肺癌診療ガイドライン2021 年版 第1 部(肺癌の分類〜Ⅱ)

肺癌の分類

TNM 臨床病期分類(UICC‒8 版)

TNM 分類(8 版,2017 年)
TNM 分類(8 版,2017 年)

Ⅰ.肺癌の診断

総論
肺癌の診断(病理・細胞診断の総論は後述)

解説

1)危険因子と臨床症状,検出方法について

肺癌は日本人における癌死の第1 位であり,発生率は50 歳以上で急激に増加する。喫煙は危険因子の1 つであり,非喫煙者に比べて,喫煙者が肺癌になるリスクは男性で4.4 倍,女性で2.8 倍と高い1)。喫煙開始年齢が若いほど,喫煙量が多いほど,肺癌リスクは高くなる2)。喫煙の他に慢性閉塞性肺疾患,間質性肺炎,アスベスト症などの吸入性肺疾患,肺癌の既往歴や家族歴,年齢,肺結核なども肺癌リスクを高めると報告されている3)。肺癌に特徴的な臨床症状はないが,咳嗽,喀痰,血痰,発熱,呼吸困難,胸痛といった呼吸器症状がみられることもある。このような危険因子例・有症状例に対しては,肺癌検出のための検査を行う。なお,本項の「検出」は有症状または二次検診の症状を対象としており,検診とは異なる。

最初に行うべき検査は胸部X 線で,胸部X 線で異常がある場合は,胸部CT を行う。胸部CT は,肺癌を検出する形態診断法として,現時点で最も有力な検査である。肺癌の検出には,胸部X 線,胸部CT 以外にも,喀痰細胞診や腫瘍マーカー,FDG-PET などを組み合わせて検出する場合もある。なお,本項で推奨されている検査の中には,施設によっては一部施行不可能なものも存在するが,その場合には近隣施設と連携して行うことが勧められる。

2)質的画像診断

検診などのスクリーニング検査や臨床症状によって撮影された胸部X 線で肺癌を疑う所見を得た場合,CT でその存在の確認と病変の性状を評価しなければならない。

CT にて3 cm を超える肺病変で肺癌を疑う場合には,良悪性の鑑別診断のため必ず確定診断を行う。3 cm 以下の結節では確定診断が不要な良性病変である可能性もあり,良悪性の鑑別を行うために質的画像診断が施行される。質的画像診断として,まず,肺結節部の高分解能CT(薄層CT)を行う。高分解能CT は,病変部を拡大し,高周波強調で再構成した2 mm 以下の薄いスライス厚のCT 画像である。多列検出器型CT 装置が普及した現在では,通常,撮影した画像から再度撮影することなく,当該生データを用いて容易に高分解能CT が再構成できる。高分解能CT では病理像に対応した特徴的な画像所見がみられ,肺結節の良悪性鑑別に有用な情報を得ることが可能であり,結節の周囲の既存構造も明瞭に描出されることから,結節周囲の血管,小葉間隔壁,胸膜などとの関係も観察することができる4)~7)。充実型結節において,均一あるいは中心部の粗大石灰化,層状の石灰化を伴う場合や,確実な脂肪濃度を認めた場合には,炎症後の肉芽腫や過誤腫などの良性結節と診断できる8)。一方,結節にスピキュラやノッチ,胸膜陥入,辺縁部の境界明瞭なすりガラス部分が認められた場合,あるいは不整な壁を有する空洞性結節の場合には,肺癌を疑って確定診断を行う8)。また,胸膜下の境界明瞭な小さな充実型結節が,perifissural nodule と称される一連の性状を呈していれば,肺内リンパ節などの良性結節と診断可能である7)

高分解能CT で良性結節と診断できる確実な所見がなく,積極的に肺癌を疑う所見も認められない充実型結節や,肺気腫・肺線維症・担癌患者など肺悪性腫瘍の高危険群に生じた非特異的な充実型結節の場合には,確定診断を行う前に質的画像診断として造影CT やMRI,FDG-PET/CT を行う場合がある。造影CT やFDG-PET/CT は日本でもよく行われているが,MRI 検査は欧米では結節の良悪性の鑑別診断に有効との報告があるものの日本ではこの目的で行っている施設は限られている。これらの検査で肺癌を疑う所見が認められた場合には,確定診断に進む。一方,これらの検査を行っても良性結節と診断できないか,肺癌が否定しきれない充実型結節やすりガラス影を伴う結節では,高分解能CT での結節の大きさや性状,患者背景の危険因子の有無に応じて,一定間隔の経過観察を行う。

3)確定診断

胸部CT,造影CT,MRI,PET/CT などの画像診断は良悪性の鑑別に有用であるが,肺癌の確定診断には病変部から採取した組織もしくは細胞による病理診断が必要である。肺癌は組織型,ドライバー遺伝子の有無,PD-L1 の発現状況などにより治療方針が異なるため,一部の手術例を除き,治療開始前に確定診断を行う。確定診断のための方法には,気管支鏡検査・生検,経皮針生検,胸腔鏡検査・胸膜生検,外科的肺生検などがあるが,簡便で低侵襲な検査から実施することが原則である。さらに各検査の診断率・感度・特異度や合併症率だけではなく,各施設での普及度や術者の習熟度などの状況も加味したうえで,それぞれの検査の必要性や優先度を検討し,確定診断方法を選択することが必要である。

4)病期診断

肺癌はTNM 分類による病期診断により予後予測が可能で,病期分類に従い治療方針を決するため,肺癌と診断した場合に病期診断は必須である。

従来は胸腹部造影CT に加え,骨シンチグラフィ,頭部MRI などの検査を行い,病期診断を行うことが通常であったが,FDG-PET/CT の急速な普及により,病期診断,特にリンパ節転移(N 因子),遠隔転移(M 因子)はより正確な診断が可能となっている。しかし,FDG 集積の偽陽性,偽陰性も一定数認めるため,結果の解釈には注意が必要で,特に抗酸菌感染症の多い本邦では,肺野の結節や縦隔リンパ節を含め,FDG 集積を認めても偽陽性を念頭に慎重に判断することが求められる。近年はEBUS-TBNA やEUS-FNA など,縦隔リンパ節に対して比較的低侵襲な組織学的検査のエビデンスも蓄積されており,画像診断でリンパ節転移や遠隔転移を疑った症例には,組織学的な診断を追加することも検討すべきである。

一方,いずれの検査も簡便で低侵襲な検査から実施することが原則であり,各施設での検査の普及度や習熟度などの状況も加味して,各検査の必要性や優先度を検討することが必要である。

5)分子診断

キナーゼ阻害薬は,蛋白質リン酸化酵素(キナーゼ)の働きを抑制する薬剤であり,癌細胞で起こっているキナーゼの過剰な活性化を阻害することで高い治療効果を示す。ドライバー遺伝子異常を有する非小細胞肺癌患者に対して,それぞれ標的分子に対するキナーゼ阻害薬は,ORR やPFS において有効性が示されている。10 種類のドライバー遺伝子について解析した前向き研究では,733 人中466 人(64%)にいずれかのドライバー遺伝子異常を認め,そのうち,各々の分子標的治療を受けた群で有意に全生存期間が延長していた9)。以上より,ドライバー遺伝子変異/転座陽性例に対しては,それらを標的としたキナーゼ阻害薬の投与機会を逸しないことが重要である。

免疫チェックポイント阻害薬は,腫瘍免疫における調節因子であるPD-1 などの免疫チェックポイント分子を標的とした抗体薬である。PD-L1 発現を有する非小細胞肺癌患者に対して,ペムブロリズマブ,アテゾリズマブの単剤治療の有効性が示されている。

Ⅳ期非小細胞肺癌の治療方針は,「ドライバー遺伝子変異/転座陽性」「ドライバー遺伝子変異/転座陰性,PD-L1 高発現」「ドライバー遺伝子変異/転座陰性,PD-L1 TPS 50%未満,もしくは不明」のサブグループ毎に治療内容が提示されている。組織診断が確定した後に,病期診断と並行して遺伝子異常の有無とPD-L1 の発現状況を確認する必要がある。

また,マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌にペムブロリズマブの有効性が報告されており,その適応を判定するための補助診断としてMSI 検査も提案される。これらのドライバー遺伝子やMSI検査においては,それぞれの項目に対するコンパニオン検査に加えて,複数遺伝子を対象にコンパニオン診断機能を有する遺伝子パネル検査が承認されている。また,がんゲノムプロファイリングを目的に行う遺伝子パネル検査においても,コンパニオン検査が存在する遺伝子の異常が検出された場合は,エキスパートパネルで推奨され担当医が適切と判断すれば,コンパニオン検査を行うことなく当該遺伝子異常に対する承認薬の投与が可能である。

各検査の詳細に関しては,日本肺癌学会「肺癌患者におけるEGFR 遺伝子変異検査の手引き」「肺癌患者におけるALK 融合遺伝子検査の手引き」「肺癌患者におけるPD-L1 検査の手引き」「肺癌患者におけるROS1 融合遺伝子検査の手引き」「肺癌患者におけるBRAF 遺伝子変異検査の手引き」「肺癌患者における次世代シークエンサーを用いた遺伝子パネル検査の手引き」「肺癌患者におけるMETex14 skipping 検査の手引き」(日本肺癌学会ホームページ:各種ガイドライン)を参照すること。

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検出方法

CQ1
肺癌の検出に胸部X 線と胸部CT は有用か?

エビデンスの強さD
肺癌の検出に胸部X 線と胸部CT を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

最初に行うべき検査は胸部X 線であるが,胸部X 線は病変の部位や読影者により検出力にばらつきがあり,実臨床でも19%の見落としが報告されており1),偽陰性となるリスクにも注意を要する2)3)。胸部X 線で異常がある場合は,胸部CT を行う。胸部CT は,肺癌を検出する形態診断法として,現時点で最も有力な検査である4)。特に,早期肺癌や限局性のすりガラス陰影においては,CT 検査が最も有用である4)5)。胸部CT では病変のサイズや存在部位(気管支内病変,血管構造の近傍など),スライス厚の他,読影者によっても検出能が異なる6)7)。なお,総論でも述べたように本ガイドラインは検診ではなく,肺癌の診療を対象としている。無症状者に行う「検診」には特有の不利益が存在するため「肺がん検診ガイドライン」等を参照されたい。エビデンスの強さはD,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2020 年

CQ2
ハイリスク群を対象とした肺門部肺癌の検出に,喀痰細胞診は有用か?

エビデンスの強さC
ハイリスク群では肺門部肺癌の検出に喀痰細胞診を行うよう勧められる。

〔推奨の強さ:1,合意率:83%〕

解説

喀痰細胞診は,非侵襲的で簡便に行える肺門部早期肺癌の唯一のスクリーニング法である。肺癌症例における喀痰細胞診の検出感度は約40%にすぎない8)が,喀痰細胞診で発見されたX 線陰性肺癌は長期生存例の割合が高いことも報告されている9)。また,喀痰細胞診を胸部X 線写真に追加するスクリーニング法の有効性を検討したランダム化比較試験であるJohns Hopkins Study10)とMemorial Sloan-Kettering Study11)では,喀痰細胞診を追加したグループにおいて早期癌の割合,切除率,5 年生存率が上昇することが示された。肺癌死亡率の減少効果に関しても,両study を長期追跡した混合解析の結果,有意差はないものの死亡率を12%低下させる傾向が認められた12)。日本肺癌学会,日本臨床細胞学会,日本呼吸器内視鏡学会合同のアンケート調査結果からも,喀痰細胞診は肺門部肺癌の検出に有用であることが示されている13)

以上より,喀痰細胞診の検出率は低くエビデンスも少ないが,簡便かつ非侵襲的な検査であり,ハイリスク群(50 歳以上で喫煙指数が600 以上)を対象とした肺門部肺癌の検出においては重要と考えられた。エビデンスの強さはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年

CQ3
肺癌の検出に,PET/CT 検査は有用か?

エビデンスの強さC
肺癌の検出にPET/CT 検査は行わないよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:94%〕

解説

肺癌のPET/CT による検出感度は約83~96%,特異度78~91%である14)15)が,Stage Ⅰではその検出感度は低下する16)17)。腫瘍径10 mm 未満の小病変や組織学的に低悪性度の病変に対して,PET/CT は偽陰性を呈しやすい。また,PET/CT は非腫瘍性疾患でも偽陽性を呈することが広く知られている16)。一方,肺結節の良悪性鑑別に対するPET/CT の正診率は,メタアナリシスの結果,有意差はないものの,PET/CT が胸部X 線,CT よりも優れる傾向性が認められた18)19)

したがって,PET/CT は肺癌検出の目的ではなく,肺結節の質的診断や病期診断の補助として行う検査である。文献14)は,「2.質的画像診断」のCQ5 でも引用されており,質的画像診断ではCT で肺癌かどうか判断できない結節にPET-CT を行うことが推奨されている(推奨度1C)。しかし,このCQ3 は検出の目的において有用かについて検討しているため,エビデンスの強さはC,また総合的評価では行わないことを弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年

CQ4
肺癌の検出に,腫瘍マーカーは有用か?

エビデンスの強さD
肺癌の検出に腫瘍マーカーは行わないよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:67%〕

解説

腫瘍マーカーは,偽陰性や偽陽性になることもあり,腫瘍マーカーのみでは肺癌検出率の向上は得られない20)。非小細胞癌症例に対する検出感度はCYFRA21-1 が41~65%であり,CEA,SLX,CA19-9,CA125,SCC,TPA の感度はCYFRA21-1 よりも低いが,組織型や病期によっても異なる21)~23)。また小細胞癌症例に対する検出感度はNSE が47%,ProGRP が45%24)程度である。CEA,CYFRA21-1,ProGRP,NSE などの腫瘍マーカーの変動は腫瘍の病期あるいは治療効果と良好に相関することが報告されている25)~28)。また,複数の腫瘍マーカーを組み合わせると検出感度が向上することも報告されている29)30)。ただし,腫瘍マーカーに関する論文の多くは画像診断で肺癌が疑われた症例,または病理診断で肺癌と確定した症例に対する後方視的研究であり,腫瘍マーカー単独での検出を目的としていない。

以上より,腫瘍マーカーは肺癌検出の目的ではなく,肺癌の質的診断の補助,治療効果のモニタリング,再発診断の補助として行うよう勧められ,検出目的に腫瘍マーカーは行わないよう提案する。エビデンスの強さはD,また総合的評価では行わないことを弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年

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質的画像診断

CQ5
高分解能CT で肺癌かどうか判断できない結節に,造影CT やMRI,FDG-PET/CT を行うことは有用か?

エビデンスの強さC
  1. a. 造影CT を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:100%〕

エビデンスの強さC
  1. b. MRI を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:78%〕

エビデンスの強さC
  1. c. FDG-PET/CT を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:67%〕

解説

  1. a. 悪性の結節は高い造影効果をもつという仮説のもとに,非石灰化肺結節の良悪性の鑑別診断を,CT でヨード造影剤投与後の造影効果から判定する方法がある。多施設研究では,15 HU を超える造影効果を悪性とした場合の感度は98%,特異度は58%という結果が得られた1)。したがって,造影CT で造影効果がほとんどみられない場合(15 HU 以下)には,良性であることが強く示唆されるが,造影された場合には質的診断は困難である1)。多時相撮像(dynamic study)を行う報告では,良性結節を除外診断できる可能性も指摘されている2)3)。しかし,造影CT の正診度や感度,特異度についてエビデンスの質の高い研究はない。

    以上より,エビデンスの強さはC である。その有用性はあるものの本邦では良悪性の鑑別診断として行われていることが少ないことも考慮し,総合的評価では行うことを弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  2. 投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年
  3. b. MRI については,造影剤を用いた多時相撮像や拡散強調像(DWI:diffusion-weighted magnetic resonance imaging)を用いた方法が孤立性肺結節の良悪性の鑑別診断や精査の必要性の判断に有用との報告がある4)5)。MRI も造影CT やFDG-PET/CT と遜色ない成績も報告されている6)。しかし,それらの報告のエビデンスの強さはC である。研究結果として有用性が高く被曝がない利点はあるが,本邦では肺病変の検査として行っている施設が限られている点も考慮し,総合的評価では行うことを弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
  4. 投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年
  5. c. FDG-PET やFDG-PET/CT は,多くの研究によって,CT より良悪性の鑑別診断に対して良好な成績が報告されている7)~9)。多時相でstandardized uptake value(SUV)を計測する方法(dual time point PET/CT)の報告がなされ10),良性結節を除外診断できる可能性も指摘されている。ただし,FDG-PET/CT の定量評価として用いられているSUV に関しては,比較定量性に問題があるとする報告11)も多いので,日常診療で標準的な指標として勧められない。また,1 cm 以下の結節のデータは少なく,診断能が確立していないこと,定型カルチノイドなどの低悪性度腫瘍や上皮内腺癌が偽陰性になる場合が多く,逆に肉芽腫の一部は偽陽性になるため,その診断に注意が必要である12)13)。PET-CT についての報告もエビデンスの強さはC である。また総合的評価では,その高い正診率や感度,特異度,低侵襲性から,コストは高いが良悪性の鑑別診断に使用することを強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
  6. 投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年

CQ6
画像診断で肺癌を否定できない結節に,経過観察を行うことは有用か?

エビデンスの強さC
高分解能CT を用いて結節の性状や肺癌の危険因子の有無に基づいて,適切な観察期間で経過観察を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:94%〕

解説

CT 技術の進歩や普及によって,肺癌を否定しきれない結節が数多く検出されるようになり,その扱いをどのようにすべきかが大きな問題となっている14)~16)。高分解能CT や他の良悪性診断で診断が困難な結節に対し,結節の大きさや性状などの変化を経時的(月単位,年単位)に評価する方法が提案されている15)16)

本邦では,日本CT 検診学会が「低線量CT による肺がん検診の肺結節の判定基準と経過観察の考え方」を提案しており15),その中では,高分解能CT で結節を充実型結節と部分充実型あるいはすりガラス型結節に分けて,10 mm 未満の小さい充実型結節や15 mm 未満の小さい部分充実型結節,すりガラス型結節で充実部が5 mm 以下の結節では,決められた間隔で高分解能CT による経過観察を行い,増大の有無に応じて経過観察や観察終了,確定診断への移行を勧めている。

欧米でも,Fleishner Society が,高分解能CT での結節の性状によって充実型結節とすりガラス部分を伴う結節に分けて,大きさと肺癌の危険性の程度に応じて,CT での経過観察やFDG-PET/CT を用いた検査法,確定診断を組み合わせた経過観察の方法をガイドラインとして提案している16)

その他,臨床情報と画像所見を併せて肺癌の可能性を予測する試み17)や,CT による3 次元的容量測定などの定量的手法18),また経時的な腫瘍体積計測とPET を併せた所見を用いて良悪性鑑別診断を行う報告19)などがあるが,結節の大きさの測定には誤差もあり慎重な対応が求められる。

高分解能CT による経過観察については,上記のように国際的なガイドラインも提案されているが,その根拠となる文献のエビデンスの強さはC である。しかし,肺癌を否定しきれない小さい結節に対しては,広く行われている高分解能CT で低侵襲に良悪性診断が可能となるため,総合的評価では行うことを強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年

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確定診断

CQ7
中枢気道病変が疑われる症例に,気管支鏡検査は勧められるか?

エビデンスの強さC
中枢気道病変が疑われる症例に,気管支鏡検査を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

中心型肺癌に対する気管支鏡の診断感度は88%で,鉗子生検の感度は74%,洗浄細胞診,ブラシ細胞診の感度は48%,59%と報告されている1)。非侵襲的検査としては喀痰細胞診があるが,細胞診陽性であっても病変部位の確認や進展度の評価,各種遺伝子変異検索などのための組織診断が必要であるため,気管支鏡検査は推奨される。一方,2010 年に日本呼吸器内視鏡学会認定および関連施設で,すべての疾患に診断的に行われた気管支鏡件数は103,978 件で,そのうち中枢気道病変に対する気管支鏡検査は24,283 件で合併症の頻度は1.32%(出血0.89%)であった2)

以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うことを強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年

CQ8
中枢気道の前浸潤性病変や早期癌が疑われる症例に,自家蛍光(autofluoresense)観察/狭帯域光観察(narrow band imaging)は勧められるか?

エビデンスの強さC
  1. a. 中枢気道の前浸潤性病変や早期癌が疑われる症例に,白色光による気管支鏡検査に自家蛍光観察を併用するよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:100%〕

エビデンスの強さC
  1. b. 中枢気道の前浸潤性病変や早期癌が疑われる症例に,白色光による気管支鏡検査に狭帯域光観察を併用するよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:89%〕

解説

  1. a. 肺癌診断の内視鏡診断に以下の技術,手技が導入されている。自家蛍光観察は,白色光観察と比較し,前浸潤性病変(扁平上皮異形成,上皮内癌)に対する検出感度が上昇すると報告されている。白色光観察と自家蛍光観察との比較のメタアナリシスでは,前浸潤性病変(扁平上皮異形成,上皮内癌)に対する検出感度がそれぞれ50%と88%で,自家蛍光観察により検出感度が上昇すると報告されている3)。一方,自家蛍光観察の特異度は,白色光単独に比べて低く,メタアナリシスではそれぞれ83%,50%と報告されている。また白色光と,自家蛍光内視鏡併用に関するメタアナリシスでは白色光観察の感度が46%に対して,自家蛍光観察併用の感度は85%である。一方,自家蛍光観察併用の特異度は,白色光単独に比べて低く,メタアナリシスではそれぞれ91%,71%と報告されている3)

    以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うことを弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  2. 投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年
  3. b. 同様の目的で白色光観察と狭帯域光観察の比較が行われ,検出感度がそれぞれ62%と100%と狭帯域光観察の感度が優れていると報告されている。一方,狭帯域光観察による検査の特異度は白色光観察と比べて低く,65%と43%と報告されている3)

    以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うことを弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  4. 投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年

CQ9
肺癌を疑う肺末梢病変に,経気管支生検は勧められるか?

エビデンスの強さC
経気管支生検を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

末梢病変に対する気管支鏡の診断率に関しては,34 研究,5,742 症例の解析がなされ,末梢型肺癌に対する気管支鏡の感度は78%で,鉗子生検の感度は57%,洗浄細胞診,ブラシ細胞診の感度は43%,54%である。さらに診断感度は病変の大きさに依存し,2 cm 以上の病変は63%,2 cm 未満は34%と報告されている1)。末梢病変に対するtransbronchial needle aspiration(TBNA)のメタアナリシスでは,診断率は53%で,3 cm 以上の病変,悪性病変で診断率が高いことが報告されている4)。また,コンベックス走査式超音波気管支鏡で描出可能な気管および気管支に接する肺内病変については,超音波気管支鏡ガイド下針生検(endobronchial ultrasound-guided transbronchial needle aspiration;EBUS-TBNA)は診断率が高く,14 研究1,175 名の中枢型肺内腫瘍に対するEBUS-TBNA の診断精度を調べたメタアナリシスによると,診断率は89%,悪性腫瘍の診断感度は91%と報告されている5)。合併症については,2010 年に日本呼吸器内視鏡学会全国調査で肺末梢病変に対する気管支鏡検査は年間60,275 件が施行され,死亡率は0.003%,合併症率は1.55%(出血0.63%,気胸0.44%の順)であった2)。直接比較した論文はないが,CT ガイド下経皮針生検の全国調査を参考にすると死亡,合併症率はCTガイド経皮針生検(死亡率0.07%,気胸合併症率35%,重症合併症率0.75%)6)よりかなり低いと推測される。

以上の結果より,肺癌を疑い,治療方針決定のために診断が必要な肺末梢病変には,病変の大きさなどにより診断率が異なることを考慮のうえで,経気管支生検を施行するように勧められる。なお経気管支生検で診断がつかず肺癌が否定できない場合は,さらに精査が必要である。

以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うことを強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年

CQ10
肺末梢病変の経気管支生検に,ラジアル型EBUS は勧められるか?

エビデンスの強さB
ラジアル型EBUS を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:67%〕

解説

ラジアル型EBUS 下の経気管支生検は末梢病変の診断に有用とされ1),通常の気管支鏡検査と比較して病変に対する診断率の向上〔64.7% vs 46.5%,オッズ比1.85(0.99-3.47)〕7)~11),経気管支針生検(TBNA)の併用が有効であること12)が報告されている。またラジアル型EBUS は細径気管支鏡よりも極細径気管支鏡と組み合わせて使用するほうが,診断率が向上することが報告された13)14)。CT ガイド下経皮針生検と比較した試験では,ラジアル型EBUS 下の経気管支生検の診断率は69%でCT ガイド下経皮針生検の94%よりも低かったが,合併症はEBUS で低かったと報告されている15)~17)。メタアナリシスではラジアル型EBUS の肺癌検出の感度は72.4~73%と報告されているが,対象集団の癌の割合,病変のサイズによって異なる18)19)ので実臨床においてはそれらを加味した診断率を想定することが求められる。

以上より,エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うことを強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年

CQ11
肺末梢小型病変の経気管支生検に,仮想気管支鏡ナビゲーションは勧められるか?

エビデンスの強さA
仮想気管支鏡ナビゲーションを行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:79%〕

解説

近年,肺末梢病変に対し仮想気管支鏡によるナビゲーション(virtual bronchoscopic navigation;VBN)が行われるようになり診断率は73.8%と報告されている20)。VBN を含めた新規モダリティのメタアナリシスではVBN の診断率は72.0%である21)。肺末梢小型病変に対する有効性については,これまでに 6 つの比較介入試験9)22)~26)(各群 30 例以上。うちランダム化 4 つ)が行われている。生検器具の病変への到達確認方法は4 試験がEBUS(うち3 試験でガイドシース使用),1 試験がCT,1 試験がX 線透視のみであった。また1 試験で極細径気管支鏡が使用された。これらの試験をメタアナリシスするとVBN により3 cm 以下の小型病変の診断率の向上を認めた〔VBN 群745 例(診断率75.4%),非VBN 群745 例(診断率67.5%),オッズ比1.7(95%CI:1.19-2.45,P=0.004)〕。このうち病変への到達率は2 試験で検討されており,VBN により到達率の向上を認めた〔VBN 群269 例(到達率91.8%),非VBN 群264 例(到達率82.2%),オッズ比2.45(95%CI:1.43-4.19,P=0.001)〕。合併症については5 試験で検討されており,VBN と非VBN 群で差は認めなかった〔VBN 群705 例(合併症率2.7%),非VBN 群708 例(合併症率2.8%),オッズ比0.96(95%CI:0.50-1.83,P=0.90)〕。

以上より,エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うことを強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2020 年

CQ12
肺癌を疑う肺末梢病変に,経皮針生検は勧められるか?

エビデンスの強さC
肺癌を疑う肺末梢病変,特に小型病変で経気管支生検による診断が困難な症例に対しては,空気塞栓や胸膜播種などの重篤な合併症の可能性を考慮のうえで,CT ガイド経皮針生検を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:84%〕

解説

従来,肺末梢病変に対して経皮針生検(percutaneous transthoracic needle biopsy;PTNB)が行われ,その肺癌診断能はメタアナリシスでは感度86.1%,特異度98%と報告されていた27)。吸引細胞診では悪性病変の偽陰性率が高いため28),近年はCT ガイド下に生検を行うことが多く(CT-PTNB),診断精度は従来の経気管支生検やEBUS 下経気管支生検と比較して高く1)17),特に直径2 cm 以下の末梢病変の診断では優れていると報告されている15)29)。肺癌診断における感度は90%以上である1)17)29)30)。一方で,CT-PTNB は,経気管支生検と比較して合併症が多いのが問題であるとされている1)15)~17)29)。PTNB の主たる合併症は気胸と出血で,頻度はCT-PTNB において気胸が1~52%,喀血をきたす出血が0.32~23%6)17)29)31)である。また頻度は少ないが,その他の重篤な合併症として空気塞栓(0.06~0.4%)6)32)33),胸膜播種(0.06~25%)6)32)34)~37)があり,特に胸膜直下病変に対してCT-PTNB を施行した際に胸膜再発が多いとされている34)。これら合併症は死亡につながる場合もあることが報告されており,実施の際には経気管支生検と比較したリスクの高さに留意する必要がある6)。近年ではground-glass nodule(GGN)に対してもCT-PTNB が有用であるとする報告があり,メタアナリシスでは感度92%,特異度94%とされている31)38)39)。このためGGN に長期にわたる経過観察を実施するのではなく,積極的なCT ガイド組織診による診断を推奨する報告もあるが31),早期肺癌に対する針生検の適応は慎重であるべきと考える。また使用する針は,Tru-cut-type 針のほうが,modified Menghini-type より診断率が高いと報告されている40)。ただ最近では,一般的にCT-PTNB は,IVR 医によって行われているが,呼吸器科医が行っても診断率や合併症に差はないとの報告41)や,被曝線量を抑えた超低線量CT で行うCT-PTNB の報告42),さらに遺伝子検索のために十分な検体を採取できるPTNB の役割も重要視されてきている43, 44)

以上より,肺癌を疑う肺末梢病変,特に小型病変で経気管支生検による診断が困難な症例に対しては,空気塞栓や胸膜播種などの重篤な合併症の可能性を考慮のうえで,CT ガイド経皮針生検を行うよう提案する。エビデンスの強さはC,総合的評価では弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年

CQ13
肺癌を疑う肺末梢病変に,外科的生検は勧められるか?

エビデンスの強さD
胸腔鏡,開胸による生検は,気管支鏡や経皮針生検と比較して侵襲が大きいため,その必要性を十分に考慮したうえで行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:95%〕

解説

胸腔鏡による診断のよい適応となるのは胸膜に近い病変である45)。画像診断で悪性が強く疑われ,経気管支肺生検や経皮生検による診断が困難な症例では胸腔鏡による診断を施行される場合もある46)。胸腔鏡は,EBUS による生検が困難な縦隔リンパ節の生検にも適応がある47)48)。胸腔鏡による診断は,ほぼ100%の感度,特異度をもつ。しかし全身麻酔が必要で侵襲が高く,手術による死亡率は0~0.5%,合併症の頻度は3~9.6%で,その内訳は,無気肺,肺炎,エアリークが含まれる49)

以上より,肺癌を疑う肺末梢病変に,外科的生検は必要性を十分に考慮したうえで行うように勧められる。エビデンスの強さはD,総合的評価では弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年

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病理・細胞診断

総論
肺癌の病理・細胞診断

解説

2020 年版では,2018 年1 月から2019 年12 月までの文献の再レビューを行いupdate すると同時に,肺癌の細胞診断および組織診断についてCQ 全体の再検討を行った。病理・細胞診領域においては大多数の論文が後方視的な症例集積研究であることから必然的にエビデンスの質が低くなるが,専門家が議論し,すでに実臨床でコンセンサスが十分あると考えられた事柄については検討することとした(expert consensus opinion)。そのため,その解釈にあたっては投票結果を参考にされたい。また,進行期非小細胞肺癌症例においては組織・細胞診検体を用いた遺伝子診断が必須であり,検体採取や標本作成に関わる臨床医・病理医・検査士はバイオマーカー検査の結果が損なわれないよう,検体の取り扱い,資料の提出には十分留意しなければならない。これについて本項でも基本的事項は掲載したが,日本肺癌学会による「肺癌取扱い規約第8 版」1)や各種バイオマーカー検査の手引きの他,日本病理学会の「ゲノム診療用病理組織検体取扱い規程」2)も参照されたい。また,具体的な実施内容については「6.分子診断」の項も参照されたい。

引用文献

1)
日本肺癌学会編,臨床・病理 肺癌取扱い規約 第8 版.金原出版.2017.
2)
日本病理学会編,ゲノム診断用病理組織検体取扱い規程.2018.

CQ14
肺癌の組織診断およびバイオマーカー診断を行ううえで,望ましい検体はどのようなものか?

エビデンスの強さC
肺癌の組織診断およびバイオマーカー診断を行うためには,規定通りに固定され,腫瘍細胞を含む組織量と腫瘍細胞含有率が十分で,かつ腫瘍細胞が挫滅していない検体を用い,古い検体を用いる際は保存状態を確認したうえで用いることを推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:90%〕

解説

現在,これまで行われてきた単一遺伝子検査に加えて一度に複数の遺伝子異常が検出可能な次世代シーケンシング(next generation sequencing;NGS)検査が行われるようになってきた。しかしながら,採取された生検検体,手術検体はプレアナリシス段階で適切な処理がなされることによってアナリシス段階の成否が決まる状況は変わらない。手術検体に対する組織の取り扱い,固定方法については「肺癌取扱い規約第8 版」に記載されている1)。以下に検体の適切な処理について「ゲノム診療用病理組織検体取扱い規程」2)を抜粋して記す。検体のプレアナリシス段階は固定前プロセス,固定プロセス,固定後プロセスの3 つのステップがある。固定前プロセスは基本的には臨床医が担う過程であり,生検により採取された組織は,10%中性緩衝ホルマリンを用いて速やかに固定液に浸漬し固定を行い,手術検体は摘出後速やかに10%中性緩衝ホルマリンを用いて注入固定を行うか,直ちに4℃で保管し,遅くとも3 時間以内に固定を行うことが望ましい。固定プロセスでは,10%中性緩衝ホルマリンを組織の10 倍量用いて6~48 時間固定を行うことが望ましい。なお,気管支腔内超音波断層法(EBUS)等を用いて生検採取される微小な組織検体や細胞検体では,より短い固定時間で処理が完了するため,業務上支障のない範囲で固定時間の短縮化(例えば6 時間以上24 時間以内)に努めることが望ましい。固定後プロセスでは,保管期間の長いFFPE ブロックはDNA の品質劣化が起こりやすく,抽出方法に配慮する必要がある3)。そのため,多湿をさけ冷暗所での保管が望ましい。

またアナリシス段階においてゲノム診断に供する検体は,病理診断時に作製されたHE(Haematoxilin-Eosin)染色標本の観察や病理診断報告書の記載などに基づき,解析に必要な組織量と腫瘍細胞含有率を有するFFPE ブロックを,原則病理医が選択する。診断書にあらかじめ記載しておくことも有効である。このとき出血や壊死,炎症細胞などの非腫瘍細胞が多いブロックの使用は可能なかぎり避ける。

ゲノム診断用に作製した未染色FFPE 標本において組織量や腫瘍細胞含有率が基準に達しているか確認するため,HE 染色標本を作製する。規定量に及ばない場合は,原則病理医が標本上にマーキングし,マクロダイセクションの範囲を決める。検査センターによってはマクロダイセクションに関する規則があるのでそれに従う。

組織診断を行うにはHE 染色,組織亜型を鑑別するための免疫染色数枚(4μm 厚)が必要になるのに加え,バイオマーカー検査として非小細胞肺癌の単一遺伝子検査(EGFR,ALK,ROS1,BRAF)およびPD-L1 検査が必要となる。また,NGS 検査を用いる場合5μm 厚×10 枚以上とPD-L1 検査分の検体が必要となる。検査方法によるがいずれも腫瘍細胞量としては20~30%以上,PD-L1 染色であれば腫瘍細胞100 個以上,ALK FISH であれば腫瘍細胞数最低50 個以上が必要である(表1)。

PD-L1 染色を評価する場合,挫滅している腫瘍細胞は評価しない。超音波気管支鏡ガイド下吸引針生検(endobronchial ultrasound-guided trans-bronchial needle aspiration;EBUS-TBNA)検体のほうが気管支鏡下生検より腫瘍細胞の挫滅が少ないとの報告もある4)。さらにPD-L1 染色に関しては腫瘍全体を評価していない可能性が懸念されているが,手術検体と生検検体で差はないという報告もされている5)6)。未染保管時間の経過とともにPD-L1 の発現率の低下が認められるため,染色はすぐに行うことが望ましい7)

なお,FFPE 検体を用いる場合,採取した検体のすべてが使用できるとは限らない。パラフィンブロックから検体を薄切する際には検体を覆っているパラフィンを削る作業が必ず入るため,その際に数μm 厚の組織は必ず失う。よって,特に腫瘍細胞量が少ない検体の場合は遺伝子検査を同時に提出することも勧められる。

NGS などによるパネル検査が加わったことから,サンプルとして腫瘍量を十分確保することが求められ,採取方法の改善改良は必須である。それに加えDNA,RNA の品質も問われるため,プレアナリシス段階における処理も十分に注意することが望まれる8)。また,単一遺伝子検査とNGS 検査の使い分けについて明確な基準は現時点ではないが,規定の腫瘍細胞含有率を守ることは重要であり,NGS 検査の方法によっては組織面積(組織量)も大事な因子である(表2)。今後,治療標的対象となる遺伝子異常は増加してくること,さらには再生検を減らすこと,あるいは,臨床研究への登録数を拡大することも含めて考えると,各施設でNGS 検査が簡便に依頼できる環境を整備することが推奨されている9)~12)。ただし,本邦においてEGFR 変異頻度が高いことを鑑みるとある種の条件下(早急な結果を望む,解析不能であった場合に再検査ができない,など)では単一遺伝子検査を行わざるを得ない場合がある(日本肺癌学会「肺癌患者における次世代シークエンサーを用いた遺伝子パネル検査の手引き」を参照)13)

組織診断は,治療前,すなわち,手術前または手術中の迅速組織診,薬物療法あるいは放射線療法開始前に診断を行うことが原則である。現在肺癌治療前または再発時に生検検体として提出されている検体採取法にはCT ガイド下経皮生検,気管支鏡生検,EBUS-GS 生検,EBUS-TBNAB が主としてあり,今後CryoProbe 生検も加わるとみられる14)

表1 Single gene,免疫check point 検査
表2 NGS 検査

下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:病理委員会/実施年度:2020 年

引用文献

1)
日本肺癌学会編,臨床・病理 肺癌取り扱い規約 第8 版.金原出版.2017.
2)
日本病理学会編,ゲノム診断用病理組織取り扱い規程.2018.
3)
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5)
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8)
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9)
Parris BA, Shaw E, Pang B, et al. Somatic mutations and immune checkpoint biomarkers. Respirology. 2019; 24(3): 215-26.
10)
Lindeman NI, Cagle PT, Aisner DL, et al. Updated molecular testing guideline for the selection of lung cancer patients for treatment with targeted tyrosine kinase inhibitors: guideline from the College of American Pathologists, the International Association for the Study of Lung Cancer, and the Association for Molecular Pathology. Arch Pathol Lab Med. 2018; 142(3): 321-46.
11)
Lindeman NI, Cagle PT, Aisner DL, et al. Updated molecular testing guideline for the selection of lung cancer patients for treatment with targeted tyrosine kinase inhibitors: guideline from the College of American Pathologists, the International Association for the Study of Lung Cancer, and the Association for Molecular Pathology. J Mol Diagn. 2018; 20: 129-59.
12)
Lindeman NI, Cagle PT, Aisner DL, et al. Updated molecular testing guideline for the selection of lung cancer patients for treatment with targeted tyrosine kinase inhibitors: guideline from the College of American Pathologists, the International Association for the Study of Lung Cancer, and the Association for Molecular Pathology. J Thorac Oncol. 2018; 13(3): 323-58.
13)
日本肺癌学会バイオマーカー委員会.肺癌患者における次世代シークエンサーを用いた遺伝子パネル検査の手引き.日本肺癌学会.2019.
14)
Arimura K, Tagaya E, Akagawa H, et al. Cryobiopsy with endobronchial ultrasonography using a guide sheath for peripheral pulmonary lesions and DNA analysis by next generation sequencing and rapid on-site evaluation. Respir Investig. 2019; 57(2): 150-6.

CQ15
原発性肺癌のバイオマーカー検索に,細胞診検体は有用か?

エビデンスの強さD
原発性肺癌のバイオマーカー検索に適した検体として,細胞診検体を使用することを提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:86%〕

解説

原発性肺癌患者のバイオマーカー検索には,生検検体などの組織検体の他,気管支洗浄液,気管支擦過材料,穿刺吸引材料,体腔液などの細胞診検体が用いられる。細胞診標本は,多くの場合,アルコール固定塗抹標本(以下塗抹標本)やセルブロック標本として作製されるが,いずれもEGFR 遺伝子検査においてホルマリン固定・パラフィン包埋(FFPE)組織標本と同等の検出率を示すことが報告されている1)2)

セルブロック標本は,検体の保存性に優れ,繰り返し標本を作製できることや,FFPE 組織標本と同様のプロトコールでの検査が可能である利点があることから,バイオマーカー検索に適している2)~5)。特にALK 遺伝子検査に用いられるIHC 法,FISH 法は,現在本邦の検査会社で施行可能な検査はいずれもFFPE 組織標本用に最適化されたプロトコールを用いていることから,セルブロック標本の作成が推奨される。しかし,PD-L1 IHC 検査においては,細胞診検体でのPD-L1 発現は,FFPE 組織検体での評価と高い一致率を示すとの報告があるものの6),臨床試験での細胞診検体を用いた十分な検証がなされておらず,セルブロック標本を含めた細胞診検体を用いることは現時点では推奨されていない。

塗抹標本は,腫瘍細胞の確認が容易に行えることに加えて,FFPE 組織標本やセルブロック標本の際のようなホルマリン固定を行わないため核酸の質が保持されやすい利点があり,PCR ベースの遺伝子検査やNGS 検査において有効に利用できる1)~3)5)7)8)。バイオマーカー検査に関する大規模なシステマティックレビューにおいても,塗抹標本はセルブロック標本と同等の位置付けがなされ,いずれの細胞診検体もバイオマーカー検査に使用することが可能である3)。NGS を用いた遺伝子パネル検査においてもFFPE 標本であれば,セルブロック検体を用いることができるが,解析に適しているかどうかについては腫瘍細胞含有率および標本組織量によって決定される9)。しかし,悪性胸水などのセルブロック標本では,多数の炎症細胞やマクロファージが混在することも多く,マイクロダイセクションもできないため,適切な腫瘍細胞含有率の担保が困難なことがある。

進行肺癌の治療方針決定のためのバイオマーカー検索では,複数のバイオマーカー検査が必要であり,限られた検体を有効利用することが求められる。採取された生検検体が少量であったり,あるいは採取検体が細胞検体のみの場合もあることから,先述の細胞診検体の特性を踏まえたうえで,細胞診検体をバイオマーカー検索に利用することが必要である。

以上より,エビデンスの強さはD,また総合的評価では行うことを弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:病理委員会,細胞診判定基準改訂委員会/実施年度:2020 年

引用文献

1)
Lozano MD, Echeveste JI, Abengozar M, et al. Cytology smears in the era of molecular biomarkers in non-small cell lung cancer: doing more with less. Arch Pathol Lab Med. 2018; 142: 291-8.
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3)
Lindeman NI, Cagla PT, Aisner DL, et al. Updated molecular testing guideline for the selection of lung cancer patients for treatment with targeted tyrosine kinase inhibitors: guideline from the College of American Pathologists, the International Association for the Study of Lung Cancer, and the Association for Molecular Pathol. J Mol Diagn. 2018; 20(2): 129-59.
4)
Roy-Chowdhuri S, Aisner DL, Allen TC, et al. Biomarker testing in lung carcinoma cytology specimens: a perspective from members of the Pulmonary Pathology Society. Arch Pathol Lab Med. 2016; 140: 1267-72.
5)
Jain D, Roy-Chowdhuri S. Molecular pathology of lung cancer cytology specimens: a concise review. Arch Pathol Lab Med. 2018; 140: 1127-33.
6)
Noll B, Wang WL, Gong Y, et al. Programmed death ligand 1 testing in non-small cell lung carcinoma cytology cell block and aspirate smear preparations. Cancer Cytopathol. 2018; 126: 342-52.
7)
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Treece AL, Montgomery ND, Patel N, et al. FNA smears as a potential source of DNA for targeted next-generation sequencing of lung adenocarcinomas. Cancer Cytopathol. 2016; 124: 406-14.
9)
日本肺癌学会バイオマーカー委員会.肺癌患者における次世代シークエンサーを用いた遺伝子パネル検査の手引き 第1 版.日本肺癌学会.2019.

CQ16
原発性肺癌の組織型診断に,免疫組織化学的染色(免疫染色)は有用か?

エビデンスの強さD
〈生検検体〉
a. 形態学的評価もしくは組織型同定が困難,あるいは低分化な非小細胞癌の場合は,行うことを推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:90%〕

エビデンスの強さD
〈手術検体〉
b. 形態学的に組織型を決定できない場合は,行うことを推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:90%〕

解説

肺癌患者のおよそ2/3 を占める進行癌の治療方針にあたっては,「Ⅱ.非細胞肺癌,7.Ⅳ期非小細胞肺癌,総論.Ⅳ期非小細胞肺癌における薬物療法の意義とサブグループ別の治療方針」に示されるようにサブグループ決定に扁平上皮癌と非扁平上皮癌とに分けてバイオマーカー検索が勧められている他,薬剤療法(ペメトレキセド,ベバシズマブ)および免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ,アテゾリズマブ)では組織型による使い分けがなされている。そのため,組織型は治療方針の決定に重要な意味をもつ1)~3)

組織型の決定はこれまで病理形態学的になされてきたが,明瞭な分化傾向を示さない低分化癌,大細胞癌においても免疫染色によって分けられた生物学的組織型が,分化癌における遺伝子変異の傾向をよく反映することが多数の比較試験によって報告されている4)~6)。特に腺癌のマーカーとしてTTF-1 および扁平上皮癌のマーカーであるp40 は最も組織型をよく分別し,鑑別に有用であることが報告されている4)7)。扁平上皮癌のマーカーとしては,より早く開発されたp63 の報告も多いが,腺癌の一部にも反応することが知られており,現在はp40 が推奨されている8)。その他の免疫染色マーカーとして,CK5/6,Napsin A と併用することで鑑別の感度が上がることも報告されている一方で,バイオマーカー検査のための未染標本を残しておくことも推奨されているため,TTF-1,p63/p40 に加えて鑑別マーカーに入れるべきか状況によって判断する必要がある。

生検後と切除検体での免疫染色結果の相関は,p40,p63 では高いが,TTF-1, Napsin A では中等度であり7)9),生検での評価には限界もある。手術が予定されている症例における生検時の免疫染色は必須ではないが,原発性肺癌と考えられる場合でも,治療方針の決定に必要とされる場合は推奨される。また,手術検体においても組織型の同定が難しい充実性増殖からなる低分化癌などの場合は免疫染色が推奨される。肺原発の良性腫瘍である線毛性粘液結節乳頭状腫瘍/細気管支腺腫では,TTF-1,p40,CK5/6,BRAF V600E の染色パターンが特徴的で,鑑別に有用である10)。NUT 癌,SMARCA4 欠失腫瘍などは免疫染色により診断が確定できるが,稀な腫瘍で実施する場合には精度管理体制の整備,遺伝子検査等の併用も必要である。

以上より,推奨ab について,エビデンスの強さはD,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:病理委員会/実施年度:2020 年

引用文献

1)
Travis W, Brambilla E, Burke AP, Marx A, Nicholson AG, editors. WHO Classification of Tumours of the Lung, Pleura, Thymus and Heart. 4th ed: IARC; 2015.
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3)
Osmani L, Askin F, Gabrielson E, et al. Current WHO guidelines and the critical role of immunohistochemical markers in the subclassification of non-small cell lung carcinoma(NSCLC): Moving from targeted therapy to immunotherapy. Semin Cancer Biol. 2018; 52(Pt 1): 103-9.
4)
Mukhopadhyay S, AL Katzenstein. Subclassification of non-small cell lung carcinomas lacking morphologic differentiation on biopsy specimens: utility of an immunohistochemical panel containing Ttf-1, Napsin a, P63, and Ck5/6. Am J Surg Pathol. 2011; 35(1): 15-25.
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Rekhtman N, LJ Tafe, JE Chaft, et al. Distinct profile of driver mutations and clinical features in immunomarker-defined subsets of pulmonary large-cell carcinoma. Mod Pathol. 2013; 26(4): 511-22.
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Chang JC, Montecalvo J, Borsu L, et al. Bronchiolar adenoma: expansion of the concept of ciliated muconodular papillary tumors with proposal for revised terminology based on morphologic, immunophenotypic, and genomic analysis of 25 cases. Am J Surg Pathol. 2018; 42(8): 1010-26.

