関しては,有用性の有無に関するエビデンスがない。EORTC55971/NCIC-OV13 試験はⅢC/Ⅳ期2),CHORUS 試験3)およびJCOG0602 試験4)はⅢ/Ⅳ期を対象とし,NAC+IDS 群はPDS 群に比して PFS(HR はそれぞれ 1.01, 0.91, 0.99),OS(HR はそれぞれ 0.98, 0.87, 1.05) とも同等で,グレード 3/4 の重篤な有害事象のリスク(OR はそれぞれ0.30, 0.49, 0.29)および手術28 日以内の死亡リスク(OR はそれぞれ0.24, 0.08, 0.31)は低かった8)。しかし,これら3 試験において,PDS 群でoptimal surgery であった割合はそれぞれ41%, 41%, 38%,またcomplete surgery であった割合は19%, 17%, 12%と低かった。したがって,これら3 試験では,PDS によってoptimal あるいはcomplete surgery が達成可能な症例において,PDS を行わずにNAC+IDS を行った場合に生存期間の点で劣っていないかどうかを評価することは困難である。

一方,SCORPION 試験6, 7)は,診断的腹腔鏡下手術によるpredictive index(PI)1)CQ08 参照)で8〜12 点の症例をPDS 群(n=84)とNAC+IDS 群(n=74)にランダム化しており,optimal あるいはcomplete surgery が容易と予測されるPI 6 点以下の症例や,optimal surgery が不可能と予測されるPI 14 点以上の症例は最初から除外されている。その結果,PDS 群におけるoptimal surgery の割合は93%(完全切除は48%)と高かったが,PDS の生存期間はNAC+IDS と同等(PFS:HR 1.06, OS:HR 1.12)であり,PDS 群では,グレード3 以上の手術合併症は,早期48%(40 例,うち死亡3 例),晩期12%(10 例,うち死亡4 例)で認められたのに比し,NAC+IDS 群では早期10%(7 例,うち死亡0 例),晩期1%(1 例,うち死亡0 例)と有意に少なかった。なお,この試験において,PDS 群における手術合併症による死亡が8%(7/84)で認められたことは,PI 8〜12 点の症例で高いoptimal surgery 率を達成するのがいかに困難であるかを示している。以上の結果より,PI 8 点以上に相当する,optimal surgery が困難あるいは不可能と予測される症例では,NAC+IDS はPDS と比較して予後に差はないが手術合併症リスクが低いことから,NAC+IDS を行うことを推奨する。また,高齢や,腹水・胸水貯留などにより全身状態が不良の症例にもNAC+IDS を行うことが考慮される。しかし,JCOG0602 試験では,PDS に比してNAC+IDS の非劣性が証明されず,NAC+IDS がPDS を完全に置き換えることができない可能性が示されている5)。したがって,PI 6 点以下に相当する,PDS によりoptimal あるいはcomplete surgery が容易であると予測される症例では,PDS が標準治療であると考えられる(CQ02 参照)。

現時点で,診断的腹腔鏡下手術はoptimal あるいはcomplete surgery の可否を判断するために最も信頼性が高い手法である1, 9)が,本邦ではまだ一般的ではない(CQ08 参照)。NCCN ガイドライン2019 年版において,PDS が妥当かNAC+IDS が妥当であるかは,習熟した婦人科腫瘍専門医による判断を推奨している10)。本邦では,卵巣癌治療は,婦人科腫瘍専門医制度指定修練施設,あるいは外科・泌尿器科・腫瘍内科医などとの連携が十分に取れ,集学的治療が行える施設において行うべきであり(CQ02 参照),PDS が妥当であるかNAC+IDS が妥当であるかの判断は,そのような施設に在籍しており卵巣癌に対する豊富な診療経験を有する婦人科腫瘍専門医が行うべきである。なお,施設の質は手術成績や患者の予後に影響を及ぼす可能性があり,登録施設を進行卵巣癌の完全切除率が50%をこえているなどの条件を満たす施設に限定してPDS とNAC+IDS を比較するTRUST 試験11)やSUNNY 試験12)が行われている。

NAC+IDS を行う場合であっても,治療開始時点で腫瘍組織を採取し,正確な病理組織学的診断を行うことが望ましい。前述の4 試験は,主に高異型度漿液性癌を対象としており,本邦に多い化学療法抵抗性の明細胞癌は2〜3%含まれているに過ぎない。組織型を考慮した治療選択を行うべきであるかは今後の課題である。また,昨今のがんゲノム診療の進歩を考慮すると,化学療法前の腫瘍組織を採取しておくことは,適切な分子標的治療薬の選択に有用であり,臨床試験への参加を検討する上でも必要である。

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CQ06
妊孕性温存を希望する患者に,温存治療は奨められるか?

エビデンスレベルB
  1. 妊孕性温存における基本的な術式として,患側付属器摘出術+大網切除術+腹腔細胞診に加えて腹腔内精査を実施することを推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルC
  1. 進行期決定開腹手術として,症例に応じて進行期決定のために対側卵巣の生検,骨盤・傍大動脈リンパ節の生検(郭清),腹腔内各所の生検を実施することを提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルB
  1. ⅠA 期かつ組織学的異型度が低い非明細胞癌の場合は,妊孕性温存治療を推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルC
  1. ⅠC1 期(片側卵巣限局)かつ組織学的異型度が低い非明細胞癌の場合,あるいはⅠA 期の明細胞癌の場合は,妊孕性温存治療を提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルB
  1. 術後の初回化学療法は,標準術式を行った場合と同様に対応することを推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)

目的

妊孕性温存を目的とする手術は,病巣の完全摘出や進行期の決定をできるだけ損なうことなく実行される必要がある。妊孕性温存症例の選択方針と術式について検討する。

解説

妊孕性温存治療に関する過去34 報告,のべ1,092 人の治療患者を解析したレビューによると,再発率はⅠA 期のうちGrade 1 が7%,Grade 2 が11%,Grade 3 が29%と算出されている。同様に,ⅠC 期ではGrade 1 が11%,Grade 2 が11%,Grade 3 が23%となる1)。また,ⅠC 期の明細胞癌とすべてのⅠ期Grade 3 症例では特に予後不良性が示されており2),妊孕性温存術式を上記病理組織学的条件のみに適応する根拠となっている。組織学的異型度は,漿液性癌が低異型度と高異型度に二分されるようになった。漿液性癌では,推奨③,④において,低異型度は組織学的異型度が低いと解釈し,高異型度は低くないと解釈して,妊孕性温存治療の適否を判断することが妥当である。ⅠC 期については,腹水細胞診陽性例や被膜表面への浸潤例では再発率が高いとする報告3)と,同じⅠC 期であれば予後に差がないとする報告がある2, 4)。組織型は明細胞癌に限らないが,妊孕性温存治療を行ったⅠA 期とⅠC1 期では予後の差がないことが示されている3)。同様に明細胞癌に関しても,ⅠA 期60 例とⅠC1 期31 例の予後を比較した検討において,両者の無再発生存期間(recurrence free survival;RFS)とOS に有意差を認めなかった5)。したがって,慎重な進行期分類がなされた明細胞癌ⅠC1 期に対して妊孕性温存手術を適応できるか否かについては議論の余地がある。これらの報告はすべて様々なバイアスを含んだ後方視的研究であることに留意する必要がある。いずれにせよ病理組織学的診断は妊孕性温存の適否を判断する根拠の一つとなることから,慎重に取り扱わなければならない。腹水細胞診,組織型,組織学的異型度を術中迅速病理診断で判定することが困難である場合には,二期的手術の可能性を含み,永久標本による正確な病理組織学的診断を待って最終的に妊孕性温存の適否を決定する必要がある。

次の臨床的条件も重視する。①患者本人が妊娠への強い希望をもち,妊娠可能な年齢であること,②患者と家族が卵巣癌や妊孕性温存治療,再発の可能性について十分に理解していること,③治療後の長期にわたる厳重な経過観察に同意していること,④婦人科腫瘍に精通した婦人科医による注意深い腹腔内検索や術後の経過観察が可能であること,などである。①については,保存的治療の主目的である妊娠・分娩が見込まれる年齢であることが重要である。②では,術後の病理組織学的診断の結果によっては妊孕性温存不可と判断し,再手術(二期的手術)もあり得ることも十分に説明しておく必要がある。

具体的な術式については症例ごとに異なるので,より慎重なインフォームド・コンセントが必要である。妊孕性温存手術を施行する場合には,患側付属器摘出術,大網切除術という基本的な術式は必須である。また,術前に子宮内膜細胞診や組織診などの評価が行われていない場合は,同時発生の子宮内膜癌を除外するための検索を行う6)

妊孕性温存手術が考慮できる患者の選択にあたっては,正確なステージングが要求される。進行期決定開腹手術に含まれる手技は,肉眼と触診による注意深い観察で正常と確信できる場合にのみ省略を考慮できる。肉眼的に被膜表面への浸潤や被膜破綻,腹膜播種の認められないGrade 1 の卵巣癌症例においては,対側卵巣への顕微鏡的転移は稀とされている7, 8)。卵巣予備能低下および術後癒着による不妊症を避けることを考慮し,肉眼的に正常な対側卵巣生検の省略は許容される。後腹膜リンパ節郭清に関して,組織型が粘液性癌または類内膜癌で骨盤内進展や腹膜播種のない場合には,転移の頻度が少ないことが報告されている9, 10)。また,リンパ節郭清による術後癒着のために妊孕性が低下する可能性があり,転移の確率が低いと臨床的に判断された場合には,生検にとどめることは許容される。一方で,漿液性癌ではリンパ節転移が30%前後9-11)と報告されている。また,明細胞癌では数%から30%近くと報告によって頻度の差が大きい9-12)。この2 つの組織型では,リンパ節郭清の省略は奨められない。

再発部位は主に対側卵巣のみと卵巣外にも再発巣がある場合に大別できる。総計545 例の妊孕性温存治療施行症例を解析した多施設共同研究によると,卵巣のみの再発例の17%(4/24 例)が治療後に再々発をきたしたのに対して,卵巣外に再発巣がある例では79%(31/39 例)が再々発に至っている13)。すなわち,卵巣外に再発を生じた場合の予後は不良であることから,細心の注意と十分な説明が欠かせない。

術後の化学療法は,標準術式を施行した場合と同様の基準で行う。プラチナ製剤を含んだ化学療法により続発性無月経が5%発生したとの報告2)はあるが,シクロホスファミドなど卵巣毒性が高度な化学療法薬剤を併用している患者が含まれている可能性がある。現在の標準療法であるパクリタキセルとカルボプラチン併用療法(CQ11)に関しては,高度な卵巣毒性は報告されていない。

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CQ07
卵巣癌に対して,開腹手術の代わりに腹腔鏡下手術は奨められるか?

エビデンスレベルC
現時点では腹腔鏡下手術を実施しないことを提案する。
推奨の強さ 2 (↓)(合意率 100%)
腹腔鏡下手術を行う場合には,腹腔鏡下手術手技に十分習熟した日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医により,あるいは日本産科婦人科内視鏡学会技術認定医(腹腔鏡)と日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍専門医の協力体制の下で,臨床研究として行うべきである。

目的

卵巣良性腫瘍では腹腔鏡下手術が広く行われているが,卵巣癌においても標準術式となり得るかを検討する。

解説

卵巣癌の手術の基本は,基本術式(両側付属器摘出術+子宮全摘出術+大網切除術)に加えて,腹腔内播種や転移病巣の可及的摘出を行うdebulking surgery である。最大残存腫瘍径と予後は相関するとされ,optimal surgery や肉眼的残存腫瘍のないcomplete surgery を行うことで有意に予後が改善するとされている(CQ02 参照)。

進行癌症例に対する腫瘍減量手術としての腹腔鏡下手術と開腹手術を比較した報告は少ない。早期卵巣癌に対する腹腔鏡下手術と開腹手術との比較では,修練を積んだ婦人科腫瘍専門医が行えば短期生存率に差がなく,腹腔鏡下手術は,出血量が少なく入院期間も短いという報告がある1-4)。一方,2016 年のCochrane review では,経験豊富な婦人科腫瘍専門医が行う場合には,早期卵巣癌に対する腹腔鏡下手術は可能と考えられるが,早期卵巣癌を対象としたRCT やメタアナリシスがない状況や,生存率に関して腹腔鏡下手術が開腹手術よりも劣るとする報告があることなどから,一般診療として腹腔鏡下手術を行うことを推奨できるだけのエビデンスは存在しないと結論づけている5)。そのほか,後方視的研究であるが,11 研究3,065 例の早期卵巣癌症例(腹腔鏡下手術1,450 例,開腹手術1,615 例)のメタアナリシスでは,腹腔鏡下手術は出血量は少なく,入院期間は短く,術中合併症の発生頻度や程度には両手術方法で差がなく,術後合併症は腹腔鏡下手術の方が少なかった6)。また,化学療法開始までの期間が5.16 日短くなり,手術操作によるアップステージングや腫瘍破裂は両手術間に差はなく,再発率にも差はないことも示されている6)

進行卵巣癌に対する腹腔鏡下手術については,後方視的研究がいくつかある7-9)。限局した転移巣や限られたリンパ節腫大のような進行卵巣癌に対しては,出血量が少なく入院期間も短い結果で,術中合併症には両手術方法で差がなく,術後合併症は腹腔鏡下手術の方が少ない結果であり,症例の選択をすれば,腹腔鏡下debulking surgery は可能としている。しかし,前方視的研究ではないこと,症例数が少ないケースコントロール研究であること,症例の選択方法が定まっていないことからバイアスが大きく,現時点では一般臨床で腹腔鏡下手術を奨めるに足るエビデンスとは言えない。一方,NAC 後のIDS で腹腔鏡による根治手術を行う前方視的試験のMISSION trial では,NAC でCR を得られた52 症例のうち,腹腔鏡検査で腹腔内を観察し,腹腔鏡下IDS が可能と考えられた30 症例では96.6%がcomplete surgery を達成でき,術中の開腹手術への移行はなく,術後2〜3 日で退院したと報告しているが,長期予後への影響については明らかとなっていない10)。また,6 研究(前方視的研究3,後方視的研究3)の3,231 例(腹腔鏡下手術567 例,開腹手術2,664 例)のメタアナリシスによる検討では11),腹腔鏡下手術における術中合併症の発症率は3%で開腹手術との差はなく,術中出血量は70〜107 mL と開腹手術の532 mL より少なく,入院期間は有意に短い結果であった。開腹手術への移行は,0〜16%であった。ほとんどの研究で完全腫瘍摘出手術を完遂するために骨盤外の手術が必要となっていた。Complete surgery は腹腔鏡下手術群の74.5%,開腹術群の53.1%に達成され,両群間に差はなかった。観察期間中央値が32 カ月の時点では再発率に差はなく,以上の結果を踏まえて,進行卵巣癌でNAC 後にCR になったような症例に対して,適切な症例を選択すれば,腹腔鏡下IDS は可能としている。

NCCN ガイドライン2019 年版では12),卵巣癌の手術に関してはあくまで開腹手術が基本であるとし,適切な早期癌患者(定型的な術式を行い得る症例)に対しては熟練した術者が行う腹腔鏡下手術,腫瘍減量手術は考慮され得るとし,腹腔鏡下にoptimal surgery が達成できないと判断される場合には開腹手術へ速やかに移行すべきとしている。さらに,NAC 後のIDS 時においては,選択された患者に腹腔鏡下手術が考慮され得るとしているが,腹腔鏡下手術を用いて最適に減量することができない患者は,開腹手術に移行されるべきとしている12)

以上から,卵巣癌に対する腹腔鏡下手術は,現時点で保険収載もされておらず,非常に限られた臨床状況での研究的治療として位置づけられる。

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CQ08
腹腔内播種を有すると考えられる患者に対して,診断目的の腹腔鏡下手術は奨められるか?

エビデンスレベルB
手術完遂度の予測,あるいは進行期の決定や組織採取を目的として実施することを提案する。
推奨の強さ 2 (↑)(合意率 100%)

目的

進行卵巣癌において,生検および腹腔内観察の目的での腹腔鏡下手術の有効性を検討する。

解説

2019 年のCochrane review 1)では,診断的腹腔鏡下手術によってoptimal surgery の可能性を判断することについて確固たる結論は導けないと結論づけている。一方,2017 年に報告された,初回腫瘍減量手術において1 cm 以上の残存腫瘍(無益な開腹手術)が予想される患者を同定するための診断的腹腔鏡下手術の有用性に関するRCT 2)では,腹腔鏡施行群の無益な開腹手術の割合は10%で,診断的腹腔鏡下手術を行わず開腹手術によるPDS を行った群の39%より有意に低く,生存率には差がない結果であった。以上から,進行癌に対して診断的腹腔鏡下手術を行うことで無益な開腹手術を避け,組織学的検査後に早期に化学療法を施行しIDS を施行する方針をとることができ,初回開腹手術がsuboptimal surgery に終わる症例を低減できるメリットがある。

NCCN ガイドライン2019 年版では,進行卵巣癌または再発卵巣癌症例においてoptimal surgery が可能かを評価するための観察目的では考慮され得るとしている3)

一方,卵巣癌における腹腔鏡下手術では,卵巣腫瘍の被膜破綻のリスク4, 5)や,トロカール挿入部への転移のリスク6)が問題視されてきたが,早期卵巣癌や5)進行卵巣癌に対するメタアナリシスによる腹腔鏡下手術の検討では7-10),再発率には差はない結果であった。以上のことから,進行卵巣癌での生検および腹腔内観察の目的での腹腔鏡下手術は,開腹手術に代わる選択肢になり得る。

なお,SCORPION 試験(CQ05 参照)などで用いられた診断的腹腔鏡下手術におけるoptimal surgery の可否を判定するpredictive index を表11 に示す。Optimal surgery は,6 点以下は「比較的容易」,14 点は「不可能」と予測する。

表11 診断的腹腔鏡下手術におけるpredictive index

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CQ09
術式を決定するために,術中迅速病理診断を行うことは奨められるか?

エビデンスレベルB
術前評価,術中所見で良性・境界悪性・悪性の判定が困難な症例には,術式決定のために術中迅速病理診断を行うことを推奨する。
推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)

目的

卵巣癌の手術において広く行われてきた術中迅速病理診断の意義と限界について検討する。

解説

内診,画像診断(超音波断層法,CT,MRI),腫瘍マーカーで術前に境界悪性あるいは悪性の卵巣腫瘍が疑われる症例に対しては,術中迅速病理診断を行うことのできる高次医療機関に紹介することが推奨される。また,術前に境界悪性や悪性が疑われなかった症例においても,術中に良性・境界悪性・悪性の判定が困難である場合には,可能な限り術中迅速病理診断を考慮する。

卵巣腫瘍における手術術式は,良性,境界悪性,そして悪性を含めた腫瘍の組織型や悪性度などによって決定される。このことから,術前評価ならびに術中の腹腔内所見を含め,最適な術式を決定する上で術中迅速病理診断が重要である。卵巣腫瘍全体の迅速診断の正診率(最終診断との一致率)は91〜97%であるが,上皮性境界悪性腫瘍での正診率は65〜84%と低いことが示されている(感度44〜87%,特異度64〜98%)1-5)。近年,術中迅速病理診断の正診率に関して,748 例の良性,境界悪性,悪性の卵巣腫瘍を対象とした多変量解析の結果が報告された。その中で,境界悪性腫瘍ならびに腫瘍の大きさが10 cm 以上である場合,統計学的な有意差をもって術中迅速病理診断の精度が低くなることが明らかにされた6)。特に,上皮性境界悪性腫瘍の中でも粘液性腫瘍においてはその診断精度が低くなる可能性が指摘されており,一般に過大評価より過小評価される傾向にあることが示されている7, 8)

術中迅速病理診断には以下のような限界がある。一つは,時間的制約によって作製できる標本数が限られるため,特に良性・境界悪性・悪性が混在するような腫瘍径が大きい症例においては,標本採取部位が不適切(サンプリングエラー)となる可能性がある。また,凍結標本を用いるため,ホルマリン固定パラフィン包埋標本に比べて二次的変化(標本の折れ曲がり,核腫大,核不整)をきたしやすく,質的判断が困難となる場合がある。

これらの術中迅速病理診断の限界への対応策としては,まず,検体を提出する際には原則として卵巣腫瘍全体を提出し,専門の病理医が肉眼所見の詳細な観察ならびに適切な標本採取を行うことである。術者が特定部位の検索を望む場合には,インクや縫合糸で印をつけ,その旨を申込書に記載し提出する9)。また,必要な臨床情報(年齢,既往歴,家族歴,他臓器癌の有無,腹腔内所見,他臓器転移の有無,腫瘍マーカー,血中ホルモン値)を病理医に確実に伝えておくことや,場合によっては術式選択に必要な病理所見を具体的に病理医に問い合わせる必要がある。患者に対しては,こうした術中迅速病理診断の限界を術前によく説明し,最終診断が変更される可能性があることについて十分な理解を得ておくことが重要である。

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CQ10
術後に卵巣癌と判明した患者に対して,どのような追加治療が奨められるか?

エビデンスレベルB
  1. 進行期決定開腹手術を推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルB
  1. Optimal surgery が困難あるいは不可能と予測される進行卵巣癌の場合は,化学療法に引き続くinterval debulking surgery(IDS)を推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)

目的

術前評価,術中所見もしくは術中迅速病理診断で卵巣癌と確定し得ずに手術を終了し,術後の病理診断において卵巣癌と確定した症例の取り扱いについて検討する。

解説

卵巣癌では,腫瘍因子としての進行期,治療因子としての手術完遂度は重要な予後因子であることから,初回手術においては,進行期決定開腹手術(staging laparotomy)と腫瘍の完全切除を目指した最大限の腫瘍減量手術(maximal debulking surgery)を行うことが原則である(CQ01CQ02 参照)。

早期癌においては,術中所見では確認し得ない病巣の存在により,術後の病理組織学的検査において最終的な手術進行期が臨床的診断よりもアップステージされる可能性がある。術前評価,術中所見で上腹部に病巣がないと判断した症例に施行された腹膜生検の7%,大網の2.7%に播種がみられたとの報告がある1)。肉眼的に病巣が卵巣に限局しても,子宮と卵管に6%,リンパ節に6%,腹膜,大網,癒着部位からの生検組織で17%に顕微鏡的病変がみられ2),肉眼的に正常な虫垂への転移は2〜2.8%に認められたとの報告3)がある。後腹膜リンパ節転移に関しては,pT1 では4.4%,pT2 では17.5%に病理組織学的に転移が確認されアップステージされた報告があり4),組織型では,漿液性癌13.5%,類内膜癌2.1〜2.7%,粘液性癌1.7〜3.4%,高異型度の際に転移率が高いという報告5, 6)や,卵巣限局の明細胞癌では6%という報告がある7)。アップステージの根拠となった病巣の部位については,骨盤腹膜,後腹膜リンパ節,卵管および卵管間膜,大網,横隔膜,S 状結腸間膜と広範囲にわたるほか,腹腔細胞診が陽性の場合もある1, 2, 8, 9)。再開腹術によりアップステージした組織型は,漿液性癌や明細胞癌8)で多い。

このように,肉眼的に腫瘍が卵巣に限局すると考えられても潜在的な転移病巣がstaging laparotomy で確認されるケースは少なくない。潜在的な転移病巣の検出による正確なステージングの観点から,初回手術で十分なステージングが行われていない場合には,診断的意義において広範囲にわたる検索を目的とした再開腹によるstaging laparotomy を行う。また,staging laparotomy を施行しなかった症例は施行した症例と比較して再発リスクが高く,正確なstaging laparotomy の実施は予後因子の一つである10-12)。前方視的RCT の解析からも,術後化学療法を施行していない群ではstaging laparotomy の施行により再発および死亡リスクが有意に低下するほか13),不要な化学療法を回避できるため,正確なstaging laparotomy の実施は治療的意義においても重要である。なお,十分なstaging laparotomy を行うことができない場合には,婦人科腫瘍専門医のいる高次医療機関でこれを行うことを推奨する13, 14)

NCCN ガイドライン2019 年版においても同様の取り扱いが示されており15),これに沿った治療が良好な予後につながるとする報告がある12, 16)。NCCN ガイドラインでは再開腹によるstaging laparotomy を選択し得ない場合には,潜在的な残存病巣があることを想定して術後化学療法を6 サイクル行うことを奨めている。また,ステージングが不十分な症例では,化学療法の施行が予後の改善につながる可能性がある17, 18)

原則として,卵巣癌においては初回手術における腫瘍の完全切除を目指すべきであるが,それが不可能な症例に対して数サイクルの化学療法施行後のIDS の有用性も示されていることから(CQ05 参照),初回手術後の時点で明らかな残存病巣がある場合には,これに準じた取り扱いとして化学療法施行後のIDS も考慮される。初回手術で十分なステージングが行われずⅡ〜Ⅳ期と推定される症例に対しては,切除可能と考えられる残存腫瘍がある場合には再開腹によるdebulking surgery の施行,切除不能と考えられる残存腫瘍がある場合には術後化学療法6〜8 サイクルの施行または術後化学療法3〜6 サイクル後のIDS の施行を考慮する15)

卵巣癌治療の実績が少ない施設で術後に卵巣癌と判明した場合には,婦人科腫瘍専門医制度指定修練施設,あるいは婦人科腫瘍専門医が常勤し,外科・泌尿器科・腫瘍内科医などとの連携が十分に取れ,集学的治療が行える施設に紹介し,卵巣癌治療の実施を依頼する。

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CQ11
初回薬物療法を行う場合,どのようなレジメンが奨められるか?