CQ17
臨床的,形態学的に転移性の可能性がある場合には,免疫染色が有用か?

エビデンスの強さD
形態学的に鑑別が困難な場合は行うことを推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:90%〕

解説

肺は転移の多い臓器であり,原発性と転移性の鑑別は治療方針決定に重要な情報である。病歴聴取,既往腫瘍組織との比較検討に加え,複数の組織型および臓器特異的マーカーを用いる免疫染色の有用性が報告されている。

免疫染色は有力な補助診断手法である一方で,いずれの抗体も感度,特異度で完璧なマーカーはないため,形態,経過を合わせて総合的に判断する必要がある。

組織型の決定に関する事項はCQ16 を参照のこと。

原発巣と転移巣で組織型の異なる場合は,一般的には別の腫瘍として取り扱われる1)~4)。昨今の遺伝子パネル検査の検体保管の観点などからは,臨床的,形態学的に転移性腫瘍として矛盾しない場合は,免疫染色による確定の必要性は必ずしも高くなく,鑑別が困難な場合は免疫染色を行うことを推奨する。ドライバー遺伝子変異陽性肺癌の場合,治療経過中に腺癌から小細胞癌への形質転化をきたす例も知られているので注意も必要である5)

1)腺癌の場合

転移の可能性のある場合,CK7,CK20 の染色性である程度の見当を付けることができる1)3)。肺に転移をきたしやすい癌として,大腸癌,乳癌が挙げられるが,その他,膵臓,前立腺,子宮内膜,卵巣,腎臓などあらゆる臓器の悪性腫瘍が鑑別の対象として挙げられる6)。形態学的特徴である程度の鑑別は可能であるが,大腸癌では,CDX2,villin,SATB2,β-catenin が,乳癌では,GATA3,ER,GCDFP15,Mammaglobin が,甲状腺癌ではthyroglobulin,PAX8 が,子宮体癌や卵巣癌ではPAX8,WT-1,CA125,ER が,前立腺ではNKX3.1,PSA,AR が,それぞれ臓器特異的マーカーとしての有用性が報告されているが,限界もあるので注意が必要である1)3)7)~12)

乳癌,甲状腺癌は長期再発例があり,病歴とともに免疫染色は有力な補助診断法である。

TTF-1 は肺腺癌で特異性の高いマーカーではあるが,クローンにより感度,特異度が異なること,他臓器の腺癌でも陽性となること13)14)に注意が必要である15)CQ16 参照)。Napsin A は肺腺癌で特異性が高いが3)14),感度はやや低く,また腎細胞癌,卵巣明細胞腺癌にも陽性になるなど,注意が必要である8)14)16)~18)。HNF4αは,肺の浸潤性粘液性腺癌で高率に陽性となり良悪性の鑑別には有用性が高いが,消化管,膵臓,肝臓,胆道の腺癌でも陽性となるため特異性は低い1)19)20)

2)扁平上皮癌の場合

扁平上皮癌は,臓器特異的マーカーはなく,転移か原発かの鑑別に有用な指標は少ない21)。子宮頸部扁平上皮癌および頭頚部癌の一部ではHPV 感染が関与していることから,HPV 感染の代替指標としてのp16 INK4a の発現異常が補助的に用いることができる。ただし,稀に肺扁平上皮癌でもp16 INK4a が過剰発現することもある22)。胸腺癌の場合は,CD5,CD117(c-KIT)が有用であるが,頻度は低いが肺扁平上皮癌でも陽性となる。

3)組織型が不明確な場合

低分化癌や採取量が少ない場合,TTF-1,p40 で組織型を推定するとともに,いずれも陰性の場合は,中皮腫(Calretinin,D2-40,WT-1),膀胱癌(GATA3,Uroplakin-Ⅲ,Uroplakin-Ⅱ),腎癌(PAX2,PAX8,CD10,RCC Ma),肝細胞癌(AFP,Glypican3,Hep-par-1,Arginase-1,CD10),胚細胞腫瘍(SALL4,OCT4,Glypican3)などの可能性を考慮して検索してもよい1)3)6)

4)小円形細胞腫瘍の場合

肺の小細胞癌との鑑別として,リンパ腫(CD45/LCA,CD3,CD20 など),円形細胞肉腫,悪性黒色腫(S100,Melan A,HMB45,SOX10)は重要である。小円形細胞腫瘍では,検体採取による挫滅の影響が大きく,形態学的観察が困難な場合が多いことと,各疾患での治療方針が大きく異なるため,疾患特異的マーカーを用いることが強く推奨される。

5)肉腫あるいは肉腫様腫瘍の場合

軟部腫瘍の肺転移の他に,肉腫様癌,中皮腫を鑑別する必要がある(第2 部.悪性胸膜中皮腫診療ガイドラインを参照)。軟部腫瘍の鑑別は多岐にわたるが,組織型特異的マーカーの有用性が高いため,適切に用いると効果的である。

以上より,エビデンスの強さはD,また総合的評価では行うことを強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:病理委員会,細胞診判定基準改訂委員会/実施年度:2020 年

引用文献

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CQ18
術前未診断の主病巣に対して,術中迅速診断は有用か?

エビデンスの強さD
腫瘍型や診断の目的によって正診率が異なるが,良悪性の判定等には一般に有用であり,推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:71%〕

解説

主病変の診断が術前に得られておらず,手術方針の決定に診断が必要である場合,術中迅速診断を依頼することができる。主病変に対する迅速診断の正診率は一般に高く,良悪性の判定,癌か肉芽腫かといった大まかな区別も含めるなら,永久標本との不一致率は1~3%程度と低く,判定保留率は3~5%程度とする報告が複数ある1)~3)。しかしながら,永久標本における診断と迅速診断との不一致が低率ながらも存在することには十分留意すべきである。また,迅速診断の正診率には腫瘍の種類や大きさなども影響し,例えばカルチノイド4),硬化性肺胞上皮腫5),線毛性粘液結節性乳頭腫(細気管支腺腫)6)における正診率はやや低く,また1 cm 以下の主病変に対する迅速診断での正診率は1 cm を超える病変のものより低いとするデータがある2)。さらに,永久標本での診断と同様の詳細な予後予測因子の判定を迅速診断に期待するのは難しい。例えば,腺癌における浸潤の有無や浸潤の範囲については,正診率が低い傾向があり7)~13),非浸潤性腺癌や微少浸潤腺癌の診断を術中迅速で正確に行うことは容易でない。さらに,腺癌の分類に用いられる優勢浸潤パターンやいわゆるSTAS の有無についても,迅速と永久標本での評価不一致が多く13)~18),推奨しない。なお,迅速診断検体採取においては胸膜との関係などに留意しpT 評価に支障をきたさない採取を心がける。また迅速検査として未固定組織を扱う場合には,安全キャビネット内の処理を原則とし,感染症が特に疑われる場合には細胞診を優先して暴露を減らすなどの工夫や細菌学的検査を行うことが望ましい。

以上よりエビデンスの強さはD,また総合的評価では行うことを強く推奨(1 で推奨)できると判断した。

下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:病理委員会/実施年度:2020 年

引用文献

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CQ19
術中胸腔内洗浄細胞診は有用か?

エビデンスの強さC
術中に胸腔内洗浄細胞診を行うことを提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:61%〕

解説

肺癌取扱い規約第8 版では,胸水細胞診(E)で陽性例はpM1a に相当する。一方,術中の胸腔内洗浄細胞診(pleural lavage cytology;PLC)は,非小細胞肺癌の術中肺切除とリンパ節廓清前の開胸時(PLC-pre)や肺切除後の閉胸時(PLC-post)に行われている1)~11)。PLC 検査は術中に生理食塩水を胸腔内に注入して回収する安全な検査である。また,PLC 時の胸腔内を洗浄する生理食塩水の量は,20 mL,50 mL,100 mL,200 mL,500 mL,1,000 mL と様々な報告がある1)~6)8)~10)12)13)。このPLC 検査は悪性胸水や胸膜播種には至らないpM1a の前段階の状態を把握できる検査であり,患者の予後に大きな影響を及ぼす。

実際に術中非小細胞肺癌の肺切除後に行われるPLC-post の陽性率は,2.5~13.1%1)~6)8)10)12),肺切除前に行われるPLC-pre の陽性率は,1.5~5.3%5)6)8)9)12)13)と報告されている。PLC-post の陽性率はPLC-pre と比較して若干高い傾向が認められる。また,術中PLC を実施した4,171 例の検討では5.2%が陽性11),8,763 例のメタアナリシスの解析では5.8%が陽性7)と陽性率が類似した結果も報告されている。

予後に関してPLC-post の検討では,PLC 陽性群では5 年生存率21.4~43.0%に対し,PLC 陰性群では58.3~71.1%で,PLC 陽性群は陰性群と比較して有意に予後不良と報告されている1)4)5)8)12)。10 年生存率でも,PLC 陽性群は25%に対し,PLC 陰性群が58%であり,同様にPLC 陽性群は予後不良である4)。この中でも,特にⅠ期の5 年生存率は,PLC 陽性群が43~60%であるのに対し,PLC 陰性群は81~90%1)6)12)と,有意に予後不良であるが,一方でⅡ-Ⅳ期では予後に関係しないことが報告されている3)4)。PLC-pre の検討でも5 年生存率は,PLC 陽性群で37~44.1%と陰性群と比較して予後不良である5)8)12)13)。また,PLC 全体の検討では,PLC 陽性群の5 年生存率が31~44.5%であるのに比し,PLC 陰性群は72.8%であり,PLC 陽性群は予後不良である7)11)

PLC-post 陽性例は,再発率や死亡率が高く,多変量解析でも独立した予後不良因子である1)~5)8)12)。特にⅠ期においてPLC は,独立した予後不良因子である3)4)6)10)。また,PLC-pre やPLC 全体の陽性例でも同様の結果が報告されているが7)9)11),PLC-pre は多変量解析にて有意な予後不良因子にならないという報告もある12)13)

PLC-post 陽性例は,腺癌1)2)4)10),病期1)2)4)5)10)12),リンパ管・血管侵襲1)3)~5)8)12),血清CEA1)8),男性1),胸膜浸潤1)2)4)5)8)10)12),腫瘍径4)8),リンパ節転移1)4)8)12),年齢5)8)と相関関係が認められる。一方で,扁平上皮癌との相関はなく4),上皮内腺癌(AIS)や微少浸潤性腺癌(MIA)では全例PLC が陰性である10)。PLC-pre 陽性例は,年齢7),喫煙歴7),血清CEA7),腺癌9),病期9)12),腫瘍径7)9),リンパ節転移7)9)12)13),胸膜浸潤7)9)12)13)と相関を認める。また,PLC 陽性例では,年齢7)11),男性7)11),腫瘍径7)11),リンパ節転移7)11),遠隔転移7)11),胸膜浸潤7)11),腺癌11),病期6)11)と相関しており,腺癌では乳頭状腺癌,微小乳頭状集塊が多いと報告されている6)12)

PLC-post 陽性例の再発様式は,局所再発より転移性再発が多いという報告1),胸膜再発率や遠隔転移での再発率が高いという報告5)がある。PLC 陽性例も同様に遠隔転移で再発する6)。また,PLC-post 陽性例は,悪性胸水陽性例と比較して予後が良いが,その大部分は5 年以内に再発することが報告されている8)。そのため,PLC 陽性は,悪性胸水の前段階と考えられる8)

以上より,PLC 検査は予後推定の観点から,行うことを提案する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うことを弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:病理委員会,細胞診判定基準改訂委員会/実施年度:2020 年

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病期診断

CQ20
T 因子診断のために,必要な検査は何か?

エビデンスの強さC
  1. a. 胸部造影CT を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

エビデンスの強さC
  1. b. 縦隔浸潤,胸壁浸潤,腫瘍周囲の無気肺の鑑別が必要な場合,FDG-PET/CT を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

エビデンスの強さC
  1. c. 縦隔浸潤,胸壁浸潤,腫瘍周囲の無気肺の鑑別が必要な場合,胸部MRI を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:79%〕

解説

  1. a. CT では病変の存在,大きさ,広がり,正常構造との関係を正確に捉えることができ,また無気肺や閉塞性肺炎の有無,隣接臓器への浸潤の診断にも有用であり,病期診断において侵襲的検査の前に最初に行うべき基本的な検査である。TNM 分類第8 版においてT 因子は従来より細分化されているが,本邦においても胸部造影CT に高分解能CT を併用することでT 因子の正確な診断が可能との報告がある1)

    以上より,エビデンスの強さはC,総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  2. 投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年
  3. b. CT 単独ではT3 およびT4 の診断が困難な場合があり,T3 診断の感度が38~90%,特異度が40~90%2)3),T4 診断の感度が40~84%,特異度が57~94%4)と報告にばらつきがある。一方,FDG-PET/CT は縦隔浸潤,胸壁浸潤,腫瘍周囲の無気肺との鑑別に有用5)で,T 因子の正診率が82%と,FDG-PET 単独の55%,CT 単独の68%と比べて高い6)と報告されており,特にT3 およびT4 の診断には推奨される。

    以上より,エビデンスの強さはC,総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  4. 投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年
  5. c. MRI も縦隔浸潤,胸壁浸潤,腫瘍周囲の無気肺との鑑別に有用とされ,T3 の診断率がCT の60%に対してMRI が80%,T4 の診断率がCT の33.3%に対してMRI が100%,無気肺の診断率がCT の61.5%に対しMRI が84.6%との報告7)もあり,胸壁浸潤,腫瘍周囲の無気肺との鑑別が困難な症例には考慮してもよい。ただし,GGN やT1 およびT2 の診断に関しては,FDG-PET/CT やMRI よりもCT のほうが診断率が高く7)8),FDG-PET/CT,MRI がCT に代用されるものではない。

    以上より,エビデンスの強さはC,総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  6. 投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年

CQ21
N 因子診断のために,必要な検査は何か?

エビデンスの強さA
  1. a. 胸部造影CT,FDG-PET/CT を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

エビデンスの強さC
  1. b. MRI を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:95%〕

エビデンスの強さA
  1. c. 縦隔リンパ節転移の有無で治療法が異なる症例において,画像検査で縦隔リンパ節転移を疑う場合,超音波内視鏡検査(EBUS-TBNA,EUS-FNA)による病理学的診断を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:95%〕

エビデンスの強さC
  1. d. 術前の画像検査で縦隔リンパ節転移が疑われ,超音波内視鏡検査では転移を認めなかった場合,縦隔鏡検査などの外科的生検を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:100%〕

解説

  1. a. 胸部CT は短径1 cm 以上のリンパ節を転移陽性と診断することが多く,メタアナリシスによると,感度は59%,特異度は78%と報告されている。

    FDG-PET/CT の切除可能な非小細胞肺癌におけるN 因子診断に関するCochrane Library のシステマティックレビューによると,原発巣などの背景臓器における集積を基準としてN 因子を判定した場合,その感度は77.4%,特異度は90.1%とされる10)

    以上より,エビデンスの強さはA,総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  2. 投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年
  3. b. 非小細胞肺癌の縦隔病期診断におけるMRI 拡散強調画像をFDG-PET/CT と比べた43 研究のメタアナリシスによると,10 研究から解析した前者の感度は72%,特異度97%,33 研究から解析した後者の感度は65%,特異度93%と報告されている11)。MRI 拡散強調画像はFDG-PET/CT と同等の診断精度が示されており12)~14),FDG-PET/CT が利用できない場合,MRI を行うよう提案する。

    以上より,エビデンスの強さはC,総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  4. 投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年
  5. c. 前述の画像検査では少なからず偽陽性の結果が存在するため,これらの画像検査の結果だけで治療方針を決定するには,その正確性は不十分である。非小細胞肺癌の縦隔病期診断における超音波気管支鏡ガイド下針生検(endobronchial ultrasound-guided transbronchial needle aspiration;EBUS-TBNA)の診断精度を調べた9 研究1,066 症例のメタアナリシスによると,診断感度は90%,特異度は99%と報告されている15)。非小細胞癌の縦隔病期診断における経食道的超音波内視鏡ガイド下針生検(endoscopic ultrasound-guided fine-needle aspiration;EUS-FNA)の診断精度を調べた18 研究1,201 症例のメタアナリシスによると,感度は90%,特異度は97%と報告されている16)。その他のメタアナリシスにおいても,EBUS-TBNA,EUS-FNA とも感度は概ね90%,特異度100%というデータで一致している17)~19)。合併症は稀であるが,大出血や縦隔炎など重篤な合併症も報告されており注意を要する20)。EBUS-TBNA とEUS-FNA は,両方行ったほうがそれぞれ単独に比べ正確性が上がる19)21)22)ため,必要と判断される症例に対してはEBUS-TBNA とEUS-FNA を両方行うよう提案する。多施設共同ランダム化比較試験において,画像検査で縦隔リンパ節転移が疑われる症例に対し,縦隔鏡検査の前に超音波内視鏡検査を加えることにより,合併症の頻度を上げることなく診断感度が上がり,不要な肺切除を減らすことが報告されており23),画像検査で縦隔リンパ節転移を疑う場合,超音波内視鏡検査による病理学的診断を推奨する。なお,超音波内視鏡(EBUS-TBNA,EUS-FNA)を用いたN 因子診断においては,画像診断に基づいた選択的生検よりも,系統的な生検を実施することが提案される24)。画像検査で縦隔リンパ節転移を疑わない症例に対しては,PET/CT の陰性的中率は高いことから,すべての症例に生検を行うように勧めるだけの根拠は明確ではないが,PET/CT でN2 偽陰性の予測因子となる原発巣が3 cm 以上の症例25),原発巣が中枢に存在する症例26),画像上N1 が疑われる症例27)に対しては,画像上縦隔リンパ節転移を疑わなくとも超音波内視鏡検査により生検を行うことを考慮してもよい。

    以上より,エビデンスの強さはA,総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  6. 投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年
  7. d. 縦隔鏡検査とEBUS-TBNA の非小細胞肺癌の縦隔病期診断に対する効果を比較したメタアナリシスによると縦隔鏡の感度は86%,特異度100%とされ,EBUS-TBNA の感度84%,特異度100%と差はなく,合併症の頻度はEBUS-TBNA のほうが少ないことが示された18)。超音波内視鏡検査後の縦隔鏡検査の必要性に関しては議論があるものの28)29),超音波内視鏡検査陰性症例に縦隔鏡検査を加えると,縦隔リンパ節転移を診断できる症例が増えることが報告されており23)27),術前の画像検査で縦隔リンパ節転移が疑われ,超音波内視鏡検査では縦隔リンパ節転移を認めなかった場合,必要と判断される症例に対して,縦隔鏡検査などの外科的生検を行うよう提案する。

    以上より,エビデンスの強さはC,総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  8. 投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年

CQ22
M 因子診断のために,必要な検査は何か?

エビデンスの強さA
  1. a. FDG-PET/CT,頭部造影MRI を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

エビデンスの強さB
  1. b. FDG-PET/CT で,単発の遠隔転移が疑われた場合は,可能なかぎり他の画像診断や病理学的診断で転移であることを確認するよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:100%〕

解説

  1. a. 遠隔転移の検索において,FDG-PET/CT は造影CT に比べ感度・特異度が高く,FDG-PET/CT による遠隔転移診断の感度が77~100%,特異度が93~100%との報告や30)~33),肝,副腎での陰性的中率が95%,骨では90%との報告がある34)35)

    脳転移の検索において,造影MRI は造影CT や単純CT,MRI に比べて高い感度を示し,腫瘍径の小さな転移を多く検出すると報告されている36)37)が,体内金属などにより造影MRI 撮影できない場合は,造影CT でも代用可能である。脳転移検索におけるFDG-PET/CT については18FDG は正常脳組織への集積がみられるために感度は24~27%38)39)と低く,勧められない。

    ただし,原発巣が2 cm 以下のGGN で充実成分の比率が25%以下の症例は遠隔転移がほとんどないことが報告されており40),このような症例は確定診断を待たずに手術を施行する症例も多く,FDG-PET/CT,頭部造影MRI もしくはCT などによる病期診断は必須ではない。

    コントロール不良の糖尿病,閉所恐怖症,自施設および近隣の施設にPET/CT の設備がない等,FDG-PET/CT が施行し得ない場合,造影CT はFDG-PET/CT に比べると転移巣検索の感度・特異度は劣るものの,転移巣は一般的に血流が豊富で造影CT での造影効果が高いため,肝,副腎,腎などへの転移検索に造影CT は有用である41)

    また,骨転移の検索に関して,複数のメタアナリシスで骨シンチグラフィの感度82~86%,特異度62~88%と報告されており42)43),FDG-PET/CT の感度92%,特異度98%に比べるとやや劣るものの,Schirrmeister らの報告では無症候の肺癌患者に骨シンチグラフィを施行しなかった場合,14~22%の患者が骨転移を見逃されるとされ44),FDG-PET/CT が施行し得ない場合には骨シンチグラフィを施行するように勧められる。しかし,外傷や変形性関節症などでは偽陽性となり得るため注意が必要である。

    以上より,エビデンスの強さはA,総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  2. 投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年
  3. b. 遠隔転移の検索にFDG-PET/CT は有用であるが,感染性疾患,肉芽腫性疾患,副腎腺腫などで偽陽性となることが指摘されており45)46),注意が必要である。

    特に副腎は肺癌の転移先として最も多い臓器の1 つであるが47),副腎腺腫でもFDG 集積がみられるため鑑別は重要である。CT で一側性の副腎腫大がみられた場合に副腎転移の可能性が高いとする報告もあるが30),有意でないとの報告もあり48),それだけで良悪性の判断はできず,MRI の脂肪抑制画像やダイナミックMRI などの検査を組み合わせたり,経皮針生検などが有用であることが指摘されている47)~51)。このように単発の遠隔転移が疑われた場合は,可能なかぎり他の画像診断や病理学的診断で転移であることを確認することが勧められる。

    以上より,エビデンスの強さはB,総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  4. 投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年

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分子診断

CQ23
治療方針を決めるための,分子診断の項目は何か?

エビデンスの強さA
  1. a. 進行・再発非扁平上皮非小細胞肺癌の場合は,EGFR遺伝子変異検査,ALK 融合遺伝子検査,ROS1 融合遺伝子検査,BRAF 遺伝子変異検査,MET遺伝子エクソン14 スキッピング検査,PD-L1 免疫組織化学染色検査(IHC)を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

エビデンスの強さB
  1. b. 第一・二世代EGFR-TKI に治療抵抗性(耐性)となった進行・再発非扁平上皮非小細胞肺癌の場合は,EGFR 遺伝子変異検査を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

エビデンスの強さA
  1. c. 進行・再発扁平上皮肺癌の場合は,PD-L1 IHC を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:95%〕

エビデンスの強さD
  1. d. 進行・再発扁平上皮肺癌の場合は,臨床背景(若年・非喫煙者など)などを考慮してEGFR 遺伝子変異検査,ALK 融合遺伝子検査,ROS1 融合遺伝子検査,BRAF 遺伝子変異検査,MET 遺伝子エクソン14 スキッピング検査を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:89%〕

エビデンスの強さB
  1. e. NTRK 融合遺伝子検査,MSI 検査は固形癌が対象となるため,肺癌の場合においても行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:95%〕

解説

  1. a. EGFR 遺伝子変異,ALK 遺伝子転座を有する症例のみを対象とした第Ⅲ相試験において,いずれもEGFR-TKI 単剤もしくはALK-TKI 単剤が細胞傷害性抗癌薬と比較してPFS の有意な延長をもたらすことが報告された1)2)。ROS1遺伝子転座症例やBRAF 遺伝子変異症例,MET 遺伝子エクソン14スキッピング症例では,患者数が少ないことからそれらのキナーゼ阻害薬と細胞傷害性抗癌薬との第Ⅲ相試験は実施されていないが,第Ⅱ相試験でキナーゼ阻害薬の有効性が示されている3)〜5)。したがって,EGFR 遺伝子変異検査,ALK 遺伝子転座検査,ROS1 遺伝子転座検査,BRAF 遺伝子変異検査,MET 遺伝子エクソン14 スキッピング検査は,それぞれのキナーゼ阻害薬の適応を決定するために行うよう勧められる。

    PD-L1 IHC(22C3)にてPD-L1 TPS 50%以上の非小細胞肺癌患者を対象とした第Ⅲ相試験において,ペムブロリズマブ単剤が細胞傷害性抗癌薬と比較してPFS,OS の有意な延長を示した6)7)。また,PD-L1 TPS 1%以上の進行非小細胞肺癌患者を対象とした第Ⅲ相試験でも,ペムブロリズマブ単剤は細胞傷害性抗癌薬と比較しOS の有意な延長を示した8)。PD-L1 IHC(SP142)にてTC1/2/3 or IC1/2/3 の未治療非小細胞肺癌患者を対象とした第Ⅲ相試験の中間解析にて,TC3 or IC3 ではアテゾリズマブ単剤が細胞傷害性抗癌薬と比較してPFS,OS の有意な延長を示した9)。加えて,未治療非扁平非小細胞肺癌患者を対象とした第Ⅲ相試験において,細胞傷害性抗癌薬+PD-1/PD-L1 阻害薬併用療法が細胞傷害性抗癌薬と比較してPFS,OS の有意な延長を示し,サブグループ解析にて,PD-L1 高発現ではより良好な結果を示した10)11)。したがって,PD-L1 IHC 検査はPD-1/PD-L1 阻害薬単剤による治療の適否や,細胞傷害性抗癌薬+PD-1/PD-L1 阻害薬併用療法の効果を予測するために行うよう勧められる。

    以上より,エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  2. 投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2020 年
  3. b. 第一・二世代のEGFR-TKI による治療の後にT790M 変異陽性となった患者を対象とした第Ⅲ相試験において,第三世代EGFR-TKI であるオシメルチニブが細胞傷害性抗癌薬と比較してPFS の有意な延長をもたらすことが報告された12)。したがって,EGFR 遺伝子変異検査は第一・二世代のEGFR-TKI に治療抵抗性(耐性)となった患者に対するオシメルチニブ治療の適応を決定するために行うよう勧められる。

    以上より,エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  4. 投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年
  5. c. PD-L1 IHC(22C3)にてPD-L1 TPS 50%以上の非小細胞肺癌患者を対象とした第Ⅲ相試験において,ペムブロリズマブ単剤が細胞傷害性抗癌薬と比較してPFS,OS の有意な延長を示した6)7)。また,PD-L1 TPS 1%以上の進行非小細胞肺癌患者を対象とした第Ⅲ相試験でも,ペムブロリズマブ単剤は細胞傷害性抗癌薬と比較しOS の有意な延長を示した8)。PD-L1 IHC(SP142)にてTC1/2/3 or IC1/2/3 の未治療非小細胞肺癌患者を対象とした第Ⅲ相試験の中間解析にて,TC3 or IC3 ではアテゾリズマブ単剤が細胞傷害性抗癌薬と比較してPFS,OS の有意な延長を示した9)。加えて,未治療扁平上皮肺癌患者を対象とした第Ⅲ相試験において,細胞傷害性抗癌薬+PD-1 阻害薬併用療法が細胞傷害性抗癌薬と比較してPFS,OS の有意な延長を示し,サブグループ解析において,PD-L1 高発現ではより良好な結果を示した13)。したがって,PD-L1 IHC検査はPD-1/PD-L1 阻害薬単剤による治療の適否や,細胞傷害性抗癌薬+PD-1/PD-L1 阻害薬併用療法の効果を予測するために行うよう勧められる。

    以上より,エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  6. d. 肺扁平上皮癌におけるEGFR 遺伝子変異,ALK 遺伝子転座,ROS1 遺伝子転座,BRAF 遺伝子変異の陽性頻度は極めて低い14)〜17)が,腺扁平上皮癌など腺癌成分を含む腫瘍ではこれらの遺伝子異常が検出される可能性がある。一方、MET 遺伝子エクソン14 スキッピング変異は肺扁平上皮癌や肉腫様癌でも検出頻度が比較的高い18)19)。生検試料や細胞診試料などの微量なサンプルにおいては,腫瘍組織の全体像を把握することは困難であり腺癌成分の完全な除外を行うことは不可能であるため,扁平上皮癌と診断された症例においても,臨床背景(若年,非喫煙者など)により検査を行うことを考慮してもよい。

    以上より,扁平上皮癌を対象としたデータは少なく,エビデンスの強さはD,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  7. 投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2020 年
  8. e. NTRK 融合遺伝子陽性の固形癌を対象としたTRK 阻害薬エヌトレクチニブの第Ⅰ相および第Ⅱ相臨床試験の統合解析において,高いORR〔54%(95%CI:43.2-70.8%)〕が示された20)。また,前治療歴のあるミスマッチ修復(MMR)欠損またはマイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌(大腸癌を除く)を対象としたPD-1 阻害薬であるペムブロリズマブの第Ⅱ相臨床試験のORR は34.3%(95%CI:28.3-40.8%)であった21)。いずれも対象疾患が希少であるため肺癌患者のみを対象とした標準治療との比較試験は実施されていないが,これらの結果から,各々,治療薬の効果が期待される。したがって,その適応判定の補助となるNTRK 融合遺伝子検査,MSI 検査を行うよう提案する。

    以上より,エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  9. 投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2020 年

CQ24
非小細胞肺癌の治療方針決定のために行う分子診断は,検査項目に優先順位をつけるか?

エビデンスの強さD
検査項目に優先順位をつけず,同時に行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:68%〕

解説

EGFR 遺伝子検査,ALK 遺伝子検査,ROS1 遺伝子検査,BRAF 遺伝子検査,MET 遺伝子エクソン14スキッピング検査,PD-L1 IHC は,いずれもキナーゼ阻害薬やPD-1/PD-L1 阻害薬選択のために必要な検査である。

EGFR 遺伝子変異は肺腺癌の約半数に存在するものの,ALK 遺伝子転座,ROS1 遺伝子転座,BRAF 遺伝子変異,MET 遺伝子エクソン14 スキッピングは,非小細胞肺癌の2〜3%と希少頻度である22)。またそれぞれのドライバー遺伝子変異/転座は相互排他的に存在していることから,これらの遺伝子検査を順次個別に行う方法も考えられるが,治療開始までの時間を短縮するために,また最適な治療薬の投与機会を逸しないために,初回診断時にこれらのドライバー遺伝子検査をPD-L1 IHC と同時にすべて行うことが望まれる。

これらのドライバー遺伝子検査においては,それぞれの項目に対する単一遺伝子を対象としたコンパニオン診断薬に加えて,複数遺伝子を対象にコンパニオン診断機能を有する遺伝子パネル検査が承認されている。また,がんゲノムプロファイリングを目的に行う遺伝子パネル検査においてコンパニオン検査が存在する遺伝子変異/転座が検出された場合,エキスパートパネルで推奨され担当医が適切と判断すれば,あらためてコンパニオン検査を行うことなく当該遺伝子異常に対する承認薬の投与が可能である。遺伝子パネル検査の適応や運用については,「肺癌患者における次世代シークエンサーを用いた遺伝子パネル検査の手引き」「肺癌患者におけるMETex14 skipping 検査の手引き」(日本肺癌学会ホームページ:各種ガイドライン)を参照すること。

以上より,現時点で優先順位をつけるかどうかについて示されたデータはなく,エビデンスの強さはD,また総合的評価では,優先順位をつけないよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:診断小委員会/実施年度:2018 年

引用文献

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Ⅱ.非小細胞肺癌(NSCLC)

外科治療

総論
肺癌に対する外科治療

解説

臨床病期Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌に対する標準治療は外科切除である。肺癌に対する外科治療の意義はランダム化比較試験で確認されたものではないが,過去の膨大な予後および合併症の情報から確認されるものである(CQ2)。術前には呼吸機能検査および循環器に関する機能評価は必須であり,手術に対する安全性を評価する(CQ1)。また1995 年に報告された肺癌に対する外科治療における標準術式を問う臨床試験の結果から肺葉切除と肺門・縦隔のリンパ節郭清が標準とされた(CQ3)。一方最近では胸部CT による術前の癌に関する浸潤性の評価が可能となり,肺葉以下の切除で予後を確保できるとする報告も相次いでいる。しかし,いずれも後ろ向きまたは小規模の試験の結果であり,最終的には多施設共同前向き試験として行われた肺葉切除と縮小切除のランダム化比較試験の結果を待たねばならない。したがって現時点では肺葉切除可能な患者に縮小切除を行うことは弱く推奨するにとどめる(CQ4)。肺葉以上の切除が不可能な患者に対する縮小切除に関しては,昨今の放射線治療の進歩があるものの,比較試験に支持されたものではないが,依然として有効性が高いと考えられ,弱く推奨する(CQ5)。

臨床病期Ⅲ期非小細胞肺癌の治療方針は,呼吸器外科医,内科医,放射線治療医を含めた集学的治療グループで検討すべきであり,これを推奨する(CQ6)。臨床病期ⅢA 期の治療方針は組織学的に縦隔リンパ節転移を確認することを推奨する(CQ7)。

肺癌の外科治療におけるリンパ節郭清の意義は,系統的リンパ節郭清と系統的リンパ節サンプリングをランダムに比較した試験の結果から予後の改善にはつながらないものの,正確な病期診断に資すると解釈されている。一方で致命的合併症は稀である。よって行うことを推奨する(CQ9)。T3 肺癌に対する胸壁または心膜合併切除の必要性に関しては行うことを推奨する(CQ1011)。T4N0-1 肺癌に対する外科治療は,T4 臓器によりその意義は異なるものがあるが,弱く推奨する(CQ8)。気管支・肺動脈形成術は肺全摘術と比較して,局所制御,術後合併症発生率,術後死亡率,そして予後の観点から良好であり,肺全摘術を避けるために行うことを推奨する(CQ12)。同一肺葉内結節で肺転移または多発肺癌を疑う場合は臨床病期N0 であれば予後の観点から手術を行うことを推奨する(CQ13)。他肺葉内結節で,多発原発性肺癌を疑う患者に対して手術を行うことを提案する(CQ14)。他肺葉内結節で,肺内転移を疑う患者に対して手術を行わないことを提案する(CQ15)。異時性多発肺癌に対しては,耐術能があれば手術を行うことを推奨する(CQ16)。臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌に対して胸腔鏡補助下肺葉切除を行うことは大規模な臨床試験に基づくエビデンスは十分ではないものの,日常臨床に十二分に普及しているためにこれを提案する(CQ17)。なお,ロボット手術に関してはエビデンス,実績ともに不十分であるため評価不能とした(CQ18)。術後経過観察を外科切除後に行うことの意義に関しては十分なエビデンスがあるとは言い難いが,日常臨床に浸透しており行うことを推奨する(CQ19)。術後の患者は禁煙するべきである(CQ20)。低悪性度肺腫瘍,つまりカルチノイド,粘表皮癌,腺様嚢胞癌などに対する外科切除は非小細胞肺癌に準じた外科治療を行うよう推奨する(CQ21)。

1-1
手術適応

1-1-1.手術適応(術前呼吸機能・循環機能評価)

CQ1
手術適応決定には,呼吸機能評価(spirometry)や循環機能評価(安静時心電図)をはじめ,血液・生化学所見や年齢などを総合的に評価・検討することが必要か?

エビデンスの強さC
術前呼吸機能・循環機能をはじめ総合的に評価・検討を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

呼吸機能検査のspirometry は,拘束性障害や閉塞性障害を評価する方法として確立されている。術前肺機能評価と肺切除後のmortality,morbidity の関連については,1986 年の海外からの報告があり1),その他にも術前肺機能評価との関連は検討されているが2),単一の普遍的な指標はない。術後呼吸機能の評価として,術前呼吸機能評価(spirometry)と肺血流シンチグラフィや肺区域数を用いての予測術後肺機能は,術後実測値と良い相関を示したとの報告があり,術後予測1 秒量(predicted postoperative FEV1.0;ppoFEV1.0)≧800 mL などの指標が参考値として用いられている3)4)。さらに,ppo%FEV1.0 およびppo%DLco と術後の長期予後の強い相関を示した報告もある5)。リスク評価としては,①pre%FEV1.0,pre%DLco,②ppo%FEV1.0,ppo%DLco,③運動負荷試験を指標にアルゴリズムを示した報告がある6)。術前のリハビリテーションは心肺機能を有意に改善させ,肺癌手術後の在院日数,合併症を有意に減少させる7)8)9)

術前検査としての循環器機能検査,特に安静時心電図については,基本的な機能評価として一般的に行われており,症例に応じて種々の負荷試験や超音波検査(心,血管など)などが行われている。これを推奨する根拠となる臨床試験はないものの,肺癌合同登録委員会の2004 年手術例の調査では,併存疾患として負荷心電図陽性の虚血性心疾患を2.8%に認め,術後合併症として不整脈を3.3%に認めている10)

血液・生化学所見や年齢などの総合的評価は全身状態の把握のために大切であり,明確な臨床試験はないが,手術適応の決定に必須であることは,議論の余地がない。呼吸機能検査と循環機能評価(安静時心電図)をはじめ,血液・生化学所見や年齢などを総合的に評価・検討することは,手術適応の決定において不可欠である。

以上より,エビデンスの強さはC,また総合的評価では術前呼吸機能・循環機能をはじめ総合的に評価・検討は行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2020 年

1-1-2.手術適応(臨床病期Ⅰ-Ⅱ期)

CQ2
臨床病期Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌で標準手術可能な患者には,外科切除が勧められるか?

エビデンスの強さC
臨床病期Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌で標準手術可能な患者には,外科切除を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

臨床病期ⅠまたはⅡ期肺癌に対して外科治療を放射線治療,または化学療法とランダム化比較した臨床試験は報告されていない。外科治療が最も肺癌の治癒をもたらす治療であると考えられているのは,これまでの多くの後方視的研究による1)~3)。肺癌外科切除18,973 例の検討によれば,全体の5 年生存率は74.7%であり,臨床病期0,ⅠA1,ⅠA2,ⅠA3,ⅠB,ⅡA,ⅡB 期ではそれぞれ97.0%,91.6%,81.4%,74.8%,71.5%,60.2%,58.1%であった3)

以上より,臨床病期Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌で肺葉切除可能な患者に対する外科切除は勧められる。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2020 年

CQ3
臨床病期Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌で外科切除可能な患者に対する術式は,肺葉以上の切除を行うべきか?

エビデンスの強さB
臨床病期Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌で外科切除可能な患者に対する術式は,肺葉以上の切除を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

米国Lung Cancer Study Group によって腫瘍最大径3 cm 以下のリンパ節転移を伴わない肺癌に対する肺葉切除と縮小切除を比較したランダム化比較試験が1995 年に報告された4)。この研究によると肺葉切除に比べて縮小切除は局所再発が3 倍となり,予後不良の傾向が認められた。人工呼吸器を要する呼吸不全などの重症合併症は肺葉切除に多かったものの,結論としては至適術式は肺葉切除であるとされた。肺葉切除と縮小切除の間で比較された手術死亡率に関する3,270 例の外科切除例の検討では,両者に差は認められなかった5)

以上より,臨床病期Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌で外科切除可能な患者に対する術式は,肺葉以上の切除を行うことを推奨する。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2020 年

CQ4
臨床病期ⅠA 期,最大腫瘍径2 cm 以下の非小細胞肺癌に対して,縮小手術(区域切除または楔状切除)を行うよう勧められるか?

エビデンスの強さC
臨床病期ⅠA 期,最大腫瘍径2 cm 以下の非小細胞肺癌に対して,縮小手術(区域切除または楔状切除)は行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:100%〕

解説

臨床病期Ⅰ期肺癌に対する標準術式は肺葉切除であるが,これまでに腫瘍径2 cm 以下の肺癌に対して縮小切除を行った研究が報告されている。1 つのメタアナリシスでは肺葉切除に対して縮小切除後の予後は劣らないとしているが,それぞれの報告の対象にばらつきがあり,結果に対する解釈に注意するよう結論付けられている6)。2 cm 以下の肺癌に対する区域切除55 例の報告では,5 年生存率81.8%,局所再発率4%と報告された7)8)。無作為ではないものの大規模な研究として567 例の2 cm 以下の肺癌に対して肺葉切除と縮小切除(主に区域切除)を比較したものがある9)。305 例の縮小切除群のうち術中にリンパ節転移が認められるか,非完全切除に終わるかなどによって一部の症例は肺葉切除に転換され,その結果230 例が縮小切除群に終わった。肺葉切除群と縮小切除群の局所再発と5 年生存率はそれぞれ6.9%,4.9%,そして89.6%,89.1%とほぼ同等の成績であった。また胸部CT 上,広範囲にすりガラス濃度を呈する肺癌は病理学的に非浸潤癌であることが報告されており10),この対象に縮小切除を適応する研究も報告されている11)12)。これらすりガラス濃度を呈する肺癌は局所浸潤性に乏しく,縮小切除の中でも広範囲楔状切除でも極めて良好な予後が報告されている。一方で手術後5 年以降に局所再発をきたした例も報告されており,現時点ではこれらの対象に縮小切除を適応するに十分な根拠はない13)。米国の807,748 例の肺癌切除例の検討で,1988~97 年,1998~2004 年,そして2005~8 年の3 期間における検討では予後の観点から肺葉切除の縮小切除に対する優位性が薄れているとの報告もある14)

最大腫瘍径2 cm 以下の非小細胞肺癌に対する肺葉切除と縮小切除の比較は本邦と米国で第Ⅲ相試験が遂行されている15)16)。予後に関しては追跡調査中であるが,安全性に関してはいずれの術式も良好な成績であることが報告されており,本邦の試験に参加した1,106 例の術後死亡率は0%15),米国の試験に参加した697 例の90 日死亡率は肺葉切除1.7%,縮小切除1.2%であった16)

以上より,臨床病期ⅠA 期,最大腫瘍径2 cm 以下の非小細胞肺癌に対する縮小手術(区域切除または楔状切除)は行うことを提案する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2020 年

CQ5
臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌で外科治療が可能であるが,肺葉切除以上の切除が不可能な患者に,縮小手術(区域切除または楔状切除)を行ってもよいか?

エビデンスの強さC
臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌で外科治療が可能であるが,肺葉切除以上の切除が不可能な患者に,縮小手術(区域切除または楔状切除)を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:66%〕

解説

臨床病期Ⅰ期の肺癌で術後1 秒率40%以下である低肺機能患者に対して縮小切除を行った報告によれば,32 例と症例は少ないものの,肺葉切除とほぼ同等の局所再発率と予後であった17)。95 例の肺葉切除不能例に対する非外科治療に関する研究では,縮小切除または放射線治療を行うことで,3 年生存率65%と報告された18)

また,米国のNational Cancer Database を使用して解析された楔状切除10,032 例と定位放射線治療4,296 例の予後の比較では,切除断端陽性の部分切除と定位放射線療法の生存率は同等であること,完全切除の場合は定位放射線治療と比し有意に死亡リスクが低いことが示された19)

以上より,臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌で外科治療が可能であるが,肺葉切除以上の切除が不可能な患者に,縮小手術(区域切除または楔状切除)を行うことを提案する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2020 年

1-1-3.手術適応(臨床病期Ⅲ期)

CQ6
臨床病期ⅢA 期非小細胞肺癌の治療方針は,呼吸器外科医,内科医,放射線治療医を含めた集学的治療グループで検討すべきか?

エビデンスの強さC
臨床病期ⅢA 期非小細胞肺癌の治療方針は,呼吸器外科医を含めた集学的治療グループでの検討を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

臨床病期ⅢA 期は様々な集団に予後の観点から分けることができる母集団であり,その治療方針決定のためには呼吸器外科医を含む集学的治療チームによる治療方針の決定が勧められる1)

以上より,臨床病期ⅢA 期非小細胞肺癌の治療方針は,呼吸器外科医を含めた集学的治療グループでの検討を行うよう推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2020 年

CQ7
臨床病期ⅢA 期N2 非小細胞肺癌のN2 診断は,組織学的に確認すべきか?

エビデンスの強さC
臨床病期ⅢA 期N2 非小細胞肺癌の診断は,組織学的に確認を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

大規模な後方視的研究で11,663 例の肺癌切除例に関する検討が行われた2)3)。このうち800 例が臨床病期ⅢA 期N2 と診断されたが,病理学的にN2 と診断された症例は436 例(54.5%)にとどまった。病理学的にN0,N1 と診断された症例はそれぞれ271 例(34%),75 例(9%)であった。つまりおよそ44%の症例では臨床病期N2 というのが過大診断であったことになる。cN0-1 であれば遠隔転移がない可能性が高く,少なからず外科切除の恩恵を被る可能性の高い集団である。

以上より,臨床病期ⅢA 期N2 非小細胞肺癌の診断は,組織学的に確認を行うよう推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2020 年

CQ8
臨床病期ⅢA 期T4N0-1 非小細胞肺癌に対して,外科切除を行うよう勧められるか?

エビデンスの強さD
臨床病期ⅢA 期T4N0-1 非小細胞肺癌に対して,外科切除を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:63%〕

解説

これまで臨床病期ⅢA 期T4N0-1 非小細胞肺癌の切除意義に関する報告については,ランダム化比較試験はなく,症例集積や少数例でのケースコントロール研究しか存在しない。その中で,下記に示すとおり,症例をよく選択した手術結果においては,PS 良好で,N0-1 のケースにおいては,予後と手術の安全性の観点からは手術は選択肢として許容される範疇にあると考えられる。以下に,具体的な報告を示す。

T4N0-1M0 症例の中で,各浸潤臓器別に切除成績をみると,大動脈合併切除では,致命的合併症発生率は0~12%であり,5 年生存率は37~48%と報告されている1)~3)。なかでも,特にN0-1 では長期予後が期待でき,良い適応とされている。

左房合併切除は,単施設から30 例以上の報告もあり4)~6),T4 肺癌の中では比較的多く行われている術式である。致命的合併症発生率は0~10%,5 年生存率が16~46%と比較的良好な治療成績が報告されている1)5)~8)。左房においても同様にN0 は予後良好因子である5)6)8)

上大静脈合併切除においては単施設から40 例以上の比較的まとまった症例数での報告が複数ある5)9)10)。致命的合併症発生率は4~10%,5 年生存率は24~31%であり,やはりN2 は予後不良因子である5)9)~11)。分岐部合併切除の致死的合併症は約3~20%であり,最近の64 例の報告では,5 年生存率は病理病期により,pN0 で70%,pN1 で35%,pN2 で9%と報告されている12)~16)

横隔膜合併切除では,致死的合併症発生率は1.6~4.4%17)18),5 年生存率は19~42.6%17)19)20)と報告されている。JCOG 肺がん外科グループの報告では,完全切除例の5 年生存率は22.6%であったのに対し,非完全切除例では0%,病理病期ではpN0 の5 年生存率は28%であったのに対し,pN1 で20%,pN2 で0%であった17)

最近の本邦における肺癌登録合同委員会報告では,浸潤するT4 臓器により5 年生存率に有意差はなく,T4N0 で70 歳未満であれば,5 年生存率は50%を超えると報告されている21)

以上より,臨床病期ⅢA 期T4N0-1 非小細胞肺癌に対しては外科治療を行うよう提案する。エビデンスの強さはD,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2020 年

引用文献

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1-2
リンパ節郭清

CQ9
切除可能な非小細胞肺癌に対しては,肺門縦隔リンパ節郭清を行い,病理学的評価を行うべきか?