エビデンスレベルA
  1. TC 療法(conventional TC 療法)を推奨する。
    推奨の強さ 1(↑↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルB
  1. Dose-dense TC 療法を提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(推奨の強さ1 に対する合意率 38%)
エビデンスレベルB
  1. Ⅲ・Ⅳ期症例ではTC 療法+ベバシズマブ併用/維持療法を推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 89%)

推奨②について,JGOG3016 試験は対象が日本人のみであり,試験結果でOS が延長していることから,当初は「推奨の強さ1(↑↑)」とした。しかし,JGOG3016 試験とICON8 試験との結果が乖離している点に注目する意見が多く,合意率が38%となった。合意基準75%に達しなかったため,「推奨の強さ2(↑)」とした(最終合意率89%)。

推奨③について,「ベバシズマブの有害事象とHR のバランスから推奨の強さを下げる方がよい」との意見もあったが,「臨床試験にはoptimal surgery 症例以外の症例も含まれており,HRが指標とはなりにくい」との意見もあった。また,「BRCA 検査を先行しPARP 阻害薬の適応を検討してから治療方針を決定することを奨める」,「PAOLA 試験(後述)の結果から推奨の強さを下げる方がよい」との意見もあった。最終的に合意率は89%となった。

目的

初回薬物療法で有用な薬剤のレジメンについて検討する。なお,本CQ では初回殺細胞性薬物療法と,それに併用して開始される分子標的治療薬を中心に記載する。
☞初回殺細胞性薬物療法終了後に投与を開始する維持療法に関してはCQ12, CQ13 を参照

解説

1980 年以降シスプラチンが卵巣癌治療のkey drug となり,1990 年にパクリタキセルが導入されると,GOG111 試験およびOV-10 試験によって2 剤併用療法(パクリタキセル+シスプラチン:TP 療法)が標準治療となった。カルボプラチンはシスプラチンと比較して毒性が低く投与方法も簡便であるため,GOG158 試験およびAGO 試験が行われ,TP 療法とconventional TC 療法(TC 療法)の有効性が同等であることが確認され1, 2),2004 年のThe 3rd International Ovarian Cancer Consensus Conference を経てTC 療法が世界的に標準療法となった。その後,TC 療法に新規薬剤を加えた大規模試験(GOG182-ICON5)が実施されたが,TC 療法をこえる有効性は認められなかった3)

TC 療法に対してOS を延長したレジメンは,腹腔内化学療法(CQ17 参照)とパクリタキセルの毎週投与法(dose-dense TC 療法:ddTC 療法)である。後者は本邦で施行されたJGOG3016 試験で4, 5),TC 療法に比して主要評価項目のPFS を中央値ddTC 療法28.0 カ月vs. TC 療法17.2 カ月(HR 0.71)と統計学的有意に改善し,OS も中央値100.5 カ月vs. 62.2 カ月(HR 0.79)と有意に改善した。毒性としては貧血を惹起しやすいが,その他の毒性は同等で,QOL の低下も認めなかった6)。追試が2 試験(GOG262 7), ICON8 8))行われた。GOG262 試験(NCT01167712)はベバシズマブの使用が主治医判断により任意に行え,全体の84%がベバシズマブを併用した。試験全体で主要評価項目のPFS は14.7 カ月vs. 14.0 カ月(HR 0.89)と有意差は認めなかった。Dose-dense 療法の効果とベバシズマブの使用に交絡が認められ(interaction p=0.047),ベバシズマブを使用していない患者ではPFS の中央値ddTC 療法14.2 カ月vs. TC 療法10.3 カ月(HR 0.62)と,ddTC 療法で有意に改善した。ICON8 試験(NCT01654146)はTC 療法,ddTC 療法,カルボプラチンとパクリタキセルの両方を毎週投与するweekly TC 療法の3 群を比較した。主要評価項目のPFS について,TC 療法,ddTC 療法,weekly TC 療法はそれぞれ中央値で17.7 カ月,20.8 カ月,21.0 カ月と有意差を認めなかった。GOG262 試験はベバシズマブの使用が交絡因子として影響が大きいためJGOG3016 試験とICON8 試験との結果の乖離が特に議論の対象になるが,一つの仮説として,パクリタキセルの有効性や毒性に関する人種間の差が指摘されている9)。また,3 試験のなかで唯一日本人を対象としたJGOG3016 試験では,主要評価項目のPFS のみならず,OS でも非常に大きな有意差がみられており,ddTC 療法は本邦では標準治療の一つと考えられる。

TC 療法+ベバシズマブ併用/維持療法については,GOG218 試験(NCT00262847)10)とICON7 試験(NCT00483782)11)の両試験で有効性の評価が行われた。GOG218 試験ではⅢ(不完全摘出例)・Ⅳ期を対象としてTC 療法と,TC 療法期間中(2〜6 サイクル目まで3 週毎)のみのベバシズマブ併用,TC 療法期間中のベバシズマブ併用およびTC 療法後のベバシズマブ維持療法(2〜22 サイクル目まで3 週毎)の3 群が比較された。Ⅳ期および残存病変1 cm 以上のⅢ期が66%を占めている。主要評価項目のPFS はそれぞれ10.3 カ月,11.2 カ月(HR 0.908),14.1 カ月(HR 0.717)と,TC 療法+ベバシズマブ併用/維持療法群でのみPFS を有意に延長した。OS では39.3 カ月,38.7 カ月(HR 1.036),39.7 カ月(HR 0.915)と有意差はどちらの群でもみられていない。ICON7 試験ではⅠ〜Ⅳ期を対象としてTC 療法とTC 療法+ベバシズマブ併用/維持療法(TC 療法後12 サイクル追加)の2 群が比較され,主要評価項目のPFS は中央値17.3 カ月vs. 19.0 カ月(HR 0.81)と有意であったが比例ハザード性の崩れがあり,restricted mean survival time(RMST)(付記参照)で解析すると24 カ月時点で,20.3 カ月vs. 21.8 カ月とやはり有意差を認めた。OS は全体で差を認めないが(5 年時点のRMST で44.6 カ月vs. 45.5 カ月,p=0.85),事前に設定されたハイリスクグループ(Ⅳ期およびⅢC 期の残存病変1 cm 以上:全症例の30%)では有意に延長した(5 年時点のRMST 34.5 カ月vs. 39.3 カ月,p=0.03)12)。毒性としてはグレード2 以上の高血圧がTC 療法+ベバシズマブ併用/維持療法群で有意に増加した。また,TC 療法+ベバシズマブ併用/維持療法群ではグレード2 以上の消化管穿孔が2.6%(TC 療法群1.2%),治療関連死が2.6%(TC 療法群1%)にみられた。

近年,PARP 阻害薬の初回薬物療法における有効性が報告されている。TC 療法+オラパリブ維持療法はSOLO-1 試験(NCT01844986)13)において,プラチナ併用化学療法+ニラパリブ維持療法はPRIMA 試験(NCT02655016)14)において検証された(CQ12, CQ13 参照)。また,TC 療法+ベリパリブ併用/維持療法についてはVELIA/GOG3005 試験(NCT02470585)が報告された15)。TC 療法とTC 療法+ベリパリブ併用/維持療法の比較では,主要評価項目であるPFS はそれぞれ17.3 カ月,23.5 カ月(HR 0.68)と有意差を認めた。さらにBRCA 変異陽性群,相同組換え修復異常(homologous recombination deficiency;HRD)群では,ベリパリブ併用/維持療法の効果がより高いことが示された。さらに,PAOLA-1 試験(NCT02477644)ではTC 療法+ベバシズマブ併用/維持療法に加えて,オラパリブ維持療法併用群とプラセボ併用群の比較が行われた。主要評価項目であるPFS が22.1 カ月,16.6 カ月(HR 0.59)と,ベバシズマブとオラパリブの併用群で有意に延長した。さらにBRCA 変異陽性群,HRD 群では,この効果がより高いことが示された16)

早期癌に対する初回化学療法について,GOG157 試験でTC 療法のサイクル数が検討された。Ⅰc・Ⅱ期,および低分化または明細胞癌のⅠa・Ⅰb 期症例などを対象として,6 サイクルと3 サイクルが比較されたが,前者の5 年再発率の方が約2/3 と低かったものの,統計学的に有意ではなかった17)。その後,早期癌に対する大規模な2 つのRCT(ICON1,EORTC-ACTION)から,化学療法により生存率が有意に改善されることが示されたが18, 19),厳密なsurgical staging を行ったサブグループでは予後の改善は認められなかった(CQ15 参照)。

付記 RMST について

Restricted mean survival time(RMST)は「ある時点までの生存関数の曲線下面積」に相当する要約指標で,「比例ハザード性」を必要としない解析に用いられる指標の一つである。従来,第Ⅲ相試験では生存期間(PFS やOS)にCox 回帰を用いてハザード比(HR)を推定してきたが,その前提となる「比例ハザード性(観察期間を通じて比較している群間でのHR が一定であるという仮定)」が崩れるケースが近年増えてきた。その背景としては,分子標的治療薬の治療効果などで質的に異なる2 群(特定の遺伝子変異の有無など)や,維持療法などで治療期間が異なる2 群の比較が増えているケースがあること等が挙げられる。

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Ray-Coquard I, Pautier P, Pignata S, Pérol D, González-Martín A, Berger R, et al. Olaparib plus bevacizumab as first-line maintenance in ovarian cancer. N Engl J Med 2019 ; 381 : 2416-28(ランダム)【委】
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CQ12
初回手術とその後の化学療法により完全寛解が得られた場合,維持療法は奨められるか?

エビデンスレベルB
  1. 化学療法薬剤を用いた維持療法は行わないことを推奨する。
    推奨の強さ 1 (↓↓)(合意率 100%)
エビデンスレベルB
  1. Ⅲ・Ⅳ期症例において,ベバシズマブを併用する初回治療により完全寛解が得られた場合,
    a HRD 症例においては,ベバシズマブ+オラパリブの維持療法を推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルB
  1. b HRD がない, もしくは不明な症例では, ベバシズマブの維持療法を推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 91%)
エビデンスレベルB
  1. Ⅲ・Ⅳ期症例において,ベバシズマブを併用しない初回治療により完全寛解が得られた場合,
    a BRCA1/2 変異を有する症例では、オラパリブまたはニラパリブの維持療法を推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルB
  1. b BRCA1/2 変異を有しないが、 HRDの症例では,ニラパリブの維持療法を推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルB
  1. c HRD がない症例では,ニラパリブの維持療法を提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 100%)
最終会議での論点

推奨② b ベバシズマブ単剤維持療法の推奨については、当初はHRD の有無を問わず「ベバシズマブの維持療法を推奨する。 推奨の強さ1(↑↑)」と記載していた。しかし、 PAOLA-1 試験において、 HRD 症例ではベバシズマブ単剤維持療法とベバシズマブ+オラパリブ維持療法の予後に有意差があったにも関わらず、ベバシズマブ+オラパリブ維持療法と同じ「推奨の強さ1」でよいのかという意見があった。そこで、上記➁b のように、「HRD がない、もしくは不明な症例では、ベバシズマブの維持療法を推奨する。 推奨の強さ1(↑↑)」としたところ、合意率は 91%となった。


明日への提言

本CQ に対する推奨の元となった臨床試験は、主に高異型度漿液性癌(HGSC)を対象として施行されている。本邦では明細胞癌が多いことが特徴であり、今後、明細胞癌を始めとした非HGSC に対する分子標的治療薬の治療効果を検証する必要がある。


目的

卵巣癌初回治療により完全寛解が得られた後の,化学療法薬剤あるいは分子標的治療薬を用いた維持療法について検討する。

解説

2011 年以前には,既存の化学療法薬剤を用いた維持療法についての大規模比較試験は,パクリタキセルを用いたGOG175 試験1) GOG178 試験2) と After-6 試験3),トポテカンを用いたAGO-GINECO 試験4) とMITO-1 試験5) があった。これらの中でGOG178 試験(n=296)のみPFS の改善を認めたが,他の試験ではいずれもPFS,OS ともに改善を認めなかった。2013 年のCochrane review でも,卵巣癌初回治療において,既存の化学療法薬剤を用いた維持療法はPFS,OS をともに改善せず,有害事象の発現頻度は維持療法施行群で有意に高いことが報告された6) 。その後,GOG212 試験として,Ⅲ・Ⅳ期卵巣癌1,157 人を対象に,経過観察群,パクリタキセルによる維持療法を4 週ごとに12 サイクル行う群,ポリグルタミン酸塩パクリタキセルによる維持療法を4 週ごとに12 サイクル行う群の3 群でRCT が行われ,PFS 中央値はそれぞれ13.4 カ月,18.9 カ月(HR 0.78),16.3 カ月(HR 0.85)と化学療法群において延長を認めたが,主要評価項目であるOS は中央値がそれぞれ54.8 カ月,51.3 カ月,60.0 カ月と有意差はなく,グレード 2 以上の有害事象は化学療法群で多いことが報告された7) 。これらの結果から,既存の化学療法薬剤を用いた維持療法は奨められない。

これまで,卵巣癌初回治療時にベバシズマブ投与が有用であることを示すRCT が2 つ報告された(CQ11 参照)。 GOG218 試験ではベバシズマブをTC 療法と併用後,維持療法として16 サイクル投与された群でPFS の延長を認めた(HR 0.72)が,併用療法のみの群ではPFS の延長を認めなかった8)。ICON7 試験ではベバシズマブをTC 療法と併用の後,維持療法として12 サイクル投与され,PFS の延長を認めた(HR 0.81)9)。ベバシズマブに関して,本CQ の内容(完全寛解後の維持療法の有用性)を評価した臨床試験は存在しないが,ICON7 試験では,初回手術後の薬物療法開始時に評価可能病変がなかったのはベバシズマブ群764 例中507 例,コントロール群764 例中501 例であり,かつ,6 カ月時点で増悪が認められたのは両群とも5 %未満であった9) ことから,初回化学療法終了後に完全寛解の 状態で維持療法が行われた症例が多く含まれていたと考えられる。したがって,ベバシズマブをTC 療法と併用後に完全寛解となっている場合に,維持療法としてベバシズマブを用いることは推奨される。なお,ベバシズマブを化学療法と併用のみで用いて維持療法を行わない治療法のエビデンスはなく,また,ベバシズマブを併用せずに化学療法を行った後にベバシズマブ維持療法を行うことは,保険診療上認められておらず,エビデンスもない。

2018 年には,SOLO-1 試験として,BRCA1BRCA2 変異(2 例のみ somatic 変異 で,残りはgermline 変異)を有するⅢ・Ⅳ期の高異型度漿液性癌あるいは高異型度類内膜癌において,ベバシズマブを用いない初回治療によりCR もしくはPR が得られた388 例を対象に,PARP 阻害薬であるオラパリブ600 mg/ 日あるいはプラセボを維持療法として2 年間投与するRCT の結果が報告された10) 。結果として,オラパリブ投与により,PFS はHR 0.30 と著明に改善した。そして,本試験のサブグループ解析では初回化学療法終了時にCR であった症例のPFS は,オラパリブ投与によりHR 0.35 と改善していた。

2019 年には, BRCA1/2 変異の有無を問わず卵巣癌Ⅲ・Ⅳ期の初回治療例を対象としたPARP 阻害薬投与のRCT として,PAOLA-1 試験(ベバシズマブを含むレジメン後のオラパリブとベバシズマブ併用の維持療法)11) VELIA/M13-694/GOG3005 試験(TC +ベリパリブ後のベリパリブ維持療法)12)PRIMA/ENGOT-OV26/GOG3012 試験(プラチナ併用化学療法後のニラパリブ維持療法)13)の3 試験の結果が報告された。前二者については初回薬物療法の項目に記載した(CQ11 参照)。PRIMA 試験はPDS により残存腫瘍が肉眼上認められなくなったⅢ期症例を除外し,かつ,初回化学療法後にCR または最大腫瘍径2 cm 以下のPR となった患者を対象とし,ニラパリブによる維持療法の効果を調べたものである13)。上記の3 試験は,治験組み入れ時の患者背景や試験デザインが異なるため,HR を単純に比較することはできないが,いずれも主要評価項目であるPARP 阻害薬投与群におけるPFS 延長が認められた(HR はそれぞれ 0.59, 0.68, 0.62).上記のうち、オラパリブと ベバシズマブの併用療法はHRD の症例に対して保険適応となり、ニラパリブはBRCA1/2 変異やHRD の有無に関わらず保険適応となった。

なお、PRIMA 試験では、HRD のない症例においてもPFS の延長が認められた(HR は0.68)が、初回手術にて残存病変を有し、それに対してプラチナ感受性が示された症例のみが対象となっている。このため、プラチナ感受性が強いバイオマーカーとして症例を選別している可能性があり、PDS で完全切除され残存病変を有しない症例に対する効果は検証されていないことに留意すべきである。

付記 HRD 検査について

HRD とは、DNA 修復機構の一つである相同組換え修復に異常がある状態のことを表し、卵巣癌を始めとする多くの癌で見られる特徴の一つである。BRCA1/2 遺伝子は相同組換え修復機構に関与しており、BRCA1/2 変異はHRD を引き起こす。それ以外にもHRD は様々な原因で起こるとされている。またHRD はゲノムの不安定性を引き起こすことが知られている。HRD の検査方法にはいくつかのものがあるが、2021 年1 月現在で、コンパニオン診断として製造販売承認されているものとして、腫瘍組織のBRCAtBRCA)の変異の有無に加えて、ヘテロ接合性の消失(loss of heterozygosity:LOH)、テロメアアレルの不均衡(telomeric allelic imbalance:TAI)、及び大規模な状態遷移(large-scale state transition:LST)に関連する3 つのゲノム不安定性によって評価されるmyChoice 診断システムによるHRD 検査がある。詳細は日本婦人科腫瘍学会のホームページの「見解」ページを参照のこと。

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CQ13
初回手術とその後の化学療法により腫瘍が残存した場合,追加治療は奨められるか?

エビデンスレベルB
  1. Ⅲ・Ⅳ期において、ベバシズマブを用いた初回治療により stable disease(SD)である症例、または HRDがない、もしくは不明な場合で部分奏効が得られた症例に対して,ベバシズマブによる維持療法を推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 82%)
エビデンスレベルB
  1. HRD がある Ⅲ・ Ⅳ期症例 において, ベバシズマブを併用する初回治療 により部分奏効が得られた場合、ベバシズマブ+オラパリブの維持療法を提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 73%)
エビデンスレベルB
  1. Ⅲ・Ⅳ期症例において,ベバシズマブを併用しない初回治療により部分奏効が得られた場合、
    a BRCA1/2 変異を有する症例では、オラパリブまたはニラパリブの維持療法を推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑) (合意率 100%)
エビデンスレベルB
  1. b BRCA1/2 変異を有しないが、 HRDの症例では,ニラパリブの維持療法を推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑) (合意率 100%)
エビデンスレベルB
  1. c HRD がない症例では,ニラパリブの維持療法を提案する。
    推奨の強さ 2 (↑) (合意率 100%)
エビデンスレベルC
  1. 初回治療が奏効せず腫瘍が増悪している場合は,追加治療(二次化学療法や放射線治療)や臨床試験への参加,あるいはbest supportive care を提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 100%)
最終会議での論点

推奨①については、当初は「ベバシズマブを用いた初回治療により増悪していない場合は,ベバシズマブによる維持療法を推奨する。推奨の強さ1(↑↑)」と記載していた。しかし、PAOLA-1 試験において、HRD 症例でベバシズマブ維持療法とベバシズマブ+オラパリブ維持療法の予後に有意差があったにも関わらず、ベバシズマブ+オラパリブ維持療法と同じ「推奨の強さ1」でよいのかという意見があった。また、GOG218 試験やICON7 試験には、ベバシズマブ維持療法の効果を化学療法の奏効性やHRD の有無で比較したサブグループ解析が存在しない点を指摘する意見もあった。そこで、HRD の有無を問わないstable disease(SD) の症例、およびHRD がない、もしくは不明な場合で部分奏効が得られた症例を対象として、ベバシズマブの維持療法を推奨する 推奨の強さ1(↑↑)としたところ、最終的に合意率は82%となった。

推奨②については、PAOLA-1 試験のサブグループ解析では、部分奏効例におけるベバシズマブ+オラパリブ維持療法群の有効性は示されていなかったが、部分奏効例はHRD 症例に限った解析ではないため、推奨の強さ1(↑↑)でよいのではないかという意見もあった。しかしながら、推奨の強さ1(↑↑)での 合意率は45%であり、推奨の強さ2(↑)として再投票したところ、最終的に合意率は73%となった。

目的

初回手術とその後の化学療法により腫瘍が残存した場合の,維持療法を含む追加治療について検討する。

解説

初回治療により腫瘍が残存した場合,同一の化学療法薬剤を長期継続して投与することの有用性を示すエビデンスはない1)

GOG218 試験とICON7 試験では,TC 療法とベバシズマブ同時併用に続くベバシズマブの単剤維持療法が,TC 療法と比較して有意にPFS を改善すると報告された(CQ11,CQ12 参照)2, 3)。ベバシズマブに関して,本CQ の内容(初回化学療法後の残存腫瘍に対する追加治療の有用性の有無)を評価した臨床試験は存在しないが,ICON7 試験では,手術後薬物療法開始時に評価可能病変を有する 症例でのbest response がPR あるいはSD であったのは,ベバシズマブ群257 例中81%,コントロール群263 例中89%であったため,初回化学療法終了時点で腫瘍が残存していた症例が多く含まれていたと考えられる。したがって,初回化学療法時にベバシズマブ併用を行い,化学療法終了時に腫瘍が残存している場合,PD になるまではベバシズマブの単剤維持療法が推奨される。なお,ベバシズマブを化学療法と併用し維持療法を行わない治療法のエビデンスはなく,また,ベバシズマブを併用せずに化学療法を行った後にベバシズマブ維持療法を行うことは,保険診療上認められておらず,エビデンスもない(CQ12 参照)。

SOLO-1 試験では,BRCA1/2 変異陽性の進行卵巣癌で初回治療後にCR/PR となった症例を対象として,PARP 阻害薬であるオラパリブの維持療法がPFS を改善することが報告された(CQ12 参照)4)。本試験のサブグループ解析では,初回化学療法終了時にPR であった症例のPFS は,オラパリブ投与によりHR 0.19 と改善した。したがって,そのような場合はオラパリブ使用が推奨される。なお,BRCA1/2 変異の有無を問わず行われた,PAOLA-1 試験(ベバシズマブ併用でのオラパリブ維持療法)5)VELIA 試験(TC+ベリパリブ後にベリパリブ維持療法)6)PRIMA 試験(ニラパリブ維持療法)7)のいずれもPARP阻害薬の投与によりPFS の延長が認められ(CQ11,CQ12 参照),それらの試験でも初回化学療法終了時にPR であった症例を含んでいた。PAOLA-1 試験ではHRD の場合にはベバシズマブに対するオラパリブの上乗せ効果が示されたものの、subgroup 解析では部分奏効例の有効性は示されなかった。ただし、部分奏効例にはHRD のない症例が多く含まれており、それが交絡因子となっている可能性がある。一方、PRIMA 試験ではHRD の有無に関わらず、部分奏効例でのニラパリブの有効性が示された。

化学療法施行中および化学療法終了から1 カ月以内に腫瘍が増悪する場合はプラチナ製剤不応性(platinum refractory)に分類され,そのPFS 中央値は4 カ月未満でOS 中央値は12 カ月未満と根治が困難である8)。NCCN ガイドライン2019 年版では,プラチナ製剤不応性に対しては交差耐性のない単剤での薬物治療,緩和・支持療法,臨床試験への参加が推奨されている。薬物治療としては,具体的にはドセタキセル,経口エトポシド,ゲムシタビン,リポソーム化ドキソルビシン,weekly パクリタキセル ,トポテカン(ノギテカン)の6 剤を推奨している9)。またAURELIA 試験の結果を受けてリポソーム化ドキソルビシン,weekly パクリタキセル,トポテカン(ノギテカン)にはベバシズマブの併用も考慮される10)。プラチナ製剤不応性再発卵巣癌に対する薬物療法の有効性は,CR とPR にstable disease(SD)を加えたclinical benefit rate(disease control rate)で評価することが多い11)。SD の状態を可能な限り長期に維持することが,結果的に生存の延長につながると考えられる。

プラチナ製剤不応性では患者のQOL の維持が優先される。特に疼痛を中心とした愁訴には積極的に対応すべきであり12),疼痛緩和を目的とした放射線治療の有用性が報告されている13,14)。また,癌性腹膜炎による腹部膨満,腸閉塞などによる症状にも保存的治療や外科的治療などにより積極的に対応する必要がある(CQ28 参照)。

初回治療により腫瘍が残存し,標準療法が困難と考えられる場合,ペムブロリズマブ投与の適応を調べるためにMSI 検査を行うこともあるが,MSI 検査で陽性となる頻度は少ない(2)分子標的治療薬・免疫チェックポイント阻害薬参照)。また,全身状態が良好で生命予後が十分に見込まれる患者では,臨床試験への参加を模索するために,がん遺伝子パネル検査が行われることがある(3)遺伝子に関する検査参照)。

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CQ14
初回化学療法としてパクリタキセルとカルボプラチン併用療法(conventional TC 療法,dose-dense TC 療法)を施行できない場合に,どのようなレジメンが奨められるか?

エビデンスレベルB
  1. ドセタキセル+カルボプラチン(DC 療法),リポソーム化ドキソルビシン+カルボプラチン(PLD-C 療法)を推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 95%)
エビデンスレベルC
  1. DC 療法,PLD-C 療法が遂行困難な症例には,weekly TC 療法を提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルC
  1. 多剤併用化学療法が困難な症例には,カルボプラチン単剤を提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 100%)

目的

Conventional TC 療法,dose-dense TC 療法を施行できない場合の初回化学療法のレジメンを検討する。

解説

DC 療法(ドセタキセル75 mg/m2+カルボプラチンAUC 5)とTC 療法(パクリタキセル175 mg/m2 +カルボプラチンAUC 5)を投与間隔3 週間で施行したRCT(SCOTROC-1)において,奏効率,PFS で両者に差を認めなかった1)。DC 療法の長期予後への寄与は確定していないが,末梢神経障害の合併症が危惧される症例,アルコール不耐例に対しては,DC 療法の選択が考慮される(基本的な使用薬剤と使用方法参照)。ただし,その場合は浮腫対策としてステロイド投与が必要となる。

タキサン製剤の投与が困難な症例に対するその他のオプションとして,PLD-C 療法(リポソーム化ドキソルビシン+カルボプラチン)が挙げられる。MITO-2 試験(NCT00326456)のデータによれば,TC 療法(パクリタキセル175 mg/m2 +カルボプラチンAUC 5)とPLD-C療法(リポソーム化ドキソルビシン30 mg/m2 +カルボプラチンAUC 5)の投与間隔3 週間の比較において,奏効率,PFS,OS で差を認めなかった2)。PLD-C 療法では,神経障害,脱毛はTC 療法より頻度が低いが,血液毒性(特に血小板減少)のために投与延期の頻度が30〜40%と高くなった。MITO-2 試験もSCOTROC-1 試験と同様に「有意差を示せなかった優越性試験」であり,厳密にはDC 療法とPLD-C 療法はTC 療法と同等とは言えず,TC療法が実施困難な場合の代替手段としての位置づけである。

Conventional TC 療法と,カルボプラチンとパクリタキセルの両者を毎週分割投与するweekly TC 療法とがMITO-7 試験(NCT00660842)3)で比較された。この試験は当初,高齢者など標準治療が遂行困難な患者への選択肢を確立すべく主要評価項目をQOL 変化として開始されたが,JGOG3016 試験(CQ11 参照)の結果を受けて,主要評価項目にPFS も追加し,登録予定症例数も追加した。結果はPFS については有意差を認めず,QOL の変化はweekly TC 療法の方が軽微(良い)というものであった。前述のSCOTROC-1 試験,MITO-2 試験とMITO-7 試験はともにRCT であるが,目的と背景が異なるために単純な比較はできず,weekly TC 療法はDC 療法,PLD-C 療法が遂行困難な患者に対しての選択肢として推奨される。

TC 療法やDC 療法以外に従来のCAP 療法〔シクロホスファミド+ドキソルビシン塩酸塩(アドリアマイシン)+シスプラチン〕,CP 療法(シクロホスファミド+シスプラチン),またはプラチナ単剤が挙げられるが,ICON3 試験のデータによれば,いずれも生存率への効果に差を認めていない4)。よって,多剤併用化学療法の遂行が困難で臨床試験で不適格となるような全身状態不良の症例に対しては,毒性の少ないプラチナ単剤が考慮される(基本的な使用薬剤と使用方法参照)。

付記 高齢者に対する薬物療法

高齢化社会の進行とともに,今後さらに高齢がん患者は増えてくると考えられる。2018 年の米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology;ASCO)の『老年腫瘍学ガイドライン』では,高齢者に対して薬物療法を行う際には,暦年齢だけで判断するのではなく,高齢者総合評価を用いて脆弱性を評価し管理していくことが奨められている5)。高齢者進行癌症例に対してこのような評価を導入した第Ⅱ相RCT であるEWOC-1 試験(NCT02001272)も発表されているが,第Ⅲ相試験での明確な結論は得られていない。このため現状では,高齢であるというだけで推奨レジメンを変更することは控えたい。また,高齢者総合評価を用いて推奨レジメンを検討する第Ⅲ相試験が望まれる。

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CQ15
Ⅰ期患者に対して,術後化学療法の省略は奨められるか?

エビデンスレベルB
進行期決定開腹手術によって確定したⅠA・ⅠB 期かつ組織学的異型度が低い非明細胞癌の症例においては,術後化学療法の省略を提案する。
推奨の強さ 2 (↑)(合意率 94%)

目的

術後化学療法を省略できる条件について検討する。

解説

早期卵巣癌の予後因子にはFIGO 進行期,組織型,組織学的異型度などがある1, 2)。なかでも組織学的異型度は早期卵巣癌における最も重要な独立予後因子とされ2, 3),進行期とともに治療方針決定に用いられている。

卵巣癌の進行期分類にはFIGO 分類が用いられ,外科的検索による病理組織学的診断が重要である。卵巣癌Ⅰ期と思われる症例に対する基本術式は単純子宮全摘出術および両側付属器摘出術,大網切除術とされるが,後腹膜リンパ節転移,腹膜播種の有無を確認する進行期決定開腹手術(staging laparotomy)を行い,より詳細・正確な進行期診断が非常に重要である。Staging laparotomy による進行期診断を行うことが,術後化学療法の必要性に影響を及ぼす。術後に化学療法を行っていないⅠa〜Ⅱa 期Grade 1,67 症例の後方視的検討で,再発は不十分なステージングの群からのみの4 例であり,staging laparotomy によって診断が確定した場合は腹腔内細胞診陽性のⅠc 期を除いて化学療法を省略できる可能性が示されている4)。また,staging laparotomy によって確定したⅠa・Ⅰb 期かつGrade 1, 2 の40 例に対して術後化学療法を施行せずに経過観察した前方視的検討では,再発は明細胞癌の1 例のみであったことから,この報告では明細胞癌以外は術後化学療法が省略できるとしている5)。前方視的なRCT 6)でも,staging laparotomy で確定したⅠa・Ⅰb 期かつGrade 1, 2 の場合,経過観察群と術後化学療法群で予後に差がなかったことから,このサブグループは術後化学療法を省略できる可能性があるとした。このように,早期卵巣癌においてはstaging laparotomy を行った上で進行期を正確に診断することが重要とされており,どこまで確実にステージングしたかということ自体が再発のリスク因子となる。

早期卵巣癌における術後化学療法の有効性を検討した2 つの大きなRCT が,ACTION 試験とICON1 試験である。ACTION 試験はⅠa 期,Grade 1 以外のⅠ期症例を術後化学療法群と経過観察群に割り付け,術後化学療法の有効性を検討した第Ⅲ相RCT である7)。448 名が参加し,staging laparotomy が行われた患者は34%であった。全体としてOS に差はなかったものの,RFS においては術後化学療法群が予後を改善することが示された。特に不十分なステージングで診断された症例においては,RFS, OS ともに化学療法群で有意に改善していた。それに対し,十分なstaging laparotomy がなされた症例においては,術後化学療法の有効性は認められなかった。ICON1 試験は,Ⅰ期症例を対象として,術後化学療法群と経過観察群とにランダム化比較した臨床試験である。477 名が参加し,ステージングが不十分な症例がACTION 試験より多く含まれたが,OS とRFS のいずれにおいても,術後化学療法群が有意差をもって予後を改善した8)。この2 つの試験を合わせた解析で,5 年生存率は経過観察群74%に対して術後化学療法群は82%であり,術後化学療法群の方が予後良好であった9)。さらに,ICON1 試験の10 年フォローアップ結果が2014 年に発表された。Ⅰ期の卵巣癌を高リスク群(ⅠA 期 Grade 3,ⅠB〜ⅠC 期 Grade 2 または3,すべての明細胞癌),中リスク群(ⅠA 期 Grade 2,ⅠB 期またはⅠC 期 Grade 1),低リスク群(ⅠA 期 Grade 1)に分類し,高リスク症例においては,RFS, OS いずれにおいても術後化学療法群の方が予後を改善したが,それ以外の患者においては術後化学療法の有効性は認められなかった10)。2015 年に発表されたCochrane Library のメタアナリシスでは,Ⅰ期の卵巣癌を上記と同様に高・中・低リスク群に分類し,高リスク群では術後化学療法の有効性は認められるものの,中・低リスク群においては有効性が認められなかった11)。以上のエビデンスから,staging laparotomy によって確定したⅠA 期 Grade 1, 2,ⅠB 期かつGrade 1 の非明細胞癌症例においては,術後化学療法を省略することを提案する。

一方,ⅠC 期や明細胞癌の取り扱いに関しては,一定の見解が得られていない。術中被膜破綻によるⅠc 期はⅠa・Ⅰb 期と比べて予後に差がないとする報告12)と,予後因子であるとする報告13, 14)がある。また,staging laparotomy で確定し,術後化学療法が施行されたⅠc 期はⅠa・Ⅰb 期と予後に差がないとするメタアナリシスがあるが,ここでも術後化学療法が省略できるかどうかは不明としている15)。明細胞癌は高悪性度として扱われ,Grade 分類の対象とならないため,一般的には術後化学療法の省略条件とならない。2,325 名の米国National Cancer Database を用いたⅠ期の明細胞癌症例の後方視的解析では術後化学療法により予後を改善したとの報告があるが16),米国SEER のデータベースを用いた後方視的解析では,Ⅰ期の明細胞癌に対する術後化学療法の有効性が示されなかった17)

現在本邦で進行中のJGOG3020 は,staging laparotomy によって確定したⅠA 期(Grade 2, 3 と明細胞癌),ⅠB 期(Grade 2, 3 と明細胞癌),ⅠC1 期(すべての組織型および組織学的分化度)の症例を対象に,術後化学療法群と経過観察群とを比較し術後化学療法の必要性を問う第Ⅲ相RCT である。この試験は,以前のACTION 試験やICON1 試験とは異なり,staging laparotomy を義務付けた上で,高悪性度やⅠC1 期症例を対象に含んでおり,この結果によりⅠC1 期や明細胞癌の取り扱いに一定の見解が得られることが期待される。

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CQ16
組織型別に化学療法のレジメンを変更することは奨められるか?

エビデンスレベルB
組織型によって化学療法のレジメンを変更しないことを提案する。
推奨の強さ 2 (↓)(合意率 84%)
医師の投票では92%の合意率に達したが,外部作成委員の投票を含めると84%となった。

明日への提言

明細胞癌,粘液性癌に対する現在の標準的薬物療法の効果は不十分である。ゲノム解析などにより,これらの組織型に対する有効な新規薬物療法の開発が強く望まれる。


目的

組織型を考慮した初回化学療法について検討する。

解説

明細胞癌と粘液性癌は,漿液性癌や類内膜癌に比べて化学療法薬剤による奏効率が明らかに低いことが報告されており,化学療法の個別化が試みられてきた。

上皮性卵巣癌のなかで明細胞癌の頻度は,欧米においては10%未満であるのに対し,日本では約25%に認められ,欧米に比べ頻度の高い組織型である1, 2)。TC 療法による奏効率は20〜25%と低い。

イリノテカンが明細胞癌にin vitro で有効であることが報告され3),以降,本邦ではCPT-P 療法(イリノテカン+シスプラチン)が明細胞癌に対し積極的に施行されてきた。そこで,JGOG において,Ⅰ〜Ⅳ期で進行期決定開腹手術(staging laparotomy)を受けた明細胞癌患者を対象とし,術後CPT-P 療法とTC 療法とを比較する国際共同第Ⅲ相RCT(JGOG3017/GCIG 試験)が実施された。667 名の患者が登録されたが,2 年無増悪生存率はCPT-P 療法群,TC 療法群それぞれ73.0%,77.6%(HR 1.17)と有意な差を認めず,また2 年全生存率についても,それぞれ85.5%,87.4%(HR 1.13)と有意な差を認めなかった4)。この試験結果から,明細胞癌に対しCPT-P 療法の有効性は否定され,従来通り,TC 療法が明細胞癌に対する標準治療と考えられる。

粘液性癌は,本邦において卵巣癌の11%を占め2),特に進行癌では原発と転移との鑑別は困難であり,大腸癌をはじめとする消化器癌からの転移が多いことが示唆されている5)。原発性卵巣粘液性癌と診断された症例の化学療法奏効率は13〜26%と極めて低いことが報告されている6, 7)。粘液性癌に対しても,これまで高い治療効果を示した臨床試験はない。消化器癌に対して有効性が示されている治療法が卵巣粘液性癌に対しても有効かどうか,試みられてきた。mEOC trial/GOG241 試験において,Ⅱ〜Ⅳ期の初回治療例,ならびにⅠ期の再発例で化学療法の治療歴のない卵巣粘液性癌患者を対象として,TC 療法とオキサリプラチン+カペシタビン併用療法とを比較し,さらにベバシズマブの上乗せの有無を加えた第Ⅲ相RCT が行われた。本試験は症例集積が遅滞し少数(n=50)での検討となり,TC 療法に対するオキサリプラチン+カペシタビン療法の生存期間の改善はなく(HR 0.78),またベバシズマブ上乗せでの生存期間の改善も認められなかった(HR 1.04)8)。これらの結果から,卵巣粘液性癌に対し,消化器癌で用いられている化学療法の有効性は示されず,標準治療はTC 療法と考えられる。

パクリタキセルを毎週投与するdose-dense TC 療法は卵巣癌に対する初回治療における標準治療の一つであるが(CQ11 参照),JGOG3016 試験のサブグループ解析において,明細胞癌や粘液性癌の組織型においてはdose-dense TC 療法は従来のTC 療法と比較して予後を改善することができなかった9)。また,初回治療においてTC 療法に血管新生阻害薬であるベバシズマブを上乗せする治療法(TC 療法+ベバシズマブ併用/維持療法)も標準治療であるが(CQ11 参照),ICON7 試験におけるサブグループ解析で,明細胞癌においてベバシズマブの上乗せによる有効性が認められなかった10)。したがって,明細胞癌や粘液性癌は新規治療法においても治療抵抗性が高いことが示唆される。

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CQ17
進行例に対して初回化学療法を行う場合,腹腔内化学療法は奨められるか?

エビデンスレベルC
  1. 腹腔内化学療法は,実施可能な体制がある施設において,リスクとベネフィットについての十分な説明と同意のもとに行うことを提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 89%)
エビデンスレベルC
  1. 腹腔内温熱化学療法は,臨床試験として実施することを提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 79%)

推奨②について,国内の婦人科腫瘍専門医の多くが経験したことがない腹腔内温熱化学療法をどのように推奨文に反映させるかについて議論があった。また,国内の状況から「施行しないことを推奨する」という記載の方がよいという意見もあり,合意率は79%となった。

目的

腹腔内化学療法(intraperitoneal chemotherapy;IP 療法)あるいは腹腔内温熱化学療法(hyperthermic intraperitoneal chemotherapy;HIPEC)が進行卵巣癌の初回化学療法として選択できるかを検討する。

解説

卵巣癌の腹腔内病変に対して高濃度の化学療法薬剤を直接接触させることが可能なIP 療法についてRCT が行われてきた。SWOG8501/GOG104 試験ではⅢ期(残存腫瘍径2 cm 以下)546 例において,シスプラチンiv+シクロホスファミドiv 群と,シスプラチンip+シクロホスファミドiv 群を比較し,IP 群でOS の有意な延長を認めた(HR 0.76, 中央値41 カ月vs. 49 カ月)1)。GOG114/SWOG9227 試験ではⅢ期(残存腫瘍径1 cm 以下)462 例において,パクリタキセルiv+シスプラチンiv 群と,カルボプラチンiv+パクリタキセルiv+シスプラチンip 群を比較し,IP 群でPFS(HR 0.78, 中央値22 カ月vs. 28 カ月)とOS(HR 0.81, 中央値52 カ月vs. 63 カ月)の有意な延長を認めたが,有害事象も高度であった2)。GOG172 試験ではⅢ期(残存腫瘍径1 cm 未満)415 例において,パクリタキセルiv+シスプラチンiv 群と,パクリタキセルiv+シスプラチンip+パクリタキセルip 群を比較し,IP 群でPFS(HR0.80, 中央値18 カ月vs. 24 カ月)とOS(HR 0.75, 中央値50 カ月vs. 66 カ月)の有意な延長を認めた3)。しかし,上記3 試験に関しては,純粋に投与方法を置き換えただけの比較がなされていない試験が含まれること,IP 群の毒性が過剰なこと,現在の標準治療であるパクリタキセル+カルボプラチンで行われた試験ではなく,さらにベバシズマブの投与もされていないことが問題点として挙げられる。

これらの問題点を解決すべく,Ⅱ〜Ⅲ期でPDS により肉眼的残存腫瘍が1 cm 以下となった1,560 例を対象としたGOG252 試験が行われた。本試験では,dose-dense パクリタキセルiv+カルボプラチンiv+ベバシズマブiv 群,dose-dense パクリタキセルiv+カルボプラチンip+ベバシズマブiv 群,dose-dense パクリタキセルiv+シスプラチンip+ベバシズマブiv 群の3 群を比較したが,生存期間は同等であった(PFS 中央値:27 カ月vs. 29 カ月vs.28 カ月, OS 中央値:76 カ月vs. 79 カ月vs. 73 カ月)4)。したがって,ベバシズマブ投与の条件下ではIP 療法の有用性は否定的である。なお,本邦では抗腫瘍薬のIP 療法は保険承認されておらず,カルボプラチンip はパクリタキセルiv との併用療法として,先進医療により実施可能である。したがって,IP 療法を行う際は,この実施体制のある施設において,リスクとベネフィットについての十分な説明と同意のもとに行うことが妥当と考えられる。現在,日本人を中心として,Ⅱ〜Ⅳ期の卵巣がん(初回手術時の残存腫瘍径を問わない)を対象とし,ベバシズマブ投与なしのdose-dense TC レジメンを用いて,カルボプラチンIP 療法の有用性の有無を調べるGOTIC-001/JGOG3019 試験が行われており5),本試験の結果が待たれる。

一方,腹腔内温熱化学療法(HIPEC)の有効性を検証したOVHIPEC 試験では,Ⅲ期でNAC 後IDS による残存腫瘍が1 cm 以下の245 例において,IDS 時に腹腔内40 度でシスプラチン100 mg/m2 を90 分灌流で投与するHIPEC 群と,HIPEC なし群を比較し,HIPEC 群では有意にPFS(HR 0.66, 中央値14 カ月vs. 11 カ月),OS(HR 0.67, 中央値46 カ月vs.34 カ月)ともに改善した6)。しかし本臨床試験は比較的小規模であること,化学療法抵抗性の組織型がHIPEC なし群に多かったこと,施設間でHIPEC 群の治療成績に差があったこと,ランダム化が手術開始時になされていたこと,HIPEC 群では術中にPD と判断されて3 例が除外されていたことなど,多くの問題点が指摘されており7),HIPEC は海外のガイドラインでも推奨されていない8)。なお,本邦ではHIPEC は保険承認されておらず,現段階では十分に計画した臨床試験としてのみ行い得る。

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CQ18
化学療法による過敏性反応(HSR)が生じた場合,同一あるいは同系統の薬剤の投与は可能か?

エビデンスレベルC
  1. 非プラチナ製剤により軽度のHSR が発生した症例では,投与を中止して症状が消失したことを確認後,慎重に同一薬の投与を行うことを提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(推奨の強さ1 に対する合意率 63%)
エビデンスレベルC
  1. プラチナ製剤により軽度のHSR が発生した症例では,心肺停止を含む重篤な合併症に即座に対応できる体制を整えた上で,同一薬の脱感作療法や,他のプラチナ製剤への変更を提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 89%)
エビデンスレベルB
  1. 化学療法により重度のHSR が発生した症例では,同一あるいは同系統の薬剤の投与は行わないことを推奨する。
    推奨の強さ 1 (↓↓)(合意率 100%)

推奨①について,当初は「推奨の強さ1(↑↑)」とした。しかし,「軽度に分類されるグレード2 の判断基準が一定ではない」,「推奨文の内容は理解できるが,実際に自ら確信をもって実践できるわけではない」という意見も多く,合意率は63%となった。合意基準75%に達しなかったため,「推奨の強さ2(↑)」とした。

目的

化学療法による過敏性反応(hypersensitivity reaction;HSR)が発生した後で,引き続き同一あるいは同系統の薬剤の投与を行えるかについて検討する。

解説

HSR は重大な有害事象の一つであり,すべての抗腫瘍薬により生じ得る。HSR は薬剤の投与中あるいは終了直後に生じることが多いが,数日後に生じることもあり,患者や家族に説明しておく必要がある。HSR はinfusion reaction(IR)とallergic reaction(AR)に分類される。IR はタキサン製剤,リポソーム化ドキソルビシン,抗体薬等の非プラチナ製剤で生じることが多く,最初の数サイクルのうちに生じ,発赤や発疹等の軽度な症状を生じるが,投与速度を下げると軽快し,投与を中止すると消失することが多い。パクリタキセルによるHSR の予防には前投薬が必須とされ,投与30 分前にデキサメタゾン20 mg,ラニチジン50 mg を静注しジフェンヒドラミン50 mg を経口投与するshort-course premedication1)によるHSR の頻度は,以前の後方視的検討では4.7%2),最近の前方視的検討では18.5%と報告されている3)(ラニチジンから発がん性物質である N-ニトロソジメチルアミンが検出され,2019 年10 月より使用中止となった。代わりにファモチジン20 mg が用いられる)。またドセタキセルに関する前方視的検討では,ステロイドを前投薬として投与して11.5%にHSR が生じていた4)。パクリタキセルの前投薬に関する前方視的試験においてIR と考えられる軽度のHSR が発生した際,投与中断による症状消失後,51 例全例3)や10 例全例5)で再投与が可能であったと報告されている。

一方,AR は,軽度な症状で終わるものもあるが,呼吸困難,全身性の蕁麻疹,嘔吐,腹痛,下痢,血圧の変化,胸部痛,背部痛,腰痛など,IR よりも重篤かつ多彩な症状をきたしやすく,その症状は投与を中止した後にも持続することが多い。プラチナ製剤によるHSR の多くはAR であり,カルボプラチンによるものが代表的で反復投与を行った場合に生じることが多く(6〜21 回,平均8 回),12〜19%でみられる6, 7)。プラチナ製剤によりHSR を生じた際,単純な再投与ではHSR が再発する可能性が高い6)。プラチナ製剤の再投与は,他に代替治療がないか劣っている場合にのみ行われ8),脱感作療法あるいは別のプラチナ製剤への変更が考慮される。脱感作療法の投与方法は定まっておらず,施設ごとに様々なプロトコールで行われている。カルボプラチンによるHSR 56 例(うちグレード1, 2 は53 例)あるいは皮膚試験陽性73 例の計129 例における後方視的検討で,ステロイド薬と抗ヒスタミン薬の前投薬を行った上で4 段階希釈による脱感作療法(30 mL 生食に1/1,000 希釈で30 分間で投与 → 50 mL 生食に1/100 希釈で30 分間で投与 → 100 mL 生食に1/10 希釈で30 分間で投与 → 250 mL 生食に残りを入れて90 分間以上かけて投与)を行ったところ,脱感作療法中に35 例(27%)でHSR が認められ,うちグレード3, 4 は3 例,死亡は1 例であった9)。さらに,濃度と投与速度により12 段階に分けて,15 分ごとに増量していく方法も報告されている8)。また,カルボプラチンによる軽度のHSR の後に他のプラチナ製剤への変更を試みたケースシリーズでは,HSR の再発はネダプラチン投与15 例中4 例(27%)(うちグレード 3 は2 例)10),シスプラチンでは38 例中5 例(13%)11)や24 例中6 例(25%)12)で認められ,また,シスプラチンへの変更で重篤なHSR が生じて死亡した例も報告されている13)。このように,プラチナ製剤の再投与は重篤なHSR を生じ得るため,その必要性の有無について十分に検討した上で,再投与する際は救命処置の体制を整えた上で行うべきである。

本項目において,概ね,軽度はグレード1〜2,重度はグレード3 以上(付記参照)を示すが,グレード2 でも症状が重いものは,重度として取り扱うべきである。重度のHSR が生じた場合,同一あるいは同系統の薬剤の再投与のエビデンスは限られているが,タキサン製剤による重度のHSR に関しては,アレルギーや脱感作療法の専門家のグループから報告がある。パクリタキセルによる重度のHSR を認めた22 例で10 段階脱感作療法を行い,1 例で重度のHSR が認められたと報告された14)。一方,パクリタキセルによる重度のHSR を認めた10 例でドセタキセルへ変更したところ,9 例で重度のHSR が認められた15)。また,重度のHSR のために,パクリタキセルからドセタキセルへ変更した8 例中3 例,ドセタキセルからパクリタキセルへ変更した9 例中4 例で重度のHSR が再発した16)。重度のHSR が生じた場合の同一あるいは同系統の薬剤の投与は,NCCN ガイドライン2019 年版ではアレルギーの専門家に相談せずに行うべきではないとされ17),ESMO ガイドラインでは行うべきではないとされている18)。重度のHSR を認めた場合の再投与は,産婦人科専門医や婦人科腫瘍専門医が標準医療として行うものではないと考えられる。

付記 HSR のグレード分類(CTCAE v5.0)

Infusion reaction

グレード1
軽度で一過性の反応;点滴の中断を要さない;治療を要さない
グレード2
治療または点滴の中断が必要。ただし症状に対する治療(例:抗ヒスタミン薬,NSAIDs,麻薬性薬剤,静脈内輸液)には速やかに反応する;≦24 時間の予防的投薬を要する
グレード3
遷延(例:症状に対する治療および/または短時間の点滴中止に対して速やかに反応しない);一度改善しても再発する;続発症により入院を要する
グレード4
生命を脅かす;緊急処置を要する

Allergic reaction

グレード1
全身的治療を要さない
グレード2
内服治療を要する
グレード3
気管支痙攣;続発症により入院を要する;静脈内投与による治療を要する
グレード4
生命を脅かす;緊急処置を要する

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CQ19
治療後の経過観察で推奨される間隔は?