エビデンスの強さB
肺門縦隔リンパ節郭清を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

まずはじめに,リンパ節の評価には,リンパ節を周囲脂肪組織とともに一塊として摘出する系統的リンパ節郭清,原発部位により郭清範囲を省略する選択的リンパ節郭清,任意のリンパ節のみ摘出するサンプリングなどが挙げられるが,本邦での明確な定義はない。

これまでに行われた最大規模のランダム化比較試験であるAmerican College of Surgery Oncology Group(ACOSOG)Z0030 試験1)では,T1-2N0-1(肺門部リンパ節を除く)症例を対象に系統的リンパ節郭清群とサンプリング群の治療成績が比較検討され,系統的リンパ節郭清群と系統的サンプリング群の生存期間中央値,ならびに無再発5 年生存率はそれぞれ,8.5 年と8.1 年,68%と69%で,系統的リンパ節郭清による有意な治療成績の改善は認められなかった1)。また系統的リンパ節郭清の手術時間はサンプリングに比べ,15 分程度長いにすぎず,術後の合併症発生率や手術関連死亡率にも差がなかった2)

その他にも肺門縦隔リンパ節郭清が予後に与える影響について検証した,リンパ節郭清とサンプリングとのランダム化比較試験はこれまでに複数の報告があり,予後を改善するという結果3)と予後に影響を与えないとする結果4)5)の双方が存在する。また,これらのランダム化比較試験を含むメタアナリシス6)~9)も複数報告されているが,同様に結果の一貫性が認められない。

したがって,系統的郭清が予後に与える影響を検証する複数のランダム化比較試験とメタアナリシスはあるもの,結果の一貫性がないこと,また,各ランダム化比較試験における対象病期や対照・試験アームの手技が異なるなど,試験デザインが異なっており,種々のバイアスが含まれるため,リンパ節郭清の予後に与える影響については科学的根拠が明確であるとはいえない。一方,ACOSOG のランダム化比較試験にてサンプリングではN2 の4%が見落とされており1),正確な病理病期の決定のためにはリンパ節郭清を行うように勧められる。

近年,より効果的なリンパ節郭清を行うことを目的に,lobe-specific mediastinal lymph node dissection(いわゆる選択的縦隔リンパ節郭清)が特に日本において広く行われている10)。系統的縦隔リンパ節郭清との比較において,全生存率や再発率に差を認めず,手術時間の短縮や術後合併症の減少に効果があるとのいくつかの研究報告があるが10)~12),一方ではその適応基準によっては局所リンパ節再発が多くなるという報告もある13)。いずれの報告も全国登録データの後方視的比較研究であったり,単施設からの後方視的研究,小規模な非ランダム化比較研究しかなく,これまで選択的縦隔リンパ節郭清と系統的縦隔リンパ節郭清のランダム化比較試験の研究報告はなされていない。また,本郭清法の適応病期や郭清手技,術中リンパ節の評価などについても各研究によって異なり,本術式の有効性については,十分な検証がされているとはいえない。

以上より,切除可能な非小細胞肺癌に対して,肺門縦隔リンパ節郭清を行うことは,少なくとも正確な病理診断のためには推奨されると考えられる。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2020 年

引用文献

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1-3
T3 臓器合併切除(肺尖部胸壁浸潤癌以外)

CQ10
臨床病期T3N0-1M0 の胸壁浸潤非小細胞肺癌には,胸壁合併切除を行うよう勧められるか?

エビデンスの強さC
臨床病期T3N0-1M0 の胸壁浸潤非小細胞肺癌には,胸壁合併切除を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

胸壁合併切除術の手術死亡率は0~7.8%で1)~6),合併症発生率は19~44%と報告されている1)~3)。胸壁合併切除術を施行した肺癌の予後因子として,完全切除,リンパ節転移,胸壁浸潤の程度が挙げられている。完全切除症例は不完全切除症例より予後が良好である3)~5)。胸壁浸潤肺癌334 例の検討で,完全切除例(n=175)の5 年生存率が32%であったのに対し,非完全切除例(n=94)では4%と報告されている4)。完全切除可能であれば壁側胸膜切除と骨性胸壁切除の差はないとする報告が多い3)4)6)7)。リンパ節転移に関しては,pN0 症例の5 年生存率は25~67%であるのに対し,pN1 では症例数が少ないものの20~100%,pN2 症例では6.2~20.5%と報告されている1)~7)。本邦における肺癌登録合同委員報告では胸壁浸潤407 例の5 年生存率はpN0:49.1%(n=299),pN1:36.5%(n=43),pN2:20.5%(n=65)で,pN2 がpN0 に比較して有意に予後不良であった7)。胸壁浸潤の程度に関しては,壁側胸膜のみの浸潤例が胸壁軟部組織や骨性胸郭浸潤例より良好であるという報告もあるが1)5),pN0 症例では胸壁浸潤の程度は予後に影響しないと報告されている7)。なお,上記文献はいずれも術後病理病期で記載されており,臨床病期で検討されている論文はない。本症を対象とした手術以外の治療法との直接の比較試験はないが,他の治療法との差異は明らかであるため臨床病期T3N0-1M0 症例の胸壁合併切除術は推奨度1C とした。ただし,縦隔リンパ節転移を有すると考えられる症例,特に術前病理検査にてN2 と判明した症例については,その予後不良が予測されることより,手術単独療法は施行すべきではない。

本邦でのcN0 症例に対する導入化学放射線療法後の胸壁合併切除の前向き試験の報告では,3 年と5 年の全生存率はそれぞれ77%,63%であり,12 例の病理学的完全奏効例の3 年全生存率は91.7%と良好であった8)。一方,pN0 症例に対する補助化学療法に関してはNCDB による824 例の後ろ向き観察研究で,補助化学療法はHR 0.74(95% CI:0.6-0.9)で生存を改善したとの報告がある9)。さらに最近の同じくNCDB による2,326 例の大規模な検討では,傾向スコア解析を行っても生存期間中央値において補助化学療施行群は68 カ月,非施行群は39 カ月(P<0.01)と補助化学療法施行群で有意に良好であった10)

以上より,臨床病期T3N0-1M0 の胸壁浸潤非小細胞肺癌に対しては,胸壁合併切除を行うよう推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2020 年

CQ11
心膜に浸潤した臨床病期T3N0-1M0 の非小細胞肺癌には,合併切除を行うよう勧められるか?

エビデンスの強さC
心膜に浸潤した臨床病期T3N0-1M0 非小細胞肺癌には合併切除を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

心膜合併切除例の5 年生存率は15.1~54.2%であり11)12),pT3 に限れば比較的良好な報告もある。しかし91 例の心膜浸潤症例の後方視的研究では,全体の5 年生存率15.1%と予後不良であった9)。うち32 例が心膜単独浸潤(T3)で59 例は肺静脈,心房浸潤(T4)を伴っていたが,T3,T4 間に予後の差を認めなかった。N0 は12 例(13.2%)N1 は31 例(34.1%),N2 は48 例(52.8%)と,心膜浸潤症例ではリンパ節転移の頻度が極めて高く,肺全摘の頻度も高かった。なお,上記文献はいずれも術後病理病期で記載されており,臨床病期で検討されている論文はない。臨床病期T3N0-1M0 心膜浸潤肺癌切除例の予後は,最近の報告で改善はみられるものの依然不良であり,推奨度は1C とした。ただし,縦隔リンパ節転移を有すると考えられる症例,特に術前病理検査にてN2 と判明した症例については,その予後不良が予測されることより12),手術単独療法は施行すべきではない。

以上より,心膜に浸潤した臨床病期T3N0-1M0 非小細胞肺癌に対しては合併切除を行うことを推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2020 年

引用文献

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1-4
気管支・肺動脈形成

CQ12
肺全摘を避けて,気管支・肺動脈形成を行うべきか?

エビデンスの強さC
肺全摘を避けて,気管支・肺動脈形成を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

ランダム化比較試験はないが,腫瘍が中枢進展しているか,肺門リンパ節転移のために肺全摘または気管支・肺動脈形成術が可能な場合,気管支・肺動脈形成術後の局所コントロールは肺全摘と同等であり1),かつ予後はⅠ期・Ⅱ期1)2)および,pN01)3),N1 症例について肺全摘術と同等4)か,それ以上1)2)5)と報告されている。気管支形成の手術死亡率は0.9~5.9%1)2)4)6)~8)と報告されている。

気管支楔状切除の局所再発率は8.9%,BPF は1.6%,術死は3.7%で管状切除と変わらないとの報告がある9)

肺動脈形成は単独および気管支形成同時であっても,安全性・有効性が報告されている3)5)~7)10)。最近の報告3)5)11)では,気管支・肺動脈形成術の手術死亡率,術後合併症率は低下している。

肺全摘を避けるために行う複雑気管支形成術の有効性も報告されている12)13)

Induction 後の気管支形成の安全性・有効性が報告されている14)~16)。術前化学療法群と化学放射線療法群と通常の気管支形成群との比較で,術死亡,術後合併症,また吻合部合併症に差がない14)~16)という報告や,術前放射線治療が術死,吻合合併症に影響したという報告もある7)。また予後に関しては,Induction 群で全摘症例やInduction のない症例より良好という報告がある16)17)

以上より,肺全摘を避けて,気管支・肺動脈形成を行うよう推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2020 年

引用文献

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Zhao LL, Zhou FY, Dai CY, et al. Prognostic analysis of the bronchoplastic and broncho-arterioplastic lobectomy of non-small cell lung cancers-10-year experiences of 161 patients. J Thorac Dis. 2015; 7(12): 2288-99.
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1-5
同一肺葉内結節

CQ13
同一肺葉内結節で転移(PM1)もしくは多発肺癌を疑うcN0 症例において,手術を行うべきか?

エビデンスの強さD
同一肺葉内結節で転移(PM1)もしくは多発肺癌を疑うcN0 症例において,手術を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

転移を有する非小細胞肺癌に対する手術の有無についての比較臨床試験は行われていない。

IASLC に登録された肺癌症例(1999~2010 年)のうち,同一肺葉内転移(PM1),M0 の臨床病期172 例,病理病期960 例について検討されている1)。組織別での差はなく,多くの症例は,手術時に発見されることが多かった。5 年生存率は,cN0:59%(110 例),cN-any:47%(172 例),pN0:59%(468 例),pN-any:42%(960 例)であった。ただし,cN0,M0 症例のうち,切除例68%に対し,非切除例は症例数が少ないが0%であった。またpN0M0 切除例のうち,R0:59%に対し,R-any:42%であり,pN0M0 R0 であれば,良好な予後が得られている。これは,肺癌登録合同委員会で登録された1994 年の肺癌手術症例の予後と同等か,それ以上であった。この報告でリンパ節転移の有無別に解析すると,N0,N1,N2 症例での5 年生存率は,45.8%,25.3%,11.1%であり,N0 群とN1 群(P=0.0176),N1 群とN2 群(P=0.0114)に有意差が認められた2)。同様に,100 例以上の解析がなされた報告では,PM1 の術後5 年生存率は30~58%と報告され2)~8),特にリンパ節転移陰性症例では概ね50%以上であることが報告され6)~8),比較的予後が期待できる集団と考えられる。

術前検査において同一肺葉内転移が疑われる症例において,手術の結果その結節が転移でない場合も認められ9),正確な診断のためにも手術が勧められる。また,多発癌との鑑別が困難なこともあり,リンパ節転移のない症例においては,手術を行うよう勧められる。なお,リンパ節転移を有すると考えられる症例,特に術前検査にて組織学的N2 と判明した症例については,その予後不良が予測されることより,手術単独療法は施行すべきではない。

以上より,同一肺葉内結節で転移(PM1)もしくは多発肺癌を疑うcN0 症例においては,手術を行うよう推奨する。エビデンスの強さはD,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2020 年

引用文献

1)
Detterbeck FC, Bolejack V, Arenberg DA, et al. The IASLC Lung Cancer Staging Project: Background Data and Proposals for the Classification of Lung Cancer with Separate Tumor Nodules in the Forthcoming Eighth Edition of the TNM Classification for Lung Cancer. J Thorac Oncol. 2016; 11(5): 681-92.
2)
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Okumura T, Asamura H, Suzuki K, et al. Intrapulmonary metastasis of non-small cell lung cancer: a prognostic assessment. J Thorac Cardiovasc Surg. 2001; 122(1): 24-8.
4)
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5)
Ou SH, Zell JA. Validation study of the proposed IASLC staging revisions of the T4 and M non-small cell lung cancer descriptors using data from 23,583 patients in the California Cancer Registry. J Thorac Oncol. 2008; 3(3): 216-27.
6)
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7)
William WN Jr, Lin HY, Lee JJ, et al. Revisiting stage ⅢB and Ⅳ non-small cell lung cancer: analysis of the surveillance, epidemiology, and end results data. Chest. 2009; 136(3): 701-9.
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Okamoto T, Iwata T, Mizobuchi T, et al. Surgical treatment for non-small cell lung cancer with ipsilateral pulmonary metastases. Surg Today. 2013; 43(10): 1123-8.
9)
Detterbeck FC, Franklin WA, Nicholson AG, et al. The IASLC Lung Cancer Staging Project: Background Data and Proposed Criteria to Distinguish Separate Primary Lung Cancers from Metastatic Foci in Patients with Two Lung Tumors in the Forthcoming Eighth Edition of the TNM Classification for Lung Cancer. J Thorac Oncol. 2016; 11(5): 651-65.

1-6
他肺葉内結節

CQ14
他肺葉内結節で,多発原発性肺癌を疑う症例において,手術を行うべきか?

エビデンスの強さD
他肺葉内結節で,多発原発性肺癌を疑う症例においては,手術を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:78%〕

解説

多発原発性肺癌と肺内転移の鑑別診断基準には,多くの論文においてMartini and Melamed の基準が用いられている1)。多発原発性肺癌を疑う症例においては,複数の後方視的研究で,5 年生存率が23.4~75.6%と外科治療が良好な成績を得たとの報告もある2)~6)。また,縦隔リンパ節転移がない症例については,5 年生存率が29~69.6%と比較的良好な成績の報告もある3)7)8)。しかしながら,術前診断において特に同じ組織型の場合には,転移との鑑別は必ずしも容易ではない。近年の遺伝子診断技術の向上により,臨床的鑑別診断に加え9)10),分子生物学的診断によるclonality の評価がなされつつあるが,確立するには至っていない11)~14)

以上より,他肺葉内結節で,多発原発性肺癌を疑う症例においては,手術を行うよう提案する。エビデンスの強さはD,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2020 年

CQ15
他肺葉内結節で,肺内転移(PM2,3)を疑う症例において,手術を行うべきか?

エビデンスの強さD
肺内転移(PM2,3)を疑う症例においては,手術を行わないよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:89%〕

解説

肺癌登録合同委員会で登録された1994 年の非小細胞肺癌6,525 例(ver. 6)のうち,他肺葉転移(PM2)128 例の5 年生存率は22.5%で,PM2 を除いたM1 症例の5 年生存率は20.5%であり,PM2 症例と有意差は認められなかった(P=0.434)15)。また,その他の報告においても,他肺葉の肺内転移(PM2,3)の症例に対する切除成績は,PM1 に比較し予後不良である報告が多く16)~19),手術を勧める科学的根拠は明確でない。

以上より,肺内転移(PM2,3)を疑う症例においては,手術を行わないよう提案する。エビデンスの強さはD,また総合的評価では行わないよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2020 年

引用文献

1)
Martini N, Melamed MR. Multiple primary lung cancers. J Thorac Cardiovasc Surg. 1975; 70(4): 606-12.
2)
Riquet M, Cazes A, Pfeuty K, et al. Multiple lung cancers prognosis: what about histology? Ann Thorac Surg. 2008; 86(3): 921-6.
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4)
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5)
Leventakos K, Peikert T, Midthun DE, et al. Management of Multifocal Lung Cancer: Results of a Survey. J Thorac Oncol. 2017; 12(9): 1398-402.
6)
Chen K, Chen W, Cai J, et al. Favorable prognosis and high discrepancy of genetic features in surgical patients with multiple primary lung cancers. J Thorac Cardiovasc Surg. 2018; 155(1): 371-79.e1.
7)
Fabian T, Bryant AS, Mouhlas AL, et al. Survival after resection of synchronous non-small cell lung cancer. J Thorac Cardiovasc Surg. 2011; 142(3): 547-53.
8)
Shah AA, Barfield ME, Kelsey CR, et al. Outcomes after surgical management of synchronous bilateral primary lung cancers. Ann Thorac Surg. 2012; 93(4): 1055-60.
9)
Detterbeck FC, Nicholson AG, Franklin WA, et al. The IASLC Lung Cancer Staging Project: Summary of Proposals for Revisions of the Classification of Lung Cancers with Multiple Pulmonary Sites of Involvement in the Forthcoming Eighth Edition of the TNM Classification. J Thorac Oncol. 2016; 11(5): 639-50.
10)
Detterbeck FC, Marom EM, Arenberg DA, et al. The IASLC Lung Cancer Staging Project: Background Data and Proposals for the Application of TNM Staging Rules to Lung Cancer Presenting as Multiple Nodules with Ground Glass or Lepidic Features or a Pneumonic Type of Involvement in the Forthcoming Eighth Edition of the TNM Classification. J Thorac Oncol. 2016; 11(5): 666-80.
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Chang YL, Wu CT, Lin SC, et al. Clonality and prognostic implications of p53 and epidermal growth factor receptor somatic aberrations in multiple primary lung cancers. Clin Cancer Res. 2007; 13(1): 52-8.
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14)
Detterbeck FC, Franklin WA, Nicholson AG, et al. The IASLC Lung Cancer Staging Project: Background Data and Proposed Criteria to Distinguish Separate Primary Lung Cancers from Metastatic Foci in Patients with Two Lung Tumors in the Forthcoming Eighth Edition of the TNM Classification for Lung Cancer. J Thorac Oncol. 2016; 11(5): 651-65.
15)
Nagai K, Sohara Y, Tsuchiya R, et al. Prognosis of resected non-small cell lung cancer patients with intrapulmonary metastases. J Thorac Oncol. 2007; 2(4): 282-6.
16)
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17)
Okumura T, Asamura H, Suzuki K, et al. Intrapulmonary metastasis of non-small cell lung cancer: a prognostic assessment. J Thorac Cardiovasc Surg. 2001; 122(1): 24-8.
18)
Zell JA, Ou SH, Ziogas A, et al. Survival improvements for advanced stage nonbronchioloalveolar carcinoma-type nonsmall cell lung cancer cases with ipsilateral intrapulmonary nodules. Cancer. 2008; 112(1): 136-43.
19)
Detterbeck FC, Bolejack V, Arenberg DA, et al. The IASLC Lung Cancer Staging Project: Background Data and Proposals for the Classification of Lung Cancer with Separate Tumor Nodules in the Forthcoming Eighth Edition of the TNM Classification for Lung Cancer. J Thorac Oncol. 2016; 11(5): 681-92.

1-7
異時性多発癌

CQ16
異時性多発肺癌に対しては,耐術能があれば外科治療を行ってもよいか?

エビデンスの強さD
異時性多発肺癌に対しては,耐術能があれば外科治療を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:89%〕

解説

異時性多発肺癌に対する治療では,外科治療で良好な成績を得たとの報告が多い1)~8)。5 年生存率は一次癌から60.9~79%,二次癌から33.4~46%であり1)8),手術関連死は1.4~7.0%5)8)であった。肺切除法としては,肺機能が許せば肺葉切除が良好であったとの報告があり,5 年生存率は肺葉切除,縮小手術,肺全摘術において,それぞれ57.5,36,20%であった4)。一方,縮小手術でも同等の成績を示したとの報告がある1)3)7)9)。肺全摘術に関しては,予後不良因子であったとの報告4)5)と他の切除法と同等であったとの報告2)とがある。再発肺内転移との鑑別診断に関しては,同一組織型であっても遺伝子分析にて可能であったとの報告10)~13)もあり,今後さらに臨床応用されることが期待される。耐術能がない異時性多発肺癌患者に対しては,体幹部定位放射線治療(SBRT)により,重篤な有害事象を発症することなく,2 年生存率68.1%14),3 年生存率62%15)と良好な成績を得たとの報告もある。

以上より,異時性多発肺癌に対しては,耐術能があれば外科治療を行うよう推奨する。エビデンスの強さはD,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2020 年

引用文献

1)
Battafarano RJ, Force SD, Meyers BF, et al. Benefits of resection for metachronous lung cancer. J Thorac Cardiovasc Surg. 2004; 127(3): 836-42.
2)
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1-8
臨床病期Ⅰ期非小細胞癌に対する胸腔鏡補助下肺葉切除,ロボット支援下肺葉切除

CQ17
臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌に対して,胸腔鏡補助下肺葉切除を行ってもよいか?

エビデンスの強さB
胸腔鏡補助下肺葉切除を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:67%〕

解説

胸腔鏡補助下手術(video-assisted thoracic surgery;VATS)の定義には様々な解釈がある。本項ではアプローチ手技を問わず胸腔鏡を用い肺葉切除したものをVATS 肺葉切除術として取り扱った。臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌に対するVATS 肺葉切除術については,3 つのランダム化比較試験が報告されている。1 つは臨床病期Ⅰ期の非小細胞肺癌55 例についてランダムに割り付けを行い,標準開胸肺葉切除(n=30),またはVATS 肺葉切除(n=25)を比較したものであるが,手術時間,出血量,ドレーン留置期間,在院日数,術後疼痛に関しては両群間で有意差はなかった1)。2 つ目は臨床病期ⅠA 期非小細胞肺癌100 例を標準開胸肺葉切除(n=52)とVATS 肺葉切除(n=48)に分けて比較したところ,郭清リンパ節個数,リンパ節転移頻度,再発率,5 年全生存率では両群間に差を認めなかったとの報告である2)。3 つ目は,対象が臨床病期Ⅰ,Ⅱ期,周術期の解析ではあるが,多施設前向きランダム化非劣性比較試験である。VATS 群215 例と開胸群210 例を比較し,手術時間と出血量においてVATS 群のほうが有意に優れていた3)。前2 つのランダム化比較試験を含むメタアナリシスの結果が報告され,VATS と開胸手術では手術時間,出血量,ドレーン留置期間,在院日数,肺瘻の遷延,不整脈,肺炎,手術死亡,局所再発の頻度に有意な差はなかった4)。しかしながら,VATS 群のほうが有意に遠隔転移が少なく5 年生存率も良好であったため,早期非小細胞肺癌患者に対してVATS による肺葉切除術は適切な手技であると結論付けた。また別のメタアナリシスではⅠ期非小細胞肺癌の手術例においてはVATS 群は開胸群と比較して5 年生存率でより長い予後,少ない合併症であることが判明し,VATS は早期肺癌に対する治療として効果的で安全なアプローチであると結論された5)。一方で,長期予後に対してVATS 手術は開胸手術と差がなかったというメタアナリシスの報告もある6)。さらに臨床病期Ⅰ期以外の病期も含んだ別のメタアナリシスでも同様に,術後合併症率やドレーン留置期間,入院期間,術中出血量においてVATS 群は優れていたが,手術時間は長い傾向がみられていた7)

低肺機能の患者の肺葉切除における術後急性期の安全性について検討したメタアナリシスによると,術後30 日死亡や術後合併症発症率は両群で同等であったが,VATS 群で有意に肺合併症が少なかった8)

サンプル例は66 例と少ないが,肺葉切除における系統的リンパ節郭清について開胸とVATS を比較したランダム化比較試験が報告されている9)。2008~11 年に単一施設で臨床Ⅰ期非小細胞肺癌の系統的リンパ節郭清を行い,郭清個数は差がなかったが,手術時間はVATS 187 分,開胸158 分と手術時間はVATS で有意に長かった。これにより縦隔郭清は開胸と同じくVATS でも十分行うことができ,視野はむしろVATS のほうが良好である。術後疼痛とQOL に関してVATS と開胸を比較したランダム化比較試験がLancet Oncology に報告されている10)。臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌における葉切除でVATS 群(102 例)は開胸群(99 例)と比較して術後疼痛が少なく,QOL も良いことが示された。

VATS 手術における術中の重篤な合併症に関して報告がある。ヨーロッパの6 つのセンターでの前方視的研究では3,076 例のVATS 肺切除症例を解析した11)。術死3 例,在院死43 例(1.4%)で,重篤な合併症は46 例(1.5%)認め,気管支血管を誤って切離,消化管損傷,中枢気道損傷,追加の手術を要するような合併症,生命に危険が及ぶ合併症などであった。在院死の23%は術中の重篤な合併症に関連していた。VATS から開胸へのconversion は5.5%(170 例)に認め,その理由としては腫瘍学的(22%),手技的(30%),合併症(49%)であった。血管損傷は2.9%(88 例)あり,そのうち70 例がconversion した。Washington 大学からの報告では2004~12 年の肺癌肺葉切除症例1,227 例のうち,VATS 完遂群517 例(42%),VATS から開胸した群(conversion)87 例(7%),開胸群623 例(51%)となり,3 群間で比較した12)。Conversion の原因は出血(25%),癒着/腫瘍(64%),リンパ節(9%)であった。また韓国からのVATS lobectomy 施行中の予期せぬconversion を要した症例の検討では,conversion の原因はリンパ節の固着(28%),血管損傷(20%),腫瘍の浸潤(11%)であった13)。Conversion を要した69 例とVATS 例を1:3 で割り付けし2 群間を比較,術後合併症や在院死亡に差はなかったが,呼吸器合併症はconversion 群で多く認めた。これらの報告からVATS 手術中に腫瘍学的または手技的に困難であれば開胸へのconversion は躊躇せず,速やかに行うべきである。

臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌に対するVATS 肺葉切除術について混乱を生じているのは,VATS アプローチの定義自体が曖昧な点である。そのアプローチにはモニター視のみの完全鏡視下と,直視を併用するもの,いわゆるHybrid VATS がある14)。皮切長,皮切の数,肋間開大(開胸器併用)の有無など様々な方法が施設毎に採用され,完全鏡視下であっても手術の質向上のために直視下触診を用いるものもある。その手術成績などについては,その区別なく論じられている場合がほとんどである。さらにVATS が開胸手術に比較して,予後,侵襲性,安全性に関して,同等ないし優れていると肯定的な研究は多いものの,これらの報告の多くは単施設の後方視的な解析に基づくものであり,十分な症例数を有したランダム化比較試験はなく,確定的な結論は出ていない。VATS アプローチの定義が難しいため,今後も大規模なランダム化比較試験の実施は困難であると予想される。2017 年の日本胸部外科学会年次調査結果によれば,肺癌に対する31,584 例の全肺葉切除術の約70%,21,992 例にVATS 肺葉切除術が施行されている15)。このように臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌に対するVATS 肺葉切除術は,実地医療の場ではランダム化比較試験を経ずに頻用されている。

以上より,臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌に対して胸腔鏡補助下肺葉切除を行うよう提案する。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2020 年

CQ18
臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌に対して,ロボット支援下肺葉切除を行ってもよいか?

臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌に対して,ロボット支援下肺葉切除を推奨するだけの根拠が明確ではない。

〔推奨度決定不能〕

解説

肺癌に対するロボット支援手術(robot-assisted thoracoscopic surgery;RATS)は2002 年の報告に始まり,欧米を中心に広がってきた。本邦では2011 年に最初の手術が報告された。胸腔鏡補助下手術(VATS)が本ガイドラインで推奨度2B となっている(CQ17)中で,RATS は3 次元視野と精緻操作によりVATS の弱点を補う新技術として期待されている。しかしながら,RATS の有用性を示すための前向き研究は現在進行中で,未だに明らかなエビデンスは得られていない。多くの後方視的な研究がなされる中で,VATS と比較した大規模試験のメタアナリシスをまとめると,根治性,安全性,長期予後には差がなく,操作性,ラーニングカーブではRATS に分がある1)~8)。しかしながら,利用できる器具が限られていることや手術時間が長いこと,コストがかかることがRATS のマイナス要素である1)~9)

手術手技としては,肺葉切除のみならず,小型肺癌に対する区域切除10),肺門部肺癌に対する気管支形成11),進行肺癌に対する術前治療後の手術12)などの複雑な手技への応用も報告されている。RATS のメリットを考えた場合には,その優れた操作性からリンパ節郭清への有用性が期待されているが,未だ定まった見解はない。長期成績はまだ症例数や観察期間が十分とはいえないが,開胸,VATS,RATS において有意差のない予後が報告されている13)

一方で,安全性については,RATS では術中の医原性合併症の発生率が高いことも報告されている14)15)。したがって,RATS のピットフォールやトラブルシュートをよく熟知し,緊急時の対処法を平時から麻酔科医を含めてチームで話し合っておくことが大切と考えられる。

以上より,臨床病期Ⅰ期非小細胞肺癌に対してロボット支援下肺葉切除を推奨するだけの明らかな根拠は乏しい。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2020 年

引用文献

胸腔鏡補助下肺葉切除
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1-9
外科切除後の経過観察,術後患者の禁煙

CQ19
外科切除後の非小細胞肺癌に対しては,定期的な経過観察を行うべきか?

エビデンスの強さC
外科切除後の非小細胞肺癌に対しては定期的な経過観察を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

肺癌術後経過観察は科学的根拠に則り,経済的影響を十分に考慮しながら行う必要がある。しかし臨床研究の結果に乏しく科学的根拠に基づいた観察法は示されていない。

肺癌術後の予後は経過観察法,すなわちintensive に経過を追うかどうかによっては改善されないとの報告がなされている1)2)。McMurry らの2018 年の論文では,大規模データベースをもとに,病理病期ⅠからⅢ期非小細胞肺癌切除例4,463 例を3 カ月毎,6 カ月毎,1 年毎の3 群に分け,リスク調整後,後方視的に解析しているが,これら3 群間で全生存率に有意差はみられなかった1)。また,Subramanian らの2019 年の同様の論文では,病理病期Ⅰ期非小細胞肺癌切除例2,442 例を,high intensity(3 カ月),moderate intensity(6 カ月),low intensity(1 年)の3 群に分けて,後方視的解析を行うも,その予後にはやはり有意差を認めなかった2)。一方でintensive に経過観察した場合,生存率が改善するとの報告3)やintensive な経過観察により他疾患の治療が容易になるとの報告もある。しかし無症状症例に積極的なスクリーニングを行うのは,費用対効果の面からも考える必要がある。早期の非小細胞肺癌に対する経過観察間隔に関してはESMO のガイドラインでは,前向きなエビデンスレベルの高い臨床試験はみられないとしながらも,2 年までの半年毎の受診(問診・診察)と12 カ月,24 カ月時点での造影胸部CT 撮影を推奨している。そして,局所再発が起こりやすい術後2 年以内は6 カ月毎,それ以降は年1 回の受診を推奨している4)

明確に推奨する根拠はないものの術後経過観察は日常診療としてなされ,患者のニーズが明確に存在する。また受診による術後合併症の発見,患者の状態の把握,精神的支援などの側面もある。さらに異時多発癌は病理病期Ⅰ期においても1.99/100 人年で発生し,切除例の予後は非切除例より良好であった(P=0.003)との報告5)があり,この点も考慮する必要がある。経過観察期間に関しては5 年以降では再発は減少6)し,予後は良好7)との報告がある一方で,すりガラス陰影を呈する肺癌でも5 年以降に再発したとの報告8)もあり,今後の検討を要する。

CT については海外の複数のガイドラインではCT を推奨しており4)9)10),経過観察には低線量らせんCT が有用との報告11)や,半年毎に胸部CT を行った群の予後が良好であったとの報告12)があるが,術後経過観察における術後CT の予後に対する影響は明らかではない。PET についても術後再発の検出に有用か否か検討が不十分であり13),また延命効果が示されていないことからESMO のガイドラインではむしろ推奨しないとされている4)

以上より,外科切除後の非小細胞肺癌に対しては定期的な経過観察を行うよう推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2020 年

CQ20
非小細胞肺癌術後の患者は,禁煙を行うべきか?

エビデンスの強さC
非小細胞肺癌術後の患者に対しては,禁煙を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

本ガイドラインの中で数少ない喫煙・禁煙と肺癌の関係を対象としたCQ であるので,喫煙・禁煙に関係する一般的事項に考察を加えながら課題のCQ に答えるようにする。

胃癌とピロリ菌,肝臓癌と肝炎ウイルス,子宮頸癌とヒトパピローマウイルスなどと同様に肺癌も喫煙との因果関係が明らかになっている14)~16)が,あまりにも明らかであるがため逆にランダム化比較試験のようなエビデンスの質の高い報告はみられず,また今後もそのような報告が出てくる可能性もないと考えられる。

肺癌を予防するためには,たばこを吸わないことが最も効果的である。たばこの煙の中には多環芳香族炭化水素類やニトロソアミン類をはじめとする約70 種類の発癌物質が含まれており,これらの発癌物質はDNA 損傷など癌発生メカニズムの様々な段階に関与する。厚生労働省の「喫煙の健康影響に関する検討会(2016 年)」の報告17)では喫煙と疾患の因果関係を以下の4 レベルに分類している。すなわち「レベル1:科学的証拠は因果関係を推定するのに十分である」,「レベル2:科学的証拠は因果関係を示唆しているが十分ではない」,「レベル3:科学的証拠は因果関係の有無を推定するのに不十分である」,「レベル4:科学的証拠は因果関係がないことを示唆している」である。肺癌は従来の疫学的・中毒学的データに加え,分子レベル・細胞レベルでの研究で機序面での基礎が揃ったことからレベル1 に分類されている14)17)

多くの疫学研究で一貫して喫煙は癌患者の全死因死亡リスクを上昇させると報告されており,米国Surgeon General Report15)は「科学的証拠は癌患者における喫煙と全死因死亡との因果関係を推定するのに十分である」と結論付けている。60 歳以上を対象としたシステマティックレビューでは,非喫煙者に対する統合相対死亡リスクは,喫煙者で1.83(95%CI:1.65-2.03),過去喫煙者で1.34(95%CI:1.28-1.40)と算出された18)。本邦における評価も同様にレベル1 である。

喫煙と肺癌の各種治療効果・治療毒性との関係に関してはレベル2(科学的証拠は因果関係を示唆しているが十分ではない)とされている17)が,放射線治療・薬物治療や手術に際して喫煙継続群では禁煙群より有意に合併症が増加したとする報告19)や治療効果が低下したとする報告がみられる20)。またGemine らの2019 年の論文では,非小細胞肺癌の診断時の喫煙状態と予後との相関について多施設前向きのコホート研究で1,124 例を解析している。リスク調整後の解析で,診断後に禁煙を行った群と喫煙を継続した群では,有意差はみられなかったものの,死亡率の低下がみられており,禁煙は臨床的に重要だとしている21)。VATS の術後合併症に限定しても,前向き観察研究による多変量解析にて,喫煙が独立したリスク因子であることが示されている19)

術後再発に関しても同様にレベル2 に分類されている17)。喫煙と再発に有意な関係はなかったとする報告もあるが,肺癌術後の患者を喫煙群と禁煙群にランダムに分けることは倫理的にも実施困難であり,必然的にレベルの高い結果は得られていない。しかし,喫煙と二次癌の発生に関してはレベル1(科学的根拠は因果関係を推定するのに十分である)に分類されており17)22)23),喫煙が本人だけでなく周りの人にも伏流煙(フィルターを通しておらず主流煙よりも多くの有害物質を含んでいる)による健康被害を惹起する事実から,肺癌術後の禁煙は強く推奨されるべきものといえる。

以上より,非小細胞肺癌術後の患者に対しては,禁煙を行うよう推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2020 年

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1-10
低悪性度肺腫瘍

CQ21
切除可能な低悪性度腫瘍(カルチノイド,粘表皮癌,腺様嚢胞癌)は,非小細胞肺癌に準じた外科治療を行うべきか?

エビデンスの強さC
切除可能な低悪性度腫瘍(カルチノイド,粘表皮癌,腺様嚢胞癌)に対しては,非小細胞肺癌に準じた外科治療を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

カルチノイドについてはIASLC のデータベースから集積した4,645 例の手術症例で,定型カルチノイド10 年生存率で病理病期ⅠA1/97.7%,ⅠA2/97.1%,ⅠA3/96.1%,ⅠB/94.1%,ⅡA/84.7%,ⅡB/85.7%,ⅢA/85.3%,ⅢB+C/48.8%,Ⅳ/58.8%,非定型カルチノイド10 年生存率でⅠA1/81.0%,ⅠA2/84.7%,ⅠA3/84.7%,ⅠB/65.5%,ⅡA/87.5%,ⅡB/73.0%,ⅢA/57.7%,ⅢB+C/24.0%,Ⅳ/18.5%でカルチノイドに比し非定型カルチノイドの予後は不良であった1)。術式については,1973~2006 年までに集積した3,478 例の後方視的研究で中間生存期間は,肺葉切除以上群で84 カ月,縮小手術群で67 カ月で,propensity score を用いた解析では定型的カルチノイドであれば縮小手術も許容できるとの報告もある2)。また2000~7 年までの3,270 例の解析によれば,定型的カルチノイド3,084 例,非定型カルチノイド186 例に対し肺葉切除1,669 例,縮小手術784 例が行われ,多変量解析で疾患特異的生存において縮小手術は肺葉切除に対して非劣性が示された3)。カルチノイドにおける縮小手術の有用性を示す前方視的研究はない。

Filosso らによると,1 期定型カルチノイド切除例876 例の後方視的観察研究にて,5 年生存率94.3%,Propensitcy score matching 後の比較では,葉切除群は,楔状切除群よりも予後良好であった(HR 2.01,p=0.024)4)

非定型カルチノイドのみを集積した検討では,浸潤性が高いため標準切除とリンパ節郭清が重要とする報告や5)~7),335 例の手術で3 年生存率までは肺葉切除と縮小手術との差がない一方で,放射線照射は死亡率が高いとする報告もあり8),手術が一般的に推奨されている。

最近のSEER データベースでは,生検でカルチノイドとされたN0 症例4,110 例において,全5 年生存率が肺葉切除で93%,縮小手術で92%,非切除で69%,疾患特異的生存率は肺葉切除で97%,縮小手術で98%,非切除で88%であった。非切除群の疾患特異的生存率も良かったため,高リスク患者では,無症状例の経過観察や,中枢発生有症状例の気管支鏡処置は考慮してよいと報告されている9)。気管支カルチノイドでは112 例の初回経気管支鏡的処置例(全例観察期間5 年以上)において,42%の患者が再発を認めず手術を回避し得たとの報告がある10)

粘表皮癌は肺癌全体の0.1~0.2%を占める稀な腫瘍である。組織学的に低悪性度腫瘍,高悪性度腫瘍に分類される11)。一般的に低悪性度のものは予後良好で,高悪性度のものは予後不良とされている。Qin らは,1988~2013 年までのSEER データベースから315 例の粘表皮癌,139 例の腺様嚢胞癌を含む462 例の唾液腺様原発性肺癌について5 年生存率は63.4%,病期別には,Ⅰ期87.5%,Ⅱ期66.6%,Ⅲ期52.5%,Ⅳ期7.3%と示されている。手術は非手術例よりも成績が良好であったが,放射線治療では差がみられなかったと報告している12)。Resio らは,2004~2014 年のSEER データベースから699 例の粘表皮癌,424 例の腺様嚢胞癌を解析し,5 年生存率は,粘表皮癌が88.2%,腺様嚢胞癌が89.9%と報告している。切除例の多変量解析により,粘表皮癌では,高悪性度,4 cm 以上の腫瘍サイズ,楔状切除が,腺様嚢胞癌では,不完全切除,遠隔転移が独立した予後悪化因子と報告されている13)

腺様嚢胞癌は完全切除での5 年生存率が73~91%と報告され14)~16),後方視的研究ではあるが手術例は非切除例よりも良好な成績で報告されている。

Wang らは,163 例の手術例を含む191 例の腺様嚢胞癌症例において,切除例の5 年生存率が85.0%に対して非切除例では63.7%であった。多変量解析において,完全切除,断端陽性例に対する術後照射,術後再発に対する局所療法が良好な予後と関連する16)

以上より,切除可能な低悪性度腫瘍(カルチノイド,粘表皮癌,腺様嚢胞癌)に対しては,非小細胞肺癌に準じた外科治療を行うよう推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会/実施年度:2020 年

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光線力学的治療法

CQ22
中心型早期肺癌に光線力学的治療法(PDT)は勧められるか?

エビデンスの強さC
中心型早期肺癌の中で,腫瘍全体にレーザー照射が可能な長径1.0 cm 以下の病巣を対象に行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:64%〕

解説

光線力学的治療法(photodynamic therapy:PDT)は従来,主に耐術能のない症例に対し探索的に行われていたが,中心型早期肺癌に対する良好な成績を評価され,本邦ではポルフィマーナトリウムとエキシマ・ダイ・レーザーを用いた第一世代のPDT が1996 年に,タラポルフィンナトリウムと小型のダイオードレーザーを用いた第二世代のPDT が2004 年に保険収載されている。欧米のガイドラインにおいても腫瘍径1.0 cm 以下の中心型早期肺癌に対してPDT が推奨されている1)~4)。内視鏡的に腫瘍の全範囲を確認し得る(レーザー照射可能である)ことが前提であり,特に腫瘍径1.0 cm 以下の症例に対する完全寛解率は83~100%と極めて良好である5)~16)

局所再発率は,8.5~33.3%と報告されているが6)8)11)12)15)16),腫瘍の末梢側が内視鏡で確認不十分な症例や腫瘍径が大きくなるほど治療後の局所再発率は増加する。また,レーザー光が気管支軟骨で遮断されることにより,適応が軟骨を超えない病巣までとされているため,注意深い適応選択が必要である3)5)10)14)

腫瘍親和性物質の副作用として日光過敏症があるので,第一世代のポルフィマーナトリウムでは,少なくとも投与後2 週間程度は直射日光を避ける必要があったが5)6)9)13)15)17)18),第二世代のタラポルフィンナトリウムは代謝が早く日光過敏症の心配が少ない7)14)。前向き臨床第Ⅱ相試験において,ポルフィマーナトリウムおよびタラポルフィンナトリウムの日光過敏症の合併率は,各々Grade 1 が28.8%,5.0%,Grade 2 が1.9%,0%と報告されている6)16)。PDT によるその他の合併症は少ないが,肺炎や無気肺を予防する目的のため治療部位の壊死物質を複数回の気管支鏡により除去することが必要である。ポルフィマーナトリウムに比べてタラポルフィンナトリウムでは壊死物質が少ないため,気管支鏡施行回数は少なくてよいとされる14)

PDT 後の5 年生存率は72~81%と良好であり10)12)13)15),心肺機能の低下した手術困難例では,他病死を含めると57.9%との報告もある16)。侵襲も手術に比べはるかに軽微であるため,患者のQOL に明らかに寄与する。また,多発肺癌に対してPDT と手術の併用が有用との報告もある11)。手術可能症例を対照とした検討で,PDT が手術の代替療法になり得る可能性があるとの報告もあるが8)12),PDT と手術療法を比較するRCT を行い非劣性や有意性を示すことは早期癌の特性からも困難であるため,ランダム化比較試験の報告は存在しない。ただ,多くの観察研究においてはPDT に肯定的なものがほとんどであり,有効性を示す十分な症例数を有していると思われる。今後は他の局所療法である気管支鏡下治療法との比較などによりPDT の有用性を客観的に立証するエビデンスの質の高い臨床研究の実施が期待される。

以上より,中心型早期肺癌,特に腫瘍径1.0 cm 以下に対してはPDT を推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:気管支鏡委員会/実施年度:2018 年

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放射線治療基本的事項

総論
放射線治療における基本的事項の推奨にあたって

解説

肺癌における放射線治療の役割は,根治目的,術前術後照射,再発転移に対する緩和照射など多岐にわたる。いずれの場合にも,放射線治療の精度・品質管理が重要であることはいうまでもなく,近年発展している強度変調放射線治療(IMRT)や定位放射線治療(SRT),画像誘導放射線治療(IGRT)などの高精度治療における,それらの重要性は特に高い。また,肺においては呼吸性の動きがあることから,その対策も必要である。このように,本項は,放射線治療を施行するうえで基本となる事項であるため,従来は推奨の強さや引用文献のエビデンスの強さは記載しないこととしてきた。しかし,今回の改訂からは,放射線治療計画法(CQ23-1),呼吸性移動対策(CQ23-2),品質管理(CQ24)に関するCQ に関して,他の項と同様にGRADE 記載とした。また,今回の改訂では,X 線の至適エネルギーがその物理的特性から6~10MV が推奨されること,ただし,定位放射線照射の場合には4~6MV X 線が望ましいこと,および線量計算では不均一補正を行うアルゴリズムを用いることが推奨されることについては,広く普及したと考えられるためCQ とはしなかった。以下各CQ を要約する。

CQ23-1.肺癌胸部放射線治療計画はCT を用いた3次元治療計画を行うことが勧められるか?

少なくともCT を用いた3 次元治療計画を行い,3 次元的な線量分布図およびDVH を常に検討するよう勧められる。(推奨の強さ1,エビデンスの強さC)

CQ23-2.肺癌胸部放射線治療計画において,呼吸性移動対策を講じることが勧められるか?

胸部放射線治療計画において,腫瘍の呼吸による動きを評価し,その程度に応じた呼吸性移動対策を講じることを推奨する。(推奨の強さ1,エビデンスの強さC)

CQ24.放射線治療の品質管理は勧められるか?

放射線治療では,品質管理を適切に行うよう勧められる。(推奨の強さ1,エビデンスの強さC)

CQ23-1
肺癌胸部放射線治療計画はCTを用いた3次元治療計画を行うことが勧められるか?

エビデンスの強さC
少なくともCT を用いた3 次元治療計画を行い,3 次元的な線量分布図およびDVH を常に検討するよう勧められる。

〔推奨の強さ:1,合意率:94%〕

解説

CT シミュレーションを用いた3 次元治療計画により,標的体積の線量を低下させることなく正常肺と心臓の平均線量を有意に減少できることが示されており1)~3),さらに死亡リスクが低減されたことも報告されている4)。また,放射線治療単独例を主とした解析で,Grade 2(RTOG の基準)以上の放射線肺臓炎の発症リスクを低下させるには,V20 が40%を超えないようにすることが重要であると報告されている5)。また,化学療法併用例では,V20 が25~30%以下で放射線肺臓炎の発症リスクが低いと報告されている6)。さらに,V5 やMLD などのパラメーターと放射線肺臓炎の発生との相関についても報告されている7)~9)。根治目的の同時化学放射線療法の場合は,軽症の放射線肺臓炎発症は許容し重症肺炎の発症を軽減するためにV20≦35%を目標とする場合が多い。その他,放射線食道炎と関連する食道のパラメーター10)11),心毒性と相関する心臓のパラメーター12)などについても報告され,リスク評価における有用性が示唆されている。以上のことから放射線治療計画には,CT シミュレーションによる3 次元治療計画を用い,DVH による標的体積およびリスク臓器の線量評価13)を行うよう勧められる。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:放射線治療及び集学的治療小委員会/実施年度:2021 年

近年,IMRT も有力な治療として注目されている。IMRT は腫瘍やリスク臓器の形状に合わせた複雑な線量分布を作成できる高精度治療である。しかしその分布を実現するためには呼吸性移動対策や位置精度の確認が重要であり,また標的体積の周囲に低線量域が広がることで副作用がより多く出現する懸念がある。米国での局所進行肺癌に対する線量増加第Ⅲ相試験の二次解析においては,IMRT 治療症例はより進行例が多かったにもかかわらず有効性は3次元放射線治療症例と同等であり,Grade 3 以上の放射線肺臓炎の発症率は低かったと報告されている14)。カナダのがん登録症例の解析では,IMRT は少なくとも3 次元放射線治療の治療成績を下回らなかった15)。十分な品質管理体制に基づく慎重な導入が必要であるが,標的体積が大きい場合やリスク臓器に近接する場合といった,3 次元放射線治療では線量制約の遵守が難しい症例などでは検討してもよい。

CQ23-2
肺癌胸部放射線治療計画において,呼吸性移動対策を講じることが勧められるか?