エビデンスレベルC
初回治療開始から
 1〜2 年目 :1〜3 カ月ごと
 3〜5 年目 :3〜6 カ月ごと
 6 年目以降:1 年ごと
を提案する。
推奨の強さ 2 (↑)(合意率 94%)

目的

治療後の経過観察の間隔について検討する。なお,経過観察の間隔は初回治療開始からの期間としている。

解説

NCCN ガイドライン2019 年版では最初の2 年間は2〜4 カ月ごと,その後3 年間は3〜6 カ月ごと,5 年目以降は1 年ごとの受診が推奨されており1),ESMO-ESGO ガイドライン2019 年版では最初の2 年間は3〜4 カ月ごと,その後3 年間は6 カ月ごとの受診が推奨されている2)。その他のガイドラインでも,最初の2 年間は3〜4 カ月ごと,それ以降はそれより長い間隔でよいとの緩やかな記載であり3),逆に頻回の受診は再発の不安を増幅させる結果となりQOL の低下につながる可能性が指摘されている4)

比較的サンプル数の多い臨床試験の成績をみると,RFS 中央値は,Ⅰ・Ⅱ期の高リスク症例で22〜29 カ月5, 6),進行卵巣癌では17〜21 カ月程度であることから7, 8),最初の2 年間は3 カ月程度の比較的短い間隔での観察が必要と考えられる。再発の95%は4 年以内に発生し,ほとんどの再発が8 年以内に認められるので9),間隔をあけながらも長期的な経過観察が必要である。

CA125 上昇のみによる早期治療は,卵巣癌再発の生存率を改善しないという報告10)や,再発時点において有症状の症例と無症状の症例間で生存率に差がなかったため,定期的な経過観察では患者の臨床転帰を改善しないという報告11)がある。一方,定期的な経過観察により無症状で再発を見つけ手術を施行することで生存率を改善するという報告12)に加え,再発時の手術で完全切除が可能であった症例での予後が改善されるとの報告13-15)もある(CQ26 参照)。

定期的な経過観察により予後を改善できるかどうかは未だ明らかではなく,今後のエビデンスの蓄積が必要である。また上記の受診間隔にかかわらず,腹痛や腹部膨満感といった再発を疑う症状を患者に伝えておき,有症状時に受診できる環境を整えておくことも重要である1)

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CQ20
治療後の問診,内診,腫瘍マーカー測定,画像検査は奨められるか?

エビデンスレベルC
  1. 問診,内診,経腟超音波断層法検査は毎回行うことを推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 94%)
エビデンスレベルC
  1. 腫瘍マーカー測定,CT 検査は必要に応じて適宜行うことを推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)

明日への提言

腫瘍マーカーの測定やCT などの画像検索を定期的に行うことにより予後が改善されるというエビデンスはない。今後,医療経済的側面も考慮した治療後のサーベイランス体制について検証が必要である。


目的

再発の早期発見に役立つ検査項目について検討する。

解説

卵巣癌初回治療後の経過観察で,一般診療として行うべき診察・検査項目については,米国国立衛生研究所(National Institutes of Health;NIH)consensus statement では,問診,理学的所見,内診,直腸診を実施し,CA125 を測定することを推奨している1)。また,ESMO のconsensus conference recommendation では,問診,内診を含めた理学的所見とCA125 測定を毎回実施し,CT 検査は臨床的もしくはCA125 の上昇により再発を疑った時のみに実施することを推奨している2)。NCCN ガイドライン2019 年版では,問診,内診のほか,治療前にCA125 や他の腫瘍マーカーが上昇していた患者に対しては腫瘍マーカーの測定を推奨し,画像診断(CT,MRI,PET/CT)は必要に応じて実施するとしている3)。実際に,米国Society of Gynecologic Oncology(SGO)メンバーへのアンケートでは,問診,内診とCA125 測定が行われることが多く,画像検査はほとんど実施されないことが示されている4)。一方,本邦における一般臨床では,問診,内診,CA125 などの腫瘍マーカー測定,および内診時の経腟超音波断層法検査,そしてCT 検査などが実施されてきた。

問診では,再発に伴う腸閉塞,腹水貯留,胸水貯留などによる症状である腹痛,嘔気・嘔吐,腹部膨満感,腹部腫瘤感,息切れなどの有無を確認することが重要である5)。内診は基本的な診療手技であるが,再発卵巣癌を理学的所見のみで発見できることは非常に少ない。再発卵巣癌80 例を後方視的に検討したところ,再発時点では51%が何らかの理学的所見を有していたが,すべての症例でCA125 の上昇もしくは再発に関連する自覚症状を有しており,理学的所見が発見の契機であったものは3 例(3.8%)のみであった5)。しかし,骨盤内に再発した場合は内診で89%の症例が腫瘤触知,腹水,腫大したリンパ節そして直腸浸潤などの所見を認めるとの報告6)もあり,非侵襲的な手技として実施することには意義があると考えられる。

内診と同時に行うことのできる経腟超音波断層法検査は非侵襲的検査で容易に実施できるメリットがあり,腹水やダグラス窩播種の検出に有用である7, 8)

CA125 は卵巣癌では最も陽性率の高い腫瘍マーカーであり,35 U/mL をカットオフ値とすると80〜85%が陽性を示す。再発卵巣癌では80%以上が陽性を示し,理学的所見や画像所見の出現する3〜5 カ月前から上昇し9, 10),症状の出現する4〜5 カ月前から上昇してくるとの報告もある11)。カットオフ値については,治療後では原則として両側付属器摘出術がなされているので,閉経後女性と同様に考えて15〜20 U/mL とすべきとの意見がある8, 12)。再発検出におけるCA125 の特徴は,陽性反応的中度が非常に高いことと感度が低いことにある13)。すなわち,陽性であるときには再発である可能性が高いが,単回の測定では偽陰性を否定できない14)。そのため,絶対値ではなく,その経時的な変化により早期診断をしようとする試みもある。正常範囲内でも3 回連続して上昇する場合15),1 カ月に25 U/mL 以上の上昇がみられる場合12),経過中に倍化する場合16),正常範囲であっても10 U/mL 以上上昇する場合17)などを陽性とすると,感度および陰性反応的中度の上昇が期待される。組織型や治療前の進行期の影響で治療開始時にCA125 が正常値であっても,再発時に腹水貯留や腹腔内播種を伴った場合にCA125 が上昇してくることが多いため,定期的なCA125 の測定は有用と考えられる。

CT は広い範囲を一度にスクリーニングする利点があり,再発のスクリーニングとして汎用されているが,欠点として,1 cm 以下の微細な病巣やリンパ節転移の検出感度が低いことに留意すべきである14, 18)。具体的な検査の間隔や時期についてのエビデンスはなく,NCCN ガイドライン2019 年版では臨床的に適応がある場合,すなわち再発が疑われた時に施行すべきとされ,一般診療での撮影は推奨されていない3)。一方,ESMO-ESGO ガイドライン2019 年版では,治療開始前のCA125 が正常値であった症例に対しては,定期的な画像検索を推奨している2)。画像検査が早期発見の契機となることもあり,再発のリスクに応じて,そのリスクが高い時期に適宜実施を検討することが望ましい。

MRI はCT に比べて報告が少なく,メタアナリシスではCT より感度,特異度ともに低い値を示している(MRI, CT 感度0.75, 0.79,特異度0.78, 0.84)14)。しかしながら,メタアナリシスに含まれる7 つの文献のうち6 つは2002 年までの発表であり,最近の報告ではCTでは検出困難である微細な腹膜病巣の検出に優れた成績を示しており(感度0.91,特異度0.89)19),拡散強調画像を用いた場合に感度の上昇が報告されている20)

PET/CT はメタアナリシスによると,非常に高い感度と特異度を示している(感度0.94,特異度0.94)21)。その特性を生かして,再発が疑われた場合の治療方針を決める上で重要な検査になりつつある22, 23)。しかし,現時点では実施できる施設が少ないこと,検査自体が高価であることから,一次スクリーニング検査としては推奨できない。

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CQ21
経過観察中に無症状でCA125 が上昇した場合,治療は奨められるか?

エビデンスレベルB
CA125 上昇のみに基づく早期治療介入は実施しないことを提案する。
推奨の強さ 2 (↓)(合意率 95%)

目的

CA125 上昇のみに基づく治療介入が予後に与える影響を検討する。

解説

無症状の症例におけるCA125 の再上昇に対する化学療法に関しては,未だ十分なコンセンサスが得られていない。

CA125 上昇のみに基づく早期治療介入が予後を改善するかどうか,2010 年に大規模なRCT(MRC OV5/EORTC55955 試験)の結果が報告された1)。本試験では,CA125 が陰性化した卵巣癌治療後の症例を経過観察し,CA125 が正常上限の2 倍を超過した時点で,CA125 上昇のみで治療開始する群(早期治療群)と,臨床症状や徴候の出現をもって治療開始する群(待機治療群)にランダム化された。結果として,一次登録された1,442 人のうちCA125 が上昇した529 例(37%)が2 群に割り付けられた。追跡期間の中央値は56.9 カ月で,370 例(早期治療群186 例,待機治療群184 例)が死亡した。早期治療群は待機治療群より二次化学療法が中央値で4.8 カ月,三次化学療法が同じく4.6 カ月早く開始されたものの,早期治療群の生存期間の中央値は25.7 カ月であったのに対し待機治療群は27.1 カ月と両群間で差を認めなかった。また,早期治療群ではより長期間,化学療法が行われたことを反映して,待機治療群と比較して有意なQOL の低下が報告された。

以上より,CA125 上昇のみに基づく化学療法の早期開始は,否定的な結果が示されただけでなく,経過観察におけるCA125 測定の価値も懐疑的であると結論づけた。しかし,この臨床研究については以下のような問題点が指摘されていることも念頭に置く必要がある。①予後因子として重要な位置づけにある残存腫傷の評価がなされていない2, 3),②化学療法が必ずしも現在の薬剤選択のスタンダードに基づく最適なものでない2-4),③化学療法以外に二次的腫瘍減量手術(SDS)などの外科的治療の考慮される割合が極めて少ない2, 4)。さらに,本結果が必ずしもすべての組織型に当てはまるとは言えない。例えば,粘液性癌ではCA19-9 やCEA 値がしばしば上昇するが,現状ではすべての腫瘍マーカーに本結果が反映されるわけではない5)。これらのいくつかの問題点はあるものの,CA125 上昇のみに頼った早期治療介入が必ずしも予後改善に結び付かないことを示している1)。さらに,CA125 上昇のみでの治療介入はOS に寄与していないことを示す別の報告もある6)。しかしながら,CA125 の定期的測定は再発腫瘍発見のきっかけとなり得る有用な経過観察手段であり,それ自体を否定するものではない。

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CQ22
卵巣癌治療中や治療終了後にホルモン補充療法(HRT)は奨められるか?

エビデンスレベルB
エストロゲン欠落症状を有する場合や45 歳未満の場合にはHRT を推奨する。
推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 59%)

当初は「術後早期からHRT を施行することを提案する。〔推奨の強さ2(↑)〕」としたが,合意率は38%であった。「卵巣癌治療後のHRT は再発リスクを高めないというエビデンスは確立されているものの,術後早期からHRT を行うべきとするエビデンスは不足している」,「年齢の要素を加えるべきである」との意見があり,ここに示す推奨文・推奨の強さに修正して再投票を行い,医師の合意率は82%に達した。外部作成委員を含めた合意率は59%にとどまったものの,実臨床の状況や他学会のガイドラインなどを総合的に勘案し,最終的にこの推奨文に決定した。


明日への提言

がんサバイバーのQOL の維持・向上においてホルモン補充療法(hormone replacement therapy;HRT)によるベネフィットが大きいことは明らかである。しかし,欧米での臨床試験には日本人のデータが含まれておらず,明細胞癌の多い日本人における卵巣癌治療後のHRT のデータはないため,今後,本邦からの進行卵巣癌治療中および治療後におけるHRT の有効性,安全性を検証する臨床試験が行われることを期待したい。


目的

上皮性境界悪性腫瘍や卵巣癌症例における卵巣摘出後のHRT の適応について検討する。

解説

卵巣癌の基本術式には両側付属器摘出術が含まれているため,閉経前女性では治療に伴う急激なエストロゲンレベルの低下から更年期障害様症状,脂質異常症,骨粗鬆症などによりQOL を低下させる可能性がある。卵巣癌の25%以上は50 歳未満であり1),治療的卵巣摘出によるエストロゲン欠落症状を考慮することが必要となる。さらに,非担癌女性に対する検討で,45 歳以下で両側卵巣を摘出しエストロゲン補充されなかった群では,非摘出群または卵巣摘出後エストロゲン補充群に比して生存率が低いと報告されている2)。卵巣摘出後のエストロゲン欠落症状への対応は,QOL の維持改善に重要であり,生存率にも寄与する可能性がある。

卵巣摘出後のエストロゲン欠落症状には,HRT が選択肢の一つとなる。現時点で,卵巣癌術後のHRT により再発率が上昇するという報告はみられない3)。2015 年に報告された2 つのRCT と4 つのコホート研究を含む2 件のメタアナリシスでは,いずれも上皮性卵巣癌術後のHRT は再発率への影響はなく,また全生存率を向上させていた4, 5)。また,漿液性癌を除いた後方視的コホートの検討では,55 歳未満の女性においては術後にHRT を施行した症例で無病生存期間(disease free survival;DFS)が延長しており,いずれの年齢層でもHRT 施行者と未施行者の間でOS には差はなかった6)。さらに,約19 年間追跡されたRCT では,卵巣癌術後にHRT を行った症例群でOS が有意に延長していたと報告されている7)。開始時期としては,術後6〜8 週間でHRT を開始しているRCT の報告があり8),それ以外にも報告されている多くの研究は,Ⅲ期およびⅣ期の進行卵巣癌症例を含め,初回術後早期にHRT を開始している4)。組織型別では,漿液性癌,粘液性癌,類内膜癌およびその他に分類し,卵巣癌治療後のHRT による死亡リスクをみた検討では,漿液性癌で有意に低く(HR=0.69, 95%CI 0.48-0.98),他の組織型では有意差はみられなかった(HR=0.83, 95%CI 0.65-1.08)9)

これらの報告から,卵巣癌患者に対するHRT は少なくとも再発のリスクを高めないと考えられ,エストロゲン投与によりQOL 改善が期待される場合には,術後早期からHRT の施行は奨められる。ただし,HRT を施行する場合に投与するホルモン剤の種類,投与量,投与経路,投与期間,そして投与開始時期についてのコンセンサスが得られていない。施行にあたっては,個々の患者の状態を勘案し10),メリットとデメリットを十分に説明した上で同意を得ることが必要である(HRT の施行に際しては,HRT ガイドライン10)を参照)。

ベバシズマブ併用療法で卵巣癌治療が長期に及ぶ症例が増えている。卵巣癌治療中のHRT が治療効果や血栓症等の合併症発症に影響するかどうかのエビデンスは得られていない。ベバシズマブ併用療法を行う症例においては,卵巣癌治療終了後にHRT を施行することが現時点では妥当と思われる。一方,顆粒膜細胞腫,セルトリ・ライディッヒ細胞腫などに対する術後HRT については,施行を懸念する意見もあるが,再発リスクが上昇するというエビデンスは乏しい。ただし,顆粒膜細胞腫では,エストロゲン産生性であり血中エストロゲン値が再発マーカーとなり得ることから,HRT の施行は避けた方がよいという意見がある3, 10)

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CQ23
乳癌未発症のBRCA1 あるいはBRCA2 変異保持者に対して,リスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)は奨められるか?

エビデンスレベルA
遺伝カウンセリング体制ならびに病理医の協力体制が整っている施設において,倫理委員会による審査を受けた上で,婦人科腫瘍専門医が臨床遺伝専門医と連携してRRSO を行うことを推奨する。
推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)

目的

BRCA1 あるいはBRCA2BRCA1/2)変異保持者における卵巣癌の累積罹患リスクは,70 歳でBRCA1 では40%,BRCA2 では18%と高率である1)。卵巣癌に対する早期発見のための有効なスクリーニング法は現在まで確立されておらず,BRCA1/2 変異保持者に対するRRSO はその対策の一つとして重要な役割を担っている。そこで,RRSO の卵巣癌・卵管癌の発症頻度の減少に及ぼす影響について検討する。

解説

遺伝性乳癌卵巣癌(hereditary breast and/or ovarian cancer;HBOC)の発症を予防する目的で,リスク低減乳房切除術(risk-reducing mastectomy)やRRSO が欧米では多く行われており,その後の観察でRRSO による卵巣癌・卵管癌・乳癌の発症リスクの減少が示されている2, 3)。2,840 例のBRCA1/2 変異保持者のデータに基づくメタアナリシスでは,RRSO 後の卵巣・卵管癌発症のリスクは減少する(HR 0.21)ことが明らかにされた2)。このメタアナリシスで採用された多施設前方視的研究4)では,RRSO を受けなかった283 例のBRCA1/2 変異保持者のうち12 例にBRCA 関連婦人科がんが発症した。一方で,RRSO を施行した509 例のBRCA1/2 変異保持者のうち3 例に腹膜癌の発症が確認され,これらの3 症例はいずれもBRCA1 変異保持者であった。すなわち,頻度は高くないものの,RRSO 後の腹膜癌の発生にも留意した経過観察が重要であり,術前に患者への十分な説明を行う必要がある5)。また,BRCA1/2 変異保持者2,482 例を対象として,RRSO がその後の卵巣癌・乳癌の発症リスク低減と総死亡率低下に及ぼす影響に関する前方視的な多施設共同コホート研究の結果が報告された6)。その中で,RRSO はその後の卵巣癌発症リスクを,BRCA1, BRCA2 変異保持者のいずれでも乳癌の既往の有無にかかわらず低減させた。また,RRSO 後には卵巣癌・乳癌さらに全死因死亡率が低下することが示された。さらに,5,783 例のBRCA1/2 変異保持者を対象とした観察研究では,RRSO は卵巣癌・卵管癌・腹膜癌の発症リスクを80%,全死亡率を77%低下させることが明らかになった7)

以上,BRCA1/2 変異保持者に対するRRSO は,卵巣癌・卵管癌・乳癌の発症リスクを減少させるだけでなく,その生命予後をも改善させる効果が示されており,対象者の社会的状況を考慮した上で実施を推奨する。NCCN ガイドライン2020 年版では8)BRCA1/2 変異保持者においては,出産が終了した35〜40 歳でのRRSO を推奨している。

RRSO の実施に関しては,現時点の本邦の医療制度では,乳癌発症者に対してのみ保険適用がある。日本婦人科腫瘍学会からは,RRSO に対する考え方,具体的な手術術式,保険診療に関して詳細が示されており,参照されたい(https://jsgo.or.jp/opinion/05.html)。乳癌未発症者に対するRRSO は保険診療として実施できず,倫理委員会による審査が必要となることにも注意が必要である。

近年,BRCA1/2 変異保持者に対するRRSO によって摘出された卵管の詳細な病理組織学的検討から,骨盤腔内に進展する高異型度漿液性癌が卵管采における漿液性卵管上皮内癌(serous tubal intraepithelial carcinoma;STIC)を発生起源としている可能性が指摘されている9, 10)。HBOC に対するRRSO の摘出組織の病理組織学的診断に際しては,Sectioning and Extensively Examining the FIMbriated end(SEE-FIM)プロトコールに準じて,両側の卵管および卵管采を全割・全包埋し標本を作製することが望ましい。このSEE-FIM プロトコールでは,STIC の好発部位である卵管采は卵管の長軸方向に沿って,そして残る卵管は長軸に対して垂直の向きに,それぞれ2〜3 mm 間隔で分割し,そのすべての組織切片について病理組織学的な評価を行う(図211)

図2 卵管の切り出し例

また,RRSO を施行したHBOC 症例において,その後のHRT と乳癌発症リスク低減効果との関連性についての解析結果が報告されている12, 13)。その中で,BRCA1 変異保持者872 例を対象とした前方視的コホート研究では,RRSO 後のHRT はその後の乳癌の発症リスクに影響を与えないとする解析結果が示されている(平均観察期間7.6 年)13)。しかしながら,これらの結果はRCT によるものではなく,HRT の安全性に関してはRCT による検証が望まれる。

付記 RRSO によってSTIC が同定された症例への対応について

HBOC に対してRRSO が施行された症例の0.6〜7%において,STIC 病変が認められることが報告されている。また,これらのSTIC 症例の10〜15%では,腹水細胞診が陽性であることが示されている。現在,このような症例に対する進行期決定開腹手術(staging laparotomy)や初回化学療法の適応については,明確なエビデンスに乏しいのが現状である。

RRSO によってSTIC が認められた17 例の解析が報告されており,3 例(17.6%)において腹水細胞診が陽性であった。17 例のうち10 例(58.8%)に対してstaging laparotomy が施行されたが,いずれの摘出組織にも悪性所見は認められなかった。また,腹水細胞診が陽性であった2 例を含む4 例(23.5%)に対して,3〜6 コースのTC 療法(パクリタキセル+カルボプラチン)が施行された。予後に関しては観察期間の中央値80 カ月(40〜150 カ月)において,1 例のみ43 カ月で再発がみられたが,staging laparotomy ならびに化学療法の追加の有無にかかわらず,全例が生存している14)。また,RRSO の摘出組織においてSTIC が認められた12 例の後方視的研究では,1 例(8.3%)のみに腹水細胞診が陽性であった。7 例(58.3%)に対してstaging laparotomy が行われたが,いずれの摘出組織においても悪性所見を認めていない。初回化学療法は全例で施行されなかったが,観察期間の中央値28 カ月(16〜44 カ月)において再発はみられていない15)。さらに,2006〜2015 年の報告からの総説では,RRSO によってSTIC が同定された67 例中,腹水細胞診は7 例(10.4%)で陽性であった。29 例(43.3%)では追加の手術療法が施行されたが,いずれの摘出組織においても悪性所見は確認されなかった。11 例(16.4%)ではRRSO 後にTC 療法が行われた。2〜150 カ月の観察期間で,67 例中3 例(4.5%)において腹膜癌の発症がみられた16)。また,ESMO-ESGO ガイドライン2019 年版では,RRSO によってSTIC が同定された症例の臨床的対応に関して,「adjuvant chemotherapy(補助化学療法)は推奨されない(Levels of evidence Ⅴ, Strength of recommendation A, Consensus 100%)」としている一方,「peritoneal restaging を考慮する(Levels of evidence Ⅳ, Strength of recommendation B, Consensus 100%)」とされている17)

以上のような報告より,現時点において,staging laparotomy ならびに初回化学療法を積極的に推奨する明確なエビデンスはない。腹水細胞診が陽性である場合の対応など,検討すべき事項は多く残されており,今後の症例集積による検討が望まれる。一方,RRSO によってSTIC が同定された症例では,staging laparotomy や初回化学療法施行の有無にかかわらず,再発あるいは新たな腹膜癌の発症リスクを考慮し,長期間にわたる定期的な経腟超音波断層法検査および血清CA125 値測定によるサーベイランスを行うことが必要である。

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第3章 再発卵巣癌・卵管癌・腹膜癌

総説

再発卵巣癌の治療において最も重要なことは,症例のバリエーションに応じて治療選択を検討するため,腫瘍内科医,放射線治療医を含む多職種によるキャンサーボード等の議論も勘案しつつ,根治的治療・緩和的治療の両面を視野に入れた治療を選択することである。

近年,生物学的製剤の登場や遺伝子検査の実用化により,再発卵巣癌に対する薬物療法にパラダイムシフトが起こりつつある。分子標的治療薬である血管新生阻害薬,PARP 阻害薬,免疫チェックポイント阻害薬が実臨床に導入された。これらの新規薬剤の登場とともに,再発卵巣癌治療においても,再発卵巣癌の生物学的特徴(コンパニオン診断,がん遺伝子パネル検査など)に基づく治療薬が選択され始めている。しかし,現時点までに集積されたエビデンスの多くは「プラチナ製剤感受性再発(platinum-sensitive recurrence;PSR)」「プラチナ製剤抵抗性再発(platinum-resistant recurrence;PRR)」によってカテゴリー化されている。その結果,再発卵巣癌の治療選択は,これらの再発症例ごとに,推奨される治療法が示されている1)。「プラチナ製剤感受性再発:PSR」は,プラチナ製剤による治療終了後から再発までの期間,PFI (platinum free interval)が6 カ月以上の場合をいう。「プラチナ製剤抵抗性再発:PRR」は,PFI が6 カ月未満の場合をいう1)