エビデンスの強さC
胸部放射線治療計画において,腫瘍の呼吸による動きを評価し,その程度に応じた呼吸性移動対策を講じることを推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:61%〕

解説

肺腫瘍には呼吸性移動があるため,それを個別に評価せずに治療計画を行うと腫瘍に対する線量不足やリスク臓器に対する不要な線量増加をきたすおそれがある。4D-CT を用いて,呼吸性移動を加味し特定の位相で同期治療を行う治療計画と同期治療を行わない一律なマージン設定の治療計画を比較した研究では,同期治療を行う治療計画で標的体積の有意な減少とリスク臓器線量の有意な低下が得られた16)。また,息止めなどの呼吸性移動対策の有効性を検証した非ランダム化前向き比較試験では,呼吸性移動対策を施行した群で肺障害・食道炎が有意に低下した17)。腫瘍の呼吸性移動の評価および対策法としては透視確認・4D-CT などの画像確認,息止め,腹部圧迫,追尾,同期など種々の方法が開発されている18)。本邦のガイドラインも発刊されており,呼吸性移動対策を実施することで照射範囲の縮小やリスク臓器の線量低減が可能となり,有害事象発生率の低下が期待されると述べられている19)。このように呼吸性移動対策の重要性は高く,胸部放射線治療計画では,各施設において可能な方法で腫瘍の呼吸による動きを評価し,その程度に応じた呼吸性移動対策を講じることを推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:放射線治療及び集学的治療小委員会/実施年度:2021 年

さらに,治療直前や治療中に画像を取得し,日々の位置誤差を腫瘍や患者体表面・骨構造を基準に補正しながら正確に治療する技術(IGRT)が普及してきている。後方視的研究において,IGRT を用いることで腫瘍の局所制御率を高め,合併症発生率を低下させる可能性が報告されており20)21),本邦のガイドラインも発刊されている22)。以上より,治療にあたってはIGRT を用いて位置誤差を確認修正することも推奨する。

CQ24
放射線治療の品質管理は勧められるか?

エビデンスの強さC
放射線治療では,品質管理を適切に行うよう勧められる。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

放射線治療では,品質管理は重要である。本邦においては,2000 年前後に不十分な品質管理に起因する過剰照射や過少照射の報告が相次ぎ23),品質管理の重要性が再認識された。日本放射線腫瘍学会からも放射線治療を安全かつ効果的に行うための指針として「外部放射線治療におけるQA システムガイドライン」が2000 年に公表され,2016 年にアップデートされた24)

肺癌臨床試験においても品質管理・品質保証の重要性が複数報告されている。小細胞肺癌を対象にしたランダム化比較試験においてプロトコール違反症例の生存率は有意に不良であった25)。非小細胞肺癌を対象とした化学放射線療法のランダム化比較試験ではプロトコール違反が20%程度起こっており,品質管理モニターの必要性が示されている26)。同様の報告は他のグループからもなされ27)28),最近の放射線治療品質管理を全例に行った肺癌臨床試験においてもプロトコール違反の多い施設で成績不良であった29)

したがって,肺癌におけるすべての放射線治療では,治療関連装置の保守管理、照射野設定,線量計算などの品質管理を適切に行うよう勧められる。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

票者の所属委員会:放射線治療及び集学的治療小委員会/実施年度:2021 年

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周術期

総論
周術期における治療方針

解説

外科切除可能なⅠ-Ⅲ期非小細胞肺癌に対しては,外科切除に加えて,術前あるいは術後に化学療法または放射線療法を追加することで,治療成績のさらなる改善を目指す試みが検討されてきた。化学療法に関しては,外科治療単独に対して術前補助化学療法,術後補助化学療法を追加する意義が,それぞれ臨床試験により検証された。一方,放射線療法に関しては外科切除後の術後放射線療法の意義が検証された。また,縦隔リンパ節転移を有する切除可能なⅢA 期(N2)非小細胞肺癌に対しては,術前化学放射線療法後の外科切除の有用性を問う臨床試験が行われた。

これらの周術期の治療に関する推奨,治療方針決定に関しては,病期診断に関する評価が大きく関連している。術前治療に関する臨床試験は,主に画像診断による臨床病期(clinical stage)に基づいた集団を対象としており,一方,術後治療に関する臨床試験は,外科切除検体の病理学的評価による術後病理病期(pathological stage)に基づいた集団を対象として行われた結果であることを理解することが重要である。また,本ガイドラインにおける治療推奨は肺癌取扱い規約第8 版に準じている。しかし,周術期領域の臨床試験に関しては試験が実施された時期における病期分類に基づいており,第7 版以前の病期分類が採用されていることに留意されたい。

以下に,術前および術後化学療法(CQ2527~30),術前化学放射線療法(CQ26),術後照射(CQ3132)について解説する。

1)術前および術後化学療法:CQ25CQ27~30

1980 年代後半から2000 年代を中心に,外科切除単独に対して,それぞれ術前補助化学療法あるいは術後補助化学療法を追加する意義を検証する臨床試験が行われた1)~3)。術後補助化学療法のエビデンスが術前補助化学療法よりも早く確立したことから,術前補助化学療法の第Ⅲ相試験が早期中止され,エビデンスの質・量ともに術後補助化学療法のものと比較すると十分ではない。

臨床病期Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌で外科切除可能な患者には外科切除が勧められるため,臨床病期Ⅰ-Ⅱ期に対して外科切除に先行する術前補助化学療法は行わないよう勧められる(CQ25)。

術後補助化学療法については,術後病理病期Ⅰ期に対するテガフール・ウラシル配合剤療法(CQ2728),術後病理病期Ⅱ-ⅢA 期に対するシスプラチン併用療法(CQ29)が,それぞれ外科治療単独に対して生存の改善を示しエビデンスが確立されている2)3)。術後補助化学療法のこれらの薬剤選択に関して,術後病理病期の評価が重要であるが,特に肺癌取扱い規約第8 版ⅡA 期T2b(T 分類>4-5 cm)N0M0 に関しては,旧7 版ではⅠB 期の分類に相当する。第8 版ⅡA 期はテガフール・ウラシル配合剤療法,シスプラチン併用化学療法の術後補助化学療法の有用性を検証する臨床試験に関して,いずれにも対象となったサブセットである。なお,EGFR 遺伝子変異陽性非小細胞肺癌に対するEGFR チロシンキナーゼ阻害薬による術後補助化学療法は,全生存期間(OS)の延長が現時点で示されていないことなどから,現時点では推奨度決定不能と判断された(CQ30)。

2)術前化学放射線療法:CQ26

臨床病期ⅢA 期(N2)については,外科切除を行う意義を問う臨床試験が行われた4)~6)。なかでも同時化学放射線療法を対照として同時化学放射線療法後に外科切除を追加する意義を問う臨床試験では全体の生存率に改善が認められなかったものの,無再発生存率では外科切除を加えた群で改善を認めた4)。また肺葉切除が行われた群においては外科切除を加える意義があると報告された。また術前化学療法と術前化学放射線療法を比較した臨床試験では明らかな差を認めなかった7)8)。切除可能な臨床病期ⅢA 期(N2)に対しては,術前化学放射線療法を行うことを提案する(CQ26)。

3)術後放射線療法:CQ3132

外科切除後の術後放射線療法の意義については,メタアナリシスでの検証がなされている9)10)。術後病理病期Ⅰ-Ⅱ期に対する術後放射線療法はOS を増悪することが明確に示されており,行わないよう勧められる(CQ31)。術後病理病期Ⅲ期(N2)に対する術後放射線療法については,有望な可能性があるものの十分なエビデンスは得られていない(CQ32)。

引用文献

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4-1
術前治療

CQ25
臨床病期Ⅰ-ⅢA 期に対して,術前プラチナ製剤併用療法は勧められるか?

エビデンスの強さC
  1. a.臨床病期Ⅰ-Ⅱ期(第8版)に対して,術前プラチナ併用化学療法を行わないよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:74%〕

エビデンスの強さC
  1. b.臨床病期ⅢA 期(第8 版)に対して,術前プラチナ併用化学療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:65%〕

解説

  1. a. 術前補助化学療法については,臨床病期Ⅰ-ⅢA 期を対象としたメタアナリシスによって外科治療単独と比べ,OS を延長することが示されており1),薬物療法のレジメンはこれまで多くの試験でプラチナ製剤併用療法が採用されている。しかし,術後補助化学療法のエビデンスが術前補助化学療法よりも早く確立したことから,複数の術前補助化学療法の第Ⅲ相試験が早期中止され,エビデンスの質・量ともに術後補助化学療法のものと比較して十分ではない。また,CDDP+GEM 療法を用いた第Ⅲ相試験(ChEST 試験)における臨床病期ⅠB-ⅡA 期のサブグループ解析では,OS におけるHR 1.02(OS 中央値7.8 年vs 未到達,95%CI:0.58-1.19,P=0.94)と外科治療単独と比較して生存を延長しなかった2)。CBDCA+PTX 療法を用いた第Ⅲ相試験でも,DFS におけるHR 0.92(95%CI:0.81-1.04,P=0.176)と術前化学療法は外科治療単独と比較してDFS を延長しなかった3)。N2 が除外されたこの試験で有効性が示されなかったことから,N0/N1 の病期における術前化学療法の意義は乏しいと考えられ,臨床病期Ⅰ-Ⅱ期に対しての生存に対する有効性も低いと考えられる。現在,術後補助化学療法のエビデンスが確立しており,術前臨床病期診断に基づく術前化学療法よりも,術後病期診断に基づく術後補助化学療法が選択されるべきである。

    以上より,臨床病期Ⅰ-Ⅱ期(第8 版)に対しては,術前プラチナ併用化学療法を行わないよう推奨する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行わないよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  2. 投票者の所属委員会:外科療法小委員会・放射線治療及び集学的治療小委員会・薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年
  3. b. 前述のように術前補助化学療法について,臨床病期Ⅰ-ⅢA 期を対象としたメタアナリシスによって外科治療単独と比べ,OS を延長することが示されている1)。薬物療法のレジメンはこれまで多くの試験でプラチナ製剤併用療法が採用されており,化学療法の時期について,術前補助化学療法と術後補助化学療法を比較したメタアナリシスでは同等の有効性が示されている4)。しかし,術後補助化学療法のエビデンスが術前補助化学療法よりも早く確立したことから,術前補助化学療法の第Ⅲ相試験の多くが早期中止され,エビデンスの質・量ともに術後補助化学療法のものと比較して十分ではない。一方で,CDDP+GEM 療法を用いた第Ⅲ相試験における臨床病期ⅡB-ⅢA 期のサブグループ解析において,OS のHR は0.42(OS 中央値 未到達vs 2.1 年,95%CI:0.25-0.71,P<0.001)と,術前プラチナ併用化学療法は外科治療単独と比較してOS の延長を示した2)

    以上より,術後補助化学療法と比較して術前補助化学療法のエビデンスの質・量は十分ではないことに留意する必要があるものの,臨床病期ⅢA 期(第8 版)に対しては切除可能性を鑑み,術前プラチナ製剤併用療法を行うよう提案する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

    なお,臨床病期ⅢA 期(N2)(第8 版)については,同時化学放射線療法および外科切除後の術後病期診断に基づく術後補助化学療法のエビデンスが確立されていること,また術前化学放射線療法後の外科切除(CQ26 参照)の選択肢があることを踏まえて,治療選択を検討する必要がある。

  4. 投票者の所属委員会:外科療法小委員会・放射線治療及び集学的治療小委員会・薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

CQ26
切除可能な臨床病期ⅢA 期(N2)に対して,術前化学放射線療法は勧められるか?

エビデンスの強さC
切除可能な臨床病期ⅢA 期(N2)に対して,術前化学放射線療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:68%〕

解説

切除可能・病理学的に確認されたN2 例に対し,化学放射線療法と術前化学放射線療法後の外科切除を比較した第Ⅲ相試験(INT0139 試験)では,外科切除によるOS の延長は示されなかった5)。サブグループ解析では肺葉切除された症例で外科切除追加の有用性が示唆されているが,事後解析であるため解釈には注意が必要である。北米,欧州でも術前化学放射線療法を介入群とした複数のランダム化比較試験が報告されているが,いずれの試験も早期中止などにより検出力が十分ではなく,生存に対するベネフィットが示されなかった6)7)。本邦でも同様の対象について,術前化学療法と術前化学放射線療法を比較する第Ⅲ相試験が行われたものの,同様に症例集積が進まなかったため有効性を十分に評価できなかった8)

これらの結果より,肺葉切除可能かつ病理学的に確認されたN2 の臨床病期ⅢA 期に対して術前化学放射線療法の忍容性は示されている。また有効性に関するエビデンスの質が不十分であるものの,前述のように1 つの第Ⅲ相試験で切除可能性と有用性が示されている。

以上より,肺葉切除可能な臨床病期ⅢA 期(N2)に対しては,術前化学放射線療法を行うことを提案する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会・放射線治療及び集学的治療小委員会・薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

4-2
術後補助化学療法

CQ27
病変全体径>2 cm の術後病理病期ⅠA/ⅠB/ⅡA 期(第8 版)完全切除,腺癌症例に対して,テガフール・ウラシル配合剤療法は勧められるか?

エビデンスの強さA
病変全体径>2 cm の術後病理病期ⅠA/ⅠB/ⅡA 期(第8 版)完全切除,腺癌症例に対して,テガフール・ウラシル配合剤療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:85%〕

解説

Ⅰ-Ⅲ期を対象にCDDP+VDS+テガフール・ウラシル配合剤(UFT)とUFT,手術単独の3 群について比較試験が行われ,5 年生存率でUFT 群は64%と,手術単独群の49%と比し有意に良好であった9)。その後,Ⅰ期肺腺癌に対するUFT の効果を検討する第Ⅲ相試験が行われ,全体では3%(85%→88%),ⅠB 期(T>3 cm)においては11%(74%→85%)の上乗せ効果が認められた10)。これらに,4 つの臨床試験を加えて行われたメタアナリシス(2,003 症例;腺癌84%,非腺癌16%)の結果,全体で5%(77%→82%)の5 年生存率の改善を認め,UFT の有効性が確認された。組織型別にみると,腺癌においてHR 0.69(95%CI:0.56-0.85)に対し,扁平上皮癌においてはHR 0.82(95%CI:0.57-1.19)であった11)。TNM 分類の第7 版への改訂に伴い,腫瘍径が2 cm 以下の患者群と>2 cm かつ3 cm 以下の患者群に分けてサブグループ解析が実施され,腫瘍径>2 cm かつ3 cm 以下の患者群において6%(82%→88%)の5 年生存率の改善,HR 0.62(95%CI:0.42-0.90)と良好な結果を示した12)。なお,肺癌取扱い規約第8 版では,「病変全体径」とは高分解能CT によるすりガラス成分と充実成分を合わせた最大径を,「充実成分径」とは充実成分の最大径を表し,pT 分類では浸潤性増殖を示す部分の最大径を「充実成分径」に置き換えて分類を行う。しかし,上記の臨床試験におけるpT 分類は浸潤部分の最大径ではなく,非浸潤部分を含めた腫瘍径で評価されていることに留意する必要がある。これらの臨床試験の登録期間である1985~95 年には,高分化能CT の普及が一様ではなく,TNM 分類第8 版におけるT1mi のように,主に肺胞置換型増殖を示す症例の多くは臨床試験に組み入れられていないと考えられ,この群については術後補助化学療法の意義は不明である。なお,TNM 分類第8 版におけるⅡA 期は,第7 版以前の分類ではⅠ期またはⅠB 期に相当する。

以上より,病変全体径>2 cm の術後病理病期ⅠA/ⅠB/ⅡA 期(第8 版)の完全切除,腺癌症例に対してUFT 療法を行うよう勧められる。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。なお,術後病理病期Ⅰ期(腺癌)の完全切除例では手術単独でも74%が無再発であり,化学療法の安全性を十分考慮すべきである。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会・放射線治療及び集学的治療小委員会・薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

CQ28
病変全体径>2 cm の術後病理病期ⅠA/ⅠB/ⅡA 期(第8 版)完全切除,非腺癌症例に対して,テガフール・ウラシル配合剤療法は勧められるか?

エビデンスの強さC
病変全体径>2 cm の術後病理病期ⅠA/ⅠB/ⅡA 期(第8 版)完全切除,非腺癌症例に対してテガフール・ウラシル配合剤療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:100%〕

解説

Ⅰ-Ⅲ期を対象にCDDP+VDS+テガフール・ウラシル配合剤(UFT)とUFT,手術単独の3 群について比較試験が行われ,5 年生存率でUFT 群は64%と,手術単独群の49%と比し有意に良好であった9)。その後,他の臨床試験を加えて行われたメタアナリシス(2,003 症例;腺癌84%,非腺癌16%)の結果,全体で5%(77%→82%)の5 年生存率の改善を認め,UFT の有効性が確認された。組織型別にみると,腺癌においてHR 0.69(95%CI:0.56-0.85)に対し,扁平上皮癌においてはHR 0.82(95%CI:0.57-1.19)であった11)。TNM 分類の第7 版への改訂に伴い腫瘍径2 cm 以下の患者群と>2 cm かつ3 cm 以下の患者群に分けてサブグループ解析が実施され,腫瘍径>2 cm かつ3 cm 以下の患者群において6%(82%→88%)の5 年生存率の改善,HR 0.62(95%CI:0.42-0.90)と良好な結果を示した12)。しかしながら,扁平上皮癌患者に限定した解析ではHR 0.93(95%CI:0.38-2.27)であった12)。なお,TNM 分類第8 版におけるⅡA 期は,第7 版以前の分類ではⅠ期またはⅠB 期に相当する。

以上より,病変全体径>2 cm の術後病理病期ⅠA/ⅠB/ⅡA 期(第8 版)の完全切除,非腺癌症例に対してUFT 療法を行うよう勧められる。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。ただし,前述のように腺癌を中心としてUFT の有効性が証明されているが,非腺癌では検討症例数が少数であることなどから,そのエビデンスは十分とはいえない。また,非小細胞肺癌(非腺癌)の完全切除例で手術単独でも57.1%が無再発であり,化学療法の安全性を十分考慮すべきである。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会・放射線治療及び集学的治療小委員会・薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

CQ29
術後病理病期Ⅱ-ⅢA 期(第8 版)完全切除例に対して,シスプラチン併用化学療法は勧められるか?

エビデンスの強さA
術後病理病期Ⅱ-ⅢA 期(第8 版)完全切除例に対して,シスプラチン併用化学療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:95%〕

解説

これまで行われた複数の比較試験(IALT14),JBR.1015),ANITA16))で,CDDP 併用療法を術後補助化学療法として行うことでDFS および5 年生存率の向上が示されている。長期フォローアップの結果においても,術後5 年までの生存において術後補助化学療法の有用性が再確認されたが17)18),術後5 年を超えると非がん死亡が高まり,術後7 年ではその差が同等となることも示された17)。これらの比較試験に,新たに2 編(ALPI19),BLT20))を加えた5 つの比較試験について,4,584 症例の個々のデータに基づくメタアナリシスが行われた。その結果,術後生存に対するHR 0.89(95%CI:0.82-0.96)と,術後補助化学療法による有意な延命効果が示された。病期別のHR では,ⅠA期で1.40(95%CI:0.95-2.06),ⅠB 期で0.93(95%CI:0.78-1.10),Ⅱ期で0.83(95%CI:0.73-0.95),Ⅲ期で0.83(95%CI:0.72-0.94)という結果であった21)。サブグループ解析として,CDDP+VNR 療法に限ったメタアナリシスもなされ,HR は0.80(95%CI:0.70-0.91)で,手術単独に対するCDDP+VNR 療法の生存率向上は,Ⅱ期で43%が54%,Ⅲ期で25%が40%と,生存率向上効果が顕著であった22)。これまでの34 の臨床試験,8,447 症例を集めたメタアナリシスでも同様の結果が示された23)。これらのメタアナリシスに含まれるエビデンスはすべて国外からの報告であり,化学療法のレジメンや投与方法が本邦と異なるものが多く含まれている。なお,第8 版におけるⅡA 期は,第7 版以前の分類ではⅠ期またはⅠB 期に相当する。ⅡA(第8 版)の患者群は,JBR.10 のサブグループ解析でOS の延長を示した集団(腫瘍径4 cm 以上のⅠB 期)に含まれていた。

本邦では,完全切除非扁平上皮非小細胞肺癌Ⅱ-ⅢA 期(第7 版)を対象として,CDDP+VNR 療法とCDDP+PEM 療法を比較した第Ⅲ相試験(JIPANG 試験)が行われた。主要評価項目である無再発生存期間は,HR 0.98(37.3 カ月vs 38.9 カ月,95%CI:0.81-1.20,P=0.474)と CDDP+VNR 療法に対するCDDP+PEM 療法の優越性は示されなかった。OS はHR 0.98 (95%CI:0.71-1.35)であった。Grade3 以上の有害事象は,全体で89.4% vs 47.4%であり,発熱性好中球減少症は11.6% vs 0.3%,貧血は9.3% vs 2.8%であった。治療関連死亡は,両群で1 例ずつ認められた24)(なお,PEM は2021 年10 月時点で術後補助化学療法として承認されていない)。

以上より,術後病理病期Ⅱ-ⅢA 期(第8 版)完全切除例に対してCDDP 併用化学療法を行うよう勧められる。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会・放射線治療及び集学的治療小委員会・薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

CQ30
EGFR 遺伝子変異陽性の術後病理病期Ⅱ-ⅢA 期完全切除例に対して,EGFR チロシンキナーゼ阻害薬は勧められるか?

  1. a. EGFR 遺伝子変異陽性の術後病理病期Ⅱ-ⅢA 期(第8 版)完全切除例に対して,従来の術後補助化学療法後に,EGFR チロシンキナーゼ阻害薬による治療の追加を勧めるだけの根拠が明確ではない。

〔推奨度決定不能〕

  1. b. EGFR 遺伝子変異陽性の術後病理病期Ⅱ-ⅢA 期(第8 版)完全切除例に対して,プラチナ製剤併用療法の代わりとして,EGFR チロシンキナーゼ阻害薬による治療を勧めるだけの根拠が明確ではない。

〔推奨度決定不能〕

解説

EGFR 遺伝子変異陽性症例に対する術後補助化学療法として,EGFR チロシンキナーゼ阻害薬(EGFR-TKI)の効果を検証した第Ⅲ相試験が現在まで複数行われている。現時点でOS の延長を示した試験結果は示されていない(なお,EGFR-TKI は2021 年10 月時点で術後補助化学療法として承認されていない)。

  1. a. 完全切除されたⅠB-ⅢA 期(第7 版)非小細胞肺癌に対して,術後補助化学療法としてエルロチニブ(2 年間内服)とプラセボを比較したRADIANT 試験では,EGFR 遺伝子変異陽性患者に限定したサブグループ解析において,エルロチニブ群はプラセボ群と比較しDFSの延長(46.4 カ月vs 28.5 カ月,HR 0.61,95%CI:0.38-0.98)を示したものの,OS の延長は示さなかった(両群とも中央値に到達せず,HR 1.09,95%CI:0.55-2.16)25)

    その後,完全切除後のEGFR 遺伝子変異(エクソン19 欠失またはL858R 変異)を有するⅠB-ⅢA 期非小細胞肺癌に対して, 主治医判断で術後補助化学療法を施行した後にオシメルチニブ(3 年間内服)とプラセボを比較したADAURA 試験が行われた。組み入れられた患者(682 例)の背景としてはⅠB 期が32%,Ⅱ-ⅢA 期が68%であり,試験参加前に術後補助化学療法として細胞傷害性抗癌薬を施行された患者が60%であった。主要評価項目であるⅡ-ⅢA 期(470 例)におけるDFS は有意な延長が示された(未到達vs 19.6 カ月,HR 0.17,99.06%CI:0.11–0.26,P<0.001)。Grade3 以上の有害事象は,オシメルチニブ群20%,プラセボ群13%であり,間質性肺疾患(Grade 問わず)はオシメルチニブ群3%,プラセボ群0%であった。また探索的検討ではあるが,脳転移を含む中枢神経系(CNS)イベントの発症率はオシメルチニブ群で2%,プラセボ群で11%であり,CNS-DFS の延長が示された(HR 0.18,95%CI:0.10-0.33)。Grade3 以上の有害事象は,オシメルチニブ群で20%,プラセボ群で13%であった。また,致死的な有害事象はオシメルチニブ群で0 例,プラセボ群で1例であった。なお,OS は現時点で明確な結果が示されていない26)

    これらの結果から,従来の術後補助療法の後のEGFR-TKI はプラセボと比較しDFS を有意に延長することが示された。一方で,術後補助化学療法の目的とする最大のアウトカムであるOS の延長は現時点で示されていない。EGFR-TKI を用いた術後補助化学療法は今後治療選択肢となる可能性があるが,毒性(特に本邦における肺臓炎の頻度)なども考慮するべきであり,引き続き慎重に検討される必要がある。

    以上より,EGFR 遺伝子変異陽性の術後病理病期Ⅱ-ⅢA 期(第8 版)完全切除例に対して,従来の術後補助化学療法後に,EGFR チロシンキナーゼ阻害薬による治療の追加の可否を判断するだけの根拠が現時点で明確ではないと判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  2. 投票者の所属委員会:外科療法小委員会・放射線治療及び集学的治療小委員会・薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師2名,薬剤師2名,患者代表1名を含む,白票2)/実施年度:2021 年
  3. b. 術後補助化学療法としてEGFR-TKI とプラチナ製剤併用療法を比較した試験結果も示されている。海外で施行されたADJUVANT(CTONG1104)試験では,完全切除後Ⅱ–ⅢA(N1–2)期のEGFR 遺伝子変異(エクソン19 欠失またはL858R 変異)を有する非小細胞肺癌に対して,ゲフィチニブ(2 年間内服)とCDDP+VNR 療法(4 サイクル)が比較された。主要評価項目であるDFS は,ゲフィチニブ群で有意な延長を認めた(28.7 カ月vs 18.0 カ月,HR 0.60,95%CI:0.42–0.87,P=0.0054)。Grade3 以上の有害事象は,ゲフィチニブ群で12%,CDDP+VNR 群で47%であった27)。その後の最終解析では, OS の有意な延長は認められなかった(75.5 カ月vs 62.8 カ月,HR 0.92,95%CI:0.62-1.36,P=0.674)28)

    以上より,EGFR 遺伝子変異陽性の術後病理病期Ⅱ-ⅢA 期(第8 版)完全切除例に対して,プラチナ製剤併用療法の代わりとして,EGFR チロシンキナーゼ阻害薬による治療の可否を判断するだけの根拠が現時点で明確ではないと判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  4. 投票者の所属委員会:外科療法小委員会・放射線治療及び集学的治療小委員会・薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師2名,薬剤師2名,患者代表1名を含む,白票2)/実施年度:2021 年

    引用文献

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4-3
術後放射線療法

CQ31
術後病理病期Ⅰ-Ⅱ期完全切除例に対して,術後放射線療法は勧められるか?

エビデンスの強さA
術後病理病期Ⅰ-Ⅱ期完全切除例に対して,術後放射線療法は行わないよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

PORT Meta-analysis Trialists Group によるメタアナリシスは2016 年に改訂版が報告され,術後放射線療法によりむしろ予後は悪化し(HR 1.18,95%CI:1.07-1.31,P=0.001),2 年生存率を58%から53%に5%引き下げる結果であった1)。無再発生存率は術後放射線療法群で悪い傾向があり(HR 1.10,95%CI:0.99-1.21,P=0.07),局所無再発生存率は有意に悪かった(HR 1.12,95%CI:1.01-1.24,P=0.03)。術後病理病期について,2005 年版のメタアナリシスでは術後放射線療法の予後増悪効果はⅠ-Ⅱ期において明確であった2)。2016 年版では解析方法が変更されたものの,やはり早期症例で予後増悪効果が顕著である可能性が示唆されている。

以上より,メタアナリシスによって生存に対する悪影響が明確に示されていることから,術後病理病期Ⅰ-Ⅱ期完全切除例に対する術後放射線療法は行わないよう勧められる。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行わないよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会・放射線治療及び集学的治療小委員会・薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

CQ32
術後病理病期Ⅲ期(N2)完全切除例に対して,術後放射線療法は勧められるか?

術後病理病期Ⅲ期(N2)完全切除例に対して,術後放射線療法は考慮してもよいが,行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない。

〔推奨度決定不能〕

解説

前述のPORT Meta-analysis Trialists Group によるメタアナリシスについて,2005 年版のメタアナリシスでは術後放射線療法の予後増悪効果はⅠ-Ⅱ期N0-1 において明確である一方,Ⅲ期N2 においては明確ではないとされた1)。2016 年版では解析方法が変更され,N 因子による影響は乏しいと報告されたものの,早期よりは局所進行期において予後増悪の効果は少ない可能性が示唆されている(局所進行期の早期に対するHR 0.87,95%CI:0.72-1.04,P=0.12)2)。これに加えて,不完全ではあるもののⅢ期N2 症例に対する術後化学放射線療法の有効性を示す前向き試験の報告が複数ある。非小細胞肺癌完全切除例に対する術後補助化学療法の有効性を示した第Ⅲ相試験(ANITA 試験)で,術後放射線療法に関するサブグループ解析が報告されており,pN2 症例に限れば術後放射線療法による予後改善の可能性が示唆された(術後補助化学療法群:47.4 カ月vs 23.8 カ月,経過観察群:22.7 カ月vs 12.7 カ月)。ただし,この試験において術後放射線療法を行うか否かは施設毎の判断であり,実際に放射線治療を受けたpN2 症例は全体の半数であった3)。また,症例集積不良のため途中中止となった試験ではあるが,Ⅲ期N2 症例に対する術後化学療法と術後化学放射線療法とのランダム化比較試験の結果,無再発生存期間は後者で有意に長く(18 カ月vs 28 カ月,前者の後者に対するHR 1.49,95%CI:1.01-2.20,P=0.04),OS 中央値も同様に後者で長い傾向が示された(28 カ月vs 40 カ月,後者の前者に対するHR 0.69,95%CI:0.46-1.04,P=0.07)。一方で,この試験で術後に化学放射線療法を完遂できたものは2/3 にとどまっていた4)

以上より,Ⅲ期N2 症例に対する術後放射線療法は有望な可能性があり,術後化学療法後に考慮してもよいが,十分に質の高い有効性が示されているわけではないことから,エビデンスの強さはC,また,その毒性も十分考慮する必要があることから,総合的評価では行うよう勧めるだけの根拠が明確ではないと判断し,推奨度決定不能とした。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会・放射線治療及び集学的治療小委員会・薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

引用文献

1)
PORT Meta-analysis Trialists Group. Postoperative radiotherapy for non-small cell lung cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2005;(2): CD002142.
2)
Burdett S, Rydzewska L, Tierney J, et al. Postoperative radiotherapy for non-small cell lung cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2016; 10: CD002142.
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Douillard JY, Rosell R, De Lena M, et al. Impact of postoperative radiation therapy on survival in patients with complete resection and stage Ⅰ, Ⅱ, or ⅢA non-small-cell lung cancer treated with adjuvant chemotherapy: the adjuvant Navelbine International Trialist Association(ANITA)Randomized Trial. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2008; 72(3): 695-701.
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レジメン
非小細胞肺癌の術後補助化学療法

術後テガフール・ウラシル配合剤療法
術後シスプラチン併用療法(本邦での投与量)

Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌の放射線療法

総論
Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌における放射線治療

解説

Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌の標準治療は外科切除(肺葉以上の切除)である。この中で医学的な理由で手術できない場合は,根治的放射線治療が第一選択であることは異論がなく,従来と同様である。一方,切除可能な場合については,最近,後方視的に傾向スコアを用いた様々な比較がなされているが,現時点で手術と根治的放射線治療を比較したランダム化試験の報告はないため,従来のエビデンスを覆すには至っていない。根治的放射線治療の方法としては,体幹部定位放射線治療(SBRT)が広く普及している現状からも,線量の集中性を高める高精度放射線治療が勧められることに異論はない。粒子線治療も同様に高精度放射線治療の1 つであるが,現時点では肺癌に対して保険診療としては認められておらず,先進医療として行われている状況である。

以下,各CQ について概説する。

CQ33.医学的な理由で手術できないⅠ-Ⅱ期非小細胞肺癌に対して,根治的放射線治療は勧められるか?

前版から新たなエビデンスの質の高い報告はないが,経過観察ではなく根治的放射線治療が強く推奨される。

CQ34.切除可能なⅠ-Ⅱ期非小細胞肺癌に対して,根治的放射線治療は勧められるか?

切除以外の選択肢を示す目的で,肺葉以上の切除が可能であるが,外科切除を希望しない場合についての推奨が2018 年版で追加された。ただし,あくまで標準治療が肺葉以上の切除であることを十分に説明することが重要である。

肺葉以上の切除が不可能な場合は,標準治療が定まっておらず,区域切除または楔状切除といった縮小手術とSBRT をはじめとする根治的放射線治療がいずれも選択肢となり得る。ただし,縮小手術でも,楔状切除より区域切除のほうがより根治性が高いという意見もあり,手術方法も含めた十分な説明が必要である。

CQ35.医学的な理由で組織診(もしくは細胞診)および手術ができない臨床的に原発性肺癌と診断された孤立性肺腫瘍(組織未確定)に対して,根治的放射線治療は勧められるか?

高齢化や様々な合併症を有する肺癌患者の増加により,組織未確定であるが臨床的に原発性肺癌と診断された孤立性肺腫瘍に対して,根治的放射線治療が実施される機会が増加している。このような現状を考慮し,本CQ が2020 年版で追加されたが,推奨度評価不能の結果に至った(詳細は,本CQ の解説を参照されたい)。

CQ36.Ⅰ期非小細胞肺癌の根治的放射線治療における適切な照射法は何か?

前版から新たなエビデンスの質の高い報告はないが,根治的放射線治療としてのSBRT や粒子線治療のような,線量の集中性を高める高精度放射線照射技術を用いることが勧められる。

CQ33
医学的な理由で手術ができないⅠ-Ⅱ期非小細胞肺癌に対して,根治的放射線治療は勧められるか?

エビデンスの強さC
医学的な理由で手術ができないⅠ-Ⅱ期非小細胞肺癌には,根治的放射線治療の適応があり,行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

26 の非ランダム化試験から集めた手術不能Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌2,003 人の治療成績を比較すると,2 年生存率22~72%,5 年生存率0~42%であった1)。肺癌以外で他病死する患者が11~43%あり,原病2 年生存率は54~93%,原病5 年生存率は13~39%,また局所再発は6~70%にみられた。また,Ⅰ期非小細胞肺癌に対する根治的放射線療法の80~90 年代の報告では,5 年生存率,原病生存率はそれぞれ13~29%,20~32%であった2)~4)。Ⅱ期非小細胞肺癌に対する根治的放射線療法の後方視的解析では,158 例の根治的放射線治療(通常照射,線量中央値60 Gy)の成績が報告されており,OS 中央値は22.9 カ月であり,化学療法併用群で有意なOS の延長を認めた5)。これらに加え,ガイドライン8 件のレビューでも,「Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌の非手術症例は放射線治療の適応がある」としたガイドラインがⅠ期で6 件,Ⅱ期で5 件であった6)

医学的な理由で手術できないⅠ-Ⅱ期非小細胞肺癌に対して経過観察と根治的放射線治療とのランダム化比較試験はないが,複数の報告があり,エビデンスの強さはC である。いずれのレビューにおいても医学的な理由で手術不能なⅠ-Ⅱ期非小細胞肺癌に対しては,経過観察より根治的放射線療法を行うべきと結論されているので,総合的評価では強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会・放射線治療及び集学的治療小委員会・薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

CQ34
切除可能なⅠ-Ⅱ期非小細胞肺癌に対して,根治的放射線治療は勧められるか?

エビデンスの強さC
  1. a. 肺葉切除可能なⅠ-Ⅱ期非小細胞肺癌で手術を希望しない場合は,根治的放射線治療を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:83%〕

エビデンスの強さC
  1. b. 外科切除が可能であるが肺葉以上の切除が不可能なⅠ-Ⅱ期非小細胞肺癌患者には,根治的放射線治療を行うことを提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:91%〕

解説

  1. a. 肺葉切除可能な臨床病期Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌に対して,根治的放射線治療(主にSBRT)と肺葉切除をランダムに比較した臨床試験は報告されていない。完遂不能であったランダム化比較試験の統合解析や傾向スコアを用いたSBRT と肺葉切除との比較が報告されているが,一定の見解を得るには至っていない7)~10)。標準治療が肺葉切除であることを十分に説明したうえで,手術自体を希望しない場合には,その根治療法として,手術不可能な対象に対する場合と同様に放射線治療が選択肢となり得る。比較試験ではないものの,このような対象に対する複数の報告があるため,エビデンスの強さはC であるが,総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
  2. 投票者の所属委員会:外科療法小委員会・放射線治療及び集学的治療小委員会・薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年
  3. b. 肺葉切除不能な臨床病期Ⅰ-Ⅱ期非小細胞肺癌に対しては,縮小手術(区域切除または楔状切除)と根治的放射線治療(主にSBRT)が考慮される。傾向スコアを用いた縮小手術とSBRT との53 例の比較では,5 年生存率が縮小手術で55.6%,SBRT で40.4%と,縮小手術で良好な傾向ではあるものの有意差は認めず(P=0.124)11),両者で治療成績に有意な差を認めなかったという別の報告もある12)。現状で,縮小手術とSBRT をランダムに比較した臨床試験は報告されていないが,このような対象に関する複数の報告があることから,エビデンスの強さはC とした。肺葉切除不能の場合は縮小手術と同様にSBRT を中心とした根治的放射線治療を考慮してもよく,総合的評価では行うよう弱く推奨(2で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
  4. 投票者の所属委員会:放射線治療及び集学的治療小委員会・薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

CQ35
医学的な理由で組織診(もしくは細胞診)および手術ができない臨床的に原発性肺癌と診断された孤立性肺腫瘍(組織未確定)に対して,根治的放射線治療は勧められるか?

臨床的に原発性肺癌と診断された孤立性肺腫瘍(組織未確定)に対して,根治的放射線治療を行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない。

〔推奨度決定不能〕

解説

高齢化や様々な合併症を有する肺癌患者の増加により,生検が困難であったり,生検を行っても病巣に到達せず,肺癌の確定診断が得られない患者は少なくない。このような場合,経過観察か診断を兼ねた手術が一般的であるが,手術ができない場合にはSBRT を含む根治的放射線治療が実施される機会が増加している。

本邦で行われた組織未確定例に対するSBRT の前向き観察研究では,3 cm 以下の組織未確定孤立性肺腫瘍62 例が対象となり,3 年生存率が83.3%(95%CI:71.1-90.7%),Grade 3 以上の有害事象が14.5%であり,Grade 5 の有害事象は認められなかったと報告している13)。組織未確定例に対するSBRT のデータを統合解析したメタアナリシスによれば,3 年生存率は79%(95%CI:68-89%)であった14)。このように組織未確定の孤立性肺腫瘍に対するSBRT の治療成績は良好である。このような対象において標準治療と考えられる外科的治療などとの比較試験は困難であり,エビデンスとしては比較的少数例の単群での検討とそれらのメタアナリシスにとどまる。このため,臨床的に原発性肺癌と診断された孤立性腫瘍(組織未確定)に対して根治的放射線治療を行うことについては,勧めるだけの根拠が明確ではないと判断した。

組織診断により,薬物治療の選択など後治療に大きな影響を与える意思決定が可能になるため,できるかぎり組織診断を得ることが望ましい。組織未確定例に根治的放射線治療を行う場合は,非悪性例を可能なかぎり除外することが重要である。上述のメタアナリシス14)において,組織確定群〔3 年生存率60%(95%CI:53-66%)〕と比べて,組織未確定群は有意に良好な生存率を示しており,その一因として非悪性例を一部に含んでいた可能性が言及されている。

臨床的に良悪性を示唆する所見として高分解能CT における充実性結節の悪性所見のスピキュラ,ノッチ,胸膜陥入,境界明瞭なすりガラス部分,不正な壁の空洞15),良性を示唆する所見の均一・中心部・層状石灰化,確実な脂肪濃度,胸膜下のperi-fissure nodule16)を参考とし,診断する。加えてFDG-PET での異常集積は悪性を示唆する所見と考えられる(Ⅰ.肺癌の診断CQ5 を参照)。その他喫煙歴,3 cm 以上の腫瘤径は悪性を示唆する臨床所見である17)。良悪性の診断が困難な結節に対しては,経過観察で経時的な増大傾向を確認することは臨床的に悪性を示唆する重要な所見である(Ⅰ.肺癌の診断CQ6 を参照)。

以上より,組織未確定の状態で安易に根治的放射線治療を行うべきではなく,行う場合には,臨床的に悪性であることが慎重に判断され,また治療のメリットが組織診断に伴うデメリット(=生じ得る有害事象)を上回ると判断される必要がある。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会・放射線治療及び集学的治療小委員会・薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2020 年

CQ36
Ⅰ期非小細胞肺癌の根治的放射線治療における適切な照射法は何か?

エビデンスの強さB
線量の集中性を高める高精度放射線照射技術を用いることを推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

Ⅰ期非小細胞肺癌の放射線治療において肺門および縦隔に単独再発する確率は低いため1)2),肺門・縦隔への予防照射の意義は乏しく,SBRT や陽子線・炭素線照射などを用いて線量を局所に集中し,従来法より高い線量を照射する高精度放射線治療が一般的である。

末梢型Ⅰ期肺癌に対する48 Gy/4 分割のSBRT ではⅠA,ⅠB 期(第7 版)の3 年生存率は各々83%,72%と報告されており18),国内14 施設のSBRT 症例の解析では,BED 10>100 Gy の照射を行い,かつ手術可能であった症例の5 年生存率は70.8%と良好であった19)。本邦で行われた前向き試験(JCOG0403 試験)では,ⅠA 期に対する48 Gy/4 分割のSBRT を行い,手術可能例,不能例の3 年生存率はそれぞれ76.5%,59.9%で,Grade 5 の有害事象は認めなかったとしている20)。RTOG0236 試験による60 Gy/3 分割のSBRT では,局所制御率が98%と極めて高値であり,かつ致死的な有害事象もなかったとしている21)。中枢型肺癌の定義については未だ議論があるが,中枢型肺癌に対するSBRT の局所制御率は85%以上,BED 3<210 Gy では治療関連死は1%以下,Grade 3~4 の有害事象も9%以下と報告されている22)

SBRT と通常分割照射を比較したランダム化比較試験として,SPACE 試験とCHISEL 試験の結果が報告されている。SPACE 試験は,手術不能または手術拒否のⅠ期非小細胞肺癌患者を対象に,通常分割照射(70 Gy/35 分割)とSBRT(66 Gy/3 分割)を比較した。3 年無病生存率は42%,3 年生存率はそれぞれ59%,54%と有意差は認めなかったが,SBRT のほうが局所制御される傾向にあること,照射回数の少なさ,低い毒性により標準治療と考えるべきと結論付けられている23)。CHISEL 試験では手術不能・拒否のⅠ期非小細胞肺癌において,通常分割照射(66 Gy/33 分割または50 Gy/20 分割)とSBRT(54 Gy/3 分割または48 Gy/4 分割)を比較し,SBRT のほうが良好な局所無再発率であった(HR 0.32)。OS もSBRT で有意に良好であった(HR 0.53)24)

長期観察結果では,炭素線照射の局所制御率は94.7%であった25)。原病5 年生存率,全生存率はそれぞれ75.7%,50%で,Grade 3 以上の有害事象はなかったとしている。また,陽子線照射による治療成績の報告では,24 カ月の平均観察期間で,2 年の局所無再発生存率が80%で,全生存率が84%であり,晩期有害事象も軽度であったとしている26)。2004~13 年に国内の陽子線治療全施設で施行した669 例(手術可能351 例,不適応294 例,不明24 例)について解析した結果,3 年の全生存率,無増悪生存率,局所制御率はそれぞれ,79.5%,64.1%,89.8%であった27)。また,手術可能例の3 年全生存率は86.7%であったが,手術不適応症例は70.6%と予後不良であった。同様に,重粒子線治療に関しては手術不適応の139 例を含む306 例に関する遡及的解析では,3 年の全生存率,無増悪生存率,局所制御率はそれぞれ,83.6%,69.4%,88.6%であり28),手術可能例の3 年全生存率が90%,手術不適応症例が76%であった(P<0.01)。一方,Ⅰ期非小細胞肺癌に対して粒子線治療(炭素線・陽子線治療)による線量増加や線量の集中性を高めた照射法はSBRT と同等の治療成績であったという報告があり29),X 線治療に対する優位性についてのエビデンスは乏しいが,局所制御率を高める方法として検討されるべき治療法と考えられる。ただし,本邦では肺癌に対する粒子線治療は保険診療としては認められておらず,先進医療として行われている。

以上より,Ⅰ期非小細胞肺癌の照射法として,従来の通常分割照射と比較し,線量を局所に集中し高い線量を照射する高精度放射線治療に有用性があり,総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。エビデンスの強さはB とした。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:放射線治療及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

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Ⅲ期非小細胞肺癌・肺尖部胸壁浸潤癌

根治照射可能症例の定義

根治照射とは治癒を目指す照射である。根治照射可能症例とは,病巣部(原発巣およびリンパ節転移)すべてに対して根治線量を照射可能で,かつ正常組織障害を最小限に抑えることができる症例のことである。Ⅲ期の中で,対側肺門リンパ節転移を有する症例は根治照射不能例となる。根治照射が可能か否かは,腫瘍の大きさや腫瘍の部位,肺機能や既存肺の状態などから放射線腫瘍医とともに総合的に判断する。

総論
Ⅲ期非小細胞肺癌・肺尖部胸壁浸潤癌における治療方針

解説

1)Ⅲ期非小細胞肺癌における治療方針

Ⅲ期非小細胞肺癌には種々の病態が含まれるため,呼吸器外科,内科医,放射線治療医を含めた集学的治療チームで切除可能かどうか,放射線照射可能かどうかを検討したうえで治療方針を決定することが重要である(CQ6)。切除不能Ⅲ期N2 症例に対する標準治療は化学放射線療法であるが(CQ37),切除可能なⅢ期N2 症例に対する導入療法後の外科切除も提案されている(CQ26)。

1980 年代前半の切除不能Ⅲ期非小細胞肺癌における標準治療は,放射線治療単独であったが治療成績は不良であった。

そこで,1980 年代後半に,放射線単独療法と化学療法後に胸部放射線治療を行う逐次併用療法の比較試験が行われ,併用療法の有用性が複数の第Ⅲ相試験において検証された1)2)。その後メタアナリシスでも放射線単独治療に対して化学放射線療法がOS を改善することが示された3)4)。これらのエビデンスから臨床病期Ⅲ期を中心とする切除不能局所進行非小細胞肺癌で,全身状態が良好な患者に対する標準治療として化学放射線療法が確立された。

1990 年代に入り,化学療法と放射線療法の併用時期に関する検討が行われた。すなわち,標準治療として確立された逐次併用療法に対して,化学療法と放射線療法を同時併用する治療の優越性を検証する第Ⅲ相試験が日米の2 つのグループで実施された5)6)。これらの臨床試験から,同時併用の化学放射線療法の5 年生存率は,逐次併用療法を上回り15%程度であることが報告された。

さらに2000 年代には,Ⅳ期非小細胞肺癌の標準治療においてキードラッグとなった第三世代細胞傷害性抗癌薬を同時併用の化学放射線療法レジメンとして用いる有用性が検証された。weekly CBDCA+PTX,CDDP+DTX 療法については,いずれも従来の標準治療であったCDDP+VDS+MMC 療法と比較する第Ⅲ相試験が本邦で行われ,現在の標準治療に位置付けられている7)8)

一方,胸部放射線治療について多くの臨床試験で60 Gy が用いられてきたが,近年のCT 治療計画による3 次元放射線治療の普及により,予防的リンパ節照射(ENI)を省いた高線量照射が試みられるようになった。しかし,病巣部照射野(IF)を用いた標準線量60 Gy と高線量74 Gy の生存延長効果を比較した第Ⅲ相試験で,OS はHR 1.35(28.7 カ月vs 20.3 カ月,95%CI:1.08-1.69)と高線量74Gy で不良であった9)10)。したがって,化学放射線療法においては少なくとも60Gy の胸部照射線量が推奨されている。

2015 年以降,Ⅳ期非小細胞肺癌においては免疫チェックポイント阻害薬が本邦でも使用可能となっている。切除不能Ⅲ期非小細胞肺癌においても同時化学放射線療法後の抗PD-L1 抗体であるデュルバルマブによる地固め療法が,プラセボ群に対してPFS,OS ともに有意に延長したと報告されたため11)12),PS 0 および1 の局所進行非小細胞肺癌に対し,根治的同時化学放射線治療を受けた患者については標準治療と考えられる。今後,長期の安全性に関する検討が重要である。

化学放射線療法,放射線治療単独療法:CQ37~4042~44

切除不能Ⅲ期非小細胞肺癌において,前述のように全身状態良好な患者では化学放射線療法が勧められ,併用時期としては同時併用が推奨される(CQ373842)。選択されるレジメンについては,CQ39,40 を参照のこと。一方,化学療法併用不能な患者に対しては,放射線単独療法が勧められる(CQ4344)

化学放射線療法後の地固め療法:CQ41

化学放射線療法後の薬剤を変更しての細胞傷害性抗癌薬による地固め療法は,勧められない(CQ41-1)。デュルバルマブによる地固め療法については,CQ41-2 を参照のこと。

2) 肺尖部胸壁浸潤癌における治療方針

切除可能な肺尖部胸壁浸潤癌(SST)は,術前化学放射線療法後に外科治療を実施する集学的治療が勧められるため,病期別の項目とは別に記載している。

SST では外科治療を基本とした治療が行われ,術後30 日以内の死亡率は4~8.9%である13)~15)。Paulson の報告以来,放射線治療あるいは化学放射線療法を外科治療に組み合わせた集学的治療が行われてきた16)。しかし,SST は稀な疾患であり,大規模な術前化学放射線療法あるいは術後化学放射線療法に関するランダム化比較試験やメタアナリシスは報告されていない。

肺尖部胸壁浸潤癌:CQ45

切除可能な肺尖部胸壁浸潤癌(臨床病期T3-4N0-1)は,これまでのエビデンスをもとに,臨床的な有用性を考慮し術前化学放射線療法後に外科治療を実施する集学的治療が勧められる(CQ45)。

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6-1
Ⅲ期非小細胞肺癌

6-1-1.化学放射線療法

CQ37
切除不能局所進行非小細胞肺癌,全身状態良好(PS 0-1)の患者に対して,化学放射線療法は勧められるか?