近年,初回治療時に血管新生阻害薬2),PARP 阻害薬3)を用いた維持療法の登場により,TFI (treatment free interval)とPFI でタイムラグが生じることとなった。そこで,Gynecologic Cancer InterGroup(GCIG)主催の第5 回卵巣癌コンセンサスカンファレンス(2015 年,東京)では,TFI をTFI p(プラチナ製剤による治療終了時から再びプラチナ製剤投与までの期間=PFI)とTFI b(血管新生阻害薬,PARR 阻害薬,免疫チェックポイント阻害薬などの生物学的製剤による治療終了後から再び生物学的製剤投与までの期間)に区別することが提唱された1)表12)。例えば,PARP 阻害薬の有効性は,PFI=TFI pと相関することになる4)。なお,DFI (disease free interval)と比較すると,TFI には人為的な要素が含まれる点は注意が必要である。本章の解説文では,引用した論文で用いられた用語(TFI,PFI, DFI)をそのまま用いた。

表12 再発卵巣癌に関する用語とその定義

プラチナ製剤抵抗性再発の薬物療法では,AURELIA 試験によって,初回治療と交差耐性のない単剤による化学療法にベバシズマブを併用することでPFS の延長効果が示された(CQ24)。

プラチナ製剤感受性再発の薬物療法では,プラチナ製剤を含む多剤併用療法が推奨される。プラチナ製剤との併用薬としては,パクリタキセル,ゲムシタビン,リポソーム化ドキソルビシンの併用効果が示されていることから,毒性プロファイルに留意して薬剤を決定するべきであろう。さらにベバシズマブの上乗せ効果を検証した2 つの試験によって,PFS の有意な延長が示された。また,初回治療でベバシズマブ維持療法を行っていたプラチナ製剤感受性再発,プラチナ製剤抵抗性再発に対し,ベバシズマブを再度投与するbevacizmab beyond progression(BBP) の有効性も検証中であり,結果が待たれる。一方,プラチナ製剤感受性再発の治療選択肢にPARP 阻害薬が加わった。その使い方については,通常診療でBRCA1/2 変異を検査できるようになったことから,BRCA1/2 変異を有するプラチナ製剤感受性再発と,BRCA1/2 変異がないか不明のプラチナ製剤感受性再発を区別して投与する必要がある(CQ25)。

再発卵巣癌の手術療法(secondary debulking surgery;SDS)は,プラチナ製剤感受性再発に対しては肯定的な研究やシステマティックレビューが多い(CQ26)。ただし,完全切除可能と判断される場合である。SDS の有用性を検証する第Ⅲ相RCT が2 つ行われている。GOG213 試験では,化学療法単独群に比して,全症例のSDS によるOS 延長は認めなかったが,SDS 時に完全切除できた症例のPFS は延長した。DESKTOPⅢ/ENGOT ov20 試験(中間解析)でも,SDS 時に完全切除できた症例のPFS は延長しており,SDS の有用性が示された。一方,プラチナ製剤抵抗性再発では症状緩和以外には治療的意義はない。放射線治療は,再発卵巣癌に対しては症状緩和を目的とした緩和的治療の範疇である(CQ27)。

再発卵巣癌症例では,しばしば腸閉塞と腹水貯留が問題となる。腸閉塞については,閉塞部位,全身状態,予後を勘案し手術療法が奨められる場合がある。また,腸閉塞に伴う嘔気・嘔吐に対しては,コルチコステロイドやオクトレオチド投与が有用である(CQ28)。腹水貯留に対しては,患者の状態や希望を見極め,症状緩和目的で利尿薬投与,腹水ドレナージ,腹水濾過濃縮再静注法(cell-free and concentrated ascites reinfusion therapy;CART)(CQ29)が考慮される。

再発卵巣癌では,化学療法をいつまで続けるか苦慮する状況がしばしばある。根治が望めないなか,有害事象による不利益とのバランスを考慮した治療選択が求められる。患者によっては,無治療と比して,3rd ライン以降の異なるレジメンによってOS が延長し,clinical benefit rate(disease control rate)が高くなる。化学療法による不利益を勘案し,レジメンを変更した上で化学療法を実施する場合がある。さらに,3rd ライン以降の化学療法では,患者・家族との十分なコミュニケーションスキルと協働意思決定(shared decision making)が重要である(CQ30)。

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CQ24
プラチナ製剤抵抗性再発で推奨される薬物療法のレジメンは?

エビデンスレベルB
  1. 前回治療と交差耐性のない単剤治療を提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルB
  1. 単剤の化学療法に加え,ベバシズマブの併用療法を提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 100%)

目的

プラチナ製剤抵抗性再発卵巣癌に対する薬物療法において推奨されるレジメンを検討する。

解説

多剤併用療法が単剤療法に優るという報告はなく1, 2),単剤による治療が基本となる。単剤によるいくつかのRCT が実施された3-5)が,薬剤選択の基本は前回治療と交差耐性のない薬剤を選択することである。表13 は保険適用のある二次化学療法である3-13)。これらの薬剤をどの順序で用いるかについてのエビデンスは得られていない。薬剤の投与量ならびに投与間隔は海外報告と本邦における用法用量規定に基づいた目安であり,実際の治療では全身状態に応じた変更が必要である。多剤併用療法は単剤療法に比較して高い奏効率が報告されているが,必ずしも延命効果は得られず毒性も強くなることから,現時点ではその実施は臨床試験にとどめるべきである14)

また,血管新生阻害薬であるベバシズマブの上乗せ効果を検証したAURELIA 試験では,単剤化学療法(リポソーム化ドキソルビシン,パクリタキセル毎週投与,トポテカン)+ベバシズマブ併用療法のPFS は6.7 カ月であり,単剤化学療法のPFS 3.4 カ月に比して有意な延長を示した(HR 0.48)。OS に関して有意差は見られなかった15)

抗PD-1 抗体であるペムブロリズマブが「がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌(標準的な治療が困難な場合に限る)」に保険適用となった16)。MSI-High を有する症例においては治療選択肢となりうるが,まだ症例数が少ないことから今後の集積が待たれる。

表13 再発卵巣癌の化学療法(薬剤名は五十音順)

7 13 6 5 4 10 15 8 4 9 11 12 15 3 5 6 15 15 15

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CQ25
プラチナ製剤感受性再発で推奨される薬物療法のレジメンは?

エビデンスレベルA
  1. プラチナ製剤を含む多剤併用療法を推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルB
  1. 多剤併用化学療法に加え,ベバシズマブの併用/ 維持療法を推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルB
  1. プラチナ製剤を含む化学療法で奏効した後にオラパリブまたはニラパリブの維持療法を推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 91%)
エビデンスレベルB
  1. HRD があり、3 レジメン以上の化学療法歴のあるプラチナ製剤感受性再発症例に対しては、ニラパリブ単剤による治療を提案する。
  2. 推奨の強さ 2 (↑)(合意率 91%)

最終会議での論点

推奨③について、当初は「BRCA1/2 変異を有するプラチナ製剤感受性再発症例でプラチナ製剤を含む化学療法で奏効した後にオラパリブまたはニラパリブの維持療法を推奨する。推奨の強さ1(↑↑)」と「BRCA1/2 変異のない、もしくは不明なプラチナ製剤感受性再発症例でプラチナ製剤を含む化学療法で奏効した後にオラパリブまたはニラパリブの維持療法を推奨する。推奨の強さ1(↑↑)」で分けていた。後者について投票を行ったところ、合意率が82%であった。しかし、「BRCA1/2 変異のない、もしくは不明な症例に対しては、オラパリブに比べニラパリブのエビデンスレベルの方が高く、同列で併記できないのではないか」という意見などもあり、BRCA status を記載せずに上記③の推奨文で投票を行ったところ合意率91%となり、上記③の推奨文を採用した。

推奨④について、当初は「推奨の強さ1」で投票を行ったが、合意率が45%であったため「推奨の強さ2」に変更した。

目的

プラチナ製剤感受性再発卵巣癌に対する薬物療法において推奨されるレジメンを検討する。

解説

再発卵巣癌の化学療法は,初回治療において主としてタキサン製剤+プラチナ製剤の化学療法が施行された症例が対象になる。再発の治療目標は,症状緩和と延命である。また,再発癌に対する化学療法の奏効期間は初回化学療法の奏効期間をこえることはなく,化学療法の限界も認識すべきである1)

第Ⅲ相RCT の結果では,プラチナ製剤の単剤療法よりもプラチナ製剤を含む多剤併用療法(TC 療法2),GC 療法3),PLD-C 療法4))が推奨される(表14)。また,CALYPSO 試験の結果,PLD-C 療法のTC 療法に対するPFS 4)での非劣性が示され,OS 5)でも有意差はなかった。その他のレジメン間での比較試験はない。各レジメンの毒性プロファイルを考慮して選択すべきである。

プラチナ製剤感受性再発卵巣癌においてもベバシズマブの上乗せ効果を検証した試験が行われた(表14)。OCEANS 試験では,GC 療法+ベバシズマブ併用/維持療法のPFS は12.4 カ月であり,GC 療法の8.4 カ月に比して有意な延長を示した(HR 0.48)6)。同様にプラチナ製剤感受性再発症例を対象としたGOG213 試験では,OS を主要評価項目としており,TC 療法+ベバシズマブ併用/維持療法の42.2 カ月,TC 療法の37.3 カ月で,統計学的には有意差を示さなかったが(HR 0.83, p=0.056),不適格症例であるプラチナ製剤抵抗性再発45 例を除外した解析の結果,ベバシズマブ併用によりOS の有意な延長を示した(HR 0.82)。なおPFS は13.8 カ月であり,TC 療法の10.4 カ月に比して有意な延長を示した(HR 0.62)7)

表14 再発卵巣癌の化学療法(プラチナ製剤感受性症例に対する第Ⅲ相ランダム化比較試験)

2 3 4 6 7 8 9 10 12 14

さらにGC 療法+ベバシズマブ併用/維持療法とPLD-C 療法+ベバシズマブ併用/維持療法を比較したAGO-OVAR2.21/ENGOT-OV18 試験では,PLD-C+ベバシズマブのPFS は13.3 カ月であり,GC+ベバシズマブの11.6 カ月に比して有意な延長を示した(HR 0.81)。また,OS もGC+ベバシズマブの27.8 カ月に比して,PLD-C+ベバシズマブにおいて31.9 カ月(HR 0.81)と良好であった8)

一方,生殖細胞系のBRCA1/2 変異を有するプラチナ製剤感受性再発卵巣癌(漿液性癌もしくは類内膜癌)を対象とした第Ⅲ相RCT であるSOLO-2 試験は,ベバシズマブを含まない化学療法を直前に4 サイクル以上行い,完全奏効(CR)あるいは部分奏効(PR)を得た症例に対する維持療法として,オラパリブ群(300 mg/回,1 日2 回:錠剤経口投与)とプラセボ群に,2:1 にランダム割付した。オラパリブ群のPFS は19.1 カ月であり,プラセボ群の5.5 カ月に比して有意なPFS の延長を示した(HR 0.30)9)

BRCA1/2 変異の有無を問わず,プラチナ製剤感受性再発漿液性卵巣癌(高異型度)を対象とした第Ⅱ相RCT であるStudy19 試験は,2 レジメン以上のプラチナ製剤を含む化学療法による既治療歴を有し,直前の4 サイクル以上の化学療法によりCR あるいはPR を得た症例に対する維持療法として,オラパリブ群(400 mg/回,1 日2 回:カプセル経口投与)とプラセボ群にランダム割付した。オラパリブ群のPFS は8.4 カ月であり,プラセボ群の4.8 カ月に比して有意な延長を示した(HR 0.35)10)。本試験では,BRCA1/2 変異の有無を検討し得た症例(全体の約 95%)についてサブグループ解析を行った。BRCA1/2 変異保持者では,PFS がプラセボ群4.1 カ月に比してオラパリブ群11.2 カ月(HR 0.17)と著明に延長した。一方,BRCA1/2 野生型の症例においても,PFS がプラセボ群5.5 カ月に比してオラパリブ群8.3 カ月であり,HR 0.50 という明らかなPFS 延長が示された11)

BRCA1/2 変異がない再発卵巣癌症例においても,腫瘍組織のDNA 解析でHRD が認められる場合,HRD がない場合に比してPARP 阻害薬であるニラパリブやルカパリブの効果がより顕著である12,13)BRCA1/2 変異の有無を問わず,プラチナ製剤感受性再発漿液性卵巣癌(高悪性度)を対象としたNOVA 試験では,2 レジメン以上のプラチナ製剤を含む化学療法による既治療歴を有し,直前の4 サイクル以上の化学療法によりCR あるいはPR を得た症例に対する維持療法として,ニラパリブ群(300 mg/回,1 日1 回:経口投与)とプラセボ群にランダム割付した。PFS は BRCA1/2 変異を有する症例ではニラパリブ群21 カ月対プラセボ群5.5 カ月(HR = 0.27)、BRCA1/2 変異のないHRD の症例ではニラパリブ群12.9 カ月対プラセボ群3.8 カ月(HR = 0.38)、BRCA1/2 変異のない症例全体ではニラパリブ群9.3 カ月対プラセボ群3.9 カ月(HR=0.45)と事前に設定された3 つの対象全てで有意差を示した。また、探索的解析ではHRD でない症例でもPFS はニラパリブ群6.9 カ月対プラセボ群3.8 カ月(HR=0.58; p = 0.02)と延長を示した。本試験ではニラパリブの開始投与量は300mg で固定されていたが、中国で行われたNORA 試験では初回治療でのPRIMA 試験と同じくISD (Individualized Starting Dose; 体重が77kg 以上かつ血小板数が15 万以上の患者のみ300mg で投与開始、それ以外は200mg で投与開始)を採用し、同様の成績が示された14)。しかし、プラチナ製剤感受性再発卵巣癌に対してベバシズマブを併用した化学療法を行った後に、維持療法としてベバシズマブの代わりにPARP 阻害薬を使用した場合の治療効果については明らかなエビデンスはない。

前化学療法レジメン数3 以上の患者を対象としたニラパリブ単剤療法の有効性、安全性を検証した第II相試験QUADRA試験では、症例数の設定根拠に用いられた「HRD」かつ「前治療レジメン数3又は4」かつ「プラチナ感受性」の47 例中13例(28%; 95%C.I. 15.6 –42.6%)で奏効が得られた15)。当該状況でのプラチナ再投与に期待される奏効割合に匹敵するとして、事前に設定された値(30%)に相当し、単剤投与として本邦でも保険適応となった。しかし、PARP阻害薬の既往のある症例に対してのエビデンスはない点に留意する必要がある。

PARP 阻害薬の有害事象として、骨髄異形成症候群/急性骨髄性白血病が希に起こることが知られている。2020 年に発表されたシステマティックレビューで、プラセボ群と比べてPARP 阻害薬による維持療法で骨髄異形成症候群/急性骨髄性白血病がわずかだが有意に(0.47%から0.73%, peto OR = 2.63)増加することが示された16)。長期間の観察を要する有害事象であり、今後さらなる検討が望まれる。

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CQ26
再発患者に対して手術療法は奨められるか?

エビデンスレベルC
  1. プラチナ製剤感受性再発症例に対しては,完全切除が可能と判断される場合には secondary debulking surgery(SDS) を提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルC
  1. プラチナ製剤抵抗性再発症例に対しては,切除可能な孤立性病変や症状緩和が期待できる場合を除き,手術療法を実施しないことを提案する。
    推奨の強さ 2 (↓)(合意率 92%)

目的

再発卵巣癌に対する手術療法の適応と有効性を検討する。

解説

これまでは,再発に対する腫瘍減量手術が二次化学療法と比較して予後を改善することを証明した報告はなく,十分なエビデンスが不足していた。一方で,多くの後方視的検討や前方視的コホート研究,およびシステマティックレビューにより,プラチナ製剤感受性再発で,SDS 時に腫瘍の完全切除が可能な症例は,SDS によって予後が改善される可能性が示されている1-12)

NCCN ガイドライン2019 年版13)では,SDS を施行する条件として,DFI が少なくとも6 カ月あることを挙げている。一方で,DFI は12〜24 カ月以上と長い方がSDS 後の予後が良好であるという報告も多数ある1-9)

SDS 後の残存腫瘍径が0.5 cm 未満,あるいは1 cm 未満であることが予後と相関するという報告もあるが5-8),腫瘍の完全切除のみが予後と相関するという報告1-4, 9, 12)も多く,2009 年に報告された2,109 症例によるメタアナリシスでも,完全切除だけが予後と相関していた10)。2013 年に報告された1,194 症例によるCochrane Library のメタアナリシス11)においても同様の結果であり,SDS を行う際には腫瘍の完全切除を目指すべきであり,完全切除が可能と予測される症例がSDS の適応症例となる。

腫瘍の完全切除を予測する因子として,Ⅰ・Ⅱ期の再発,初回手術時での完全切除,良好なPS,500 mL 以下と推定される腹水量,孤発性の再発,10 cm 以下の腫瘍サイズが報告されている1-4, 9)。それらをどのように組み合わせると正確に完全切除を予測できるのかについては検証も行われている14-16)が,結論は出ていない。

近年,プラチナ製剤感受性再発卵巣癌を対象として化学療法単独群とSDS+術後化学療法群とを比較した3 つの多施設RCT 17-19)が実施された。SOCceR 試験17)は症例登録が不良のため2015 年8 月に早期中止となった。AGO DESKTOPⅢ/ENGOT ov20 試験では,AGO スコア陽性(PS=0,腹水500 mL 以下,初回手術で腫瘍の残存なし)のプラチナ製剤感受性再発卵巣癌408 例を,化学療法単独群とSDS 後に化学療法を行う手術併用群にランダムに割り付けた。中間解析では,手術併用群ではPFS およびTFST(time to first subsequent treatment)においてそれぞれ5.6 カ月および7.1 カ月と,有意な延長を認めた(HR 0.61, p<0.001)18)。ただし,化学療法単独群に比べSDS によるPFS の延長が認められたのは,完全切除できた群(SDS 群の68%)のみであった。GOG213 試験では,PFI が6 カ月以上の再発卵巣癌のうち手術適応ありと判断された485 例を,化学療法単独群と手術併用群にランダムに割り付けた。SDS 群の67%で完全切除されているが,完全切除できた症例では化学療法単独群と比べPFS が延長した(HR 0.62, CI 0.48-0.80, PFS 中央値 22.4 vs. 16.2 カ月)。しかし主要評価項目であるOS では,症例全体でも完全切除例でも,両群間に有意差がなかった19)。OS に対するベネフィットについては,AGO DESKTOPⅢ/ENGOT ov20 試験の最終解析結果が待たれるが,少なくとも完全切除できた症例のPFS は,SDS を行うことによって化学療法単独よりも延長することから,完全切除が可能と判断される場合はSDS を実施することを提案する。

一方,TFI が6 カ月未満のプラチナ製剤抵抗性再発卵巣癌は極めて予後不良であり,SDS による利益が得られないことが多いため,ほとんどの研究では解析対象症例としていない。したがって,プラチナ製剤抵抗性再発症例に対しては,一般的にSDS は奨められない。ただし,完全切除可能な孤立性の再発であれば,手術療法が化学療法単独よりも生存率を延長したという報告20)もあり,症状緩和を目的とした場合も含め,手術療法も考慮する余地がある。

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CQ27
手術適応のない再発患者に対して放射線治療は奨められるか?

エビデンスレベルB
  1. 疼痛,出血などの症状を有する症例に対しては,症状緩和のために放射線治療を提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルB
  1. 脳転移症例に対しては,症状緩和と予後改善のために放射線治療を提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 92%)

目的

再発卵巣癌に対する放射線治療の適応と有効性を検討する。

解説

手術適応のない再発卵巣癌における治療法の選択は,腫瘍内科医,放射線治療医を含む多職種によるキャンサーボード等の議論を経て,症例ごとに検討する必要がある。

再発癌に対する放射線治療が化学療法と比較して予後を改善するかどうかを証明したRCT は存在しないが,再発卵巣癌によってもたらされる様々な症状を緩和するのに放射線治療が有効であることを示す後方視的検討は多数報告がある。放射線治療の対象は,骨盤内,腹腔内,リンパ節,腟断端,脳転移や骨転移などの遠隔転移である1-13)。これらの病変に対する放射線治療の腫瘍縮小効果は一般的に良好で,奏効率は65〜73%であった3, 6)。また,症状の軽快が得られた症例は50〜100%,症状が制御できた期間は中央値で5〜11 カ月と報告されている1-7)。特に出血や疼痛の緩和には有効であり,これらの症状に対する奏効率はそれぞれ89〜100%,77〜100%と報告されている1-3, 5)

さらに,プラチナ製剤またはタキサン製剤など化学療法抵抗性の局所再発例に対する早期からの放射線治療は,予後を改善させる可能性がある1-4, 8)。最近の本邦での後方視的研究では,放射線治療を行った再発卵巣癌46 例を,すべての再発病変が照射野内に存在した33 例(治療照射群)と再発病変が照射野外にも存在した13 例(緩和照射群)に分け,放射線治療の有用性を検討している8)。その結果,治療照射群には前化学療法から6 カ月以内に再発した症例が73%含まれていたが,PFS,OS の中央値は10 カ月,20 カ月,さらに,照射野内の病変の奏効率は66%,病勢コントロール率は100%と良好であった。特に病変が骨盤内に限局している場合のPFS の中央値は17.5 カ月と,骨盤外にも病変がある場合の4 カ月に比べ有意に良好であった。また,限局性再発卵巣癌症例102 例に対して病変限局照射を施行した検討では,全症例の5 年全生存率は40%,5 年無増悪生存率は24%,照射野内の病勢コントロール率は71%と良好であった。なかでも8 例の明細胞癌症例では,5 年全生存率88%,5 年無増悪生存率75%と,それ以外の組織型に比べ有意に良好であったと報告している14)

脳転移は稀であるが,発症後の予後は不良であり,脳神経症状や頭蓋内圧亢進症状が現れ,生活レベルの低下のみならず急死に至るリスクも生じるため,原則として治療の適応である。卵巣癌に限らず,手術不能な脳転移に対する放射線治療は有用であり,治療により60〜80%で症状の改善がみられる9)。放射線治療としては全脳照射(whole brain radiotherapy;WBRT),定位放射線治療(stereotactic irradiation;STI),その併用などが行われている。WBRT は総線量30 Gy/10 回/2 週が,STI は総線量20 Gy/1 回/1 日が標準的である。

単発あるいは複数の脳転移病変(癌種を問わず)に対する放射線治療として,WBRT 単独,STI 単独,STI+WBRT 併用のいずれが有用かについて検証するため,5 つのRCT から得られた763 症例によるメタアナリシスが2017 年に報告された10)。その結果,転移が複数個の症例では治療法による予後の差は認めなかった。しかし,単発転移の場合は,STI+WBRT 群でWBRT 単独群に比べ,局所の腫瘍制御率が有意に高く,予後改善効果を認めた。一方,STI 単独群は,STI+WBRT 群に比べ,頭蓋内再発が有意に多かったものの,短期間でのQOL の改善には優れて,予後の差は認められなかった。また,3 個以下の脳転移を対象に認知機能を主要評価項目としてSTI 単独群とSTI+WBRT 併用群とを比較した試験で,照射後3 カ月のQOL および認知機能,12 カ月目の認知機能においてSTI 単独群が有意に良好であったという報告11)もあり,日本脳腫瘍学会の成人脳腫瘍ガイドラインでは,少数個で腫瘍サイズが大きくない場合には,厳重なフォローアップが行えることを前提にSTI 単独治療を推奨できるとしている12)

卵巣癌の脳転移に限定した報告でも,STI を含む放射線治療の有効性が報告13, 15-17)されており,治療奏効例では長期生存も可能なため,脳転移症例に対しては放射線治療を実施することを提案する。ただし,予後良好群でもmass effect が強い場合は手術が行われる18, 19)

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CQ28
腸閉塞に対して手術療法,薬物療法は奨められるか?