エビデンスの強さA
切除不能局所進行非小細胞肺癌,全身状態良好(PS 0-1)の患者に対して,化学放射線療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

切除不能局所進行非小細胞肺癌に対する放射線単独療法と化学放射線療法の比較試験をまとめたメタアナリシスの結果,CDDP を含む化学療法と放射線療法の併用群の生存率が放射線単独群の生存率に比して有意に良好であった(HR 0.87,P=0.0052,2 年時点での死亡リスクを15~30%減少)1)2)。ただし,これらの比較試験では,PS が良好な症例を対象にしており,化学療法によりOS の延長効果が得られる対象もPS 0-1 である1)~3)。また,これらのメタアナリシスには年齢上限のない比較試験も含まれるが70 歳以上の高齢者の割合は低く,高齢者に対する有用性は不明確である。本邦においては71 歳以上のPS 0-1 の高齢者を対象とした第Ⅲ相試験(JCOG0301 試験)の結果でも,化学放射線療法群(低用量CBDCA 30 mg/m2/日,週5 回,計20 日間投与+同時胸部放射線照射60 Gy)は放射線単独療法群(胸部放射線照射60 Gy)に比べて,主要評価項目であるOS を有意に延長することが示されている(中央値22.4 カ月vs 16.9 カ月,HR 0.68,95%CI:0.47-0.98,P=0.0179)4)

以上より,切除不能局所進行非小細胞肺癌で全身状態良好(PS 0-1)の患者に対して,化学放射線療法を行うよう勧められる。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。ただし,化学放射線療法の有害事象発生頻度は,放射線単独療法のそれより高いため,十分な配慮が必要である。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会・放射線治療及び集学的治療小委員会・薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

CQ38
切除不能局所進行非小細胞肺癌,全身状態が良好(PS 0-1)な患者の化学放射線療法における放射線療法の最適なタイミングとしては,化学療法との同時併用が勧められるか?

エビデンスの強さA
切除不能局所進行非小細胞肺癌,全身状態が良好(PS 0-1)な患者の化学療法と放射線療法の併用時期は,同時併用を行うことを推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

化学療法と放射線療法の併用時期は同時のほうが併用効果は高い5)6)。CDDP+VDS+MMC(MVP)療法下に放射線療法の同時併用と逐次併用を比較した第Ⅲ相試験では,同時併用群においてOS の有意な延長(16.5 カ月vs 13.3 カ月,P=0.03998)を認めた5)。同様に,CDDP,VBL 併用下に放射線療法の同時併用と逐次併用を比較した試験(RTOG9410 試験)では,同時併用群においてOS の有意な延長(17.0 カ月vs 14.6 カ月,HR 0.812,95%CI:0.663-0.996,P=0.046)を認めた。しかし,同時併用群では急性期のGrade 3 以上の好中球減少(88% vs 77%),血小板減少(9% vs 5%),食道炎(23% vs 4%)と有害事象の頻度が高かった。一方,同時併用では急性の有害事象の頻度が高く注意が必要であるが,慢性の有害事象は逐次併用と同等であることが示されている6)。また,最近の同時併用と逐次併用の臨床比較試験をまとめたメタアナリシスにおいても,同時併用群は逐次併用群に比してOS の有意な延長を示した(HR 0.84,95%CI:0.74-0.95,P=0.004)7)

以上より,切除不能局所進行非小細胞肺癌で全身状態が良好(PS 0-1)な患者の化学放射線療法における放射線療法の最適なタイミングとして,化学療法との同時併用が勧められる。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:外科療法小委員会・放射線治療及び集学的治療小委員会・薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

CQ39
化学放射線療法においてプラチナ製剤と第三世代以降の細胞傷害性抗癌薬併用を勧められるか?

エビデンスの強さA
化学放射線療法においてプラチナ製剤と第三世代以降の細胞傷害性抗癌薬を併用した治療を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:94%〕

解説

これまで本邦において化学放射線療法の標準治療であったCDDP+VDS+MMC(MVP)療法に対し,CBDCA+CPT-11 療法,CBDCA+PTX(CP)療法とCDDP+DTX(CD)療法が比較検討された。3 群で比較された第Ⅲ相試験(WJTOG0105 試験)では,OS 中央値はMVP 療法(20.5 カ月)に対し,CBDCA+CPT-11 療法(19.5 カ月,P=0.392)およびCP 療法(22.0 カ月,P=0.876)であり,非劣性や優越性は証明されなかった。しかし,CP 療法の生存曲線は密に重なっており有害事象が軽微であることから,CP 療法が標準治療の1 つと結論付けられた8)。同時期に行われた第Ⅲ相試験(OLCSG0007 試験)では,CD 療法は主要評価項目である2 年生存率でMVP 療法に対する優越性は証明された(CD 60.3% vs MVP 48.1%,P=0.044)が,PFS(中央値CD 13.4 カ月vs MVP 10.5 カ月)およびOS(中央値CD 26.8 カ月vs MVP 23.7 カ月)の優越性は証明されなかった9)。海外において,CP 療法に対するCDDP+ETP(PE)療法が比較検討され,主要評価項目であるOS でPE 療法の優越性は証明できなかった(PE 23.3 カ月vs. CP 20.7 カ月,HR 0.76,95%CI:0.55-1.05,P=0.095)10)。また,同じく海外において非扁平上皮癌を対象にPE 療法に対するCDDP+PEM(PP)療法が比較検討された(PROCLAIM 試験)。OS ではPP 療法はPE 療法に対する優越性を示せなかったが(PE 26.8 カ月vs PP 25.0 カ月,HR 0.98,95%CI:0.79-1.20,P=0.831),骨髄抑制はPE 療法に比較し軽微であった11)。ただし,この比較試験には日本人は含まれておらず,日本人における安全性,有効性のデータは十分ではない。したがって,レジメンとしてはCP 療法あるいはCD 療法が日本人における十分なエビデンスを有している。

一方,海外では標準治療の1 つであるPE 療法に関して,前述のとおりCP 療法,PP 療法と比較する2 本の第Ⅲ相試験10)11)が実施され,PE 療法の生存効果はCP 療法,PP 療法と同等であり,Grade 3 以上の肺臓炎はPE 療法2.6~7.4%,CP 療法8.3%,PP 療法1.8%,Grade 3 以上の食道炎はPE 療法15.5~20.0%,CP 療法6.3%,PP 療法15.5%であった。ただし,PE 療法は現状本邦では保険適用外である。

以上より,化学放射線療法においてプラチナ製剤と第三世代以降の細胞傷害性抗癌薬を併用した治療を行うよう勧められる。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:放射線治療及び集学的治療小委員会・薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

CQ40
切除不能局所進行非小細胞肺癌,シスプラチン一括投与が不適な高齢者に対して,連日カルボプラチン投与による化学放射線療法は勧められるか?

エビデンスの強さB
切除不能局所進行非小細胞肺癌,シスプラチン一括投与が不適な高齢者に対して,連日カルボプラチン投与による化学放射線療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:62%〕

解説

本邦において,71 歳以上の高齢者を対象として化学放射線療法群(低用量CBDCA 30 mg/m2/日,週5 回,計20 日間投与+同時胸部放射線照射60 Gy)を放射線単独療法群(胸部放射線照射60 Gy)と比較した第Ⅲ相試験(JCOG0301 試験)では,主要評価項目であるOS を有意に延長することが示された(中央値22.4 カ月vs 16.9 カ月,HR 0.68,95%CI:0.47-0.98,P=0.0179)。一方で血液学的毒性に関しては,化学放射線療法群で放射線単独療法群に比較し高い頻度で認められ(Grade 3/4 好中球減少:57.3% vs 0%,Grade 3/4 血小板減少:22.9% vs 2.0%),重篤な感染症も化学放射線療法群で多く認められた(Grade 3/4 感染症:12.5% vs 4.1%)4)

以上より,切除不能局所進行非小細胞肺癌,シスプラチン一括投与が不適な高齢者に対して,連日CBDCA 投与による化学放射線療法を行うよう勧められる。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:放射線治療及び集学的治療小委員会・薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

CQ41-1
同時化学放射線療法後に異なる細胞傷害性抗癌薬に変更して地固め化学療法を行うよう勧められるか?

エビデンスの強さB
同時化学放射線療法後に,異なる細胞傷害性抗癌薬に変更しての地固め化学療法は行わないよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

CDDP+ETP と胸部放射線同時併用療法後にDTX を3 サイクル実施する地固め化学療法の意義を検証する第Ⅲ相試験が行われた。予定されていた中間解析の結果,DTX による地固め化学療法によりOS の延長効果は得られず(中央値21.2 カ月vs 23.2 カ月,P=0.883),Grade 3~5 の有害事象(発熱性好中球減少症10.9%,感染症11.0%,肺臓炎9.6%)の有意な増加および5.5%の治療関連死亡が報告され,試験は早期無効中止となった12)

以上より,同時化学放射線療法後に異なる細胞傷害性抗癌薬に変更しての地固め化学療法は行わないよう勧められる。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行わないよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

CQ41-2
同時化学放射線療法後に,免疫チェックポイント阻害薬による地固め療法を行うよう勧められるか?

エビデンスの強さB
同時化学放射線療法後に,デュルバルマブによる地固め療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:75%〕

解説

同時化学放射線療法後,病勢がコントロールされている切除不能Ⅲ期非小細胞肺癌を対象として,デュルバルマブによる地固め療法(デュルバルマブ群)を,プラセボ群と比較する第Ⅲ相試験(PACIFIC 試験)が行われた。主要評価項目はPFS,OS であった。PFS はHR 0.52(16.8 カ月vs 5.6 カ月,95%CI:0.42-0.65,P<0.001)13)およびOS はHR 0.68(99.73%CI:0.47-0.997,P=0.0025)14)で,デュルバルマブ群はプラセボ群に対してPFS およびOS をともに有意に延長した。また,更新された報告による4 年生存率は,デュルバルマブ群で49.6%,プラセボ群で36.3%,OS 中央値は47.5 カ月vs 29.1 カ月であった15)。患者報告アウトカムの評価では,投与開始から12 カ月後までの咳,呼吸困難感,胸痛,倦怠感,食欲不振,身体機能,全般的な健康度について両群ともに臨床的意義のある変化は認められなかった16)。従来,weekly CBDCA+PTX,CDDP+PEM 等を用いた同時化学放射線療法では同じ薬剤を用いた地固め療法が実施されている。本試験では放射線治療の終了後デュルバルマブまたはプラセボを42 日以内に投与する試験デザインで実施されたため,同じ薬剤を用いた地固め療法は行わずに,デュルバルマブ群またはプラセボ群に割り付けられている。

なお,PD-L1 発現別の解析も報告されており,PD-L1 陰性例のPFS はHR 0.73(95%CI:0.48-1.11)であり,OS のHR は1.36(95%CI:0.79-2.34)であった14)。しかしこの結果は,事前に予定されていなかった少数例(29.2%)の探索的な事後解析結果であり,PD-L1 発現毎による効果の違いは明らかでない。

毒性に関して,放射線肺臓炎/肺炎はデュルバルマブ群32.8%,プラセボ群23.5%で認められ,Grade 3 以上の放射線肺臓炎/肺炎については,デュルバルマブ群4.4%,プラセボ群4.3%で認められた14)。また,Grade 3 以上の免疫学的有害事象についてはデュルバルマブ群3.4%,プラセボ群2.6%であった13)

上記試験における日本人サブグループの毒性解析も報告されている。日本人集団における放射線肺臓炎は,デュルバルマブ群73.6%,プラセボ群60.0%であった。そのうち,Grade 3/4 の放射線肺臓炎は,デュルバルマブ群5.6%,プラセボ群2.5%であった。Grade 5 の放射線肺臓炎については,デュルバルマブ群1.4%,プラセボ群2.5%で認められた17)

以上のように,デュルバルマブによる地固め療法は,PFS,OS ともにプラセボに対して優越性を示しており,同時化学放射線療法後,病勢がコントロールされている切除不能Ⅲ期非小細胞肺癌を対象としたデュルバルマブによる地固め療法を行うよう推奨する。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:放射線治療及び集学的治療小委員会・薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2019 年

CQ42
化学療法併用時の適切な照射法は何か?

エビデンスの強さA
  1. a. 総線量は通常分割で少なくとも60 Gy を用いるよう推奨する

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

エビデンスの強さB
  1. b. 74 Gy の高線量照射は行わないよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

エビデンスの強さB
  1. c. 標的病変に十分な線量を投与し,かつ正常臓器の毒性を低減するような照射野の設定を推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

  1. a. 化学療法に放射線療法を併用する場合の照射方法は,化学療法と放射線を併用するタイミングを検討する試験,同時化学放射線療法における化学療法の比較や地固め化学療法を比較した試験に用いられた放射線療法の分割照射法・投与線量がすべて1 回1.8~2 Gy で週5 回,計59.4~66 Gy であったことを元としている。CDDP+VBL 同時併用放射線療法,遂時放射線照射,CDDP+ETP と同時過分割照射(計69.6 Gy)を比較した試験でも,過分割照射の有用性は証明されていない6)。また,本邦で行われた第三世代以降の細胞傷害性抗癌薬を併用した化学放射線療法に関する第Ⅲ相試験で用いられた放射線治療は1 回2 Gy で週5 回,計30 回,総線量60 Gy である8)9)

    以上より,化学療法に放射線治療を併用する場合においても,放射線単独療法と同じ最低推奨照射線量は安全性の観点から同時に照射が可能であり,通常分割で60 Gy を最低総線量とするよう勧められる。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  2. 投票者の所属委員会:放射線治療及び集学的治療小委員会・薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年
  3. b. 近年のCT 治療計画による3D-CRT の普及により,予防的リンパ節照射(ENI)を省く病巣部照射野(IF)を用いた高線量照射が試みられるようになった18)19)。米国で施行されたIF を用いた標準線量60 Gy と高線量74 Gy を比較した第Ⅲ相試験で,OS はHR 1.35(28.7 カ月vs 20.3 カ月,95%CI:1.08-1.69)と高線量74 Gyで不良であった19)20)

    以上より,化学放射線療法において74 Gy の高線量照射は行わないよう勧められる。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行わないよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  4. 投票者の所属委員会:放射線治療及び集学的治療小委員会・薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年
  5. c. 照射野の設定法に関する臨床試験は乏しく,領域リンパ節転移を評価項目とした遡及的な検討を含めたメタアナリシスが1 つ報告されているのみである21)。米国内で過去に施行された臨床試験のプール解析ではIF を用いて治療が施行された症例のほうが,ENI で治療が施行された症例よりも生存率が有意に良好で,Grade 4 以上の肺臓炎の出現頻度も低いと報告された22)23)。しかしながら,これら2 つの解析では年代によって照射野が異なり,IF およびENI の照射野の設定法も一定ではなく,線量も異なっている。一方,前述の第Ⅲ相試験結果とその二次解析を含めた検討では,心臓への照射線量や食道炎の重症度と予後との相関が報告された19)20)24)

    以上より,化学放射線療法における照射野は標的病変に十分な線量を投与し,かつ正常臓器の毒性を低減するような照射野とし治療を行うことが勧められる。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  6. 投票者の所属委員会:放射線治療及び集学的治療小委員会・薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2019 年

引用文献

1)
Pritchard RS, Anthony SP. Chemotherapy plus radiotherapy compared with radiotherapy alone in the treatment of locally advanced, unresectable, non-small-cell lung cancer. A meta-analysis. Ann Intern Med. 1996; 125(9): 723-9.
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5)
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6)
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Aupérin A, Le Péchoux C, Rolland E, et al. Meta-analysis of concomitant versus sequential radiochemotherapy in locally advanced non-small-cell lung cancer. J Clin Oncol. 2010; 28(13): 2181-90.
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9)
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10)
Liang J, Bi N, Wu S, et al. Etoposide and cisplatin versus paclitaxel and carboplatin with concurrent thoracic radiotherapy in unresectable stage Ⅲ non-small cell lung cancer: a multicenter randomized phase Ⅲ trial. Ann Oncol. 2017; 28(4): 777-83.
11)
Senan S, Brade A, Wang LH, et al. PROCLAIM: randomized phase Ⅲ trial of pemetrexed-cisplatin or etoposide-cisplatin plus thoracic radiation therapy followed by consolidation chemotherapy in locally advanced nonsquamous non-small-cell lung cancer. J Clin Oncol. 2016; 34(9): 953-62.
12)
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13)
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14)
Antonia SJ, Villegas A, Daniel D, et al. Overall survival with durvalumab after chemoradiotherapy in stage Ⅲ NSCLC. N Engl J Med. 2018; 379(24): 2342-50.
15)
Gray JE, Villegas A, Daniel D, et al. Three-year overall survival with durvalumab after chemoradiotherapy in stage Ⅲ NSCLC-update from PACIFIC. J Thorac Oncol. 2020; 15(2): 288-93.
16)
Hui R, Özgüroğlu M, Villegas A, et al. Patient-reported outcomes with durvalumab after chemoradiotherapy in stage III, unresectable non-small-cell lung cancer(PACIFIC): a randomised, controlled, phase 3 study. Lancet Oncol. 2019; 20(12): 1670-80.
17)
Murakami S, Özgüroğlu M, Villegas A, et al. PACIFIC: A double-blind, placebo-controlled Phase Ⅲ study of durvalumab as consolidation therapy after chemoradiation in patients with locally advanced, unresectable NSCLC(ESMO Asia 2017 Congress, 403O). Ann oncol. 2017; 28(suppl_10). mdx670.
18)
Yuan S, Sun X, Li M, et al. A randomized study of involved-field irradiation versus elective nodal irradiation in combination with concurrent chemotherapy for inoperable stage Ⅲ nonsmall cell lung cancer. Am J Clin Oncol. 2007; 30(3): 239-44.
19)
Bradley JD, Paulus R, Komaki R, et al. Standard-dose versus high-dose conformal radiotherapy with concurrent and consolidation carboplatin plus paclitaxel with or without cetuximab for patients with stage ⅢA or ⅢB non-small-cell lung cancer(RTOG 0617): a randomised, two-by-two factorial phase 3 study. Lancet Oncol. 2015; 16(2): 187-99.
20)
Bradley JD, Hu C, Komaki RR, et al. Long-term results of NRG oncology RTOG 0617: standard- versus high-dose chemoradiotherapy with or without cetuximab for unresectable stage III non-small-cell lung cancer. J Clin Oncol. 2020; 38(7): 706-14.
21)
Li R, Yu L, Lin S, et al. Involved field radiotherapy(IFRT)versus elective nodal irradiation(ENI)for locally advanced non-small cell lung cancer: a meta-analysis of incidence of elective nodal failure(ENF). Radiat Oncol. 2016; 11(1): 124.
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Schild SE, Fan W, Stinchcombe TE, et al. Toxicity related to radiotherapy dose and targeting strategy: a pooled analysis of cooperative group trials of combined modality therapy for locally advanced non-small cell lung cancer. J Thorac Oncol. 2019; 14(2): 298-303.
24)
Chun SG, Hu C, Choy H, et al. Impact of intensity-modulated radiation therapy technique for locally advanced non-small-cell lung cancer: a secondary analysis of the NRG oncology RTOG 0617 randomized clinical trial. J Clin Oncol. 2017; 35(1): 56-62.

6-1-2.放射線単独療法

CQ43
切除不能のⅢ期非小細胞肺癌で化学療法併用不能なものに対して,放射線単独療法は勧められるか?

エビデンスの強さC
放射線単独療法を行うよう勧められる。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

無症状のⅢ期非小細胞肺癌240 人を対象に,A 群:通常照射(50 Gy/25 回/5 週),B 群:小分割照射(40 Gy/10 回/5 週,3 週間の休止期間を含む),C 群:症状が出るまで無治療で,症状が出たら姑息照射を行う3 群のランダム化比較試験が行われ,2 年生存率は,A 群18%,B 群6%,C 群0%と通常照射群の生存率が有意に良好であった1)

以上より,切除不能のⅢ期非小細胞肺癌で化学療法併用不能なものに対する放射線単独療法は1 本のランダム化比較試験の結果のみではあるが,すでにコンセンサスとして標準的に行われており勧められる。エビデンスの強さはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:放射線治療及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

CQ44
放射線治療単独時の適切な照射法は何か?

エビデンスの強さA
通常分割照射で少なくとも60 Gy を用いるよう勧められる。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

照射線量別の有効性に関する臨床試験では,60 Gy 照射された症例において低い線量が照射された症例(40 Gy あるいは50 Gy)よりも照射野内再発が有意に低率であった。さらに,3 年生存率は有意な差とはならなかったものの,60 Gy 照射例で良好な結果であった2)。また,放射線単独で線量分割をランダム化比較した英国の4 つの臨床試験と,米国の第Ⅲ相試験との検討では3),放射線単独治療では,線量が正常組織反応および局所制御率と相関していた。一方,線量が70 Gy を超える領域に関して,T1-3N2M0 のⅢ期非小細胞肺癌を対象とした60 Gy から79.2 Gy までの過分割照射のランダム化比較試験では,OS 中央値や年次生存率は60 Gy から69.6 Gy まで線量が増加するほど改善する傾向にあったが,70 Gy 以上では改善は認められず,有害事象によっては線量増加に従って増える傾向が認められた4)

通常分割以外の照射方法に関しては,1 日に複数回照射する過分割照射や照射期間を短縮する加速照射に関する試験が行われた5)~7)。扁平上皮癌における連続加速過分割照射の優位性が報告されたが,それ以外の組織型における有効性は示されなかった6)。この試験を含め,他の報告はいずれも海外のデータであり,有意なOS の延長は示されていない。また,本邦において土日も含めて1 日3 回照射する連続加速過分割照射は汎用性に乏しいと考えられる。

以上より,化学放射線療法の適応とならない切除不能のⅢ期非小細胞肺癌に放射線単独療法を行う際には通常分割で少なくとも60 Gy/30 回を行うよう勧められる。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:放射線治療及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

引用文献

1)
Reinfuss M, Glinski B, Kowalska T, et al. Radiotherapy for stage Ⅲ, inoperable, asymptomatic small cell lung cancer. Final results of a prospective randomized study(240 patients). Cancer Radiother. 1999; 3(6): 475-9.
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3)
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4)
Cox JD, Azarnia N, Byhardt RW, et al. A randomized phase Ⅰ/Ⅱ trial of hyperfractionated radiation therapy with total doses of 60.0 Gy to 79.2 Gy: possible survival benefit with greater than or equal to 69.6 Gy in favorable patients with Radiation Therapy Oncology Group stage Ⅲ non-small-cell lung carcinoma: report of Radiation Therapy Oncology Group 83-11. J Clin Oncol. 1990; 8(9): 1543-55.
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Ball D, Bishop J, Smith J, et al. A randomised phase Ⅲ study of accelerated or standard fraction radiotherapy with or without concurrent carboplatin in inoperable non-small cell lung cancer: final report of an Australian multi-centre trial. Radiother Oncol. 1999; 52(2): 129-36.
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Saunders M, Dische S, Barrett A, et al. Continuous, hyperfractionated, accelerated radiotherapy(CHART)versus conventional radiotherapy in non-small cell lung cancer: mature data from the randomized multicentre trial. CHART Steering committee. Radiother Oncol. 1999; 52(2): 137-48.
7)
Bonner JA, McGinnis WL, Stella PJ, et al. The possible advantage of hyperfractionated thoracic radiotherapy in the treatment of locally advanced nonsmall cell lung carcinoma: results of a North Central Cancer Treatment Group Phase Ⅲ Study. Cancer. 1998; 82(6): 1037-48.

6-2
肺尖部胸壁浸潤癌

CQ45
切除可能な肺尖部胸壁浸潤癌(臨床病期T3-4N0-1)に対して,どのような治療が勧められるか?

エビデンスの強さC
術前化学放射線療法後に外科治療を実施する集学的治療を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:92%〕

解説

肺尖部胸壁浸潤癌(SST)に対する術前化学放射線療法+手術治療の第Ⅱ相試験では1),術前治療のnon PD 率は86%,完全切除率が75%であり,長期経過観察によるOS 中央値は36 カ月で5 年生存率は44%であった。また,国内でもSST に対する術前化学放射線療法+手術治療の第Ⅱ相試験(JCOG9806 試験)が行われ,術前治療のORR は61%で完全切除率は68%,全例の5 年生存率が56%であった2)。放射線治療についてはいずれの試験においても,原発巣および同側の鎖骨上窩に限局した照射野で行われ,総線量は45 Gy/25 回であった。併用した化学療法はCDDP+ETP 療法,MVP 療法であり,第三世代の細胞傷害性抗癌薬は用いられていない。一方,国内で胸壁浸潤癌に対する術前化学放射線療法後+外科切除の第Ⅱ相試験(CJLSG0801 試験)が行われた。この試験では,第三世代細胞傷害性抗癌薬を用いたCDDP+VNR 療法が化学療法として併用され,登録された48 例中16 例がSST であった。全体集団における術前治療のORR 51%,完全切除率は92%であり,5 年生存率は62.6%であった3)

SST に対する術後化学放射線療法に関して,手術治療+術後化学放射線療法の第Ⅱ相試験が実施され,完全切除率は72%で全例の5 年生存率が50%であった4)。しかしながら,本試験では,エントリー時の手術の可否基準が不明確であることに加え,登録期間が1994~2007 年までと長く,症例数も少ないため,研究の質に問題があると考えられる。

以上より,切除可能な肺尖部胸壁浸潤癌(臨床病期T3-4N0-1)に対して術前化学放射線療法後に外科治療を実施する集学的治療を行うよう勧められる。エビデンスの強さはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。なお,術前化学放射線療法後に外科治療を実施する集学的治療については実施可能性の検討を含め専門医施設で行うことを考慮する。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

引用文献

1)
Rusch VW, Giroux DJ, Kraut MJ, et al. Induction chemoradiation and surgical resection for superior sulcus non-small-cell lung carcinomas: long-term results of Southwest Oncology Group Trial 9416(Intergroup Trial 0160). J Clin Oncol. 2007; 25(3): 313-8.
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Gomez DR, Cox JD, Roth JA, et al. A prospective phase 2 study of surgery followed by chemotherapy and radiation for superior sulcus tumors. Cancer. 2012; 118(2): 444-51.

レジメン
Ⅲ期非小細胞肺癌の同時併用

Ⅳ期非小細胞肺癌

ECOG(Eastern Cooperative Oncology Group)Performance Status

高齢者の定義

現在本邦では,高齢者人口の増加に伴い高齢の肺癌患者が増加している。全国がん登録による罹患データ(2016~17 年)によると,肺癌の罹患年齢のピークは70~75 歳であり,約半数が70 歳以上である。日本の従来の臨床試験では,75 歳以上の肺癌患者は除外されることが多かった。近年実施された高齢肺癌患者を対象とする国内第Ⅲ相試験では,70 歳以上を対象として実施されたものでも75 歳以上の登録例が多く,75 歳以上を対象として行われたものもあり,75 歳以上の肺癌患者でも治療機会が増えている。

以上より,本ガイドラインでは非小細胞肺癌において「75 歳以上」を高齢者と定義する。

合意率および推奨率

肺癌診療ガイドラインでは,GRADE アプローチに基づく推奨度の決定を作成委員間の投票で行っている。投票結果に応じて推奨度を決定しており,そのうち最も投票率が高かった項目の割合を合意率としてCQ 内に記載している。ただし,Ⅳ期非小細胞肺癌の領域に限っては,特に下記のCQ (CQ525759606671)について,1 つのCQ に対し推奨度の異なる治療法が含まれるため合意率の記載のみでは投票結果を推奨度に反映できない。そのため,推奨率(推奨1“強”+推奨2“弱”[提案]の割合)を追記した。なお,投票結果の詳細はCQ の巻末に提示しているため詳細を確認いただきたい。

総論
Ⅳ期非小細胞肺癌における薬物療法の意義とサブグループ別の治療方針

解説

Ⅳ期非小細胞肺癌で用いられる薬物療法においては,長らく細胞傷害性抗癌薬がその中心を担ってきた。細胞傷害性抗癌薬を用いた治療により有意に生存を延長させることが示されている1)。これは1 年生存率にして9%(20%から29%)の改善,もしくは約1.5 カ月のOS 延長に相当する。第三世代細胞傷害性抗癌薬を用いた検討では,第三世代細胞傷害性抗癌薬単剤療法でも緩和治療に比して1 年生存率で約7%の改善がみられたことが示されている2)。毒性については,別のメタアナリシスで進行非小細胞肺癌における細胞傷害性抗癌薬の治療関連死が1.26%であったと報告されており,その内訳は発熱性好中球減少,虚血や血栓などの心血管系の毒性,肺炎や間質性肺疾患などの肺毒性であった3)。QOL に関しては,第三世代細胞傷害性抗癌薬単剤は緩和治療と比較してQOL を改善させることが報告されている4)。また,第三世代細胞傷害性抗癌薬にプラチナ製剤を追加する治療を行うことの意義を評価した第Ⅲ相試験では,プラチナ製剤と第三世代細胞傷害性抗癌薬を使用した治療がOS・PFS 延長を示すと同時にQOL は同等であったと報告されている5)

一方,2000 年代以降になって分子標的治療薬・免疫チェックポイント阻害薬といった新規治療が登場し,これらは細胞傷害性抗癌薬との比較によってその有効性を示している。

分子標的治療薬の多くはEGFR 遺伝子変異,ALK 融合遺伝子などといった癌発生の直接的な原因となるようなドライバーと称される遺伝子変異/転座に対する阻害薬である。全身状態良好で,これらドライバー遺伝子の変異/転座を有する患者に対して,それぞれのキナーゼ阻害薬を投与することでORR の増加,PFS の延長などの有効性が報告されている。EGFR 遺伝子変異,ALK 融合遺伝子では細胞傷害性抗癌薬と比較した第Ⅲ相試験が実施され,キナーゼ阻害薬を用いた治療のほうが細胞傷害性抗癌薬に比して有効であることが報告されている(CQ46)。頻度の少ないEGFR のuncommon mutation,その他のドライバー遺伝子(ROS1,BRAF,MET,RET)変異/転座陽性例では細胞傷害性抗癌薬と比較した第Ⅲ相試験が実施されていないが,第Ⅱ相試験などではそれぞれの阻害薬を投与することによって同程度の高い有効性が報告されている(CQ5560~63)。また多くの分子標的治療薬は一般的に細胞傷害性抗癌薬よりも毒性が軽度であることが多く,少数例の検討ながらPS 不良例における前向き試験での有効性が報告されている点も重要である(CQ47)。なお,キナーゼ阻害薬の適応となるドライバー遺伝子変異/転座陽性例は腺癌症例に多く認められるが,扁平上皮癌症例やその他の組織型においても認められることがある。ドライバー遺伝子変異/転座陽性の扁平上皮癌を有する患者に対するキナーゼ阻害薬の治療成績はエビデンスに乏しく,さらに非扁平上皮癌症例と比較すると劣る傾向にある。しかしながら奏効例の報告もみられるため,いずれかのタイミングでキナーゼ阻害薬の投与を検討すべきである。

2015 年以降,本邦で使用可能となった免疫チェックポイント阻害薬は,細胞傷害性抗癌薬や分子標的治療薬と異なる作用機序を有する新規薬で,腫瘍免疫における負の調節因子であるPD-1 やCTLA-4 などの免疫チェックポイント分子を標的とした抗体薬である。PS 0-1 でEGFR 遺伝子変異,ALK 融合遺伝子を有さない,PD-L1 TPS が50%以上の非小細胞肺癌を対象としたPD-1 阻害薬(ペムブロリズマブ)とプラチナ製剤併用療法の第Ⅲ相試験(KEYNOTE-024 試験)では,ペムブロリズマブ群においてORR,PFS,OS の有意な改善が示され,毒性も忍容可能であった(CQ66)。さらに,進行非小細胞肺癌を対象として細胞傷害性抗癌薬(プラチナ製剤併用療法)にPD-1/PD-L1 阻害薬やCTLA-4 阻害薬を併用した治療を評価した複数の第Ⅲ相試験(CQ71)が報告されており,高い有効性が示されている。

以上,全身状態良好なⅣ期非小細胞肺癌患者に対しては薬物療法(細胞傷害性抗癌薬,分子標的治療薬,免疫チェックポイント阻害薬)が緩和治療に比してOS を延長し,QOL も改善することが示されている。治療方針の決定に際して,分子標的治療薬では腫瘍におけるドライバー遺伝子の変異/転座の有無を,ペムブロリズマブではPD-L1 の発現状態を確認する必要があり,これらの薬剤を適切なタイミングで使用するためには組織,病期診断と並行して目の前の患者が,1)ドライバー遺伝子変異/転座陽性例,2)ドライバー遺伝子変異/転座陰性のPD-L1 高発現,3)それ以外,のいずれのサブグループに属するのかを診断することが重要である。以下に各サブグループにおける治療方針を述べる。

1)ドライバー遺伝子変異/転座陽性例:CQ46~65

ドライバー遺伝子変異/転座陽性例では前述したようにそれぞれのキナーゼ阻害薬を用いた治療によってORR,PFS の改善が報告されている。なおこれらの第Ⅲ相試験では,プラチナ製剤併用療法の後治療としてキナーゼ阻害薬治療へのクロスオーバーが高率に行われたために,OS の有意な差は示されていない。EGFR 遺伝子変異陽性例の大規模研究において,一次から三次治療のエルロチニブ単剤のPFS に有意差を認めないことが報告されており6),キナーゼ阻害薬と細胞傷害性抗癌薬の投与順序に関して,現時点で明確な結論はない。しかしながら,米国で行われた前向き観察研究では,733 例を対象に10 遺伝子について解析し,466 例(64%)にドライバー遺伝子変異/転座を認めたが,ドライバー遺伝子変異/転座があり,それを標的とした治療薬を使用した260 例のOS 中央値は3.5 年であったのに対し,ドライバー遺伝子変異/転座があったにもかかわらず,それを標的とした治療をしていない患者のOS 中央値は2.4 年であった(propensity score-adjusted hazard ratio:0.69,95%CI:0.53-0.9,P=0.006)7)

以上より,ドライバー遺伝子変異/転座陽性例に対してキナーゼ阻害薬の投与機会を逸しないことは重要であり,細胞傷害性抗癌薬よりも優先して投与することを推奨する。なお,本ガイドラインにおけるドライバー遺伝子変異/転座は,現時点で治療標的となる薬剤が承認されている以下の遺伝子異常(EGFR 遺伝子変異,ALK 融合遺伝子,ROS1 融合遺伝子,BRAF 遺伝子変異,MET 遺伝子変異,RET 融合遺伝子)と定義する。増悪後の二次治療としては全身状態に応じて細胞傷害性抗癌薬が勧められる(CQ68~70)。ドライバー遺伝子変異/転座陽性例に対する免疫チェックポイント阻害薬についてはCQ5051 を参照のこと。

2)ドライバー遺伝子変異/転座陰性のPD-L1 高発現:CQ6667

PD-1/PD-L1 阻害薬の高い臨床効果が期待できるサブグループであり,初回治療としてペムブロリズマブ単剤療法もしくはアテゾリズマブ単剤療法を行うよう勧められる。また,プラチナ製剤併用療法にPD-1/PD-L1 阻害薬を併用した治療やニボルマブ+イピリブマブにプラチナ製剤併用療法を併用した治療も勧められる。上記の治療増悪後の二次治療としては,全身状態に応じて細胞傷害性抗癌薬を用いた治療を行うよう勧められる。

3)ドライバー遺伝子変異/転座陰性,PD-L1 TPS 50%未満,もしくは不明:CQ68~80

このサブグループに対する一次治療として,分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬単剤療法が細胞傷害性抗癌薬よりも有効であることは示されていない。一方で,プラチナ製剤併用療法にPD-1/PD-L1 阻害薬を併用した治療もしくはニボルマブ+イピリブマブにプラチナ製剤併用療法を併用した治療は,プラチナ製剤併用療法のみと比較し有意な生存延長効果を示しており,プラチナ製剤併用療法の対象で,かつ免疫チェックポイント阻害薬を併用した治療が可能な症例はこれらの多剤併用療法が勧められる。

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7-1
ドライバー遺伝子変異/転座陽性

7-1-1.遺伝子変異/転座陽性の治療方針

CQ46
全身状態良好(PS 0-1)なドライバー遺伝子変異/転座陽性例に対する最適な一次治療は何か?

エビデンスの強さA
ドライバー遺伝子(EGFR,ALK,ROS1,BRAF,MET,RET)変異/転座を有するPS 0-1 の患者に,それぞれの遺伝子変異/転座を標的とするキナーゼ阻害薬の治療を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

非小細胞肺癌におけるEGFR 遺伝子変異,ALK 融合遺伝子,ROS1 融合遺伝子,BRAF 遺伝子変異,MET 遺伝子変異,RET 融合遺伝子は癌発生の直接的な原因となるような遺伝子変異/転座であり,本ガイドラインではこれらの遺伝子をドライバー遺伝子と総称する。全身状態良好で,これらドライバー遺伝子の変異/転座を有する患者に対して,それぞれの遺伝子変異/転座を標的とするキナーゼ阻害薬治療によるORR の増加,PFS の延長などの有効性が報告されている。EGFR 遺伝子変異,ALK 融合遺伝子では細胞傷害性抗癌薬との比較試験が実施され,キナーゼ阻害薬のほうがより有効であることが報告されている1)~8)。EGFRのuncommon mutation(CQ55),ROS1 融合遺伝子(CQ60),BRAF 遺伝子変異(CQ61),MET 遺伝子変異(CQ62),RET 融合遺伝子(CQ63)は,患者数が少ないために細胞傷害性抗癌薬との第Ⅲ相試験は報告されておらず,2021 年7 月時点で,第Ⅲ相試験のサブグループ解析,第Ⅱ相試験の結果のみが公表されている。これらの結果では,それぞれのドライバー遺伝子に応じたキナーゼ阻害薬によって高い有効性が示されている9)~16)。米国で行われた前向き観察研究では,733 例を対象に10 遺伝子について解析し,466 例(64%)にドライバー遺伝子変異/転座を認めたが,ドライバー遺伝子変異/転座があり,それを標的としたキナーゼ阻害薬を使用した260 例のOS 中央値は3.5 年であったのに対し,ドライバー遺伝子変異/転座があったにもかかわらず,それを標的とした治療をしていない患者のOS 中央値は2.4 年であった(propensity score-adjusted HR 0.69,95%CI:0.53-0.9,P=0.006)17)。ドライバー遺伝子変異/転座に対する免疫チェックポイント阻害薬のデータは乏しいが,現時点でキナーゼ阻害薬の効果を上回るものではない(CQ51)。

なお,これらの試験では後治療としてクロスオーバーが認められていることから,OS の差は示されておらず優先順位を付けることはできない。EGFR 遺伝子変異陽性例の大規模研究において,一次から三次治療のエルロチニブ単剤のPFS に有意差を認めないことが報告されており18),EGFR-TKI 単剤と細胞傷害性抗癌薬の投与順序に関しては,現時点で明確な結論はない。ALK 融合遺伝子陽性に対するALK-TKI(クリゾチニブ)単剤と細胞傷害性抗癌薬を比較した第Ⅲ相試験では,長期OS データの生存曲線においてALK-TKI 群が上回っているものの有意差は示されなかった(HR 0.76,95%CI:0.548-1.053)19)。毒性についてはキナーゼ阻害薬で軽い傾向にあるものの,薬剤により毒性のプロファイルおよび程度が異なる。

以上より,ドライバー遺伝子(EGFR,ALK,ROS1,BRAF,MET,RET)変異/転座を有するPS 0-1 の患者には,それぞれの遺伝子変異/転座を標的とするキナーゼ阻害薬を用いた治療を行うことが勧められる。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

CQ47
PS 2-4 のドライバー遺伝子変異/転座陽性例に対する最適な一次治療は何か?

エビデンスの強さC
  1. a. ドライバー遺伝子(EGFR,ALK,ROS1,BRAF,MET,RET)変異/転座を有するPS 2 の患者に,それぞれの遺伝子変異/転座を標的とするキナーゼ阻害薬の治療を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:96%〕

エビデンスの強さC
  1. b. ドライバー遺伝子(EGFR,ALK,ROS1,BRAF,MET,RET)変異/転座を有するPS 3-4 の患者に,それぞれの遺伝子変異/転座を標的とするキナーゼ阻害薬の治療を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:93%〕

解説

  1. a. EGFR 遺伝子変異陽性やALK 融合遺伝子陽性の患者を対象とした細胞傷害性抗癌薬との比較試験にもPS 2 の患者が5~10%程度含まれており,PS 0-1 と同等の有効性が示されている3)4)7)8)。また,EGFR 遺伝子変異陽性の患者に対するゲフィチニブや,ALK 融合遺伝子陽性の患者に対するアレクチニブはPS 不良例に対する有効性が報告されている20)21)

    PS 2 のEGFRのuncommon mutation,ROS1 融合遺伝子,BRAF 遺伝子変異,MET 遺伝子変異,RET 融合遺伝子陽性例に関するデータは患者数が少ないために限られているが,EGFR やALK の結果を鑑みて,キナーゼ阻害薬による治療を行うよう推奨される。

    以上より,ドライバー遺伝子(EGFR,ALK,ROS1,BRAF,MET,RET)変異/転座を有するPS 2 の患者には,それぞれの遺伝子変異/転座を標的とするキナーゼ阻害薬を用いた治療が勧められる。エビデンスの強さはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  2. b. PS 3-4 のEGFR 遺伝子変異陽性の患者を対象としたゲフィチニブや,ALK 融合遺伝子陽性の患者を対象としたアレクチニブはPS 不良例に対する有効性が報告されており,患者数はそれぞれ22 例,6 例と少ないが,安全性について大きな問題は認められなかった20)21)。なお,ゲフィチニブの検討ではORR が66%,79%の患者でPS の改善を認めており,アレクチニブの検討では6 例中のすべての症例でPS の改善を認めている。

    PS 3-4 のROS1 融合遺伝子,EGFRのuncommon mutation,BRAF 遺伝子変異,MET 遺伝子変異,RET 融合遺伝子陽性例に関するデータはPS 2 よりもさらに限られていたり,データがないものもあるが,PS 2 と同様に有効性が期待され得る。一方,キナーゼ阻害薬によって有害事象の頻度やプロファイルは様々であり,全身状態良好例においてさえも高い頻度で休薬・減量を必要とする薬剤が存在するため,PS 3-4 で用いる場合はより一層の注意が必要である。

    以上より,ドライバー遺伝子(EGFR,ALK,ROS1,BRAF,MET,RET)変異/転座を有するPS 3-4 の患者には,それぞれの遺伝子変異/転座を標的とするキナーゼ阻害薬を用いた治療が勧められる。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  3. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

CQ48
75 歳以上のドライバー遺伝子変異/転座陽性例に対する最適な一次治療は何か?