エビデンスレベルC
  1. 手術の適応とリスクを十分に評価した上で,嘔気・嘔吐の改善のため姑息的手術により物理的な閉塞を解除することを提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルC
  1. 嘔気・嘔吐の緩和のために,コルチコステロイドやオクトレオチドの投与,もしくはそれらの併用を提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 100%)

目的

腸閉塞に対する治療を検討する。

解説

悪性腫瘍に起因する消化管閉塞はmalignant bowel obstruction(MBO)と表記される。卵巣がん患者の5〜42%に認められ1),再発病変の増大や腹膜播種病変の浸潤や圧排,腸間膜のひきつれ,腸管神経麻痺などによって発症する。完全閉塞の場合に放置すれば,患者は強い腹部膨満感と激しい嘔気・嘔吐や激痛を訴え,予後は数日から数週間と極めて不良である2)。原疾患に対する治療効果が期待される状況であれば,手術や放射線治療による局所治療や全身化学療法によりMBO の症状改善が検討される。

全身状態が良好で,閉塞部位が1〜2 カ所であり,手術による症状改善で2〜3 カ月以上の予後が期待できる場合には,閉塞部位の切除やバイパス術,ストーマ造設などの姑息的手術が提案される2)。外科的治療を行うことで,消化器がんや婦人科がんに起因する消化管閉塞による症状の32〜100%をコントロールすることが可能であり,45〜75%が経口摂取を再開できたと報告されている。しかしながら,手術による死亡が6〜32%,重篤な合併症が7〜44%に認められていることから,手術療法のリスクについては十分な説明が必要である3-5)。手術適応のない症例には,中〜長期にわたる消化管減圧やQOL 改善を目的として,胃瘻を造設する有用性も報告されている6-8)。介入により化学療法が可能となった場合には,限定的ではあるが予後改善が期待できる症例もあり,十分な治療前の評価が望まれる9)

コルチコステロイド投与による嘔気・嘔吐の緩和に関しては,2 つのシステマティックレビュー10, 11)と,それに含まれる2 つのRCT 12, 13)がある。これらの研究では,ステロイドの種類や投与量等が異なっているため比較は難しいが,コルチコステロイド投与が症状緩和に有効であったとの結果が示された13)。ただし,高血糖,消化性潰瘍,せん妄などの有害事象も予測され,予測される生命予後や全身状態を評価して慎重な投与が望まれる。

オクトレオチドは進行再発癌患者の消化管閉塞に伴う消化器症状に保険適用が認められている。オクトレオチドについては,2 本のレビューと6 つのRCT がある。プラセボ群とのRCT では,症状改善の有意差は認められていない14)。一方,抗コリン薬であるブチルスコポラミンとのRCT では,ブチルスコポラミン群に比してオクトレオチド群にて有意に嘔気・嘔吐の改善がみられた15-18)。そのほかにオクトレオチドとステロイドの併用により,77〜100%の患者で改善効果があったと報告されている19, 20)。なお,本邦においては,24 時間持続皮下投与のみが保険適用であることにも留意する必要がある。

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CQ29
腹水貯留に対して薬物療法,腹水ドレナージは奨められるか?

エビデンスレベルC
苦痛の緩和目的に,病態を考慮した上で,利尿薬の投与,腹水ドレナージ,腹水濾過濃縮再静注法(CART)を提案する。
推奨の強さ 2 (↑)(合意率 92%)

目的

腹水貯留に対する治療を検討する。

解説

腹水症の10%程度が悪性疾患に伴うものといわれ,なかでも卵巣がんをはじめとした,癌性腹膜炎による腹水が過半数を占める1)。肝硬変やネフローゼによる非炎症性の漏出性腹水は水分の漏出主体の病態であるが,癌性腹膜炎や細菌性腹膜炎による滲出性腹水は混濁し血性を示すことが多い。その鑑別診断には血清腹水アルブミン勾配(serum-ascites albumin gradient;SAAG)が有用であり,SAAG(g/dL)=血清アルブミン(g/dL)−腹水アルブミン(g/dL)が1.1(g/dL) 以上であれば門脈圧亢進に伴う腹水,1.1(g/dL)未満であれば癌性腹膜炎等が原因と考えられる(診断精度97%)2)

腹水貯留に対する利尿薬の効果について,比較試験などは行われていない。スピロノラクトンやフロセミド,それらの併用による観察研究では,平均43%に効果が認められ,症状緩和の有効性が示された3, 4)。ただし,電解質異常や腎機能低下,血圧低下などの有害事象も予測され,患者の全身状態を考慮して投与するべきである。腹水ドレナージの効果を検討した比較試験はないが,観察研究においては94〜100%に腹部症状の改善効果が認められている4, 5)。単回穿刺による症状改善は一時的であるため頻回の実施が必要となり,Cochran review においては明確なエビデンスは提示されていない6)。欧米では,腹腔内留置カテーテルやポートを留置して間欠的または持続ドレナージを行う有効性を示した観察研究がみられる7, 8)。一方,本邦では,腹水貯留に対する腹水濾過濃縮再静注法(CART)に関する観察研究が複数報告されている。診療報酬加算も可能で,症状緩和と腹水中自己蛋白の再利用効果が報告されている9, 10)。再静注の際には,エンドトキシンやサイトカインによる一過性の発熱に注意を要する。腹水ドレナージの回数を減らす可能性やQOL を改善する可能性が示唆されており,CART の実施は提案される。

一方,腹腔静脈シャント(Denver シャント)は,症状緩和の効果が平均78%で認められており,90%以上で腹水穿刺が不要になったとの報告が1 つある11)。しかし,シャント閉塞の発生率が40〜50%と比較的高く,腹腔静脈シャントに伴う肺水腫,血栓塞栓症,播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation;DIC)などの重篤な有害事象の発生率が5〜33%8, 11, 12)と他の治療法より高い可能性があることから,さらなる検証が必要である。

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CQ30
3rd ライン以降の化学療法が検討される患者に対して,化学療法をさらに行うことは奨められるか?

エビデンスレベルC
慎重な病状評価および患者との十分な話し合いの後に,有害事象による不利益が少ないと判断された場合には,異なるレジメンによる化学療法の実施を提案する。
推奨の強さ 2 (↑)(合意率 100%)

目的

3rd ライン以降の化学療法が検討される再発卵巣癌に対して,異なるレジメンの化学療法をさらに行うことの有用性を検討する。

解説

プラチナ製剤抵抗性再発卵巣癌に対する治療の奏効率は低く,既に使用した治療ライン数が多いほど有益な可能性は低くなる1)。一般に,死亡数カ月以内の化学療法は患者の終末期ケアの質を低下させることから2, 3),複数レジメンの化学療法を施行しても治療効果が認められなかった症例に対し,さらに異なるレジメンの化学療法を奨めることには慎重でなければならない。NCCN ガイドライン2017 年版では,プラチナ製剤不応性再発274 例について詳細に検討した報告4)を根拠に,2 回連続して化学療法不応であった症例には臨床試験以外の化学療法を奨めないことを提案している5)。一方で,3rd ライン以降の化学療法(異なるレジメン)を実施した化学療法群と未実施の未治療群の比較では,化学療法群において有意に生存期間が延長する場合がある6-8)。そのうち最も大規模な多施設共同の観察研究8)において,化学療法群では未治療群に比較して生存期間が3rd ラインで10.1 カ月,4th ラインで7.3 カ月,5th ラインで4.3 カ月延長した。また,未治療群との比較はないが,3rd ライン以降の化学療法のclinical benefit rate(disease control rate)(付記1 参照)を検討した後方視的観察研究4, 9-13)のうち最も大規模な(n=274)単施設後方視的観察研究4)では,プラチナ製剤抵抗性再発卵巣癌への化学療法のclinical benefit rate は3rd ライン30.6%,4th ライン18.1%,5th ライン17.7%,6th ライン3.3%であった。他の報告も一部の患者に対しては有益性があることを示している。しかし,これら非ランダム化試験では,患者選択のバイアスがあり,化学療法の有効性が過剰評価されている可能性がある。

一方,化学療法中のQOL を評価した多施設共同の前方視的観察研究1, 14, 15)のうち,Beesley らの研究では,172 人のプラチナ製剤抵抗性再発卵巣癌の化学療法中のQOL は約1/4 の症例で改善するが,1/3 の症例では悪化すると報告している1)。したがって,化学療法の実施を検討することは妥当であるが,化学療法が患者に不利益を与える場合も想定されるため,適切な症例選択が重要となる。

再発卵巣癌に対する追加の化学療法で不利益を被る可能性のある患者の背景因子を後方視的に検討した報告では,化学療法無効,1〜2 カ月内での治療中止あるいは化学療法後1〜2 カ月以内に死亡した患者の背景因子として,不良なPS 4, 6, 7, 16)またはQOL 17, 18),2 回連続する化学療法不応4, 6),腹部症状あり17, 18),前回治療終了からのTFI 3 カ月未満10, 11),遠隔転移4),CA125 高値4),白血球数やCRP の上昇16),前々回の治療からのTFI 6 カ月未満8)が挙げられている。逆に3rd ライン以降の化学療法が有効であった患者の因子として,前回化学療法が部分寛解以上11),初回治療から初回再発までの期間6 カ月以上7),初回手術の完遂度6)が報告されている。化学療法による利益・不利益を明確に予測する方法はないのが現状であり,上記の因子に配慮して総合的に判断する必要がある(付記2 参照)。

付記1 Clinical benefit rate(Disease control rate)

治療によりRECIST でCR(complete response), PR(partial response) に加えSD(stable disease)であった場合も臨床的に有益であると考えられる場合に用いられる評価。

付記2 Shared decision making(協働意思決定)

科学的根拠が少ない不確かな状況での治療方針決定には,医療者の経験による判断と患者の価値観に重きが置かれる。治療方針の決定には時間をかけて繰り返し話し合い,医療者が利用可能な情報を的確に伝えた上で患者の価値観を導き出し,患者や家族の希望に添いつつ医学的にも妥当な方法を見出す“shared decision making(協働意思決定)” を行うことが奨められる19)。さらに,生命に関わる深刻な情報を伝えつつ患者や家族の意思決定を促すには,医療者のコミュニケーションスキル20)と多職種スタッフによる多面的なサポート(チーム医療)が必要である。個々の医療者が厚生労働省委託事業であるPEACE project による緩和ケア研修会などを通してコミュニケーションスキルを学ぶとともに,施設において必要に応じ,がん患者と家族を支援するチーム医療の体制を整備しておくことが重要である。

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第4章 上皮性境界悪性腫瘍

総説

上皮性境界悪性腫瘍は,日本産科婦人科学会の婦人科腫瘍委員会報告によると,2016 年度では1,974 例,2017 年度では2,164 例の新規登録がなされている1, 2)。卵巣の上皮性境界悪性腫瘍の大部分は漿液性腫瘍と粘液性腫瘍であるが,本邦においては粘液性が57.7%,漿液性が20.4%を占める2)。欧米では漿液性腫瘍の頻度が最多である。なお,境界悪性腫瘍は上皮性を対象とした固有の名称であり,上皮性以外の腫瘍は悪性度不明あるいは低悪性度腫瘍として扱われる。臨床進行期別頻度は,2017 年度の2,164 例中,Ⅰ期が94.4%であった2)。以前の本邦の集計と欧米の報告ともにⅠ期が90%前後を占めていることから,Ⅰ期が多い傾向は変わらない。発症年齢は各年代に分布しているが,30〜60 歳が全体の60%を占める。

臨床的特徴としては予後が比較的良好で,本邦では2011 年に治療された上皮性境界悪性腫瘍の5 年生存率は,Ⅰ期97%,Ⅱ期90%,Ⅲ期84.3%であった1)。2002 年に発表された米国SEER のデータベース解析では,上皮性境界悪性腫瘍(2,818 人)の5 年,10 年相対生存率はそれぞれ98%と95%であり,進行期別にみた5 年,10 年相対生存率は,Ⅰ期99%,97%,Ⅱ期98%,90%,Ⅲ期96%,88%,Ⅳ期77%,69%である3)

上皮性境界悪性腫瘍の定義

現在,本邦で用いられている日本産科婦人科学会・日本病理学会 編『卵巣腫瘍・卵管癌・腹膜癌取扱い規約 病理編』(第1 版,2016 年)(以下,取扱い規約2016 年)4)では,境界悪性腫瘍borderline tumor の同義語としてatypical proliferative tumor が列記され,「良性腫瘍と悪性腫瘍の中間的な組織像を示し,悪性度は低いため長い経過をとって再発することはあっても腫瘍死に至ることはほとんどない」と定義される。WHO 分類(2014)では5),境界悪性腫瘍の所見の一部である微小浸潤の定義が,浸潤巣の大きさは5 mm 未満と明確にされ,漿液性,粘液性,類内膜腫瘍に適用されることになった。取扱い規約2016 年でも,この診断基準に従っている。

漿液性境界悪性腫瘍
1.漿液性境界悪性腫瘍と微小乳頭状パターンを伴う漿液性境界悪性腫瘍(非浸潤性低異型度漿液性癌)

漿液性境界悪性腫瘍は,通常の漿液性境界悪性腫瘍と,微小乳頭状または篩状増殖を示す非浸潤性低異型度漿液性癌に分けられる4)。漿液性境界悪性腫瘍と非浸潤性低異型度漿液性癌の頻度は約9:1 の割合である6)。最も重要な予後因子は,臨床進行期,微小浸潤,浸潤性腹膜インプラントである6, 7)。詳細な病理組織学的検討と5 年以上の経過観察が行われた276 例の解析で,全生存率95%(Ⅰ期98%,Ⅱ〜Ⅳ期91%),無病生存率78%(Ⅰ期87%,Ⅱ〜Ⅳ期65%)という報告がある8)。発育形態として,病変が卵巣内に存在するもの,卵巣表面に外向性発育を示すもの,これらが混在するものがある。卵巣表面に外向性成分を有するものは,腹膜インプラントを伴うリスクが高い9)

非浸潤性低異型度漿液性癌は,漿液性境界悪性腫瘍に比して,両側性,外向性発育,腹膜インプラントの頻度が高く,これらの有無と臨床進行期が予後と相関する。特に,浸潤性腹膜インプラントを伴う場合には再発率や腫瘍死率が増加する8)。Ⅰ期の予後は漿液性境界悪性腫瘍,非浸潤性低異型度漿液性癌とも良好である6)

微小浸潤を伴う頻度は,漿液性境界悪性腫瘍は867 例中18 例(2%),非浸潤性低異型度漿液性癌は75 例中7 例(9%)であった6)。微小浸潤の有無は予後に影響しないと考えられてきたが,最近,再発や癌の進展のリスクが増すこと,死亡例が多いことが報告されている8)

2.腹膜インプラントを伴う漿液性境界悪性腫瘍

漿液性境界悪性腫瘍の14%に腹膜や大網に腹膜インプラントが認められたという報告がある6)。腹膜インプラントは組織学的に非浸潤性と浸潤性に分けられ,約85%が非浸潤性である6)。浸潤性インプラントをもつ漿液性境界悪性腫瘍は低異型度漿液性癌と同様の転帰をとるとされる。全生存率(平均観察期間7.4 年)は,非浸潤性インプラントで95%,浸潤性インプラントで66%との報告があり7),浸潤性インプラントは予後不良因子である。

3.リンパ節病変を伴う漿液性境界悪性腫瘍

手術時にリンパ節郭清された漿液性境界悪性腫瘍の15〜20%において,後腹膜リンパ節に転移を認めた10)が,endosalpingiosis からの発生を疑う例もあり11),すべてが真の転移か否かは議論が残る。漿液性境界悪性腫瘍でのリンパ節転移の有無は予後に影響しないことが一般的になっている7, 12)

粘液性境界悪性腫瘍

従来の腸型(intestinal type)に相当する。微小浸潤をきたすものがある。40〜50 代に好発(平均45 歳)し,片側性で,多房性の大型腫瘤(平均径18 cm)を形成することが多い。良性,境界悪性,悪性成分が混在することが珍しくなく,術後の詳細な切り出しにより,術中迅速病理診断時以上の病変が見つかる可能性がある13)。粘液性境界悪性腫瘍は,再発することはあっても致死的となることは稀である。悪性に匹敵する強い細胞異型が認められるものの間質浸潤の所見がないときは「上皮内癌」とするが,上皮内癌の有無にかかわらず,ほぼすべてⅠ期で,その生存率は,上皮内癌を伴わない場合は100%,上皮内癌を伴う場合もほぼ100%である14)。Ⅱ期以上の症例や死亡例の報告がみられるが,Ⅰ期の死亡例は切り出し標本数が不十分であり,Ⅱ期以上の症例は実際には他臓器からの転移である可能性が指摘されている15)

漿液粘液性境界悪性腫瘍

従来,内頸部様粘液性境界悪性腫瘍として扱われてきた腫瘍である。30 代に好発し(平均33 歳),両側性(35〜40%),子宮内膜症の合併(30%以上)が特徴とされる16)。漿液性境界悪性腫瘍のような乳頭状構造をもち,10〜20%において腹膜インプラントやリンパ節病変を認める17)。微小浸潤や粘液性境界悪性腫瘍のような上皮内癌を示すものがある4)

上皮性境界悪性腫瘍の治療

基本術式は,両側付属器摘出術+子宮全摘出術+大網切除術+腹腔細胞診であり,進行期を決定するため複数箇所の腹膜生検が行われる。術中に上皮性境界悪性腫瘍と診断され妊孕性温存が必要でない症例の場合は,基本術式と複数箇所の腹膜生検を行うが(CQ31),妊孕性温存が必要な場合は,患側付属器摘出術に加え大網切除術,腹腔細胞診,複数箇所の腹膜生検を行う(CQ32)。片側付属器摘出術後に境界悪性腫瘍と診断された場合は,基本術式+複数箇所の腹膜生検の追加手術が必要である(CQ31)。一方,妊孕性温存が必要な場合は,腹腔内精査を行った上で大網切除術,腹腔細胞診,複数箇所の腹膜生検を行い,妊孕性を温存する(CQ32)。しかし,浸潤性インプラントや残存腫瘍がある場合には慎重な対応が望まれる(CQ32)。

肉眼的な残存病変や浸潤性インプラントを認めた症例には,低異型度漿液性癌に準じた化学療法が提案されている(CQ33)。すなわちタキサン製剤+カルボプラチンの静脈内投与3〜6 サイクルが考慮される。術後化学療法には一定の効果が報告されているが,また,エビデンスが不足していることを理解した上でも個別対応が望まれる。

上皮性境界悪性腫瘍は5 年以上経過して再発する例が少なくない(CQ34)。したがって,治療後は長期間の経過観察が必要である(CQ34)。再発症例に関して,再発腫瘍が境界悪性腫瘍であるか浸潤癌であるかが治療方針に影響すること,完全摘出により良好な長期予後が期待できることから,手術による腫瘍摘出が提案される(CQ35)。

付記 上皮性境界悪性腫瘍に対する腹腔鏡下手術

上皮性境界悪性腫瘍に対する腹腔鏡下手術の適応について,現時点でRCT やメタアナリシスがなくエビデンス不足のため議論ができる状況にはない。限られたケーススタディや後方視的研究では腹腔鏡下手術は開腹手術と同等の治療成績であると報告されているものの18),不完全手術が多いことも事実である19)。エビデンスの構築については,日本産科婦人科学会,日本婦人科腫瘍学会,日本産科婦人科内視鏡学会など関連学会で議論が必要である。

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CQ31
Systematic Review
片側付属器摘出術後に境界悪性腫瘍と判明した場合,追加手術は奨められるか?

エビデンスレベルC
両側付属器摘出術+子宮全摘出術+大網切除術+腹腔細胞診+複数箇所の腹膜生検の追加手術を提案する。
推奨の強さ 2 (↑)(合意率 100%)

目的

片側付属器摘出術後に境界悪性腫瘍であることが判明した場合,追加手術を提案すべきかを腫瘍学的予後の観点から検討する。

解説

上皮性境界悪性腫瘍の基本術式は両側付属器摘出術+子宮全摘出術+大網切除術+腹腔細胞診であり,進行期を決定するため複数箇所の腹膜生検が行われる。臨床的Ⅰ期の上皮性境界悪性腫瘍において,片側付属器摘出術のみの群と追加手術(complete staging surgery;CSS)を行った群の予後についてシステマティックレビューを行った1-7)。CSS とincomplete staging surgery(ISS)の再発・死亡に関するメタアナリシスでは,CSS 群ではISS 群に比べて再発率が低かった(OR=0.64, 95%CI 0.47-0.87, p<0.05)。しかし,死亡率については両群間で有意差を認めなかった(OR=0.98, 95%CI 0.42-2.29, p=0.97)2)

予後不良のリスク因子としては,残存腫瘍,浸潤性インプラントが挙げられている。上記のリスク因子が疑われる場合は,追加手術による基本術式で進行期決定を行うことが望ましい8-10)。ただし,リンパ節病変が疑われる場合には生検を行って病理組織学的診断を得る必要があるが,系統的後腹膜リンパ節郭清は必要ないとする報告もある4, 11, 12)

再発のリスク因子については,進行期1),漿液性腫瘍13, 14),腫瘍核出術15),妊孕性温存術式2),ISS 2)などが挙げられているが,OS については影響しないとする報告が多い1, 2, 13-15)。片側付属器摘出術後に上皮性境界悪性腫瘍と判明した場合には,追加手術として基本術式を行うことで再発率の低下が期待されるが,死亡率には寄与しない可能性がある。

臨床的Ⅰ期上皮性境界悪性腫瘍において,片側付属器摘出術後に基本術式+複数箇所の腹膜生検が行われアップステージするものは漿液性腫瘍が多い13)。漿液性腫瘍で浸潤性インプラントを認める場合は死亡例も報告されている9, 10)。粘液性腫瘍は浸潤癌での再発が多い16)。したがって,漿液性あるいは粘液性腫瘍に対しては,追加手術による基本術式+複数箇所の腹膜生検が必要であると考えられる。なお,粘液性境界悪性腫瘍の虫垂切除について,後方視的なメタアナリシスで肉眼的異常がない場合の虫垂切除の病理組織学的/臨床的な意義は乏しいと報告されており17),ESMO-ESGO ガイドライン2019 年版では肉眼的に異常がなければ虫垂切除は推奨されていない18)。しかし,本邦の多くの施設で粘液性腫瘍の場合には虫垂切除が行われている。

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CQ32
腫瘍核出術後に境界悪性腫瘍と判明した場合,どのような妊孕性温存治療が奨められるか?

エビデンスレベルC
患側付属器摘出術+大網切除術+腹腔細胞診に加え,複数箇所の腹膜生検を提案する。
推奨の強さ 2 (↑)(合意率 100%)

明日への提言

本邦において境界悪性腫瘍に対する妊孕性温存治療後の腫瘍学的予後や妊娠予後を解析した研究はなく,妊孕性温存に関する多数例の後方視的調査が必要である。


目的

上皮性境界悪性腫瘍における妊孕性温存症例に対して推奨される術式を検討する。

解説

上皮性境界悪性腫瘍の基本術式は,両側付属器摘出術+子宮全摘出術+大網切除術+腹腔細胞診,複数箇所の腹膜生検である。妊孕性温存を考慮する場合,術中所見でⅠ期の症例に対しては,子宮と少なくとも健側の付属器を温存することが許容される。片側性腫瘍の場合には患側付属器摘出術や患側腫瘍核出術,両側性腫瘍の場合には患側付属器摘出術+片側腫瘍核出術や両側腫瘍核出術などの術式が選択される。妊孕性温存手術を行った症例は基本術式に比べて再発率が高いことが報告されている1-4)ものの,ESMO-ESGO ガイドライン2019 年版では,若年患者において妊孕性温存治療は標準とされている5)。これは,患側腫瘍核出術では再発率は高いが,再発腫瘍が組織学的に境界悪性である場合が多いため生命予後に寄与しないことがその理由となっている。組織型別には,まだ議論が残るところだが,漿液性腫瘍の再発時とは異なり,粘液性腫瘍核出術後の再発では浸潤癌であることが多いため6),粘液性腫瘍の場合は患側付属器摘出術が奨められている5)。加えて,妊孕性温存希望がなくなった時点で基本術式を考慮するとしている。

進行期Ⅱ,Ⅲ期の浸潤性インプラントの症例において,ESMO-ESGO ガイドライン2019 年版では,腫瘍摘出を十分に行えば生命予後に関連しないことから若年患者では妊孕性温存治療が許容されている5)。上皮性境界悪性腫瘍は卵巣癌と異なり,再発した場合でも腫瘍の摘出を行うことで良好な予後が得られる7-10)。また一方で,漿液性境界悪性腫瘍における浸潤性インプラントあるいは残存腫瘍を認める症例で妊孕性温存手術を行った場合,2〜3%で浸潤癌として再発し,死亡例も報告されている1, 2, 11)。したがって,妊孕性温存手術を行う際は,術中に腹腔内精査(複数箇所の腹膜生検)とインプラントの摘出を十分に行うことが重要である。進行例の漿液性境界悪性腫瘍の妊孕性温存手術では,非浸潤性インプラントの症例であっても残存卵巣に再発が認められ,また浸潤性インプラントや浸潤癌として再発することがある2, 12)

良性腫瘍として手術が行われ,術後病理組織学的に初めて上皮性境界悪性腫瘍と判明した場合の対応として,妊孕性温存が必要な場合は,十分な腹腔内検索を含めた妊孕性温存手術が原則である。ただし,先行手術で浸潤性インプラントがないことなど十分に腹腔内が確認されていれば,経過観察も許容される。

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CQ33
上皮性境界悪性腫瘍患者に,術後化学療法は奨められるか?