エビデンスの強さC
ドライバー遺伝子(EGFR,ALK,ROS1,BRAF,MET,RET)変異/転座を有する75歳以上の患者に,それぞれの遺伝子変異/転座を標的とするキナーゼ阻害薬の治療を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:96%〕

解説

75 歳以上のEGFR 遺伝子変異陽性進行非小細胞肺癌を対象とした国内でのゲフィチニブ単剤の第Ⅱ相試験(NEJ003 試験)において,ORR 74%,PFS 中央値12.3 カ月と若年者と同等の有効性と安全性が報告されている22)。エルロチニブ単剤については国内での第Ⅱ相試験(JO22903 試験)において,75 歳超と75 歳以下で同等の有効性が示されている23)

EGFR のuncommon mutation,ALK 融合遺伝子,ROS1 融合遺伝子,BRAF 遺伝子変異,MET 遺伝子変異,RET 融合遺伝子陽性例に関して,75 歳以上に対する有効性を示したサブグループのデータはないが,一般にキナーゼ阻害薬は毒性が細胞傷害性抗癌薬と比べて軽いため,高齢者に対しても比較的安全に使用できると想定される。EGFR-TKI の研究結果を鑑みて,ALK 融合遺伝子,ROS1 融合遺伝子,BRAF 遺伝子変異,MET 遺伝子変異,RET 融合遺伝子陽性例に対しては75 歳以上でもキナーゼ阻害薬を用いた治療を行うことを考慮し得る。

以上より,ドライバー遺伝子(EGFR,ALK,ROS1,BRAF,MET,RET)変異/転座を有する75 歳以上の患者には,それぞれの遺伝子変異/転座を標的とするキナーゼ阻害薬を用いた治療が勧められる。エビデンスの強さはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。ただし,薬剤による毒性には若年者より一層の注意が必要である。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

CQ49
ドライバー遺伝子変異/転座陽性例に細胞傷害性抗癌薬は勧められるか?

エビデンスの強さA
ドライバー遺伝子変異/転座陽性例の患者においても,ドライバー遺伝子変異/転座のない患者で推奨される細胞傷害性抗癌薬の治療をいずれかのタイミングで行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

ドライバー遺伝子変異/転座のある患者におけるキードラッグはキナーゼ阻害薬であるが,これまでに行われた第Ⅲ相試験では,多くの症例がキナーゼ阻害薬の前後で細胞傷害性抗癌薬の投与を受けている。後解析ではあるが,これらの第Ⅲ相試験にて細胞傷害性抗癌薬を投与されている患者の予後が良い傾向にあり24)25),本邦の大規模観察研究においても同様の傾向が認められている26)。ドライバー遺伝子変異/転座陽性例のみを対象として細胞傷害性抗癌薬とベストサポーティブケアを比較した試験は存在しないが,ドライバー遺伝子変異/転座陽性例は陰性例と比較して細胞傷害性抗癌薬の効果が明らかに劣ることを示唆するデータはないため,ドライバー遺伝子変異/転座不明例やドライバー遺伝子変異/転座陽性例を含む非小細胞肺癌患者を対象とした過去の細胞傷害性抗癌薬のエビデンスは本対象に適応できると考える(CQ68~70 参照。ただし細胞傷害性抗癌薬と免疫チェックポイント阻害薬を併用した治療についてはCQ50 参照)。

以上より,ドライバー遺伝子変異/転座のある患者においても,いずれかのタイミングで細胞傷害性抗癌薬を用いた治療を行うことが勧められる。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

CQ50
ドライバー遺伝子変異/転座陽性例に細胞傷害性抗癌薬と免疫チェックポイント阻害薬を併用した治療は勧められるか?

ドライバー遺伝子変異/転座陽性の患者にプラチナ製剤併用療法と免疫チェックポイント阻害薬を併用した治療を行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない。

〔推奨度決定不能〕

解説

一次治療における非扁平上皮非小細胞肺癌に対する,CBDCA+PTX+ベバシズマブ+アテゾリズマブ療法とCBDCA+PTX+ベバシズマブ療法を比較した第Ⅲ相試験(IMpower150 試験)のEGFR 遺伝子変異陽性のサブグループ解析において,OS 中央値 未到達vs 18.7 カ月(HR 0.61,95%CI:0.29-1.28),PFS 中央値10.2 カ月vs 6.9 カ月(HR 0.61,95%CI:0.36-1.03)とアテゾリズマブ併用群が良好な傾向を示した27)。しかし,このサブグループ解析はプロトコールであらかじめ予定されていた解析ではなく,EGFR 遺伝子変異の有無が割付調整因子に設定されていないなど解釈には注意が必要である。また,非扁平上皮非小細胞肺癌に対するCBDCA+nab-PTX+アテゾリズマブ療法とCBDCA+nab-PTX 療法を比較した第Ⅲ相試験(IMpower130 試験)のEGFR 遺伝子変異もしくはALK 融合遺伝子陽性のサブグループ解析において,PFS 中央値7.0 カ月vs 6.0 カ月(HR 0.75,95%CI:0.36-1.54),OS 中央値14.4 カ月vs 10.0 カ月(HR 0.98,95%CI:0.41-2.31)であった28)。いずれも探索的なサブグループ解析のみであり,現時点では,ドライバー遺伝子変異/転座陽性例にプラチナ製剤併用療法と免疫チェックポイント阻害薬を併用した治療を勧めるだけの根拠が明確ではないと判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者1 名を含む)/実施年度:2020 年

CQ51
ドライバー遺伝子変異/転座陽性例に免疫チェックポイント阻害薬単独療法は勧められるか?

ドライバー遺伝子変異/転座陽性例の患者に免疫チェックポイント阻害薬単独療法を勧めるだけの根拠が明確ではない。

〔推奨度決定不能〕

解説

非小細胞肺癌の一次治療において,免疫チェックポイント阻害薬の有効性を評価したほとんどの第Ⅲ相試験では,EGFR 遺伝子変異陽性,ALK 融合遺伝子陽性の患者は主要評価項目の対象集団から除外されていた。二次治療において,免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ,ペムブロリズマブ,アテゾリズマブ)とDTX の比較第Ⅱ/Ⅲ相試験を統合解析した報告の中で,EGFR 遺伝子変異陽性例における免疫チェックポイント阻害薬のDTX に対するOS はHR 1.11(95%CI:0.80-1.53,P=0.54)であり,免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療は全体集団では有効性が示されているもののEGFR 遺伝子変異陽性例において優れているという結果は示されていない29)。単施設の報告では,EGFR 遺伝子変異陽性もしくはALK 融合遺伝子陽性例における免疫チェックポイント阻害薬のORR は3.6%と低かった30)。このため,ドライバー遺伝子変異/転座陽性の患者に対する免疫チェックポイント阻害薬の治療効果は,ドライバー遺伝子変異/転座陰性の患者と比べて低い可能性がある。なお,これらの報告は対象となった症例数の少ないサブグループの結果であることに加え,EGFR 以外のドライバー遺伝子変異/転座陽性例の報告は後方視的研究に限られる。

以上より,ドライバー遺伝子変異/転座陽性例における免疫チェックポイント阻害薬の投与の可否を判断するだけの根拠が明確ではないと判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

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7-1-2.EGFR 遺伝子変異陽性

EGFR 遺伝子変異陽性の一次治療:エクソン19 欠失またはL858R 変異陽性

CQ52
PS 0-1 の場合,一次治療としてどの治療法が勧められるか?

エビデンスの強さB
  1. a. オシメルチニブ単剤療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:93%(推奨率:100%)〕

エビデンスの強さA
  1. b. ゲフィチニブ+カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:79%(推奨率:96%)〕

エビデンスの強さA
  1. c. エルロチニブに血管新生阻害薬を併用した治療を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:86%(推奨率:90%)〕

エビデンスの強さB
  1. d. ダコミチニブ単剤療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:86%(推奨率:86%)〕


エビデンスの強さA
  1. e. ゲフィチニブ,エルロチニブ,アファチニブのいずれかの単剤療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:75%(推奨率:89%)〕

* a~d とe はCQ における対照(comparisons)が異なっており,エビデンスの強さの評価において異なる基準を用いている(システマティックレビュー表を参照)。

解説

EGFR 遺伝子変異の約90%を占めるエクソン19 の欠失変異とエクソン21 のL858R 変異は,EGFR-TKI の感受性を高める。進行非小細胞肺癌を対象にしたEGFR-TKI 単剤療法(ゲフィチニブ,エルロチニブ,アファチニブ)とプラチナ製剤併用療法の第Ⅲ相試験におけるEGFR 遺伝子変異の患者はエクソン19 の欠失変異とL858R 変異に限定されているか1)~3),大部分を占めていた4)~6)。すべての試験において一貫してEGFR-TKI 単剤療法のプラチナ製剤併用療法に対するPFS の有意な延長が報告され,QOL 指標の一部が改善することも示されている7)8)

  1. a. EGFR 遺伝子変異(エクソン19 欠失またはL858R 変異)陽性,PS 0-1 のⅣ期非小細胞肺癌患者を対象として,オシメルチニブ単剤療法と第一世代EGFR-TKI 単剤療法(ゲフィチニブまたはエルロチニブ)を比較する第Ⅲ相試験(FLAURA 試験)が行われ,主要評価項目であるPFS はHR 0.46(18.9 カ月vs 10.2 カ月,95%CI:0.37-0.57,P<0.001)と有意に延長することが示され9),OS に関してもHR 0.80(38.6 カ月vs 31.8 カ月,95.05%CI:0.64-1.00,P=0.046)と有意に延長することが示された10)。なお,PFS はサブグループ別の差異を認めなかったが,OS のサブグループ解析では,アジア人やL858R 変異の集団において,それぞれのOS-HR が1.00(95%CI:0.75-1.32),1.00(95%CI:0.71-1.40)という結果であった。また毒性においても,第一世代EGFR-TKI 単剤療法では下痢57%,ざ瘡様皮疹48%,AST 上昇25%,間質性肺炎2%に対し,オシメルチニブ単剤療法では下痢58%,ざ瘡様皮疹25%,AST 上昇9%,間質性肺炎4%であり,皮疹,肝機能障害に関してはオシメルチニブのほうが軽い傾向がみられた。本試験の日本人集団においては間質性肺炎がオシメルチニブ単剤療法では12.3%(8 例/65 例),ゲフィチニブ単剤療法では1.8%(1 例/55 例)と報告されており,全体集団に比して高率であった11)

    以上より,治療効果と毒性のバランスを考慮し,EGFR 遺伝子変異(エクソン19 欠失またはL858R 変異)陽性例の一次治療としてはオシメルチニブ単剤療法を行うよう推奨する。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  2. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者1 名を含む)/実施年度:2020 年
  3. b. ゲフィチニブ+CBDCA+PEM 併用療法とゲフィチニブ単剤療法の第Ⅲ相試験(NEJ009 試験)で,主要評価項目の1 つであるPFS はHR 0.49(20.9 カ月vs 11.9 カ月,95%CI:0.39-0.62,P<0.01)であったが,PFS2においてはHR 0.99(20.9カ月vs 20.7カ月,95%CI:0.78-1.25,P=0.90)と両群間で有意差を認めなかった(*PFS2 は,ゲフィチニブ単剤療法群において,ゲフィチニブでPD になった後の次治療でPD になるまでの期間と,ゲフィチニブ+CBDCA+PEM 併用療法でPDになるまでの期間の比較)。OS の解析においては探索的検討ではあるが,HR 0.722(50.9 カ月vs 38.8 カ月)という結果であった。毒性については,併用群でGrade 3 以上の血液毒性の頻度が高く,好中球減少(31.2% vs 0.6%),貧血(21.2% vs 2.3%),血小板減少(17.1% vs 0%)であった12)。なお,海外で実施された同じデザインの第Ⅲ相試験では,主要評価項目であるPFS はHR 0.51(16 カ月vs 8 カ月,95%CI:0.39-0.66,P<0.001)であり,OS においてもHR 0.45(未到達vs 17 カ月,95%CI:0.31-0.65,P<0.001)と併用群において有意な延長がみられた。毒性については,Grade 3 以上の毒性が併用群で高く(51% vs 25%),血液毒性,腎障害,低カリウム血症の頻度が高かった13)

    以上より,EGFR 遺伝子変異(エクソン19 欠失またはL858R 変異)陽性例の一次治療としてはゲフィチニブ+CBDCA+PEM 併用療法を行うよう提案する。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  4. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者1 名を含む)/実施年度:2020 年
  5. c. エルロチニブと血管新生阻害薬の併用療法については,複数の試験が行われている。

    エルロチニブ+ベバシズマブの併用療法とエルロチニブ単剤療法のランダム化第Ⅱ相試験は2編報告されている。本邦で行われたJO25567 試験では,主要評価項目であるPFS がHR 0.54(16.0カ月vs 9.7カ月,95%CI:0.36-0.79,P=0.0015)と有意差が認められ14),OS ではHR 0.81(47.0カ月vs 47.4カ月,95%CI:0.53-1.23)であった15)。一方,米国で行われたランダム化第Ⅱ相試験では,主要評価項目であるPFS はHR 0.81(17.9 カ月vs 13.5 カ月,95%CI:0.50-1.31,P=0.39)と有意な延長が示されず,OS ではHR 1.41(32.4 カ月vs 50.6 カ月,95%CI:0.72-2.81)と上乗せ効果が乏しい傾向がみられた16)。その後,同じデザインで行われた本邦の第Ⅲ相試験(NEJ026 試験)では,主要評価項目であるPFS はHR 0.605(16.9 カ月vs 13.3 カ月,95%CI:0.417-0.877,P=0.01573)とエルロチニブ単剤療法に対しPFS を有意に延長することが示された17)が,OSはHR 1.00(95%CI:0.68-1.48)であった18)。また毒性については,併用群でベバシズマブ関連の有害事象が認められた(Grade 3 以上の高血圧が9%,蛋白尿が32%,出血性事象が26%など)17)

    エルロチニブ+ラムシルマブ併用療法とエルロチニブ+プラセボ療法を比較した第Ⅲ相試験(RELAY 試験)では,主要評価項目であるPFS がHR 0.59(19.4 カ月vs 12.4 カ月,95%CI:0.46-0.79,P<0.0001)と有意に延長することが示された。毒性については,ラムシルマブ併用群で特有の有害事象が認められており(Grade 3 以上の高血圧が24%),その他Grade 3 以上の下痢(7% vs 1%),ざ瘡様皮疹(15% vs 9%)が認められた19)

    以上より,EGFR 遺伝子変異(エクソン19 欠失またはL858R変異)陽性例の一次治療としてはエルロチニブに血管新生阻害薬を併用した治療を行うよう提案する。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  6. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者1 名を含む)/実施年度:2020 年
  7. d. EGFR 遺伝子変異(エクソン19 欠失またはL858R 変異)陽性,PS 0-1 のⅣ期非小細胞肺癌患者を対象として,ダコミチニブ単剤療法とゲフィチニブ単剤療法を比較する第Ⅲ相試験(ARCHER1050 試験)が行われ,主要評価項目であるPFSはHR 0.59(14.7 カ月vs 9.2 カ月,95%CI:0.47-0.74,P<0.0001)と,ダコミチニブ単剤療法はゲフィチニブ単剤療法に対しPFS を有意に延長することが示された20)。副次評価項目であるOS は探索的検討ではあるが,HR 0.76(34.1 カ月vs 26.8 カ月,95%CI:0.582-0.993)という結果であった21)。しかし,ゲフィチニブ単剤療法では下痢56%,爪囲炎20%,ざ瘡様皮疹29%に対し,ダコミチニブ単剤療法では下痢87%,爪囲炎62%,ざ瘡様皮疹49%であり,毒性においてはダコミチニブ単剤療法が高かった。日本人集団の報告では毒性の頻度が増えるものの,全体集団と同様であった22)

    以上より,治療効果と毒性のバランスを考慮し,EGFR 遺伝子変異(エクソン19 欠失またはL858R 変異)陽性例の一次治療としてはダコミチニブ単剤療法を行うよう提案する。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  8. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者1 名を含む)/実施年度:2020 年
  9. e. 第一世代のEGFR-TKI 単剤療法同士を直接比較した第Ⅲ相試験で優越性が示されたものはない23)。また,ランダム化第Ⅱ相試験(LUX-Lung7 試験)では,アファチニブ単剤療法がゲフィチニブ単剤療法に対して,PFS の延長を示したものの,毒性はより高度であった24)

    以上より,EGFR 遺伝子変異(エクソン19 欠失またはL858R 変異)陽性例の一次治療としてはゲフィチニブ,エルロチニブ,アファチニブのいずれかの単剤療法を行うよう提案する。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  10. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者1 名を含む)/実施年度:2020 年

CQ53
PS 2 の場合,一次治療としてどの治療法が勧められるか?

エビデンスの強さC
  1. a. EGFR-TKI 単剤療法(ゲフィチニブ,エルロチニブのいずれか)を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:86%〕

  1. b. ゲフィチニブ+カルボプラチン+ペメトレキセド併用療法を行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない。

〔推奨度決定不能〕

解説

  1. a. EGFR 遺伝子変異陽性の進行非小細胞肺癌を対象としたエルロチニブ単剤療法とプラチナ製剤併用療法の2 つの第Ⅲ相試験において,PS 2 は各々7%,14%含まれておりPS 0-1 と同等の有効性が示されている2)3)。また,ゲフィチニブ単剤療法はPS 不良例に対する有効性が報告されている25)26)。アファチニブ単剤療法,ダコミチニブ単剤療法に関しては,PS 2 に対する安全性と有効性の検討は十分ではない5)6)20)。オシメルチニブ単剤療法についても,PS 2 に対する有効性の検討は十分ではないが,ゲフィチニブ単剤療法やエルロチニブ単剤療法と比較しても間質性肺疾患以外の毒性は軽度であり,使用を考慮し得る9)

    以上より,PS 2 の場合,EGFR 遺伝子変異(エクソン19 欠失またはL858R 変異)陽性例の一次治療としては,毒性を考慮したうえで,ゲフィチニブまたはエルロチニブのいずれかのEGFR-TKI 単剤療法が勧められる。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  2. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者1 名を含む)/実施年度:2020 年
  3. b. 海外で実施されたゲフィチニブ+CBDCA+PEM 併用療法とゲフィチニブ単剤療法の第Ⅲ相試験において,PS 2 は21~22%含まれており,探索的な解析においてPFS のHR は0.57(95%CI:0.33-0.98)で,併用群において良い傾向が示された13)。一方で,Grade 3 以上の毒性の頻度は,併用群で58%,単剤群で28%であり,併用群で毒性の頻度が有意に高いことが報告されている27)。なお,前述した試験は海外の単施設で実施されたものであり,バイアスリスクが高く結果に影響を与えている可能性があり,本試験の結果を本邦の日常診療に反映することが可能か小委員会の中でも意見が分かれた。

    協議の結果,PS 2 の場合,EGFR 遺伝子変異(エクソン19 欠失またはL858R 変異)陽性例の一次治療において,ゲフィチニブ+CBDCA+PEM 併用療法の投与の可否を判断するだけの根拠が明確ではないと判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  4. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者1 名を含む)/実施年度:2020 年

CQ54
PS 3-4 の場合,一次治療としてどのEGFR-TKI が勧められるか?

エビデンスの強さC
ゲフィチニブ単剤療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:75%〕

解説

EGFR 遺伝子高感受性変異陽性でPS 3-4 が大多数を占める予後不良群を対象としてゲフィチニブの投与を評価する第Ⅱ相試験(NEJ001 試験)が行われ,約80%の患者でPS が改善し,ORR 66%,OS 中央値17.8 カ月,PFS 中央値6.5 カ月と極めて良好な治療効果が得られた25)。一方,PS不良,男性,喫煙歴,既存の間質性肺炎,正常肺領域が少ない患者,心疾患を合併した患者などで間質性肺疾患発症のリスクが高いことが報告されており28)29),慎重な検討も必要である。なお,ガイドライン検討委員会薬物療法及び集学的治療小委員会では,特にPS 4 に対する投与の是非について議論がなされた。このような集団においては益の評価項目としてPS や症状の改善は重要であり,EGFR-TKI 単剤療法によってこれらの改善が期待されるものであるのかを十分吟味する必要がある。

以上より,PS 3-4 の場合,EGFR 遺伝子変異(エクソン19 欠失またはL858R 変異)陽性例の一次治療としては,ゲフィチニブ単剤療法が勧められる。エビデンスの強さはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

EGFR 遺伝子変異陽性の一次治療:エクソン18-21 変異(エクソン19 欠失・L858R 変異を除く)

CQ55
PS 0-1 の場合,一次治療としてEGFR-TKI が勧められるか?

エビデンスの強さC
  1. a.エクソン18-21 の遺伝子変異(エクソン19 欠失・L858R 変異・エクソン20 の挿入変異・T790M 変異以外)にはEGFR-TKI 単剤療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:78%〕

エビデンスの強さC
  1. b.エエクソン20 の挿入変異にはEGFR-TKI 療法を行わないよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:70%〕

エビデンスの強さD
  1. c.EGFR-TKI 未治療のT790M 変異にオシメルチニブ単剤療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:67%〕

※EGFR 遺伝子変異の種類,検査法などの詳細については「肺癌患者におけるEGFR 遺伝変異検査の手引き」(日本肺癌学会)を参照

※uncommon mutation がある場合は,エクソン19 の欠失とL858R 変異が同時にあったとしても,uncommon mutation に分類する。

解説

  1. a. EGFR 遺伝子変異の約90%をエクソン19 の欠失変異,エクソン21 のL858R 変異が占める。その他の遺伝子変異はuncommon mutation と称され,エクソン18-21 にわたり(E709X,G719X,S768I,P848L,L861Q,エクソン19 の挿入変異など)が報告されている30)。これらの変異でもEGFR-TKI の感受性を有する変異はあるが,ORR はやや劣ると報告されている31)。また,過去の第Ⅲ相試験の多くは,これらの変異が除外されている1)~3)か,含まれたとしても全体の1 割程度にすぎない4)~6)

    T790M とエクソン20 の挿入変異以外のuncommon mutation では,EGFR-TKI 単剤療法の効果が報告されている。ゲフィチニブ単剤療法,エルロチニブ単剤療法の後方視的検討では,ORR は48.4%,PFS 中央値は5.0 カ月31),アファチニブ単剤療法の3 つの前向き試験のプール解析では,ORR は71.1%,PFS 中央値は10.7 カ月と報告されている32)。また,海外で実施されたuncommon mutation に対するオシメルチニブ単剤療法の第Ⅱ相試験(KCSG-LU15-09 試験)では,ORR は50%(95%CI:33-67%),PFS 中央値は8.2 カ月であった33)。ただし,それぞれの報告でuncommon mutation の頻度や治療効果が異なっていることから,これらの結果をもとに各EGFR-TKI を比較することは根拠に乏しいと考えられる。

    以上より,エクソン18-21 の遺伝子変異(エクソン19 欠失・L858R 変異・エクソン20 の挿入変異・T790M 変異以外)陽性例に対しては,ゲフィチニブ,エルロチニブ,アファチニブ,オシメルチニブのいずれかのEGFR-TKI 単剤療法が勧められる。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  2. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者1 名を含む)/実施年度:2020 年
  3. b. エクソン20 の挿入変異の報告は少なくEGFR-TKI 単剤療法のORR も10%弱であることから,一次治療としてEGFR-TKI 療法が有効とは判断できない32)34)

    以上より,エクソン20 の挿入変異陽性例に対しては,EGFR-TKI 療法は勧められない。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行わないよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  4. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年
  5. c. EGFR-TKI による治療の前にT790M 変異陽性の患者の報告は少なく,前述のFLAURA 試験でもT790M 変異を認めたのは556 例中5 例のみであった。なお,オシメルチニブ単剤療法の第Ⅰ相試験では未治療のT790M 変異陽性の患者7 例中6 例で部分奏効を認めている35)。EGFR-TKI 未治療のT790M 変異に対するデータは限られているが,既治療のT790M 変異陽性に対するオシメルチニブ単剤療法の効果は第Ⅲ相試験でも示されており,未治療例においても効果が期待できると考えられる。

    以上より,EGFR-TKI 未治療のT790M 変異陽性例に対しては,オシメルチニブ単剤療法が勧められる。エビデンスの強さはD,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  6. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

EGFR 遺伝子変異陽性の二次治療以降

CQ56
一次治療EGFR-TKI耐性または増悪後のT790M 変異陽性例に対する最適な二次治療は何か?

エビデンスの強さB
オシメルチニブ単剤療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

*オシメルチニブを一次治療で用いた場合には当該CQ には当てはまらない。

※T790M 変異陰性もしくは不明の場合,「遺伝子変異/転座陰性,PD-L1 TPS 50%未満,もしくは不明の一次治療」に準じて細胞傷害性抗癌薬を用いた治療(CQ68~70)が勧められる。

解説

オシメルチニブは,活性型EGFR 遺伝子変異と耐性変異であるEGFR T790M 変異の両方を阻害する第三世代EGFR-TKI である。第一・二世代のEGFR-TKI による治療の後にT790M 変異陽性となった患者を対象にオシメルチニブ単剤療法とプラチナ製剤併用療法(CDDP またはCBDCA+PEM 療法)を比較した第Ⅲ相試験(AURA3 試験)が報告された36)。主要評価項目であるPFS の中央値は,オシメルチニブ単剤療法群が10.1 カ月,プラチナ製剤併用療法群が4.4 カ月(HR 0.30,95%CI:0.23-0.41,P<0.001)であった。OS の中央値は,オシメルチニブ単剤療法群が26.8 カ月,プラチナ製剤併用療法群が22.5 カ月(HR 0.87,95%CI:0.67-1.12)であった37)。Grade 3 以上の毒性の頻度は,オシメルチニブ単剤療法群のほうが低かった(6% vs 34%)36)。また本邦において,T790M 変異陽性となったPS不良(PS 2-4)患者を対象としたオシメルチニブ単剤療法の効果と安全性を検証する単群第Ⅱ相試験が行われた。PFS の中央値は7.0 カ月,OS の中央値は12.7 カ月であり,72%の患者でPSの改善を認めた。Grade 3 以上の毒性の頻度は以前の報告と同様だったが,16.6%(3 例)で間質性肺炎を認めた38)

以上より,一次治療EGFR-TKI 耐性または増悪後のT790M 変異陽性例に対しては,オシメルチニブ単剤療法が勧められる。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

引用文献

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Mitsudomi T, Morita S, Yatabe Y, et al. Gefitinib versus cisplatin plus docetaxel in patients with non-small-cell lung cancer harbouring mutations of the epidermal growth factor receptor(WJTOG3405): an open label, randomised phase 3 trial. Lancet Oncol. 2010; 11(2): 121-8.
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7-1-3.ALK 融合遺伝子陽性

ALK 融合遺伝子陽性の一次治療

CQ57
PS 0-1 の場合,一次治療としてどのALK-TKI が勧められるか?

エビデンスの強さA
a. アレクチニブ単剤療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意(推奨)率:100%〕

エビデンスの強さB
b. ブリグチニブ単剤療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:73%(推奨率:100%)〕

エビデンスの強さB
c. ロルラチニブ**単剤療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:73%(推奨率:100%)〕


エビデンスの強さB
d. セリチニブ単剤療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:63%(推奨率:63%)〕

e. クリゾチニブ単剤療法を行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない。

〔推奨度決定不能〕

*a,b,c とd,e はCQ における対照(comparisons)が異なっており,エビデンスの強さの評価において異なる基準 を用いている(システマティックレビュー表を参照)。

**2021 年10 月時点で,ロルラチニブは本邦で初回治療として保険償還されていない。

解説

ALK 融合遺伝子陽性の患者に対してALK-TKI 単剤療法とプラチナ製剤併用療法を比較した第Ⅲ相試験では,すべての試験において一貫してALK-TKI 単剤療法のプラチナ製剤併用療法に対するPFS の有意な延長が報告され,QOL 指標の一部においてALK-TKI 単剤療法のほうがプラチナ製剤併用療法より優れることが示されている1)~3)

  1. a. ALK 融合遺伝子陽性,PS 0-1 のⅣ期非小細胞肺癌を対象として,アレクチニブ単剤療法とクリゾチニブ単剤療法を比較した第Ⅲ相試験が3編報告されている。国内で実施された試験(J-ALEX 試験)ではPFS のHR が0.38(25.9 カ月vs 10.2 カ月,95%CI:0.26-0.55,P<0.0001)と,PFS を有意に延長することが示された4)。その後に,米国で行われた試験(ALEX 試験)において,PFS のHR が0.47(未到達vs 11.1 カ月,95%CI:0.34-0.65,P<0.001),アジアで行われた試験(ALESIA 試験)において,PFS のHR が0.22(未到達vs 11.1 カ月,95%CI:0.13-0.38,P<0.0001)と,同じくPFS を有意に延長することが示されている5)6)。OS については,上記のALEX 試験のアップデートされた解析の報告において,HR 0.67(未到達vs 57.4 カ月,95%CI:0.46-0.98)でアレクチニブ単剤療法が良い傾向にあった7)。また,Grade 3 以上の有害事象は,J-ALEX 試験においてアレクチニブ単剤療法で32%,クリゾチニブ単剤療法で57%と,アレクチニブ単剤療法のほうが低頻度であった8)。アレクチニブ単剤療法の主な毒性は,味覚障害,筋肉痛,皮疹であり,また他のキナーゼ阻害薬と同様に間質性肺炎に注意が必要である。

    以上より,治療効果と毒性のバランスを考慮し,ALK 融合遺伝子陽性例の一次治療としてはアレクチニブ単剤療法を行うよう推奨する。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  2. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師2 名,薬剤師2 名,患者1 名を含む)/実施年度:2021 年
  3. b. ALK 融合遺伝子陽性,PS 0-1 のⅣ期非小細胞肺癌を対象として,ブリグチニブ単剤療法とクリゾチニブ単剤療法を比較した第Ⅲ相試験(ALTA-1L 試験)が行われ,主要評価項目であるPFS はHR 0.49(未到達vs 9.8 カ月,95%CI:0.33-0.74,P<0.001)であり,ブリグチニブ単剤療法のクリゾチニブ単剤療法に対する有意な延長が報告されている9)。また,アップデートされた中間解析の報告では,PFS 中央値は,ブリグチニブ単剤療法で24.0カ月,クリゾチニブ単剤療法で9.8 カ月であった10)。Grade 3 以上の有害事象は,ブリグチニブ単剤療法で61%,クリゾチニブ単剤療法で55%であった。ブリグチニブ単剤療法の主な毒性は,下痢,悪心,嘔吐などの消化器毒性,高血圧,クレアチンキナーゼ上昇,皮疹,間質性肺炎が挙げられる。

    以上より,治療効果と毒性のバランスを考慮し,ALK 融合遺伝子陽性例の一次治療としてはブリグチニブ単剤療法を行うよう提案する。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  4. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師2 名,薬剤師2 名,患者1 名を含む)/実施年度:2021 年
  5. c. ALK 融合遺伝子陽性,PS 0-1 のⅣ期非小細胞肺癌を対象として,ロルラチニブ単剤療法とクリゾチニブ単剤療法を比較した第Ⅲ相試験(CROWN 試験)が行われ,主要評価項目であるPFS はHR 0.28(未到達vs 9.3 カ月,95%CI:0.19-0.41,P<0.001)であり,ロルラチニブ単剤療法のクリゾチニブ単剤療法に対する有意な延長が報告されている11)。Grade 3 以上の有害事象は,ロルラチニブ単剤療法で72%,クリゾチニブ単剤療法で56%であった。ロルラチニブ単剤療法の主な毒性は,高コレステロール血症,高トリグリセリド血症,体重増加,高血圧であり,特徴的な有害事象として認知機能障害(2%)が報告されている。

    以上より,治療効果と毒性のバランスを考慮し,ALK融合遺伝子陽性例の一次治療としてはロルラチニブ単剤療法を行うよう提案する。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  6. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師2 名,薬剤師2 名,患者1 名を含む)/実施年度:2021 年

    ※2021 年10 月時点で,ロルラチニブは本邦で初回治療として保険償還されていない。承認後の使用に際しては,添付文書の記載をよく確認すること。

  7. d. ALK 融合遺伝子陽性,PS 0-1 のⅣ期非小細胞肺癌を対象として,セリチニブ単剤療法とプラチナ製剤併用療法を比較した第Ⅲ相試験(ASCEND-4 試験)が行われ,主要評価項目であるPFS はHR 0.55(16.6 カ月vs 8.1 カ月,95%CI:0.42-0.73,P<0.0001)であり,セリチニブ単剤療法のプラチナ製剤併用療法に対する有意な延長が認められた。しかしGrade 3 以上の有害事象は,セリチニブ単剤療法で65%,プラチナ製剤併用療法で49%と,セリチニブ単剤療法のほうが高頻度であった。セリチニブ単剤療法の主な毒性は,下痢,悪心,嘔吐などの消化器毒性,肝機能障害,食思不振が認められている2)

    以上より,治療効果と毒性のバランスを考慮し,ALK融合遺伝子陽性例の一次治療としてはセリチニブ単剤療法を行うよう提案する。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  8. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師2 名,薬剤師2 名,患者1 名を含む)/実施年度:2021 年
  9. e. ALK 融合遺伝子陽性,PS 0-1 のⅣ期非小細胞肺癌を対象として,クリゾチニブ単剤療法とプラチナ製剤併用療法を比較した2 つの第Ⅲ相試験が行われ,PROFILE1014 試験ではPFSのHR 0.45(10.9 カ月vs 7.0 カ月,95%CI:0.35-0.60,P<0.0001),PROFILE1029 試験ではPFS のHR 0.402(11.1 カ月vs 6.8 カ月,95%CI:0.286-0.565,P<0.001)であり,ともにクリゾチニブ単剤療法のプラチナ製剤併用療法に対する有意な延長が報告されている1)3)。クリゾチニブ単剤療法の主な毒性は,視覚障害,下痢や悪心などの消化器毒性,肝機能障害が挙げられる。クリゾチニブ単剤療法に関してはプラチナ製剤併用療法に対してPFSの優越性は示されているが,他のALK-TKI 単剤療法(アレクチニブ,ブリグチニブ,ロルラチニブ)との第Ⅲ相試験では主要評価項目であるPFS において劣っていることが複数の臨床試験で示されており4)5)6)9)11),Grade 3 以上の毒性に関してはブリグチニブ単剤療法,ロルラチニブ単剤療法に比較して頻度は高くないが,アレクチニブ単剤療法との比較では高頻度である。治療効果と毒性のバランスを考慮し,日常臨床での一次治療において,クリゾチニブ単剤療法を選択すべきかどうか小委員会の中でも意見が分かれた。本CQ において,ALK 融合遺伝子陽性例の一次治療としてクリゾチニブ単剤療法に関して,議論の末に推奨度決定不能となった。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。
  10. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師2 名,薬剤師2 名,患者1 名を含む)/実施年度:2021 年

CQ58
PS 2-4 の場合,一次治療としてどのALK-TKI が勧められるか?

エビデンスの強さC
アレクチニブ単剤療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

ALK 融合遺伝子陽性の患者に対するアレクチニブ単剤療法は,PS 不良例に対する有効性が報告されている12)。本邦において,ALK 融合遺伝子陽性のPS 不良患者を対象として,アレクチニブ単剤療法の有効性および安全性を評価した第Ⅱ相試験(LOGiK1401 試験)が行われた。患者数はPS 2:12 例,PS 3:5 例,PS 4:1 例であるが,安全性に大きな問題はなかった。主要評価項目であるORR は72.2%,PFS 中央値は10.1 カ月であり,さらに83.3%の患者でPS の改善を認めた。同試験のアップデートでは,PFS 中央値が16.2 カ月,OS 中央値は30.3 カ月であったと追加報告されている13)

以上より,PS 2-4 の場合,ALK 融合遺伝子陽性例の一次治療としては,アレクチニブ単剤療法が勧められる。エビデンスの強さはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

ALK 融合遺伝子陽性の二次治療以降

CQ59
一次治療ALK-TKI 耐性または増悪後のPS 0-2 に対する最適なALK-TKI は何か?

エビデンスの強さC
  1. a. アレクチニブ単剤療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:83%(推奨率:100%)〕

エビデンスの強さC
  1. b. ブリグチニブ単剤療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:63%(推奨率:100%)〕

エビデンスの強さC
  1. c. ロルラチニブ単剤療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:70%(推奨率:100%)〕

エビデンスの強さC
  1. d. セリチニブ単剤療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:90%(推奨率:93%)〕

*一次治療で用いたALK-TKI と異なる薬剤の推奨を示す。

解説

  1. a. クリゾチニブ耐性後のALK 融合遺伝子陽性進行非小細胞肺癌を対象とし,アレクチニブ単剤を投与する第Ⅱ相試験が行われ,ORR 48~50%,PFS 中央値8.1~8.9 カ月の良好な成績が報告されている14)15)。本邦で行われたクリゾチニブ既治療の23 例に対しアレクチニブ単剤を投与した試験では,ORR 65%,PFS 中央値は12.9 カ月であった16)。また,クリゾチニブ単剤療法ならびにプラチナ製剤併用療法施行後の症例に対し,アレクチニブ単剤療法と標準化学療法を比較する第Ⅲ相試験(ALUR 試験)が行われ,主要評価項目であるPFS はHR 0.15(9.6 カ月vs 1.4 カ月,95%CI:0.08-0.29,P<0.001)であり,細胞傷害性抗癌薬(DTX 単剤またはPEM 単剤)に対し,PFS を有意に延長することが示された17)

    以上より,一次治療ALK-TKI 耐性または増悪後のPS 0-2 の患者には,初回ALK-TKI がクリゾチニブの場合,アレクチニブ単剤療法を行うよう推奨する。エビデンスの強さはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  2. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師2 名,薬剤師2 名,患者1名を含む)/実施年度:2021 年
  3. b. クリゾチニブ耐性後のALK 融合遺伝子陽性例を対象としたブリグチニブ単剤療法の第Ⅱ相試験(ALTA 試験)が行われ,ブリグチニブ90 mg/日を1 週間投与後に180 mg/日に増量する群において,ORR 54%,PFS 中央値12.9 カ月の成績が示された18)。また,本邦で実施されたアレクチニブまたはクリゾチニブを含むその他すべてのALK 阻害薬耐性後の症例を対象としたブリグチニブ単剤療法の第Ⅱ相試験(J-ALTA試験)では,アレクチニブの使用歴のある47 例に対するブリグチニブ単剤療法の効果は,ORR 34%,PFS 中央値7.3 カ月の成績が示され,その他すべてのALK 阻害薬を含む既治療例72 例では,ORR 32%であった19)。海外で実施された,アレクチニブを含むALK 阻害薬耐性後の症例を対象としたブリグチニブ単剤療法の第Ⅱ相試験においても,ORR 40%,PFS 7.0 カ月と同様の成績を示した20)。主な毒性は,下痢,悪心,嘔吐などの消化器毒性,高血圧,クレアチンキナーゼ上昇,皮疹,間質性肺炎であった18)~20)。さらに,ブリグチニブの投与によってQOL 指標の一部が改善することが示されている21)

    以上より,一次治療ALK-TKI 耐性または増悪後のPS 0-2 の患者には,ブリグチニブ単剤療法を行うよう提案する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  4. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師2 名,薬剤師2 名,患者1 名を含む)/実施年度:2021 年 年
  5. c. ALK 融合遺伝子陽性例を対象としたロルラチニブ単剤療法の第Ⅱ相試験が行われ,クリゾチニブ治療後に増悪した症例(59 例)においては,ORR 69.5%,PFS 中央値は未到達(95%CI:12.5 カ月-未到達),クリゾチニブ以外のALK-TKI 治療後に増悪した症例(28 例)においては,ORR 32.1%,PFS 中央値は5.5 カ月,2 レジメン以上のALK-TKI 治療後に増悪した症例(111 例)においては,ORR 38.7%,PFS 中央値は6.9 カ月,とそれぞれ成績が示されている。主な毒性は,高コレステロール血症,高トリグリセリド血症,浮腫であり,重篤な有害事象として認知機能障害(1%)が報告されている22)。日本人集団の報告では全体集団と同様の傾向であった23)

    以上より,一次治療ALK-TKI 耐性または増悪後のPS 0-2 の患者には,ロルラチニブ単剤療法を行うよう提案する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うことを弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  6. 投投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師2 名,薬剤師2 名,患者1 名を含む)/実施年度:2021 年
  7. d. クリゾチニブならびにプラチナ製剤併用療法後に増悪したALK 融合遺伝子陽性例を対象としたセリチニブ単剤療法の第Ⅱ相試験(ASCEND-2 試験)が行われ,ORR 38.6%,PFS 中央値5.7 カ月の成績が示されている24)。また同様の症例を対象に,セリチニブ単剤療法と標準化学療法を比較した第Ⅲ相試験(ASCEND-5 試験)においては,主要評価項目であるPFSのHR 0.49(5.4 カ月vs 1.6 カ月,95%CI:0.36-0.67,P<0.001)であり,細胞傷害性抗癌薬(DTX 単剤またはPEM 単剤)に対しPFS を有意に延長することが示された25)。さらに,前治療でアレクチニブ使用歴のある20 症例に対するセリチニブ単剤療法の第Ⅱ相試験(ASCEND-9 試験)が本邦で行われ,ORR 25%,PFS 中央値3.7 カ月であった26)

    以上より,一次治療ALK-TKI 耐性または増悪後のPS 0-2 の患者には,セリチニブ単剤療法を行うよう提案する。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  8. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師2 名,薬剤師2 名,患者1 名を含む)/実施年度:2021 年

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5)
Peters S, Camidge DR, Shaw AT, et al. Alectinib versus crizotinib in untreated ALK-positive non-small-cell lung cancer. N Engl J Med. 2017; 377(9): 829-38.
6)
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7)
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8)
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9)
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10)
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11)
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13)
Iwama E, Goto Y, Murakami H, et al. Survival analysis for patients with ALK rearrangement-positive non-small cell lung cancer and a poor performance status treated with alectinib: updated results of Lung Oncology Group in Kyushu 1401. Oncologist. 2020; 25(4): 306-e618.
14)
Ou SH, Ahn JS, De Petris L, et al. Alectinib in crizotinib-refractory ALK-rearranged non-small-cell lung cancer: a phase Ⅱ global study. J Clin Oncol. 2016; 34(7): 661-8.
15)
Shaw AT, Gandhi L, Gadgeel S, et al. Alectinib in ALK-positive, crizotinib-resistant, non-small-cell lung cancer: a single-group, multicentre, phase 2 trial. Lancet Oncol. 2016; 17(2): 234-42.
16)
Hida T, Nakagawa K, Seto T, et al. Pharmacologic study(JP28927)of alectinib in Japanese patients with ALK+non-small-cell lung cancer with or without prior crizotinib therapy. Cancer Sci. 2016; 107(11): 1642-6.
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22)
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23)
Seto T, Hayashi H, Satouchi M, et al. Lorlatinib in previously treated anaplastic lymphoma kinase-rearranged non-small cell lung cancer: Japanese subgroup analysis of a global study. Cancer Sci. 2020; 111(10): 3726-38.
24)
Crinò L, Ahn MJ, De Marinis F, et al. Multicenter phase Ⅱ study of whole-body and intracranial activity with ceritinib in patients with ALK-rearranged non-small-cell lung cancer previously treated with chemotherapy and crizotinib: results from ASCEND-2. J Clin Oncol. 2016; 34(24): 2866-73.
25)
Shaw AT, Kim TM, Crinò L, et al. Ceritinib versus chemotherapy in patients with ALK-rearranged non-small-cell lung cancer previously given chemotherapy and crizotinib(ASCEND-5): a randomised, controlled, open-label, phase 3 trial. Lancet Oncol. 2017; 18(7): 874-86.
26)
Hida T, Seto T, Horinouchi H, et al. Phase Ⅱ study of ceritinib in alectinib-pretreated patients with anaplastic lymphoma kinase-rearranged metastatic non-small-cell lung cancer in Japan: ASCEND-9. Cancer Sci. 2018; 109(9): 2863-72.

7-1-4.ROS1 融合遺伝子陽性

CQ60
ROS1 融合遺伝子陽性にROS1-TKI は勧められるか?

エビデンスの強さC
  1. a. クリゾチニブ単剤療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:92%(推奨率:100%)〕

エビデンスの強さC
  1. b. エヌトレクチニブ単剤療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:67%(推奨率:100%)〕

解説

  1. a. ROS1 融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌ではクリゾチニブ単剤療法の効果が複数報告されている。米国を中心とした試験では50 例が参加し,ORR は72%,PFS 中央値19.2 カ月1),追加報告(53 例)でのOS 中央値は51.4 カ月であった2)。本邦を含む東アジアで実施された試験では,127 例が登録され,ORR 71.7%,PFS 中央値15.9 カ月であった3)。その他,同じデザインで行われた第Ⅱ相試験3 編4)~6)を含めた5 試験の統合解析はORR 67%(95%CI:58-75%)であり,いずれの試験においても一貫して良好な成績が示されている。

    以上より,ROS1 融合遺伝子陽性例に対しては,クリゾチニブ単剤療法が勧められる。エビデンスの強さはC,総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  2. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者1 名を含む),白票1/実施年度:2020 年
  3. b. ROS1 融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌に対して,エヌトレクチニブ単剤療法を評価した2 つの第Ⅰ相試験(ALKA-372-001 試験,STARTRK-1 試験),および第Ⅱ相試験(STARTRK-2 試験)の統合解析が報告された。全体で53 例のROS1 融合遺伝子陽性例が登録され,主要評価項目であるORR は77%,PFS 中央値は19.0 カ月であった7)。エヌトレクチニブ単剤療法の主な毒性は,味覚障害,便秘,下痢などの消化器毒性,倦怠感,浮腫,クレアチニン上昇,ヘモグロビン低下が挙げられる。なお,今回の統合解析においてクリゾチニブ既治療例は含まれておらず,クリゾチニブ耐性後のエヌトレクチニブ単剤療法の効果は明らかでない。

    以上より,ROS1 融合遺伝子陽性例に対しては,エヌトレクチニブ単剤療法が勧められる。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  4. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者1 名を含む),白票1/実施年度:2020 年

引用文献

1)
Shaw AT, Ou SH, Bang YJ, et al. Crizotinib in ROS1-rearranged non-small-cell lung cancer. N Engl J Med. 2014; 371(21): 1963-71.
2)
Shaw AT, Riely GJ, Bang YJ, et al. Crizotinib in ROS1-rearranged advanced non-small-cell lung cancer(NSCLC): updated results, including overall survival, from PROFILE 1001. Ann Oncol. 2019; 30(7): 1121-6.
3)
Wu YL, Yang JC, Kim DW, et al. Phase Ⅱ study of crizotinib in East Asian patients with ROS1-positive advanced non-small-cell lung cancer. J Clin Oncol. 2018; 36(14): 1405-11.
4)
Michels S, Massutí B, Schildhaus HU, et al. Safety and efficacy of crizotinib in patients with advanced or metastatic ROS1-rearranged lung cancer(EUCROSS): a european phase Ⅱ clinical trial. J Thorac Oncol. 2019; 14(7): 1266-76.
5)
Landi L, Chiari R, Tiseo M, et al. Crizotinib in MET-deregulated or ROS1-rearranged pretreated non-small cell lung cancer(METROS): a phase Ⅱ, prospective, multicenter, two-arms trial. Clin Cancer Res. 2019; 25(24): 7312-9.
6)
Moro-Sibilot D, Cozic N, Pérol M, et al. Crizotinib in c-MET- or ROS1-positive NSCLC: results of the AcSé phase Ⅱ trial. Ann Oncol. 2019; 30(12): 1985-91.
7)
Drilon A, Siena S, Dziadziuszko R, et al. Entrectinib in ROS1 fusion-positive non-small-cell lung cancer: integrated analysis of three phase 1-2 trials. Lancet Oncol. 2020; 21(2): 261-70.

7-1-5.BRAF 遺伝子V600E 変異陽性

CQ61
BRAF 遺伝子V600E 変異陽性にダブラフェニブ+トラメチニブは勧められるか?