エビデンスレベルC
  1. 浸潤性腹膜インプラントを認める漿液性腫瘍では,タキサン製剤+プラチナ製剤による併用化学療法を提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルB
  1. 浸潤性腹膜インプラントを認めない漿液性腫瘍では,化学療法を行わないことを推奨する。
    推奨の強さ 1 (↓↓)(合意率 100%)
エビデンスレベルC
  1. 組織型を問わず残存腫瘍がある場合には,タキサン製剤+プラチナ製剤による併用化学療法を提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 100%)

明日への提言

本邦では欧米と異なり,漿液性に比べて粘液性が多い。組織型による臨床経過の相違を検討することは重要であり,本邦での組織型を念頭に置いた後方視的調査を期待したい。


目的

上皮性境界悪性腫瘍の術後患者に化学療法を行うことにより予後の改善が認められるか,また,どのようなレジメンが推奨されるかを検討する。

解説

上皮性境界悪性腫瘍に対する化学療法の有効性は証明されていない。NCCN ガイドライン2019 年版では,初回手術で残存腫瘍がある場合,浸潤性インプラントがなければ経過観察または残存腫瘍の摘出が考慮され,浸潤性インプラントがある症例においては,それらの選択肢に加えて低異型度漿液性癌と同様の化学療法を考慮すると記載されている1)。一方,完全手術が実施され病理学的検索により進行期が確定している場合,浸潤性インプラントがなければ経過観察,浸潤性インプラントがある症例は経過観察もしくは低異型度漿液性癌に準じた化学療法を考慮するとされている。化学療法のレジメンとしては,タキサン製剤+カルボプラチンの静脈内投与3〜6 サイクルが示されている1)。その一方で,ESMO-ESGO ガイドライン2019 年版では,浸潤性インプラントがあっても化学療法によるベネフィットは明らかでないことから,化学療法は推奨されていない2)

733 例(漿液性:534 例,粘液性:160 例,その他:39 例)の上皮性境界悪性腫瘍の後方視的な治療成績の解析では,化学療法が101 例(再発のため:25 例,ⅠC〜Ⅱ期のため:36 例,Ⅲ〜Ⅳ 期のため:40 例)に対して行われたが,化学療法はDFS(HR=0.8, 95%CI 0.6-1.0,p=0.06),OS(HR=0.9, 95%CI 0.8-1.1, p=0.07)を延長しなかった3)。また,13 研究2,206 例の境界悪性腫瘍症例における治療成績のメタアナリシスでも,化学療法による予後の改善は確認されていない4)。この報告では,肉眼的な残存腫瘍がある症例での化学療法による完全奏効(CR)率は48.1%であった4)。一方,化学療法の有効性を示唆する報告も存在する。36 例(Ⅱ期7 例,Ⅲ期28 例,Ⅳ期1 例)の浸潤性インプラントを有する漿液性境界悪性腫瘍の化学療法による治療成績が報告され,13 例(36%)が再発し,5 年無病生存率が67%,全生存率が96%であった5)。しかしながら,181 例の浸潤性インプラントを集積したメタアナリシスでは再発率が44%,死亡率は術後化学療法群に比べて手術治療単独群の方が低く,術後化学療法による予後の改善効果は認められなかった6)

したがって,術後化学療法は一定の治療効果が示唆されているものの,その実施に関してはエビデンスが不足していることを理解した上で個別化対応が考慮される。

参考文献

1)
Ovarian Cancer Including Fallopian Tube Cancer and Primary Peritoneal Cancer (Version 1. 2019). NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology
https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/default.aspx(ガイドライン)【委】
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Vasconcelos I, Olschewski J, Braicu I, Sehouli J. A meta-analysis on the impact of platinum-based adjuvant treatment on the outcome of borderline ovarian tumors with invasive implants. Oncologist 2015 ; 20 : 151-8(コホート)【検】

CQ34
上皮性境界悪性腫瘍治療後は,長期間の経過観察が奨められるか?

エビデンスレベルC
治療後5 年以上の長期的な経過観察を提案する。
推奨の強さ 2 (↑)(合意率 92%)

目的

上皮性境界悪性腫瘍治療後の適切な経過観察の方法と間隔について検討する。

解説

NCCN ガイドライン2019 年版では,治療後5 年間は3〜6 カ月間隔,その後は1 年に1 回の定期診察を推奨している1)。内診を含む身体診察,病初期に高値であった場合はCA125 またはその他の腫瘍マーカーを受診の度に測定する。さらに臨床的に適応がある場合には超音波断層法検査,胸腹部CT,PET/CT などの画像検査を行う。

妊孕性温存手術が再発のリスクであることは,複数の研究から知られている2-5)。妊孕性温存手術を行った32 研究2,691 例の上皮性境界悪性腫瘍のメタアナリシスでは,再発率は片側の卵巣腫瘍核出術(19.4%, OR=2.49, 95%CI 1.86-3.33)と漿液性境界悪性腫瘍(19.2%, OR=3.15, 95%CI 1.97-5.02)で高かった6)。他のメタアナリシスでも同様の結果であった7)

再発の時期に関しては,37%が2 年以内,31%が2〜5 年,32%が5 年経過してから起こると報告されている。その中で10%が10 年経過してからの再発であった8)。観察期間中央値46.4 カ月の上皮性境界悪性腫瘍314 例(漿液性142 例,粘液性161 例,その他11 例)の後方視的解析では,94 例(29.9%)で再発を認め,再発までの中央値は66.6 カ月(8〜77)であった9)。観察期間の中央値86 カ月の151 例(漿液性125 例,粘液性16 例,漿液粘液性8 例,その他2 例)の報告では,追跡可能であった113 例中19 例(16.8%)の再発を認め,再発までの中央値は48 カ月(8〜120)であった10)。上皮性境界悪性腫瘍では卵巣癌と比べて,治療後長期間を経てから再発することが特徴である。したがって,上皮性境界悪性腫瘍では,治療後5 年以上の長期的な経過観察が必要である。

参考文献

1)
Ovarian Cancer Including Fallopian Tube Cancer and Primary Peritoneal Cancer (Version 1. 2019). NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology
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Lazarou A, Fotopoulou C, Coumbos A, Sehouli J, Vasiljeva J, Braicu I, et al. Long-term follow-up of borderline ovarian tumors clinical outcome and prognostic factors. Anticancer Res 2014 ; 34 : 6725-30(コホート)【検】

CQ35
上皮性境界悪性腫瘍治療後の再発に対して,手術は奨められるか?

エビデンスレベルC
完全切除と病理組織学的診断を目的とした手術実施を提案する。
推奨の強さ 2 (↑)(合意率 100%)

目的

上皮性境界悪性腫瘍治療後の再発に対して手術を行うことの意義および予後の改善が期待できるかを検討する。

解説

再発腫瘍が境界悪性腫瘍である場合,摘出により良好な長期予後が期待できること,再発腫瘍の病理組織学的診断が術後の治療方針に影響することから,上皮性境界悪性腫瘍治療後の再発症例では,手術での摘出が奨められる。

NCCN ガイドライン2019 年版では,臨床的再発症例では手術不適格でなければ,外科的切除による病理組織学的検査および可能であればdebulking が推奨されている1)。病理所見が非浸潤癌であった場合は経過観察,浸潤性インプラントまたは低異型度の浸潤癌の場合には低異型度漿液性癌に準じて,経過観察もしくはタキサン製剤+カルボプラチンの静脈内投与3〜6 サイクルが考慮される。高異型度の浸潤癌であった場合は,上皮性卵巣癌と同様の化学療法を行う。すなわち,再発腫瘍の病理所見により治療方針が異なるため,外科的切除を実施する意義がある。

ただし,再発症例に対する手術の治療成績の報告は極めて限られている。1994〜2010 年の境界悪性腫瘍307 例に対する長期的な治療成績によると2),再発は32 例(10%)に認め,22 例が境界悪性腫瘍として再発し,10 例が浸潤癌として再発した。その10 例のうち,7 例が原病死している。その一方で,境界悪性腫瘍として再発した22 例は全例手術が完遂でき無病生存が可能であった。AGO-ROBOT (retrospective/prospective multicenter outcome survey in borderline ovarian tumours) 研究では,1998〜2008 年にドイツ24 施設で治療された上皮性境界悪性腫瘍950 例(漿液性611 例,漿液粘液性33 例,粘液性290,類内膜10 例,その他6 例)の後方視的解析がなされている3)。74 例(7.8%)が再発し,全例で組織学的検討が行われた。そのうち22 例(30%)が浸潤癌として再発していた。再発は40 歳未満に多く,悪性転化は40 歳以上の症例に多かった4)。40 歳未満で再発した50 例中,32 例(64%)は残存する卵巣に境界悪性腫瘍として再発し,18 例は腹膜播種もしくは遠隔転移で再発していた。その18 例中6 例(33%)が浸潤癌としての再発であった。浸潤癌として再発した22 例の予後は不良であったものの(5 年無病生存率:12%,5 年全生存率:50%),コホート研究全体では5 年無病生存率が87.3%,全生存率は98.1%と良好であり,手術の有用性が示唆されている4)

参考文献

1)
Ovarian Cancer Including Fallopian Tube Cancer and Primary Peritoneal Cancer (Version 1. 2019). NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology
https://www.nccn.org/professionals/physician_gls/default.aspx(ガイドライン)【委】
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4)
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第5章 胚細胞腫瘍

総説

日本産科婦人科学会の婦人科腫瘍委員会が公表している年報(2013〜2017 年)によれば,悪性卵巣胚細胞腫瘍が卵巣悪性腫瘍全体に占める割合は3.2%であり,稀な腫瘍である。腫瘍別には,未分化胚細胞腫(0.6%),卵黄囊腫瘍(0.6%),未熟奇形腫Grade 1/Grade 2(1.1%),Grade 3(0.5%),混合型胚細胞腫瘍(0.3%)となっている。胎芽性癌と非妊娠性絨毛癌は年間数例以下である。

悪性卵巣胚細胞腫瘍は10〜20 代の若年発症を最大の特徴とするが,初発症状などに特徴的なものはなく,通常の付属器腫瘤として下腹部痛,腹部腫瘤触知,下腹部膨満感などを呈する。茎捻転など急性腹症で発見されることもある。画像診断上の特異的な所見は乏しいが,一部の卵黄囊腫瘍を除き充実性であることが多く,若年発症であることや,その特徴的な腫瘍マーカーなどから術前診断は比較的容易である。腫瘍マーカーとしては卵黄囊腫瘍でAFP が広く知られているが,未熟奇形腫や胎芽性癌でも上昇することがあり,注意が必要である。非妊娠性絨毛癌ではHCG,未分化胚細胞腫ではLDH の上昇が特徴であり,特に後者ではAFP が正常であることが診断に重要である。術後のマーカーの高値持続は腫瘍の残存を反映し,また治療効果の判定にも有用である。マーカーによる再発病変の検出は画像診断より精度が高いこともある。

悪性卵巣胚細胞腫瘍の手術については,患者の多くが妊孕性温存を考慮すべき年齢であるのが特徴である。悪性卵巣胚細胞腫瘍の妊孕性温存手術は予後に影響を与えないとする報告が多く,進行期にかかわらず妊孕性温存手術を考慮すべきである(CQ37)。実際の手術では,術中迅速病理診断で胚細胞腫瘍の確定診断が得られない場合もある。このような場合は,いきなり拡大手術をするのではなく,まずは妊孕性温存手術を行い,術後永久切片による病理診断を待ち,二期的根治手術の必要性を検討する。悪性卵巣胚細胞腫瘍の進行症例では,上皮性卵巣癌に準じて腫瘍減量手術が推奨されるが(CQ36),本腫瘍は化学療法に極めて良く奏効するため,術後早期の化学療法の開始を目指す観点から,泌尿器や消化器系の臓器切除といった侵襲の大きな術式を避けることも考慮する(CQ36)。

悪性卵巣胚細胞腫瘍の術後化学療法としてはBEP 療法(ブレオマイシン+エトポシド+シスプラチン)が標準治療であり,極めて良好な成績を示している(CQ38)。BEP 療法に関しては,卵巣毒性や二次発がんなど注意を要する特徴的な有害事象があり,CQ40 で詳細に述べられているので参照されたい。一方で,ⅠA 期の未分化胚細胞腫とⅠ期かつGrade 1 の未熟奇形腫は,妊孕性温存手術の上で,化学療法の省略を考慮してもよい(CQ38)。

上記年報からわかるように,本邦の悪性卵巣胚細胞腫瘍で最も多いのは未熟奇形腫である。胎芽期の組織に類似する未熟組織を含むが,多くの場合,未熟な神経外胚葉成分である。もともと『卵巣腫瘍取扱い規約 第1 部』(2009 年)ではGrade 1, Grade 2 が境界悪性,Grade 3 が悪性と位置づけられていた。しかしながらこのような分類は国際的にはなされておらず,WHO 分類(2003)では評価がしやすい未熟な神経上皮成分が腫瘍に占める割合(面積)に応じてGrading がなされ,Grade 1 は1 標本の中で神経上皮成分が占める合計面積が低倍率視野(対物×4)1 視野の範囲に収まるもの,Grade 2 は1〜3 視野の範囲に収まるもの,Grade 3 は3 視野をこえるもの,と定義されてきた1)。すなわち未熟奇形腫はすべてが悪性とされ,Grade 1 を低異型度,Grade 2, Grade 3 を高異型度として取り扱うtwo-tiered システムが広く採用されている2, 3)。このような悪性度評価により術後化学療法の必要性が規定され,上述したようにⅠ期のGrade 1 症例では術後化学療法が省略可能であると言われている(CQ38)。

未分化胚細胞腫の特徴は放射線感受性である。多くの場合,妊孕性温存が考慮されるため,放射線治療が行われることは実際には少ないものの,局所治療の選択肢としては考慮される(CQ39)。またこの腫瘍の特徴として,他の組織型に比べて両側発生が多く,約10%に認めるとされる。

混合型胚細胞腫瘍は文字通り2 種類以上の組織型の悪性胚細胞腫瘍で構成される腫瘍である。したがって,どのような成分がどれくらいの割合で含まれているかによって悪性度が左右されるのは容易に想像される。これらの評価のためには,できる限り多くの組織切片を用いて診断する必要がある。卵黄囊腫瘍,胎芽性癌,未熟奇形腫(Grade 3)の成分が多いものは予後不良とされる。また,腫瘍径が10 cm 以上のものは構成成分にかかわらず予後が悪いとされている4)

付記 悪性転化を伴う成熟奇形腫について

分類上,悪性卵巣胚細胞腫瘍にはあたらないが,良性の成熟奇形腫の悪性転化に関しても触れる。成熟奇形腫の悪性転化は,成熟奇形腫の成分に体細胞性悪性腫瘍が発生するものである。発生する体細胞性悪性腫瘍として癌(扁平上皮癌,腺癌),悪性甲状腺腫,神経外胚葉性腫瘍などがあるが,その約80%は扁平上皮癌である5)。日本産科婦人科学会の年報(2013〜2017 年)によれば,卵巣悪性腫瘍の1.5%を占める。成熟奇形腫の平均年齢が32 歳であるのに対し,悪性転化をきたした症例では55 歳と高齢で,平均腫瘍径も14.8 cm と大きい6)。腫瘍マーカーとして扁平上皮癌の場合はSCC が,腺癌の場合はCEA, CA19-9 が上昇することがあり,有用なマーカーとなり得るが,CA19-9 は悪性転化でなくとも上昇することがあるので,注意を要する。SCC のカットオフ値を2.5 ng/mL とした場合,悪性転化の診断精度は感度が77%,特異度が96%という報告もある7)。高齢で腫瘍径の大きな腫瘍はSCC 検査が必須であり,高値の場合は悪性転化も念頭に置いて,MRI やPET/CT での精査を行った上で手術に臨むべきであろう。Ⅰ期症例は約半数であり,5 年生存率は80%程度であるが,Ⅱ〜Ⅳ期では20%程度となる。扁平上皮癌のⅠA 期もしくはⅠC 期の場合,45 歳以下では妊孕性温存手術と拡大手術で予後に差はないとされており,若年者の妊孕性温存手術は考慮されるべきである8)。また術後化学療法は有意差をもって予後を改善するが,レジメンに関しては確定的なものはない。アルキル化剤を含むレジメンが推奨されていた時期もあったが,最近ではプラチナ含有レジメンの成績がそれ以外のレジメンより優るとされる8)

参考文献

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Li C, Zhang Q, Zhang S, Dong R, Sun C, Qiu C, et al. Squamous cell carcinoma transformation in mature cystic teratoma of the ovary : a systematic review. BMC Cancer 2019 ; 19 : 217

CQ36
悪性卵巣胚細胞腫瘍に対して,腫瘍減量手術は奨められるか?

エビデンスレベルB
卵巣癌に準じた術式とするが,後腹膜リンパ節郭清(生検)は省略できる。
推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)

目的

悪性卵巣胚細胞腫瘍に対し,どのような術式が推奨されるのかについて検討する。

解説

卵巣癌に準じて両側付属器摘出術+子宮全摘出術+大網切除術に加え,腹腔細胞診,骨盤・傍大動脈リンパ節郭清(生検),腹腔内各所の生検が奨められる。ただし,リンパ節郭清(生検)は省略可能である1, 2)。悪性卵巣胚細胞腫瘍Ⅰ期1,083 例を用いた後方視的研究では,後腹膜リンパ節郭清を施行しなかった群と,後腹膜リンパ節郭清を施行した結果Ⅰ期と診断された群,後腹膜リンパ節郭清を施行した結果ⅢC 期と診断された群の3 群間で5 年生存率を比較検討した結果,有意差は認められなかった。さらに,多変量解析の結果,後腹膜リンパ節郭清や後腹膜リンパ節転移は予後に影響しないと報告された3)

また,未分化胚細胞腫ⅠA 期と未熟奇形腫(Grade 1)Ⅰ期では患側付属器摘出術を施行し経過観察してもよいとされている4)。未分化胚細胞腫ⅠA 期(ステージング不適切例を含む)で術後治療なく経過観察して再発しても,化学療法が奏効するため,長期生存が可能である5)

Ⅲ・Ⅳ期の進行症例では,腫瘍減量手術が有用であるという報告があり6),多変量解析では術後残存腫瘍サイズは無増悪生存期間および全生存率の独立予後因子であることが示されている7, 8)。したがって進行症例では卵巣癌に準じた術式を基本とする。一方で,術後早期の化学療法の開始を目指す観点からは,泌尿器や消化器系の臓器切除等の侵襲の大きな術式を避けることも考慮する4)。進行症例において腫瘍減量を優先するか,化学療法のために侵襲を避けるかの判断は難しいが,悪性卵巣胚細胞腫瘍では化学療法への依存度が高いため,侵襲を避けることを十分に考慮することが望まれる。

参考文献

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CQ37
悪性卵巣胚細胞腫瘍に対して,妊孕性温存を必要とする患者では妊孕性温存手術は奨められるか?

エビデンスレベルB
進行期にかかわらず,妊孕性温存手術を推奨する。
推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 85%)

進行症例における妊孕性温存手術について,意見が分かれた。文献の多くは肯定的なものであるが,進行症例の妊孕性温存手術に対するエビデンスは未だ不十分との意見があった。

目的

妊孕性温存が可能か,またその術式について検討する。

解説

悪性卵巣胚細胞腫瘍は主として生殖可能年齢の若い女性に発生するため,妊孕性の温存についてしばしば問題となる。

妊孕性を温存する症例では患側付属器摘出術+大網切除術+腹腔細胞診に加え,腹腔内精査を行い,腹腔内各所を注意深く観察する。Ⅰ,Ⅱ期の胚細胞腫瘍69 例(中央値21 歳)のうち,妊孕性温存手術を行った群と両側付属器および子宮を摘出した群での再発率に有意差は認めなかった1)

またⅡ〜Ⅳ期の胚細胞腫瘍526 例を後方視的に検討した報告では,子宮を摘出した場合と温存した場合の5 年生存率はそれぞれ87.1%,94.4%であり,むしろ温存した方が生存率は高かったが,有意差はなかった2)。Ⅲ・Ⅳ期であっても,妊孕性温存を要する症例,またはQOL 維持を優先する場合には患側付属器摘出術にとどめることが可能である3-5)

また,術後の癒着や卵巣機能不全による不妊症を惹起しかねないので,肉眼的に異常がなければ不必要な対側卵巣の生検は避ける3, 4)。未分化胚細胞腫では10〜15%が両側性であるため,対側卵巣の慎重な観察が必要である6)

妊孕性温存の如何にかかわらず,術中迅速病理診断が基本的には必要である。しかし,その診断精度には限界があるため,過剰な手術にならないように再手術の可能性も含めて術前に十分なインフォームド・コンセントを得る必要がある。また,奇形腫の診断で囊腫核出術を施行した後,未熟奇形腫(Grade 3)Ⅰ期と診断された場合に,患側の付属器摘出術を追加すべきであるか,あるいは経過観察とするかに関しては,一定の見解が得られていない7, 8)

妊孕性温存手術は予後に影響を及ぼさないとする報告は多く7, 9-13),若年者では卵巣機能や妊孕性を積極的に温存する手術法が推奨されてきた。1973〜2012 年のSEER データベースに登録された卵巣未熟奇形腫1,307 例(中央値24 歳)のうち,妊孕性温存手術を受けた人の5 年生存率は98.8%であった14)

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CQ38
悪性卵巣胚細胞腫瘍に対して,術後化学療法は奨められるか?

エビデンスレベルA
  1. ブレオマイシン,エトポシド,シスプラチンを用いた術後化学療法を推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルB
  1. ⅠA 期の未分化胚細胞腫と,Ⅰ期かつGrade 1 の未熟奇形腫は,厳重な経過観察の下に化学療法の省略を提案する。
    推奨の強さ 2 (↓)(合意率 100%)

目的

悪性卵巣胚細胞腫瘍に対する術後治療の有用性について検討する。

解説

現在の化学療法が開発される前の1970 年代以前における悪性卵巣胚細胞腫瘍の報告では,手術のみの治療が行われた場合,進行例での治癒率はほぼ0%,Ⅰ期でも5〜20%であった1)。VAC 療法(ビンクリスチン+アクチノマイシンD+シクロホスファミド)の開発で治癒率は50%まで上昇した2)。主に精巣胚細胞腫瘍を対象に行われてきた臨床試験によって,BEP 療法(ブレオマイシン+エトポシド+シスプラチン)が標準治療となり,治癒率は早期でほぼ100%,進行例でも少なくとも75%以上と言えるまでに治療成績は向上した3)。したがって,第Ⅲ相試験はないものの,悪性卵巣胚細胞腫瘍に対する化学療法は強く推奨できる。

妊孕性温存治療における,術前または術後のプラチナ製剤を含むレジメンの化学療法は,根治手術と比較して予後を悪化させず,かつ妊孕性に影響を及ぼさないとされる。胚細胞腫瘍に対して妊孕性温存手術を施行した42 例の小児または思春期女子(中央値12 歳)について,術後31 例にBEP 療法を施行し5 年生存率は97%であった4)。なお,ⅠA 期の未分化胚細胞腫と,Ⅰ期かつGrade 1 の未熟奇形腫では,妊孕性温存希望がない症例においても化学療法を省略し,再発した場合にBEP 療法を行うことで良好な予後が期待できるとされている1)。『小児がん診療ガイドライン2016 年版』5)によると,小児(15 歳未満)の未熟奇形腫が完全切除された場合には化学療法を行わず経過観察することが推奨されており(推奨グレード1A),15 歳未満の症例は小児腫瘍医へのコンサルトを考慮する6, 7)

BEP 療法の治療強度を保つために,投与量および治療スケジュールの厳守が求められる。精巣胚細胞腫瘍において,肺毒性を懸念したブレオマイシンの省略8)や,腎毒性や消化器毒性を懸念してシスプラチンをカルボプラチンに代替9)する試みがなされたが,いずれも予後の悪化につながることが示されている。また,米国では精巣胚細胞腫瘍に対するBEP 療法の投与間隔について「当日の好中球数にかかわらずday 22 には次サイクル投与を開始する」と規定されている。さらに減量については「発熱性好中球減少が生じるか,血小板減少による出血が生じた場合にのみエトポシドを20%減量する」と規定されている10, 11)。精巣胚細胞腫瘍に対する欧州のガイドライン12)でも,次サイクル開始について「次サイクル開始予定日に発熱しているか,好中球数500/mm3 未満か,血小板数10 万/mm3 未満の場合に治療の延期を考慮するが,3 日以内にとどめるべき」と規定されており,通常の固形腫瘍に対する化学療法とは全く異なることを理解しておく必要がある。

治療サイクル数については,精巣腫瘍で行われているような比較試験は行われていないが,3〜4 サイクルが標準治療とされている。NCCN ガイドライン2019 年版では3〜4 サイクルと表記した上で4 サイクルを推奨している。Memorial Sloan Kettering Cancer Center のグループが,精巣の International Germ Cell Consensus Classification(IGCCC) に相当する組織型,転移病変の有無および腫瘍マーカー値によるリスク分類を提唱している13)ものの,リスク分類に基づいて治療サイクル数を決定するための明確な基準はない。投与サイクル数を考慮する上で,ブレオマイシンの肺毒性とエトポシドによる二次発がんが重要である。ブレオマイシンの肺毒性は蓄積性であり,BEP 療法3 サイクルでの重篤な肺障害の発生率は0〜2%で,4 サイクル以上では6〜18%であることが知られている。ブレオマイシンの肺毒性を予防するための呼吸機能検査は,治療中に肺機能検査を反復しても感度も特異度も高くない14, 15)。したがって,疑陽性により不要なブレオマイシン中断につながり得るため意義に乏しいとされている。エトポシドによる二次性白血病のリスクも蓄積性であり,エトポシドの総投与量が2,000 mg/m2 未満での二次性白血病発症リスクは低く,1,868 例の検討で8 例(0.4%)16)に過ぎないが,それ以上になると増加する。

レジメン同士の比較について,精巣胚細胞腫瘍では,エトポシド,イホスファミド,シスプラチンからなるVIP 療法とBEP 療法が比較され,骨髄抑制は前者で強く,長期成績には差がないことが示されている17)。IGCCC の中・高リスク症例を対象に行われた,BEP 療法2 サイクル後に自家末梢血幹細胞移植サポートを行う大量化学療法2 サイクル施行群とBEP 療法4 サイクル施行群を比較した試験で,大量化学療法の有用性は示されていない18)

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CQ39
悪性卵巣胚細胞腫瘍の初回化学療法後の再発例に対して,化学療法,手術療法,もしくは放射線治療は奨められるか?

エビデンスレベルB
  1. 化学療法を推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルC
  1. 手術療法を提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルC
  1. 化学療法不応例や手術困難な症例に対して放射線治療を提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 100%)

目的

悪性卵巣胚細胞腫瘍の再発例における化学療法,手術療法,もしくは放射線治療の有用性について検討する。

解説

精巣胚細胞腫瘍の再発例における治療成績を参考に,悪性卵巣胚細胞腫瘍の再発例に対する治療について検討した。

初回化学療法終了後の再発例に対しては,シスプラチンを基本とした化学療法としてTIP 療法(パクリタキセル+イホスファミド+シスプラチン),VeIP 療法(ビンブラスチン+イホスファミド+シスプラチン),VIP 療法(エトポシド+イホスファミド+シスプラチン)が推奨される1)。これまでに,VeIP 療法またはVIP 療法と腫瘍減量手術との組み合わせで,20〜30%の再発例に完全寛解が得られてきた2-4)。近年,パクリタキセルを含むTIP 療法が二次化学療法として施行され,63%の2 年無再発生存率(平均観察期間69 カ月)が報告されているものの5),初回化学療法で完全奏効が得られた症例(感受性腫瘍)を対象としているため,VeIP 療法あるいはVIP 療法より優れているかは不明である。また,BEP 療法後の初回再発症例に対して二次化学療法としてTIP 療法を行い,奏効率60%,1 年無再発生存率38%の報告もある6)。抵抗性腫瘍も含めた症例に対してTIP 療法+大量化学療法(カルボプラチン,エトポシド)の第Ⅱ相試験もなされているが7),3 年無病生存率は25%であり,他の大量化学療法の成績と差を認めていない。なお,『精巣腫瘍診療ガイドライン2015 年版』では,二次化学療法としてTIP 療法は「推奨グレードB」となっている8)。さらにNCCN ガイドライン2019 年版でも,二次化学療法としてTIP 療法が推奨されている9)

プラチナ製剤を含む化学療法に抵抗性の症例では大量化学療法が治療の選択肢の一つとされるものの,その奏効率は低い1, 10)。また,自家骨髄移植や末梢血幹細胞移植下でのカルボプラチン,エトポシド,シクロホスファミドまたはイホスファミドを用いた大量化学療法の報告もある11-15)

再発例や難治進行例に対するsecondary debulking surgery(SDS)の意義については議論があり16, 17),奇形腫成分を有する症例や,化学療法2 サイクル終了後に腫瘍マーカーの下降が鈍い症例に対しては,SDS の意義があるという報告もある18)。また,化学療法抵抗性の症例に対して最大限の腫瘍減量手術によって残存腫瘍径が1 cm 未満となった症例は,1 cm 以上の症例と比べて有意に生存率が良好とする報告もあり,症例によりSDS を行う場合もある19, 20)

卵巣胚細胞腫瘍のうち,未分化胚細胞腫は精巣のセミノーマと同様,放射線感受性の高い腫瘍である。このため,シスプラチンを含む多剤併用療法が出現する以前の1980 年代半ばまでは,放射線治療は未分化胚細胞腫症例の多くで行われていた。放射線治療成績は概して良好であり,Ⅰ〜Ⅲ期全体で80%程度の5 年無再発生存率が報告されている21)。しかし,1980 年代後半以降は,化学療法によって良好な治療成績が得られたことから,未分化胚細胞腫に対する放射線治療はほとんど行われなくなった。現在では放射線治療は,化学療法が困難な症例に対する根治照射や,化学療法抵抗性の再発症例における対症的な治療に限定されている。

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CQ40
悪性卵巣胚細胞腫瘍に対する化学療法後の経過観察で留意すべき点は?

エビデンスレベルB
  1. 卵巣機能障害の発生に留意する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルB
  1. エトポシド投与の際は二次発がんに留意する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 92%)

目的

悪性卵巣胚細胞腫瘍で行われる化学療法が卵巣機能に与える影響と,二次発がんについて検討する。

解説

悪性卵巣胚細胞腫瘍は若年者に多いため,妊孕性温存治療が行われることが多い。妊孕性温存手術においても残存腫瘍径が独立予後因子となることが報告されており,治療後のフォローには注意を要する1)。また,多くの症例で化学療法薬剤が用いられるが,化学療法薬剤の多くは卵巣皮質の線維化と卵胞数の減少および卵胞成熟障害をきたすことが組織学的に証明されている2)。臨床的にシクロホスファミドは卵巣毒性が強いことで知られているが,一般に治療開始時の患者の年齢,使用薬剤,蓄積投与量,投与期間が卵巣機能に影響を及ぼす因子として重要である。ただし,VAC 療法(ビンクリスチン+アクチノマイシンD+シクロホスファミド)やPVB 療法(シスプラチン+ビンブラスチン+ブレオマイシン),BEP 療法(ブレオマイシン+エトポシド+シスプラチン)での初回治療による卵巣機能障害は少ないと報告されている3-8)。化学療法中に47 例中29 例(62%)で無月経となったが,治療終了後には47 例中43 例が正常月経周期を有していた3)。諸家の報告でも,治療後に80〜90%の症例で月経の再開がみられている3, 4)。治療後に妊娠し健常児を得たという報告もあり,化学療法後の流産率,催奇形率,不妊症の発生率は,非治療例と比べて明らかな差はない3, 5-12)。さらに,治療後の妊娠,出産はその後の再発,死亡には関連がないと最近報告されている13)

卵巣胚細胞腫瘍においては二次発がんについてのレビューはないが,精巣胚細胞腫瘍では,初回治療として3〜4 サイクルのBEP 療法(エトポシド2,000 mg/m2)を受けた348 例中2 例がエトポシドに関連した白血病に罹患し,一方,3 サイクル(エトポシド1,500 mg/m2)の投与を受けた67 例では発症はなかったと報告されている14)。さらに,BEP 療法を受けた精巣胚細胞腫瘍212 例中4 例が急性白血病に,1 例が骨髄異形成症候群に罹患したとの報告もある14, 15)。PVB 療法を受けた胚細胞腫瘍127 例では二次発がんの合併症はみられておらず,エトポシド2,000 mg/m2 未満の投与例130 例では発症がないことから,エトポシド2,000 mg/m2 が二次発がん発症の閾値と考えられている16)

二次性白血病を発症した場合,その予後は不良であり,また治療後2〜3 年に発症することが多いため,エトポシドを2,000 mg/m2 以上使用した症例の経過観察の際には二次発がんの発症に留意する必要がある17)

付記 化学療法薬剤の卵巣毒性

化学療法後に無月経をきたすことが知られているが,悪性卵巣胚細胞腫瘍の治療に関しては,化学療法後に80〜90%の症例で月経の再開がみられている4, 18)。また,卵巣癌において妊孕性温存手術が行われる症例があるが,術後にTC 療法(conventional TC 療法)を用いる症例もみられる。タキサン製剤と無月経の関連について,卵巣癌におけるデータは少ない19)。乳癌においては,タキサン製剤の永続的な卵巣毒性は少ないとの報告があるが,単剤での検討がなく,主に他の化学療法薬剤との併用によるデータであるため,妊孕性温存を希望する症例におけるタキサン製剤の使用には慎重な対応が必要である20)

一方,乳癌では化学療法薬剤による卵巣毒性軽減目的で,GnRH アナログ使用を肯定するガイドラインと否定するガイドラインが存在し,未だ一定した見解は得られていない21)。化学療法薬剤による卵巣毒性について,詳細は『小児,思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン』22)を参照のこと。

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第6章 性索間質性腫瘍

総説

性索間質性腫瘍は純粋型と混合型に分けられ,前者は純粋型性索腫瘍と純粋型間質性腫瘍に分類される。日本産科婦人科学会の婦人科腫瘍委員会が公表している年報(2013〜2017 年)によれば,純粋型性索腫瘍である成人型顆粒膜細胞腫は5 年間で826 例が登録され,卵巣悪性腫瘍全体の2.7%を占める。純粋型間質性腫瘍である線維肉腫は10 例が報告されているのみである。また混合型性索間質性腫瘍であるセルトリ・ライディッヒ細胞腫(中分化型+低分化型)は131 例が登録され,うち悪性腫瘍に分類される低分化型は41 例で,卵巣悪性腫瘍全体の0.1%であった。したがって,本総説では頻度および実地臨床の観点から,純粋型性索腫瘍として成人型顆粒膜細胞腫を,混合型性索間質性腫瘍としてセルトリ・ライディッヒ細胞腫を取り上げる。

成人型顆粒膜細胞腫は従来,境界悪性腫瘍として取り扱われてきた。しかし,WHO 分類(2014)では低異型度の悪性腫瘍と明記されており,悪性腫瘍として取り扱われるべきである。日本産科婦人科学会の年報でも,2017 年からは悪性腫瘍として取り上げられている。本腫瘍は卵胞の顆粒膜細胞が起源として考えられ,FOXL2 の体細胞変異(402 C to G)が90%以上の高率に認められるのが特徴である1)。様々な年齢に発生するが,閉経期前後が好発年齢である2)。症状としては不正性器出血が多く,閉経後出血または閉経前の月経不順や無月経を呈することもある。これらは腫瘍のエストロゲン産生によるホルモン動態の変化によるものと考えられる。片側性が多く,破裂や茎捻転による急性腹症として発症することもある。腫瘍は充実性が主体で嚢胞成分も含み,黄色調の柔らかい腫瘍であることが多い。病理組織は特徴的な所見を呈する。小型の顆粒膜細胞が,びまん性に索状構造またはシート状構造をもって増殖する。好酸性構造物を取り囲みロゼット状に配列するCall-Exner body は有名な所見である。腫瘍細胞の核はコーヒー豆様の縦溝を呈する。エストロゲン産生により血中エストラジオール値が上昇することもあるが,必発ではない。したがって,血中エストラジオール値が陰性であることをもって除外診断することはできない。一方で,高値の場合は腫瘍マーカーとして有用で,腫瘍残存や治療効果の判定,再発診断に応用できる可能性がある。約20〜30%の症例で再発し,晩期再発が認められる3)。なかには10 年以上経過してからの再発もある。リンパ節転移は稀であり,予後因子としては,進行期,腫瘍径15 cm 以上,両側性,腫瘍破綻などがあるが,病理所見と予後の関係はない4)。極めて重要なこととして,産生するエストロゲンの影響により子宮内膜増殖症や子宮内膜癌の合併が報告されており,特に子宮内膜増殖症は約50%に認めるとされる5)。したがって,顆粒膜細胞腫が疑われる場合は子宮内膜の精査が必須となる。術前の子宮内膜組織診で子宮内膜癌が検出された場合は,子宮内膜癌に対する手術術式も考慮する。また,術後の摘出子宮で子宮内膜癌の共存が判明した場合,子宮内膜癌としての術後療法の必要性を検討する。若年型顆粒膜細胞腫は成人型顆粒膜細胞腫と異なる疾患体系であり,FOXL2 の変異はない。顆粒膜細胞腫全体の5%と稀な腫瘍で,小児もしくは若年者に発生するが,高齢者にも発生し得る6)。小児では早発思春期を伴うことが多い。多くは臨床進行期Ⅰ期で,成人型に比し予後良好である。

セルトリ・ライディッヒ細胞腫はあらゆる年齢層に発生するが,平均年齢は25 歳と若く,約60%にDICER-1 の体細胞変異を伴う7)。様々な程度の分化を示すセルトリ細胞,ライディッヒ細胞からなる腫瘍である。高分化,中分化,低分化となるにしたがって予後が悪くなり,それぞれ良性,境界悪性,悪性として取り扱われてきた4, 8)。中分化,低分化なものでは異所性成分および未熟な性腺間質細胞を伴うことがある。若年者に多いが,高齢者にもみられる。アンドロゲンを産生し,無月経,多毛,男性化徴候を示すこともある一方で,エストロゲンを産生する場合もある9)。多くがⅠ期症例で片側性である。高分化型,中分化型,低分化型の割合は各々11%,54%,13%で,異所性成分は22%に認められる。

治療に関してはCQ41CQ42 で手術療法,CQ43CQ44 で術後療法や再発時の治療が述べられている。これらの稀な腫瘍は臨床試験のエビデンスに乏しいためエビデンスレベルは高くはないが,手術療法は概ね卵巣癌に準じたものとなっており,妊孕性温存に対する考え方も同様である。術後療法は,胚細胞腫瘍で用いられる化学療法,または上皮性卵巣癌で用いられる化学療法の双方が混在して使用されているのが特徴である。

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CQ41
性索間質性腫瘍に対して,どのような術式が奨められるか?

エビデンスレベルB
卵巣癌に準じた術式とするが,後腹膜リンパ節郭清(生検)は省略できる。
推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)

目的

悪性性索間質性腫瘍に対する腫瘍減量手術の有効性について検討する。

解説

顆粒膜細胞腫とセルトリ・ライディッヒ細胞腫を含む性索間質性腫瘍では,臨床進行期Ⅰ・Ⅱ期の症例の5 年生存率は95%と良好だが,Ⅲ・Ⅳ期症例では59%と良好とは言えない1)。また,性索間質性腫瘍の多くを占める顆粒膜細胞腫では,初回手術の不十分なステージングや肉眼的な腫瘍の残存が予後不良因子であるという報告が多い2, 3)。性索間質性腫瘍の手術は,卵巣癌に準じた進行期決定開腹手術(staging laparotomy)に加えて,腹膜播種病巣があれば病巣の完全摘出を目指した最大限の腫瘍減量手術(debulking surgery)を行う4-6)

本腫瘍におけるリンパ節郭清(生検)に関しては,3,223 例を含む後方視的研究のメタアナリシスにより予後が変わらなかったこと7),後方視的になされた4 つの報告において,合計164 例の初回治療中に施行されたリンパ節切除例の中で転移陽性例がないことからも5, 7-9),リンパ節郭清(生検)は省略可能である6)

参考文献

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CQ42
性索間質性腫瘍に対して,妊孕性温存を必要とする患者では妊孕性温存手術は奨められるか?

エビデンスレベルB
  1. Ⅰ期症例では妊孕性温存手術を提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(推奨の強さ1 に対する合意率 69%)
エビデンスレベルB
  1. 妊孕性温存手術は卵巣癌に準じ,患側付属器摘出術+大網切除術+腹腔細胞診に加え,腹膜生検を含めた腹腔内精査を実施することを提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 92%)

推奨①について,当初は「推奨の強さ1(↑↑)」とした。しかし,「妊孕性温存手術の基準を悪性卵巣胚細胞腫瘍と同様に考えることはできない。特に,悪性度の高い顆粒膜細胞腫や低分化セルトリ・ライディッヒ細胞腫も含まれており推奨を強くできない」との意見があり,合意率が69%となった。合意基準75%に達しなかったため,「推奨の強さ2(↑)」とした。

目的

妊孕性温存が可能か,またその術式について検討する。

解説

性索間質性腫瘍は若年者に発症することも多いため,時に妊孕性の温存が問題になる。顆粒膜細胞腫やセルトリ・ライディッヒ細胞腫のⅠ期の予後は良好であり1),腫瘍は片側卵巣に限局していることが多いため,若年者には妊孕性温存手術が広く行われてきた2)。SEER の1984〜2013 年のデータベース調査では,18〜49 歳の性索間質性腫瘍Ⅰ期症例において,付属器摘出術または腫瘍核出術のみが施行された161 例と,両側付属器に加え子宮を摘出した94 例とでは,後者で疾患特異生存率が延長したが,両者の全生存率には差がなかった3)。また,顆粒膜細胞腫Ⅰ期症例において,妊孕性温存手術が施行された61 例と,子宮と両側付属器を摘出した52 例とでは再発率に差はないとの報告をはじめ4),妊孕性温存手術が再発率や生存率に影響しないという報告が複数あり5, 6),Ⅰ期であれば対側卵巣と子宮の温存は可能と判断される。ⅠC 期ではⅠA 期と比べ再発例が増加するが,妊孕性温存手術を行った群は非温存手術を行った群と比較して再発率の増加はなかった4)。ただし,Ⅰ期として妊孕性温存手術が施行された例のうち,腹腔細胞診,大網切除術または生検,腹膜生検,腹腔内精査(異常を疑う部位の生検を含む)を含むステージング手術を行っていない例で再発が多いとの報告もあるため4),妊孕性温存が必要な症例では,患側付属器摘出術+大網切除術(または生検)+腹腔細胞診+腹膜生検+腹腔内精査が考慮される。なお,対側卵巣やリンパ節の生検を支持している報告はない。

参考文献

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Zhang M, Cheung MK, Shin JY, Kapp DS, Husain A, Teng NN, et al. Prognostic factors responsible for survival in sex cord stromal tumors of the ovary-an analysis of 376 women. Gynecol Oncol 2007 ; 104 : 396-400(ケースコントロール)【旧】
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CQ43
性索間質性腫瘍に対して,術後化学療法もしくは術後放射線治療は奨められるか?

エビデンスレベルB
  1. 再発リスクの高い症例や残存病変が存在する症例に対してプラチナ製剤を含むレジメンの化学療法を推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)
エビデンスレベルB
  1. 残存病変部が限局した症例に対しては術後放射線治療も提案できる。
    推奨の強さ 2 (↑)(合意率 85%)

推奨②について,「初回手術が不完全に終わる,もしくは,初回手術後に診断がつき紹介転院となった場合などでは,再手術も考慮すべきである」との意見があり,合意率が85%となった。

目的

性索間質性腫瘍に対して推奨される術後治療を検討する。

解説

性索間質性腫瘍に対する化学療法は第Ⅲ相臨床試験が施行されていないため,治療的意義が証明されていないのが現状である。しかし,臨床進行期Ⅰ期の再発中〜高リスク群,Ⅱ期以上の症例,初回手術時に残存病変が存在する症例は,術後化学療法の対象と考えられる。文献的には再発リスク因子として進行期,腫瘍径,年齢,核分裂像,組織学的異型度などが挙げられているが,大半の研究で支持されているのは進行期と残存病巣の存在であり,他の因子に関しては統一した見解は得られていない。Ⅰ期症例における再発のリスク因子として,NCCN ガイドライン2019 年版1)において腫瘍の破綻,進行期ⅠC 期,低分化の組織型,異所性成分を含む腫瘍,腫瘍径10〜15 cm 以上が挙げられている。本腫瘍に対してはプラチナ製剤を含む化学療法が有効と考えられ,具体的なレジメンとして,NCCN ガイドライン2019 年版1)やESMO ガイドライン2)でも挙げられている以下の2 レジメンが推奨できる。

BEP 療法(ブレオマイシン+エトポシド+シスプラチン)は,GOG の報告で初回治療16 例,再発例41 例の57 例(うち顆粒膜細胞腫が48 例)を対象として,奏効率が37%であった。しかし,有害事象としてブレオマイシンによる治療関連死亡の1 例に加えて,グレード3/4の顆粒球減少が79%に認められている3)

また,後方視的検討ながらタキサン製剤の有効性が報告されており4, 5),30 例の測定可能病変を有する再発症例に対して42%の奏効率であった4)。有害事象は37 例の再発例に対してグレード4 の好中球減少が4 例(11%)に認められている5)。よって,副作用の比較的軽度なレジメンとしてTC 療法(パクリタキセル+カルボプラチン)も推奨できる。

2020 年7 月現在,GOG264 試験としてⅡA〜Ⅳ期の化学療法未施行の性索間質性腫瘍を対象としたBEP 療法とTC 療法の第Ⅱ相RCT(NCT01042522)が行われており,結果が待たれるところである。BEP 療法,TC 療法以外のレジメンとしては,EORTC においてPVB 療法(シスプラチン+ビンブラスチン+ブレオマイシン)の有効性を示した報告6)もあり,ESMO ガイドライン2)ではPVB 療法も選択肢とされている。

性索間質性腫瘍に対する放射線治療の前方視的な臨床試験は存在しないが,NCCN ガイドライン2019 年版1)では,Ⅱ期以上で初回手術後に残存病変が限局している症例が放射線治療の対象である。後方視的には,進行・再発腫瘍で測定可能病変がある14 例に対する放射線治療の報告では,6 例(43%)で病巣の消失が認められている7)。また,術後の31 例に対して放射線治療を行った報告では,放射線治療を行わなかった症例に比べてDFS が延長したとされている8)。したがって,症例を選択すれば,放射線治療は選択肢の一つとなり得る。

参考文献

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CQ44
性索間質性腫瘍の初回化学療法後の再発例に対して,薬物療法,手術療法,もしくは放射線治療は奨められるか?

エビデンスレベルC
  1. 限局した病変に対する手術療法または放射線治療を提案する。
    推奨の強さ 2 (↑)(推奨の強さ1 に対する合意率 58%)
エビデンスレベルC
  1. 手術適応とならない症例に対しては薬物療法を推奨する。
    推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 83%)

推奨①について,当初は「推奨の強さ1(↑↑)」とした。しかし,「放射線治療は症状緩和を目的とした姑息照射となることが多く,手術療法と同列には挙げられない」などの意見があり,合意率は58%にとどまった。性索間質性腫瘍の再発に関しては,症例数が少なく,エビデンスレベルも低いため,手術療法,放射線治療の各々の位置づけを明確に規定するのは困難であることから合意基準75%に達しなかったと判断し,「推奨の強さ2(↑)」とした。

推奨②について,ホルモン療法を含めた薬物療法の有効性を支持するエビデンスは少ないものの,手術適応とならない症例に対しては他に有効な治療選択肢がないことから,「推奨の強さ1(↑↑)」で83%の合意が得られた。


明日への提言

性索間質性腫瘍の再発症例の治療方針についてはエビデンスが少なく,臨床の現場でも対応に苦慮することが多い。このようなrare disease に対して,日本婦人科腫瘍学会やJGOG において本邦の現状を集積した上で臨床試験等を企画し,標準的な治療法を模索することが望まれる。


目的

性索間質性腫瘍の初回化学療法後の再発例に対する治療の有効性について検討する。

解説

性索間質性腫瘍の初回化学療法後の再発例に対する治療に関して,レベルの高いエビデンスは存在しない。しかし,再発腫瘍の位置や個数から手術適応とはならない症例に対しては,化学療法が推奨される。レジメンとしては患者PS および最終化学療法薬剤投与から再発までの期間を考慮した上で,初回化学療法と同様のBEP 療法(ブレオマイシン+エトポシド+シスプラチン),TC 療法(パクリタキセル+カルボプラチン)などが考慮される(CQ43 参照)。上記以外の治療法としては,NCCN ガイドライン2019 年版1)において,ドセタキセル単剤,パクリタキセル単剤,パクリタキセル+イホスファミド療法,VAC 療法(ビンクリスチン+アクチノマイシンD+シクロホスファミド)も性索間質性腫瘍の再発例に対する化学療法レジメンとして挙げられている。さらに,ホルモン療法としてアロマターゼ阻害薬2, 3),タモキシフェン4),リュープロレリン5, 6)が有効であった症例が報告されている。分子標的治療薬としては,GOG251 試験において再発性索間質性腫瘍36 例(89%が顆粒膜細胞腫,91%が化学療法の前治療歴あり)に対してベバシズマブが使用され,奏効率は16.7%と高くはなかったが78%でSD との報告であった7)。本試験はRCT ではないが,ベバシズマブは顆粒膜細胞腫の治療の選択肢として提案できる。

再発腫瘍が切除可能と判断される場合は,顆粒膜細胞腫に対して手術治療が予後延長に寄与する可能性がある8, 9)。放射線治療については,進行・再発顆粒膜細胞腫14 例に対して6 例(43%)の病巣消失の報告がある10)CQ43参照)。NCCNガイドライン 2019年版1)では,症状緩和目的の放射線治療が選択肢として挙げられている11)

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CQ45
性索間質性腫瘍治療後の経過観察で留意すべき点は?

エビデンスレベルB
卵巣癌に準じた対応を行い,顆粒膜細胞腫では,治療後10 年以上の長期的な経過観察を推奨する。
推奨の強さ 1 (↑↑)(合意率 100%)

目的

性索間質性腫瘍の治療後の経過観察にはエビデンスがないため,卵巣癌に準じた対応が必要である。顆粒膜細胞腫における経過観察の留意点を検討する。

解説

顆粒膜細胞腫は,初回治療後,5 年あるいは10 年以上経過してからの再発も多いという報告があり1, 2),治療後は10 年以上の経過観察が必要である。

顆粒膜細胞腫の経過観察で用いる腫瘍マーカーはエストラジオール,インヒビンB 3),抗ミュラー管ホルモン(anti-Müllerian hormone;AMH)4)が挙げられる。エストラジオールの産生には莢膜細胞の存在が必要であることから,エストラジオールは卵巣温存例以外では,臨床経過を反映していない可能性がある5)。インヒビンB やAMH,あるいは両者の併用が治療経過の観察や治療後の再発同定に有効であるとの報告3, 6)があるが,現在のところ保険適用外である。さらに,初回手術時のmiotic index(MI),腫瘍径も再発予測因子として考慮される7)。また,腫瘍の破裂(術中破綻および被膜浸潤による自然破綻を含む)が強い再発予測因子であると報告されており2),腫瘍破裂症例では厳重な経過観察を提案する。

参考文献

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