エビデンスの強さC
ダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:69%〕

解説

BRAF 遺伝子V600E 変異陽性の非小細胞肺癌ではダブラフェニブ単剤療法や,ダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法の効果が複数報告されている。Ⅳ期非小細胞肺癌のBRAF 遺伝子V600E 変異陽性の既治療例57 例を対象とした,ダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法の第Ⅱ相試験が行われ,主要評価項目のORR は66.7%,PFS 中央値は9.7 カ月であった1)。Ⅳ期非小細胞肺癌のBRAF 遺伝子V600E 変異陽性の未治療例36 例を対象とした,ダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法の第Ⅱ相試験では,主要評価項目のORR は64%,PFS 中央値は10.9 カ月であった2)。ただし,両試験に登録された日本人の症例数が限られている。ダブラフェニブとトラメチニブの併用療法では,主な毒性として発熱,肝機能障害,心駆出率減少が認められている。

以上より,BRAF 遺伝子V600E 変異陽性例に対しては,ダブラフェニブ+トラメチニブ併用療法が勧められる。エビデンスの強さはC,総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会/実施年度:2018 年

引用文献

1)
Planchard D, Besse B, Groen HJM, et al. Dabrafenib plus trametinib in patients with previously treated BRAF(V600E)-mutant metastatic non-small cell lung cancer: an open-label, multicentre phase 2 trial. Lancet Oncol. 2016; 17(7): 984-93.
2)
Planchard D, Smit EF, Groen HJM, et al. Dabrafenib plus trametinib in patients with previously untreated BRAF(V600E)-mutant metastatic non-small-cell lung cancer: an open-label, phase 2 trial. Lancet Oncol. 2017; 18(10): 1307-16.

7-1-6.MET 遺伝子変異陽性

CQ62
MET 遺伝子変異陽性にMET-TKI は勧められるか?

エビデンスの強さC
MET-TKI 単剤療法(テポチニブ,カプマチニブのいずれか)を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:92%〕

解説

MET 遺伝子変異(エクソン14 スキッピング変異)陽性の非小細胞肺癌を対象として,テポチニブ単剤療法の第Ⅱ相試験(VISION 試験)が行われた。主要評価項目はORR であった。有効性評価が可能であった146 例のORR は44.5%,そのうち観察期間が9 カ月以上得られたコホート(99 例)におけるORR は46%,PFS 中央値は8.5 カ月,OS 中央値は17.1 カ月であった。テポチニブ単剤療法の主な毒性は,末梢浮腫,悪心,下痢,クレアチニン上昇が認められている。なお,テポチニブ単剤の投与によってQOL 指標の一部が改善することが示されている1)

また,同じくMET 遺伝子変異(エクソン14 スキッピング変異)陽性の非小細胞肺癌を対象として,カプマチニブ単剤療法の第Ⅱ相試験(GEOMETRY mono-1 試験)が行われた。主要評価項目はORR であった。二~三次治療例コホート(69 例)におけるORR は41%,PFS中央値は5.4 カ月であり,初回治療例コホート(28 例)におけるORR は68%,PFS 中央値は12.4 カ月であった。カプマチニブ単剤療法の主な毒性は,末梢浮腫,倦怠感,悪心嘔吐,クレアチニン上昇が認められている2)

以上より,MET 遺伝子変異陽性例に対しては,テポチニブ・カプマチニブのいずれかの単剤療法が勧められる。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者1 名を含む)/実施年度:2020 年

引用文献

1)
Paik PK, Felip E, Veillon R, et al. Tepotinib in non-small-cell lung cancer with MET exon 14 skipping mutations. N Engl J Med. 2020; 383(10): 931-43.
2)
Wolf J, Seto T, Han JY, et al. Capmatinib in MET exon 14-mutated or MET-amplified non-small-cell lung cancer. N Engl J Med. 2020; 383(10): 944-57.

7-1-7.RET 融合遺伝子陽性

CQ63
RET 融合遺伝子陽性にセルペルカチニブは勧められるか?

エビデンスの強さC
セルペルカチニブ単剤療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:77%〕

解説

RET 融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌を対象として,セルペルカチニブ単剤療法の第Ⅰ/Ⅱ相試験(LIBRETTO-001 試験)が行われた。主要評価項目はORR であった。既治療例コホート(105 例)におけるORR は64%,PFS 中央値は16.5 カ月であり,初回治療例コホート(39 例)におけるORR は85%,PFS 中央値は未到達であった1)。セルペルカチニブ単剤療法の主な毒性は,下痢,口内乾燥,高血圧,肝機能障害,倦怠感が認められている。

以上より,RET 融合遺伝子陽性例に対しては,セルペルカチニブ単剤療法が勧められる。エビデンスの強さはC,総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師 2名,薬剤師 2名,患者 1名を含む)/実施年度:2021 年

引用文献

1)
Drilon A, Oxnard GR, Tan DSW, et al. Efficacy of selpercatinib in RET fusion-positive non-small-cell lung cancer. N Engl J Med. 2020; 383(9): 813-24.

7-1-8.NTRK 融合遺伝子陽性

CQ64
NTRK 融合遺伝子陽性にTRK-TKI は勧められるか?

エビデンスの強さD
TRK-TKI 単剤療法(エヌトレクチニブ,ラロトレクチニブのいずれか)を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:71%〕

*主にがんゲノムプロファイリング検査で検索されるため,実施可能な施設は限られる(2021 年10 月時点)。

解説

NTRK 融合遺伝子陽性の固形癌に対して,エヌトレクチニブ単剤療法を評価する試験が癌腫横断的に行われた。2 つの第Ⅰ相試験(ALKA-372-001 試験,STARTRK-1 試験)では,有効性評価が可能な症例のうちNTRK 融合遺伝子陽性例の3 例中1 例にNSCLC が含まれており,奏効が得られている1)。前述した第Ⅰ相試験および第Ⅱ相試験(STARTRK-2 試験)の統合解析では,全体で54 例のNTRK 融合遺伝子陽性固形癌が登録され,主要評価項目であるORR は57%,PFS 中央値は11 カ月であった2)。そのうちNSCLC は10 例(19%)含まれており,ORR は70%,PFS 中央値は14.9 カ月であった3)。エヌトレクチニブ単剤療法の主な毒性は,味覚障害,便秘,下痢などの消化器毒性,倦怠感,浮腫,クレアチニン上昇,ヘモグロビン低下が挙げられる。また,同じくNTRK 融合遺伝子陽性の固形癌に対して,ラロトレクチニブ単剤療法を評価する試験が癌腫横断的に行われた。3 つの第Ⅰ/Ⅱ相試験(SCOUT 試験,NAVIGATE 試験,他)の統合解析が行われた。全体で159 例のNTRK 融合遺伝子陽性固形癌が登録され,主要評価項目であるORR は79%,PFS 中央値は28.3 カ月であった4)。そのうち肺癌症例が20 例(NSCLC19 例)含まれており,ORR は73%,PFS 中央値は35.4 カ月であった5)。ラロトレクチニブ単剤療法の主な毒性は,便秘,下痢などの消化器毒性,倦怠感,めまい,好中球減少,ヘモグロビン低下が挙げられる。

以上より,NTRK 融合遺伝子陽性例に対しては,エヌトレクチニブ・ラロトレクチニブのいずれかの単剤療法が勧められる。エビデンスの強さはD,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師2 名,薬剤師2 名,患者1 名を含む)/実施年度:2021年

引用文献

1)
Drilon A, Siena S, Ou SI, et al. Safety and antitumor activity of the multitargeted pan-TRK, ROS1, and ALK inhibitor entrectinib: combined results from two phase Ⅰ trials(ALKA-372-001 and STARTRK-1). Cancer Discov. 2017; 7(4): 400-9.
2)
Doebele RC, Drilon A, Paz-Ares L, et al. Entrectinib in patients with advanced or metastatic NTRK fusion-positive solid tumours: integrated analysis of three phase 1-2 trials. Lancet Oncol. 2020; 21(2): 271-82.
3)
Paz-Ares L, Doebele RC, Farago AF, et al. Entrectinib in NTRK fusion-positive non-small cell lung cancer(NSCLC): integrated analysis of patients(pts)enrolled in STARTRK-2, STARTRK-1 and ALKA-372-001. Annals of Oncology. 2019; 30(suppl 2): ii48-49.
4)
Hong DS, DuBois SG, Kummar S, et al. Larotrectinib in patients with TRK fusion-positive solid tumours: a pooled analysis of three phase 1/2 clinical trials. Lancet Oncol. 2020; 21(4): 531-40.
5)
Lin JJ,Kummer S, Tan DS, et al. Long-term efficacy and safety of larotrectinib in patients with TRK fusion-positive lung cancer. J Clin Oncol. 2021; 39(suppl 15): abstr 9109.

7-1-9.KRAS 遺伝子G12C 変異陽性

CQ65
KRAS 遺伝子G12C 変異陽性にソトラシブは勧められるか?

エビデンスの強さC
二次治療以降でソトラシブ**単剤療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:67%〕

*一次治療は,ドライバー遺伝子変異/転座陰性(CQ66~78)を参照のこと。

**2021 年10 月時点で,ソトラシブは本邦で保険償還されていない。

解説

KRAS 遺伝子G12C 変異陽性の固形癌に対して,ソトラシブ単剤療法を評価する試験が行われた。第Ⅰ相試験では全体で129 例のKRAS 遺伝子G12C 変異陽性の固形癌が登録された。そのうち有効性評価が可能なNSCLC 症例59 例が含まれており,ORR は32.2%であった1)。その後,既治療KRAS 遺伝子G12C 変異陽性の非小細胞肺癌(126 例)を対象として,ソトラシブ単剤療法の第Ⅱ相試験(CodeBreaK100 試験)が行われた。主要評価項目であるORR は37.1%,PFS中央値は6.8 カ月,OS は12.5 カ月であった2)。ソトラシブ単剤療法の主な毒性は,下痢,悪心, 倦怠感,肝機能障害が認められている。

以上より,KRAS 遺伝子G12C 変異陽性例に対しては,二次治療以降でソトラシブ単剤療法が勧められる。エビデンスの強さはC,総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師2 名,薬剤師2 名,患者1名を含む)/実施年度:2021 年

※2021 年10 月時点で,ソトラシブは本邦で保険償還されていない。承認後の使用に際しては,添付文書の記載をよく確認すること。

引用文献

1)
Hong DS, Fakih MG, Strickler JH, et al. KRASG12C inhibition with sotorasib in advanced solid tumors. N Engl J Med. 2020; 383(13): 1207-17.
2)
Skoulidis F, Li BT, Dy GK, et al. Sotorasib for lung cancers with KRAS p.G12C mutation. N Engl J Med. 2021; 384(25): 2371-81.

7-2
PD-L1 高発現

CQ66
全身状態良好(PS 0-1)なPD-L1 高発現に対する一次治療において薬物療法は勧められるか?

エビデンスの強さA
  1. a. ペムブロリズマブ単剤療法もしくはアテゾリズマブ単剤療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:96%(推奨率:100%)〕

エビデンスの強さB
  1. b. プラチナ製剤併用療法にPD-1/PD-L1 阻害薬を併用した治療を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:82%(推奨率:100%)〕

エビデンスの強さC
  1. c. ニボルマブ+イピリムマブにプラチナ製剤併用療法を併用した治療を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:59%(推奨率:92%)〕

エビデンスの強さC
  1. d. ニボルマブ+イピリムマブ併用療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:86%(推奨率:86%)〕

*PD-L1(22C3)TPS 50%以上,もしくはPD-L1(SP142)TC3/IC3。

解説

  1. a. EGFR 遺伝子変異やALK融合遺伝子のない,PD-L1 TPS 50%以上のPS 0-1 のⅣ期非小細胞肺癌患者を対象として,ペムブロリズマブ単剤療法とプラチナ製剤併用療法を比較する第Ⅲ相試験(KEYNOTE-024 試験)が行われた1)。中間解析において,主要評価項目であるPFS はHR 0.50(10.3 カ月vs 6.0 カ月,95%CI:0.37-0.68,P<0.001),OS は更新された報告において,HR 0.63(30.0 カ月vs 14.2 カ月,95%CI:0.47-0.86,P=0.002)であり2),ペムブロリズマブ単剤療法はプラチナ製剤併用療法に対しPFS,OS を有意に延長することが示された。また,ORR は44.8% vs 27.8%であり,ペムブロリズマブ単剤療法が有意に優れていた。主な毒性は,ペムブロリズマブ単剤療法群で下痢や倦怠感,発熱,プラチナ製剤併用療法群で貧血,悪心,倦怠感などであり,Grade 3 以上の毒性はペムブロリズマブ単剤療法群で有意に少なかった(26.6% vs 53.3%)。一方,ペムブロリズマブ単剤療法群で甲状腺機能障害,肺臓炎,皮疹,大腸炎などの免疫関連の毒性が報告されGrade 3 以上は9.7%と報告されており,それらの毒性管理には注意が必要である。KEYNOTE-024 試験には40 例の日本人患者が登録されており,そのうちペムブロリズマブ単剤療法群は21 例であった3)。Grade 3 以上の毒性は8 例(38%)で認められ,Grade 3 以上の免疫関連有害事象は4 例(19%)で認められた。また,ペムブロリズマブ単剤療法群がプラチナ製剤併用療法に比べてQOL を維持させること,および肺癌による症状が悪化するまでの期間を有意に遅らせることも報告されている4)

    さらに,前述した試験と同様のデザインで,PD-L1 TPS 1%以上を対象として,ペムブロリズマブ単剤療法とプラチナ製剤併用療法を比較する第Ⅲ相試験(KEYNOTE-042 試験)が行われた5)。PD-L1 TPS 50%以上のサブグループにおける解析では,主要評価項目であるOS はHR 0.69(20.0 カ月vs 12.2 カ月,95%CI:0.56-0.85,P=0.0003)とペムブロリズマブ単剤療法はプラチナ製剤併用療法に対しOS を有意に延長することが示され,また,PFS はHR 0.81(7.1 カ月vs 6.4 カ月,95%CI:0.67-0.99)であり,PFS も延長することが示された。また,ORR は39% vs 32%であった。主な毒性は,前述するKEYNOTE-024 試験と同様であり,これらの毒性管理には注意が必要である。

    なお,75 歳以上の症例において,有効性,安全性に関する報告は少ない。ペムブロリズマブ単剤療法を検証した第Ⅲ相試験における75 歳以上の症例の統合解析では,ペムブロリズマブ単剤療法が細胞傷害性抗癌薬に比べてGrade 3 以上の毒性の頻度が低いことが報告されている(24.2% vs 61.0%)6)。ただし,75 歳以上と75 歳未満のGrade 3 以上の毒性頻度はそれぞれ24.2%,16.9%と高齢者で高い傾向にあり,毒性管理には十分な注意が必要である。

    SP142 を用いたPD-L1 免疫染色でTC1 もしくはIC1 以上(PD-L1 発現あり相当),PS 0-1 のⅣ期非小細胞肺癌患者を対象として,アテゾリズマブ単剤療法とプラチナ製剤併用療法を比較する第Ⅲ相試験(IMpower110 試験)が行われた7)。この試験の解析ではPD-L1 別によるヒエラルキー解析が用いられた。最初のステップであるTC3 ないしはIC3(PD-L1 高発現相当)の患者205 人を対象としたOS の解析のみで有効性が証明された。同サブグループにおけるアテゾリズマブ単剤療法群とプラチナ製剤併用療法群の比較解析において,OS はHR 0.59(20.2 カ月vs 13.1 カ月,95%CI:0.40-0.89),PFS はHR 0.63(8.1 カ月vs 5.0 カ月,95%CI:0.45-0.88)であり,アテゾリズマブ単剤療法はプラチナ製剤併用療法に対しPFS,OS を延長することが示唆された。また,ORR は38.3% vs 28.6%であった。Grade 3 以上の毒性の頻度においてもアテゾリズマブ単剤のほうが低頻度であった(30.1% vs 52.5%)。アテゾリズマブ単剤療法群で内分泌障害,肺臓炎,皮疹,肝機能障害などの免疫関連の毒性の増加が報告されており,それらの毒性管理には注意が必要である。

    〔SP142 を用いたPD-L1 免疫染色では,腫瘍細胞(tumor cells;TC)に加え,腫瘍浸潤免疫細胞(tumor-infiltrating immune cells;IC)のPD-L1 発現をそれぞれ0~3 の4 段階で測定し評価している。〕

    以上より,PD-L1 高発現のⅣ期非小細胞肺癌(ドライバー遺伝子変異/転座陰性),PS 0-1 症例に対してペムブロリズマブ単剤療法もしくはアテゾリズマブ単剤療法を行うよう勧められる。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  2. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師2 名,薬剤師1 名,患者1 名を含む)/実施年度:2021 年
  3. b-1. 非扁平上皮癌

    EGFR 遺伝子変異やALK 融合遺伝子のない,PS 0-1 のⅣ期非小細胞肺癌(非扁平上皮癌)患者を対象として,プラチナ製剤併用療法に対しペムブロリズマブを追加することの有効性を評価した第Ⅲ相試験(KEYNOTE-189 試験)が行われた8)。中間解析において,主要評価項目であるPFS およびOS は,それぞれHR 0.52(8.8 カ月vs 4.9 カ月,95%CI:0.43-0.64,P<0.0001),HR 0.49(未到達vs 11.3 カ月,95%CI:0.38-0.64,P<0.0001)であり,CDDP+PEM 療法もしくはCBDCA+PEM 療法に対するペムブロリズマブの上乗せはPFS,OS を有意に延長することが示された。また,PD-L1 TPS 50%以上のサブグループ解析においても,PFS はHR 0.36(9.4 カ月vs 4.7 カ月,95%CI:0.25-0.52),OS はHR 0.42(未到達vs 10.0 カ月,95%CI:0.26-0.68)と有意に生存を延長した。主な毒性は,ペムブロリズマブ併用療法群で悪心,貧血,倦怠感,便秘などであり,Grade 3 以上の毒性はプラチナ製剤併用療法群と比較し頻度は同等であった(67.2% vs 65.8%)。ただし,ペムブロリズマブ併用療法群で急性腎障害が5.2%にみられることに加え,Grade 3 以上の免疫関連の毒性が8.9%と報告され,そのうち肺臓炎により3 例の治療関連死が報告されており,それらの毒性管理には注意が必要である。また,本試験でも事前に規定されていた患者報告アウトカム(PRO)の解析が行われ,ペムブロリズマブ併用療法群がプラチナ製剤併用療法群に比べてQOL を維持させること,および肺癌による症状が悪化するまでの期間を有意に遅らせることが報告されている9)

    PS 0-1 のⅣ期非小細胞肺癌(非扁平上皮癌)患者を対象として,プラチナ製剤併用療法に対しアテゾリズマブを追加することの有効性を評価した第Ⅲ相試験(IMpower150 試験)が行われ,CBDCA/PTX/ベバシズマブ+アテゾリズマブ併用療法(B群)とCBDCA/PTX/ベバシズマブ療法(C 群)の比較結果が報告された10)。主要評価項目はEGFR 遺伝子変異/ALK 融合遺伝子陰性集団におけるPFS およびOS であった。C 群に対するB 群のPFSは,HR 0.62(8.3 カ月vs 6.8 カ月,95%CI:0.52-0.74,P<0.001),OS はHR 0.78(19.2 カ月vs 14.7 カ月,95%CI:0.64-0.96,P=0.02)であり,CBDCA/PTX/ベバシズマブ療法に対するアテゾリズマブの上乗せはPFS,OS を有意に延長することが示された。また,PD-L1 発現が「TC3 or IC3」のサブグループ解析においても,PFS はHR 0.39(12.6 カ月vs 6.8 カ月,95%CI:0.25-0.60),OS はHR 0.70(25.2 カ月vs 15.0 カ月,95%CI:0.43-1.13)と,PD-L1 高発現症例において良好な結果を示した。主な毒性は,アテゾリズマブ併用療法群で食欲低下,末梢神経障害,悪心,倦怠感などであり,Grade 3 以上の毒性はCBDCA/PTX/ベバシズマブ療法群と比較し頻度は高い傾向を認めた(58.5% vs 50.0%)。また免疫関連の毒性として,アテゾリズマブ併用療法群で皮疹,肝機能障害,甲状腺機能障害,肺臓炎,大腸炎などが報告されており,免疫関連の毒性管理には注意が必要である。

    また同様の患者集団を対象として,CBDCA+nab-PTX 療法にアテゾリズマブを追加することの有効性を評価した第Ⅲ相試験(IMpower130 試験)では,主要評価項目としてEGFR 遺伝子変異/ALK 融合遺伝子陰性集団におけるPFS およびOS が比較検証された11)。CBDCA+nab-PTX 療法に対するアテゾリズマブの上乗せはPFS がHR 0.64(7.0 カ月vs 5.5 カ月,95%CI:0.54-0.77,P<0.001),OS がHR 0.79(18.6 カ月vs 13.9 カ月,95%CI:0.64-0.98,P=0.033)とPFS,OS を有意に延長することが示された。また,PD-L1 発現が「TC3 or IC3」のサブグループ解析においても,PFS はHR 0.51(6.4 カ月vs 4.6 カ月,95%CI:0.34-0.77),OS はHR 0.84(17.3 カ月vs 16.9 カ月,95%CI:0.51-1.39)と,PD-L1 高発現症例において良好な結果を示した。主な毒性は,アテゾリズマブ併用療法群で好中球減少や貧血などの骨髄抑制,食欲低下,悪心,倦怠感,下痢などであり,Grade 3 以上の毒性はプラチナ製剤併用療法群と比較し頻度は高い傾向を認めた(81% vs 71%)。また免疫関連の毒性として,アテゾリズマブ併用群では甲状腺機能障害(15%),肝機能障害(10%)を主に認め,さらに皮疹,肺臓炎,大腸炎などが報告されており,免疫関連の毒性管理には注意が必要である。

  4. b-2. 扁平上皮癌

    PS 0-1 のⅣ期非小細胞肺癌(扁平上皮癌)患者を対象として,プラチナ製剤併用療法に対しペムブロリズマブを追加することの有効性を評価した第Ⅲ相試験(KEYNOTE-407 試験)が行われた12)。559 例が1:1でランダム化され,主要評価項目であるOS は,HR 0.71(17.1 カ月vs 11.6 カ月, 95%CI:0.58-0.88),PFS はHR 0.57(8.0 カ月vs 5.1 カ月,95%CI:0.47-0.69)であり,CBDCA+PTX 療法もしくはCBDCA+nab-PTX 療法に対するペムブロリズマブの上乗せはPFS とOS を有意に延長することが示された。またPD-L1 TPS 50%以上のサブグループ解析においても,OSはHR 0.79(95%CI:0.52-1.21)と良好な傾向がみられた。主な毒性は,ペムブロリズマブ併用療法群で貧血,食欲低下,好中球減少などであり,Grade 3 以上の毒性はプラチナ製剤併用療法群と比較し頻度は同等であった(74.1% vs 69.6%)13)。ただし,治療関連死亡はペムブロリズマブ併用療法群で高い傾向を認めた(4.3% vs 1.8%)。また同試験のPROにおいては,ペムブロリズマブ併用療法群でプラチナ製剤併用療法群に比べて,QOL が維持されることが示された14)

    以上より,PD-L1 高発現のⅣ期非小細胞肺癌(ドライバー遺伝子変異/転座陰性),PS 0-1 症例に対してプラチナ製剤併用療法にPD-1/PD-L1 阻害薬を併用した治療を行うよう勧められる。ただし,ペムブロリズマブ単剤療法と比較したデータはなく,プラチナ製剤併用療法にPD-1/PD-L1 阻害薬を併用した治療がペムブロリズマブ単剤療法より優れているかどうかは明らかではない。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

    投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師2 名,薬剤師1 名,患者1 名を含む)/実施年度:2021 年

    なお,プラチナ製剤併用療法にPD-1/PD-L1 阻害薬を併用した治療のレジメンの詳細については,項末を参照のこと。

  5. c. EGFR 遺伝子変異やALK 融合遺伝子のない,PS 0-1 のⅣ期非小細胞肺癌患者を対象として,ニボルマブ+イピリムマブ+プラチナ製剤併用療法(2サイクル導入療法)を併用した治療とプラチナ製剤併用療法を比較する第Ⅲ相試験(CheckMate9LA 試験)が行われた15)。主要評価項目であるOS はHR 0.66 (15.6 カ月vs 10.9 カ月,95%CI:0.55-0.80)であり,ニボルマブ+イピリムマブ+プラチナ製剤併用療法はプラチナ製剤併用療法に対しOS を有意に延長することが示された。PFS はHR 0.68(6.7 カ月vs 5.0 カ月,95%CI:0.57-0.82),ORR は38% vs 25%であった。また,PD-L1 TPS 50%以上のサブグループでのニボルマブ+イピリムマブ+プラチナ製剤併用療法群とプラチナ製剤併用療法群の比較解析において,OS はHR 0.66(18.0 カ月vs 12.6 カ月,95%CI:0.44-0.99)であった。Grade 3 以上の毒性の頻度は,ニボルマブ+イピリムマブ+プラチナ製剤併用療法群で高い傾向にあった(47% vs 38%)。また,ニボルマブ+イピリムマブ+プラチナ製剤併用療法群では血液毒性の頻度が低い一方で,内分泌障害,肺臓炎,皮疹,胃腸障害などの免疫関連の毒性の増加が報告されており,それらの毒性管理には注意が必要である。

    以上より,PD-L1 高発現のⅣ期非小細胞肺癌(ドライバー遺伝子変異/転座陰性),PS 0-1 症例に対してニボルマブ+イピリムマブにプラチナ製剤併用療法を併用した治療を行うよう勧められる。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  6. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師2 名,薬剤師1 名,患者1 名を含む),白票1/実施年度:2021 年
  7. d. EGFR 遺伝子変異やALK融合遺伝子のない,PD-L1 TPS 1%以上,PS 0-1 のⅣ期非小細胞肺癌患者を対象として,ニボルマブ+イピリムマブ併用療法,ニボルマブ単剤療法とプラチナ製剤併用療法を3 群比較する第Ⅲ相試験(CheckMate227Part 1 試験)が行われた16)。PD-L1 TPS 50%以上のサブグループにおけるニボルマブ+イピリムマブ併用療法群とプラチナ製剤併用療法群の比較解析において,OS はHR 0.70(21.2 カ月vs 14.0 カ月,95%CI:0.55-0.90),PFS はHR 0.62(6.7 カ月vs 5.6 カ月,95%CI:0.49-0.79)であり,ニボルマブ+イピリムマブ併用療法はプラチナ製剤併用療法に対しPFS,OS を延長することが示された。また,ORR は44.4% vs 35.4%であり,ニボルマブ+イピリムマブ併用療法が優れていた。Grade 3 以上の毒性の頻度はどちらも同程度であった(32.8% vs 36.0%)。ニボルマブ+イピリムマブ併用療法群で内分泌障害,肺臓炎,皮疹,胃腸障害などの免疫関連の毒性の増加が報告されており,それらの毒性管理には注意が必要である。

    以上より,PD-L1 高発現のⅣ期非小細胞肺癌(ドライバー遺伝子変異/転座陰性),PS 0-1 症例に対してニボルマブ+イピリムマブ併用療法を行うよう勧められる。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  8. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師2 名,薬剤師1 名,患者1 名を含む)/実施年度:2021 年

CQ67
PS 2 のPD-L1 高発現に対する一次治療において薬物療法は勧められるか?

エビデンスの強さA
B
  1. a. 細胞傷害性抗癌薬の治療を行うよう推奨もしくは提案する。

〔単剤療法/推奨の強さ:1,合意率:100%〕
〔カルボプラチン併用療法/推奨の強さ:2,合意率:100%〕

エビデンスの強さD
  1. b. ペムブロリズマブ単剤療法もしくはアテゾリズマブ単剤療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:85%〕

  1. c. プラチナ製剤併用療法に免疫チェックポイント阻害薬を併用した治療を行うよう推奨するだけの根拠が明確ではない。

〔推奨度決定不能〕

*PD-L1(22C3)TPS 50%以上,もしくはPD-L1(SP142)TC3/IC3。

解説

  1. a.CQ70 参照
  2. b. KEYNOTE-024 試験およびIMpower110 試験では,適格基準としてPS 0-1 を満たす患者のみが登録されており7),PS 2 のⅣ期非小細胞肺癌の一次治療でPD-1/PD-L1 阻害薬単剤療法を投与した際の有効性は現時点で不明確であるが,安全性を中心とした報告は近年散見される。海外で行われたPS 2 の症例60 例に対するペムブロリズマブ単剤療法の第Ⅱ相試験(PePS2 試験)では,一次治療が24 例(40%),PD-L1 TPS 50%以上が15 例(25%)含まれていた。登録された全体集団において,ペムブロリズマブ単剤の投与によって17 例(28%)で治療延期ないしは治療中断を要する毒性が報告されている17)。一方で,PS 2 に対する細胞傷害性抗癌薬のエビデンスも十分とはいえず,有効性は限定的で毒性も懸念される。ガイドライン検討委員会薬物療法及び集学的治療小委員会では,PD-1/PD-L1 阻害薬は細胞傷害性抗癌薬と比較して重篤な毒性の頻度が低いことから,益と害のバランスを考慮し治療選択肢として加えてよいという意見が多くみられた。

    以上より,PS 2のPD-L1 高発現のⅣ期非小細胞肺癌に対し投与の是非を慎重に検討したうえで,一次治療においてペムブロリズマブ単剤療法もしくはアテゾリズマブ単剤療法を行うことをエキスパートオピニオンとして提案する。エビデンスの強さはD,ただし総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  3. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者2 名を含む)/実施年度:2018 年
  4. c. プラチナ製剤併用療法に対するPD-1/PD-L1 阻害薬の上乗せを評価した4 つの第Ⅲ相試験8)~13)およびCheckMate9LA 試験では15),適格基準としてPS 0-1 を満たす患者のみが登録されており,PS 2 のⅣ期非小細胞肺癌の一次治療でプラチナ製剤併用療法に免疫チェックポイント阻害薬を併用投与した際の臨床成績および安全性は不明である。また,PS 2 症例は細胞傷害性抗癌薬の毒性も懸念される患者群であり,さらに免疫チェックポイント阻害薬を併用投与することについては安全性における懸念を払拭できない。

    以上より,PS 2 のPD-L1 高発現のⅣ期非小細胞肺癌に対し一次治療においてプラチナ製剤併用療法に免疫チェックポイント阻害薬を併用した治療を推奨するだけの根拠が明確ではなく,推奨度決定不能とした。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  5. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者2 名を含む)/実施年度:2018 年

引用文献

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7-3
ドライバー遺伝子変異/転座陰性,PD-L1 TPS 50%未満,もしくは不明

7-3-1. ドライバー遺伝子変異/転座陰性,PD-L1 TPS 50%未満,もしくは不明の一次治療

CQ68
ドライバー遺伝子変異/転座陰性,,PD-L1 TPS 50%未満,もしくは不明のPS 0-1,75 歳未満に対する一次治療において細胞傷害性抗癌薬は勧められるか?

エビデンスの強さA
プラチナ製剤と第三世代以降の細胞傷害性抗癌薬を併用した治療を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:93%〕

※PEM は非扁平上皮癌への投与が推奨される。

※ネダプラチン(NDP/CDGP)は扁平上皮癌への投与が推奨される。

 

解説

メタアナリシスによってプラチナ製剤(CDDP もしくはCBDCA)を含む治療が緩和治療に対して有意にOS の延長に寄与していることが示されている1)。また,プラチナ製剤併用の薬剤を第二世代と第三世代細胞傷害性抗癌薬で比較したメタアナリシスにおいて,後者がORR で12%,1 年生存率で6%優ると報告されている2)。本邦では,4 種類の第三世代細胞傷害性抗癌薬とプラチナ製剤併用の第Ⅲ相試験(FACS 試験)の結果が報告されており,いずれの治療効果も同等であった3)

新規薬剤においても,複数の第Ⅲ相試験によって有効性が示されているが,いくつかの薬剤は特定の組織型に対してのみ有効性が示されている。PEM はそのような薬剤の1つであり,非扁平上皮癌に対して用いられる。CDDP+PEM 療法とCDDP+GEM 療法の第Ⅲ相試験(JMDB 試験)が行われ,全体では同等の治療効果であったが組織型による差が認められ,非扁平上皮癌においてはCDDP+PEM 療法群でOS の有意な延長(11.8 カ月vs 10.4 カ月,HR 0.81,95%CI:0.70-0.94,P=0.005)を認めた一方で,扁平上皮癌においてはCDDP+PEM 療法群でPFS(4.4 カ月vs 5.5 カ月,HR 1.36,95%CI:1.12-1.65,P=0.002),OS(9.4 カ月vs 10.8 カ月,HR 1.23,95%CI:1.00-1.51,P=0.05)ともに劣っていた4)。サブグループ解析ではあるが,有効性ならびに毒性の観点から非扁平上皮癌に対するCDDP+PEM 療法は至適レジメンの1 つである。また,CBDCA+PEM 療法はOS を主要評価項目とした比較試験がないものの,患者が自覚する毒性がCDDP よりも軽度であることから実地臨床では頻用されている。CBDCA+PEM 療法とCBDCA+GEM 療法,CBDCA+DTX 療法やCBDCA+PTX+ベバシズマブ療法との比較試験では,OS や主要評価項目であった有害事象などで優越性を示せていない5)~7)。しかしながら,CBDCA+PTX+ベバシズマブ療法と比較しても生存曲線に大きな差はなく7),ベバシズマブを併用した試験ではCBDCA+PTX+ベバシズマブ療法よりPFS が上回る傾向にある8)。以上より,CBDCA+PEM 療法を行うことは許容される。

扁平上皮癌に対しては,ネダプラチン(NDP/CDGP)+DTX 療法とCDDP+DTX 療法の第Ⅲ相試験(WJOG5208L 試験)が本邦で実施され,OS の有意な延長が認められた(13.6 カ月vs 11.4 カ月,HR 0.81,95%CI:0.65-1.02,P=0.037)。毒性はプロファイルが異なり,NDP/CDGP 療法群では白血球減少,好中球減少,血小板減少が多く,CDDP 療法群では悪心,倦怠感,低ナトリウム血症,低カリウム血症が多かった。本邦において第三世代以降の細胞傷害性抗癌薬併用で唯一の優越性が示された有望なレジメンである9)

その他,S-1 の有効性を評価した2 編の第Ⅲ相試験(LETS 試験,CATS 試験)では,CBDCA+S-1 療法はCBDCA+PTX 療法に対して,CDDP+S-1 療法はCDDP+DTX 療法に対して非劣性が示された10)11)。ヒト血清アルブミンとPTX を結合させたナノ粒子製剤であるnab-PTX とCBDCA の併用療法はCBDCA+PTX 療法との第Ⅲ相試験において,有意にORR の上昇を認めた(33.0% vs 25.0%)12)。これらのレジメンは組織型にかかわらず使用可能である。

以上より,75 歳未満,PS 0-1 症例に対して,プラチナ製剤と第三世代以降の細胞傷害性抗癌薬を併用した治療を行うよう勧められる。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。各レジメンに固有の毒性プロファイルが報告されており,これらも踏まえて選択するべきと考えられる。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者2 名を含む)/実施年度:2018 年

CQ69
ドライバー遺伝子変異/転座陰性,PD-L1 TPS 50%未満,もしくは不明のPS 0-1,75 歳以上に対する一次治療において細胞傷害性抗癌薬は勧められるか?

エビデンスの強さA
  1. a. カルボプラチン併用療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:96%〕

エビデンスの強さA
  1. b. 第三世代細胞傷害性抗癌薬単剤療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:77%〕

※PEM は非扁平上皮癌への投与が推奨される。

解説

一次薬物療法の第Ⅲ相試験と術後補助療法を対象とした検討では,65 歳以上と以下で治療効果の差は認めず,暦年齢よりも日常生活自立度が予後に関係していた13)。また,80 歳以上でもPS 0-1 と良好なものは80 歳以下と比べて,OS において80 歳以上で7 カ月,80 歳未満で11カ月(P=0.20)とOSに有意な差がなく,毒性についても明らかな差を認めなかったと報告されている14)。以上より,暦年齢のみで薬物療法の対象外とするべきではない。

  1. a. 高齢者を対象とした第三世代細胞傷害性抗癌薬単剤療法とCBDCA 併用療法を比較した第Ⅲ相試験が3編報告されている。

    海外で行われた第Ⅲ相試験(IFCT0501 試験)では,70~89 歳の患者を対象にCBDCA+weekly PTX 併用療法とGEM 単剤療法もしくはVNR 単剤療法の比較が行われ,併用療法群でPFS の有意な延長(6.0 カ月vs 2.8 カ月,HR 0.51,95%CI:0.42-0.62,P<0.0001),OS の有意な延長(10.3 カ月vs 6.2 カ月,HR 0.64,95%CI:0.52-0.78,P<0.0001)が示された15)。しかし,この試験においては併用療法群における治療関連死が4.4%と高いなどの問題点が指摘されており,投与量も本邦における標準的なものとは異なっているなどデータの解釈には注意を要する。

    本邦において,75 歳以上,PS 0-1 のⅣ期非小細胞肺癌(非扁平上皮癌)患者を対象とした第Ⅲ相試験(JCOG1210/WJOG7813L 試験)が行われ16),CBDCA+PEM 併用療法(PEM の維持療法あり)とDTX 単剤療法の比較結果が報告された。主要評価項目はCBDCA+PEM 併用療法群のDTX単剤療法群に対するOS(非劣性)であり,OS のHR は0.850(18.7 カ月vs 15.5 カ月,95%CI:0.684-1.056)であったことから非劣性が証明された。しかしながら,CBDCA+PEM 併用療法群のDTX 単剤療法群に対する優越性は示されなかった。またPFSにおいては,HR 0.739(95%CI:0.609-0.896,P<0.01)とCBDCA+PEM 併用療法群で有意に延長させることが示された。Grade 3 以上の毒性は,CBDCA+PEM 併用療法群で血小板減少と貧血が多く,DTX 単剤療法群で好中球減少と発熱性好中球減少が多かった。

    さらに本邦において,70 歳以上,PS 0-1 のⅣ期非小細胞肺癌(扁平上皮癌)患者を対象とした第Ⅲ相試験(CAPITAL 試験)が行われ17),CBDCA+nab-PTX 併用療法とDTX 単剤療法の比較結果が報告された。CBDCA+nab-PTX 療法の併用期間は最大6 サイクルまでとされ,その後はnab-PTX の維持療法が許容された。主要評価項目であるOS の有意な延長が証明され(HR 0.52,16.9 カ月vs 10.9 カ月,95%CI:0.38-0.70,P<0.001),またPFS においてもHR 0.42(5.8 カ月vs 4.0 カ月,95%CI:0.30-0.58,P<0.001)とCBDCA+nab-PTX 併用療法群で有意に延長させることが示された。本試験は75 歳未満/以上が割付調整因子の1 つに設定され,半数以上を占めた75 歳以上のサブグループ解析においても,PFS(HR 0.46,95%CI:0.31-0.68)とOS(HR 0.58,95%CI:0.37-0.90)で,ともにCBDCA+nab-PTX 併用療法群で良好な結果であった。Grade 3 以上の毒性は,CBDCA+nab-PTX 併用療法群で貧血と血小板減少が多く,DTX 単剤療法群で白血球減少,好中球減少と発熱性好中球減少が多かった。また,Grade 2 以上の末梢神経障害はCBDCA+nab-PTX 併用療法群で15.8%に認めたが,DTX 単剤療法群では1%であった。治療関連死はCBDCA+nab-PTX 併用療法群で2例 (2.1%),DTX 単剤療法群で1例 (1.0%)であった。

    以上より,PS 0-1,75 歳以上の非小細胞肺癌症例に対しては,CBDCA 併用療法を行うよう勧められる。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1で 推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  2. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師2 名,薬剤師1 名,患者1 名を含む)/実施年度:2021 年
  3. b. 高齢者においては,緩和治療に対してVNR 単剤療法が有意にOS を延長し薬物療法が有効であること,VNR 単剤療法と比較してGEM 単剤療法が同様の有効性を示していることが確認されている18)19)。その後,本邦で行われた第Ⅲ相試験(WJTOG9904 試験)において,DTX 単剤療法はVNR 単剤療法に対して,PFS で5.5 カ月vs 3.1 カ月(HR 0.61,95%CI:0.45-0.82,P<0.001)と有意な延長を認め,OS で有意差は認めなかったものの14.3 カ月vs 9.9 カ月(HR 0.78,95%CI:0.56-1.09,P=0.138)と良好な成績を示した20)

    以上より,PS 0-1,75 歳以上の非小細胞肺癌症例に対して,DTX をはじめとした第三世代細胞傷害性抗癌薬単剤療法を行うよう勧められる。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  4. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師2 名,薬剤師1 名,患者1 名を含む)/実施年度:2021 年

CQ70
ドライバー遺伝子変異/転座陰性,PD-L1 TPS 50%未満,もしくは不明のPS 2 に対する一次治療において細胞傷害性抗癌薬は勧められるか?

エビデンスの強さA
  1. a. 三世代細胞傷害性抗癌薬単剤療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

エビデンスの強さB
  1. b. プラチナ製剤併用療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:100%〕

※PEM は非扁平上皮癌への投与が推奨される。

解説

PS 2 は多様な集団であり,標準治療は定まっていない。しかし,薬物療法と緩和治療を比較したメタアナリシスのサブグループにおいて,PS にかかわらず薬物療法によるOS の延長が認められている〔PS 2 以上の場合,薬物療法によって1 年生存率にして6%(8%から14%)の改善〕1)

  1. a. メタアナリシスにおいて第三世代細胞傷害性抗癌薬(DTX,PTX,VNR,GEM)単剤療法は緩和治療に比して1 年生存率約7%の改善が示されているが,この中にPS 2 以上は約30%含まれていた2)。また,この解析でも取り上げられた3 編の試験においてPS 2 のサブグループの治療成績が明らかになっており,いずれもOS が延長する傾向が確認されている21)

    以上より,PS 2 症例において,第三世代細胞傷害性抗癌薬単剤療法を行うよう勧められる。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  2. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者2 名を含む)/実施年度:2018 年
  3. b. PTX 単剤療法とCBDCA+PTX 併用療法とを比較した第Ⅲ相試験(CALGB9730 試験)においてPS 2 のサブグループが報告されており,CBDCA+PTX 併用療法はPTX 単剤療法に対して1 年生存率で優位に上回っていた(18% vs 10%,HR 0.60,95%CI:0.40-0.91)22)。PS 2 に対するCBDCA+PTX 療法とCDDP+GEM 療法とを比較した試験(ECOG1599 試験)では,OS は各6.2 カ月,6.9 カ月と報告され,毒性に関しても忍容可能と考えられた23)。また,CBDCA+GEM 併用療法とGEM 単剤療法の比較試験が行われ,有意差が認められなかったものの,併用療法群でOS が6.7 カ月vs 4.8 カ月(P=0.49),PFS が4.1 カ月vs 3.0 カ月(P=0.36)の延長傾向が示された24)。さらに,PS 2 症例を対象としたCBDCA+PEM 併用療法とPEM 単剤療法の第Ⅲ相試験が報告されている。この試験では第Ⅲ相試験としては登録数が205 例と小規模で,扁平上皮癌を含む患者を対象としているなど問題があるが,併用療法群でPFSの有意な延長(5.8 カ月vs 2.8 カ月,HR 0.46,95%CI:0.35-0.63,P<0.001),OS の有意な延長(9.3 カ月vs 5.3 カ月,HR 0.62,95%CI:0.46-0.83,P=0.001)が示されている。毒性に関しては,併用療法群で貧血や好中球減少が高く,3.9%の治療関連死が認められた25)

    以上より,毒性が忍容可能と思われるPS 2 症例に対してはプラチナ製剤併用療法を考慮してもよいと考えられる。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。ただし,PS 2 症例に関するエビデンスは限られており,そのほとんどはCBDCA 併用レジメン,もしくは通常より減量した用量が用いられていることに注意が必要である。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  4. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者2 名を含む)/実施年度:2018 年

CQ71
プラチナ製剤併用療法を受ける場合に免疫チェックポイント阻害薬を併用した治療は勧められるか?

エビデンスの強さB
  1. a. PS 0-1 症例に対して,プラチナ製剤併用療法にPD-1/PD-L1 阻害薬を併用した治療を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:92%(推奨率:100%)〕

エビデンスの強さC
  1. b. PS 0-1 症例に対して,ニボルマブ+イピリムマブにプラチナ製剤併用療法を併用した治療を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:42%(推奨率:100%)〕

  1. c. PS 2 症例に対して,プラチナ製剤併用療法に免疫チェックポイント阻害薬を併用した治療を行うよう推奨するだけの根拠が明確ではない。

〔推奨度決定不能〕

解説

  1. a-1. 非扁平上皮癌

    EGFR 遺伝子変異やALK 融合遺伝子のない,PS 0-1のⅣ期非小細胞肺癌(非扁平上皮癌)患者を対象として,プラチナ製剤併用療法に対しペムブロリズマブを追加することの有効性を評価した第Ⅲ相試験(KEYNOTE-189 試験)が行われた26)。中間解析において,主要評価項目であるPFS およびOS は,それぞれHR 0.52(8.8 カ月vs 4.9 カ月,95%CI:0.43-0.64,P<0.0001),HR 0.49(未到達vs 11.3 カ月,95%CI:0.38-0.64,P<0.0001)であり,CDDP+PEM 療法もしくはCBDCA+PEM 療法に対するペムブロリズマブの上乗せはPFS,OS を有意に延長することが示された。また,PD-L1 発現別のサブグループ解析においても,PD-L1 TPS 1~49%のPFS はHR 0.55(95%CI:0.37-0.81),OS はHR 0.55(95%CI:0.34-0.90),PD-L1 TPS 1%未満のPFS はHR 0.75(95%CI:0.53-1.05),OS はHR 0.59(95%CI:0.38-0.92)と,いずれの集団においてもOS を延長させた。主な毒性は,ペムブロリズマブ併用療法群で悪心,貧血,倦怠感,便秘などであり,Grade 3 以上の毒性はプラチナ製剤併用療法群と比較し頻度は同等であった(67.2% vs 65.8%)。ただし,ペムブロリズマブ併用療法群で急性腎障害が5.2%にみられることに加え,Grade 3 以上の免疫関連毒性が8.9%と報告され,そのうち肺臓炎により3 例の治療関連死が報告されており,それらの毒性管理には注意が必要である。また本試験では,事前に規定されていた,患者報告アウトカム(PRO)の解析結果も報告されている27)。ペムブロリズマブ併用療法群で,QOL の維持もしくは肺癌による症状の悪化までの期間の延長が示された。

    PS 0-1 のⅣ期非小細胞肺癌(非扁平上皮癌)患者を対象として,プラチナ製剤併用療法に対しアテゾリズマブを追加することの有効性を評価した第Ⅲ相試験(IMpower150 試験)が行われ,CBDCA/PTX/ベバシズマブ+アテゾリズマブ併用療法(B 群)とCBDCA/PTX/ベバシズマブ療法(C 群)の比較結果が報告された28)。主要評価項目はドライバー遺伝子変異/転座陰性集団におけるPFS およびOS であった。C 群に対するB 群のPFS は,HR 0.62(8.3 カ月vs 6.8 カ月,95%CI:0.52-0.74,P<0.001),OS はHR 0.78(19.2 カ月vs 14.7 カ月,95%CI:0.64-0.96,P=0.02)であり,CBDCA/PTX/ベバシズマブ療法に対するアテゾリズマブの上乗せはPFS,OS を有意に延長することが示された。また,PD-L1 発現別のサブグループ解析において,「TC1/2 or IC1/2」のPFS はHR 0.56(95%CI:0.41-0.77),OS はHR 0.80(95%CI:0.55-1.15),「TC0 and IC0」のPFS はHR 0.77(95%CI:0.61-0.99),OS はHR 0.82(95%CI:0.62-1.08)と,PD-L1 が低発現および発現がみられない症例においても良好な結果を示した。主な毒性は,アテゾリズマブ併用療法群で食欲低下,末梢神経障害,悪心,倦怠感などであり,Grade 3 以上の毒性はCBDCA/PTX/ベバシズマブ併用療法群と比較し頻度は高い傾向を認めた(58.5% vs 50.0%)。また免疫関連の毒性として,アテゾリズマブ併用療法群で皮疹,肝機能障害,甲状腺機能障害,肺臓炎,大腸炎などが報告されており,免疫関連の毒性管理には注意が必要である。

    また同様の患者集団を対象として,CBDCA+nab-PTX 療法にアテゾリズマブを追加することの有効性を評価した第Ⅲ相試験(IMpower130 試験)では,主要評価項目としてドライバー遺伝子変異/転座陰性集団におけるPFS およびOS が比較検証された29)。CBDCA+nab-PTX 療法に対するアテゾリズマブの上乗せはPFS がHR 0.64(7.0 カ月vs 5.5 カ月,95%CI:0.54-0.77,P<0.001),OS がHR 0.79(18.6 カ月vs 13.9 カ月,95%CI:0.64-0.98,P=0.033)とPFS,OS を有意に延長することが示された。また,PD-L1 発現別のサブグループ解析において,「TC1/2 or IC1/2」のPFS はHR 0.61(95%CI:0.43-0.85),OS はHR 0.70(95%CI:0.45-1.08),「TC0 and IC0」のPFS はHR 0.72(95%CI:0.56-0.91),OS はHR 0.81(95%CI:0.61-1.08)と,PD-L1 が低発現および発現がみられない症例においても良好な結果を示した。主な毒性は,アテゾリズマブ併用療法群で好中球減少や貧血などの骨髄抑制,食欲低下,悪心,倦怠感,下痢などであり,Grade 3 以上の毒性はプラチナ製剤併用療法群と比較し頻度は高い傾向を認めた(81% vs 71%)。また免疫関連の毒性として,これらの試験のアテゾリズマブ併用療法群では甲状腺機能障害(15%),肝機能障害(10%)を主に認め,さらに皮疹,肺臓炎,大腸炎などが報告されており,免疫関連の毒性管理には注意が必要である。

    (前述の2 試験ではSP142 を用いたPD-L1 免疫染色でPD-L1 発現を評価している。)

  2. a-2. 扁平上皮癌

    PS 0-1 のⅣ期非小細胞肺癌(扁平上皮癌)患者を対象として,プラチナ製剤併用療法に対しペムブロリズマブを追加することの有効性を評価した第Ⅲ相試験(KEYNOTE-407 試験)が行われた30)。559 例が1:1 でランダム化され,主要評価項目であるOS は,HR 0.71(17.1 カ月vs 11.6 カ月,95%CI:0.58-0.88),PFS はHR 0.57(8.0 カ月vs 5.1 カ月, 95%CI:0.47-0.69)であり,CBDCA+PTX 療法もしくはCBDCA+nab-PTX 療法に対するペムブロリ ズマブの上乗せはPFS とOS を有意に延長することが示された。PD-L1 発現別のサブグループ解析においても,PD-L1 TPS 1 以上のPFS はHR 0.50(95%CI:0.39-0.63),OS はHR 0.67(95%CI:0.51-0.87),PD-L1 TPS 1%未満のPFS はHR 0.67 (95%CI:0.49-0.91),OS はHR 0.79(95%CI:0.56-1.11)と,いずれの集団においても良好な傾向がみられた31)。主な毒性は,ペムブロリズマブ併用療法群で貧血,食思不振,好中球減少,悪心などであり,Grade 3 以上の毒性はプラチナ製剤併用療法群と比較し頻度は同等であった(74.1% vs 69.6%)。ただし,治療関連死亡はペムブロリズマブ併用療法群で高い傾向を認めた(4.3% vs 1.8%)。また,同試験においてペムブロリズマブ併用療法群でプラチナ製剤併用療法群に比べて,QOL が維持されることが示された32)

    75 歳以上の症例においては,前述の主な第Ⅲ相試験においてある一定数が登録されているが,高齢者に限った安全性のデータは示されていないため,これらの併用療法の投与には慎重を期すべきである。

    以上より,PD-L1 TPS 50%未満,もしくは不明のⅣ期非小細胞肺癌(ドライバー遺伝子変異/転座陰性),PS 0-1 症例に対してプラチナ製剤併用療法にPD-1/PD-L1 阻害薬を併用した治療を行うよう勧められる。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

    投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師2 名,薬剤師1 名,患者1 名を含む)/実施年度:2021年

    なお,プラチナ製剤併用療法にPD-1/PD-L1 阻害薬を併用した治療のレジメンの詳細については項末を参照のこと。

  3. b. EGFR 遺伝子変異やALK 融合遺伝子のない,PS 0-1 のⅣ期非小細胞肺癌患者を対象として,ニボルマブ+イピリムマブにプラチナ製剤併用療法(2 サイクル導入療法)を併用した治療とプラチナ製剤併用療法を比較する第Ⅲ相試験(CheckMate9LA 試験)が行われた33)。主要評価項目であるOS は,HR 0.66(15.6 カ月vs 10.9 カ月,95%CI:0.55-0.80)であり,ニボルマブ+イピリムマブ+プラチナ製剤併用療法はプラチナ製剤併用療法に対しOS を有意に延長することが示された。PFS は,HR 0.68(6.7 カ月vs 5.0 カ月,95%CI:0.57-0.82),ORR は,38% vs 25%であった。また,PD-L1 TPS 1~49%と1%未満の各サブグループでのニボルマブ+イピリムマブ+プラチナ製剤併用療法群とプラチナ製剤併用療法群の比較解析において,OS はそれぞれHR 0.61(15.4 カ月vs 10.4 カ月,95%CI:0.44-0.84)とHR 0.62(16.8 カ月vs 9.8 カ月,95%CI:0.45-0.85)であった。年齢別のサブグループも報告されており,65 歳未満,65~75 歳,75 歳以上のOS-HR は,それぞれ0.61(95%CI:0.47-0.80),0.62(95%CI:0.46-0.85),1.21(95%CI:0.69-2.12)であった。Grade 3 以上の毒性の頻度は,ニボルマブ+イピリムマブ+プラチナ製剤併用療法群で高い傾向にあった(47% vs 38%)。また,ニボルマブ+イピリムマブ+プラチナ製剤併用療法群では血液毒性の頻度が低い一方で,内分泌障害,肺臓炎,皮疹,胃腸障害などの免疫関連の毒性の増加が報告されており,それらの毒性管理には注意が必要である。

    以上より,PD-L1 TPS 50%未満,もしくは不明のⅣ期非小細胞肺癌(ドライバー遺伝子変異/転座陰性),PS 0-1 症例に対してニボルマブ+イピリムマブにプラチナ製剤併用療法を併用した治療を行うよう勧められる。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  4. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師2 名,薬剤師1 名,患者1 名を含む)/実施年度:2021 年
  5. c. プラチナ製剤併用療法に対し免疫チェックポイント阻害薬を併用した治療を評価した5つの第Ⅲ相試験26)28)~30)33)では,適格基準としてPS 0-1 を満たす患者のみが登録されており,PS 2 のⅣ期非小細胞肺癌の一次治療でプラチナ製剤併用療法+免疫チェックポイント阻害薬を投与した際の臨床成績および安全性は不明である。また,PS 2 に対しては細胞傷害性抗癌薬の毒性も懸念されており,さらに免疫チェックポイント阻害薬を併用する治療法は安全性において看過できない可能性がある。

    以上より,PS 2 のPD-L1 TPS 50%未満,もしくは不明のⅣ期非小細胞肺癌に対し一次治療においてプラチナ製剤併用療法に免疫チェックポイント阻害薬を併用した治療を推奨するだけの根拠が明確ではなく,推奨度決定不能とした。そのため,蓄積されたエビデンスがある細胞傷害性抗癌薬を中心とした治療(CQ70)が推奨される。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  6. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者2 名を含む)/実施年度:2018 年

CQ72
ドライバー遺伝子変異/転座陰性,PD-L1 TPS 50%未満,PS 0-1 に対する一次治療において免疫チェックポイント阻害薬は勧められるか?

エビデンスの強さC
  1. a. PD-L1 TPS 1~49%に対して,ペムブロリズマブ単剤療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:89%〕

エビデンスの強さC
  1. b. PD-L1 TPS 1~49%に対して,ニボルマブ+イピリムマブ併用療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:67%〕

エビデンスの強さC
  1. c. PD-L1 TPS 1%未満に対して,ニボルマブ+イピリムマブ併用療法を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:70%〕

CQ71 における推奨と併せて検討すること。

解説

  1. a. EGFR 遺伝子変異やALK 融合遺伝子のない,PD-L1 TPS 1%以上のPS 0-1 のⅣ期非小細胞肺癌患者を対象として,ペムブロリズマブ単剤療法とプラチナ製剤併用療法を比較する第Ⅲ相試験(KEYNOTE-042 試験)が行われた34)。探索的評価項目であるPD-L1 TPS 1~49%のサブグループ解析において,OS はHR 0.92(13.4 カ月vs 12.1 カ月,95%CI:0.77-1.11)であり,その生存曲線はクロスしていた。また,PD-L1 TPS 1~49%のPFS は報告されていない。毒性においては前述するKEYNOTE-024 試験の有害事象と同様であり,これらの毒性管理には注意が必要である。

    なお75 歳以上の症例においては,前述する試験のみのサブグループ解析や前向きなデータともに報告はなく,有効性に関しては明らかになっていない。

    以上より,PD-L1 TPS 1~49%のⅣ期非小細胞肺癌(ドライバー遺伝子変異/転座陰性),PS 0-1 症例に対する治療法を検討する際には,プラチナ製剤併用療法に免疫チェックポイント阻害薬を併用した治療が優先されるが,益と害のバランスを鑑みてペムブロリズマブ単剤療法を考慮してもよい。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  2. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者1 名を含む)/実施年度:2020 年
  3. b. EGFR 遺伝子変異やALK 融合遺伝子のないPD-L1 TPS 1%以上,PS 0-1 のⅣ期非小細胞肺癌患者を対象として,ニボルマブ+イピリムマブ併用療法,ニボルマブ単剤療法とプラチナ製剤併用療法を3 群比較する第Ⅲ相試験(CheckMate227 Part 1 試験)が行われた35)。PD-L1 TPS 1~49%のサブグループ解析において,OS はHR 0.94(15.1 カ月vs 15.1 カ月,95%CI:0.75-1.18)であった。なお,PD-L1 TPS 1~49%のORR やPFS は報告されていない。Grade 3 以上の毒性は,ニボルマブ+イピリムマブ併用療法群とプラチナ製剤併用療法群において頻度は同程度であった(32.8% vs 36.0%)。一方,ニボルマブ+イピリムマブ併用療法群で内分泌障害,肺臓炎,皮疹,胃腸障害などの免疫関連の毒性が報告されており,それらの毒性管理には注意が必要である。

    なお75 歳以上の症例においては,前述する試験のみのサブグループ解析や前向きなデータともに報告はなく有効性に関しては明らかになっていない。

    以上より,PD-L1 TPS 1~49%のⅣ期非小細胞肺癌(ドライバー遺伝子変異/転座陰性),PS 0-1 症例に対する治療法を検討する際には,プラチナ製剤併用療法に免疫チェックポイント阻害薬を併用した治療が優先されるが,益と害を鑑みてニボルマブ+イピリムマブ併用療法を考慮してもよい。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  4. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者1 名を含む)/実施年度:2020 年
  5. b. EGFR 遺伝子変異やALK 融合遺伝子のないPD-L1 TPS 1%以上, PS 0-1 のⅣ期非小細胞肺癌患者を対象として,ニボルマブ+イピリムマブ併用療法,ニボルマブ単剤療法とプラチナ製剤併用療法を3 群比較する第Ⅲ相試験(CheckMate227 Part 1 試験)が行われた35)。本試験では,探索的検討としてPD-L1 TPS 1%未満の症例においてニボルマブ+イピリムマブ併用療法,プラチナ製剤併用療法+ニボルマブ療法とプラチナ製剤併用療法の3 群比較する検討も同時に行われた。PD-L1 TPS 1%未満におけるニボルマブ+イピリムマブ併用療法群とプラチナ製剤併用療法群の比較において,OS はHR 0.62(17.2 カ月vs 12.2 カ月,95%CI:0.48-0.78),PFS はHR 0.75(5.1 カ月vs 4.7 カ月,95%CI:0.59-0.96)であり,ニボルマブ+イピリムマブ併用療法はプラチナ製剤併用療法に対しPFS,OS を延長することが示唆された。また,ORR は27.3% vs 23.1%であった。Grade 3 以上の毒性の頻度はどちらも同程度であった(27.0% vs 35.0%)。

    以上より,PD-L1 TPS 1%未満のⅣ期非小細胞肺癌(ドライバー遺伝子変異/転座陰性),PS 0-1 症例に対する治療法を検討する際には,プラチナ製剤併用療法に免疫チェックポイント阻害薬を併用した治療が優先されるが,益と害を鑑みてニボルマブ+イピリムマブ併用療法を考慮してもよい。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  6. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師2 名,薬剤師1 名,患者1 名を含む)/実施年度:2021 年

CQ73
プラチナ製剤併用療法を受ける場合の推奨される投与期間は?

エビデンスの強さC
プラチナ製剤併用療法のプラチナ製剤投与期間を6 サイクル以下とするよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

第三世代細胞傷害性抗癌薬とプラチナ製剤との併用期間について,3 サイクルもしくは4 サイクルを6 サイクルと比較した試験によると,いずれにおいても1 年生存率やOS は同等で毒性は前者が軽いと報告された36)37)。前述の2 編の試験を含む,6 サイクルとそれ以下のサイクルを比較した試験の個票データを利用したメタアナリシスでは,6 サイクル群で有意なPFS の延長を認めたがOS は同等であった38)

一方,近年行われた第Ⅲ相試験では,一次治療におけるプラチナ製剤の投与サイクル数を4 もしくは6 サイクルと規定しているものがほとんどであり,CDDP+PEM 療法とCDDP+GEM 療法を比較した第Ⅲ相試験(JMDB 試験)では,プラチナ製剤併用療法の投与中央値はどちらも5 サイクルであった4)

以上より,プラチナ製剤併用療法の投与期間は4~6 サイクルとするよう勧められる。エビデンスの強さはC,ただし総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。治療効果および毒性の観点から,6 サイクルを超えるプラチナ製剤の投与は推奨されない。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者2 名を含む)/実施年度:2018 年

CQ74
プラチナ製剤併用療法を受ける場合にベバシズマブの上乗せは勧められるか?

エビデンスの強さA
  1. a. ベバシズマブの適応となる75 歳未満,PS 0-1 症例に対して,プラチナ製剤併用療法にベバシズマブを併用した治療を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:73%〕

エビデンスの強さC
  1. b. 75 歳以上の症例に対して,ベバシズマブを併用した治療を行わないよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:96%〕

エビデンスの強さD
  1. c. PS 2 症例に対して,ベバシズマブを併用した治療を行わないよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:92%〕

※ベバシズマブは扁平上皮癌への投与は行わない。

解説

  1. a. メタアナリシスでは,プラチナ製剤併用療法にベバシズマブを追加することでORR の上昇,PFS の延長が示されており,OS についても延長が認められたとする報告がある39)40)。一方で,ベバシズマブの併用でGrade 3 以上の毒性(蛋白尿,高血圧,出血性イベント,好中球減少,発熱性好中球減少,治療関連死)の有意な増加が報告されている39)~41)

    出血リスクに関しては,扁平上皮癌や空洞を有する症例,大血管への浸潤や隣接を認めるもの,その他,喀血,コントロール不能な高血圧,重篤な大血管病変や消化管における活動性出血の既往があるものなどが高リスク群と考えられており,ベバシズマブの投与に際してはその適応を十分に検討する必要がある41)

    CBDCA+PTX 療法にベバシズマブを追加することの有効性を評価した第Ⅲ相試験(ECOG4599 試験)では,ベバシズマブ併用療法群でORR の上昇,PFS の有意な延長(6.2 カ月vs 4.5 カ月,HR 0.66,95%CI:0.57-0.77,P<0.001)ならびにOS の有意な延長(12.3 カ月vs 10.3 カ月,HR 0.79,95%CI:0.67-0.92,P=0.003)を認めた42)。一方,CDDP+GEM 療法にベバシズマブを追加した第Ⅲ相試験(AVAiL 試験)においては,PFS は有意に延長したがOS では有意な延長を認めなかった43)。本邦ではCBDCA+PTX 療法にベバシズマブを追加するランダム化第Ⅱ相試験(JO19907 試験)が行われ,併用群においてORR の上昇(60.7% vs 31.0%,P=0.0013),PFS の延長(6.9 カ月vs 5.9 カ月,HR 0.61,95%CI:0.42-0.89,P=0.0090)を認め,新たな毒性を認めなかったが,OS については有意な延長を認めなかった(22.8 カ月vs 23.4 カ月,HR 0.99,95%CI:0.65-1.50,P=0.9526)44)。中国において同じレジメンを比較した第Ⅲ相試験(BEYOND 試験)では,ベバシズマブを一次治療以後も継続することが可能なデザインであったが,PFS の有意な延長(9.2 カ月vs 6.5 カ月,HR 0.40,95%CI:0.29-0.54,P<0.001)と,OS の有意な延長(24.3 カ月vs 17.7 カ月,HR 0.68,95%CI:0.50-0.93,P=0.0154)が認められた45)

    以上より,ベバシズマブの適応となる75 歳未満,PS 0-1 症例に対してプラチナ製剤併用療法を用いる際にはベバシズマブを追加投与することが勧められる。エビデンスの強さはA,ただし総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

    投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者2 名を含む)/実施年度:2018 年

    ベバシズマブの投与については,その薬剤の特性からプラチナ製剤併用療法の終了後,病勢進行もしくは毒性中止まで投与を継続する方法が一般的である42)~45)

  2. b. 75 歳以上

    高齢者におけるプラチナ製剤併用療法+ベバシズマブについて,ECOG4599 試験におけるサブグループ解析で70 歳以上の高齢者では治療効果の上乗せは認められず,若年に比してGrade 3 以上の好中球減少,出血,蛋白尿が多かったとされている46)。その後に報告されたECOG4599 試験とPoint-Break 試験を統合したサブグループ解析では,OS およびPFS において75 歳以上で特にベバシズマブの上乗せ効果に乏しい傾向がみられた47)。米国におけるベバシズマブ併用療法の後方視的研究(ARIES 試験)では,65 歳未満と65 歳以上,および75 歳未満と75 歳以上のサブグループ解析でどちらも有効性は同等であったが,毒性の面において高齢者群でGrade 3 以上の動脈血栓塞栓症が増える傾向にあり,75 歳以上ではさらに高かった(65 歳未満1.5%,65 歳以上2.9%,75 歳以上3.5%)48)。また,欧州を中心に施行されたベバシズマブ併用療法のコホート研究(SAiL 試験)では,70 歳未満と70 歳以上で有効性は同等であったが,高齢者群でGrade 3 以上の出血の有害事象が増える傾向がみられた(70 歳未満3.5%,70 歳以上5.3%)49)。ただし,後者に示す2 試験はいずれも非ランダム化試験でありエビデンスは低い。

    本邦においては75 歳以上の高齢者におけるベバシズマブ併用療法の十分なデータはなく,有効性や安全性は確認されていない。

    以上より,高齢者に対してベバシズマブを併用した治療を行うよう勧めるだけの根拠が明確ではなく,現時点では行わないよう勧められる。エビデンスの強さはC,また総合的評価では行わないよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  3. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者2 名を含む)/実施年度:2018 年
  4. C. PS 2

    ベバシズマブ併用療法の臨床試験ならびに観察研究においてその大半がPS 0-1 であり,PS 2 に対するベバシズマブの安全性や有効性に関してのデータは少ない48)49)。よって,PS 2 に対してベバシズマブを併用した治療を行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない。ベバシズマブを併用することにより毒性の頻度は有意に増加することから,益と害のバランスを考慮し現時点では行わないよう勧められる。エビデンスの強さはD,ただし総合的評価では行わないよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  5. 投票者の所属委員会:薬薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者2 名を含む)/実施年度:2018 年

    ※ CBDCA+PTX+ベバシズマブ療法の第Ⅱ相試験においてGrade 3 以上の肺出血が9.1%に認められ,扁平上皮癌では4/13 例(31%)で重篤な肺出血をきたした50)。その後,出血リスクに関する検討が行われ,扁平上皮癌や空洞を有する症例,大血管への浸潤や隣接を認めるもの,その他,喀血・コントロール不能な高血圧,重篤な大血管病変や消化管における活動性出血の既往があるものなどが高リスク群と考えられた41)。以上より,ベバシズマブは扁平上皮癌に対して用いない。

CQ75
プラチナ製剤併用療法を受ける場合にネシツムマブの上乗せは勧められるか?

エビデンスの強さB
扁平上皮癌のPS 0-1 症例に対して,シスプラチン+ゲムシタビンにネシツムマブを併用した治療を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:96%〕

解説

PS 0-2 のⅣ期非小細胞肺癌(扁平上皮癌)患者を対象として,プラチナ製剤併用療法(CDDP+GEM 療法)に対しネシツムマブを追加することの有効性を評価した第Ⅲ相試験(SQUIRE 試験)が行われた51)。主要評価項目であるOS はHR 0.84(11.5 カ月vs 9.9 カ月,95%CI:0.74-0.96,P=0.01)と,プラチナ製剤併用療法に対するネシツムマブの上乗せはOS を有意に延長することが示された。またPFS においても,HR 0.85(5.7 カ月vs 5.5 カ月,95%CI:0.74-0.98,P=0.006)と,有意に延長することが示された。さらに,PS 0-1 のサブグループ解析においても,OS はHR 0.85(95%CI:0.72-1.01),PFS はHR 0.86(95%CI:0.73-1.02)と良好な傾向がみられた。また,PS 0-1 のⅣ期非小細胞肺癌(扁平上皮癌)の日本人患者を対象として,プラチナ製剤併用療法(CDDP+GEM 療法)に対しネシツムマブを追加することの有効性を評価したランダム化第Ⅱ相試験(JFCM 試験)が行われた52)。さらにOS およびPFS は,それぞれHR 0.66(14.9 カ月vs 10.8 カ月,95%CI:0.47-0.93,P=0.0161),HR 0.56(4.2 カ月vs 4.0 カ月,95%CI:0.41-0.78,P=0.0004)であり,ネシツムマブの上乗せによりOS,PFS を有意に延長させることが示された。ORR は,ネシツムマブ併用療法群で有意に高かった(51.1% vs 20.9%)。

75 歳以上の症例においては,前述する2 つの試験51)52)においてある一定数が登録されているが,サブグループ解析の成績は示されていない。PS 2 症例においては,SQUIRE 試験のサブグループ解析でOS はHR 0.78(95%CI:0.51-1.21),PFS はHR 0.79(95%CI:0.50-1.24)と全体集団に劣らない傾向が示されている一方で,PS 2 の日本人症例に対する投与経験はなく,有効性および安全性は不明である。

主な毒性は,ネシツムマブ併用療法群で骨髄抑制,食思不振,倦怠感に加えてネシツムマブに特徴的な皮疹,低マグネシウム血症などであり,Grade 3~4 の毒性が併用療法群で高い傾向であった。本邦で行われた第Ⅱ相試験では,発熱性好中球減少症の頻度がプラチナ製剤群と比較し高かった(12% vs 3%)。

以上より,Ⅳ期非小細胞肺癌(扁平上皮癌),PS 0-1 症例に対してプラチナ製剤併用療法にネシツムマブを併用した治療を行うことが勧められる。ただし,プラチナ製剤併用療法と免疫チェックポイント阻害薬を併用した治療とを比較したデータはなく,プラチナ製剤併用療法+ネシツムマブ療法がプラチナ製剤併用療法+免疫チェックポイント阻害薬療法より優れているかどうかは明らかでない。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師2 名,薬剤師1 名,患者2 名を含む)/実施年度:2019 年

ネシツムマブの投与については,前述した試験によるとプラチナ製剤併用療法の終了後,病勢進行もしくは毒性中止まで投与を継続する方法がとられている。また,プラチナ製剤併用療法+ネシツムマブ療法の治療レジメンは前述した試験で用いられたCDDP+GEM 療法が推奨され,安全性の観点からそれ以外の細胞傷害性抗癌薬とネシツムマブを併用した治療は勧められない。詳細については,項末のレジメンを参照のこと。

CQ76
プラチナ製剤併用療法を受ける場合に維持療法は勧められるか?

エビデンスの強さB
非扁平上皮癌に対してプラチナ製剤+ペメトレキセド併用療法4サイクル後,病勢進行を認めず毒性も忍容可能な症例に対してペメトレキセドによる維持療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

CDDP+PEM 併用療法後のPEM を用いた維持療法の第Ⅲ相試験(PARAMOUNT 試験)で,PFS の有意な延長(4.1 カ月vs 2.8 カ月,HR 0.62,95%CI:0.50-0.73,P<0.0001),OS の有意な延長(13.9 カ月vs 11.0 カ月,HR 0.78,95%CI:0.64-0.96,P=0.0195)が示された53)。QOL の低下は認めず,維持療法群において毒性の増強はみられたものの許容範囲内であった。ベバシズマブの併用に関しては,CDDP+PEM+ベバシズマブ併用療法後にPEM+ベバシズマブ療法群とベバシズマブ単独療法群の第Ⅲ相試験(AVAPERL 試験)が行われ,前者でPFS の有意な延長(7.4 カ月vs 3.7 カ月,HR 0.48,95%CI:0.44-0.75,P<0.0001)を認めたが,OS の有意な延長は認めなかった54)。また,本邦においてCBDCA+PEM+ベバシズマブ併用療法後のPEM+ベバシズマブ療法群とベバシズマブ単独療法群を比較する第Ⅲ相試験(COMPASS/WJOG5610L 試験)が行われた。PFS は前者で有意に延長(5.7 カ月vs 4.0 カ月,HR 0.67,95%CI:0.57-0.79,P<0.001)を認めたが,主要評価項目であるOS の有意な延長は認めなかった55)

以上より,プラチナ製剤+PEM併用療法4サイクル後,病勢進行を認めず毒性も忍容可能な症例に対するPEM の維持療法は行うよう勧められる。エビデンスの強さはB,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者2 名を含む)/実施年度:2018 年

CQ77
PS 3-4 の患者(ドライバー遺伝子変異/転座陰性もしくは不明,PD-L1 発現は問わない)に薬物療法は勧められるか?

エビデンスの強さD
薬物療法を行わないよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

解説

PS 3-4 症例(ドライバー遺伝子変異/転座陰性もしくは不明,PD-L1 発現は問わない)に対する細胞傷害性抗癌薬を用いた治療は,一般に適応がない。PD-1/PD-L1 阻害薬を用いた治療はPS良好例(PS 0-1)を中心に臨床試験が行われているため,PS 不良例のエビデンスは乏しく,安全性も不明であることから細胞傷害性抗癌薬と同様にPS 3-4 についてのPD-1/PD-L1 阻害薬療法も推奨されない。エルロチニブ療法について,PS 不良や合併症のため細胞傷害性抗癌薬の適応とならない進行非小細胞肺癌に対してエルロチニブ単剤療法と緩和治療の第Ⅲ相試験(TOPICAL 試験)が行われた56)。患者背景として,年齢中央値77 歳,PS 3 が30%を占め,EGFR 遺伝子変異については陰性,不明がそれぞれ52%,46%であった。組織型では,扁平上皮癌と非扁平上皮癌が各40%,60%含まれていた。この試験において,主要評価項目であるOS の延長は認められなかった(エルロチニブ単剤療法群3.7 カ月vs プラセボ群3.6 カ月,HR 0.94,95%CI:0.81-1.10,P=0.46)。

以上より,PS 3-4 の患者(ドライバー遺伝子変異/転座陰性もしくは不明,PD-L1 発現は問わない)に対する薬物療法は行わないよう推奨される。エビデンスの強さはD,ただし総合的評価では行わないよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者2 名を含む)/実施年度:2018 年

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7-3-2.ドライバー遺伝子変異/転座陰性の二次治療以降

CQ78
一次治療耐性または進行例,PS 0-2,免疫チェックポイント阻害薬未使用例に対する二次治療において薬物療法は勧められるか?

エビデンスの強さA
  1. a. PD-1 阻害薬またはPD-L1 阻害薬の単剤療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

エビデンスの強さA
  1. b. 細胞傷害性抗癌薬の治療を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:96%〕

※ペムブロリズマブの適応症は,(腫瘍細胞上の)PD-L1 陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌に限られる。

※PEM は非扁平上皮癌への投与が推奨される。

解説

  1. a. ドライバー遺伝子変異/転座陰性例の二次治療では,複数の第Ⅲ相試験においてDTX 単剤療法と比較してPD-1/PD-L1 阻害薬単剤療法が有意にOS を延長することが証明されている。いずれの試験もDTX 単剤療法を対照としており,ニボルマブ単剤療法およびアテゾリズマブ単剤療法はPD-L1 の発現を問わず行われ1)~4),ペムブロリズマブ単剤療法はPD-L1 TPS 1%以上の非小細胞肺癌を対象として行われた5)
    〈ニボルマブ単剤療法〉

    ニボルマブ単剤療法はDTX 単剤療法との比較において,第Ⅲ相試験が3 編報告されている。

    プラチナ製剤併用療法の治療歴を有する進行扁平上皮癌を対象としたCheckMate017 試験では,ニボルマブ単剤療法は主要評価項目であるOS においてHR 0.59(9.2 カ月vs 6.0 カ月,95%CI:0.44-0.79,P<0.001)とDTX 単剤療法と比較し有意な延長を示し,PD-L1 発現率に基づくサブグループ解析でも,PD-L1 の発現によらずニボルマブ単剤療法の有効性が示されている1)

    プラチナ製剤併用療法の治療歴を有する進行非扁平上皮癌を対象としたCheckMate057 試験でも,主要評価項目であるOS においてHR 0.73(12.2 カ月vs 9.4 カ月,95%CI:0.59-0.79,P=0.002)とDTX 単剤療法と比較しニボルマブ単剤療法の有意な延長が示されている2)。特にPD-L1 TPS 1%以上のサブグループにおいてはOS がHR 0.58(95%CI:0.43-0.79),PFS がHR 0.70(95%CI:0.53-0.94)と有意にOS を延長することが示されている。さらに同試験におけるQOL の比較において,ニボルマブ単剤療法群がDTX 単剤療法群と比較して有意に肺癌症状の悪化を遅らせることが示された6)

    なお,CheckMate017/057 試験の統合解析においてニボルマブ単剤療法群の4 年生存率が14%と報告されている7)

    また,海外で行われたプラチナ製剤併用療法の治療歴を有する進行非小細胞肺癌を対象としたCheckMate078 試験でも,主要評価項目であるOSにおいてHR 0.68(12.0 カ月vs 9.6 カ月,95%CI:0.52-0.90,P=0.0006)とDTX 単剤療法と比較しニボルマブ単剤療法の有意な延長が示されている3)

    前述の3 試験における主な毒性は,ニボルマブ単剤療法群で倦怠感や食欲低下,DTX 単剤療法群で好中球減少,倦怠感,脱毛などであり,Grade 3 以上の毒性はニボルマブ単剤療法群で有意に少なかった。一方,ニボルマブ単剤療法群で肺臓炎,甲状腺機能障害,大腸炎,肝機能障害,皮疹,Ⅰ 型糖尿病などの免疫関連の毒性が報告されており,免疫関連の毒性管理には注意が必要である。

    〈ペムブロリズマブ単剤療法〉

    プラチナ併用療法を含む治療歴を有するPD-L1 TPS 1%以上の進行非小細胞肺癌を対象とした第Ⅱ-Ⅲ相試験(KEYNOTE-010 試験)では,DTX 単剤療法に対するペムブロリズマブ単剤療法(2 mg/kg 投与群と10 mg/kg 投与群の2 群統合)のOS はHR 0.67(95%CI:0.56-0.80),PFS はHR 0.85(95%CI:0.73-0.98)であり,生存期間の延長効果が示されている5)。Grade 3 以上の毒性はペムブロリズマブ単剤療法2 mg/kg 投与群で13%,10 mg/kg 投与群で16%,DTX 単剤療法群で35%とペムブロリズマブ単剤療法群で頻度が低く,ペムブロリズマブ単剤療法の免疫関連の毒性として甲状腺機能障害,肺臓炎,皮膚障害などが認められた。また,同試験におけるQOL 解析においてペムブロリズマブ単剤療法群がDTX 単剤療法群と比較して有意に患者のQOL と肺癌関連症状を改善させることが示された8)

    なお,PD-L1 陽性の切除不能な進行・再発非小細胞肺癌に対する本邦におけるペムブロリズマブの投与量は,200 mg/bodyの3 週毎投与と規定されている。

    〈アテゾリズマブ単剤療法〉

    アテゾリズマブ単剤療法はプラチナ併用療法の治療歴を有する非小細胞肺癌を対象として,DTX 単剤療法と比較したランダム化第Ⅱ相試験(POPLAR 試験)と第Ⅲ相試験(OAK 試験)がそれぞれ報告されている4)9)

    POPLAR 試験では,主要評価項目であるOS はHR 0.73(12.6 カ月vs 9.7 カ月,95%CI:0.53-0.99,P=0.040)とアテゾリズマブ単剤療法がDTX 単剤療法と比較し有意にOS を延長した結果が示されている9)。OAK 試験においても,主要評価項目であるOS はHR が0.73(13.8 カ月vs 9.6 カ月,95%CI:0.62-0.87,P=0.0003)とアテゾリズマブ単剤療法がDTX 単剤療法と比較し有意にOS を延長した4)。また,OAK 試験におけるQOL の比較において,アテゾリズマブ単剤療法群がDTX単剤療法群と比較して有意に肺癌関連症状の悪化を遅らせることが示された10)

    OAK 試験における主な毒性は,アテゾリズマブ単剤療法群で倦怠感や悪心,下痢などであり,Grade 3 以上の毒性(治療関連)はアテゾリズマブ単剤療法群で15%,DTX 単剤療法群で43%とアテゾリズマブ単剤療法群が少なかった。一方,アテゾリズマブ単剤療法群の免疫関連の毒性として肺臓炎,肝炎,大腸炎が報告されており,毒性による投与中止例は8%(DTX 単剤療法群は19%)であった。

    上記の第Ⅲ相試験はいずれもPS 0-1 の症例を対象として実施しており,PS 2 の一次治療耐性または進行後のⅣ期非小細胞肺癌症例に対するPD-1/PD-L1 阻害薬単剤療法の有用性は現時点で不明確であるが,安全性を中心とした報告は近年散見される。一次治療耐性または進行後のⅣ期非小細胞肺癌症例に対するニボルマブ単剤療法の前向き観察研究(CheckMate153 試験)では,PS 2 での使用例で全体集団と比較しGrade 3 以上の毒性が増加しないことが示されている(12% vs 12%)11)。一方,海外で行われたPS 2 の症例60 例に対するペムブロリズマブ単剤療法の第Ⅱ相試験(PePS2 試験)では,二次治療以降が36 例(60%)含まれていた。登録された全体集団において,ペムブロリズマブ単剤の投与によって17 例(28%)で治療延期ないしは治療中断を要する毒性が報告されている。既治療36 例の生存効果は,PFS 中央値 4.4 カ月,OS 中央値 10.4 カ月であった12)。また,PS 2 と高齢者を含んだ治療歴のある進行肺扁平上皮癌患者を対象としたニボルマブ単剤療法の第Ⅱ相試験(CheckMate171 試験)の結果も報告されている13)。ニボルマブ単剤で治療を行った811 例中103 例がPS 2 の患者であり,PS 2 の患者は毒性の頻度は全体集団と変わらないものの,OS 中央値は5.2 カ月と全体集団(10.0 カ月)に比べて予後は短い傾向であると報告されている。

    以上より,一次治療耐性または進行後,ドライバー遺伝子変異/転座陰性,免疫チェックポイント阻害薬未使用例のⅣ期非小細胞肺癌に対してはPD-1/PD-L1 阻害薬単剤療法を行うよう推奨する。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  2. b. PD-1/PD-L1 阻害薬単剤療法と細胞傷害性抗癌薬(DTX)単剤療法を比較した前述の5つのランダム化比較試験1)~5)9)において,一部の試験でPFS およびOS の生存曲線が交差するなど,細胞傷害性抗癌薬単剤療法のほうが臨床的に有意義であった可能性のある症例が存在する。また,DTX 単剤療法よりも生存延長効果に勝るDTX+ラムシルマブ併用療法とPD-1/PD-L1 阻害薬単剤療法とを比較した臨床試験は存在しない。

    以上より,一次治療耐性または進行後,ドライバー遺伝子変異/転座陰性,免疫チェックポイント阻害薬未使用例のⅣ期非小細胞肺癌に対して細胞傷害性抗癌薬を用いた治療を行うよう提案する。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

CQ79
PS 0-2 に対して二次治療以降で推奨される細胞傷害性抗癌薬は何か?

エビデンスの強さA
ドセタキセル±ラムシルマブ療法,ペメトレキセド単剤療法,S-1 単剤療法を行うよう推奨する。

〔推奨の強さ:1,合意率:100%〕

※PEM は非扁平上皮癌への投与に限定。

解説

〈ドセタキセル単剤療法〉

プラチナ製剤を含む薬物療法無効または奏効後に再発した非小細胞肺癌患者を対象としたDTX 単剤療法の第Ⅲ相試験が2 編報告されている。1つはDTX 単剤療法(100 mg/m2 or 75 mg/m2)vs VNR 単剤療法 or IFM 単剤療法の比較試験(TAX320 試験)で,OS では有意差を認めないもののDTX 75 mg/m2療法群で対照群と比較してORR,26 週PFS 率,1 年生存率の有意な改善を認めた14)。また,DTX 単剤療法(100 mg/m2 or 75 mg/m2)と緩和治療の比較ではOS中央値と1 年生存率は,DTX 75 mg/m2療法群,緩和治療群でそれぞれ7.5 カ月と37%,4.6 カ月と19%で,DTX 単剤療法群で有意に優れ(P=0.010,P=0.003),QO Lの改善も認められた15)。いずれの試験においても,DTX 75 mg/m2療法群が最も治療成績が優れており,プラチナ製剤を含む治療後の不応ないし再発例に対する非小細胞肺癌の薬物療法としてはDTX 75 mg/m2療法の有用性が確立された。本邦における推奨用量は60 mg/m2であるが,本邦で行われたこの用量における第Ⅱ相試験でORR 18.2%,OS 中央値7.8 カ月と上記2編の第Ⅲ相試験のDTX 75 mg/m2療法と同等の効果を有する結果を報告した16)

〈ドセタキセル+ラムシルマブ〉

CQ80 参照

〈ペメトレキセド単剤療法〉

Ⅳ期非小細胞肺癌の二次治療におけるPEM 単剤療法とDTX 単剤療法の第Ⅲ相試験(JMEI 試験)が報告され,ORR,OS 中央値はPEM 単剤療法群で9.1%,8.3 カ月,DTX 単剤療法群で8.8%,7.9 カ月であり,主要評価項目であるOS で非劣性は証明されなかったが,同等の効果(HR 0.99,95%CI:0.80-1.20,P=0.226)が報告された。毒性に関しては,Grade 3/4の好中球減少,発熱性好中球減少,全Grade の脱毛の発現率がDTX単剤療法群で有意に高かった17)。同試験を組織学的に後方視的解析した結果,OS は非扁平上皮癌でそれぞれ9.3 カ月と8.0 カ月(HR 0.78,95%CI:0.61-1.00,P=0.047)と有意差を認めた。また,PFS においても非扁平上皮癌でそれぞれ3.1 カ月と3.0 カ月(HR 0.82,95%CI:0.66-1.02,P=0.076)と有意差を認めなかったが,治療効果はほぼ同等であった18)。一方,毒性に関しては,Grade 3 以上の発熱性好中球減少(1.9% vs 12.7%),好中球減少(5.3% vs 40.2%),好中球減少に伴った感染(0.0% vs 3.3%)の発現頻度は有意に少なく,ALT 上昇(1.9% vs 0.0%)の頻度は有意に高いと違いを認めたが,QOL に関しては差を認めなかった。

〈S-1 単剤療法〉

プラチナ既治療のⅣ期非小細胞肺癌,PS 0-2 の二次もしくは三次治療例を対象とし,S-1 単剤療法とDTX 単剤療法を比較する第Ⅲ相試験(EAST-LC 試験)が本邦を含むアジアで行われた。主要評価項目であるOS は非劣性を示すことが目的であり,S-1 単剤療法群で12.75 カ月,DTX 単剤療法群で12.52 カ月(HR 0.945,95%CI:0.833-1.073)で,DTX 単剤療法に対するS-1 単剤療法の非劣性が示された。またPFS はS-1 単剤療法群2.9 カ月,DTX 単剤療法群2.9 カ月(HR 1.03,95%CI:0.91-1.17)で両群に差を認めず,ORR はS-1 単剤療法群8.3%,DTX 単剤療法群9.9%であった。毒性に関しては,発熱性好中球減少ならびにGrade 3 以上の好中球減少の頻度はDTX 群で高く(0.9% vs 13.6%,5.4% vs 47.7%),全Grade の下痢と口腔粘膜障害の頻度はS-1 群で高かったが(37.2% vs 18.2%,23.9% vs 14.5%),Grade 3 以上の頻度は低く忍容性は良好であった19)

以上より,一次治療耐性または進行後のⅣ期非小細胞肺癌症例に対してDTX±ラムシルマブ療法,S-1 単剤療法,(非扁平上皮癌の場合)PEM 単剤療法の投与を行うよう勧められる。エビデンスの強さはA,また総合的評価では行うよう強く推奨(1 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者2 名を含む)/実施年度:2018 年

CQ80
二次治療でドセタキセルを用いる場合にラムシルマブの併用は推奨されるか?

エビデンスの強さB
  1. a. ラムシルマブの適応となるPS 0-1 症例に対して,ドセタキセルにラムシルマブを併用した治療を行うよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:74%〕

エビデンスの強さD
  1. b. 75 歳以上の症例に対して,ドセタキセルにラムシルマブを併用した治療を行わないよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:78%〕

エビデンスの強さD
  1. c. PS 2 症例に対して,ドセタキセルにラムシルマブを併用した治療を行わないよう提案する。

〔推奨の強さ:2,合意率:87%〕

解説

  1. a. プラチナ製剤併用療法後に進行したPS 0-1 の進行非小細胞肺癌症例を対象とし,DTX+ラムシルマブ併用療法とDTX 単剤療法を比較する第Ⅲ相試験(REVEL 試験)が行われ,主要評価項目であるOS は,ラムシルマブ併用療法群で有意な延長を認めた(10.5 カ月vs 9.1 カ月,HR 0.86,95%CI:0.75-0.98,P=0.023)。また,ラムシルマブ併用療法群において,PFS(4.5 カ月vs 3.0カ月,HR 0.76,95%CI:0.68-0.86,P<0.0001),ORR(23% vs 14%,P<0.0001)も有意に良好であった。毒性に関しては,ラムシルマブ併用療法群でGrade 3/4 の好中球減少,発熱性好中球減少,全Gradeの血小板減少,口内炎がより高頻度であったが,Grade 3 以上の高血圧は6%で出血性イベントの多くはGrade 1/2 であった20)

    また本邦において,DTX+ラムシルマブ併用療法とDTX 単剤療法のランダム化比較第Ⅱ相試験(JVCG 試験)が行われ,ラムシルマブ併用療法群においてPFS(5.2 カ月vs 4.2 カ月,HR 0.83,95%CI:0.59-1.16),OS(15.2 カ月vs 13.9 カ月,HR 0.77,95%CI:0.56-1.32),ORR(28.9% vs 18.5%)ともに良好な結果が示された。毒性に関しては,ラムシルマブ併用療法群において発熱性好中球減少の頻度が高く(34% vs 19%),低アルブミン血症,血小板減少,口内炎,鼻出血,蛋白尿などもDTX単剤療法よりも高頻度であったが,ほとんどはGrade 1/2 であった21)。ラムシルマブの投与においてもベバシズマブと同様に出血リスクには注意が必要であり,投与に際してはその適応を十分検討する必要がある。

    以上より,ラムシルマブは適応と考えられる症例においてDTX に併用した治療を行うよう勧められる。エビデンスの強さはB,ただし総合的評価では行うよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  2. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者2 名を含む)/実施年度:2018 年
  3. b.75 歳以上

    前述の第Ⅲ相試験(REVEL試験)における75 歳以上のサブグループは不明である。また,本邦において実施された第Ⅱ相試験(JVCG 試験)でも75 歳以上の症例は10 例と少数であるため75 歳以上の高齢者に対するラムシルマブ併用療法の安全性や有効性に関してのデータは十分ではない。一方,本ガイドラインの一次治療では,エビデンスの質は低いものの骨髄抑制などの毒性増加への懸念から,75 歳以上に対してプラチナ製剤併用療法にラムシルマブと同じ血管新生阻害薬であるベバシズマブを併用した治療を勧める根拠が乏しく,行わないよう提案されている(CQ74 参照)。ラムシルマブ併用療法についても若年者を中心とした本邦の第Ⅱ相試験において発熱性好中球減少をはじめとした毒性の増強が懸念されることを考えると,現時点で高齢者にラムシルマブを併用した治療を行う根拠は明確ではない。エビデンスの強さはD,また総合的評価では行わないよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  4. 投票者の所属委員会:薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者2 名を含む)/実施年度:2018 年
  5. c.PS 2

    前述のREVEL 試験,JVCG 試験においては対象症例がPS 0-1 であり20)21),PS 2 に対するラムシルマブ併用療法の安全性や有効性に関してのデータはない。よって,PS 2 に対するラムシルマブを併用した治療は行うよう勧めるだけの根拠が明確ではない。PS 0-1 を対象とした試験では,ラムシルマブ併用療法群で発熱性好中球減少の発現頻度が高く,PS 不良例においてはラムシルマブの併用療法により毒性の悪化が懸念される。

    以上より,益と害のバランスを考慮し現時点では行わないよう勧められる。エビデンスの強さはD,ただし総合的評価では行わないよう弱く推奨(2 で推奨)できると判断した。下記に,推奨度決定のために行われた投票結果を記載する。

  6. 投票者の所属委員会:薬薬物療法及び集学的治療小委員会(看護師1 名,薬剤師2 名,患者2 名を含む)/実施年度:2018 年

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レジメン
Ⅳ期非小細胞肺癌

ドライバー遺伝子変異/転座陽性 ドライバー遺伝子に対する標的療法
併用レジメン(EGFR 遺伝子変異陽性例のみ)
ドライバー遺伝子変異/転座陰性 プラチナ製剤と第三世代以降の細胞傷害性抗癌薬のレジメン
プラチナ製剤と第三世代以降の細胞傷害性抗癌薬のレジメン
細胞傷害性抗癌薬と分子標的治療薬併用レジメン
免疫チェックポイント阻害薬併用レジメン
単剤療法

Ⅲ.小細胞肺癌(SCLC)→